説明

基板割れ検出方法および当該基板割れ検出方法に基づくイオンビーム照射装置の運転方法

【課題】イオンビーム照射装置において、安価かつ簡単な構成で、広範囲に渡って基板割れの検出を行う。
【解決手段】基板8の裏面と対向する面に1つ以上の開口部を有する基板支持部材9と、基板8を搭載した基板支持部材9を駆動させて、イオンビーム3の少なくとも一部が基板8上に照射される照射領域とイオンビーム3が基板8上に照射されない非照射領域に基板8を搬送する基板駆動機構と、基板8の下流側でイオンビーム3が照射される位置に配置されたビーム電流計測器11を備えたイオンビーム照射装置1で、照射領域内に基板8が搬送されているときに、ビーム電流計測器11によって計測されたビーム電流の計測値に基づいて、基板割れの有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板にイオンビームを照射して、イオン注入、イオンビーム配向処理等の処理を基板に施し、例えば、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等)を製造すること等に用いられるイオンビーム照射装置において、基板割れを検出する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大型画面化に伴って、ディスプレイ用の基板寸法の大型化が進められている。このような大型基板は、基板搬送時に撓みや反りが生じ易い。その為、撓みや反りが生じた部分が搬送ロボットのアームや真空容器の壁面等に衝突して、基板が割れてしまう恐れがある。
【0003】
このような基板割れを検出する手法として、特許文献1に挙げられる技術が用いられている。特許文献1に開示の技術では、一方向に向けて搬送されるガラス基板の両端部と中央部が通過する下方に光センサーを個別に配置しておき、各光センサーから出力された光をガラス基板が通過する場所を挟んで対向配置された反射板により反射させ、これを各光センサーで受光し、信号を生成する。そして、ガラス基板の中央部が通過する下方に設けられた光センサーで生成された信号と、ガラス基板の両端部が通過する下方に設けられた光センサーで生成された信号とを比較して、基板に割れがあるかどうかを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−156539号公報(段落0021〜0022、図1〜3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フラットパネルのような矩形状基板の場合、基板割れは端部に起こりやすい。その為、特許文献1では、基板の両端部が通過する下方に光センサーを配置して、基板割れがあるかどうかを検出する手法が用いられていた。しかしながら、基板寸法が大きくなった場合、基板の撓みや反りも大きくなり、基板の両端部以外の場所でも基板割れが生じることが懸念される。
【0006】
また、イオンビーム照射装置でこのような大型基板を用いる場合、基板にイオンビームが照射されることで、基板表面がチャージアップ(帯電)される。正の電荷を有するイオンビームであれば、基板は正にチャージアップする。このチャージアップを抑制する為に、従来からプラズマフラッドガンや電子源による基板表面への電子供給が行われていたが、基板寸法が大きくなった場合、基板全面に渡って十分に電子を供給することが難しく、基板面上の場所によっては、イオンビームの照射に伴うチャージアップが集中して、その箇所で放電が発生し、最悪の場合、基板が割れてしまうことが懸念される。
【0007】
上記した懸念事項を考慮し、基板の両端部以外の場所で発生する基板割れについても検出できるように、特許文献1に開示の光センサーの数を増加させることが考えられるが、光センサーの数を増やした場合、基板割れ検出に係るシステムが高価になってしまう。
【0008】
また、光センサーの数の増加に伴って、基板割れ検出システム全体の故障率が増大するので、基板割れ検出が行われる前に、各光センサーが正常に動作するかどうかを確認する特別な工程を用意しておくことが考えられるが、その場合、基板割れ検出に係る構成が複雑になってしまう。
【0009】
上記した問題点を考慮し、本発明では、イオンビーム照射装置において、安価かつ簡単な構成を用いて、広範囲に亘って基板の割れ検出を行うことができる基板割れ検出方法を提供することを一つの目的としている。
【0010】
また、上記基板割れ検出方法に基づくイオンビーム照射装置の運転方法を提供することを他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る基板割れ検出方法の一つは、イオンビームが照射される基板が配置された処理室と、前記処理室内で、前記基板を支持し、前記基板の裏面と対向する面に1つ以上の開口部を有する基板支持部材と、前記基板支持部材を前記イオンビームと交差する方向に駆動させることで、前記イオンビームの少なくとも一部が前記基板上に照射される照射領域と前記イオンビームが前記基板上に照射されない非照射領域に前記基板を搬送させて、前記基板の全面にイオンビーム照射処理を行う基板駆動機構と、前記基板の下流側であって前記イオンビームが照射される位置に配置されているとともに、前記イオンビームの進行方向と前記基板の搬送方向に直交する方向において、前記基板の寸法と実質的に同じか、それよりも大きい寸法を有するビーム電流計測器を備えたイオンビーム照射装置であって、前記照射領域内に前記基板が搬送されているときに、前記ビーム電流計測器によって計測されたビーム電流の計測値に基づいて、基板割れの有無を検出することを特徴としている。
【0012】
