説明

基板乾燥装置及びその温調方法

【課題】チャンバ内の状況に応じて温調度合いを変えることにより、乾燥不良を防止しつつも消費電力を抑制できる。
【解決手段】制御部65は、チャンバ11内の測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求め、この限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるようにチャンバヒータ71及び槽ヒータ63を操作する。したがって、チャンバ11内の圧力が低下するにつれてチャンバヒータ71及び槽ヒータ63の温度を下げてゆくことができるので、処理ガス中の有機溶剤蒸気がチャンバ11及び処理槽1に結露することを防止しつつも、チャンバヒータ71及び槽ヒータ63への供給電力を必要最小限にできる。その結果、基板Wの乾燥不良を抑制しつつも消費電力を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハや液晶表示装置用のガラス基板(以下、単に基板と称する)等の基板に対して、処理液により洗浄、エッチング等の処理を行った後、減圧を行って有機溶剤の蒸気を含む処理ガスの雰囲気中にて基板を乾燥させる基板乾燥装置及びその温調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、処理液を貯留し、基板を収容する処理槽と、処理槽を囲うチャンバと、不活性ガスと有機溶剤の蒸気を含んだ処理ガスをチャンバ内に供給するノズルと、チャンバ内を減圧する減圧ポンプと、処理槽及びチャンバを温調する温調ジャケットと、ノズルから処理ガスを供給している間、温調ジャケットに温調水を供給して処理槽及びチャンバを加熱する制御部を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された基板乾燥装置は、チャンバ及び処理槽を温調するので、処理ガス中の有機溶剤の蒸気がチャンバ及び処理槽に結露することを防止できる。したがって、処理ガス中の有機溶剤濃度が低下するのを防止できるので、有機溶剤の蒸気が基板に作用するように最大限に活用でき、基板の乾燥不良が発生することを防止できる。
【特許文献1】特開2007−142262号公報(図1,図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、処理ガスを供給している間は、温調ジャケットによってチャンバ及び処理槽を一定温度で温調しているので、消費電力が多くなるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、チャンバ内の状況に応じて温調度合いを変えることにより、乾燥不良を防止しつつも消費電力を抑制できる基板乾燥装置及び温調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、基板に対して処理ガスによって乾燥処理を行う基板乾燥装置において、基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内に有機溶剤の蒸気を含む処理ガスを供給する溶剤蒸気供給手段と、前記チャンバ内を減圧する減圧手段と、前記チャンバを温調するチャンバ温調手段と、前記チャンバ内の圧力を測定する圧力計と、前記チャンバ内の温度を測定する温度計と、前記チャンバの内壁温度を測定する内壁温度計と、前記有機溶剤の飽和蒸気圧曲線に基づいて、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を限界濃度データとして予め記憶している記憶手段と、前記チャンバ内に基板を収容した状態で、前記減圧手段により前記チャンバ内の減圧を開始するとともに、前記溶剤蒸気供給手段から処理ガスを前記チャンバ内に供給している間は、前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度データと、前記温度計からの測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求めるとともに、前記内壁温度計からの測定内壁温度が、前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように前記チャンバ温調手段を操作する制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0007】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、記憶手段には、予め限界濃度データが記憶されているが、この限界濃度データは、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を表している。この限界濃度データは、処理ガスの濃度が一定であるならば、圧力の低下にしたがって濃度に対応する露点が低下することを表す。制御手段は、チャンバ内の測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求め、内壁温度計からの測定内壁温度がこの限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるようにチャンバ温調手段を操作する。したがって、チャンバ内の圧力が低下するにつれてチャンバ温調手段の温度を下げることができるので、処理ガス中の有機溶剤蒸気がチャンバに結露することを防止しつつも、チャンバ温調手段への供給電力を必要最小限にできる。その結果、基板の乾燥不良を抑制しつつも消費電力を抑制できる。
