説明

基板乾燥装置

【課題】洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる基板乾燥装置を提供すること。
【解決手段】基板乾燥装置1は、基板Wを回転させる回転機構10と、基板Wにリンス液流Rfを供給するリンス液ノズル20と、リンス液Rの表面張力を低下させる物質を含有する乾燥気体流Gfを供給する乾燥気体ノズル30と、リンス液ノズル20及び乾燥気体ノズル30を移動させる移動機構40とを備える。乾燥気体流Gfは、表面WAを投影面とする投影面上において乾燥気体ノズル30から吐出された位置よりも基板Wに衝突した位置の方がノズル移動方向Dnの下流側に位置しつつ、三次元空間において乾燥気体流Gfの軸線Gaと基板Wの垂線Wpとのなす角αが接触角の半分の角度である半分接触角以上かつ90°から半分接触角を差し引いた角度以下の範囲で傾斜するように、乾燥気体ノズル30が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基板乾燥装置に関し、特に洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる基板乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスへの微細化の要請を背景に、配線材料としてより抵抗の小さい銅が用いられるようになってきている。銅配線は、一般に、基板の表面に形成された絶縁膜に溝を掘り、その溝に銅を埋め込んだ後、余分な銅をCMP(化学機械研磨)で削ることで形成される。CMPで研磨した後の基板は、湿式洗浄された後に乾燥される。湿式洗浄において、基板に液がまだらに付着した状態から乾燥が行われるとウォーターマーク(水染み)等の欠陥が発生しやすい。
【0003】
上記のような事情の下、欠陥の発生抑制に効果的な乾燥方法として、枚葉式で、回転する基板に洗浄用のリンス液の液流を供給して基板面全体を覆う液膜を形成すると共に、リンス液の表面張力を低下させるIPA(イソプロピルアルコール)を含有する乾燥用の気体流を液流の内側に供給し、液流ノズル及び気体流ノズルを、回転する基板の中心から外周に移動させることで、遠心力とマランゴニ力とでリンス液を外周側に移動させて基板上の乾燥領域を中心から外周に徐々に広げ、最終的に基板面全体を乾燥させる方法(以下、本明細書では「枚葉IPA乾燥」という)がある。このとき、効果的なマランゴニ効果を得る目的で、リンス液に溶解するIPAを増加させるため、IPAの供給量を適宜増加させたり、IPA含有気体の温度を上昇させたりしていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/082780号(段落0135−0137等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リンス液に溶解するIPAを増加させるために、IPAの供給量を適宜増加させたり、IPA含有気体の温度を上昇させたりすると、装置構成や制御が複雑になる。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑み、比較的簡便にリンス液に溶解するリンス液の表面張力を低下させる物質を増加させることができて洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる基板乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る基板乾燥装置は、例えば図1に示すように、リンス液Rに対する接触角が90°以下の表面WAを持つ基板Wを水平面内で回転させる回転機構10と;回転している基板Wの表面WAにリンス液Rの流れであるリンス液流Rfを供給するリンス液ノズル20と;リンス液ノズル20を、回転している基板Wの回転中心Wc側から外周側へ向かうノズル移動方向Dnに移動させるリンス液ノズル移動機構40と;回転している基板Wのリンス液流Rfが供給される位置Rt(例えば図4及び図5参照)よりも、基板Wの回転に伴ってリンス液Rが流れる方向である基板回転方向Drの下流側かつ基板Wの回転中心Wc側に、リンス液Rの表面張力を低下させる物質を含有する乾燥気体流Gfを供給する乾燥気体ノズル30と;乾燥気体ノズル30をノズル移動方向Dnに移動させる乾燥気体ノズル移動機構40とを備え;乾燥気体流Gfが、基板Wの表面WAを投影面としたときに投影面上においてノズル移動方向成分が乾燥気体ノズル30から吐出された位置Gfv’(例えば図4及び図5参照)よりも基板Wに衝突した位置Gfw(例えば図4及び図5参照)の方がノズル移動方向Dnの下流側に位置しつつ、三次元空間において乾燥気体流Gfの軸線Gaと基板Wの垂線Wpとのなす角αが接触角θ(例えば図2参照)の半分の角度である半分接触角θ/2以上かつ90°から半分接触角θ/2を差し引いた角度以下の範囲で傾斜するように、乾燥気体ノズル30が設けられている。ここで、リンス液の表面張力を低下させる物質として、典型的にはIPAが挙げられる。また、リンス液流は、典型的には基板の表面の面積に対して細く形成されている。また、「基板の表面を投影面としたとき」は、基板の表面に垂直に投影するものとする。また、対象とする基板の接触角の下限は、典型的には最小厚さのリンス液の膜の表面と基板の表面とで形成される角度となる。
【0008】
このように構成すると、基板に衝突した乾燥気体流が放射状に等しく拡散することなく、乾燥気体が既に乾燥させた領域に流れることを抑制することができ、リンス液に溶解するリンス液の表面張力を低下させる物質を増加させることができると共に乾燥気体がリンス液を引き延ばして基板を覆うリンス液の膜を薄くすることができるため、乾燥負担が軽減されて洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる。また、乾燥気体流が基板の回転中心付近にある場合は、相対速度が得られない回転中心部分でもリンス液の流れを作り出すことができ、リンス液が停滞する部分を解消させることができて、回転中心部の乾燥を簡便に行うことができる。
【0009】
