説明

基板処理方法および基板処理装置

【課題】基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去する基板処理方法および基板処理装置において、スループットの低下を招くことなく、しかも優れた面内均一性でパーティクル等を除去する。
【解決手段】基板Wの回転中心P(0)から基板Wの外縁側に離れた初期位置P(Rin)の上方に冷却ガス吐出ノズル7を配置し、回転している基板Wの初期位置P(Rin)に冷却ガスを供給して、初期位置P(Rin)および回転中心P(0)を含む初期領域に付着するDIWを凝固させる。そして、初期凝固領域FR0の形成に続いて、ノズル7から冷却ガスを供給しながら初期位置P(Rin)の上方から基板Wの外縁部の上方まで移動させることによって、凝固される範囲を基板Wの外縁側に広げて基板表面Wfに付着していた全DIW(凝固対象液)を凝固して液膜LF全体を凍結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、光ディスク用基板などの各種基板の表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去する基板処理方法および基板処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去するための処理の1つとして凍結洗浄技術が知られている。この技術では、基板表面に形成した液膜を凍結させた後、この凍結膜を融解して除去することにより基板表面からパーティクル等を凍結膜とともに除去している。例えば、特許文献1に記載の技術においては、洗浄液としてのDIW(脱イオン水:deionized water)を基板表面に供給して液膜を形成した後、冷却ガスを吐出するノズルを基板の中央部から外縁部にスキャンさせることにより液膜を凍結させ、再度DIWを供給して凍結膜を融解除去することによって、基板表面からのパーティクルの除去を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−071875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、種々の実験の結果、凍結膜の温度とパーティクル除去率との間に一定の相関性があることを見出した。それは、単に液膜を凍結させるだけでなく、凍結膜の温度をさらに低下させることによってパーティクル除去率をより向上させることが可能であるということである。したがって、凍結膜の温度低下を図ることがパーティクル除去率を向上させる上で有利であり、冷却ガスの温度低下などの液膜冷却条件の改良が検討されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、上記したようにノズルを基板の中央部から外縁部にスキャンさせているため、基板の中央部に比べて外縁付近の単位面積当たりに冷却ガスの供給時間が短く、基板の中央部と比較して外縁付近の凍結膜の温度は低下しない。そのため、凍結膜の温度が基板の中央部と外縁付近とで不均一になり、その結果、除去率の面内均一性が損なわれるという問題が発生していた。
【0006】
そこで、このような問題を解消するために、例えば外縁付近でのノズル移動速度を抑えて外縁付近を冷却する時間を延長することが考えられる。しかしながら、時間延長は基板の凍結洗浄処理に要するトータル時間が長くなり、スループットの低下を招いてしまう。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、基板表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去する基板処理方法および基板処理装置において、スループットの低下を招くことなく、しかも優れた面内均一性でパーティクル等を除去することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明にかかる基板処理方法は、上記目的を達成するため、表面に凝固対象液が付着した基板を略水平に保持して鉛直軸回りに回転させながら、凝固対象液の凝固点よりも低い冷却用気体をノズルから基板の表面に供給して凝固対象液を凝固させる凝固工程と、凝固工程により凝固された凝固対象液を融解して除去する融解工程とを備え、凝固工程は、基板の回転中心から基板の外縁側に離れた初期位置の上方に配置したノズルから冷却用気体を初期位置に供給することで、初期位置から基板の回転中心につながる初期領域の凝固対象液を凝固させる初期凝固工程と、初期凝固工程後に、ノズルから冷却用気体を供給しつつノズルを基板の外縁側に相対移動させるノズル移動工程とを有することを特徴としている。
【0009】
また、この発明にかかる基板処理装置は、上記目的を達成するため、表面に凝固対象液が付着した基板を略水平に保持する基板保持手段と、基板保持手段に保持された基板を鉛直軸回りに回転させる回転手段と、基板保持手段に保持された基板の表面の上方で基板の表面に沿って相対移動自在なノズルを有し、凝固対象液の凝固点よりも低い冷却用気体をノズルから基板の表面に供給する冷却用気体供給手段と、ノズルを基板の表面に沿って相対移動させる移動手段とを備え、移動手段は、基板の回転中心から基板の外縁側に離れた初期位置の上方にノズルを配置した後、ノズルを基板の外縁側に相対移動させ、冷却用気体供給手段は、初期位置の上方から基板の外縁側へのノズルの相対移動開始前に、初期位置の上方に配置したノズルから冷却用気体を供給して初期位置から基板の回転中心につながる初期領域の凝固対象液を凝固させ、基板の外縁側へのノズルの相対移動開始後、ノズルから冷却用気体を供給して初期領域以外の凝固対象液を凝固させることを特徴としている。
【0010】
このように構成された発明(基板処理方法および基板処理装置)では、基板の回転中心から基板の外縁側に離れた初期位置の上方に配置したノズルから初期位置に冷却用気体が供給される。このように冷却用気体を基板の初期位置に供給すると、冷却用気体は初期位置を中心として基板表面に沿って広がり、その一部は基板の回転中心にも及ぶ。その結果、初期位置から基板の回転中心につながる初期領域に付着する凝固対象液が凝固する。そして、その後でノズルが冷却用気体を供給しつつ基板の外縁側に相対移動されると、凝固される範囲が初期領域から基板の外縁側に広がり、基板表面に付着していた全凝固対象液が凝固される。このようにノズルから冷却用気体を最初に供給する位置を基板の回転中心よりも外縁側に設定することで凝固された凝固対象液の温度を基板の表面全体で均一化することができ、除去率の面内均一性が高められる。また、ノズルを移動させる範囲が従来技術よりも狭まるため、ノズル移動に要する時間が短縮されてスループットが向上される。