通常、イオン注入装置やイオンビーム配向装置といったイオンビーム照射装置では、装置立ち上げ時にイオンビームのビーム電流をビーム電流計測器で計測し、計測結果が所望する電流量や電流密度分布になるように、ビーム経路に配置されたビーム光学系(イオン源や引出電極系等)のパラメーターが調整されている。本発明の基板割れ検出方法では、従来からイオンビーム照射装置に備えられているビーム電流計測器を用いて基板割れの検出を行うようにしているので、基板割れの検出に先立って行われる装置立ち上げ調整時に、基板割れの検出手段であるビーム電流計測器が正常に動作しているかどうかの確認を行うことができる。その為、基板割れ検出を行う手段が正常に動作しているかどうかを確認する特別な構成や工程を必要としない。
【0013】
また、本発明の基板割れ検出方法で用いられる構成は、従来からイオンビーム照射装置で用いられているビーム電流計測器と基板支持部材の構成を変更するだけでいいので、基板割れ検出用に特別な追加部材を必要としない分、費用が安価で済む。さらに、ビーム電流計測器をイオンビームが照射される位置に配置し、基板支持部材の基板裏面との対向面に開口部を形成するだけでいいので、従来の装置構成からの変更を簡単に行うことができる。その上、イオンビームの進行方向と基板の搬送方向に直交する方向において、ビーム電流計測器の寸法を基板の寸法と実質的に同じか、それよりも大きい寸法にしているので、広範囲に渡って基板割れ検出を行うことができる。
【0014】
この発明に係る基板割れ検出方法の他のものは、前記照射領域内の領域で、前記基板の搬送方向で前記基板上に前記イオンビームの一部が照射されている遷移領域を除く領域において、前記ビーム電流計測器によって計測されたビーム電流の計測値が所定の閾値を超えた場合に前記基板が割れていると判断することを特徴としている。
【0015】
照射領域内の領域で、基板搬送方向で基板上にイオンビームの一部が照射されている遷移領域を除く領域では、基板に割れがない場合、ビーム電流計測器で計測されるビーム電流の計測値は略一定値となる。その為、所定の閾値(一定値)を設定しておき、計測値がこれを超えた場合に基板の割れがあると判断するように構成しておけば、基板の割れ判別を簡単に行うことができる。
【0016】
また、前記ビーム電流計測器は、1つのファラデーカップで構成されていてもよい。
【0017】
単一のファラデーカップを用いることで、基板割れ検出に用いる構成を簡素なものにすることができる。
【0018】
一方、前記ビーム電流計測器は、複数のファラデーカップで構成されていてもよい。
【0019】
複数のファラデーカップを用いることで、基板が割れている場所を特定することが可能となる。
【0020】
本発明に係るイオンビーム照射装置の運転方法の一つは、前述した基板割れ検出方法によって、前記基板が割れていることを検出した場合、前記イオンビームの前記基板への照射を停止させることを特徴としている。
【0021】
上記した運転方法を、基板割れ検出と組み合わせて使用することにより、基板割れによって、基板裏面を支持する部材が露出したとしても、当該部材にイオンビームが長時間照射されることによる部材の熱変形を抑制することができる。また、基板裏面を支持する絶縁性の支持ピンを備えた基板支持部材を用いる場合、基板割れにより当該支持ピンが露出した場合であっても、イオンビームの基板への照射を停止させているので、支持ピン上にイオンビームが長時間照射されることがない。これにより、支持ピンの絶縁性に与える悪影響を低減させることが期待できる。
【0022】
また、この発明に係るイオンビーム照射装置の他の運転方法は、前述した基板割れ検出方法によって前記基板が割れていることを検出した後で、前記イオンビームの前記基板への照射を停止させる場合、前記イオンビームの発生源にて、前記イオンビームの発生を停止させることを特徴としている。
【0023】
上記した運転方法を、基板割れ検出と組み合わせて使用することにより、ビーム経路上に配置された真空容器の側壁やビーム光学系(引出電極系や質量分析マグネット等)にイオンビームが衝突することで発生するスパッタリングを防止することができる。
【0024】
さらに、上記したイオンビーム照射装置の運転方法において、前記基板駆動機構は、前記基板が割れていることを検出した後に、所定距離もしくは所定時間、前記基板を減速させながら搬送するものであることが望ましい。
【0025】
基板を減速させながら搬送することで、基板支持部材の急停止による基板への負荷を軽減させることができる。これにより、基板支持部材からの基板の脱落や基板駆動機構の故障を防止することが期待できる。
【0026】
一方で、上記したイオンビーム照射装置の運転方法において、前記基板駆動機構は、前記基板が割れていることを検出した後に、イオンビーム照射処理時に前記基板の搬送が開始された位置まで、前記基板を搬送するようにしておいてもよい。
【0027】
上記した構成を用いることによって、割れ基板の清掃後、新たな基板に対してイオンビーム照射処理を行うのにあたって、搬送系の位置調整を行って基板支持部材を初期位置に戻す必要がなく、直ちに次の基板を搬送させてイオンビーム照射処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、従来からイオンビーム照射装置に備えられているビーム電流計測器を用いて基板割れの検出を行うようにしているので、基板割れの検出に先立って行われる装置立ち上げ調整時に、検出手段であるビーム電流計測器が正常に動作しているかどうかの確認を行うことができる。また、従来からイオンビーム照射装置で用いられているビーム電流計測器と基板支持部材の構成を変更するだけでいいので、基板割れ検出用に特別な追加部材を必要としない分、費用が安価で済む。さらに、ビーム電流計測器をイオンビームが照射される位置に配置し、基板支持部材の基板裏面との対向面に開口部を形成するだけでいいので、従来の装置構成からの変更が簡単に済む。その上、イオンビームの進行方向と基板の搬送方向に直交する方向において、ビーム電流計測器の寸法を、基板の主面寸法と実質的に同じか、それよりも大きい寸法にしているので、広範囲に渡って基板割れ検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るイオンビーム照射装置の一例を表す平面図である。
