説明

基板からインクを除去するシステム

【課題】基板からインクを簡便に除去し、基板を再利用可能とする改良されたシステムを提供する。
【解決手段】基板からインクを除去するためのシステム10は、インク分離器16と基板コンベヤ14を含む。インク分離器16は、基板14からインクを分離させるように構成されている。インク分離器16は、インクを基板12から機械的に分離させることができる。これによって、基板12が再利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板の再利用に係り、より詳細には、基板を再利用するために固体インクを除去するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷のライフサイクルにおいて紙の環境保全コストは、非常に大きな部分を占めている。再生材料から作られたか又はバージンパルプから作られたかにかかわらず、紙の実際の製造コストと運搬コストが共に環境に与える影響は大きい。オフィスで大量に使用されるオフィス文書はそのライフサイクルにおいて数回印刷されるだけであり、印刷されたその日に再利用に回される場合も少なくない。これに応じて、大量のオフィス文書がそのライフサイクルにおいて環境に与える影響も深刻化しつつある。
【0003】
インク、トナー等は、紙から除去することができる。しかしながら、従来のインク除去技術は紙の再パルプ化を含んでいる。即ち、紙は、裁断されるか、粉末化されるか、又は、スラリー(懸濁液)へ戻される。凝集剤、濃度増加剤などを添加して、スラリー中に懸濁されているインクを凝集させ、凝集したインクを、スクリーニング(篩い分け)、濾過、水洗い、沈降分離等によって、除去することができる。インクが除去されると、紙が再利用されるには、残留スラリーを製紙工程に再び組み込まなければならない。一般に、この製紙工程は、紙を使用する現場とは遠く離れた場所で行われるため、このサイクルには往復の運搬費用が掛かるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5401360号明細書
【特許文献2】米国特許第6245195号明細書
【特許文献3】米国特許第5876559号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記を鑑みて、本発明は紙等の基板からインクを簡便に除去し、基板を再利用可能とする改良されたシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、基板からインクを除去するシステムであって、前記基板から前記インクを分離させるように構成されたインク分離器と、前記インク分離器に前記基板を提供するように構成された基板コンベヤと、を含むことを特徴とする。
前記態様において、前記インク分離器が前記インクを前記基板から機械的に分離させるように構成されていてよい。
前記態様において、前記インク分離器が、前記基板の一部を除去するための前記インク分離機内に配置されたブレードを含んでもよい。
前記態様において、前記基板から除去されたインクを回収するように構成されたインク回収器を更に含んでもよい。
前記態様において、前記インク分離器の排出口の下流に配置され、前記基板に残ったインクを分析するように構成されたスキャナを更に含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態による、基板からインクを除去するためのシステムを示すブロック図である。
【図2】本発明の他の実施形態による、基板からインクを除去するためのシステムを示すブロック図である。
【図3】図1のインク分離器の一実施例である。
【図4】図1のインク分離器の他の実施例である。
【図5】図1のインク分離器の他の実施例である。
【図6】図1のインク分離器の他の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一実施形態において、印刷処理のための基板として合成基板を使用することができる。このような合成基板の例としては、ポリプロピレンを主成分とした紙が挙げられる。合成基板は、高い耐久性を有しているが、インクの付着力が低い。
【0009】
印刷処理には固体インクを用いることができる。このような固体インクは、高解像度用途に用いられ、高品質の画像を得ることができる。あいにく、固体インクは基板に対して付着力が低い。しかしながら、合成基板と固体インクの従来は望ましくない低インク付着力特性を組み合わせることによって、好都合な結果を生み出すことができる。例えば、付着力が低いと、インクを除去しやすくなる。具体的には、以下に記載されるように、インクは、機械的処理によって除去することができる。これによって、合成基板を再利用することができる。
【0010】
従って、ユーザ、特に、オフィス環境におけるユーザは、固体インクを用いて合成基板に文書を印刷することができる。文書は所望に応じて使用されることができる。印刷終了後、ユーザは、再利用箱に文書を入れるのではなく、直接、インクを除去するためのシステム内へ文書を入れることができる。これによって、インクを除去した後に、合成基板を再利用することができる。上記した紙の運搬と再利用に関連する様々な費用は排除ないし削減することができる。