また、本発明の第2の態様に係る基板乾燥装置は、例えば図1及び図5(図7)に示すように、上記本発明の第1の態様に係る基板乾燥装置において、リンス液流Rfが基板Wに衝突する範囲であるリンス液衝突範囲Rtに乾燥気体ノズル302(30、36)から供給された乾燥気体Gが実質的に作用する範囲Gft(Gft、Gst)内において、ノズル移動方向Dnに延びる仮想線を境界として基板回転方向Drの上流側よりも下流側の方が乾燥気体Gが多く供給されるように構成されている。ここで、乾燥気体が実質的に作用する範囲とは、典型的には、リンス液の表面張力を低下させるという乾燥気体の作用のうちの1つを期待される程度に発揮できる範囲である。
【0010】
このように構成すると、表面に供給され、基板の回転に伴って延びたリンス液に対してより広範囲に乾燥気体の作用を及ぼすことができる。
【0011】
また、本発明の第3の態様に係る基板乾燥装置は、例えば図5に示すように、上記本発明の第2の態様に係る基板乾燥装置において、基板Wの表面WAを投影面としたときの投影面上における乾燥気体流Gfが、乾燥気体ノズル302から吐出された位置Gfv’よりも基板Wに衝突した位置Gfwの方が基板回転方向Drの下流側に位置するように、乾燥気体ノズル302が設けられている。
【0012】
このように構成すると、単純な装置構成で、基板の回転に伴って延びたリンス液に対してより広範囲に乾燥気体の作用を及ぼすことができる。
【0013】
また、本発明の第4の態様に係る基板乾燥装置は、例えば図7に示すように、上記本発明の第2の態様に係る基板乾燥装置において、回転している基板Wに乾燥気体流Gsを供給する、乾燥気体ノズル30とは異なる追加乾燥気体ノズル36であって、基板Wの表面WAを投影面としたときの投影面上における乾燥気体流Gsの基板回転方向Dr成分が、追加乾燥気体ノズル36から吐出された位置Gsv’よりも基板Wに衝突した位置Gswの方が基板回転方向Drの下流側に位置するように設けられた追加乾燥気体ノズル36を備える。
【0014】
このように構成すると、リンス液に対して乾燥気体の作用が及ぶ範囲をより拡大することが可能になる。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の第5の態様に係る基板乾燥装置は、例えば図1及び図5に示すように、基板Wを水平面内で回転させる回転機構10と;回転している基板Wにリンス液流Rfを供給するリンス液ノズル20と;リンス液ノズル20を、回転している基板Wの回転中心Wc側から外周側へ向かうノズル移動方向Dnに移動させるリンス液ノズル移動機構40と;回転している基板Wのリンス液流Rfが供給される位置よりも、基板Wの回転に伴ってリンス液Rが流れる方向である基板回転方向Drの下流側かつ基板Wの回転中心Wc側に、リンス液Rの表面張力を低下させる物質を含有する乾燥気体流Gfを供給する乾燥気体ノズル30と;乾燥気体ノズル30をノズル移動方向Dnに移動させる乾燥気体ノズル移動機構40とを備え;乾燥気体流Gfが、基板Wの面を投影面としたときに投影面上において乾燥気体ノズル30から吐出された位置Gfv’(図5参照)よりも基板Wに衝突した位置Gfw(図5参照)の方がノズル移動方向Dn成分はノズル移動方向Dnの下流側に位置しつつ基板回転方向Dr成分は基板回転方向Drの下流側に位置した状態で乾燥気体流Gfの軸線Gaとノズル移動方向Dnとのなす角が所定の旋回角β(図5参照)に構成され、三次元空間において乾燥気体流Gfの軸線Gaと基板Wの垂線とのなす角が所定の傾斜角αで傾斜するように、乾燥気体ノズル30が設けられている。
【0016】
このように構成すると、乾燥気体流が、基板の面を投影面としたときに投影面上において乾燥気体ノズルから吐出された位置よりも基板に衝突した位置の方がノズル移動方向成分はノズル移動方向の下流側に位置しつつ基板回転方向成分は基板回転方向の下流側に位置した状態で乾燥気体流の軸線とノズル移動方向とのなす角が所定の旋回角に構成され、三次元空間において乾燥気体流の軸線と基板Wの垂線とのなす角が所定の傾斜角で傾斜するので、乾燥気体が既に乾燥させた領域に流れることを抑制することができ、リンス液に溶解するリンス液の表面張力を低下させる物質を増加させることができると共に乾燥気体がリンス液を引き延ばして基板を覆うリンス液の膜を薄くすることができるため、乾燥負担が軽減されて洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基板に衝突した乾燥気体流が放射状に等しく拡散することなく、乾燥気体が既に乾燥させた領域に流れることを抑制することができ、リンス液に溶解するリンス液の表面張力を低下させる物質を増加させることができると共に乾燥気体がリンス液を引き延ばして基板を覆うリンス液の膜を薄くすることができるため、乾燥負担が軽減されて洗浄後の基板を効率よく乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基板乾燥装置の概略構成を示す図である。(a)は斜視図、(b)はノズル先端まわりの部分拡大側面図である。
【図2】面に対する液の接触角を説明する図である。
【図3】基板に供給されるリンス水及び乾燥気体の位置関係並びにこれらの移動方向について説明する図である。(a)は基板乾燥装置の移動機構まわりの平面図、(b)は移動機構の可動アーム先端の部分拡大平面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る基板乾燥装置における乾燥気体流の供給態様を説明する図である。(a)は部分斜視図、(b)は平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る基板乾燥装置における乾燥気体流の供給態様を説明する図である。(a)は部分斜視図、(b)は平面図である。
【図6】枚葉IPA乾燥を行った際のリンス水の膜厚の状況を説明する図である。(a)は本発明の第2の実施の形態に係る基板乾燥装置によるもの、(b)は本発明の第1の実施の形態に係る基板乾燥装置によるもの、(c)は比較例として乾燥気体流が基板の表面に垂直に供給される装置によるものの図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態の変形例に係る基板乾燥装置における乾燥気体流の供給態様を説明する図である。(a)は部分斜視図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る基板乾燥装置1を説明する。図1は、基板乾燥装置1の概略構成を示す図であり、(a)は斜視図、(b)はノズル先端まわりの部分拡大側面図である。基板乾燥装置1は、処理される基板Wを回転させる回転機構10と、基板Wにリンス液としてのリンス水Rを供給するリンス液ノズルとしてのリンス水ノズル20と、基板Wに乾燥気体Gを供給する乾燥気体ノズル30と、リンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル30を基板Wの面と平行に移動させる移動機構40とを備えている。本実施の形態では、移動機構40は、リンス液ノズル移動機構と乾燥気体ノズル移動機構とを兼ねている。
