基板トレイ及び該トレイを用いた基板処理装置
【課題】パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響が抑制され、基板温度制御性が改善され、さらに量産装置に対応し基板の脱着が容易な基板トレイを提供する。
【解決手段】基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、前記トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイ。
【解決手段】基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、前記トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング、CVDやエッチングなどの所定処理を被処理基板に対して行う真空処理装置において、被処理基板を保持しながら搬送するための基板トレイ及び該トレイを用いた基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置では、生産性を高めるために複数枚の基板を処理室に同時搬送して処理したり、または、装置構成を変更することなく外形寸法の異なる基板に対し処理を行う目的で、基板を保持し搬送できる基板トレイが用いられている。
図12は従来の基板トレイの第1の例を示す(特許文献1参照)。図12には、小さい基板を保持するためのザグリ702を具備し、皿形状をしている基板トレイ701が開示されている。図12記載の保持トレイ701により、8インチ、6インチといった小さい基板も直径12インチ用基板処理装置に設置できるようになる。
【0003】
図13は従来の基板搬送用トレイの第2の例を示す(特許文献2参照)。図13には、凹部802を有し熱伝導性に優れた物質からなるトレイ本体801の一部表面を、絶縁性を有するとともに柔軟性を有する物質805で構成した基板トレイ801が開示されている。図13において、803は突き上げ用ピンが通る貫通孔、804は基板を吸着するための貫通孔、806は耐蝕性または耐スパッタリング性を有する物質である。図13記載の基板搬送用トレイによれば、基板とトレイ本体801の密着性および熱伝導性を良くし、基板の温度を均一にすることにより回路パターンの線幅などのばらつきを小さくすることが可能となる。
【0004】
また、成膜などの真空処理装置では、処理内容に応じて処理中の基板温度管理を行なう必要がある。このため、基板や基板トレイを保持するホルダーを冷却水などの温度制御手段で温度制御し、このホルダーとの熱伝達により基板の温度管理を行う技術が一般に用いられている。
【0005】
しかし、真空では大気中よりも部品と部品の微小な隙間において熱伝達効率が悪化する。このため真空処理装置、特にスパッタリングなどのプロセス圧力の低い装置では、成膜などの真空処理中の基板温度管理をおこなうために、基板の裏面やトレイの裏面に冷却ガスなどの熱伝達媒体を封止することで、温度調整されたホルダーと基板との熱伝達効率を改善する必要がある。
【0006】
図14は従来の基板搬送用トレイの第3の例を示す(特許文献3参照)。図14には、基板載置面に、基板Sの外形に対応した少なくとも1個の凹部911が形成され、この凹部911の底面に配置された環状のシール手段902と、凹部911に落とし込むことで設置される基板Sの外周縁部をシール手段902に対して押圧する押圧手段903とを備えた基板搬送用トレイ901が開示されている。更に、図14記載の基板搬送用トレイ901では、凹部911に通じる少なくとも1本のガス通路913a、913bが開設され、シール手段902として機能するOリングが、凹部911の底面に形成され、Oリングの線径より大きな幅を有する環状溝912に設置されている。なお、図14において、Bはボルト、Sは基板、911aは凹部911の底面、911bは基板S裏面と凹部911底面との間の空間、931は中央開口である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−021686号公報
【特許文献2】特開2002−313891号公報
【特許文献3】特開2010−177267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1のような基板を置くだけで固定しない基板トレイ701では、質量を軽くできる利点はあるが、搬送中に基板が移動してしまう懸念がある。特許文献2では、レジストマスクを形成したLaTiO3などからなる基板をトレイ本体801の凹部802に乗せている。トレイ本体801の凹部802に設けた物質805は、絶縁性を有するとともに柔軟性を有するため、その絶縁性により基板がトレイ本体801と絶縁され、基板に帯電した静電気により基板がトレイ本体801に静電気力により引きつけられ固定される。しかし、特許文献2の基板トレイにおいても、基板がトレイ本体801に静電気力により引きつけられ固定されるためには、基板がLaTiO3などからなる強誘電体であり、かつ電界が加えられてその基板表面が帯電し静電気が発生する必要があるため、装置に高周波電力を印加する基板処理においてはじめて基板はトレイ本体801に固定されるのであり、基板処理前の搬送中に基板が移動してしまうという問題を解決するものではなく、また基板が強誘電体ではない場合には効果がないという問題があった。
【0009】
また、成膜などの真空処理中の基板温度管理をおこなうためには、基板の裏面に熱伝達媒体を封止する必要がある。
【0010】
特許文献3ではボルトBで基板Sを基板トレイ901に対して押圧し基板S裏面に熱伝達媒体を封止することができるので、基板温度制御性能を改善できる利点があり、基板処理前の搬送中に基板が移動してしまうという問題もない。しかし、特許文献3では、押圧手段903は、基板トレイ901の凹部911の外周に形成したねじ孔にボルトBを螺着することで取付けられている。そのため、ボルトBに膜が付着すると、膜はがれをおこし易く、パーティクルの原因となるという課題があった。また、構造物があるため、成膜などの基板処理時に影響が出ることがあった。そしてボルトBを螺着するために基板トレイ901のねじ孔に深さが必要なことから基板トレイ901が厚くなってしまうので、基板トレイ901の熱抵抗が大きくなるという問題がある。基板S裏面に熱伝達媒体を封止しても、基板トレイ901の熱抵抗が大きければ、基板などの真空処理中に、基板Sに流入する熱を基板Sを保持した基板トレイ901を載置するための温度制御された基板ホルダー(図示なし)に伝えにくくなる。従って十分な基板温度制御性能が得られないという問題があった。
【0011】
また、特許文献3では、基板Sの脱着のためにはボルトBを外さなければならない。しかし、量産装置では、基板Sの脱着のためにボルトBを外したり締めたりするためには脱着装置の構成が複雑となるため基板Sの脱着を容易に行う事が出来ないことが問題であった。
【0012】
本発明の目的は、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着が容易な基板保持のための基板トレイ及び該トレイを用いた基板処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、前記基板トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイである。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記磁石は、前記前記トレイ本体に埋設されており、前記開口は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、前記第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部とからなり、前記基板保持部は前記第1の開口部と前記第2の開口部とにより形成されており、基板保持部と前記基板載置部とで前記基板を挟持することを特徴とする基板トレイである。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項3記載の発明は、請求項1記載に記載の発明において、前記トレイ本体には、ヨークが埋設されており、前記磁石は、前記基板載置板と前記ヨークとの間に設けられていることを特徴とする基板トレイである。
【0016】
上記目的を達成するめに、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、前記トレイ本体が、非磁性材料で形成されていることを特徴とする基板トレイである。
【0017】
上記目的を達成するめに、請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記トレイ本体の前記ヨークは、前記トレイ本体と前記磁石との間に設けられていることを特徴とする基板トレイである。
【0018】
上記目的を達成するめに、請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の発明において、前記非磁性材料がTi、カーボンまたはアルミナであることを特徴とする基板トレイである。
【0019】
上記目的を達成するめに、請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の発明において、前記磁石は、前記基板載置板側に、N極とS極の磁極が現れ、前記基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石であることを特徴とする基板トレイである。
【0020】
上記目的を達成するめに、請求項8記載の発明は、請求項3から7のいずれか1項に記載の発明において、前記ヨークの厚さは、前記基板の処理面側の前記トレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定されていることを特長とする基板トレイである。
【0021】
上記目的を達成するめに、請求項9記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記片面2極磁石は、前記基板の周囲に等角度で配置されていることを特徴とする基板トレイである。
【0022】
上記目的を達成するめに、請求項10記載の発明は、請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイを有する基板処理装置であって、成膜室と、前記成膜室内に設けられたターゲットホルダーと、前記ターゲットホルダーと対向して設けられ、前記基板トレイを載置するための基板ホルダーと、前記基板ホルダーを上下動させるための上下機構と、前記成膜室内にプロセスガスを導入するためのガス導入手段と、前記成膜室内を排気するための排気手段と、を有することを特徴とする基板処理装置である。
【0023】
上記目的を達成するめに、請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記基板ホルダーと前記基板載置板には、前記基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔がそれぞれ設けられていることを特徴とする基板処理装置である。
【0024】
上記目的を達成するめに、請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記基板載置板と前記基板ホルダーの基板載置部との間には、0.3mm以下の間隙d1が設けられていることを特徴とする基板処理装置である。
