説明

基板収納容器

【課題】ノズルから噴出される気体の流量を均一化することにより、例え容器本体に複数枚の基板が並べて収納されていても、短時間で気体を効率的に置換できる基板収納容器を提供する。
【解決手段】複数枚の半導体ウェーハWを収納可能な容器本体1と、容器本体1の正面を開閉する蓋体10を備え、容器本体1の底板3の後部両側に第一、第二の給気バルブ30A・30Bを取り付け、底板3の前部両側に第一、第二の排気バルブ40A・40Bを取り付ける。各給気バルブ30A・30Bに、容器本体1の上下方向に伸びるノズル34を備えてその周壁に半導体ウェーハWの上下面にパージガスを噴出する複数の噴出孔を穿孔するとともに、各噴出孔から噴出されるパージガス流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定し、第一、第二の給気バルブ30A・30Bのノズル34から噴出されたパージガスが半導体ウェーハWの前後方向中心線l上で干渉しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等からなる基板を収納、保管、搬送、輸送等する際に使用される基板収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の基板収納容器は、図示しないが、複数枚の半導体ウェーハを整列収納可能な容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、容器本体の底板に複数の給気バルブと排気バルブとがそれぞれ配設されており、これら複数の給気バルブと排気バルブとにより、密閉された容器本体内のエアを不活性ガスやドライエア等からなるパージガスに置換して半導体ウェーハの表面の酸化や反応の促進を防止するようにしている。
【0003】
容器本体は、例えば正面の開口したフロントオープンボックスに成形され、両側壁の内面、換言すれば、内部両側に、半導体ウェーハを水平に支持する左右一対の支持片が対向して対設されており、この一対の支持片が上下方向に所定の間隔で配列されている。また、複数の給気バルブと排気バルブとは、容器本体の底板後部に複数の給気バルブが設置され、容器本体の底板前部に複数の排気バルブが設置されている(特許文献1参照)。
【0004】
複数の給気バルブは容器本体の外部から密閉された内部にパージガスを供給し、複数の排気バルブは密閉された容器本体内に充満したエアを外部に排気するよう機能する。各給気バルブは、ケースにパージガス制御用の開閉弁が往復動可能に内蔵され、ケースの開口端面に必要に応じてノズルが選択的に装着されており、このノズルから半導体ウェーハに向けてパージガスが噴出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−146676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における基板収納容器は、以上のように構成され、容器本体に複数枚の半導体ウェーハが上下に並べて収納され、かつ容器本体の底板後部に複数の給気バルブが単に設置されているので、収納された複数枚の半導体ウェーハが隔壁を形成してパージガスやエアの前後方向等への流動を妨げ、パージガスの完全な置換に長時間を要し、置換の効率が非常に悪いという問題がある。
【0007】
このような問題を解消するには、給気バルブにノズルを装着してパージガスの流動を促進する方法が考えられる。しかしながら、例えノズルを装着しても、ノズルから噴出されるパージガスの流量が均一にならないので、各スロット間のバランスが悪化したり、噴出されるパージガスの気流同士が干渉して滞留部を発生させることとなり、容器本体内に充満したエアを短時間でパージガスに完全に置換するには問題がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、ノズルから噴出される気体の流量を均一化することにより、例え容器本体に複数枚の基板が並べて収納されていても、短時間で気体を効率的に置換することのできる基板収納容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、複数枚の基板を上下方向に並べて収納可能な容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、容器本体の底板に給気バルブと排気バルブとをそれぞれ取り付け、給気バルブにより容器本体の外部から内部に気体を供給し、排気バルブにより容器本体の内部から外部に気体を排気するものであって、
容器本体の底板の前後部における少なくとも後部両側に給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板前部に排気バルブを取り付け、
各給気バルブに、容器本体の上下方向に伸びる中空のノズルを備えてその周壁には基板の上下面方向に気体を噴出する複数の噴出孔を設けるとともに、各噴出孔から噴出される気体流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定し、
