説明

基材の被覆方法

【課題】基材上にフッ素系樹脂を含む塗膜を形成する際に、前記塗膜の前記基材に対する付着性を保持することができるような、新規な基材の被覆方法を提供する。
【解決手段】基材上に、アクリルシリコーン系塗料及びシランカップリング剤含有塗料の少なくとも一方の第1の塗料からなる第1の塗膜を形成する。次いで、前記第1の塗膜上に、フッ素樹脂、硬化剤、及びシリケート化合物を含む第2の塗料からなる第2の塗膜を形成する。または、基材上に、フッ素樹脂、硬化剤、シリケート化合物、及びシランカップリング剤を含む塗料からなる塗膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂を含有する塗料の硬化塗膜による、工業用、工業用途に利用される基材の被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、ガラス基材に対して、種々の機能を有する硬化塗膜を形成して、前記ガラス基材及び前記硬化塗膜からなる積層体を形成し、前記ガラス基材の透明性と前記硬化塗膜の特性とを利用することにより前記積層体を種々の工業用途に供している。特に、ガラス基材に対してフッ素系樹脂を含有させてなる塗膜を形成してなる積層体は、前記塗膜の低汚染性、耐候性及び光透過性等の特徴を考慮することにより、建築用の外壁や窓、サンルーム等に、また太陽電池モジュールの透明基板及び防眩膜としても使用されている。
【0003】
しかしながら、ガラス基材とフッ素系樹脂塗膜との密着性は十分でなく、前記フッ素系樹脂塗膜がガラス基材から剥離してしまうという問題が度々生じていた。
【0004】
このような問題に鑑み、特許文献1及び2においては、ガラス基材の、フッ素系樹脂塗膜を形成すべき面に対して界面処理剤を用いて界面処理を行い、この界面処理を実施した後の面上に上記フッ素系樹脂塗膜を形成することが開示されている。しかしながら、これらの文献中では単に界面処理剤を用いて界面処理を行うことが開示されているのみであって、前記界面処理剤の種類及び処理方法などの具体的な開示は全くなされていない。また、このような界面処理によって、ガラス基材とフッ素系樹脂塗膜との密着性がどの程度改善されるかなどについても何ら教示していない。
【0005】
したがって、上記特許文献1及び2を含めた従来の技術においては、ガラス基材上にフッ素系樹脂を形成する場合において、その密着性を改善させるような具体的な技術について何ら開示していないとともに、教示もしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−53315号公報
【特許文献2】特開2001−53317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、基材上にフッ素系樹脂を含む塗膜を形成する際に、前記基材と前記塗膜との密着性、すなわち前記塗膜の前記基材に対する付着性を保持することができるような、新規な基材の被覆方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明は、基材の被覆方法であって、基材上に、アクリルシリコーン系塗料及びシランカップリング剤含有塗料の少なくとも一方の第1の塗料からなる第1の塗膜を形成する工程と、前記第1の塗膜上に、フッ素樹脂、硬化剤、及びシリケート化合物を含む第2の塗料からなる第2の塗膜を形成する工程と、を具えることを特徴とする、基材の被覆方法(第1の被覆方法)に関する。
【0009】
また、本発明は、基材の被覆方法であって、基材上に、フッ素樹脂、硬化剤、シリケート化合物、及びシランカップリング剤を含む塗料からなる塗膜を形成する工程を具えることを特徴とする、基材の被覆方法(第2の被覆方法)に関する。
【0010】
上記第1の被覆方法によれば、基材上において形成されたフッ素樹脂を含む、いわゆるフッ素系樹脂からなる第2の塗膜と、前記基材との間に、アクリルシリコーン系塗料及びシランカップリング剤の少なくとも一方を含む第1の塗膜を形成している。アクリシリコーン系塗料及びシランカップリング剤は、基材と第2の塗膜との間に、前記基材表面の水酸基等及び前記第2の塗膜表面の水酸基等の官能基を介して強固なシロキサン結合を形成すると考えられる。したがって、上記第1の塗膜は密着性エンハンス層として機能し、上記基材に対する上記第2の塗膜の密着性を向上させることができるようになる。
【0011】
また、上記第2の被覆方法によれば、フッ素系樹脂中に直接シランカップリング剤を含有させている。したがって、この場合においては、フッ素系樹脂からなる塗膜が直接に基材の水酸基等と強固なシロキサン結合を形成するようになるので、前記塗膜と前記基材との密着性が向上するようになると考えられる。
