説明

基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品

【課題】 基材からの樹脂の露出に伴う成形品の外観悪化を防止し、機能不全のおそれを抑制できる基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品を提供する。
【解決手段】 金型1の成形部16にフィルム20をインサートしてその周縁部21を金型1の成形部16から食み出させ、金型1の成形部16に第一の樹脂30を射出充填してフィルム20の周縁部21以外の残部と一体化するとともに、成形部16から食み出したフィルム20の周縁部21に第二の樹脂30Aを射出して一体化し、第一、第二の樹脂30・30Aをそれぞれ冷却固化させ、その後、第一、第二の樹脂30・30Aにせん断応力を加えてフィルム20の周縁部21を残部から除去する。金型1のパーティング部PLとフィルム20との間から樹脂が露出して成形品の外観を悪化させることがなく、成形品の用途によって機能不全を起こすこともない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム等からなる基材と樹脂とを射出成形により一体化して所定の成形品を得ることのできる基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型の成形部にフィルムをインサートして樹脂を充填し、これらフィルムと樹脂とを一体化して成形品を得る場合には、従来、フィルムを金型の成形部の形状に応じて切断し、このフィルムをインサートした後に溶融した樹脂を射出し、フィルムと樹脂とを一体化している(特許文献1参照)。
この際、フィルムは、確実なインサートを期すため、成形部の形状よりもやや小さめに切断される。
【特許文献1】特開2002‐23381号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来における基材付き成形品の製造方法は、以上のようになされ、フィルムが成形部の形状よりも小さめに切断されるので、金型の固定側と可動側とのパーティング部よりも内側にフィルムが存在し、金型のパーティング部にフィルムの端部が正確に到達しないこととなる。このため、金型のパーティング部とフィルムとの間から樹脂が露出して成形品の外観を著しく悪化させたり、成形品の用途によっては機能不全を招くおそれがある。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたもので、基材からの樹脂の露出に伴う成形品の外観悪化を防止し、機能不全のおそれを抑制できる基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては上記課題を解決するため、金型の成形部に基材をインサートして樹脂を充填し、これら基材と樹脂とを一体化して成形品を得る製造方法であって、
基材の少なくとも一部を金型の成形部から食み出させ、金型の成形部に第一の樹脂を充填して基材の残部と一体化するとともに、基材の少なくとも一部に第二の樹脂を射出して一体化することを特徴としている。
【0006】
なお、基材をフィルムとするとともに、基材の少なくとも一部を周縁部とすることができる。
また、基材の少なくとも一部の一面あるいは他面と第二の樹脂とを一体化することができる。
【0007】
また、基材の少なくとも一部の両面と第二の樹脂とを一体化することもできる。
さらに、第一、第二の樹脂をそれぞれ固化させ、これら第一、第二の樹脂にせん断力を加えて基材の少なくとも一部を取り除くことが好ましい。
【0008】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1ないし5いずれかに記載の基材付き成形品の製造方法により製造したことを特徴としている。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における金型は射出成形用であれば、2プレート金型、3プレート金型、スライドコア金型、割金型等のタイプのいずれでも良い。この金型には、ランナー構造、ゲート構造、冷却機構、取り出し機構、エアーベント機構等を適宜設けることができる。また、基材は、各種形状のシートでも良いし、フィルムでも良く、耐熱性、電磁波シールド性、導電性、可撓性、透明性、装飾・着色性等の機能が適宜付与される。
【0010】
係る機能を基材に付与する場合には、例えば印刷、塗装、エッチング、コーティング、スパッタリング、メッキ等の方法が適宜採用される。基材の一部や残部には、樹脂流通用の孔を単数複数設けることができる。基材の少なくとも一部は、基材の周縁部が主ではあるが、基材の前部、後部、左側部、右側部、又は半分等でも良い。
【0011】