【0011】
ここで、単にノズルを移動させる範囲を狭めるという観点から考えれば、初期位置を基板の外縁側に近づけるのが望ましいが、初期位置を基板の外縁側に近づけ過ぎると、最初の冷却用気体の供給によって基板の回転中心の凝固対象液を凝固させることが困難である。そのため、後述する実験結果で示すように基板の回転中心付近では外縁側から回転中心側に凝固が進み、凝固対象液の温度が基板の表面全体で均一化されず、除去率の面内均一性が損なわれる。しがたって、初期位置の上方に配置されたノズルから供給される冷却用気体により上記初期領域に付着する凝固対象液を凝固することができる範囲、例えば基板の回転中心と基板の外縁の中間よりも基板の回転中心寄りに初期位置を設定するのが望ましい。
【0012】
また逆に、初期位置を基板の回転中心に近づけ過ぎると、従来技術と同様に、回転中心の温度が低下し過ぎて基板表面内での到達温度の不均一化が生じるとともにノズル移動範囲が広がり、スループットの向上を図ることが難しくなる。したがって、基板の回転中心から初期位置までの距離については、ノズルの先端部から冷却用気体を吐出する気体吐出口の口径の半分以上とするのが望ましい。
【0013】
また、初期位置の上方に配置したノズルから冷却用気体を初期位置に供給した直後より、初期領域の凝固対象液を直ちに凝固させることは難しいので、初期位置への冷却用気体の供給から第1の時間が経過した後に、ノズルの相対移動を開始するのが望ましい。また、基板の外縁近傍の上方へのノズルの移動完了後、第2の時間が経過してから冷却用気体の供給を停止するように構成することで基板の外縁近傍で凝固された凝固対象液の到達温度を十分に低下させることができる。これによって、基板表面全体での凝固対象液の温度均一性をさらに高めることができ、除去率の面内均一性がさらに向上される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板の回転中心から基板の外縁側に離れた初期位置の上方に配置したノズルから冷却用気体を初期位置に供給することで初期領域に付着する凝固対象液を凝固した後でノズルを基板の外縁側に相対移動させて基板の表面に付着する全凝固対象液を凝固させているため、スループットの低下を招くことなく、凝固された凝固対象液の到達温度を均一化することができ、優れた面内均一性でパーティクル等を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】凍結洗浄技術における液膜の温度とパーティクル除去効率との関係を示すグラフである。
【図2】この発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。
【図3】図2の基板処理装置における窒素ガスおよびDIWの供給態様を示す図である。
【図4】図2の基板処理装置におけるアームの動作態様を示す図である。
【図5】図2の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。
【図6】図2の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。
【図7】初期位置と初期凝固領域との関係を示す図である。
【図8】初期位置と初期凝固領域との関係を示す図である。
【図9】初期位置と到達温度との関係を示す図である。
【図10】初期位置と、パーティクル除去率の面内均一性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<液膜の温度とパーティクル除去効率との関係>
従来の凍結洗浄技術では液膜を凍結させているものの、凍結後の液膜温度についてはあまり考慮されていなかった。しかしながら、DIW(凝固対象液)による液膜を用いた本願発明者らの実験によれば、図1に示すように、単に液膜を凍結させるだけではなく、凍結後の液膜の到達温度が低くなるほどパーティクル除去効率が高まることが明らかとなった。なお、ここでは、凍結前の液膜の温度および該液膜が凍結してなる凝固体の温度を総称して「液膜の温度」と称している。
【0017】
図1は、いわゆる凍結洗浄技術における液膜の温度とパーティクル除去効率との関係を示すグラフであり、具体的には、次の実験により得られた結果を示している。この実験では、基板の代表例としてベア状態(全くパターンが形成されていない状態)のSiウエハ(ウエハ径:300mm)を選択している。また、パーティクルとしてSi屑(粒径;0.08μm以上)によって基板表面が汚染されている場合について評価を行っている。
【0018】
まず最初に、枚葉式の基板処理装置(大日本スクリーン製造社製、スピンプロセッサSS−3000)を用いてウエハを強制的に汚染させる。具体的には、ウエハを回転させながら、ウエハと対向配置されたノズルよりパーティクル(Si屑)を分散させた分散液をウエハに供給する。ここでは、ウエハ表面に付着するパーティクルの数が約10000個となるように、分散液の液量、ウエハ回転数および処理時間を適宜調整する。その後、ウエハ表面に付着しているパーティクルの数(初期値)を測定する。なお、パーティクル数の測定はKLA−Tencor社製のウエハ検査装置SP1を用いて、ウエハの外周から3mmまでの周縁領域を除去(エッジカット)として残余の領域にて評価を行っている。
【0019】
次に、各ウエハに対して以下の洗浄処理を行う。まず、150rpmで回転するウエハに、0.5℃に温度調整されたDIWを6秒間吐出してウエハを冷却する。その後、DIWの吐出を停止して2秒間その回転数を維持し、余剰のDIWを振りきって液膜を形成する。液膜形成後、ウエハ回転数を50rpmに減速し、その回転数を維持しながらスキャンノズルにより温度−190℃の窒素ガスを流量90[L/min]でウエハ表面に対し吐出する。ノズルのスキャンはウエハの中心とウエハの端を20秒で往復させて行う。図1の黒四角はスキャン回数に対応し、図1中左からスキャン1回、2回の順でスキャン5回までの結果が表示されている。このように、スキャン回数を変更することで液膜の凍結後の温度を変更している。
【0020】
上記の冷却が終了した後、ウエハの回転数を2000rpmとし、80℃に温度調整されたDIWを4.0[L/min]の流量で2秒間吐出した後、ウエハの回転数を500rpmとし、リンス液として常温のDIWを1.5[L/min]の流量で30秒間供給し、ウエハのリンス処理を行う。その後ウエハを高速回転してスピンドライする。
【0021】
こうして、一連の洗浄処理を施したウエハの表面に付着しているパーティクル数を測定する。それから、凍結洗浄後のパーティクル数と先に測定した初期(凍結洗浄処理前)のパーティクル数とを対比することで除去率を算出している。こうして得られたデータをプロットしたものが図1に示すグラフである。