【発明の効果】
【0025】
本願の請求項1記載の発明によれば、基板載置板を磁石によりトレイ本体に保持し、基板保持部と、基板載置部とで基板を保持することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着を容易することができるという効果がある。
本願の請求項2記載の発明によれば、基板保持部を基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部より形成することにより、基板保持部と基板載置板とにより確実に基板を挟持することができるという効果がある。また、磁石がトレイ本体に埋設されることにより基板載置板が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができるという効果がある。
本願の請求項3記載の発明によれば、トレイ本体にヨークを埋設し、基板載置板と前記ヨークとの間に磁石を設けることにより、トレイが薄くできるため、搬送ロボットなどの搬送システムの負担を少なくすることができるという効果がある。
本願の請求項4、5記載の発明によれば、トレイ本体を非磁性材料で形成することにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
本願の請求項6記載の発明によれば、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを軽くできるので、搬送ロボットなどの搬送システムの負担を少なくすることができる。更に、また、本願の請求項6記載の発明によれば、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを耐熱性に優れたものにすることができるので、特にプラズマから基板トレイへの熱量の流入が大きい大電力のスパッタリング成膜に好適であるという効果がある。
本願の請求項7記載の発明によれば、基板載置板側にN極とS極の磁極が現れ、基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石とすることにより、N極とS極の両方の磁極を基板載置板側に向けることできるため、基板載置板に対する吸着力が高くなり基板保持性能の向上を図ることができるという効果がある。更に、本願の請求項7記載の発明によれば、片面2極磁石とすることで基板保持性能を維持しながらトレイ表面への磁場の漏れを低減できるという効果がある。
本願の請求項8記載の発明によれば、ヨークの厚さを、基板の処理面側のトレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定することにより、基板トレイ上に異常な放電が生じることを抑制することができるという効果がある。
本願の請求項9記載の発明によれば、片面2極磁石を基板の周囲に等角度で複数N極とS極とが交互になる様に配置することにより、基板の保持性能を高くすることができるという効果がある。
本願の請求項10記載の発明によれば、請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイを基板処理装置に使用することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れた基板処理装置を実現できるという効果がある。
本願の請求項11記載の発明によれば、基板ホルダーと前記基板載置板に、基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔をそれぞれ設けることにより、基板を効率的に冷却することができるという効果がある。
本願の請求項12記載の発明によれば、基板載置板と基板ホルダーの基板載置部との間に0.3mm以下の間隙d1を設け、この間隙d1に熱伝達媒体(冷却ガス)を流すことで、基板の冷却性能を高めることができるという効果がある。特にこの部分の隙間を0.3mm以下とすることで基板の温度をより低減することができ、特に基板上にリフトオフ用のフォトレジストパターンなどの樹脂パターンが設けられている場合にダメージを与えない温度、すなわち100℃以下で成膜することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る成膜装置を説明するための概略図である。
【図2】本発明の第1の基板トレイ構造を説明するための概略断面図である。
【図3】片面2極磁石と1極磁石を使用した場合の漏洩磁場を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の基板トレイ構造を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の基板トレイへの磁石配置図の一例を示す図である。
【図6】基板トレイ表面の漏洩磁束密度と放電痕が生じない領域との関係を説明する図である基板トレイ表面の漏洩磁束密度と放電痕が生じない領域との関係を説明する図である。
【図7】基板温度と基板トレイ裏面、すなわち基板トレイの磁性体とホルダーの隙間寸法との関係を示す図である。
【図8】トレイへの基板設置方法説明図である。
【図9】本発明のかかる基板トレイを用いて複数枚の基板を保持した状態を示す図である。
【図10】本発明の基板トレイ表面の漏洩磁束密度の測定状態を示す図である。
【図11】本発明の基板トレイを用いて、基板上に成膜した後のトレイの表面状態を示す図である。
【図12】従来(特許文献1)の基板トレイの第1の例を示す図である。
【図13】従来(特許文献2)の基板トレイの第2の例を示す図である。
【図14】従来(特許文献3)の基板トレイの第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1を参照して、本発明に係るスパッタリング装置の構成を説明する。
本発明に係るスパッタリング装置は、ゲートバルブ11を介して連通可能に接続されたLL室(ロードロック室)1とSP室(スパッタ室)2とから構成されている。
スパッタリング装置のSP室2は、処理チャンバ21と、処理チャンバ21内に設けられ、基板Sを保持した基板トレイ3を載置するための基板ホルダー4と、スパッタ粒子を基板S上に成膜するためのターゲットTを保持するためターゲットホルダー5とを備えている。
【0029】
基板ホルダー4は上下機構41により上下に移動可能であり、ターゲットTと基板Sとの距離(T/S間距離)を調整したり、基板Sを保持した基板トレイ3を搬入および搬出する場合に、上下機構41により上下に移動することができるようになっている。なお、本実施形態ではT/S間距離や基板トレイ3を搬入および搬出について上下機構41を用いているが、同じ機能を実現する別の機構を用いても構わない。基板ホルダー4内部には基板ホルダー4を冷却するための図示しない冷却水水路が内部にあり、冷却水が循環できるようになっている。基板ホルダー4は熱伝熱が良いCu等の材料が用いられ、電極(アノード電極)として機能する。図2に示すように、基板ホルダー4には基板Sと基板トレイ3の間、および基板トレイ3と基板ホルダー4の間の隙間に対して冷却ガスを導入するための冷却ガス導入路42が設けられている。基板S、基板トレイ3、そして基板ホルダー4との間の熱伝達媒体である冷却ガスとしては、例えばArなどの不活性ガスが使用される。また、図1に示すように、基板トレイ3を基板ホルダー4に載置した場合に、基板トレイ3の周縁部、基板トレイ3裏面、および基板ホルダー4表面への成膜を抑制できるような配置と形状の、リング状のマスク6が設けられている。
【0030】
マスク6はマスク支持棒61に固定されている。マスク支持棒61には、マスク上下駆動機構62が取り付けられており、マスク6はマスク上下駆動機構62により、上下動できるようになっている。なお、マスク6は、成膜を抑制できるような配置と形状とすることが望ましい。
【0031】
本実施の形態においては、マスク6により基板トレイ3周辺部で基板トレイ3を基板ホルダー4にクランプしている。これにより、基板トレイ3と基板ホルダー4の間からの冷却ガスの漏れを抑制することができ、基板Sの冷却性能をより高めることができる。マスク6により基板トレイ3のクランプは、例えば、前記マスク上下機構62を基板と接触するように上下動させることにより可能である。
【0032】
ターゲットホルダー5は、金属製部材からなり、電極(カソード電極)として機能する。ターゲットホルダー5は図示しない絶縁体により保持され処理チャンバ21から電気的に絶縁されている。ターゲットホルダー5にはインピーダンスマッチングをおこなうための整合機51を介して高周波電源52が接続されており、ターゲットホルダー5に高周波電源52から高周波電力が印加可能になっている。なお、ターゲットTの種類などによって直流電源をターゲットホルダー5に接続し、直流電力をターゲットTに印加するようにしてもよい。
【0033】
また、処理チャンバ21には、プロセスガス(本例ではアルゴン等の不活性ガスと酸素)を導入するガス導入手段6が設けられている。ガス導入手段6は、スパッタガス(例えば、Ar)導入手段61と反応性ガス(例えば、酸素))導入手段62とから構成される。さらに、処理チャンバ21には、コンダクタンスバルブを介して排気手段7が設けられている。排気手段7は処理チャンバ21の排気をおこなうためのTMP(ターボ分子ポンプ)とクライオポンプが併用された第1の排気系71、さらにTMPの背圧を排気するためのRP(ロータリーポンプ)からなる第2の排気系72などにより構成されている。なお、第1の排気系71と第2の排気系とは第1のバルブ73を介して接続されている。また、処理チャンバ21には、第2のバルブ75を介してRP(ロータリーポンプ)からなる第3の排気系74に接続されている。また、処理チャンバ21には、処理室内の圧力を測定するための圧力計8(例えば、ダイアフラムゲージ)が接続されている。
【0034】
ターゲットTと基板トレイ3の間の空間は、成膜動作中にはターゲットホルダー5に印加された電力によりプラズマが生じている。このターゲットTと基板トレイ3を載置する基板ホルダー4、そして処理チャンバー21壁により囲まれた空間を「プロセス空間」と呼称する。なお、処理チャンバー21壁に不図示のシールドを設置してもよい。
LL室1には、RP(ロータリーポンプ)などの大気圧から排気可能なポンプ12で構成された第4の排気系が第3のバルブ13を介して接続されており、図示しないベント機構を持っている。LL室1は基板Sを保持した基板トレイ3をSP室2に搬出入するために使用される。
【0035】
次に基板トレイ3の構成の説明を説明する。
図2に本発明に係る第1の基板トレイ3の構成の断面図を示す。基板トレイ3は、トレイ本体31と、基板Sを載置するための基板載置部32bを備えた基板載置板32とからなる。基板載置板32は磁性板である。トレイ本体31には開口36が形成されている。トレイ本体31は、開口36の端部に基板Sの周端部を保持する基板保持部35を備えている。開口36は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部36aと、第1の開口部36aと連接し基板Sの外径より大きな第2の径を有する第2の開口部36bとからなる。基板保持部35は、第1の開口部36aと第2の開口部36bとにより形成される。基板Sは、基板保持部35と、基板載置板32の基板載置部32bとで挟持される。基板Sの外径より大きな第2の径を有する第2の開口部36bで基板保持部35が規定されることによって、基板はより確実に保持される。すなわち、第1の開口部36aの中心軸に対して基板が許容される限度を超えてずれて保持され、基板の処理時に後述する冷却ガスが漏れてしまったり、また部分的には基板周辺部を必要以上に隠して本来処理されるべきであった基板周辺部が処理されないといった危険性を低減することができる。また、磁石がトレイ本体に埋設されることにより基板載置板が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができる。
