説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】処理液の液密空間への気体の混入を抑制または防止して、基板の一方面の全域に、処理液を用いた処理を均一に施すことができる基板処理方法および基板処理装置を提供すること。
【解決手段】上処理空間41および下処理空間42にそれぞれIPA液が供給される。空間41,42に供給される薬液によって、空間41,42に元から存在する空気は、空間41,42外に押し出される((a)参照)。空間41,42がIPA液により液密状態にされた後((b)参照)、空間41,42に薬液が供給される((c)参照)。空間41,42が液密状態に維持されつつ、空間41,42内のIPA液が薬液に置換されていく。その後、空間41,42が薬液により液密状態にされて、ウエハWの上面および下面が薬液により洗浄される((d)参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象の基板には、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、FED(Filed Emission Display)用ガラス基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板などの基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置の製造工程では、半導体ウエハや液晶表示パネル用ガラス基板などの基板の表面に処理液による処理を施すために、基板を1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置が用いられることがある。このような基板処理装置は、たとえば、基板をほぼ水平に保持する基板保持部材と、基板保持部材に保持する基板の表面に所定の微小間隔を隔てて対向配置されるプレートと、基板と対向するプレートの対向面に形成されて、処理液を吐出する吐出口とを備えている。吐出口から吐出された処理液は、基板の表面とプレートとの間の空間に供給されて、当該空間を液密状態にする。基板の表面とプレートとの間の空間が処理液により液密状態にされるために、基板の表面の全域に処理液が接液される。これにより、処理液による処理が基板の表面に施される。
【特許文献1】特開平8−78368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、処理液(たとえば純水)と空気との間に、気液界面が容易に形成されるため、基板の表面とプレートとの間の空間を処理液により液密にする過程で、当該空間に元から存在していた空気が捕獲されてしまうことがある。その結果、液密状態の当該空間に気泡が滞留するおそれがある。
気泡が滞留する領域では、基板の表面に処理液を接液させることができず、所期の処理が進行しないおそれがある。このため、処理液による処理が基板の面内で不均一となるおそれがある。
【0004】
そこで、この発明の目的は、処理液の液密空間への気体の混入を抑制または防止して、基板の一方面の全域に、処理液を用いた処理を均一に施すことができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、基板(W)の一方面に間隔を隔てて対向する対向面(19,9)を有するプレート(2,4)を有し、基板に処理液による処理を施す基板処理装置において実行される基板処理方法であって、前記基板および前記プレートに対する接触角が、前記処理液の前記基板および前記プレートに対する接触角よりも小さい前供給液を、基板の中心に対向して前記対向面に形成された吐出口(28,17)を通じて、基板の一方面と前記プレートとの間に供給し、基板の一方面と前記プレートとの間の空間(41,42)を前供給液により液密状態にする前供給液液密工程(S3,S4)と、前記空間が前供給液により液密状態になった後、基板の一方面と前記プレートとの間に処理液を供給することにより、当該空間内を液密状態に維持しつつ、当該空間内の前供給液を処理液に置き換える処理液置換工程(S6)と、前供給液の置換後、前記空間を処理液により液密状態にして、基板の一方面に当該処理液を接液させる処理液接液工程(S7)とを含む、基板処理方法である。
【0006】
なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
この方法によれば、基板の一方面が処理液に接液される前に、基板の一方面とプレートとの間の空間が、一旦、前供給液により液密状態にされる。基板およびプレートに対する前供給液の接触角が処理液に比較して小さいため、前記空間に供給された前供給液は、基板およびプレートによくなじむので、その周囲の気体との間に気液界面が形成されにくい。そのため、前記空間においては、空気は比較的移動し易い。このため、前記空間内に供給される薬液によって、元から空間内に存在している気体が、前記空間外へとスムーズに押し出される。したがって、前供給液により液密状態にされた後の前記空間には気泡がほとんど存在しない。
