説明

基地局装置、無線通信方法、及び無線通信システム

【課題】受信電力が低い環境でもチャネル情報の精度を高め、受信側の装置において信号を合成する際の位相の同期精度を高めるように送受信する。
【解決手段】基地局装置は、アンテナごとに、該アンテナと端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得部と、複数のアンテナのうち一つのアンテナに対応する各周波数成分のチャネル情報を基準として、他のアンテナそれぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報から基準とした各周波数成分のチャネル情報に対する相対的なチャネル情報を算出し相対成分取得部と、アンテナそれぞれに対する周波数成分ごとに、相対成分取得部が複数回に亘って算出したアンテナそれぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出するチャネル情報平均部と、算出した平均値に基づいて求めた受信ウエイトを用いて受信処理をする受信信号処理部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線伝送における伝送距離の長距離化により回線設計上の厳しい制限が強いられる環境において、送信側の総送信電力を抑えながらも受信側の受信電力ないしは信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)を向上させ、省電力で効率的な伝送を可能にする基地局装置、無線通信方法、及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネットの普及と共に、既に全世帯の90%にも及ぶ世帯で光ファイバを用いた回線が利用可能となっている。このようにブロードバンド化の流れは確実に進展してはいるが、実際には、光回線の敷設による採算が見込めない地域があることから、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を如何にして実現するかという問題はなかなか解決する術が見つからない現状がある。光回線の敷設による採算が見込めない地域を不採算地域(条件不利地域)という。
【0003】
このような不採算地域における対策としては、無線回線を利用することが有利とされており、例えば、WiMAX(Worldwide interoperability for microwave access)と呼ばれる無線規格を用いたサービスのための周波数チャネルを10[MHz]確保し、この周波数チャネルを用いたWiMAXサービスを、条件不利地域を中心に適用する「地域WiMAX」と呼ばれる施策が実施されている。この施策に用いられているWiMAXでは、例えば基地局は10[W]程度の大きな送信電力で信号送信を行い、この結果、半径3km程度のエリアを1局でカバーすることが可能となっている。
【0004】
一般に、見通しがきく環境では送信局と受信局の間での伝搬に伴う信号の損失は、距離の2乗に反比例する。見通し外の場合にはこの減衰の程度は距離の3〜4乗に反比例するようになり、回線設計上にはより厳しい制限が課せられることになる。仮に見通しを想定したとしても、伝送距離を2倍に伸ばすためには、送信電力を2=4倍にする必要があり、より線形性の高い送信アンプを必要とする。しかし、そのような送信アンプは高価であると共に、そのような送信アンプを用いると、電力効率は著しく低下するため消費電力は急激に増加してしまう。
【0005】
近年は特に環境問題が注目され、無線を含めたインフラの低消費電力化が要求されており、高出力の送信アンプを用いた非効率的な通信は好ましくない。このような問題を解決するための方法としては、例えば、非特許文献1に記載のように、複数の中継局を介在させたコヒーレント伝送が有効である。非特許文献1では、中継においては非再生中継を仮定しているが、このコヒーレント伝送のポイントは、中継の形態が「非再生中継」であるか、又は「再生中継」であるかに依存しておらず、あくまでも受信側において各信号が同位相で合成されるように送信することである。このようなコヒーレント伝送を行う場合の形態の1つとして、分散アンテナシステムがある。
【0006】
分散アンテナシステムは、1つの制御局に場所的に分散されて設置された複数のアンテナ(厳密にはアンテナに、光・電気変換や信号増幅等を行う装置が組み合わされた無線モジュールないしはリモート基地局)が接続された構成であり、制御局と各アンテナ間は光ファイバ等で接続される。
また、他の形態として、1つの基地局に複数の中継局が無線接続された構成(無線中継システム)をとることもできる。この場合は、基地局が制御局となり、中継局がアンテナとなり、全体として分散アンテナシステムを構成することになるが、基地局と中継局とが無線により接続される点で大きく異なる構成である。
いずれの場合も、複数のアンテナ(中継局)が受信端末側で各信号が同位相で合成されるように送信するコヒーレント伝送を行う。以下、その詳細な説明を行う。
【0007】
[従来技術におけるコヒーレント伝送のシステム概要]
(無線中継システム)
図19は、従来技術における無線中継システムの概要を示す図である。
図19に示すように、無線中継システムは、送信局901と、N個の中継局902−1〜902−Nと、受信局903とを具備している。送信局901は、受信局903宛ての無線パケットを一旦中継局902−1〜902−Nに対して送信する。中継局902−1〜902−Nは、送信局901から受信した信号に対して各種受信信号処理を行い、送信局901が送信した無線パケットを再生(復元)する。次に、各中継局902−1〜902−Nは、再生した同一の無線パケットを同時刻に受信局903に対して送信する。この際、各中継局902−1〜902−Nは、それぞれが送信した信号が受信局903において同一の位相で受信されるように、送信信号の位相を調整する。受信局903では、各中継局902−1〜902−Nから送信された信号全てが伝送路で合成されて受信される。この際、各中継局902−1〜902−Nから送信された信号が、受信局903において同程度の受信電力で受信されるとするならば、合成された後の信号は、合成される前の信号に対して振幅でN倍となる。また、受信電力は、振幅の2乗に比例するため(N倍となる。
【0008】
ここで、無線中継システムにおける中継局902が1局の場合と、N局の場合とで比較する。評価条件を公平にするために、1局で中継する場合、単一の中継局902が送信電力をPとして送信し、N局で中継する場合、中継局902−1〜902−Nがそれぞれ送信電力をP/Nとして(総送信電力が一定の条件)送信するものとして比較する。N局の中継局902−1〜902−Nから送信した場合、各中継局902−1〜902−Nから送信された信号は伝送路で合成され、中継局902−1〜902−Nのいずれか1局からの受信信号に比べ、受信局903における総受信電力は(N倍となる。しかし、N局で送信した場合、1つの中継局902当たりの送信電力は、単一の中継局902で送信した場合の1/Nとなっている。そのため、受信電力は、(1/N)×(N=N倍となる。
つまり、中継局902−1〜902−Nの総送信電力を一定としているにもかかわらず、1局で中継する場合と比較して受信局903における受信電力がN倍となり、回線利得として10×Log10[dB]を稼ぐことが可能になる。
【0009】
(分散アンテナシステム)
図20は、従来技術における分散アンテナシステムの概要を示す図である。
図20に示すように、分散アンテナシステムは、協調的な通信を行う3つのセル911−1〜911−3を形成するリモート基地局912−1〜912−3と、複数の端末装置913−1〜913−6と、光ファイバ915を介して各リモート基地局912−1〜912−3に接続された制御局914とを具備している。なお、各リモート基地局912−1〜912−3と制御局914とを接続する光ファイバ915は、同軸ケーブルなどであってもよい。
【0010】
各リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが形成するセル内に位置する各端末装置913−1〜913−6と、同一の周波数チャネルを用いて通信を行う。制御局914は、光ファイバ915を介して、リモート基地局912−1〜912−3を制御する。同一の周波数チャネルを用いた通信を行うため、各端末装置913−1〜913−6は、複数のリモート基地局912−1〜912−3から送信された信号を同時に受信することができる。例えば、端末装置913−4は、全てのリモート基地局912−1〜912−3から信号を受信することができる。
ここで、リモート基地局912−1〜912−3それぞれと端末装置913−4との間のチャネル情報が既知であれば、リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが端末装置913−4宛てに送信する際に、各リモート基地局912−1〜912−3から送信された信号が端末装置913−4において同位相となるように送信ウエイト乗算を施すことができる。この場合、端末装置913−4において受信される信号は、同位相合成されるので受信電力が増加する。その結果、端末装置913−4における通信特性が改善される。このような、同位相合成を行うための信号処理の制御は全て制御局914で実施され、リモート基地局912−1〜912−3は制御局914の指示に従い動作する。
【0011】
分散アンテナシステムにおいて、制御局914と各リモート基地局912−1〜912−3との間は光ファイバ915で接続されており、この光ファイバ915上で転送される信号を各リモート基地局912−1〜912−3では光/電気変換を行うことで無線回線上において送信する電気信号を生成し、信号増幅などの処理の後にこれをアンテナから送信する。このような制御を利用することで、全てのチャネル情報を把握した制御局914に受信側において同位相合成となるような信号処理の機能を集約し、その結果、各リモート基地局912−1〜912−3における位相制御の不確定性を回避しながら通信品質の向上を図ることを可能としている。
【0012】
なお、厳密な意味での分散アンテナシステムでは、各リモート基地局912−1〜912−3は同時に複数の端末装置913−1〜913−6と同一周波数上で空間多重を行うマルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用してさらなる特性改善を図ることができる。マルチユーザMIMO技術を利用する際の制御は、多数の送信アンテナを利用することで、端末側における希望信号の同位相合成と、異なる端末間の干渉信号の除去のためのヌル制御とを両立しているという点を除けば、基本的にはコヒーレント伝送を基礎とした制御である。
【0013】
[コヒーレント伝送におけるチャネルフィードバックの概要]
コヒーレント伝送を行うためには、送受信局間のチャネルの状態を把握する必要がある。これは、複数の送信局又は中継局から送信された信号が同位相で受信局に届くようにするために、送信局及び中継局において、受信局との間のチャネルの状態を把握し、チャネルの状態に応じた送信ウエイトを用いて信号を送信するためである。
【0014】
図21は、従来技術におけるチャネルフィードバックの処理を示すフローチャートである。従来技術におけるチャネルフィードバックの方法は大別して2種類の方法がある。ここでは、フォワードリンクのチャネル推定結果を直接取得する「(A)直接的な方法」と、バックワードリンクの情報を用いて換算推定する「(B)間接的な方法」とについて説明する。
【0015】
一般的には、フォワードリンクとその逆方向のバックワードリンクのチャネル情報は一致しない。それは、フォワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組合せと、バックワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組合せが異なり、フォワードリンクのチャネル情報とバックワードリンクのチャネル情報との間で複素位相や振幅が異なるからである。
しかし、後述する換算処理(キャリブレーション処理)を実施することで、バックワードリンクのチャネル情報からフォワードリンクの情報を換算推定することが可能である。なお、以降の説明においては、先の説明における「リモート基地局」及び「中継局」を区別しない場合は「無線モジュール」と呼ぶことにする。
【0016】
図21(A)は、直接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、直接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS901)と、各無線モジュールから端末装置宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS902)。
端末装置は、各無線モジュールから送信された無線パケットを受信し、受信した無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS903)。端末装置では、このチャネル推定結果を「制御情報収容用の無線パケット」に収容し、無線モジュールに送信する(ステップS904)。
無線モジュールは、端末装置が送信した「制御情報収容用の無線パケット」を受信し、チャネル情報を取得する(ステップS905)。更に、無線モジュールは、受信したチャネル情報をメモリに保存し、チャネル情報に関するデータベースを構築し(ステップS906)、処理を終了する(ステップS907)。
【0017】
図21(B)は、間接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、間接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS908)と、端末装置から無線モジュール宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS909)。
無線モジュールは、端末装置から送信された無線パケットを受信し、無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS910)。無線モジュールは、このバックワードリンクにおけるチャネル情報の推定結果に、換算処理を施し、フォワードリンク側のチャネル情報を取得する(ステップS911)。
【0018】
バックワードリンクにおけるチャネル情報からフォワードリンクにおけるチャネル情報を算出する換算処理は、フォワードリンクにおけるハイパワーアンプと、バックワードリンクにおけるローノイズアンプとの相違を補正する係数を用いることにより実施することが可能である。具体的には、バックワードリンクにおけるチャネル情報に、ハイパワーアンプとローノイズアンプとの相違を補正する係数を乗算することによって、ステップS911における変換処理を実施することができる。
更に、無線モジュールは、端末装置から受信したバックワードリンクにおけるチャネル情報と、変換処理により得られたフォワードリンクにおけるチャネル情報とをメモリに保存し、チャネル情報を記憶するデータベースを構築し(ステップS912)、処理を終了する(ステップS913)。
【0019】
このようにしてチャネル情報を事前に取得しておき、一般的には実際に通信を行う際にこのチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。なお、送信ウエイトを事前に算出しておいても構わないが、チャネル情報は時間と共に変動するため、状況に応じて例えば周期的に更新することが一般的である。また、上記の中でチャネル情報をデータベース化して保存するのは、無線モジュール以外のその他の制御局等で行っても構わない。
【0020】
また、分散アンテナシステムを例にとれば、この送信ウエイト算出処理は各無線モジュールで個別に行うのではなく、制御局において集中制御的に一括処理を行うことが一般的である。特に、マルチユーザMIMOにより複数の端末装置と同時に同一周波数チャネルで通信を行う際には、全てのチャネル情報を用いなければ送信ウエイトを算出することはできない。ただし、マルチユーザMIMOではなく、1台の端末装置との間での1対1通信(つまり、単なるMIMO)を行う場合に限定すれば、チャネル情報から得られる伝送路上での複素位相の回転をキャンセルする送信ウエイト(つまり、全ての無線モジュールでチャネル情報と送信ウエイトを乗算すると複素位相が定数となる)を利用可能であるので、無線モジュールで個別に処理をすることも可能である。
【0021】
[従来技術におけるコヒーレント伝送の信号処理概要]
従来技術におけるコヒーレント伝送の信号処理について、以下に簡単に説明する。
まず、端末装置に対してコヒーレント伝送を行う無線通信装置の構成について説明する。無線通信装置は、送信を行う機能と、受信を行う機能とを備えるのが一般的で、特にチャネル情報のフィードバックを行う際には両方の機能を同時に利用することになる。ここでは、説明の便宜上、無線通信装置の送信側の機能と、受信側の機能とを分けて説明する。
【0022】
(ダウンリンクにおける送信側の構成例)
図22は、従来技術における無線通信装置のダウンリンクに係る送信側の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、無線通信装置は、ダウンリンク(フォワードリンク)に係る構成として、制御局装置92と、光ファイバ96−1〜96−Nを介して接続されたリモート基地局としての無線モジュール97−1〜97−Nとを具備している。
【0023】
制御局装置92は、送信信号処理回路921、D/A(デジタル/アナログ)変換器922−1〜922−N、ローカル発振器923、ミキサ924−1〜924−N、フィルタ925−1〜925−N、E/O(Electrical/Optical:電気/光)変換器926−1〜926−N、チャネル情報取得回路927、送信ウエイト算出回路928、及び送信ウエイト記憶回路929を備えている。D/A変換器922−1〜922−N、ミキサ924−1〜924−N、フィルタ925−1〜925−N、及びE/O変換器926−1〜926−Nは、無線モジュール97−1〜97−Nに対応して設けられている。
【0024】
無線モジュール97−1〜97−Nは、それぞれが同じ構成を有しており、O/E(Optical/Electrical:光/電気)変換器971−1〜971−N、ハイパワーアンプ(High Power Amplifier:HPA)972−1〜972−N、及びアンテナ素子973−1〜973−Nを備えている。
【0025】
送信信号処理回路921は、外部のネットワーク側から送信すべきデータが入力されると、入力されるデータに基づいて無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。更に、送信信号処理回路921は、変調処理がなされたベースバンド信号に、送信ウエイト記憶回路929に記憶されている送信ウエイトを乗算し、必要に応じて残りの信号処理を施し、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータを生成する。ここで、残りの信号処理には、例えば、OFDM変調方式を用いる場合、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理が含まれる。
また、送信信号処理回路921は、生成したサンプリングデータを各無線モジュール97−1〜97−Nにおいて送信する送信信号を、無線モジュール97−1〜97−Nに対応するD/A変換器922−1〜922−Nに出力する。
【0026】
D/A変換器922−1〜922−Nは、それぞれが送信信号処理回路921から入力される送信信号(デジタル・サンプリングデータ)からベースバンドのアナログ信号に変換してミキサ924−1〜924−Nに出力する。
ミキサ924−1〜924−Nは、ローカル発振器923から入力される局部発振信号と、D/A変換器922−1〜922−Nから入力されるアナログ信号とを乗算して、無線周波数の信号にアップコンバートする。
【0027】
ミキサ924−1〜924−Nがアップコンバートした信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分の信号が含まれている。フィルタ925−1〜925−Nは、ミキサ924−1〜924−Nがアップコンバートした信号から、送信すべきチャネルの帯域外の成分を除去して、送信すべき電気的な信号を生成する。
E/O変換器926−1〜926−Nは、フィルタ925−1〜925−Nが生成した電気的な信号を光信号に変換し、光ファイバ96−1〜96−Nを介して無線モジュール97−1〜97−Nに送信する。無線モジュール97−1〜97−Nに送信する信号を、E/O変換器926−1〜926−Nを用いて光信号に変換することにより、信号のレベル損失やノイズ混入を防ぐことができる。
【0028】
チャネル情報取得回路927は、無線モジュール97−1〜97−Nそれぞれと、不図示の端末装置との間のチャネル情報を取得し、取得したチャネル情報を送信ウエイト算出回路928に出力する。
送信ウエイト算出回路928は、チャネル情報取得回路927から入力されたチャネル情報に基づいて、送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路929に記憶させる。
【0029】
各無線モジュール97−1〜97−Nにおいて、O/E変換器971−1〜971−Nは、制御局装置92から受信した光信号を電気信号に変換して、ハイパワーアンプ972−1〜972−Nに出力する。ハイパワーアンプ972−1〜972−Nは、O/E変換器971−1〜971−Nから出力された電気信号を増幅し、アンテナ素子973−1〜973−Nを介して不図示の端末装置に送信する。
【0030】
なお、送信信号処理回路921で乗算される送信ウエイトは、チャネル情報取得回路927が別途取得するチャネル情報から、送信ウエイト算出回路928が算出したものである。チャネル情報取得回路927及び送信ウエイト算出回路928により逐次算出された送信ウエイトが送信ウエイト記憶回路929に記憶される。送信信号処理回路921は、送信ウエイト記憶回路929に記憶されている送信ウエイトを読み出し、読み出した送信ウエイトを用いて送信信号処理を行う。
【0031】
