説明

基板処理装置および基板処理方法

【課題】基板のダメージを抑制することができる基板処理装置および基板処理方法を提供する。
【解決手段】基板処理装置は、基板Wを水平に保持するスピンチャックと、基板Wの上面内の噴射領域T1に吹き付けられる処理液の液滴を生成する液滴ノズル5と、基板Wを保護する保護液を基板Wの上面に向けて吐出する保護液ノズル6とを含む。保護液ノズル6は、保護液が基板Wの上面に沿って噴射領域T1の方に流れるように基板Wの上面に対して斜めに保護液を吐出し、噴射領域T1が保護液の液膜で覆われている状態で処理液の液滴を噴射領域T1に衝突させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理装置および基板処理方法に関する。処理対象となる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、プラズマディスプレイ用基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの製造工程では、半導体ウエハや液晶表示装置用ガラス基板などの基板に対して処理液を用いた処理が行われる。基板を1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置は、たとえば、基板を水平に保持して回転させるスピンチャックと、スピンチャックに保持されている基板の上面に処理液の液滴を衝突させる二流体ノズルと、スピンチャックに保持されている基板の上面に向けてリンス液を吐出するリンス液ノズルとを備えている。この基板処理装置では、リンス液によって覆われた基板の上面に処理液の液滴を衝突させることにより、基板が洗浄される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3892792号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の基板処理装置では、二流体ノズルは、基板の上面内の領域(以下では、「噴射領域」という。)に向けて処理液を吐出する。基板に供給されたリンス液の一部は、噴射領域に向かって基板上を広がる。しかしながら、噴射領域に吹き付けられる液滴の勢いが強いので、噴射領域に進入しようとするリンス液は、処理液の液滴に遮られて殆ど噴射領域に進入できない。そのため、リンス液が噴射領域に殆ど供給されず、十分な厚みを有するリンス液の液膜が噴射領域に形成されない。したがって、処理液の液滴は、噴射領域が液膜によって覆われていない状態、または噴射領域を覆う液膜が薄い状態で噴射領域に吹き付けられる。そのため、液滴と基板との衝突によって、基板に形成されたパターンに大きな衝撃が加わり、パターン倒れなどのダメージが発生する場合がある。
この発明の目的は、基板のダメージを抑制することができる基板処理装置および基板処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、基板を水平に保持する基板保持手段と、前記基板保持手段によって保持された基板の上面内の噴射領域に吹き付けられる処理液の液滴を生成する液滴ノズルと、前記基板を保護する保護液が前記基板保持手段によって保持された基板の上面に沿って前記噴射領域の方に流れるように前記基板の上面に対して斜めに保護液を吐出し、前記噴射領域が保護液の液膜で覆われている状態で処理液の液滴を前記噴射領域に衝突させる保護液ノズルとを含む、基板処理装置を提供する。
【0006】
この構成によれば、基板保持手段によって水平に保持されている基板の上面に向けて液滴ノズルから処理液が吐出される。これにより、基板の上面内の噴射領域に処理液の液滴が吹き付けられる。また、液滴ノズルからの処理液の吐出と並行して、保護液ノズルから基板の上面に向けて保護液が吐出される。保護液ノズルから吐出された保護液は、基板との衝突によって方向転換し、基板上で広がりながら噴射領域の方へ基板の上面に沿って流れる。基板上を広がる保護液は、噴射領域に吹き付けられる処理液の液滴に抗して噴射領域に進入する。すなわち、保護液ノズルからの保護液の吐出速度、保護液ノズルからの保護液の吐出方向、保護液ノズルから液滴ノズルまでの距離、基板の上面に対する吐出方向の角度、および基板の回転速度の少なくとも一つを含む流速制御条件が適宜設定されることにより、保護液が処理液の液滴に抗して噴射領域に進入できるように基板上での保護液の流速が制御されている。
【0007】
具体的には、保護液ノズルからの保護液の吐出方向が基板の上面に対して傾いているから、吐出方向が基板の上面に垂直である場合よりも、保護液が方向転換するときの減速が小さい。そのため、保護液ノズルから吐出された保護液は、比較的大きい速度で噴射領域に到達する。したがって、保護液は、噴射領域に吹き付けられる処理液の液滴に抗して噴射領域に進入する。そのため、保護液が噴射領域に供給され、十分な厚みを有する保護液の液膜が噴射領域に形成される。よって、処理液の液滴は、保護液の液膜、すなわち保護膜によって噴射領域が覆われている状態で噴射領域に衝突する。これにより、基板に形成されたパターンに加わる衝撃を緩和して、基板のダメージを抑制することができる。
【0008】
さらに、保護液の吐出方向が基板の上面に対して傾いているから、基板上で保護液が広がる範囲が比較的狭い。つまり、吐出方向が基板の上面に垂直である場合には、保護液が基板上で放射状に広がるのに対して、吐出方向が基板の上面に対して傾いている場合には、保護液が基板上で三角形状に広がる。したがって、保護液が供給される基板上の各点での流量は、吐出方向が基板の上面に垂直である場合よりも大きい。そのため、吐出方向が基板の上面に垂直である場合よりも大きな流量で噴射領域に保護液を供給することができる。これにより、噴射領域を覆う液膜の厚みを増加させることができ、基板のダメージを抑制することができる。
【0009】
前記噴射領域は、長手方向に延びる長方形状であってもよい。この場合、前記保護液ノズルは、前記保護液ノズルから吐出された保護液が前記長手方向に対して平面視で斜めの方向から前記噴射領域に進入するように保護液を吐出することが好ましい。
この構成によれば、基板の上面に沿って流れる保護液が、噴射領域の長手方向に対して平面視で斜めの方向から噴射領域に進入する。したがって、保護液は、噴射領域を斜めに通過する。そのため、保護液が噴射領域を長手方向に通過する場合よりも、保護液が噴射領域を通過する経路が短い。噴射領域に進入した保護液は、処理液の液滴によって進行が妨げられるので、経路が長いと、経路の終端まで保護液が到達できない場合がある。つまり、噴射領域の全域に保護液が供給されない場合がある。したがって、保護液の経路を短縮することにより、噴射領域の全域に保護液を確実に供給することができる。これにより、噴射領域の全域を覆う保護液の液膜を確実に形成することができる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記基板処理装置は、前記基板の上面中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させる回転手段をさらに含み、前記保護液ノズルは、前記回転手段による前記基板の回転方向に関して前記噴射領域よりも上流側の狙い位置に向けて保護液を吐出する。
この構成によれば、基板の上面中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに基板が回転している状態で、基板の上面内の狙い位置に向けて保護液ノズルから保護液が吐出される。したがって、保護液ノズルから吐出された保護液は、狙い位置との衝突によって方向転換し、基板上で広がりながら噴射領域の方へ流れる。すなわち、回転状態の基板に保護液が供給されるので、基板に供給された保護液は、基板との接触によって径方向(回転半径方向)に加速されると共に基板の回転方向に加速される。したがって、基板に供給された保護液は、狙い位置から径方向に広がりながら回転方向に流れる。
【0011】
狙い位置は、基板の回転方向に関して噴射領域よりも上流側の位置である。狙い位置が噴射領域より下流側である場合には、狙い位置に供給された保護液が、噴射領域に到達するまでに基板の周囲に排出されるおそれがある。仮に保護液が噴射領域に到達できたとしても、噴射領域に進入する保護液の流速および流量は、狙い位置が噴射領域よりも上流側である場合に比べて小さい。したがって、基板の回転方向に関して噴射領域よりも上流側の位置(狙い位置)に向けて保護液を吐出させることにより、噴射領域に保護液を確実に供給することができる。これにより、噴射領域を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0012】
前記基板処理装置は、前記基板の上面中央部と前記基板の上面周縁部との間で前記噴射領域が移動するように、前記液滴ノズルと前記保護液ノズルとの位置関係を一定に保ちながら前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させるノズル移動手段をさらに含んでいてもよい。前記ノズル移動手段は、前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを保持するノズルアームと、前記ノズルアームを移動させるアーム移動手段とを含んでいてもよい。