【0021】
処理される基板Wは、典型的には、半導体素子製造の材料である半導体基板であり、円盤状に形成されている。基板Wは、一方の面に回路が形成されており(この面を「表面WA」という。)、他方の面(裏面)には回路が現れていない。近年の半導体基板は、配線材料としてより抵抗の小さい銅が用いられるようになってきている。銅配線は、一般に、基板の表面に形成された絶縁膜に溝を掘り、その溝に銅を埋め込んだ後、余分な銅をCMPで削ることで形成される。銅が埋め込まれる絶縁膜は、配線間に形成されるコンデンサ容量を低減させる観点からk値(被誘電率)の低い材料(Low−k膜)が用いられる。本実施の形態では、k値が概ね3.0以下のLow−k膜(典型的にはSiOC膜)が形成された基板Wが用いられることとして説明する。一般に、Low−k膜は疎水性であるため、研磨後の洗浄において基板W上のリンス水膜が分断されやすく、リンス水膜が分断された状態で乾燥が行われるとウォーターマークや亀裂等の欠陥が発生するおそれがある。また、疎水性のLow−k膜上ではこのLow−k膜を覆うリンス水膜が厚くなる傾向にあり、乾燥させる際の負荷が比較的大きくなる。枚葉IPA乾燥では、疎水性の表面を持つ基板Wに対しても適切な乾燥処理を行うことができる。基板Wの面の濡れ性の指標(疎水性の度合い)の1つとして、接触角を用いることができる。
【0022】
ここで図2を参照して、接触角について説明する。本実施の形態における接触角は、基板Wの表面WAに滴下されたリンス水Rの液滴の接線Tと基板Wの表面WAとのなす角であり、図2におけるθがこれに相当する。表面WAの濡れ性(濡れやすさ)は接触角θにより評価される。すなわち、接触する液体の組成が共通のときに接触角θが小さい面ほど濡れやすく(親水性が高く)、大きい面ほど濡れにくい(疎水性が高い)。本実施の形態の接触角θは、リンス水Rの液滴が表面WA上で静止していることを前提とした静的接触角をいうものとする。換言すれば、リンス水Rと表面WAとの界面が動いている動的接触角ではない。本実施の形態における接触角θの特定は、リンス水Rの液滴の縦断面における気液境界(輪郭)が円の一部であると見なして概算で求めることとし、当該液滴の輪郭の高さをa、幅をbとした場合に、接触角θ=2×tan−1(2a/b)で求められる角度とする。一般に、Low−k膜の水に対する接触角は、CMPを行うと半分程度になるとされている。本実施の形態では、表面WAのリンス水Rの液滴に対する接触角が90°以下の基板Wを処理対象とすることとし(接触角の下限は最小厚さのリンス水Rの膜表面と表面WAとで形成される角度となる)、典型的には、CMP後に25〜60°程度に低下した基板である。
【0023】
再び図1に戻って基板乾燥装置1の構成の説明を続ける。回転機構10は、チャック爪11と、回転駆動軸12とを有している。チャック爪11は、基板Wの外周端部(エッジ部分)を把持して基板を保持するように複数設けられている。チャック爪11は、基板Wの面を水平にして保持することができるように、それぞれ回転駆動軸12に接続されている。本実施の形態では、表面WAが上向きとなるように、基板Wがチャック爪11に保持される。回転駆動軸12は、基板Wの面に対して垂直に延びる軸線まわりに回転することができ、回転駆動軸12の軸線まわりの回転により基板Wを水平面内で回転させることができるように構成されている。
【0024】
リンス水ノズル20は、基板Wの表面WA上の液が液滴の状態から乾燥することに起因するウォーターマーク等の欠陥の発生を回避するために、基板Wの上面を液膜で覆うためのリンス水Rを、基板Wに水流(リンス水流Rf)の状態で供給するノズル(筒状で先端の細孔から流体を噴出する装置)である。リンス水Rは、典型的には純水であるが、溶存塩類及び溶存有機物を除去した脱イオン水、炭酸ガス溶解水、(水素水や電解イオン水などの)機能水等を用いてもよい。ウォーターマーク発生の原因となる溶存塩類及び溶存有機物を排除する観点からは脱イオン水を用いるのがよい。また、基板Wの回転によるリンス水Rの基板W上の移動に伴う静電気の発生が異物を誘引し得るところ、リンス水Rの導電率を上昇させて帯電を抑制する観点からは炭酸ガス溶解水を用いるのがよい。処理される基板Wとしては直径が200mm〜300mm〜450mmのものがあり、リンス水流Rfを形成することとなるリンス水ノズル20の内径は、1mm〜10mm、あるいは3mm〜8mmのうちの適切なものを用いるとよい。リンス水ノズル20から吐出されて基板Wの表面WAに衝突するリンス水流Rfの直径(後述するリンス水衝突範囲Rtの直径)は、リンス水ノズル20の内径と略同じになる。
【0025】
乾燥気体ノズル30は、基板Wの表面WAを覆うリンス水Rの膜に対してリンス水Rの表面張力を低下させる物質を供給すると共にリンス水Rの膜を押しのける乾燥気体Gを、基板Wに気体流(乾燥気体流Gf)の状態で供給するノズルである。本実施の形態では、リンス水Rの表面張力を低下させる物質として、IPAが用いられることとして説明するが、IPA以外にリンス水Rの表面張力を低下させる効果が期待される、エチレングリコール系やプロピレングリコール系の物質、界面活性剤等が用いられることとしてもよい。乾燥気体Gは、典型的にはキャリアガスとして機能する窒素やアルゴン等の不活性ガスに対してIPAの蒸気を混合させたものであるが、IPA蒸気そのものであってもよい。処理される基板Wとしては直径が200mm〜300mm〜450mmのものがあり、乾燥気体流Gfを形成することとなる乾燥気体ノズル30の内径は、3mm〜10mm、あるいは4mm〜8mmのうちの適切なものを用いるとよい。乾燥気体ノズル30の径は、リンス水ノズル20の径と同じであっても異なっていてもよい。乾燥気体ノズル30から吐出されて基板Wの表面WAに衝突する乾燥気体流Gfの直径は、乾燥気体ノズル30の内径と略同じになる。乾燥気体流Gfは、枚葉IPA乾燥を行うのに適した細さに設定される。
