説明

基板およびマイクロチップ並びに基板の製造方法およびマイクロチップの製造方法

【課題】2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板およびマイクロチップ並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に金属パターンまたは金属酸化物パターンが形成され、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上に表面処理膜を形成することにより、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板およびマイクロチップを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子、タンパク質、細胞および血液等の生化学検査、化学合成、化学分析などに使用される基板、マイクロチップおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスや樹脂性の基板上にセンサを構築し、基板上で化学や生化学分野の分析を実現する化学チップやバイオチップ、または、ガラスや樹脂性の基板上にナノメーターからマイクロメーターオーダーの微細な流路を形成し、流路中にて化学や生化学分野の分析を実現するμTAS(micro total analysis system)もしくはLab−on−a−chipと呼ばれる技術が注目を集めている。様々な分析および/または微細な流路が形成されたバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これら流路構造をもつチップを総称してマイクロチップと称する)上で、合成等を実現するために、送液および検出などに関連する技術の開発が進められている。
【0003】
基板の表面やマイクロチップの微小流路内では、取り扱う生化学試料等の液体試料の単位容積あたりの表面積が、実験室等のバルク空間に比べて著しく大きい。そのため、例えば、タンパク質の吸着を防止するために、基板や流路の表面処理、特に基板や流路の一部の特定領域を表面処理することが重要となる。また、マイクロチップの微小流路内で分析を行う場合、流路内における液体試料の送液、停止、合流といった送液制御が必要となるが、マイクロチップの微小流路内では、バルク空間とは異なり、慣性力や重力よりも表面張力が液体試料の運動を支配するため、流路の表面処理が重要となる。特に、流路の長手方向(液体試料が流れる方向)全体に対して表面処理が行われるよりも、流路の長手方向の一部に表面処理が行われた方が、高度な送液制御や分析が可能となる。
【0004】
特許文献1では、第1の基板に形成された溝の側壁面および底面を表面処理剤によって被覆し、当該第1の基板と第2の基板とを貼り合せることによって、流路全体が表面処理剤によって被覆されたマイクロチップの提供およびその製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、基板表面に有機分子膜を形成し、パターニングされたマスクを介して紫外光を照射することで、照射領域の有機分子膜を分解し、基板表面上にパターニングされた有機分子膜を形成する方法が開示されている。当該方法を用いて形成された、パターニングされた有機分子膜を有する基板と、溝を形成した別の基板とを貼り合せることで、流路の長手方向の一部のみが表面処理剤によって被覆されたマイクロチップを提供することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−128341号公報(2009年6月11日公開)
【特許文献2】特開2002−19008号公報(2002年1月22日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、流路の長手方向全体が表面処理剤によって被覆されるため、流路の長手方向の一部のみが表面処理剤によって被覆されたマイクロチップを提供することは困難であるという課題を有している。
【0008】
また、上記特許文献2に記載の方法では、有機分子膜を分解するには紫外領域の高エネルギーの光照射装置が必要であるという課題を有している。更に、当該方法を用いてマイクロチップを作製する場合、マイクロチップを貼り合わせ後に光照射を行うとなると、マイクロチップの材料が紫外領域の光に対して透過性を示す石英等に限定され、マイクロチップのコストが上がるという課題を有している。
【0009】
また、マイクロチップを貼り合わせる前に光照射を行うとなると、別の問題が生じる。つまり、マイクロチップを貼り合わせるためには、基板材料がガラスや石英の場合には、ガラス転移温度を超える高温(通常600℃以上)が必要であり、基板材料がPDMS(ポリジメチルシロキサン)やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)などの樹脂材料の場合には、プラズマ処理などが必要である。しかしながら、これらの加熱やプラズマ処理により、基板上に形成された有機分子膜が破壊されるという課題を有している。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板およびマイクロチップ並びにそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係る基板は、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板であって、上記基板には、金属パターンまたは金属酸化物パターンが形成され、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上には、表面処理膜が形成されていることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、基板上に構築された金属パターンまたは金属酸化物パターン上に表面処理膜が形成されるため、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板の提供が可能となる。
【0013】
本発明に係る基板では、上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、表面処理膜が、基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の提供が可能となる。
【0015】
本発明に係る基板では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されていることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合して保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できる。また、基板作製後の液体試料を流す等の操作でも、表面処理膜の剥離を防ぐことができる。
【0017】
本発明に係る基板では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つ基板の提供が可能であり、局所的なタンパク質の吸着防止等に好適に利用できる。
【0019】
本発明に係る基板では、上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、基板上に金属パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。また、上記金属はメルカプト基またはジスルフィド基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の提供が可能となる。
【0021】
本発明に係る基板では、上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、基板上に金属酸化物パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。また、上記金属酸化物はアルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の提供が可能となる。
【0023】
本発明に係る基板では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、外部の測定機器との接続用のリード線や、外部の測定機器から照射される光を受光する構成を備える必要がなく、簡易な構成の基板の提供が可能となる。
【0025】
上記の課題を解決するために、本発明に係るマイクロチップは、少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有するマイクロチップであって、上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板であり、上記2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板には、金属パターンまたは金属酸化物パターンが上記流路の内側に配置されるように形成され、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上には、表面処理膜が形成されていることを特徴としている。
【0026】
上記構成によれば、マイクロチップの流路内に構築した金属パターンまたは金属酸化物パターン上に表面処理膜が形成されるため、少なくとも2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの提供が可能となる。
【0027】
本発明に係るマイクロチップでは、上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの提供が可能となる。
【0029】
本発明に係るマイクロチップでは、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されていることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合して保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できる。また、マイクロチップ作製後の液体試料を流す等の操作でも、表面処理膜の剥離を防ぐことができる。
【0031】
本発明に係るマイクロチップでは、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つマイクロチップの提供が可能であり、局所的なタンパク質の吸着防止等に好適に利用できる。また、流路の濡れ性に基づいた高度な送液制御が可能となる。
【0033】
本発明に係るマイクロチップでは、上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、基板上に金属パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能であり、かつ、流路内に金属パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。また、上記金属は、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの提供が可能となる。
【0035】
本発明に係るマイクロチップでは、上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、基板上に金属酸化物パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能であり、かつ、流路内に金属酸化物パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。また、上記金属酸化物は、上記アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの提供が可能となる。
【0037】
また、本発明に係るマイクロチップは、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが上記流路の内側に配置されるように形成されているとともに、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上に撥液性膜が形成されている基板、を有するマイクロチップであって、上記マイクロチップは、上記流路内に液体試料を流して、上記液体試料の送液制御を行うものであり、上記撥液性膜が形成されている上記流路の領域において、上記流路の長手方向に対して略垂直である流路断面における上記撥液性膜が形成されていない上記基板の流路を構成する辺の外周長さをAとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されていない上記基板の流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている上記基板の流路を構成する辺の外周長さをBとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている上記基板の流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとしたときに、次式、「A・cosθ + B・cosθ ≦ 0」が成立することが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、撥液性膜が形成された流路領域が液体試料に対して圧力障壁となり、流路内にバルブ機能を持たせることができる。その結果、高度な送液制御が可能となるマイクロチップの提供が可能となる。
【0039】
また、本発明に係るマイクロチップは、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが上記流路の内側に構成されるように形成されているとともに、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上に撥液性膜が形成されている基板、を有するマイクロチップであって、上記マイクロチップは、上記流路内に液体試料を流して、上記液体試料の送液制御を行うものであり、