【0011】
合成基板が好適であるとして記載したが、他の基板を使用することもできる。例えば、複数回の再利用を可能にするような高い機械的強度を有するような基板が好ましい。だからといって、用途を一回のみの再利用に制限する機械的特性を有する基板を除外するわけではない。このような用途でも、一枚の紙を二回使用することによる再利用負荷の削減により、影響を緩和することができる。他の実施例において、特定のインクに対して低い付着力を有するような基板が好ましい。これによって、より簡単にインクを除去することができる。ポリプロピレン基板などの合成基板がこのような特徴を含む。
【0012】
他の実施例においては、インクに対して実質的に不浸透である基板を使用することができる。従って、インクは基板の表面に浸透せず、このためインク付着力が低下し、基板にカラーが残留しない。以下により詳細に説明されるように、このような不浸透性、合成基板、又はインクの付着力が低下する他の材料によって完全に機械的なインク除去技術が可能となる。
【0013】
図1は、一実施形態による、基板からインクを除去するためのシステムを示すブロック図である。システム10は、インク分離器16と基板コンベヤ14を含む。インク分離器16は、基板14からインクを分離させるように構成されている。一実施形態において、インク分離器16は、インクを基板12から分離させ、基板をほぼ非損傷の状態で維持することができる。即ち、一実施形態において、インク分離器16は、基板の一部を除去することなく、インクを分離させることができる。これによって、基板12が再利用されることができる。
【0014】
上述したように、基板12は、ポリプロピレン基板などの合成基板であってよい。インクは、ポリプロピレン基板に対して付着力が低い固体インクでもよい。このように、ポリプロピレン基板に対する固体インクの付着力が低いことによって、インク分離器16においてインクを除去することができる。
【0015】
インク分離器16は、種々の形態を取ることができる。一実施形態において、インク分離器16は、インクを基板から機械的に分離させるように構成されている。即ち、インク分離器16は、基板12及び/又はインクに物理的に接触して、基板12からインクを分離させる構造を含む。例えば、インク分離器16は、スクレーパ(掻き落とし具)、ブレード(刃)、ブラシ、研磨輪等を含むことができる。
【0016】
一実施形態において、インク分離器16は、基板12からインクを除去するためにスクレーパを含むことができる。しかしながら、インクによって基板12に付着したままの場合もある。この残ったインクを完全に除去するために、引き続いて、ブラッシング又は他の除去メカニズムを使用することができる。
【0017】
一実施形態において、インク分離器16は、基板12からインクを機械的にのみ分離させるように、構成することができる。ここでいう、「インクを機械的にのみ分離させること」は、物理的接触のみを用いることである。即ち、基板12からインクを分離させるために、化学薬品、熱、光、その他が用いられないということである。但し、システム10外において基板12に対しても機械的な分離以外の技術が適用できないということではない。例えば、下記に説明されるように、インクの基板12への付着力を低下させるために、異なる熱レベル、塗膜などを用いて、基板12にインクを塗布することができる。それでも、システム10においてはこのような基板12から、機械的な分離のみによって、インクを分離させることができる。
【0018】
基板コンベヤ14は、インク分離器16へ基板12を供給するように構成されている。基板コンベヤ14は、さまざまな基板搬送機構であってよい。例えば、基板コンベヤ14は、ローラ、ベルト、エアジェット、車輪等を含むことができる。基板コンベヤ14は、いろいろな方法で、基板12をインク分離器16へ供給することができる。例えば、基板コンベヤ14は、基板12がインク分離器16に接触するように、基板12に張力を付与することができる。他の実施形態において、ローラによって圧力が印加されて、インク分離器16に基板12を保持することができる。基板12がインク分離器16までどのようにして供給されるかにかかわらず、基板コンベヤ14は、基板12をユーザまで搬送し、基板12をページ順に並べ、或いは、引き続く回収及び再利用のために基板の準備をすることができる。
【0019】
一実施形態において、システム10は、スキャナ18を含む。スキャナ18は、インク分離器16から退出した後に配置され、点線で示される基板20に残ったインクを分析するように、構成されている。以上の記載において、インク分離器16が基板12からインクを完全に除去するものとして説明されてきたが、若干のインクが残る場合もある。例えば、インクが基板12に対して高い付着力を有する場合もあれば、インク分離器16が保守を必要とする場合もある。いずれにしろ、スキャナ18は、残ったインクを分析するために基板20をモニタするように構成されている。
【0020】
従って、インクが基板20から十分に除去されていなかった場合、基板20は、引き続きインクを除去するためにインク分離器16へ再び送られる。例えば、基板コンベヤ14は、インク分離器16の入口へ向けて基板20を経路指定し、基板20をインク分離器16へ逆戻りさせるように、構成される。このようなインクの分離と走査は、所望のレベルのインク除去が達成されるまで反復実行される。所望レベルのインク除去が達成されない場合、スキャナはシート用紙を排除させることもできる。
