説明

基板上にポリマーフィルムを化学気相蒸着するための方法およびデバイス

本発明は、基板(6)上へのポリマーフィルムの化学気相蒸着法に係り、該方法は、以下の2つの別々の、連続する段階を含む:ガス相のフォトン活性化段階、ここではフォトン活性化エネルギー(42、43)が、主としてガス状組成物中に存在する少なくとも一つのガス状ポリマープリカーサに供給され;および化学気相蒸着段階、ここでは前記フォトン活性化段階から得られる、該活性化されたガス状ポリマープリカーサが、基板(6)上にポリマーフィルムを生成するように、該基板上に堆積され、またここで該ガス相の全圧力は、102〜105Paなる範囲内にある。本発明は、またこのような方法を使用するためのデバイス(1)にも係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相蒸着法(CVD)とも呼ばれる、気相化学蒸着法に係り、該方法によって、ポリマーのフィルム(またはポリマーフィルム)が、反応性ガス相のフォトン活性化により蒸着される。
【背景技術】
【0002】
一般的に薄層(例えば、50nm〜100または200μm)形状にあるポリマーフィルムの、様々な基板上へのCVD蒸着は、エレクトロニクス、医療工学技術、防衛、測時学、薬学、ミクロ-およびナノ-技術工業において、とりわけ興味が持たれている。
従って、CVD法により蒸着されたパリレン(ParyleneTM)、即ちポリ(p-キシリレン)の被膜は、これらの工業にとって極めて魅力的な多くの特徴を持っている。蒸着は、溶媒の不在下で、周囲温度にて真空蒸発によって行われ、また半-結晶性で透明なフィルムを与える。この蒸着法は、ゴーアム(Gorham)法(Gorham W.F., 線状ポリ-p-キシリレンを製造するための、新規な合成方法(A new general synthetic method for preparation of linear poly-p-xylylenes), J. Polym. Sci. A-1, 4 (1996) 3027)として知られており、また共願者によるものである、特許:EP 1 672 394 B1の教示に従って、コムレック(COMELEC)社により一般的に実施されている。
【0003】
化学気相蒸着に係る他の技術も、溶媒を使用することなしに、検討されてきた。即ち、K. ChanおよびK. Gleasonによる論文:揮発性光開始剤を用いた、ポリマー薄膜の光開始化学気相蒸着(Photoinitiated chemical vapor deposition of polymeric thin films using a volatile photoinitiator), Langmuir 2005, 21, pp.11773-11779は、フリーラジカルメカニズムにより、モノマーから開始する、ポリマー薄膜の蒸着を開示している。この蒸着法、または光-CVD法は、無水相内で、一段階で行われ、またガス状モノマーの存在下におけるガス状光開始剤の光分解を利用している。この方法において、該ガス層、生成される蒸着物および基板は、同時にフォトン照射を受ける。
【0004】
この文献において、一実施例では、ガス状モノマーであるグリシジルメタクリレート(GMA),およびガス状光開始剤である2,2'-アゾビス(2-メチルプロパン)(ABMP)の存在下で行われたCVD工程が記載されている。即ち、ポリ(グリシジルメタクリレート)(PGMA)のフィルムを、シリカ基板上に蒸着している。ここでは、光開始を真空チャンバー内で行うが、該チャンバーは、該基板を含み、350〜400nmなる範囲の波長域における、UV光の外部光源を備えている。
しかし、上記した方法の全ては、これらが、極めて低い使用圧力にて行われているという欠点を持つ。該ポリマーフィルムが、液体のカプセル化を意図している場合、この低い使用圧力は、該カプセル化すべき液体を、蒸着温度において極めて低い蒸気圧を持つという特性を有する液体のみに限定してしまう。該蒸着温度は、一般的に該基板の近傍において支配的な温度である。
【0005】
更に、従来技術としてのこれら方法の一欠点は、該使用圧力が一般的に制御できないことにある。事実、該使用圧力は、該ポリマーフィルムの成長中に変動する。これら方法のもう一つの欠点は、その蒸着速度が一定でない点にある。これが、該蒸着物の厚みの制御が、一般的に困難であることの理由となっている。即ち、これら公知技術に係る方法の主な欠点は、該ポリマーフィルム蒸着物に係る再現性の欠如である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件特許出願の目的は、これら公知技術の諸欠点を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、基板上にポリマーフィルムを化学気相蒸着する方法に係り、該方法は、以下の2つの連続かつ別々の段階を含む:
ガス相のフォトン活性化段階、ここではフォトン活性化エネルギーが、主としてガス状組成物中に存在する少なくとも一つのガス状ポリマープリカーサに供給され;および
気相蒸着段階、ここでは前記フォトン活性化段階から得られる、該活性化されたガス状ポリマープリカーサが、基板上にポリマーフィルムを生成するように、該基板上に蒸着され、またここで該ガス相の全圧力は、102〜105Paなる範囲内にある。
即ち、本発明によるフォトン活性化は、該基板近傍で行われるものではない。該基板および該基板上で成長する該フィルムは、有利には、該フォトン活性化による起り得る分解から保護される。
【0008】
即ち、本発明によれば、特に有利には、フォトン活性化は、該ポリマープリカーサを分解するように、かつ該基板および該基板近傍におけるガス相を乱すことのないように、エネルギーを選択的に供給することを可能とする。本発明のもう一つの利点は、該方法がとりわけ高い信頼性を持ち、また工業的な応用に適していることにある。
その上、極めて広範囲に渡るポリマーフィルムを、本発明の方法によって基板上に堆積することができる。
フォトン活性化のための輻射線は、一般に紫外(UV)輻射光であり、最も高頻度で使用される該紫外光は、200〜400nmなる範囲にその波長をもつものである。
【0009】
前記基板は、一般的に固体であり、またシリカ、ガラス、石英、ポリマーまたは金属形状にあるものである。該基板は、光感受性であってもよく、その理由は、本発明の方法においては、該基板はフォトン活性化のための該輻射線による照射を受けないからである。
該基板は、また少なくとも一つのキャビティを含むことができ、該キャビティ内には、液体を堆積することができ、また該キャビティは、一般的にマイクロセルである。該マイクロセルは、少なくとも一つの壁を含み、最もしばしば使用されるのはポリマー(有機、無機またはハイブリッド、即ち無機/有機ブレンド)、シリカ、ガラスまたは石英製、好ましくはポリマー製の壁を含む。このポリマーは、樹脂とも呼ばれる。
【0010】
本発明の特に好ましい態様において、該ポリマーフィルムは、少なくとも部分的に該基板上に堆積された上記液体を覆っており、また好ましくは少なくとも部分的に該液体と隣接する該基板を覆っている。
これは、特に、少なくとも液体が堆積されている少なくとも一つのマイクロセルを持つ基板上に、該ポリマーフィルムが蒸着されている場合に相当する。
このように該ポリマーフィルムによって少なくとも部分的に覆われている、該基板上に堆積された該液体は、一般的に、本発明の方法の適用条件下で、該基板に対して、およびとりわけ該ポリマーに対して、不活性な特性を持つ。
【0011】
即ち、本発明の方法は、最初に該基板上に存在した液体のカプセル化を可能とし、即ち該液体を、ポリマーフィルムおよび該基板の一部によって完全に包囲することを可能とする。最も一般的には、該液体は、該ポリマーフィルムの一部および該基板の一部によって構成される囲い内にカプセル化される。この囲いは、不浸透性であっても、また不浸透性でなくてもよい。
特に、該基板は、複数のマイクロセルから形成でき、その各マイクロセルは、もう一つのマイクロセルとの共通の、少なくとも一つの壁を有し、また本発明に従って堆積される該フィルムは、不浸透性であり得、また該マイクロセル全てを封止することができ、そこでは、少なくとも1種の液体があり、あるいは単に少なくとも2つのマイクロセルが存在する。また、本発明に従って蒸着される該フィルムは、不浸透性ではなくてもよく、また異なる該マイクロセルの液体を、相互に混合することも可能である。
【0012】
有利には、フォトン活性化が該基板近傍において行われない、本発明の方法は、上記蒸着温度において、低い液体飽和蒸気圧を持つ液体上に、ポリマーフィルムを蒸着することを可能とする。
好ましくは、本発明によれば、該液体は、該蒸着温度において、100 Pa以下の、好ましくは10 Pa以下の飽和蒸気圧を持つ。
その上、この飽和蒸気圧は、一般的に、ある割合、例えば10〜100なる割合だけ、該ガス相の全圧力よりも低い。
【0013】
特許EP 1 672 394 B1は、該蒸着チャンバー内の全圧力が、該蒸着温度において7 Paであることを述べており、また該カプセル化すべき液体の該飽和蒸気圧が、該蒸着温度において、この圧力よりも低く、また理想的には0.7Pa以下でなければならないことを述べている。従って、本発明によれば、上記使用圧力は、特におよび有利には、公知技術に従って、パリレンの蒸着法の使用圧力よりも大きくすることができる。
従って、本発明の方法は、有利には大気圧近傍の蒸着圧力および/または周囲温度(約20℃)近傍の温度にて応用することができる。
