説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる方式において、雰囲気遮断板を用いることなく、ガスノズルから基板表面へ乾燥用ガスを供給しつつガスノズルを走査する方法によらずに、基板の表面上にパーティクルが付着したりウォータマークが発生したりすることを抑えることができる方法を提供する。
【解決手段】スピンチャック10に保持された基板Wの表面へ液体供給ノズル62から有機溶剤を供給し、基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる際に、カップ44内へ気体供給ノズル64から水蒸気より比重の大きい気体を供給する。水蒸気より比重の大きい気体でカップ内が満たされることにより、カップ内から水蒸気が排除され、カップ内方の基板の表面上の湿度が低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、液晶表示装置(LCD)用/プラズマディスプレイ(PDP)用のガラス基板、磁気/光ディスク用のガラス/セラミック基板、電子デバイス基板等の各種の基板を乾燥処理する方法、特に基板の表面へ有機溶剤を供給して、基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板のウェット(湿式)洗浄装置においては、洗浄処理後の基板に対し有機溶剤、例えばイソプロピルアルコール(IPA)を供給して基板を乾燥させる方法が広く用いられている。枚様式のウェット洗浄装置では、IPAを使用する乾燥方法として、マランゴニ効果(対流効果)を利用したロタゴニー乾燥方式がある。この乾燥法では、基板を水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転させながら、純水吐出ノズルの吐出口から基板の表面へ純水を吐出しつつ吐出口を基板の中心位置から周縁位置まで走査し、同時に、蒸気噴出ノズルの噴出口から基板の表面へIPA蒸気を噴出しつつ純水吐出ノズルに追従するように蒸気噴出ノズルを走査する。これにより、基板の表面では、IPA蒸気が吹き付けられている部分から乾燥が始まって、中心部分から周縁部分へ徐々に乾燥領域が拡がっていき、最終的に全面が乾燥する。この乾燥方式では、基板上に供給された純水を遠心力とIPA蒸気の供給によるマランゴニ効果で基板の外側に向かって移動させていくことにより基板を乾燥させている。
【0003】
また、基板の表面へIPA液を供給して、基板の表面上の水分をIPAで置換させた後、基板の表面上のIPAを蒸発させ、基板を水平面内で鉛直軸回りに回転させて基板を乾燥させる方法も行われている。このようにIPAを使用した乾燥方法は、IPAの表面張力が水と比べて小さいことから、今日において問題となってきているパターン倒壊を防止するのに有効である。しかしながら、基板上へIPAを供給して、スピンドライ処理により基板を乾燥させると、基板の表面上に無数のパーティクルが付着したりウォータマークが発生したりする。この原因は、基板表面上の湿度が高い(雰囲気中に含まれる水蒸気量が多い)ことにある。
【0004】
上記したような不都合を防止するために、基板を水平姿勢に保持するスピンベースの上方に、スピンベースと対向して雰囲気遮断板を設け、雰囲気遮断板がスピンベースに近接して基板の上方を覆うようにして、スピンベースおよび雰囲気遮断板を回転させるとともに、基板の表面に窒素ガスを吹き付け、基板の周辺を窒素ガス雰囲気としてスピンドライ処理を行い、これにより、ウォータマークの発生を抑制し、基板表面に汚染物質が付着するのを防止する、といった方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、スピンチャックに保持された基板を回転させながら、液体ノズルからIPA液を基板表面へ供給するとともに、ガスノズルから窒素ガス等の乾燥用ガスを基板表面へ供給しつつ、両ノズルを基板の中心から周縁まで走査することにより、基板の表面付近の湿度を低減させる、といった方法も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−273360号公報(第3頁、図9)
【特許文献2】特開2007−36180号公報(第10頁、第12頁、第14頁、図1−図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、雰囲気遮断板を用いる方法は、雰囲気遮断板の支持機構や回転駆動機構、制御機構など、装置構成が複雑となり、制御動作も面倒となる。また、液体ノズルと共にガスノズルを走査しつつ、ガスノズルから乾燥用ガスを基板の表面へ供給する、といった方法も、ガスノズルの支持・移動機構など、装置構成が複雑となり、また、基板を回転させつつ液体ノズルおよびガスノズルを走査するために制御動作が面倒である、といった問題点がある。