【0008】
また、本発明において、前記チャンバ内に配設され、処理液を貯留するとともに基板を収容可能な処理槽と、前記処理槽を温調する槽温調手段とを備え、前記制御手段は、前記内壁温度計からの測定内壁温度が前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように前記槽温調手段を操作することが好ましい(請求項2)。チャンバ内に処理槽を備えている場合には、槽温調手段を操作することで、処理槽に有機溶剤の蒸気が結露することを防止しつつも、槽温調手段への供給電力を最小限にできる。したがって、消費電力を抑制できる。
【0009】
また、本発明において、前記チャンバ温調手段は、前記チャンバの外壁に取り付けられたヒータであることが好ましい(請求項3)。
【0010】
また、本発明において、前記槽温調手段は、前記処理槽の外壁に取り付けられたヒータであることが好ましい(請求項4)。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、基板に対して処理ガスによって乾燥処理を行う基板乾燥装置の温調方法において、チャンバ内に基板を収容する過程と、チャンバ内の圧力を減圧させる過程と、有機溶剤を含む処理ガスをチャンバ内に供給させる過程と、チャンバ内の圧力及び温度を測定する過程と、有機溶剤の飽和蒸気圧曲線に基づく、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を限界濃度データのうち、測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求める過程と、チャンバ内壁の温度である測定内壁温度が、測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように、チャンバ内壁を温調するチャンバ温調手段を操作する過程と、を特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]請求項5に記載の発明によれば、チャンバ内の測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求め、この限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるようにチャンバ温調手段を操作する。したがって、チャンバ内の圧力が低下するにつれてチャンバ温調手段の温度を下げてゆくことができるので、処理ガス中の有機溶剤蒸気がチャンバに結露することを防止しながらもチャンバ温調手段への供給電力を必要最小限にできる。その結果、基板の乾燥不良を抑制しつつも消費電力を抑制できる。
【0013】
また、本発明において、チャンバ温調手段を操作する過程では、測定内壁温度が測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように処理槽を温調する槽温調手段を操作することが好ましい(請求項6)。チャンバ内に処理槽を備えている場合には、槽温調手段を操作することで、処理槽に有機溶剤の蒸気が結露することを防止しつつも、槽温調手段への供給電力を最小限にすることができる。したがって、消費電力を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る基板乾燥装置によれば、制御手段は、チャンバ内の測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求め、この限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるようにチャンバ温調手段を操作する。したがって、チャンバ内の圧力が低下するにつれてチャンバ温調手段の温度を下げることができるので、処理ガス中の有機溶剤蒸気がチャンバに結露することを防止しつつも、チャンバ温調手段への供給電力を必要最小限にできる。その結果、基板の乾燥不良を抑制しつつも消費電力を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
図1は、実施例に係る基板乾燥装置の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
本実施例に係る基板乾燥装置は、処理液を貯留する処理槽1を備えている。この処理槽1は、処理液を貯留し、起立姿勢にされた複数枚の基板Wを収容可能である。処理槽1の底部には、複数枚の基板Wが整列されている方向(紙面方向)に沿って長軸を有し、処理液を供給するための二本の噴出管3が配設されている。各噴出管3には、供給管5の一端側が連通接続され、他端側が処理液供給源7に連通接続されている。供給管5を流通する処理液の流量は、処理液弁9で制御される。処理液供給源7は、フッ化水素酸(HF)や、硫酸・過酸化水素水の混合液(HSO/H)や、純水などを処理液として供給管5に供給する。
【0017】