【0007】
その後、前記空間が液密状態に維持されたまま、前記空間内の前供給液が処理液に置換される。そして、前記空間が処理液により液密状態にされて、基板に処理液による処理が施される。前記空間を液密状態に維持しつつ前供給液から処理液への置換が行われるので、処理液により液密状態にされた後の前記空間にも、気泡がほとんど存在しない。これにより、処理液を、基板の一方面の全域にむらなく接液させることができる。ゆえに、基板の一方面の全域に対して、均一な処理を施すことができる。
【0008】
前供給液としては、IPA(イソプロパノール)、エタノール、メタノール等のアルコール溶剤、HFE(ハイドロフルオロエーテル)などのフッ素系溶剤、および界面活性剤を含む液体などを用いることができる。
請求項2記載のように、前記処理液置換工程における処理液の供給は、前記前供給液液密工程における前供給液の供給に連続して実行されることが好ましい。
【0009】
この方法によれば、前記空間への前供給液の供給に続けて、前記空間に処理液が供給される。これにより、新たに気泡が混入することなく、前記空間を液密状態に維持することができる。
請求項3記載の発明は、前記処理液置換工程は、前記吐出口に前供給液を供給するための配管(16,27,43,44)および前記吐出口を通して、基板の一方面と前記プレートとの間に前記処理液を供給する工程を含む、請求項1または2記載の基板処理方法である。
【0010】
この方法によれば、前供給液と処理液とを共通の配管を通して前記空間に吐出させるために、前供給液の配管内への残留がほとんどなくなる。このため、配管から落液した前供給液により基板を汚染されることを防止することができる。
また、前供給液と処理液とを共通の吐出口から吐出させるために、前記空間に供給された処理液により、前記空間における液の流れが阻害されるおそれがほとんどない。これにより、処理液置換工程において、新たに気泡が混入することなく、前記空間を液密状態に維持することができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、基板(W)に処理液による処理を施す基板処理装置であって、 基板の一方面に間隔を隔てて対向する対向面(19,9)を有し、この対向面に吐出口(28,17)が形成されたプレート(2,4)と、前記基板および前記プレートに対する接触角が、前記処理液の前記基板および前記プレートに対する接触角よりも小さい前供給液を、前記吐出口に供給するための前供給液供給手段(46,48)と、基板の一方面と前記プレートとの間に処理液を供給するための処理液供給手段(34,24;33,23)と、前記前供給液供給手段を制御して、基板の一方面と前記プレートとの間の空間を前供給液により液密状態にするとともに、前記処理液供給手段を制御して、前記空間内の前供給液を処理液に置換し、前記空間を処理液により液密状態にする制御手段(50)とを含む、基板処理装置である。
【0012】
この構成によれば、請求項1に関連して述べた作用効果と同様な作用効果を達成することができる。
請求項5記載の発明は、前記プレートの少なくとも基板の一方面に対向する領域が石英を用いて形成されている、請求項4記載の基板処理装置である。
この構成によれば、プレートの少なくとも基板の一方面に対向する領域が、親水性の材料である石英で形成されている。そのため、基板の一方面とプレートとの間に供給された前供給液がプレートに一層なじむ。これにより、前記空間から気泡をより確実に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を図解的に示す断面図である。
この基板処理装置は、基板の一例である半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」という。)Wの表面および裏面の双方に対して処理液による処理を施すための枚葉式の装置であり、ウエハWを保持する有底略円筒形状の基板下保持部材1と、基板下保持部材1の上方で、基板下保持部材1と対向する円板状の上プレート2とを備えている。ウエハWの表面および裏面に処理を施すための処理液として、たとえば薬液およびDIW(脱イオン化された純水)が用いられる。この薬液として、フッ酸、バファードフッ酸(Buffered HF:フッ酸とフッ化アンモニウムとの混合液)、SC1(アンモニア過酸化水素水混合液)、SC2(塩酸過酸化水素水混合液)、SPM(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:硫酸過酸化水素水混合液)およびポリマ除去液などを例示することができる。