樹脂は、単数複数の熱可塑性樹脂でも良いし、熱硬化性樹脂でも良く、必要に応じて各種のフィラー(例えば、可塑剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、強化材等)が添加される。第一、第二の樹脂は、同一の樹脂でも良いし、異なる樹脂でも良い。さらに、基材付き成形品としては、少なくとも家電製品、携帯情報機器、自動車等の部品、家庭用品、化粧パネルや装飾パネル等からなる建築資材があげられる。
【0012】
本発明によれば、基材付き成形品を製造する場合には、先ず、金型のキャビティに基材をインサートしてその少なくとも一部をキャビティから食み出させ、金型を型締めして第一、第二の樹脂をそれぞれ充填する。そして、第一、第二の樹脂をそれぞれ固化して基材の残部と第一の樹脂とを一体化するとともに、基材の少なくとも一部と切断用の第二の樹脂とを一体化し、これらを切断用の刃とし、これら第一、第二の樹脂にせん断力を加えて基材の少なくとも一部を残部から取り除けば、基材付き成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材から樹脂が露出することにより、成形品の外観が悪化するのを有効に抑制防止することができるという効果がある。また、成形品の機能不全のおそれを抑制することができる。
【0014】
また、基材の少なくとも一部の両面と第二の樹脂とを一体化すれば、基材の少なくとも一部をあますことなく効果的に除去することができる。
さらに、固化した第一、第二の樹脂にせん断力を加えて基材の少なくとも一部を取り除くので、専用品である鋏、NCフライス、切断金型等をわざわざ使用して取り除く必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における基材付き成形品の製造方法は、図1ないし図4に示すように、射出成形用の金型1の成形部16に薄いフィルム20をインサートしてその周縁部21を金型1の成形部16から食み出させ、金型1の成形部16に第一の樹脂30を射出充填してフィルム20の周縁部21以外の残部と一体化するとともに、成形部16から食み出したフィルム20の周縁部21に切断作業用の第二の樹脂30Aを射出して一体化し、これら第一、第二の樹脂30・30Aをそれぞれ冷却固化させ、その後、固化した第一、第二の樹脂30・30Aにせん断応力を加えてフィルム20の周縁部21を残部から除去するようにしている。
【0016】
金型1は、図1に示すように、図示しない射出成形機に設置される固定側2と、この固定側2に型締めされる開閉可能な可動側9とを備え、ゲートの切断に人手を要しない3プレートタイプが使用される。固定側2は、射出成形機と本体の一部とを連結する固定側取付板3と、ランナを自動落下させるランナストリッパプレート4と、本体の一部を構成する固定側型板5等とが積層することにより構成される。
【0017】
固定側取付板3は、20mm以上の厚さに形成され、中央部には、鋳込口を構成するスプルブシュ6と、射出成形機の射出ノズルとスプルブシュ6との位置関係を正確に保つロケートリング7とが組み合わせて嵌合される。また、固定側型板5には、雌型であるキャビティ型8が凹み形成され、このキャビティ型8の表面には、基材付き成形品の外観を大きく左右する関係上、鏡面仕上げ加工、つや消し加工、しぼ加工、クロムメッキ加工、テーパ加工が適宜施される。
【0018】
可動側9は、射出成形機と本体の一部とを連結する可動側取付板10と、基材付き成形品の突き出し距離を保つスペーサブロック11と、突き出しピンを正確に固定する複数のエジェクタプレート12と、可動側型板14を補強する受板13と、固定側型板5と共に本体を構成する可動側型板14等とが積層することにより構成される。可動側取付板10は、20mm以上の厚さに形成され、突き出しロッド孔が穿孔される。また、可動側型板14は、雄型であるコア型15が突出形成され、金型1の型開き時に冷却された成形品と付着する。
【0019】
固定側2のキャビティ型8と可動側9のコア型15とは成形部16を形成するが、この成形部16は、図2に示すように、フィルム20の大部分である残部がクリアランスを介しインサートされたり、第一の樹脂30がスプルから充填される第一の成形部17と、この本来的な成形部である第一の成形部17の周囲に隙間19を介し断面多角形に形成され、フィルム20の周縁部21がインサートされたり、第二の樹脂30Aが屈曲したランナから充填される第二の成形部18とから形成される。
【0020】
第一、第二の成形部17・18は、第一、第二の樹脂30・30A間の長さが1mm以下になるよう接近して形成される。第一の成形部17は、フィルム20の一面(表面)と第一の樹脂30とを一体化するよう機能する。また、第二の成形部18は、第一の成形部17よりも小さく形成され、フィルム20の一面と第二の樹脂30Aとを一体化するよう機能する。