【0026】
詳細には図1(b)に示すように、本実施の形態では、リンス水ノズル20は、表面WAに対して垂直に延びており、リンス水流Rfを表面WAに対して垂直に供給するように構成されている。乾燥気体ノズル30の吐出口における軸線30aは、乾燥気体流Gfの衝突位置における表面WAの垂線Wpに対して傾いている。乾燥気体ノズル30がこのように設けられていることにより、乾燥気体ノズル30から吐出された乾燥気体流Gfは、その軸線である乾燥気体流軸線Ga(乾燥気体流Gfをチューブと仮定したときの軸線であり、軸線30aの延長線上にある)が表面WAの垂線Wpに対して傾いて表面WAに衝突することとなる。乾燥気体ノズル30は、乾燥気体流軸線Gaと垂線Wpとのなす角である傾斜角αが表面WA上におけるリンス水Rの接触角θ(図2参照)の半分の角度である半分接触角θ/2以上かつ90°マイナス半分接触角θ/2以下(θ/2≦α≦(90°−θ/2))となるように、可動アーム41に取り付けられている。乾燥気体流Gfが垂線Wpに対して傾いているため、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突した際の輪郭は、ノズル移動方向に長い楕円状となる。
【0027】
移動機構40は、可動アーム41と、可動軸42と、駆動源43とを含んで構成されている。可動アーム41は、基板Wの半径よりも大きな長さを有し、リンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル30が取り付けられる部材である。可動軸42は、駆動源43の動力を可動アーム41に伝達する棒状の部材であり、その長手方向が可動アーム41の長手方向に対して直交するようにその一端が可動アーム41の一端に接続されており、その他端は駆動源43に接続されている。駆動源43は、可動軸42を軸線まわりに回動させる装置である。可動軸42は、基板Wの外側で鉛直方向に延びるように設置されている。可動アーム41は、可動軸42との接続端の反対側に取り付けられた乾燥気体ノズル30から吐出された乾燥気体流Gfが、基板Wの回転中心Wcに衝突することができるように構成されている。移動機構40は、駆動源43を稼働させると可動軸42を介して可動アーム41が基板Wの半径方向に移動し、可動アーム41の移動に従ってリンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル30も基板Wの半径方向に移動するように構成されている。
【0028】
図3(a)に示す移動機構40まわりの平面図を参照して、リンス水ノズル20(図1参照)及び乾燥気体ノズル30(以下、本段落では単に「アーム先端41a」という。)が移動する方向(これを「ノズル移動方向Dn」という。)について説明する。ノズル移動方向Dnは、枚葉IPA乾燥が行われる際に、すなわち基板Wの表面WAにリンス水R及び乾燥気体Gが供給される際に、アーム先端41aが移動する方向であり、基板Wの回転中心Wcから外周へ向かう方向である。可動アーム41は、枚葉IPA乾燥が行われた後、次に処理される基板Wの回転中心Wcまでアーム先端41aが戻る揺動を行うが、アーム先端41aが基板Wの外周から回転中心Wcへ戻る際は表面WAにリンス水R及び乾燥気体Gが供給されないため、こちらはノズル移動方向Dnではない。また、ノズル移動方向Dnが、基板Wの回転中心Wcから外周へ向かう方向といっても、厳密には、平面視(図3(a))において、可動軸42の軸線を中心とし、可動軸42の軸線とアーム先端41aとの距離を半径とする仮想円弧Ac上をアーム先端41aが移動するため、基板Wに対しては不変の直線方向とはならない。そこで、仮想円弧Acの接線における基板Wの回転中心Wcから外周へ向かう方向をノズル移動方向Dnということとする。つまり、基板Wに対するノズル移動方向Dnは随時変化する。これに対し、移動する可動アーム41に対するノズル移動方向Dnは不変である。
【0029】
図3(b)に示す部分拡大平面図を参照して、基板Wの表面WAへのリンス水R及び乾燥気体Gの供給位置について説明する。リンス水流Rfが基板Wの表面WAに衝突する範囲であるリンス水衝突範囲Rt(リンス液衝突範囲)に対して、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する位置は、ノズル移動方向Dnの上流側になる。また、基板乾燥装置1(図1参照)の外側から見た場合の基板Wの回転に伴って表面WAに供給されたリンス水Rが流れる方向である基板回転方向Drについて見れば、リンス水流Rfが表面WAに衝突する位置が、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する位置よりも上流側となる。このとき、リンス水衝突範囲Rt内に乾燥気体流Gfが入らないようにしつつ、乾燥気体Gの作用を、少なくともリンス水衝突範囲Rtにあるリンス水Rに実質的に及ぼすことができる範囲内で、リンス水流Rf及び乾燥気体流Gfの表面WAへの衝突位置を決定するとよい。ここで、リンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲とは、リンス水Rの表面張力を低下させるという乾燥気体Gの作用のうちの1つを、期待される程度(枚葉IPA乾燥を適切に行うことができる程度)に発揮できる範囲である。リンス水Rの表面張力を低下させる作用は、基板Wの回転に伴う遠心力で広がったリンス水Rが飛散するのを防ぐ観点から、主に表面WAに衝突後に拡散された乾燥気体Gにより及ぼされるものであることが好ましい。また、表面WAに対してリンス水流Rfあるいは乾燥気体流Gfが衝突する「位置」とは、流体の流れが表面WAに衝突する範囲の重心をいうこととする。基板Wに対して上述の位置にリンス水流Rf及び乾燥気体流Gfを供給することができるように、リンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル30が可動アーム41に取り付けられている。
【0030】