特に、本発明の方法は、上記フォトン活性化段階において、該ガス相の温度が、20〜100℃なる範囲、好ましくは50〜70℃なる範囲にあるような方法である。更に、独立または従属的に、本発明の方法は、上記気相蒸着段階において、該ガス相の全圧力が、好ましくは102〜4×103 Paなる範囲にあり、また該基板の温度が、-10〜50℃なる範囲、好ましくは20〜30℃なる範囲にあるような方法である。
【0014】
上記ポリマープリカーサは、一般的に、UV活性化の波長において光重合性のモノマーであり、また該プリカーサは、一般的に光重合開示剤の存在下または不在下で使用することができる。本発明によれば、該開始剤は、好ましくはモノマー:アクリル酸誘導体(例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート)、メタクリル酸誘導体、パリレン誘導体、スチレン誘導体、イタコン酸誘導体、フマール酸誘導体、ビニルハライド、ビニルエステル、ビニルエーテル、およびヘテロ芳香族ビニルからなる群から選択され、またより一層好ましくはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、アクリル酸(AA)、エチルアクリレート(EA)、メチルメタクリレート(MMA)およびジクロロ-ジ-p-キシリレン(ジクロロ[2,2]-p-シクロファン)からなる群から選択される。しかし、これは、また例えばチオールとポリエンとの混合物、または多官能性モノマー、例えばジ-またはトリ-アクリレート等の多官能性モノマー、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)またはペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)、またはジエン、例えばジビニルベンゼンまたはブタジエンもしくはイソプレンであり得る。
【0015】
勿論、恐らく当業者が予測し得る任意の他のポリマープリカーサも、本発明の範囲内に含まれる。
本発明によれば、該ポリマープリカーサは、ガス状態にあり、この場合、該プリカーサは単独でまたはガス混合物状態で、上記フォトン活性化段階に直接供給される。
しかし、該ポリマープリカーサは、また液体状態または固体状態にあってもよく、その場合、本発明の方法は、少なくとも一つの追加の段階を含み、該追加の段階は、前記フォトン活性化段階に対する、ガス状態で、単独または混合物として、該ポリマープリカーサを供給するための段階である。
即ち、本発明の方法は、更に少なくとも一つの蒸発、吹込または昇華段階を含むことができ、該段階は、ガス状ポリマープリカーサの供給を可能とする。
【0016】
該ポリマープリカーサは、そのものが液体形状にあり、あるいは液体としての溶媒に溶解されている場合には、液体形状であり得る。
本発明によれば、該ポリマープリカーサが液体状態にある場合、本発明の方法は、更に少なくとも一つの蒸発段階を含むことが好ましく、該蒸発段階は、前記フォトン活性化段階に先立って実施され、またこの段階は、ガス状態にあるポリマープリカーサの供給を可能とする。
該蒸発段階は、場合により、これに先立つ、液状ポリマープリカーサを注入するための液体注入段階を含むことができる。
【0017】
即ち、本発明の一態様によれば、該ポリマープリカーサが液体状態にある場合、本発明の方法は、更に蒸発段階を伴う、少なくとも一つの液体注入段階を含むことが好ましく、該液体注入段階および蒸発段階は、前記フォトン活性化段階に先立って実施され、また該蒸発段階は、ガス状態にあるポリマープリカーサの供給を可能とする。
該液体注入段階は、パルス式液体注入段階であり得る。
本発明の一態様によれば、該ポリマープリカーサが液体状態にある場合、本発明の方法は、更に少なくとも一つの吹込段階を含むことができ、該吹込段階は、前記フォトン活性化段階に先立って、液状ポリマープリカーサを介して、少なくとも1種のキャリヤガスを通すことにより行われ、ここで該吹込段階は、ガス状態にあるポリマープリカーサの供給を可能とする。
【0018】
本発明のもう一つの態様において、該ポリマープリカーサが固体状態にある場合、本発明の方法は、更に少なくとも一つの昇華段階を含み、該昇華段階は、ガス状態にあるポリマープリカーサの供給を可能とする。該昇華段階は、前記フォトン活性化段階に先立って行われる。
従って、本発明の方法は、有利には、ガス状態、液体または固体状態にある化合物から出発して、ガス状態にあるポリマープリカーサの供給を可能とする。そのままフォトン活性化を行うことのできる該ポリマープリカーサは、一般的にはガス状態にある。
全ての場合において、主としてガス状態にあり、好ましくは完全にガス状態にある上記組成物は、該ポリマープリカーサに加えて、もう一つの化合物を含むことができる。例えば光開始剤であり得る、このもう一つの化合物は、該ポリマープリカーサの該フォトン活性化段階への供給と同時に、かつこれと同一の段階において供給することができる。
