説明

基板分析用ノズル及び基板分析方法

【課題】本発明は、短時間で掃引可能なものとしつつ、掃引中において分析液も脱落しにくい基板分析用のノズルであって、ポリシリコン等の膜を備える基板の分析や、シリコンウェハー等の基材自体の分析にも好適なものを提供する。
【解決手段】本発明は、分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するとともに、外管先端に外気導入孔を有することを特徴とする基板分析用のノズルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に含まれる微量金属等の分析対象物を分析するためのノズルに関する。また、このノズルを用いた基板の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の基板を分析するノズルは、製造工程等において基板に混入した金属、有機物質等を、微量の分析液により検出する際に用いられている。具体的には、シリコンウェーハ等の基材にシリコン酸化膜や窒化膜等の形成された基板を分析する場合、気相分解法等により形成膜をエッチングする前処理を行った後、微量の分析液を吐出し、吐出した分析液で基板表面を掃引する際に用いられている。疎水性の基板上では、分析液が表面張力により液滴の状態を維持しやすいため、このような基板表面の掃引が可能となる。そして、このようなノズルによる掃引によって基板上の金属等が分析液中に移動するため、分析液をノズルで回収し、分析することが可能となる。
【0003】
かかる基板分析用のノズルに求められる特性の一つとしては、大型化した基板も短時間で効率的に分析できることがある。このため、基板表面を掃引する時間を短縮すべく、ノズル口径を大きくして、分析液と基板表面との接触面積を大きくする方法が知られている。しかしながら、ノズル口径を大きくした場合、掃引時にノズルから分析液が脱落しやすい傾向となり、掃引後の基板に分析液が残るという別の問題が生じやすいものであった。よって、基板分析用のノズルとしては、短時間で掃引可能であり、掃引中に分析液が脱落しにくい、という両特性を兼ね備えたものが求められている。
【0004】
かかる特性を備えるノズルとして、本発明者等は、特許文献1において、外縁が先端方向に突き出た端面と、前記端面において外縁近くまで偏心した開口を有するノズルを提案している。また、特許文献2には、分析液の脱落を防止すべく、ノズル管内を吸引もしくは減圧する機構を有するノズルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−132401号公報
【特許文献2】特開平5−256749号公報
【0006】
しかしながら、上記先行技術文献記載のノズルであっても、掃引中に分析液が脱落する場合があった。特に、ポリシリコンやタングステンシリサイド等の膜を備える基板を分析する場合や、シリコンウェハー等の基材自体を分析する、いわゆるバルク分析において、このような分析液の脱落が生じやすい傾向があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、短時間で掃引可能なものとしつつ、掃引中において分析液も脱落しにくい基板分析用のノズルであって、ポリシリコン等の膜を備える基板の分析や、シリコンウェハー等の基材自体の分析にも好適なものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、先端から基板上に分析液を吐出し、吐出した分析液で基板表面を掃引した後に分析液を吸引する基板分析用のノズルにおいて、分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するとともに、外管先端に外気導入孔を有するノズルに関する。本発明によれば、ポリシリコン、タングステンシリサイド、チタン、窒化チタン等の膜を備える基板や、シリコンウェハー等の基材自体を分析する場合にも、掃引中に分析液が脱落しにくいものとなり、短時間での掃引も可能となる。
【0009】
本発明のノズルは、ノズル本体の外周に外管を配した2重管で構成される。本発明のノズルでは、保持可能な分析液量が多く、基板表面との接触面積を大きくできるため、基板表面全体の掃引に要する時間を短縮できる。本発明のような2重管構造のノズルと従来の1重管構造のノズルで保持可能な分析液の量を比較すると、ノズルの口径にもよるが、2重管構造のノズルでは約500〜1000μL程度であるのに対し、1重管構造のノズルでは約100〜150μL程度である。