上記撥液性膜が形成されていない上記流路の領域において、上記流路の長手方向に対して略垂直である流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板以外の基板によって形成される上記流路を構成する辺の外周長さをCとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板以外の基板によって形成される上記流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板によって形成される上記流路を構成する辺の外周長さをDとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板によって形成される上記流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとしたときに、次式、「C・cosθ + D・cosθ > 0」が成立することが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、撥液性膜が形成されていない流路領域において液体試料を毛管力で駆動することができる。その結果、安価で小型のマイクロチップの提供が可能となる。
【0041】
本発明に係るマイクロチップでは、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、外部の測定機器との接続用のリード線や、外部の測定機器から照射される光を受光する構成を備える必要がなく、簡易な構成のマイクロチップの提供が可能となる。
【0043】
本発明に係る基板の製造方法は、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を製造する方法であって、上記基板に、金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンを有する上記基板上に、表面処理膜を塗布する工程と、上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された上記表面処理膜を除去する工程と、を含むことを特徴としている。
【0044】
上記構成によれば、基板上に金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成し、その表面に表面処理膜が形成されるため、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0045】
本発明に係る基板の製造方法では、上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。
【0046】
上記構成によれば、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0047】
本発明に係る基板の製造方法では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されることが好ましい。
【0048】
上記構成によれば、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合して保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できるとともに、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0049】
本発明に係る基板の製造方法では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。
【0050】
上記構成によれば、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つ基板の製造が可能である。
【0051】
本発明に係る基板の製造方法では、上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることが好ましい。
【0052】
上記構成によれば、基板上に金属パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である、上記金属は、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0053】
本発明に係る基板の製造方法では、上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることが好ましい。
【0054】
上記構成によれば、基板上に金属酸化物パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。上記金属酸化物は、上記アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0055】
本発明に係る基板の製造方法は、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことが好ましい。
【0056】
上記構成によれば、外部の測定機器との接続用のリード線や、外部の測定機器から照射される光を受光する構成を備える必要がなく、簡易な構成の基板の製造が可能となる。
【0057】
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有し、上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造方法であって、第1の基板に金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンを有する上記第1の基板上に、表面処理膜を塗布する工程と、上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程と、上記第1の基板と、少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、上記流路を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0058】
上記構成によれば、マイクロチップの流路内に構築した金属パターンまたは金属酸化物パターン上に表面処理膜が形成されるため、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0059】
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有し、上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造方法であって、第1の基板に金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、上記第1の基板と少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、上記流路を形成する工程と、上記流路内に表面処理膜を塗布する工程と、上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程と、を含むことを特徴としている。
【0060】
上記構成によれば、流路形成のために必要な基板を貼り合わせる工程の後に、表面処理膜を塗布するので、加熱処理やプラズマ処理などの貼り合わせ工程で表面処理膜が劣化および/または分解することを防ぐことができる。その結果、確実に、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0061】
本発明に係るマイクロチップの製造方法では、上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。
【0062】
上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0063】
本発明に係るマイクロチップの製造方法では、上記金属パターンまたは金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されることが好ましい。
【0064】
上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合して保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できる。その結果、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0065】
本発明に係るマイクロチップの製造方法では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。
【0066】
上記構成によれば、流路内に親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つマイクロチップの製造が可能である。
【0067】
本発明に係るマイクロチップの製造方法では、上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることが好ましい。
【0068】
上記構成によれば、流路内に金属パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。上記金属は、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、流路内に高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0069】
本発明に係るマイクロチップの製造方法は、上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることが好ましい。
【0070】
上記構成によれば、流路内に金属酸化物パターンを容易にかつ精度よく作製することが可能である。上記金属酸化物は、上記アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子と選択的かつ強固に結合するので、流路内に高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0071】
本発明に係るマイクロチップの製造方法では、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことが好ましい。
【0072】
上記構成によれば、外部の測定機器との接続用のリード線や、外部の測定機器から照射される光を受光する構成を備える必要がなく、簡易な構成のマイクロチップの製造が可能となる。
【発明の効果】
【0073】
本発明であれば、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板、および、流路内に2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを提供することができる。
【0074】
本発明であれば、液体試料内のタンパク質の吸着を防止することによる高精度な分析が可能な基板や、液体試料の高度な送液制御が可能なマイクロチップを提供することができる。
【0075】
本発明であれば、簡単な構成を用いて、複雑な送液動作を実現することができる。
【0076】
本発明であれば、バルブ等の構成が不要であるために、送液装置を安価に製造することができる。
【0077】
本発明であれば、構成が単純であるために流路の密閉性を高めることができる。それ故に、微量の液体を流路内に流しても、当該液体が失われることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態に係る基板の構成を示した上面概略図および断面概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る基板の構成を示した断面概略図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る基板の構成を示した断面概略図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの構成を示した上面概略図および断面概略図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの構成を示した断面概略図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの構成を示した上面概略図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの表面処理を説明するための上面概略図および断面概略図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの表面処理を説明するための断面概略図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るマイクロチップを用いた送液制御を説明するための上面概略図および断面概略図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るマイクロチップを用いた送液制御を説明するための上面概略図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る基板の製造方法を示した断面概略図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るマイクロチップの製造方法を示した断面概略図である。
【図13】本発明の一実施形態に係る別のマイクロチップの製造方法を示した断面概略図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る別のマイクロチップの製造方法を示した断面概略図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る別のマイクロチップの製造方法を示した断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明は、これに限定されない。
【0080】
<基板>
本発明の基板に関する一実施形態について、図1〜3に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0081】
本発明において、基板は、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するものであって、基板の形状や、基板に対するセンサ類の構築は、分析の種類や合成の目的などに応じて、適宜設計される。基板の大きさは、縦横数cm程度、厚さ0.5mm〜1cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0082】
