説明

基体表面上の有機被膜の除去方法及び除去装置

【課題】 炭酸アルキレンを含有する有機被膜の剥離液をオゾン処理したときに剥離液中に生成する酸化性物質濃度を低減する技術を提供する。
【解決手段】 炭酸アルキレンを含有する剥離液を使用して基体表面上の有機被膜を除去する工程1、上記工程1において生成した有機被膜に由来する成分を含有する剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2、および上記工程2において生成したオゾン含有ガスに接触した剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3を含む基体表面上の有機被膜の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の剥離液を使用して基体表面上に形成された有機被膜を除去する方法に関するものである。また、上記有機被膜の除去に使用される装置に関するものである。

【背景技術】
【0002】
フォトレジストに代表される有機被膜の剥離液としては、苛性ソーダや苛性カリ等の無機強アルカリ水溶液、硫酸および過酸化水素の混合物、IPA(イソプロピルアルコール)やNMP(N−メチルピロリドン)等の有機溶剤、モノエタノールアミンやTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドライド)等の有機塩基物質溶液等が知られている。
しかし、これらの剥離液を用いた剥離方法では、剥離液自体の危険性や有害性が無視出来ないばかりでなく、大量に発生する使用済み剥離液には有機被膜に由来する成分が混入している為、剥離液の再利用が難しく資源の有効利用の点からも好ましくないという問題があった。
上記問題を解決するため、新規な剥離液として炭酸エチレンおよび炭酸プロピレンなどの炭酸アルキレンが提案されている。この剥離液は中性でかつ非危険物なので取り扱いが容易である(特許文献1)。また、炭酸アルキレンからなる剥離液はオゾンによって分解されにくく、剥離液中に混入した有機被膜に由来する成分はオゾン処理により除去または低減できるため、剥離液の再利用が可能であり、環境にやさしい技術である(特許文献2)。2個の洗浄ユニットを組合せた除去装置も知られている(特許文献3)。

【0003】
【特許文献1】特開2003−203856
【特許文献2】特開2003−330206
【特許文献3】特開2004−186208
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭酸アルキレンを主成分とする剥離液は、オゾン処理しながら循環させて再利用することができるが、剥離液中に過酸化物などの酸化性物質が蓄積するため、再利用の回数(剥離液の寿命)が制限されるという問題がある。例えば、剥離液中の酸化性物質の濃度が大きくなると、剥離液の有機被膜除去性能が低下したり、剥離液に接触する金属層の金属が溶出したりすることがわかった。
単に加熱により剥離液中の酸化性物質濃度を低減するには、高温での長時間加熱が必要となり、設備的にもエネルギー的にも無駄が多い。剥離液中の酸化性物質を低減するために還元剤の使用も考えられるが、還元剤の無駄な消費や、還元剤濃度制御の煩雑さなどの問題がある。触媒の使用により酸化性物質の低減を促進することも可能と思われるが、基体表面への影響などを考慮すると、できるだけ剥離液の成分はシンプルにすべきで、触媒などの添加は避けたい。
本願発明は、上記問題を解決するため、できるだけ剥離液の組成を複雑にすることなく、剥離液中の酸化性物質濃度を低減する技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点を解決するため、請求項1に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去方法は、炭酸アルキレンを含有する剥離液を使用して基体表面上の有機被膜を除去する工程1、上記工程1において生成した有機被膜に由来する成分(以下、有機被膜成分ともいう。)を含有する剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2、および上記工程2において生成したオゾン含有ガスに接触した剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3を含む方法である。
請求項2に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去方法は、請求項1に記載の発明において、炭酸アルキレンは炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンであることを特徴とする。
請求項3に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去方法は、請求項1に記載の発明において、活性エネルギー線は紫外線であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、活性エネルギー線が照射されることにより、剥離液中に含まれる酸化性物質の濃度が活性エネルギー線非照射の場合と比較して50%以上低減されることを特徴とする。
請求項5に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去装置は、炭酸アルキレンを含有する剥離液を使用して基体表面上の有機被膜を除去する工程1、上記工程1において生成した有機被膜成分を含有する剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2、および上記工程2において生成したオゾン含有ガスに接触した剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3を含む工程処理に使用される装置である。
請求項6に記載の発明の基体表面上の有機被膜の除去装置は、請求項5に記載の発明において、以下の設備を備える装置である。
設備A:剥離液を貯蔵する設備
設備B:剥離液を加熱する設備
設備C:有機被膜を有する基体に剥離液を接触させる設備
設備D:剥離液にオゾン含有ガスを接触させる設備
設備E:剥離液に活性エネルギー線を照射する設備
設備F:剥離液を循環させる設備

