説明

基材および電線保護材

【課題】電線保護材の切断部を熱融着することなくその切断部の繊維ほつれを防ぐ。
【解決手段】本発明の基材11は、布帛20と、この布帛20を構成するポリエステルファイバ21間に含浸させることで各ポリエステルファイバ21を互いに結合させる熱硬化性樹脂30とを備え、布帛20は、複数のループRが縦方向と横方向とに並んで形成された経糸22と、横方向に並んだループRに挿通された緯糸23とにより経編緯糸挿入形式で編まれており、経糸22の太さは、緯糸23の太さよりも小さい構成としたところに特徴を有する。また、本発明は、上記の基材11を、ワイヤハーネスWを覆うチューブ状に成形した電線保護材10としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材および電線保護材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線群の外周を覆うことにより保護する電線保護材として、下記特許文献1に記載のものが知られている。このものは、経糸と緯糸との単純交差で形成された織布系の基材によって構成され、この基材は、電線に巻き付くようにしてこの電線を覆うチューブ状に成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−243724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の電線保護材は、経糸と緯糸との単純交差で形成されているにすぎないため、電線保護材を切断した際における切断部において繊維ほつれが発生しやすくなっている。現状、繊維ほつれ対策として、電線保護材の切断部をホットカット処理により熱融着しているものの、ホットカット処理を行うと、処理に手間がかかる上に製造コストが高くなってしまう。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、その目的は、電線保護材の切断部を熱融着することなくその切断部の繊維ほつれを防ぐところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の基材は、布帛と、この布帛を構成する単糸間に含浸させることで各単糸を互いに結合させる含浸結合剤とを備え、布帛は、複数のループが縦方向と横方向とに並んで形成された経糸と、横方向に並んだループに挿通された緯糸とにより経編緯糸挿入形式で編まれており、経糸の太さは、緯糸の太さよりも小さい構成としたところに特徴を有する。
【0007】
このような構成によると、基材を手切りした際に、緯糸よりも細い(剪断強度が小さい)経糸が切り裂かれることで基材が切断されることになる。詳細には、縦方向に隣り合う緯糸同士の間で、経糸を横方向に切り裂きつつ基材が切断される。このとき、経糸と緯糸が含浸結合剤によって単糸レベルで強固に結合しているため、切断部において経糸および緯糸がほつれることを防ぐことができる。
【0008】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
複数のループは、緯糸が挿通されて横方向に並んだ緯糸ループ列と、緯糸が挿通されないで横方向に並んだ空きループ列とからなり、両ループ列が縦方向に交互に並んで配設されている構成としてもよい。
【0009】
このような構成によると、空きループ列を構成する経糸が破断されることで、空きループ列のループが開環するものの、緯糸ループ列のループが閉じた状態に保持されているため、緯糸ループ列から緯糸が飛び出してほつれることはない。したがって、切断部における経糸および緯糸のほつれを確実に防ぐことができる。また、脆弱部である空きループ列にて経糸が選択的に切断されるため、手切れ性にも優れる。
【0010】
また、本発明は、上記の基材を、ワイヤハーネスを覆うチューブ状に巻回して熱成形した電線保護材としてもよい。
【0011】
このような電線保護材によると、フラットに広げようとしてもチューブ状を戻ろうとする巻き癖(以下において「自己巻き付け性」という)を電線保護材に持たせることができるため、電線保護材によってワイヤハーネスを覆う際に、電線保護材をワイヤハーネスに巻き付けた状態に保持しておく必要がない。このため、電線保護材をワイヤハーネスに巻き付けた状態で電線保護材の両端部をテープで巻き付け固定するだけでよく、ワイヤハーネスへの取り付け作業性を向上させることができる。なお、含浸結合剤により複数の単糸を一体化しているため、電線保護材の自己巻き付け性を発揮させやすくなっている。
【0012】
基材の巻き方向とループに挿通された緯糸の挿通方向とが交差するように基材を巻回成形した構成としてもよい。
このような構成によると、緯糸よりも細い(曲げ剛性が弱い)経糸を屈曲させることにより、自己巻き付け性を容易に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電線保護材の切断部を熱融着することなくその切断部の繊維ほつれを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1における布帛を構成する編布の模式図