【0012】
なお、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中に含まれる硬化剤は、これら塗膜を構成する主成分であるフッ素樹脂を硬化させるためのものであって、前記硬化剤の種類や含有量を適宜に調整することによって、これら塗膜の硬さ等を制御する事が出来る。
【0013】
さらに、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中に含まれるシリケート化合物は、これら塗膜に対して低汚染性を付与するためのものである。すなわち、これらの塗膜がシリケート化合物を含むことによって、空気中の水分とSi−OH基あるいはSi−O−Si結合を形成するようになるので、表面の親水性が増し、付着した汚れを水等で除去することができることに由来するものであると考えられる。
【0014】
また、本発明の一態様において、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中には、コストダウン等の目的で、非フッ素系樹脂を含有させることができる。
【0015】
さらに、本発明の一態様において、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜に対して紫外線吸収性を付与したい場合は、これら塗膜中に紫外線吸収剤を含有させることができる。また、前記塗膜に対して艶消し性を付与したい場合は、これら塗膜中に艶消し剤を含有させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、基材上にフッ素系樹脂を含む塗膜を形成する際に、前記基材と前記塗膜との密着性、すなわち前記塗膜の前記基材に対する付着性を保持することができるような、新規な基材の被覆方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0018】
(基材)
本発明で用いることのできる基材としては、ガラス基材、プラスチック、プラスチックフィルム及び金属等を挙げることができるが、このような基材を用いた場合において、上述した作用効果、すなわち、前記基材表面の水酸基等及び前記第2の塗膜表面の水酸基等の官能基を介して強固なシロキサン結合、あるいはフッ素系樹脂からなる塗膜が直接に基材の水酸基等と強固なシロキサン結合を形成するようになるので、基材とフッ素樹脂系樹脂からなる塗膜との密着性を向上させることができると考えられる。
【0019】
(フッ素樹脂)
フッ素樹脂は、本発明の被覆方法によって形成される、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜の主構成成分である。
【0020】
フッ素樹脂としては、フルオロオレフィン系共重合体が好ましい。フルオロオレフィン系共重合体は、フルオロオレフィンと、フルオロオレフィンと共重合可能な他の重合性単量体との共重合体である。他の重合性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
フルオロオレフィン系共重合体を構成するフルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニルなどの炭素数2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。
【0022】
フルオロオレフィン系共重合体中のフルオロオレフィンに基づく重合単位の割合は、充分な耐候性が得られる点から、20〜70モル%であることが好ましい。
【0023】
フルオロオレフィン系共重合体を構成する他の重合性単量体としては、ビニル系モノマー、すなわち、炭素−炭素二重結合を有する化合物が好ましい。ビニル系モノマーとしては、たとえばビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィンが例示される。
【0024】
ビニルエーテルとしては、シクロヘキシルビニルエーテルなどのシクロアルキルビニルエーテル;ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテルが例示される。
【0025】
アリルエーテルとしてはエチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアルキルアリルエーテルが例示される。
【0026】
カルボン酸ビニルエステルまたはカルボン酸アリルエステルとしては酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸などのカルボン酸のビニルエステルまたはアリルエステルなどが例示される。カルボン酸ビニルエステルとしては、分枝状アルキル基を有するカルボン酸のビニルエステルとして、市販品のベオバ−9、ベオバ−10(いずれもシェル化学社製、商品名)などを使用してもよい。