【図2】図1に記載の基板支持部材および基板駆動機構の一例を表す。(A)は基板支持部材の斜視図であり、(B)は基板駆動機構の断面図である。
【図3】図1に記載のビーム電流計測器の一例である。(A)は1つのファラデーカップからなるビーム電流計測器を表し、(B)は複数のファラデーカップからなるビーム電流計測器を表す。
【図4】図1のイオンビーム照射装置での基板搬送についての一例である。(A)は紙面左側から右側に向けて、基板を搬送した時の様子を表し、(B)は(A)に記載の基板搬送時に計測されたビーム電流値の変化を表す。
【図5】図1のイオンビーム照射装置での基板搬送についての別の例である。(A)は紙面右側から左側に向けて、基板を搬送した時の様子を表し、(B)は(A)に記載の基板搬送時に計測されたビーム電流値の変化を表す。
【図6】図4に記載の例で、基板が割れている場合の例を表す。(A)は紙面左側から右側に向けて、一部に割れのある基板を搬送した時の様子を表し、(B)は(A)に記載の基板搬送時に計測されたビーム電流値の変化を表す。
【図7】図4に記載の例で、ビーム電流計測器が複数のファラデーカップで構成されている例を表す。(A)は紙面左側から右側に向けて、基板を搬送した時の様子を表し、(B)は(A)に記載の基板搬送時に全ファラデーカップで計測されたトータルのビーム電流値の変化を表す。(C)は、1つのファラデーカップで計測されたビーム電流値の変化を表す。
【図8】図7に記載の個々のファラデーカップで計測されたビーム電流の計測結果を表す。
【図9】図7に記載の例において、ビーム電流計測器の寸法が基板寸法よりも大きい場合の例を表す。(A)は紙面左側から右側に向けて、基板を搬送した時の様子を表し、(B)は(A)に記載の基板搬送時に計測されたビーム電流値の変化を表す。
【図10】図2に記載の基板支持部材の変形例を表す平面図である。(A)はロの字状の1つの開口部を有する基板支持部材で、(B)はロの字状の2つの開口部を有する基板支持部材で、(C)は渡り部が斜めに形成された基板支持部材である。
【図11】図1に記載のイオン源および引出電極系の一例を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1には、本発明に係るイオンビーム照射装置の一例が描かれている。この種のイオンビーム照射装置は、イオン注入装置として従来から知られている。以下に、装置構成についての概略を述べる。
【0031】
このイオンビーム照射装置1では、イオン源2でプラズマを生成し、イオン源2に隣接配置された引出電極系4によって、当該プラズマから所望のエネルギーを有するイオンビーム3の引き出しが行われる。その後、引出電極系4により引き出されたイオンビーム3は、質量分析マグネット5に入射し、ここで質量分析が行われる。
【0032】
引出電極系4で引き出されたイオンビーム3は、様々なイオン種を包含している。イオンビーム照射装置によっては、所望するイオン種のみを基板8に照射させて、イオンビーム照射処理を行う装置がある。この例では、そのような装置を想定しており、図示される質量分析マグネット5とその下流側(イオンビーム3の進行方向側)に配置された分析スリット6によって質量分析が行われ、所望するイオン種を含むイオンビーム3のみが分析スリット6を通過するように構成されている。イオンビームのエネルギーが同じであれば、おおよそイオン種の質量に依存して質量分析マグネット5内を通過する各イオン種を含むイオンビームの偏向量に違いが生じる。この偏向量の違いを利用して、所望するイオン種を含むイオンビームが分析スリット6を通過するように、質量分析マグネット5内で発生する磁場を適切に変化させて質量分析が行われている。
【0033】
分析スリット6を通過したイオンビーム3は、処理室7に導入される。処理室7では、後述する基板駆動機構14によって基板8を支持する基板支持部材9が駆動されることで、図示される矢印の方向に基板8が往復搬送される。この搬送によって、基板8上にイオンビーム3が照射されて、基板8へのイオンビーム照射処理が実施される。なお、基板8の例としては、半導体素子が形成されるガラス基板やシリコンウェーハ等の基板が考えられる。この実施形態では矩形状の基板を例に挙げているが、基板の形状は、円形状であっても構わない。
【0034】
処理室7にはバルブ10を介して図示されない基板搬送室が連結されており、処理室7と基板搬送室との間で、基板8の搬入出が行われる。また、処理室7には基板8の下流側(イオンビーム3の進行方向側)であってイオンビーム3が照射される位置にビーム電流計測器11が設けられている。
【0035】
このイオンビーム照射装置1は、制御装置12を有している。イオンビーム3がビーム電流計測器11に照射されると、ビーム電流計測器11はイオンビーム3のビーム電流を計測し、その計測結果が信号S1として、図示されない電気回線を通じて、制御装置12に送信される。信号S1を受信した制御装置12は、当該信号に基づいて制御信号S2〜S4を出力する。そして、これらの制御信号S2〜S4に基づいて、イオン源2、引出電極系4および質量分析マグネット5の運転パラメーターの調整が行われる。
【0036】
図1に記載の基板支持部材9の一例が、図2(A)に描かれている。この例において、基板支持部材9は主にイオンビーム3の進行方向に厚みを有する枠体15から構成されており、この枠体15の内側に基板8が配置される。なお、ここでは図面の簡略化の為、基板8の図示を省略している。