処理槽1は、その周囲がチャンバ11によって囲われている。チャンバ11は、上部に開閉自在の上部カバー13を備えている。起立姿勢で複数枚の基板Wを保持するリフタ15は、図示しない駆動機構により、チャンバ11の上方にあたる「待機位置」と、処理槽1の内部にあたる「処理位置」と、処理槽1の上方であってチャンバ11の内部にあたる「乾燥位置」とにわたって移動可能である。
【0018】
上部カバー13の下方であってチャンバ11の上部内壁には、一対の溶剤ノズル17と、一対の不活性ガスノズル19とが配設されている。溶剤ノズル17には、有機溶剤の蒸気を含む処理ガスを供給するための供給管21の一端側が連通接続されている。供給管21の他端側は、溶剤蒸気発生部23に連通接続されている。この供給管21には、その上流側から順に、処理ガスの流量を調整する蒸気弁25と、処理ガスを加熱するためのインラインヒータ27とが配設されている。供給管21がインラインヒータ27を備えているので、処理ガス中の有機溶剤の蒸気が供給管21内部で凝結することを軽減でき、処理ガス中の有機溶剤濃度が供給経路において低下するのを防止できる。
【0019】
なお、上述した溶剤ノズル17が本発明における「溶剤蒸気供給手段」に相当する。
【0020】
溶剤蒸気発生部23は、内部に有機溶剤を貯留する内部空間を有し、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)を貯留する。なお、イソプロピルアルコールに代えてハイドロフルオロエーテル(HFE)としてもよい。溶剤蒸気発生部23は、内部空間を加熱するヒータ(図示省略)を備えており、有機溶剤の蒸気を発生させるとともに、その蒸気を含む処理ガスを供給管21に供給する。
【0021】
不活性ガスノズル19には、供給管29の一端側が連通接続されており、供給管29の他端側は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給源31に連通接続されている。不活性ガスとしては、例えば、例えば、窒素ガス(N)が挙げられる。不活性ガス供給源31からの不活性ガスの供給量は、不活性ガス弁33によって調整される。不活性ガス弁33の下流側の供給管29には、インラインヒータ35が取り付けられている。このインラインヒータ35は、不活性ガス供給源31からの不活性ガスを所定の温度に加熱する。
【0022】
チャンバ11には、その内部の気体を排出可能な排気管37が連通接続されている。この排気管37には、開閉弁39及び真空ポンプ41が配設されている。また、チャンバ11には、減圧状態を解消するための呼吸弁43が取り付けられている。さらに、チャンバ11には、内部の圧力を検出するための圧力計45と、チャンバ11内部の温度を検出するための温度計47と、チャンバ11の内壁温度を測定するための内壁温度計49とが取り付けられている。
【0023】
なお、上記の真空ポンプ41が本発明における「減圧手段」に相当する。
【0024】
処理槽1の底部には、排出口51が形成されている。この排出口51には、QDR弁53が取り付けられている。このQDR弁53から処理槽1内の処理液を排出すると、処理液がチャンバ11の底部に一旦排出される。チャンバ11の底部には、気液分離部55に連通接続された排出管57が取り付けられている。この排出管57には、排液弁59が取り付けられている。気液分離部55は、排気管37と排出管57から気体と液体とを取り込むとともに、それらを分離して排出する機能を備えている。
【0025】
チャンバ11の外側面及び上部カバー13の上面には、チャンバヒータ61が付設されている。チャンバヒータ61は、チャンバ11及び上部カバー13を外部から加熱して、チャンバ11に供給された処理ガスの有機溶剤蒸気が、チャンバ11の内壁面及び上部カバー13の天井面に凝結することを防止するために使用される。また、処理槽1の外側面には、同様の槽ヒータ63が付設されている。この槽ヒータ63は、処理ガス中の有機溶剤蒸気が、処理槽1に凝結することを防止するために使用される。
【0026】
なお、チャンバヒータ61が本発明における「チャンバ温調手段」に相当し、槽ヒータ63が本発明における「槽温調手段」に相当し、チャンバヒータ61及び槽ヒータ63が本発明における「ヒータ」に相当する。
【0027】
上述した処理液弁9、上部カバー13、リフタ15、蒸気弁25、インラインヒータ27、不活性ガス弁33、インラインヒータ35、開閉弁39、真空ポンプ41、呼吸弁45、QDR弁53、排液弁59、チャンバヒータ61、槽ヒータ63などは、本発明における「制御手段」に相当する制御部65によって統括的に制御される。制御部65には、本発明における「記憶手段」に相当する記憶部67と、測定圧力等をオペレータに知らせる等のために用いられる表示部65とが接続されている。
【0028】
また、制御部65は、詳細後述するように、圧力計45の測定圧力(チャンバ11内の圧力)と、温度計47の測定温度(チャンバ11内の温度)と、記憶部67の限界濃度データ(後述)とに基づいて、チャンバ11内の処理ガス中における有機溶剤蒸気の「限界濃度」を算出する。さらに、制御部65は、内壁温度計49からの測定内壁温度(チャンバ11の内壁温度)が、圧力計45からの測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高く(例えば、0.5〜2℃)なるようにチャンバヒータ61及び槽ヒータ63を操作する。