基板載置板32は磁性材料で構成されている。基板載置板32を構成する磁性材料としては錆びにくいステンレスなどが好ましく、具体的にはSUS430などがよい。基板トレイ3は大気中に取り出されるため、磁性材料であるだけでなく防錆性を有することは重要である。
【0036】
トレイ本体31には、基板載置板32をトレイ本体31に保持するため、基板保持部35より外側に磁石33が配設されている。図2では、トレイ本体31の内部には片面2極の磁石33が複数埋め込まれている。片面2極の磁石としたのは、片面1極の磁石に比べて、基板載置板32をトレイ本体31に保持するための吸着力が強く、プロセス空間への磁場漏洩を抑制できるためである。この点につき、図3を用いて説明する。図3(a)はトレイ本体31に片面2極の磁石33を2セット埋設した場合、図3(b)はトレイ本体31に片面1極磁石33を2セット埋設した場合の説明図である。図3(a)に示すように、片面2極磁石33の場合、プロセス空間に発生する漏洩磁場は、片面1極磁石33の場合に比べて小さい。そのため、後述するプロセス空間への磁場漏洩を抑制するヨーク34の厚さを薄くでき、基板トレイ3の軽量化を図ることができるという技術的意義を有する。
【0037】
図3(a)の場合、N極とS極が隣り合う位置で配置されている。N極から発生する磁力線33aは隣のS極に引き寄せられて 閉じようとする。この時、N極とS極の配置が近い為、トレイ表面の漏洩磁束密度は小さい。一方、図3(b)の場合は、図3(a)に比べてN極とS極は離れている。この場合、N極から発生する磁力線33bは、図3(a)と同様にS極に 引き寄せられて閉じようとするが、位置が離れている為、図3(a)に比べてトレイ表面に発生する漏洩磁束密度は大きくなりやすい。図3(a)のようにトレイ表面に発生する漏洩磁束密度が小さいと、トレイ表面に異常な放電痕が残らない。
【0038】
次に図4を参照してヨーク34が用いられた実施形態を説明する。磁石33のプロセス空間側にはヨーク34が設置されており、プロセス空間への磁場漏洩を抑制している。ヨーク34の材質は、プロセス空間への磁場漏洩を抑制するために透磁率の高い材料であればよく、例えばSUS430などが好適に用いられる。トレイ本体31内における磁石33とヨーク34の固定方法としては例えば接着剤等での接着が用いられるが、基板トレイ3の使用条件下で許容される固定方法であれば他の方法でも構わない。ヨーク34のない反対側の磁石33面は基板載置板32と接触し、トレイ本体31と脱着できる構成となっている。なお、ヨーク34のない反対側の磁石33面は基板載置板32と接触している必要は必ずしもなく、基板載置板32と磁石33との吸着力によりトレイ本体31と基板載置板32とで基板Sを保持できていればよい。基板載置板32には基板載置板32の基板ホルダー4側から基板S側に貫通した貫通孔32aが複数あり、この貫通孔32aを介して冷却ガスが基板載置板32と基板Sの間に導入され基板Sと基板載置板32との間の熱伝達率を向上させることができる。冷却ガスは、基板トレイ3を載置する基板ホルダー4の基板載置面43に開口した冷却ガス導入路42から導入され、基板ホルダー4と基板トレイ基板載置板32の間の隙間d1に導入されれば、冷却ガスにより基板Sから基板載置板32、さらには基板載置板32から基板ホルダー4への熱伝達効率が良くなるので、基板Sの冷却効率が上昇する。なお、図2や図4ではトレイ本体31は非磁性材料で形成しているが、トレイ本体31を磁性材料で構成して、プロセス空間への漏洩磁場を抑制することも可能である。しかし磁性材料でトレイ本体31を構成すると、重量が増加するので基板トレイ3を搬送するためのロボット等のトレイ搬送装置への負担が増加する。また、図2に示すようにトレイ本体31全体を非磁性材料で形成しヨーク34を省略することも可能である。ヨーク34を省略しかつプロセス空間への漏洩磁場を抑制するためには、トレイ本体31を厚くすればよい。しかしトレイ本体31を厚くした場合、基板トレイ3の重量が増加する。従って、プロセス空間への漏洩磁場を抑制しながら基板トレイ3の軽量化を図るためには、トレイ本体31を非磁性材料で構成し、磁石33と非磁性材料のトレイ本体31の間にヨーク34を配置する図4のような構成が望ましい。なお、トレイ本体3に使用する非磁性材料としては軽量材料が望ましく、Ti(チタン)、カーボン、アルミナ、セラミックス、Mg合金、Al、Al合金などが使用できる。その中でもTi(チタン)、カーボン、アルミナは耐熱性に優れているので、大電力のスパッタ成膜装置などトレイへの熱量の流入が高い場合に特に望ましい。
【0039】
図5に磁石33配置図の一例を示す。基板Sの周囲に片面2極の磁石33が3つずつ並べられており、これがおおむね基板Sに対して回転対称に3組配置されている。磁石33は厚みの薄い円柱状であり、円形面にN極とS極がある。磁石33のN極とS極の境界線はおおよそ基板Sの中心に向かうように配置されている。このようにすると、バランスよく基板Sを保持できるので最も好ましい。なお、バランス良く保持するための複数の磁石33の配置はこれに限定したものではなく、例えば1つの片面2極磁石33を回転対象に3箇所、すなわち3つの磁石33でこれを構成しても良いし、1つの片面2極磁石を回転対象に2箇所、すなわち2つの磁石でこれを構成しても良い。なお、バランスよく基板Sを保持するためには回転対称にさえ配置されていれば、磁石33のN極とS極の境界線がおおよそ基板Sの中心に向かうように配置されていなくても構わない。また、磁石は円形のものだけでなく、棒状、円弧状などのものを用いることもできる。
また、N極とS極の両方の磁極を基板載置板32に向けることで基板載置板32に対する吸着力が高くなり基板保持性能に優れる。また片面2極磁石33であることで基板保持性能を維持しながら基板トレイ3表面への磁場の漏れを低減することができる。
【0040】
例えば図5のように複数の磁石33で保持をする構成の場合、N極とS極が交互になる様に配置することが望ましい。複数の磁石33とすることで保持性能が高くなる。さらにN極とS極が交互になるように配置すれば、この性能をさらに高めることができる。
【0041】
ところで、ヨーク34があることで基板トレイ3表面の漏洩磁束密度は低減されるが、好ましくはこの漏洩磁場強度が成膜に対して影響がある異常放電を起こさない程度に低減されていることが成膜特性の向上の点から望ましい。
【0042】
図6にヨーク34の厚みとトレイ本体31の表面の漏洩磁束密度の関係を示す。本実施形態ではヨーク厚みとトレイ本体31の表面の漏洩磁束密度は曲線201のようになっており、例えばヨーク厚み0.3mmの時に漏洩磁束密度は130Gauss、ヨーク厚み0.6mmの時に漏洩磁束密度は30Gaussである。漏洩磁束密度が100Gaussを超える領域203ではトレイ表面に放電跡が残るが、漏洩磁束密度が100Gauss以下の領域202においては放電跡が残らない。例えば、ヨーク厚み0.3mmで漏洩磁束密度が130Gaussの場合ではトレイ表面に放電跡が生じたが、ヨーク厚み0.6mmで漏洩磁束密度が30Gaussの場合ではトレイ表面に放電跡は見られなかった。
図9(a)(b)は、本実施形態の基板トレイ3を用いて8枚の基板Sを保持した場合を示す。図9(a)は、基板押さえリングとして機能する上記基板載置板32を、8枚の基板Sを保持できるように一体で形成したものである。なお、図9(b)は、基板押さえリングとして機能する上記基板載置板32を、8枚の基板S毎に形成したものである。漏洩磁束密度の測定は、図10(b)に示すように、磁石33の直上、磁石33と磁石33との間で行った。ヨーク34の厚みが厚いほど漏洩磁場は低減される。成膜のために好適でない放電をトレイ表面で生じないためには、漏洩磁場が100ガウス以下の領域が好ましい。なお、トレイ本体31表面の漏洩磁束密度の測定は、トレイ表面において垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点における水平磁束密度を測定することにより評価した。より詳しくは、図2に示すように、片面2極磁石33をトレイ本体31に1セット埋設した場合、トレイ上面からみた場合の磁石33のN極とS極との間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点においてのトレイ表面における水平磁束密度をガウスメーターで測定することにより評価した。ガウスメーターは、東陽テクニカ製の5180型ガウスメーターを使用した。なお、磁束密度の測定は室温において基板載置板32によりサファイア基板Sを保持した状態でおこなった。また、図10に示すように、トレイ本体31に、片面2極磁石33を3セット毎、120度の等間隔で埋設した場合、トレイ上面からみた場合の1個の片面2極磁石33のN極とS極との間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点、3セットの片面2極磁石33の各々の磁石の間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点においてのトレイ表面における水平磁束密度をガウスメーターで測定することにより評価した。
【0043】
図7に基板温度と基板トレイ3裏面、すなわち基板トレイ3の基板載置板32と基板ホルダー4の隙間寸法d1との関係を示す。基板S上にある保護樹脂が温度によって形状変化することを防止するため、基板温度は100℃以下であることが望ましい。実験結果より、隙間寸法d1が0.15mmにおいて基板温度は約90℃であった。隙間寸法d1が0.7mmに広がると、基板温度は約150℃まで上昇した。以降、隙間寸法d1が広がるのに伴い基板温度は上昇し、2.5mmの時には約190℃まで上昇した。この実験結果から、図7のように、基板温度が100℃以下となる隙間寸法d1は0.3mm以下であることが分かった。そのため冷却効果を高めるために基板載置板32と基板ホルダー4の隙間d1は小さいほうがよいが、100℃以下とするためには基板Sから基板ホルダー4までの距離d1は0.3mm以下が望ましい。この点につき、図2を用いて説明する。冷却ガス(Ar)は、冷却ガス導入孔42、貫通孔32aを介して基板Sの裏面側に導入される。また、冷却ガス(Ar)が、トレイ本体31からSP室2内のプロセス空間に拡散することを防止するため、トレイ本体31の端部31aと基板ホルダー4の端部4aとは、気密に固定することが好ましい。一方、トレイ本体31の中央部31bと基板ホルダー4の中央部4bとは、冷却ガス(Ar)を基板Sの裏面側に導入できる程度の隙間があればよい。以上の点から、基板載置板32と基板ホルダー4の隙間d1は0.3mm以下が望ましい。なお、基板を冷却する性能が上がるので隙間d1は小さいほどよい。しかし基板載置板32がトレイ本体31の端部31aよりも出っ張ると、冷却ガスがSP室2内のプロセス空間に拡散するので、基板載置板32をトレイ本体31に装着する上で端部31aよりも出っ張る部分が無い様にするために必要な設計公差を考慮した寸法であるように、d1の最小値は決定されればよい。また、本実施の形態では冷却ガスとしてAr(アルゴン)を使用したがHe(ヘリウム)や水素などの他の冷却ガスを用いても構わない。