図1〜3は、本発明に係る基板の構成の一例を示した上面概略図(図1a)および図1aのA−A’断面に対応する断面概略図(図1b、図2、図3)である。
【0083】
図1〜3に示すように、基板10は、基板上に少なくとも1つ以上の金属パターンまたは金属酸化物パターン(図1〜3では2つの金属(酸化物)パターン1a、1bを例示)と、金属パターンまたは金属酸化物パターン上に形成された少なくとも1つ以上の表面処理膜(図1〜3では2つの表面処理膜2a、2bを例示)からなる。
【0084】
ここで、金属パターンまたは金属酸化物パターンは、電気化学測定などの測定を目的としたものではなく、外部の測定機器と直接的または間接的に接続することがなく独立して配置されている。「直接的に接続することがない」とは、上記の金属パターンまたは金属酸化物パターンが、端部に外部測定機器との連結を目的としたリード線をもたない構成であることを意味する。また、「間接的に接続することがない」とは、例えば光検出等のために外部の測定機器から照射される光と基板が連結された状態になることがない構成であることを意味する。ただし、種々の分析や合成等の目的に応じて、上記の金属パターンまたは金属酸化物パターンに電圧印加や測定の機能を併せてもたせてもよい。
【0085】
基板の材料としては、ガラス、石英、金属、樹脂(例えば、PDMS、PMMA、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)もしくは環状ポリオレフィン(COP))または感光性樹脂(例えば、エポキシ樹脂および/またはアクリル樹脂)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0086】
金属パターンの材料は、例えば、金、銀、銅、白金およびパラジウムなどが挙げられ、金属酸化物パターンの材料は、例えば、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物が挙げられる。ここで金属酸化物とは単に金属と酸素からなる化合物に限定されず、例えば、金属と窒素とからなる化合物など、金属を広義に酸化したもの(金属の酸化数を上げたもの)も、本発明に含まれる。
【0087】
金属パターンおよび金属酸化物パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。金属パターンおよび/または金属酸化物パターンの形状は目的に応じて適宜設計されるが、2種類以上の性質の異なる表面状態を作り出すために、金属および/または金属酸化物パターンの面積は、基板表面の面積の90%以下であることが好ましい。
【0088】
表面処理膜2a、2bは、基板の表面状態を改質するために使用され、基板とは異なる材料によって形成されている。当該材料は、分析や合成の目的に応じて適宜選択される。表面処理膜2a、2bは、基板上に形成された上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bに選択的に結合する膜であることが好ましい。上記構成により、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の提供が可能となる。
【0089】
上記選択的に結合する膜は、パターン1a、1bが金属パターンである場合、官能基としてメルカプト基またはジスルフィド基を有する分子を含むことが好ましい。当該構成により、これらの分子が上記金属パターンと、選択的に吸着または共有結合し、基板10上の金属パターン1a、1b上のみに選択的に表面処理膜2a、2bを形成することが可能となる。
【0090】
また、パターン1a、1bが金属酸化物パターンである場合、上記選択的に結合する膜は、官能基としてアルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子を含むことが好ましい。当該構成により、これらの分子が上記金属酸化物パターンと、選択的に吸着または共有結合し、基板10上の金属酸化物パターン1a、1b上のみに選択的に表面処理膜2a、2bを形成することが可能となる。
【0091】
上記、何れの場合も、形成された表面処理膜の厚さは、0.1〜100nmであることが好ましいがこれに限定されない。また、1つの基板10上に、金属パターンと金属酸化物パターンとが共存していてもよい。上記何れの構成においても、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合して保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できる。また、基板作製後の液体試料を流す等の操作でも表面処理膜の剥離がおきないという効果があり、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を好適に提供できる。
【0092】
本発明において、上記選択的に結合する膜は撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。撥液性とは、基板上に導入または滴下する液体試料(分析や合成対象の試料のみではなく、分析等を行うのに必要な溶液を含む、以下の記載においても同様)が水溶液の場合は、疎水性に相当し、液体試料が有機溶媒等の非水溶液の場合は、疎油性に相当する。逆に親液性とは、基板上に導入または滴下する液体試料が水溶液の場合は、親水性に相当し、液体試料が有機溶媒等の非水溶液の場合は、親油性に相当する。撥液性膜または親液性膜のパターンを基板上に形成することにより、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つ基板の提供が可能であり、局所的なタンパク質の吸着防止等に好適に利用できる。
【0093】
撥液性膜としては、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する材料によって形成されている膜であることが好ましい。当該材料は、例えば、アルカンチオール(CH(CHSH)、アルキルジチオール(CH(CHSS(CHCH)、フルオロアルキルチオール(上記アルカンチオールの少なくとも一つ以上の水素原子をフッ素原子に置換)およびフルオロアルキルジチオール(上記アルキルジチオールの少なくとも一つ以上の水素原子をフッ素原子に置換)から選択されることが好ましい。ここでn、p、qは自然数である。
【0094】
親液性膜としては、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する材料によって形成されている膜であることが好ましい。当該材料は、例えば、メルカプト基またはジスルフィド基以外の領域には、PEG基(ポリエチレングリコール)、カルボキシル基、アミノ基またはホスホリルコリン基などの親液性基を有することが好ましい。
【0095】
上記撥液性膜または親液性膜を形成する分子のメルカプト基またはジスルフィド基以外の領域は、カルボキシル基、アミノ基、イソチオシアネート基またはNHSエステル基などの官能基で置換されたものであってもよく、該置換官能基を介して、他の分子と化学的に結合させ、新たな表面処理膜を形成してもよい。
【0096】
金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bは、基板10上の必ずしも平坦面(図1b)に形成される必要はない。図2aに示すように、基板10に金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凹型に加工したのち、当該領域に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、図2bに示すように、基板10に金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凸型に加工したのち、当該領域に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、図2cに示すように、基板10に金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凹凸型に加工したのち、当該領域に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、基板10は必ずしも平坦である必要はなく、図3aや図3bに示すように湾曲していてもよく、基板の湾曲面に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、当該湾曲した基板10に、上述した金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を形成することも可能である。
【0097】
上記何れの場合も、形成された金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上に、表面処理膜2a、2bを形成し、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を提供することが可能である。
【0098】
本発明の基板では、上記形状および/または材料を問わず、基板上に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンが形成され、該金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上に表面処理膜が形成されている。本発明の基板の製造方法については後程詳細に説明する。
【0099】
<マイクロチップ>
本発明のマイクロチップに関する一実施形態について、図4〜6に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0100】
本発明において、マイクロチップは、少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路構造を有するマイクロチップであり、該流路が2種類以上の性質の異なる表面状態を有している。なお、マイクロチップおよび流路の形状やセンサ類の構築は、分析の種類や合成の目的などに応じて、適宜設計される。流路とは別に、目的に応じて、試料を導入するための試料導入口や、試料を導出するための試料導出口が配置されていてもよい。マイクロチップの大きさは、縦横数cm程度、厚さ0.5mm〜1cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0101】
図4〜6は、本発明に係るマイクロチップの構成の一例を示した上面概略図(図4aおよび図6)および図4aのB−B’断面に対応する断面概略図(図4bおよび図5)である。
【0102】
図4〜6に示すように、マイクロチップ100では、少なくとも2つ以上の基板(図4bでは第1の基板20と第2の基板30)により流路構造が形成されている(図4bでは第1の基板20と溝構造を有する第2の基板30の貼り合わせによって流路構造が規定される。少なくとも2つ以上の基板を用いたその他の流路構造の規定方法の詳細は後述。)。第1の基板20上には少なくとも1つ以上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン(図4〜6では2つの金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを例示)が、流路3内に形成されている。該金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上には、少なくとも1つ以上の表面処理膜(図4〜6では2つの表面処理膜2a、2bを例示)が形成されている。
【0103】
上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンは、少なくともその一部が流路3内に構成されればよく、流路3外の領域に形成されていてもよい。ここで、金属パターンまたは金属酸化物パターンは、電気化学測定などの測定を目的としたものではなく、外部の測定機器と接続することがなく独立して配置されている。したがって、上記の金属パターンまたは金属酸化物パターンは、端部に外部測定機器との連結を目的としたリード線をもたない構成である。ただし、種々の分析や合成等の目的に応じて、上記の金属パターンまたは金属酸化物パターンに電圧印加や測定の機能を併せてもたせてもよい。
【0104】
第1の基板20および第2の基板30の材料としては、ガラス、石英、金属、樹脂(例えば、PDMS、PMMA、PET、PC、PP、PS、PVCもしくはCOP)、または、感光性樹脂(例えば、エポキシ樹脂もしくはアクリル樹脂)等が挙げられるがこれに限定されない。
【0105】
金属パターンの材料としては、例えば、金、銀、銅、白金およびパラジウムなどが挙げられ、金属酸化物パターンの材料としては、例えば、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物が挙げられる。ここで金属酸化物とは単に金属と酸素とからなる化合物に限定されず、例えば、金属と窒素とからなる化合物など、金属を広義に酸化したもの(金属の酸化数を上げたもの)も、本発明に含まれる。
【0106】
金属パターンおよび金属酸化物パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。金属および/または金属酸化物パターンの形状は目的に応じて適宜設定されるが、少なくとも2種類以上の性質の異なる表面状態を作り出すために、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンの面積は、流路表面の面積の90%以下であることが好ましい。また、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンは、第2の基板30との接着性を向上させるために流路内の領域のみに形成されることが好ましい。
【0107】
流路3の幅(図4aの左右方向)および深さ(図4bの左右方向)は、1〜5000μmであることが好ましく、流路3の長さ(図4aの上下方向)は、1〜100mmであることが好ましいが、この範囲に限定されず、分析や合成の目的に応じて適宜設定される。流路3の断面形状は矩形である必要はなく、台形形状、半円形状または円管形状などでもよい。また、流路3の深さは必ずしも一様である必要はなく、部分的に浅くなっていたり深くなっていてもよい。
【0108】