【0037】
枠体15の上方には、基板支持部材9の姿勢を保つための永久磁石19が設けられている。また、枠体15の下方には後述する基板駆動機構14によって基板支持部材9を駆動させる為のスライダ20が取り付けられている。
【0038】
枠体15の基板裏面(イオンビームが照射される面の裏側の面)との対向面には、複数の開口部18(図示されるハッチング部分)と略井の字形状の渡り部16が形成されている。また、渡り部16上には、複数の支持ピン17が設けられており、この支持ピン17によって図示されない基板8の裏面が支持されるように構成されている。
【0039】
本発明では、基板支持部材9を構成する枠体15に開口部18が形成されていれば、ここで示した基板支持部材9の構成に限られない。例えば、基板8を表裏から挟み込むような2つの枠体を用意しておき、基板8を両面から支持するような構成であっても構わない。このような構成であれば、基板支持部材9からの基板8の脱落を防止することが期待できる。また、基板搬送時に、枠体15の内側側面に基板8が衝突して、基板8に衝撃が与えられる恐れがあるので、枠体15の内側側面に沿って、衝撃吸収用のダンパーを取り付けておくようにしてもよい。
【0040】
図2(B)には、基板駆動機構14の一例が描かれている。処理室7の天井には、基板支持部材9の姿勢を保持する為の2つの永久磁石24が支持されており、この永久磁石24の間に、基板支持部材9の上方に取り付けられた永久磁石19が配置される。なお、各永久磁石の対向面は、互いに同極性となるように構成されており、永久磁石間に働く斥力によって基板8を支持する基板保持部材9の姿勢が維持されるように構成されている。
【0041】
枠体15の下方に取り付けられたスライダ20は、細長い丸棒であり、これが処理室7内に配置された回転部材21上に移動可能に支持されている。回転部材21は支持軸22の略中央部に係止されており、支持軸22の一端は、処理室7の外側に配置されたモーター23に連結されているとともに、支持軸22の他端は、処理室7内に設けられた軸受25によって回動可能に支持されている。このように構成しておくことで、モーター23を回転させることにより、モーター23に連結された支持軸22を介して回転部材21を回転させ、スライダ20を紙面奥あるいは手前方向に移動させることができる。なお、回転部材21、支持軸22、モーター23および軸受25から構成される駆動ユニットは、紙面奥もしくは手前方向に沿って、複数設けられている。
【0042】
図1に記載のビーム電流計測器11の例が、図3(A)、図3(B)に描かれている。図3(A)には、大きな計測部(図中、ハッチングされている領域)を有する単一のファラデーカップ26が描かれている。このようなファラデーカップ26をビーム電流計測器11として用いてもよい。
【0043】
一方で、図3(B)に示されるような複数のファラデーカップからなる多点ファラデー27をビーム電流計測器11として用いてもよい。このような多点ファラデー27を用いると、基板割れが発生した場合、基板割れの検出に加えて、基板上のどの場所が割れているのかを特定することが可能となる。
【0044】
図1に示すイオンビーム照射装置で、紙面左側から右側に向けて基板8を搬送した時の様子が図4(A)に描かれており、その時にファラデーカップ26で計測されたビーム電流の計測値が変化する様子が図4(B)に描かれている。なお、基板8の搬送方向において、基板8の寸法よりも基板支持部材9の寸法が大きい場合、後述するビーム電流値の計測結果はやや異なるものになるが、ここでは説明を簡単にする為に、便宜上、両部材の寸法を同一、あるいは、基板8の寸法よりも基板支持部材9の寸法が小さいものとしている。
【0045】
図4(A)において、イオンビーム3の進行する方向は紙面手前から奥に向かう方向で、基板8の搬送方向は紙面左側から右側へ向かう方向である。そして、基板8が搬送される際、ファラデーカップ26と干渉しないように、ファラデーカップ26は基板8よりも紙面奥側に配置されている。これらの位置関係については、図1を併せて参照すると容易に理解できるであろう。
【0046】
紙面左側から右側に向けて基板8が搬送される際、搬送の開始位置から基板8の前端面がイオンビーム3に照射されるまでの間、基板8上にイオンビーム3は照射されない。その為、本発明では、この間の領域を非照射領域と呼んでいる。この非照射領域内に基板8の前端面が位置している間、イオンビーム照射処理時に基板8に照射される全てのイオンビーム3がファラデーカップ26に照射されることになる。その為、図4(B)に描かれているようにビーム電流の計測値は一定値となる。
【0047】
非照射領域を超えて基板8の前端面が搬送されたとき、イオンビーム3の一部が基板8上に照射され始める。この際、図4(B)に示されるようにビーム電流の計測値が徐々に減少し始める。基板8がさらに搬送され、基板8の搬送方向において、イオンビーム3を完全に遮ったとき、図4(B)に示されるようにビーム電流の計測値がゼロになる。その後、基板8がさらに搬送され、基板8によって遮られていたイオンビーム3が基板8の後端面よりファラデーカップ26側に徐々に漏れ出すと、図4(B)に示されるようにビーム電流の計測値は徐々に増加し始める。そして、基板8の後端面にイオンビーム3が照射されない位置に基板8が搬送されるまで、ビーム電流の計測値は増え続ける。上記したように、基板8の前端面にイオンビーム3が照射され始めてから、基板8の後端面にイオンビーム3が照射されなくなるまでの間、基板8にはイオンビーム3の少なくとも一部が照射されている。その為、本発明では、この間の領域を照射領域と呼んでいる。また、照射領域には、基板8の搬送方向において、イオンビーム3の一部のみが基板8に照射される領域が存在している。本発明では、この領域のことを遷移領域と呼んでいる。