【発明の効果】
【0006】
炭酸アルキレンを主成分とする剥離液が使用される基体表面上の有機被膜の除去技術に関して、剥離液に還元剤などを添加しなくても剥離液中の酸化性物質濃度を効率的に低減することができた。その結果、有機被膜が除去される基体表面への影響を低減することができた。

【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本願発明に使用される剥離液は、炭酸アルキレンを含有し、使用条件において液状のものである。炭酸アルキレンとしては、入手が容易であり有機被膜の除去性能が優れているため、炭酸エチレンおよび/または炭酸プロピレンが好ましい。オゾン含有ガスに接触させたときの安定性の面からは炭酸エチレンの割合が多いことが好ましく、室温付近で液状を維持するという面からは一定割合の炭酸プロピレンの併用も推奨される。炭酸アルキレン中の炭酸エチレンの割合は、30〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましく、70〜100質量%がさらに好ましい。
【0008】
剥離液は、γ−ブチロラクトンなど、炭酸アルキレン以外の溶剤を含有するものであってもよい。剥離液は、界面活性剤などの添加剤を含有するものであってもよい。剥離液中の炭酸アルキレンの割合は、30〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましく、70〜100質量%がさらに好ましい。
【0009】
除去の対象となる有機被膜に特に制限はないが、主たる対象はフォトレジストである。対象の基体にも特に制限はないが、半導体用ウエハ、液晶用基板などが挙げられる。最上層に金属薄膜、特にモリブデン(以下、Moともいう。)薄膜が形成された基体を対象とする場合は、本発明を最も有効に活用できる。
【0010】
基体表面上の有機被膜を除去する工程1は、有機被膜が形成された基体に剥離液を接触させて、有機被膜を溶解または剥離する工程である。接触は公知の方法によればよく、有機被膜が形成された基体を剥離液に浸漬する方法、有機被膜が形成された基体に剥離液を噴射する方法などが挙げられる。剥離液の温度は目的に合わせて制御される。剥離液を構成する組成物が室温において固体である場合は、該組成物は液状を呈する温度に制御される必要がある。
【0011】
工程1を経た剥離液は、有機被膜成分を含有するものである。すなわち剥離液は、有機被膜に由来する溶解物および/または有機被膜に由来する断片の分散物を含有するものである。
【0012】
剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2は、剥離液に含有される有機被膜成分をオゾンにより分解させる工程である。有機被膜成分は分解されて、二酸化炭素や水のほか、有機酸など低分子の有機化合物を生成する。剥離液中の有機被膜成分を分解させて低濃度に維持することにより、剥離液を循環させて有機被膜の剥離に繰返し利用することができる。オゾン含有ガスは、公知の方法により供給されればよく、剥離液とオゾン含有ガスとの接触も公知の方法によりなされればよい。
【0013】
剥離液に溶解したオゾンは、剥離液に含有される有機被膜成分を分解するほかに、剥離液中に酸化性物質を生成させる。酸化性物質としては剥離液に由来する過酸化物および有機被膜成分に由来する過酸化物などが挙げられる。剥離液中の酸化性物質の濃度が高いと基体への悪影響が発生する場合があるので、酸化性物質の濃度をなるべく低く制御することが好ましい。例えば基体の表面層が金属を成分として含有する場合、金属が酸化されて剥離液中に溶出するという問題があることがわかった。特に基体の表面が金属を成分として含有する薄膜である場合は、僅かな金属の溶出でも膜厚の減少割合が大きいため、受ける影響が顕著となる。
【0014】
剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3は、オゾン含有ガスに接触した剥離液に含有される酸化性物質の濃度を低減するための工程である。活性エネルギー線としては、紫外線(UVともいう。)、電子線、X線などが挙げられるが、設備のコストや安全性の面から紫外線が好ましいく、波長300nm以下の強度の大きい紫外線が特に好ましい。具体例としては、波長254nmおよび185nmの紫外線を発する低圧水銀ランプ、波長172nmの紫外線を発するエキシマランプが挙げられる。上記波長254nm、185nmおよび172nmの紫外線のエネルギーはそれぞれ472kJ/mol、647kJ/molおよび696kJ/molであり、酸化性物質を効果的に分解することができる。
【0015】