表面処理膜2a、2bは、第1の基板20の表面状態を改質するために使用され、第1の基板20と異なる材質であればよく、分析や合成の目的に応じて適宜選択される。表面処理膜2a、2bは、第1の基板20上に形成された上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bに選択的に結合する膜であることが好ましい。上記構成により、表面処理膜が第1の基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの提供が可能となる。
【0109】
金属パターンを用いる場合、上記選択的に結合する膜は、官能基としてメルカプト基またはジスルフィド基を有する分子を含むことが好ましい。当該構成により、これらの分子が上記金属パターンと、選択的に吸着または共有結合し、第1の基板20上の金属パターン1a、1b上のみに選択的に表面処理膜2a、2bを形成することが可能となる。
【0110】
また、金属酸化物パターンを用いる場合、上記選択的に結合する膜は、官能基としてアルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子を含むことが好ましい。当該構成により、これらの分子が上記金属酸化物パターンと、選択的に吸着または共有結合し、第1の基板20上の金属酸化物パターン1a、1b上のみに選択的に表面処理膜2a、2bを形成することが可能となる。
【0111】
上記、何れの場合も、形成された表面処理膜の厚さは、0.1〜100nmであることが好ましいがこれに限定されない。また、1つの第1の基板20上に、金属パターンと金属酸化物パターンとが共存していてもよい。上記何れの構成においても、表面処理膜が第1の基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合し保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去できる。また、マイクロチップ作製後の液体試料を流す等の操作でも、表面処理膜の剥離がおきないという効果があり、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを好適に提供できる。
【0112】
本発明において、上記選択的に結合する膜は撥液性膜または親液性膜であることが好ましい。撥液性とは、マイクロチップに導入する液体試料(分析や合成対象の試料のみではなく、分析等を行うのに必要な溶液を含む、以下の記載においても同様)が水溶液の場合は、疎水性に相当し、液体試料が有機溶媒等の非水溶液の場合は、疎油性に相当する。逆に親液性とは、マイクロチップに導入する液体試料が水溶液の場合は、親水性に相当し、液体試料が有機溶媒等の非水溶液の場合は、親油性に相当する。撥液性膜または親液性膜のパターンをマイクロチップの流路内に形成することにより、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つマイクロチップの提供が可能となり、局所的なタンパク質の吸着防止や、液体試料の濡れ性(表面張力)を利用した高度な送液制御が可能となる。
【0113】
撥液性膜としては、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する材料によって形成されている膜であることが好ましい。上記材料は、例えば、アルカンチオール(CH(CHSH)、アルキルジチオール(CH(CHSS(CHCH)、フルオロアルキルチオール(上記アルカンチオールの少なくとも一つ以上の水素原子をフッ素原子に置換)およびフルオロアルキルジチオール(上記アルキルジチオールの少なくとも一つ以上の水素原子をフッ素原子に置換)から選択されることが好ましい。ここでn、p、qは自然数である。
【0114】
親液性膜としては、上記メルカプト基またはジスルフィド基を有する材料によって形成されている膜であることが好ましい。上記材料は、上記メルカプト基またはジスルフィド基以外の領域には、PEG基(ポリエチレングリコール)、カルボキシル基、アミノ基またはホスホリルコリン基などの親液性基を有することが好ましい。
【0115】
上記撥液性膜または親液性膜を形成する分子のメルカプト基またはジスルフィド基以外の領域は、カルボキシル基、アミノ基、イソチオシアネート基またはNHSエステル基などの官能基で置換されたものであってもよく、該置換官能基を介して、他の分子と化学的に結合させ、新たな表面処理膜を形成してもよい。
【0116】
金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bは、第1の基板20上の必ずしも平坦面(図4b)に形成される必要はない。図5aに示すように、第1の基板20の金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凹型に加工したのち、当該領域に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、図5bに示すように、第1の基板20の金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凸型に加工したのち、当該領域に金属パターン1a、1bを形成してもよい。また、図5cに示すように、第1の基板20の金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を凹凸型に加工したのち、当該領域に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、第1の基板20は必ずしも平坦である必要はなく、例えば湾曲していてもよく、基板の湾曲面に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成してもよい。また、当該湾曲した基板に、上述した金属パターン形成領域および/または金属酸化物パターン形成領域を形成することも可能である。
【0117】
上記何れの場合も、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bの少なくとも一部は、第1の基板20と第2の基板30とによって規定される流路3内に形成され、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上に表面処理膜2a、2bを形成することで、2種類以上の性質の異なる表面状態をもつ流路を有するマイクロチップの提供が可能である。
【0118】
上記流路構造は必ずしも直線形状である必要はなく、図6a(マイクロチップ100の上面外略図)に示すように蛇行形状でもよいし、図6b(マイクロチップ100の上面外略図)に示すように分岐構造(図6bでは分岐流路3a、3bを有する構造を例示)を有していてもよい。何れの場合も、流路3(または分岐流路3a、3b)の少なくとも一部に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンが形成され、該金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上に表面処理膜2a、2bを形成することで、2種類以上の性質の異なる表面状態をもつ流路を有するマイクロチップの提供が可能である。なお、図6a・bに示す蛇行形状および分岐形状は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0119】
本発明のマイクロチップは、上記形状および/または材料を問わず、流路の少なくとも一部に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンが形成され、該金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上に表面処理膜が形成されている。本発明のマイクロチップの製造方法については後程詳細に説明する。
【0120】
<マイクロチップを用いた送液制御>
次に本発明のマイクロチップを用いた送液制御の一例について図7〜図10を参照して説明する。上述したように、表面処理膜として撥液性膜または親液性膜のパターンを流路内に形成することにより、液体試料の濡れ性(表面張力)を利用した高度な送液制御が可能となる。下記は、表面処理膜が撥液性膜であり、流路の当該領域が撥液性であり、流路のその他の領域が親液性である場合について説明を行うが、表面処理膜が親液性膜の場合は、撥液および/または親液の関係が逆になり同様の説明が成り立つことは言うまでもない。
【0121】
図7aは、図4aに対応するマイクロチップ100の上面概略図である。図7bは、流路3内の金属パターンまたは金属酸化物パターン1aおよび当該金属パターンまたは金属酸化物パターン1a上の表面処理膜(撥液性膜)2aが存在する領域の断面(C−C’断面)に対応する断面概略図であり、図7cは、流路3内の金属パターンまたは金属酸化物パターン1aおよび当該金属パターンまたは金属酸化物パターン1a上の表面処理膜(撥液性膜)2aが存在しない領域の断面(D−D’断面)に対応する断面概略図である。
【0122】
流路3内に液体試料を送液する場合、送液される液体と流路内に予め充填されている媒体(多くの場合は空気等の気体であるが、その他の試料やオイル等の液体でもよい)との界面には表面張力に起因する力Fが作用する。流路が半径rの円管の場合、この力Fは次式で表される。
【0123】
F = 2π・r・γ・cosθ (1)
ここで、γは液体と流路内に予め充填されている媒体と間の表面張力(使用する液体試料と媒体の種類により決まり、例えば、水と空気の界面であれば72mN/m)、θは流路に対する液体の接触角である。θが90°以上であればその余弦であるcosθは零または負の値となり、表面張力に起因する力Fは、液体を流すことに対して障壁となり、バルブとして機能することが可能である。逆に、θが90°未満であればその余弦であるcosθは正の値となり、表面張力に起因する力Fは、液体をより流す方向に働く(外部からの駆動力なしに、液体が自発的に進む現象は毛細管現象として広く知られている)。
【0124】
接触角は、液体試料の種類と液体試料が接する流路の材料(流路内に表面処理膜を形成した場合は表面処理膜の種類)とによって決まるが、例えば、液体試料が水であり、流路を構成する基板としてガラスや石英を用いた場合の接触角は5〜50°、PDMSやPMMAなどの樹脂を用いた場合の接触角は60〜120°程度である。また、撥液性膜として、上記に挙げたアルカンチオール、アルキルジチオール、フルオロアルキルチオールまたはフルオロアルキルジチオールを用いた場合の接触角は100〜120°程度(上記に挙げた親液性膜を用いた場合の接触角は5〜50°程度)である。
【0125】
接触角の値は、図5cに示したような流路表面、または、表面処理膜の表面を微細な凹凸構造をもつように形成することで、より広げる(90°以下の表面の場合は、接触角がより小さくなり、90°以上の表面の場合は、接触角がより大きくなる)ことが可能である。
【0126】
本発明において、流路3は少なくとも2つ以上の基板により構造が規定されている。例えば、図7bでは、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bおよび表面処理膜2a、2bを有する第1の基板20が流路の底面となり、溝構造を有する第2の基板30が流路の残りの面を形成している。
【0127】
図7bのように矩形流路を想定した場合、第2の基板30側の溝(流路3を構成する辺)の外周長さ(即ち、浸辺長)をAとし(幅(紙面上下方向)をa、深さをb(紙面左右方向)とすると、A=a+2bとなる)、第1の基板20側の流路3を構成する辺の外周長さ(図7bでは幅(紙面上下方向)と等しい)をBとし、第2の基板30の溝での液体試料の接触角をθとし、第1の基板20上の表面処理膜での液体試料の接触角をθとすると、表面張力に起因する力Fは次式で表される。
【0128】
= A・γ・cosθ + B・γ・cosθ (2)
よって、液体試料に対してバルブ機能をもたせるためには、(2)式が零または負となればよく、その条件は次の(3)式、
A・γ・cosθ + B・γ・cosθ ≦ 0 (3)
または、これを変形した次の(4)式で表される。
【0129】
A・cosθ + B・cosθ ≦ 0 (4)
よって、(4)式を満たすようマイクロチップを構成すれば、撥液性膜が形成された流路領域が液体試料に対して圧力障壁となり、流路内にバルブ機能を持たせることができ、高度な送液制御が可能となるマイクロチップの提供が可能となる。
【0130】
これに対して、表面処理膜が形成された以外の領域は、液体試料をより流す方向に作用する(流れの障壁とならない)ことが好ましい。図7cのように矩形流路を想定した場合、第2の基板30側の溝(流路3を構成する辺)の外周長さをCとし(幅(紙面上下方向)をc、深さをd(紙面左右方向)とすると、C=c+2dとなる)、第1の基板20側の流路3を構成する辺の外周長さ(図7cでは幅(紙面上下方向)に等しい)をDとし、第2の基板30の溝での液体試料の接触角をθとし、第1の基板20(表面処理膜以外の領域)での液体試料の接触角をθとすると、表面張力に起因する力Fは次式で表される。
【0131】
= C・γ・cosθ + D・γ・cosθ (5)
よって、液体試料をより流す方向に作用させるには、(5)式が正となればよく、その条件は次の(6)式、
C・γ・cosθ + D・γ・cosθ > 0 (6)
または、これを変形した次の(7)式で表される。
【0132】
C・cosθ + D・cosθ > 0 (7)
(7)式を満たすようマイクロチップが形成された場合、撥液性膜が形成されていない流路領域において液体試料を毛管力によって駆動することができ、安価で小型のマイクロチップの提供が可能となる。
【0133】
以上は、流路3の断面が矩形構造の場合について説明を行ったが、図7aのC−C’断面に対応する流路断面形状が、図8aに示すように台形形状や、図8bに示すように略半円形状でもよい。流路断面形状が台形形状のとき、図8aに示すように第2の基板30の溝側の底面の長さ(紙面左右方向)をeとし、高さ方向の長さ(紙面斜め方向)をfとすると、上記の溝の外周長さAは、A=e+2fとなり、流路断面形状が図8bに示すように略半円形状のとき、上記の溝の外周長さAは、略半円の長さgとなる。
【0134】