【0029】
記憶部67は、制御部65が実行する制御プログラムの他、処理手順を規定したレシピや、溶剤蒸気発生部23に貯留されている有機溶剤に応じた限界濃度データを予め記憶している。
【0030】
次に、図2〜図4を参照して、露点情報について説明する。なお、図2はイソプロピルアルコールの飽和蒸気圧曲線を示すグラフであり、図3は大気圧時の理論露点を示すグラフであり、図4は圧力ごとの限界濃度を示すグラフである。
【0031】
溶剤蒸気発生部23は、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)を貯留しているが、その飽和蒸気圧曲線は、例えば、図2に示すようなものである。これは、例えば、チャンバ11内の温度が82℃である場合には、飽和蒸気圧が大気圧(101.3[kPa])であることを表している。換言すると、大気圧下において、チャンバ11内の処理ガス中のイソプロピルアルコール濃度を100%に維持するためには、チャンバ11内の温度を82℃以上にする必要があることを表す。なお、厳密には、イソプロピルアルコールの沸点は、82.7℃であるが、説明の都合上、82℃としている。
【0032】
上記の飽和蒸気圧曲線に基づいて、大気圧時における処理ガス中のイソプロピルアルコール濃度を100%とし、チャンバ11内の圧力を固定したと仮定した場合に、大気圧で各蒸気圧を除すると、大気圧時における処理ガス中におけるイソプロピルアルコールの体積濃度を算出することができる。これが図3に示す大気圧時の理論露点を示すグラフである。
【0033】
上記の理論露点は、大気圧時におけるものであるが、各種の圧力について理論露点を求めたものが図4の各圧力時の限界濃度を示すグラフである。本発明は、チャンバ11内を減圧して処理するので、図4では、一例として、大気圧の半分の圧力(50.65[kPa])と、30[kPa]と、20[kPa]と、15[kPa]を例示してある。例えば、チャンバ11内の測定圧力が50.65[kPa]であって、測定温度が60[℃]であった場合、処理ガス中におけるイソプロピルアルコールの濃度は、75[%]となる。この図4に示した露点情報を示すグラフが、本発明における「限界濃度データ」に相当する。この限界濃度は、上述したように記憶部67に予め格納されており、制御部65によって適宜参照される。
【0034】
次に、上述した構成の基板乾燥装置の動作例について図5を参照して説明する。なお、図5は、基板乾燥装置の動作を示すフローチャートである。
【0035】
まず、主要動作について説明する。
制御部65は、上部カバー13を開放し、未処理の基板Wを複数枚保持しているリフタ15を「待機位置」から「乾燥位置」に搬入させる。このとき排液弁59は、開放されたままである。次に、制御部65は、チャンバ11内の酸素濃度低減処理を行う。具体的には、上部カバー13を閉止するとともに、不活性ガス弁33を開放し、不活性ガス供給源31から供給管29及び不活性ガスノズル19を介してチャンバ11内に不活性ガスを供給させる。これにより、チャンバ11内にある空気が不活性ガスによってパージされて、その結果、チャンバ11内の酸素濃度が低減される。さらに、制御部65は、リフタ13を「乾燥位置」から「処理位置」にまで下降させる。
【0036】
処理槽1及びチャンバ11内の酸素濃度が低減されると、制御部65は処理液弁9を開放する。これにより、処理液供給源7から処理液(例えば、常温の純水)が処理槽1に供給されて、処理槽1の上部から溢れた処理液がチャンバ11の底部で回収される。回収された処理液は、排出管57を通して気液分離部55で回収される。このようにして処理液が処理槽1に供給された後、制御部65は、リフタ15を「処理位置」に所定時間だけ維持して、基板Wに対して処理液による処理を行う。
【0037】
処理液による処理を開始して所定時間が経過すると、制御部65は、リフタ15を「処理位置」に維持させたまま、真空ポンプ41を作動させて、チャンバ11内の気体を排出するとともに、QDR弁53を開放して処理液をチャンバ11内に急速排水させる。処理槽1の処理液が完全に排出された後、不活性ガス弁33を閉止するとともに、呼吸弁43を閉止してチャンバ11の内部を完全に閉塞させる。これにより、処理液で処理された基板Wが処理槽1内において周囲に対して露出された状態にされる。
【0038】
ステップS1
制御部65は、チャンバヒータ61と槽ヒータ63をオンにして、例えば、目標温度=82℃に温調する。これは、チャンバ11内部が現在は大気圧となっており、イソプロピルアルコールの沸点以上にしておいて、チャンバ11と処理槽1にイソプロピルアルコールの蒸気が結露するのを防止するためである。
【0039】
ステップS2
チャンバ11内の減圧を開始する。具体的には、排液弁59を閉止させるとともに、開閉弁39を開放し、真空ポンプ41によるチャンバ11内の減圧を目標圧力(例えば、15[kPa])に向けて開始する。このときチャンバ11内の圧力は、圧力計45によって逐次測定され、その測定圧力が制御部65に出力される。また、その測定圧力に基づく圧力値が、制御部65を介して表示部69に表示され、減圧処理が正常に進行しているか否かの判断に用いられる。
【0040】
ステップS3