【0021】
システム10は種々の形態を取ってよい。例えば、システム10は、文書裁断機(ペーパーシュレッダ)に類似した独立型のシステムであってよい。スロットは、インク付きの基板を受け取ることができる。内部インク分離器16がインクを除去し、回収箱が処理済みの基板12を格納する。他の実施例において、システム10が印刷システムの一部を構成することも可能である。例えば、印刷システムは、特定の基板12をインク分離器16へ送り込むことができる。インクが基板12から分離されると、基板12は、次の印刷のために、印刷システムによってアクセス可能なトレイへ運ばれる。
【0022】
結果的に、印刷、具体的にはオフィス印刷の寿命期間に掛かる環境保全コストが削減される。未使用の基板の再利用及び/又は作製に伴うエネルギー、発光、化学物質などを削減及び/又は排除することができる。即ち、システム10を用いた場合、基板12は、その場でインク除去処理を実行することができ、次の印刷への準備を行うことができる。これに対して、紙を再利用する方法は、製紙工場への運搬、再パルプ化、インク除去、紙への加工、及びオフィスへの返送などを含む。システム10は、このような処理及び運搬作業を省くことができる。
【0023】
図2は、他の実施形態による、基板からインクを除去するためのシステムを示すブロック図である。この実施形態において、システム30は、基板から除去されたインクを回収するように構成されたインク回収器32を含む。例えば、インク回収器32は、脱離したインクを回収容器に送るための、ブラシ、掃除機、エアジェットなどを含むことができる。
【0024】
一実施形態において、インク分離器16が基板12からインクを完全に分離しない場合がある。即ち、インク回収器32が基板12からのインク分離を実行するように構成されてもよい。言い換えれば、インクの分離と回収を組み合わせることもできるし、及び/又は、インク分離器16とインク回収器32の間で連続的な処理を形成することもできる。例えば、以下により詳細に説明するように、ブレードが基板12からインクを部分的に除去することができる。基板12に付着してインク分離器16によってまだ緩くなっていないインクが残っている場合もある。インク回収器32のブラシ及び掃除機は、このようにして残っているインクを残さず除去し、除去したインクをインク受容器33へ向けて送る。
【0025】
他の実施形態において、基板12の処理において溶媒を使用することができる。この実施例において、溶媒塗布器34は、溶媒35を基板12に塗布するように構成されている。溶媒は、基板12に対するインクの付着力を低下させ、回収を容易にするためにインクを懸濁させる。これによって、インクは基板12からさらに除去し易くなる。上記の実施形態においては、機械的分離のみが行われ、溶媒や化学物質を使用しない例が記載されているが、他の実施の形態においては、このような添加物を含むことができることに留意されたい。
【0026】
さらに、インク分離器16に手前で、溶媒35を基板12に塗布する溶媒塗布器34が示されているが、溶媒塗布器34は、他の位置に配置されてもよい。例えば、溶媒塗布器34は、インク分離器16の内側に配置され、ブレード、スクレーパなどに溶媒35を塗布するように、構成されてもよい。
【0027】
図3は、図1のインク分離器の一例を示す。この実施形態において、インク分離器16はブレード42を含む。以下に更に詳細に記載されるように、ブレード42は、単一固定刃を含む。この実施形態において、ブレード42は、多数の個別に形成された歯44を含む。ブレード42は、方向43へ回転するように構成された回転ブレードであってよい。歯44は、ブレード42に沿って螺旋状に配置することができる。
【0028】
ブレード42が基板12からインクを分離させることができるように、基板コンベヤ14に対してブレード42が配置される。一実施形態において、基板コンベヤ14は、ブレード42が基板に接触するように基板12を位置決めする。これにより、ブレード42は、ブレード42が基板12に付着したインク40を取り除くことができる。
【0029】
しかしながら、他の実施形態では、ブレード42は、基板12と接触する必要がない。例えば、上記に説明したように、固体インクは合成基板に対して付着力が弱い。このため、ブレード42は、インク40だけに接触するように配置されても、インク40の基板12への低い付着力とインク40の内部凝集力によって、基板12からインク40をそぎ取ることができる。
【0030】
以上、具体的な歯形と回転方向が記載されているが、他の歯形であっても回転方向であってもよい。例えば、ブレード42は、方向43とは反対の方向に回転することもできる。他の実施例では、歯44は、ブレード42の長手方向に延在することもできる。
【0031】
一実施形態において、ブレード42の硬さは、基板12の硬さに基づいて選択することができる。例えば、ブレード材料は、基板12の硬さより高い硬度を有するように選択される。これにより、ブレード42が基板12と接触した場合、その接触が基板12に与える影響が削減される。更に、ブレードは、基板12上のインクより高い硬度を有することができる。これによって、インク40が変形して基板から分離されるが、ブレード42は非損傷の状態が維持される。