また、後述するように流路3は3つ以上の基板によって構成されてもよく、例えば、図8cに示すように、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンおよび表面処理膜を有する第1の基板20、対向する基板である第2の基板30、上記両基板間にスペーサーとして配置される第3の基板31、第4の基板32によって構成されていてもよい。第2の基板30の流路3を構成する辺の長さをh、第3の基板31の流路3を構成する辺の長さをi、第4の基板32の流路3を構成する辺の長さをj、第1の基板20側の流路3を構成する辺の外周長さ(図では幅(紙面左右方向)と等しい)をBとし、第2の基板30の辺での液体試料の接触角をθとし、第1の基板20上の表面処理膜での液体試料の接触角をθとし、第3の基板31の辺での液体試料の接触角をθとし、第4の基板32の辺での液体試料の接触角をθとすると、表面張力に起因する力F’は次式で表される。
【0135】
’= h・γ・cosθ + B・γ・cosθ + i・γ・cosθ
+ j・γ・cosθ (8)
よって、液体試料に対してバルブ機能をもたせるためには、(8)式が零または負となればよく、その条件は次の(9)式、
h・γ・cosθ + B・γ・cosθ + i・γ・cosθ
+ j・ γ・cosθ ≦ 0 (9)
または、これを変形した次の(10)式で表される。
【0136】
h・cosθ + B・cosθ + i・cosθ + j・cosθ
≦ 0 (10)
(10)式を満たすようマイクロチップを構成すれば、撥液性膜が形成された流路領域が液体試料に対して圧力障壁となり、流路内にバルブ機能を持たせることができる。(10)式を満たす送液制御を行うマイクロチップは本発明に含まれる。
また、液体試料に対して毛管力で駆動することができる(7)式に対応する式も同様に導出可能である。
【0137】
以上は、溝の形状のみの外周長さについて記載したが、第1の基板20側の外周長さも形状に応じて適宜設計される。
【0138】
次に、本発明のマイクロチップを用いた送液制御の一例について、図9および図10を参照して説明する。図9aは、図4aに対応するマイクロチップ100の上面概略図であり、液体試料を導入するための試料導入口11aと液体試料を導出するための試料導出口11bをさらに備えている。これらの試料導入口11aおよび試料導出口11bは、例えば、第2の基板30の当該領域に切削加工等で貫通孔を設けることで形成される。試料導入口11aおよび試料導出口11bには、送液の駆動方法に応じて適宜チューブ等を接続してもよい。
【0139】
図9bは、図9aのE−E’断面に対応する断面概略図である。流路3の長手方向(紙面上下方向、換言すると、液体の流れる方向)の一部には、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b、および、当該金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上の表面処理膜(撥液性膜)2a、2bが形成されている。流路3の撥液性膜2a、2bが形成されている領域は、液体試料に対して上記(3)式または(4)式を満たすように形成され、それ以外の領域は、液体試料に対して上記(6)式または(7)式を満たすように形成されている。
【0140】
試料導入口11aに液体試料40を導入すると、液体試料40は毛管力によって流路内に導入され(図10a)、撥液性膜2aが形成された領域に到達すると上述したバルブ機能により液体試料40は停止する(図10b)。試料導入口11aにはポンプ等の外部駆動力を用いてもよく、この時、外部駆動力によって液体試料の先端(例えば、流路内に予め充填された媒体が空気である場合は、液体と空気の界面)にかかる力FIN(正の値)の絶対値が、上記(2)式の表面張力に起因する力Fの絶対値を超えないように外部駆動力を設定することで、上記毛管力による駆動と同様に、液体試料40が撥液性膜2aが形成された領域に到達したところで停止する。上記外部駆動力による力FINは、圧力の形式PIN(正の値)で表現されてもよく、このとき、表面張力に起因する力Fは流路断面積で除することにより圧力Pとして表現され、PINの絶対値がPの絶対値を超えないよう設定される。
【0141】
バルブ機能により停止した液体試料40は、上記表面張力に起因する力Fの絶対値を超える力FIN’を加えることで、再び送液され得る(図10c)。この力FIN’は、例えば、ポンプ等の外部駆動力によって付与されてもよいし、金属パターンまたは金属酸化物パターン1aに電圧を印加することによるエレクトロウエッティングに起因する力であってもよく、あらゆる公知の手段が適用される。
【0142】
液体試料40は、撥液性膜が形成されていない領域を、毛管力により自発的に送液、または外部駆動力により送液され(図10c)、撥液性膜2bが形成された領域で再び停止する(図10d)。(2)式より、バルブとしての停止力は、接触角および流路の形状に基づいて決まるため、撥液性膜2bが設けられている領域のバルブとしての停止力F12bが撥液性膜2aが設けられている領域の停止力F12aよりも大きくなるように、接触角および流路の形状を適宜設定可能である。即ち、上記のFIN’が、撥液性膜2aが設けられている領域を通過した後にも液体試料40に対して印加されていたとしても、F12bの絶対値がFIN’の絶対値よりも大きければ、液体試料40は、撥液性膜2bが設けられている領域で停止可能である。バルブ機能により撥液性膜2bが設けられている領域で停止した液体試料40は、上記と同様に、F12bの絶対値を超える力FIN’’を加えることで、再び送液され得(図10e)、試料導出口11bを介して流路外へ導出され得る。
【0143】
上述したような、液体試料の駆動、停止および再駆動などの送液制御は、例えば、バイオチップにおける液体試料の導入、反応(液体試料は静止した状態で所定時間待機)、導出などの工程で必要とされる基本操作であり、本発明のマイクロチップを用いることで高度に制御された状態で当該基本操作を実現することができる。
【0144】
以上、本発明のマイクロチップを用いた送液制御の一例について説明を行ったが、本発明のマイクロチップは、上記実施形態に限定されず、実際の分析および/または合成操作に応じたより複雑な送液制御に使用されてもよい。また、本発明のマイクロチップは、送液制御のみに限定されず、表面処理剤を目的に応じて適宜設定することにより、例えば、タンパク質の吸着防止領域や、生体試料の固定化領域、化学反応領域として使用することも可能である。
【0145】
<基板の製造方法>
以下に、本発明の基板の製造方法に関する一実施形態について、図11に基づいて説明する。本発明の基板の製造方法は、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を作製するために好適に用いることができる。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0146】
図11は、図1bに対応する本発明の基板の製造方法の一例を示す概略工程図であり、いくつかの段階における基板の構成要素を示すものである。本実施の形態の製造方法は、行われる工程の順番にしたがって、以下の工程を含む。
(1)基板に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成する工程、
(2)上記金属パターンおよび/または上記金属酸化物パターンを有する基板に表面処理膜を塗布する工程、
(3)上記金属パターンの形成領域および/または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程。
以下、各工程について図11を参照して詳細に説明する。なお、図1bの形状の基板を製造する方法を例にとって各工程を説明するが、これらの工程は、本発明のその他の形状の基板の製造にも適用され得る。
【0147】
(1)金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程
本工程では、基板10を準備し(図11a)、基板10上に金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを形成する(図11b)。基板10の材料としては、金属および/または金属酸化物パターンとの密着性の観点から、ガラス、石英または金属等が好ましいが、PDMS、PMMA、PET、PC、PP、PS、PVCまたはCOPなどの樹脂でもよい。基板10のサイズは、縦横数cm程度、厚さ0.5mm〜1cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0148】
上記金属パターンを形成するための金属材料としては、例えば、金、銀、銅、白金およびパラジウムなどが挙げられる。金属パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。上記金属と基板10との密着性をよくする目的で、金属と基板10との間に適宜接着層を設けてもよい。
【0149】
金属パターンの形成方法には、公知のフォトリソ工程を用いることができる。上記フォトリソ工程としては、例えば、金属パターンに対応したマスクを用いて、マスク越しに蒸着やスパッタを行い、基板10上に金属パターンを直接形成する方法が挙げられる。他に、基板10上に感光レジストを塗布し、金属パターンに対応したマスクを用いた感光により金属パターン形成領域以外の領域にレジストが残るようにパターニングし、パターニングされたレジストを有する基板10上に蒸着やスパッタで金属層を形成し、レジスト上の金属をレジストと共に専用の溶剤で除去することにより、金属パターンを得る方法(リフトオフ)や、逆に、基板10上に金属層を形成し、金属層上に感光レジストを塗布し、金属パターンに対応したマスクを用いた感光により金属パターン形成領域にレジストが残るようにパターニングし、レジストがない領域の金属を専用の溶剤で除去し、最後にレジストを専用の溶剤で除去することにより金属パターンを得る方法、などが挙げられる。上述のように、公知のフォトリソ工程を用いることにより、基板10上に金属パターン1a、1bを形成することが可能である。
【0150】
また、上記金属酸化物パターンを形成するための金属酸化物材料としては、例えば、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物が挙げられる。ここで金属酸化物とは単に金属と酸素からなる化合物に限定されず、例えば、金属と窒素とからなる化合物など、金属を広義に酸化したもの(金属の酸化数を上げたもの)も、本発明に含まれる。金属酸化物パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。上記金属酸化物パターンと基板10との密着性をよくする目的で、金属酸化物と基板10との間に適宜接着層を設けてもよい。
【0151】
金属酸化物パターンの形成方法には、公知のフォトリソ工程を用いることができる。上記フォトリソ工程としては、例えば、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いて、マスク越しに蒸着やスパッタを行い、基板10上に金属酸化物パターンを直接形成する方法が挙げられる。他に、基板10上に感光レジストを塗布し、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いた感光により金属酸化物パターン形成領域以外の領域にレジストが残るようパターニングし、パターニングされたレジストを有する基板10上に蒸着やスパッタで金属酸化物層を形成し、レジスト上の金属酸化物をレジストと共に専用の溶剤で除去することにより、金属酸化物パターンを得る方法(リフトオフ)や、逆に、基板10上に金属酸化物層を形成し、金属酸化物層上に感光レジストを塗布し、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いた感光により金属酸化物パターン形成領域にレジストが残るようパターニングし、レジストがない領域の金属酸化物を専用の溶剤で除去し、最後にレジストを専用の溶剤で除去することにより金属酸化物パターンを得る方法、などが挙げられる。また、上述のように基板10上に金属パターンを形成したのち、該金属パターンを陽極酸化等によって金属酸化物パターンに変換してもよい。上述のように、公知のフォトリソ工程を用いることにより、基板10上に金属酸化物パターン1a、1bを形成することが可能である。
【0152】
(2)表面処理膜塗布工程
本工程では、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを有する基板10上に、表面処理膜2を塗布する(図11c)。表面処理膜2としては上記<基板>の項で述べた種々の材料を使用できるが、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。上記構成によれば、表面処理膜が基板上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0153】
上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、官能基としてメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子であることが好ましい。上記構成によれば、表面処理膜が基板上の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合し保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去でき、高精度にパターニングされた表面状態を有する基板の製造が可能となる。
【0154】
また、選択的に結合する膜は、アルカンチオール、アルキルジチオール、フルオロアルキルチオールもしくはフルオロアルキルジチオールなどによって形成された撥液性膜、または、メルカプト基もしくはジスルフィド基を有し、上記メルカプト基もしくはジスルフィド基以外の領域は、PEG基、カルボキシル基、アミノ基もしくはホスホリルコリン基などの親液性基を有する物質によって形成された親液性膜であることが好ましい。上記構成によれば、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つ基板の製造が可能である。
【0155】
表面処理膜の塗布は、例えば、表面処理膜を形成する材料を基板上へ滴下することにより行われる。基板10上に塗布された表面処理膜は、表面処理膜の材料の特性に応じて、基板10の表面へ物理吸着もしくは化学吸着または共有結合により結合する。表面処理膜を塗布し、更に上記結合反応のための所定時間が経過した後、過剰の表面処理膜を基板外へ除去する、または、表面処理膜の溶剤を乾燥させることによって、基板10表面に表面処理膜が形成される。該膜厚は、0.1〜100nmであることが好ましいがこれに限定されない。