【0019】
このもう一つの化合物は、最も一般的には、該ポリマープリカーサ用の溶媒、光開始剤およびキャリヤガスからなる群から選択される。
従って、本発明は、また上記ガス状組成物が、該ポリマープリカーサ以外に、該ポリマープリカーサ用の溶媒、光開始剤およびキャリヤガスからなる群から選択される少なくとも一つの成分を含む場合にも関連する。
不活性であっても不活性でなくてもよい該キャリヤガスとしては、窒素ガスを挙げることができる。
【0020】
上記光開始剤は、一般に、選択された波長域内にあるUV輻射線によって活性化することができ、また上記重合反応を開始するための反応性ラジカルを生成し得る化合物である。該光開始剤は、例えばベンジルケタール、ベンゾイン、芳香族α-アミノケトン、アシルホスフィンの酸化物、α-ヒドロキシケトン、およびフェニルグリオキシレートから選択することができる。該光開始剤は、特に以下に列挙する化合物から選択されるものであることが好ましい:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(チバ(CIBA)社により市販されているイルガキュア(IRGACURETM) 184)および2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(チバ(CIBA)社により市販されているダロキュア(DAROCURTM) 1173)。
【0021】
本発明の好ましい一変法において、上記気相蒸着段階は、単独または混合物としての該ガス状ポリマープリカーサが、前記基板の表面に対して垂直なガス相の流れとして、該基板上に到達するように行われる。
有利には、これは、該ポリマーフィルムの厚み並びに該蒸着の再現性の良好な制御を可能とする。
特に好ましくは、該基板を、更に該ガス相の流れに対して垂直な方向に移動させる。これは、大きな面積のポリマーフィルムの連続的な蒸着を可能とし、また該蒸着の良好な制御を可能とする。
【0022】
更に、特に好ましくは、該基板を、付随的に該ガス相の流れに対して垂直な面内で回転させる。これは、大きな面積のポリマーフィルムの連続的な蒸着を可能とし、また該蒸着の良好な制御を可能とする。
本発明の方法に従って蒸着されたポリマーフィルムで部分的に覆われる前記液体は、例えばオイル、高沸点または低沸点を持つ有機溶媒、温度およびUVに対して敏感な少なくとも一つの染料、好ましくはUVに対して敏感な染料、例えばフォトクロミック染料からなる群から選択される。
【0023】
本発明は、また上記の如き方法を適用するのにことのほか有用なデバイスにも係る。
本発明によれば、該デバイスは、少なくとも一つのフォトン活性化チャンバー、少なくとも一つの気相蒸着チャンバー、該フォトン活性化チャンバーに試薬を供給するための少なくとも一つの手段を持つ化学気相蒸着用デバイスであり、該デバイスは、該2つのチャンバーが分離されており、かつ該フォトン活性化チャンバーからのガスを、該気相蒸着チャンバーに循環するための少なくとも一つの手段を含んでいるようなデバイスであり、該デバイスは、該試薬供給手段が、液体注入手段であることを特徴とする。
【0024】
該フォトン活性化チャンバーからのガスを、該気相蒸着チャンバーに循環するための該手段は、ダクト(またはパイプ)であり得る。このダクトは、加熱することができ、即ち少なくとも一つの加熱手段と結合することができる。
該フォトン活性化チャンバーは、加熱することができる。これは、該チャンバー内に存在する化合物の温度調節を可能とする。
前記気相蒸着チャンバーは、加熱し、あるいは冷却することができる。これは、該チャンバー内に存在する化合物の温度調節を可能とする。
【0025】
好ましくは、前記デバイスは、更に前記ガスの循環方向における、前記活性化チャンバーの上流側に位置する、混合チャンバーをも含み、該混合チャンバーは、少なくとも一つの該混合チャンバーに試薬を供給するための手段および少なくとも一つのキャリヤガスを供給するための手段と接続されており、該混合チャンバーは、更に少なくとも1種のガスと少なくとも1種の試薬とを混合することを可能とする。少なくとも2つの分離された供給手段の存在は、有利なことに、該混合チャンバー内に存在する種の割合および全流量の調節を可能とする。
【0026】
前記試薬供給手段が、該混合チャンバー内にある場合、該手段は、一般に該フォトン活性化チャンバー内には存在しない。該混合チャンバーに試薬を供給するための該手段は、従って該フォトン活性化チャンバーへの試薬供給手段である。
該混合チャンバーは、加熱することができる。これは、このチャンバー内に存在する化合物の温度制御を可能とする。
