説明

基材結合用の極性シラン及び結合された基材のクロマトグラフィーにおける使用

以下の構造の一つを有する多官能性のシリコン化合物:
【化1】


ここで、R1、R2及びR3の少なくとも一つは脱離基であり、該基は脱離の後に前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は、長さが1から100の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり;
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり;
E、E1及びE2のそれぞれが、アルキル基、置換アルキル基、アリール基又は置換アリール基を含み、1−50の炭素原子を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。同様に、該化合物はクロマトグラフィーのパッキングとして使用するための基材に結合する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(本発明の背景)
本発明は、多官能性シリコン化合物、及び分離媒体のような用途の基材に対する、該化合物の結合に関する。通常のC18(ODS)シリカカラムは、汎用固定相として広く認められている。しかしながらいくつかの欠点が、ある用途に対するこれらのカラムの使用を妨害しており、該欠点とは塩基性検体のピークテーリング、及び高い水性環境における“相崩壊”(“phase collapse”)(又は、“ディウェッティング”(“de−wetting”))を含む。シリカ合成及び結合技術における近年の進歩は、高純度シリカの徹底的なエンドキャッピングを伴う高密度結合を用いて、該塩基のテーリングを最小化する解決策を提供する。密に結合しかつ高度に疎水性のODSカラムは、100%の水の中で使用することができず、それは“相崩壊”(“phase collapse”)が通常生じ、大幅に減少した保持又は再生不可能な保持を引き起こすからである。
【0002】
極性埋込(polar−embedded)相は、塩基性検体のピーク形状を改良しかつ高い水性環境下でRPカラムを十分に操作できるように導入された。これらの相は本来疎水性であるが、シリカ表面近傍に取り込まれた親水性基を有する。普通に用いられる極性基はアミド、ウレア、エーテル及びカルバメート官能基である。一般的に、極性埋込(polar−embedded)相は通常のC18パッキングと比較して以下のような利点を有している:それらは塩基性検体の良好なピーク形状、高水性移動相との良好な適合性、及び汎用C18カラムによって示される選択性と異なるものを提供する。一方で、該極性埋込(polar−embedded)相はそれら自身の欠点を有しており、例えば通常のC18カラムと比較して、塩基性及び非極性化合物の保持の著しい減少、及び加水分解に対する安定性の劣化を有する。そのため、これらはしばしば、C18カラムを補完し、より狭いpH範囲で操作される。
【0003】
加水分解に対して安定なシリカベースの固定相を製造するいくつかの方法が、開発されてきた。R.P.Fisk et al.(WO 00/45951)は、さらなる改良のためのベースとなる固形支持体として、多孔質の無機/有機ハイブリッドシリカ粒子を提供する方法を開示する。シリル化剤、例えばジメチルオクタデシルクロロシランとの反応後、該パッキング材料は、1−12のpH範囲内で、加水分解に対する高められた安定性を示したと述べられている。HPLC装置用の安定なシリカパッキングを作成する他の方法が、J.L.Glajch et al.(米国特許 4,705,725)により開発された。それは、珪素原子に結合した二つの立体障害基を含む単官能シランによって共有結合的に修飾した安定な支持体構造を記載している。これら材料を充填したカラムは、低いpHで加水分解に対する高められた安定性を示したと述べられている。しかしながら、かさ高いシリル化剤の使用は不利な点となり得、それは結合された相がしばしば低い表面の被覆度を有し、結果として高いpHにおける相安定性を減少させるためである。J.J.Kirkland et al.は、逆相HPLC用の二座型シラン固定相の調製を報告した(J.J.Kirkland;J.B.Adams,Jr.;M.A.van Straten;H.A.Claessens,Analytic Chemistry,70:4344−4352(1998))。このパッキング材料が、pHレベルの広い範囲(1.5−11.5)で、良好な加水分解に対する安定性を提供し、及び十分なカラム効率が結果として得られると述べられている。G.MaGall(米国特許6,262,216 B1)は、二つの反応性シリル部分及び一つの誘導体化できる官能基、例えばヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、チオ、ハロ、及びスルホネートを含んだ三級アミン基を有する、多官能性シランの合成及びその使用について記載している。
【0004】
本発明の目的は、極性埋込(polar−embedded)パッキングの利点を有する結合したシリカ相を提供し、これらの寿命を増加させる、組込極性断片を有する多官能性シリル化試薬を提供することである。HPLC用固定相の開発に使用できる、改良された多官能性シリカ化合物を提供することへの要望がある。
【0005】
(本発明の概要)
本発明の一の態様は、以下の構造の一を有する多官能性シリコン化合物である:
【化1】