【0006】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、基板の表面へ有機溶剤を供給して、基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる、といった乾燥方式において、雰囲気遮断板を用いることなく、また、ガスノズルから基板の表面へ乾燥用ガスを供給しつつガスノズルを走査する、といった方法によらずに、基板の表面上にパーティクルが付着したりウォータマークが発生したりすることを抑えることができ、装置構成も簡単で制御動作も簡易である基板処理方法を提供すること、ならびに、その処理方法を好適に実施することができる基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、水分が付着した基板の表面へ有機溶剤を供給して、基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる基板処理方法において、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、基板の周囲に水蒸気より比重の大きい気体を充満させることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の処理方法において、基板の周囲に充満させる水蒸気より比重の大きい気体として、極低温の窒素ガス、IPAの蒸気またはハイドロフルオロエーテル(HFE)の蒸気を使用することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の処理方法において、基板の表面へ供給する有機溶剤として、IPAを使用することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の処理方法において、基板の表面へ供給する有機溶剤として、IPAおよびHFEを使用し、それらの混合液を基板表面へ供給し、もしくは、IPAを基板表面へ供給した後にHFEを基板表面へ供給することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の処理方法において、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる工程に続いて、基板を水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転させるスピンドライ工程を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の処理方法において、基板がカップの内方に水平姿勢に保持され、前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給してカップ内を前記気体で満たすことを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載の処理方法において、基板の表面へ有機溶剤を供給するのと同時に、カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給することを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、請求項6または請求項7に記載の処理方法において、カップがチャンバ内に配設され、基板の表面へ有機溶剤を供給する前に、前記カップ内に基板を水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転させながら基板の表面へ純水を供給して基板をリンスする処理が行われ、そのリンス処理の際に、前記チャンバの上部から前記カップ内へその上面開口を通して清浄空気を供給するとともに、前記カップ内をその底部から排気し、一方、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際には、前記カップ内からの排気を制限しもしくは停止させるとともに、前記チャンバ内を排気し、前記カップ内からの排気流量と同等もしくはそれ以上の流量だけカップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給してカップ内を前記気体で満たすことを特徴とする。
【0015】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の処理方法において、チャンバの上部からカップ内へクリーンルーム内の大気またはクリーンドライエアを供給することを特徴とする。
【0016】
請求項10に係る発明は、基板を水平姿勢に保持する基板保持部を有し、鉛直軸回りに回転自在に支持された基板保持手段と、上面が開口し、前記基板保持手段に保持された基板の周囲を取り囲むように配設されたカップと、前記基板保持手段を回転させる回転手段と、前記基板保持手段に保持された基板の表面へ有機溶剤を供給する有機溶剤供給手段と、前記カップ内をその底部から排気する第1の排気手段と、前記カップの周囲を包囲するチャンバと、このチャンバ内を排気する第2の排気手段と、を備えた基板処理装置において、前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給する気体供給手段をさらに備え、前記有機溶剤供給手段によって基板の表面へ有機溶剤が供給されるのと同時またはそれ以後に、前記気体供給手段によって前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されて、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際にカップ内が水蒸気より比重の大きい気体で満たされるようにすることを特徴とする。
【0017】
請求項11に係る発明は、請求項10に記載の処理装置において、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、第1の排気手段によるカップ内からの排気を制限しもしくは停止させるとともに、第2の排気手段によってチャンバ内を排気し、前記第1の排気手段による前記カップ内からの排気流量と同等もしくはそれ以上の流量だけ気体供給手段によってカップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給するようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明の基板処理方法によると、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、基板の周囲に水蒸気より比重の大きい気体が充満していることにより、基板の周囲から水蒸気が排除され、基板表面上の湿度が低くなる。したがって、基板の表面上の有機溶剤が蒸発するときに、基板の表面上にパーティクルが付着したりウォータマークが発生したりすることを抑えることができる。そして、雰囲気遮断板を用いたり、ガスノズルから基板の表面へ乾燥用ガスを供給しつつガスノズルを走査したりすることはないので、装置構成も簡単であり制御動作も簡易になる。