【0027】
オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、イソブチレンなどを例示することができる。また、フルオロオレフィン系共重合体は、後述の硬化剤と反応して架橋結合を形成できる官能基を有するフルオロオレフィン系共重合体が好ましい。官能基の種類は、硬化剤との組み合わせにより適宜選択できる。代表的な例としては、水酸基、カルボキシ基、加水分解性シリル基、エポキシ基、およびアミノ基などが例示される。
【0028】
官能基の導入方法としては、官能基を有するモノマーを上記他の共重合性単量体として用いて共重合させる方法、または重合後の重合体に対して前記モノマーを反応させることによって導入する方法が挙げられる。
【0029】
官能基を有するモノマーとしては、以下のものが例示される。
すなわち、水酸基を有するモノマーである、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル;2−ヒドロキシエチルアリルエーテルなどのヒドロキシアルキルアリルエーテル;またはヒドロキシアルキルクロトン酸ビニルなどの水酸基含有カルボン酸のビニルエステルまたはアリルエステルや、カルボキシ基を有するモノマーである、クロトン酸、ウンデセン酸などを挙げることができる。
【0030】
さらに、加水分解性シリル基を有するモノマーである、トリエトキシビニルシランや、エポキシ基を有するモノマーである、グリシジルビニルエーテル、グリシジルアリルエーテルや、アミノ基を有するモノマーである、アミノプロピルビニルエーテル、アミノプロピルビニルエーテルなどをも挙げることができる。
【0031】
重合後の反応によって官能基を導入する方法としては、たとえばカルボン酸ビニルエステルを共重合した重合体をケン化することにより水酸基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価カルボン酸またはその無水物を反応させてカルボキシ基を導入する方法、水酸基を有する重合体にイソシアネートアルキルアルコキシシランを反応させて加水分解性シリル基を導入する方法、水酸基を有する重合体に多価イソシアネート化合物を反応させてイソシアネート基を導入する方法などを挙げることができる。
【0032】
フルオロオレフィン系共重合体の好適な具体例としては、たとえばクロロトリフルオロエチレンと、シクロヘキシルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル又はヒドロキシアルキルビニルエーテルとの共重合体、クロロトリフルオロエチレンと、アルキルビニルエーテル又はアリルアルコールとの共重合体、クロロトリフルオロエチレンと、脂肪族カルボン酸ビニルエステル又はヒドロキシアルキルビニルエーテルとの共重合体を挙げることができる。なお、クロロトリフルオロエチレンの代わりにテトラフルオロエチレンを用いて、上述のような共重合体を形成することができる。これらの共重合体は、ルミフロン(旭硝子)、ゼッフル(ダイキン工業)、セフラルコート(セントラル硝子)などの商品名で市販されているものを使用できる。
【0033】
フルオロオレフィン系共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。フルオロオレフィン系共重合体の数平均分子量は2,000〜100,000が好ましく、6,000〜30,000がより好ましい。
【0034】
フッ素系樹脂の他に、フルオロオレフィン系共重合体以外の非フッ素樹系脂を、単独またはフルオロオレフィン系共重合体と共に用いてもよい。また、フッ素樹脂以外の樹脂としては、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂をフッ素樹脂と共に用いてもよい。このような非フッ素系樹脂は、例えばコストダウン等の目的で使用する。
【0035】
また、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜におけるフッ素樹脂の含量は、これら塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で30〜100%であることが好ましく、50〜100%であることがより好ましく、70〜100%であることが特に好ましい。フッ素樹脂の含量を上述した範囲に設定することにより、フッ素樹脂特有の効果である耐候性等を十分に奏することができるようになる。
【0036】
(硬化剤)