【0010】
本発明のノズルは、分析液の掃引中、ノズル本体と外管との間を排気経路として排気するための排気手段に加え、外管先端に外気導入孔を有するものである。本発明のように排気手段と外気導入孔の双方を備えるノズルによれば、掃引中における分析液の脱落を防止できる。これは、排気により、ノズル本体と外管との間を減圧雰囲気として分析液を保持しやすい状態を維持しつつ、外気導入孔を有することにより、外気が無秩序に流入することが防げるため、分析液の脱落が防止できたものと考えられる。
【0011】
ここで、外気が無秩序に排気経路内に流入する場合としては、基板の水平状態を維持しにくく、分析時に基板が傾いた状態となる場合や、表面状態の粗い基板を分析する場合が考えられる。例えば、大型の半導体基板等を分析する場合や、前処理時のエッチングにより基板表面が粗い状態となった場合である。このような場合、掃引するノズルと基板との距離を一定に維持することが困難な傾向となるためである。具体的には、通常の場合、図1aのように、掃引中はノズルと基板との距離をほぼ均一に保つことで、外管先端と基板との間に分析液が満たされるような状態で分析液が保持される。しかしながら、上記のように基板が傾いた状態となる場合等においては、外管の円周上の一部において、基板との距離が長くなる部分が発生しやすくなる。このため、外管先端と基板との間に分析液の満たされない隙間を生じ、その隙間よりノズル内部に外気が無秩序に流入するものと考えられる。これに対し、本発明によれば、これら基板の傾き等により外管先端と基板との間に分析液が満たされない隙間が発生した場合にも、外気導入孔に沿った外気の流入が促進されるため、分析液の脱落を生じにくいものと考えられる。尚、本発明の外気導入孔は、外管先端の円周上に複数設けることが好ましく、形状は切欠き状のものとすることができる。
【0012】
以上説明した本発明のノズルを用いた基板の分析方法として、特に好適なものについて説明する。
【0013】
本発明のノズルは、基板が、分析対象物を含み、ポリシリコン、タングステンシリサイド、チタン、窒化チタンのいずれかの膜を備える半導体基板又は半導体基板のウェーハ基材であり、この基板にノズル本体より分析液を吐出し、排気手段により排気しながら分析液で基板表面を掃引した後、分析対象物を含む分析液をノズル本体に吸引する基板分析方法に好適である。
【0014】
本発明の分析方法が、ポリシリコン、タングステンシリサイド、チタン、窒化チタンのいずれかの膜を備える半導体基板や、半導体基板のウェーハ基材の分析に好適であるのは、基板表面が疎水性ではない場合にも、分析液の脱落を生じることなく掃引可能なためである。このような分析において基板表面が疎水性ではない場合があるのは、ポリシリコン等の膜やウェーハ基材は比較的分解されにくいため、分析前のエッチング処理等において酸濃度の高い混酸や強酸等を用いる必要があり、結果として、基板表面が粗いものとなるからである。これに対し、従来の分析方法は、基板の表面が疎水性であり、分析液が表面張力で液滴の状態を維持できることを前提としていたため、ポリシリコン等の膜を備える基板やウェーハ基材を分析する場合、分析液の脱落しやすいものであった。
【0015】
以上説明した本発明の分析方法において、分析できる基板の種類は限定されないが、特に、ウェーハ等半導体基板の分析に好適である。特に、本発明によれば、回路パターンを形成したウェーハのように表面に凹凸がある基板も分析することが可能となる。
【0016】
そして、本発明の分析方法では、分析液としてフッ酸と硝酸の混合溶液を用いることができる。フッ酸と硝酸の混合溶液を用いた場合、基板表面が粗い状態となる傾向となるが、本発明の分析方法は、このような場合にも分析液の脱落を防止できるためである。このため、本発明によれば、分析対象物として、銅等の分析液に溶解されにくい金属が含まれる場合に、回収率を高めることが可能となる。一方、従来の分析方法では、基板表面が粗い状態となると、分析液の回収が困難となる傾向にあるため、通常、分析液としてはフッ酸と過酸化水素の混合溶液等が用いられている。このように、本発明では、従来法よりも酸濃度の高い酸や、強酸等を分析液として用いることが可能である。
【0017】