ランプを使用して活性エネルギー線の照射をする場合は、活性エネルギー線の減衰を避けるため、照射ランプが剥離液に接触できるような構造を有する設備とすることが好ましい。すなわち、剥離液が流れる配管中または剥離液槽中で照射ランプが剥離液に浸漬される構造(内照式)が好ましい。その他にも剥離液が流れる配管の外側または剥離液槽の外側など、剥離液と非接触状態で照射ランプが設置された構造(外照式)も採用できる。内照式および外照式の併用も酸化性物質濃度の低減に効果的である。また、活性エネルギー線照射可能な配管を長くして照射時間を長くすることも効果的である。活性エネルギー線の照射条件は、剥離液中に含まれる酸化性物質の濃度が活性エネルギー線非照射の場合と比較して50%以上低減される条件であることが好ましく、70%以上低減される条件であることがより好ましい。
【0016】
また、活性エネルギー線ランプは、ランプの管壁温度によってランプから発せられる活性エネルギー線の強度が異なるため、ランプ選びには設計温度を考慮することも重要である。
【0017】
基体への影響を小さくするためには剥離液中の酸化性物質濃度を極力低くすることが好ましいが、設備のコストや設備運転のコストを考慮すると、闇雲に酸化性物質濃度の低減を追及するのは得策でない場合もある。設備仕様(活性エネルギー線ランプの種類、出力および個数など)は余裕をもって設計されるが、運転条件(活性エネルギー線照射量、剥離液流速、剥離液温度、オゾン処理条件など)は、剥離液中の酸化性物質濃度を特定範囲に制御することを念頭に決定されることが好ましい。基体の表面層が金属を成分として含有する場合は、金属の種類や膜厚も重要な要素である。剥離液中の酸化性物質濃度は、0.01〜50ppmであることが好ましく、0.1〜30ppmであることがより好ましい。
【0018】
本発明において酸化性物質の濃度は、ヨウ素滴定法により求められる。要領を以下に例示する。本発明において酸化性物質の濃度は、以下のようにして求められる濃度を過酸化物基「−O−O−」を構成する酸素原子の質量ppmに換算したものである。
1.剥離液と混和する溶剤(例えば酢酸とクロロホルムの混合液)に剥離液を溶解する。
2.「1」にヨウ化カリウムを溶解し、反応させる。
3.「2」において生成するヨウ素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定する。
4.滴定液の色の変化で滴定の終点が判断しにくいことを考慮して電位差滴定を行う。
なお、オゾン処理された剥離液であっても、剥離液に溶解されたオゾンは通常上記「1」の操作までにほとんど消失し、上記滴定によって求められる酸化性物質量にはオゾンは実質的に含まれない。
【0019】
本発明の基体表面上の有機被膜の除去装置は、上記工程1、工程2および工程3を含む工程処理に使用される装置である。図1は該装置の一例を示したものである。以下に図1を引用して装置を構成する設備および各工程を説明する。以下の説明において、例えば(1)は図1中の符号1を意味する。
【0020】
剥離液接触設備(8)は、有機被膜を有する基体を剥離液と接触させ、基体表面から有機被膜を除去する工程1用の設備である。
オゾン含有ガス接触設備(10)は、剥離液接触設備(8)から排出された剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2用の設備である。
活性エネルギー線照射設備(11)は、オゾン含有ガス接触設備(10)から排出された剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3用の設備である。
剥離液の貯槽(5)は、活性エネルギー線照射設備(11)から排出され、剥離液接触設備(8)に供給されるための剥離液が貯えられる設備である。
剥離液接触設備(8)において、剥離液の一部は、基体に同伴してまたは蒸気として排出され、オゾン含有ガス接触設備(10)に供給されない。
剥離液の一時貯槽(3)は、剥離液を新規供給または補充するときに剥離液の貯槽(5)に供給するための設備である。剥離液を溶解させる設備(4)は、剥離液が室温で固体である場合など、加熱により液状化するための設備である。
上記設備のほか、剥離液の温度制御をするための設備、剥離液を循環させるための設備なども備える。
【0021】
上記装置はあくまで一例であり、適宜変更が施されたものであってもよい。例えば工程1と工程2など複数の工程が1個の設備で実施される装置であってもよいし、1つの工程が複数の設備で実施される装置であってもよい。
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。

