説明

培養装置

【課題】袋状容器を振盪培養に用いたときのピンホールの発生を抑制することが可能な培養装置を提供する。
【解決手段】平袋からなる培養容器10と、培養容器10を支持する支持装置21を備える振盪培養用の培養装置20であって、平袋の片面を下にして支持装置21上に支持された培養容器10の少なくとも互いに対向する2辺を支持装置21に固定する固定手段24を備える。具体例としては、平袋の周縁部13に固定手段24に係止される複数の孔14や、平袋の周縁部13をつかんで固定するつかみ具が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物や細胞など(本明細書では、これらを総称して「微生物等」という場合がある。)の培養を簡便かつ能率よく行うことのできる培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物や細胞などの培養は、医薬品や食品などとして有用な各種物質の生産に広く用いられている。また、従来のガラス製やステンレス製の培養器に比べて安価に構成可能な培養容器として、袋状の柔軟な容器(バッグ、パウチ等)を用いた培養装置が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−212049号公報
【特許文献2】特開2009−159890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
微生物等の大量培養には、その微生物等の生育に必要な酸素(O)や二酸化炭素(CO)等のガスを培養液中に効率よく供給する必要がある。培養液への通気を促進する方法として、培養容器の内部で培養液を通気攪拌する方法と、培養容器を外部から振盪させる方法(振盪培養)が知られている。振盪培養の場合、培養容器の内部に攪拌装置を収容する必要がないので、より簡便となる。しかしながら、袋状容器を振盪培養に用いる場合、ガラス製やステンレス製等の剛直な容器を振盪する場合に比べて、容器の耐久性が低く、特に振盪が長期にわたる場合、培養中に予期しないピンホールが発生し、フィルター等で浄化されていない外気等が容器内部に侵入し、あるいは、培養液が漏れ出し、さらには、漏れ出した培養液が容器内に戻るなどして、容器の内部が汚染されたり、容器の周囲が汚れたりすることがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、袋状容器を振盪培養に用いたときのピンホールの発生を抑制することが可能な培養装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、平袋からなる培養容器と、前記培養容器を支持する支持装置を備える振盪培養用の培養装置であって、前記平袋の片面を下にして前記支持装置上に支持された前記培養容器の少なくとも互いに対向する2辺を前記支持装置に固定する固定手段を備えることを特徴とする培養装置を提供する。
前記培養容器は、前記平袋の周縁部に前記固定手段に係止される複数の孔を有することも可能である。
前記固定手段は、前記平袋の周縁部をつかんで固定する、つかみ具を備えることも可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定装置により平袋状の培養容器にテンションを加えて固定することができるので、ピンホールの要因となるシワの発生を防止でき、これにより、ピンホールの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態における(a)培養容器の平面図、(b)培養装置の断面である。
【図2】本発明の第2実施形態における(a)培養容器の平面図、(b)培養装置の断面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、本発明の培養装置20の一形態例を示す。この培養装置20は、培養容器10を支持する支持装置21と、支持装置21を振盪する振盪手段(図示せず)を備える振盪培養用の培養装置であって、培養容器10が図1(a)に示すように平袋からなり、かつ図1(b)に示すように、この平袋の片面を下にして支持装置21上に支持された培養容器10の少なくとも互いに対向する2辺を支持装置21に固定する固定手段24を備えている。
【0010】
培養容器10となる平袋の基材11としては、可撓性および不透水性で強度が高いことから合成樹脂フィルムやシート(本明細書では、これらを総称して「フィルム」という。)が好ましい。そして、培養容器を製造する観点からは、ヒートシール性を有するものが好ましく、ヒートシール可能な単層フィルムや、ヒートシール性樹脂層を有する積層フィルム等が挙げられる。また、培養の作業性からは、容器内部が透視可能なものが好ましい。そのようなフィルムを構成する合成樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、軟質塩化ビニルなどが挙げられる。