構造I 構造II
ここで、R1、R2及びR3の少なくとも一つは脱離基であり、該基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は、長さが1から100炭素の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり;
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり;及び
E、E1及びE2のそれぞれが、アルキル基、置換アルキル基、アリール基又は置換アリール基を含み、1−50の炭素原子を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。
【0006】
本発明の他の態様は、以下の構造の一を有する基材に対して、共有結合したシリコン化合物を含む組成物である:
【化2】

構造III 構造IV
ここで、R1及びR2の少なくとも一つは、独立にアルキル基又は置換アルキル基又は脱離基であり、該脱離基は脱離の後、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は、長さが1から100炭素の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり、
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり、
E、E1及びE2のいずれもが、アルキル基、置換アルキル基又はアリール基又は置換アリール基を含み、該基は1−50の炭素原子を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。
他の態様において、液体試料中における検体は、前述の組成物を含む媒体を通して流すことにより分離される。
【0007】
(好ましい態様の詳細な説明)
商業上入手可能であるか又は本明細書で述べるように合成可能である多種類のシリコン化合物を、本明細書で開示する方法において使用して、基材表面と反応させて広範囲の用途用の官能基を持たせた基材を形成できる。一の態様において、該シリコン化合物を該基材の表面に共有結合的に結合させて、種々の官能基でこれら基材を修飾する。例えば、該シリコン化合物をシリカゲルの表面に結合させて、クロマトグラフィーのパッキング用の、官能基を持たせたシリカ粒子を提供できる。
【0008】
本明細書で使用するものとして、用語“シリコン化合物”は、極性埋込(polar−embedded)の官能基、例えばアミド、カルバメート、スルホンアミド又はウレア及び少なくとも二つの珪素原子を含む化合物を意味する。好ましい態様において、該シリコン化合物は、少なくとも二つの活性化シリコン基、例えばヒドロキシシラン、アルコキシシラン、ハロシラン又はアミノシランを含むシリル化剤である。これらの基は、官能基と、例えば基材表面で反応して、表面との共有結合を形成できる。シリコン化合物の活性化シリコン基は基材、例えばSi−OH又はZr−OH基をそれぞれ含むシリカ又はジルコニアの表面と反応して、シリコン化合物と基材の間でSi−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成できる。活性化シリコン基の具体例は、−Si(OMe)3;−SiMe(OMe)2;−SiMe2(OMe);−Si(OEt)3;−SiMe(OEt)2;−SiMe2(OEt)及び−SiCl3、−SiMe2N(Me)2を含むが、これらに限定されない。
【0009】
本明細書で使用するものとして、用語“多官能性シリコン化合物”は、少なくとも二つの活性シリル基及び極性埋込(polar−embedded)官能基、例えばアミド、カルバメート、スルホンアミド又はウレアを含む化合物を意味する。これらシリコン化合物の一般的な構造は、以下のものである:
【化3】