【0014】
図2Aは、基板下保持部材1の斜視図であり、図2Bは、基板下保持部材1の構成を図解的に示す平面図である。図2Aには、基板下保持部材1上にウエハWを保持させた状態を示している。
図1、図2Aおよび図2Bを参照して、基板下保持部材1は、ウエハWよりもやや大径の円板状に形成された下プレート部4と、下プレート部4と隣接し、下プレート部4の周囲を取り囲む略円筒形に形成された内側環状部5と、内側環状部5を取り囲む略円筒形に形成された外側環状部6と、内側環状部5の下部と外側環状部6の下部とを接続する円環状の連結部7とを備えている。
【0015】
下プレート部4は、この下プレート部4に保持されたウエハWの下面と対向する基板対向面9を上方に向けて配置されている。基板対向面9は、略平坦な水平面である。基板下対向面9の周縁部には、ウエハWを挟持するための複数(たとえば、3つ)の支持ピン8がほぼ等間隔で配置されている。基板対向面9は、複数の支持ピン8で支持されたウエハWの下面と所定の間隔P1(たとえば、0.5mm〜2.0mm)を隔てて対向するようになっている。下プレート部4は、石英によって形成されている。
【0016】
内側環状部5は、後述する回転軸10の中心軸線を中心とする略円筒状に形成されており、その上面が、下プレート部4に保持された状態のウエハWとほぼ同じ高さにされている。
外側環状部6は、後述する回転軸10の中心軸線を中心とする略円筒状に形成されており、その内周面の上端部には、上プレート2の周縁を受け止めるための環状段部11が、内外の環状部5,6間に形成されている。すなわち、上プレート2と環状段部11とが嵌り合うことで、上プレート2が後述する処理位置に位置決めされる。環状段部11の下面は、内側環状部5の上面よりも高くされている。
【0017】
連結部7の上方には、薬液などの液を廃液するための廃液溝14が形成されている。廃液溝14は、内側環状部5の外周面、外側環状部6の内周面および連結部7の上面により区画されており、ウエハWの回転軸線(後述する回転軸10の中心軸線)を中心とする円環状の溝である。連結部7には、その上下面を貫通する複数(たとえば、6つ)の廃液孔12が、回転軸10の中心軸線を中心とする円周上にほぼ等間隔で配置されている。各廃液孔12には、図外の廃液処理設備へと導くための廃液路13が接続されている。内側環状部5、外側環状部6および連結部7は、たとえばポリ塩化ビニル(poly-vinyl chloride)により一体に形成されている。
【0018】
下プレート部4の下面には、鉛直方向に延びる回転軸10が結合されている。この回転軸10には、モータ15から回転力が入力されるようになっている。
また、回転軸10は中空軸となっていて、回転軸10の内部には、下面処理流体供給管16が挿通されている。下面処理流体供給管16は、下プレート部4の基板下対向面9まで延びており、基板下対向面9の中央部に開口された下側吐出口17と連通している。下面処理流体供給管16は、回転軸10の回転に伴って回転されるようになっている。下面処理流体供給管16には、図示しないロータリージョイントを介して、静止状態にある下供給管44が接続されている。下供給管44には、薬液下供給管20、DIW下供給管21、IPA蒸気下供給管22およびIPA液下供給管45が接続されている。
【0019】
薬液下供給管20には薬液供給源からの薬液が供給されるようになっている。薬液下供給管20の途中部には、薬液の供給/停止を切り換えるための薬液下バルブ23が介装されている。
DIW下供給管21には、DIW供給源からのDIWが供給されるようになっている。DIW下供給管21の途中部には、DIWの供給/停止を切り換えるためのDIW下バルブ24が介装されている。
【0020】
IPA蒸気下供給管22には、IPA蒸気供給源からのIPA蒸気が供給されるようになっている。IPA蒸気下供給管22の途中部には、IPA蒸気の供給/停止を切り換えるためのIPA蒸気下バルブ25が介装されている。
IPA液下供給管45には、IPA液供給源からの前供給液としてのIPA液が供給されるようになっている。IPA液下供給管45の途中部には、IPA液の供給/停止を切り換えるためのIPA液下バルブ46が介装されている。
【0021】
