説明

基材への繊維の固着方法及び積層シート体

【課題】フィルムや織物等に極細繊維からなる不織布等を固着する必要性がある。例えば、人工血管のように、血圧や体の動きによる伸縮に耐えうる柔軟性と強度を有し、且つ血管内の物質が選択的に透過できるような機能が要求される場合である。本発明では、基材に簡単に且つ極細繊維がその気孔を保持しつつ固着できる方法を提供する。
【解決手段】基材上に極細繊維層を固着する方法であって、複数の成分からなる繊維の最も低い融点以上に加熱し、その成分を融解することによって基材に固着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材への繊維の固着方法及び積層シート体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムや織物等に極細繊維からなる不織布等を固着しなければならない場合がある。例えば、人工血管のように、血圧や体の動きによる伸縮に耐えうる柔軟性と強度を有し、且つ血管内の物質が選択的に透過できるような機能が要求されるもの等である。このような場合、強度のある基材に微細孔を有する膜体を貼付する方法、基材に直接極細繊維を絡ませる等の方法がとられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、不織布に、極細繊維を絡ませて製造している。これでは、製造が手間であるばかりか、基材の不織布に極細繊維が入りこむため、気孔サイズの調製が難しい。
【特許文献1】特開平11−164881号
【0004】
このような手間のかかる方法をとる理由は、基材に極細繊維を透過性を持たせて接着することが困難なためである。ミクロン単位の細孔を有し、それを塞ぐことなく接着剤で接着することは非常に難しいのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明では、基材に簡単に、且つ極細繊維がその気孔を保持しつつ、固着できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような現状に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明固着方法及び積層シート体を完成したものであり、その特徴とするところは、固着方法にあっては、基材上に極細繊維層を固着する方法であって、複数の成分からなる繊維の最も低い融点以上に加熱し、その成分を融解することによって基材に固着する点にあり、積層シート体にあっては、基材上に極細繊維層が固着されたものであって、複数の成分からなる繊維の最も低い融点以上に加熱し、その成分を融解することによって基材に固着されている点にある。
【0007】
ここでいう基材は、基本的には薄い膜状物である。限定はしないが厚みは、数十μm〜数百μmが好適である。この基材は、空気透過性があってもなくてもよい。透過性を有するものとして、織布、不織布、編み物等であり、透過性のない(厳密な意味ではない)のものとしては、シートや平板等である。
材質としては、ガラス、セラミックス、金属、プラスチック、ゴム等である。
【0008】
ここでいう極細繊維とは、径が1mm以下の繊維をいう。1mm以上になると、本発明の固着が困難になるためである。なかでも数百nm〜数十μmが好適である。
【0009】
この繊維は、合成繊維であり溶剤に溶解するものである。繊維の製造方法は自由であるが、エレクトロスピニング法が便利である。この方法は、ポリマーを溶解し、シリンジに入れ、先端に設けた細い孔から押し出し、溶媒を蒸発させて繊維状にし、それを目的物上にランダムに吹き付けるものである。この時、シリンジに荷電し、目的物をアースして、極細繊維が飛びやすくしている。繊維の太さは、先端の孔の径、溶剤中の濃度によって調整できる。
【0010】
勿論、電荷をかけずに単に押し出して溶媒を蒸発させるだけでもよいし、他の方法ですでに繊維状になっているものでもよい。
【0011】
極細繊維層とは、極細繊維を単に数本基材に固着する等ではなく、多数の極細繊維によって多数の貫通孔を有する膜状になっていることをいう。この膜の厚みは自由であり、逆にこの厚みの調製によって、貫通するもののサイズを限定することができる。厚みの例としては、数十μm〜数百μmが好適である。
また、これらの繊維が構成する気孔(空隙)のサイズは、自由であるが数十μm〜数百μmが好適である。
【0012】
「複数の成分からなる」という表現は、本出願では2つの意味で用いている。