【0019】
請求項2に係る発明の処理方法では、基板の周囲に極低温の窒素ガス、IPAの蒸気またはHFEの蒸気が充満することにより、基板の周囲から水蒸気を排除することができる。
【0020】
請求項3に係る発明の処理方法では、基板の表面へIPAが供給され、基板の表面上の水分がIPAで置換された後、基板の表面上のIPAが蒸発することにより、基板を乾燥させることができる。
【0021】
請求項4に係る発明の処理方法では、基板の表面へIPAおよびHFEが供給され、基板の表面上の水分がIPAで置換された後、基板の表面上のIPAおよびHFEが蒸発することにより、基板を乾燥させることができる。
【0022】
請求項5に係る発明の処理方法では、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる工程に続いて基板がスピンドライ処理されることにより、基板乾燥にかかる時間を短縮することができる。
【0023】
請求項6に係る発明の処理方法では、カップ内が水蒸気より比重の大きい気体で満たされることにより、カップ内から水蒸気が排除され、カップの内方に保持された基板の表面上の湿度を低くすることができる。
【0024】
請求項7に係る発明の処理方法では、基板の表面への有機溶剤の供給と同時にカップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されるので、その後に基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際には確実に、基板の周囲に水蒸気より比重の大きい気体を充満させることができる。
【0025】
請求項8に係る発明の処理方法では、基板の表面へ有機溶剤を供給する前に行われるリンス処理の際に、チャンバの上部からカップ内へ清浄空気が供給されることにより、清浄な雰囲気中でリンス処理を行うことができる。一方、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際には、確実にカップ内を水蒸気より比重の大きい気体で満たすことができる。
【0026】
請求項9に係る発明の処理方法では、チャンバの上部からカップ内へクリーンルーム内の大気またはクリーンドライエアが供給されることにより、清浄な雰囲気中でリンス処理を行うことができる。
【0027】
請求項10および請求項11に係る発明の基板処理装置を使用すると、請求項1ないし請求項9に係る発明の処理方法を好適に実施して、上記した効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明の最良の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、この発明に係る基板処理方法を実施するために使用される基板処理装置の概略構成の1例を示し、その装置の要部を断面で示す正面図である。
【0029】
この基板処理装置は、基板Wを水平姿勢で保持するスピンチャック10を備えている。スピンチャック10は、円板状のスピンベース12、および、このスピンベース12の上面側周縁部にその円周方向に等配されて植設され基板Wの周縁部を把持する複数本のチャックピン14により構成されている。スピンベース12の中心部には、透孔16が形成されており、その透孔16に連通するように、スピンベース12の下面側に円筒状回転支軸18が垂設されている。円筒状回転支軸18の周囲には、基台板20上に固着された有蓋円筒状のケーシング22が配設されている。そして、円筒状回転支軸18は、基台板20およびケーシング22に、それぞれ軸受24、26を介して鉛直軸回りに回転自在に支持されている。ケーシング22内には、基台板20上に固定されてモータ28が配設されている。モータ28の回転軸には駆動側プーリ30が固着され、一方、円筒状回転支軸18には従動側プーリ32が嵌着されていて、駆動側プーリ30と従動側プーリ32とにベルト34が掛け回されている。これらの機構により、円筒状回転支軸18が回転させられ、円筒状回転支軸18の上端に固着されたスピンチャック10に保持された基板Wが、水平面内で鉛直軸回りに回転させられる。また、円筒状回転支軸18の中空部には、洗浄液供給源に流路接続されたノズル36が挿通されている。このノズル36の上端吐出口からは、スピンチャック10に保持された基板Wの下面中央部に向けて純水等の洗浄液が吐出される。
【0030】
ケーシング22の周囲には、それを取り囲むように同心円状に配置された3つの円筒仕切り壁38a、38b、38c、および、円筒仕切り壁38a、38b、38cと一体に形成されケーシング22の円筒部外周面の下端部に連接した底壁部40が、基台板20上に固着されて配設されている。そして、各円筒仕切り壁38a、38b、38cとケーシング22と底壁部40との組合せによって形成される3つの空間が、それぞれ排液槽42a、42b、42cとなる。また、これらの排液槽42a、42b、42cの上方には、上面が大きく開口したカップを構成するスプラッシュガード44が、スピンチャック10に保持された基板Wの周囲を包囲するように配設されている。スプラッシュガード44は、円筒状回転支軸18の軸線方向に沿った鉛直方向に昇降自在に保持されており、図示しない昇降機構により上下方向へ往復移動させられる。このスプラッシュガード44は、スピンチャック10と同心円状に径方向の内側から外側に向かって配置された2つのガードを備えている。そして、昇降機構によってスプラッシュガード44を段階的に昇降させることにより、回転する基板W上から周囲へ飛散する薬液やリンス液などを分別して排液させることができるようになっている。