DIW下バルブ24、IPA蒸気下バルブ25およびIPA液下バルブ46が閉じられた状態で、薬液下バルブ23が開かれると、薬液供給源からの薬液が、薬液下供給管20、下供給管44および下面処理流体供給管16を通じて下側吐出口17に供給される。また、薬液下バルブ23、IPA蒸気下バルブ25およびIPA液下バルブ46が閉じられた状態で、DIW下バルブ24が開かれると、DIW供給源からのDIWが、薬液下供給管20、下供給管44および下面処理流体供給管16を通じて下側吐出口17に供給される。さらに、薬液下バルブ23、DIW下バルブ24およびIPA液下バルブ46が閉じられた状態でIPA蒸気下バルブ25が開かれると、IPA蒸気供給源からのIPA蒸気が、IPA蒸気下供給管22、下供給管44および下面処理流体供給管16を通じて下側吐出口17に供給される。さらにまた、薬液下バルブ23、DIW下バルブ24およびIPA蒸気下バルブ25が閉じられた状態でIPA液下バルブ46が開かれると、IPA液供給源からのIPA液が、IPA液下供給管45、下供給管44および下面処理流体供給管16を通じて下側吐出口17に供給される。
【0022】
上プレート2は、ウエハWよりも大径の円板状のものであり、石英によって形成されている。この上プレート2は、下プレート部4に保持されるウエハWに対向する基板上対向面19を下方に向けて配置されている。基板上対向面19は、平坦な水平面である。
上プレート2の上面には、回転軸10と共通の軸線に沿う回転軸26が固定されている。この回転軸26は中空に形成されていて、その内部には、上面処理流体供給管27が挿通されている。上面処理流体供給管27は、上プレート2の基板上対向面19まで延びており、基板上対向面19の中央部に開口された上側吐出口28と連通している。
【0023】
上面処理流体供給管27は、回転軸26の回転に伴って回転されるようになっている。上面処理流体供給管27には、図示しないロータリージョイントを介して、静止状態にある上供給管43が接続されている。上供給管43には、薬液上供給管30、DIW上供給管31、IPA蒸気上供給管32およびIPA液上供給管32が接続されている。
薬液上供給管30には、薬液供給源からの薬液が供給される。薬液上供給管30の途中部には、薬液の供給/停止を切り換えるための薬液上バルブ33が介装されている。
【0024】
DIW上供給管31には、DIW供給源からのDIWが供給される。DIW上供給管31の途中部には、DIWの供給/停止を切り換えるためのDIW上バルブ34が介装されている。
IPA蒸気上供給管31には、図示しないIPA蒸気供給源からのIPA蒸気が供給される。IPA蒸気上供給管31の途中部には、IPA蒸気の供給/停止を切り換えるためのIPA蒸気上バルブ35が介装されている。
【0025】
IPA液上供給管47には、IPA液供給源からのIPA液が供給されるようになっている。IPA液上供給管47の途中部には、IPA液の供給/停止を切り換えるためのIPA液上バルブ48が介装されている。
DIW上バルブ34、IPA蒸気上バルブ35およびIPA液上バルブ48が閉じられた状態で、薬液上バルブ33が開かれると、薬液供給源からの薬液が、薬液上供給管30、上供給管43および上面処理流体供給管27を通じて上側吐出口28に供給される。また、薬液上バルブ33、IPA蒸気上バルブ35およびIPA液上バルブ48が閉じられた状態で、DIW上バルブ34が開かれると、DIW供給源からのDIWが、DIW上供給管31、上供給管43および上面処理流体供給管27を通じて上側吐出口28に供給される。さらに、薬液上バルブ33、DIW上バルブ34およびIPA液上バルブ48が閉じられた状態で、IPA蒸気上バルブ35が開かれると、IPA蒸気供給源からのIPA蒸気が、IPA蒸気供給管32、上供給管43および上面処理流体供給管27を通じて上側吐出口28に供給される。さらにまた、薬液上バルブ33、DIW上バルブ34およびIPA蒸気上バルブ35が閉じられた状態でIPA液上バルブ48が開かれると、IPA液供給源からのIPA液が、IPA液上供給管47、上供給管43および上面処理流体供給管27を通じて上側吐出口28に供給される。
【0026】
回転軸26は、昇降可能な昇降部材36によって上方から支持されている。回転軸26の外周面には、その上端部に径方向外方に向けて突出する円環状のフランジ部37が形成されている。昇降部材36は、フランジ部37よりも下方において回転軸26の外周面を取り囲む円環状の支持板38を備えている。支持板38の内周縁は、フランジ部37の外周縁よりも小径とされている。支持板38の上面とフランジ部37の下面とが係合することにより、回転軸26が昇降部材36に支持される。
【0027】
昇降部材36には、昇降部材36を昇降させるための昇降駆動機構40が結合されている。昇降駆動機構40が駆動されることにより、回転軸26に固定された上プレート2が、下プレート部4に保持されたウエハWの上面に近接する処理位置(図1に実線にて図示。)と下プレート部4の上方に大きく退避した退避位置(図1に二点鎖線にて図示。)との間で昇降されるようになっている。
【0028】