図4を参照しながら乾燥気体流Gfについて補足する。図4は、リンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル30まわりを説明する図であり、(a)は部分斜視図、(b)は基板上に供給されたリンス水R及び乾燥気体Gの様子を示す平面図である。図4(b)は、乾燥気体流Gfを鉛直上方から表面WAに投影したとき、つまり表面WAを投影面としたときの様子をも表している。図4(a)に示すように、三次元空間においては、乾燥気体流Gfは、乾燥気体流軸線Gaと基板Wの垂線Wpとのなす角が傾斜角αの状態で表面WAに供給されている。また、図4(b)に示すように、投影面上においては、乾燥気体流Gfは、乾燥気体ノズル30から吐出された位置Gfv’よりも基板Wに衝突した位置Gfwの方がノズル移動方向Dnの下流側に位置している。なお、位置Gfv’は、三次元空間における乾燥気体流Gfが乾燥気体ノズル30から吐出された位置Gfvを表面WA上に投影した位置である。また、投影面上において、乾燥気体流軸線Gaがノズル移動方向Dnと平行になっている。このような状況で乾燥気体流Gfが表面WAに供給されることにより、表面WAに衝突した乾燥気体Gが衝突した位置Gfwを中心としてノズル移動方向Dnに扇状に拡散するように構成されている。本実施の形態では、衝突した位置Gfwを通ってノズル移動方向Dnに延びる仮想線から見て、基板回転方向Drの上流側に拡散する乾燥気体Gと下流側に拡散する乾燥気体Gとが略同量となっている。図4(b)において、範囲Gftが、リンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲となる。
【0031】
引き続き図1を主に参照し、図2〜図4を適宜参照して、基板乾燥装置1の作用を説明する。前工程において、CMPが行われ、薬液等で湿式洗浄が行われた基板Wが、回転機構10のチャック爪11に把持されている。乾燥工程前の湿式洗浄処理は、これから乾燥処理が行われる際に用いられるのと同じ回転機構10上で行われてもよい。乾燥処理が行われる基板Wが回転機構10に保持されると、リンス水ノズル20の吐出口が基板Wの表面WAの回転中心Wcよりやや外れた部分に対向する位置に至るまで可動アーム41を移動させる。このとき、乾燥気体ノズル30は、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する位置Gfwが、表面WAの回転中心Wcよりもノズル移動方向Dnの上流側となる場所に位置することとなる。
【0032】
可動アーム41が上述の位置まで移動したら、回転駆動軸12を基板回転方向Drに回転させ、これにより基板Wが水平面内で基板回転方向Drに回転する。基板Wが回転したら、リンス水Rが基板Wの表面WAに供給されるように、リンス水流Rfをリンス水ノズル20から吐出させる。このときの基板Wの回転速度は、表面WA上に供給されたリンス水Rで表面WA全体が覆われる程度の遠心力をリンス水Rに与える観点から、概ね200〜600rpm、好ましくは300〜500rpm程度とするとよい。
【0033】
表面WAがリンス水Rで覆われたら、乾燥気体ノズル30から表面WAへ乾燥気体流Gfが供給される。表面WAへの乾燥気体流Gfの供給が開始されても、表面WAへのリンス水流Rfの供給は継続している。表面WAへ乾燥気体流Gfが供給されることにより、表面WA上のリンス水Rに働く遠心力が小さい回転中心Wc付近についても、乾燥気体Gが供給された部分のリンス水Rが除去されて、表面WAに乾燥した領域が現れる。表面WAへの乾燥気体流Gfの供給が開始されたら、可動アーム41をノズル移動方向Dnに移動させ、これに伴い表面WAに対してリンス水流Rfが衝突する位置及び乾燥気体流Gfが衝突する位置がノズル移動方向Dnに移動する。可動アーム41が稼働を始める前の乾燥気体ノズル30は、乾燥気体流Gfの表面WAに衝突する位置Gfwが、表面WAの回転中心Wcよりもノズル移動方向Dnの上流側となる場所に位置していたため、可動アーム41の移動によって表面WAに衝突する乾燥気体流Gfは回転中心Wcを通り過ぎることとなる。可動アーム41の動き始めから、衝突する位置Gfwが回転中心Wcに至るまでは、表面WAに供給されたリンス水Rが基板Wの回転によって広がるために一度乾燥した部分も再び濡れてしまうが、衝突する位置Gfwが回転中心Wcを通過した後は一度乾燥した部分が再び濡れることがなくなる。可動アーム41は、乾燥気体流Gfの表面WAに衝突する位置Gfwが基板Wの外周端に至るまで、一定の速度(角速度)又は速度(角速度)を変えながら移動する。
【0034】
リンス水流Rf及び乾燥気体流Gfが表面WAに供給されながら可動アーム41が回転中心Wcから基板Wの外周まで移動することにより、平面視においてリング状に形成されたリンス水Rと乾燥気体Gとの境界(以下「リング状気液境界」という)が同心円状に徐々に広がり、表面WA上の乾燥した領域が徐々に拡大してゆく。リング状気液境界は、表面WAに供給されるリンス水流Rf及び乾燥気体流Gfの流量や、乾燥気体流Gfの傾斜角α等の諸条件により、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する範囲の最外部と、リンス水衝突範囲Rtの最内部との間のバランスした位置で形成される。このとき、リング状気液境界では、リンス水Rに乾燥気体Gが吹き付けられることによって乾燥気体G中のIPAがリンス水Rに溶解し、リンス水Rの表面張力の低下が生じている。リンス水R中に溶解したIPAの濃度は、乾燥気体流Gfの接触位置から離れるほど低くなるため、リンス水Rの表面張力に、ノズル移動方向Dnの上流側ほど低く下流側ほど高い勾配が生じる。この表面張力の勾配により、リンス水Rが表面張力の小さな方から大きな方へ引き寄せられるマランゴニ力が作用する。これに加えて、基板Wの回転により、リンス水Rが回転中心Wc側から基板Wの外周側に引き寄せられる遠心力が加わる。さらに、乾燥気体Gがリンス水Rを引き延ばそう(表面WAを覆うリンス水Rの膜を薄くしよう)とする。これらのマランゴニ力と、遠心力と、乾燥気体Gがリンス水Rを引き延ばそうとすることとの有機的な結合により、リンス水Rが表面WA上から効率よく除去される。上述した枚葉IPA乾燥によれば、疎水性の表面WAに対しても効果的に乾燥処理を行うことができる。なお、上述した枚葉IPA乾燥は、親水性の面に対しても適用することができることはいうまでもない。
【0035】