【0048】
基板8の後端面にイオンビーム3が照射されない位置に到達してから、基板8の搬送が終了(この例では、破線で示される基板8の位置が搬送の終了位置としている)するまでの間、基板8上にイオンビーム3は照射されていない。その為、本発明では、この間の領域についても先の例と同様に、非照射領域と呼んでいる。
【0049】
上記したように、基板8の搬送に伴って、基板8は非照射領域、照射領域、非照射領域を順に通過することになる。また、基板8の搬送方向とイオンビーム3の進行方向に直交する方向において、イオンビーム3の寸法は基板8の寸法よりも大きい。その為、この例で説明したように基板8を搬送させることで、基板8の全面にイオンビーム照射処理を行うことができる。
【0050】
また、イオンビーム3の進行方向と基板8の搬送方向に直交する方向において、ファラデーカップ26の寸法は基板8の寸法と実質的に同じか、それよりも大きな寸法となるように構成されている。このようなファラデーカップ26を用いることで、基板8上に照射される全てのイオンビーム3のビーム電流を計測し、これを調整することが可能となる。また、このような寸法のファラデーカップ26を用いることにより、広範囲に渡って基板割れ検出を行うことができる。なお、この例では、ファラデーカップ26をビーム電流計測器11の例として挙げたが、これに限らず、別のものを用いてもよい。だだし、広範囲に渡って基板割れ検出を行うことを考慮すると、基板8との寸法関係は前述したような関係であることが望まれる。
【0051】
図4(A)では、紙面左側から右側に向けて、基板8が搬送される例について述べた。これに対して、図5(A)では、紙面右側から左側に向けて、基板8が搬送される例が描かれている。 図5(A)では、基板8の搬送方向が図4(A)の例と逆向きであること、前述した各領域の図示される位置が異なっていることを除いては、基板8やファラデーカップ26等の配置や寸法の関係は、図4(A)の例と同一である。また、図5(B)に示されるファラデーカップ26で計測されたビーム電流の計測結果も図4(B)に示されるものと同じである。その為、ここでは、重複する説明を省略する。
【0052】
図5(A)、図5(B)を見ればわかるように、基板8の搬送方向が異なった場合、イオンビーム3やファラデーカップ26に対する前述した各領域の位置が異なる。ただし、各領域の意味に変わりはない。割れのない基板8が一方向に向けて搬送されている間で、非照射領域は基板8上にイオンビーム3が照射されていない領域であり、照射領域は基板8上にイオンビーム3の少なくとも一部が照射されている領域であり、遷移領域は基板8上にイオンビーム3の一部のみが照射されている領域である。なお、図4(A)、図5(A)では、基板8の前端面が搬送される位置を基準にして、各領域の図示を行ったが、基板8の別の場所(例えば、後端面)を基準にして考えた場合、当然ながら、前述した各領域が図示される場所に違いが生じる。ただし、この場合であっても、各領域の意味に変わりはない。
【0053】
図6(A)には、図4(A)の例において、一部に割れのある基板8が搬送された場合の様子が描かれている。この図において、基板8、イオンビーム3およびファラデーカップ26の位置関係は、図4(A)の例と同一である。また、描かれている各領域の意味も同一である。
【0054】
図2(A)に示したように、本発明の基板支持部材9は基板8の裏面と対向する面に開口部18を有している。このような構成を採用することにより、本来であれば基板8上に照射されるイオンビーム3が、基板8が割れている為に、基板8の割れた場所に対向配置された開口部18を通してビーム電流計測器11に照射されることになる。その為、図6(B)に示されるように照射領域におけるビーム電流の計測値が、図4(B)の例で示されたものと異なっている。なお、実際には、基板割れが発生している場所、基板8の裏面を支持する支持ピン17が設けられた渡り部16の形状および枠体15の形状によって、基板8の割れた場所を通過するイオンビーム3が部分的に遮られることが考えられるが、ここでは説明を簡単にする為に、基板8が割れている場所を通過するイオンビーム3は全てビーム電流計測器11に照射されるものとして説明する。
【0055】
このようなビーム電流の計測値の違いに基づいて、基板が割れていることを検出することができる。具体的には、基板割れがない場合での照射領域におけるビーム電流の増減に関するデータを予め実験を行うか、基板寸法、基板の駆動速度およびイオンビーム照射装置の立ち上げ調整時のビーム電流値(イオンビーム照射処理を行う際、基板に照射されるイオンビームのビーム電流量)を基にして算出しておく。そして、基板割れ検出を行っている間、これらの基準データと実測値との比較を行って、例えば、基準データから10%のずれが生じている場合には、基板に割れが生じていると判断するようにしておくことが考えられる。また、基板割れの判別にあたっては、図1に示す制御装置12を用いて行うようにすればよい。後述する基板割れ検出に係る別の判別手法においても、同様に、制御装置12を用いて行うようにしてもよい。
【0056】