構造I 構造II
ここで、R1、R2及びR3の少なくとも一つは脱離基であり、該基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は、長さが1から100炭素の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり;
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり;及び
E、E1及びE2のそれぞれが、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。E、E1及びE2は、1から50の炭素原子、好ましくは1から30の炭素原子、より好ましくは1から20の炭素原子を含む。
【0010】
構造I及びIIにおいて、R1、R2及びR3の少なくとも一つは脱離基であり、該基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものである。適切な脱離基はヒドロキシ基、アルコキシ基、ハライド基又はアミノ基を含み、例えば−OMe又はOEtである。一の態様において、R1、R2、R3は全て−OMeである。他の態様において、R1及びR2は独立に反応性基、例えばヒドロキシ基、アルコキシ基、ハライド基又はアミノ基である。例えば、−OMe又はOEtであり、かつR3はアルキル基、例えばMe又は置換アルキル基であってよい。他の態様において、R1は反応性基、例えばヒドロキシ基、アルコキシ基、ハライド基又はアミノ基であってよい。例えば、−OMeであり、かつR2及びR3は独立にアルキル基、例えばMe又は置換アルキル基であってよい。
【0011】
構造I及びIIにおいて、L1、L2及びL3は独立にアルキル鎖又は置換アルキル鎖、好ましくは炭素鎖の長さが1から100、より好ましくは1から50の長さの−(CH2n−である。基L1、L2及びL3はヘテロ原子、例えば窒素、酸素、珪素及び硫黄を含んでも良い。L3は、芳香族断片及びヘテロ芳香族断片、例えばそれぞれフェニル及びピリジルを含んでも良い。
一態様における構造I及びIIにおいて、=N−PGは窒素含有極性埋込(polar−embedded)官能基であり、極性基とも言う。適切な極性基は、アミド基、カルバメート基、スルホンアミド基又はウレア基を含む。
構造I及びIIにおいて、E、E1及びE2は、誘導されない官能基、特にアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を含み、以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。
【0012】
一の態様において、E、E1及びE2はシアノ末端部分を含む。E、E1及びE2は、前記シリコン化合物が基材に結合された場合、逆相クロマトグラフィーの媒体として使用可能となるのに充分な長さのアルキル鎖を含むことができる。E、E1及びE2は、1から50の炭素原子、好ましくは1から30の炭素原子、より好ましくは1から20の炭素原子から成る分子断片である。
構造IIにおいて、m=1から100、好ましくは1から10である。例えば、m=1、L1=L2=L3=(−CH2−)2である場合、該構造IIは結果として、特定の置換基を有する化合物10又は11となる。
【0013】
構造Iの例示的な化合物は以下の通りである:
【化4】

【0014】
構造IIの例示的な化合物は以下の通りである:
【化5】

構造Iの多官能性シリコン化合物を合成する一つの方法は、以下の通りである:ジアリルアミンを最初に試薬、例えば適切な官能基を含むアシルクロライド、カルバモイルクロライド、スルホニルクロライド又はイソシアネートと反応させる。得られた極性埋込(polar−embedded)のジアリル化合物は、その後、Pt触媒及び式SiHR123のシリコン化合物の存在下でヒドロシリル化され、構造Iの多官能性シリコン化合物が生じる。
【0015】
下記式1は、構造Iの多官能性シリコン化合物の合成例を提供する。式1はシリコン化合物1の合成を示す。
(式1)
【化6】

多官能性シリコン化合物を製造する代替的な方法は、商業的に入手できるアミノシラン、例えばビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンに基づいている(式2)。式2はシリコン化合物3の合成を示す。
【0016】
(式2)
【化7】

構造IIのシリコン化合物の合成は、式1及び式2の方法に従って、同様に行うことができる。
一の態様において、好ましくは、充填層中のようなクロマトグラフィーの分離媒体として使用するために、構造I又はIIのシリコン化合物は基材に結合される。
【0017】
特定の態様において、該基材はシリカ表面を含む。シリカ表面に結合した官能基層の加水分解に対する安定性は、シリカ表面と、堆積させた官能基層との間の共有結合の数を増加させることにより高めることができる。シリカ基材に対して1より多い結合個所を有する新規な官能基層の一般構造は、以下の構造III及び構造IVで図示される:
【化8】