硬化剤は、塗膜を構成する主成分であるフッ素樹脂を硬化させるためのものである。フッ素樹脂の耐溶剤性、塗膜硬度等を発揮するため硬化剤を含むことはより好ましい。
【0037】
硬化剤としては、塗料用硬化剤として知られた種々の硬化剤が使用できる。硬化剤の具体例としては、アミノプラスト、尿素樹脂などのアミノ系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、ブロック多価イソシアネート系硬化剤などが例示される。常温硬化型の硬化剤を用いる場合には、塗布前に配合するのが好ましく、熱硬化型の硬化剤を用いる場合の配合時期は限定されない。
【0038】
硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、フッ素樹脂として自己硬化性の樹脂を用いる場合、硬化剤は用いなくてもよい。
【0039】
硬化剤の量は、その種類やフッ素樹脂の種類、さらには目的とする硬化速度に応じて選択することになるが、フッ素樹脂として、上述のような官能基を有するフルオロオレフィン共重合体を含むものを用いる場合は、硬化剤が有する硬化基の総モル数(以下、“硬化基モル数”と記す)と官能基を有するフルオロオレフィン系共重合体の総官能基モル数(以下、“官能基モル数”と記す)との比((硬化基モル数)/(官能基モル数)であり、以下、該比の値を“架橋点総数比”と記す)を、0.3以上とするのが好ましく、0.7以上とするのが特に好ましい。架橋点総数比を0.7以上とすることにより、上記フッ素樹脂が良好に硬化し耐溶剤性に優れた塗膜が得られる。該架橋点総数比の上限は特に限定されないが、塗膜中に未反応のイソシアネート基などの反応性基が残存することによる耐候性その他の性能への影響を考慮して、2.0以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。
【0040】
(シリケート化合物)
シリケート化合物は、第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜の表面の汚染を防止して美観を維持する効果を奏する。これは、空気中の水分とSi−OH基あるいはSi−O−Si結合を形成することによって、表面の親水性が増し、付着した汚れを水等で除去することができることに由来するものであると考えられる。
【0041】
シリケート化合物は下記式(1)で表されるようなものが好ましい
Si(OR) ・・・・(1)
(Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【0042】
(1)式中のRの炭素数が5を超えると、熱線反射性能を維持する効果が低下する傾向があることからRの炭素数は1〜5である。特に優れた熱線反射性能の維持効果が得られることから、Rは、炭素数1または2のアルキル基であることが好ましい。特に好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、またはそれらの部分縮合物である。
【0043】
シリケート化合物は、シリカ分が20〜60質量%であることが好ましい。シリカ分が少なすぎると低汚染性が低下し、多すぎると貯蔵安定性を損なうため好ましくない。シリカ分とは、上記シリケート化合物に対して、この化合物が100%加水分解縮合した場合に得られるシリカ(SiO)が占める割合である。
【0044】
シリケート化合物のフッ素樹脂に対する割合は、0.5〜60質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましい。シリケート化合物の含有量を上述の範囲とすることによって、熱線反射性能を維持する効果が向上し、泡、タレ、レベリングなどが発生を抑制して塗装性を向上させることができる。
【0045】
上記シリケート化合物は、従来から知られている塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸性触媒またはアルミニウムキレートなどの金属キレート化合物を促進剤として併用する事が出来る。
【0046】
(シランカップリング剤)
第1の被覆方法の第1の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中に含有させるシラン系カップリング剤としては、例えば一般式RSiR3−aで示されるシラン化合物を挙げることができる。式中、Rは塩素原子、アミノ基、アミノアルキル基、ウレイド基、グリシドオキシ基、エポキシシクロヘキシル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、メルカプト基及びビニル基から選ばれた少なくとも1種の官能性原子または基を有する炭素数1〜10のアルキル基またはビニル基である。