各給気バルブのノズルの噴出孔を基板の中心からずれた領域に向け、複数の給気バルブのノズルからそれぞれ噴出された気体が基板の中心を通る前後方向中心線上で干渉しないようにしたことを特徴としている。
【0010】
なお、各給気バルブの複数の噴出孔から噴出される気体流量の標準偏差を0.6以下に設定することができる。
また、各噴出孔から噴出される気体流量の標準偏差を0.6以下、あるいは各噴出孔から噴出される気体流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定することができる。
【0011】
また、容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板の前部両側に第一、第二の排気バルブを取り付け、第一の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第一の給気バルブの前方には第二の排気バルブを位置させるとともに、第二の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第二の給気バルブの前方には第一の排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも一側方向にずれた領域を経由して第二の排気バルブ方向に導き、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ方向に導くことができる。
【0012】
また、第一の給気バルブのノズルの噴出孔から気体が噴出される方向と基板の前後方向中心線とが形成する角度を、第一の給気バルブのノズルの噴出孔から第一の排気バルブまでの対角線と基板の前後方向中心線とが形成する角度を越えるようにし、第二の給気バルブのノズルの噴出孔から気体が噴出される方向と基板の前後方向中心線とが形成する角度を、第二の給気バルブのノズルの噴出孔から第二の排気バルブまでの対角線と基板の前後方向中心線とが形成する角度を越えるようにすることが好ましい。
【0013】
また、容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板の前部両側に第一、第二の排気バルブを取り付け、第一の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第一の給気バルブの前方には第二の排気バルブを位置させるとともに、第二の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第二の給気バルブの前方には第一の排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ方向に導き、第一の給気バルブのノズルから噴出された気体を、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体の流れを利用して第二の排気バルブ方向に導くことができる。
【0014】
また、第一の給気バルブのノズルの噴出孔から気体が噴出される方向と基板の前後方向中心線とが形成する角度を、第二の給気バルブのノズルの噴出孔から基板の前後方向中心線とが形成する角度と非対称に設定することができる。
【0015】
また、容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付けるとともに、容器本体の底板の前部一側に第三の給気バルブを取り付け、容器本体の底板の前部他側に排気バルブを取り付け、第一の給気バルブの前方には排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブのノズルから気体を容器本体の正面方向に噴出するとともに、第三の給気バルブのノズルから気体を排気バルブ方向に噴出し、第一、第二の給気バルブのノズルからそれぞれ噴出された気体を、第三の給気バルブのノズルから噴出された気体の流れを利用して排気バルブ方向に導くこともできる。
【0016】
ここで、特許請求の範囲における基板には、少なくともφ200、300、450mmの半導体ウェーハや液晶ガラス等が含まれる。蓋体により密閉された容器本体内には気体が流通するが、この気体の滞留は、ノズルの噴出孔の大きさと気体の流れる向きとにより制御することができる。
【0017】
第一、第二の給気バルブにおけるノズルの噴出孔の向きは、基板の前後方向中心線に対し、線対称でも良いし、非対称でも良い。排気バルブは単数でも良いし、複数でも良い。噴出孔は、丸孔でも良いし、多角形等の孔でも良い。さらに、気体には、少なくとも窒素ガスに代表される不活性ガスや水分量が著しく少ないドライエア等からなるパージガス、密閉された容器本体内に充満するエア等が含まれる。
【0018】
本発明によれば、複数枚の基板を収納した容器本体の正面に蓋体が嵌められ、複数の給気バルブに気体がそれぞれ供給されると、この気体は、各給気バルブからノズル内に流入し、このノズルの噴出孔から容器本体の内部前方に流通し、基板の前後方向中心線よりも側方にずれた領域を経由して排気バルブ方向に導かれる。
【0019】
