説明

基板保護用の保護部材および該保護部材を用いた基板の保護方法

【課題】 基板(殊に機能層付きの基板)(B) の保管、搬送または輸送を行うにあたって
該基板(B) の保護を図るための保護部材(A) を提供すること、およびその保護部材(A) を
用いた基板の保護方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 基板(B) の保護を図るための保護部材(A) として、エチレン系重合体発泡
シート(a1)の少なくとも片面に、メタロセン触媒を用いて重合することにより得られた高
密度グレードのエチレン系重合体の薄膜(a2)が熱融着された、(a2)/(a1) または(a2)/(a1
)/(a2)の層構成を有する複合シート(a) を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の基板(殊に機能層付きの基板)の保管、搬送または輸送を行うにあた
って、該基板の保護を図るための保護部材に関するものである。また、基板の保管、搬送
または輸送に際し、その保護部材を用いて該基板を保護する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(薄くかつ大サイズの基板用ガラス板)
LCD(Liquid Crystal Display)、PDP(Plasma Display Panel)、LED(Light Emi
tting Diode)、OLED(Organic LED) 、FED(Field Emission Display)、SED(Sur
face-conduction Electron-emitter Display) などのフラットパネル・ディスプレイ(F
PD(Flat Panel Display))に用いられるガラス板(素ガラス板または素板ガラス)は、
現在では、その厚みはたとえば 0.7mmまたはそれ以下というように薄く、そのサイズはた
とえば1500mm×1850mm(G6サイズ)、1870mm×2200mm(G7サイズ)
、さらには2850mm×3050mm(G10サイズ)というように大型化している。ただ
し、G(世代/generation)はおおよその目安であり、同じGでも厚みやサイズは実際に
は種々様々である。
【0003】
ガラスの比重は 2.5程度であるので、厚みが 0.7mmの場合の1枚当りの重量は、G6サ
イズで5kg程度、G7サイズで7kg程度、G10サイズでは15kg程度にもなる。
【0004】
そして、薄くかつ大サイズのガラス板の保管、搬送または輸送を、小ないし中サイズの
ガラス板を前提とした従来のカセット収容方式(箱体や枠体の内壁の部分に形成した溝や
リブで水平姿勢のガラス板を支えたり、そのような内壁の溝やリブで支える方式に加えて
箱体や枠体からバーを延出してそのバーでガラス板を下側からも支えたりする方式)によ
り行ったのでは、撓みや振動によるガラス板損傷のおそれが大きい。他の方式、たとえば
ガラス板を鉛直姿勢または斜傾姿勢で支える方式にあっても、ガラス板が薄くかつ大サイ
ズであるときは、やはり保管、搬送または輸送に際し破損等のトラブルを生ずるおそれが
ある。
【0005】
(基板用のガラス板を平置き状に積み重ねる方式)
保管、搬送または輸送のために、たとえば厚みが 0.7mmで重量が5kgの大サイズのガラ
ス板を200枚とか300枚平置き状に積み重ねようとすれば、全体の重量は1トンとか
1トン半にもなる。この場合、ガラス板に対する負荷は下側に位置するガラス板に対する
ほど大きくなり、特に一番下のガラス板には全ガラス板の重量が加わることになる。
【0006】
(基板用のガラス板をトレイに載置したものを多段に配置する方式)
また、保管、搬送または輸送のために、1枚のガラス板をトレイ上に載置して取り扱う
ときは、ガラス板が大サイズであっても上記のような積み重ねによる問題は生じないが、
そのガラス板を載置したトレイを多段に配置して移動、搬送または輸送を行う場合には、
下段のトレイ上に載置したガラス板が跳ね上がって上段のトレイの底にぶつかるおそれが
ある。この問題を避けるためには各段の間に充分の間隔があくようにすればよいが、今度
は多段に配置したときの全体の高さが高くなって占有体積が大になるため、保管、搬送ま
たは輸送の効率がかなり低下することを免れない上、ガラス板には(トレイ側にも)依然
としてばたつきによる衝撃が加わることになる。
【0007】
(発泡樹脂シートを介装したガラス板積み重ね梱包方式)
特開2005−75366号公報(特許文献1)には、複数枚のガラス板を各相互間に
保護シート材を介装して水平姿勢で積層状に収納してなる単位梱包体を備えたガラス板梱
包ユニットが示されている(請求項3)。保護シート材としては、厚み 0.3〜 5.0mm(好
ましくは 0.5〜 2.0mm)、発泡倍率10〜40倍(好ましくは20〜30倍)の発泡樹脂
シートが好ましいとあり、実施形態においては発泡倍率20〜25の発泡ポリエチレンシ
ートを用いて、厚みが 0.7mmで1500mm×1850mmのサイズの液晶ディスプレイ用の
素板ガラスの5〜20枚程度を積み重ねて単位梱包体とし、その単位梱包体を30段程度
に積み重ねて外包囲体に嵌め込んで固定している。
【0008】
特開2007−39092号公報(特許文献2)には、箱体の内部収納空間に、複数枚
のガラス板を各相互間に保護シート材を介装して水平姿勢で積層状に収納したガラス板梱
包体において、箱体の内底面に衝撃吸収体を配設したガラス板梱包体が示されている(請
求項1)。保護シート材としては、厚み 0.3〜 5.0mm(好ましくは 0.5〜 2.0mm)、発泡
倍率10〜40倍(好ましくは20〜30倍)の発泡樹脂シートが好ましいとあり、実施
形態においては発泡倍率20〜25の発泡ポリエチレンシートを用いて、厚みが 0.7mmで
1500mm×1850mm(G6サイズ)の大きさの素板ガラスの5〜20枚程度を箱体の
収納空間に積み重ね収容してガラス板梱包体となし、そのガラス板梱包体の10〜50段
を箱状の外包囲体の内部に下方から順に水平姿勢のまま積み重ねていって梱包ユニットと
している。
【0009】
特開2005−75482号公報(特許文献3)には、表面側と裏面側との間でエア流
通を許容する発泡樹脂シートをガラス板の上面に載せた後、バキューム手段により発泡樹
脂シートとガラス板とを重ねた状態で吸着保持して搬送、収納するガラス板梱包方法が示
されている(請求項1)。特開2008−114869号公報(特許文献4)にも、ガラ
ス板間に発泡樹脂シートを介在させて積み上げ積層することにつき記載がある(請求項6
)。
【0010】
特開2006−327640号公報(特許文献5)および特開2006−327642
(特許文献6)には、複数基板を積み重ねて構成した積み重ね体を収納するための収納容
器において、基板(カラーフィルターや薄膜トランジスタ等に用いるガラス基板)と合紙
(特に、独立気泡を有する樹脂発泡シート(たとえば発泡ポリエチレンシート)、厚み0.