一般に、基板の表面が疎水性であると、基板表面上の液は表面張力により接触角が大きいため、親水性の場合に比べて基板表面を覆う液膜が厚くなる。他方、基板の回転中心からの距離に応じて、液膜に作用する遠心力が異なるため、液膜の厚さも異なることとなる。従来は、液膜の厚さに応じてIPAの濃度や乾燥気体の温度を調節することで、枚葉IPA乾燥をより効率よくする試みを行っていた。ところが、IPAの濃度や乾燥気体の温度を調節しようとすると、いきおい装置構成や制御が複雑になる。
【0036】
本発明に係る基板乾燥装置1は、乾燥負担の軽減及び乾燥性の向上に結びつくこととなる、枚葉IPA乾燥における表面WAを覆うリンス水Rの膜をより薄くすることをより簡便にすべく試行錯誤し、表面WAに供給する乾燥気体流Gfを「適切に」傾斜させるという技術思想を適用することにより、マランゴニ力と遠心力とリンス水Rの薄膜化とを有機的に作用させることを可能にし、より簡便に枚葉IPA乾燥の効率を向上させることとしたものである。従来の基板の表面に対して垂直に乾燥気体流を供給するものでは、乾燥気体流が基板に衝突後に放射状に等しく拡散し、半分以上の乾燥気体が既に乾燥されている方に流れ、液膜の表面張力を低下させる効果がその分低下することとなってしまう。この点、基板乾燥装置1では、表面WAに供給される乾燥気体流Gfの軸線Gaが、垂線Wpに対して傾斜角αで傾斜しているので、乾燥気体Gが乾燥領域に流れることを抑制することができ、リンス水Rに効率よくIPAを供給することができて、リンス水Rの薄膜化を促進することができる。また、傾斜角αが、表面WA上のリンス水Rの液滴の接触角θの1/2(半分接触角θ/2)以上であるため、乾燥気体Gがリンス水Rを基板Wの外周側へ引き延ばす効果を効果的に享受することができる(傾斜角αが小さすぎると乾燥気体が液を外周側に押す力が小さくなる)。さらに、傾斜角αは90°から半分接触角θ/2を差し引いた角度(90°−θ/2)以下であるため、リンス水R(特にリンス水Rの膜の表面)が飛散して表面WAの既に乾燥した部分に付着することを防ぐことができる。つまり、傾斜角αが大きいほど乾燥気体が液を外周に押す力が大きくなると思われる中で傾斜角αの最大値を定めるのは、接触角θが大きい場合に傾斜角αが大きすぎると、乾燥気体流Gfがリンス水Rの膜を乱してリンス水Rの膜の上部を吹き飛ばしてしまい、これが滴となって乾燥した表面WAに付着すると欠陥(ウォーターマーク等)が生成されるおそれがあるからである。この点につき、表面WA上のリンス水Rの膜が厚いほど飛散しやすいところ、リンス水Rの膜厚に関連する接触角θに基づいて傾斜角αを決定することにより、適切な傾斜角αを設定することが可能になる。これは、接触角θが小さいほど傾斜角αの許容範囲が広がることを示唆している。
【0037】
可動アーム41が基板Wの外周に到達したら、表面WAへのリンス水流Rf及び乾燥気体流Gfの供給を停止する。このとき、表面WAに対するリンス水流Rfの供給の停止が先に行われ、次いで乾燥気体流Gfの供給の停止が行われることとしてもよい。その後、基板Wの回転速度を上昇させ(本実施の形態では約800〜2000rpmに上昇させる)、基板Wの外周端部(エッジ部分)及び裏面に残存している液滴を遠心力により除去する。以上で乾燥工程が終了し、基板Wの回転が停止された後、基板Wが回転機構10から搬出される。
【0038】
次に図5を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る基板乾燥装置2を説明する。図5は、基板乾燥装置2のリンス水ノズル20及び乾燥気体ノズル302まわりを説明する図であり、(a)は部分斜視図、(b)基板上に供給されたリンス水R及び乾燥気体Gの様子を示す平面図である。図5(b)は、表面WAを投影面としたときの様子をも表している。基板乾燥装置2の、基板乾燥装置1(図1参照)と異なる点は、以下の通りである。すなわち、基板乾燥装置2は、乾燥気体ノズル302が、基板乾燥装置1における乾燥気体ノズル30(図1参照)と比較して乾燥気体流Gfの吐出方向の点で異なっている。詳細には、投影面上において(図5(b)上において)、乾燥気体流Gfが、乾燥気体ノズル302から吐出された位置Gfv’よりも基板Wに衝突した位置Gfwの方が、ノズル移動方向成分はノズル移動方向Dnの下流側に位置しており、基板回転方向成分は基板回転方向Drの下流側に位置している。加えて、投影面上において、乾燥気体流軸線Gaとノズル移動方向Dnとのなす角が旋回角βとなっている。旋回角β(旋回の程度)は、リンス水衝突範囲Rtにあるリンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲内で、できるだけ大きいことが好ましい。図5(b)では、範囲Gftが、リンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲となる。旋回角βは0°を超えて60°以下とするとよく、投影面上において、位置Gfv’と位置Gfwとを通る仮想線と、乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する範囲のリング状気液境界の接線とのなす角のうち、基板W内側かつ基板回転方向Dr下流側のなす角が、90°を超えて150°以下の範囲となることが望ましい。なお、旋回角βが0°の場合は上述した基板乾燥装置1(図1及び図4参照)における乾燥気体流軸線Gaの向きと同じになる。基板乾燥装置2の、上述した以外の構成は、三次元空間において乾燥気体流軸線Gaと基板Wの垂線Wpとのなす角が傾斜角αの状態で乾燥気体流Gfが表面WAに供給されている点を含めて、基板乾燥装置1(図1参照)と同じである。
【0039】
上述のように構成された基板乾燥装置2では、枚葉IPA乾燥を行う際、表面WAに供給されて基板Wの回転に伴って基板回転方向Drに延びたリンス水Rsに対して、基板乾燥装置1(図1参照)の場合よりも広範囲に乾燥気体Gの作用(IPAによるリンス水Rの表面張力の低下等)を及ぼすことができる。すなわち、表面WAに供給されたリンス水流Rfは、最初はリンス水衝突範囲Rtで表面WAに接し、基板Wの回転に伴ってリンス水Rsのように広がる。図5(b)では、基板Wが90°程度回転した状況を示しているが、基板Wが360°回転すると、最初に表面WAに衝突したリンス水Rが、広がった状態でリンス水衝突範囲Rt付近に戻ってくる。このとき、戻ってきたリンス水Rは、遠心力やマランゴニ力により当初よりも基板Wの外周側に寄っている。リンス水RにIPAを溶解させるに際し、乾燥気体Gを、戻ってきたリンス水Rに供給するよりも、供給された直後のリンス水Rに供給する方が、よりリンス水Rの薄膜化に寄与することとなる。それゆえ、基板乾燥装置2によれば、基板乾燥装置1(図1参照)の場合よりも、リンス水Rの薄膜化を図ることができる。