【0013】
この構成によれば、噴射領域が、基板の上面中央部と基板の上面周縁部との間で移動するように、ノズル移動手段が、液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させる。したがって、回転手段が基板を回転軸線まわりに回転させている状態で、ノズル移動手段が、液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させると、基板の上面が噴射領域によって走査され、噴射領域が基板の上面全域を通過する。これにより、基板の上面全域に処理液の液滴を衝突させて、基板から異物を除去することができる。さらに、ノズル移動手段は、液滴ノズルと保護液ノズルとの位置関係(たとえば、距離や姿勢)を一定に保ちながら液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させる。そのため、保護液ノズルから吐出された保護液が確実に狙い位置に供給される。これにより、噴射領域に保護液を確実に進入させて、噴射領域を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0014】
前記基板処理装置は、前記噴射領域が前記基板の上面のいずれの領域に位置するときでも、前記保護液ノズルから吐出された保護液が一定の速度で前記噴射領域に進入するように、前記基板上での保護液の流速を制御する流速制御手段をさらに含むことが好ましい。流速制御手段は、前記基板の回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記保護液ノズルからの保護液の吐出速度を制御する吐出速度制御手段とを含んでいてもよい。
【0015】
この構成によれば、回転手段が基板を回転させており、ノズル移動手段が液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させているときに、流速制御手段が、たとえば、回転手段による基板の回転速度や、保護液ノズルからの保護液の吐出速度を制御することにより、基板上での保護液の流速を制御する。前述のように、基板に供給された保護液は、基板の回転によって加速される。基板の各位置での周速は、基板の上面中央部(回転中心)に近づくほど減少するから、基板の回転速度と保護液の吐出速度とが一定であれば、基板上での保護液の流速は、回転中心からの距離が短いほど低下する。そのため、回転中心から狙い位置までの距離が短いと、保護液が噴射領域に進入するときの進入速度が低下してしまう。流速制御手段は、たとえば、回転中心から狙い位置までの距離に応じて基板の回転速度および/または保護液の吐出速度を変化させることにより、基板上での保護液の流速を安定させることができる。これにより、保護液を一定の速度で噴射領域に進入させることができる。そのため、回転中心から狙い位置までの距離が短い場合、つまり、基板の周速が小さい領域に噴射領域が位置する場合であっても、噴射領域を覆う保護液の液膜を確実に形成することができる。
【0016】
この発明の一つの実施形態では、前記液滴ノズルは、処理液の液滴を噴射する噴射口が形成されており、前記噴射領域に対向する対向面を含む。この構成によれば、基板の上面に対向面が対向している状態で、対向面に形成された噴射口から処理液の液滴が噴射される。これにより、処理液の液滴が噴射領域に吹き付けられる。基板上を広がる保護液は、液滴ノズルの対向面と基板の上面との間に進入し、噴射領域を覆う。これにより、噴射領域を覆う保護液の液膜が形成される。このように、基板の上面に対して斜めに保護液を吐出することにより、噴射領域が液滴ノズルによって覆われている場合であっても、保護液を比較的大きい速度で噴射領域に到達させることができる。したがって、噴射領域を保護液の液膜で保護しながら、処理液の液滴を噴射領域に衝突させることができる。これにより、基板のダメージを抑制することができる。
【0017】
前記保護液ノズルは、1.6m/s以上の吐出速度で保護液を吐出することが好ましい。後述するように、1.6m/s以上の速度で保護液ノズルから保護液を吐出させることにより、処理液の液滴が噴射領域に吹き付けられている状態でも、処理液の液滴に抗して保護液を噴射領域に進入させることができる。これにより、噴射領域に保護液を供給して、噴射領域を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0018】
この発明は、さらに基板を水平に保持する基板保持工程と、前記保持された基板の上面内の噴射領域に、液滴ノズルから処理液の液滴を吹き付ける液滴供給工程と、保護液ノズルから前記基板の上面に対して斜めに保護液を吐出し、前記保持された基板の上面に沿って前記噴射領域の方に向かう前記保護液の流れを前記基板の上面に形成して、前記噴射領域が前記保護液の液膜で覆われている状態で前記処理液の液滴を前記噴射領域に衝突させる工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0019】
この方法において、前記保護液が前記基板の上面で三角形状に広がることが好ましい。
また、前記保護液が前記基板の上面に対して10〜40度の角度で前記保護液ノズルから吐出されることが好ましい。
さらに、前記方法において、前記噴射領域は、長手方向に延びる長方形状であり、前記保護液ノズルから吐出された保護液が前記長手方向に対して平面視で斜めの方向から前記噴射領域に進入するように前記保護液を前記保護液ノズルから吐出することが好ましい。
【0020】
また、前記方法において、前記保護液が前記基板の上面において前記噴射領域を通過する経路が、前記噴射領域の長手方向の長さよりも短いことが好ましい。
さらに、前記保護液が前記長手方向に対して平面視で25〜35度をなす方向に沿って前記保護液ノズルから吐出されることが好ましい。
さらに、前記方法は、前記基板の上面中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させる基板回転工程をさらに含んでもよい。この場合に、前記基板の回転方向に関して前記噴射領域よりも上流側の狙い位置に向けて前記保護液ノズルから前記保護液を吐出することが好ましい。
【0021】
また、この場合において、前記方法は、前記基板の上面中央部と前記基板の上面周縁部との間で前記噴射領域が移動するように、前記液滴ノズルと前記保護液ノズルとの位置関係を一定に保ちながら前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させるノズル移動工程をさらに含むことが好ましい。
さらにまた、前記方法が、前記噴射領域が前記基板の上面のいずれの領域に位置するときでも、前記保護液ノズルから吐出された保護液が一定の速度で前記噴射領域に進入するように、前記基板上での保護液の流速を制御する流速制御工程をさらに含むことが好ましい。
【0022】
前記液滴ノズルは、処理液の液滴を噴射する噴射口が形成されており、前記噴射領域に対向する対向面を含むように構成されていてもよい。この場合に、前記保護液ノズルから吐出されて前記基板の上面を広がる保護液が、前記対向面と前記基板の上面との間に進入することが好ましい。
また、前記方法において、前記保護液ノズルから、1.6m/s以上の吐出速度で保護液を吐出することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズルおよびこれに関連する構成の平面図である。
【図3】図3は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズルおよび保護液ノズルの模式的な側面図である。
【図4】図4は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズルおよび保護液ノズルの模式的な平面図である。
【図5】図5は、図4の一部を拡大した図である。
【図6】図6A−6Dは、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置によって行われる基板の処理例について説明するための図である。
【図7】図7は、吐出方向と基板のダメージ数との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、平面視における保護液ノズルから液滴ノズルまでの吐出方向への距離と基板のダメージ数との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、基板の上面と吐出方向とがなす角度と基板のダメージ数との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、保護液ノズルからの保護液の吐出速度と基板のダメージ数との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、回転状態の基板に向けて保護液ノズルから保護液を吐出したときの噴射領域への保護液の供給状態について説明するための模式的な平面図である。