上プレート2を処理位置まで下降させて、ウエハWに処理液を用いた処理が施される。処理位置において、上プレート2は、下プレート部4に保持されたウエハWの上面と、所定の間隔P2(たとえば1.0mm)を隔てて対向する。
昇降駆動機構40が駆動されて、上プレート2が退避位置から処理位置まで下降されると、上プレート2の周縁部が、外側環状部6の環状段部11に受け止められる。そして、昇降部材36がさらに下降されると、支持部材38とフランジ部37との係合が解除されて、回転軸26および上プレート2は、昇降部材36から離脱して、基板下保持部材1に支持される。そのため、処理位置においては、上プレート2が、基板下保持部材1と一体的に回転されるようになっている。したがって、ウエハWを下プレート部4に保持した状態で回転軸26にモータ15から回転駆動力を入力することにより、上プレート2、下プレート部4およびウエハWを、鉛直軸線周りに回転させることができる。
【0029】
図3は、前記基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
この基板処理装置は、マイクロコンピュータを含む構成の制御装置50を備えている。
この制御装置50には、モータ15、昇降駆動機構40、薬液上バルブ33、DIW上バルブ34、IPA蒸気上バルブ35、薬液下バルブ23、DIW下バルブ24およびIPA蒸気下バルブ25などが接続されている。
【0030】
図4は、前記基板処理装置で行われる処理例を説明するためのフローチャートである。図5は、前記基板処理装置で行われる処理例を説明するための図である。以下、疎水性のシリコンウエハからなるウエハWを洗浄する場合を例にとって説明する。
処理対象のウエハWは、図示しない搬送ロボットによって基板処理装置内に搬入されて、その表面を上方に向けた状態で基板下保持部材1の下プレート部4に保持される。なお、このウエハWの搬入時においては、上プレート2は退避位置にある。
【0031】
下プレート部4にウエハWが保持されると、制御装置50は昇降駆動機構40を駆動して、上プレート2を処理位置まで下降させて、その基板上対向面19を、ウエハWの上面に対向配置させる(ステップS2)。
上プレート2が処理位置まで下降すると、制御装置50は、IPA液上バルブ48およびIPA液下バルブ46を開く(ステップS3)。これにより、上供給管43および上供給管43には、それぞれ、IPA液上供給管47およびIPA液下供給管45からIPA液が付与される。上供給管43に与えられたIPA液は、上面処理流体供給管27を通して上側吐出口28から吐出される。また、下供給管44に与えられたIPA液は、下面処理流体供給管16を通して下側吐出口17から吐出される。このIPA液は、シリコン材料および石英材料に対する接触角が比較的小さい(薬液のそれぞれに対する接触角よりも小さく、また、DIWのそれぞれに対する接触角よりも小さい)。上側吐出口28からのIPA液は、ウエハWの上面と上プレート2の基板上対向面19とで挟まれた上処理空間41に供給され、この上処理空間41を、上側吐出口28を中心とする放射状に拡がる。また、下側吐出口17からのIPA液は、ウエハWの下面と下プレート部4の基板下対向面9とで挟まれた下処理空間42に供給され、この下処理空間42を、下側吐出口17を中心とする放射状に拡がる(図5(a)参照)。ウエハW、上プレート2および下プレート部4に対するIPA液の接触角が比較的小さいため、上処理空間41および下処理空間42に供給されたIPA液は、ウエハW、上プレート2および下プレート部4になじむ。IPA液はとくに、親水性の材料である石英で形成された上プレート2および下プレート部4によくなじむ。したがって、IPA液とその周囲の空気との間に気液界面が形成されにくく、上処理空間41および下処理空間42における空気の移動度が比較的高い。このため、空間41,42に元から存在する空気は、上処理空間41および下処理空間42に供給されるIPA液によって、空間41,42外に押し出される。
【0032】
上側吐出口28および下側吐出口17からのIPA液の吐出が続行されて、上プレート2と下プレート部4とで挟まれた空間にIPA液が充填されていく。これにより、上処理空間41および下処理空間42がIPA液により液密状態にされる(図5(b)参照)。IPA液により液密状態にされた後の上処理空間41および下処理空間42には気泡がほとんど存在しない。
【0033】
予め定めるIPA処理時間(たとえば、1〜10秒間)が経過して(ステップS4でYES)、上処理空間41および下処理空間42がIPA液により液密状態にされると、制御装置50は、IPA液上バルブ48およびIPA液下バルブ46を閉じるとともに、薬液上バルブ33および薬液下バルブ23を開く(ステップS5)。これにより、上供給管43へのIPA液の供給は停止されて、上供給管43には、薬液上供給管30から薬液が供給される。また、下供給管44へのIPA液の供給は停止されて、上供給管43には、薬液下供給管20から薬液が供給される。このとき、IPA液上バルブ48およびIPA液下バルブ46を閉塞と、薬液上バルブ33および薬液下バルブ23の開成とがほぼ同時に行われるので、IPA液からの薬液への切換時において、上処理空間41および下処理空間42をそれぞれ液密状態に維持することができる。