25〜1mm程度)とを交互に積み重ねた積み重ね体が示されている(特許文献5の請求項8
〜10および段落0026、特許文献6の請求項8〜10および段落0028)。ここで
「合紙」とは「介装シート」のことである。
【0011】
特開2005−275248号公報(特許文献7)には、カラーフィルタ基板を複数枚
積層させるに際し、隣り合うカラーフィルタ基板の間にクッション性を有するシートを介
在させるようにした積層体が示されている。ここで、クッション性を有するシートの好ま
しい例は、独立気泡を有する発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタン
などの発泡樹脂シートである。カラーフィルタ基板については、ガラス基板上にブラック
マトリックス、R、G、Bの着色層、透明導電膜層およびスペーサに加えて、さらに保護
層(水溶性樹脂)を設けたものを用いている。
【0012】
特開2005−134416号公報(特許文献8)には、カラーフィルタ基板を積層さ
せるに際し、隣り合うカラーフィルタ基板の間に離間体を介在させるようにした積層体が
示されている。また、特開2005−134423号公報(特許文献9)には、その着色
層側の面および裏側の面にそれぞれ保護層を設けたカラーフィルタ基板を複数枚積層させ
るに際し、隣り合うカラーフィルタ基板の間に離間体を介在させるようにした積層体が示
されている。同様に、特開2005−134419号公報(特許文献10)には、その着
色層側の面に保護層を設けたカラーフィルタ基板を複数枚積層させるに際し、隣り合うカ
ラーフィルタ基板の間に離間体を介在させるようにした積層体が示されている。ここで、
離間体の代表例は、紙(殊に中性紙)や樹脂フィルム(ポリエチレン、ポリプロピレン、
ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、セルロース、殊にポリエチレンフ
ィルム)である。
【0013】
上述のように、特許文献1〜6には、ガラス板を平置き状に積み重ねるに際し、各ガラ
ス板間に保護シート材として「発泡樹脂シート」を介装することにつき記載がある。ただ
し、これらの特許文献1〜6には、その保護シート材として「発泡樹脂シートのラミネー
ト品」を用いることについては何の記載も示唆もない。また、これらの特許文献1〜6に
おける「ガラス板」とは「素板ガラス」のことであり、これらの特許文献にあっては「機
能層を有するガラス基板」に適用することついては言及がない。
【0014】
また、上述のように、特許文献7〜10には、カラーフィルタ基板を平置き状に積み重
ねるに際し、各カラーフィルタ基板間にクッション性を有するシートまたは離間体として
「発泡樹脂シート、紙、樹脂フィルム」を介装することにつき記載がある。
【0015】
(支持部材に設けたパッド上にガラス板を受ける方式)
特開2005−75433号公報(特許文献11)には、四角柱状の支持部材(図1に
よれば2つの側壁に固定したものと後壁から張り出したもの)上に板ガラスの少なくとも
1箇所を負圧保持する「表面支持部」(気密性の弾性材料、実施例においてはシリコンゴ
ムのパッドを使用)を設けた板ガラスの梱包体が示されている。ただし、上下の桟格子間
で板ガラスを挟み込んで支持しているわけではない。なお、この特許文献11の段落00
59には、「板ガラスだけの板状体以外にも製膜板ガラス等の複合板状構成体や有機物と
ガラス板の積層構造物に対しても適用することが可能なものである。」との記載が見られ
る。
【0016】
(トレイ方式における平積みガラス板の保管搬送方式)
特開昭62−180836号公報(特許文献12)には、滑り止め手段(緩衝材)を備
えたトレイ上に複数枚のガラス板を平積みすると共にずれ防止手段によりそれを一体化し
て、搬送、保管に供する方法が示されており、第2図には桟格子状のトレイの例が示され
ている。ただし、平積みガラス板同士の間に緩衝材を介装しているわけではない。
【0017】
(ガラス板を載せたトレイの積み重ね方式)
1枚のガラス板を水平状態で収納したトレイを多段に積み重ねる方式については、多数
の出願がなされている。たとえば、特開平10−287382号(特許文献13)には、
1枚のガラス基板をトレイの格子状に構成された部分に水平状態で載置して収納するトレ
イが示されている。そのほかにも、特開2005−104475号公報(特許文献14)
をはじめとして多数の出願がなされている。トレイの積み上げ数については、たとえば特
許文献14の実施例においては、ガラス板基板が収納された60個のトレイを上下方向に
積み重ねている。
【0018】
【特許文献1】特開2005−75366号公報
【特許文献2】特開2007−39092号公報
【特許文献3】特開2005−75482号公報
【特許文献4】特開2008−114869号公報
【特許文献5】特開2006−327640号公報
【特許文献6】特開2006−327642号公報
【特許文献7】特開2005−275248号公報
【特許文献8】特開2005−134416号公報
【特許文献9】特開2005−134423号公報
【特許文献10】特開2005−134419号公報
【特許文献11】特開2005−75433号公報
【特許文献12】特開昭62−180836号公報
【特許文献13】特開平10−287382号公報
【特許文献14】特開2005−104475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
(発泡樹脂シートを介装したガラス板積み重ね方式の問題点)
上記の特許文献1〜6のように、多数枚のガラス板(素板ガラス)を各相互間に保護シ
ート材としての発泡樹脂シートを介装して水平姿勢で積層状に収納する方式は、ガラス板
間の空間を最小限にすることができるので保管・搬送の点で有利である。しかしながら、
この方式は、発泡樹脂シートとの直接接触に基く素板ガラス表面の機械的損傷のおそれが
ある。しかも、素板ガラス表面に発泡樹脂シート由来の汚染物(樹脂中の低重合度物、シ
ートへの成形時の添加物など)が転写付着することを免れないので、後の工程で洗浄を行
わなければならないという不利がある。
【0020】
そして、この方式は、特に機能層付き基板の保管・搬送には適していないという限界が
ある。というのは、ガラス板等の基板の表面に形成してある機能層に発泡樹脂シートが接
触した状態で保管・搬送に供した場合には、機能層が許容を越えるダメージ(機械的損傷
、発泡樹脂シートに起因する汚染)を受けることを免れないからである。
【0021】
上記の特許文献7〜10のように、カラーフィルタ基板を平置き状に積み重ねるに際し
、各カラーフィルタ基板間にクッション性を有するシートまたは離間体として「発泡樹脂
シート、紙、樹脂フィルム」を介装する方式も、カラーフィルタ基板間の空間を最小限に
することができるので保管・搬送の点で有利である。しかしながら、この方式は、クッシ
ョン性シートまたは離間体として紙を用いる場合には、カラーフィルタ面の機械的損傷や
紙粉の付着のおそれがある。発泡樹脂シートや樹脂フィルムを用いる場合には、カラーフ
ィルタ面との直接接触に基く発泡樹脂シートや樹脂フィルム由来の汚染物(樹脂中の低重