【図12】図12は、噴射領域に向かう保護液の流速が小さいときの供給状態について説明するための模式的な側面図である。
【図13】図13は、噴射領域に向かう保護液の流速が大きいときの供給状態について説明するための模式的な側面図である。
【図14】図14は、液滴ノズルから噴射される液滴の噴射速度と基板のダメージ数との関係を示すグラフである。
【図15】図15は、この発明の第2実施形態に係る液滴ノズルおよび保護液ノズルの模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置1の概略構成を示す模式図である。図2は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズル5およびこれに関連する構成の平面図である。
基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを1枚ずつ処理する枚葉式の基板処理装置である。基板処理装置1は、基板Wを水平に保持して回転させるスピンチャック2(基板保持手段、回転手段)と、スピンチャック2を取り囲む筒状のカップ3と、基板Wにリンス液を供給するリンス液ノズル4と、基板Wに処理液の液滴を衝突させる液滴ノズル5と、基板Wに保護液を供給する保護液ノズル6と、スピンチャック2などの基板処理装置1に備えられた装置の動作やバルブの開閉を制御する制御装置7(流速制御手段)とを備えている。
【0025】
スピンチャック2は、基板Wを水平に保持して当該基板Wの中心C1を通る鉛直な回転軸線L1まわりに回転可能なスピンベース8と、このスピンベース8を回転軸線L1まわりに回転させるスピンモータ9とを含む。スピンチャック2は、基板Wを水平方向に挟んで当該基板Wを水平に保持する挟持式のチャックであってもよいし、非デバイス形成面である基板Wの裏面(下面)を吸着することにより当該基板Wを水平に保持するバキューム式のチャックであってもよい。第1実施形態では、スピンチャック2は、挟持式のチャックである。
【0026】
リンス液ノズル4は、リンス液バルブ10が介装されたリンス液供給管11に接続されている。リンス液バルブ10が開かれると、基板Wの上面中央部に向けてリンス液ノズル4からリンス液が吐出される。その一方で、リンス液バルブ10が閉じられると、リンス液ノズル4からのリンス液の吐出が停止される。リンス液ノズル4に供給されるリンス液としては、純水(脱イオン水)、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水や、希釈濃度(たとえば、10〜100ppm程度)の塩酸水などを例示することができる。
【0027】
液滴ノズル5は、インクジェット方式によって多数の液滴を噴射するインクジェットノズルである。液滴ノズル5は、処理液供給管12を介して処理液供給機構13に接続されている。さらに、液滴ノズル5は、排出バルブ14が介装された処理液排出管15に接続されている。処理液供給機構13は、たとえば、ポンプを含む。処理液供給機構13は、常時、所定圧力(たとえば、10MPa以下)で処理液を液滴ノズル5に供給している。液滴ノズル5に供給される処理液としては、たとえば、純水や、炭酸水や、SC−1(NHOHとHとを含む混合液)などが挙げられる。制御装置7は、処理液供給機構13を制御することにより、液滴ノズル5に供給される処理液の圧力を任意の圧力に変更することができる。
【0028】
また、図1に示すように、液滴ノズル5は、液滴ノズル5の内部に配置された圧電素子16(piezo element)を含む。圧電素子16は、配線17を介して電圧印加機構18に接続されている。電圧印加機構18は、たとえば、インバータを含む。電圧印加機構18は、交流電圧を圧電素子16に印加する。交流電圧が圧電素子16に印加されると、印加された交流電圧の周波数に対応する周波数で圧電素子16が振動する。制御装置7は、電圧印加機構18を制御することにより、圧電素子16に印加される交流電圧の周波数を任意の周波数(たとえば、数百KHz〜数MHz)に変更することができる。したがって、圧電素子16の振動の周波数は、制御装置7によって制御される。
【0029】
基板処理装置1は、ノズル移動機構19(ノズル移動手段)をさらに含む。ノズル移動機構19は、液滴ノズル5を保持するノズルアーム20と、ノズルアーム20に接続された回動機構21(アーム移動手段)と、回動機構21に接続された昇降機構22とを含む。回動機構21は、たとえば、モータを含む。昇降機構22は、たとえば、ボールねじ機構と、このボールねじ機構を駆動するモータとを含む。回動機構21は、スピンチャック2の周囲に設けられた鉛直な回転軸線L2まわりにノズルアーム20を回動させる。液滴ノズル5は、ノズルアーム20と共に回転軸線L2まわりに回動する。これにより、液滴ノズル5が水平方向に移動する。一方、昇降機構22は、回動機構21を鉛直方向に昇降させる。液滴ノズル5およびノズルアーム20は、回動機構21と共に鉛直方向に昇降する。これにより、液滴ノズル5が鉛直方向に移動する。
【0030】
回動機構21は、スピンチャック2の上方を含む水平面内で液滴ノズル5を水平に移動させる。図2に示すように、回動機構21は、スピンチャック2に保持された基板Wの上面に沿って延びる円弧状の軌跡X1に沿って液滴ノズル5を水平に移動させる。軌跡X1は、スピンチャック2に保持された基板Wの上面に垂直な垂直方向(鉛直方向)から見たときに基板Wの上面に重ならない2つの位置を結び、鉛直方向から見たときに基板Wの上面の中心C1を通る曲線である。液滴ノズル5がスピンチャック2に保持された基板Wの上方に位置する状態で、昇降機構22が液滴ノズル5を降下させると、液滴ノズル5が基板Wの上面に近接する。処理液の液滴を基板Wに衝突させるときは、液滴ノズル5が基板Wの上面に近接している状態で、制御装置7が、回動機構21を制御することにより、軌跡X1に沿って液滴ノズル5を水平に移動させる。
【0031】
また、保護液ノズル6は、ノズルアーム20に保持されている。回動機構21および昇降機構22の少なくとも一方がノズルアーム20を移動させると、液滴ノズル5および保護液ノズル6は、液滴ノズル5および保護液ノズル6の位置関係が一定に保たれた状態で移動する。したがって、回動機構21がノズルアーム20を回動させると、保護液ノズル6は、液滴ノズル5と共に軌跡X1に沿って水平に移動する。図1に示すように、保護液ノズル6は、保護液バルブ23および流量調整バルブ24が介装された保護液供給管25に接続されている。保護液バルブ23が開かれると、基板Wの上面に向けて保護液ノズル6から保護液が吐出される。その一方で、保護液バルブ23が閉じられると、保護液ノズル6からの保護液の吐出が停止される。保護液ノズル6からの保護液の吐出速度は、制御装置7が流量調整バルブ24の開度を調整することにより変更される。保護液ノズル6に供給される保護液としては、たとえば、リンス液や、SC−1などの薬液が挙げられる。
【0032】
図3は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズル5および保護液ノズル6の模式的な側面図である。図4は、この発明の第1実施形態に係る液滴ノズル5および保護液ノズル6の模式的な平面図である。図5は、図4の一部を拡大した図である。図4において、液滴ノズル5は、その下面5a(対向面)だけが示されている。以下では、液滴ノズル5および保護液ノズル6について説明する。最初に、液滴ノズル5について説明する。
【0033】
図3に示すように、液滴ノズル5は、処理液の液滴を噴射する本体26と、本体26を覆うカバー27と、カバー27によって覆われた圧電素子16と、本体26とカバー27との間に介在するシール28とを含む。本体26およびカバー27は、いずれも耐薬性を有する材料によって形成されている。本体26は、たとえば、石英によって形成されている。カバー27は、たとえば、フッ素系の樹脂によって形成されている。シール28は、たとえば、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)などの弾性材料によって形成されている。本体26は、高圧に耐えうる強度を有している。本体26の一部と圧電素子16とは、カバー27の内部に収容されている。配線17の端部は、たとえば半田(solder)によって、カバー27の内部で圧電素子16に接続されている。カバー27の内部は、シール28によって密閉されている。
【0034】
図3に示すように、本体26は、処理液が供給される供給口29と、供給口29に供給された処理液を排出する排出口30と、供給口29と排出口30とを接続する処理液流通路31と、処理液流通路31に接続された複数の噴射口32とを含む。処理液流通路31は、本体26の内部に設けられている。供給口29、排出口30、および噴射口32は、本体26の表面で開口している。供給口29および排出口30は、噴射口32よりも上方に位置している。本体26の下面5aは、たとえば、水平な平坦面であり、噴射口32は、本体26の下面5aで開口している。噴射口32は、たとえば数μm〜数十μmの直径を有する微細孔である。処理液供給管12および処理液排出管15は、それぞれ、供給口29および排出口30に接続されている。
【0035】