【0040】
図6に、枚葉IPA乾燥を行った際のリンス水Rの膜厚の状況を、装置ごとに示す。図6(a)は基板乾燥装置2(図5参照)による状況、図6(b)は基板乾燥装置1(図1参照)による状況、図6(c)は比較例として乾燥気体流が基板Wの表面WAに垂直に供給された場合の状況を示している。図6(a)に示すように、基板乾燥装置2(図5参照)によれば、リンス水Rを好適に薄膜化することができる。これは、表面WAに供給されたリンス水Rが遠心力で薄くなったところに乾燥気体Gが作用してさらに薄膜化を促進させるためであると考えられる。図6(b)に示す基板乾燥装置1(図1参照)によるものは、リンス水衝突範囲Rtから基板回転方向Dr下流側に作用する乾燥気体Gが基板乾燥装置2(図5参照)よりも少ない分、基板乾燥装置2(図5参照)によるものよりもリンス水Rの膜が厚いが、垂直な乾燥気体流によるもの(図6(c)参照)よりは薄い。図6(c)に示す比較例は、供給された乾燥気体Gの約半分程度しかリンス水Rに作用しないため、基板乾燥装置1(図1参照)あるいは基板乾燥装置2(図5参照)によるものよりもリンス水Rの膜は厚い。なお、基板乾燥装置2(図5参照)においては、傾斜角αがθ/2≦α≦90°−θ/2の範囲をある程度(典型的にはθ/4程度)外れても、乾燥気体流が基板Wの表面WAに垂直に供給される場合よりも簡便に枚葉IPA乾燥の効率を向上させることができるが、この場合は枚葉IPA乾燥を行った際のリンス水Rの膜厚が図6(b)に示す基板乾燥装置1(図1参照)による状況と同程度となる。
【0041】
次に図7を参照して、本発明の第2の実施の形態の変形例に係る基板乾燥装置2Aを説明する。図7は、基板乾燥装置2Aの各ノズルまわりを説明する図であり、(a)は部分斜視図、(b)基板上に供給されたリンス水R及び乾燥気体Gの様子を示す平面図である。図7(b)は、表面WAを投影面としたときの様子をも表している。基板乾燥装置2Aは、基板乾燥装置1(図1参照)に対して、乾燥気体ノズル30とは別に追加乾燥気体ノズル36が設けられている。追加乾燥気体ノズル36は、可動アーム41(図1参照)に取り付けられている。追加乾燥気体ノズル36は、乾燥させた基板Wの領域がリンス水Rで濡れてしまうことを回避する観点から、投影面上においてリンス水衝突範囲Rtよりも基板回転方向Drの下流側に設けられている。追加乾燥気体ノズル36から基板Wに供給される流体は、典型的には乾燥気体ノズル30から吐出される乾燥気体流Gfと同じであるが、説明の便宜上区別するため、追加乾燥気体ノズル36から吐出される乾燥気体流を符号「Gs」で表すこととする。
【0042】
追加乾燥気体ノズル36から吐出された乾燥気体流Gsは、投影面上において(図7(b)上において)、追加乾燥気体ノズル36から吐出された位置Gsv’よりも基板Wに衝突した位置Gswの方が、ノズル移動方向成分はノズル移動方向Dnの下流側に位置しており、基板回転方向成分は基板回転方向Drの下流側に位置している。なお、位置Gsv’は、三次元空間における乾燥気体流Gsが追加乾燥気体ノズル36から吐出された位置Gsvを表面WA上に投影した位置である。加えて、投影面上において、乾燥気体流Gsの軸線とノズル移動方向Dnとのなす角が旋回角βAとなっている。旋回角βA(旋回の程度)は、乾燥気体ノズル30から吐出された乾燥気体流Gfが表面WAに衝突後に拡散した乾燥気体Gのうちリンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲Gftと、追加乾燥気体ノズル36から吐出された乾燥気体流Gsが表面WAに衝突後に拡散した乾燥気体Gのうちリンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲Gstとに重複部分が生じる範囲内で決定するのがよい。範囲Gftと範囲Gstとの重複部分は、できるだけ広範囲のリンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができるようにする観点から、極力小さくすることが好ましい。また、範囲Gstは範囲Gftよりも基板回転方向Drの下流側に広がり、かつ、乾燥気体流Gsが、投影面上において、位置Gsv’と位置Gswとを通る仮想線と、乾燥気体流Gsが表面WAに衝突する範囲のリング状気液境界の接線とのなす角のうち、基板W内側かつ基板回転方向Dr下流側のなす角が、90°を超えていることが望ましい。さらに、三次元空間において、乾燥気体流Gsの軸線は、基板Wの垂線Wpに対して傾斜している。乾燥気体流Gsの軸線と基板Wの垂線Wpとのなす角は、乾燥気体ノズル30から吐出された乾燥気体流Gfに関する傾斜角αと同じでもよく、異なっていてもよい。
【0043】
上述のように構成された基板乾燥装置2Aでは、枚葉IPA乾燥を行う際、表面WAに供給されて基板Wの回転に伴って基板回転方向Drに延びたリンス水Rsに対して、範囲Gftと範囲Gstと足し合わせた範囲で乾燥気体Gの作用(IPAによるリンス水Rの表面張力の低下等)を及ぼすことができるため、基板乾燥装置1(図1参照)の場合よりも広範囲に乾燥気体Gの作用を及ぼすことができる。それゆえ、基板乾燥装置2Aによれば、基板乾燥装置1(図1参照)の場合よりも、リンス水Rの薄膜化を図ることができる。
【0044】
なお、図7(b)において符号「Gs2」で示すような方向で、乾燥気体流Gsに代えて乾燥気体流Gs2を供給するように構成してもよい。つまり、乾燥気体流Gsを、追加乾燥気体ノズル36から吐出された位置Gsvを中心にして基板Wに衝突した位置を基板回転方向Dr下流側にさらに移動させて(旋回角βA2だけさらに回転させて)位置Gsw2とした、乾燥気体流Gs2として基板Wに供給してもよい。旋回角βA2は、乾燥気体流Gs2が表面WAに衝突後に拡散した乾燥気体Gのうちリンス水Rに乾燥気体Gの作用を実質的に及ぼすことができる範囲(不図示)と、乾燥気体流Gfに係る範囲Gftとに重複部分が生じる範囲内で決定するのがよい。具体的には、投影面上において、位置Gsv’と位置Gsw2とを通る仮想線と、乾燥気体流Gs2が表面WAに衝突する範囲のリング状気液境界の接線とのなす角のうち、基板W内側かつ基板回転方向Dr下流側のなす角が、90°を超えて150°以下の範囲となることが望ましい。このようにすると、乾燥気体流Gs2とリンス水Rの膜の界面とにおける衝突エネルギーの増大を抑制することができ、その領域の液膜状態を過度に乱してしまうことを抑制することができる。これまで説明した追加乾燥気体ノズル36は、基板乾燥装置2(図5参照)に適用することもできる。