合度物、成形時の添加物など)が転写付着することを免れないという不利がある。
【0022】
(支持部材に設けたパッド上にガラス板を受ける方式の問題点)
特許文献11の方式は、四角柱状の支持部材上に板ガラスの少なくとも1箇所を負圧保
持する表面支持部(気密性の弾性材料、実施例においてはシリコンゴムのパッドを使用)
を設けているものである。この方式は板ガラスを吸引固定しているため輸送中に生ずる振
動に耐えうるものであるが、機構・構造が極端に複雑になることを免れず、しかも梱包体
に占める空間の割合が多いため輸送効率の点で不利となる。
【0023】
(トレイ方式における平積みガラス板の保管搬送方式との関連)
特許文献12には格子状のトレイの例が示されているが、この方式は平積みガラス板同
士の間に緩衝材を介装しているわけではないので、本発明とは直接の関係を有しない。
【0024】
(ガラス板を載せたトレイの積み重ね方式)
特許文献13、14の方式は、1枚のガラス板を水平状態で収納したトレイを積み重ね
る方式にかかるものであるが、ガラス板の汚染防止については特別の考慮が払われている
わけではない。この方式は、特に機能層付き基板の保管・搬送には適していない。
【0025】
(発明の目的)
本発明は、このような背景下において、基板の保管、搬送または輸送を行うにあたり、
該基板が素板である場合のみならず機能層付き基板であっても、その保護(機械的損傷の
防止および汚染防止)を効果的に図ることのできる保護部材を提供することを目的とする
ものである。また、該保護部材を「基板の平置き積み重ね方式」や「基板を載せたトレイ
の積み重ね方式」をはじめとする種々の方式に適用するようにした基板の保護方法を提供
することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の基板保護用の保護部材は、
基板(B) の保管、搬送または輸送を行うにあたりその基板面に接触させる使い方をして
該基板(B) の保護を図るための保護部材(A) であって、該保護部材(A) が、
・エチレン系重合体発泡シート(a1)の少なくとも片面に、
・メタロセン触媒を用いて重合することにより得られた高密度グレードのエチレン系重
合体の薄膜(a2)がラミネートされた、
・(a2)/(a1) または(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有する複合シート(a) からなること、
を特徴とするものである。
【0027】
本発明の基板の保護方法の1つは、
基板(B) の多数枚を平置き状に積み重ねた状態で保管、搬送または輸送を行うにあたり

隣接する上下の基板(B), (B)間に請求項1の複合シート(a) からなる保護部材(A) を介
装して「../B/A/B/A/B/A/.. 」の積み重ね状態にすること、
を特徴とするものである。
【0028】
本発明の基板の保護方法の他の1つは、
トレイ(T) 上に基板(B) を載置した単位載置体[B/T] を多段に積み重ね配置することに
より「../[B/T]/[B/T]/[B/T]/.. 」の多段体とした状態で保管、搬送または輸送を行うに
あたり、
中間各段の単位載置体[B/T] におけるトレイ(T) の基板支承部の上面側および下面側の
双方の必要部に請求項1の複合シート(a) からなる保護部材(A) を配置して単位載置体[B
/A/T/A] とすることにより「../[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/.. 」の多段体とすると
共に、
隣接する上段の単位載置体[B/A/T/A] の下側に位置する保護部材(A) と下段の単位載置
体[B/A/T/A] の上側に位置する層基板(B) との間に隙間を生じないようにしたこと、
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明の保護部材(A) を用いることにより、従来のように保護部材として発泡ポリエチ
レンシートのような発泡樹脂シートを介装してガラス基板(素板)の保護を図る場合に比
し、基板(素板)に対する機械的損傷が防止されることはもとより、発泡樹脂シートに起
因する汚染物質の基板(素板)への転写付着が効果的に防止されるので、搬送、輸送先に
おける洗浄処理等の付加処理を簡易に済ませたり、そのような付加処理自体を省略したり
することができる。
【0030】
特に、基板が繊細な機能層を有する機能層付き基板であるときは、保護部材として発泡
ポリエチレンシートのような発泡樹脂シートを用いると、発泡樹脂シートを得るときのポ
リマー中の低重合度物や触媒あるいは発泡樹脂シートを成形するに際して使用した添加剤
(成形助剤や帯電防止剤等)に由来する溶出成分や揮発成分が基板面に転写することによ
る基板の汚染が顕著になるので、たとえそのような発泡樹脂シートを保護部材として使用
することを試みたとしても保護の目的をほとんど達成することができないところ、本発明
に従ってメタロセン触媒を用いて重合することにより得られた高密度グレードのエチレン
系重合体の薄膜(a2)がエチレン系重合体発泡シート(a1)の少なくとも片面にラミネートさ
れた特定の層構成を有する複合シート(a) からなる特定の保護部材(A) を用いれば、機能
層に対する汚染物質の転写付着が有効に防止されるというすぐれた効果が奏される。
【0031】
また、本発明の保護部材(A) を用いることにより、従来のようにクッション性を有する
シートまたは離間体として「発泡樹脂シート、紙、樹脂フィルム」を介装してカラーフィ
ルタ基板の保護を図る場合に比し、カラーフィルタ面との直接接触に基く発泡樹脂シート
や樹脂フィルム由来の汚染物(樹脂中の低重合度物、成形時の添加物など)の転写付着を
効果的に防止できる。
【0032】
そして、本発明に従って特定の層構成を有する複合シート(a) からなる保護部材(A) を
「基板の平置き積み重ね方式」や「基板を載せたトレイの積み重ね方式」に適用する使い
方をすれば、上記のように保護部材(A) に起因する転写汚染が有効に防止されるのみなら
ず、次のような効果、すなわち、
・保管、搬送または輸送時の省スペース化が極限にまで図られと共に、基板以外の部材
による重量増が極限にまで小さくなるので、スペースおよび重量の点で保管、搬送または
輸送時の効率が従来に比し格段に向上すること、
・そのクッション性、強度、耐加重性、硬さと弾力性とのバランスが良好であり、かつ
基板のずれ方向の動きを抑制するようになるので、基板の搬送や輸送に際し衝撃・振動が
加わったり傾いたりすることがあったときでも、基板の損傷を有効に防止できること、
・トレイ方式においては、保護部材(A) の介在によりトレイの基板支承部と基板との直
接接触がなくなるようにしてある上、上段の単位載置体と下段の単位載置体との間に隙間
を生じないようにしてあるため、取り扱い中に基板がばたついてトレイにぶつかるおそれ
がなく、トレイに起因する発塵も防止できること、
・複合シート(a) からなる保護部材(A) の繰り返し使用も可能になること、