この気体の流通作用により、容器本体内に既に充満していた気体は、流入して来た気体に押され、排気バルブから容器本体の外部に排気される。この置換作業の際、各給気バルブのノズルからそれぞれ噴出された気体の気流は、ノズルの噴出孔の大きさや向き等により、流路が規制されるので、基板の前後方向中心線上で衝突して干渉することが少ない。したがって、容器本体内に既に充満していた気体が滞留するのを抑制し、容器本体内に充満していた気体を外部に効率的に排気することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ノズルから噴出される気体の流量を均一化することにより、例え容器本体に複数枚の基板が並べて収納されていても、従来よりも短時間で気体を効率的に置換することができるという効果がある。
【0021】
また、請求項2記載の発明によれば、複数枚の基板間の気体噴出量を略均一にすることができ、外部からの気体が容器本体内の気体と共に排気バルブから外部に排気されることが少ない。
さらに、請求項3、4、5記載の発明によれば、気体の流通方向の変更により、容器本体内に充満していた気体を滞留させることなく、容器本体の外部に速やかに排気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す分解斜視説明図である。
【図2】本発明に係る基板収納容器の実施形態における給気バルブとそのノズルとを模式的に示す斜視説明図である。
【図3】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す断面平面図である。
【図4】本発明に係る基板収納容器の第2の実施形態を模式的に示す断面平面図である。
【図5】本発明に係る基板収納容器の第3の実施形態を模式的に示す断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、図1ないし図3に示すように、複数枚の半導体ウェーハWを整列収納可能な容器本体1と、この容器本体1の開口した正面を開閉する着脱自在の蓋体10と、容器本体1の正面に嵌合した蓋体10を施錠する施錠機構20とを備え、容器本体1の底板3に第一、第二の給気バルブ30A・30Bと第一、第二の排気バルブ40A・40Bとを配設し、第一、第二の給気バルブ30A・30Bに中空のノズル34を装着してその周壁には半導体ウェーハWにパージガスを噴出する複数の噴出孔35を穿孔するとともに、各噴出孔35から噴出されるパージガス流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定し、第一、第二の給気バルブ30A・30Bのノズル34からそれぞれ噴出されたパージガスの気流が半導体ウェーハWの中心を通る前後方向中心線l上で衝突して相互に干渉しないようにしている。
【0024】
半導体ウェーハWは、図1や図3に示すように、例えばφ300mmの薄いシリコンウェーハからなり、容器本体1内に25枚が上下に並べて収納される。並べて収納された複数枚の半導体ウェーハWは、隣接する半導体ウェーハWの間に狭い隙間が区画され、この隙間にパージガスやエアが流通する。
【0025】
容器本体1、蓋体10、及び施錠機構20は、樹脂を含有する所定の成形材料によりそれぞれ射出成形されたり、射出成形された複数の部品の組み合わせで構成される。この成形材料の樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。
【0026】
これら成形材料の樹脂には、導電性を付与する場合には、カーボン繊維、カーボンパウダー、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー等の導電物質が選択的に添加される。また、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤を添加したり、剛性を向上させるガラス繊維や炭素繊維等を添加することも可能である。
【0027】
容器本体1は、図1に示すように、所定の成形材料を使用してフロントオープンボックスタイプに成形され、両側壁の内面、換言すれば、内部両側に、半導体ウェーハWの両側部周縁を水平に支持する左右一対の支持片2が対向して対設されており、この一対の支持片2が上下方向に所定の間隔で配列される。各支持片2は、容器本体1の前後方向に細長い湾曲した板に形成され、半導体ウェーハWの側部周縁を水平に支持する他、収納された半導体ウェーハWの前方への飛び出しを規制するよう機能する。
【0028】
容器本体1の底板3には、半導体製造装置に容器本体1を固定する平板形のボトムプレートが装着され、底板3の前部両側と後部中央とには、半導体製造装置に容器本体1を位置決めする位置決め具が配設されており、底板3の前後部の両側には、第一、第二の給気バルブ30A・30Bと排気バルブ40A・40Bとを着脱自在に螺嵌する螺子孔4がそれぞれ円形に穿孔される。
【0029】
容器本体1の天井中央部には、搬送用のロボティックフランジ5が装着され、容器本体1の正面内周の上下には、施錠機構20用の複数の施錠穴6がそれぞれ穿孔されており、容器本体1の両側壁の外面には、握持操作用のハンドル7がそれぞれ着脱自在に装着される。
【0030】