【実施例】
【0022】
剥離液をオゾン含有ガスと接触させると、剥離液中に酸化性物質が生成し、生成した酸化性物質が蓄積すると、剥離液の剥離性能が低下するほか、基体表面が金属を成分として含有する層である場合は該金属が溶出するなど基体にダメージを与えることがわかった。
【0023】
(参考例1)
以下の参考例は、剥離液が炭酸エチレンである場合を想定し、便宜上、有機被膜を有していない基体を使用して、オゾンが基体に及ぼす影響を確認する試験を行ったものである。
【0024】
加熱溶解して80℃に維持した炭酸エチレンに、所定時間オゾン含有ガスを通気接触させた(オゾン濃度:190mg/リットル、ガス流量:2リットル/分)。オゾン発生装置としては小野田セメント工業製オゾレックスOR−3Zを使用した。オゾン含有ガスを通気接触終了直後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により定量した。
また、オゾン含有ガスを通気接触終了直後の炭酸エチレンを80℃に維持しながら、Mo被膜を有する2cm角ガラス板を10分間浸漬した。炭酸エチレンに溶出したMoの濃度をICP−MS法により定量した。
炭酸エチレンにポジ型フォトレジスト(日本ゼオン株式会社製 ZPP2400K1)固形分(溶剤を揮発させて得られる不揮発成分)を180ppm溶解させた液についても同様に試験した。
上記試験の結果を表1に示す。炭酸エチレンにオゾン含有ガスを通気接触させると、炭酸エチレン中に酸化性物質が生成していた。酸化性物質濃度の大きい炭酸エチレンは、浸漬されたMoをよく溶出させることがわかった。
【0025】
【表1】

【0026】
(参考例2)
酸化性物質130ppmを含有する80℃の炭酸エチレンをシャワーノズルからMo被膜を有するガラス板に吹き付けた。Mo被膜は不均一に侵食され(炭酸エチレンに溶解し)、同心円状の模様(シャワーマップ)が現れた。
上記参考例の結果は、剥離液をオゾン含有ガスに接触させる場合は、剥離液中に生成する酸化性物質の濃度を低く制御する必要性を示している。
【0027】
(実施例1)
容量250ミリリットルのガラス製ガス吸収管に加熱溶解された炭酸エチレン330gを入れ、恒温槽に浸漬して80℃に維持した。無声放電型オゾナイザー(小野田セメント工業製オゾンレックスOR−3Z)により製造されたオゾン濃度200mg/リットルの酸素ガスを、2リットル/分の流量に制御しながら上記炭酸エチレン中に通気接触(バブリング)させた。バブリング終了直後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法(電位差滴定)により定量した。結果を表2に示す。バブリング時間を変えて得られた炭酸エチレンは、酸化性物質濃度が約100ppmおよび260〜300ppmのものであった。バブリング(オゾン接触)後の炭酸エチレンは、2分割して一方を実施例1の後段(UV照射)に使用し、他の一方を比較例1に使用した。
バブリング後の炭酸エチレンを所定温度(25℃および80℃)に設定された恒温槽に浸漬した状態で、スポットUV照射装置(ウシオ電機製SP−III、ランプは出力250Wの高圧水銀灯USH−255BY)を使用して、UVを所定時間照射した。UV照射後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により定量した。結果を表2に示す。表において「UV照射温度25℃」とあるのは、上記炭酸エチレンが浸漬された恒温槽の温度は25℃であるが、UV照射中炭酸エチレンは過冷却により液状を維持していたことを意味する。
UV照射により、炭酸エチレン中の酸化性物質濃度は低下することが確認された。また、UV照射時間を変えることで酸化性物質濃度は50ppm以下まで低減された。
【0028】
【表2】