【0156】
上記<基板>の項で述べたように、金属パターンを用いる場合、表面処理膜が、メルカプト基またはジスルフィド基を有することが好ましい。当該構成により、これらの官能基が上記金属パターンを形成する材料と、化学吸着または共有結合による強い結合を形成する。また、金属酸化物パターンを用いる場合、表面処理膜が、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有することが好ましい。当該構成により、これらの官能基が上記金属酸化物パターンを形成する材料と、化学吸着または共有結合による強い結合を形成する。
【0157】
(3)表面処理膜除去工程
本工程では、基板10上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b以外の領域に吸着(多くの場合、弱い結合である物理吸着)した表面処理膜を除去することで、基板10上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上のみに表面処理膜2a、2bを形成する(図11d)。上記表面処理膜と金属パターンおよび/または金属酸化物パターンとの結合は、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン以外の領域(すなわち、基板材料)と上記表面処理膜との結合よりも強いため、洗浄を行うことによって金属パターンおよび/または金属酸化物パターン以外の領域の表面処理膜を除去することが可能である。
【0158】
上記洗浄は、例えば、洗浄液を基板上に導入および/または導出することによって行われ、洗浄液としては、例えば、アルコール、水、酸性溶液などを用いることが可能である。洗浄は、目的の表面が得られるように、複数回、繰返し行ってもよい。
【0159】
以上のように、上述した(1)〜(3)の工程を含む製造方法を用いることで、少なくとも2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を作製することが可能となる。
【0160】
<マイクロチップの製造方法>
以下に、本発明のマイクロチップの製造方法に関する一実施形態について、図12〜図15に基づいて説明する。本発明のマイクロチップの製造方法は、2種類以上の性質の異なる表面状態をもつ流路を有するマイクロチップを作製するために好適に用いることができる。なお、本発明は、以下の構成に限定されるものではない。
【0161】
図12は、図4bに対応する本発明のマイクロチップの製造方法の一例を示す概略工程図であり、各工程におけるマイクロチップの構成を示すものである。本実施の形態の製造方法は、行われる工程の順番にしたがって、以下の工程を含む。
(1)第1の基板に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成する工程、
(2)上記第1の基板と、少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、流路を形成する工程、
(3)上記第1の基板上に表面処理膜を塗布する工程、
(4)上記金属パターンの形成領域および/または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程。
以下、各工程について図12を参照して詳細に説明する。なお、図4bの形状のマイクロチップを製造する方法を例にして説明するが、本実施の形態の製造方法は、本発明のその他のマイクロチップ形状の製造にも適用され得る。
【0162】
(1)金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程
本工程では、第1の基板20を準備し(図12a)、第1の基板20上に金属パターンまたは金属酸化物パターン1a、1bを形成する(図12b)。第1の基板20の材料としては、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンとの密着性の観点から、ガラス、石英または金属等が好ましいが、PDMS、PMMA、PET、PC、PP、PS、PVCまたはCOPなどの樹脂でもよい。第1の基板20のサイズは、縦横数cm程度、厚さ0.5mm〜1cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0163】
上記金属パターンを形成するための金属材料としては、例えば、金、銀、銅、白金およびパラジウムなどが挙げられる。金属パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。上記金属と第1の基板20との密着性をよくする目的で、金属と第1の基板20との間に適宜接着層を設けてもよい。
【0164】
金属パターンの形成方法には、公知のフォトリソ工程を用いることができる。上記フォトリソ工程は、例えば、金属パターンに対応したマスクを用いて、マスク越しに蒸着やスパッタを行い、第1の基板20上に金属パターンを直接形成する方法が挙げられる。他に、第1の基板20上に感光レジストを塗布し、金属パターンに対応したマスクを用いた感光により金属パターン形成領域以外の領域にレジストが残るようにパターニングし、パターニングされたレジストを有する第1の基板20上に蒸着やスパッタで金属層を形成し、レジスト上の金属をレジストと共に専用の溶剤で除去することにより、金属パターンを得る方法(リフトオフ)や、逆に、第1の基板20上に金属層を形成し、金属層上に感光レジストを塗布し、金属パターンに対応したマスクを用いた感光により金属パターン形成領域にレジストが残るようパターニングし、レジストがない領域の金属を専用の溶剤で除去し、最後にレジストを専用の溶剤で除去することにより金属パターンを得る方法、などが挙げられる。上述のように、公知のフォトリソ工程を用いることにより、第1の基板20上に金属パターン1a、1bを形成することが可能である。
【0165】
また、上記金属酸化物パターンを形成するための金属酸化物材料としては、例えば、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物が挙げられる。ここで金属酸化物とは、単に金属と酸素とからなる化合物に限定されず、例えば、金属と窒素とからなる化合物など、金属を広義に酸化したもの(金属の酸化数を上げたもの)も、本発明に含まれる。金属酸化物パターンの厚さは、10〜200nmであることが好ましいが、この範囲に限定されない。上記金属酸化物パターンと第1の基板20との密着性をよくする目的で、金属酸化物と第1の基板20との間に適宜接着層を設けてもよい。
【0166】
金属酸化物パターンの形成方法には、公知のフォトリソ工程を用いることができる。上記フォトリソ工程は、例えば、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いて、マスク越しに蒸着やスパッタを行い、第1の基板20上に金属酸化物パターンを直接形成する方法が挙げられる。他に、第1の基板20上に感光レジストを塗布し、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いた感光により金属酸化物パターン形成領域以外の領域にレジストが残るようにパターニングし、パターニングされたレジストを有する第1の基板20上に蒸着やスパッタで金属酸化物層を形成し、レジスト上の金属酸化物をレジストと共に専用の溶剤で除去することにより、金属酸化物パターンを得る方法(リフトオフ)や、逆に、第1の基板20上に金属酸化物層を形成し、金属酸化物層上に感光レジストを塗布し、金属酸化物パターンに対応したマスクを用いた感光により金属酸化物パターン形成領域にレジストが残るようパターニングし、レジストがない領域の金属酸化物を専用の溶剤で除去し、最後にレジストを専用の溶剤で除去することにより金属酸化物パターンを得る方法、などが挙げられる。また、上述のように第1の基板20上に金属パターンを形成したのち、該金属パターンを陽極酸化等によって金属酸化物パターンに変換してもよい。上述のように、公知のフォトリソ工程を用いることにより、第1の基板20上に金属酸化物パターン1a、1bを形成することが可能である。
【0167】
(2)流路構造形成工程
本工程では、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成した第1の基板20と、少なくとも1つ以上の基板とを貼り合わせることにより(図12c)、流路3が形成されたマイクロチップを形成する(図12d)。図12では溝構造4を有する第2の基板30と、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成した第1の基板20とを貼り合わせることにより、流路3が形成される一例について説明する。その他の流路構造の形成方法については後述する。
【0168】
第2の基板30の材料としては、ガラス、石英、金属、樹脂(例えば、PDMS、PMMA、PET、PC、PP、PS、PVCもしくはCOP)、または感光性樹脂(例えば、エポキシ樹脂および/またはアクリル樹脂)などを用いることが可能である。第2の基板30のサイズは、縦横数cm程度、厚さ0.5mm〜1cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0169】
第2の基板30への溝構造4の形成は、基板の材料に応じて、例えば、ウエットエッチングおよび/またはドライエッチング、切削加工、転写構造を有する金型に対するモールディング等の公知の手法が用いられる。
【0170】
第1の基板20と、溝構造4が形成された第2の基板30との貼り合わせによって形成される流路3の幅(図12dの紙面垂直方向)および深さ(図12dの紙面左右方向)は、1〜5000μmであることが好ましく、流路3の長さ(図12dの上下方向)は、1〜100mmであることが好ましいが、この範囲に限定されず、分析や合成の目的に応じて適宜設定される。
【0171】
流路の断面形状は矩形である必要はなく、台形形状、半円形状または円管形状などでもよい。また、流路3の深さは必ずしも一様である必要はなく、部分的に浅くなっていたり深くなっていてもよい。また、流路は必ずしも直線形状である必要はなく、蛇行形状や湾曲形状でもよい。
【0172】
第1の基板20と溝構造4が形成された第2の基板30との貼り合わせは、基板の材料に応じて、例えば、加熱融着および/または加圧融着、プラズマ処理による化学的接着、自己物理吸着等の公知の手法が用いられる。
【0173】
第1の基板20上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターンが形成された領域は、第2の基板30との接着性が低下することが想定されるため、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンは流路3の領域内に収まるように、または、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンの流路3の領域外の形成領域が小さくなるように設計されることが好ましい。
【0174】
上述した何れの場合も、第1の基板20上に形成した金属パターンおよび/または金属酸化物パターンは、金属および/または金属酸化物の性質上、上述の貼り合わせ条件に耐え得るため、貼り合わせ工程において金属パターンおよび/または金属酸化物パターンの改質や劣化は起きない。
【0175】
(3)表面処理膜塗布工程
本工程では、上記流路3内に、表面処理膜2を塗布する(図12e)。表面処理膜2としては上記<マイクロチップ>の項で述べた種々の材料を使用できるが、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることが好ましい。上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上にのみ形成されるため、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0176】
上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、官能基としてメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子であることが好ましい。上記構成によれば、表面処理膜が流路内の金属パターンまたは金属酸化物パターン上に強固に結合し保持されるため、金属パターンまたは金属酸化物パターン以外の部位に弱い力で吸着した表面処理膜を効果的に除去でき、高精度にパターニングされた表面状態を有するマイクロチップの製造が可能となる。
【0177】
また、選択的に結合する膜は、アルカンチオール、アルキルジチオール、フルオロアルキルチオールもしくはフルオロアルキルジチオールなどによって形成された撥液性膜、または、メルカプト基もしくはジスルフィド基を有し、上記メルカプト基もしくはジスルフィド基以外の領域は、PEG基、カルボキシル基、アミノ基もしくはホスホリルコリン基などの親液性基を有する物質によって形成された親液性膜であることが好ましい。上記構成によれば、親水性と疎水性といった性質の異なる表面状態を持つマイクロチップの製造が可能である。
【0178】
表面処理膜2の塗布は、例えば、表面処理膜2の材料を、マイクロチップの流路3内へシリンジ等を用いて導入することにより行われる。この目的のために、マイクロチップは、図9bに示したような試料導入口11aおよび試料導出口11bを有していてもよい。流路3内に塗布された表面処理膜2は、流路3の表面に対して、各基板および表面処理膜の材料の特性に応じて、物理吸着、化学吸着または共有結合により結合する。表面処理膜を塗布し、更に上記結合反応のための所定の時間が経過した後、過剰の表面処理膜を流路外へ除去する、または、表面処理膜の溶剤を乾燥させることによって、流路3の表面に表面処理膜が形成される。該膜厚は、0.1〜100nmであることが好ましいがこれに限定されない。
【0179】
上記<マイクロチップ>の項で述べたように、金属パターンを用いる場合、表面処理膜が、メルカプト基またはジスルフィド基を有することが好ましい。当該構成により、これらの官能基が上記金属パターン材料と、化学吸着または共有結合によって強く結合する。また、金属酸化物パターンを用いる場合、表面処理膜が、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有することが好ましい。当該構成により、これらの官能基が上記金属酸化物パターン材料と、化学吸着または共有結合によって強く結合する。