【図2】経糸と緯糸を熱硬化性樹脂で結合させる前の状態を示した断面図
【図3】経糸と緯糸を熱硬化性樹脂で結合させた後の状態を示した断面図
【図4】基材を巻回して熱成形する様子を示した斜視図
【図5】電線保護材をワイヤハーネスに巻き付ける様子を示した斜視図
【図6】ワイヤハーネスに巻き付けた電線保護材の両端部をテープで巻き付け固定した様子を示した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図6の図面を参照しながら説明する。この実施形態では、自動車に配線されるワイヤハーネスWを覆って保護することに用いられる電線保護材10を例示する。ここでいうワイヤハーネスWとは、導電性の金属からなる芯線が絶縁被覆で覆われてなる被覆電線や、この被覆電線が編組線などのシールド材で覆われてなるシールド電線などのことである。
【0016】
電線保護材10は、基材11をチューブ状に丸めた状態で加熱することにより自己巻き付け性を持たせたものである。すなわち、基材11は、当初フラットに成形されており、この基材11を図4に示すように丸めて円筒状をなす容器(図示せず)に入れた状態で加熱することによりチューブ状に巻回成形されたものが電線保護材10とされている。チューブ状に成形する際の加熱温度は、基材11を構成する熱硬化性樹脂30の融点以下とされている。
【0017】
基材11は、1枚の布帛20と、この布帛20を構成する単糸間に含浸させることで各単糸を互いに結合させる含浸結合剤とを備えて構成されている。この含浸結合剤としては、例えば酢酸ビニル系等の熱硬化性樹脂30が使用される。具体的には、基材11は、図2に示すように、布帛20に熱硬化性樹脂30を含浸させた状態とし、図3に示すように熱処理を行うと、熱硬化性樹脂30によって経糸22と緯糸23が互いに結合される。熱硬化性樹脂30の塗工量は、100g/m以下である。また、熱硬化性樹脂30の濃度は、固形分濃度で30%とされており、25%以上32%以下が好ましい。固形分濃度が50%〜60%にまで上げると、熱硬化性樹脂30を乳化分散することが困難になる。
【0018】
本実施形態における単糸とはポリエステルファイバ21であり、布帛20は、ともにポリエステルファイバ21からなる経糸22と緯糸23とを用い、経編緯糸挿入形式で編まれた編布からなる。基材11の厚みは、1.0mm以下である。経編緯糸挿入形式の編布とは、図1に模式的に示すように、経糸22を縦方向と横方向とにループRが連続した形態とし、緯糸23を横方向に並んだループRに挿通して形成された布である。
【0019】
複数のループRは、緯糸23が挿通されて横方向に並んだ緯糸ループ列RL1と、緯糸23が挿通されないで横方向に並んだ空きループ列RL2とからなり、両ループ列RL1,RL2が、縦方向に交互に並んで配設されている。また、電線保護材10は、同電線保護材10の巻き方向と緯糸ループ列RL1のループRに挿通された緯糸23の挿通方向とが直交するように基材11を巻回して熱成形したものである。換言すると、電線保護材10は、基材11に覆われたワイヤハーネスWの導出方向と緯糸ループ列RL1のループRに挿通された緯糸23の挿通方向とが同じとなるように巻回成形されている。チューブ状に巻回形成された電線保護材10は、主に、空きループ列RL2において経糸22が屈曲することで全体として丸みを帯びた形態とされている。
【0020】
より詳細には、経糸22は、熱融着性を有する複数本のポリエステルファイバ21を無撚り状態で纏めた糸からなり、この経糸22の太さとしては、22デシテックス(dtex)以上110デシテックス以下が好ましい。22デシテックス未満では、剪断強度が小さすぎ、逆に110デシテックスを超えると、剪断強度が大きくなりすぎる。
【0021】
緯糸23は、複数本のポリエステルファイバ21を仮撚加工したポリエステル仮撚加工糸からなり、この緯糸23の太さとしては、440デシテックス以上3300デシテックス以下が好ましい。440デシテックス未満であると、編布となった場合における曲げ剛性等の剛性が不足する。
【0022】
経糸22と緯糸23を接触させた状態で熱処理を行うと、経糸22と緯糸23は互いに熱溶着され、経糸22と緯糸23の接触部分を簡易的に密着させることができる。なお、上述したように、経糸22と緯糸23は、熱硬化性樹脂30によっても互いに結合される。
【0023】
上記した太さを持った経糸22と緯糸23とが経編緯糸挿入形式で編まれることで布帛20が形成されるが、さらにその密度は、経糸22側では、10〜30ウェール(wale:本)/インチが好ましく、また緯糸23側では、40〜60コース(coarse:本)/インチが好ましい。また、経糸22の太さが緯糸23の太さよりも小さいため、経糸22を緯糸23に絡ませた際の緯糸23の沈み込み量を緩和させることができる。したがって、布帛20の表面を平滑に形成することができる。
【0024】
本実施形態は以上のような構成であって、続いて電線保護材10をワイヤハーネスWに巻き付けて固定する方法について説明する。まず、チューブ状をなす電線保護材10をワイヤハーネスWに巻き付ける際には、電線保護材10自身が有する自己巻き付け力に抗して広げた状態とし、ワイヤハーネスWを覆うようにして巻き付けていく。この電線保護材10は、自己巻き付け性を有しているため、ワイヤハーネスWに巻き付けた状態に保持しやすく、図6に示すように、電線保護材10の両端部にテープ40を巻いて固定する。したがって、テープ40を巻き付けて固定するテープ巻き作業がしやすくなっている。