蓋体10は、図1に示すように、容器本体1の開口した正面に圧入して嵌合される断面略皿形の蓋本体11と、この蓋本体11の開口した正面を被覆するカバープレート12とを備え、蓋体開閉装置により自動的に開閉される。蓋本体11の裏面中央部には、収納された半導体ウェーハWの前部周縁を弾性片で圧接保持するフロントリテーナ13が装着され、蓋本体11の裏面周縁部には、容器本体1の正面内周に弾性変形可能に圧接する枠形のシールガスケットが密嵌されており、蓋本体11の周壁の上下には、容器本体1の施錠穴6に対向する施錠機構20用の貫通孔14がそれぞれ穿孔される。
【0031】
カバープレート12は、透明、不透明、半透明の平板に形成される。このカバープレート12の左右には、施錠機構20用の操作口15がそれぞれ穿孔される。カバープレート12の表面には、蓋体開閉装置用の位置決め部や吸着部等がそれぞれ形成される。
【0032】
施錠機構20は、図1に示すように、蓋本体11内の両側部にそれぞれ軸支されて蓋体開閉装置の操作ピンに回転操作される左右一対の回転操作プレート21と、各回転操作プレート21の回転に伴い上下方向にスライドする複数のスライドプレート22と、各スライドプレート22のスライドに伴い蓋本体11の貫通孔14から出没して容器本体1の施錠穴6に接離する複数の施錠爪23とを備え、蓋本体11とカバープレート12との間に介在される。
【0033】
第一、第二の給気バルブ30A・30Bは、図1ないし図3に示すように、蓋体10により密閉された容器本体1の外部から内部に不活性ガス等のパージガス(図3の矢印参照)を供給するよう機能する。この第一、第二の給気バルブ30A・30Bは、容器本体1の底板3における後部両側の螺子孔4にOリングを介し螺嵌される円筒形のケース31を備え、このケース31には、パージガスの流通を制御する逆止弁である開閉弁32がコイルバネを介し上下動可能に内蔵され、ケース31の容器本体1内に露出した開口上部には、ろ過用のフィルタ33が嵌合されるとともに、容器本体1内の上下方向に伸びる中空のノズル34が着脱自在に螺嵌される。
【0034】
各ノズル34は、基本的には底部の開口した略円筒形に形成され、周壁の上下方向に半導体ウェーハWの上下両面方向にパージガスをそれぞれ噴出する複数の噴出孔35が所定の間隔で一列に穿孔されており、この複数の噴出孔35が半導体ウェーハWの中心や前後方向中心線lから半径外方向である側方にずれた領域に指向する。
【0035】
ノズル34は、底部周面に底板3の螺子孔4周縁に支持されるフランジ36が周設され、底部の開口した円筒の下端37が縮径に形成されてケース31の開口上部内に嵌入され、かつケース31の開口上部との間にフィルタ33を挟持する。ノズル34の下端37の外周面には螺子が螺刻形成され、この螺子がケース31の開口上部内の螺子溝と螺合する。
【0036】
複数の噴出孔35は、例えば容器本体1内に25枚の半導体ウェーハWが整列収納される場合には26個が穿孔され、一枚の半導体ウェーハWを上下方向から挟むように配列されており、各噴出孔35が均一な丸孔に形成される。この複数の噴出孔35は、半導体ウェーハWの支持高さによってパージガスの噴出量にバラツキが生じるので、パージガスの供給量に応じて各噴出孔35が最適な大きさに形成され、噴出量のバラツキを最小限に抑制する。パージガスの噴出量のバラツキをさらに抑制したい場合には、噴出孔35の径を適宜変更すれば良い。
【0037】
ノズル34の各噴出孔35から噴出されるパージガス流量のバラツキの標準偏差は0.6以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.16〜0.55が最適である。これは、バラツキの標準偏差が0.6以下であれば、複数枚の半導体ウェーハW間のパージガス噴出量を略均一にすることができ、パージガスが容器本体1内のエアと共に第一、第二の排気バルブ40A・40Bに排気されることがないからである。
【0038】
第一、第二の排気バルブ40A・40Bは、図1、図3に示すように、第一、第二の給気バルブ30A・30Bのパージガス供給に基づき、蓋体10により密閉された容器本体1内のエア(図3の矢印参照)を外部に排気するよう機能する。この第一、第二の排気バルブ40A・40Bは、容器本体1の底板3における前部両側の螺子孔4にOリングを介し螺嵌される円筒形のケースを備え、このケースには、エアの流通を制御する逆止弁である開閉弁がコイルバネを介し上下動可能に内蔵され、ケースの開口した上下部にはろ過用のフィルタがそれぞれ嵌合される。
【0039】
このような第一、第二の給気バルブ30A・30Bと排気バルブ40A・40Bとは、図3に示すように、第一の給気バルブ30Aと排気バルブ40Aとが斜め対称に相互に配置されて第一の給気バルブ30Aの前方に第二の排気バルブ40Bが位置し、第二の給気バルブ30Bと排気バルブ40Bとが斜め対称に相互に配置されて第二の給気バルブ30Bの前方に第一の排気バルブ40Aが位置する。
【0040】