【0180】
表面処理膜は多くの場合、有機材料および/または無機材料であり、金属や金属酸化物に比して改質および/または劣化しない温度等の条件範囲が狭い。しかし、図12の製造方法では、表面処理膜塗布工程を(2)の流路構造形成工程の後に行うため、(2)の流路形成に必要な加熱や、プラズマ処理などの貼り合わせ工程によって、表面処理膜が劣化および/または分解することなく、確実に少なくとも2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを製造することが可能となる。
【0181】
(4)表面処理膜除去工程
本工程では、流路3内の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b以外の領域に吸着(多くの場合、弱い結合である物理吸着)した表面処理膜を除去することで、流路3内の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上のみに表面処理膜2a、2bを形成する(図12f)。上記表面処理膜と金属パターンおよび/または金属酸化物パターンとの結合は、金属パターンおよび/または金属酸化物パターン以外の領域(すなわち第1の基板または第2の基板材料)と上記表面処理膜との結合よりも強いため、洗浄を行うことによって金属パターンおよび/または金属酸化物パターン以外の領域の表面処理膜を除去することが可能である。上記洗浄は、例えば、洗浄液を流路3内に導入および/または導出することによって行われ、洗浄液としては、例えばアルコール、水、酸性溶液などが挙げられる。洗浄は目的の表面が得られるように、複数回、繰返し行ってもよい。
【0182】
以上のように、上述した(1)〜(4)の工程を含む製造方法を用いることで、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを作製することが可能となる。
【0183】
図13は、図4bに対応する本発明のマイクロチップの製造方法の別の一例を示す概略工程図であり、いくつかの工程におけるマイクロチップの構成を示すものである。本実施の形態の製造方法は、行われる工程の順番にしたがって、以下の工程を含む。
(1’)第1の基板に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成する工程、
(2’)上記金属パターンおよび/または上記金属酸化物パターンが形成された第1の基板に、表面処理膜を塗布する工程、
(3’)上記金属パターンの形成領域および/または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程、
(4’)上記表面処理パターンが形成された第1の基板と、少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、流路を形成する工程。
以下、各工程について図13を参照して詳細に説明する。なお、図4bの形状のマイクロチップを製造する方法を例にして説明するが、本実施の形態の製造方法は、本発明のその他のマイクロチップ形状の製造にも適用される。
【0184】
(1’)金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程
本工程では、第1の基板20を準備し(図13a)、第1の基板20上に金属パターンまたは金属酸化物パターン1a、1bを形成する(図13b)。本工程に用いる各種材料や形成方法等は、上記(1)の図12を用いて説明を行った金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程と同様である。
【0185】
(2’)表面処理膜塗布工程
本工程では、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを含む第1の基板20上に、表面処理膜2を塗布する(図13c)。表面処理膜の種類および反応および/または結合様式は、上記(3)の図12を用いて説明を行った表面処理膜塗布工程と同様であるが、第1の基板20上への塗布は、例えば、表面処理膜を形成する材料の第1の基板20への滴下、または、表面処理膜を形成する材料への第1の基板20の浸漬等により行われる。第1の基板20の表面以外の過剰な表面処理膜は、例えば、窒素等のガスにより吹き飛ばす、乾燥させるなどによって除去することで、第1の基板20の表面に表面処理膜2が形成される。
【0186】
(3’)表面処理膜除去工程
本工程では、第1の基板20上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b以外の領域に吸着した表面処理膜を除去することで、第1の基板20上の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上のみに表面処理膜2a、2bを形成する(図13d)。金属パターンおよび/または金属酸化物パターン以外の領域の表面処理膜の除去は、上記(4)の図12を用いて説明を行った表面処理膜除去工程で述べたように、例えば、洗浄により可能であり、アルコール、水、酸性溶液などの洗浄液を塗布および除去することで行われる。
【0187】
(4’)流路構造形成工程
本工程では、上記パターニングされた表面処理膜を形成した第1の基板20と、少なくとも1つ以上の基板とを貼り合わせることにより(図13e)、流路3を有するマイクロチップを形成する(図13f)。図13では、溝構造4を有する第2の基板30と、上記表面処理膜パターンが形成された第1の基板20とを貼り合わせることにより、流路3が形成される一例について説明する。
【0188】
材料および方法は、上述の(2)の図12を用いて説明を行った基板貼り合わせ工程と同様であるが、基板を貼り合わせる条件によって表面処理膜が改質および/または劣化しない材料および方法であることが好ましい。この目的で、例えば、第1の基板20としてガラスを用い、第2の基板30としてPDMSを用い、基板間の貼り合わせを自己接着(例えば、両基板を常温常圧下で軽く押し付ける)で行うことが好ましい。
【0189】
以上のように、上述した(1’)〜(4’)の工程を含む製造方法を用いることで、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを作製することが可能となる。
【0190】
図14および図15は図4bに対応する本発明のマイクロチップの製造方法の別の一例を示す概略工程図であり、いくつかの工程におけるマイクロチップの構成を示すものである。本実施の形態の製造方法は、行われる工程の順番にしたがって、以下の工程を含む。
(1’’)第1の基板に金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを形成する工程、
(2’’)上記金属パターンおよび/または上記金属酸化物パターンが形成された第1の基板に、流路に対応した開口構造をもつ基板、および、蓋基板を貼り合わせて流路構造を形成する工程、
(3’’)上記第1の基板上に表面処理膜を塗布する工程、
(4’’)上記金属パターンの形成領域および/または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程。
以下、各工程について図14および図15を参照して詳細に説明する。なお、図4bの形状のマイクロチップを製造する方法を例にして説明するが、本実施の形態の製造方法は、本発明のその他のマイクロチップ形状の製造にも適用され得る。
【0191】
(1’’)金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程
本工程では、第1の基板20を準備し(図14a、図15a)、第1の基板20上に金属パターンまたは金属酸化物パターン1a、1bを形成する(図14b、図15b)。本工程に用いる各種材料や形成方法等は、上記(1)の図12を用いて説明を行った金属パターンおよび/または金属酸化物パターン形成工程と同様である。
【0192】
(2’’)流路構造形成工程
本工程では、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを有する第1の基板20上に、別の層5を形成するとともに、流路に対応した開口構造6を形成し(図14d、図15c)、蓋基板7で蓋をすることにより(図14e、図15d)、流路3を有するマイクロチップを形成する。
【0193】
上記開口構造6の形成は、まず、金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを有する第1の基板20上に、開口構造を形成するための層5を形成する(図14c)。上記層5の材料としては、例えば感光性の薄膜レジストや厚膜レジスト(例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などの感光性樹脂)、PDMSなどの熱硬化性樹脂、PMMAなどのその他の樹脂などが挙げられる。なお、形成精度(例えば、位置精度、膜厚精度)が高く、層の厚さ(流路高さ)をスピンコート等の塗布条件によって容易に設計可能であるという観点から、厚膜レジストが好ましいといえる。厚膜レジストを金属パターンおよび/または金属酸化物パターンを有する第1の基板20上に、例えば、スピンコートやディップコートすることにより、層5が形成される。層5の厚さ(図14cの紙面左右方向)は、概ね1〜200μmであり、上記コーティング技術を使用することで均一な膜厚の層5を形成することが可能である。次に、感光性樹脂を用いる場合は、流路の構造に対応したマスクを用いた感光、および、専用の溶剤を用いた現像等のフォトリソ工程により、また、熱硬化性樹脂を用いる場合は、流路の構造に対応した局所加熱、および、非硬化領域の樹脂の除去により、また、その他の樹脂を用いる場合は、流路の構造に対応した切削加工により、流路の構造に対応した開口構造6(および開口構造形成層5a、5b)が形成される(図14d)。熱硬化性樹脂またはその他の樹脂を用いる場合も、上記コーティング技術(好ましくは温度制御を含む)を使用することが可能である。
【0194】
また、図15cに示すように、上記開口構造6は、スペーサー基板8a、8bを第1の基板20上に配置することにより形成されてもよい。スペーサー基板は、1つで開口構造を形成してもよいし、複数で開口構造を形成してもよい。よって、スペーサー基板8a、8bの高さ(紙面左右方向)は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。スペーサー基板としては、高さが規定できる材料であればよく、例えば、OHPフィルム、両面テープ、PDMSやPMMAなどの樹脂、ガラスや石英など公知のものが利用できる。
【0195】
上記何れの場合も、次に、蓋基板7を貼り合わせることにより、流路3を有するマイクロチップが形成される(図14e、図15d)。図9bに示したような試料導入口11aおよび試料導出口11bを形成するには、蓋基板7の該当領域に切削等により貫通孔を形成すればよい。蓋基板7の材料および貼り合わせる方法としては、図12の(1)および(2)で上述した基板材料および貼り合わせ方法を用いることができる。また、蓋基板7上に上述した金属パターンおよび/または金属酸化物パターンが流路内側に形成されるよう配置され、後述の表面処理膜形成領域としてもよい。
【0196】
(3’’)表面処理膜塗布工程
本工程では、上記金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1bを含む流路3内に、表面処理膜2を塗布する(図14f、図15e)。表面処理膜の種類、反応/結合様式および塗布方法は、上記(3)の図12を用いて説明を行った表面処理膜塗布工程と同様である。
【0197】
(4’’)表面処理膜除去工程
本工程では、流路3内の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b以外の領域に吸着した表面処理膜を除去することで、流路内の金属パターンおよび/または金属酸化物パターン1a、1b上のみに表面処理膜2a、2bを形成する(図14g、図15f)。金属パターンおよび/または金属酸化膜パターン以外の領域の表面処理膜の除去は、上記(4)の図12を用いて説明を行った表面処理膜除去工程で述べたように、例えば、洗浄により可能であり、アルコール、水、酸性溶液などの洗浄液を塗布および除去することで行われる。
【0198】
以上のように、上述した(1’’)〜(4’’)の工程を含む製造方法を用いることで、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを作製することが可能となる。また、図13と同様に、蓋基板7を貼り合わせる前に、パターニングされた表面処理膜を形成し、その後、蓋基板7を貼り合わせて流路3を形成してもよい。
【0199】
以上に例を挙げ説明した、本発明のマイクロチップの製造方法を用いることにより、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップを作製することが可能となる。
【実施例】
【0200】
次に、上述した実施形態に係るマイクロチップの製造方法および製造したマイクロチップを用いた送液制御の具体的な実施例について、図10および図12を用いて説明する。なお、本発明は以下に記載する実施例に限定されるものではない。
【0201】
図12bに示すように、縦2cm、横2cmのガラス基板(第1の基板20)上に、リフトオフによって、金材料からなる金属パターン1a、1bを形成した。金属パターンの幅(紙面垂直方向)は500μm、長さ(紙面上下方向)は500μm、厚さ(紙面左右方向)は100nmであった。
【0202】
図12cに示すような直線形状の溝構造4に対応する凸型の金型に対してモールディングすることにより、溝構造4を有する縦2cm、横2cmのPDMS基板(第2の基板30)を作製し、図10に示す試料導入口11aおよび試料導出口11bに対応する位置に貫通孔を形成した。
【0203】
第2の基板30をプラズマ処理後、第1の基板20と第2の基板30とを、流路3内に金属パターン1a、1bが配置されるよう接着し、流路3を形成した。(図12d)。流路3の幅(紙面垂直方向)は500μm、高さ(紙面左右方向)は50μm、長さ(紙面上下方向)は1cmであった。
【0204】
次に、流路3にメルカプト基を有するアルカンチオールを表面処理膜(撥液性膜)としてシリンジで導入し、流路内を表面処理した。一定時間経過後、アルコール、水、酸の順で洗浄を行い、本発明のマイクロチップを作製した。