【0029】
(比較例1)
実施例1で調製したバブリング終了後の酸化性物質含有炭酸エチレン溶液を、UV照射することなく所定温度の恒温槽に浸漬して所定時間放置した。放置後の液中酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により分析し、表3の結果を得た。
25℃の恒温槽に浸漬して放置された炭酸エチレン溶液は、酸化性物質の濃度があまり低下しなかった。80℃の恒温槽に浸漬して放置された炭酸エチレン溶液は、酸化性物質の濃度がかなり減少したが、UV照射された実施例1と比べると酸化性物質の濃度は大きかった。
【0030】
【表3】

【0031】
(実施例2)
容量250ミリリットルのガラス製ガス吸収管に加熱溶解された炭酸エチレン330gを入れ、恒温槽に浸漬して80℃に維持した。無声放電型オゾナイザー(小野田セメント工業製オゾンレックスOR−3Z)により製造されたオゾン濃度200mg/リットルの酸素ガスを、2リットル/分の流量に制御しながら上記炭酸エチレン中に通気接触(バブリング)させた。バブリング終了直後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法(電位差滴定)により定量したところ、270ppmであった。バブリング(オゾン接触)後の炭酸エチレンは、2分割して一方を実施例2の後段(UV照射)に使用し、他の一方を比較例2に使用した。
バブリング後の炭酸エチレンを25℃の恒温槽に浸漬した状態で、スポットUV照射装置(ウシオ電機製SP−III、ランプは出力250Wの高圧水銀灯USH−255BY)を使用して、UVを9分間照射した。UV照射後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により定量したところ、30ppmであった。
【0032】
(比較例2)
実施例2において、スポットUV照射装置に300nm以下の波長の紫外線をカットするガラス製フィルターを取り付ける以外は実施例2と同様の操作を行った。300nm以下の波長の紫外線がカットされた照射9分間の後の炭酸エチレン中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により定量したところ、120ppmであった。
【0033】
(実施例3)
炭酸エチレンにポジ型フォトレジスト(日本ゼオン株式会社製 ZPP2400K1)固形分を300ppmおよび150ppm溶解させた液を調製した。該炭酸エチレン溶液を使用して実施例1と同様の操作を行った。バブリング終了直後およびUV照射後の炭酸エチレン溶液中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定法(電位差滴定)により定量した。結果を表4に示す。
有機被膜の剥離剤として使用された炭酸エチレンにはフォトレジストが溶解されているが、フォトレジストを含有する炭酸エチレンについても、オゾン処理により生成した酸化性物質の濃度は、UV照射により大幅に減少することがわかった。
【0034】
【表4】

【0035】
(比較例3)
実施例3で調製したバブリング終了後の酸化性物質含有炭酸エチレン溶液を、UV照射することなく25℃の恒温槽に浸漬して所定時間放置した。放置後の液中酸化性物質濃度をヨウ素滴定法により分析し、表5の結果を得た。炭酸エチレン中の酸化性物質濃度はほとんど低下しなかった。
【0036】
【表5】