【0044】
次に、基板トレイ3に対する基板Sと基板載置板32の装着方法について、図8を用いて説明する。
基板トレイ3に対する基板Sと基板載置板32の設置は、ロボットで自動的に行う。
はじめに、基板Sが複数枚装填されたカセット102をカセット用ロードポート103に乗せると、ベルトコンベアー104によって基板取り出し位置105まで搬送される。カセット102が基板取り出し位置105に配置されると、下方から、基板リフト機構106が上昇し、全ての基板Sがリフトアップされる。その後、不図示の真空チャック機構を備えた6軸ロボット107によって基板Sの裏面が真空チャックによって吸着し保持される。その後、基板Sのセンター、オリフラの位置出しを行う。
【0045】
基板搬送動作と並行して、トレイ用ロードポート108に装填されている基板トレイ3が、不図示の真空チャック機構を備えた6軸ロボット110によって吸着、保持され、基板Sと基板載置板32の設置を行う為のテーブル111へ搬送される。その際に、基板トレイ3のセンター、位置出しも行われる。
6軸ロボット107によって保持されている基板Sは、予め成膜される面が下になるようにテーブル111に置かれたトレイに対して設置される。
基板トレイ3に基板Sが設置されたあと、基板トレイ3に対して基板Sを保持する為の基板載置板32がアーム113によって保持され、既に基板Sが設置された基板トレイ3に対して設置される。
基板Sと基板載置板32の設置が完了すると、6軸ロボット110によって、基板トレイ3の裏面が吸着保持され、成膜面が上になるように基板トレイ3を裏返し、成膜処理装置のロードポート114へ搬送される。
【0046】
成膜処理が終了した基板トレイ3は、上記と逆の手順で基板載置板32と基板Sの取り外しが行われ、最終的に基板Sが基板カセット102に装填されると、ベルトコンベアー104によってカセット用アンロードポート103へ搬送され、回収できる。
【0047】
基板Sを取り付けた基板トレイ3はLL室内1で低真空領域まで排気する。排気完了後、基板トレイ3はLL室1からSP室2へと搬送され、マスク6と基板ホルダー4にて固定する。SP室2内でさらに高真空まで排気を行った後、SP(スパッタ)処理を行う。SP処理はプロセスガス、例えばArとO2の混合ガスを導入して、所定の圧力にする。ターゲットホルダー5に電力を投入し、所定の時間まで成膜を行う。このとき基板ホルダー4内の冷却ガス導入路42を通じて基板トレイ3裏面と基板ホルダー4の間の隙間d1、具体的には基板トレイ3の基板載置板32の基板保持面とは反対側の面と基板ホルダー4との隙間d1に冷却ガスが導入される。冷却ガスはさらにこの隙間d1から基板トレイ3の基板載置板32に設けられた貫通孔32aを通じて基板Sと基板載置板32の間に導入される。導入した冷却ガスにより基板Sを冷却しながら成膜を行う。成膜終了後、電力、添加ガス、冷却ガスが止まり、基板トレイ3はSP室2からLL室1へと搬送されて、LL室1内でベントを行い、基板トレイ3が取り出される。なお、基板Sを保持した基板トレイ3は、LL室1から取り出されたあと大気中にて基板Sを取り外される。本発明においては磁石と基板載置板32の磁力により基板を保持しているため、基板Sの取り外しは容易であり、自動化をおこなうことも容易であるから、安価にこれをおこなう取り外し装置を設定することができる。また、スループットも向上する。従って量産装置において好適である。図11は、成膜の置のトレイ表面状態を示す。本発明のトレイ3では、漏洩磁束密度を小さく為に、磁石33とヨーク34の厚みを最適化した結果、放電痕は確認されなかった。
【0048】
以上に説明したように、本発明では、基板載置板を磁石によりトレイ本体に保持し、基板保持部と、基板載置部とで基板を保持することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着を容易することができるという効果がある。更に、基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部より基板保持部を形成することにより、基板保持部と基板載置板とにより確実に基板を挟持することができるという効果がある。
【0049】
トレイ本体にヨークを埋設し、基板載置板と前記ヨークとの間に磁石を設けることにより、基板載置板32が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができるという効果がある。
【0050】
トレイ本体の少なくとも一部に非磁性材料板を埋設し、ヨークを、非磁性材料板と前記磁石との間に設けることにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
【0051】
トレイ本体を、非磁性材料で形成することにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
【0052】
トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを軽くできるので、搬送ロボットなどの搬送システムの負担が少なくすることができる。更に、また、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを耐熱性に優れたものにすることができるので、特にプラズマから基板トレイへの熱量の流入が大きい大電力のスパッタリング成膜に好適であるという効果がある。
【0053】
基板載置板側にN極とS極の磁極が現れ、基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石とすることにより、N極とS極の両方の磁極を基板載置板側に向けることできるため、基板載置板に対する吸着力が高くなり基板保持性能の向上を図ることができるという効果がある。更に、本願の請求項7記載の発明によれば、片面2極磁石とすることで基板保持性能を維持しながらトレイ表面への磁場の漏れを低減できるという効果がある。
【0054】
ヨークの厚さを、基板の処理面側のトレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定することにより、基板処理装置上に異常な放電が生じることを抑制することができるという効果がある。
【0055】
片面2極磁石を基板の周囲に等角度で複数N極とS極とが交互になる様に配置することにより、基板の保持性能が高くすることができるという効果がある。
【0056】
基板トレイを有する基板処理装置を使用することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れた基板処理装置を実現することができるという効果がある。
【0057】
基板ホルダーと前記基板載置板に、基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔をそれぞれ設けることにより、基板を効率的に冷却することができるという効果がある。
更に、基板載置板と基板ホルダーの基板載置部との間に0.3mm以下の間隙d1を設け、この間隙d1に熱伝達媒体(冷却ガス)を流すことで、基板の冷却性能を高めることができるという効果がある。特にこの部分の隙間を0.3mm以下とすることで基板の温度をより低減することができ、特に基板上にリフトオフ用のフォトレジストパターンが設けられている場合にダメージを与えない温度、すなわち100℃以下で成膜することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0058】
S 基板
T ターゲット
d1 隙間
1 LL室
2 SP室
3 基板トレイ
4 基板ホルダー
5 ターゲットホルダー
6 マスク
7 排気手段
8 圧力計
31 トレイ本体
32 基板載置板
32a 貫通孔
32b 基板載置部
33 磁石
34 ヨーク
35 基板保持部
36 開口
36a 第1の開口部
36b 第2の開口部
42 冷却ガス導入路
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング、CVDやエッチングなどの所定処理を被処理基板に対して行う真空処理装置において、被処理基板を保持しながら搬送するための基板トレイ及び該トレイを用いた基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空処理装置では、生産性を高めるために複数枚の基板を処理室に同時搬送して処理したり、または、装置構成を変更することなく外形寸法の異なる基板に対し処理を行う目的で、基板を保持し搬送できる基板トレイが用いられている。
図12は従来の基板トレイの第1の例を示す(特許文献1参照)。図12には、小さい基板を保持するためのザグリ702を具備し、皿形状をしている基板トレイ701が開示されている。図12記載の保持トレイ701により、8インチ、6インチといった小さい基板も直径12インチ用基板処理装置に設置できるようになる。
【0003】
図13は従来の基板搬送用トレイの第2の例を示す(特許文献2参照)。図13には、凹部802を有し熱伝導性に優れた物質からなるトレイ本体801の一部表面を、絶縁性を有するとともに柔軟性を有する物質805で構成した基板トレイ801が開示されている。図13において、803は突き上げ用ピンが通る貫通孔、804は基板を吸着するための貫通孔、806は耐蝕性または耐スパッタリング性を有する物質である。図13記載の基板搬送用トレイによれば、基板とトレイ本体801の密着性および熱伝導性を良くし、基板の温度を均一にすることにより回路パターンの線幅などのばらつきを小さくすることが可能となる。
【0004】
また、成膜などの真空処理装置では、処理内容に応じて処理中の基板温度管理を行なう必要がある。このため、基板や基板トレイを保持するホルダーを冷却水などの温度制御手段で温度制御し、このホルダーとの熱伝達により基板の温度管理を行う技術が一般に用いられている。
【0005】
しかし、真空では大気中よりも部品と部品の微小な隙間において熱伝達効率が悪化する。このため真空処理装置、特にスパッタリングなどのプロセス圧力の低い装置では、成膜などの真空処理中の基板温度管理をおこなうために、基板の裏面やトレイの裏面に冷却ガスなどの熱伝達媒体を封止することで、温度調整されたホルダーと基板との熱伝達効率を改善する必要がある。
【0006】
図14は従来の基板搬送用トレイの第3の例を示す(特許文献3参照)。図14には、基板載置面に、基板Sの外形に対応した少なくとも1個の凹部911が形成され、この凹部911の底面に配置された環状のシール手段902と、凹部911に落とし込むことで設置される基板Sの外周縁部をシール手段902に対して押圧する押圧手段903とを備えた基板搬送用トレイ901が開示されている。更に、図14記載の基板搬送用トレイ901では、凹部911に通じる少なくとも1本のガス通路913a、913bが開設され、シール手段902として機能するOリングが、凹部911の底面に形成され、Oリングの線径より大きな幅を有する環状溝912に設置されている。なお、図14において、Bはボルト、Sは基板、911aは凹部911の底面、911bは基板S裏面と凹部911底面との間の空間、931は中央開口である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−021686号公報