【0034】
上供給管43に与えられた薬液は、上面処理流体供給管27を通して上側吐出口28から吐出される(図5(c)参照)。上側吐出口28から上処理空間41に供給された薬液は、IPA液で液密状態にされた上処理空間41内を、IPA液と混ざりつつ拡がっていく。また、下供給管44に与えられた薬液は、下面処理流体供給管16を通して下側吐出口17から吐出される(図5(c)参照)。下側吐出口17から下処理空間42に供給された薬液は、IPA液で液密状態にされた下処理空間42内を、IPA液と混ざりつつ拡がっていく。
【0035】
そして、上処理空間41および下処理空間42が液密状態に維持されつつ、各空間41,42内のIPA液が薬液に徐々に置換されていく。その結果、上処理空間41および下処理空間42のIPA液の薬液濃度が上昇していく。各空間41,42への薬液の供給に伴って、上処理空間41および下処理空間42が薬液により液密状態にされる。
また、IPA液と同様に、薬液が配管43,27を通して上処理空間41に吐出され、配管44,16を通して下処理空間42に吐出されるので、上供給管43、上面処理流体供給管27、下供給管44および下面処理流体供給管16の内部にIPA液が残留することを防止することができる。これにより、各配管43,27,44,16からウエハWに向けてIPA液が落液して、ウエハWを汚染することを防止することができる。
【0036】
さらに、IPA液と同様に、薬液が上側吐出口28および下側吐出口から吐出されるので、各空間41,42に供給された薬液が、前記空間41,42におけるIPA液の流れを阻害するおそれがほとんどない。
その後、上側吐出口28および下側吐出口17からの薬液の吐出が続行されることにより、上処理空間41および下処理空間42は、薬液により液密状態に維持される。これにより、ウエハWの上面および下面に薬液を接液させることができ、ウエハWの上面および下面を薬液により洗浄することができる(図5(d)参照)。なお、上処理空間41および下処理空間42から溢れる薬液は、上プレート2の基板上対向面19と内側環状部5の上面との間、廃液溝14、廃液孔12および廃液路13を順に通って図外の廃液処理設備へと導かれる。
【0037】
また、上処理空間41および下処理空間42は比較的狭くされている。そのため、その上処理空間41および下処理空間42を少量の薬液で液密状態にすることができる。これにより、薬液の消費量を低減させることができる。
予め定める薬液処理時間(たとえば、30秒間)が経過すると(ステップS6でYES)、制御装置50は薬液上バルブ33および薬液下バルブ23を閉じて、上側吐出口28および下側吐出口17からの薬液の吐出を停止する(ステップS7)。
【0038】
次に、制御装置50は、DIW上バルブ34およびDIW下バルブ24を開き、上側吐出口28および下側吐出口17からDIWを吐出する(ステップS8)。これにより、上処理空間41および下処理空間42に液密状態が維持されたまま、上処理空間41および下処理空間42の薬液がDIWに順次に置換されていき、やがて、上処理空間41および下処理空間42がDIWにより液密状態にされる。
【0039】
その後、上側吐出口28および下側吐出口17からのDIWの吐出が続行されて、上処理空間41および下処理空間42は、DIWにより液密状態に維持される。これにより、ウエハWの上面および下面にDIWを接液させることができ、ウエハWの上面および下面に付着している薬液をDIWによって洗い流すことができる。なお、上処理空間41および下処理空間42から溢れるDIWは、上プレート2の基板上対向面19と内側環状部5の上面との間、廃液溝14、廃液孔12および廃液路13を順に通って図外の廃液処理設備へと導かれる。
【0040】
予め定めるリンス処理時間(たとえば、60秒間)が経過すると(ステップS9でYES)、制御装置50はDIW上バルブ34およびDIW下バルブ24を閉じて、上側吐出口28および下側吐出口17からのDIWの供給を停止する(ステップS10)。
次に、制御装置50は、IPA蒸気上バルブ35およびIPA蒸気下バルブ25を開き、上側吐出口28および下側吐出口17からIPA蒸気を吐出させる(ステップS11)。また、制御装置50は、モータ15を制御して、ウエハWを予め定める乾燥速度(たとえば、2500rpm)で高速回転させる(ステップS11)。これにより、ウエハWの上面および下面に付着しているDIWが遠心力によって振り切られてウエハWが乾燥処理される。
