説明

基底膜安定化剤

【課題】 ラミニン5産生促進、IV型コラーゲン産生促進およびVII型コラーゲン産生促進のいずれの作用も有し、皮膚老化防止や創傷治癒効果の高い基底膜安定化剤を提供する。
【解決手段】 コエンザイムQ10を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基底膜安定化剤に関する。また本発明は、ラミニン5産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤、VII型コラーゲン産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧および皮膚科学分野では、皮膚に対する日光の照射をはじめとする外界環境の影響や加齢による損傷を軽減もしくは治療すべく多種多様な手段が提案され、また、試みられている。例えば、加齢に伴う皮膚変化としては、しわの形成、硬化もしくは弾力性の低下等が主なものとしてあげられている。このような変化の原因として、皮膚真皮におけるコラーゲン、エラスチン、グルコサミノグリカンからなる膠原線維、弾性線維の機能低下に主な関心が向けられている。これまで、このような変化を防止もしくは修復する手段として、ヒドロキシカルボン酸類の使用(例えば特許文献1)、リゾリン脂質の使用(例えば特許文献2)が提案されている。
【0003】
特許文献1には、コラーゲン線維減損の防止により角質やしわを根絶しうることが示唆されている。一方、特許文献2では、リゾリン脂質がヒト線維芽細胞におけるグリコサミノグリカン(具体的にはヒアルロン酸)の産生能を亢進することから、美白効果を奏することが示唆されている。
【0004】
上記外界環境の皮膚老化に及ぼす影響として、最も強力なものは太陽光に含まれる紫外線であり、明確に老化促進因子として位置づけられており、深いしわを特徴とする光老化と言われる皮膚変化を誘導していることが知られている(非特許文献1参照)。紫外線の皮膚に及ぼす影響は多岐にわたり、遺伝子DNAの傷害から始まり、活性酸素の産生の誘導、そして最近ではマトリックス分解金属酵素の産生誘導がある(非特許文献2参照)。
【0005】
紫外線のもつこの多能性のために、紫外線で誘導される光老化がどのような機構で起るかに関しては十分に解明されてこなかった。ヘアレスマウスに紅斑を起こさない程度のエネルギーの紫外線を照射し続けることによって、マウス背部皮膚にヒトの光老化皮膚に対応するような深いしわが形成されることが明らかになり、このマウスモデルを用いてしわに影響を及ぼす物質の評価も行われてきた (非特許文献3)。しかし、十分にしわ形成機構に関しては解明されておらず、その解明が待たれていた。
【0006】
一方、1994年、Koivukangas らは紫外線を照射した皮膚にて基底膜分解酵素であるゼラチナーゼが高まることを報告している (非特許文献4) 。また、日光曝露部位皮膚では、基底膜が構造変化を示し、特に多重化が頻繁に観察されることも報告されている(非特許文献5)。これは、日光に含まれる紫外線が皮膚における基底膜分解酵素の産生量を高めることによって、基底膜構造に影響を与えた可能性を示唆しており、この構造変化の結果、しわ、たるみなどの老徴の発現、老化に伴う皮膚機能低下が生じるものと思われる。さらに、皮膚基底膜構造を詳細に観察した場合、20代後半から30代前半にかけて基底膜ダメージが高頻度に観察されることにより、基底膜の構造変化が皮膚老化の誘導において重要な役割を示すことが報告されている(非特許文献6)。
【0007】
基底膜は皮膚における表皮と真皮との間に存在するものであり、主要構成蛋白としてラミニン5、IV型コラーゲン、VII型コラーゲン等を含んでいることが知られている。
したがって、ラミニン5、IV型コラーゲン、VII型コラーゲン等の産生を促進し、基底膜中のラミニン5、IV型コラーゲン、VII型コラーゲン量を維持し、基底膜を安定化させる薬剤を開発することは、種々の細胞外マトリックスを保護し、しわ等の皮膚老化を防ぐうえで極めて重要である。
【0008】
【特許文献1】特許第2533339号公報
【特許文献2】特開平8−67621号公報
【非特許文献1】Scharffetter-Kochanek, Advance in Pharmacology, 1997, 58, 639-655
【非特許文献2】Fisherら、Nature, 1996, 379, 335-339
【非特許文献3】Moloneyら、Photochem. Photobiol. 1992, 56, 495-504
【非特許文献4】Acta Derm. Venereol. 1994, 74, 279-282
【非特許文献5】Lavker, J. Invest. Dermal. 1979, 73, 59-66