【0045】
以上では、基板乾燥装置1、2、2Aによれば、IPAの濃度や乾燥気体の温度を調節しなくとも、簡便にリンス水Rに溶解するIPAを増加させることができることを説明した。しかしながら、このことは、IPAの濃度や乾燥気体の温度の調整を、基板乾燥装置1、2、2Aに対して重畳的に適用することを妨げるものではない。基板乾燥装置1、2、2Aに対してIPAの濃度や乾燥気体の温度の調整を重畳的に適用することで、より効率的に枚葉IPA乾燥を行うことができることとなる。
【0046】
以上の説明では、移動機構40がリンス液ノズル移動機構と乾燥気体ノズル移動機構とを兼ねているとしたが、リンス液ノズル移動機構と乾燥気体ノズル移動機構とが別体として構成されていてもよい。
【0047】
以上の説明では、回転機構10がチャック爪11で基板Wを保持することしたが、ローラーチャックで基板Wを保持することとしてもよい。
【0048】
以上の説明では、リンス水流Rfが基板Wの表面WAに対して垂直に供給されることとしたが、リンス水流Rfが表面WAの垂線に対して傾斜していてもよい。この場合でも、リンス水流Rf及び乾燥気体流Gfが表面WAに衝突する位置関係は上述の通りである。
【符号の説明】
【0049】
1、2、2A 基板乾燥装置
10 回転機構
20 リンス水ノズル(リンス液ノズル)
30 乾燥気体ノズル
36 追加乾燥気体ノズル
40 移動機構
Dn ノズル移動方向
Dr 基板回転方向
Gf 乾燥気体流
Gft、Gst リンス水に乾燥気体の作用を実質的に及ぼすことができる範囲
Gfv、Gsv 乾燥気体流が乾燥気体ノズルから吐出された位置
Gfw、Gsw 乾燥気体流が基板に衝突した位置
R リンス水(リンス液)
Rf リンス水流(リンス液流)
Rt リンス水衝突範囲(リンス液衝突範囲)
W 基板
WA 表面
Wc 回転中心
Wp 垂線
α 傾斜角
β 旋回角
θ 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンス液に対する接触角が90°以下の表面を持つ基板を水平面内で回転させる回転機構と;
回転している前記基板の表面に前記リンス液の流れであるリンス液流を供給するリンス液ノズルと;
前記リンス液ノズルを、回転している前記基板の回転中心側から外周側へ向かうノズル移動方向に移動させるリンス液ノズル移動機構と;
回転している前記基板の前記リンス液流が供給される位置よりも、前記基板の回転に伴って前記リンス液が流れる方向である基板回転方向の下流側かつ前記基板の回転中心側に、前記リンス液の表面張力を低下させる物質を含有する乾燥気体流を供給する乾燥気体ノズルと;
前記乾燥気体ノズルを前記ノズル移動方向に移動させる乾燥気体ノズル移動機構とを備え;
前記乾燥気体流が、前記基板の表面を投影面としたときに前記投影面上において前記ノズル移動方向成分が前記乾燥気体ノズルから吐出された位置よりも前記基板に衝突した位置の方が前記ノズル移動方向の下流側に位置しつつ、三次元空間において前記乾燥気体流の軸線と前記基板の垂線とのなす角が前記接触角の半分の角度である半分接触角以上かつ90°から前記半分接触角を差し引いた角度以下の範囲で傾斜するように、前記乾燥気体ノズルが設けられている;
基板乾燥装置。
【請求項2】
前記リンス液流が前記基板に衝突する範囲であるリンス液衝突範囲に前記乾燥気体ノズルから供給された乾燥気体が実質的に作用する範囲内において、前記ノズル移動方向に延びる仮想線を境界として前記基板回転方向の上流側よりも下流側の方が前記乾燥気体が多く供給されるように構成された;
請求項1に記載の基板乾燥装置。
【請求項3】
前記基板の表面を投影面としたときの前記投影面上における前記乾燥気体流が、前記乾燥気体ノズルから吐出された位置よりも前記基板に衝突した位置の方が前記基板回転方向の下流側に位置するように、前記乾燥気体ノズルが設けられている;
請求項2に記載の基板乾燥装置。
【請求項4】
回転している前記基板に前記乾燥気体流を供給する、前記乾燥気体ノズルとは異なる追加乾燥気体ノズルであって、前記基板の表面を投影面としたときの前記投影面上における前記乾燥気体流の前記基板回転方向成分が、前記追加乾燥気体ノズルから吐出された位置よりも前記基板に衝突した位置の方が前記基板回転方向の下流側に位置するように設けられた追加乾燥気体ノズルを備える;
請求項2に記載の基板乾燥装置。
【請求項5】
基板を水平面内で回転させる回転機構と;
回転している前記基板にリンス液流を供給するリンス液ノズルと;
前記リンス液ノズルを、回転している前記基板の回転中心側から外周側へ向かうノズル移動方向に移動させるリンス液ノズル移動機構と;
回転している前記基板の前記リンス液流が供給される位置よりも、前記基板の回転に伴って前記リンス液が流れる方向である基板回転方向の下流側かつ前記基板の回転中心側に、前記リンス液の表面張力を低下させる物質を含有する乾燥気体流を供給する乾燥気体ノズルと;
前記乾燥気体ノズルをノズル移動方向に移動させる乾燥気体ノズル移動機構とを備え;
前記乾燥気体流が、前記基板の面を投影面としたときに前記投影面上において前記乾燥気体ノズルから吐出された位置よりも前記基板に衝突した位置の方が前記ノズル移動方向成分は前記ノズル移動方向の下流側に位置しつつ前記基板回転方向成分は前記基板回転方向の下流側に位置した状態で前記乾燥気体流の軸線と前記ノズル移動方向とのなす角が所定の旋回角に構成され、三次元空間において前記乾燥気体流の軸線と前記基板の垂線とのなす角が所定の傾斜角で傾斜するように、前記乾燥気体ノズルが設けられている;
基板乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−171396(P2011−171396A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31831(P2010−31831)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】