説明

基地局装置及びそれを備えた通信システム

【課題】マルチユーザMIMOダウリンク伝送において、基地局側でDPC(Dirty Paper Coding)の原理を用いてユーザ間干渉を除去しながら、通信路容量を確保して、各ユーザに向けてマルチストリームのデータを送信することができる基地局装置及びそれを備えた通信システムを提供する。
【解決手段】基地局10と複数のユーザ端末20−1〜20−Nとの間でマルチユーザMIMO−DPC方式で通信を行う。基地局10は、少なくとも1つのユーザ端末に対してマルチ送信ストリームを送信し、干渉減算部11−1〜11−Nがブロック三角化とDPC伝送方式を用いて前記各ユーザ端末におけるユーザ間干渉を除去する。また、基地局10の送信ウェイト部13は、全システムのキャパシティーレートが上がるように前記各ユーザの送信ウェイトの選択を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
OFDM変復調方式では、各サブキャリア通信路はフラットレイリーフェージングとなる。本発明は、フラットレイリーフェージングにおいて、マルチユーザMIMOダウンリンクにおけるユーザ間の干渉分離を行う基地局装置及びそれを備えた通信システムに関するものである。基地局アンテナ数を増やすことによって、周波数帯域幅、変調多値数を増加させることなく無線伝送速度を向上させることが可能である。また、ユーザ端末では、信号を検出、復号するときの計算量が軽減できるため、簡易な受信機構成で実現でき、優れたビット誤り率特性を実現する。
【背景技術】
【0002】
近年、送受信双方に複数のアンテナを用い、送信信号を空間多重して通信を行うMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送方式は、同時刻・同一周波数帯を用いて伝送容量を増加できる技術として注目を集めている。MIMO伝送方式の最大の利点は、受信誤り率低減及び伝送容量の増大である。しかし、下り回線無線通信路を考えた場合、基地局のアンテナ数には制限が少ないのに対し、移動ユーザ端末局のアンテナ数には制限があり、また小型化や低消費電力化が求められるため複雑な信号処理は行えない。そこで、複数の端末ユーザとMIMO通信が可能なマルチユーザMIMO(MU−MIMO)技術が注目を集めている。マルチユーザMIMO技術では、基地局アンテナ数を増やすことにより、周波数帯域幅や変調多値数を増加させることなく、無線伝送速度を向上させることが可能となる。従って、マルチユーザMIMO技術は、周波数資源が逼迫しているマイクロ波帯(現在、携帯電話や無線LANで利用され、移動通信に適している)等において、有線伝送とシームレスなブロードバンド無線伝送の実現を可能にする将来技術として注目されている。
【0003】
マルチユーザMIMOダウリング伝送における主な問題は、ユーザ端末間の信号分離である。この問題に対して、各ユーザ端末で他ユーザからの干渉波を分離するために、基地局側の送信マルチビームを制御し、ユーザ端末についてもそのサイズやコストの点からより簡易な受信機の設計を行う必要がある。
【0004】
第1の従来技術として線形プリコーディングであるブロック対角手法(BD:Block Diagonalization)がある。これは、基地局側でユーザ間の干渉を完全に除去でき、ユーザ端末側でも簡単な受信機構成となる技術である(非特許文献1参照)。
【0005】
また、第2の従来技術としてシングル受信アンテナを持つマルチユーザMIMO−DPC(Dirty Paper Coding)伝送方式がある(非特許文献2参照)。MIMO−DPC方式では、基地局で事前に順序付逐次干渉除去を行う。まず、チャネル行列をLQ分解し、送信プリコーディングとしてQを用いることによって、実効通信路行列が三角形行列になり、チャネル情報を用いて予め干渉成分を減算して送信する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】加藤、西本、小川、大鐘、西村、“マルチユーザMIMO下り回線における不完全ブロック対角化法”、電子情報通信学会 技術報告、RCS2007−241、2008年3月
【非特許文献2】C. Li, Y. Iwanami, E. Okamoto, “Comparison study for Tomlinson-Harashima Precoding based on MMSE criteria in Multiuser MIMO downlink system”, IEEE TENCON 2009, 2009年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、第1の従来技術では、各ユーザは他ユーザのチャネルの組み合わせ行列に対し少なくとも1列は独立にする必要があるため、ユーザ間チャンネルの相関性が高い場合にはシステムの通信路容量の損失が生じる。
【0008】