ここで、無線通信装置の重要な特徴は、単一のローカル発振器923が出力する局部発振信号を各ミキサ924−1〜924−Nに入力している点である。単一のローカル発振器923から出力された局部発振信号を各ミキサ924−1〜924−Nにおいて用いることにより、各ミキサ924−1〜924−Nに入力される信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。したがって、各無線モジュール97−1〜97−N間相互の位相の不確定性が回避されることから、受信側の端末装置で同位相合成となる送信ウエイト乗算処理が容易になる。
【0032】
図23は、従来技術における無線通信装置による送信処理の一例を示すフローチャートである。無線通信装置において、チャネル情報取得回路927は、図21に示した手順で、送信処理とは別の機会に逐次、ダウンリンクのチャネル情報を取得する(ステップS929)。送信ウエイト算出回路928は、チャネル情報取得回路927が取得したチャネル情報に基づいて、各周波数成分の送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路929に記憶させる(ステップS930)。
このダウンリンクのチャネル情報を取得する処理は定期的に行われ、常に最新の送信ウエイト情報が送信ウエイト記憶回路929に記憶されている。
【0033】
一方、各無線モジュール97−1〜97−Nから端末装置に向けての信号の送信に際して、無線通信装置は、送信処理を開始すると(ステップS921)、制御局装置92において送信信号処理回路921が各周波数の送信信号を生成する(ステップS922)。
また、送信信号処理回路921は、送信ウエイト記憶回路929に記憶されている送信ウエイトのうち、アンテナ素子973−1〜973−Nそれぞれと宛先局の端末装置との組合せに対応する送信ウエイトを各周波数成分毎に読み出し(ステップS923−1〜S923−N)、読み出した送信ウエイトを送信信号に各周波数成分毎に乗算する(ステップS924−1〜S924−N)。
【0034】
また、送信信号処理回路921は、各周波数成分の信号の合成(IFFT処理)を含む各種送信信号処理を施して(ステップS925−1〜S925−N)、各無線モジュール97−1〜97−Nに光ファイバ96−1〜96−Nを介して転送する(ステップS926−1〜S926−N)。
各無線モジュール97−1〜97−Nは、制御局装置92から転送された信号を各アンテナ素子973−1〜973−Nを介して送信し(ステップS927−1〜S927−N)、送信処理を終了させる(ステップS928−1〜S928−N)。
【0035】
以上の説明では、制御局装置92において、ステップS923−1〜S923−N、ステップS924−1〜S924−N、ステップS925−1〜S925−Nそれぞれの処理を行う場合について説明した。しかし、ステップS922で生成した送信信号を各無線モジュール97−1〜97−Nに転送し(ステップS926−1〜S926−Nに相当)、その後に、ステップS923−1〜S923−N、ステップS924−1〜S924−N、ステップS925−1〜S925−Nそれぞれの処理を行うようにしてもよい。すなわち、無線モジュール97−1〜97−Nにおいて、ステップS923−1〜S923−N、ステップS924−1〜S924−N、ステップS925−1〜S925−Nそれぞれの処理を行うようにしてもよい。ただし、この場合にはミキサ924−1〜924−Nに入力する局部発振信号の位相の不確定性を補償する工夫を別途行なう必要があるため、相互に周波数誤差や複素位相の不確定性をもたない共通の局部発振信号をアップコンバートに利用することが基本的な構成となる。
【0036】
(アップリンクにおける受信側の構成例)
図24は、従来技術における無線通信装置のアップリンクに係る受信側の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、無線通信装置は、アップリンク(バックワードリンク)に係る構成として、ダウンリンクに係る構成と同様に、制御局装置92と、光ファイバ93−1〜93−Nを介して接続されたリモート基地局としての無線モジュール97−1〜97−Nとを具備している。
制御局装置92は、図22に示した構成に加えて、O/E変換器931−1〜931−N、ミキサ932−1〜932−N、ローカル発振器933(ローカル発振器923と共用することも可能)、フィルタ934−1〜934−N、A/D(Analogue/Digital:アナログ/デジタル)変換器935−1〜935−N、チャネル情報推定回路936、受信ウエイト算出回路937、及び受信信号処理回路938を更に備えている。
無線モジュール97−1〜97−Nは、図22に示した構成に加えて、ローノイズアンプ(Low Noise Amplifier:LNA)974−1〜974−N、及びE/O変換器975−1〜975−Nを備えている。
【0037】
各無線モジュール97−1〜97−Nにおいて、ローノイズアンプ974−1〜974−Nは、アンテナ素子973−1〜973−Nを介して受信した信号を増幅してE/O変換器975−1〜975−Nに出力する。
E/O変換器975−1〜975−Nは、ローノイズアンプ974−1〜974−Nから入力された電気的な信号を光信号に変換して、光ファイバ96−1〜96−Nを介して制御局装置92に送信する。
【0038】
制御局装置92において、O/E変換器931−1〜931−Nは、無線モジュール97−1〜97−Nから受信した光信号を電気信号に変換してミキサ932−1〜932−2に出力する。
ミキサ932−1〜932−Nは、O/E変換器931−1〜931−Nから出力される電気信号と、ローカル発振器933から出力される局部発振信号とを乗算し、無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートする。
ミキサ932−1〜932−Nにおいてダウンコンバートされた信号には、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分も含まれる。そこで、フィルタ934−1〜934−Nは、ミキサ932−1〜932−Nにおいてダウンコンバートされた信号から、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分を除去する。
【0039】
A/D変換器935−1〜935−Nは、フィルタ934−1〜934−Nにより帯域外の周波数成分が除去された信号を、デジタル・ベースバンド信号に変換して受信信号処理回路938に出力する。A/D変換器935−1〜935−Nによりデジタル化されたデジタル・ベースバンド信号は、受信信号処理回路938に集約され、ここで所定の受信ウエイトが乗算され、更に合成される。受信信号処理回路938は、合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータを外部(ネットワーク側)に出力する。
【0040】
ここで、受信信号処理回路938で用いられる受信ウエイトは、上述の信号処理とは別の処理により取得する。具体的には、A/D変換器935−1〜935−Nがデジタル化したデジタル・ベースバンド信号は、チャネル情報推定回路936にも出力される。
チャネル情報推定回路936は、入力されたデジタル・ベースバンド信号に含まれるチャネル推定用の信号に基づいて、各無線モジュール97−1〜97−Nそれぞれと端末装置との間のチャネル情報を推定し、推定したチャネル情報を受信ウエイト算出回路937に出力する。
受信ウエイト算出回路937は、チャネル情報推定回路936から出力されたチャネル情報に基づいて、受信ウエイトを算出して受信信号処理回路938に出力する。
【0041】
なお、ここでは信号受信時に取得するチャネル情報に基づいて受信ウエイトを算出することを明示するために、チャネル情報推定回路936及び受信ウエイト算出回路937を受信信号処理回路938と別に示した。しかし、受信信号処理回路938が、チャネル情報推定回路936及び受信ウエイト算出回路937を含む構成としてもよい。すなわち、チャネル情報推定回路936及び受信ウエイト算出回路937は、受信信号処理回路938の機能の一部とみなすことも可能である。なお、ここでは説明を省略したが、受信した信号のシンボルタイミングを検出する処理などその他の細かな機能も、チャネル情報推定回路936ないしは受信信号処理回路938などに含まれて、全体としての信号処理を実現している。
【0042】
無線通信装置では、ダウンリンクに係る構成と同様に、ひとつのローカル発振器933から出力される局部発振信号を各ミキサ932−1〜932−Nに入力している。これにより、各ミキサ932−1〜932−Nに入力される局部発振信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。ただし、アップリンクに係る構成に関して、ミキサ932−1〜932−Nにおいてダウンコンバートが行われた後の信号に対して、チャネル情報推定回路936がチャネル情報の推定を行うので、仮にローカル発振器933からの局部発振信号の位相関係が異なっていても、その影響を除去した受信信号処理を行うことは原理的には可能である。
【0043】
なお、無線モジュール97−1〜97−Nごとに個別のローカル発振器を用いるような構成では、ローカル発振器ごとに周波数誤差が生じることを避けられないため、時間と共に無線モジュール97−1〜97−Nごとに独立で異なる位相の回転が加わり、その影響を除去することが困難となる。したがって、アップリンクに係る構成においても、相互に周波数誤差や複素位相の不確定性をもたない共通の局部発振信号をダウンコンバートに利用することが基本的な構成となる。
【0044】
図25は、従来技術における無線通信装置による受信処理の一例を示すフローチャートである。同図に示す各ステップのうち、ステップS931−1〜S934−Nの処理は、各無線モジュール97−1〜97−Nで受信した信号に対して個別に行われる処理である。これに対して、ステップS935〜S937の処理は、ステップS931−1〜S934−Nの処理の結果を受信信号処理回路938に集約して行う処理である。
【0045】
各無線モジュール97−1〜97−Nは信号を受信する(ステップS931−1〜S931−N)。ここでの受信とは、受信した信号(ないしはそれをダウンコンバートした信号)に対してアナログ/デジタル変換を施す処理まで含み、以降の信号処理はこれらのデジタル化された受信信号に対しする処理を意味する。すなわち、各無線モジュール97−1〜97−Nのアンテナ973−1〜973−Nにおいて受信された信号が制御局装置92に転送され、A/D変換器935−1〜935−Nによりデジタル化されるまでの処理を意味する。
【0046】
制御局装置92において、チャネル情報推定回路936は、各無線モジュール97−1〜97−Nの受信信号に含まれる無線パケットに付与されていた既知のパターンからなるプリアンブル信号に基づいて、チャネル推定を実施する(ステップS932−1〜932−N)。すなわち、チャネル情報推定回路936は、各周波数成分毎に伝送路状での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握し、信号の減衰及び複素位相の回転状態を示すチャネル情報を受信ウエイト算出回路937に出力する。
受信ウエイト算出回路937は、チャネル情報推定回路936から出力される各周波数成分毎のチャネル情報に基づいて、各周波数成分毎の受信ウエイトを算出する(ステップS933−1〜S933−N)。
【0047】
受信信号処理回路938は、受信ウエイト算出回路937が算出した受信ウエイトを、A/D変換器935−1〜935−Nから入力されるデジタル・ベースバンド信号を各周波数成分に分離した信号に対し、各周波数成分毎に乗算し(ステップS934−1〜934−N)、各アンテナ素子に対する乗算結果を各周波数成分毎に加算合成し(ステップS935)、加算合成された信号に対して通常の受信信号処理を実施し(ステップS936)、処理を終了する(ステップS937)。
【0048】
[フェーズドアレーアンテナ技術について]
なお、コヒーレント伝送と類似の技術として、多数のアンテナ素子を用いたフェーズドアレーアンテナ技術がある(例えば、非特許文献3)。図26は、フェーズドアレーアンテナの原理を示す図である。同図には、5つのアンテナ素子961−1〜961−5が、互いに間隔dを隔てて直線状に配置されているフェーズドアレーアンテナが示されている。フェーズドアレーアンテナにおいてアンテナ素子961−1〜961−5の配列方向に対して角度θ方向の指向性を形成する場合、その方向に対してアンテナ素子961−1〜961−5ごとの経路長差がdCosθであることを考慮して、同位相合成するように各アンテナ素子961−1〜961−5を用いて送受信する信号それぞれに対して調整を行えばよい。
【0049】
ここで、送受信する信号の波長がλである場合、隣接するアンテナ素子961−1〜961−5間で((2πdCosθ)/λ)ずつ位相をずらした信号を出力することにより、角度θ方向に対して指向性を形成することができる。この位相差((2πdCosθ)/λ)は、送受信する信号にアナログ的に移相器を用いて与えてもよいし、デジタル信号処理において与えてもよい。
フェーズドアレーアンテナでは、このようにして、所定の角度方向に対するアンテナ利得を稼ぐことができる。なお、一般には、指向性利得が最大となるメインローブ方向の周りに細かな利得のうねりを示すサブローブが生じるため、その影響を低減しメインローブを安定的に運用するために、アンテナ素子961−1〜961−5の間隔dをλ/2以下にする。
【0050】
ただし、波長λに対しアンテナ素子961−1〜961−5間隔が短くなるにつれ、アンテナ素子961−1〜961−5同士の素子間結合や様々な要因により、単純な同位相合成の場合に比べ大幅に利得は低減する。この場合、個々のアンテナ素子961−1〜961−5から送受信される信号は、送受信点において独立な波として振幅を単純に加算できる波動と異なり、あたかも多数のアンテナ素子961−1〜961−5全体でひとつの仮想的なアンテナ素子を構成し、その仮想的なアンテナ素子からひとつの信号(波動)を送信するといった振る舞いとなる。この点で、単純な同位相合成が成り立つコヒーレント伝送とは異なる現象と見ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0051】
【非特許文献1】原晋介他「コヒーレント送信による消費電力の削減」、電子情報通信学会ソサイエティ大会BS−3−1、2009年9月
【非特許文献2】松田大輝他、「最大比送信を用いる分散アンテナシステムのチャネル容量に関する一検討」、信学技法RCS2007−196、pp.61−66、2008年2月
【非特許文献3】築地武彦著「電波・アンテナ工学入門」、総合電子出版社、pp.166−168、2002年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0052】
上述したコヒーレント伝送及び分散アンテナシステムでは、チャネル情報が送信側で既知である必要がある。この条件に対して、実際のシステムでは、以下の課題が発生する。
【0053】
(課題1)
例えば、100局の無線モジュールを利用して20[dB]の回線利得を稼ぐ場合について考える。通信において、20[dB]を前提として無線通信装置等の回路を設計するため、ひとつの無線モジュールと端末装置との間のチャネル推定を行う際には、通信時に比べて20[dB]劣化した環境でチャネル推定を行わなければならない。例えば、実際の通信における所要SNRが10[dB]であったとすると、チャネル推定は−10[dB]という雑音が支配的な環境で実施しなければならない。しかし、このような雑音が支配的な環境では、推定した極めて不確かなチャネル情報から送信ウエイトを求めても同位相合成を実現することはできない。
【0054】
なお、分散アンテナシステムは、図20に示したように、複数のセルがオーバーラップする領域に存在する端末装置を想定している。すなわち、分散アンテナシステムで送受信に関与するリモート基地局は地理的に端末装置に比較的近接する数局のみであり、その結果低SNRとはならず、そもそも上述のチャネル推定精度の問題は発生していなかった。また、複数の中継局を利用したコヒーレント伝送が記載されている非特許文献1では、その「まとめ」の章においても記載があるように、チャネル情報の推定法を含む各種制御の達成方法についてはこの文献内で「あえて言及しないこと」を明言している。すなわち、著者は現時点ではコヒーレント伝送の実現は困難であるとの認識であり、非特許文献1ではこれらの数々の課題を解決できさえすれば有益な効果が得られる可能性があるという主張を行なっていると推察される。このように従来技術では、コヒーレント伝送に必要な超低SNR領域でのチャネル情報のフィードバックを行うための方法が確立されていない。
【0055】
(課題2)
都市部のように自動車の往来が常に絶えない環境を想定すると、チャネルの状況は時間と共に変動する。仮にチャネル推定精度が所望のレベルにありチャネルのフィードバックが可能な場合であっても、チャネルのフィードバックに要するオーバーヘッドによる伝送効率の低下を考慮すれば、チャネルをフィードバックする周期は比較的長めに設定する必要があり、この結果、実際の送受信時刻よりも過去のチャネル情報を基にした送受信ウエイトを利用することになる。しかし、チャネルの時変動により最適な送受信ウエイトは変化するため、期待する回線利得は得られないことがあり、通信が不安定化してしまうという問題がある。
【0056】
以上説明したように、複数の無線モジュールを介したコヒーレント伝送を行うためには、上記の(課題1)である受信電力が低い環境ではチャネル情報の精度が低い問題を解決し、更に(課題2)であるチャネルの時変動に起因する問題をも解決し、受信局側において同位相で信号が合成されるように各無線モジュールから送信される信号を調整するための新たな技術が必要になる。また、送信側と同様に、各無線モジュール側で受信した信号に対する受信信号処理においても、全く同様の課題が存在する。
【0057】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたもので、受信電力が低い環境でもチャネル情報の精度を高め、受信側の装置において信号を合成する際の位相の同期精度を高めるように送受信する基地局装置、無線通信方法、及び無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0058】
上記問題を解決するために、本発明は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムにおける基地局装置であって、前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得部と、複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得部と、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得部が複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均部と、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理部とを備えることを特徴とする基地局装置である。
【0059】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記端末装置は、複数の周期に亘るトレーニング信号を送信し、前記チャネル情報取得部は、前記アンテナ素子ごとに、前記トレーニング信号を周期ごとに分離して合成し、合成したトレーニング信号に基づいて前記アップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得することを特徴とする。
【0060】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおけるチャネル情報からダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するキャリブレーション係数を各周波数成分ごとに記憶しているキャリブレーション係数記憶部と、前記チャネル情報平均部が算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の平均的なチャネル情報ごとに、対応する前記アンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応するキャリブレーション係数を乗じてダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するダウンリンクチャネル情報算出部と、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記ダウンリンクにおけるチャネル情報から送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出部と、前記端末装置に送信する送信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号ごとに、該信号の周波数成分と該信号を送信する前記アンテナ素子との組合せに対応する前記送信ウエイトを乗じ、送信ウエイトを乗じた周波数成分ごとの信号を時間軸上の信号に変換して前記アンテナ素子それぞれから送信する送信信号処理部とを更に備えることを特徴とする。
【0061】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記受信信号処理部が前記受信信号を周波数成分ごとの信号に分離するFFT処理における、ポイント数をNとし、サンプリング周期をΔtとし、前記受信信号に含まれるシンボルの周期をT(=N×Δt)とし、自装置においてダウンコンバートに用いる第1の局部発振信号と、前記端末装置においてアップコンバートに用いる第2の局部発振信号との周波数誤差をΔfとした場合、前記チャネル情報取得部は、前記受信信号から複数のシンボル周期だけ連続したトレーニング信号を抽出し、前記トレーニング信号に対して前記周期TのM0倍(M0は2以上の整数)の期間に亘ってサンプリングデータを取得し、前記サンプリングデータにおいて第m’番目のサンプリングデータのm’をポイント数Nで除算した際の剰余mと商Mとを用いてS(M)と表記した場合に、前記サンプリングデータそれぞれに係数Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m])を乗算した値をmの示す値ごとに加算平均化した値である式(A1)で表される値と、該値の複素共役との積の和である式(A2)で表される値を算出し、式(A2)を最大にする周波数誤差Δfを算出し、
【数1】