などの効果も奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0034】
(基板(B) )
本発明の保護部材(A) は、基板(B) の保管、搬送または輸送を行うにあたって該基板(B
) の保護を図るための部材であるが、その保護対象としての基板(B) としては、LCD、
PDP、LED、OLED、FED、SEDなどのフラットパネル・ディスプレイ(FP
D)の製造のためのガラス板、セラミックス板、シリコン板、プラスチックス板をはじめ
とするリジッドな板体(特にガラス板)である素板そのものを用いることができる。また
、ステンレススチール箔等の金属薄板、各種高分子フィルムのように、曲面形成、巻き取
り、巻き戻し、折り曲げなどが可能なフレキシブル基板も用いることができる。
【0035】
しかしながら、本発明は、その保管、搬送または輸送に際してダメージを受け易く、従
来においては対処が容易でなかった機能層付き基板(素板の少なくとも片面に機能層を有
する基板)にも対しても充分に適用できるので、基板(B) としてそのような機能層付き基
板を用いる場合が特に重要である。
【0036】
ここで「機能層」としては、上記の素板上に成層される透明導電膜、金属薄膜、配向膜
、液晶層、カラーフィルタ、誘電体層、有機EL層、有機半導体、金属ナノ粒子層をはじ
めとする多種多様の層があげられる。機能層は、単層であっても多層であってもよく、ま
た連続層であっても断続層であってもよい。「機能層」の「層」とは、基板上に何らかの
機能を付与した「もの」という意味である。
【0037】
基板(B) の厚みやサイズについては特に制約はないが、リジッドな基板であるガラス基
板の場合を例にとると、本発明においては、厚みが 0.7mmとかそれ以下で、サイズがG6
とかG7以上である大サイズの基板に対しても充分に適用できるので、基板(B) としてそ
のような薄くかつ大サイズの基板を用いる場合が特に重要である。ただし、それよりも厚
みが厚い基板やそれよりもサイズが小さい基板であっても、本発明の保護部材により保護
を図ることができる。
【0038】
(保護部材(A) )
保護部材(A) は、上記の基板(B) の保管、搬送または輸送を行うにあたって該基板(B)
の保護を図るための部材である。この保護部材(A) は、以下に項を分けて述べるように、
エチレン系重合体発泡シート(a1)の少なくとも片面に、メタロセン触媒を用いて重合する
ことにより得られた高密度グレードのエチレン系重合体の薄膜(a2)がラミネートされた、
(a2)/(a1) または(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有する複合シート(a) からなる。
【0039】
(エチレン系重合体発泡シート(a1))
エチレン系重合体発泡シート(a1)におけるエチレン系重合体としては、エチレンの単独
重合体のほか、エチレンと他のコモノマーとの共重合体も用いることができる。後者の場
合のコモノマーの例は、炭素数が3以上のα−オレフィン、ビニルエステル、ビニルエー
テル、アクリル系モノマー、スチレン系モノマーなどである。エチレンとコモノマーとの
共重合割合は、エチレンリッチである限りにおいて種々に設定できるが、通常はコモノマ
ーの共重合割合は20モル%程度までとすることが多い。
【0040】
このエチレン系重合体は、低密度品、リニア低密度品、中密度品、高密度品のいずれで
あってもよい。エチレン系重合体を得るときの重合触媒も任意であり、たとえばチーグラ
ー触媒(チーグラー・ナッタ触媒)、フィリップス触媒、錯体クロム触媒、メタロセン触
媒などが用いられる。
【0041】
上記のエチレン系重合体発泡シート(a1)の発泡構造は、独立気泡、独立気泡と連続気泡
とが混在したもの、連続気泡のいずれであってもよいが、独立気泡であることが特に好ま
しく、独立気泡と連続気泡とが混在した場合でも独立気泡が主であることが好ましい。エ
チレン系重合体発泡シート(a1)の発泡倍率は、基板(B) の保護(特に基板(B) の機能層の
保護)の観点から10〜80倍程度が好ましい。より好ましい範囲は20〜50倍である

【0042】
エチレン系重合体発泡シート(a1)の厚みは、マイクロメーターによる測定で、 0.2〜1
0mm程度、殊に 0.3〜5mm程度、なかんずく 0.5〜3mm程度とすることが好ましい。厚み
が余りに薄いときは緩衝性が不足し、一方厚みが余りに厚いときは、複合シート(a) の厚
みが必要以上に厚くなるので、基板(B) の保管、搬送または輸送時の占有スペースの点で
不利となるからである。
【0043】
(高密度グレードのエチレン系重合体の薄膜(a2))
薄膜(a2)を形成するエチレン系重合体としては、メタロセン触媒を用いて重合すること
により得られた高密度グレードのエチレン系重合体が用いられ、特に、JIS K7112 法によ
り測定した密度が940kg/m3 以上でかつGPC法により測定した重量平均分子量Mw
数平均分子量Mn との比Mw /Mn が3〜6(殊に 3.2〜 5.8)のエチレン系重合体が好
適である。この高密度グレードのエチレン系重合体を製膜した薄膜(a2)を用いて後述のよ
うにして得た複合シート(a) は、腰があり、必要な耐熱性を有し、適度の緩衝性があり、
皺が発生しにくく、かつ基板(B) と接触しても該基板(B) への転写汚染(複合シート(a)
を構成する樹脂中の低重合度物や該シート成形時の添加物などに起因する転写汚染)が無
視しうるほどの極小になる。
【0044】
薄膜(a2)を形成するエチレン系重合体としては、エチレンの単独重合体のほか、エチレ
ンと他のコモノマーとの共重合体も用いることができる。後者の共重合体におけるコモノ
マーの代表例は、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンをはじめとする炭素数が3以
上(たとえば3〜18程度まで)のα−オレフィンであり、そのときのα−オレフィンの
共重合割合はたとえば20モル%程度までとすることが多い。
【0045】
触媒について述べれば、たとえば従来のチーグラー触媒(チーグラー・ナッタ触媒)を
用いて重合して得たエチレン系重合体から製膜した薄膜は、たとえ高密度グレードのもの
であっても、低重合度物やシート成形時の添加物などに起因する転写汚染の点で、本発明
のようにメタロセン触媒を用いて重合した場合ほどのすぐれた効果は期待しがたい。なお
、メタロセン触媒を用いて重合してもMw /Mn が3〜6の範囲外になる場合、たとえば
w /Mn 比が3未満の場合は、分子量分布が狭くなるため、Mw /Mn が3〜6の場合
に比しては製膜性(成形性)の点では不利になる傾向があるので、Mw /Mn が3〜6(
殊に 3.2〜 5.8)のものを用いる方が望ましい。
【0046】
密度について述べれば、薄膜(a2)を形成するエチレン系重合体は、上記のように高密度
グレードであることが要求される。一般にどのような密度のものを「高密度」ポリエチレ
ンというかについては文献によって若干の相違があるが、本発明においては、「JIS K711
2 法により測定した密度が940kg/m3 以上」であるエチレン系重合体を「高密度グレー