また、照射領域内で遷移領域を除く領域(換言すると、基板8の搬送方向において、ビーム電流計測器11に照射されるイオンビーム3を基板8が完全に遮っている領域)に着目すると、基板割れがない場合、計測されるビーム電流の計測値は一定値(図4(B)、図5(B)の例ではゼロ)である。その為、この領域内を基板8が搬送されている際に計測されたビーム電流の計測値がある閾値を超えていれば、基板に割れが生じていると判断するようにしておいてもよい。この場合、先の例と比較して、基板割れの判別に係る処理が簡単に済む。例えば、基板割れがない場合、この領域を基板8が搬送される際、図4、図5の例ではビーム電流は検出されない。その為、この領域を基板8が搬送される際、ビーム電流の検出がなされた時点(ビーム電流の計測値がゼロよりも大きい)で、基板割れが生じていると判断するようにしておいてもよい。なお、図6(B)での計測結果を参照すると、図6(A)の紙面左側に記載の遷移領域の位置がずれていると思われるかもしれないが、この記述は誤りではない。これらの領域はあくまで、基板割れがないことを前提に設定される領域である。
【0057】
図7(A)には、図4(A)の例で用いられたファラデーカップ26に代えて、多点ファラデー27を用いた例が描かれている。この場合、図7(C)に描かれている各ファラデーカップでの計測結果を足し合わせたものが、図7(B)に描かれている全体の計測結果となるので、この全体の計測結果を用いて、前述した例で述べた手法に基づいて、基板割れ検出を行うようにすればいい。
【0058】
一方で、個々のファラデーカップでの計測結果を比較することで、基板割れ検出と基板が割れている場所を特定することが可能となる。図7(A)に記載の多点ファラデー27を構成する7つのファラデーカップで計測されたビーム電流の計測結果が、図8に描かれている。
【0059】
図8に描かれている紙面上下方向に並べられたビーム電流の計測結果は、図7(A)に記載の個々のファラデーカップに対応している。図8に描かれているような計測結果が得られた場合に、個々のファラデーカップでの計測結果を比較する。そうすると、もっとも紙面上側に位置するファラデーカップでの計測結果において、照射領域中央部でのビーム電流の計測値が他のファラデーカップでの計測結果と比べて大きく異なっていることがわかる。この比較に基づいて、紙面上側のファラデーカップに対応する基板8の上側の中央部付近に割れが発生していると判断することができる。
【0060】
また、各ファラデーカップでの計測結果同士を比較するのではなく、前述した手法と同じく、ある基準データ(閾値等)を用意しておき、これと個々のファラデーカップでの計測結果とを比較して、基板割れを検出するようにしておいてもよい。
【0061】
基板8にイオンビーム3が照射されている間、イオンビーム3の状態を検出する為に、イオンビーム3の進行方向と基板8の搬送方向に直交する方向において、ビーム電流計測器11の寸法を基板8の寸法よりも大きなものにしておく場合が考えられる。その場合、図9に示されるように、照射領域内の遷移領域を除く領域でのビーム電流の計測値はゼロにはならない。ただし、おおよそ一定値となることには変わりはないので、このような場合には、当該値をやや上回るような閾値を基準値として設定しておき、それを上回った場合に基板に割れが発生していると判断すればよい。
【0062】
基板支持部材9に形成されている開口部18の形状としては、図2(A)に記載の形状に限られない。例えば、図10(A)〜(C)に記載の開口部18が基板支持部材9に形成されていてもよい。開口部18の形状が大きいほど、基板割れの検出領域は大きくなる。しかしながら、開口部18の形状が大きいほど、基板裏面での支持が不十分となる。その為、開口部18の形状は、基板裏面の支持と基板割れの検出範囲との兼ね合いで、基板の大きさや剛性等を考慮して適切なものにしておけばよい。
【0063】
基板8が割れている状態で、イオンビーム3の照射が引き続き行われていると、基板割れによって、基板裏面を支持する部材が露出し、当該部材にイオンビーム3が長時間照射され、部材がイオンビームの熱により変形することが懸念される。また、基板裏面を支持する絶縁性の支持ピン17を備えた基板支持部材9を用いる場合、基板割れにより支持ピン17が露出されて、支持ピン17上にイオンビーム3が長時間照射されることにより、支持ピン17の絶縁性に悪影響が及ぼされることが懸念される。その為、基板8が割れていることを検出した場合には、直ちに基板8へのイオンビーム3の照射を停止させる必要がある。
【0064】
基板8へのイオンビーム3の照射を停止させるにあたっては、図1に示すイオンビーム照射装置1において、質量分析マグネット5でイオンビーム3の偏向量を変化させ、処理室7内にイオンビーム3が導入されないようにしたり、イオンビーム3の引き出しを行わせないようにイオン源1や引出電極系4に備えられた各種電源を停止させたりすることが考えられる。この場合、図1に示されているように、ビーム電流計測器11での計測結果を表す信号S1を受信した制御装置12が基板8の割れがあるかどうかを判別し、基板8の割れがあると判断した際に、制御信号S2〜S4を発生させ、各部材に備えられた電源を制御するように構成しておく。
【0065】
本発明が適用されるイオンビーム照射装置1は、図1に示される構成に限られない。イオンビーム照射装置1が処理室7内へのイオンビーム3の導入を停止させる手段を他に備えていれば、それを用いるようにしてもよい。例えば、処理室7の上流側に機械的なシャッターを設けておき、これを動作させることで、処理室7内へのイオンビーム3の導入を防止して、基板8へのイオンビーム3の照射を停止するようにしておいてもよい。
【0066】
基板が割れていることを検出した場合、処理室7を大気開放して、割れた基板を取り除く作業が必要となる。処理室7側とそれよりも上流側のビーム経路との空間的な切り離しができるようなバルブが設けられており、当該バルブによって、処理室7内でのメンテナンス作業に支障を来さないように、イオンビーム3の処理室7内への導入を遮断できるような構成であれば、イオンビーム3の生成を継続して行っておいてもいいかもしれないが、そうでなければイオンビーム3の生成自体を停止させておくことが望まれる。
【0067】