特に高い強度が要求される場合は、二軸延伸ナイロンフィルムや二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを補強層として積層しても良い。酸素などのガスバリア性が必要な場合は、シリカやアルミナの蒸着層や、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のガスバリア性樹脂層が積層されたフィルムを使用しても良い。これらのフィルムが複数層積層されたり、重畳されていたりしても良い。
培養容器10は、内容物の漏れをより厳重に防ぐため、2重袋や3重袋とすることもできる。2重袋や3重袋の内層においては、両面でヒートシール可能な単層フィルムや積層フィルムを用い、シール部12において内層と外層とをシールして平袋を形成することができる。また、ガスの通路とするため、袋の一部にフィルターを設けることもできる。この場合、フィルターは、PEやPPなどのポリオレフィン系不織布であると、基材11への熱溶着が可能となり好ましい。
【0011】
培養容器10を構成する基材11の厚みは特に限定されず、基材11の材質や培養容器10の容量に応じて適宜選択することができる。支持装置21に支持させる際の作業性や培養時の保形性の観点からある程度の腰があることが好ましいので、通常は、50μm〜1000μm程度であることが好ましい。培養容器10の容量は特に制限されないが、例えば、0.1〜1000Lの容量とすることができる。
培養容器10の内部は、必要に応じて、無菌状態に保持されることが好ましい。無菌状態とする方法としては、例えば、清浄な環境下で製造したり、製造後に滅菌したりして内部を無菌状態することが挙げられる。滅菌方法は特に制限されないが、例えば、γ線滅菌などの放射線滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、オートクレーブ(AC)滅菌などが挙げられる。
【0012】
支持装置21は、底壁部22と側壁部23とを備えるトレイ状であり、培養容器10は、平袋の片面を下にして載置される。培養容器10の上面となる平袋の別の片面には、給気、排気、内容物のサンプリングなどに使用可能なポート16を有するポート部材15が設けられている。ポート部材15は、例えば合成樹脂の成形品からなり、袋の内面に鍔状のフランジ(図示せず)を内側から接着剤や熱融着等で固着し、基材11に形成した開口を通して外方に突出させる。ポート16は、それぞれキャップ、蓋、栓、コック等で開閉可能にし、また、必要に応じてチューブ17を取り付け可能にしてもよい。また、注射器(シリンジ)等を用いて培養液の採取や注入等を行うようにしてもよい。給気や排気のように継続して開放する場合には、雑菌の混入を防ぐため、フィルターを設けることが好ましい。
給気は、目的の培養を行うために、空気(あるいはO含有ガス)により好気的条件としたり、COにより培地のpHを一定に保ったり、窒素ガスやアルゴン等の不活性ガスにより嫌気的条件としたりする等、任意の気体を1種または2種以上供給することが可能である。
【0013】
本発明においては、培養容器10の周縁部13に張力をかけた状態を維持するため、培養容器10の少なくとも互いに対向する2辺を支持装置21に固定する固定手段が設けられる。固定手段としては、バネ、ネジ、クリップ、リベット、係合、嵌合、磁石、接着剤など、種々の手段を利用することができる。各辺は、辺の長手方向に沿って連続した範囲を固定してもよく、また、固定箇所を複数に分散してもよい。
【0014】
図1に示す培養装置20は、培養容器10である平袋の周縁部13に複数の孔14を有する。孔14は、図1(a)に示すように、固定手段となる係止具24に固定されるそれぞれの辺ごとに、適宜の間隔で複数形成されることが好ましい。図1(b)に示すように、係止具24を孔14に通すことにより平袋の周縁部13を支持装置21の側壁部23にしっかりと固定することができる。固定の際には、左右に引っ張りながら孔14の位置を係止具24の取り付け位置に合わせることにより、平袋にテンションを加えてシワの発生しにくい状態とすることができる。そのため、対向する2辺の孔14の距離は、支持装置21の寸法に合わせて予め適切な位置をとるように設定することが好ましい。
【0015】
また、図2に示す培養装置20Aは、培養容器10Aである平袋の周縁部13が幅広とされ、つかみ具24Aで固定するために十分なつかみ代を確保している。これにより、図2(b)に示すように、固定の際には、培養容器10Aを左右に引っ張りながらつかみ具24Aに挟持(把持)させることにより、平袋にテンションを加えてシワの発生しにくい状態とすることができる。
つかみ具24Aを用いると、周縁部13に特別な加工をしなくても培養容器10Aを固定することができる。つかみ具は、周縁部13の保持力を高めるため、挟持面に突起や凹凸を設けてもよい。また、十分なテンションが加わる寸法に合わせてつかみ具24Aでつかむ位置の目安を指示するため、周縁部13に印刷等でマークを設けてもよい。
【0016】
培養装置は、支持装置を揺動可能な揺動装置(図示せず)を備えることが好ましい。揺動方法としては、円運動や往復運動等の水平面内の運動、シーソー運動やロッキング等の上下運動が挙げられる。
【0017】