また、これら30A・30B、40A・40Bは、第一、第二の給気バルブ30A・30Bのノズル34からそれぞれ噴出されたパージガスが半導体ウェーハWの出し入れ方向である前後方向中心線(半導体ウェーハWの出し入れ方向に平行な中心線)l上で衝突して相互に干渉することがないよう、向きと角度とが調整される。すなわち、第一の給気バルブ30Aのノズル34の噴出孔35からパージガスが噴出される方向と半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ1は、第一の給気バルブ30Aのノズル34の噴出孔35から第一の排気バルブ40Aまでの対角線と半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ2を越えないよう、これよりも小さい角度に調整される。
【0041】
同様に、第二の給気バルブ30Bのノズル34の噴出孔35からパージガスが噴出される方向と半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ3は、第二の給気バルブ30Bのノズル34の噴出孔35から第二の排気バルブ40Bまでの対角線と半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ4を越えないよう、これよりも小さな角度に調整される。
【0042】
上記構成において、複数枚の半導体ウェーハWを整列収納した容器本体1の正面に蓋体10が圧入して嵌合された後、第一の給気バルブ30Aにパージガスが外部から供給されると、このパージガスは、図3に示すように、第一の給気バルブ30Aからノズル34内に流入し、このノズル34の噴出孔35から容器本体1の内部前方に流通し、半導体ウェーハWの前後方向中心線lよりも一側方向にずれた領域を経由して第二の排気バルブ40B方向に円滑に導かれる。
【0043】
係るパージガスの流通作用により、容器本体1内に充満していたエアは、パージガスに押され、パージガスと同様の方向に流通して第二の排気バルブ40Bから容器本体1の外部に排気される。
【0044】
また同時に、第二の給気バルブ30Bにパージガスが外部から供給されるが、このパージガスは、同図に示すように、第二の給気バルブ30Bからノズル34内に流入し、このノズル34の噴出孔35から容器本体1の内部前方に流通し、半導体ウェーハWの前後方向中心線lよりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ40A方向に円滑に導かれる。このパージガスの流通により、容器本体1内に充満していたエアは、パージガスに押され、パージガスと同様の方向に流通して第一の排気バルブ40Aから容器本体1の外部に円滑に排気される。
【0045】
この置換作業の際、第一、第二の給気バルブ30A・30Bのノズル34からそれぞれ噴出されたパージガスの気流は、第一、第二の給気バルブ30A・30Bと第一、第二の排気バルブ40A・40Bとの向きと角度が予め調整されているので、半導体ウェーハWの前後方向中心線l上で衝突して相互に干渉することがない。したがって、パージガスや容器本体1に充満したエアが滞留部を形成するのを抑制防止し、容器本体1内のエアを外部に迅速に排気することができる。
【0046】
なお、ノズル34一本当たり50ml/minの流量でパージガスが供給される場合には、ノズル34の各噴出孔35は、パージガス流量のバラツキを抑制する観点から4mm以下、好ましくは3mm以下の直径が良い。このとき、複数の噴出孔35は、下方側の噴出孔35からのパージガス流量が減少し、上方側の噴出孔35からのパージガス流量が増加する。
【0047】
以上のような置換作業により、容器本体1内に充満していたエアをパージガスに速やかに置換し、容器本体1内にパージガスを封入することができるので、容器本体1に整列収納された複数枚の半導体ウェーハW表面の酸化や反応の促進を有効に防止することが可能になる。
【0048】
上記構成によれば、例え収納された複数枚の半導体ウェーハWが隔壁を形成しても、パージガスやエアの前後方向等への流動が妨げられることがないので、容器本体1内に充満したエアを短時間でパージガスに効率的、かつ完全に置換することができる。また、各ノズル34の噴出孔35から噴出されるパージガスの流量を略均一にすることができるので、各スロット間のバランスが悪化するのを防止し、噴出されるパージガスの気流同士が干渉して滞留部を発生させることもない。さらに、パージガスが充満していたエアと共に第一、第二の排気バルブ40A・40Bから外部に排気されるのを抑制防止することが可能になる。
【0049】
次に、図4は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、第一の給気バルブ30Aのノズル34からパージガスを半導体ウェーハWの前後方向中心線lよりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブ30Bのノズル34から噴出されたパージガスを半導体ウェーハWの前後方向中心線lよりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ40A方向に導き、第一の給気バルブ30Aのノズル34から噴出されたパージガスを、第二の給気バルブ30Bのノズル34から噴出されたパージガスの流れを利用して第二の排気バルブ40B方向に導くようにしている。