また、本発明は、ポリシリコン、タングステンシリサイド、チタン、窒化チタンのいずれかの膜を備える半導体基板や、半導体基板のウェーハ基材を分析する場合に、分析前処理として形成膜等を分解するエッチングを行わず、分析液により、形成膜等の分解と分析対象物の回収とを同時に行うことができる。即ち、従来はエッチング工程と回収工程という2つの工程を要していたところ、本発明では、両工程を同時に行うことができ、分析時間を大幅に短縮できる。上記したように、本発明の分析方法では、分析対象物の回収の際、分析液としてフッ化水素と硝酸の混合溶液を用いることができるため、比較的分解し難いポリシリコン等の膜や、ウェーハ基材も、分析液で分解しつつ分析対象物を回収できるためである。尚、ウェーハ基材が酸化膜や窒化膜のようにフッ酸でエッチングされやすい膜のみを備える場合には、分析前処理であるエッチングを行うことが好ましい。基板上に分析液を吐出した際、分析液が瞬時に広がってしまう傾向にあるためである。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の基板分析用のノズルは、短時間で掃引可能であり、掃引中に分析液が脱落しにくい、という両特性を兼ね備えたものである。また、ポリシリコン等の膜を備える基板や、ウェーハ基材を分析する場合にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1a】本実施形態におけるノズルの縦断面図。
【図1b】本実施形態におけるノズル先端の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
実施例1として、図1のノズルを用いて基板の分析を行った。図1aはノズルの縦断面図、図1bはノズル先端の横断面図である。図1のノズルは、ノズル本体10と、外管20とからなる2重管で構成される。ノズル本体10は、シリンジポンプ30と接続しており、分析液Dが吐出可能となっている。また、ノズルは、ノズル本体10と外管20との間を矢印方向に排気可能な排気手段として、排気ポンプ(図示せず)が接続されている。外管20は、先端部に外気導入孔21を備えている。本実施形態では、図1bのように、外管の円周上に4箇所の切り欠きよりなる外気導入孔21が設けられている。
【0022】
ノズル外管の大きさとしては、ノズル本体に対する直径が1.5〜2.5倍であることが好ましく、2倍程度であることが特に好ましい。1.5倍未満であると掃引時間の短縮効果が得られにくくなり、2.5倍を超えると、掃引できる分析液量が多くなるものの、分析液中の分析対象物の濃度が低くなりすぎて分析の検出感度が低くなる場合がある。本実施例では、ノズル本体が10mmで外管は20mmであり、ノズル本体に対する外管の大きさが直径で2倍のノズルを用いた。尚、図1aのようにノズル本体は先端部が細くなっているため、上記ノズル本体の直径としては、先端部以外の直径が一様な部分の大きさを基準とした。
【0023】
次に、上記ノズルを用いた具体的な分析方法について説明する。分析対象の基板としては、8インチのシリコンからなるウェーハ基材に、1000Å(100nm)のシリコン酸化膜、酸化膜の上に1000Å(100nm)のポリシリコン膜が形成された半導体基板を用いた。
【0024】
この半導体基板について、気相分解法等によるエッチングの前処理を行うことなく、図1のノズルを用いて、ポリシリコン等の形成膜の分解と分析対象物の回収とを同時に行った。まず、ノズルを5%HF、25%HNOを含む分析液に浸漬し、シリンジポンプ30で吸引してノズル本体10の液溜内に分析液を1000μL充填した。その後、半導体基板W上に分析液Dを600μL吐出させ、外管20の先端で分析液Dを取り囲むように保持しながら、分析液Dが基板Wの表面全体を通過するようノズルを操作した。ノズル操作は、例えば、基板Wを回転させつつノズル10を内側から外側に移動させる等の方法で基板Wの表面全体に対して行うことができる。
【0025】
上記ノズル操作中、排気ポンプにより、排気速度0.3〜1.0L/minで図1aの矢印方向への排気を行った。以上のノズル操作により、基板W上のポリシリコン等の膜を分解し、残渣として残った分析対象物を分析液中に移行させた。本実施形態では、以上のノズル操作中、分析液が残ることなく、基板Wの表面全体をノズル操作することができた。
【0026】
