説明

基材への無機材料付与による表面改質方法及び装置

【課題】様々な材料からなる基材表面を改質することができる表面改質方法及び装置を提供する。
【解決手段】セラミックスから溶出された無機材料を含む粒子が生成された処理溶液3を電解して粒子を帯電させた後、基材1表面に付与して乾燥させることで無機材料を固着させる。無機材料が固着した基材1表面は、親水性、防汚染性、反射防止特性といった様々な特性を備えるように改質処理される。例えば、ホウ酸シリカ水を電解してステンレス板の表面に電着させてシリカ等の無機材料を固着させることで、親水性及び防汚染性を有するように改質処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、金属、プラスチック等の基材に無機材料を付与して表面を改質する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面に別の材料を付与して改質することで、親水性、防汚染性、耐久性、光の反射防止特性等を持たせたり、またそうした特性を向上させる表面改質技術が開発されている。例えば、特許文献1では、トルマリンを含有するセラミックス及びマグネシアセラミックスに通水して帯電したホウ酸シリカを含む弱アルカリ性のホウ酸シリカ水を生成し、生成したホウ酸シリカ水を自動車等の表面に高圧で吹き付けて保護膜を形成する点が記載されている。
【0003】
また、特許文献2では、焼成した陶磁器質基体表面にシリカ及び結合用珪酸質物質を含有する液粒を塗付し、高温で熱処理することにより結合用珪酸質物質を珪酸質バインダーとしてシリカ微粒子を結合した微細粗面を有する親水性の微細多孔防汚層を基体外面に持つ構造体の製造方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献3では、疎水化処理シリカゲルを含む分散物を超音波照射して疎水化シリカ含有ゾルを調製し、得られた疎水化シリカ含有ゾルを超音波照射時間の長いものから順にディップコートし、乾燥及び焼成して複数の多孔質層を形成した反射防止膜の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−325964号公報
【特許文献2】特許第3847048号公報
【特許文献3】特許第4497460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された成膜方法では、セラミックス担体にトルマリン含有被膜を形成した粒子を用いているため、こうした粒子を予め製造する必要があり、また生成されるホウ酸シリカ水の濃度やpHを変更することが困難であるといった課題がある。また、特許文献2及び3に記載された製造方法では、高温で熱処理するため、基体の材料として高温に弱い材料の場合に適用することができない、といった難点がある。
【0007】
そこで、本発明は、様々な材料からなる基材表面を改質することができる表面改質方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る表面改質方法は、無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を電解した後基材表面に付与して乾燥させることで無機材料を基材表面に固着させることを特徴とする。さらに、前記処理液をめっき液として用い、金属材料からなる前記基材を電極として用いて、めっき処理により前記無機材料を前記基材表面に固着させることを特徴とする。さらに、無機材料を含む粒子が生成された処理溶液をノズルから噴射して帯電させた後基材表面に衝突させて無機材料を基材表面に固着させることを特徴とする。さらに、前記無機材料を含有するセラミックス担体を水に浸漬して前記処理溶液を調製することを特徴とする。さらに、前記無機材料を含有するセラミックスからなる水槽を用いて前記処理溶液を調製することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る表面改質装置は、無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を収容する容器と、金属材料からなる基材を電極として用いて前記処理溶液中に浸漬した状態で通電することにより当該基材表面に前記無機材料を付着させる付着処理手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る別の表面改質装置は、無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を収容する容器と、前記処理溶液中に電極を浸漬した状態で通電するとともに絶縁材料からなる基材を浸漬させて当該基材表面に前記無機材料を付着させる付着処理手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るさらに別の表面改質装置は、無