また、第2の従来技術では、システムの通信容量は確保できるが、ユーザ端末の受信アンテナ数は1本に限定され、各ユーザへの送信信号は1ストリームのみであった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、マルチユーザMIMOダウリンク伝送において、基地局側でDPC(Dirty Paper Coding)の原理を用いてユーザ間干渉を除去しながら、通信路容量を確保して、各ユーザに向けてマルチストリームのデータを送信することができる基地局装置及びそれを備えた通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のユーザ端末との間でマルチユーザMIMO方式の通信を行う基地局装置であって、前記複数のユーザ端末のうち少なくとも1つのユーザ端末に対してマルチ送信ストリームを送信し、ブロック三角化とDPC伝送方式を用いて前記各ユーザ端末におけるユーザ間干渉を除去することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の基地局装置において、全システムのキャパシティーレートが上がるように前記各ユーザの送信ウェイトの選択を行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記基地局装置と、複数のユーザ端末との間でマルチユーザMIMO方式の通信を行う通信システムである
【発明の効果】
【0013】
本発明は、マルチユーザMIMOダウンリンクにおける端末ユーザ間の信号分離方式に関するものである。マルチユーザMIMO技術では、基地局から複数の端末ユーザへの送信信号を同時に送信することによって、端末ユーザの受信アンテナを同時に利用する。これによって、仮想的に大規模なMIMO通信路を構成でき、従来のシングルユーザMIMOに対し、システム全体で飛躍的な伝送速度向上を見込むことができる。従来のマルチユーザMIMOダウンリンクDPC方式では、ユーザ端末の受信アンテナ数は1本に限定され、各ユーザへの送信信号は1ストリームのみであったが、本発明では、ユーザ端末において複数の受信アンテナによる受信と各ユーザ端末へのマルチストリーム送信を可能とした。これらにより、高速大容量データ伝送が行え、また優れたビット誤り率特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】マルチユーザMIMOダウンリンクモデルを示す図である。
【図2】受信アンテナ間が無相関の場合において、(a)は各ユーザ端末のBER特性を示す図、(b)は各ユーザのキャパシティーレート特性を示す図である。
【図3】受信アンテナ間に相関がある場合において、(a)は異なる相関係数におけるシステム平均BER特性を示す図、(b)は総キャパシティーレートを示す図である。
【図4】受信アンテナ間相関がある場合、異なる相関係数における送信アンテナ等電力配分と注水定理配分を用いた総キャパシティーレート特性(実線:等電力配分、点線:注水定理配分)を示す図である。
【図5】異なる相関係数(cR:受信アンテナ相関係数、cT:送信アンテナ相関係数)を持つ通信路において注水定理を用いた場合の総キャパシティーレートの特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明の通信システムの概略を図1に示す。
この通信システムは、基地局10と、各ユーザ端末20−1〜20−Nから構成される。基地局10と各ユーザ端末20−1〜20−Nとは、マルチユーザMIMO−DPC方式で通信を行う。
基地局10は、IUI干渉を減算する干渉減算部11−1〜11−N、Modulo回路12−1〜12−N、送信ウェイト部13、送信アンテナ14−1〜14−Nから構成される。
ユーザ端末20−1〜20−Nは、k番目のユーザ端末20−kを例にとると、受信アンテナ21−1〜21−n(k)、デコーダ22−1〜22−n(k)、Modulo回路23−1〜23−−n(k)、から構成される(k=1、2、…、N)。
ユーザ端末20−1〜20−Nから基地局10へは、チャネル情報(ユーザ選択方式とIUI除去情報)がフィードバックされる。
【0016】
基地局10から、各々異なった各ユーザ向けの送信信号を、送信アンテナ14−1〜14−Nから同じキャリヤ周波数を用いて空間多重して送信する。基地局10は、少なくとも1つのユーザ端末に対してマルチ送信ストリームを送信し、干渉減算部11−1〜11−Nがブロック三角化とDPC伝送方式を用いて前記各ユーザ端末におけるユーザ間干渉を除去する。Modulo回路12−1〜12−Nでは送信電力の増加を抑えるためにModulo演算を行う。また、基地局10の送信ウェイト部13は、全システムのキャパシティーレートが上がるような前記各ユーザの送信ウェイトを求め、Modulo回路12−1〜12−Nの出力に対して送信ウェイトを乗算する。受信側の各ユーザ端末20−1〜20−Nにおいて、k番目(k=1,…N)の端末ユーザ22−kは、n(k)本の受信アンテナ21を用いて、受信した全てのユーザ信号に対して受信デコーダ行列とModulo演算により同時に処理し、他のユーザからの干渉信号を分離・除去して、自らの受信信号のみを復号する。これによって、周波数帯域幅及び送信電力を増加することなく、全体として大きなダウンリンクの伝送速度の向上が計れる。
【0017】
基地局10の送信アンテ数をN、ユーザ端末数をN、ユーザkの受信アンテナ数をn(k)(k=1,…,N)とする。
【0018】
ユーザkのチャネル応答行列は、次式(1)で表される。
【数1】