構造III 構造IV
ここでR1及びR2は、独立にアルキル基又は置換アルキル基又は脱離基であり、該脱離基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は長さが1から100炭素の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり、
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり、
E、E1及びE2はそれぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。E、E1及びE2は、1から50の炭素原子を含む分子断片である。
【0018】
適切には、該シリコン化合物は基材に共有結合し、ここでL1及びL2に結合したSi基は、前記L1−Si又はL2−Si結合のSiのR1、R2又はR3と、シラノール、アルコキシシラン、ハロシラン及びアミノシラン部分からなる群より選択される前記基材の反応基との反応によって、基材に共有結合される。
該多官能性シリコン化合物を、種々の基材に共有結合的に結合できる。例示的な基材は、活性化シリル基を含む多官能性シリコン化合物と反応できる官能基を含む物質を含む。このように、該多官能性シリコン化合物を、例えばシリカベースの物質、例えばガラス表面又は他の酸化珪素、酸化チタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム及び酸化アルミニウムをベースとする物質の表面;及びさらに、種々の炭化処理した物質の表面、金属、架橋した又は架橋していないポリマーであって、本発明のシリコン化合物と反応する適切な官能基を含むものの表面に結合できる。上述の適切な官能基の例は、シラノール類、アルコキシシラン類、チタン水酸化物類、ジルコニウム水酸化物類等である。開発したシリコン化合物を、反応性シリコン官能基を利用することにより、ポリマー又はゾル−ゲルのネットワークに取り込むこともできる。重合可能な基又はラジカル及び/又はイオン−ラジカル及び/又はイオンに転化することができる基を含む、構造I及びIIの化合物は、これらの基及び/又は反応性シリコン官能基を利用することにより、ポリマー材料を作成しかつ表面にグラフトさせることに使用できる。結果得られた材料は、吸着剤、膜、フィルター、微少流体のデバイス、マイクロチップ並びに分離、検出及び分析のさまざまな種類のための官能基を持たせた表面を開発するために利用できる。この発明は特に、種々のクロマトグラフィーによる分離のための新たな固定相の開発に利用され、特に逆相分離で利用され得る。
【0019】
一の態様において、単層及び複層の表面は、構造I及びIIの多官能性シリコン化合物で、シリカ基材を処理することにより調製される。該シリコン化合物は種々の基材、例えばシリカゲル、ジルコニア、ハイブリッドゾル−ゲル/ポリマー又はガラス板に共有結合させることができる。適切なシリカゲルは、無孔質又は異なる細孔径の多孔質シリカ粒子が含まれ、細孔径は好ましくは20Åから3000Å、より好ましくは60Åから2000Åであり:異なる粒子径としては、好ましくは0.2μmから1000μm、より好ましくは2μmから50μmである。該処理反応を、トルエンのような不活性溶媒のシリカゲルスラリー中で、上昇させた温度で行うことができる。水、酸又は塩基触媒を、分離媒体に求められる特性の種類に応じて、表面の被覆度を高めるために利用できる。
【0020】
代替的なものとして、アミノシラン化合物、例えばビス(トリメトキシシリルプロピル)アミンは、表面に反応性アミノ基を取り込むことにより、誘導されていないシリカゲルの修飾に使用できる。その後、薬剤、例えば適切な官能基を含むアシルクロライド、カルバミルクロライド、スルホニルクロライド又はイソシアネートを、アミン化シリカゲルと反応させて、対応する結合した相を形成できる。この変換のための合成経路が、式3に図式化されている。式3は、新たな極性埋込(polar−embedded)リガンドを有するシリカ支持体の修飾のための、代替的な手順(二段階合成)を図式化している。
(式3)
【化9】