前記式(A1)に、前記算出した周波数誤差Δfを代入して得られる値に対してFFT処理をして得られた値に基づいて、前記各周波数成分のチャネル情報を算出することを特徴とする。
【0062】
また、本発明は、上記に記載の発明において、各周波数成分において、アップリンクにおける各チャネル情報と、ダウンリンクにおける各チャネル情報とにおける複素位相の回転量の相対的な関係が前記複数のアンテナ素子間で一定である場合、前記送信信号処理部は、前記キャリブレーション係数がすべてのアンテナ素子及び周波数成分で1とみなして処理を行うことを特徴とする。
【0063】
また、上記問題を解決するために、本発明は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得ステップと、複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得ステップと、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得ステップにおいて複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均ステップと、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出ステップと、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理ステップとを備えることを特徴とする無線通信方法である。
【0064】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記端末装置は、複数の周期に亘るトレーニング信号を送信し、前記チャネル情報取得ステップにおいて、前記アンテナ素子ごとに、前記トレーニング信号を周期ごとに分離して合成し、合成したトレーニング信号に基づいて前記アップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得することを特徴とする。
【0065】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記基地局装置は、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおけるチャネル情報からダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するキャリブレーション係数を各周波数成分ごとに記憶しているキャリブレーション係数記憶部を更に備え、前記チャネル情報平均ステップにおいて算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の平均的なチャネル情報ごとに、対応する前記アンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応するキャリブレーション係数を乗じてダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するダウンリンクチャネル情報算出ステップと、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記ダウンリンクにおけるチャネル情報から送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと、前記端末装置に送信する送信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号ごとに、該信号の周波数成分と該信号を送信する前記アンテナ素子との組合せに対応する前記送信ウエイトを乗じ、送信ウエイトを乗じた周波数成分ごとの信号を時間軸上の信号に変換して前記アンテナ素子それぞれから送信する送信信号処理ステップとを更に有することを特徴とする。
【0066】
また、本発明は、上記に記載の発明において、前記受信信号処理ステップにおいて、前記受信信号を周波数成分ごとの信号に分離するFFT処理における、ポイント数をNとし、サンプリング周期をΔtとし、前記受信信号に含まれるシンボルの周期をT(=N×Δt)とし、自装置においてダウンコンバートに用いる第1の局部発振信号と、前記端末装置においてアップコンバートに用いる第2の局部発振信号との周波数誤差をΔfとした場合、前記チャネル情報取得ステップでは、前記受信信号から複数のシンボル周期だけ連続したトレーニング信号を抽出し、前記トレーニング信号に対して前記周期TのM0倍(M0は2以上の整数)の期間に亘ってサンプリングデータを取得し、前記サンプリングデータにおいて第m’番目のサンプリングデータのm’をポイント数Nで除算した際の剰余mと商Mとを用いてS(M)と表記した場合に、前記サンプリングデータそれぞれに係数Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m])を乗算した値をmの示す値ごとに加算平均化した値である式(B1)で表される値と、該値の複素共役との積の和である式(B2)で表される値を算出し、式(B2)を最大にする周波数誤差Δfを算出し、
【数2】