図4に示すように、複数の噴射口32は、複数(たとえば、4つ)の列Lを構成している。各列Lは、等間隔で配列された多数(たとえば、10個以上)の噴射口32によって構成されている。各列Lは、水平な長手方向D1に沿って直線状に延びている。各列Lは、直線状に限らず、曲線状であってもよい。4つの列Lは、平行である。4つの列Lのうちの2つの列Lは、長手方向D1に直交する水平な方向に隣接している。同様に、残り2つの列Lも、長手方向D1に直交する水平な方向に隣接している。隣接する2つの列Lは、対をなしている。対の2つの列Lにおいて、一方の列Lを構成する複数の噴射口32(図4の噴射口32a)と、他方の列Lを構成する複数の噴射口32(図4の噴射口32b)とは、長手方向D1にずれている。液滴ノズル5は、鉛直方向から見たときに、たとえば、4つの列Lが軌跡X1に交差するようにノズルアーム20に保持されている(図2参照)。
【0036】
処理液供給機構13(図1参照)は、常時、高圧で処理液を液滴ノズル5に供給している。処理液供給管12を介して処理液供給機構13から供給口29に供給された処理液は、処理液流通路31に供給される。排出バルブ14が閉じられている状態では、処理液流通路31での処理液の圧力(液圧)が高い。そのため、排出バルブ14が閉じられている状態では、液圧によって各噴射口32から処理液が噴射される。さらに、排出バルブ14が閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子16に印加されると、処理液流通路31を流れる処理液に圧電素子16の振動が付与され、各噴射口32から噴射される処理液が、この振動によって分断される。そのため、排出バルブ14が閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子16に印加されると、処理液の液滴が各噴射口32から噴射される。これにより、粒径が均一な多数の処理液の液滴が均一な速度で同時に噴射される。
【0037】
一方、排出バルブ14が開かれている状態では、処理液流通路31に供給された処理液が、排出口30から処理液排出管15に排出される。すなわち、排出バルブ14が開かれている状態では、処理液流通路31での液圧が十分に上昇していないため、処理液流通路31に供給された処理液は、微細孔である噴射口32から噴射されずに、排出口30から処理液排出管15に排出される。したがって、噴射口32からの処理液の吐出は、排出バルブ14の開閉により制御される。制御装置7は、液滴ノズル5を基板Wの処理に使用しない間(液滴ノズル5の待機中)は、排出バルブ14を開いている。そのため、液滴ノズル5の待機中であっても、液滴ノズル5の内部で処理液が流通している状態が維持される。
【0038】
基板Wの上面に処理液の液滴を衝突させるときは、制御装置7が、ノズル移動機構19(図1参照)によって液滴ノズル5を移動させることにより、液滴ノズル5の下面5a(本体26の下面5a)を基板Wの上面に近接させる。そして、制御装置7は、液滴ノズル5の下面5aが基板Wの上面に対向している状態で、排出バルブ14を閉じて処理液流通路31の圧力を上昇させると共に、圧電素子16を駆動することにより、処理液流通路31内の処理液に振動を加える。これにより、粒径が均一な多数の処理液の液滴が均一な速度で同時に噴射される。そして、図3および図4に示すように、液滴ノズル5から噴射された多数の液滴は、基板Wの上面内の2つの噴射領域T1に吹き付けられる。すなわち、一方の噴射領域T1は、一方の対の2つの列Lの直下の領域であり、この2つの列Lを構成する噴射口32から噴射された処理液の液滴は、一方の噴射領域T1に吹き付けられる。同様に、他方の噴射領域T1は、他方の対の2つの列Lの直下の領域であり、この2つの列Lを構成する噴射口32から噴射された処理液の液滴は、他方の噴射領域T1に吹き付けられる。図4に示すように、各噴射領域T1は、長手方向D1に延びる平面視長方形状であり、2つの噴射領域T1は、平行である。
【0039】
次に、保護液ノズル6について説明する。
保護液ノズル6は、保護液を吐出する吐出口33を有している。吐出口33は、液滴ノズル5の上端よりも下方に配置されている。吐出口33は、たとえば、円形である。吐出口33は、円形に限らず、楕円形であってもよいし、スリット状であってもよい。保護液ノズル6は、吐出口33から基板W上の狙い位置P1に向かう吐出方向D2に保護液を吐出する。狙い位置P1は、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1よりも上流側の位置である。狙い位置P1は、中心角θc(図4参照)、すなわち、基板Wの上面中央部および噴射領域T1を結ぶ直線と、基板Wの上面中央部および狙い位置P1を結ぶ直線とがなす角度が、たとえば、90度以下になるように設定されている。吐出方向D2は、吐出口33から狙い位置P1に向かう方向であると共に、平面視において吐出口33から液滴ノズル5に向かう方向である。吐出方向D2は、長手方向D1に対して傾いている。平面視において長手方向D1と吐出方向D2とがなす角度θ1(図4参照)は、たとえば、25〜35度、好ましくは30度である。
【0040】
また、保護液ノズル6および液滴ノズル5は間隔を空けて配置されている。基板Wの上面からの吐出口33の高さが2mmの場合、平面視における保護液ノズル6(吐出口33)から液滴ノズル5までの吐出方向D2への距離D(図4参照)は、たとえば、15〜40mm、好ましくは15〜20mm、さらに好ましくは、20mmである。図3に示すように、吐出方向D2は、鉛直方向に対して噴射領域T1の方へ傾けられている。すなわち、狙い位置P1は、水平方向に関して吐出口33よりも噴射領域T1側に配置されており、吐出方向D2は、基板Wの上面に対して傾いている。基板Wの上面と吐出方向D2とがなす角度θ2(図3参照)は、たとえば、10〜40度、好ましくは、30度である。
【0041】
図3に示すように、保護液ノズル6から吐出された保護液は、狙い位置P1における基板Wとの衝突によって方向転換し、基板W上で広がりながら噴射領域T1の方へ基板Wの上面に沿って流れる。これにより、液滴ノズル5と基板Wの上面との間に保護液が進入し、噴射領域T1に保護液が供給される。吐出方向D2が鉛直方向に対して傾いているので、基板W上で保護液が広がる範囲が比較的狭い。つまり、吐出方向D2が鉛直である場合には、保護液が狙い位置P1から放射状に広がるのに対して、吐出方向D2が傾いている場合には、保護液は、狙い位置P1を1つの頂点とする三角形状に広がる。そのため、保護液が供給される基板W上の各点での流量は、吐出方向D2が鉛直である場合よりも大きい。したがって、吐出方向D2が鉛直である場合よりも大きな流量で噴射領域T1に保護液が供給される。さらに、吐出方向D2が鉛直である場合に比べて保護液が方向転換するときの減速が小さいので、吐出方向D2が鉛直である場合よりも大きな流速で保護液が噴射領域T1に供給される。
【0042】
制御装置7は、スピンチャック2によって基板Wを回転させながら、保護液ノズル6から保護液を吐出させる。回転状態の基板Wに保護液が供給されるので、基板Wに供給された保護液は、基板Wとの接触によって径方向(回転半径方向)に加速されると共に基板Wの回転方向Drに加速される。したがって、基板Wに供給された保護液は、狙い位置P1から径方向に広がりながら回転方向に流れる。また、狙い位置P1は、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1よりも上流側であるので、噴射領域T1には、狙い位置P1から噴射領域T1の間で回転方向Drに加速された保護液が供給される。したがって、噴射領域T1には、保護液ノズル6から吐出されたときよりも大きな流速で保護液が供給される。
【0043】
さらに、吐出方向D2が平面視において長手方向D1に対して傾いているから、保護液ノズル6から吐出された保護液は、噴射領域T1に対して斜めに進入する(図4における「斜めの方向D3」参照)。したがって、噴射領域T1に進入した保護液は、噴射領域T1を斜めに通過する。そのため、保護液が噴射領域T1を長手方向D1に通過する場合よりも、保護液が噴射領域T1を通過する経路が短い。噴射領域T1に処理液の液滴が吹き付けられている状態では、噴射領域T1に進入した保護液は、処理液の液滴によって進行が妨げられるので、経路が長いと、経路の終端まで保護液が到達できない場合がある。つまり、噴射領域T1の全域に保護液が供給されない場合がある。したがって、保護液の経路を短縮することにより、噴射領域T1の全域に保護液を確実に供給することができる。さらに、噴射領域T1に保護液が斜めに進入するから、各噴射口32から噴射された処理液の液滴が基板Wに衝突する位置(衝突位置)に保護液が直接供給される。すなわち、図5に示すように、各噴射口32に対応する衝突位置には、他の噴射口32に対応する衝突位置を通過していない保護液が供給される。したがって、液滴との衝突によって減速していない保護液が、各噴射口32に対応する衝突位置に供給される。
【0044】
図6A〜6Dは、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置1によって行われる基板Wの処理例について説明するための図である。