【0021】
隙間19は、第一、第二の成形部17・18の間に位置し、フィルム20の厚み以下の寸法に形成されており、射出成形時にフィルム20の周縁部21を部分的に潰してこの部分的に潰した部分を介して第一、第二の樹脂30・30Aが流通するのを抑制防止するよう機能する。
【0022】
フィルム20は、例えばアクリル、スチレン、ABS、ポリエステル、塩ビ、オレフィン、ウレタン、ポリカーボネート、これらの変性樹脂、アロイ等を使用して第一の成形部17に沿った形状に形成される。このフィルム20の材料は、切断性を考慮すると、アクリルやABSが最適である。フィルム20として、複合フィルムやラミネートフィルム等をも適宜使用することができる。
【0023】
第一、第二の樹脂30・30Aは、製造方法の簡素化やコスト削減を図る観点から、同一の樹脂が採用される。具体的には、アクリル、ABS、オレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル等が採用される。勿論、これらに限定されるものではなく、これらの変性樹脂、アロイ、混合物、共重合樹脂、熱硬化性樹脂等でも良い。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、BMC樹脂、シリコーン樹脂、又はこれらの変性樹脂等があげられる。
【0024】
上記において、基材付き成形品を製造する場合には、先ず、金型1を構成する固定側2のキャビティ型8にフィルム20の大部分(残部)をクリアランスを介し屈曲状態にインサートし、このフィルム20の根元21aから外方向に伸びた周縁部21をキャビティ型8から食み出させて第二の成形部18内に位置させ、固定側2に可動側9を型締めしてこれらのパーティング部(分割部)PLにフィルム20の周縁部21を挟持させる。
【0025】
こうして冷却された金型1を型締めしたら、加熱シリンダから溶融した第一、第二の樹脂30・30Aをノズル、スプル、及びランナを介し成形部16にそれぞれ射出充填する。この際、第一の成形部17はフィルム20の一面と第一の樹脂30とを一体化し、第二の成形部18はフィルム20の周縁部一面と切断作業用の第二の樹脂30Aとを一体化するよう機能する(図2参照)。
【0026】
次いで、第一、第二の樹脂30・30Aを十分に冷却固化し、金型1を型開きして基材付き成形品の中間品を突き出し機構により取り出し(図3参照)、その後、中間品を固定しながら第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31を切断刃とみなし、これらに図4に矢印で示すせん断応力を相反する方向からそれぞれ加えて中間品の本来不要な周縁部21を第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31間の中間付近で切断し、中間品の外周に沿って周縁部21を除去すれば、外観の美しい基材付き成形品(本実施形態では携帯電話の筐体)を得ることができる。
【0027】
第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31は、特に限定されるものではなく、90°以上でも良いが、一般的には金型1の構造を簡素化する観点から90°以下であることが好ましい。また、せん断応力を加える方法としては、ダイセット等に特に限定されるものではないが、例えばプレス装置のような圧力駆動装置を使用し、第一の樹脂30を固定する治具と、第二の樹脂30Aに外部から圧力を加える押し込み治具とを使用すれば、フィルム20にせん断応力を加えて切断することができる。
【0028】
中間品の周縁部21の切断される切断予定部分は、特に限定されるものではないが、外観の悪化防止の観点から、第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31の間で1mm以下の範囲、好ましくは0.5mm以下の範囲であるのが良い。
【0029】
上記によれば、金型1のパーティング部PLにフィルム20の食み出した周縁部21を挟持させるので、金型1のパーティング部PLにフィルム20の端部が確実・正確に到達する。したがって、金型1のパーティング部PLとフィルム20との間から樹脂が露出して成形品の外観を著しく悪化させることが全くなく、成形品の用途によって機能不全を起こすこともない。
【0030】
また、フィルム20の食み出した周縁部21を最終的には切断除去するので、他の部品で周縁部21を隠す必要が全くなく、体裁を整えることができる。また、第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31を切断刃とみなし、これらを活用して周縁部21を外周に沿って切断除去するので、専用品である鋏、NCフライス、ダイセット等をわざわざ使用して除去する必要が全くなく、生産性を著しく向上させることが可能になる。