【0019】
式(1)に於いて、Hはn(k)×Nの通信路行列、行列の要素hi,jはレイリー確率変数(i.i.d)であり、jは送信アンテナ番号,iは受信アンテナ番号を表す。
【0020】
システム全体の通信路行列H、プリコーディング行列Mとシステムの実効通信路行列は、それぞれ次式(2)で表される。
【数2】

【0021】
全ユーザ端末20−1〜20−Nに対する送信ベクトル、雑音ベクトルは、次式(3)で表せる。
【数3】

【0022】
ここで、x=[x(k)(k) … xnR(k)]は、ユーザ端末kの送信信号ベクトルであり、P=E[xx]はユーザkの送信電力である。また、n=[n … nNu]は、ユーザ端末kの受信アンテナ21−1〜21−n(k)に於ける、分散N/2、平均値0の複素ガウス変数ベクトルである。
【0023】
システム全体の通信路入出関係式は、次式(4)のように表される。
【数4】

【0024】
ユーザ端末kの受信信号ベクトルは、次式(5)で表せる。
【数5】

【0025】
マルチユーザMIMO方式における線型プリコーディンク手法では、チャネル行列におけるユーザ間の相関が高い場合、システムの通信路容量が減少してしまう。また、各ユーザに対する送信ウェイトの選択自由度もない。これらの問題を解決することを目的として、本発明における具体的な方法を述べる。
【0026】
ユーザ端末1を決める。各ユーザのチャネル行列に特異値分解(SVD)を行う。
【数6】

ここで、o(1)はシステム全体の通信路行列Hから選択されたユーザ1の番号である。
【0027】
ユーザ端末kについて、以前に選択された(k−1)のユーザで構成される通信路行列に対し特異値分解を行い、次式(7)を求める。
【数7】

ここで、Mの総選択自由度はP(N−sigmai=1k−1(i)(k))である.Ωはユーザkのヌルスペースであり、P(m,n)=n×(n−1)×…×(n−m−1)である。
【0028】
式(7)で得られたMを用いてユーザkの通信路行列Hを決める。最後に、システム全体のチャネル行列Hは式(8)のようになる。
【数8】

【0029】
通信路の出入力関係式は式(9)と書ける。
【数9】

【0030】
受信側でのデコーダー行列は次式(10)のようになる。
【数10】

【0031】
各ユーザ端末において、デコーダー行列を掛けると式(11)となる。
【数11】

【0032】
DPC伝送方式を利用できるように、行列h11′〜hNuNu′について、コレスキー分解を行うと次式(12)が得られる。
【数12】

【0033】
式(10)は次式(13)のように書き改められる。
【数13】

【0034】
デコーダー行列にある行列G〜GNuは次式(14)のように書ける。
【数14】

【0035】
基地局10側の送信信号ベクトルは次式(15)のように書ける。
【数15】

ここで、s, ri,j′は、それぞれ各ユーザ端末への送信情報と行列Rの要素である。
【0036】
式(15)に示すように、基地局10側での干渉信号の減算により送信信号電力が必要以上に大きくなるため、Modulo操作を用いる。Modulo回路の出入力関係式は式(16)になる。
【数16】