未処理の基板Wは、図示しない搬送ロボットによって搬送され、デバイス形成面である表面をたとえば上に向けてスピンチャック2上に載置される。そして、制御装置7は、スピンチャック2によって基板Wを保持させる。その後、制御装置7は、スピンモータ9を制御して、スピンチャック2に保持されている基板Wを回転させる。
【0045】
次に、リンス液の一例である純水をリンス液ノズル4から基板Wに供給して、基板Wの上面を純水で覆う第1カバー工程が行われる。具体的には、制御装置7は、スピンチャック2によって基板Wを回転させながら、リンス液バルブ10を開いて、図6Aに示すように、リンス液ノズル4からスピンチャック2に保持されている基板Wの上面中央部に向けて純水を吐出させる。リンス液ノズル4から吐出された純水は、基板Wの上面中央部に供給され、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの上面に沿って外方に広がる。これにより、基板Wの上面全域に純水が供給され、基板Wの上面全域を覆う純水の液膜が形成される。そして、リンス液バルブ10が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置7は、リンス液バルブ10を閉じてリンス液ノズル4からの純水の吐出を停止させる。
【0046】
次に、処理液の一例である炭酸水の液滴を液滴ノズル5から基板Wに供給して基板Wを洗浄する洗浄工程と、保護液の一例であるSC−1を保護液ノズル6から基板Wに供給して基板Wの上面をSC−1で覆う第2カバー工程とが並行して行われる。具体的には、制御装置7は、ノズル移動機構19を制御することにより、液滴ノズル5および保護液ノズル6をスピンチャック2の上方に移動させると共に、液滴ノズル5の下面5aを基板Wの上面に近接させる。その後、制御装置7は、スピンチャック2によって基板Wを回転させながら、保護液バルブ23を開いて、図6Bに示すように、保護液ノズル6からSC−1を吐出させる。制御装置7は、保護液ノズル6からSC−1を吐出させる前に、たとえば1.6m/s以上の吐出速度で保護液ノズル6からSC−1が吐出されるように、流量調整バルブ24の開度を調整している。したがって、保護液ノズル6からは1.6m/s以上の吐出速度でSC−1が吐出される。そして、保護液ノズル6から吐出されたSC−1は、噴射領域T1の全域に供給される。これにより、噴射領域T1の全域を覆うSC−1の液膜が形成される(図13参照)。
【0047】
一方、制御装置7は、保護液ノズル6からのSC−1の吐出と並行して、液滴ノズル5から炭酸水の液滴を噴射させる。具体的には、制御装置7は、液滴ノズル5の下面5aが基板Wの上面に近接しており、保護液ノズル6からSC−1が吐出されている状態で、排出バルブ14を閉じるとともに、電圧印加機構18によって所定の周波数の交流電圧を液滴ノズル5の圧電素子16に印加させる。さらに、図6Bに示すように、制御装置7は、一定の回転速度で基板Wを回転させると共に、一定の速度(前述の吐出速度)で保護液ノズル6からSC−1を吐出させながら、ノズル移動機構19によって、中心位置Pcと周縁位置Peとの間で液滴ノズル5を軌跡X1に沿って複数回往復させる(ハーフスキャン)。図2において実線で示すように、中心位置Pcは、平面視において液滴ノズル5と基板Wの上面中央部とが重なる位置であり、図2において二点鎖線で示すように、周縁位置Peは、平面視において液滴ノズル5と基板Wの上面周縁部とが重なる位置である。
【0048】
多数の炭酸水の液滴が液滴ノズル5から下方に噴射されることにより、SC−1の液膜によって覆われている噴射領域T1に多数の炭酸水の液滴が吹き付けられる。また、制御装置7が、基板Wを回転させながら、中心位置Pcと周縁位置Peとの間で液滴ノズル5を移動させるので、噴射領域T1によって基板Wの上面が走査され、噴射領域T1が基板Wの上面全域を通過する。したがって、基板Wの上面全域に炭酸水の液滴が吹き付けられる。基板Wの上面に付着しているパーティクルなどの異物は、基板Wに対する液滴の衝突によって物理的に除去される。また、異物と基板Wとの結合力は、SC−1が基板Wを溶解させることにより弱められる。したがって、異物がより確実に除去される。また、基板Wの上面全域が液膜によって覆われている状態で、炭酸水の液滴が噴射領域T1に吹き付けられるので、基板Wに対する異物の再付着が抑制または防止される。このようにして、第2カバー工程と並行して洗浄工程が行われる。そして、洗浄工程および第2カバー工程が所定時間に亘って行われると、制御装置7は、排出バルブ14を開いて、液滴ノズル5からの液滴の噴射を停止させる。さらに、制御装置7は、保護液バルブ23を閉じて、保護液ノズル6からのSC−1の吐出を停止させる。
【0049】
次に、リンス液の一例である純水をリンス液ノズル4から基板Wに供給して、基板Wに付着している液体や異物を洗い流すリンス工程が行われる。具体的には、制御装置7は、スピンチャック2によって基板Wを回転させながら、リンス液バルブ10を開いて、図6Cに示すように、リンス液ノズル4からスピンチャック2に保持されている基板Wの上面中央部に向けて純水を吐出させる。リンス液ノズル4から吐出された純水は、基板Wの上面中央部に供給され、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの上面に沿って外方に広がる。これにより、基板Wの上面全域に純水が供給され、基板Wに付着している液体や異物が洗い流される。そして、リンス液バルブ10が開かれてから所定時間が経過すると、制御装置7は、リンス液バルブ10を閉じてリンス液ノズル4からの純水の吐出を停止させる。
【0050】
次に、基板Wを乾燥させる乾燥工程(スピンドライ)が行われる。具体的には、制御装置7は、スピンモータ9を制御して、基板Wを高回転速度(たとえば数千rpm)で回転させる。これにより、基板Wに付着している純水に大きな遠心力が作用し、図6Dに示すように、基板Wに付着している純水が基板Wの周囲に振り切られる。このようにして、基板Wから純水が除去され、基板Wが乾燥する。そして、乾燥工程が所定時間にわたって行われた後は、制御装置7は、スピンモータ9を制御して、スピンチャック2による基板Wの回転を停止させる。その後、処理済みの基板Wが搬送ロボットによってスピンチャック2から搬出される。
【0051】
図7は、吐出方向D2と基板Wのダメージ数との関係を示すグラフである。
図7のダメージ数は、平面視において長手方向D1と吐出方向D2とがなす角度θ1を除き、同じ条件で基板Wを処理したときの測定値である。図7に示すように、角度θ1が10〜50度の範囲では、角度θ1が10度および50度のときにダメージ数が多い。図示はしないが、角度θ1が10度および50度のときには、液滴ノズル5の下面5aと基板Wの上面との間から下流側に向かって噴き出すスモークのような水しぶきが発生した。この水しぶきは、保護液が噴射領域T1の全域に供給されておらず、保護液が欠乏しているために発生したと考えられる。つまり、水しぶきの発生は、噴射領域T1の全域が保護液の液膜によって覆われていないことを示していると考えられる。一方、角度θ1が20〜40度のときには、ダメージ数が少なく、水しぶきが発生しなかった。さらに、角度θ1が25〜35度の範囲では、角度θ1が20度および40度のときよりもダメージ数が少ない。したがって、平面視において長手方向D1と吐出方向D2とがなす角度θ1は、25〜35度が好ましく、30度がさらに好ましい。
【0052】
図8は、平面視における保護液ノズル6から液滴ノズル5までの吐出方向D2への距離Dと基板Wのダメージ数との関係を示すグラフである。
図8のダメージ数は、距離Dを除き、同じ条件で基板Wを処理したときの測定値である。図8に示すように、距離Dが5〜60mmの範囲では、距離Dが5mmおよび60mmのときに、ダメージ数が多く、水しぶきが発生した。一方、距離Dが10〜40mmのときには、ダメージ数が少なく、水しぶきが発生しなかった。さらに、距離Dが15〜25mmの範囲では、ダメージ数が一層少ない。したがって、平面視における保護液ノズル6から液滴ノズル5までの吐出方向D2への距離Dは、15〜40mmが好ましく、15〜25mmがさらに好ましく、20mmが最も好ましい。
【0053】
図9は、基板Wの上面と吐出方向D2とがなす角度θ2と基板Wのダメージ数との関係を示すグラフである。
図9のダメージ数は、角度θ2を除き、同じ条件で基板Wを処理したときの測定値である。図9に示すように、角度θ2が10〜50度の範囲では、角度θ2が50度のときに、ダメージ数が多く、水しぶきが発生した。一方、角度θ2が10〜40度のときには、ダメージ数が少なく、水しぶきが発生しなかった。さらに、角度θ2が30度のときはダメージ数が最も少ない。したがって、基板Wの上面と吐出方向D2とがなす角度θ2は、10〜40度が好ましく、30度が最も好ましい。
【0054】
図10は、保護液ノズル6からの保護液の吐出速度と基板Wのダメージ数との関係を示すグラフである。