【特許文献2】特開2002−313891号公報
【特許文献3】特開2010−177267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1のような基板を置くだけで固定しない基板トレイ701では、質量を軽くできる利点はあるが、搬送中に基板が移動してしまう懸念がある。特許文献2では、レジストマスクを形成したLaTiO3などからなる基板をトレイ本体801の凹部802に乗せている。トレイ本体801の凹部802に設けた物質805は、絶縁性を有するとともに柔軟性を有するため、その絶縁性により基板がトレイ本体801と絶縁され、基板に帯電した静電気により基板がトレイ本体801に静電気力により引きつけられ固定される。しかし、特許文献2の基板トレイにおいても、基板がトレイ本体801に静電気力により引きつけられ固定されるためには、基板がLaTiO3などからなる強誘電体であり、かつ電界が加えられてその基板表面が帯電し静電気が発生する必要があるため、装置に高周波電力を印加する基板処理においてはじめて基板はトレイ本体801に固定されるのであり、基板処理前の搬送中に基板が移動してしまうという問題を解決するものではなく、また基板が強誘電体ではない場合には効果がないという問題があった。
【0009】
また、成膜などの真空処理中の基板温度管理をおこなうためには、基板の裏面に熱伝達媒体を封止する必要がある。
【0010】
特許文献3ではボルトBで基板Sを基板トレイ901に対して押圧し基板S裏面に熱伝達媒体を封止することができるので、基板温度制御性能を改善できる利点があり、基板処理前の搬送中に基板が移動してしまうという問題もない。しかし、特許文献3では、押圧手段903は、基板トレイ901の凹部911の外周に形成したねじ孔にボルトBを螺着することで取付けられている。そのため、ボルトBに膜が付着すると、膜はがれをおこし易く、パーティクルの原因となるという課題があった。また、構造物があるため、成膜などの基板処理時に影響が出ることがあった。そしてボルトBを螺着するために基板トレイ901のねじ孔に深さが必要なことから基板トレイ901が厚くなってしまうので、基板トレイ901の熱抵抗が大きくなるという問題がある。基板S裏面に熱伝達媒体を封止しても、基板トレイ901の熱抵抗が大きければ、基板などの真空処理中に、基板Sに流入する熱を基板Sを保持した基板トレイ901を載置するための温度制御された基板ホルダー(図示なし)に伝えにくくなる。従って十分な基板温度制御性能が得られないという問題があった。
【0011】
また、特許文献3では、基板Sの脱着のためにはボルトBを外さなければならない。しかし、量産装置では、基板Sの脱着のためにボルトBを外したり締めたりするためには脱着装置の構成が複雑となるため基板Sの脱着を容易に行う事が出来ないことが問題であった。
【0012】
本発明の目的は、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着が容易な基板保持のための基板トレイ及び該トレイを用いた基板処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、前記基板トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイである。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記磁石は、前記前記トレイ本体に埋設されており、前記開口は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、前記第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部とからなり、前記基板保持部は前記第1の開口部と前記第2の開口部とにより形成されており、基板保持部と前記基板載置部とで前記基板を挟持することを特徴とする基板トレイである。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項3記載の発明は、請求項1記載に記載の発明において、前記トレイ本体には、ヨークが埋設されており、前記磁石は、前記基板載置板と前記ヨークとの間に設けられていることを特徴とする基板トレイである。
【0016】
上記目的を達成するめに、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、前記トレイ本体が、非磁性材料で形成されていることを特徴とする基板トレイである。
【0017】
上記目的を達成するめに、請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記トレイ本体の前記ヨークは、前記トレイ本体と前記磁石との間に設けられていることを特徴とする基板トレイである。
【0018】
上記目的を達成するめに、請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の発明において、前記非磁性材料がTi、カーボンまたはアルミナであることを特徴とする基板トレイである。
【0019】
上記目的を達成するめに、請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載の発明において、前記磁石は、前記基板載置板側に、N極とS極の磁極が現れ、前記基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石であることを特徴とする基板トレイである。
【0020】
上記目的を達成するめに、請求項8記載の発明は、請求項3から7のいずれか1項に記載の発明において、前記ヨークの厚さは、前記基板の処理面側の前記トレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定されていることを特長とする基板トレイである。
【0021】
上記目的を達成するめに、請求項9記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記片面2極磁石は、前記基板の周囲に等角度で配置されていることを特徴とする基板トレイである。
【0022】
上記目的を達成するめに、請求項10記載の発明は、請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイを有する基板処理装置であって、成膜室と、前記成膜室内に設けられたターゲットホルダーと、前記ターゲットホルダーと対向して設けられ、前記基板トレイを載置するための基板ホルダーと、前記基板ホルダーを上下動させるための上下機構と、前記成膜室内にプロセスガスを導入するためのガス導入手段と、前記成膜室内を排気するための排気手段と、を有することを特徴とする基板処理装置である。
【0023】
上記目的を達成するめに、請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記基板ホルダーと前記基板載置板には、前記基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔がそれぞれ設けられていることを特徴とする基板処理装置である。
【0024】
上記目的を達成するめに、請求項11記載の発明は、請求項10記載の発明において、前記基板載置板と前記基板ホルダーの基板載置部との間には、0.3mm以下の間隙d1が設けられていることを特徴とする基板処理装置である。
【発明の効果】
【0025】
本願の請求項1記載の発明によれば、基板載置板を磁石によりトレイ本体に保持し、基板保持部と、基板載置部とで基板を保持することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着を容易することができるという効果がある。
本願の請求項2記載の発明によれば、基板保持部を基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部より形成することにより、基板保持部と基板載置板とにより確実に基板を挟持することができるという効果がある。また、磁石がトレイ本体に埋設されることにより基板載置板が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができるという効果がある。
本願の請求項3記載の発明によれば、トレイ本体にヨークを埋設し、基板載置板と前記ヨークとの間に磁石を設けることにより、トレイが薄くできるため、搬送ロボットなどの搬送システムの負担を少なくすることができるという効果がある。
本願の請求項4、5記載の発明によれば、トレイ本体を非磁性材料で形成することにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
本願の請求項6記載の発明によれば、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを軽くできるので、搬送ロボットなどの搬送システムの負担を少なくすることができる。更に、また、本願の請求項6記載の発明によれば、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを耐熱性に優れたものにすることができるので、特にプラズマから基板トレイへの熱量の流入が大きい大電力のスパッタリング成膜に好適であるという効果がある。
本願の請求項7記載の発明によれば、基板載置板側にN極とS極の磁極が現れ、基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石とすることにより、N極とS極の両方の磁極を基板載置板側に向けることできるため、基板載置板に対する吸着力が高くなり基板保持性能の向上を図ることができるという効果がある。更に、本願の請求項7記載の発明によれば、片面2極磁石とすることで基板保持性能を維持しながらトレイ表面への磁場の漏れを低減できるという効果がある。
本願の請求項8記載の発明によれば、ヨークの厚さを、基板の処理面側のトレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定することにより、基板トレイ上に異常な放電が生じることを抑制することができるという効果がある。
本願の請求項9記載の発明によれば、片面2極磁石を基板の周囲に等角度で複数N極とS極とが交互になる様に配置することにより、基板の保持性能を高くすることができるという効果がある。
本願の請求項10記載の発明によれば、請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイを基板処理装置に使用することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れた基板処理装置を実現できるという効果がある。
本願の請求項11記載の発明によれば、基板ホルダーと前記基板載置板に、基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔をそれぞれ設けることにより、基板を効率的に冷却することができるという効果がある。