【0022】
同図から明らかなように、単に液膜を凍結させるだけではなく、凍結後の液膜の到達温度が低くなるほどパーティクル除去効率が高まる。つまり、冷却ガスによって基板上のDIW液膜を凍結させた後、凍結された液膜(凝固体)をさらに冷却して最終到達温度を低下させることで、洗浄効果を高めることが可能である。また、パーティクル除去効率の面内均一性を確保するためには、ウエハの中央部と外縁付近とで凍結後の液膜の到達温度がほぼ等しくなうように構成することが重要である。
【0023】
ここで、上記実験で行ったようにウエハの中心とウエハの端を往復させるスキャン動作を繰り返すことで液膜全体を均一な到達温度まで冷却することが可能であるが、スキャン動作の繰り返しはスループットの低下を招くため、例えば特許文献1に記載されているように通常1回のスキャン動作で液膜を凍結させる必要がある。つまり、1回のスキャン動作で均一な到達温度の凝固体を、短時間で形成することが要求される。そこで、以下の実施形態では、最初にウエハの回転中心の上方よりも外縁側にノズルを配置して一定領域の凝固対象液を凝固させた後、ノズルを外縁側に相対移動させることでウエハの中心から外方に向けて凝固範囲が広げられて上記目的を達成している。以下、実施形態について図面を参照しつつ詳述する。
【0024】
<実施形態>
図2はこの発明にかかる基板処理装置の一実施形態を示す図である。また、図3は図2の基板処理装置における窒素ガスおよびDIWの供給態様を示す図である。さらに、図4は図2の基板処理装置におけるアームの動作態様を示す図である。この装置は半導体ウエハ等の基板Wの表面Wfに付着しているパーティクル等の汚染物質を除去するための基板洗浄処理を実行可能な枚葉式の基板処理装置である。より具体的には、微細パターンが形成された基板表面Wfについて、その表面Wfに液膜を形成してそれを凍結させて凝固膜(凝固体)を形成した後、該凝固膜を融解除去することで凝固膜とともにパーティクル等を基板表面から除去する凍結洗浄処理を実行する基板処理装置である。凍結洗浄技術については上記特許文献1を始めとして多くの公知文献があるので、この明細書では詳しい説明を省略する。
【0025】
この基板処理装置は処理チャンバ1を有しており、当該処理チャンバ1内部において基板Wの表面Wfを上方に向けて略水平姿勢に保持した状態で、基板Wを回転させるためのスピンチャック2を有している。このスピンチャック2の中心軸21の上端部には、図3に示すように、円板状のスピンベース23がネジなどの締結部品によって固定されている。この中心軸21はモータを含むチャック回転機構22の回転軸に連結されている。そして、装置全体を制御する制御ユニット4からの動作指令に応じてチャック回転機構22が駆動されると、中心軸21に固定されたスピンベース23が回転中心軸AOを中心に回転する。
【0026】
また、スピンベース23の周縁部付近には、基板Wの周縁部を把持するための複数個のチャックピン24が立設されている。チャックピン24は、円形の基板Wを確実に保持するために3個以上設けてあればよく、スピンベース23の周縁部に沿って等角度間隔で配置されている。各チャックピン24のそれぞれは、基板Wの周縁部を下方から支持する基板支持部と、基板支持部に支持された基板Wの外周端面を押圧して基板Wを保持する基板保持部とを備えている。また、各チャックピン24は、基板保持部が基板Wの外周端面を押圧する押圧状態と、基板保持部が基板Wの外周端面から離れる解放状態との間を切り替え可能に構成されている。
【0027】
そして、スピンベース23に対して基板Wが受渡しされる際には、各チャックピン24を解放状態とし、基板Wに対して洗浄処理を行う際には、各チャックピン24を押圧状態とする。各チャックピン24を押圧状態とすると、各チャックピン24は基板Wの周縁部を把持して、基板Wがスピンベース23から所定間隔を隔てて略水平姿勢に保持されることとなる。これにより、基板Wは、その表面Wfを上方に向け、裏面Wbを下方に向けた状態で保持される。
【0028】
また、上記のように構成されたスピンチャック2の上方には遮断部材9が配置されている。この遮断部材9は、中心部に開口を有する円板状に形成されている。また、遮断部材9の下面は、基板Wの表面Wfと略平行に対向する基板対向面となっており、基板Wの直径と同等以上の大きさに形成されている。この遮断部材9は支持軸91の下端部に略水平に取り付けられている。この支持軸91は、水平方向に延びるアーム92により、基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転可能に保持されている。また、アーム92には、遮断部材回転・昇降機構93が接続されている。
【0029】
遮断部材回転・昇降機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて、支持軸91を基板Wの中心を通る鉛直軸回りに回転させる。また、制御ユニット4は、遮断部材回転・昇降機構93の動作を制御して、スピンチャック2に保持された基板Wの回転に応じて基板Wと同じ回転方向でかつ略同じ回転速度で遮断部材9を回転させる。また、遮断部材回転・昇降機構93は、制御ユニット4からの動作指令に応じて、遮断部材9をスピンベース23に近接させたり、逆に離間させる。具体的には、制御ユニット4は、遮断部材回転・昇降機構93の動作を制御して、基板処理装置に対して基板Wを搬入出させる際には遮断部材9をスピンチャック2の上方の離間位置(図2に示す位置)に上昇させる一方、基板Wに対して所定の処理を施す際には遮断部材9をスピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfのごく近傍に設定された対向位置まで下降させる。
【0030】
図3に示すように、遮断部材9の支持軸91は中空になっており、その内部に、遮断部材9の下面(基板対向面)で開口するガス供給管95が挿通されている。このガス供給管95は乾燥ガス供給ユニット61に接続されている。この乾燥ガス供給ユニット61は、窒素ガス供給源(図示省略)から供給される窒素ガスを基板Wに供給するもので、マスフローコントローラ(MFC)611と、開閉バルブ612とを有している。このマスフローコントローラ611は制御ユニット4からの流量指令に応じて窒素ガスの流量を高精度に調整可能となっている。また、開閉バルブ612は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉してマスフローコントローラ611で流量調整された窒素ガスの供給/停止を切り替える。このため、制御ユニット4が乾燥ガス供給ユニット61を制御することで、流量調整された窒素ガスが基板Wを乾燥させるための乾燥ガスとして適当なタイミングで遮断部材9と基板Wの表面Wfとの間に形成される空間に向けてガス供給管95から供給される。なお、この実施形態では、乾燥ガス供給ユニット61からの乾燥ガスとして窒素ガスを供給しているが、空気や他の不活性ガスなどを供給するようにしてもよい。