図10は、保護液ノズル6からの保護液の吐出速度を除き、同じ条件で基板Wを処理したときの測定値である。図10に示すように、保護液の吐出速度が0.8〜2.7m/sの範囲では、保護液の吐出速度が1.3m/s以上のときにダメージ数が少ない。さらに、保護液の吐出速度が1.6〜2.7m/sの範囲では、保護液の吐出速度が1.3m/sのときよりもダメージ数が少ない。また、図10の測定結果から、保護液の吐出速度が2.7m/sを超える範囲でも、ダメージ数は、保護液の吐出速度が1.6〜2.7m/sのときと同等と考えられる。したがって、保護液ノズル6からの保護液の吐出速度は、1.6m/s以上であることが好ましい。この場合、保護液の吐出速度の上限値は、13m/sであってもよい。すなわち、保護液の吐出速度は、基板W上での保護液の流速が、1.6m/s以上、より具体的には1.6〜13m/sになるように設定されていてもよい。
【0055】
図11は、回転状態の基板Wに向けて保護液ノズル6から保護液を吐出したときの噴射領域T1への保護液の供給状態について説明するための模式的な平面図である。図12は、噴射領域T1に向かう保護液の流速が小さいときの供給状態について説明するための模式的な側面図である。図13は、噴射領域T1に向かう保護液の流速が大きいときの供給状態について説明するための模式的な側面図である。図14は、液滴ノズル5から噴射される液滴の噴射速度と基板Wのダメージ数との関係を示すグラフである。以下では、図11を参照する。図12〜図14については適宜参照する。
【0056】
図11の上段に示す3つの供給状態は、平面視において長手方向D1と吐出方向D2とがなす角度θ1だけを変化させたときの供給状態であり、距離Dおよび角度θ2については適切な値に設定されている。図11の上段に示すように、角度θ1が適切(Proper)である場合(25〜35度である場合)には、噴射領域T1の全域に保護液が供給される。その一方で、角度θ1が適切な範囲よりも小さい場合や大きい場合には、基板W上で保護液が広がる範囲が、噴射領域T1の全域に重ならないので、噴射領域T1の全域に保護液が供給されない。そのため、保護液の液膜によって覆われていない領域に処理液の液滴が吹き付けられてしまう。
【0057】
また、図11の中段に示す2つの供給状態は、平面視における保護液ノズル6から液滴ノズル5までの吐出方向D2への距離Dだけを変化させたときの供給状態であり、角度θ1および角度θ2については適切な値に設定されている。図11の中段に示すように、距離Dが適切である場合(15〜40mmである場合)には、噴射領域T1の全域に保護液が供給される。その一方で、距離Dが適切な範囲よりも大きい場合には、噴射領域T1に達するまでに保護液が必要以上に広がっているので、噴射領域T1に進入する保護液の流量および流速が十分でない。したがって、保護液が処理液の液滴に遮られて、噴射領域T1の全域に進入できない。そのため、保護液の液膜によって覆われていない領域に処理液の液滴が吹き付けられてしまう。
【0058】
また、図11の下段に示す3つの供給状態は、基板Wの上面と吐出方向D2とがなす角度θ2だけを変化させたときの供給状態であり、角度θ1および距離Dについては適切な値に設定されている。図11の下段に示すように、角度θ2が適切である場合(10〜40度である場合)には、噴射領域T1の全域に保護液が供給される。その一方で、角度θ2が適切な範囲よりも小さい場合(たとえば、吐出方向D2が水平に近い場合)には、回転方向Drへの保護液の流速が大きいので、基板Wに供給された保護液は、径方向に十分に広がる前に噴射領域T1よりも下流側に移動してしまう。そのため、噴射領域T1の全域に保護液が供給されない。また、角度θ2が適切な範囲よりも大きい場合には、径方向への保護液の広がりが大きいから、十分な流量および流速で保護液が噴射領域T1に供給されない。そのため、噴射領域T1の全域に保護液が供給されない場合がある。
【0059】
このように、吐出方向D2(平面視において長手方向D1と吐出方向D2とがなす角度θ1)、平面視における保護液ノズル6から液滴ノズル5までの吐出方向D2への距離D、および基板Wの上面と吐出方向D2とがなす角度θ2を適切な値に設定することにより、保護液を十分な流速かつ十分な流量で噴射領域T1に進入させることができる。これにより、十分な膜厚を有し、噴射領域T1の全域を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0060】
すなわち、図12に示すように、基板W上での保護液の流速が小さいと、噴射領域T1に進入しようとする保護液は、処理液の液滴に遮られて噴射領域T1に殆ど進入できない。そのため、噴射領域T1を覆う保護液の液膜が形成されない。仮に保護液の液膜が形成されたとしても、その膜厚が小さい。一方、図13に示すように、基板W上での保護液の流速が大きいと、噴射領域T1に進入しようとする保護液は、処理液の液滴に抗して噴射領域T1に進入する。そのため、十分な膜厚を有する保護液の液膜が形成され、この液膜によって噴射領域T1の全域が覆われる。すなわち、処理液の液滴が噴射領域T1に吹き付けられている間も、噴射領域T1の全域が保護液の液膜によって覆われている状態が維持される。したがって、噴射領域T1の全域を保護液によって保護しながら、噴射領域T1からパーティクルなどの異物を除去することができる。
【0061】
液滴ノズル5から噴射される液滴の速度を増加させれば、液滴の衝突によって異物に加わる衝撃が増加するので、異物の除去率を向上させることができる。しかしながら、液滴ノズル5から噴射される液滴の速度を増加させると、基板に形成されたパターンに加わる衝撃も増加するので、ダメージ数が増加してしまう。具体的には、図14において一点鎖線(比較例)で示すように、噴射領域T1が保護液の液膜によって覆われていない状態で処理液の液滴を噴射領域T1に衝突させた場合、液滴ノズル5からの液滴の噴射速度が大きくなると、ダメージ数が増加している。しかし、図14において二点鎖線(実施例)で示すように、噴射領域T1が保護液の液膜によって覆われている状態で処理液の液滴を噴射領域T1に衝突させれば、ダメージ数を低減することができる。したがって、保護液の液膜によって噴射領域T1を覆うことにより、噴射領域T1が保護液の液膜によって覆われていない状態ではダメージが発生する噴射速度で液滴ノズル5から処理液の液滴を噴射させることができる。これにより、ダメージの発生を抑制しながら、異物の除去率を向上させることができる。
【0062】
以上のように第1実施形態では、スピンチャック2によって水平に保持されている基板Wの上面に向けて液滴ノズル5から処理液の液滴が噴射される。これにより、基板Wの上面内の噴射領域T1に処理液の液滴が吹き付けられる。また、液滴ノズル5からの処理液の吐出と並行して、保護液ノズル6から基板Wの上面に向けて保護液が吐出される。保護液ノズル6から吐出された保護液は、基板Wとの衝突によって方向転換し、基板W上で広がりながら噴射領域T1の方へ基板Wの上面に沿って流れる。基板W上を広がる保護液は、噴射領域T1に吹き付けられる処理液の液滴に抗して噴射領域T1に進入する。すなわち、保護液ノズル6からの保護液の吐出速度、保護液ノズル6からの保護液の吐出方向D2、保護液ノズル6から液滴ノズル5までの距離D、基板Wの上面に対する吐出方向の角度θ2、および基板Wの回転速度の少なくとも一つを含む流速制御条件が適宜設定されることにより、保護液が処理液の液滴に抗して噴射領域T1に進入できるように基板W上での保護液の流速が制御されている。
【0063】
具体的には、保護液ノズル6からの保護液の吐出方向D2が基板Wの上面に対して傾いているから、吐出方向D2が基板Wの上面に垂直である場合よりも、保護液が方向転換するときの減速が小さい。そのため、保護液ノズル6から吐出された保護液は、比較的大きい速度で噴射領域T1に到達する。したがって、保護液は、噴射領域T1に吹き付けられる処理液の液滴に抗して噴射領域T1に進入する。そのため、保護液が噴射領域T1に供給され、十分な厚みを有する保護液の液膜が噴射領域T1に形成される。よって、処理液の液滴は、保護液の液膜、すなわち保護膜によって噴射領域T1が覆われている状態で噴射領域T1に衝突する。これにより、パターンに加わる衝撃を緩和して、基板Wのダメージを抑制することができる。
【0064】
さらに、保護液の吐出方向D2が基板Wの上面に対して傾いているから、基板W上で保護液が広がる範囲が比較的狭い。つまり、吐出方向D2が基板Wの上面に垂直である場合には、保護液が基板W上で放射状に広がるのに対して、吐出方向D2が基板Wの上面に対して傾いている場合には、保護液が基板W上で三角形状に広がる。したがって、保護液が供給される基板W上の各点での流量は、吐出方向D2が基板Wの上面に垂直である場合よりも大きい。そのため、吐出方向D2が基板Wの上面に垂直である場合よりも大きな流量で噴射領域T1に保護液を供給することができる。これにより、噴射領域T1を覆う液膜の厚みを増加させることができ、基板Wのダメージを抑制することができる。
【0065】