前記式(B1)に、前記算出した周波数誤差Δfを代入して得られる値に対してFFT処理をして得られた値に基づいて、前記各周波数成分のチャネル情報を算出することを特徴とする。
【0067】
また、本発明は、上記に記載の発明において、各周波数成分において、アップリンクにおける各チャネル情報と、ダウンリンクにおける各チャネル情報とにおける複素位相の回転量の相対的な関係が前記複数のアンテナ素子間で一定である場合、前記送信信号処理ステップでは、前記キャリブレーション係数がすべてのアンテナ素子及び周波数成分で1とみなして処理を行うことを特徴とする。
【0068】
また、上記問題を解決するために、本発明は、複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムであって、前記基地局装置は、前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得部と、複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得部と、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得部が複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均部と、前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理部とを備えることを特徴とする無線通信システムである。
【発明の効果】
【0069】
この発明によれば、複数のアンテナ素子と端末装置との間のチャネル情報を取得する際に、複数の周期を有するトレーニング信号を周期ごとに分離して合成することにより、時間ダイバーシチの効果を利用して受信電力が低い環境でも、チャネル情報を推定する精度を向上させることができる。更に、時間的に離散した複数回に亘って取得したチャネル情報を平均化することにより、チャネル推定の推定精度の向上と時変動成分の抑圧を行うことができる。
このように、短周期の平均化と長周期の平均化とを組合わせることにより、超低SNR環境であっても所望の精度のチャネル情報を取得可能とすると共に、周波数オフセットによる影響や時変動によるチャネル情報(および、チャネル情報をもとに算出される送信ウエイト及び受信ウエイト)の不安定化を低減させることができる。基地局装置は、受信ウエイトを用いて、複数のアンテナ素子を介して端末装置から受信した複数の信号を合成する際の位相の同期精度を高めることができると共に、端末装置は、基地局装置において送信ウエイトを用いて複数のアンテナ素子から送信された信号が伝搬路上で合成される際に、高い精度で位相が揃えられた信号として受信することができる。その結果、無線通信システムにおける通信品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例を示す図である。
【図2】本発明に係る基地局装置が行う信号合成の動作例を示す図である。
【図3】チャネル推定の概要を示す図である。
【図4】本発明におけるトレーニング信号の例を示す図である。
【図5】アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。
【図6】キャリブレーションの概要を示す図である。
【図7】第1の実施形態における基地局装置100が備える受信に係る構成の一例を示す図である。
【図8】同実施形態における基地局装置100が備える送信に係る構成の一例を示す図である。
【図9】同実施形態におけるアップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理を示すフローチャートである。
【図10】同実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理を示すフローチャートである。
【図11】同実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の長時間平均化処理を示すフローチャートである。
【図12】同実施形態におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。
【図13】同実施形態の基地局装置100における送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。
【図14】同実施形態における基地局装置100の送信処理を示すフローチャートである。
【図15】同実施形態における基地局装置100の受信処理を示すフローチャートである。
【図16】第2の実施形態における基地局装置200が備える受信に係る構成の一例を示す図である。
【図17】同実施形態におけるアップリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。
【図18】第3の実施形態における基地局装置300が備える受信に係る構成の一例を示す図である。
【図19】従来技術における無線中継システムの概要を示す図である。
【図20】従来技術における分散アンテナシステムの概要を示す図である。
【図21】従来技術におけるチャネルフィードバックの処理を示すフローチャートである。
【図22】従来技術における無線通信装置のダウンリンクに係る構成の一例を示す概略ブロック図である。
【図23】従来技術における無線通信装置による送信処理の一例を示すフローチャートである。
【図24】従来技術における無線通信装置のアップリンクに係る構成の一例を示す概略ブロック図である。
【図25】従来技術における無線通信装置による受信処理の一例を示すフローチャートである。
【図26】フェーズドアレーアンテナの原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
[本発明の動作原理について]
本発明の本質は、基地局装置が、基地局装置に備えられている多数の無線モジュールと、端末装置との間のチャネルの特性を示すチャネル情報の推定値を長時間に渡って測定し、チャネル情報の推定値の平均値に基づいて送信ウエイト及び受信ウエイトを算出することにある。これにより、基地局装置は、多数の無線モジュールと端末装置との間のチャネルに生じる時変動の影響を低減しながら、コヒーレント伝送による回線利得の向上を図ることができる。
本発明では、各無線モジュールと端末装置との見通しが必ずしも確保できている必要はないが、無線モジュールと端末装置とは比較的高所に固定されていることが推奨される。この場合、各無線モジュールと端末装置との間の伝送路(チャネル)は、「直接的な見通し波」と、固定的な巨大な建築物等による「安定した反射波」と、地上(低所)付近の車や人などの「移動を伴う物体からの多重反射波」とが混在したものとみなすことができる。この場合、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とは、「移動を伴う物体からの多重反射波」に比べ、受信レベルが相対的に高く、更に時変動が小さい。一方、「移動を伴う物体からの多重反射波」は、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とに比べ、受信レベルが低く、時変動が大きく激しい。
【0072】
何らかのチャネル推定用の信号(以降、「トレーニング信号」と呼ぶ)を連続的、又は間欠的に長時間に渡り送信し、受信側では受信した信号を長時間に渡り平均すると、その結果、「移動を伴う物体からの多重反射波」の信号は、そのランダム性故に複素位相及び振幅の変動の平均値はゼロに近づく。一方で、「直接的な見通し波」及び「安定的な反射波」に関する成分は非ゼロの一定値に収束する。結果的に、時変動成分が相対的に小さな安定したパスに相当するチャネル推定結果が抽出されることになる。
【0073】
なお、従来技術におけるコヒーレント伝送の説明においては「無線モジュール」とは「中継局」又は分散アンテナシステムにおける「リモート基地局」であった。これらは、当然ながら従来技術における制御局ないしは基地局から物理的に離れた場所に位置していた。分散アンテナシステムを例にとれば、複数のセルの中心にリモート基地局が位置する形態であるし、無線を用いた中継局であれば、無線を用いる必要があるほどには離れていることになる。しかし、本発明で意図する個別の無線モジュールからの信号の(送信及び受信の両方に対しての)同位相合成においては、必ずしも無線モジュールをリモート基地局や中継局のように遠くまで離す必要はない。
また、各無線モジュールのアンテナ素子とアンテナ素子の間隔が、通信の搬送波周波数の波長よりも小さくなると、アンテナ素子間の相互結合により想定している信号の同位相合成が乱される可能性があるが、1波長以上の間隔がアンテナ素子相互に確保されていれば、この問題は回避できる。
【0074】
つまり、本発明においては1波長以上の間隔が相互に確保された多数のアンテナ素子が、ひとつの基地局装置に接続された構成が基本となる。当然ながら、各アンテナ素子から送受信される信号は送受信ウエイトの係数が異なるため、アンテナ素子ごとに、ハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯におけるRF(Radio Frequency:無線周波数)回路が個別に設けられると共に、接続されており、これらがひとつの無線モジュールを構成する。
これまでの説明においては、各無線モジュールが物理的に制御局などと異なる場所に離散的に配置されていたために、アンテナ素子とほぼ一体型の無線モジュールを意図して「無線モジュール」という用語で様々な説明を行っていたが、本発明においては制御局と多数の無線モジュールが1箇所に集約され、一般的にはひとつの基地局装置という形態が自然であるため、その実現の構成によっては「無線モジュール」という表現が適切でない場合がありうる。
【0075】
例えば、機能的にはベースバンド信号処理等の制御局に相当する機能と複数のハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯でのRF回路の機能がひとつの筐体内に実装され、その筐体と多数のアンテナ素子間を同軸ケーブルで接続する構成を想定するならば、送受信時のアンプ、フィルタ系での振幅/複素位相の変動に対する補正を行うことを考慮した上で、「端末装置と無線モジュール間のチャネル情報」という表現は実質的には「端末装置のアンテナ素子と無線モジュールのアンテナ素子間のチャネル情報」と表現されることが多い。したがって、以降、チャネルの説明においては無線モジュールという用語の代わりにアンテナ素子という用語を用いて説明することにする。
【0076】
(無線通信システムの設置例と基本原理)
図1は、本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例を示す図である。同図において、符号11は基地局装置が設置されている建築物を示し、符号12−1〜12−2は端末装置を示し、符号13−1〜13−4は基地局装置が備えているアンテナ素子を示し、符号14−1〜14−3は地上の移動体を示し、符号15−1〜15−2は大型の建築物(当然、静止状態)を示している。
【0077】
ここで、基地局装置が備えるアンテナ素子13−1〜13−4は、建築物11の屋上などに設置されていたりして、非常に高所に設置されている。端末装置12−1〜12−2は、電信柱などの上や、一般のビルの屋上など、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4よりは相対的に低所であるかも知れないが、比較的高所に設置されている。一方、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4や、端末装置12−1〜12−2よりも比較的低所に位置する場所には、地上の移動体14−1〜14−3である車に加え、人や風に揺れる樹木など、ランダムに変動する反射波の起点(反射点)が多数存在する。
【0078】
例えば、端末装置12−1と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、見通し環境(図中、太い実線の矢印で直接波を表示)にある。一方、端末装置12−2と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、大型の建築物15−2の遮蔽により見通し環境にはないが、大型の建築物15−1などの反射体があり、安定した反射波(図中、太い実線の矢印で表示)が到達している。
【0079】
また、見通し環境の端末装置12−1にとって、見通し波以外に大型の建築物による安定的な反射波が存在し、常にそれらが合成されて信号が到達する状況であるかもしれない。このような太い実線の矢印で表した信号を安定的な入射波とみなす。一方、地上の移動体14−1〜14−3等からの反射波は、多数回のランダムな多重反射として到達する信号が多く、相対的に受信される信号のレベルは低く、更に複素位相成分及び振幅は時間と共にランダムに変動する。
多数の微弱かつランダムな波を合成すると、その結果得られる信号は、安定的な入射波に対して相対的に信号強度が小さい。したがって、「安定的な入射波」に「ランダムな多重反射波」を合成して得られる「時変動する入射波」は、「安定的な入射波」の周りに微小な誤差が加わった信号と見ることができる。
【0080】
次に、このような状況において、基地局装置が行う信号の合成について説明する。
図2は、本発明に係る基地局装置が行う信号合成の動作例を示す図である。ここでは、一例として、図1における端末装置12−1から送信された信号を、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4にて受信した際に、適切な受信ウエイトを用いて合成する場合を示している。
基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4では、「時変動する入射波」を受信している。これらを合成する際に用いる受信ウエイトは、「安定的な入射波」を基準にして、各アンテナ素子での信号が同位相合成されるように定められている。図2において点線で示した信号は、「安定的な入射波」に対して受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子13−1〜13−4で位相が同位相に揃えられた信号である。
【0081】
実際の「時変動する入射波」に受信ウエイトを乗算した信号、即ち図2における細い実線で示した「時変動する入射波」は、点線で示した「安定的な入射波」から微小にずれているため厳密には各アンテナ素子で同位相合成とはなっていないが、「時変動する入射波」は「安定的な入射波」に近い振る舞いを示すため、多数のアンテナ素子の信号を「安定的な入射波」を基準にして設定した受信ウエイトを用いて合成すると、太い灰色の実線で示した大きな振幅の合成された信号となる。つまり、基地局装置で用いるアンテナ素子の数を膨大な数に増やせば、統計的な効果として各アンテナ素子の「安定的な入射波」成分は同位相合成され、「ランダムな多重反射波」は相互に打ち消しあうために、「安定的な入射波」に対して時変動成分は相対的に非常に小さなレベルに抑えられる。
このように本発明のポイントは、リアルタイムのチャネル情報を用いて厳密な同位相合成を目指す代わりに、厳密な送受信ウエイトからは若干の誤差を伴う送受信ウエイトであったとしてもある程度の誤差以内に抑えられる送受信ウエイトを用い、多数のアンテナ素子を用いて合成することで統計的な効果により安定的かつ高い回線利得を引き出す準最適な同位相合成を目指す点にある。
【0082】
なお、この「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成は、送信時に用いる送信ウエイトと受信時に用いる受信ウエイトの双方において同様に利用することができる。基地局装置で用いる送受信ウエイトはチャネル推定結果に基づき算出されるものであるが、そのチャネル推定は基地局装置が送信するトレーニング信号を端末装置側で受信して行っても、端末装置が送信する信号を基地局装置で受信してチャネル推定しても構わない。一般的に、ダウンリンクとアップリンクのチャネル情報は送信/受信に用いるアンプ/フィルタ等が異なるために非対称であるが、アップリンクのチャネル推定結果とダウンリンクのチャネル推定結果には所定の換算式が成り立ち、後述するキャリブレーション処理を用いれば、端末装置が送信したトレーニング信号を基地局装置の全てのアンテナ素子で同時に受信し、その結果を用いたチャネル推定によりアップリンクのチャネル情報を取得し、これに所定の換算式を適用することでダウンリンク方向のチャネル情報を取得することが可能である。
【0083】
(チャネル推定の平均化処理について)
本発明に係る基地局装置は、「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成を行うための送受信ウエイトを用いることが特徴であるが、この「安定的な入射波」に対応したチャネル推定の概要について、ここで説明しておく。
先ほども説明した通り、基地局装置は、移動体において反射しランダムに変動する多重反射波の影響を取り除くことで「安定的な入射波」に関する成分を抽出する。基地局装置は、多数のアンテナ素子による統計的な効果を得る前段として、各アンテナ素子においても「安定的な入射波」に関する成分を抽出するために、基地局装置の各アンテナ素子と端末装置のアンテナ素子との間の個々のチャネルのチャネル推定を長時間に渡り実施し、その結果を平均化することで「安定的な入射波」に対応したチャネル情報を取得する。
【0084】
その具体的な取得方法を説明する前に、まず、図1における車等の移動体14−1〜14−3において反射する反射の影響について考える。これらの移動体からの反射波の状況は、移動体の位置があまり変位しない短時間ではそれ程大きくは変動しないが、これらの移動体が物理的に異なる位置に移動すれば反射波の影響は全く異なるものになることが予想される。つまり、移動体において反射しランダムな多重反射の状況がそれ程大きく変動しない短時間の間でチャネル情報の平均化処理を行ったとしても、ランダムな反射波の基になる移動体が大きく移動した際には、また別のチャネル状態になっていることが予想される。
【0085】
図3は、チャネル推定の概要を示す図である。ここでは、チャネル情報の推定結果をI/Q複素平面上での点に対応したベクトルとして示している。同図において、符号16は「安定的な入射波」に対応した長時間平均のチャネル情報の推定値に対応するベクトルを示している。符号17−1〜17−4は比較的短時間のチャネル推定結果を用いて平均化したチャネル情報に対応するベクトルを示している。符号18は時変動により発生するチャネル推定誤差の範囲を示している。
【0086】
同図において、例えば、チャネル情報17−2と、チャネル情報17−4とは、円状に分布する時変動により発生するチャネル推定値の誤差範囲18において、両端に位置する関係であり、そのふたつのベクトルの相対的な差(誤差)が大きい。しかし、多数の平均化されたチャネル情報17−1〜17−4をさらに平均化すれば、チャネル推定誤差18の円の中心に相当する「安定的な入射波」に対応した長時間平均のチャネル推定値16に対応するチャネル情報を取得することが可能になる。これにより、瞬時瞬時のチャネル推定値との誤差を相対的に小さく抑えることができる。
更に、実際の誤差の分布は、チャネル推定誤差の範囲18の円内に一様に分布するのではなく、平均値である長時間平均のチャネル推定値16の近傍ほど分布の密度が高いと推定される。したがって、長時間平均のチャネル推定値16に近づけるためには、移動体の配置の相関が少なくなる離散的な時間で多数回行ったチャネル推定により得られたチャネル情報を平均化することが好ましい。
【0087】
次に、この長時間平均のチャネル情報の求め方について、注意すべき点を中心に説明する。一般に、基地局装置のクロック信号と、端末装置のクロック信号とは完全に同期が取れておらず、ある程度の周波数誤差が存在する。例えば、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式やSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization:周波数領域等化シングルキャリア)伝送技術のようなブロック伝送を行う場合には、1シンボルのシンボル周期(ないしはブロック周期)は少しずつシンボルタイミングが基地局装置と端末装置との間でずれることになり、このシンボルタイミングのずれは全周波数で共通の複素位相の回転として表れる。なお、基地局装置のクロック信号、及び端末装置のクロック信号は、A/D変換や、D/A変換を行う際のサンプリング周期を定めるクロック信号のことである。
【0088】
同様の複素位相の回転という課題は、ベースバンド信号と無線周波数信号との間のアップコンバート、ダウンコンバートで用いるローカル発振器が出力する局部発振信号の基地局装置と端末装置との間の非同期性や周波数誤差によっても問題となる。
送信と受信との間が非同期で周波数誤差が伴う場合、仮に空間上のチャネル情報に時変動がない場合でも、異なる時刻に測定するチャネル情報は、その時間差と周波数誤差とに依存する形で複素位相成分が変動する。
【0089】
これは、例えば、受信側のダウンコンバート処理でミキサにおいて乗算するローカル発振器から入力される局部発振信号の初期複素位相を通信の都度、毎回一致させることができないことに起因する。通信における信号検出処理では、トレーニング信号でチャネル推定を行う際に、その初期複素位相の影響まで含めた結果としてのチャネル情報を取得するため、トレーニング信号に後続する信号の信号検出処理において問題となることはない。しかし、離散時間で平均化する際には、仮にチャネル情報に時変動がなくてもこの初期複素位相の不確定性により時変動があったように見えてしまうために問題となる。
【0090】
しかし、受信時の同位相合成を実現するための送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に必要となるチャネル情報は、伝送路の特性を示すチャネル情報の複素位相を含む絶対的な値そのものではなく、アンテナ素子ごとのチャネル情報における複素位相の相対的な関係さえ分かれば十分なのである。したがって、離散的な時刻に測定したチャネル推定結果を平均化する際には、基地局装置の複数のアンテナ素子から基準となるアンテナ素子を1つ設定し、そのアンテナ素子で推定されたチャネル情報の複素位相成分だけ、各アンテナ素子におけるチャネル情報の複素位相成分にオフセットを付加すれば良い。
【0091】
具体的には、基地局装置がK個のアンテナ素子を備えている場合、アンテナ素子#k(k=1,…,K)で観測されたチャネル情報がA・Exp(φj)であるとする。ここでjは虚数単位を表し、Aはアンテナ素子#kのチャネル情報の振幅成分を表し、φはアンテナ素子#kのチャネル情報の複素位相を表す。
このとき、アンテナ素子#1の複素位相φを用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φのオフセットを加えると、オフセットによる補正後のアンテナ素子#kのチャネル情報としてA・Exp{(φ−φ)j}が得られる。空間上のチャネル情報が不変であるならば、この補正後のチャネル情報は基地局装置と端末装置とのクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差の影響(すなわち複素位相の初期位相の不確定性の影響)を受けない。以降の説明では、この初期位相の不確定性除去のための補正後のチャネル情報を「(チャネル情報の)相対成分」と呼ぶことにする。
【0092】
したがって、チャネル情報の平均化を行う際には、このような補正を行い、複素位相成分の不確定性を排除した上で平均化を実施する必要がある。その他、この平均化を行う上で、本発明における課題の(課題1)で示した回線利得が大幅に不足する領域では、チャネル推定により取得したチャネル情報の平均化を行う以前に、その基になる情報の取得が困難な場合があることに注意しなければならない。このような状況では、何らかのチャネル推定用のトレーニング信号を受信したとしても、一般にはその信号の受信を検知することができない。OFDM変調方式の場合を例にとれば、OFDMシンボルタイミングの検出ができないことを意味し、当然ながらガードインターバルの除去もできなければFFTを実施することもできない。以下に、このような低SNR環境におけるチャネル推定の平均化処理の方法と具体的なトレーニング信号の例を示す。
【0093】
(本発明におけるトレーニング信号の例)
図4は、本発明におけるトレーニング信号の例を示す図である。同図において符号1−1〜1−3は一般的なOFDMシンボルを示し、符号2−1〜2−3はガードインターバルを含まない有効な信号領域を示し、符号3−1〜3−3は本発明におけるトレーニング信号を示し、符号4−1〜4−3は信号の末尾領域を示し、符号5−1〜5−3はガードインターバルを示し、符号6−1〜6−3は実際のチャネル推定に用いる信号周期を示している。なお、OFDM信号は、複数のサブキャリア成分を含むが、本図ではあるサブキャリアひとつを抜き出して正弦波として図示している。
【0094】
従来のOFDM信号であれば、OFDMシンボル(1−1〜1−3)周期の信号は、実際のデータとして有効な信号領域(2−1〜2−3)を生成し、この信号の末尾領域(4−1〜4−3)を信号の先頭領域にガードインターバル(5−1〜5−3)としてコピーして貼り付け、全体のOFDMシンボル(1−1〜1−3)を生成していた。通常の通信においては、ガードインターバルを取り除いた有効な信号領域(2−1〜2−3)の先頭部分のタイミングをタイミング検出により抽出し、そのタイミングを起点とした場合の複素位相に関する情報をチャネル推定では取得する。
【0095】
しかし、本発明の送受信ウエイトの算出においては各アンテナ素子の相対的な位相関係を取得できれば十分であるために、正確な初期複素位相の把握までは不要であり、OFDMシンボルの先頭のような適切なタイミングを起点とする必要はない。したがって、ガードインターバルを設定したOFDM信号である必要はなく、OFDMシンボルの有効な信号領域(2−1〜2−3)を取り出して連続させた信号であるトレーニング信号(3−1〜3−3)を多数回繰り返し送信すれば良い。ここで各区間は連続的につながっているために、この複数の周期に亘るトレーニング信号においては実質的にはシンボルタイミングというものは意味を成さない。受信側では、受信したトレーニング信号(3−1〜3−3)に対して任意の開始タイミング、例えば実際のチャネル推定に用いる信号周期(6−1〜6−3)で信号を切り取り、区間6−1、区間6−2、区間6−3の信号に対して加算処理を行えばよい。
【0096】
(基地局装置と端末装置とのローカル発振器周波数誤差の補償)
なお、このトレーニング信号を用いたチャネル平均化においては、複数の連続する区間6−1、区間6−2、区間6−3の比較的短時間平均を行うことになるが、この「比較的短時間」の定量的な意味は、基地局装置と端末装置との間のクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差に依存する影響(厳密には、下記に示す周波数誤差補償処理後に残る、残留周波数誤差の影響)を無視できる範囲での平均化を意味する。
例えば、中心周波数が2.4[GHz]の局部発振信号において、ローカル発振器の周波数誤差が1p.p.m.である場合、局部発振信号の周波数誤差の最大値は2.4[kHz]である。つまり、416μ秒で位相が2π回転してしまう誤差である。このとき、平均化を行う時間長の中で周波数誤差に伴う複素位相の回転が1周期(2π)の1/10以内に抑えたいと考えるならば、平均化に使える時間長は約40μ秒となる。
しかし、広域をサービスエリアにするWiMAXの例を見れば、長遅延波の影響を排除するための1シンボル周期は約100μ秒に設定されており、平均化処理を行う時間としては十分ではない。これらの問題を解決するために、ここでは周波数誤差を補償するための以下の補正処理を行う。
【0097】
一般的には周波数誤差補正はAFC(Automatic Frequency Control)と呼ばれる信号処理で対処可能である。今回のトレーニング信号のように同一の信号が繰り返し受信される状況であれば、一般には1周期分だけシフトした信号を乗算することで周波数誤差成分を抽出することが可能である。このAFC処理を適用して周波数誤差を抽出し、その周波数誤差をキャンセルする補正を行うことが可能である。しかし、受信信号が低SNRである場合、AFC処理を適用して隣接するシンボルから周波数誤差を抽出しようとしても、ノイズに埋もれて誤った周波数誤差を抽出してしまう可能性がある。したがって、AFC処理も、もともとの信号のSNRを改善可能な時間長に亘り実施する必要がある。
【0098】
例えば、時刻tにおけるサンプリングデータをS(t)と表し、周波数誤差をΔfと表すと、時刻tにおける複素位相の回転量は2πΔf・tとなる。そこで、サンプリングデータS(t)に対して理想的に周波数補償すると、周波数補償されたサンプリングデータは、S(t)・Exp(−2πjΔf・t)となる。
また、サンプリング周期をΔtと表し、1シンボルの周期をTとすると、1周期のデータ数はN=T/Δtで与えられる。このとき、時刻t=m’・Δtとし、更に、mとMとをm=mod(m’,N)、M=Int(m’/N)とすれば、サンプリングデータS(t)を離散的な時刻により定められる数列{S(M)}と表記できる。ここで、関数「mod」は、m’をNで除算した際の余りを求める関数である。また、関数「Int」は、m’をNで除算した際の商(整数部)を求める関数である。
更に、サンプリングデータS(t)を理想的に周波数補償した数列を{S(M)・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}と表記できる。ここで、全体としてM0シンボル周期のサンプリングを行なうものとする。
【0099】
周波数補償した数列{S(M)・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}を、mごとに多数のMでの加算したサンプリングデータ〜Sは次式(1)で表される。ここで、式(1)において、「〜(チルダ)」が上に付されたSを「〜S」と表記する。以下、数式等において、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。また、「Exp(X)」は自然対数の底eのX乗を示す関数である。
【0100】
【数3】