【0032】
ブレード42の硬さがインク40及び基板12に対する例として説明されているが、このような相対硬度はブレードのみに制限されない。インクを除去している間、インク40及び基板12と接触することができる構造であれば、このような硬度特性を有することができる。例えば、インクの除去の際に使用されるブラシの剛毛は、このような硬度を有する材料から形成することができる。
【0033】
図4は、図1のインク分離器の他の例を示す。この実施形態において、インク分離器16のブレード50は、基板コンベヤ14が基板12をブレードに接触させるように配置されている。基板12が基板コンベヤ14によって移動されるにつれて、ブレード50がインク40と接触して、基板12からインク40を分離させる。
【0034】
図5は、図1のインク分離器の他の例を示す。上記に説明したように、ブレード50は、基板12からインク40を分離させるために使用することができる。しかしながら、ブレード50は、基板12の一部を除去するようにインク分離器16に配置される。例えば、基板12がブレードを通過すると、その一部70が切り離される。一実施形態において、圧力調節器がブレード50と基板コンベヤ14の間の圧力を調整することができる。例えば、ローラ72は、基板12を加圧するように構成することができる。
【0035】
圧力調節器は、いろいろな形態を取ってよい。例えば、圧力調節器は、ブレード50の圧力を調整する圧力センサ、アクチュエータ、フィードバック調節器などを含むことができる。他の実施形態において、圧力調節器は、このようなフィードバック又はモニタリングを用いることなく、特定の圧力を印加するバネ式機構を含むことができる。
【0036】
上記に説明したように、固体インクは合成基板に対して付着力が低く、基板から除去することができる。しかしながら、基板12は、基板に対してより高い付着力を示す他のインク又は材料によって印(マーク)を付けされうる。例えば、ユーザは、ペンを用いて基板12上でノートを取ることもできる。このようなインクは、ワックスベースのインクよりも基板12への付着力が高い。上記に説明したようなブレード、ブラシなどの機械的な技術は、ペンからのインクを除去することはできない。従って、基板からインクを分離させると同時に、ブレード50は基板12の一部も除去してもよい。この処理は、基板12の寿命を制限する可能性もあるが、基板12に残る可能性のあるインク、キズ、異物などを完全に取り除くことができ、基板12を再利用への準備ができる。
【0037】
図6は、図1のインク分離器の他の実施例を示す。図6のインク分離器は、超音波クリーナ61を含む。基板コンベヤ14は、流体60を含む容器63内へ基板12を搬送するように構成されている。図6では、基板12が流体60中に沈んでいる状態が示されているが、基板12の少なくとも一部が流体60中に沈められる。
【0038】
超音波クリーナ61は、超音波ソース(源)62を含む。超音波ソース62は、流体60を介して伝播する超音波振動64を発振するように構成されている。超音波振動64は、基板12からインク40を離脱させ、微粒子66として流体60中に懸濁させる。次に、基板12は、超音波クリーナ61から取り出され、微粒子66は残される。
【0039】
以上、基板からインクを除去するインク分離器16の具体的な技術と構造について説明したが、このような技術及び構造などを組み合わせて用いることができる。例えば、超音波クリーナ61を回転ブレード42と組み合わせてもよい。このような技術及び構造は、任意の組み合わせが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板からインクを除去するシステムであって、
前記基板から前記インクを分離させるように構成されたインク分離器と、
前記インク分離器に前記基板を提供するように構成された基板コンベヤと、
を含むことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記インク分離器が前記インクを前記基板から機械的に分離させるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記インク分離器が、前記基板の一部を除去するための前記インク分離機内に配置されたブレードを含む、請求項1の記載のシステム。
【請求項4】
前記基板から除去されたインクを回収するように構成されたインク回収器を更に含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記インク分離器の排出口の下流に配置され、前記基板に残ったインクを分析するように構成されたスキャナを更に含む、請求項1のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−214368(P2010−214368A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54522(P2010−54522)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】