【0037】
以下、実施例に基づいて本発明の効果を具体的に説明するが、もとより本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
OFDM信号の各サブキャリアにおける通信路はフラットレイリーフェージング通信路であるため、本発明の実施例ではマルチユーザMIMO準静的フラットレイリーフェージング通信路を扱う。
【0039】
マルチユーザMIMOダウンリンクにおける準静的フラットレイリーフェージング通信路について、各ユーザ端末20−1〜20−Nに対し2ストリームを送信する。図1においては、基地局10の送信アンテナ数が8本、ユーザ端末数が4、各ユーザ端末20−1〜20−4の受信アンテナ数を2本とする。アンテナ間が無相関と有相関の二つの場合において、システムのBER特性とチャネルキャパシティーレートの検討を行った。
【0040】
基地局10で各ユーザに向け2ストリーム送信する場合において、各ユーザのBER特性を図2(a)に示す。図2(a)において、ユーザ端末4では、行列H4の第1と第2固有ベクトルをユーザ端末4の送信ウェイトとする。ユーザ端末4以外のユーザ端末は、システムチャネル行列をブロック三角化するため、送信ウェイトの最適化は行えない。しかし、ユーザ端末4以外のBER特性を改善するために、基地局10側で送信ウェイトの選択を一定のアルゴリズムに従って行う。すなわち、ユーザ端末3からユーザ端末1までのユーザ端末に対して、送信ウェイトを選択する。また、図2(a)に示されるように、ユーザ端末の送信ウェイトの選択自由度が高い程、ユーザ端末のBER特性が良い。図2(b)の結果より、基地局10の各アンテナから等電力送信の場合において、ユーザ端末4は最適な送信ウェイトを用いるため、通信路容量の損失が無い。ユーザ端末3,2,1では、通信路利得が最大になれず、通信路キャパシティーレートが劣化してしまう。図3(a)の結果により、相関係数が0.2時はBER特性の劣化はほとんど無いが、相関係数を0.8とするとBER特性の劣化が大きくなることが分かる。図3(b)より、等送信電力の場合において、相間係数の小さい場合はキャパシティーレートの劣化が少ないが、相間係数が0.99となるとキャパシティーレートが著しく劣化する。図4に示すように、送信アンテナ電力の配分に注水定理を用いると、キャパシティーレートを改善できるが、相関係数によるキャパシティーレートの影響は、やはり図3(b)と同じである。図5に示すように、基地局10の送信アンテナとユーザ端末20の受信アンテナ両方が共に相関を持つ場合、キャパシティーレートの劣化は著しい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、マルチユーザMIMOダウンリンクにおける端末ユーザ間の信号分離方式に関するものである。マルチユーザMIMO技術では、基地局から複数の端末ユーザへの送信信号を同時に送信することによって、端末ユーザの受信アンテナを同時に利用する。これによって、仮想的に大規模なMIMO通信路を構成でき、従来のシングルユーザMIMOに対し、システム全体で飛躍的な伝送速度向上を見込むことができる。従来のマルチユーザMIMOダウンリンクDPC方式では、ユーザ端末の受信アンテナ数は1本に限定され、各ユーザへの送信信号は1ストリームのみであったが、本発明では、ユーザ端末において複数の受信アンテナによる受信と各ユーザ端末へのマルチストリーム送信を可能とした。これらにより、高速大容量データ伝送が行え、また優れたビット誤り率特性を実現でき、産業上の大きな利用可能性がある。
【符号の説明】
【0042】
10 基地局
11−1〜11−N 干渉減算部
12−1〜12−N Modulo回路
13 送信ウェイト部
14−1〜14−N 送信アンテナ
20−1〜20−N ユーザ端末
21−1〜21−n(k) 受信アンテンナ
23−1〜23−n(k) Modulo回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のユーザ端末との間でマルチユーザMIMO方式の通信を行う基地局装置であって、
前記複数のユーザ端末のうち少なくとも1つのユーザ端末に対してマルチ送信ストリームを送信し、ブロック三角化とDPC伝送方式を用いて前記各ユーザ端末におけるユーザ間干渉を除去することを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
全システムのキャパシティーレートが上がるように前記各ユーザの送信ウェイトの選択を行うことを特徴とする請求項1に記載の基地局装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基地局装置と、複数のユーザ端末との間でマルチユーザMIMO方式の通信を行う通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−257194(P2012−257194A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37124(P2012−37124)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】