【0021】
この発明は、加水分解に対する優れた安定性を有する新規な種々の固形支持体を製造するための、単純かつ融通の利く手法を提供する。該合成方法は、基材表面、特にはシリカ基材の表面に異なる官能基を有効に取り込むことを許容する。結果として得られる物質は、吸着剤、膜、フィルター、微少流体のデバイス、マイクロチップ、並びに種々の種類の分離、検出及び分析のための官能基を持たせた表面を開発するために利用できる。この発明は、種々のクロマトグラフィーによる分離、特に逆相クロマトグラフィー用の新たな固定相の開発に利用できる。
【0022】
以下の例は、説明目的のみで提供されるものであり、本発明を制限も定義づけもしない。
(例1)
この例は、新規な多官能性シリコン化合物の合成方法を説明する。
N,N−ビス(アリル)極性埋込(polar−embedded)先駆体の合成:
ジアリルアミンを、CH2Cl2中の過剰量のEt3N(2.0当量)と混合し、0℃で20分保持された。その後、アシルクロライド、スルホニルクロライド又はイソシアネート(1.0当量)のCH2Cl2の溶液がゆっくりと添加され、該反応混合物は周囲温度で12時間攪拌された。該反応混合物は水で洗浄され、Na2SO4で乾燥された。減圧下で全ての揮発分を除去した後、対応するN,N−ビス(アリル)極性埋込(polar−embedded)先駆体が得られた。イソシアネートを使用した場合には、対応するN,N−ビス(アリル)ウレア埋込(urea−embedded)先駆体が、トルエン中のジアリルアミンとイソシアネートを混合することにより得られた。合成された化合物の構造は、1HNMR分光法及び質量分光法によって確認された。
【0023】
N,N−ビス(プロピルシリル)多官能性シリコン化合物の合成:
N,N,−ビス(アリル)極性埋込(polar−embedded)先駆体が、モノ−、ジ−又はトリエトキシシラン(シランの2から20モル過剰)に添加された。その後、触媒(0.1モル%)、例えば最小量のエタノール中のヘキサクロロ白金酸が、該反応混合物に導入された。50℃で24時間攪拌した後、過剰量の揮発分が減圧下で除去され、対応するN,N−ビス(プロピルシリル)多官能性シリコン化合物が生成した。合成された化合物の構造は、1HNMR分光法及び質量分光法によって確認された。
【0024】
(例2)
この例は、N,N−ビス(シリル)アミン類、例えばビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン又はビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンを出発材料として使用したときの、新規な多官能性シリコン化合物を合成する代替的な方法を説明する。
多官能性シリコン化合物の代替的な合成。
N,N−ビス(シリル)アミン、例えばビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン又はビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンが、CH2Cl2中の過剰量のEt3N(2.0当量)と混合され、0℃で20分間保持された。その後、アシルクロライド、スルホニルクロライド又はイソシアネート(1.0当量)のCH2Cl2溶液がゆっくりと添加され、該反応混合物は周囲温度で4時間攪拌された。該反応混合物は水で洗浄され、Na2SO4で乾燥された。減圧下で全ての揮発分を除去した後、対応する多官能性シリコン化合物が得られた。イソシアネートを使用した場合には、対応するウレア埋込(urea−embedded)のシランリガンドが、トルエン中のN,N−ビス(シリル)アミンとイソシアネートを混合することによって得られた。合成された化合物の構造は、1HNMR分光法及び質量分光法によって確認された。
【0025】
(例3)
この例は、新規な多官能性シリコン化合物を使用した、シリカの官能化の方法を説明する。
シリカの官能化の一般的な手順:
該反応は、不活性な溶媒、例えばトルエン中の選択したシリカゲルと多官能性シリコン化合物とのスラリー中において、上昇させた温度条件で行われた。水、酸又は塩基触媒は、特定の用途に応じて、官能化したシリカゲルの表面の被覆度を制御するために利用できる。クロマトグラフィーによる分離用のパッキング材料を製造するためには、適切なエンドキャッピング又は他の種類の後誘導化反応(post−derivatization reaction)を必要に応じて使用できる。
【0026】
(例4)
この例は、多官能性シリコン化合物3から製造された、オクタデシルアミド官能化シリカの、クロマトグラフィーにおける評価を述べる。合成されたサンプルは、以下の物理特性を有する高い純度の原料シリカゲルから調製された:平均粒径、5.0μm;比表面積、295m2/g;平均細孔径、136Å;細孔容積、1.00mL/g;結合されたシリカは、従来の高圧スラリー技術を用いて、4.6×150mmのステンレス鋼カラムに充填された。
【0027】
極性選択性試験:
試験の基準は、ウラシル、ジメチルフタレート、ブチルパラベン、トルエン及びフェナンスレンの混合物であった。試験の条件は:溶離剤、CH3CN/H2O(70:30v/v);流速、1mL/min;注入容積、5μL;温度、30℃;及び検出、254nm。図1は、該新たな相が通常のRP C18材料の比較として、異なる選択性を有することを示しており、トルエン及びブチルパラベン検体の異なる溶離順序を表示する。
【0028】
アミトリプチリン試験:
該試験混合物は、ウラシル、トルエン、エチルベンゼン、アミトリプチリン及びキニザリンを含んでいた。該試験条件は:溶離剤、MeOH/20mM K2HPO4/KH2PO4(80:20v/v);流速、1mL/min;注入容積、5μL;温度、30℃;及び検出、254nm。
pH7の移動相で行ったアミノトリプチリン(pKa=9.3)試験は、シラノール活性のモニタリングに感受性のある方法である。このpHにおいて、残存シラノールの多数が負に荷電し、塩基プローブは完全にプロトン化される。該プロトン化された塩基分子は、イオン交換機構を経由してイオン化されたシラノールと影響し合い、そのためテーリングの程度はシラノール活性の直接の指標である。図2に示すように、該新たな相はアミトリプチリンの優れたピーク形状及び低い非対称性を提供し(Asアミトリプチリン<1.2)、これは、該新たな相に取り込まれた極性部分が、塩基と残存シラノール間の相互作用を実に効果的に減少させることを示す。
【0029】
極性試験:
試験混合物は、ウラシル(ボイドマーカー(void marker))、ピリジン(塩基性)、フェノール(酸性)、N,N−ジメチルアニリン(塩基性)、p−ブチル安息香酸(酸性)及びトルエン(無極性)を含む。試験条件は:溶離剤、CH3CN/50mM K2HPO4/KH2PO4(60:40v/v);流速、1mL/min;注入容積、5μL;温度、30℃;及び検出、254nm。試験結果が図3に示されている。全ての酸性、塩基性及び無極性検体の優れたピーク形状が、該新たなアミド埋込(amide−embedded)相で達成できたことを示しており、良好な全体としてのカラム性能を示唆する。
【0030】
相崩壊試験:
該結合された相が10mM H3PO4、pH2.4移動相中で、30℃で試験された。新たに充填されたカラムは、50カラム容積のCH3CNで洗浄され、その後、100カラム容積の移動相で平衡状態にした。試料溶液は、シトシン、ウラシル及びチミンを含んでいた。ストップ−フロー実験において、いずれの試験サイクルも二つの処理からなっていた。処理1:該カラムは20分間移動相で平衡状態にされ、その後該試料が注入され、データ取得は次の10分間で行われた。処理2:次のサイクルを開始する前に、フローは30分間止められた。50サイクルが各結合された相に対して行われた。
新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)相を、100%水性溶離剤中の“ストップ−フロー”試験を用いて、新たな市販の高密度C18相(ブランドA)と比較した(図4)。高密度C18カラムに、最初のストップ−フローサイクルの後に、シトシン、ウラシル及びチミンに対する突然の保持の減少が生じたことが見出された(図4)。さらに保持の緩やかな減少が、続くサイクルにおいて観察された。これに対して、該新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)相は、同一環境下で、一貫して充分に機能した。保持のほんのごくわずかな減少が、50ストップ−フローサイクルの後に、全三検体について観察された(シトシン、ウラシル及びチミンの保持低下は、それぞれ1.0、1.0及び5.0%より少ない)。
【0031】
加水分解に対する安定性試験
該結合されたシリカカラムは、CH3CN/1%TFA,pH1(50:50v/v)移動相により50℃で、及びCH3CN/20mM Et3N pH11.5(50:50v/v)溶離剤により30℃で試験された。最初に、新しく充填され又は購入されたカラムは、50カラム容積のCH3CNで洗浄され、その後50カラム容積の移動相により平衡状態にされた。試料溶液は、ウラシルとトルエンを含んでいた。トルエンのk値は、二回の注入の平均を用いて測定された。該カラムは、1mL/minの流速で移動相によりパージされ、10から30日の間に定期的に試験し直された。
該新たなアミド相及び周知の市販の極性埋込(polar−embedded)相(ブランドB)は、pH1及び50℃で低pH安定性試験が行われた。30日の試験期間の間、1%より小さいトルエンkの低下が新たな相で観察され、一方、同一条件下においてブランドBカラムが試験された場合に、20%近くのk値の低下が生じた(図5)。官能性シリコン化合物とシリカ表面間の共有結合数の増加が、この発明において述べた新たなアミド極性埋込(polar−embedded)相の、優れた安定性の主たる理由であると考えられる。
【0032】
新たなアミド極性埋込(polar−embedded)相を、同じ原料シリカゲルをもとにして調製された高密度C18相と、pH11.5、30℃での高pH安定性試験を用いて比較した(図6)。高密度C18相はカラム床の崩壊により、連続パージの10日後に機能しなくなったことが見出された。これに対して、該新たなアミド相は同一条件下において16日間安定しており、これは安定性の60%近い増加と言い換えられる。多重結合が、各リガンド分子及びシリカ表面との間で形成されたことにより、及びある程度の架橋がほぼ達成されたことにより、該開発されたアミド埋込(amide−embedded)相の官能基層は安定化効果を有し、高いpHにおけるシリカバックボーンの迅速な溶解を防止した。
【0033】
本発明で述べた方法は、加水分解に対する高められた安定性、及び以下を含む優れたクロマトグラフィーの特性を有した、種々の固定相の開発の足がかりとして役立つ。
1.低pH及び高pH両方における加水分解に対する高められた安定性
2.100%水性溶離剤との適合性
3.通常のC18逆相と異なる選択性
4.塩基性検体及び酸性検体両方に対するピークの低い非対称性
5.通常の高密度C18カラムと類似する親水性検体の保持を提供する高い相容量。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、通常のC18相と、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18相を使用した、極性選択性試験の比較を示す。
【図2】図2は、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18相を使用した、アミトリプチリン試験を示す。
【図3】図3は、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18相を使用した、極性試験を示す。
【図4】図4は、層崩壊の試験を、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18相を使用し、通常のC18カラムと比較して示す。
【図5】図5は、pH1及び50℃で、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18カラムと、周知の市販の極性埋込(polar−embedded)相(ブランドB)を使用した、加水分解に対する安定性試験を示す。
【図6】図6は、pH11.5及び30℃で、新たに開発したアミド埋込(amide−embedded)C18カラムと、通常の高密度C18相(ブランドC)を使用した、加水分解に対する安定性試験を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造の一つを有する多官能性シリコン化合物:
【化1】