【0101】
AFC処理によりSNRを改善するには、式(1)で表される〜Sの振幅を最大にするΔfを求めればよい。そこで、次式(2)で表される評価関数G(Δf)を定める。
【0102】
【数4】

【0103】
式(2)における^S(M,M’)は、次式(3)で表される。
【0104】
【数5】

【0105】
評価関数G(Δf)を最大にするΔfを求めれば良いので、次式(4)で表される条件式が求まる。
【0106】
【数6】

【0107】
条件式(4)を満たす実数Δfを数値的に求めれば、基地局装置と端末装置との間の周波数誤差が算出され、このΔfを用いて式(1)で与えられる1周期分の加算・平均化されたサンプリングデータを用い、チャネル推定を行えばよい。OFDM変調方式であれば、この1周期のサンプリングデータを基にFFT処理により、各サブキャリア成分のチャネル情報を算出する。
【0108】
なお、必ずしも式(4)を用いなくても、Δfのとりうる範囲が限定されているならば、その範囲内の適当な刻み幅でΔfを設定し、それらのΔfに対して式(2)を算出して最大値を与えるΔfを検索しても良い。この場合、先ほど例示したのと同様に使用する中心周波数が仮に2.4GHzで周波数誤差が1p.p.m.であるならば、Δfの範囲は−2.4kHzから+2.4kHz以内となる。この刻み幅の最適値は求められる精度に応じて変わるが、例えば、10Hz刻みでΔfを設定し式(2)を算出するならば、式(2)を最大にする真のΔfに対して±5Hz以内の残留周波数誤差の範囲でΔfを検索することが可能である。つまり、周波数誤差は5Hz以内に抑えられ、M0周期の平均化を行う際の時間長(M0×T)を5m秒程度と想定しても、平均化を行う期間内の位相の誤差は2πの1/40(角度は9度)以内に収まる。平均化の期間中に位相は定常的に回転することを考慮すれば、運用上、支障のない程度の精度でチャネル情報を算出することが可能である。これは逆にいえば、平均化を行う期間内の位相の誤差を所定の値に抑えられる範囲で、M0周期の平均化を行う際の時間長(つまりM0の値)が制限されることになる。
【0109】
(基地局装置と端末装置とのシンボルタイミング誤差)
以上は基地局装置と端末装置との間の局部発振信号の周波数誤差に伴う補正の説明である。一般には上述の周波数誤差の補償において、クロック信号の周波数誤差も合わせて補償されるため、これ以上の補償処理は必要ないが、クロック信号の周波数誤差についても簡単に説明を加えておく。
【0110】
広域の無線アクセスシステムの規格として普及しているWiMAXの場合を例にとるならば、1シンボルは約100μ秒であり、FFTのポイント数(近似的にはサブキャリア数)が1024とすれば、最も周波数の高いサブキャリアの周期は約0.1μ秒程度になる。同様に、WiFi(登録商標)を想定するならば、1シンボルは4μ秒であり、そこに64ポイントFFTを想定すると、最も周波数の高いサブキャリアの周期は約0.06μ秒となる。シンボルタイミングの誤差の累積値はこれらの周期に対して十分小さく設定されることが好ましい。そのため、例えば、チャネル情報の平均化を行う測定時間を5m秒とするならば、1p.p.m.の周波数誤差による累積時間誤差は0.005μ秒となり、WiMAXやWiFiの最も周波数の高いサブキャリアの周期よりも一桁以上小さな誤差に抑えられている。
WiMAX(登録商標)の例では、チャネル情報の平均化を行う測定時間を5m秒とした場合にこの時間長はシンボル周期の50倍の時間長となるので、十分に加算・平均化により信号のSNRを改善することが可能になり、取得した情報を用いて更に離散時間で平均化することにより、移動体からのランダムな多重反射波の影響も除去できる。
【0111】
このように、平均化処理を行う際には、連続する比較的短い時間スケールでの平均化と離散時間のチャネル推定結果での平均化を2段階で行う。なお、比較的短い時間スケールでの平均化を行う際の時間長は上述の制限を受けることに注意を要する。また、離散時間のチャネル推定結果においては、上述のようにアンテナ素子#1の複素位相φを用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φのオフセットを加えることで、初期複素位相の不確定性の問題は回避できる。
【0112】
(アンプの個体差による影響(キャリブレーション)について)
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があると共に、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。
同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があると共に、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。
【0113】
特に、ハイパワーアンプ及びローノイズアンプの増幅率及び位相回転量には、周波数依存性がある。周波数依存性の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。
【0114】
以下の実施形態における基地局装置では、アップリンクのチャネル推定結果に長時間平均を行ったチャネル情報を用いて、送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する。先の説明においても、実際にはハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
【0115】
図5は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号25−1〜25−3は無線モジュールを示し、符号21−1〜21−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号22−1〜22−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号23−1〜23−3は時分割スイッチ(TDD−SW)を示し、符号24−1〜24−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、基地局装置においてチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略したが、無線モジュール25−1〜25−3にはその他の機能も含まれる。また、信号がハイパワーアンプ21−1〜21−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(f)、ZHPA#2(f)、ZHPA#3(f)変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ22−1〜22−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(f)、ZLNA#2(f)、ZLNA#3(f)変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(f)」の表記を行っている。
【0116】
ここで、例えば、無線モジュール25−1及び無線モジュール25−2から試験用の無線モジュール25−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール25−1のアンテナ素子24−1と、無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh(f)で表され、無線モジュール25−2のアンテナ素子24−2と無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh(f)で表されている。
【0117】
このとき、実際に無線モジュール25−1から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh(f)にハイパワーアンプ21−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(f)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(f)が乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh(f)にハイパワーアンプ21−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(f)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(f)が乗算された値として観測される。
【0118】
したがって、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#1(f)・h(f)・ZLNA#3(f)で表される。また、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#2(f)・h(f)・ZLNA#3(f)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h(f)とh2(f)の差に加えて、相対的にZHPA#2(f)/ZHPA#1(f)の差が発生する。
【0119】
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh(f)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(f)と、ローノイズアンプ22−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(f)とが乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh(f)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(f)と、ローノイズアンプ22−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(f)とが乗算された値として観測される。
【0120】
したがって、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネルは、ZHPA#3(f)・h(f)・ZLNA#1(f)で表される。また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネルは、ZHPA#3(f)・h(f)・ZLNA#2(f)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h(f)とh2(f)の差に加えて、相対的にZLNA#2(f)/ZLNA#1(f)の差が発生する。
【0121】
上述したように、実施形態における基地局装置は、受信したトレーニング信号に対して長時間平均をとることにより、各アンテナ素子に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報をアップリンクにて取得可能である。
しかし、基地局装置はダウンリンクにおけるチャネル情報を直接求めることができない。そこで、アップリンクのチャネル情報から換算することで、ダウンリンクのチャネル情報を取得する。この換算のためには、各アンテナ素子24−1〜24−3に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3及びハイパワーアンプ21−1〜21−3の個体差の影響をキャンセルする必要がある。
【0122】
そこで、基地局装置の製造段階において、リファレンスとなる試験用の無線モジュール25−3を用意し、試験用の無線モジュール25−3のアンテナ端子と、無線モジュール25−1、25−2のアンテナ端子とを直接ケーブルで接続し、伝搬路上のチャネル情報が共通の値となる環境で、ハイパワーアンプ21−1〜21−3及びローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報を測定し、測定したチャネル情報を用いて補正を行う。
【0123】
図6は、キャリブレーションの概要を示す図である。同図において、符号26−1〜26−3はアンテナ端子を示し、符号27は同軸ケーブルを示している。なお、図5に示した機能部と同じ機能部には同じ符号を付している。
図6(A)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−1とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図6(B)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−2とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図5が実際の空間上を信号が伝搬した状態を示しているのに対して、図6がアンテナ素子を介さずに同軸ケーブル上を信号が伝搬した状態を示している。
【0124】
無線モジュール25−1、25−2と、無線モジュール25−3とを接続する伝搬路としての同軸ケーブル27のチャネル情報は、h(f)である。
このとき、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#1(f)・h(f)・ZLNA#3(f)で表される。無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#2(f)・h(f)・ZLNA#3(f)で表される。
また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報は、ZHPA#3(f)・h(f)・ZLNA#1(f)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報は、ZHPA#3(f)・h(f)・ZLNA#2(f)で表される。
【0125】
そこで、これらのチャネル情報を測定した後に、次式(5)及び式(6)で表されるキャリブレーション係数C(f)、C(f)を算出しておく。
【0126】
【数7】

【0127】
【数8】

【0128】
先ほど、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報はZHPA#3(f)・h(f)・ZLNA#1(f)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報はZHPA#3・(f)・h(f)・ZLNA#2(f)で表されると説明した。これらに式(5)及び式(6)のキャリブレーション係数C(f)、C(f)を乗算すると次式(7)及び式(8)が得られる。
【0129】
【数9】