【0047】
このような官能性置換基を有するアルキル基としては、β−アミノエチル基、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、γ−ウレイドプロピル基、γ−グリシドオキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−アクリロイルオキシプロピル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基、β−クロロエチル基、γ−クロロプロピル基、γ−ビニルプロピル基などを例示できる。また官能性置換基を有するビニル基としては、例示した官能性置換基を有するアルキル基において、末端の位置するアルキル基をビニル基で置き換えたものを用いることができる。
【0048】
及びRはそれぞれ塩素原子、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数2〜15のアルコキシ置換アルコキシ基、炭素数2〜4のヒドロキシアルキルオキシ基及び炭素数2〜15のアシルオキシ基から選ばれた原子または基であり、aは0,1または2を表す。
【0049】
以上より、好適に用いられる上記シラン系の具体例としては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメチルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β−アミノエチル−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0050】
第1の被覆方法の第1の塗膜中に含有させるシラン系カップリング剤の量は、例えば、第1の被覆方法の第1の塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で0.001〜0.7%であることが好ましく、0.005〜0.2%であることがより好ましく、0.01〜0.1%であることが特に好ましい。
【0051】
なお、上記第1の塗膜をシランカップリング剤含有塗料などの塗料を用いて形成する場合、シランカップリング剤のみを溶剤で希釈して塗料として使用することが好ましい。この場合、前記シランカップリング剤をエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールで希釈して塗料として塗布することが好ましく、前記塗料中のシランカップリング剤の量を固形分として、質量%で0.01〜10%とすることが好ましく、0.05〜1.0%とすることがより好ましく、0.1〜0.5%とすることが特に好ましい。
【0052】
また、第2の被覆方法の塗膜中に含有させるシラン系カップリング剤の量は、上記同様の理由から、前記塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で0.001〜0.7%であることが好ましく、0.005〜0.2%であることがより好ましく、0.01〜0.1%であることが特に好ましい。シランカップリング剤の量が上記範囲内であると、ハジキ・タレ等の塗装外観が良好であるとともに、耐候性及び塗膜硬度なども向上するようになる。
【0053】
(アクリルシリコーン系塗料)
アクリルシリコーン系塗料は、−O−Si−O−結合で架橋したアクリル樹脂の硬化塗膜を形成し得る塗料である。このようなアクリルシリコーン系塗料としては、加水分解性シリル基を有する重合性単量体及び他の重合性単量体を共重合させたアクリル樹脂と加水分解性シリル基の反応触媒とを組み合わせたものが使用できる。また、加水分解性シリル基を含むまたは含まないアクリル系共重合体と、加水分解性シリル基を含む硬化剤とを組み合わせたものも使用できる。
【0054】
前記塗料の溶剤としては、キシレン、トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル等の従来から用いられている溶剤を使用することができる。
【0055】
また、前記塗料には、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を使用することができる。
【0056】
第1の被覆方法の第1の塗膜を形成する塗料としてアクリルシリコーン系塗料を用いる場合には、前記アクリルシリコーン系塗料を基材に塗布して第1の塗膜を形成する。
【0057】
第1の被覆方法の第1の塗膜を形成する際には、アクリルシリコーン系塗料にシランカップリング剤を添加した塗料を用い、これを基材に塗布して形成してもよい。この場合のシランカップリング剤の添加量は、前記塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で0.001〜0.7%であることが好ましく、0.005〜0.2%であることがより好ましく、0.01〜0.1%であることが特に好ましい。