ここで、R1、R2及びR3の少なくとも一つは脱離基であり、該基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
1、L2及びL3は、長さが1から100の置換アルキル鎖又はアルキル鎖を含み、
m=1−100であり;
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり;
E、E1及びE2のそれぞれが、アルキル基、置換アルキル基、アリール基又は置換アリール基を含み、1−50の炭素原子を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない;ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。
【請求項2】
E、E1及びE2がシアノ末端部分を含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項3】
前記シリコン化合物が基材に結合するときに、E、E1及びE2が、前記シリコン化合物が支持体に結合された場合、逆相クロマトグラフィーの媒体として使用することができるように充分な長さのアルキル鎖を含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項4】
E、E1及びE2が、長さが少なくとも1炭素のアルキル鎖を含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項5】
N−PGがアミド、カルバメート、スルホンアミド及びウレアからなる群より選択される、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項6】
1、R2又はR3がヒドロキシル、アルコキシ、ハライド及びアミノ部分からなる群より選択される、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項7】
基材に共有結合した請求項1に記載のシリコン化合物であって、ここでL1及びL2に結合したSi基は、前記L1−Si又はL2−Si結合のSiのR1、R2又はR3と、シラノール、アルコキシシラン、ハロシラン及びアミノシラン部分からなる群より選択される前記基材の反応基との反応によって共有結合されるシリコン化合物。
【請求項8】
前記基材がシリカゲルを含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項9】
前記基材がガラスを含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項10】
前記基材がゾル−ゲル又はハイブリッドゾル−ゲル/ポリマーを含む、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項11】
以下の構造を有する請求項1に記載のシリコン化合物:
【化2】