【0031】
ガス供給管95の内部には、液体供給管96が挿通されている。この液体供給管96の下方端部は遮断部材9の下面で開口しており、その先端に液体吐出ノズル97が設けられている。一方、液体供給管96の上方端部はDIW供給ユニット62に接続されている。このDIW供給ユニット62はDIW供給源(図示省略)から供給される常温のDIWをリンス液として基板Wに供給し、また80℃程度まで昇温した高温DIWを融解除去処理用として基板Wに供給するもので、以下のように構成されている。ここでは、DIW供給源に対して2系統の配管経路が設けられている。そのうちの一つである、リンス処理用の配管経路には、流量調整弁621と開閉バルブ622とが介挿されている。この流量調整弁621は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整可能となっている。また、開閉バルブ622は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉して流量調整弁621で流量調整された常温DIWの供給/停止を切り替える。
【0032】
また、もう一方の融解除去処理用配管経路には、流量調整弁623、加熱器624および開閉バルブ622が介挿されている。この流量調整弁623は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整して加熱器624に送り込む。そして、加熱器624は送り込まれた常温DIWを80℃程度に加熱し、その加熱されたDIW(以下「高温DIW」という)が開閉バルブ625を介して送り出される。なお、開閉バルブ625は制御ユニット4からの開閉指令に応じて開閉して高温DIWの供給/停止を切り替える。こうして、DIW供給ユニット62から送り出される常温DIWや高温DIWは適当なタイミングで基板Wの表面Wfに向けて液体吐出ノズル97から吐出される。
【0033】
また、スピンチャック2の中心軸21は円筒状の空洞を有する中空になっており、中心軸21の内部には、基板Wの裏面Wbにリンス液を供給するための円筒状の液供給管25が挿通されている。液供給管25は、スピンチャック2に保持された基板Wの下面側である裏面Wbに近接する位置まで延びており、その先端に基板Wの下面の中央部に向けてリンス液を吐出する液吐出ノズル27が設けられている。液供給管25は、上記したDIW供給ユニット62に接続されており、基板Wの裏面Wbに向けてDIWをリンス液として供給する。
【0034】
また、中心軸21の内壁面と液供給管25の外壁面との隙間は、横断面リング状のガス供給路29になっている。このガス供給路29は乾燥ガス供給ユニット61に接続されており、乾燥ガス供給ユニット61からガス供給路29を介してスピンベース23と基板Wの裏面Wbとの間に形成される空間に窒素ガスが供給される。
【0035】
また、図2に示すように、この実施形態では、スピンチャック2の周囲にスプラッシュガード51が、スピンチャック2に水平姿勢で保持されている基板Wの周囲を包囲するようにスピンチャック2の回転軸に対して昇降自在に設けられている。このスプラッシュガード51は回転軸に対して略回転対称な形状を有している。そして、ガード昇降機構52の駆動によりスプラッシュガード51を段階的に昇降させることで、回転する基板Wから飛散する液膜形成用DIW、リンス液やその他の用途のために基板Wに供給される処理液などを分別して処理チャンバ1内から図示を省略する排液処理ユニットへ排出することが可能となっている。
【0036】
また、この処理チャンバ1の底面部には複数の排気口11が設けられ、これらの排気口11を介して処理チャンバ1の内部空間は排気ユニット63に接続されている。この排気ユニット63は排気ダンパーと排気ポンプとを有しており、排気ダンパーの開閉度合いを制御することで排気ユニット63による排気量を調整可能となっている。そして、制御ユニット4は排気ダンパーの開閉量に関する指令を排気ユニット63に与えることで処理チャンバ1からの排気量を調整して内部空間における温度や湿度などを制御する。
【0037】
この基板処理装置では、冷却ガス吐出ノズル7がスピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて液膜凍結用冷却ガスを吐出可能に設けられている。すなわち、冷却ガス吐出ノズル7は次のように構成された冷却ガス供給ユニット64に接続されている。この冷却ガス供給ユニット64は、図3に示すように、熱交換器641を有している。この熱交換器641の容器642は内部に液体窒素を貯留するタンク状となっており、液体窒素温度に耐えうる材料、例えば、ガラス、石英またはHDPE(高密度ポリエチレン:High Density Polyethylene)により形成されている。なお、容器642を断熱容器で覆う二重構造を採用してもよい。この場合、外部容器は、処理チャンバ外部の雰囲気と容器642との間での熱移動を抑制するために、断熱性の高い材料、例えば発泡性樹脂やPVC(ポリ塩化ビニル樹脂:polyvinyl chloride)などにより形成するのが好適である。
【0038】
容器642には、液体窒素を取り入れる液体窒素導入口643が設けられている。この液体窒素導入口643は開閉バルブ644を介して液体窒素供給源(図示省略)と接続されており、制御ユニット4からの開指令に応じて開閉バルブ644が開くと、液体窒素供給源から送出される液体窒素が容器642内に導入される。また、容器642内には液面センサ(図示省略)が設けられており、この液面センサによる検出結果が制御ユニット4に入力され、制御ユニット4によるフィードバック制御により開閉バルブ644の開閉が制御されて容器642内の液体窒素の液面レベルを高精度に制御可能となっている。なお、この第1実施形態では、液体窒素の液面レベルが一定となるようにフィードバック制御し、これによって冷却ガスの温度の安定化を図っている。
【0039】
また、容器642の内部には、ステンレス、銅などの金属管で形成されたコイル状の熱交換パイプ645がガス通送路として設けられている。熱交換パイプ645は容器642に貯留された液体窒素に浸漬されており、その一方端がマスフローコントローラ(MFC)646を介して窒素ガス供給源(図示省略)と接続されており、窒素ガス供給源から窒素ガスが供給される。これにより、窒素ガスが熱交換器641内で液体窒素によりDIWの凝固点よりも低い温度に冷やされて冷却ガスとして熱交換パイプ645の他方端から開閉バルブ647を介して冷却ガス吐出ノズル7に送出される。