ド」と定義することにする(上限については特に限定はないが、970kg/m3 程度までで
ある)。
【0047】
薄膜(a2)を形成するエチレン系重合体が高密度グレードであることは、低密度ないし中
密度グレードに比し、耐熱性(高い)、引張強さ(強い)、伸び(伸びにくい)、加工性
(加工しやすい)などの点で、本発明の基板保護の目的にとって有利である。
【0048】
上記のエチレン系重合体の薄膜(a2)の厚みは、5〜200μm 程度、通常は10〜10
0μm 程度、特に20〜80μm 程度とするのが適当である。厚みが極端に薄いときは強
度不足となるおそれがある。一方、厚みを必要以上に厚くするメリットはない。
【0049】
製膜に際しては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤など
の添加剤を添加しない無添加グレードの状態か、あるいはそれらの添加剤の添加量を著し
く制限した低添加グレードの状態で、製膜に供することが望ましい。製膜法としては、イ
ンフレーション成形法、T−ダイ成形法をはじめとする種々の成形法が採用される。
【0050】
(複合シート(a) )
上記のエチレン系重合体発泡シート(a1)の少なくとも片面に上記の高密度グレードのエ
チレン系重合体の薄膜(a2)をラミネートすることにより、(a2)/(a1) または(a2)/(a1)/(a
2)の層構成を有する複合シート(a) (本発明の保護部材(A) )が得られる。
【0051】
このときのラミネートは、熱融着により行うことが特に好ましい。前者の発泡シート(a
1)も後者の薄膜(a2)も共にエチレン系重合体でできているので、熱融着によるラミネート
が可能である。なお、接着剤を用いるラミネート法を採用することも可能であるが、接着
剤に起因する溶出成分や揮発成分が基板(B) 面に転写付着するおそれを確実に避けるため
には、熱融着法によるラミネートが最適である。
【0052】
このようにして得られた複合シート(a) の層構成は、(a2)/(a1) または(a2)/(a1)/(a2)
とされる。(a1)層を小分けして(a1/a1) のような複層にしたり、(a2)層を小分けして(a2/
a2) のような複層にした場合も、(a1)層や(a2)層と称することにする。ただし、そのよう
に各層を小分けすること自体は、性能上の支障とはならないが、製造コストの点では不利
になる。
【0053】
前者の(a2)/(a1) の層構成と後者の(a2)/(a1)/(a2)の層構成とを対比すると、後者の層
構成の方がより好ましい。というのは、後者の方がカールなどのシートの歪み(反りや波
打ち)を生じがたい上、表裏どちらの面を上または下にしても薄膜(a2)が表面にあらわれ
るので使用時に表裏を間違えることがなく、使い勝手の点でも好ましいからである。そし
て、後者の方が、エチレン系重合体発泡シート(a1)に起因する溶出成分や揮発成分などの
汚染成分の基板(B) への転写付着がより確実に防止されるからである。
【0054】
上記の複合シート(a) は、その表裏の一方または双方の表面がフラットであっても差し
支えない。しかしながら、上記の複合シート(a) はエンボス加工されていることが特に好
ましい。エンボス加工することにより、複合シート(a) の曲げ剛性や取り扱い時の皺寄り
防止性の点で好ましいものとすることができる。エンボス加工を施すことは、基板(B) と
の間の接触面積を減ずることができるので、基板(B) 上に複合シート(a) を設置したり、
その複合シート(a) の上から基板(B) を載置したり、基板(B) から複合シート(a) を除去
したりするときの摩擦帯電の抑制の点でかなり有利となり、両者間の位置関係のずれが効
果的に防止できる。また、エンボスパターンを工夫すれば、基板(B) から複合シート(a)
を取り去るときのエア抜けを一段と円滑にすることができる。
【0055】
一般にフラットなシートにエンボス加工を施せば、シートの一方の面および他方の面に
は山部(凸部)と谷部(凹部)とが形成される。このときのパターンは、どちらかの面か
ら見た場合の凸部が、格子状、波線状、直線状、折れ線状、散在模様状(個々の模様の形
状は種々)、渦巻き状、同心円状、皺状、これらが混在したものなど、種々に設計するこ
とができる。
【0056】
また、エンボスパターンは次のように分類することもできる。
1.シートの一方の面と他方の面とで凹凸が一致しているパターン(シートの切断端面
視において、どちらの面から見ても凸部−凸部同士、凹部−凹部同士が対向しているパタ
ーン)
2.シートの一方の面と他方の面とで凹凸が逆になっているパターン(シートの切断端
面視において、一方の面から見て凸部、凹部の箇所が、他方の面の対向部から見ればこの
順に凹部、凸部となっているパターン)
3.一方の面はフラットで、他方の面のみに凹凸のパターンが付与されている場合
【0057】
そして、別の観点から見ると、エンボスパターンは、シートの一方の面および他方の面
から見たときに谷部が独立しているか連続しているかにより、次のように分類することも
できる。
イ.山部が格子状、渦巻き状、同心円状等の閉じられた連峰となっており、その山部以
外の部分が谷部となっているパターン(谷部が連峰状の山部によって閉じ込められている
パターン)
ロ.山部が独立峰となっていて、谷部が連続しているパターン(連続した谷部が複合シ
ート(a) の端辺にまで及んでいるパターン)
【0058】
本発明において複合シート(a) としてエンボス加工を施したものを用いるときは、その
エンボスパターンに特に限定はないものの、エンボスパターンに基く基板との接触面積、
エンボスの凹部におけるエアの役割(エアクッション性やエア抜け性)などを考慮して、
エンボスパターンとして上記の1、2、3や上記のイ、ロのパターンのどれに設定するか
、あるいはそのパターンの大小や粗密をどのように設定するかについても考慮を払い、ま
た基板(B) と複合シート(a) との帯電列上の関係にも留意して、最適の設計をすべきであ
る。
【0059】
エンボス加工におけるエンボスパターン(形、微細さ、凹凸の深さなど)は、複合シー
ト(a) 全体にわたって同一でもよいが、基板(B) の隅部や辺部を支える領域Iと基板(B)
のそれ以外の領域IIというように複数の領域に分けて各領域でのパターンを変化させるこ
とも好ましい。たとえば、基板(B) 1枚の自重の分布や積み重ね基板(B) の積算自重の分
布を考慮して、領域Iのパターンと領域IIのパターンとを最適なものに設定することもで
きる。
【0060】
基板(B) を平置き状に積み重ねるような使い方をする場合には、下段にいくほど基板(B
) に加わる荷重が大になることを考慮して、下段側から上段側にいくにつれて複合シート
(a) のエンボスパターンを漸進的または段階的に変えていくようにしたり、複合シート(a
) を構成する(a1)や(a2)の厚みを変えていったりすることもできる。
【0061】
基板(B) 保護に使用するときの複合シート(a) の面積は、基板(B) の面積と同一でもよ
く、基板(B) の面積より広くしてもよく、基板(B) の面積よりやや狭くしてもよい。基板