【0050】
第一の給気バルブ30Aのノズル34の噴出孔35からパージガスが噴出される方向と半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ5は、第二の給気バルブ30Bのノズル34の噴出孔35から半導体ウェーハWの前後方向中心線lとが形成する角度θ6と非対称になるよう設定される。このとき、θ5=2×θ6とすれば、半導体ウェーハWの中心近傍におけるエアの滞留を抑制し、容器本体1内に充満していたエアをパージガスに迅速に置換することができる。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0051】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、パージガスの流通方向の一部変更により、容器本体1内に充満していたエアを容器本体1の外部に円滑に排気することができるのは明らかである。
【0052】
次に、図5は本発明の第3の実施形態を示すもので、この場合には、容器本体1の底板3の後部両側に第一、第二の給気バルブ30A・30Bをそれぞれ螺嵌するとともに、容器本体1の底板3の前部一側に第三の給気バルブ30Cを螺嵌し、容器本体1の底板3の前部他側に排気バルブ40を螺嵌し、第一の給気バルブ30Aの前方に排気バルブ40を位置させるようにしている。
【0053】
第一の給気バルブ30Aのノズル34はパージガスを半導体ウェーハWの前後方向中心線lよりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブ30Bのノズル34はパージガスを容器本体1の正面中央方向に噴出する。また、第三の給気バルブ30Cは、基本的には第一、第二の給気バルブ30A・30Bと同様に構成され、開口した上部にノズル34が装着される。
【0054】
第三の給気バルブ30Cのノズル34は、複数の噴出孔35を排気バルブ40方向に向け、パージガスを排気バルブ40方向に噴出する。第一、第二の給気バルブ30A・30Bのノズル34からそれぞれ噴出されたパージガスは、第三の給気バルブ30Cのノズル34から噴出されたパージガスの流れにより排気バルブ40方向に導かれる。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0055】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、パージガスの流通方向のさらなる変更により、容器本体1内に充満していたエアを容器本体1の外部に円滑に排気することができる。
【0056】
なお、上記実施形態では第一、第二、第三の給気バルブ30A・30B・30Cのケース31に、開閉弁32、コイルバネ、フィルタ33を取り付けたが、ケース31の開口した上下部にフィルタ33をそれぞれ嵌合しても良い。また、ケース31の開口部に、開閉弁32、コイルバネ、フィルタ33の脱落を防止する蓋を適宜嵌合しても良い。同様に、排気バルブ40や第一、第二の排気バルブ40A・40Bのケースの開口部に、開閉弁、コイルバネ、フィルタの脱落を防止する蓋を適宜嵌合しても良い。さらに、各ノズル34を中空先細りのコーン形等に形成することも可能である。
【0057】
以下、本発明に係る基板収納容器の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
気体供給装置から50l/minの流量で窒素ガスを図2に示すノズルに供給し、このノズルの複数の噴射孔からそれぞれ噴出される窒素ガスの流量を流量計で測定し、表1にまとめた。ノズルの複数の噴射孔は、底部から頂部にかけて順番に1番〜26番とし、各噴射孔の径を2mmに調整した。
【0058】
各噴射孔から噴出される窒素ガスの流量を流量計で測定したら、全体の噴出量を100としたときに、各噴射孔から噴出される窒素ガスの流量の割合(%)を計算して求め、表1にまとめた。
【0059】
〔実施例2〕
基本的には実施例1と同様だが、各噴射孔の径を3mmに変更した。
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様だが、各噴射孔の径を4mmに変更した。
【0060】
〔比較例〕
基本的には実施例と同様だが、各噴射孔の径を5mmに拡大変更し、各噴出孔から噴出される窒素ガス流量の標準偏差を0.6を越える0.8とした。
【0061】
【表1】

【0062】
以上の測定結果から、各噴出孔から噴出される窒素ガス流量の標準偏差を0.6以下、あるいは各噴出孔から噴出される窒素ガス流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定すれば、基板収納容器内での窒素ガスの滞留が少なく、短時間で気体を置換できることを確認した。
【0063】