【0031】
また、第一、第二の樹脂30・30Aを切断刃とするので、成形品が二次元的なものではなく、三次元的な曲線や曲面を有する場合でも、高価な打ち抜き型を何ら必要とせず、安価な製造が可能になる。さらに、第一、第二の樹脂30・30Aの対向角部31を切断刃として使用する場合、一回使用できれば良いので、切断刃の寿命や耐久性等を考慮する必要が全くない。さらにまた、鋏やNCフライス等を使用する必要がないので、これらの使用に伴う塵埃の付着や傷の発生を確実に防止することが可能になる。
【0032】
なお、上記実施形態ではフィルム20の一面と第一の樹脂30とを一体化するとともに、フィルム20の周縁部一面と第二の樹脂30Aとを一体化したが、何らこれに限定されるものではない。例えば図5や図6に示すように、フィルム20と第一の樹脂30とが上下逆になるように、フィルム20の他面(裏面)と第一の樹脂30とを一体化するとともに、フィルム20の周縁部一面と第二の樹脂30Aとを一体化しても良い。こうすれば、同図に示すように、第一、第二の樹脂30・30Aが反対方向に位置するので、フィルム20にせん断応力を効果的に加えて周縁部21を過不足なく簡単、綺麗、かつ正確に切断することができる。
【0033】
また、フィルム20の他面と第一の樹脂30とを一体化するとともに、フィルム20の周縁部他面と第二の樹脂30Aとを一体化しても良い。さらに、フィルム20の一面と第一の樹脂30とを一体化し、フィルム20の周縁部両面と第二の樹脂30Aとを一体化することもできる。こうすれば、フィルム20をあますことなく効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品の実施形態における金型を示す断面説明図である。
【図2】本発明に係る基材付き成形品の製造方法の実施形態を模式的に示す要部断面参考図である。
【図3】本発明に係る基材付き成形品の製造方法及び基材付き成形品の実施形態における中間品を示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係る基材付き成形品の製造方法の実施形態を模式的に示す断面参考図である。
【図5】本発明に係る基材付き成形品の製造方法の他の実施形態を模式的に示す要部断面参考図である。
【図6】本発明に係る基材付き成形品の製造方法の他の実施形態を模式的に示す断面参考図である。
【符号の説明】
【0035】
1 金型
2 固定側
8 キャビティ型
9 可動側
15 コア型
16 成形部
17 第一の成形部(成形部)
18 第二の成形部
19 隙間
20 フィルム(基材)
21 周縁部(基材の少なくとも一部)
21a 根元
30 第一の樹脂
30A 第二の樹脂
31 対向角部
PL パーティング部(分割部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型の成形部に基材をインサートして樹脂を充填し、これら基材と樹脂とを一体化して成形品を得る基材付き成形品の製造方法であって、
基材の少なくとも一部を金型の成形部から食み出させ、金型の成形部に第一の樹脂を充填して基材の残部と一体化するとともに、基材の少なくとも一部に第二の樹脂を射出して一体化することを特徴とする基材付き成形品の製造方法。
【請求項2】
基材をフィルムとするとともに、基材の少なくとも一部を周縁部とする請求項1記載の基材付き成形品の製造方法。
【請求項3】
基材の少なくとも一部の一面あるいは他面と第二の樹脂とを一体化する請求項1又は2記載の基材付き成形品の製造方法。
【請求項4】
基材の少なくとも一部の両面と第二の樹脂とを一体化する請求項1又は2記載の基材付き成形品の製造方法。
【請求項5】
第一、第二の樹脂をそれぞれ固化させ、これら第一、第二の樹脂にせん断力を加えて基材の少なくとも一部を取り除く請求項1ないし4いずれかに記載の基材付き成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれかに記載の基材付き成形品の製造方法により製造したことを特徴とする基材付き成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−159493(P2006−159493A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351190(P2004−351190)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】