【0031】
また、排液槽42aの底部には、底壁部40および基台板20に形成された排気孔46が設けられており、排気孔46に、図示しない排気装置に流路接続された排気管48が連通接続されている。この構成により、排気管48を介して排液槽42aの内部、ならびに、スプラッシュガード44で囲まれスピンチャック10に保持された基板Wの薬液洗浄、リンス、置換、乾燥などの各種処理が行われる処理空間52を排気することができる。さらに、排気管48には、排気調整機構50が介挿されており、この排気調整機構50によって処理空間52からの排気流量を調節することができるようになっている。
【0032】
スピンチャック10に保持された基板Wの上方には、基板Wの表面へ薬液、例えばフッ酸(HF)を供給する薬液供給ノズル54、および、基板Wの表面へリンス液、例えば純水を供給するリンス液供給ノズル56が配置される。薬液供給ノズル54およびリンス液供給ノズル56は、ノズルアーム58に取り付けられており、薬液供給ノズル54は、図示しない薬液供給管を通して薬液供給ユニットに流路接続され、リンス液供給ノズル56は、図示しないリンス液供給管を通してリンス液供給ユニットに流路接続されている。ノズルアーム58は、ノズルアーム移動機構60に片持ち式に支持されている。そして、ノズルアーム移動機構60を駆動制御することにより、ノズルアーム58を水平面内で回動させまた昇降させて、薬液供給ノズル54およびリンス液供給ノズル56を、スピンチャック10に保持された基板Wの上方の吐出領域とその吐出領域から側方へ退避した待機位置との間で移動させることができる構成となっている。さらに、ノズルアーム移動機構60を駆動制御してノズルアーム58を水平面内で回動させることにより、吐出領域内において薬液供給ノズル54およびリンス液供給ノズル56を、その各吐出口が基板Wの中心部に対向する位置と基板Wの周縁部に対向する位置との間で往復移動可能となっている。
【0033】
また、スピンチャック10に保持された基板Wの上方には、基板Wの表面へIPA液、HFE液等の有機溶剤を供給する液体供給ノズル62、および、スプラッシュガード44で囲まれた処理空間52へ水蒸気より比重の大きい気体、例えば極低温の窒素ガス、IPA蒸気、HFE蒸気などを供給する気体供給ノズル64が配置される。液体供給ノズル62および気体供給ノズル64は、ノズルアーム66に取り付けられており、液体供給ノズル62は、図示しない液体供給管を通して有機溶剤の供給ユニットに流路接続され、気体供給ノズル64は、図示しない気体供給管を通してIPA蒸気、HFE蒸気等の供給ユニットに流路接続されている。ノズルアーム66は、ノズルアーム移動機構68に片持ち式に支持されている。そして、ノズルアーム移動機構68を駆動制御することにより、ノズルアーム66を水平面内で回動させまた昇降させて、液体供給ノズル62を、スピンチャック10に保持された基板Wの上方の吐出位置へ移動させるとともに、気体供給ノズル64を、スプラッシュガード44で囲まれた処理空間52の噴出位置へ移動させ、また、それらの吐出位置および噴出位置から側方へ退避した待機位置へ戻すことができる構成となっている。
【0034】
上記したように構成された処理ユニットは、チャンバ70内に配設される。チャンバ70の天井部分にはファンフィルタユニット(FFU)72が設けられている。FFU72は、ファン74およびフィルタ76を有しており、ファン74によって外部から取り入れた空気をフィルタ76で清浄にして、その清浄空気(クリーンエア)をスプラッシュガード44で囲まれた処理空間52へ供給する。チャンバ70の下部には排気孔78が設けられており、排気孔78に、図示しない排気装置に流路接続された排気管80が連通接続されている。排気管80には、排気調整機構82が介挿されている。この構成により、排気管80を介してチャンバ70の内部を排気することができ、さらに、排気調整機構82によってチャンバ70内からの排気流量を調節することができるようになっている。
【0035】
次に、図1に示した上記構成の基板処理装置を使用して基板の処理を行う方法の1例を、図2に示した模式図に基づいて説明する。
まず、通常の方法により、スピンチャック10に保持された基板Wを回転させながら、図2の(a)に示すように、薬液供給ノズル54から基板Wの表面へフッ酸を供給して、基板Wの表面を薬液洗浄処理する。この洗浄処理に続いて、リンス液供給ノズル56から基板Wの表面へ純水を供給して、基板Wの表面をリンス処理する。この薬液洗浄およびリンス処理の際、チャンバ70内には、FFU72からクリーンルーム内の大気が供給されている。また、チャンバ70内からは、排気調整機構82によって小流量に調節された排気(例えば−10Pa〜−20Pa)が行われている。この薬液洗浄およびリンス処理時においては、スプラッシュガード44(以下の説明では「カップ44」という)で囲まれた処理空間52は、薬液ミストの濃度が上昇し、また湿度が高くなる(雰囲気中に含まれる水蒸気量が多くなる)。そこで、カップ44内から、排気調整機構50によって大流量に調節された排気(例えば−300Pa以上)を行うようにする。これにより、FFU72からチャンバ70内へ取り入れられたクリーンエアは、カップ44内へ流入して、カップ44内から薬液ミストや水蒸気が排気と共に排出され、基板Wの周囲の処理空間52における湿度上昇が抑制される。