本願の請求項12記載の発明によれば、基板載置板と基板ホルダーの基板載置部との間に0.3mm以下の間隙d1を設け、この間隙d1に熱伝達媒体(冷却ガス)を流すことで、基板の冷却性能を高めることができるという効果がある。特にこの部分の隙間を0.3mm以下とすることで基板の温度をより低減することができ、特に基板上にリフトオフ用のフォトレジストパターンなどの樹脂パターンが設けられている場合にダメージを与えない温度、すなわち100℃以下で成膜することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る成膜装置を説明するための概略図である。
【図2】本発明の第1の基板トレイ構造を説明するための概略断面図である。
【図3】片面2極磁石と1極磁石を使用した場合の漏洩磁場を説明するための図である。
【図4】本発明の第2の基板トレイ構造を説明するための概略断面図である。
【図5】本発明の基板トレイへの磁石配置図の一例を示す図である。
【図6】基板トレイ表面の漏洩磁束密度と放電痕が生じない領域との関係を説明する図である基板トレイ表面の漏洩磁束密度と放電痕が生じない領域との関係を説明する図である。
【図7】基板温度と基板トレイ裏面、すなわち基板トレイの磁性体とホルダーの隙間寸法との関係を示す図である。
【図8】トレイへの基板設置方法説明図である。
【図9】本発明のかかる基板トレイを用いて複数枚の基板を保持した状態を示す図である。
【図10】本発明の基板トレイ表面の漏洩磁束密度の測定状態を示す図である。
【図11】本発明の基板トレイを用いて、基板上に成膜した後のトレイの表面状態を示す図である。
【図12】従来(特許文献1)の基板トレイの第1の例を示す図である。
【図13】従来(特許文献2)の基板トレイの第2の例を示す図である。
【図14】従来(特許文献3)の基板トレイの第2の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1を参照して、本発明に係るスパッタリング装置の構成を説明する。
本発明に係るスパッタリング装置は、ゲートバルブ11を介して連通可能に接続されたLL室(ロードロック室)1とSP室(スパッタ室)2とから構成されている。
スパッタリング装置のSP室2は、処理チャンバ21と、処理チャンバ21内に設けられ、基板Sを保持した基板トレイ3を載置するための基板ホルダー4と、スパッタ粒子を基板S上に成膜するためのターゲットTを保持するためターゲットホルダー5とを備えている。
【0029】
基板ホルダー4は上下機構41により上下に移動可能であり、ターゲットTと基板Sとの距離(T/S間距離)を調整したり、基板Sを保持した基板トレイ3を搬入および搬出する場合に、上下機構41により上下に移動することができるようになっている。なお、本実施形態ではT/S間距離や基板トレイ3を搬入および搬出について上下機構41を用いているが、同じ機能を実現する別の機構を用いても構わない。基板ホルダー4内部には基板ホルダー4を冷却するための図示しない冷却水水路が内部にあり、冷却水が循環できるようになっている。基板ホルダー4は熱伝熱が良いCu等の材料が用いられ、電極(アノード電極)として機能する。図2に示すように、基板ホルダー4には基板Sと基板トレイ3の間、および基板トレイ3と基板ホルダー4の間の隙間に対して冷却ガスを導入するための冷却ガス導入路42が設けられている。基板S、基板トレイ3、そして基板ホルダー4との間の熱伝達媒体である冷却ガスとしては、例えばArなどの不活性ガスが使用される。また、図1に示すように、基板トレイ3を基板ホルダー4に載置した場合に、基板トレイ3の周縁部、基板トレイ3裏面、および基板ホルダー4表面への成膜を抑制できるような配置と形状の、リング状のマスク6が設けられている。
【0030】
マスク6はマスク支持棒61に固定されている。マスク支持棒61には、マスク上下駆動機構62が取り付けられており、マスク6はマスク上下駆動機構62により、上下動できるようになっている。なお、マスク6は、成膜を抑制できるような配置と形状とすることが望ましい。
【0031】
本実施の形態においては、マスク6により基板トレイ3周辺部で基板トレイ3を基板ホルダー4にクランプしている。これにより、基板トレイ3と基板ホルダー4の間からの冷却ガスの漏れを抑制することができ、基板Sの冷却性能をより高めることができる。マスク6により基板トレイ3のクランプは、例えば、前記マスク上下機構62を基板と接触するように上下動させることにより可能である。
【0032】
ターゲットホルダー5は、金属製部材からなり、電極(カソード電極)として機能する。ターゲットホルダー5は図示しない絶縁体により保持され処理チャンバ21から電気的に絶縁されている。ターゲットホルダー5にはインピーダンスマッチングをおこなうための整合機51を介して高周波電源52が接続されており、ターゲットホルダー5に高周波電源52から高周波電力が印加可能になっている。なお、ターゲットTの種類などによって直流電源をターゲットホルダー5に接続し、直流電力をターゲットTに印加するようにしてもよい。
【0033】
また、処理チャンバ21には、プロセスガス(本例ではアルゴン等の不活性ガスと酸素)を導入するガス導入手段6が設けられている。ガス導入手段6は、スパッタガス(例えば、Ar)導入手段61と反応性ガス(例えば、酸素))導入手段62とから構成される。さらに、処理チャンバ21には、コンダクタンスバルブを介して排気手段7が設けられている。排気手段7は処理チャンバ21の排気をおこなうためのTMP(ターボ分子ポンプ)とクライオポンプが併用された第1の排気系71、さらにTMPの背圧を排気するためのRP(ロータリーポンプ)からなる第2の排気系72などにより構成されている。なお、第1の排気系71と第2の排気系とは第1のバルブ73を介して接続されている。また、処理チャンバ21には、第2のバルブ75を介してRP(ロータリーポンプ)からなる第3の排気系74に接続されている。また、処理チャンバ21には、処理室内の圧力を測定するための圧力計8(例えば、ダイアフラムゲージ)が接続されている。
【0034】
ターゲットTと基板トレイ3の間の空間は、成膜動作中にはターゲットホルダー5に印加された電力によりプラズマが生じている。このターゲットTと基板トレイ3を載置する基板ホルダー4、そして処理チャンバー21壁により囲まれた空間を「プロセス空間」と呼称する。なお、処理チャンバー21壁に不図示のシールドを設置してもよい。
LL室1には、RP(ロータリーポンプ)などの大気圧から排気可能なポンプ12で構成された第4の排気系が第3のバルブ13を介して接続されており、図示しないベント機構を持っている。LL室1は基板Sを保持した基板トレイ3をSP室2に搬出入するために使用される。
【0035】
次に基板トレイ3の構成の説明を説明する。
図2に本発明に係る第1の基板トレイ3の構成の断面図を示す。基板トレイ3は、トレイ本体31と、基板Sを載置するための基板載置部32bを備えた基板載置板32とからなる。基板載置板32は磁性板である。トレイ本体31には開口36が形成されている。トレイ本体31は、開口36の端部に基板Sの周端部を保持する基板保持部35を備えている。開口36は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部36aと、第1の開口部36aと連接し基板Sの外径より大きな第2の径を有する第2の開口部36bとからなる。基板保持部35は、第1の開口部36aと第2の開口部36bとにより形成される。基板Sは、基板保持部35と、基板載置板32の基板載置部32bとで挟持される。基板Sの外径より大きな第2の径を有する第2の開口部36bで基板保持部35が規定されることによって、基板はより確実に保持される。すなわち、第1の開口部36aの中心軸に対して基板が許容される限度を超えてずれて保持され、基板の処理時に後述する冷却ガスが漏れてしまったり、また部分的には基板周辺部を必要以上に隠して本来処理されるべきであった基板周辺部が処理されないといった危険性を低減することができる。また、磁石がトレイ本体に埋設されることにより基板載置板が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができる。
基板載置板32は磁性材料で構成されている。基板載置板32を構成する磁性材料としては錆びにくいステンレスなどが好ましく、具体的にはSUS430などがよい。基板トレイ3は大気中に取り出されるため、磁性材料であるだけでなく防錆性を有することは重要である。
【0036】
トレイ本体31には、基板載置板32をトレイ本体31に保持するため、基板保持部35より外側に磁石33が配設されている。図2では、トレイ本体31の内部には片面2極の磁石33が複数埋め込まれている。片面2極の磁石としたのは、片面1極の磁石に比べて、基板載置板32をトレイ本体31に保持するための吸着力が強く、プロセス空間への磁場漏洩を抑制できるためである。この点につき、図3を用いて説明する。図3(a)はトレイ本体31に片面2極の磁石33を2セット埋設した場合、図3(b)はトレイ本体31に片面1極磁石33を2セット埋設した場合の説明図である。図3(a)に示すように、片面2極磁石33の場合、プロセス空間に発生する漏洩磁場は、片面1極磁石33の場合に比べて小さい。そのため、後述するプロセス空間への磁場漏洩を抑制するヨーク34の厚さを薄くでき、基板トレイ3の軽量化を図ることができるという技術的意義を有する。
【0037】
図3(a)の場合、N極とS極が隣り合う位置で配置されている。N極から発生する磁力線33aは隣のS極に引き寄せられて 閉じようとする。この時、N極とS極の配置が近い為、トレイ表面の漏洩磁束密度は小さい。一方、図3(b)の場合は、図3(a)に比べてN極とS極は離れている。この場合、N極から発生する磁力線33bは、図3(a)と同様にS極に 引き寄せられて閉じようとするが、位置が離れている為、図3(a)に比べてトレイ表面に発生する漏洩磁束密度は大きくなりやすい。図3(a)のようにトレイ表面に発生する漏洩磁束密度が小さいと、トレイ表面に異常な放電痕が残らない。
【0038】
次に図4を参照してヨーク34が用いられた実施形態を説明する。磁石33のプロセス空間側にはヨーク34が設置されており、プロセス空間への磁場漏洩を抑制している。ヨーク34の材質は、プロセス空間への磁場漏洩を抑制するために透磁率の高い材料であればよく、例えばSUS430などが好適に用いられる。トレイ本体31内における磁石33とヨーク34の固定方法としては例えば接着剤等での接着が用いられるが、基板トレイ3の使用条件下で許容される固定方法であれば他の方法でも構わない。ヨーク34のない反対側の磁石33面は基板載置板32と接触し、トレイ本体31と脱着できる構成となっている。なお、ヨーク34のない反対側の磁石33面は基板載置板32と接触している必要は必ずしもなく、基板載置板32と磁石33との吸着力によりトレイ本体31と基板載置板32とで基板Sを保持できていればよい。基板載置板32には基板載置板32の基板ホルダー4側から基板S側に貫通した貫通孔32aが複数あり、この貫通孔32aを介して冷却ガスが基板載置板32と基板Sの間に導入され基板Sと基板載置板32との間の熱伝達率を向上させることができる。冷却ガスは、基板トレイ3を載置する基板ホルダー4の基板載置面43に開口した冷却ガス導入路42から導入され、基板ホルダー4と基板トレイ基板載置板32の間の隙間d1に導入されれば、冷却ガスにより基板Sから基板載置板32、さらには基板載置板32から基板ホルダー4への熱伝達効率が良くなるので、基板Sの冷却効率が上昇する。なお、図2や図4ではトレイ本体31は非磁性材料で形成しているが、トレイ本体31を磁性材料で構成して、プロセス空間への漏洩磁場を抑制することも可能である。しかし磁性材料でトレイ本体31を構成すると、重量が増加するので基板トレイ3を搬送するためのロボット等のトレイ搬送装置への負担が増加する。また、図2に示すようにトレイ本体31全体を非磁性材料で形成しヨーク34を省略することも可能である。ヨーク34を省略しかつプロセス空間への漏洩磁場を抑制するためには、トレイ本体31を厚くすればよい。しかしトレイ本体31を厚くした場合、基板トレイ3の重量が増加する。従って、プロセス空間への漏洩磁場を抑制しながら基板トレイ3の軽量化を図るためには、トレイ本体31を非磁性材料で構成し、磁石33と非磁性材料のトレイ本体31の間にヨーク34を配置する図4のような構成が望ましい。なお、トレイ本体3に使用する非磁性材料としては軽量材料が望ましく、Ti(チタン)、カーボン、アルミナ、セラミックス、Mg合金、Al、Al合金などが使用できる。その中でもTi(チタン)、カーボン、アルミナは耐熱性に優れているので、大電力のスパッタ成膜装置などトレイへの熱量の流入が高い場合に特に望ましい。