1つは、1本の繊維が単一の成分ではなく複数の成分の混合である場合である。例えば、2種のポリマーが海島構造を作っているようなものである。成分としては少なくとも1種はポリマーでなければならないが、他はオリゴマーのようなものでも可能である。2成分とは限らず、3以上の成分であってもよい。
【0013】
この複数の成分は、その融点に差があることが必須である。差の程度は限定しないが、実際上は30℃以上の差があることが好ましい。温度管理の容易性等を考慮すると、50〜100℃程度の差があればより好ましい。3成分以上の場合では、すべてに差がある必要はない。少なくとも1つ他と差があればよい。
【0014】
本出願でいう融点は、結晶が融解する意味での融点だけでなく、アモルファス物質の軟化点、それもその軟化点以上になれば他のものと固着できその温度以下になればその状態を保つことができるような温度という意味も含めて使用する。
【0015】
溶剤としては、ポリマー等が溶解するものであればどのようなものでもよく限定するものではない。溶剤中での濃度も、そのポリマーの粘度、製造する繊維の太さ、用いる溶媒等によって異なるが、通常は1〜50重量%程度である。
【0016】
このような繊維の例としては、2種のポリマーやオリゴマーの組み合わせ、及びその時の溶剤を例示すると次のようになる。最後は溶剤である。
1 ポリ乳酸 ポリカプロラクトン ジクロロメタン
2 ポリ乳酸 ポリブチレンサクシネート ジクロロメタン
3 ポリアクリロニトリル ポリ乳酸 N,N-ジメチルホルムアミド
4 ポリアミド ポリメタクリル酸メチル ギ酸
5 ポリアミド ポリオキシメチレン ヘキサフルオロイソプロパノール
6 ポリアミド ポリエチレンテレフタレート ヘキサフルオロイソプロパノール
7 ポリエチレンオキシド ポリカーボネート クロロホルム
8 ポリアニリン ポリスチレン クロロホルム
9 ポリウレタン ポリ乳酸 N,N-ジメチルホルムアミド
10 ポリスチレン ポリ塩化ビニル クロロホルム
11 ポリカプロラクトン ポリメタクリル酸メチル クロロホルム
12 ポリカーボネート ポリカーボネートオリゴマー クロロホルム
【0017】
「複数の成分からなる」という表現の他の意味は、異なった成分からなる複数の繊維を用いる方法である。これは、ポリ乳酸の繊維とポリカプロラクトンの繊維が別々に存在して不織布等を構成しているようなものである。
【0018】
このような複数の成分の最も低い融点以上に、繊維を加熱する。即ち、繊維の融点の低い成分を加熱して融解(軟化も含める。以下同様)し、それによって基材と固着させるのである。例えば、前記したポリ乳酸(融点約160℃)とポリカプロラクトン(融点約60℃)が海島構造をとっている繊維の場合、この60℃以上に加熱するということである。しかし、厳密に海島構造の場合、その融点で融解するとは限らないため、より高温にしなければならない場合がある。要するに、その1成分が融解して基材に固着する温度ということである。
【0019】
この加熱によって、繊維の一部(低融点部)が融解して基材と、また他の繊維と固着する。接着剤はまったく不要である。
【0020】
また、複数の成分が別々の繊維を構成している場合には、低融点の繊維は全体が融解し、それが融解しない繊維と基材を固着させることとなる。この場合には、基材は透過性を有しないものが好ましい。
【0021】
加熱の方法は、基材を置く台やローラ(金属その他)を電気ヒーターで加熱する、熱風を繊維に送る等、繊維が加熱されさえすればどのような方法でもよい。
【0022】
繊維と基材の固着を容易に、また確実にするため、基材と繊維を押圧してもよい。プレス機、押圧ローラ等で可能である。
【0023】
本発明は、このように極細繊維を基材に固着する方法であり、その固着したものの用途は問わない。あくまでも、接着剤を用いず、繊維の一成分を溶解して固着するという新規な方法である。従来の単なる融着とは異なり繊維全体が融解したり軟化することはない。
【0024】
本発明の用途の例としては、衣料、医療用具(傷テープ等)、人工臓器(人工血管等)、各種分離膜があげられる。基材に種々のものを選択し、且つ固着する繊維の材質や太さ等によって用途に適したものにすればよい。
【0025】
さらに本発明の1態様として、上記の方法で製造されたもの、すなわち上記の固着方法によって基材に極細繊維を固着したものがある。これをここでは積層シート体と呼ぶ。
【発明の効果】
【0026】
本発明には次のような利点がある。
(1)非常に細い繊維であっても、接着剤を用いずに、かつ該細い繊維が構成する空間を塞ぐことがほとんどなく基材に固着できる。