【0040】
こうして作成された冷却ガスの送り先である冷却ガス吐出ノズル7は、図2に示すように、水平に延設された第1アーム71の先端部に取り付けられている。この第1アーム71は、処理チャンバ1の天井部より垂下する回転軸72により後端部が回転中心軸J1周りに回転自在に支持されている。そして、回転軸72に対して第1アーム昇降・回転機構73が連結されており、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転軸72が回転中心軸J1周りに回転駆動され、また上下方向に昇降駆動され、その結果、第1アーム71の先端部に取り付けられた冷却ガス吐出ノズル7が図4に示すように基板表面Wfの上方側で移動する。
【0041】
また本実施形態では、冷却ガス吐出ノズル7と同様にして、冷水吐出ノズル8が基板表面Wfの上方側で移動可能に構成されている。この冷水吐出ノズル8は、スピンチャック2に保持された基板Wの表面Wfに向けて液膜を構成する液体(本発明の「凝固対象液」に相当)として常温よりも低い、例えば0〜2℃、好ましくは0.5℃程度にまで冷却されたDIWを供給するものである。すなわち、冷水吐出ノズル8は冷水供給ユニット65に接続され、冷水供給ユニット65によって常温のDIWを0.5℃程度にまで冷却した上で冷水吐出ノズル8に送り出す。なお、この冷水供給ユニット65は、図3に示すように、流量調整弁651、冷却器652および開閉バルブ653を有している。この流量調整弁651は制御ユニット4からの流量指令に応じて常温DIWの流量を高精度に調整して冷却器652に送り込む。そして、冷却器652は送り込まれた常温DIWを0.5℃程度にまで冷却し、その冷水(冷却されたDIW)が開閉バルブ653を介して送り出される。
【0042】
このように冷水供給を受けるノズル8を回転中心軸J2周りに回転し、また上下方向に昇降移動させるために、水平に延設された第2アーム81の後端部が回転軸82により回転中心軸J2周りに回転自在に支持されている。一方、第2アーム81の先端部には、冷水吐出ノズル8が下方に吐出口(図示省略)を向けた状態で取り付けられている。さらに、回転軸82に対して第2アーム昇降・回転機構83が連結されており、制御ユニット4からの動作指令に応じて回転軸82が回転中心軸J2周りに回転駆動され、また上下方向に昇降駆動され、その結果、第2アーム81の先端部に取り付けられた冷水吐出ノズル8が以下のように基板表面Wfの上方側で移動する。
【0043】
冷却ガス吐出ノズル7および冷水吐出ノズル8はそれぞれ独立して基板Wに対して相対的に移動することが可能となっている。すなわち、図4に示すように、制御ユニット4からの動作指令に基づき第1アーム昇降・回転機構73が駆動されて第1アーム71が回転中心軸J1周りに揺動すると、第1アーム71に取り付けられた冷却ガス吐出ノズル7は、スピンベース23の回転中心上に相当する回転中心位置Pcと基板Wの対向位置から側方に退避した待機位置Ps1との間を移動軌跡T1に沿って水平移動する。すなわち、第1アーム昇降・回転機構73は、冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの表面Wfに沿って基板Wに対して相対移動させる。ただし、本実施形態では、凍結される液膜の到達温度を均一化するという目的とスループットの向上のために、後で説明するように冷却ガス吐出ノズル7の移動範囲を狭めている。
【0044】
また、制御ユニット4からの動作指令に基づき第2アーム昇降・回転機構83が駆動されて第2アーム81が回転中心軸J2周りに揺動すると、第2アーム81に取り付けられた冷水吐出ノズル8は第1アーム71の待機位置Ps1と異なる別の待機位置Ps2と、回転中心位置Pcとの間を移動軌跡T2に沿って水平移動する。すなわち、第2アーム昇降・回転機構83は、冷水吐出ノズル8を基板Wの表面Wfに沿って基板Wに対して相対移動させる。
【0045】
図5および図6は図2の基板処理装置の動作を模式的に示す図である。この装置では、未処理の基板Wが装置内に搬入されると、制御ユニット4が装置各部を制御して該基板Wに対して一連の洗浄処理が実行される。ここでは、予め基板Wが表面Wfを上方に向けた状態で基板Wが処理チャンバ1内に搬入されてスピンチャック2に保持される一方、図2に示すように遮断部材9がその下面を対向させたままアーム71、81と干渉しない上方位置まで待避している。
【0046】
基板Wの搬入後、制御ユニット4はチャック回転機構22を駆動させてスピンチャック2を回転させるとともに、第2アーム昇降・回転機構83を駆動させて第2アーム81を回転中心位置Pcに移動して位置決めする。これによって、冷水吐出ノズル8は図5(a)に示すように基板表面Wfの回転中心の上方、つまり回転中心位置Pcに位置する。そして、制御ユニット4は冷水供給ユニット65の開閉バルブ657を開いて冷水吐出ノズル8から低温のDIWを基板表面Wfに供給する。基板表面Wfに供給されたDIWには、基板Wの回転に伴う遠心力が作用し、基板Wの径方向外向きに均一に広げられ、その一部が基板外に振り切られる。これによって、基板表面Wfの全面にわたって液膜の厚みを均一にコントロールして、基板表面Wfの全体に所定の厚みを有する液膜(水膜)が形成される。なお、液膜形成に際して、上記のように基板表面Wfに供給されたDIWの一部を振り切ることは必須の要件ではない。例えば、基板Wの回転を停止させた状態あるいは基板Wを比較的低速で回転させた状態で基板WからDIWを振り切ることなく基板表面Wfに液膜を形成してもよい。
【0047】