制御部65は、蒸気弁25を開放する。すると、溶剤蒸気発生部23がチャンバ11内に連通され、溶剤蒸気発生部23においてイソプロピルアルコールが沸騰してイソプロピルアルコールの蒸気が発生する。さらに、溶剤蒸気発生部23とチャンバ11との圧力差に応じてイソプロピルアルコールの蒸気がチャンバ11内に流入し、チャンバ11内が世溶剤蒸気雰囲気にされる。このとき、常温の処理液から露出され、温度がイソプロピルアルコールの蒸気に比較して非常に低い状態の基板Wは、その全面にイソプロピルアルコールが凝結する。そして、基板Wの全面に付着している処理液の液滴がイソプロピルアルコールの蒸気によって置換される。また、このとき基板Wは、チャンバ11に比較して小容積である処理槽1内に収容された状態で乾燥処理が行われるので、効率的に乾燥処理が行われる。
【0041】
ステップS4
制御部65は、チャンバ11内の圧力と温度を測定するために、圧力計45から測定圧力と、温度計47から測定温度とを得る。
【0042】
ステップS5,S6
制御部65は、記憶部67の限界濃度データのうち、圧力計45からの測定圧力に応じた限界濃度データと、温度計47からの測定温度とに基づいて、処理ガスのイソプロピルアルコール濃度を算出する。このアルコール濃度は、限界濃度を求めることになる。例えば、ここでは、測定温度が60℃で、現時点における測定圧力が50.65[kPa]であるとすると、限界濃度は、図4に示すように75[%]となる。制御部65は、限界濃度=75[%]に対応する温度から若干高い温度を内壁温度計49により測定される内壁測定温度の目標温度として求め、チャンバヒータ61と槽ヒータ63を操作する。具体的には、現時点では、目標温度が60℃+1℃=61℃と算出されることになる。この動作を、圧力計45の測定圧力が目標圧力に一致するまで繰り返し行う。最終的には、測定圧力が目標圧力である15[kPa]になるまで、上記のステップS4〜S6を繰り返すことになるが、例えば、圧力計45の測定圧力が30[kPa]になったとする。この場合には、限界濃度75[%]に対応する温度が48℃であるので、目標温度が48℃+1℃=49℃と算出される。したがって、チャンバヒータ61と槽ヒータ63の温度を初期の82℃から49℃にすることができる。
【0043】
ステップS7
目標圧力に達すると、制御部65は、開閉弁39と閉止するとともに、真空ポンプ41を停止させる。これにより、チャンバ11内の圧力が、それまでに減圧されてきた状態に維持される。
【0044】
ステップS8
制御部65は、イソプロピルアルコールの蒸気の処理を所定時間だけ行った後、リフタ13を「処理位置」から「乾燥位置」に引き上げさせる。そして、この状態を維持したまま、所定時間だけ維持して乾燥処理の仕上げを行う。
【0045】
ステップS9,S10
制御部65は、呼吸弁43を開放するとともに、不活性ガス弁33を開放して、不活性ガスをチャンバ11内に導入する。そして、チャンバ11内の圧力を大気圧に戻す。これにより、溶剤蒸気発生部23との圧量差が解消されるので、イソプロピルアルコールの蒸気の発生が止まる。その後、蒸気弁25を閉止する。さらに、制御部65は、上部カバー13を開放させるとともに、リフタ13を「乾燥位置」から「待機位置」に移動させ、基板Wを搬出する。
【0046】
上述した実施例装置によると、記憶部67には、予め限界濃度データが記憶されているが、この限界濃度データは、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を表している。この限界濃度データは、処理ガスの濃度が一定であるならば、圧力の低下にしたがって濃度に対応する露点が低下することを表す。制御部65は、チャンバ11内の測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求め、この限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるようにチャンバヒータ71及び槽ヒータ63を操作する。したがって、チャンバ11内の圧力が低下するにつれてチャンバヒータ71及び槽ヒータ63の温度を下げることができるので、処理ガス中の有機溶剤蒸気がチャンバ11及び処理槽1に結露することを防止しつつも、チャンバヒータ71及び槽ヒータ63への供給電力を必要最小限にできる。その結果、基板Wの乾燥不良を抑制しつつも消費電力を抑制できる。
【0047】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施できる。
【0048】
(1)上述した実施例では、処理槽1に槽ヒータ63を備えているが、チャンバヒータ61だけを備える構成としてもよい。これにより装置のコスト低減を図ることができる。
【0049】
(2)上述した実施例では、チャンバ11に処理槽1を備えているが、処理液による処理を他の装置で実施した基板Wをチャンバ11内に搬入して、本装置において乾燥処理だけを行う構成としてもよい。これにより装置の構成を簡易化でき、コストの低減することができる。
【0050】
(3)上述した実施例におけるチャンバヒータ61と槽ヒータ63を、温水を流通させることで温調する温調ジャケットで構成してもよい。これにより防爆構造とすることができる。
【0051】