(B) の縦横のうちの一方については複合シート(a) を同寸法とし、基板(B) の縦横のうち
の他方については複合シート(a) の方が若干はみ出るようにするなど、種々のバリエーシ
ョンが可能である。
【0062】
複合シート(a) は、たとえばこれを基板(B) の輸送に用いた場合、1回の輸送で使い捨
てにしてもよく、複数回の輸送に繰り返し使用してもよい。
【0063】
(基板の保護)
上記の複合シート(a) からなる保護部材(A) を用いての基板(B) の保護は、この複合シ
ート(a) を基板(B) に接触させる使い方をする限りは任意であり、斜傾した状態や立垂し
た状態で基板(B) を取り扱う場合であっても適用できる。フレキシブル基板にあっては、
該基板を巻回するときに適用したり、該基板の裁断品に適用したりすることもできる。し
かしながら、保護の対象としてガラス基板の如きリジッドな基板(特に薄くかつ大サイズ
の基板、なかんずく機能層付きの基板)を念頭に置いている後述の基板の保護方法1、2
の使い方が重要であるので、以下においてはそれらの保護方法1、2を代表的な態様とし
て詳述することにする。
【0064】
(基板の保護方法1/基板の平置き積み重ね方式)
本発明の基板の保護方法1は、基板(B) の多数枚を平置き状に積み重ねた状態で保管、
搬送または輸送を行うにあたり、隣接する上下の基板(B), (B)間に上記の複合シート(a)
からなる保護部材(A) を介装して「../B/A/B/A/B/A/.. 」の積み重ね状態にすること、を
特徴とするものである。
【0065】
この保護方法1においては、上下の基板(B), (B)間に複合シート(a) からなる保護部材
(A) が介装された「../B/A/B/A/B/A/.. 」の積み重ね物が、適当な箱体や枠体内に収容さ
れた形で取り扱うのが通常である(その積み重ね物を一旦トレイ上に形成してから、適当
な箱体や枠体内に収容することもできる)。最下段の基板(B) の下には適当なクッション
材を置き、最上段の基板(B) の上にも適当なクッション材を置くことが多い。このときの
クッション材は複合シート(a) であってもよい。
【0066】
基板(B) の平置き状の積み重ね枚数に制限はないが、たとえば、数10枚から数100
枚とすることが多い。下段に位置する基板(B) ほどそれに加わる荷重は大きくなり、最下
段の基板(B) には全段の積算荷重が加わることになるが、本発明の基板の保護方法1によ
れば、G5やG6サイズはもとよりG10サイズやそれ以上というような基板(薄くかつ
大サイズの基板)を数10枚から数100枚積み重ねた場合でも、充分に輸送に耐えうる
ことを確認している。
【0067】
この保護方法1は、隣接する上下の基板(B), (B)間に上記の複合シート(a) からなる保
護部材(A) が接触状態で介装してあるにもかかわらず、基板(B) の損傷および汚染が有効
に防止されるというメリットがあり、しかも、各段間の間隙が最小限になるので、保管、
搬送または輸送時の効率の点でも好ましいものである。
【0068】
(基板の保護方法2/基板を載せたトレイの積み重ね方式)
本発明の基板の保護方法2は、
トレイ(T) 上に基板(B) を載置した単位載置体[B/T] を多段に積み重ね配置することに
より「../[B/T]/[B/T]/[B/T]/.. 」の多段体とした状態で保管、搬送または輸送を行うに
あたり、
中間各段の単位載置体[B/T] におけるトレイ(T) の基板支承部の上面側および下面側の
双方の必要部に上記の複合シート(a) からなる保護部材(A) を配置して単位載置体[B/A/T
/A] とすることにより「../[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/.. 」の多段体とすると共に

隣接する上段の単位載置体[B/A/T/A] の下側に位置する保護部材(A) と下段の単位載置
体[B/A/T/A] の上側に位置する層基板(B) との間に隙間を生じないようにしたこと、
を特徴とするものである。(なお、最下段の下や最上段の上については、適当なクッショ
ン材を設けることができる。)
【0069】
ここで「トレイ」とは「浅底の盆」のことであり、トレイ(C) の代表例は桟格子型のト
レイである。桟格子の例としては、周枠を除く桟が一方向に向かう平行形のものや、周枠
を除く桟が一方向およびそれと異なる方向に向かう直交または斜交型の碁盤目形のものが
あげられる。トレイ(C) は「平底を有する盆」であってもよいが、上記の桟格子型の方が
軽量化の点で有利である。
【0070】
トレイ(C) の基板支承部(周枠間をつなぐ桟のみでもよく、桟および周枠でもよい)に
対して複合シート(a) (保護部材(A) )を配置するに際しては、その基板支承部と基板(B
) とが接触する部分に複合シート(a) を貼付したり巻き付けたりするなどの手段により設
ければよいが、桟の間隔が狭いときには基板(B) のほぼ全体の面積大の複合シート(a) を
基板支承部と基板(B) との間に載置するようにしてもよい。
【0071】
この保護方法2にあっては、隣接する上段の単位載置体[B/A/T/A] の保護部材(A) と下
段の単位載置体[B/A/T/A] の基板(B) との間に隙間を生じないようにしてあるので、搬送
や輸送時に基板(B) の浮き上がりやばたつきが効果的に解消され、基板(B) のダメージや
トレイ自体に起因する発塵を有効に防止することができる。また、各段の基板(B) 間の間
隙を最小限にすることができるので、保管、搬送または輸送時の効率の点でも好ましいも
のとなる。
【実施例】
【0072】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0073】
実施例1
図1は、本発明の基板保護用の保護部材(A) である複合シート(a) の層構成の一例を模
式的に示した切断端面図である。
【0074】
(複合シート(a) の準備)
エチレン系重合体発泡シート(a1)として、発泡倍率が30倍でかつ厚みが1mm(増田理
化工業株式会社製のマイクロメータ「M110−25」を用いて測定)の独立気泡型の低
密度ポリエチレン発泡シートを準備した。
【0075】
メタロセン触媒を用いて重合することにより得られた、JIS K7112 法により測定した密
度が941kg/m3 でかつGPC法により測定した重量平均分子量Mw (7.7 ×104 )と数
平均分子量Mn (1.6 ×104 )との比であるMw /Mn 比が約5の高密度グレードのエチ
レン系重合体を準備し、これを溶融成形することにより、厚み50μm の高密度グレード
のエチレン系重合体の薄膜(a2)を得た。
【0076】
次に、ラミネート装置を用いて、上記のエチレン系重合体発泡シート(a1)の両面に上記
の高密度グレードのエチレン系重合体の薄膜(a2)を熱融着法によりラミネートすると共に
、そのまま1対のエンボスロール間を通してエンボス加工を行った。これにより、図1に
模式的な切断端面図を示したような(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有するエンボス加工された