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を基材表面に向かって噴射させる噴射手段と、噴射された前記処理溶液を帯電させる帯電手段とを備え、帯電させた前記処理溶液を前記基材表面に衝突させて固着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のような構成を有することで、無機材料を含む粒子を帯電させた状態で基材表面に付与して無機材料を固着させることができ、様々な材料からなる基材表面を無機材料により改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る表面改質方法を実施するための装置構成に関する概略断面図である。
【図2】本発明に係る表面改質方法を実施するための別の装置構成に関する概略断面図である。
【図3】本発明に係る表面改質方法を実施するための装置に関する概略構成図である。
【図4】実施例1における改質処理した基材表面の撮影写真である。
【図5】実施例1における未処理の基材表面の撮影写真である。
【図6】実施例1におけるEDXの分析結果を示すグラフである。
【図7】実施例1における反射率の測定結果を示すグラフである。
【図8】実施例2におけるEDXの分析結果を示すグラフである。
【図9】実施例2におけるEDXの分析結果を示すグラフである。
【図10】実施例2における反射率の測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例2における反射率の測定結果を示すグラフである。
【図12】実施例3における反射率の測定結果を示すグラフである。
【図13】実施例3における改質処理した基材表面の撮影写真である。
【図14】実施例3における未処理の基材表面の撮影写真である。
【図15】実施例4における反射率の測定結果を示すグラフである。
【図16】実施例5における改質処理した基材表面の撮影写真である。
【図17】実施例6における未処理の基材表面の撮影写真である。
【図18】浸漬した場合の処理溶液のpH及びORPの時間的推移を示すグラフである。
【図19】撹拌した場合の処理溶液のpH及びORPの時間的推移を示すグラフである。
【図20】電解した場合の処理溶液のアルカリ性側のpH及びORPの時間的推移を示すグラフである。
【図21】電解した場合の処理溶液の酸性側のpH及びORPの時間的推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。
【0015】
本発明に用いられる基材としては、金属材料、樹脂材料、非晶質材料といった様々な固体材料が挙げられるが、特に限定されない。また、基材の形態についても、板状、ブロック状、線状といった様々な形状のものでも適用することができ、特に限定されない。
【0016】
本発明に用いる無機材料は、溶液中で帯電する非金属無機材料が好ましく、また親水性、防汚染性、反射防止特性といった様々な特性を備えるものがよい。例えば、シリカ、マグネシア、ジルコニア、パラジウム、ゲルマニウムといったものが挙げられる。
【0017】
こうした無機材料を含む粒子を溶液中に生成する場合、無機材料を含むセラミックスを水等の溶媒に浸漬して無機材料を溶出させてゾル状の粒子を生成することができる。無機材料を溶出させるセラミックスは、溶液中に投入可能なように球状等のブロック体に形成して用いてもよく、また溶液を収容する容器自体をこうしたセラミックスで作製して用いてもよい。
【0018】
セラミックスとしては、シリカ系セラミックス、ホウ砂系セラミックス、トルマリン系セラミックス、ジルコニアセラミックス、ゲルマニウムセラミックスといったものが挙げられる。
【0019】
無機材料を含む粒子を生成する処理溶液は、上述したように、水等の溶媒に固形のセラミックスを投入することで調製することができるが、粒子の濃度は、処理溶液にセラミックスを浸漬する時間又は溶液の撹拌等により適宜調整することができる。
【0020】
また、上述した処理溶液の調製方法では、固形のセラミックスを用いているが、それ以外にパラジウム等の金属添加物の追加といった方法で調製することもできる。
【0021】
図1は、本発明に係る表面改質方法を実施するための装置構成に関する概略断面図である。この例では、基材として金属材料を用いた場合に電気めっき処理により基材表面に処理溶液中の無機材料を含む粒子を電着させることで、基材表面の改質処理を行う。この例では、処理溶液として、例えば、特許文献1に記載されているホウ酸シリカ水のように、無機材料を含む粒子が予め電解されて帯電したものが準備される。
【0022】
表面改質処理を行う基材1を電極として用い、処理溶液3を収容する容器2がもう一つの電極を兼ねている。そして、基材1と容器2との間を仕切るように円筒状の公知のイオン交換体4が容器2内に設けられている。そして、基材1及び容器2を定電圧供給装置5に電気的に接続して、両者の間に電流を流すように制御する。