また第1実施形態では、基板Wの上面に沿って流れる保護液が、噴射領域T1の長手方向D1に対して平面視で斜めの方向D3(図4参照)から噴射領域T1に進入する。したがって、保護液は、噴射領域T1を斜めに通過する。そのため、保護液が噴射領域T1を長手方向D1に通過する場合よりも、保護液が噴射領域T1を通過する経路が短い。噴射領域T1に進入した保護液は、処理液の液滴によって進行が妨げられるので、経路が長いと、経路の終端まで保護液が到達できない場合がある。つまり、噴射領域T1の全域に保護液が供給されない場合がある。したがって、保護液の経路を短縮することにより、噴射領域T1の全域に保護液を確実に供給することができる。これにより、噴射領域T1の全域を覆う保護液の液膜を確実に形成することができる。
【0066】
また第1実施形態では、基板Wの上面中央部を通る鉛直な回転軸線L1まわりに基板Wが回転している状態で、基板Wの上面内の狙い位置P1に向けて保護液ノズル6から保護液が吐出される。したがって、保護液ノズル6から吐出された保護液は、狙い位置P1との衝突によって方向転換し、基板W上で広がりながら噴射領域T1の方へ流れる。すなわち、回転状態の基板Wに保護液が供給されるので、基板Wに供給された保護液は、基板Wとの接触によって径方向(回転半径方向)に加速されると共に基板Wの回転方向Drに加速される。したがって、基板Wに供給された保護液は、狙い位置P1から径方向に広がりながら回転方向に流れる。
【0067】
狙い位置P1は、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1よりも上流側の位置である。狙い位置P1が噴射領域T1より下流側である場合には、狙い位置P1に供給された保護液が、噴射領域T1に到達するまでに基板Wの周囲に排出されるおそれがある。仮に保護液が噴射領域T1に到達できたとしても、噴射領域T1に進入する保護液の流速および流量は、狙い位置P1が噴射領域T1よりも上流側である場合に比べて小さい。したがって、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1よりも上流側の位置(狙い位置P1)に向けて保護液を吐出させることにより、噴射領域T1に保護液を確実に供給することができる。これにより、噴射領域T1を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0068】
また第1実施形態では、噴射領域T1が、基板Wの上面中央部と基板Wの上面周縁部との間で移動するように、ノズル移動機構19が、液滴ノズル5および保護液ノズル6を移動させる。したがって、スピンチャック2が基板Wを回転軸線L1まわりに回転させている状態で、ノズル移動機構19が、液滴ノズル5および保護液ノズル6を移動させると、基板Wの上面が噴射領域T1によって走査され、噴射領域T1が基板Wの上面全域を通過する。これにより、基板Wの上面全域に処理液の液滴を衝突させて、基板Wから異物を除去することができる。さらに、ノズル移動機構19は、液滴ノズル5と保護液ノズル6との位置関係(たとえば、距離や姿勢)を一定に保ちながら液滴ノズル5および保護液ノズル6を移動させる。そのため、保護液ノズル6から吐出された保護液が確実に狙い位置P1に供給される。これにより、噴射領域T1に保護液を確実に進入させて、噴射領域T1を覆う保護液の液膜を形成することができる。
【0069】
次に、この発明の第2実施形態について説明する。以下の図15において、前述の図1〜図14に示された各部と同等の構成部分については、図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
図15は、この発明の第2実施形態に係る液滴ノズル205および保護液ノズル6の模式的な側面図である。
【0070】
第2実施形態に係る基板処理装置201は、液滴ノズルを除き、第1実施形態に係る基板処理装置1と同様の構成を備えている。すなわち、基板処理装置201は、第1実施形態に係る液滴ノズル5に代えて、噴射領域T201に吹き付けられる処理液の液滴を生成する液滴ノズル205を備えている。第2実施形態では、2つの液滴ノズル205が基板処理装置201に備えられている。2つの液滴ノズル205は、共通の保持部材に保持されていてもよいし、液滴ノズル205毎に設けられた専用の保持部材に保持されていてもよい。また、図15では、2つの液滴ノズル205が水平方向(紙面の左右方向)に間隔を空けて配置されている状態が示されているが、2つの液滴ノズル205は、接触していてもよいし、一体的に結合されていてもよい。さらに、液滴ノズル205の数は、2つに限らず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0071】
液滴ノズル205は、液体と気体とを混合して液滴を生成する二流体ノズルである。液滴ノズル205は、噴射領域T201に向けて処理液を吐出する処理液吐出口234と、噴射領域T201に向けて気体を吐出する気体吐出口235とを有している。気体吐出口235は、環状であり、処理液吐出口234を取り囲んでいる。気体吐出口235からは、気体の一例である窒素ガスなどの不活性ガスが吐出される。液滴ノズル205は、処理液吐出口234から処理液を吐出させながら、気体吐出口235から気体を吐出させることにより、液滴ノズル205と基板Wとの間で処理液に気体を衝突させて、処理液の液滴を生成する。これにより、保護液ノズル6から吐出された保護液の液膜によって覆われた噴射領域T201に処理液の液滴が吹き付けられる。
【0072】
この発明の実施の形態の説明は以上であるが、この発明は、前述の第1および第2実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、前述の第1実施形態では、制御装置7は、第2カバー工程において、スピンチャック2による基板Wの回転速度と、保護液ノズル6からの保護液の吐出速度とを一定に維持しながら、液滴ノズル5を軌跡X1に沿って水平に移動させる場合について説明した。しかし、制御装置7は、第2カバー工程において、液滴ノズル5を軌跡X1に沿って水平に移動させながら、基板Wの回転速度および/または保護液の吐出速度を変化させてもよい。具体的には、制御装置7は、第2カバー工程において、基板Wの回転速度を一定に維持しながら、狙い位置P1が基板Wの上面中央部に近づくほど保護液の吐出速度を増加させてもよい。また、制御装置7は、第2カバー工程において、保護液の吐出速度を一定に維持しながら、狙い位置P1が基板Wの上面中央部に近づくほど基板Wの回転速度を増加させてもよい。
【0073】
前述のように、基板Wに供給された保護液は、基板Wの回転によって加速される。基板Wの各位置での周速は、基板Wの上面中央部(回転中心C1)に近づくほど減少するから、基板Wの回転速度と保護液の吐出速度とが一定であれば、基板W上での保護液の流速は、回転中心C1からの距離が短いほど低下する。そのため、回転中心C1から狙い位置P1までの距離が短い場合には、保護液が噴射領域T1に進入するときの進入速度が低下してしまう。したがって、制御装置7は、回転中心C1から狙い位置P1までの距離に応じて基板Wの回転速度および/または保護液の吐出速度を変化させることにより、基板W上での保護液の流速を安定させてもよい。この場合、保護液が一定の速度で噴射領域T1に進入するから、回転中心C1から狙い位置P1までの距離が短い場合であっても、噴射領域T1を覆う保護液の液膜を確実に形成することができる。したがって、基板Wの上面中央部だけにダメージ(特異的ダメージ)が発生することを抑制することができる。
【0074】
また、前述の第1実施形態では、複数の噴射口32が複数の列Lを構成している場合について説明した。つまり、複数の噴射口32が液滴ノズル5の下面5aで直線状に配列されている場合について説明した。しかし、複数の噴射口32の配置は、直線状に限られない。たとえば、複数の噴射口32は、液滴ノズル5の下面5a内に設けられた噴射口配置領域に配置されていてもよい。この場合、噴射口配置領域の形状は、矩形であってもよいし、円形であってもよい。また、複数の噴射口32は、この噴射口配置領域内で等間隔で配置されていてもよいし、不等間隔で配置されていてもよい。
【0075】
また、前述の第1実施形態では、基板Wを回転させながら液滴ノズル5を移動させることにより、基板Wの上面全域に処理液の液滴を衝突させる場合について説明した。すなわち、基板Wおよび液滴ノズル5の両方を移動させる場合について説明した。しかし、基板Wおよび液滴ノズル5の一方だけを移動させて、基板Wの上面全域に処理液の液膜を衝突させてもよい。具体的には、噴射領域T1が基板Wの上面全域を通過するように、基板Wを静止させた状態で液滴ノズル5を移動させてもよい。また、噴射領域T1が基板Wの上面全域を通過するように、液滴ノズル5を静止させた状態で基板Wを移動させてもよい。
【0076】
また、前述の第1実施形態では、1つの液滴ノズル5に対して1つの保護液ノズル6が設けられている場合について説明した。しかし、1つの液滴ノズル5に対して複数の保護液ノズル6が設けられていてもよい。たとえば、基板Wの回転方向Drに関して液滴ノズル5の上流側と下流側とに1つずつ保護液ノズル6が配置されていてもよい。この場合、2つの保護液ノズル6は、液滴ノズル5に関して対称に配置されていることが好ましい。
【0077】