【0130】
【数10】

【0131】
式(7)及び式(8)の右辺は、先ほど説明した、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報、及び、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報に一致している。
このように、式(5)及び式(6)に相当するキャリブレーション係数を基地局装置の製造段階において取得しておき、これらを基地局装置内に記憶しておくことにより、これらのキャリブレーショ係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出することができる。
【0132】
なお、以下の実施形態では、これらのキャリブレーション係数を予め取得し、その値をデジタル信号処理上で利用する場合の説明を中心に行うが、当然ながらアナログ回路上において、これらのキャリブレーション係数が全てほぼ一定の値(複素位相が一定値であれば、絶対値そのものには差があっても構わない)となるように基地局装置内で調整を行っていれば、全てのキャリブレーション係数が1であるとみなした処理に読み替えることも可能である。同様に、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整されている場合にも、結果的に式(5)および式(6)で示されるキャリブレーション係数の複素位相が全てのアンテナ素子でほぼ一定値になるため、同様の効果を得ることができる。
以上の動作原理のもと、具体的な実施形態について以下に説明を行う。
【0133】
(第1の実施形態)
本発明に係る第1の実施形態では、複数のアンテナ素子を備える基地局装置と、基地局装置と通信をする少なくとも1つの端末装置を具備する無線通信システムを例にして説明を行う。以下、基地局装置における受信(アップリンク)に係る構成と、送信(ダウンリンク)に係る構成とに分けて説明する。
【0134】
図7は、第1の実施形態における基地局装置100が備える受信に係る構成の一例を示す図である。同図に示すように、基地局装置100は、アンテナ素子101−1〜101−K、TDDスイッチ102−1〜102−K、ローノイズアンプ(LNA)103−1〜103−K、ローカル発振器104、ミキサ105−1〜105−K、フィルタ106−1〜106−K、A/D変換器107−1〜107−K、受信信号処理回路108、通信制御回路109、及び送受信ウエイト算出部120を備えている。なお、アンテナ素子101−1〜101−Kは、図1におけるアンテナ素子13−1〜13−4に対応する。
送受信ウエイト算出部120は、チャネル情報短時間平均回路121、相対成分取得回路122、チャネル情報長時間平均回路123、受信ウエイト算出回路124、受信ウエイト記憶回路125、キャリブレーション回路126、送信ウエイト算出回路127、送信ウエイト記憶回路128、及びキャリブレーション係数記憶回路129を有している。
【0135】
本実施形態の基地局装置100には、K個のアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応する、TDDスイッチ102−1〜102−KからA/D変換器107−1〜107−KまでのRF回路が並列に設けられている。また、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定するために、送受信で同一のアンテナ素子101−1〜101−Kを用いている。TDDスイッチ102−1〜102−Kが送信信号と受信信号との流れを切り替えている。
【0136】
TDDスイッチ102−1〜102−Kは、アンテナ素子101−1〜102−Kを介して受信した信号をローノイズアンプ103−1〜103−Kに出力する。ローノイズアンプ103−1〜103−Kは、TDDスイッチ102−1〜102−Kから出力される信号を増幅して、ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ローカル発振器104は、予め定められた周波数を有する局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を各ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ここで、各ミキサ105−1〜105−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ105−1〜105−Kに入力される。
【0137】
ミキサ105−1〜105−Kは、ローノイズアンプ103−1〜103−Kから入力された信号に対し、ローカル発振器104から入力される局部発振信号を乗算してダウンコンバートしてフィルタ106−1〜106−Kに出力する。フィルタ106−1〜106−Kは、ミキサ105−1〜105−Kがダウンコンバートした信号に含まれる受信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、A/D変換器107−1〜107−Kに出力する。
【0138】
A/D変換器107−1〜107−Kは、フィルタ106−1〜106−Kから入力される信号をデジタル化する。A/D変換器107−1〜107−Kは、通信制御回路109の制御に応じて、入力される信号が通常のデータ通信信号を含む信号であれば、当該信号を受信信号処理回路108に出力し、入力される信号が通常のデータ通信信号とは異なるチャネル推定用のトレーニング信号であれば、当該信号を送受信ウエイト算出部120に出力する。A/D変換器107−1〜107−Kに入力される信号がデータ通信信号を含む信号であるか、トレーニング信号であるかの判定は、通信制御回路109が行う。
【0139】
受信信号処理回路108は、通信制御回路109から入力される受信タイミングに基づいて、A/D変換器107−1〜107−Kから入力される信号に対してシンボルごとのサンプリングデータへの区分けと、ガードインターバルの除去とを行い、FFTにより各周波数成分に分離する。受信信号処理回路108は、各周波数成分に分離した信号に対して、送信元の端末装置に対応する受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125から読み出し、周波数成分ごとに受信ウエイトを乗算する。受信信号処理回路108は、周波数成分ごとに、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応し受信ウエイトを乗算した信号を加算合成し、加算合成した信号に対して信号検出処理を行う。
【0140】
具体的には、受信信号処理回路108は、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、加算合成された信号に対してサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEが用いられている場合、加算合成された各周波数成分の信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。ここでの復調処理には、加算合成等の信号処理が施された後の信号に対するチャネル推定を含み、ここで推定されたチャネル情報をもとに信号検出処理が行なわれる。更に、必要に応じて誤り訂正の復号処理を施し、MACレイヤ上での信号処理の後、データを出力する。MACレイヤ上での信号処理などは、公知の技術を用いた処理と同じであるので、ここでは説明を省略する。
【0141】
受信信号処理回路108が信号処理を行う際、送信元の端末装置ごとに異なる受信ウエイトを用いる必要がある。通信制御回路109は、一連の通信に係る制御全般を管理するが、特に、どのタイミングでどの端末装置からの信号を受信するか、どの受信ウエイトを用いるのかを管理する。そのため、本実施形態における基地局装置100と端末装置との間のアクセス制御は、基地局装置100の集中制御により管理している。
【0142】
なお、補足であるが、通信制御回路109は、自装置(基地局装置100)と端末装置との間の大まかなタイミングの同期に関して、GPS等を用いた絶対的な時刻・タイミングの同期を用いるようにしてもよい。
また、絶対的な時刻の同期の他にも、基地局装置100と端末装置との間の大まかな距離が分かっていれば、その距離に相当する伝搬遅延を端末装置に事前に設定しておき、端末装置は、基地局装置100のタイミングの基準となる信号の受信時刻に対し、所定のオフセットとして伝搬遅延を減算した時間にアップリンクの信号を送信開始するようにしてもよい。
【0143】
具体的には、時分割多元接続(Time Division Multiple Access:TDMA)を用いたアクセス制御の例を用いれば、端末装置は、TDMAフレーム先頭のプリアンブル等のタイミング検出により得られるフレームタイミングを基準とし、フレーム内のスロット割当ての内容を把握して通信の動作を行う。通常であれば、アップリンクのタイムスロットのタイミングで信号を送信するが、いわゆるタイム・アライメントと呼ばれる制御では、伝搬遅延を見込んでその遅延分だけ端末が自らの認識しているタイミングに対して先行した時間のタイミングで信号の送信を開始し、結果的に基地局装置100にその信号が到着する時刻を、基地局が認識しているタイミング通りになるように調整する。
【0144】
この際に必要となる調整量は、実際の信号は基地局装置100から端末装置、更に基地局装置100へと往復することになるため、端末装置は伝搬遅延の2倍の時間だけ前倒しで送信を開始することになる。なお、このタイミングの調整は必ずしも端末装置で行わなくてもよく、基地局装置100が自装置と端末装置との距離ないしはその距離に相当する伝搬遅延を把握することができれば、基地局装置100において信号が受信される時刻をその時間分(伝搬遅延の2倍)だけ後ろ倒しに調整することで、タイミング調整を行うことも可能である。
このように、GPSを用いた絶対時刻の同期ないしはタイム・アライメント制御等のいずれかの手段で把握したタイミングで基地局装置100は受信処理を開始し、シンボルタイミングも既知として処理を行うことが可能である。これらのタイミング制御、アクセス制御、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切替え、受信ウエイトを読み出すときにおける送信元である端末装置情報の提供など、これらを合わせて全て通信制御回路109が制御・管理を行う。
【0145】
チャネル情報短時間平均回路121は、A/D変換器107−1〜107−Kから入力される信号から通信制御回路109の指示に従いトレーニング信号を抽出し、短時間平均化処理を行い、アップリンクのチャネル情報を取得する。相対成分取得回路122は、例えばアンテナ素子101−1の複素位相を基準とし、各アンテナ素子101−1〜101−Kぞれぞれのチャネル情報のアンテナ素子101−1との相対成分を取得する。チャネル情報長時間平均回路123は、アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、相対成分取得回路122が取得した離散的な時刻に取得された複数回分の相対成分から平均値を算出する長時間平均化処理を行い、算出した平均値をチャネル情報として出力する。
受信ウエイト算出回路124は、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に基づいて、受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125に出力する。受信ウエイト記憶回路125は、受信ウエイト算出回路124が算出した受信ウエイトを記憶する。
【0146】
キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に予め定められたキャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得する。送信ウエイト算出回路127は、キャリブレーション回路126が取得したダウンリンクのチャネル情報に基づいて、送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128に出力する。送信ウエイト記憶回路128は、送信ウエイト算出回路127が算出した送信ウエイトを記憶する。なお、送信ウエイト記憶回路128は、基地局装置100が備えるアップリンクに係る構成の一部にもなっている。
【0147】
なお、送受信ウエイト算出部120にて行うチャネル情報の推定に係わる一連の処理、及びそれに後続する送受信ウエイトの算出とその記憶等の一連の処理は、全て各周波数成分毎に行なわれる。つまり、式(2)または式(4)を用いて行なう周波数誤差を推定した後は、周波数誤差を補正した式(1)で与えられる短時間平均化後の各mに対するサンプリングデータ〜Sに対してFFT処理を行ない、各周波数成分に分離することでアップリンクの短時間平均化されたチャネル情報を取得した後、それをもとに各周波数成分に対して一連の処理を行なう。
【0148】
図8は、本実施形態における基地局装置100が備える送信に係る構成の一例を示す図である。同図に示すように、基地局装置100は、図7に示した構成に加えて、送信信号処理回路141、D/A変換器142−1〜142−K、ローカル発振器143、ミキサ144−1〜144−K、フィルタ145−1〜145−K、及びハイパワーアンプ146−1〜146−Kを更に備えている。ここで、アンテナ素子101−1〜101−K、TDDスイッチ102−1〜102−K、通信制御回路109、及び送信ウエイト記憶回路128は、アップリンクに係る構成(受信側)とで共通に用いられる。実際には、基地局装置100において、アップリンクに係る構成と、ダウンリンクに係る構成とが一体となって動作するものであるが、説明の都合上、分けて説明をしている。
【0149】
送信信号処理回路141は、送信すべきデータが入力されると、OFDM(A)変調方式又はSC−FDEにおける所定の送信処理を実行する。
送信信号処理回路141は、基地局装置100においてOFDM(A)変調方式が用いられる場合、サブキャリアごとの信号の変調処理を行う。送信信号処理回路141は、送信ウエイト記憶回路128に記憶されている送信ウエイトのうち、宛先の端末装置に対応した送信ウエイトを読み出し、変調処理を行ったサブキャリアごとの信号に対し、読み出した送信ウエイトをサブキャリアごとに乗算する。
また、送信信号処理回路141は、基地局装置100においてSC−FDEが用いられる場合、シングルキャリアの変調処理が施された信号を、送信信号のブロック単位でFFTにより各周波数成分に分離する。送信信号処理回路141は、送信ウエイト記憶回路128に記憶されている送信ウエイトのうち、宛先の端末装置に対応した送信ウエイトを読み出し、周波数成分に分離した信号に対し、読み出した送信ウエイトを周波数成分ごとに乗算する。
また、送信信号処理回路141は、OFDM(A)変調方式及びSC−FDEのいずれが用いられる場合においても、送信ウエイトを乗算したアンテナ素子毎の各周波数成分の信号にIFFT処理を施し、周波数軸上から時間軸上の信号に変換し、更にガードインターバルを付与し、送信すべきデジタル・ベースバンド信号を生成する。なお、デジタル・ベースバンド信号は、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応し、個別に信号処理される。
【0150】
D/A変換器142−1〜142−Kは、送信信号処理回路141が生成したベースバンド信号をアナログ信号に変換しミキサ144−1〜144−Kに出力する。
ローカル発振器143は、アップコンバートに用いられる局部発振信号であって所定の周波数を有する局部発振信号をミキサ144−1〜144−Kに出力する。
ミキサ144−1〜144−Kは、D/A変換器142−1〜142−Kから入力されるアナログ信号に対し、ローカル発振器143から入力される局部発振信号を乗算して無線周波数にアップコンバートした信号をフィルタ145−1〜145−Kに出力する。なお、ミキサ144−1〜144−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ144−1〜144−Kに入力される。
【0151】
フィルタ145−1〜145−Kは、ミキサ144−1〜144−Kから入力される信号に含まれ送信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、ハイパワーアンプ146−1〜146−Kに出力する。
ハイパワーアンプ146−1〜146−Kは、フィルタ145−1〜145−Kから入力される信号を増幅し、TDDスイッチ102−1〜102−Kを介してアンテナ素子101−1〜101−Kより送信する。
通信制御回路109は、更に、送信タイミングや、宛先の端末装置の管理、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切替えの制御を行う。
【0152】
(チャネル推定から送受信ウエイトの算出処理)
以下、図9から図13を用いて、本実施形態の基地局装置100におけるチャネル推定から送信ウエイト及び受信ウエイトの算出までの処理を説明する。これらの一連処理は、端末装置と通信を開始する前に行うことが基本であるが、一旦、これらの処理を行った上で、逐次学習を行いながらチャネル情報の精度の向上、すなわち送信ウエイト及び受信ウエイトの精度の向上を図ることも可能である。
また、基地局装置100は、ブロードバンドサービスの中で利用されることを想定し、ある程度の帯域幅で通信を行う場合を対象とした。このため、OFDM変調方式(OFDMAを含む)や、SC−FDE等の通信方式が用いられることを想定し、ブロック単位で各周波数成分を分離して信号処理をする説明を行っている。
【0153】
アップリンクのチャネル推定においては、例えば、図4に示したようなトレーニング信号を端末装置から連続的に送信し、それを基地局装置100が受信し、比較的短い時間での平均化処理(図9)を行う。更に、基地局装置100において、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの相対的なチャネル情報の差を示す相対成分を取得し(図10)、長時間での平均化処理(図11)を行う3段階の信号処理を行う。
このようにして求めたアップリンクのチャネル情報に対し、キャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得し(図12)、アップリンク及びダウンリンクのチャネル情報に基づいて送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する(図13)。
以下、各処理を説明する。
【0154】
図9は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理を示すフローチャートである。
基地局装置100において、チャネル情報短時間平均回路121は、端末装置から短時間平均化用のチャネル推定のトレーニング信号の受信が開始されると(ステップS101)、サンプリングのカウンタとしてのm及びMをゼロにリセットする(ステップS102)。ここで、カウンタとは、式(1)におけるm、Mのことであり、第Mシンボルの第mサンプルの意味である。チャネル情報短時間平均回路121は、A/D変換器107−1〜107−Kから入力されるトレーニング信号に対してサンプリングを行い、サンプリングした信号をS(M)とする(ステップS103)。
【0155】
チャネル情報短時間平均回路121は、サンプリング周期Δtが経過するたびに、カウンタmに「1」を加算し(ステップS104)、カウンタmがデータ数Nと一致した(m=N)か否かを判定し(ステップS105)、カウンタmがデータ数Nと一致していない(m≠N)場合(ステップS105:No)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S105を繰り返す。ここで、データ数Nは、1シンボル当たりのサンプル数であり、予め定められた値である。
一方、カウンタmがデータ数Nと一致した場合(ステップS105:Yes)、チャネル情報短時間平均回路121は、1シンボル分のサンプリングが完了したとみなし、次のシンボルをサンプリングするために、カウンタmに0を代入し、カウンタMに「1」を加算する(ステップS106)。
【0156】
チャネル情報短時間平均回路121は、カウンタMが所定の値(式(1)のM0)に達したか否かに応じてサンプリング終了か否かを判定し(ステップS107)、一続きのサンプリングが完了していない場合(ステップS107:No)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S106の処理を繰り返して行う。ここで、一続きのサンプリングは、予め定められたシンボル数M0のサンプリングのことである。
一方、一続きのサンプリングが完了した場合(ステップS107:Yes)、チャネル情報短時間平均回路121は、式(3)を用いて^S(M,M’)を算出し(ステップS108)、式(4)の解ないしは式(2)を最大にする周波数誤差Δfを算出する(ステップS109)。
【0157】
チャネル情報短時間平均回路121は、算出した周波数誤差Δfを用い、式(1)から複数周期に亘り加算平均化されたサンプリングデータ〜Sを算出する(ステップS110)。
チャネル情報短時間平均回路121は、短時間平均されたサンプリングデータ〜Sに対してFFTを行い、各周波数成分の情報を算出し(ステップS111)、短時間平均化の処理を終了する(ステップS112)。
なお、周波数誤差Δfが無視可能なほどに小さいことが事前に分かっている場合(設計上、この様な設定となっている場合)、ないしは短時間平均化を行う時間(T×M0)が十分に短く設定されている場合には、周波数誤差Δfの補正に相当する処理S108およびS109を省略し、Δf=0として処理S110を直接実施することも可能である。
チャネル情報短時間平均回路121は、アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、上述の短時間平均化の処理を行い、各アンテナ素子101−1〜101−Kで受信した信号に含まれる異なる周期を有する各周波数成分のトレーニング信号をFFTにて周波数成分毎に分離し、分離したトレーニング信号から各アンテナ素子101−1〜101−Kと端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得する。
【0158】
図10は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理を示すフローチャートである。相対成分取得回路122は、チャネル情報短時間平均回路121が第1のアンテナ素子101−1から第Kのアンテナ素子101−Kそれぞれに対応する信号に対して短時間平均化処理を終了すると(ステップS121−1〜S121−K)、短時間平均化処理が終了した各アンテナ素子101−1〜101−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h(k),…,^h(k)がチャネル情報短時間平均回路121から入力される(ステップS122−1〜122−K)。
【0159】
相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子101−1におけるチャネル情報(^h(k))と、その複素共役(^h(k)とから、オフセット値e−jφ(=(^h(k)/‖^h(k)‖)を算出する(ステップS123)。ここで「‖x‖」は、xの絶対値を表す。
相対成分取得回路122は、算出したオフセット値e−jφを各アンテナ素子101−1〜101−Kに対応する第k周波数成分^h(k)、…、^h(k)に乗算し(ステップS124−1〜S124−K)、相対的な複素位相関係を示すチャネル情報〜h(k),…〜h(k)を求め、処理を終了する(ステップS125−1〜S125−K)。
上述のように、相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子101−1のチャネル情報を基準として、各アンテナ素子101−1〜101−Kの相対的なチャネル情報〜h(k),…〜h(k)を算出する。なお、相対成分取得回路122は、全ての周波数成分ごとに上記のステップS121−1〜ステップS125−Kまでの処理を行い、全ての周波数成分における短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h(k),…,〜h(k)を算出する。
【0160】
図11は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の長時間平均化処理を示すフローチャートである。上述の図9及び図8の各処理は、連続又は離散的な時間で複数回実施され、各処理において算出された短時間平均のチャネル情報を基に、長時間平均のチャネル情報を算出する。
チャネル情報長時間平均回路123は、1回目からQ回目の短時間平均化処理(相対成分取得を含む)が完了すると(ステップS131−1〜131−Q)、相対成分取得回路122から短時間平均のチャネル情報〜h(k)[q],…〜h(k)[q](q=1,…,Q)が入力される(ステップS132−1〜S132−Q)。ここで、短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h(k)[q]は、q回目に算出された第1のアンテナ素子101−1の第k周波数成分に対するチャネル情報である。なお、長時間平均化処理の対象になる回数Qは、無線通信システムを運用する環境などに基づいて予め定められる。
チャネル情報長時間平均回路123は、次式(9)を用いて、長時間平均のチャネル情報h(k)(i=1,…,K)を算出する(ステップS133)。
【0161】
【数11】

【0162】
チャネル情報長時間平均回路123は、各アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、各周波数成分のチャネル情報それぞれを平均化した長時間平均のチャネル情報h(k)を算出すると、長時間平均化処理を終了する(ステップS134)。
以上の処理により、アップリンクのチャネル情報が直接的に取得できる。また、本実施形態では、相対成分取得処理(図10)を行っているので、1回目からQ回目までの各短時間平均処理における位相のずれの影響を受けることなく長時間平均のチャネル情報を算出することができる。
【0163】
図12は、本実施形態におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。基地局装置100は、基地局装置100から端末装置へのダウンリンクに関しては、アップリンクのように直接的にチャネル情報を取得することが困難なので、アップリンクのチャネル情報を基にダウンリンクのチャネル情報を推定する。
【0164】
基地局装置100において、キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123からアップリンクのチャネル情報h(k)が入力され(ステップS142)、入力されたチャネル情報h(k)に対する第iのアンテナ素子101−iにおける第k周波数成分に対応するキャリブレーション係数C(k)をキャリブレーション係数記憶回路129から読み出す(ステップS143)。
キャリブレーション回路126は、入力されたチャネル情報h(k)と、読み出したキャリブレーション係数C(k)とを乗算し(ステップS144)、乗算結果をダウンリンクのチャネル情報として、処理を終了する(ステップS145)。
キャリブレーション回路126は、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに上述のステップS142からステップS144の処理を行う。
【0165】
図13は、本実施形態の基地局装置100における送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。アップリンクにおけるチャネル情報に対する受信ウエイトと、ダウンリンクにおけるチャネル情報に対する送信ウエイトとが同等であるので、ここでは、ダウンリンクにおける送信ウエイトを算出する処理について説明し、アップリンクにおける受信ウエイトを算出する処理の説明を省略する。
【0166】
送信ウエイト算出回路127は、処理を開始すると(ステップS151)、第iのアンテナ素子101−iにおける第k周波数成分のチャネル情報h(k)がキャリブレーション回路126から入力される(ステップS152)。
送信ウエイト算出回路127は、入力されたチャネル情報h(k)の複素共役(h(k)を算出し、算出した複素共役(h(k)をチャネル情報h(k)の絶対値で除算した値を送信ウエイトw(k)にする(ステップS153)。すなわち、送信ウエイト算出回路127は、次式(10)を用いて、送信ウエイトw(k)を算出する。
【0167】
【数12】

【0168】
送信ウエイト算出回路127は、算出した送信ウエイトw(k)を送信ウエイト記憶回路128に記憶させ(ステップS154)、処理を終了する(ステップS155)。
送信ウエイト算出回路127は、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに上述のステップS152からステップS153の処理を行う。
なお、受信ウエイト算出回路124は、送信ウエイト算出回路127と同様の演算により、チャネル情報長時間平均回路123から入力されるチャネル情報h(k)から受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125に記憶させる。
なお、一般に複数のアンテナで受信した場合の信号合成のためのウエイトとしては、フェージング等の影響によりアンテナ毎の信号の受信レベルに大きな差が見られる場合があり、その場合には受信レベルの低いアンテナ素子の受信信号の雑音の影響を抑制するために、以下に示す最大比合成のウエイトを用いることが多い。したがって、本実施形態では式(10)の代わりに、以下に示す式(11)を用いることも可能である。
【0169】
【数13】