【非特許文献6】天野ら、IFSCC Magazine, 2000, 4, 15-23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上述べたような従来の事情に対処してなされたもので、ラミニン5産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用およびVII型コラーゲン産生促進作用を有し、基底膜を安定化させる基底膜安定化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者らは、これらの問題を解決するため、広く種々の物質について基底膜安定化作用を検討した結果、コエンザイムQ10が優れたラミニン5産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用およびVII型コラーゲン産生促進作用を有していることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、コエンザイムQ10を含むことを特徴とする基底膜安定化剤である。本発明における基底膜安定化剤は、コエンザイムQ10からなるものであることが好ましい。
【0012】
本発明において、基底膜安定化剤は、さらに、ラミニン5産生促進、IV型コラーゲン産生促進およびVII型コラーゲン産生促進のいずれの作用も有することから、ラミニン5産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤およびVII型コラーゲン産生促進剤としての適用が可能である。これらは上記した作用に基づくシワやタルミの防御と改善を目的とした抗老化剤としても適用が可能である。
【0013】
これまでに本化合物のラミニン5産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用およびVII型コラーゲン産生促進作用に関する報告は一切されていない。また本化合物がラミニン5産生促進作用、IV型コラーゲン産生促進作用およびVII型コラーゲン産生促進作用を共に有する基底膜安定化剤として有用であること、およびこれらの作用に基づく抗老化作用を有していることは今まで全く知られていない。
【発明の効果】
【0014】
本発明の基底膜安定化剤は、ラミニン5産生促進能、IV型コラーゲン産生促進能およびVII型コラーゲン産生促進能のいずれにも優れたものであり、基底膜を安定化する効果の極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明で用いられるコエンザイムQ(補酵素Q:CoQ)はベンゾキノン誘導体であり、広く生物界に存在することからユビキノンと命名されている。ユビキノンを2電子還元したヒドロキノン体がユビキノールである。
【0016】
ユビキノンは、化合物名が2,3−ジメトキシ−5−メチル−6−ポリプレニル−1,4−ベンゾキノンであり、イソプレン単位がn=1〜12の多数の同族体が天然に存在し、ヒト等の高等動物についてはn=10である。以下の説明では、ヒト等のユビキノンについてコエンザイムQ10と表示する。
【0017】
本発明による基底膜安定化剤、ラミニン5産生促進剤、IV型コラーゲン産生促進剤およびVII型コラーゲン産生促進剤は、ラミニン5産生促進作用、IV型およびVII型コラーゲン産生促進作用に基づく老化防止効果が期待できる化粧料として用いることを好適とし、その場合の本化合物の配合量は、外用剤全量中、乾燥物として10-7〜10質量%、好ましくは10-5〜1質量%である。10-7質量%未満であると、本発明でいう効果が十分に発揮されず、10質量%を超えると製剤化が難しいので好ましくない。
【0018】
本発明の基底膜安定化剤は、セリンプロテアーゼ阻害剤と共に用いて外用剤としてもよい。セリンプロテアーゼ阻害剤と共に用いることにより、コラーゲンの分解を阻害して基底膜を更に良好な状態に保つ。この結果は、本発明によって得られる創傷治癒促進作用に対しても良好に作用すると考えられる。当該セリンプロテアーゼ阻害剤としては、イチヤクソウ、オトギリソウ、カリン、ジュウヤク、セイヨウハッカ、ノバラ、アルニカ、サンザシ、セイヨウナツユキソウ、セイヨウバラ、ブドウ、ボタン、ホップ、ラズベリー、ローマカミツレ等の抽出物を挙げることができる。更に、上記セリンプロテアーゼ阻害剤にはアプロチニン、トラネキサム酸、ε―アミノカプロン酸等も含まれる。
【0019】
また、上記外用剤、とりわけ化粧料には、本化合物以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0020】