上記の培養装置20,20Aは、固定手段24,24Aにより平袋状の培養容器10,10Aにテンションを加えて固定することができるので、ピンホールの要因となるシワの発生を防止することができる。これにより、振盪が長期にわたる場合でも、培養中のピンホールの発生を抑制し、培養の歩留まりを向上することができる。
振盪培養においては、培地として流動性のある液体培地を用い、これに微生物等の培養体を供給した培養液1の液面上に相当量の気体2を存在させ、培養液1に気体2を効率よく吸収させるため、培養液1を振盪により、よく波立たせる必要がある。従来は、この波打ちによる衝撃がシール部12付近に断続的に加わるとき、シール部12付近の基材11が同期して振動することにより、シワやピンホールの原因となっていたものと考えられる。
これに対して、本形態例の培養装置20,20Aによれば、培養容器10,10Aの周縁部13にテンションをかけて固定し、シワを防止しているので、培養液1の波打ちによる衝撃がシール部12付近に断続的に加わっても、シール部12付近の基材11の振動が抑制される等の作用により、基材11の損傷を効果的に抑制することができる。
また、培養容器10の下面が底壁部22上に接地しているので、内容物を含む培養容器10の荷重が底壁部22に加わり、固定手段24,24Aへの負荷を軽減することができる。このため、固定手段24,24Aは簡便な構成でもよい。
【0018】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
培養装置には、培養容器内の培養液や培養体の温度をモニターして制御するために、温度センサーを設置してもよい。温度センサーとしては、熱電対やサーミスタなど接触式のもの、放射温度計などの非接触式のものを用いることができる。温度センサーは培養容器に直接貼り付けてもよいが、支持装置に取り付けても良い。さらには、排液管に温度センサーを接続し、例えば、培養中の培地の一部を排液管を通じて吸引し、その温度を検知できるようにしてもよい。
また、必要に応じ、温度センサーに代えて、あるいは温度センサーと併用して、培養液のpHや酸素濃度等をセンサーによってモニタリングしてもよい。
【0019】
培養装置には、培養容器の内部を加温して培養を促進するために加温装置を備えることが好ましい。加温装置は、培養容器の周囲や基材の内部に設置してもよい。また、培養容器が2重袋や3重袋など多重の包装袋である場合、外袋の基材の底面をくり抜いて別装置のヒーターに内袋を接触させてもよい。加温装置は培養容器に固定してもよいが、例えば、加温装置を支持装置の表面に設けるなど、培養容器と接触させるだけでもよい。加温装置としては、ニクロム線、シーズ線、カーボンやアルミ箔の回路を合成樹脂層に挟み込んだ面状発熱体などの発熱体を用いることができる。この加温装置は、培養装置に取り付けられた温度センサーの情報に基づいて制御可能とされていることが好ましい。
培養装置の加温は、設置場所の雰囲気温度を恒温にすることで制御してもよい。
【実施例】
【0020】
培養容器10として、内層に厚さ100μmのPEからなる単層フィルムを用い、外層にPE50μm/EVOH25μm/PE50μmの共押出による積層フィルムを2組用意し、対向する内面の周囲をシールして容量が5〜200L、外寸が380mm×360mm〜1000mm×1400mmの平袋を作製した。この平袋に、液体培地を容量の2〜5割程度入れ、ポートから容量比5〜8%程度のCOを含む空気を流通させるためのチューブを接続した。また、平袋は、テンションをかけて対向する2辺を支持装置に固定した。円運動、往復運動、シーソー運動等により振盪培養を行ったところ、20日間以上の長時間振盪させても容器の周縁部にシワがよることがなく、ピンホールは発生しなかった。
【符号の説明】
【0021】
10,10A…培養容器、13…周縁部、14…係止孔、20,20A…培養装置、21…支持装置、24…係止具(固定手段)、24A…つかみ具(固定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平袋からなる培養容器と、前記培養容器を支持する支持装置を備える振盪培養用の培養装置であって、前記平袋の片面を下にして前記支持装置上に支持された前記培養容器の少なくとも互いに対向する2辺を前記支持装置に固定する固定手段を備えることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記培養容器は、前記平袋の周縁部に前記固定手段に係止される複数の孔を有することを特徴とする請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記固定手段は、前記平袋の周縁部をつかんで固定する、つかみ具を備えることを特徴とする請求項1に記載の培養装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−120495(P2012−120495A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274954(P2010−274954)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】