【0058】
(紫外線吸収剤)
第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中に対して紫外線吸収性を付与したい場合は、これら塗膜中に紫外線吸収剤を含有させることができる。
【0059】
紫外線吸収剤としては、例えば芳香族エステル誘導体、ベンゾフェノン誘導体、シアノアクリレート系、ベンゾトリアゾール誘導体、ヒドロキシフェニルトリアジン系、置換アクリルニトリル誘導体などが必要に応じて使用できる。
【0060】
また、塗膜中における紫外線吸収剤の含有量は、前記塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で0.1〜20%であることが好ましく、さらには0.5〜10%であることが好ましい。紫外線吸収剤量を上記範囲に設定することによって、塗膜が着色や、塗膜の軟化などを防止して、紫外線を吸収する効果を向上させることができる。
【0061】
(艶消し材)
第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜中に対して艶消し性を付与したい場合は、これら塗膜中に艶消し剤を含有させることができる。
【0062】
塗膜の艶を消すためには、塗膜表面を凹凸にする事が有効であり、そのためには粒子状の充填材を塗料中に分散する手法が使用できる。したがって、上記艶消し剤としては、粒子状の充填剤、具体的には、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、炭酸カルシウム樹脂ビーズの粒子が挙げられる。中でも透明性と耐候性の観点からシリカ粒子が好ましい。
【0063】
また、塗膜中における艶消し剤の含有量は、前記塗膜を構成する樹脂の全量に対して質量%で0.1〜15%の範囲内で、求める艶の程度によって調整する事が出来る。好ましくは12%以内である。艶消し剤を上記範囲内に設定することによって、塗膜の柔軟性、耐薬品性、付着性、耐候性等を維持した状態で、塗膜の艶消し度合いを調整する事ができる。
【0064】
上記第1の塗膜及び第2の塗膜を形成するに際しては、常温乾燥法や加熱乾燥法を用いることができる。常温乾燥法は、塗膜を構成する所定の塗料を基材上に塗布した後、常温(室温)で放置乾燥して硬化させ、塗膜とする方法である。加熱乾燥法は、塗膜を構成する所定の塗料を基材上に塗布した後、常温より高い温度、例えば80℃程度の温度で放置乾燥して硬化させ、塗膜とする方法である。
【0065】
なお、上記組成物を基材上に塗布するに際しては、スプレー、ローラー、刷毛、ロールコーター、グラビアコーター、フローコーター、ナイフコーター等の方法を用いて塗布することができる。
【0066】
上記塗料を作製するに際しては、上述したフッ素樹脂等を、キシレン、トルエン、MIBK、MEK、酢酸ブチル等の溶媒に溶解させることによって得ることができる。この際、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を含有させることができる。
【実施例】
【0067】
<塗料の作成>
【0068】
主剤−1(第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜を構成する塗料の主剤−1)
クロロトリフルオロエチレン、シクロヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテルおよびヒドロキシアルキルビニルエーテルの共重合体であるフッ素樹脂ルミフロンLF−200[旭硝子社製、水酸基含有フルオロオレフィン系共重合体(水酸基価:52mgKOH/g)60質量%を含む有機溶剤溶液]60.0gにキシレン34.0g、紫外線吸収剤(共同薬品社製、Viosorb910)を3.0g加え、さらにジブチル錫ジラウリレートの0.0005gを加えて撹拌したものを主剤−1とした。
【0069】
主剤−2(第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜を構成する塗料の主剤−2)
主剤−1に固形分5%のアミノシラン化合物溶液であるNUCシリコーンプライマー AP−133(日本ユニカー社製)0.3gを加えて撹拌したものを主剤2とした。
【0070】
主剤−3(第1の被覆方法の第2の塗膜及び第2の被覆方法の塗膜を構成する塗料の主剤−3)
主剤−1にシリカ系艶消し剤ミズカシルP−526(水澤化学製)4.0gを加えて撹拌したものを主剤3とした。
【0071】