【請求項12】
以下の構造を有する請求項1に記載のシリコン化合物:
【化3】

【請求項13】
以下の構造の一を有する、基材に共有結合したシリコン化合物を含む組成物:
【化4】

ここで、R1及びR2の少なくとも一つは、独立にアルキル基又は置換アルキル基又は脱離基であり、該脱離基は脱離の後に、前記構造の一におけるSiが、Si−O−Si又はSi−O−Zr結合を形成することを可能とするものであり、
m=1−100であり;
N−PG、N−PG1及びN−PG2は窒素含有極性基であり;
E、E1及びE2はそれぞれ、アルキル基、置換アルキル基、アリール基又は置換アリール基を含み、1から50炭素原子を含み、かつ以下から成る群より選択される官能基を含まない:ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオ、ハロ及びスルホネート部分。
【請求項14】
N−PGがアミド、カルバメート、スルホンアミド及びウレアから成る群より選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記基材がシリカ基材である、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記シリカ基材がシリカゲルを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項17】
前記基材がゾル−ゲル又はハイブリッドゾル−ゲル/ポリマーを含む、請求項13に記載のシリコン化合物。
【請求項18】
逆相クロマトグラフィーの分離媒体としての使用に適したフロー−スルーベッドにおける、請求項13に記載の組成物。
【請求項19】
以下の構造を有する請求項13に記載の組成物:
【化5】

【請求項20】
以下の構造を有する請求項13に記載の組成物:
【化6】

【請求項21】
請求項13の組成物を含む分離媒体のベッドを通して、水性液状流を流すことを含む、クロマトグラフィー法。
【請求項22】
液状試料中の検体をクロマトグラフィーで分離する方法であって、前記液状試料を、請求項13の組成物を含む媒体を通って流すことを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−510644(P2007−510644A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538010(P2006−538010)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【国際出願番号】PCT/US2004/032655
【国際公開番号】WO2005/047886
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(591025358)ダイオネックス コーポレイション (38)
【Fターム(参考)】