該試薬供給手段が、該混合チャンバーまたは該フォトン活性化チャンバーの何れにガスを供給するものであっても、パルス式または非-パルス式液体注入手段、好ましくはパルス式液体注入手段である。更に、独立式にまたは従属的に、該液体注入手段は、蒸発手段と結合することができる。しかし、該液体注入手段は、また、該蒸発手段と結合された、例えば液体の単なる供給用パイプであり得る。
【0027】
該試薬供給手段は、またガス供給手段であってもよい。
好ましくは、該ガス供給手段は、少なくとも一つの、蒸発、吹込または昇華手段により与えられる。例えば、昇華手段は、該ガス供給手段を与えることができ、これは加熱されたまたは加熱されていない単なるダクトであり、該フォトン活性化チャンバーまたは該混合チャンバーと通じている。
従って、本発明によれば、該デバイスは、更に少なくとも一つの蒸発手段、吹込手段および昇華手段を含むことができ、また好ましくは、該デバイスは、更に蒸発手段を含む。
特に、本発明によれば、該デバイスは、更に少なくとも一つの、前記蒸着チャンバー内の全圧力を制御する手段を含む。
有利には、該制御手段は、得られる蒸着物の構造及び諸特性の均質性をもたらす。
本発明は、以下の図面を検討した場合には、一層良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、混合チャンバーRを持つ本発明に従うデバイスを、模式的に示すものである。
【図2】図2は、前記ポリマープリカーサが液体であり、かつチャンバーRが混合かつ蒸発チャンバーRLである場合の、該チャンバーR並びに該チャンバーRLの上流側の前記供給デバイスを模式的に示す図である。
【図3】図3は、前記ポリマープリカーサがガスである場合の、チャンバーR(ここではRG)および該チャンバーRGの上流側の前記供給デバイスを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明による該デバイスの2つの変形を、該ポリマープリカーサが液体である(図1および2の組合せ;第一の変形)か、あるいはガスである(図1と3との組合せ;第二の変形)かに従って、図1〜3に示されている。
該デバイス1は、種、特に試薬を供給するためのパイプ10、少なくとも1種のキャリヤガス、例えば窒素N2ガスを供給するためのパイプ11を含み、これら2つのパイプ10および11は、混合チャンバーRを与える。該キャリヤガスは、不活性キャリヤガスであり、また有利には上記UV活性化ゾーンを通る該ガス相の希釈および全流量の調節を可能とする。
【0030】
該チャンバーRから外に突出しているパイプ12は、UV活性化ゾーンへの供給を可能とする。ゾーンZは、ゾーンZ内に位置するチャンバー4を通る任意の反応性化合物を、(使用波長におけるUV輻射線により)活性化するための4つのランプ(その内2つのUVランプ42および43が、図1に図示されている)を含む。チャンバー4は、本発明によるフォトン活性化チャンバーである。チャンバー4は、石英管により構成されている。ゾーンZ内の該4つのランプは、一般的に250nmなる波長において機能する。しかし、当業者は、何らかの他のランプ数および何らかの他の波長を選択することができる。
【0031】
チャンバー4には、チャンバーR由来の種、特に試薬が、パイプ12を介して供給される。
ガスは、ガス循環手段(図示せず)によって、チャンバー4から、本発明の気相蒸着チャンバーである蒸着チャンバー5に循環される。ここで、該手段は、例えばパイプである。
図1に示したように、チャンバー5は、チャンバー4の下流、即ちその下側に垂直に位置している。
【0032】
一般には平板上の基板6は、チャンバー4由来の、ある物質、特にUVにより活性化された物質のガス流が、基板6の面に対して垂直方向から到達するように、前記蒸着チャンバー5内に配置されている。矢印Fは、該ポリマーフィルムが、できる限り規則的に、かつできる限り広範囲に渡る基板6の面積上に蒸着されるような、基板6の並進運動の可能な一つを示す。
エアーリセットバルブ7が、蒸着チャンバー5と結合されている。パイプ8は、チャンバー5から圧力調節チャンバー9への供給を可能とする。チャンバー9は、ポンプ式輸送ライン14を介して供給され、またその出口は圧力制御パイプ13と接続されおり、該圧力制御パイプは、余剰ガスの放出を可能とする。
【0033】
該アセンブリー(8、9、13、14)は、自動圧力調節機能を備えた、ポンプ式システムの形状にある、チャンバー5内の全圧力を調節するための手段を構成する。
有利なことに、本発明によれば、デバイス1は、特に1 Torr(または100 Pa)近傍の圧力にて、また該ガス相の活性化手段と共に、更には単に該ガス相を用いて、ポリマー薄膜の製造を可能とする。
図2は、図1および2を組合せた、本発明によるデバイスの前記第一の変形の範囲内にある、前記ポリマープリカーサが液体である場合における、前記混合並びに蒸発チャンバーRL並びに該チャンバーRLの上流側にある供給デバイスを模式的に示す図である。