また、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0021】
また、その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、L−アスコルビン酸及びその塩、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸硫酸エステル等のL−アスコルビン酸のエステル誘導体及びその塩、L−アスコルビン酸グルコシド等のL−アスコルビン酸の配糖体及びその塩、4−メトキシサリチル酸等のアルコキシサリチル酸及びその塩、ハイドロキノンβ―D−グルコース、ハイドロキノンα―D−グルコース等のハイドロキノンの配糖体及びその塩、トラネキサム酸、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩等のトラネキサム酸誘導体、4−n−ブチルレゾルシン等のレゾルシン誘導体、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、リノール酸、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類、グリチルリチン酸及びその誘導体、リゾフォスファチジルコリンやリゾフォスファチジン酸、大豆調製物等のラミニン5産生促進剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、シクランデレート、シンナリジン、トラゾリン、アセチルコリン、ベラパミル、セファランチン、γ−オリザノール等の血行促進剤、硫黄、チアントール等の抗脂漏剤、多様な目的から、ヒノキチオール、アイリス抽出物、アセンヤク抽出物、アラントイン、アロエ抽出物、イチヤクソウ抽出物、イブキジャコウ抽出物、ウコン抽出物、オウバク抽出物、オウレン抽出物、オトギリソウ抽出物、オノニス抽出物、オランダガラシ抽出物、加水分解カゼイン、加水分解酵母抽出液、カッコン抽出物、カミツレ抽出物、カリン抽出物、カンゾウ抽出物、キシリトール、クララ抽出物、コウボク抽出物、米抽出物加水分解液、サイコ抽出物、サフラン抽出物、酸化亜鉛、シカクマメ抽出物、シコン抽出物、シャクヤク抽出物、ショウキョウ抽出物、シリカ被覆酸化亜鉛、セージ抽出物、ゼニアオイ抽出物、センキュウ抽出物、センブリ抽出物、チンピ抽出物、トウガラシ抽出物、トウキ抽出物、トウキンセンカ抽出物、トウニン抽出物、チオタウリン、ニンジン抽出物、ニンニク抽出物、ヒオウギ抽出物、ヒポタウリン、バーチ抽出物、ビワ抽出物、ブドウ抽出物、ブナの芽抽出物、ヘチマ抽出物、マジョラム抽出物、マリアアザミ抽出物、ヤグルマギク抽出物、ユリ抽出物、ヨクイニン抽出物、ローズマリー抽出物、アルギニン及びその塩酸塩、セリン及びその塩酸塩等アミノ酸及びその誘導体、パントテン酸カルシウム、D−パントテニルアルコール、パントテニルエチルエーテル、アセチルパントテニルエチルエーテル等のパントテン酸類、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール等のビタミンD類、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル等のニコチン酸類、α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール、コハク酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類、ビタミンK、ビタミンP、ビオチン等のビタミン類、補酵素類なども適宜配合することができる。
【0022】
本発明による基底膜安定化剤を含む外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わないが、特に化粧料としての剤型で用いるのが好ましい。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。ここで、配合量は質量%である。
試験方法1(ラミニン5産生促進効果に対する試験方法)
(1)表皮角質細胞の培養
表皮角質細胞はヒト包皮より単離し、カルシウム濃度の低い表皮細胞増殖培地(KGM)にて培養した。この培地には牛脳下垂体抽出液とEGFを添加した。細胞は第4代までKGMで培養後、トリプシン−EDTA処理によって接着細胞を浮遊させ、ろ過によって細胞のアグリゲートを除き、均一な細胞懸濁液を得た。遠心分離によって細胞を集め、DMEM−F12(2:1)−0.1%BSAに8×10/mlとなるように再懸濁させた。この細胞懸濁液0.5mlを下記表1に示した濃度の2倍濃度の薬剤を含む同培地0.5mlに加えた。培養は24穴プレートを用いて、37℃にて24時間行った。培養終了時に、培養上清をエッペンドルフチューブに移し、10000rpmで5分間遠心分離し、上清を新たなチューブに移し、ラミニン5の測定の日まで−20℃で保存した。また細胞内と培養プラスチック上に結合したラミニン5を可溶化するため、各種の界面活性剤を含むトリス塩酸緩衝液(pH7.4)を各穴に添加し、一晩−20℃で保存した。翌日、超音波処理を行い、再度凍結した。翌日、再度溶解後、10000rpmで5分間遠心分離し、上清をチューブに移し、ラミニン5の測定の日まで−20度にて保存した。