以上の実施例1に対し、比較例1として、外管20を有さないノズル本体10のみ(1重管構造)からなる従来のノズルを用いて基板の分析を行った。比較例1では、分析する基板としては実施例1と同様の半導体基板を用いたが、ノズルによる回収前に、前処理として気相分解法(VPD:Vapor Phase Deposition)によるエッチングを行い、ポリシリコン等の形成膜を分解した。このエッチングは、VPDチャンバー内に半導体基板を設置した後、フッ化水素濃度49wt%のフッ化水素溶液をネブライザーで霧化させた蒸気と、酸素20%と窒素80%とからなるガスを出力200kWのガス放電器でガス放電して発生させたオゾン含有ガスとを供給してエッチングを行った。尚、フッ化水素溶液4及び酸素含有ガスAの供給量は、フッ化水素の蒸気が0.5〜1.5L/min、オゾン含有ガスが0.5〜2.0L/minとなるように調整した。その後、上記した1重管構造のノズルを用い、分析液として1%HF、4%Hを用いて分析対象物を回収した。このとき、半導体基板W上に吐出する分析液Dは100〜150μLとした。
【0027】
以上の結果、実施例1と比較例1で基板の分析に要した時間を比較すると、実施例1では、分析時間8分で、形成膜の分解と分析対象物の回収とを同時に行うことができた。一方、比較例1では、形成膜を分解するエッチングに15分、分析対象物の回収に12分を要し、分析時間の合計は27分となった。
【0028】
また、比較例2として、図1aにおける外気導入孔21を有さない2重管構造のノズルを用いたこと以外は実施例1と同様の方法として、基板の分析を行った。
【0029】
上記の結果、比較例2のノズルを用いた場合、分析液が掃引中にノズルより脱落し、基板上に残りやすい傾向となった。このように比較例2では分析液が脱落しやすい傾向となったのは、ノズル内部に外気が流入した際に、ノズルにより分析液が保持しにくいものとなったことが原因と考えられる。
【0030】
次に、実施例1により回収した分析対象物を含む分析液について、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により下記表1に示す元素のウェーハ中における濃度を測定した。そして、以上の回収工程及び元素濃度の分析を、同一の基板について合計3回繰り返して行い、回収率を求めた。回収率は、1回目の分析で検出された元素濃度を、3回の分析で検出された元素濃度の合計値に対する割合(回収率)より算出した。分析方法は、一般に1回の分析で全ての対象物を検出できることが望まれているため、上記回収率の高いほど、1回目の分析で多くの元素を検出できた良好な結果であることが示される。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より、実施例1によれば、半導体基板に含まれる微量の分析対象物について、回収率の高い分析が可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、基板に含まれる金属等の汚染を評価する技術において、微量の汚染物を高感度に検出する基板の分析に用いられるノズルを提供する。
【符号の説明】
【0034】
10 ノズル本体
20 外管
21 外気導入孔
30 シリンジポンプ
W ウェーハ
D 分析液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から基板上に分析液を吐出し、吐出した分析液で基板表面を掃引した後に分析液を吸引する基板分析用のノズルにおいて、
分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、
ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するとともに、外管先端に外気導入孔を有することを特徴とする基板分析用のノズル。
【請求項2】
請求項1記載のノズルを用いて基板を分析する方法において、
基板は、分析対象物を含み、ポリシリコン、タングステンシリサイド、チタン、窒化チタンのいずれかの膜を備える半導体基板又は半導体基板のウェーハ基材であり、
ノズル本体より基板に分析液を吐出し、排気手段により排気しながら分析液で基板表面を掃引した後、分析対象物を含む分析液をノズル本体に吸引する基板分析方法。

【図1a】
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【図1b】
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【公開番号】特開2011−128033(P2011−128033A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287205(P2009−287205)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(505322131)株式会社 イアス (10)
【Fターム(参考)】