【0023】
上述したホウ酸シリカ水を処理溶液として用いた場合には、処理溶液中のホウ酸シリカを含む粒子は正帯電するようになるため、基材1を陰極として用いる陰極めっき法により電気めっき処理を行う。この場合、ホウ酸シリカを含む粒子は基材表面に電気エネルギーにより物理的に吸着した後(還元による析出)化学的な吸着が生じてシリカ(二酸化ケイ素)が基材表面に固着されると推測される。
【0024】
こうして無機材料を含む粒子を電気めっき処理により基材表面に付与して乾燥させることで、基材表面を改質処理することができる。また、処理溶液中の無機材料を含む粒子の濃度を高めることで、基材表面に付着する粒子の膜厚を厚くすることも可能である。
【0025】
上述したホウ酸シリカ水による改質処理では、親水性の向上及び防汚染性の向上が確認されており、さらに光の反射防止性についても特定波長の反射率の減少が確認されている。
【0026】
図2は、本発明に係る表面改質方法を実施するための別の装置構成に関する概略断面図である。この例では、基材として絶縁材料を用いた場合に、セラミックスから溶出した無機材料を含む粒子を電解して基材表面に付与するようにしている。
【0027】
溶媒となる水を収容した浴槽10内をセラミックスからなる仕切り部材11で仕切り、2つの室A及びBを画定する。そして、室A内には電極板12が配置され、室B内には電極板13が配置されており、電極板12が直流電源14の負極側端子に接続され、電極板13が正極側端子に接続されている。絶縁材料からなる基材15は、室A又は室Bのいずれか一方に浸漬した状態で配置される。この例では、室A側に基材15が配置されている。
【0028】
仕切り部材11を構成するセラミックスからは、無機材料を含む粒子が水中に溶出し、ゾル状に水中に分散された状態の処理溶液が生成されるようになる。そして、電極板12及び13の間に電圧を印加することで溶出した粒子が電解して帯電するようになり、また、水の電解が進むことで、室A内の処理溶液がアルカリ性を帯びるようになり、室B内の処理溶液が酸性を帯びるようになる。そして、絶縁材料からなる基材の表面電位と粒子のゼータ電位との中和作用及び基材表面の濡れ性(メニスカス力)の作用によって粒子が基材表面に吸着されてゲル状に析出するようになる。
【0029】
上述したホウ酸シリカ水を生成するセラミックスを用いた場合、ホウ酸シリカを含む粒子は正帯電して室A側にゾル状に分散した状態となり、室A側に配置された基材15の表面にホウ酸シリカを含む粒子が吸着してゲル化して析出し、膜状に生成されるようになる。
【0030】
こうして基材表面に生成された無機材料を含むゲル状の膜を乾燥させることで、基材表面を改質処理することができる。また、処理溶液中の無機材料を含む粒子の濃度調整及び酸性側及びアルカリ性側の室のpH調整を行うことで、基材表面に付着する粒子の膜厚や付着量を調整することも可能である。
【0031】
また、基材を酸性側又はアルカリ性側のどちらに配置するかは材料特性に応じて決定すればよい。金属等の誘電率の高い材料の場合には酸性側に配置し、ガラス及びポリカーボネート等の誘電率の低い材料の場合にはアルカリ性側に配置すればよい。
【0032】
図3は、本発明に係る表面改質方法を実施するための別の装置に関する概略構成図である。この例では、クラスターイオン蒸着方法を応用して処理溶液から無機材料を含む粒子のクラスターを生成してイオン化し、帯電したクラスターを基材表面に衝突させることで粒子を付与するようにしている。
【0033】
無機材料を含む粒子が生成した処理溶液に高圧を印加し、ノズル20から噴出することで断熱膨張が生じ、粒子がファンデルワールス力により結合してクラスターCを生成する。生成されたクラスターCは、スキマー21を通過してイオン化部22に導入され、イオン化部22において高速の電子がクラスターCに衝突してイオン化されて正帯電するようになる。帯電したクラスターCは照射部23に形成された電界により加速されて基材24の表面に衝突して粒子が付与され、衝突する際に生じる電子励起、内部エネルギー及び熱エネルギーの作用により粒子と基材との間の化学反応が生じるとともに脱水され、基材表面に無機材料が固着して改質処理が行われる。
【0034】
上述した例では、噴射したクラスターをイオン化して帯電させて基板表面に衝突させるようにしているが、磁力を用いて基板表面に衝突させるようにすることもできる。この場合には、予め無機材料を含む粒子を帯電させた処理溶液を高圧ガスを用いて噴射させて公知の磁気ノズルを通過させる。そして、磁気ノズルに発生する磁界により噴射させた帯電粒子を収束させて回転エネルギーを増加させて加速し、基材表面に衝突させる。衝突の際に、上述したように粒子と基材との化学反応が生じるとともに脱水されて、基材表面に無機材料が固着して改質処理される。
【0035】