硬化剤−1
コロネートHX(日本ポリウレタン製、無黄変タイプイソシアネート系硬化剤)の31.0gにアルミキレートD(川研ファインケミカル社製、アルミニウムキレート化合物)を1.7g加えて混合し、さらに、MKCシリケートMS56S[三菱化学社製、シリカ分56質量%のメチルシリケート縮合物]を17.0g、キシレン50.3gを加えて混合したものを硬化剤1とした。
【0072】
硬化剤−2
コロネートHXの72gにキシレン28gを加えて混合したものを硬化剤2とした。
【0073】
下塗材−1(第1の被覆方法の第1の塗膜を構成する塗料の主剤−1)
固形分5%のアミノシラン化合物溶液であるNUCシリコーンプライマー AP-133(日本ユニカー社製)1.0gにイソプロピルアルコール30.0gを加えて下塗材−1を得た。
【0074】
下塗材−2(第1の被覆方法の第1の塗膜を構成する塗料の主剤−1)
アクリルシリコーン系クリヤー塗料であるTRシーラー(AGCコーテック)を使用した。
【0075】
下塗材−3(第1の被覆方法の第1の塗膜を構成する塗料の主剤−1)
グリシドキシプロピルトリメトキシシランZ−6040(東レ・ダウコーニング社製)1gをキシレン99gに加えて下塗材−3を得た。
【0076】
<試験体の作製>
【0077】
(実施例1)
ガラス板に、下塗材−2を乾燥膜厚で10μm塗布し、室温で24時間静置後に、主剤−1と硬化剤−1とを5:1(重量部)で混合した塗料を乾燥膜厚で15μm塗布して室温で10日間静置し、試験体Aを得た。この試験体Aに対して、次の評価試験を行った。
【0078】
〔外観観察〕
作製した試験体の塗膜外観を目視で観察した。異常が認められない場合は「異常なし」、異常が認められた場合はその現象を記録した。
〔付着性試験〕
JIS K 5600−5−6付着性(クロスカット法)に従い2mm間隔の切り込みを縦横各6本入れた後、テープで剥離試験を行った。試験結果はJISに従い、全くハガレの無い「0」から、65%以上の面積ではく離した「5」の6段階で示した。
〔耐水性試験〕
23℃水中に30日間浸漬した後の外観変化を観察した。また前記の付着性試験も併せて行った。
〔温冷繰り返し試験〕
作製した試験体をJIS A 6909−7−10の温冷繰り返し試験の条件に従い、23℃の水中に18時間浸漬した後、−20℃の恒温器中に3時間冷却し、次いで50℃の恒温器中で3時間加温する繰り返し条件を1サイクルとして、30サイクル行った後、外観観察及び付着性試験を行った。
〔耐沸騰水性試験〕
沸騰水中に試験体を8時間浸漬した後の、外観観察及び付着性試験を行った。
【0079】
(実施例2)
試験体Aの下塗材−2を使用する代わりに、下塗材−3を1mあたり40g塗布した以外は試験体Aと同様の方法で試験体を作製し、試験を実施した。
【0080】
(比較例1)
実施例1の下塗材−2を塗布する工程を省いた以外は実施例1と同様の方法で試験体を作製し、試験を実施した。
【0081】
(実施例3)
白色ガラスに、下塗材−2を乾燥膜厚で10μm塗布し、80℃で1時間乾燥後に、主剤−1と硬化剤−1とを5:1(重量部)で混合した塗料を乾燥膜厚で15μm塗布して80℃で2時間乾燥した。得られた試験体Bに対し、次の試験を行った。
【0082】
〔外観観察〕
作製した試験体の塗膜外観を目視で観察した。異常が認められない場合は「異常なし」、異常が認められた場合はその現象を記録した。
〔付着性試験〕
JIS K 5600−5−6付着性(クロスカット法)に従い、1mm間隔の切り込みを縦横各11本入れた後、テープで剥離試験を行った。試験結果はJISに従い、全くハガレの無い「0」から、65%以上の面積ではく離した「5」の6段階で示す。
〔耐沸騰水性試験〕
沸騰水中に試験体を12時間浸漬した後の、外観観察及び付着性試験を行った。
〔接触角測定〕
FACE接触角計 CA−A型(協和界面化学社製)を使用して、イオン交換水および流動パラフィン(関東化学社製、鹿1級、比重15/15℃ 0.870〜0.890)の液滴をそれぞれ0.005ミリリットルに調整して、接触角を測定した。
〔曝露試験〕
試験体Bを千葉県松戸市内で水平線から30度傾けて南面に向けて1年間暴露した後の汚染状況を目視で観察し、著しく汚染した場合を×、殆ど汚染が無い場合を○、その中間を△で記録した。
【0083】
(実施例4)
白色ガラスに、主剤−2と硬化剤−1とを5:1(重量部)で混合した塗料を乾燥膜厚で15μm塗布して80℃で2時間乾燥した。得られた試験体Cに対し、実施例3と同様の試験を行った。
【0084】
(実施例5)
実施例3の主剤−1を使う代わりに主剤−3へ置き換えた以外は、実施例3と同様の方法で試験体を作製し、試験を実施した。
【0085】
(実施例6)