【0039】
図5に磁石33配置図の一例を示す。基板Sの周囲に片面2極の磁石33が3つずつ並べられており、これがおおむね基板Sに対して回転対称に3組配置されている。磁石33は厚みの薄い円柱状であり、円形面にN極とS極がある。磁石33のN極とS極の境界線はおおよそ基板Sの中心に向かうように配置されている。このようにすると、バランスよく基板Sを保持できるので最も好ましい。なお、バランス良く保持するための複数の磁石33の配置はこれに限定したものではなく、例えば1つの片面2極磁石33を回転対象に3箇所、すなわち3つの磁石33でこれを構成しても良いし、1つの片面2極磁石を回転対象に2箇所、すなわち2つの磁石でこれを構成しても良い。なお、バランスよく基板Sを保持するためには回転対称にさえ配置されていれば、磁石33のN極とS極の境界線がおおよそ基板Sの中心に向かうように配置されていなくても構わない。また、磁石は円形のものだけでなく、棒状、円弧状などのものを用いることもできる。
また、N極とS極の両方の磁極を基板載置板32に向けることで基板載置板32に対する吸着力が高くなり基板保持性能に優れる。また片面2極磁石33であることで基板保持性能を維持しながら基板トレイ3表面への磁場の漏れを低減することができる。
【0040】
例えば図5のように複数の磁石33で保持をする構成の場合、N極とS極が交互になる様に配置することが望ましい。複数の磁石33とすることで保持性能が高くなる。さらにN極とS極が交互になるように配置すれば、この性能をさらに高めることができる。
【0041】
ところで、ヨーク34があることで基板トレイ3表面の漏洩磁束密度は低減されるが、好ましくはこの漏洩磁場強度が成膜に対して影響がある異常放電を起こさない程度に低減されていることが成膜特性の向上の点から望ましい。
【0042】
図6にヨーク34の厚みとトレイ本体31の表面の漏洩磁束密度の関係を示す。本実施形態ではヨーク厚みとトレイ本体31の表面の漏洩磁束密度は曲線201のようになっており、例えばヨーク厚み0.3mmの時に漏洩磁束密度は130Gauss、ヨーク厚み0.6mmの時に漏洩磁束密度は30Gaussである。漏洩磁束密度が100Gaussを超える領域203ではトレイ表面に放電跡が残るが、漏洩磁束密度が100Gauss以下の領域202においては放電跡が残らない。例えば、ヨーク厚み0.3mmで漏洩磁束密度が130Gaussの場合ではトレイ表面に放電跡が生じたが、ヨーク厚み0.6mmで漏洩磁束密度が30Gaussの場合ではトレイ表面に放電跡は見られなかった。
図9(a)(b)は、本実施形態の基板トレイ3を用いて8枚の基板Sを保持した場合を示す。図9(a)は、基板押さえリングとして機能する上記基板載置板32を、8枚の基板Sを保持できるように一体で形成したものである。なお、図9(b)は、基板押さえリングとして機能する上記基板載置板32を、8枚の基板S毎に形成したものである。漏洩磁束密度の測定は、図10(b)に示すように、磁石33の直上、磁石33と磁石33との間で行った。ヨーク34の厚みが厚いほど漏洩磁場は低減される。成膜のために好適でない放電をトレイ表面で生じないためには、漏洩磁場が100ガウス以下の領域が好ましい。なお、トレイ本体31表面の漏洩磁束密度の測定は、トレイ表面において垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点における水平磁束密度を測定することにより評価した。より詳しくは、図2に示すように、片面2極磁石33をトレイ本体31に1セット埋設した場合、トレイ上面からみた場合の磁石33のN極とS極との間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点においてのトレイ表面における水平磁束密度をガウスメーターで測定することにより評価した。ガウスメーターは、東陽テクニカ製の5180型ガウスメーターを使用した。なお、磁束密度の測定は室温において基板載置板32によりサファイア基板Sを保持した状態でおこなった。また、図10に示すように、トレイ本体31に、片面2極磁石33を3セット毎、120度の等間隔で埋設した場合、トレイ上面からみた場合の1個の片面2極磁石33のN極とS極との間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点、3セットの片面2極磁石33の各々の磁石の間における垂直磁束密度がおおよそ0ガウスとなる地点においてのトレイ表面における水平磁束密度をガウスメーターで測定することにより評価した。
【0043】
図7に基板温度と基板トレイ3裏面、すなわち基板トレイ3の基板載置板32と基板ホルダー4の隙間寸法d1との関係を示す。基板S上にある保護樹脂が温度によって形状変化することを防止するため、基板温度は100℃以下であることが望ましい。実験結果より、隙間寸法d1が0.15mmにおいて基板温度は約90℃であった。隙間寸法d1が0.7mmに広がると、基板温度は約150℃まで上昇した。以降、隙間寸法d1が広がるのに伴い基板温度は上昇し、2.5mmの時には約190℃まで上昇した。この実験結果から、図7のように、基板温度が100℃以下となる隙間寸法d1は0.3mm以下であることが分かった。そのため冷却効果を高めるために基板載置板32と基板ホルダー4の隙間d1は小さいほうがよいが、100℃以下とするためには基板Sから基板ホルダー4までの距離d1は0.3mm以下が望ましい。この点につき、図2を用いて説明する。冷却ガス(Ar)は、冷却ガス導入孔42、貫通孔32aを介して基板Sの裏面側に導入される。また、冷却ガス(Ar)が、トレイ本体31からSP室2内のプロセス空間に拡散することを防止するため、トレイ本体31の端部31aと基板ホルダー4の端部4aとは、気密に固定することが好ましい。一方、トレイ本体31の中央部31bと基板ホルダー4の中央部4bとは、冷却ガス(Ar)を基板Sの裏面側に導入できる程度の隙間があればよい。以上の点から、基板載置板32と基板ホルダー4の隙間d1は0.3mm以下が望ましい。なお、基板を冷却する性能が上がるので隙間d1は小さいほどよい。しかし基板載置板32がトレイ本体31の端部31aよりも出っ張ると、冷却ガスがSP室2内のプロセス空間に拡散するので、基板載置板32をトレイ本体31に装着する上で端部31aよりも出っ張る部分が無い様にするために必要な設計公差を考慮した寸法であるように、d1の最小値は決定されればよい。また、本実施の形態では冷却ガスとしてAr(アルゴン)を使用したがHe(ヘリウム)や水素などの他の冷却ガスを用いても構わない。
【0044】
次に、基板トレイ3に対する基板Sと基板載置板32の装着方法について、図8を用いて説明する。
基板トレイ3に対する基板Sと基板載置板32の設置は、ロボットで自動的に行う。
はじめに、基板Sが複数枚装填されたカセット102をカセット用ロードポート103に乗せると、ベルトコンベアー104によって基板取り出し位置105まで搬送される。カセット102が基板取り出し位置105に配置されると、下方から、基板リフト機構106が上昇し、全ての基板Sがリフトアップされる。その後、不図示の真空チャック機構を備えた6軸ロボット107によって基板Sの裏面が真空チャックによって吸着し保持される。その後、基板Sのセンター、オリフラの位置出しを行う。
【0045】
基板搬送動作と並行して、トレイ用ロードポート108に装填されている基板トレイ3が、不図示の真空チャック機構を備えた6軸ロボット110によって吸着、保持され、基板Sと基板載置板32の設置を行う為のテーブル111へ搬送される。その際に、基板トレイ3のセンター、位置出しも行われる。
6軸ロボット107によって保持されている基板Sは、予め成膜される面が下になるようにテーブル111に置かれたトレイに対して設置される。
基板トレイ3に基板Sが設置されたあと、基板トレイ3に対して基板Sを保持する為の基板載置板32がアーム113によって保持され、既に基板Sが設置された基板トレイ3に対して設置される。
基板Sと基板載置板32の設置が完了すると、6軸ロボット110によって、基板トレイ3の裏面が吸着保持され、成膜面が上になるように基板トレイ3を裏返し、成膜処理装置のロードポート114へ搬送される。
【0046】
成膜処理が終了した基板トレイ3は、上記と逆の手順で基板載置板32と基板Sの取り外しが行われ、最終的に基板Sが基板カセット102に装填されると、ベルトコンベアー104によってカセット用アンロードポート103へ搬送され、回収できる。
【0047】
基板Sを取り付けた基板トレイ3はLL室内1で低真空領域まで排気する。排気完了後、基板トレイ3はLL室1からSP室2へと搬送され、マスク6と基板ホルダー4にて固定する。SP室2内でさらに高真空まで排気を行った後、SP(スパッタ)処理を行う。SP処理はプロセスガス、例えばArとO2の混合ガスを導入して、所定の圧力にする。ターゲットホルダー5に電力を投入し、所定の時間まで成膜を行う。このとき基板ホルダー4内の冷却ガス導入路42を通じて基板トレイ3裏面と基板ホルダー4の間の隙間d1、具体的には基板トレイ3の基板載置板32の基板保持面とは反対側の面と基板ホルダー4との隙間d1に冷却ガスが導入される。冷却ガスはさらにこの隙間d1から基板トレイ3の基板載置板32に設けられた貫通孔32aを通じて基板Sと基板載置板32の間に導入される。導入した冷却ガスにより基板Sを冷却しながら成膜を行う。成膜終了後、電力、添加ガス、冷却ガスが止まり、基板トレイ3はSP室2からLL室1へと搬送されて、LL室1内でベントを行い、基板トレイ3が取り出される。なお、基板Sを保持した基板トレイ3は、LL室1から取り出されたあと大気中にて基板Sを取り外される。本発明においては磁石と基板載置板32の磁力により基板を保持しているため、基板Sの取り外しは容易であり、自動化をおこなうことも容易であるから、安価にこれをおこなう取り外し装置を設定することができる。また、スループットも向上する。従って量産装置において好適である。図11は、成膜の置のトレイ表面状態を示す。本発明のトレイ3では、漏洩磁束密度を小さく為に、磁石33とヨーク34の厚みを最適化した結果、放電痕は確認されなかった。
【0048】