このように、処理溶液を噴射させて基材表面に衝突させることで、基材表面に付着した不純物等の汚れを洗浄することができ、洗浄した表面に無機材料を固着させるため基材表面を確実に改質処理することが可能となる。
【0036】
以上説明したように、無機材料を含む粒子を帯電させて基材表面に付与して固着することで、様々な材料からなる基材の表面を無機材料により改質処理することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
<実施例1>
株式会社エヌエム製イオン洗浄機(製品名;ウォーターコートW−05)を用いて、株式会社エヌエム製の2種類のセラミックス(製品名;NMセラミックス及びマグネシアセラミックス)に通水してホウ酸シリカ水を調製し、処理溶液として用いた。
【0039】
そして、図1に示す装置を用いて基材表面の改質処理を行った。アルミニウム製の容器内をイオン交換体で仕切り、処理溶液(pH6.8)を投入した。イオン交換体の内側に基材としてSUS304からなる板材を浸漬した状態で配置した。そして、定電圧装置の負極側に基材を接続するとともに正極側に容器を接続し、両電極間に電圧12Vで7時間通電した。通電後基材を取り出して乾燥させた。
【0040】
改質処理した基板表面を光学顕微鏡(キーエンス社製VH−6300)で観察した。基材表面の撮影写真を図4に示す。比較のため図5に未処理の基材表面を撮影した写真を示す。これらの撮影写真を比較すると、改質処理された基材表面では、多数のランダムな島状の模様が観察されており、改質処理により基材表面全体に変化がみられる。
【0041】
処理した基材表面をエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて定性分析を行った。分析結果を図6に示す。実線が処理した基材表面の分析結果で、点線が未処理の基材表面の分析結果である。これらの分析結果をみると、炭素(C)、マグネシウム(Mg)及びケイ素(Si)に対応する成分の増加が認められる。こうした成分の増加は、処理溶液中に含まれる酸化物(SiO2、MgO)の粒子が基材表面に付与されたことによるものと考えられる。すなわち、粒子は正に帯電するため、陰極である基材表面に析出して電着するようになるが、電着したMgOは空気中のCO2と中和して炭酸塩が形成され、その中和熱によりSiO2の粒子が縮合して結晶化することで基材表面に固着するようになると考えられる。
【0042】
改質処理した基材表面は、上記のイオン洗浄機で洗浄した基材表面と同様に親水性を有しており、親水性を有することで水の膜が表面に形成されるようになって汚れ落ち効果が高まり、未処理の基材表面に比べて防汚染性が向上していることが確認された。
【0043】
また、改質処理した基材表面について紫外・可視分光光度計(株式会社日立製作所製U−4100)を用いて反射率の測定を行った。測定結果を図7に示す。測定結果をみると、反射率は波長500nmでピークがあり、その前後で反射率の減少がみられる。したがって、特定波長に対して反射率が低下する反射防止特性を有することがわかる。
【0044】
<実施例2>
実施例1と同様に、SUS304からなる板材を浸漬して、両電極間に印加する電圧条件を以下のように変更して行った。
条件1;電圧12V、通電時間0.5時間
条件2;電圧6V、通電時間7時間
それぞれの電圧条件で処理した基材について、EDXによる分析結果を図8(条件1)及び図9(条件2)に示す。また、処理した基材に関する反射率の測定結果を図10(条件1)及び図11(条件2)に示す。
【0045】
条件1では、反射率は実施例1と同様に250nm付近で最小値となるが、500nmでのピークはみられない。EDX分析結果をみると、Mgが検出されておらず、反射率に対するMgの有無による影響が窺われる。条件2では、実施例1と同様に250nm付近で最小値となり、500nm付近でピークがみられる。そして、実施例1に比べてピークでの値が増加しており、可視光域での反射率がさらに減少していることがわかる。EDX分析結果をみると、Si及びMgの検出量が実施例1に比べて増加しており、基材表面に膜が厚く成膜されたと考えられる。
【0046】
以上の実験結果から、印加する電圧、通電時間、処理溶液の濃度及びpHを変化させることで、基材表面に形成する膜の特性及び厚さを調整することが可能であり、膜の特性及び厚さを調整することで基材表面の反射防止特性を調整することができると考えられる。
【0047】
<実施例3>
図2に示す装置を用いて基材表面の改質処理を行った。絶縁材料からなる浴槽内をセラミックス(材料;リン酸カルシウム(アパタイト))からなる仕切り部材で2つの室に仕切り、2つの室にアルミニウム製電極板及びステンレス(SUS304)製電極板を配置し、直流電源の正極側をアルミニウム製電極板に接続し、負極側をステンレス製電極板に接続した。そして、浴槽内に、実施例1と同様に調整したホウ酸シリカ水を投入してセラミックスを浸漬した状態とした。浴槽内の溶液のpHは定常状態でpH6.55であった。次に、両電極板の間に電圧12Vを印加して、負極側の室のpHが5.02、正極側の室のpHが9.05となるまで溶液を電解した。電解後、負極側であるステンレス製電極板が浸漬した室にポリカーボネートからなる基材を浸漬した状態に配置し、両電極板の間に電圧1.4Vで1時間通電した。電圧印加後基材を引き上げて乾燥させた。次に、ポリカーボネートからなる別の基材を用いて今度は正極側であるアルミニウム製電極板が浸漬した室に基材を浸漬して同様に改質処理を行った。