厚み約 1.1mm(増田理化工業株式会社製のマイクロメーター「M110−25」を用いて
測定)の複合シート(a) を得た。
【0077】
(機能層付き基板(B) の準備)
機能層付き基板(B) として、厚み 0.7mmのガラス板の片面に機能層としてのカラーフィ
ルタ膜を形成したものを準備した。この機能層付き基板(B) のサイズはG4ないしG 4.5
サイズ(730mm×920mm)であり、1枚当りの重量は約 1.1kgである。
【0078】
[予備的な輸送試験]
大型のケースに次のようにして機能層付き基板(B) を収容した。すなわち、まずベース
パレット上に上記の複合シート(a) を1枚敷いてから、まず最下段の機能層付き基板(B)
を置くと共にその上から上記の複合シート(a) を置き、続いて機能層を設けていない同寸
法のガラス板(素板ガラス)と上記の複合シート(a) とを平置き状に交互に積み重ねてい
って、合計60枚の基板(最下段のみ機能層付き基板(B) )を積み上げた。次に、その積
み上げ物の上に所定数のアルミニウム板(比重は約 2.8)を置いて荷重調節を行った。こ
れにより、最下段の機能層付き基板(B) には自身を含めて基板(B) 換算で300枚分の荷
重がかかるようにした。なお、最下段のみ機能層付き基板(B) を用い、他は機能層を設け
ていないガラス板を用いると共に、荷重調節にアルミニウム板を用いたのは、試験費用を
抑えるためである。
【0079】
このようにして準備した基板(B) 入りのケースを、後述の比較例1〜3の基板(B) 入り
のケースと共にトラックに積載し、合計で300キロメートルの輸送試験を行った。実施
例1も比較例1〜3も同じ輸送条件となる。
【0080】
−比較例1−
(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有するエンボス加工された複合シート(a) に代えて、その複
合シート(a) の製造に用いた厚み1mmのエチレン系重合体発泡シート(a1)のみを用いた場
合について、実施例1と同様の輸送試験を行った。
【0081】
−比較例2−
上記の複合シート(a) の製造に用いた厚み1mmのエチレン系重合体発泡シート(a1)の両
側に、市販の高密度ポリエチレン(チーグラー触媒を用いてエチレンを重合して得られた
もの)の厚み50μm のフィルム(薄膜(a3)とする)を熱融着法によりラミネートすると
共に、実施例1の場合と同様にしてエンボス加工を行い、(a3)/(a1)/(a3)の層構成を有す
るエンボス加工された厚み約 1.1mmの複合シートを得た。そして、この複合シートを用い
て、実施例1と同様の輸送試験を行った。
【0082】
−比較例3−
上記の複合シート(a) の製造に用いた厚み1mmのエチレン系重合体発泡シート(a1)の両
側に、市販のリニア低密度ポリエチレンの厚み50μm のフィルム(薄膜(a4)とする)を
熱融着法によりラミネートすると共に、実施例1の場合と同様にしてエンボス加工を行い
、(a4)/(a1)/(a4)の層構成を有するエンボス加工された厚み約 1.1mmの複合シートを得た
。そして、この複合シートを用いて、実施例1と同様の輸送試験を行った。
【0083】
−評価方法と評価結果−
輸送試験の評価は、最下段の機能層付き基板(B) の機能層側の表面の状態を(イ)グリ
ーンランプ下での目視観察および(ロ)顕微鏡を用いての観察により調べ、汚染(発泡シ
ート(a1)や薄膜(a2, a3, a4)からの溶出分または揮発分に基く転写物)の度合いと損傷(
機能層の機械的なダメージ)の度合いを判断することにより行った。上記の実施例1およ
び比較例1〜3についての試験結果を表1に示す。
【0084】
評価は、輸送に供する前の機能層側の表面状態を「基準」として、10名の評価者によ
る評価点数を合計すると共にその合計点を10で除して平均点数とした。各評価者の評価
については、 0.5、 1.5、 2.5というような中間点も許容した。
0:汚染または損傷が全く認められない(「基準」との差が認められない)。
1:汚染または損傷がかすかに認められる。
2:わずかの汚染または損傷が認められる。
【0085】
[表1]

介装シート 最下段の基板(B) の機能層の状態
の層構成 汚染の度合い 損傷の度合い
実施例1 (a2)/(a1)/(a2) 0.1 0.2
比較例1 (a1) 1.5 0.9
比較例2 (a3)/(a1)/(a3) 1.1 0.4
比較例3 (a4)/(a1)/(a4) 1.0 0.6

【0086】
表1の結果から、機能層付き基板(B) を平置き状に積み重ねて搬送や輸送を行うに際し
、比較例1のように機能層付き基板(B) 間に発泡シート(a1)を介装させるだけでは、機能
層付き基板(B) の積み重ね段数を多くすることができないであろうことがわかる。また、
比較例2のように(a3)/(a1)/(a3)の層構成の複合シート、比較例3のように(a4)/(a1)/(a
4)の層構成の複合シートを機能層付き基板(B) 間に介装させる場合にも、実施例1のよう
には機能層付き基板(B) の積み重ね段数を多くすることはできないであろうことがわかる

【0087】
これに対し、実施例1のように(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有する複合シート(a) を介装
させた場合には、機能層付き基板(B) を少なくとも300枚分積み重ねた状態での輸送が
可能になることがわかる。
【0088】
実施例2
[大サイズの基板(B) の輸送試験]
1つのケースに次のようにして実施例1に準じて基板(B) を収容した。すなわち、ケー
スの内側の底面側に敷いた第1クッション材上に実施例1の(a2)/(a1)/(a2)の層構成の複
合シート(a) を1枚敷くと共に、その上からG6サイズ(1500mm×1850mm、厚み
0.7mm、1枚当りの重量は約 2.7kg)の基板(B) と複合シート(a) とを平置き状に交互に
積み重ねていって、合計30枚の基板(B) を積み上げた。次に、その積み上げ物の上に所
定数のアルミニウム板(比重は約 2.8)を置いて荷重調節を行った。これにより、最下段
の機能層付き基板(B) には自身を含めて基板(B) 換算で300枚分の荷重がかかるように
した。ついで、アルミニウム板の上から第2クッション材を置き、最後に全体を囲むよう
に蓋をした。なお、基板(B) を積み上げに際しては、最下段、下から10段目、下から2
0段目の3枚の基板(B) としてはITO層付き基板(B) を用い、残りの27枚の基板(B)
については素板ガラスを用いた。
【0089】
トレーラーの荷台にこのケースを、上下2段積みで前後方向に6列に積載して(ケース
数は計12個)、約300キロメートルの距離のトラック輸送を行った後、最下段、下か
ら10段目、下から20段目に用いた機能層(ITO層)付き基板(B) の機能層側の表面
を検査したが、機能層付き基板(B) の機能層に複合シート(a) が直接接触しているにもか
かわらず、3枚とも異常は認められなかった(判定は「合格」であった)。
【0090】
先の実施例1およびこの実施例2のような平置き積み上げ方式による輸送方法は、各基