【0025】
以上のように本実施形態によると、以下の効果を奏することができる。
布帛20を構成するポリエステルファイバ21間に熱硬化性樹脂30が含浸されているため、電線保護材10が切断された際にその切断部において経糸22および緯糸23のほつれを防ぐことができる。詳細には、経糸22を構成するポリエステルファイバ21と緯糸23を構成するポリエステルファイバ21とが熱硬化性樹脂30によって単糸レベルで強固に結合しているため、経糸22および緯糸23がほつれることを防ぐことができる。したがって、電線保護材10の切断部をホットカット処理により熱融着しなくてもよい。
【0026】
また、電線保護材10を手で切る場合には、縦方向に隣り合う緯糸23,23の間、すなわち脆弱部である空きループ列RL2にて経糸22が選択的に切り裂かれることで電線保護材10が切断される。したがって、手切れ性に優れている。この場合、経糸22を構成するポリエステルファイバ21同士が熱硬化性樹脂30によって単糸レベルで強固に結合しているため、開環された空きループ列RL2にて経糸22がほつれることを防ぐことができる。
【0027】
さらに、開環された空きループ列RL2に隣り合う緯糸ループ列RL1は閉じたままであるため、この緯糸ループ列RL1から緯糸23が飛び出してほつれることを防ぐことができる。
【0028】
これらに加えて、経糸22の太さは、緯糸23の太さよりも小さいため、経糸22を緯糸23に絡ませた際の緯糸23の沈み込み量を緩和させることができる。このため、電線保護材10の表面を平滑に形成することができる。したがって、電線保護材10の両端部にテープ40を巻いて固定した際に、テープ40の電線保護材10に対する密着性を高めることができる。
【0029】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、経糸22が熱融着性を有している場合を例示したが、緯糸も含めて同特性を有していないものであってもよく、そのようなものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0030】
(2)上記実施形態では、1枚の布帛20で構成された基材11を例示しているものの、本発明によると、複数枚の布帛20を積層させた基材としてもよい。
(3)上記実施形態では、基材11に自己巻き付け性を持たせた電線保護材10をワイヤハーネスWに巻き付けているものの、本発明によると、自己巻き付け性を有しない基材11をワイヤハーネスWに巻き付けてもよい。
【0031】
(4)上記実施形態では、空きループ列RL2にて経糸22を切断しているものの、本発明によると、空きループ列RL2がない場合には、隣り合う緯糸ループ列RL1間で経糸22を切断してもよい。
(5)上記実施形態では、電線保護材10の巻き方向と緯糸23の挿通方向とが直交するように基材11をチューブ状に成形しているものの、本発明によると、電線保護材10の巻き方向と緯糸23の挿通方向とが同じとなるように基材11をチューブ状に成形してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10…電線保護材
11…基材
20…布帛
21…ポリエステルファイバ(単糸)
22…経糸
23…緯糸
30…熱硬化性樹脂(含浸結合剤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛と、この布帛を構成する単糸間に含浸させることで各単糸を互いに結合させる含浸結合剤とを備え、
前記布帛は、複数のループが縦方向と横方向とに並んで形成された経糸と、横方向に並んだ前記ループに挿通された緯糸とにより経編緯糸挿入形式で編まれており、前記経糸の太さは、前記緯糸の太さよりも小さいことを特徴とする基材。
【請求項2】
前記複数のループは、前記緯糸が挿通されて横方向に並んだ緯糸ループ列と、前記緯糸が挿通されないで横方向に並んだ空きループ列とからなり、両ループ列が縦方向に交互に並んで配設されていることを特徴とする請求項1に記載の基材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基材を、ワイヤハーネスを覆うチューブ状に巻回して熱成形したことを特徴とする電線保護材。
【請求項4】
前記基材の巻き方向と前記ループに挿通された前記緯糸の挿通方向とが交差するように前記基材を巻回成形したことを特徴とする請求項3に記載の電線保護材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117158(P2012−117158A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265212(P2010−265212)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】