【0024】
(2)サンドイッチELISA法によるラミニン5の測定
培養上清、細胞層に存在するラミニン5はサンドイッチELISA法にて測定した。96穴ELISAプレートの固層にラミニン5のラミニンα3鎖に対するモノクローナル抗体、BM165を結合させた。ラミニン5をサンドイッチして測定するため、もう一種の抗体としてラミニンβ3鎖に対するモノクローナル抗体である6F12を予めビオチン化(b−6F12)として用いた。本法では、機能を発揮しうるヘテロトリマー体(α3β3γ2)のみを測定し、ヘテロダイマー(β3γ2)を検出しない。b−6F12を含む3%ゼラチン・リン酸緩衝溶液を予め入れておいた各穴に試料を添加する。試料の穴内での最終希釈率は培養液が1/4、細胞層が1/10とした。抗原抗体反応は37℃で2時間行い、プレートを洗浄した後アビヂンHRP(ホースラディッシュパーオキシターゼ)溶液を添加し、更に30分から1時間反応させた。洗浄後、HRPの基質であるABTS溶液を加え、405nmの吸光度をELISAプレートリーダーにて測定した。検量線は0〜40ng/mlの範囲で作成した。
ラミニン5の産生量は、培地中に遊離された量と細胞層に残った量との総和を算出し、薬剤を添加していない試料(コントロール)に対する相対的な値をもって示した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
試験方法2(IV型コラーゲンおよびVII型コラーゲン産生促進効果に対する試験方法)
(1)ヒト線維芽細胞の培養
10%FBS含有DMEM培地で培養したヒト線維芽細胞を24穴プレートに播種し、細胞が接着した後、0.25%FBS及び250μMアスコルビン酸グルコシド含有DMEM培地に置換し、終濃度がそれぞれ1,10,102,103nMとなるようにCoQ10を添加した。1日後、培地上清を回収、遠心分離し、得られた上清中のIV型、VII型コラーゲン測定及び、細胞についてDNA量を測定し、細胞数の指標とした。
【0027】
(2)DNA定量
DNA量の測定はHoechst社のH33342を用いた蛍光測定法で実施した。
【0028】
(3)サンドイッチELISA法によるIV型、VII型コラーゲンの測定
IV型、VII型コラーゲンは、サンドイッチELISA法によって測定した。本実施例において使用した抗体は以下のとおりである。
・IV型コラーゲン特異的抗体;モノクローナル抗体JK−199およびポリクロナール抗体MO−S−CLIV
・VII型コラーゲン特異的抗体;モノクローナル抗体NP−185およびモノクローナル抗体NP−32
薬剤を添加していない試料(コントロール)のDNAあたりのIV型、VII型コラーゲン量を100としたときの、薬剤添加試料のDNAあたりのIV型、VII型コラーゲン量をIV型、VII型コラーゲン産生促進率とした。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
試験方法3(人工皮膚を用いたIV型コラーゲンおよびVII型コラーゲン産生促進効果に対する試験方法)
(1)人工皮膚の製造方法
コラーゲンゲルは、ヒト真皮由来の線維芽細胞(1×10cells/ml)懸濁コラーゲン溶液を氷上にて作製後、60mmのペトリディッシュ内にて37℃でコラーゲンをゲル化した。その後シャーレ壁面からゲルを剥離し、コラーゲンゲルを金属の上にのせ、さらにガラスリング(内径12mm)をゲルの上にのせた。このガラスリング内に液漏れさせないようにヒト包皮由来表皮ケラチノサイト懸濁液を含むKGM−DMEM(1:1)混合培地を添加した。一晩インキュベートして表皮細胞を接着させ、翌日リングをはずした。上記培地を表皮層の境界まで満たし、表皮層を空気に曝しながら、角質形成を示す重層化した表皮を持つ皮膚モデルを作製した。
【0031】
(2)IV型、VII型コラーゲン産生促進効果に関する試験方法
表皮細胞を播種後4日目より、(1)薬剤無添加、(2)CoQ10 10nM、(3)CoQ10 100nMを含む培地に換え、その後2−3日おきに同種・同濃度の薬剤を含有する培地と交換してさらに2週間培養した。