板間の間隔が極小になる輸送効率の良い輸送方法であるが、そのような効率的な輸送方法
が機能層付き基板(B) についても可能となること、しかも300枚の機能層付き基板(B)
の積み重ね輸送が可能になることが実証されたことの意義は大きいものである。
【0091】
実施例3
[トレイ方式の輸送試験]
図2は、トレイ方式による基板(B) の載置方式におけるトレイ(T) の一例を簡略的に示
した平面図である。
図3は、図2のトレイ(T) を白抜き矢印の方向から見たときの桟格子(c2)の説明図であ
る。
図4は、各段のトレイ(T) (その桟格子(c2)には複合シート(a) を設置)に基板(B) を
載置したものを多段に積み重ねた状態を示した説明図である。
【0092】
トレイ(C) は、図2のように、周枠(c1)と桟格子(c2)とからなる。この実施例3におい
ては、図3のように、桟格子(c2)として、アルミニウム製の桟(c2-1)の上下にそれと同巾
の発泡成形体(c2-2), (c2-2)をそれぞれ固定したものを用いている。そして、1つのトレ
イ(C) の桟格子(c2)上に1枚の基板(B) を載置したものが、多段に積み重ねられる。
【0093】
この実施例3にあっては、それぞれの桟格子(c2)((c2-1)/(c2-2)/(c2-1)からなる)の
上下の面に複合シート(a) が貼付設置され、その複合シート(a) を介して桟格子(c2)上に
基板(B) が載置される。その際には、下段の桟格子(c2)上に複合シート(a) を介して載置
した基板(B) の上面と、上段の桟格子(c2)に巻かれた複合シート(a) の下面との間には、
隙間があかないように設計される。
【0094】
複合シート(a) として、実施例1で用いた図1の(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有するエン
ボス加工されたものを用い、基板(B) としてG6サイズ(厚みは 0.7mm)のものを機能層
付き基板(実施例2と同じくガラス板の片面に機能層としてのITO膜を形成したもの)
を用い、トレイ(C) の積み重ね段数は30段として、約300キロメートルの距離のトラ
ック輸送を行った後、機能層付き基板(B) の機能層側の表面を1枚1枚検査したが、全数
とも異常は認められなかった(判定は「合格」であった)。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に従って上記特定の保護シート(a) を保護部材(A) として用いることにより、各
種の基板(殊に機能層付きの基板)の保管、搬送または輸送を行うにあたり、その基板が
薄く大サイズの基板である場合を含め、確実に該基板の保護を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の基板保護用の保護部材(A) である複合シート(a) の層構成の一例を模式的に示した切断端面図である。
【図2】トレイ方式による基板(B) の載置方式におけるトレイ(T) の一例を簡略的に示した平面図である。
【図3】図2のトレイ(T) を白抜き矢印の方向から見たときの桟格子(c2)の説明図である。
【図4】各段のトレイ(T) (その桟格子(c2)には複合シート(a) を設置)に基板(B) を載置したものを多段に積み重ねた状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0097】
(A) …保護部材、
(a) …複合シート、
(a1)…エチレン系重合体発泡シート、
(a2)…高密度グレードのエチレン系重合体の薄膜、
(B) …基板、
(C) …トレイ、
(c1)…周枠、
(c2)…桟格子、
(c2-1)…アルミニウム製の桟、(c2-2)…発泡成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(B) の保管、搬送または輸送を行うにあたりその基板面に接触させる使い方をして
該基板(B) の保護を図るための保護部材(A) であって、該保護部材(A) が、
・エチレン系重合体発泡シート(a1)の少なくとも片面に、
・メタロセン触媒を用いて重合することにより得られた高密度グレードのエチレン系重
合体の薄膜(a2)がラミネートされた、
・(a2)/(a1) または(a2)/(a1)/(a2)の層構成を有する複合シート(a) からなること、
を特徴とする基板保護用の保護部材。
【請求項2】
前記薄膜(a2)を構成する高密度グレードのエチレン系重合体が、メタロセン触媒を用い
て重合することにより得られた、JIS K7112 法により測定した密度が940kg/m3 以上で
かつGPC法により測定した重量平均分子量Mw と数平均分子量Mn との比Mw /Mn
3〜6のエチレン系重合体である請求項1記載の基板保護用の保護部材。
【請求項3】
前記のエチレン系重合体発泡シート(a1)と前記の高密度グレードのエチレン系重合体の
薄膜(a2)とのラミネートが熱融着によりなされている請求項1記載の基板保護用の保護部
材。
【請求項4】
前記基板(B) が、少なくとも片面に機能層を有する機能層付き基板である請求項1記載
の基板保護用の保護部材。
【請求項5】
前記複合シート(a) がエンボス加工されたものである請求項1記載の基板保護用の保護
部材。
【請求項6】
基板(B) の多数枚を平置き状に積み重ねた状態で保管、搬送または輸送を行うにあたり

隣接する上下の基板(B), (B)間に請求項1の複合シート(a) からなる保護部材(A) を介
装して「../B/A/B/A/B/A/.. 」の積み重ね状態にすること、
を特徴とする基板の保護方法。
【請求項7】
トレイ(T) 上に基板(B) を載置した単位載置体[B/T] を多段に積み重ね配置することに
より「../[B/T]/[B/T]/[B/T]/.. 」の多段体とした状態で保管、搬送または輸送を行うに
あたり、
中間各段の単位載置体[B/T] におけるトレイ(T) の基板支承部の上面側および下面側の
双方の必要部に請求項1の複合シート(a) からなる保護部材(A) を配置して単位載置体[B
/A/T/A] とすることにより「../[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/[B/A/T/A]/.. 」の多段体とすると
共に、
隣接する上段の単位載置体[B/A/T/A] の下側に位置する保護部材(A) と下段の単位載置
体[B/A/T/A] の上側に位置する基板(B) との間に隙間を生じないようにしたこと、
を特徴とする基板の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−275006(P2010−275006A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131974(P2009−131974)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(591056097)淀川ヒューテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】