液滴ノズル5の上流側と下流側とに保護液ノズル6が配置されている場合、一方の保護液ノズル6は、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1の上流側の狙い位置に向けて保護液を吐出し、他方の保護液ノズル6は、基板Wの回転方向Drに関して噴射領域T1の下流側の狙い位置に向けて保護液ノズル6を吐出する。したがって、液滴ノズル5が平面視において基板Wの端から端まで移動するように、制御装置7が液滴ノズル5を軌跡X1に沿って移動させたとしても(フルスキャン)、いずれか一方の狙い位置を常に噴射領域T1の上流側に位置させることができる。これにより、噴射領域T1が基板W上のいずれの領域に位置する場合でも、保護液を噴射領域T1に確実に供給することができる。
【0078】
また、前述の第1実施形態では、軌跡X1が曲線である場合について説明した。しかし、軌跡X1は、直線であってもよい。すなわち、軌跡X1は、スピンチャック2に保持された基板Wの上面に沿って延びており、基板Wの上面に垂直な垂直方向から見たときに基板Wの上面の中心C1を通る直線であってもよい。
また、前述の第1および第2実施形態では、基板処理装置1、201が、半導体ウエハなどの円板状の基板を処理する装置である場合について説明したが、基板処理装置1、201は、液晶表示装置用ガラス基板などの多角形の基板を処理する装置であってもよい。
【0079】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 基板処理装置
2 スピンチャック(基板保持手段、回転手段)
3 カップ
4 リンス液ノズル
5 液滴ノズル
5a 液滴ノズルの下面(対向面)
6 保護液ノズル
7 制御装置(流速制御手段)
8 スピンベース
9 スピンモータ
10 リンス液バルブ
11 リンス液供給管
12 処理液供給管
13 処理液供給機構
14 排出バルブ
15 処理液排出管
16 圧電素子
17 配線
18 電圧印加機構
19 ノズル移動機構(ノズル移動手段)
20 ノズルアーム
21 回動機構(アーム移動手段)
22 昇降機構
23 保護液バルブ
24 流量調整バルブ
25 保護液供給管
26 本体
27 カバー
28 シール
29 供給口
30 排出口
31 処理液流通路
32 噴射口
32a 噴射口
32b 噴射口
33 吐出口
201 基板処理装置
205 液滴ノズル
234 処理液吐出口
235 気体吐出口
C1 回転中心
D 距離
D1 長手方向
D2 吐出方向
D3 斜めの方向
Dr 回転方向
L 列
L1 回転軸線
Pc 中心位置
Pe 周縁位置
P1 狙い位置
T1 噴射領域
T201 噴射領域
W 基板
X1 軌跡
θc 中心角
θ1 角度
θ2 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に保持する基板保持手段と、
前記基板保持手段によって保持された基板の上面内の噴射領域に吹き付けられる処理液の液滴を生成する液滴ノズルと、
前記基板を保護する保護液が前記基板保持手段に保持された基板の上面に沿って前記噴射領域の方に流れるように前記基板の上面に対して斜めに保護液を吐出し、前記噴射領域が保護液の液膜で覆われている状態で処理液の液滴を前記噴射領域に衝突させる保護液ノズルとを含む、基板処理装置。
【請求項2】
前記噴射領域は、長手方向に延びる長方形状であり、
前記保護液ノズルは、前記保護液ノズルから吐出された保護液が前記長手方向に対して平面視で斜めの方向から前記噴射領域に進入するように保護液を吐出する、請求項1記載の基板処理装置。
【請求項3】
前記基板の上面中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させる回転手段をさらに含み、
前記保護液ノズルは、前記回転手段による前記基板の回転方向に関して前記噴射領域よりも上流側の狙い位置に向けて保護液を吐出する、請求項1または2記載の基板処理装置。
【請求項4】
前記基板の上面中央部と前記基板の上面周縁部との間で前記噴射領域が移動するように、前記液滴ノズルと前記保護液ノズルとの位置関係を一定に保ちながら前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させるノズル移動手段をさらに含む、請求項3記載の基板処理装置。
【請求項5】
前記ノズル移動手段は、前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを保持するノズルアームと、前記ノズルアームを移動させるアーム移動手段とを含む、請求項4記載の基板処理装置。
【請求項6】
前記噴射領域が前記基板の上面のいずれの領域に位置するときでも、前記保護液ノズルから吐出された保護液が一定の速度で前記噴射領域に進入するように、前記基板上での保護液の流速を制御する流速制御手段をさらに含む、請求項4または5記載の基板処理装置。
【請求項7】
前記流速制御手段は、前記基板の回転速度を制御する回転速度制御手段と、前記保護液ノズルからの保護液の吐出速度を制御する吐出速度制御手段とを含む、請求項6記載の基板処理装置。
【請求項8】
前記液滴ノズルは、処理液の液滴を噴射する噴射口が形成されており、前記噴射領域に対向する対向面を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項9】
前記保護液ノズルは、1.6m/s以上の吐出速度で保護液を吐出する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項10】
基板を水平に保持する基板保持工程と、
前記保持された基板の上面内の噴射領域に、液滴ノズルから処理液の液滴を吹き付ける液滴供給工程と、
保護液ノズルから前記基板の上面に対して斜めに保護液を吐出し、前記保持された基板の上面に沿って前記噴射領域の方に向かう前記保護液の流れを前記基板の上面に形成して、前記噴射領域が前記保護液の液膜で覆われている状態で前記処理液の液滴を前記噴射領域に衝突させる工程とを含む、基板処理方法。
【請求項11】
前記保護液が前記基板の上面で三角形状に広がる、請求項10記載の基板処理方法。
【請求項12】
前記保護液が前記基板の上面に対して10〜40度の角度で前記保護液ノズルから吐出される、請求項10または11に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記噴射領域は、長手方向に延びる長方形状であり、
前記保護液ノズルから吐出された保護液が前記長手方向に対して平面視で斜めの方向から前記噴射領域に進入するように前記保護液を前記保護液ノズルから吐出する、請求項10〜12のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記保護液が前記基板の上面において前記噴射領域を通過する経路が、前記噴射領域の長手方向の長さよりも短い、請求項13記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記保護液が前記長手方向に対して平面視で25〜35度をなす方向に沿って前記保護液ノズルから吐出される、請求項13または14に記載の基板処理方法。
【請求項16】
前記基板の上面中央部を通る鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させる基板回転工程をさらに含み、
前記基板の回転方向に関して前記噴射領域よりも上流側の狙い位置に向けて前記保護液ノズルから前記保護液を吐出する、請求項10〜15のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記基板の上面中央部と前記基板の上面周縁部との間で前記噴射領域が移動するように、前記液滴ノズルと前記保護液ノズルとの位置関係を一定に保ちながら前記液滴ノズルおよび保護液ノズルを移動させるノズル移動工程をさらに含む、請求項16記載の基板処理方法。
【請求項18】
前記噴射領域が前記基板の上面のいずれの領域に位置するときでも、前記保護液ノズルから吐出された保護液が一定の速度で前記噴射領域に進入するように、前記基板上での保護液の流速を制御する流速制御工程をさらに含む、請求項17記載の基板処理方法。
【請求項19】
前記液滴ノズルは、処理液の液滴を噴射する噴射口が形成されており、前記噴射領域に対向する対向面を含み、
前記保護液ノズルから吐出されて前記基板の上面を広がる保護液が、前記対向面と前記基板の上面との間に進入する、請求項10〜18のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項20】
前記保護液ノズルから、1.6m/s以上の吐出速度で保護液を吐出する、請求項10〜19のいずれか一項に記載の基板処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−216777(P2012−216777A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−27423(P2012−27423)
【出願日】平成24年2月10日(2012.2.10)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】