実施例3の下塗材−2を塗布する代わりに下塗材−1を塗布して室温で20分乾燥させた事以外は、実施例3と同様の方法で試験体を作製し、試験を実施した。
【0086】
(比較例2)
実施例3の下塗材−2を塗布して加熱乾燥する工程を省いた以外は実施例3と同様の方法で試験体を作製し、試験を実施した。
【0087】
(比較例3)
実施例3の主剤1と硬化剤1を5:1(重量比)で調合する代わりに、主剤1と硬化剤2を15:1(重量比)で混合した事以外は実施例3と同様の方法で行った。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
以上、表1及び表2から明らかなように、本発明に従った実施例においては、上述した外観観察結果も良好であり、塗膜の付着性にも優れることが判明した。また、耐水性試験、耐沸騰水性試験後においても、外観は良好であり、塗膜の付着性も優れることが判明した。さらに、暴露試験においてもほとんど汚染が認められず、接触角にも優れ、比較的高い親水性を有することが判明した。すなわち、試験体の汚染の度合いは、試験体の親水性にある程度依存することが分かる。
【0091】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の被覆方法であって、
基材上に、アクリルシリコーン系塗料及びシランカップリング剤含有塗料の少なくとも一方の第1の塗料からなる第1の塗膜を形成する工程と、
前記第1の塗膜上に、フッ素樹脂、硬化剤、及びシリケート化合物を含む第2の塗料からなる第2の塗膜を形成する工程と、
を具えることを特徴とする、基材の被覆方法。
【請求項2】
前記第2の塗料中に含まれるシリケート化合物は、下記式(1)で表わされる化合物、又は式(1)で表わされる化合物の部分縮合物であることを特徴とする、請求項1に記載の基材の被覆方法
Si(OR) ・・・・(1)
(Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【請求項3】
前記第2の塗料は、非フッ素系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の基材の被覆方法。
【請求項4】
前記第2の塗料は、紫外線吸収剤及び艶消し剤の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の基材の被覆方法。
【請求項5】
前記第1の塗膜及び前記第2の塗膜の少なくとも一方は、常温乾燥法によって形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の基材の被覆方法。
【請求項6】
前記第1の塗膜及び前記第2の塗膜の少なくとも一方は、加熱乾燥法によって形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の基材の被覆方法。
【請求項7】
基材の被覆方法であって、
基材上に、フッ素樹脂、硬化剤、シリケート化合物、及びシランカップリング剤を含む塗料からなる塗膜を形成する工程を具えることを特徴とする、基材の被覆方法。
【請求項8】
前記塗料中に含まれるシリケート化合物は、下記式(2)で表わされる化合物、又は式(2)で表わされる化合物の部分縮合物であることを特徴とする、請求項6に記載の基材の被覆方法
Si(OR) ・・・・(2)
(Rは、水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を示し、互いに同一でも異なっていてもよい。)。
【請求項9】
前記塗料は、非フッ素系樹脂を含むことを特徴とする、請求項7又は8に記載の基材の被覆方法。
【請求項10】
前記塗料は、紫外線吸収剤及び艶消し剤の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載の基材の被覆方法。
【請求項11】
前記塗膜は、常温乾燥法によって形成することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載の基材の被覆方法。
【請求項12】
前記塗膜は、加熱乾燥法によって形成することを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載の基材の被覆方法。

【公開番号】特開2011−98282(P2011−98282A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254335(P2009−254335)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000116954)AGCコーテック株式会社 (24)
【Fターム(参考)】