この状態では、基板Wの表面Wfに所定厚さのパドル状液膜LFが形成されている。こうして、液膜形成が終了すると、制御ユニット4は第2アーム昇降・回転機構83を駆動させて第2アーム81を待機位置Ps2に移動し、待機させる。また、第2アーム81の移動後または移動に連動して制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64および第1アーム昇降・回転機構73を制御して基板表面Wfの初期位置に冷却ガスを供給する(同図(b))。すなわち、制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64の各部を制御して冷却ガスを冷却ガス吐出ノズル7から吐出させながら第1アーム昇降・回転機構73を駆動制御して基板Wよりも十分高い位置で第1アーム81を基板Wの回転中心P(0)の上方位置、つまり回転中心位置Pcに向けて移動させる。ここで、「基板Wより十分高い位置」とは、ノズル7から吐出される冷却ガスが基板Wに影響を与えない程度の高さを意味している。そして、冷却ガス吐出ノズル7が基板Wの回転中心P(0)の手前位置P(Rin)の上方位置に達すると、制御ユニット4は第1アーム昇降・回転機構73を駆動制御し、冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの回転中心P(0)の手前位置P(Rin)の直上位置まで下降させる。これにより、タイミングTM1より冷却ガスが回転する基板Wの表面Wfの位置P(Rin)に供給される。なお、この明細書では、冷却ガス吐出ノズル7の位置を特定するために、基板Wの回転中心を「P(0)」と称するとともに、基板表面Wfの回転中心P(0)から距離Rだけ離間した位置を「P(R)」と称する。特に、上記のように最初に位置決めされた冷却ガス吐出ノズル7の直下に相当する基板表面Wfの位置を「初期位置P(Rin)」と称する。例えば、直径300mmの基板Wを処理対象とする装置では、距離Rの取り得る値は0mmから150mmの間であり、本実施形態では距離Rinを、
W7/2<Rin<75mm
ただし、W7はノズル7のガス吐出口(図示省略)の口径、
に設定している。
【0048】
こうして初期位置P(Rin)に供給された冷却ガスは初期位置P(Rin)のみを供給されるのではなく、初期位置P(Rin)を中心として基板表面Wfに沿って広がり、その一部は基板Wの回転中心P(0)にも及び、その結果、初期位置P(Rin)から基板Wの回転中心P(0)につながる初期領域に付着するDIWが凝固して初期凝固領域FR0が形成される(初期凝固工程)。なお、このように初期位置P(Rin)の直上位置にノズル7を配置して基板表面Wfに冷却ガスをタイミングTM1で供給したとしても、直ちに初期凝固領域FR0を形成することは難しいので、本実施形態では所定時間ΔT1(=TM2−TM1)だけノズル7を初期位置P(Rin)の直上位置に停止させている。この所定時間ΔT1が本発明の「第1の時間」に相当する。また、このように液膜LFを凍結させる際には、制御ユニット4は冷却ガス供給ユニット64のマスフローコントローラ646を制御して冷却ガスの流量(つまり単位時間当たりの冷却ガス量)を液膜LFの凍結に適した値に抑えている。このように冷却ガスの流量を抑制することで、基板表面Wfが部分的に乾いて露出してしまうという問題や風圧で膜厚分布が不均一となって処理の均一性が担保されないという問題が発生するのを防止している。
【0049】
そして、上記タイミングTM1から所定時間ΔT1が経過した後に、図6(a)に示すように、冷却ガスの供給を継続させたまま冷却ガス吐出ノズル7を方向Dに移動させる、つまり基板Wの外縁位置に向けて移動させていく(ノズル移動工程)。これにより、凝固された凝固領域FRが初期凝固領域FR0から基板Wの外縁側に広げられ、例えば同図(b)に示すように、スキャン途中に基板表面Wfの液膜全面が凍結して凝固膜FFが形成される。また、冷却ガス吐出ノズル7が基板Wの外縁位置の上方に位置した段階で冷却ガスの供給を停止してもよいが、これでは基板Wの外縁近傍に供給された冷却ガス量がそれよりも回転中心側の領域よりも若干少なく、凝固膜FFのうち基板Wの外縁近傍で凝固された凝固領域FReの到達温度が0℃程度に止まる可能性がある。そこで、冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの外縁位置の上方に所定時間ΔT2だけ滞在させて冷却ガスを供給し続けてもよい。これにより、凝固領域FReの到達温度を十分に低下させて基板表面Wf全体での凝固膜FFの到達温度を均一にすることが可能となる。
【0050】
こうして液膜LFを凍結させて凝固膜FFを形成すると、制御ユニット4はノズル7からの冷却ガスの吐出を停止し、第1アーム71を待機位置Ps1に移動させて基板表面Wfからノズル7待避させる。その後、遮断部材9を基板表面Wfに近接配置し、さらに遮断部材9に設けられたノズル97から基板表面Wfの凍結した液膜に向けて80℃程度に昇温された高温DIWを供給して凝固膜(凝固体)FFを解凍除去する(融解処理)。それに続いて、リンス液として常温のDIWを基板表面Wfに供給し、基板Wのリンス処理を行う。
【0051】
ここまでの処理が実行された時点では、基板Wが遮断部材9とスピンベース23との間に挟まれながら回転する状態で、基板Wの表面にDIWが供給されている。ここで、基板表面Wfへの高温DIWおよび常温DIWの供給と並行して、ノズル27からも高温DIWおよび常温DIWを供給してもよい。続いて基板WへのDIWの供給を停止し、基板Wを高速回転により乾燥させるスピン乾燥処理を行う。すなわち、遮断部材9に設けられたノズル97およびスピンベース23に設けられた下面ノズル27から乾燥ガス供給ユニット61により供給される乾燥用の窒素ガスを吐出させながら基板Wを高速度で回転させることにより、基板Wに残留するDIWを振り切り基板Wを乾燥させる。こうして乾燥処理が終了すると、処理済みの基板Wを搬出することによって1枚の基板に対する処理が完了する。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、基板Wの回転中心P(0)から基板Wの外縁側に離れた初期位置P(Rin)の上方に冷却ガス吐出ノズル7を配置し、回転している基板Wの初期位置P(Rin)に冷却ガスを供給して、初期位置P(Rin)および回転中心P(0)を含む初期領域に付着するDIWを凝固させることができる。例えばガス吐出口として31[mm]×46[mm]の開口を有する冷却ガス吐出ノズル7を初期位置P(65)、つまり基板Wの回転中心P(0)から65[mm]だけ外縁側に離れた位置の上方に位置決めした後、滞在時間3.4[sec]だけ滞在させながら温度−190℃の窒素ガスを流量90[L/min]で基板表面Wfに供給することで、初期凝固領域FR0が液膜LFの中央部に形成される(初期凝固工程)。この初期凝固領域FR0は、初期位置P(65)を中心として基板表面Wfに沿って広がる冷却ガスにより凝固される領域であり、初期位置P(65)から回転中心P(0)につながるように基板表面Wfに形成されており、上方からの平面視で回転中心軸(鉛直軸)AOを中心とする略円形形状となっている。この点に関しては、後で説明する実施例でも確認されている。
【0053】