形成された人工皮膚は、ヘマトキシリン−エオジン染色、並びに免疫染色(抗IV型コラーゲン抗体および抗VII型コラーゲン抗体)により染色した。IV型及びVII型コラーゲンの染色度を低い方から高い方へ順に1−5の5段階でスコア化した。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
上記のように、対照(1)において、IV型コラーゲンは弱く染色されたが、VII型コラーゲンはほとんど観察されなかった。これに対し、CoQ10はIV型・VII型コラーゲンの染色性を共に高めることが人工皮膚において確認された。
【0034】
試験方法4(抗炎症、創傷治癒効果促進試験)
8週齢のHR−1マウスに炎症または創傷を人工的に形成し、各群(n=5)に(1)薬剤無添加、(2)CoQ10 0.1%、(3)CoQ10 1%を含有する1,3−ブチレングリコールをそれぞれ0.5gずつ1日2回、5日間塗布し、5日目に炎症部位または創傷部位の状態を観察した。抗炎症作用、創傷治癒促進作用をそれぞれ低い方から高い方へ順に1−5の5段階でスコア化した。その結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
上記のように、対照(1)において、炎症、創傷の改善度は低かった。これに対し、CoQ10は抗炎症作用、創傷治癒促進作用を有することがin vivoにおいて確認された。
【0037】
次に、本発明の基底膜安定化剤を用いた処方例を示す。
実施例1 クリーム
(処方)
(A相)
ステアリン酸 10.0 質量%
ステアリルアルコール 4.0
ステアリン酸ブチル 8.0
ステアリン酸モノグリセリンエステル 2.0
CoQ10 1.0
ビタミンEアセテート 0.5
ビタミンAパルミテート 0.1
マカデミアナッツ油 1.0
防腐剤 適量
香料 適量
(B相)
グリセリン 4.0
1,2−ペンタンジオール 3.0
水酸化カリウム 0.4
アスコルビン酸リン酸マグネシウム 0.1
L−アルギニン塩酸塩 0.01
エデト酸三ナトリウム 0.05
イオン交換水 残余
(製法)
Aの油相部とBの水相部をそれぞれ70℃に加熱し完全溶解する。A相をB相に加えて、乳化機で乳化する。乳化物を熱交換器を用いて冷却する。
【0038】
実施例2 クリーム
(処方)
ステアリン酸 5.0 質量%
ステアリルアルコール 4.0
イソプロピルミリステート 18.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 3.0
プロピレングリコール 10.0
CoQ10 0.5
苛性カリ 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールと苛性カリを加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱溶解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を徐々に加え、全部加え終わってからしばらくその温度に保ち反応を起こさせる。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0039】
実施例3 しわ予防クリーム
(処方)
ステアリン酸 2.0 質量%
ステアリルアルコール 7.0
水添ラノリン 2.0
スクワラン 5.0
2−オクチルドデシルアルコール 6.0
ポリオキシエチレン(25モル)
セチルアルコールエーテル 3.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
プロピレングリコール 5.0
CoQ10 0.3
ウコンエタノール抽出物 0.05
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱溶解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0040】
実施例4 抗老化用クリーム
(処方)
固形パラフィン 5.0 質量%
ミツロウ 10.0
ワセリン 15.0
流動パラフィン 41.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
ポリオキシエチレン(20モル)
ソルビタンモノラウリン酸エステル 2.0
石けん粉末 0.1
硼砂 0.2
CoQ10 0.1
サイコエタノール抽出物 0.05
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水に石けん粉末と硼砂を加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相をかきまぜながら徐々に加え反応を行う。反応終了後、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0041】