【0036】
基板Wのリンス処理が終わると、スピンチャック10に保持された基板Wを低速、例えば50rpm以下の速度で回転させながら、図2の(b)に示すように、液体供給ノズル62から基板Wの表面中心部へ有機溶剤、例えば水で薄めない100%濃度のIPA液を供給する。これにより、基板Wの表面中心部において水分がIPAで置換され、その置換領域が基板Wの周縁部に向かって拡大していき、基板Wの表面全体において水分がIPAで置換される。IPAへの置換が終わると、IPA液の供給を停止し、基板Wの表面上のIPAを蒸発させる。そして、スピンチャック10に保持された基板Wを高速、例えば300rpm〜4000rpmの速度で回転させ、スピンドライ処理して基板Wを乾燥させる。なお、この乾燥工程においても、薬液洗浄・リンス工程から継続してチャンバ70内へFFU72からクリーンルーム内の大気が供給されるようにする。
【0037】
上記した乾燥工程において、基板Wの表面へのIPA液の供給開始と同時に、気体供給ノズル64からカップ44内へ水蒸気より比重の大きい気体、例えば極低温の窒素ガス、IPA蒸気、HFE蒸気等のガスや蒸気を供給する。また、リンス処理が終了した時点で、排気調整機構50によりカップ44内から小流量の排気(例えば−10Pa〜−20Pa)が行われるように切り替え、一方、排気調整機構82によりチャンバ70内から大流量の排気(例えば−300Pa以上)が行われるように切り替えておくようにする。そして、気体供給ノズル64からカップ44内へ供給されるガスや蒸気の流量をカップ44内からの排気流量と同等もしくはそれ以上の流量とすることにより、カップ44内に水蒸気より比重の大きいガスや蒸気が徐々に滞留していき、カップ44内が水蒸気より比重の大きいガスや蒸気で満たされることとなる。このため、前記ガスや蒸気より比重の小さい水蒸気がカップ44内から排除され、カップ44内の湿度が低下する。このように、湿度の低い雰囲気中で基板Wの表面上からのIPAの蒸発・乾燥が行われるため、基板Wの表面上にパーティクルが付着したりウォータマークが発生したりすることが抑えられる。
【0038】
なお、上記した実施形態では、基板Wの表面へ供給される有機溶剤としてIPA液を使用したが、IPAとHFEの混合液を使用したり、まず水に溶けるIPA液を基板表面へ供給して、基板の表面上の水分をIPAで置換した後、IPAに溶けるHFE液を基板表面へ供給して、基板の表面上のIPAおよびHFEを蒸発させるようにしてもよい。このようにHFE液を使用することにより、より効率良く基板を乾燥させることができる。また、水で薄めたIPA液やHFE液を使用するようにしてもよい。また、上記実施形態では、基板Wの表面へのIPA液の供給開始と同時に、カップ44内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給するようにしたが、基板Wの表面へIPA液を供給した後に水蒸気より比重の大きい気体の供給を開始するようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、チャンバ70内へFFU72からクリーンルーム内の大気を供給するようにしたが、クリーンドライエアをチャンバ70内へ供給するようにしてもよく、これにより、基板Wの周囲の処理空間52における湿度上昇をより抑制することができる。
【0039】
また、上記した実施形態では、乾燥工程において、排気調整機構50によりカップ44内からの排気を制限するようにしたが、カップ44内からの排気を完全に停止させるようにしても差し支えない。さらに、スピンドライ処理時に基板の表面上へ窒素ガスや冷却窒素ガスを供給するようにしてもよく、このようにしたときは、基板の乾燥時間がより短縮される。なお、基板を高速で回転させるスピンドライ処理は、必要が無ければ行わなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】この発明に係る基板処理方法を実施するために使用される基板処理装置の概略構成の1例を示し、その装置の要部を断面で示す正面図である。
【図2】図1に示した基板処理装置を使用して基板の処理を行う方法の1例について説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10 スピンチャック
18 円筒状回転支軸
22 ケーシング
28 モータ
42a、42b、42c 排液槽
44 スプラッシュガード(カップ)
46、78 排気孔
48、80 排気管
50、82 排気調整機構
52 処理空間
54 薬液供給ノズル
56 リンス液供給ノズル
58、66 ノズルアーム
60、68 ノズルアーム
62 有機溶剤を供給する液体供給ノズル
64 水蒸気より比重の大きい気体を供給する気体供給ノズル
70 チャンバ
72 ファンフィルタユニット
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が付着した基板の表面へ有機溶剤を供給して、基板の表面上の水分を有機溶剤で置換させた後、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させて基板を乾燥させる基板処理方法において、
基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、基板の周囲に水蒸気より比重の大きい気体を充満させることを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法において、