【0034】
チャンバーRに関連して、チャンバーRLは、一般的に少なくとも一つの加熱手段によって構成される、少なくとも一つの蒸発手段(図示せず)を含む。
パイプ10は、パルス式液体注入システム37と通じている。
図2に示した場合において、チャンバーRLに供給すべき該液体は、清浄化溶媒またはモノマー(これは試薬である)の何れかを含む。事実、加圧式溶媒貯槽15および液体としてのモノマーの加圧式貯槽16は、夫々バルブ17によって調節されるパイプ20およびバルブ18によって調節されるパイプ21を介して、パイプ10への供給を可能とする。パイプ10は、上記混合並びに蒸発チャンバーRLへの供給を行う注入器37に通じている。チャンバーRLは、パイプ12を介して、ガス流供給チャンバー4への供給を行う。該ガス流は、ガス状の該試薬を含む。
【0035】
本発明によれば、注入器37は、各テスト後に、適当な液状生成物、例えば清浄化溶媒で浄化されることが好ましい。
図3は、前記ポリマープリカーサがガス状である場合における、該混合チャンバーRGおよび該チャンバーRGの上流側の供給デバイスを模式的に示す図であり、これは、図1および3を組合せた、本発明によるデバイスの第二の変形に係るものである。
前記試薬供給手段は、パイプ10であり、これは、昇華手段(23、24、25、26、27、28)によって与えられる。該試薬からなる該ガス状組成物は、一般に他の種、例えば1種または複数の溶媒、1種またはそれ以上のキャリヤガス、1種またはそれ以上の光開始剤を含む。図3に示された場合において、供給ガス流は、光開始剤、キャリヤガスおよびモノマーを含む。
【0036】
図3において、バルブ26、27、および28により調節される、固体光開始剤31の貯槽29、およびキャリヤガス供給用のパイプ33は、夫々混合パイプ10に、パイプ35を介して、キャリヤガスおよび昇華された光開始剤を供給する。また、この供給はバルブ19によって調節される。
同様にして、バルブ23、24、および25により調節される、固体モノマー32の貯槽30、およびキャリヤガス供給用パイプ34は、夫々、混合パイプ10に、パイプ36を介して、キャリヤガスおよび昇華されたモノマーを供給する。また、この供給はバルブ22によって制御される。
【0037】
パイプ10は、混合チャンバーRGと通じている。パイプ12を介して該混合チャンバーRGから出てくる該ガス状組成物は、前記モノマー試薬、前記キャリヤガスおよびガス状態にある前記光開始剤を含む。
一般的に、当業者は、本発明の範囲を逸脱することなしに、図1〜3に示された上記2つの変形によって代表されるようにして、本発明のデバイスを改造することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下において与えられる実施例は、本発明の範囲を限定することなしに、本発明を例示するものである。
実施例
本発明を、例示的かつ非-限定的な実施例に従って、図1および2に示された本発明によるデバイスの第一の変形によって実施した。
これらの実施例に関連して、1またはそれ以上の該反応性製品は、液体であった。これらを、先ず貯槽16に入れた。これらを、パイプ10によってパルス式注入器37に導き入れるために、圧力を印加した。この注入器37は噴霧体を生成し、該噴霧体は、次に前記蒸発並びに混合チャンバーRL内で、完全に蒸発された。
チャンバーRLに入る該ガス状反応性種を、パイプ11を介してキャリヤガスN2を導入することにより混合し、また混合チャンバーRLを加熱するためのシステムにより、一般に40〜80℃なる範囲の温度にて蒸発させた。
【0039】
次に、該反応性蒸気を、該キャリヤガスによりパイプ12内に、更に使用する輻射線に対して透明な石英管4内に同伴させ、石英管4内で、その回りに配置された4つのランプ(42、43)によって、該反応性蒸気を、254nmにてフォトン活性化処理に付した。
次に、該輻射線で活性化した該蒸気を、蒸着チャンバー5に搬送し、そこで該蒸気を、チャンバー5の中心に配置された基板6上で、凝縮かつ重合させた。蒸着チャンバー5は、周囲温度(20℃)に維持した。
デバイス1は、ポンプ式輸送システムおよび自動圧力制御装置(8、9、13、14)を備えていた。未反応の該反応性蒸気を、蒸着チャンバー5の出口に配置された液体窒素トラップ(図1には図示されていない)内にトラップした。
【0040】
これらの実施例に従って、本発明による蒸着法は、幾つかの場合において、上首尾にて適用された。
1. 該蒸着されたポリマーはポリ(アクリル酸)(PAA)であった。これは、液状モノマー:アクリル酸(蒸気圧:20℃において5.33 Torr(または711 Pa)、25℃における粘度:1.3 cP)から出発して、光開始剤を添加することなしに製造された。シリコン基板は周囲温度下に置かれ、また蒸着圧力は20 Torr(2667 Pa)であり、キャリヤガス(N2)の流量は500 sccm(または0.845 Pa.m3.s-1)であった。