実施例5 乳液
(処方)
ステアリン酸 1.0 質量%
ワセリン 5.0
流動パラフィン 10.0
ポリオキシエチレン(10モル)
モノオレイン酸エステル 2.0
ポリエチレングリコール1500 3.0
トリエタノールアミン 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
CoQ10 0.01
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
少量のイオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解する(A相)。残りのイオン交換水にポリエチレングリコール1500とトリエタノールアミンを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、A相を加えホモミキサーで均一乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0042】
実施例6 乳液
(処方)
マイクロクリスタリンワックス 1.0 質量%
密ロウ 2.0
ラノリン 2.0
流動パラフィン 10.0
スクワラン 5.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 4.0
ポリオキシエチレン(20モル)
ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
プロピレングリコール 7.0
CoQ10 0.05
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱融解して70℃に保つ(油相)。油相をかきまぜながらこれに水相を徐々に加え、ホモミキサーで均一に乳化する。乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0043】
実施例7 乳液
(処方)
(A相)
スクワラン 5.0 質量%
オレイルオレート 3.0
ワセリン 2.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 0.8
ポリオキシエチレンオレイルエーテル
(2OEO) 1.2
月見草油 0.5
CoQ10 0.001
防腐剤 適量
香料 適量
(B相)
1,3−ブチレングリコール 4.5
エタノール 3.0
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.1
L−アルギニンL−アスパラギン酸塩 0.01
カッコンエタノール抽出液 1.5
エリスリトール 0.5
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
イオン交換水 残余
(製法)
Aの油相部とBの水相部をそれぞれ70℃に加熱し完全溶解する。A相をB相に加えて、乳化機で乳化する。乳化物を熱交換器を用いて冷却する。
【0044】
実施例8 ゼリー
(処方)
95%エチルアルコール 10.0 質量%
ジプロピレングリコール 15.0
ポリオキシエチレン(50モル)
オレイルアルコールエーテル 2.0
カルボキシビニルポリマー 1.0
苛性ソーダ 0.15
L−アルギニン 0.1
CoQ10 0.01
2−ヒドロキシ−4−メトキシ
ベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
エチレンジアミンテトラアセテート・
3ナトリウム・2水 0.05
メチルパラベン 0.2
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にカルボキシビニルポリマーを均一に溶解し、一方、95%エタノールに薬剤、ポリオキシエチレン(50モル)オレイルアルコールエーテル等を溶解し、水相に添加する。次いで、その他の成分を加えたのち苛性ソーダ、L−アルギニンで中和させ増粘する。
【0045】
実施例9 美容液
(処方)
(A相)
エチルアルコール(95%) 10.0 質量%
ポリオキシエチレン(20モル)
オクチルドデカノール 1.0
パントテニールエチルエーテル 0.1
CoQ10 0.1
メチルパラベン 0.15
(B相)
水酸化カリウム 0.1
(C相)
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
カルボキシビニルポリマー 0.2
イオン交換水 残余
(製法)
A相、C相をそれぞれ均一に溶解し、C相にA相を加えて可溶化する。次いでB相を加えたのち充填を行う。
【0046】
実施例10 パック
(処方)