基板の周囲に充満させる水蒸気より比重の大きい気体は、極低温の窒素ガス、イソプロピルアルコールの蒸気またはハイドロフルオロエーテルの蒸気であることを特徴とする基板処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法において、
基板の表面へ供給される有機溶剤は、イソプロピルアルコールであることを特徴とする基板処理方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の基板処理方法において、
基板の表面へ供給される有機溶剤は、イソプロピルアルコールおよびハイドロフルオロエーテルであって、それらの混合液を基板表面へ供給し、もしくは、イソプロピルアルコールを基板表面へ供給した後にハイドロフルオロエーテルを基板表面へ供給することを特徴とする基板処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の基板処理方法において、
基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる工程に続いて、基板を水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転させることを特徴とする基板処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の基板処理方法において、
基板がカップの内方に水平姿勢に保持され、前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給してカップ内を前記気体で満たすことを特徴とする基板処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の基板処理方法において、
基板の表面への有機溶剤の供給と同時に、前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されることを特徴とする基板処理方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の基板処理方法において、
前記カップがチャンバ内に配設され、基板の表面へ有機溶剤を供給する前に、前記カップ内に基板を水平姿勢に保持して鉛直軸回りに回転させながら基板の表面へ純水を供給して基板をリンスする処理が行われ、そのリンス処理の際に、前記チャンバの上部から前記カップ内へその上面開口を通して清浄空気を供給するとともに、前記カップ内をその底部から排気し、
基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、前記カップ内からの排気を制限しもしくは停止させるとともに、前記チャンバ内を排気し、前記カップ内からの排気流量と同等もしくはそれ以上の流量だけカップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されてカップ内が前記気体で満たされることを特徴とする基板処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の基板処理方法において、
前記チャンバの上部から前記カップ内へ供給される清浄空気は、クリーンルーム内の大気またはクリーンドライエアであることを特徴とする基板処理方法。
【請求項10】
基板を水平姿勢に保持する基板保持部を有し、鉛直軸回りに回転自在に支持された基板保持手段と、
上面が開口し、前記基板保持手段に保持された基板の周囲を取り囲むように配設されたカップと、
前記基板保持手段を回転させる回転手段と、
前記基板保持手段に保持された基板の表面へ有機溶剤を供給する有機溶剤供給手段と、
前記カップ内をその底部から排気する第1の排気手段と、
前記カップの周囲を包囲するチャンバと、
このチャンバ内を排気する第2の排気手段と、
を備えた基板処理装置において、
前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体を供給する気体供給手段をさらに備え、
前記有機溶剤供給手段によって基板の表面へ有機溶剤が供給されるのと同時またはそれ以後に、前記気体供給手段によって前記カップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されて、基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際にカップ内が水蒸気より比重の大きい気体で満たされるようにすることを特徴とする基板処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載の基板処理装置において、
基板の表面上の有機溶剤を蒸発させる際に、前記第1の排気手段による前記カップ内からの排気が制限されもしくは停止するとともに、前記第2の排気手段によって前記チャンバ内が排気され、前記第1の排気手段による前記カップ内からの排気流量と同等もしくはそれ以上の流量だけ前記気体供給手段によってカップ内へ水蒸気より比重の大きい気体が供給されるようにすることを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−238793(P2009−238793A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79477(P2008−79477)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】