これに対し、比較例のように、各噴出孔から噴出される窒素ガス流量の標準偏差が0.6を越えるか、あるいは各噴出孔から噴出される窒素ガス流量の割合が平均値±2%を超える場合には、基板収納容器内で窒素ガスが滞留し、気体の置換に長時間を要することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る基板収納容器は、半導体製造や液晶等の分野で使用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 容器本体
3 底板
4 螺子孔
10 蓋体
20 施錠機構
30A 第一の給気バルブ
30B 第二の給気バルブ
30C 第三の給気バルブ
31 ケース
32 開閉弁
33 フィルタ
34 ノズル
35 噴出孔
36 フランジ
37 下端
40 排気バルブ
40A 第一の排気バルブ
40B 第二の排気バルブ
l 前後方向中心線
W 半導体ウェーハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の基板を上下方向に並べて収納可能な容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、容器本体の底板に給気バルブと排気バルブとをそれぞれ取り付け、給気バルブにより容器本体の外部から内部に気体を供給し、排気バルブにより容器本体の内部から外部に気体を排気する基板収納容器であって、
容器本体の底板の前後部における少なくとも後部両側に給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板前部に排気バルブを取り付け、
各給気バルブに、容器本体の上下方向に伸びる中空のノズルを備えてその周壁には基板の上下面方向に気体を噴出する複数の噴出孔を設けるとともに、各噴出孔から噴出される気体流量の割合を平均値±2%以内の範囲に設定し、
各給気バルブのノズルの噴出孔を基板の中心からずれた領域に向け、複数の給気バルブのノズルからそれぞれ噴出された気体が基板の中心を通る前後方向中心線上で干渉しないようにしたことを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
各給気バルブの複数の噴出孔から噴出される気体流量の標準偏差を0.6以下に設定した請求項1記載の基板収納容器。
【請求項3】
容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板の前部両側に第一、第二の排気バルブを取り付け、第一の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第一の給気バルブの前方には第二の排気バルブを位置させるとともに、第二の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第二の給気バルブの前方には第一の排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも一側方向にずれた領域を経由して第二の排気バルブ方向に導き、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ方向に導くようにした請求項1又は2記載の基板収納容器。
【請求項4】
容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付け、容器本体の底板の前部両側に第一、第二の排気バルブを取り付け、第一の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第一の給気バルブの前方には第二の排気バルブを位置させるとともに、第二の給気バルブと排気バルブとを略斜め対称に配置して第二の給気バルブの前方には第一の排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域を経由して第一の排気バルブ方向に導き、第一の給気バルブのノズルから噴出された気体を、第二の給気バルブのノズルから噴出された気体の流れを利用して第二の排気バルブ方向に導くようにした請求項1又は2記載の基板収納容器。
【請求項5】
容器本体の底板の後部両側に第一、第二の給気バルブをそれぞれ取り付けるとともに、容器本体の底板の前部一側に第三の給気バルブを取り付け、容器本体の底板の前部他側に排気バルブを取り付け、第一の給気バルブの前方には排気バルブを位置させ、
第一の給気バルブのノズルから気体を基板の前後方向中心線よりも他側方向にずれた領域に噴出し、第二の給気バルブのノズルから気体を容器本体の正面方向に噴出するとともに、第三の給気バルブのノズルから気体を排気バルブ方向に噴出し、第一、第二の給気バルブのノズルからそれぞれ噴出された気体を、第三の給気バルブのノズルから噴出された気体の流れを利用して排気バルブ方向に導くようにした請求項1又は2記載の基板収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−114133(P2012−114133A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259803(P2010−259803)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】