【0048】
得られた2枚の基材について紫外・可視分光光度計を用いて反射率の測定を行った。測定結果を図12に示す。ポリカーボネートからなる基材では、アルカリ性側(ステンレス製電極板側)よりも酸性側(アルミニウム製電極板側)の方が図7に示す測定結果と同様の反射率の減少傾向がみられ、特定波長に対する反射防止特性を備えていることがわかる。したがって、ポリカーボネートの場合には、酸性側で改質処理することで好ましいと考えられる。
【0049】
酸性側で改質処理した基板表面を光学顕微鏡で観察した。基材表面の撮影写真を図13に示す。比較のため図14に未処理の基材表面を撮影した写真を示す。これらの撮影写真を比較すると、改質処理された基材表面では、図4と同様に多数のランダムな島状の模様が観察されており、ステンレスの基材と同様の改質処理が行われたことがわかる。
【0050】
<実施例4>
実施例3と同様の装置及び溶液を用いて両電極板に電圧12Vを印加して、負極側の室のpHが6.70、正極側の室のpHが7.12となるまで溶液を電解した。電解後、負極側の室に透明ガラスからなる基材を浸漬した状態に配置し、両電極板の間に電圧1.4Vで7時間通電した。電圧印加後基材を引き上げて乾燥させた。次に、透明ガラスからなる別の基材を用いて今度は正極側の室に基材を浸漬して同様に改質処理を行った。
【0051】
得られた2枚の基材について紫外・可視分光光度計を用いて反射率の測定を行った。測定結果を図15に示す。透明ガラスからなる基材では、アルカリ性側及び酸性側のいずれも同様の反射率の減少傾向を示している。アルカリ性側及び酸性側の室のpHにあまり違いがないため同様の傾向が生じたものと考えられるが、ガラスの場合には中性領域でも表面改質処理を行うことができることがわかる。なお、紫外域で反射率が増加するのは、基材であるガラスの特性(石英などに比べて紫外線の透過率が悪い)によるものと考えられる。
【0052】
酸性側で改質処理した基板表面を光学顕微鏡で観察した。基材表面の撮影写真を図16に示す。比較のため図17に未処理の基材表面を撮影した写真を示す。これらの撮影写真を比較すると、改質処理された基材表面では、未処理の表面にはない多数のランダムな模様が観察されており、ステンレスの基材の場合と同じような改質処理が行われたことがわかる。
【0053】
以上の実験結果をみると、ポリカーボネート及び透明ガラスからなる基材に特定波長に対する反射防止特性を持たせることができることから、透過率の高いポリカーボネートや透明ガラスを用いる太陽電池の反射防止体として好適である。すなわち、太陽電池の変換効率のよい光波長に合わせて反射防止特性を持たせたポリカーボネートや透明ガラスからなる反射防止体を使用することで、変換効率を向上させることができ、また、上述したように、防汚染性を備えることから、表面の汚れによる変換効率の低下を抑止することも可能となる。
【0054】
<処理溶液の調製>
[浸漬及び撹拌による調製]
マグネシアセラミックス(約0.57g)及びNMセラミックス(約5.1g)を1:9の割合で配合したものを純水(50g)に投入して、浸漬又は撹拌した場合のpH及び酸化還元電位(ORP)を測定した。測定結果を図18(浸漬)及び図19(撹拌)に示す。浸漬した場合には、pHは8.5付近、ORPは200mV付近で定常状態になることがわかる。また、撹拌した場合には、pHは7付近、ORPは250mV付近で定常状態になることがわかる。したがって、浸漬及び撹拌の処理操作(時間、速度等)を調整すれば、pHを7〜8.5付近の弱アルカリ性領域、ORPを200〜250mVの領域に処理溶液を調製することが可能となる。
[電解による調製]
初期条件が同じ(pH7.56、ORP249mV)のホウ酸シリカ水を使用して、図2に示す装置により電圧12Vで電解し、負極側の室及び正極側の室のpH及びORPの時間的な推移を測定した。測定結果を図20(負極側;アルカリ性側)及び図21(正極側;酸性側)に示す。アルカリ性側の室ではpHは9付近まで増加し、ORPは150mV付近まで減少した。また、酸性側の室ではpHは5.5付近まで減少し、ORPは270mV付近まで増加した。したがって、浸漬及び撹拌による調製よりも広い範囲で調製することができ、様々な材料に対応して処理溶液を調製することが可能となる。