【0041】
この乾燥処理では、上プレート2の基板上対向面19および下プレート部4の基板下対向面9が、それぞれウエハWの上面および下面に近接して対向されているために、ウエハWの上面および下面が外部雰囲気から遮断されている。そして、上処理空間41および下処理空間42にIPA蒸気が供給されることにより、ウエハWの上面および下面に付着しているDIWがIPAに置換され、IPA蒸気の揮発性によってウエハWの上面および下面が乾燥されていく。このため、乾燥の過程でウエハWの下面にDIWの跡などを残すことなく、ウエハWの上面および下面を速やかに乾燥させることができる。
【0042】
所定の乾燥時間(たとえば、30秒間)が経過すると(ステップS12でYES)、制御装置50は、モータ15を制御して基板下保持部材1を回転停止させるとともに、IPA蒸気上バルブ35およびIPA蒸気下バルブ25を閉じて、上側吐出口28および下側吐出口17からのIPA蒸気の供給を停止する(ステップS13)。
基板下保持部材1の回転停止後、制御装置50は昇降駆動機構40を駆動して、上プレート2を退避位置に向けて上昇させる(ステップS14)。その後、図示しない搬送ロボットによってウエハWが搬出される(ステップS15)。
【0043】
以上のように、この実施形態によれば、ウエハWへの薬液の供給の前に、上処理空間41および下処理空間42が、一旦、IPA液により液密状態にされる。ウエハW、上プレート2および下プレート部4に対するIPA液の接触角が比較的小さいため、上処理空間41および下処理空間42に供給されたIPA液は、ウエハW、上プレート2および下プレート部4によくなじみ、その周囲の空気との間に気液界面が形成されにくい。そのため、上処理空間41および下処理空間42では空気の移動度が比較的高い。したがって、上処理空間41および下処理空間42に供給されるIPA液によって、空間41,42に存在する空気が押し出される。このため、IPA液により液密状態にされた後の上処理空間41および下処理空間42には気泡がほとんど存在しない。
【0044】
その後、上処理空間41および下処理空間42が液密状態に維持されたまま、空間41,42内のIPA液が薬液に置換される。そして、上処理空間41および下処理空間42が薬液により液密状態にされて、ウエハWに薬液による処理が施される。上処理空間41および下処理空間42において、IPA液から薬液への置換を、空間41,42を液密状態に維持しつつ行うので、薬液により液密状態にされた後の空間41,42にも気泡がほとんど存在しない。これにより、薬液を、ウエハWの上面および下面の全域にむらなく接液させることができる。ゆえに、ウエハWの上面および下面の全域に対して、均一な処理を施すことができる。
【0045】
また、上プレート2および下プレート部4が、親水性の材料である石英で形成されている。そのため、上処理空間41および下処理空間42に供給されたIPA液が上プレート2および下プレート部4に一層なじむ。これにより、上処理空間41および下処理空間42から気泡をより確実に除去することができる。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、他の形態で実施することもできる。たとえば、前記の実施形態では、前供給液としてIPA液を例示したが、IPA液に代えて、エタノール、メタノールその他のアルコール溶剤を前供給液に適用することができる。また、前供給液として、HFE(ハイドロフルオロエーテル)などのフッ素系溶剤を用いてもよいし、界面活性剤を含む液体を用いてもよい。
【0046】
前供給液としてHFE液を用いる場合、HFE液によって液密状態にされた上処理空間41および下処理空間42に、それぞれ、上側吐出口28および下側吐出口17から薬液が供給されると、薬液はHFE液と混ざらずに、HFE液を押し出すように拡がる。その後、上処理空間41および下処理空間42が薬液により液密状態にされる。
また、上処理空間41および下処理空間42のIPA液を薬液ではなく、DIWで置換させてもよい。この場合、DIWでの置換後、上処理空間41および下処理空間42に薬液が供給されて、空間41、42が薬液で液密状態になる。これにより、ウエハWに薬液を用いた処理が施される。
【0047】
また、たとえば、前記の実施形態では、処理液として、薬液とDIWとを用いる場合を例示したが、処理液としてDIWだけを用いることもできる。かかる場合、ステップS5〜S7の薬液に代えてDIWとし、ステップS8〜S10のリンス処理に関する工程を省くことができる。また、DIWに限らず、炭酸水、イオン水、オゾン水、還元水(水素水)または磁気水などの機能水を処理液として用いることもできる。
【0048】