2. 該蒸着されたポリマーはポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)であった。これは、液状モノマー:メチルメタクリレート(蒸気圧:20℃において38.7 Torr(または5147 Pa)、25℃における粘度:0.7 cP)および光開始剤:モノマー中に溶解(2質量%)された、イルガキュア(IRGACURETM) 184から出発して製造された。シリコンおよびガラス基板は、周囲温度下にあり、また蒸着圧力は6 Torr(800 Pa)であった。キャリヤガス(N2)の流量は、250 sccm(または0.422 Pa.m3.s-1)であった。これら2種の基板上に生成された2種のフィルムは透明であり、400nmなる平均の厚みを有していた。
【0041】
3. ヘキサデカンを、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)によってカプセル化した。ヘキサデカンは、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)またはそのモノマーを溶解しない。ヘキサデカンは、上首尾にて、PMMAによる蒸着に係る実施例2において記載した条件下で、カプセル化された。
ヘキサデカンは、極めて揮発性の高い液体である(40℃における蒸気圧:0.01 Torrまたは1.33 Pa)ので、コムレックスパリレン(COMELEC's Parylene)法(ここで、作業圧力は40℃にて3.7 mTorrまたは0.5 Paである)によってカプセル化することはできない。
即ち、本発明によるCVD蒸着法は、ヘキサデカンをカプセル化するPHEMAフィルムの製造を可能とした。このことは新規である。結果として、本発明の方法並びにデバイスは極めて興味深いものである。
【符号の説明】
【0042】
1・・デバイス
4・・チャンバー
5・・蒸着チャンバー
6・・基板
7・・エアーリセットバルブ;
8、10、11、12、20、21、33、35、36・・パイプ
9・・圧力調節チャンバー
13・・圧力制御パイプ
14・・ポンプ式輸送ライン
15・・加圧式溶媒貯槽
16・・加圧式貯槽
17、18、19、22、23、24、25、26、27、28・・バルブ
29、30・・貯槽
31・・固体光開始剤
32・・固体モノマー
34・・キャリヤガス供給用パイプ
37・・パルス式液体注入システム
42および43・・UVランプ
F・・矢印
R・・混合チャンバー
・・混合チャンバー
・・混合並びに蒸発チャンバー
Z・・ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(6)上へのポリマーフィルムの化学気相蒸着法であって、以下の別々の、かつ連続する2つの段階:
ガス相のフォトン活性化段階、ここではフォトン活性化エネルギー(42、43)が、主としてガス状組成物中に存在する少なくとも一つのガス状ポリマープリカーサに供給され;および
気相蒸着段階、ここでは前記フォトン活性化段階から得られる、該活性化されたガス状ポリマープリカーサが、基板(6)上にポリマーフィルムを生成するように、該基板上に堆積され、またここで該ガス相の全圧力は、102〜105Paなる範囲内にある、
を含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記ガス相の温度が、前記フォトン活性化段階において、20〜100℃なる範囲、好ましくは50〜70℃なる範囲にあり、および/または前記気相蒸着段階において、前記基板の温度が、-10〜50℃なる範囲、好ましくは20〜30℃なる範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガス相の全圧力が102〜4×103Paなる範囲内にある、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記蒸着されたポリマーフィルムが、前記基板上に堆積された液体の少なくとも一部、および好ましくは該液体と隣接する該基板の少なくとも一部を覆っている、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体が、前記蒸着温度において、100Pa以下、好ましくは10Pa以下の飽和蒸気圧を持つ、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマープリカーサが、モノマー:アクリル酸誘導体(例えば、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート)、メタクリル酸誘導体