そして、冷却ガスの供給による初期凝固領域FR0の形成に続いて、ノズル7から冷却ガスを供給しながら初期位置P(65)の上方から基板Wの外縁部の上方まで約9.4[sec]かけて移動させることによって、凝固される範囲が初期領域から基板Wの外縁側に広がり、基板表面Wfに付着していた全DIW(凝固対象液)を凝固して液膜LF全体を凍結している(ノズル移動工程)。このようにノズル7から冷却ガスを最初に供給する位置を基板Wの回転中心P(0)よりも外縁側に設定することで凝固膜(凝固体)FFの到達温度を基板Wの表面全体で均一化することができ、除去率の面内均一性を高めることができた。また、ノズル7を移動させる範囲が狭まり、冷却ガスを最初に供給する位置を回転中心P(0)の上方に設定していた従来技術に比べてノズル移動に要する時間を短縮することができ、スループットを向上させることができる。また、ノズル7を移動させる範囲が狭まった分だけノズル7の移動速度を落とすことで基板表面Wfの各部に対して冷却ガスが供給される時間が長くなり、到達温度をさらに低下させることも可能である。この場合、パーティクルの除去率をさらに向上させることができる。この点に関しても、後で説明する実施例で確認されている。
【0054】
さらに、冷却ガス吐出ノズル7が基板Wの外縁近傍P(150)に移動した後に、その位置で所定時間ΔT2、例えば5.7[sec]だけ滞在させて冷却ガスを供給し続けているため、凝固領域FReの到達温度を十分に低下させることができ、基板表面Wf全体での凝固膜FFの到達温度が均一となり、除去率の面内均一性が向上した。
【0055】
このように、本実施形態では、スピンチャック2が本発明の「基板保持手段」に相当し、チャック回転機構22が本発明の「回転手段」に相当している。また、冷却ガス吐出ノズル7および冷却ガス供給ユニット64が本発明の「冷却用気体供給手段」として機能し、第1アーム71および第1アーム昇降・回転機構73が本発明の「移動手段」として機能している。
【0056】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、基板Wの回転中心P(0)から65[mm]だけ外縁側に離れた位置P(65)を初期位置とし、この上方に冷却ガス吐出ノズル7を配置して初期凝固領域FR0を形成している(初期凝固工程)が、この初期位置P(Rin)はこれに限定されるものではなく、基板Wの回転中心P(0)よりも外縁側であり、かつ基板の回転中心P(0)と基板Wの外縁P(150)の中間よりも基板Wの回転中心寄りであればよい。より好ましくは、位置P(W7/2)よりも外縁側である。
【0057】
また、上記実施形態では、冷却ガス吐出ノズル7を移動させることで初期位置の上方に配置し、初期位置の上方から基板の外縁側に相対移動させているが、冷却ガス吐出ノズル7の代わりに、または冷却ガス吐出ノズル7とともに基板Wを移動させるように構成してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、DIWによって液膜を形成しているが、液膜を構成する液体、つまり凝固対象液はこれに限定されない。例えば、炭酸水、水素水、希薄濃度(例えば1ppm程度)のアンモニア水、希薄濃度の塩酸などを用いたり、DIWに少量の界面活性剤を加えたものを用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、同一の窒素ガス供給源から乾燥ガス供給ユニット61および冷却ガス供給ユニット64に乾燥ガス(窒素ガス)を供給しているが、これらは窒素ガスに限定されない。例えば、乾燥ガスと冷却ガスとを異なるガス種としてもよい。
【0060】
また、上記実施形態の基板処理装置は、窒素ガス供給源、DIW供給源および液体窒素供給源をいずれも装置内部に内蔵しているが、これらの供給源については装置の外部に設けられてもよく、例えば工場内に既設の供給源を利用するようにしてもよい。また、これらを冷却するための既設設備がある場合には、該設備によって冷却された液体やガスを利用するようにしてもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態の基板処理装置は、基板Wの上方に近接配置される遮断部材9を有するものであるが、本発明は遮断部材を有しない装置にも適用可能である。また、この実施形態の装置は基板Wをその周縁部に当接するチャックピン24によって保持するものであるが、基板の保持方法はこれに限定されるものではなく、他の方法で基板を保持する装置にも、本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0062】
次に本発明の実施例および比較例を示すが、本発明はもとより下記実施例や比較例によって制限を受けるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
ここでは、図7および図8に示すように、冷却ガス吐出ノズル7を最初に位置決めする位置を相違させながら、初期凝固領域FR0の形状や大きさを検証した。すなわち、冷却ガス吐出ノズル7を、
・基板Wの回転中心P(0)の上方、
・基板Wの位置P(20)の上方、
・基板Wの位置P(40)の上方、
・基板Wの位置P(65)の上方、
・基板Wの位置P(80)の上方、
・基板Wの位置P(100)の上方
に配置し、冷却ガス吐出ノズル7を2秒間滞在させたまま温度−190℃の窒素ガスを冷却ガスとして流量90[L/min]で基板表面Wfに供給したときの初期凝固領域FR0をそれぞれ観測した。その結果、基板Wの回転中心P(0)、位置P(20)、位置P(40)、位置P(65)の上方に冷却ガス吐出ノズル7を位置決めした場合には、初期位置を含み、かつ平面視で基板Wの回転中心軸(鉛直軸)OAを中心とする半径40[mm]、70[mm]、80[mm]、105[mm]の略円形の初期凝固領域FR0が得られた(図7(a)〜(c)、図8(a))。そして、初期凝固領域FR0の形成後に、冷却ガスをそのまま継続して供給しながら冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの外縁側に移動させると、初期凝固領域FR0が回転中心側から外縁側に広がり、基板表面Wf全体に凝固膜FFが形成された。これに対し、それらよりも外縁側に離れた位置P(80)、位置P(100)の上方に冷却ガス吐出ノズル7を位置決めした場合には、回転中心付近では液膜は凝固されず、平面視でドーナツ形状の初期凝固領域FR0が得られた(図8(b)、(c))。そして、初期凝固領域FR0の形成後に、冷却ガスをそのまま継続して供給しながら冷却ガス吐出ノズル7を基板Wの外縁側に移動させると、初期凝固領域FR0の外周側が外縁に向かって広がる一方、少し遅れて初期凝固領域FR0の内周側が回転中心に向かって広がり、基板表面Wf全体に凝固膜FFが形成された。
【0064】