そして、こうした処理溶液を用いて表面改質処理を行うことで、幅広い種類の材料の表面改質が可能となりその処理効率を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る表面改質方法は、金属材料、樹脂材料、ガラス材料といった様々な材料の表面を改質処理することが可能で、幅広い技術分野で用いることができる。例えば、様々な材料表面や製品表面を改質処理することで、防汚染性、耐食性、耐久性、静電防止性、光反射特性等の機能性の高い製品を提供するほか、様々な材料の表面にメッキや塗装等の表面処理を行う際の前処理として用いることで、メッキや塗装を行う表面の均一性が向上し、メッキや塗装等により形成した表面層の密着力が向上し、強度及び耐久性を高めることができる。また、メッキや塗装等が付着しにくい材料へのメッキや塗装等への利用が可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 基材
2 容器
3 処理溶液
4 イオン交換体
5 定電圧供給装置
10 浴槽
11 仕切り部材
12 電極板
13 電極板
14 直流電源
15 基材
20 ノズル
21 スキマー
22 イオン化部
23 照射部
24 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を電解した後基材表面に付与して乾燥させることで無機材料を基材表面に固着させることを特徴とする表面改質方法。
【請求項2】
前記処理液をめっき液として用い、金属材料からなる前記基材を電極として用いて、めっき処理により前記無機材料を前記基材表面に固着させることを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
【請求項3】
無機材料を含む粒子が生成された処理溶液をノズルから噴射して帯電させた後基材表面に衝突させて無機材料を基材表面に固着させることを特徴とする表面改質方法。
【請求項4】
前記無機材料を含有するセラミックス担体を水に浸漬して前記処理溶液を調製することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の表面改質方法。
【請求項5】
前記無機材料を含有するセラミックスからなる水槽を用いて前記処理溶液を調製することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の表面改質方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の表面改質方法により表面が改質されて特定波長の光の反射率が減少した反射防止特性を有することを特徴とする反射防止体。
【請求項7】
請求項6に記載の反射防止体を備えた太陽電池。
【請求項8】
無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を収容する容器と、金属材料からなる基材を電極として用いて前記処理溶液中に浸漬した状態で通電することにより当該基材表面に前記無機材料を付着させる付着処理手段とを備えることを特徴とする表面改質装置。
【請求項9】
無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を収容する容器と、前記処理溶液中に電極を浸漬した状態で通電するとともに絶縁材料からなる基材を浸漬させて当該基材表面に前記無機材料を付着させる付着処理手段とを備えることを特徴とする表面改質装置。
【請求項10】
無機材料を含む粒子が生成された処理溶液を基材表面に向かって噴射させる噴射手段と、噴射された前記処理溶液を帯電させる帯電手段とを備え、帯電させた前記処理溶液を前記基材表面に衝突させて固着させることを特徴とする表面改質装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図15】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2012−126956(P2012−126956A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278907(P2010−278907)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 2010年度年次大会 主催者名 社団法人日本機械学会 開催日 平成22年9月5日〜8日 発行者名 社団法人日本機械学会 刊行物名 No.10−1 2010年度年次大会講演論文集(4) 発行年月日 平成22年9月4日〔刊行物等〕 研究集会名 トライボロジー会議2010秋 福井 主催者名 社団法人日本トライボロジー学会 開催日 平成22年9月14日〜17日 発行者名 社団法人日本トライボロジー学会 刊行物名 トライボロジー会議予稿集 福井 2010−9 発行年月日 平成22年9月1日
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(501049719)株式会社エヌエム (1)
【Fターム(参考)】