、パリレン誘導体、スチレン誘導体、イタコン酸誘導体、フマール酸誘導体、ビニルハライド、ビニルエステル、ビニルエーテル、およびヘテロ芳香族ビニルからなる群から選択され;および好ましくはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート(PEGMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、アクリル酸(AA)、エチルアクリレート(EA)、メチルメタクリレート(MMA)およびジクロロ-ジ-p-キシリレン(ジクロロ[2,2]パラシクロファン)からなる群から選択される、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
更に、前記ポリマープリカーサが液体形状にある場合、少なくとも一段階の蒸発段階をも含み、該蒸発段階が、前記フォトン活性化段階に先立って行われ、かつ該段階が、気体状ポリマープリカーサの供給を可能とし、場合により、該蒸発段階に先立って、液体注入段階が含まれ、該液体注入段階が、該液状ポリマープリカーサの注入を可能とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
更に、少なくとも一つの蒸発、吹込または昇華(23、24、25、26、27、28)段階を含み、該段階が、ガス状のポリマープリカーサの供給を可能とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記気相蒸着段階が、前記ガス状ポリマープリカーサ単独または混合物が、前記基板表面に対して垂直なガス相の流れとして、該基板上に到達するように行われる、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ガス状組成物が、前記ポリマープリカーサ以外に、該ポリマープリカーサの溶剤、光開始剤およびキャリヤガスからなる群から選択される少なくとも1種の成分をも含む、請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
化学気相蒸着用のデバイス(1)であって、該デバイスが、少なくとも一つのフォトン活性化チャンバー(4)、少なくとも一つの気相蒸着チャンバー(5)、少なくとも一つの、該フォトン活性化チャンバー(4)の試薬供給用手段(12)からなり、該デバイス(1)が、該2つのチャンバー(4、5)が分離されており、かつ該デバイスが、該フォトン活性化チャンバー(4)からのガスを、該気相蒸着チャンバー(5)に循環するための少なくとも一つの手段を含んでいるデバイスであって、該デバイス(1)が、該試薬供給手段が、液体注入手段であることにより特徴付けられる、前記化学気相蒸着用デバイス。
【請求項12】
前記デバイス(1)が、更に、前記ガスの循環方向における、前記活性化チャンバー(4)の上流側に位置する、混合チャンバー(R、RG、RL)をも含み、該混合チャンバー(R、RG、RL)が、少なくとも一つの該混合チャンバー(R、RG、RL)の試薬供給手段(10、37;10)および少なくとも一つのキャリヤガス供給手段(11)と接続されており、該混合チャンバー(R、RG、RL)が、更に少なくとも1種のガスと少なくとも1種の試薬とを混合することを可能とする、請求項11記載の化学気相蒸着用デバイス。
【請求項13】
前記試薬供給手段(12;10、37;10)が、蒸発手段と結合されている、請求項11または12記載の化学気相蒸着用デバイス。
【請求項14】
前記試薬供給手段が、パルス式液体注入手段(37)である、請求項11〜13の何れか1項に記載の化学気相蒸着用デバイス。
【請求項15】
更に、少なくとも一つの、前記蒸着チャンバー(5)内の全圧力を調節するための手段(8、9、13、14)をも含む、請求項11〜14の何れか1項に記載の化学気相蒸着用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−505354(P2013−505354A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529325(P2012−529325)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051849
【国際公開番号】WO2011/033208
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(591019759)エシロール アンテルナショナル コムパニー ジェネラル ドプテイク (27)
【出願人】(506316557)センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィーク (14)
【Fターム(参考)】