また、質量分析マグネット5によるイオンビーム3の偏向量を変化させ、質量分析マグネット5内に設けられた分析管や下流側の真空容器の側壁にイオンビーム3を衝突させると、衝突させた箇所がスパッタリングされて、早期の部材交換が必要となることが懸念される。このことから、基板割れを検出した場合には、イオンビーム3の生成自体を停止させておくことが望まれる。
【0068】
以下に、イオンビーム3の発生源であるイオン源2や引出電極系4でイオンビーム3の生成を停止させる手法について、具体的なイオン源2と引出電極系4の構成を基にして説明する。
【0069】
イオン源2と引出電極系4の構成例が図11に描かれている。図11は断面図であり、後述するプラズマ生成容器36、引出電極系4を構成する電極30〜33およびカスプ磁場生成用の永久磁石29は、紙面奥手前方向に向けてそれぞれ長さを有している。
【0070】
この種のイオン源は、バケット型イオン源と呼ばれており、イオン源2を構成するプラズマ生成容器36の周囲には、複数のカスプ磁場生成用の永久磁石29が配置されており、これらの永久磁石29によって、プラズマ生成容器36内にカスプ磁場が生成される。
【0071】
プラズマ生成容器36には、図示されない流量調節器(マスフローコントローラー)を介して、イオン化ガスを導入する為のガス源28が接続されている。また、一側面には複数のフィラメント34が絶縁物を介して、その先端がプラズマ生成容器36内に突出するようにして取り付けられている。これらのフィラメント34の端子間には、フィラメント電源VFが接続されており、これを用いて各フィラメント34に電流を流すことで、各フィラメント34が加熱されて熱電子の放出が行われる。フィラメント34より放出された熱電子が、ガス源28より供給されたイオン化ガスに衝突し、イオン化ガスが電離されることによって、プラズマ35が生成される。このプラズマ35やフィラメント34から放出された熱電子は、前述したカスプ磁場によりプラズマ生成容器36内に閉じ込められる。
【0072】
引出電極系4は、4枚の電極30〜33から構成されている。各電極30〜33は、矩形状の平面を有する平板電極であり、その表面にはイオンビーム引出用の多数の孔もしくはスリットが形成されている。また、各電極30〜33は図示されない絶縁フランジに対して、電気的に独立して取り付けられている。個々の電極について、簡単に説明する。プラズマ生成容器36側に配置された加速電極30は、プラズマ生成容器36より引き出されるイオンビーム3のエネルギーを決定する為の電極であって、引出電極31は加速電極30との間に電位差を生じさせて、電界の作用によってプラズマ35からイオンビーム3を引き出す為に用いられる電極である。そして、抑制電極32は下流側からの電子の流入を抑制する為に用いられる電極であり、接地電極33は電位を固定する為に電気的に接地された電極である。
【0073】
プラズマ生成容器36、フィラメント34および引出電極系4を構成する各電極30〜33の電位設定は、図示される電源V1〜V5を用いて行われている。基板が割れていることを検出した場合に、図示される電源V2、電源V3および電源V5をオフにすることで、加速電極30と引出電極31に印加される電圧をゼロにして、イオンビーム3の引き出しが停止されるようにしておくことが考えられる。このようにすると、イオンビーム3の発生自体を停止させることができる。なお、この際、併せて他の電源もオフにしておくことが望まれる。また、イオン源2へのガス供給も併せて停止させておく方がよい。
【0074】
基板8へのイオンビーム3の照射を停止させる一方で、基板8の搬送も停止させる必要がある。しかしながら、基板8の搬送を停止させる場合、基板が割れていることを検出してから直ぐに停止動作に入ると、慣性力によって基板駆動機構14が負荷を受けて故障してしまう恐れがある。また、基板が割れている状態では、基板支持部材9に対して基板8が十分にクランプされていない恐れがあり、そのような状態では、基板支持部材9からの基板8の脱落が生じるかもしれない。さらに、基板駆動機構14内に割れた基板8の一部が入り込んでいる恐れがあるので、基板8を停止させるまでの距離を長くし過ぎると基板駆動機構14の故障を招きかねない。その為、上記した懸念事項を考慮した上で、基板8の搬送速度を減速させながら、所定の距離あるいは所定の時間、搬送させてから停止させるようにすることが望まれる。
【0075】
また、基板が割れていることが検出された場合、基板8の搬送サイクルを考慮し、イオンビーム照射処理の開始時に基板支持部材9が配置される位置まで割れた基板を搬送しておくことが望まれる。基板支持部材9の停止位置にバラツキがあれば、割れ基板の清掃後、次の基板の搬送に備えて基板支持部材9の停止位置を割り出して、これを初期位置に戻す為の複雑な制御プログラムが必要となる。一方で、上記したように、基板割れがない場合に次の基板8の搬送が開始される位置(現在、イオンビーム照射処理されている基板の搬送が開始された位置と同じ位置)まで割れた基板を搬送させておくと、割れ基板の清掃後、新たな基板の搬送をスムーズに行うことができるとともに、搬送系の制御プログラムを簡単なものにすることができる。
【0076】
<その他変形例>
図1のイオンビーム照射装置1は、質量分析機能を備えた装置であったが、質量分析機能を備えていない装置であっても構わない。その場合、図示される質量分析マグネット5と分析スリット6は不要となる。また、イオン源2の例として、図11にバケット型イオン源を挙げたが、これに限らず、従来から知られているバーナス型イオン源や傍熱型イオン源を用いても構わない。さらに、引出電極系4を構成する電極の枚数は、4枚である必要はなく、1枚以上であればよい。その場合、基板が割れていることを検出したタイミングで、イオンビーム3の引き出しに用いられる電極への印加電圧をゼロにするように構成しておけばよい。