また、IPA液の供給時に、上プレート2および下プレート部4の少なくとも一方を回転させてもよい。これにより、上処理空間41および下処理空間42に気泡が生じても、この気泡を除去することができる。
また、たとえば、上プレート2および下プレート部4の材質が親水性の石英に限らず、非親水性のポリ塩化ビニル(poly-vinyl chloride)などの材質であってもよい。この場合でも、処理液の供給前に、上処理空間41および下処理空間42をIPA等の前供給液で液密状態にすることにより、上プレート2および下プレート部4の表面に対する接触角を小さくすることができ、空間41,42の気泡を遠心力によって除去することができる。
【0049】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の一実施形態に係る基板処理装置の構成を図解的に示す断面図である。
【図2A】基板下保持部材の斜視図である。
【図2B】基板下保持部材の構成を図解的に示す平面図である。
【図3】基板処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】基板処理装置で行われる処理例を説明するためのフローチャートである。
【図5】基板処理装置で行われる処理例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0051】
1 基板下保持部材
2 上プレート
4 下プレート部
9 基板下対向面
15 モータ(回転手段)
16 下面処理流体供給管(配管)
17 下側吐出口
19 基板上対向面
27 上面処理流体供給管(配管)
28 上側吐出口
41 上処理空間
42 下処理空間
43 上供給管(配管)
44 下供給管(配管)
46 IPA液下バルブ
48 IPA液上バルブ
50 制御装置
P1 間隔
P2 間隔
W ウエハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方面に間隔を隔てて対向する対向面を有するプレートを有し、基板に処理液による処理を施す基板処理装置において実行される基板処理方法であって、
前記基板および前記プレートに対する接触角が、前記処理液の前記基板および前記プレートに対する接触角よりも小さい前供給液を、基板の中心に対向して前記対向面に形成された吐出口を通じて、基板の一方面と前記プレートとの間に供給し、基板の一方面と前記プレートとの間の空間を前供給液により液密状態にする前供給液液密工程と、
前記空間が前供給液により液密状態になった後、基板の一方面と前記プレートとの間に処理液を供給することにより、当該空間内を液密状態に維持しつつ、当該空間内の前供給液を処理液に置き換える処理液置換工程と、
前供給液の置換後、前記空間を処理液により液密状態にして、基板の一方面に当該処理液を接液させる処理液接液工程とを含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記処理液置換工程における処理液の供給は、前記前供給液液密工程における前供給液の供給に連続して実行される、請求項1記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記処理液置換工程は、前記吐出口に前供給液を供給するための配管および前記吐出口を通して、基板の一方面と前記プレートとの間に前記処理液を供給する工程を含む、請求項1または2記載の基板処理方法。
【請求項4】
基板に処理液による処理を施す基板処理装置であって、
基板の一方面に間隔を隔てて対向する対向面を有し、この対向面に吐出口が形成されたプレートと、
前記基板および前記プレートに対する接触角が、前記処理液の前記基板および前記プレートに対する接触角よりも小さい前供給液を、前記吐出口に供給するための前供給液供給手段と、
基板の一方面と前記プレートとの間に処理液を供給するための処理液供給手段と、
前記前供給液供給手段を制御して、基板の一方面と前記プレートとの間の空間を前供給液により液密状態にするとともに、前記処理液供給手段を制御して、前記空間内の前供給液を処理液に置換し、前記空間を処理液により液密状態にする制御手段とを含む、基板処理装置。
【請求項5】
前記プレートの少なくとも基板の一方面に対向する領域が石英を用いて形成されている、請求項4記載の基板処理装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−111163(P2009−111163A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281985(P2007−281985)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】