(A相)
ジプロピレングリコール 5.0 質量%
ポリオキシエチレン(60モル)硬化ヒマシ油 5.0
(B相)
CoQ10 0.1
オリーブ油 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
(C相)
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール
(ケン化度90、重合度2,000) 13.0
エタノール 7.0
イオン交換水 残余
(製法)
A相、B相、C相をそれぞれ均一に溶解し、A相にB相を加えて可溶化する。次いでこれをC相に加えたのち充填を行う。
【0047】
実施例11 化粧水
(処方)
(A相)
エタノール 5.0 質量%
POEオレイルアルコールエーテル 2.0
オレイルアルコール 0.1
2−エチルヘキシルーP−ジメチル
アミノベンゾエート 0.18
CoQ10 0.0001
香料 適量
(B相)
1,3−ブチレングリコール 9.5
グリセリン 2.0
ピロリドンカルボン酸ナトリウム 0.5
ニコチン酸アミド 0.3
β−シクロデキストリン 1.0
エリスリトール 0.05
イオン交換水 残余
(製法)
Aのアルコール相をBの水相に添加し、可溶化して化粧水を得る。
【0048】
実施例12 リップスティック
マイクロクリスタリンワックス 2.0 質量%
セレシン 11.0
液状ラノリン 2.0
スクワラン 1.0
マカデミアナッツ油脂肪酸コレステリル 8.0
リンゴ酸ジイソステアリル 10.0
ジイソステアリン酸グリセリル 5.0
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 30.0
オキシステアリン酸イソステアリル 10.0
シリコーン被覆顔料 4.0
硫酸バリウム 4.0
ベンガラ被覆雲母チタン 0.1
フィトステロール 0.1
CoQ10 10.0
重質流動イソパラフィン 10.0
染料 適量
香料 適量
(製法)
各成分を加熱・溶解し、攪拌混合して室温まで冷却し、リップスティックを得る。
【0049】
実施例13 固形ファンデーション
(処方)
タルク 43.1 質量%
カオリン 15.0
セリサイト 10.0
亜鉛華 7.0
二酸化チタン 3.8
黄色酸化鉄 2.9
黒色酸化鉄 0.2
スクワラン 8.0
イソステアリン酸 4.0
モノオレイン酸POEソルビタン 3.0
オクタン酸イソセチル 2.0
CoQ10 10.0
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
タルク〜黒色酸化鉄の粉末成分をブレンダーで十分混合し、これにスクワラン〜オクタン酸イソセチルの油性成分、薬剤、防腐剤、香料を加え良く混練した後、容器に充填、成型する。
【0050】
実施例14 乳化型ファンデーション(クリームタイプ)
(処方)
(粉体部)
二酸化チタン 10.3 質量%
セリサイト 5.4
カオリン 3.0
黄色酸化鉄 0.8
ベンガラ 0.3
黒色酸化鉄 0.2
(油相)
デカメチルシクロペンタシロキサン 11.5
流動パラフィン 4.5
ポリオキシエチレン変性ジメチルポリシロキサン 4.0
CoQ10 1.0
(水相)
イオン交換水 50.0
1,3−ブチレングルコール 4.5
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 3.0
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
水相を加熱撹拌後、十分に混合粉砕した粉体部を添加してホモミキサー処理する。更に加熱混合した油相を加えてホモミキサー処理した後、撹拌しながら香料を添加して室温まで冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10を含むことを特徴とする基底膜安定化剤。
【請求項2】
ラミニン5産生促進、IV型コラーゲン産生促進およびVII型コラーゲン産生促進のいずれの作用も有することを特徴とする請求項1に記載の基底膜安定化剤。
【請求項3】
コエンザイムQ10を含むことを特徴とするラミニン5産生促進剤。
【請求項4】
コエンザイムQ10を含むことを特徴とするIV型コラーゲン産生促進剤。
【請求項5】
コエンザイムQ10を含むことを特徴とするVII型コラーゲン産生促進剤。

【公開番号】特開2007−63160(P2007−63160A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248901(P2005−248901)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】