【0077】
また、上記した実施形態では、制御装置12によって基板割れを判別するように説明したが、これに代えて、イオンビーム照射装置のオペレーターが基板割れを判別し、各種電源の操作を行うようにしておいてもよい。その場合、例えば、ビーム電流計測器11からの出力を視認できるようなモニターを用意しておき、このモニターにビーム電流計測器11での計測結果を出力するようにしておくことが考えられる。
【0078】
さらに、図1では、基板8を往復搬送する例について述べたが、基板8の搬送方向はいずれか一方向のみであってもよい。
【0079】
これまでの実施形態では、1枚の基板を搬送する例について述べたが、複数枚の基板を搬送する場合であっても、本発明の基板割れ検出方法は適用できる。例えば、複数の基板を支持する大きな基板支持部材を用意しておき、各基板の裏面を支持する場所に、これまでの実施形態で説明したような開口部18を形成しておけばよい。基板支持部材以外の構成については、これまでに説明した装置構成を用いればよい。なお、この場合、ビーム電流計測器11の構成としては多点ファラデー27を使用した方がよい。その方が、どの基板に割れが生じたのかを即座に知ることが可能となる。
【0080】
また、これまでの実施形態では、イオンビーム3の例として、断面が略長方形状のリボンビームを例に挙げて説明したが、これに代えて、断面が正方形状のものであっても構わないし、円形状のものであっても構わない。さらに、イオンビームの大きさは、イオンビームが照射される基板の全面を覆うような大きさのイオンビームであってもよい。その上、このようなイオンビームを用いる場合、基板へのイオンビーム照射時に、基板をイオンビームが照射される位置に一時的に停止させるように基板搬送系を構成しておいてもよい。その他、スポット状のイオンビームを走査器で走査し、一方向において基板の寸法よりも大きなイオンビームにして、これを基板に照射するような方式のものであっても構わない。
【0081】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0082】
1・・・イオンビーム照射装置
2・・・イオン源
3・・・イオンビーム
4・・・引出電極系
7・・・処理室
8・・・基板
9・・・基板支持部材
11・・・ビーム電流計測器
14・・・基板駆動機構
18・・・開口部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームが照射される基板が配置された処理室と、
前記処理室内で、前記基板を支持し、前記基板の裏面と対向する面に1つ以上の開口部を有する基板支持部材と、
前記基板支持部材を前記イオンビームと交差する方向に駆動させることで、前記イオンビームの少なくとも一部が前記基板上に照射される照射領域と前記イオンビームが前記基板上に照射されない非照射領域に前記基板を搬送させて、前記基板の全面にイオンビーム照射処理を行う基板駆動機構と、
前記基板の下流側であって前記イオンビームが照射される位置に配置されているとともに、前記イオンビームの進行方向と前記基板の搬送方向に直交する方向において、前記基板の寸法と実質的に同じか、それよりも大きい寸法を有するビーム電流計測器を備えたイオンビーム照射装置であって、
前記照射領域内に前記基板が搬送されているときに、前記ビーム電流計測器によって計測されたビーム電流の計測値に基づいて、基板割れの有無を検出することを特徴とする基板割れ検出方法。
【請求項2】
前記照射領域内の領域で、前記基板の搬送方向で前記基板上に前記イオンビームの一部が照射されている遷移領域を除く領域において、前記ビーム電流計測器によって計測されたビーム電流の計測値が所定の閾値を超えた場合に前記基板が割れていると判断することを特徴とする請求項1記載の基板割れ検出方法。
【請求項3】
前記ビーム電流計測器は、1つのファラデーカップで構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の基板割れ検出方法。
【請求項4】
前記ビーム電流計測器は、複数のファラデーカップで構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の基板割れ検出方法。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の基板割れ検出方法によって、前記基板が割れていることを検出した場合に、前記イオンビームの前記基板への照射を停止させることを特徴とするイオンビーム照射装置の運転方法。
【請求項6】
前記イオンビームの前記基板への照射を停止させる場合、前記イオンビームの発生源にて、前記イオンビームの発生を停止させることを特徴とする請求項5記載のイオンビーム照射装置の運転方法。
【請求項7】
前記基板駆動機構は、前記基板が割れていることを検出した後に、所定距離もしくは所定時間、前記基板を減速させながら搬送することを特徴とする請求項5または6記載のイオンビーム照射装置の運転方法。
【請求項8】
前記基板駆動機構は、前記基板が割れていることを検出した後に、前記イオンビーム照射処理時に前記基板の搬送が開始された位置まで、前記基板を搬送することを特徴とする請求項5または6記載のイオンビーム照射装置の運転方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−115209(P2013−115209A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259437(P2011−259437)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】