以上に説明したように、本発明では、基板載置板を磁石によりトレイ本体に保持し、基板保持部と、基板載置部とで基板を保持することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れ、さらに量産装置に対応し基板の脱着を容易することができるという効果がある。更に、基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部より基板保持部を形成することにより、基板保持部と基板載置板とにより確実に基板を挟持することができるという効果がある。
【0049】
トレイ本体にヨークを埋設し、基板載置板と前記ヨークとの間に磁石を設けることにより、基板載置板32が薄くできるため、基板冷却性能の向上を図ることができるという効果がある。
【0050】
トレイ本体の少なくとも一部に非磁性材料板を埋設し、ヨークを、非磁性材料板と前記磁石との間に設けることにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
【0051】
トレイ本体を、非磁性材料で形成することにより、ヨークから磁力線が漏れ出た場合にプラズマ処理空間にまで磁力線が作用するのを抑制できるという効果がある。
【0052】
トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを軽くできるので、搬送ロボットなどの搬送システムの負担が少なくすることができる。更に、また、トレイ本体をTi(チタン)、カーボンまたはアルミナで形成することにより、基板トレイを耐熱性に優れたものにすることができるので、特にプラズマから基板トレイへの熱量の流入が大きい大電力のスパッタリング成膜に好適であるという効果がある。
【0053】
基板載置板側にN極とS極の磁極が現れ、基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石とすることにより、N極とS極の両方の磁極を基板載置板側に向けることできるため、基板載置板に対する吸着力が高くなり基板保持性能の向上を図ることができるという効果がある。更に、本願の請求項7記載の発明によれば、片面2極磁石とすることで基板保持性能を維持しながらトレイ表面への磁場の漏れを低減できるという効果がある。
【0054】
ヨークの厚さを、基板の処理面側のトレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定することにより、基板処理装置上に異常な放電が生じることを抑制することができるという効果がある。
【0055】
片面2極磁石を基板の周囲に等角度で複数N極とS極とが交互になる様に配置することにより、基板の保持性能が高くすることができるという効果がある。
【0056】
基板トレイを有する基板処理装置を使用することにより、パーティクルの発生や基板処理への構造物の影響を抑制し、熱伝達媒体による冷却性能(温度制御)に優れた基板処理装置を実現することができるという効果がある。
【0057】
基板ホルダーと前記基板載置板に、基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔をそれぞれ設けることにより、基板を効率的に冷却することができるという効果がある。
更に、基板載置板と基板ホルダーの基板載置部との間に0.3mm以下の間隙d1を設け、この間隙d1に熱伝達媒体(冷却ガス)を流すことで、基板の冷却性能を高めることができるという効果がある。特にこの部分の隙間を0.3mm以下とすることで基板の温度をより低減することができ、特に基板上にリフトオフ用のフォトレジストパターンが設けられている場合にダメージを与えない温度、すなわち100℃以下で成膜することができるという効果がある。
【符号の説明】
【0058】
S 基板
T ターゲット
d1 隙間
1 LL室
2 SP室
3 基板トレイ
4 基板ホルダー
5 ターゲットホルダー
6 マスク
7 排気手段
8 圧力計
31 トレイ本体
32 基板載置板
32a 貫通孔
32b 基板載置部
33 磁石
34 ヨーク
35 基板保持部
36 開口
36a 第1の開口部
36b 第2の開口部
42 冷却ガス導入路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、
前記基板トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、
前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、
更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイ。
【請求項2】
前記磁石は、前記前記トレイ本体に埋設されており、
前記開口は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、前記第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部とからなり、
前記基板保持部は前記第1の開口部と前記第2の開口部とにより形成されており、前記基板保持部と前記基板載置部とで前記基板を挟持することを特徴とする請求項1記載の基板トレイ。
【請求項3】
前記トレイ本体には、ヨークが埋設されており、前記磁石は、前記基板載置板と前記ヨークとの間に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板トレイ。
【請求項4】
前記トレイ本体が、非磁性材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項5】
前記トレイ本体の前記ヨークは、前記トレイ本体と前記磁石との間に設けられていることを特徴とする請求項4記載の基板トレイ。
【請求項6】
前記非磁性材料がTi、カーボンまたはアルミナであることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の基板トレイ。
【請求項7】
前記磁石は、前記基板載置板側に、N極とS極の磁極が現れ、前記基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項8】
前記ヨークの厚さは、前記基板の処理面側の前記トレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定されていることを特長とする請求項3から7のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項9】
前記片面2極磁石は、前記基板の周囲に等角度で配置されていることを特徴とする請求項7記載の基板トレイ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイに保持された基板を処理するための基板処理装置であって、
成膜室と、
前記成膜室内に設けられたターゲットホルダーと、
前記ターゲットホルダーと対向して設けられ、前記基板トレイを載置するための基板ホルダーと、
前記成膜室内にプロセスガスを導入するためのガス導入手段と、
前記成膜室内を排気するための排気手段と、
を有することを特徴とする基板処理装置。
【請求項11】
前記基板ホルダーと前記基板載置板には、前記基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項10記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記基板載置板と前記基板ホルダーの基板載置部との間には、0.3mm以下の間隙d1が設けられていることを特徴とする請求項10記載の基板処理装置。
【請求項1】
基板を搬送し処理する間、基板を保持するための基板トレイであって、
前記基板トレイは、トレイ本体と、基板を載置するための基板載置部を備えた基板載置板とからなり、
前記トレイ本体は開口を有し、前記トレイ本体は該開口の端部に前記基板の周端部を保持する基板保持部を備えており、
更に、前記基板載置板を前記トレイ本体に保持すべく、前記トレイ本体には、前記基板保持部より外側に磁石を配設したこを特徴とする基板トレイ。
【請求項2】
前記磁石は、前記前記トレイ本体に埋設されており、
前記開口は、前記基板の外径より小さい第1の径を有する第1の開口部と、前記第1の開口部と連接し前記基板の外径より大きな第2の径を有する第2の開口部とからなり、
前記基板保持部は前記第1の開口部と前記第2の開口部とにより形成されており、前記基板保持部と前記基板載置部とで前記基板を挟持することを特徴とする請求項1記載の基板トレイ。
【請求項3】
前記トレイ本体には、ヨークが埋設されており、前記磁石は、前記基板載置板と前記ヨークとの間に設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板トレイ。
【請求項4】
前記トレイ本体が、非磁性材料で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項5】
前記トレイ本体の前記ヨークは、前記トレイ本体と前記磁石との間に設けられていることを特徴とする請求項4記載の基板トレイ。
【請求項6】
前記非磁性材料がTi、カーボンまたはアルミナであることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の基板トレイ。
【請求項7】
前記磁石は、前記基板載置板側に、N極とS極の磁極が現れ、前記基板載置板と反対側にS極とN極の磁極が現れる片面2極磁石であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項8】
前記ヨークの厚さは、前記基板の処理面側の前記トレイ本体表面において、磁束密度が100ガウス以下となるように設定されていることを特長とする請求項3から7のいずれか1項に記載の基板トレイ。
【請求項9】
前記片面2極磁石は、前記基板の周囲に等角度で配置されていることを特徴とする請求項7記載の基板トレイ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の基板トレイに保持された基板を処理するための基板処理装置であって、
成膜室と、
前記成膜室内に設けられたターゲットホルダーと、
前記ターゲットホルダーと対向して設けられ、前記基板トレイを載置するための基板ホルダーと、
前記成膜室内にプロセスガスを導入するためのガス導入手段と、
前記成膜室内を排気するための排気手段と、
を有することを特徴とする基板処理装置。
【請求項11】
前記基板ホルダーと前記基板載置板には、前記基板の処理面と反対側の面に冷却ガスを導入するための、ガス導入孔がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項10記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記基板載置板と前記基板ホルダーの基板載置部との間には、0.3mm以下の間隙d1が設けられていることを特徴とする請求項10記載の基板処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−234930(P2012−234930A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101645(P2011−101645)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
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