【0170】
式(10)と式(11)の二つのウエイトの違いは、第iアンテナ素子の係数の大きさ(絶対値)がアンテナ素子毎に微妙に異なるか同一であるかの差であり、式(11)では相対的に雑音のレベルが高い(すなわち受信レベルの低い)信号の重みを軽くする効果を取り込んでいる。しかし、長時間平均化されたチャネル情報との乗算後には共に複素位相がゼロないし一定値となるように調整されている点では両者は共通している。広義の意味では式(11)も同位相合成のウエイトの一種と言える。本実施形態では、この様に長時間平均化されたチャネル情報との乗算後に複素位相がゼロないし一定値となるウエイトであればその他のウエイトを用いても同様の効果を得ることができる。
【0171】
一般には、送信ウエイトとしては式(10)のウエイトを、受信ウエイトとしては式(11)のウエイトを用いるのが好ましい。なお、本実施形態では基地局と端末局の間の見通しが確保できるように設置されることが推奨されるので、非常に多くの多重反射波が存在するマルチパス環境とは異なり見通し波が支配的な環境であるため、アンテナ素子毎の受信レベルの差は比較的つきにくい。この結果、式(11)で求めたウエイトは、実効的には式(10)と等価なウエイトとなる。
なお、送受信ウエイトは、各アンテナ毎のウエイトの値を各要素の成分として構成されるベクトル(ウエイトベクトル)の示す方向が実効的な意味を持つ。このため、あるウエイトベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、各アンテナ素子毎に一定の係数が乗算されたウエイトベクトルは乗算される係数に依存せずにすべて等価である。つまり、式(10)や式(11)で与えられる各ベクトルの成分全体に共通の係数が乗算されたウエイトは、全て本発明におけるウエイトと等価なものである。
【0172】
図9から図13に示した上述の処理を事前に実施し、そこで得られた送信ウエイト及び受信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128及び受信ウエイト記憶回路125に記憶させておく。なお、図9及び図10に示した処理は、通信開始後も適当な周期で通信を一時的に休止させて実行することが可能である。そこで得られた短時間平均のチャネル情報を用いて図11〜図13に示した処理を行い、逐次、送信ウエイト及び受信ウエイトを更新するようにしてもよい。
【0173】
(送受信信号処理)
次に、基地局装置100における信号の送受信処理について図を参照して説明する。
図14は、本実施形態における基地局装置100の送信処理を示すフローチャートである。先にも触れたが、ここではOFDM(OFDMA)変調方式ないしはSC−FDEを用いている場合について説明する。
基地局装置100において、送信処理が開始されると(ステップS161)、送信信号処理回路141は、各周波数成分の送信信号の生成を行う(ステップS162)。
【0174】
具体的には、OFDM(OFDMA)変調方式を用いている場合、送信信号処理回路141は、MACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与等を施し、サブキャリアごとにビットを分けて所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等を行う。SC−FDEを用いている場合、送信信号処理回路141は、OFDM(OFDMA)変調方式と同様にMACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与等を施し、所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等のシングルキャリアの送信信号処理を行い、周波数軸上の等化処理を行うためにブロック単位でFFTを実施し、送信信号の各周波数成分を生成する。
無線パケットが複数シンボルまたは複数ブロックにわたる場合には、OFDMシンボルやSC−FDEのブロック単位での処理がシンボル数ないしブロック数分だけ引き続き実施されることで無線パケット全体の送信信号処理が実施される。
【0175】
送信信号処理回路141は、宛先の端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの周波数成分ごとの送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128から読み出す(ステップS163−1〜S163−K)。
送信信号処理回路141は、各アンテナ素子101−1〜101−Kで送信する送信信号ごとに、ステップS162において生成した各周波数成分に分離した送信信号と、送信に用いるアンテナ素子に対応した各周波数成分の送信ウエイトとを乗算する(ステップS164−1〜164−K)。
【0176】
送信信号処理回路141は、各アンテナ素子101−1〜101−Kで送信する送信信号ごとに、送信ウエイトを乗算した各周波数成分の送信信号に対する信号合成としてIFFT処理を実施し、更にガードインターバルの付与などの様々な信号処理を行い(ステップS165−1〜165−K)、各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して送信し(ステップS166−1〜166−K)、送信処理を終了する(ステップS167−1〜S167−K)。
【0177】
なお、ステップS165−1〜165−Kにおける処理では、D/A変換器142−1〜142−KによるサンプリングデータのD/A変換や、ミキサ144−1〜144−Kによる無線周波数へのアップコンバート、フィルタ145−1〜145−Kによる帯域外信号の除去、ハイパワーアンプ146−1〜146−Kによる送信信号の増幅など、無線通信において行われる各種処理を含む。
【0178】
このようにして送信された信号は、各端末装置のアンテナ素子において、基地局装置100のアンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が、周波数成分ごとにほぼ同位相で受信されることになる。端末装置において受信された信号は、特に基地局装置100が行う各種信号処理を意識することなく受信できる通常の信号として処理することが可能である。
【0179】
図15は、本実施形態における基地局装置100の受信処理を示すフローチャートである。端末装置が送信する信号は、本実施形態における基地局装置100が実施する各種信号処理を意識することなく、通常の信号として信号を送信する。
【0180】
基地局装置100において、アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信された受信信号は、ローノイズアンプ103−1〜103−K、ミキサ105−1〜105−K、フィルタ106−1〜106−K、A/D変換器107−1〜107−K、及び受信信号処理回路108により所定の受信信号処理が行われる(ステップS171−1〜S171−K)。
ここで、所定の受信信号処理とは、ローノイズアンプ103−1〜103−Kによる受信信号の増幅と、ミキサ105−1〜105−Kによる無線周波数からベースバンド周波数への周波数変換と、フィルタ106−1〜106−Kによる帯域外信号の除去と、A/D変換器107−1〜107−Kによるサンプリング、受信信号処理回路108によるシンボルタイミングの推定とシンボルごとのサンプリングデータの区分け、ガードインターバルの除去等を含む。
【0181】
なお、シンボルタイミングに関しては、各アンテナ素子101−1〜101−Kでの受信信号の受信レベルが非常に微弱な場合には、受信信号からタイミング検出を行うのは困難な場合がある。この場合には、例えばGPSを用いた絶対的な時間同期の他に、周期的なフレーム構成を用いて、直前のフレームタイミング検出用の信号などで得られたタイミングを基準にして、後続するフレームの受信タイミングを推定するなど、如何なる同期手段を用いて受信信号の受信タイミング及びシンボルタイミングを決定するようにしてもよい。このとき、端末装置は送信タイミングを決定する際に、同期された受信タイミングを基準として基地局からの指示等に従い所定のタイミングで信号を送信すればよい。
【0182】
受信信号処理回路108は、シンボルタイミングごとに切り出しガードインターバルを除去した受信信号を、FFTにより周波数成分ごとに分離する(ステップS172−1〜S172−K)。
受信信号処理回路108は、送信元の端末装置に対応したアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分の受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125から読み出し(ステップS173−1〜173−K)、読み出した受信ウエイトと、周波数成分ごとに分離した受信信号とを乗算する(ステップS174−1〜S174−K)。
【0183】
受信信号処理回路108は、周波数成分ごとに、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応する受信ウエイトを乗算した受信信号を加算合成し(ステップS175)、合成した受信信号に対して受信信号処理を実施し(ステップS176)、処理を終了する(ステップS177)。
ここで、ステップS176の受信信号処理とは、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、サブキャリアごとの復調処理を意味し、SC−FDEが用いられている場合、各周波数成分の受信信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対するシングルキャリアの復調処理を意味する。更には、必要に応じて誤り訂正の復号処理などを実施してもよい。当然ながら、MACレイヤ等の信号処理も行われるが、公知の技術による処理と変わらないためここでは省略する。
【0184】
上述のように、本実施形態の無線通信システムでは、基地局装置100及び端末装置が双方共に比較的高所に設置され、この結果として見通し波ないしは固定的な巨大な建築物等からの安定的な反射波が基地局及び端末装置間で期待される環境で、見通し波及び安定した反射波の合成により与えられる安定した入射波成分に対応するチャネル情報を取得する。基地局装置100は、取得したチャネル情報に基づいて、送信ウエイト及び受信ウエイトを生成し、このウエイトを用いることで基地局装置及び端末装置における信号の同位相合成を実現する。
【0185】
また、基地局装置100におけるチャネル情報の取得では、短時間平均を行うことでチャネル推定の推定精度を向上している。更に、アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信する離散した時刻の複数の受信信号を合成することにより、各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信する受信信号におけるランダムな時変動成分の安定的な成分に対する相対的な比率を統計的に抑圧することができ、時変動の影響を低減させることができる。
【0186】
これにより、端末装置とアンテナ素子101−1〜101−Kとの間のチャネル情報の取得が困難なほどに、各アンテナ素子101−1〜101−Kによる回線利得が不足する環境であっても、各アンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が端末装置において同位相合成される送信ウエイトを算出することができる。また、基地局装置100において、各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信した受信信号を同位相合成できる受信ウエイトを算出することができる。これは、例えば長距離伝送を行う場合に関しては、1つのアンテナ素子101と端末装置との間のリンクの回線設計において、チャネル推定における推定精度に影響を与える回線のSNR値が非常に低い場合であっても、送信ウエイト及び受信ウエイトを決定することが可能となる。
【0187】
また、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に係わるチャネル情報のフィードバックにおいて、リアルタイムのチャネル情報のフィードバックを頻繁に行う場合には問題となるチャネル推定のためのオーバーヘッドによる伝送効率の低下を回避することができる。実際、サービス開始前に長時間平均化チャネル情報を取得しておけば、データ通信を行うサービス中にはチャネル情報フィードバックを一切行わなくても運用可能である。更には従来であれば逐次行われていた送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に伴う演算の負荷も、無線通信システムの運用開始時に1回だけ算出すれば良くなるため、通常運用時の負荷の低減を図ることも可能である。これらの送信ウエイト及び受信ウエイトの算出は、リアルタイム処理が前提の従来技術では短時間での演算処理完了が求められる場合が多く、ハードウエア規模の増大にもつながるものであったが、基地局装置100によれば無線通信システムの運用開始時に時間をかけて演算処理を行えば良くなるために、演算処理時間の遅いソフトウエア処理であっても対処可能になり、全体的なハードウエア規模を低減するといった副次的な効果も得ることができるようになる。
【0188】
このように、上述の送信ウエイト及び受信ウエイトを利用してK個のアンテナ素子(無線モジュール)を用いて送受信を行うことで、総送信電力が一定の条件下において最大で10Log10K[dB]の回線利得を得ることが可能となる。この結果、総送信電力を抑えた省エネ効果や、高出力の高価な線形性の高い高利得アンプの代わりに安価なアンプが利用可能になる経済効果などを得ることができる。
【0189】
(第2の実施形態)
第1の実施形態における基地局装置100では、アップリンクにおけるチャネル情報を取得する際に図9に示した短時間平均処理を実施する構成を説明した。しかし、これは(課題1)への対応を前提とするものであった。例えば、回線設計的にはチャネル推定は実施可能なレベルであるが、より高い伝送レートでの通信のために、回線利得を更に得るための手段として基地局装置100を用いる場合には、必ずしも短時間平均を行う必要はない。この場合、アップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理(図9)は、単に、チャネル推定処理に置き換えることができる。
【0190】
図16は、第2の実施形態における基地局装置200が備える受信に係る構成の一例を示す図である。同図に示すように、基地局装置200において、送受信ウエイト算出部120に対応する送受信ウエイト算出部220は、チャネル情報短時間平均回路121をチャネル推定回路221に置き換えた構成となっている。なお、基地局装置200において、基地局装置100と同じ機能部には同じ符号を付して、その説明を省略する。
チャネル推定回路221は、公知の技術を用いて、A/D変換器107−1〜107−Kから入力される信号に基づいてアップリンクのチャネル情報を取得する。
なお、基地局装置200におけるダウンリンクに係る構成(送信側)は、第1の実施形態の基地局装置100と同じ構成であるので、その説明を省略する。
【0191】
図17は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。
基地局装置200において、チャネル推定回路221は、アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信された受信信号が入力されると(ステップS201)、サンプリングのカウンタとしてのmにゼロを代入してリセットする(ステップS202)。ここでのカウンタとは、OFDMシンボルの第mサンプルの意味である。
チャネル推定回路221は、入力された信号に対してサンプリングを行い、この信号をサンプリングデータSとし(ステップS203)、カウンタmに「1」を加算し(ステップS204)、カウンタmとサンプル数Nとが一致しているか否かを判定する(ステップS205)。ここで、Nは1シンボルのサンプル数であり、予め定められた値である。
【0192】
カウンタmとサンプル数Nとが一致していない場合(ステップS205:No)、チャネル推定回路221は、ステップS203に処理を戻し、ステップS203〜S205を繰り返す。一方、カウンタmとサンプル数Nとが一致している場合(ステップS205:Yes)、チャネル推定回路221は、1シンボル分のサンプリング完了とみなし、FFTにより各周波数成分のチャネル情報を取得し(ステップS206)、処理を終了する(ステップS207)。
【0193】
なお、ここまではトレーニング信号として図4に相当する信号を想定した説明を行なってきたが、本実施形態ではガードインターバルを伴う通常のOFDMシンボルの信号を用いることも可能であり、この場合には取得するサンプル数はガードインターバル分を含めた数になりNよりも大きな数になる。この場合、図17のフローチャートはガードインターバルに相当するサンプルを除く信号に対する処理に相当し、ガードインターバルを除去した後のサンプリング信号に対しステップS206の処理を行うことになる。
また、複数シンボルのトレーニング信号を利用し、図17の信号処理を複数回実施し、実施後の各周波数成分ごとのチャネル推定結果を平均化し、チャネル推定精度を高めても構わない。同様に、複数シンボルのトレーニング信号に対し、図9のステップS108およびステップS109を省略した処理と同様に、複数シンボルでサンプリングデータを時間軸上で平均化したのちにFFTにより各周波数成分のチャネル情報を取得するステップS206を実施する構成としても構わない。
【0194】
第2の実施形態では、元々チャネル推定精度が高いために、多数のシンボル数での平均化処理は必要なく、結果的に少ないシンボル数での平均化処理が可能となるために、周波数誤差Δfの影響は無視できるようになり、周波数誤差を補償する図9のステップS108およびステップS109は省略することも可能となる。
【0195】
なお、チャネル推定回路221は、各アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、上述の処理を実施する。また、本実施形態において、相対成分取得回路122は、チャネル推定回路221が各アンテナ素子101−1〜101−Kごとの各周波数成分のチャネル情報を取得すると、相対成分取得処理(図10)を開始する。
【0196】
なお、回線設計的にはチャネル推定が実施可能なレベルである場合、受信信号処理回路108において、アップリンクの受信レベルがタイミング検出できるレベルであることが予想され、この場合、通信制御回路109が全てのタイミング管理を行う必要はなく、信号の受信検出に合わせて一連の受信信号処理を実施するようにしてもよい。この変更により、必ずしも基地局装置200による集中制御は必須ではなくなり、アクセス制御としては基地局集中制御型TDMA方式以外にも、自律分散型の例えばCSMA(Carrier Sense Multiple Access:搬送波感知多重アクセス)方式を用いることも可能である。
【0197】
(第3の実施形態)
第1の実施形態における基地局装置100では、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出する際に、式(5)及び式(6)に示したキャリブレーション係数を用いる構成を説明した。しかし、先にも説明したが、ローノイズアンプ103−1〜103−K、フィルタ106−1〜106−K、ハイパワーアンプ146−1〜146−K、フィルタ145−1〜145−Kなどにおける周波数成分ごとの複素位相の回転量のアップリンクとダウンリンクの間の相対値(複素位相の角度差)が全てのアンテナ素子に対応する回路で一定値になるようにアナログ的な信号処理で調整を行ってある場合(例えば、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整していても良い)、キャリブレーション係数を用いた処理を行なう必要はない。この場合、ダウンリンクのチャネル情報を取得する処理(図12)は、省略することができ、上りリンクのチャネル情報とダウンリンクのチャネル情報とが等価になるので、送信ウエイトと受信ウエイトとは共通の値になる。
【0198】
第3の実施形態における基地局装置は、ローノイズアンプ103−1〜103−Kからフィルタ106−1〜106−Kまでの受信に係る構成における周波数成分ごとの複素位相の回転量と、ミキサ144−1〜144−Kからハイパワーアンプ146−1〜146−Kまでの送信に係る構成における周波数成分ごとの複素位相の回転量の角度差が同じになるようにアナログ的な信号処理で調整してある場合に適した構成である。
【0199】
図18は、第3の実施形態における基地局装置300が備える受信に係る構成の一例を示す図である。同図に示すように、基地局装置300において、送受信ウエイト算出部120に対応する送受信ウエイト算出部320は、キャリブレーション回路126、及びキャリブレーション係数記憶回路129を省いた構成となっている。
また、送受信ウエイト算出部320は、基地局装置100が備えている送信ウエイト算出回路127及び送信ウエイト記憶回路128と、受信ウエイト算出回路124及び受信ウエイト記憶回路125とを送受信で共用化した送受信ウエイト算出回路324及び送受信ウエイト記憶回路325を備えている。
【0200】
送受信ウエイト算出回路324は、受信ウエイト算出回路124と同様に、チャネル情報長時間平均回路123が取得したチャネル情報に基づいて、送受信ウエイトを算出し、算出した送受信ウエイトを送受信ウエイト記憶回路325に記憶させる。
なお、基地局装置300におけるダウンリンクに係る構成(送信側)は、送信信号処理回路141が送受信ウエイト記憶回路325から送受信ウエイトを読み出す点が基地局装置100と異なり、他の構成は同じであるので説明を省略する。
【0201】
また、受信ウエイトとして式(11)に記載の最大比合成のウエイトを用いる場合には、チャネル情報長時間平均化回路までは共通化可能であるが、送受信ウエイト算出回路324、送受信ウエイト記憶回路325は送信と受信で異なるものが必要となるため、図16のキャリブレーション係数記憶回路129、キャリブレーション回路126を省略した構成に相当する。
【0202】
なお、図中のローノイズアンプ103−1〜103−K、フィルタ106−1〜106−K(および図示されていないハイパワーアンプ146−1〜146−K、フィルタ145−1〜145−Kも同様)などについては、周波数成分ごとの複素位相の回転量を調整するためにアナログ的な調整が必要となるが、いずれかの箇所にこれらの回路を含むものとしてローノイズアンプ103−1〜103−K、フィルタ106−1〜106−K、ハイパワーアンプ146−1〜146−K、フィルタ145−1〜145−Kと表記しているものとする。
【0203】
また、本実施形態における基地局装置300では、送受信ウエイト算出回路324及び送受信ウエイト記憶回路325が、送信ウエイトと受信ウエイトとの算出及び記憶を行う構成について示した。しかし、これに限ることなく、第1の実施形態における基地局装置100と同じ構成において、キャリブレーション係数をアンテナ素子及び周波数成分の全ての組合せにおいて「1」とみなして送信ウエイトを算出するようにしてもよい。
【0204】
なお、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイトは共通の端末装置に対する送受信ウエイトを用いていた。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる端末装置への割当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書中ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で送信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、従来のSC−FDEと何ら変更点はないために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。
【0205】
更に、本発明における図9から図11で示したチャネル情報の取得処理において、それらの処理を開始するための指示等の各種制御情報の基地局装置と端末装置の間の交換処理は如何なる方法で実現しても構わない。これらの処理は基本的にはサービス運用開始前に行なうものであり、その場合には適切な送受信ウエイトが当初は未知であるために、基地局装置と端末装置の間で十分な回線利得が確保できない状況で各種制御が行われることが想定される。しかし、サービス運用開始前であれば、例えば作業員が端末装置の設置作業において手動で処理開始の指示を行なうことも可能であるし、一時的に他の無線規格を利用して制御を行っても構わない。したがって、チャネル情報の取得処理を開始するための指示等の各種制御処理方法に係わりなく、本発明を実施することは可能である。
【0206】
また、ダウンリンクのチャネル情報の取得方法としては、本明細書で示したアップリンクのチャネル情報を利用する方法の他に、従来技術の図21(A)の直接的な方法で示した様に、ダウンリンクで直接トレーニング信号を送信し、そのトレーニング信号を受信した端末装置が取得したチャネル情報をフィードバックする形で基地局装置に設定する方法も考えられる。この場合、図4で示したトレーニング信号を、基地局装置が備えるアンテナ素子から1本づつ順番に送信し、図9から図11で示した処理と同様の処理を端末装置側で実施し、その結果得られた平均化された各アンテナ素子毎および周波数成分毎のチャネル情報を何らかの方法で基地局にフィードバックして設定し、基地局装置側ではこれを利用して送信ウエイトを算出する構成としても同様の効果を得ることは可能である。ただし、この場合であってもアップリンクのチャネル情報の取得においては各端末装置からのトレーニング信号の送信は必須であり、この点に関しては上述の実施形態と全く同様である。
【0207】
また、例えば式(10)ではチャネル情報h(k)の複素位相を抽出する処理を行なっているが、チャネル情報h(k)の実数部と虚数部の比率から複素位相の角度情報を取得し、その角度情報をもとに式(10)と等価な値を算出することも可能である。これは数式的には異なる処理に見えるが、数学的には全く等価な処理であり、全ての演算処理に対しこの様な数学的に等価な代替の手段で処理を代用することも当然ながら可能である。
【0208】
なお、本発明における基地局装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、送信ウエイト及び受信ウエイト、並びに送受信ウエイトを算出する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウエアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0209】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0210】
1−1、1−2、1−3 OFDMシンボル
2−1、2−2、2−3 有効な信号領域
3−1、3−2、3−3 トレーニング信号
4−1、4−2、4−3 末尾領域
5−1、5−2、5−3 ガードインターバル
6−1、6−26−3 信号周期
11、15−1、15−2、15−3 建築物
12−1、12−2 端末装置
13−1、13−2、13−3、13−4 アンテナ素子
14−1、14−2、14−3 地上の移動体
16 長時間平均のチャネル推定値に対応するベクトル
17−1、17−2、17−3、17−4 短時間平均のチャネル情報に対応するベクトル
18 チャネル推定誤差の範囲
21−1、21−2、21−3 ハイパワーアンプ(HPA)
22−1、22−2、22−3 ローノイズアンプ(LNA)
23−1、23−2、23−3 時分割スイッチ(TDD−SW)
24−1、24−2、24−3 アンテナ素子
25−1、25−2、25−3 無線モジュール
26−1、26−2、26−3 アンテナ端子
27 同軸ケーブル
92 制御局装置
96−1、96−2、96−N 光ファイバ
97、97−1、97−2、97−N 無線モジュール
100、200、300 基地局装置
101、101−1、101−2、101−K、973−1、973−2、973−N、961−1、961−2、961−3、961−4、961−5 アンテナ素子
102−1、102−2、102−K TDDスイッチ
103−1、103−2、103−K、974−1、974−2、974−N ローノイズアンプ(LNA)
104、143、923、933 ローカル発振器
105−1、105−2、105−K、144−1、144−2、144−K、924−1、924−2、924−N、932−1、932−2、932−N ミキサ
106−1、106−2、106−K、145−1、145−2、145−K、925−1、925−2、925−N、934−1、934−2、934−N フィルタ
107−1、107−2、107−K、935−1、935−2、935−N A/D変換器
108、938 受信信号処理回路(受信信号処理部)
109 通信制御回路
120、220、320 送受信ウエイト算出部
121 チャネル情報短時間平均回路(チャネル情報取得部)
122 相対成分取得回路(相対成分取得部)
123 チャネル情報長時間平均回路(チャネル情報平均部)
124、937 受信ウエイト算出回路(受信ウエイト算出部)
125 受信ウエイト記憶回路
126 キャリブレーション回路(ダウンリンクチャネル情報算出部)
127、928 送信ウエイト算出回路(送信ウエイト算出部)
128、929 送信ウエイト記憶回路
129 キャリブレーション係数記憶回路(キャリブレーション係数記憶部)
141、921 送信信号処理回路(送信信号処理部)
142−1、142−2、142−K、922−1、922−2、922−N D/A変換器
146−1、146−2、146−K、972−1、972−2、972−N ハイパワーアンプ(HPA)
221 チャネル推定回路
324 送受信ウエイト算出回路
325 送受信ウエイト記憶回路
901 送信局
902、902−1、902−N 中継局
903 受信局
911−1、911−2、911−3 セル
912−1、912−2、912−3 リモート基地局
913−1、913−2、913−3、913−4、913−5、913−6 端末装置
914 制御局
915 光ファイバ
926−1、926−2、926−N、975−1、975−2、975−N E/O変換器
927 チャネル情報取得回路
936 チャネル情報推定回路
971−1、971−2、971−N、931−1、931−2、931−N O/E変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムにおける基地局装置であって、
前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得部と、
複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得部と、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得部が複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均部と、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、
前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理部と
を備えることを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基地局装置において、
前記端末装置は、複数の周期に亘るトレーニング信号を送信し、
前記チャネル情報取得部は、前記アンテナ素子ごとに、前記トレーニング信号を周期ごとに分離して合成し、合成したトレーニング信号に基づいて前記アップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得する
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の基地局装置において、
前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおけるチャネル情報からダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するキャリブレーション係数を各周波数成分ごとに記憶しているキャリブレーション係数記憶部と、
前記チャネル情報平均部が算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の平均的なチャネル情報ごとに、対応する前記アンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応するキャリブレーション係数を乗じてダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するダウンリンクチャネル情報算出部と、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記ダウンリンクにおけるチャネル情報から送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出部と、
前記端末装置に送信する送信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号ごとに、該信号の周波数成分と該信号を送信する前記アンテナ素子との組合せに対応する前記送信ウエイトを乗じ、送信ウエイトを乗じた周波数成分ごとの信号を時間軸上の信号に変換して前記アンテナ素子それぞれから送信する送信信号処理部と
を更に備えることを特徴とする基地局装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の基地局装置において、
前記受信信号処理部が前記受信信号を周波数成分ごとの信号に分離するFFT処理における、ポイント数をNとし、サンプリング周期をΔtとし、前記受信信号に含まれるシンボルの周期をT(=N×Δt)とし、自装置においてダウンコンバートに用いる第1の局部発振信号と、前記端末装置においてアップコンバートに用いる第2の局部発振信号との周波数誤差をΔfとした場合、
前記チャネル情報取得部は、
前記受信信号から複数のシンボル周期だけ連続したトレーニング信号を抽出し、
前記トレーニング信号に対して前記周期TのM0倍(M0は2以上の整数)の期間に亘ってサンプリングデータを取得し、
前記サンプリングデータにおいて第m’番目のサンプリングデータのm’をポイント数Nで除算した際の剰余mと商Mとを用いてS(M)と表記した場合に、前記サンプリングデータそれぞれに係数Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m])を乗算した値をmの示す値ごとに加算平均化した値である式(A1)で表される値と、該値の複素共役との積の和である式(A2)で表される値を算出し、式(A2)を最大にする周波数誤差Δfを算出し、
【数1】