【0037】
(比較例4)
有機被膜の除去装置として、図1に示される装置を使用した。「1:基体と接触後の剥離液の受槽」、「2:オゾン含有ガス接触槽」および「5:剥離液の貯槽」に加熱された液状の炭酸エチレンがそれぞれ80リットル、64リットルおよび100リットル注入された。
炭酸エチレンを80℃に維持しながら、循環流量42リットル/分での循環を継続した。フォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 AZ−SC4−09)固形分を、1時間毎に3.5g「1:基体と接触後の剥離液の受槽」に添加した。フォトレジストを添加してから10分間経過後、17g/時間のオゾンを生成するオゾンガス発生装置から「2:オゾン含有ガス接触槽」にオゾン含有ガスを40分間導入して炭酸エチレン溶液にオゾン含有ガスを接触させる操作を繰り返し実施した。
1時間毎に採取した炭酸エチレン溶液中の酸化性物質濃度をヨウ素滴定により測定した結果、酸化性物質濃度は、時間経過とともに増加し、150時間後には80ppmの酸化性物質濃度となった。時間毎の濃度から推定した酸化性物質生成速度は0.3〜0.9ppm/時間であった。
【0038】
(実施例4)
比較例4において、「2:オゾン含有ガス接触槽」から「5:剥離液の貯槽」へ至る途中の循環液に、「11:活性エネルギー線照射設備」においてUV照射すること以外は比較例4と同様の操作を行った。UVランプとしては、185nmおよび254nmに主ピークを有する低圧水銀ランプを使用した。その結果、酸化性物質濃度の経時増加はなく、10ppm〜20ppmで推移した。150時間後には、18ppmの酸化性物質濃度であった。酸化性物質生成速度は0.1ppm/時間以下に抑制された。
【0039】
(実施例5)
有機被膜(厚さ2μmのフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 AZ−SC4−09))を有する基体(厚さ0.1μmのMo被膜を有する30cm×40cm角ガラス板)を、実施例4で150時間運転後の「8:剥離液接触設備」に投入して有機被膜の剥離を行った。炭酸エチレンを主成分とする剥離液がスプレーされてフォトレジストが剥離された後の基体表面にレジスト残存物はなく、Mo被膜の外観も変化はなかった。
【0040】
(比較例5)
有機被膜(厚さ2μmのフォトレジスト(AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製 AZ−SC4−09))を有する基体(厚さ0.1μmのMo被膜を有する30cm×40cm角ガラス板)を、比較例4で150時間運転後の「8:剥離液接触設備」に投入して有機被膜の剥離を行った。剥離後の基体表面にレジスト残存物はなかったが、Mo被膜は不均一に侵食され(Moの一部が炭酸エチレンに溶解し)、楕円状の模様(シャワーマップ)が現れた。

【産業上の利用可能性】
【0041】
半導体用ウエハ、液晶用基板などの製造工程において、フォトレジストを効率的に除去することができる。

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の基体表面上の有機被膜の除去装置の一例を示す図
【符号の説明】
【0043】
1:基体と接触後の剥離液の受槽
2:オゾン含有ガス接触槽
3:剥離液の一時貯槽
4:剥離液を溶解させる設備
5:剥離液の貯槽
6:接触チャンバー
7:剥離液導入設備
8:剥離液接触設備
9:剥離液循環設備
10:オゾン含有ガス接触設備
11:活性エネルギー線照射設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸アルキレンを含有する剥離液を使用して基体表面上の有機被膜を除去する工程1、上記工程1において生成した有機被膜に由来する成分を含有する剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2、および上記工程2において生成したオゾン含有ガスに接触した剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3を含む基体表面上の有機被膜の除去方法。
【請求項2】
炭酸アルキレンは炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の基体表面上の有機被膜の除去方法。
【請求項3】
活性エネルギー線は紫外線であることを特徴とする請求項1に記載の基体表面上の有機被膜の除去方法。
【請求項4】
活性エネルギー線が照射されることにより、剥離液中に含まれる酸化性物質の濃度が活性エネルギー線非照射の場合と比較して50%以上低減されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機被膜の除去方法。
【請求項5】
炭酸アルキレンを含有する剥離液を使用して基体表面上の有機被膜を除去する工程1、上記工程1において生成した有機被膜に由来する成分を含有する剥離液にオゾン含有ガスを接触させる工程2、および上記工程2において生成したオゾン含有ガスに接触した剥離液に活性エネルギー線を照射する工程3を含む工程処理に使用される基体表面上の有機被膜の除去装置。
【請求項6】
以下の設備を備える請求項5に記載の基体表面上の有機被膜の除去装置。
設備A:剥離液を貯蔵する設備
設備B:剥離液を加熱する設備
設備C:有機被膜を有する基体に剥離液を接触させる設備
設備D:剥離液にオゾン含有ガスを接触させる設備
設備E:剥離液に活性エネルギー線を照射する設備
設備F:剥離液を循環させる設備

【図1】
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【公開番号】特開2008−171986(P2008−171986A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3269(P2007−3269)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】