【0205】
次に、液体試料として水を用いて、上記マイクロチップの送液制御を行った。表面処理膜が形成されていない第1の基板(ガラス基板)と水との接触角は20°、表面処理膜が形成されている領域の第1の基板(ガラス基板)と水との接触角は110°、第2の基板(PDMS基板)と水との接触角は100°であり、上述した(4)式および(7)式を満たす結果となった。
【0206】
図10aに示すように、液体試料40(水)を試料導入口11aに滴下したところ、毛細管現象により液体試料は自発的に流路3内に導入された。液体試料40の先端が表面処理膜2aが形成された領域に到達すると、表面処理膜のバルブ機能により、液体試料40が停止した(図10b)。この状態で試料導出口11bよりポンプで瞬間的に吸引することにより、液体試料は表面処理膜2aが形成された領域を越えて、再び毛細管現象で自発的に流路内を進行した(図10c)。上記動作は表面処理膜2bが形成された領域でも同様であった。
【0207】
以上のように、本発明のマイクロチップの製造方法を用いることで、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップが提供され、該マイクロチップを用いて、高度な送液制御が可能であることが示された。
【0208】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0209】
本発明に係る基板およびマイクロチップ並びに基板の製造方法およびマイクロチップの製造方法は、遺伝子、タンパク質、細胞および血液等の生化学検査、化学合成、化学分析などに好適に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0210】
1a、1b 金属パターンおよび/または金属酸化物パターン
2、2a、2b 表面処理膜
3、3a、3b 流路
4 溝構造
5、5a、5b 開口構造形成層
6 開口構造
7 蓋基板
8a、8b スペーサー基板
11a 試料導入口
11b 試料導出口
10 基板
20 第1の基板
30 第2の基板
31 第3の基板
32 第4の基板
40 液体試料
100 マイクロチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板であって、
上記基板には、金属パターンまたは金属酸化物パターンが形成され、
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上には、表面処理膜が形成されていることを特徴とする基板。
【請求項2】
上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることを特徴とする請求項1に記載の基板。
【請求項3】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されていることを特徴とする請求項2に記載の基板。
【請求項4】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることを特徴とする請求項2または3に記載の基板。
【請求項5】
上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の基板。
【請求項6】
上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の基板。
【請求項7】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の基板。
【請求項8】
少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有するマイクロチップであって、
上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板であり、
上記2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板には、金属パターンまたは金属酸化物パターンが上記流路の内側に配置されるように形成され、
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上には、表面処理膜が形成されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項9】
上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることを特徴とする請求項8に記載のマイクロチップ。
【請求項10】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、
共有結合して形成されていることを特徴とする請求項9に記載のマイクロチップ。
【請求項11】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることを特徴とする請求項9または10に記載のマイクロチップ。
【請求項12】
上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項13】
上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることを特徴とする請求項8〜11の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項14】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが上記流路の内側に配置されるように形成されているとともに、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上に撥液性膜が形成されている基板、を有するマイクロチップであって、
上記マイクロチップは、上記流路内に液体試料を流して、上記液体試料の送液制御を行うものであり、
上記撥液性膜が形成されている上記流路の領域において、上記流路の長手方向に対して略垂直である流路断面における上記撥液性膜が形成されていない上記基板の流路を構成する辺の外周長さをAとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されていない上記基板の流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている上記基板の流路を構成する辺の外周長さをBとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている上記基板の流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとしたときに、次式、
A・cosθ + B・cosθ ≦ 0
が成立することを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項15】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが上記流路の内側に構成されるように形成されているとともに、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターン上に撥液性膜が形成されている基板、を有するマイクロチップであって、
上記マイクロチップは、上記流路内に液体試料を流して、上記液体試料の送液制御を行うものであり、
上記撥液性膜が形成されていない上記流路の領域において、上記流路の長手方向に対して略垂直である流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板以外の基板によって形成される上記流路を構成する辺の外周長さをCとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板以外の基板によって形成される上記流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板によって形成される上記流路を構成する辺の外周長さをDとし、上記流路断面における上記撥液性膜が形成されている基板によって形成される上記流路を構成する辺での上記液体試料の接触角をθとしたときに、次式、
C・cosθ + D・cosθ > 0
が成立することを特徴とする請求項11〜13の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項16】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことを特徴とする請求項8〜15の何れか1項に記載のマイクロチップ。
【請求項17】
2種類以上の性質の異なる表面状態を有する基板を製造する方法であって、
上記基板に、金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンを有する上記基板上に、表面処理膜を塗布する工程と、
上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された上記表面処理膜を除去する工程と、を含む基板の製造方法。
【請求項18】
上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることを特徴とする請求項17に記載の基板の製造方法。
【請求項19】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されることを特徴とする請求項18に記載の基板の製造方法。
【請求項20】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることを特徴とする請求項18または19に記載の基板の製造方法。
【請求項21】
上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする請求項17〜20の何れか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項22】
上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることを特徴とする請求項17〜20の何れか1項に記載の基板の製造方法。
【請求項23】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことを特徴とする請求項17〜22に記載の基板の製造方法。
【請求項24】
少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有し、上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造方法であって、
第1の基板に金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンを有する上記第1の基板上に、表面処理膜を塗布する工程と、
上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程と、
上記第1の基板と、少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、上記流路を形成する工程と、を含むマイクロチップの製造方法。
【請求項25】
少なくとも2つ以上の基板に挟まれた流路を有し、上記基板の少なくとも1つは、2種類以上の性質の異なる表面状態を有するマイクロチップの製造方法であって
第1の基板に金属パターンまたは金属酸化物パターンを形成する工程と、
上記第1の基板と少なくとも1つ以上の別の基板とを貼り合わせて、上記流路を形成する工程と、
上記流路内に表面処理膜を塗布する工程と、
上記金属パターンの形成領域または上記金属酸化物パターンの形成領域以外に塗布された表面処理膜を除去する工程と、を含むマイクロチップの製造方法。
【請求項26】
上記表面処理膜が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜であることを特徴とする請求項24または25に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項27】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜は、当該膜に含まれるメルカプト基、ジスルフィド基、アルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基を有する分子が、上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに吸着して形成、または、共有結合して形成されることを特徴とする請求項26に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項28】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンに選択的に結合する膜が、撥液性膜または親液性膜であることを特徴とする請求項26または27に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項29】
上記金属パターンを形成する金属が、金、銀、銅、白金およびパラジウムからなる群より選択される少なくとも1つの金属であることを特徴とする請求項24〜28の何れか1項に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項30】
上記金属酸化物パターンを形成する金属酸化物が、ケイ素酸化物、チタン酸化物、亜鉛酸化物、アルミ酸化物およびインジウムスズ酸化物からなる群より選択される少なくとも1つの金属酸化物であることを特徴とする請求項24〜28の何れか1項に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項31】
上記金属パターンまたは上記金属酸化物パターンが、外部の測定機器と直接的または間接的に接続されていないことを特徴とする請求項24〜30の何れか1項に記載のマイクロチップの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−108853(P2013−108853A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254410(P2011−254410)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】