前記式(A1)に、前記算出した周波数誤差Δfを代入して得られる値に対してFFT処理をして得られた値に基づいて、前記各周波数成分のチャネル情報を算出する
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項5】
請求項3に記載の基地局装置において、
各周波数成分において、アップリンクにおける各チャネル情報と、ダウンリンクにおける各チャネル情報とにおける複素位相の回転量の相対的な関係が前記複数のアンテナ素子間で一定である場合、
前記送信信号処理部は、前記キャリブレーション係数がすべてのアンテナ素子及び周波数成分で1とみなして処理を行う
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項6】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得ステップと、
複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得ステップと、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得ステップにおいて複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均ステップと、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出ステップと、
前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理ステップと
を備えることを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
請求項6に記載の無線通信方法において、
前記端末装置は、複数の周期に亘るトレーニング信号を送信し、
前記チャネル情報取得ステップにおいて、前記アンテナ素子ごとに、前記トレーニング信号を周期ごとに分離して合成し、合成したトレーニング信号に基づいて前記アップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7のいずれかに記載の無線通信方法において、
前記基地局装置は、前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおけるチャネル情報からダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するキャリブレーション係数を各周波数成分ごとに記憶しているキャリブレーション係数記憶部を更に備え、
前記チャネル情報平均ステップにおいて算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の平均的なチャネル情報ごとに、対応する前記アンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応するキャリブレーション係数を乗じてダウンリンクにおけるチャネル情報を算出するダウンリンクチャネル情報算出ステップと、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記ダウンリンクにおけるチャネル情報から送信ウエイトを算出する送信ウエイト算出ステップと、
前記端末装置に送信する送信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号ごとに、該信号の周波数成分と該信号を送信する前記アンテナ素子との組合せに対応する前記送信ウエイトを乗じ、送信ウエイトを乗じた周波数成分ごとの信号を時間軸上の信号に変換して前記アンテナ素子それぞれから送信する送信信号処理ステップと
を更に有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の無線通信方法において、
前記受信信号処理ステップにおいて、前記受信信号を周波数成分ごとの信号に分離するFFT処理における、ポイント数をNとし、サンプリング周期をΔtとし、前記受信信号に含まれるシンボルの周期をT(=N×Δt)とし、自装置においてダウンコンバートに用いる第1の局部発振信号と、前記端末装置においてアップコンバートに用いる第2の局部発振信号との周波数誤差をΔfとした場合、
前記チャネル情報取得ステップでは、
前記受信信号から複数のシンボル周期だけ連続したトレーニング信号を抽出し、
前記トレーニング信号に対して前記周期TのM0倍(M0は2以上の整数)の期間に亘ってサンプリングデータを取得し、
前記サンプリングデータにおいて第m’番目のサンプリングデータのm’をポイント数Nで除算した際の剰余mと商Mとを用いてS(M)と表記した場合に、前記サンプリングデータそれぞれに係数Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m])を乗算した値をmの示す値ごとに加算平均化した値である式(B1)で表される値と、該値の複素共役との積の和である式(B2)で表される値を算出し、式(B2)を最大にする周波数誤差Δfを算出し、
【数2】

前記式(B1)に、前記算出した周波数誤差Δfを代入して得られる値に対してFFT処理をして得られた値に基づいて、前記各周波数成分のチャネル情報を算出する
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項10】
請求項8に記載の無線通信方法において、
各周波数成分において、アップリンクにおける各チャネル情報と、ダウンリンクにおける各チャネル情報とにおける複素位相の回転量の相対的な関係が前記複数のアンテナ素子間で一定である場合、
前記送信信号処理ステップでは、前記キャリブレーション係数がすべてのアンテナ素子及び周波数成分で1とみなして処理を行う
ことを特徴とする無線通信方法。
【請求項11】
複数のアンテナ素子を備えた基地局装置と、該基地局装置と無線通信を行う端末装置を具備する無線通信システムであって、
前記基地局装置は、
前記アンテナ素子ごとに、前記端末装置から受信したトレーニング信号に基づいてアンテナ素子と前記端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得するチャネル情報取得部と、
複数の前記アンテナ素子のうち一つのアンテナ素子に対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相を基準として、他のアンテナ素子それぞれに対応する各周波数成分のチャネル情報の複素位相から前記基準とした各周波数成分のチャネル情報の複素位相を補正した相対的なチャネル情報を算出する相対成分取得部と、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記相対成分取得部が複数回に亘って算出した前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分の相対的なチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値を平均的なチャネル情報として出力するチャネル情報平均部と、
前記アンテナ素子それぞれに対する各周波数成分ごとに、前記平均的なチャネル情報から受信ウエイトを算出する受信ウエイト算出部と、
前記アンテナ素子ごとに、該アンテナ素子を介して前記端末装置から受信した受信信号を周波数成分ごとの信号に分離し、分離した信号それぞれに該信号に対応するアンテナ素子及び周波数成分の組合せに対応する前記受信ウエイトを乗算し、前記受信ウエイトが乗算された信号を全てのアンテナ素子に亘り周波数成分ごとに加算合成して受信処理を行う受信信号処理部と
を備える
ことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2013−55559(P2013−55559A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193254(P2011−193254)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】