こうして凝固膜FFが得られた基板Wのうち初期位置P(Rin)を基板Wの回転中心P(0)、位置P(65)、位置P(100)とした基板Wについて、基板表面Wfに形成された凝固膜FFの到達温度分布を計測したところ、図9に示す結果が得られた。同図中の符号R0(×A)、R30(×B)、R60(×C)、R90(×D)、R120(×E)、R140(×F)はそれぞれ回転中心から半径方向に0[mm]、30[mm]、60[mm]、90[mm]、120[mm]、140[mm]だけ離れた位置での表面温度を示している。同図(a)から明らかなように、初期位置P(Rin)を基板Wの回転中心P(0)とした場合、つまり従来技術では、回転中心の到達温度がその他の位置よりも大幅に低く、外縁側に行くにしたがって到達温度が高くなり、外縁付近は回転中心付近よりも大幅に温度が高くなっている。また、初期位置P(Rin)を位置P(100)とした場合、外縁近傍の到達温度が比較的低く、回転中心付近では外縁近傍に比べて大幅に高くなっている。これらに対し、初期位置P(Rin)を位置P(65)とした場合、外縁近傍の到達温度が若干高いものの、基板全体で見たとき、基板表面Wfの面内で比較的均等に低温となっている。
【0065】
そして、図9(a)〜(c)に示す到達温度分布を有する基板Wについて上記実施形態と同様の融解処理、リンス処理および乾燥処理を行った後、各基板Wの各部におけるパーティクルの除去率を計測したところ、図10に示す結果が得られた。同図に示すように、初期位置P(Rin)を回転中心P(0)や位置P(100)とした場合には、それぞれ凝固膜FFの温度が高かった付近でのパーティクル除去率が低く、十分な面内均一性が得られていない。これに対し、初期位置P(Rin)を位置P(65)とした場合には、基板表面Wfの全体に渡って均一で、しかも高いパーティクル除去率が得られており、これは図9(b)に示す到達温度分布の結果とも一致するものである。
【0066】
このように、初期位置から基板Wの回転中心P(0)につながる初期領域に付着するDIW(凝固対象液)を凝固させることができる程度に基板Wの回転中心P(0)から基板Wの外縁側に離れた初期位置の上方にノズルを配置して初期凝固工程を行った後、ノズル7から冷却ガスを供給しつつノズル7を基板Wの外縁側に移動させることで優れた面内均一性でパーティクル等を除去することが可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0067】
この発明は、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などを含む基板全般の表面に付着したパーティクル等の汚染物質を除去する基板処理方法および基板処理装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
2…スピンチャック(基板保持手段)
7…冷却ガス吐出ノズル(冷却用気体供給手段)
22…チャック回転機構(回転手段)
64…冷却ガス供給ユニット(冷却用気体供給手段)
71…アーム(移動手段)
73…第1アーム昇降・回転機構(移動手段)
AO…回転中心軸(鉛直軸)
W…基板
Wf…基板表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凝固対象液が付着した基板を略水平に保持して鉛直軸回りに回転させながら、前記凝固対象液の凝固点よりも低い冷却用気体をノズルから前記基板の表面に供給して前記凝固対象液を凝固させる凝固工程と、
前記凝固工程により凝固された凝固対象液を融解して除去する融解工程とを備え、
前記凝固工程は、
前記基板の回転中心から前記基板の外縁側に離れた初期位置の上方に配置した前記ノズルから前記冷却用気体を前記初期位置に供給することで、前記初期位置から前記基板の回転中心につながる初期領域の凝固対象液を凝固させる初期凝固工程と、
前記初期凝固工程後に、前記ノズルから前記冷却用気体を供給しつつ前記ノズルを前記基板の外縁側に相対移動させるノズル移動工程とを有する
ことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記初期位置が前記基板の回転中心と前記基板の外縁の中間よりも前記基板の回転中心寄りである基板処理方法。
【請求項3】
前記凝固工程では、前記ノズルの先端部に設けられた気体吐出口から前記冷却用気体を前記基板の表面に供給する請求項1または2に記載の基板処理方法であって、
前記基板の回転中心から前記初期位置までの距離は、前記気体吐出口の口径の半分以上である基板処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記凝固工程では、前記初期位置への前記冷却用気体の供給から第1の時間が経過した後に、前記ノズルの相対移動が開始される基板処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の基板処理方法であって、
前記凝固工程では、前記基板の外縁近傍の上方への前記ノズルの移動完了後、第2の時間が経過してから前記冷却用気体の供給を停止する基板処理方法。
【請求項6】
表面に凝固対象液が付着した基板を略水平に保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板を鉛直軸回りに回転させる回転手段と、
前記基板保持手段に保持された前記基板の表面の上方で前記基板の表面に沿って相対移動自在なノズルを有し、前記凝固対象液の凝固点よりも低い冷却用気体を前記ノズルから前記基板の表面に供給する冷却用気体供給手段と、
前記ノズルを前記基板の表面に沿って相対移動させる移動手段とを備え、
前記移動手段は、前記基板の回転中心から前記基板の外縁側に離れた初期位置の上方に前記ノズルを配置した後、前記ノズルを前記基板の外縁側に相対移動させ、
前記冷却用気体供給手段は、
前記初期位置の上方から前記基板の外縁側への前記ノズルの相対移動開始前に、前記初期位置の上方に配置された前記ノズルから前記冷却用気体を供給して前記初期位置から前記基板の回転中心につながる初期領域の凝固対象液を凝固させ、
前記基板の外縁側への前記ノズルの相対移動開始後、前記ノズルから前記冷却用気体を供給して前記初期領域以外の凝固対象液を凝固させる
ことを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−151349(P2012−151349A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9906(P2011−9906)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】