(2)基材に非常に細い繊維を固着できるため、基材に適当なものを選べば人工血管のような人体の人工臓器も製造できる。
(3)極細繊維の厚みや量によってその繊維層を通過する粒子の大きさが自由に調製できる。
(4)とくにエレクトロスピニング法によって繊維を製造すれば極細繊維も簡単にできより好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下実施例に従って本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
図1は、本発明固着方法の1例を示す概略断面図である。これはエレクトロスピニング法を応用したものである。金属ロール1に基材2を載置し、シリンジ3にポリマーを溶解した液4を入れている。シリンジ3には荷電し、金属ロール1はアースしている。
この状態でピストン5を押すと、溶解した液4が先端開口6から噴射されアースされたロール1に向かう。その途中で溶剤が揮発し、液は固化し、固体の状態(細い繊維状)でロール1上の基材2に不織布のように載置される。そして、ロール1が加熱されており、その繊維の一部を融解し、その解けた部分(繊維の一部)が基材2と固着(融着)することによって繊維全体が基材に固着される。
【0029】
ここで固着をより確実にするため、金属ロール1の情報に押圧ロール7を設けている。そして、両ロールを矢印の通り回転させながら行うと、全体として押圧され固着されたもの8(積層シート体)ができる。
【0030】
基材2としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)製の織布を用いた。糸の太さは、約50μmで、10μm程度の空間を持って織ったものである。
【0031】
この例で用いた液について説明する。
まず繊維成分として次のA、Bの2種の等重量混合物を用いた。
A成分:ポリ乳酸(融点約60℃、平均分子量約80000)
B成分:ポリカプロラクトン(融点約160℃、平均分子量約300000)
これをDCM(ジクロロメタン)60重量%、ピリジン40重量%の混合溶媒に溶解した。濃度は約6重量%であった。
【0032】
荷電した電圧は、10kVである。ノズルの開口6と基材2の距離は150mmで、ピストンの送液量は、0.1〜1ml/Hrで、開口6の径は120μmであった。
【0033】
金属ロール1の加熱温度は、80℃で電気ヒーター(図示せず)を内蔵して行った。
【0034】
これでPET製の織布上に非常に目の細かい薄い不織布が貼付された構造のものができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明方法の1例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 金属ロール
2 基材
3 シリンジ
4 液
5 ピストン
6 開口
7 押圧ロール
8 固着されたもの


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に極細繊維層を固着する方法であって、複数の成分からなる繊維の最も低い融点以上に加熱し、その成分を融解することによって基材に固着することを特徴とする基材への繊維の固着方法。
【請求項2】
該複数の成分は、1本の繊維に海島構造として含有されているものである請求項1記載の基材への繊維の固着方法。
【請求項3】
該複数の成分は、別の繊維として構成されているものである請求項1記載の基材への繊維の固着方法。
【請求項4】
該基材は、透過性のある膜体である請求項1〜3記載の繊維の固着方法。
【請求項5】
該基材は、透過性のないフィルムである請求項1〜3記載の基材への繊維の固着方法。
【請求項6】
基材上に極細繊維層が固着されたものであって、複数の成分からなる繊維の最も低い融点以上に加熱し、その成分を融解することによって基材に固着されていることを特徴とする積層シート体。


【図1】
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【公開番号】特開2009−19300(P2009−19300A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182252(P2007−182252)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(504089471)アイティシー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】