(4)上述した実施例では、チャンバ11を減圧することで溶剤蒸気発生部23の溶剤蒸気をチャンバ11内に圧力差で流入させる構成としているが、キャリアガスによってチャンバ11内に溶剤蒸気を供給させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例に係る基板乾燥装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】イソプロピルアルコールの飽和蒸気圧曲線を示すグラフである。
【図3】大気圧時の理論露点を示すグラフである。
【図4】圧力ごとの限界濃度を示すグラフである。
【図5】基板乾燥装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
W … 基板
1 … 処理槽
3 … 噴出管
9 … 処理液弁
11 … チャンバ
13 … 上部カバー
15 … リフタ
17 … 溶剤ノズル
19 … 不活性ガスノズル
23 … 溶剤蒸気発生部
41 … 真空ポンプ
45 … 圧力計
47 … 温度計
49 … 内壁温度計
53 … QDR弁
61 … チャンバヒータ
63 … 槽ヒータ
65 … 制御部
67 … 記憶部
69 … 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対して処理ガスによって乾燥処理を行う基板乾燥装置において、
基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内に有機溶剤の蒸気を含む処理ガスを供給する溶剤蒸気供給手段と、
前記チャンバ内を減圧する減圧手段と、
前記チャンバを温調するチャンバ温調手段と、
前記チャンバ内の圧力を測定する圧力計と、
前記チャンバ内の温度を測定する温度計と、
前記チャンバの内壁温度を測定する内壁温度計と、
前記有機溶剤の飽和蒸気圧曲線に基づいて、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を限界濃度データとして予め記憶している記憶手段と、
前記チャンバ内に基板を収容した状態で、前記減圧手段により前記チャンバ内の減圧を開始するとともに、前記溶剤蒸気供給手段から処理ガスを前記チャンバ内に供給している間は、前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度データと、前記温度計からの測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求めるとともに、前記内壁温度計からの測定内壁温度が、前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように前記チャンバ温調手段を操作する制御手段と、
を備えていることを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板乾燥装置において、
前記チャンバ内に配設され、処理液を貯留するとともに基板を収容可能な処理槽と、
前記処理槽を温調する槽温調手段とを備え、
前記制御手段は、前記内壁温度計からの測定内壁温度が前記圧力計からの測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように前記槽温調手段を操作することを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板乾燥装置において、
前記チャンバ温調手段は、前記チャンバの外壁に取り付けられたヒータであることを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の基板乾燥装置において、
前記槽温調手段は、前記処理槽の外壁に取り付けられたヒータであることを特徴とする基板乾燥装置。
【請求項5】
基板に対して処理ガスによって乾燥処理を行う基板乾燥装置の温調方法において、
チャンバ内に基板を収容する過程と、
チャンバ内の圧力を減圧させる過程と、
有機溶剤を含む処理ガスをチャンバ内に供給させる過程と、
チャンバ内の圧力及び温度を測定する過程と、
有機溶剤の飽和蒸気圧曲線に基づく、圧力ごとの温度対濃度の露点情報を限界濃度データのうち、測定圧力に応じた限界濃度データと測定温度とに基づいて処理ガスの限界濃度を求める過程と、
チャンバ内壁の温度である測定内壁温度が、測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように、チャンバ内壁を温調するチャンバ温調手段を操作する過程と、
を特徴とする基板乾燥装置の温調方法。
【請求項6】
請求項5に記載の基板乾燥装置の温調方法において、
チャンバ温調手段を操作する過程では、測定内壁温度が測定圧力に応じた限界濃度に対応する温度よりも若干高くなるように処理槽を温調する槽温調手段を操作することを特徴とする基板乾燥装置の温調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−98038(P2010−98038A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266191(P2008−266191)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】