説明

基板収納容器

【課題】例え基板が大型の場合でも安全に支持したり、基板にフロントリテーナの保持溝を適切に嵌め入れることができ、反力で蓋体が変形するおそれを排除できる基板収納容器を提供する。
【解決手段】半導体ウェーハW収納用の容器本体1と、容器本体1の正面2を開閉する蓋体10とを備え、蓋体10の半導体ウェーハWに対向する対向裏面12に、半導体ウェーハWを保持するフロントリテーナ30を装着する。フロントリテーナ30を、対向裏面12の両側部に装着される一対の支柱31と、各支柱31から対向裏面12の中央部方向に伸長する第一の弾性片34と、第一の弾性片34の先端部に連結されて蓋体10に固定される一対の分割支柱44と、一対の分割支柱44間に架設される第二の弾性片46とから構成し、第一、第二の弾性片34・46に、半導体ウェーハWの前部周縁を保持溝40・40Aで保持する第一、第二の保持ブロック39・39Aを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等からなる基板を収納、保管、搬送、輸送等する際に使用される基板収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における基板収納容器は、図示しないが、複数枚の半導体ウェーハを整列収納する容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する着脱自在の蓋体とを備え、この蓋体に、容器本体の正面に嵌合された蓋体を施錠する施錠機構が内蔵されており、蓋体の半導体ウェーハに対向する対向裏面には、半導体ウェーハの前部周縁を保持するフロントリテーナが装着されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
半導体ウェーハは、例えばφ300mmのシリコンウェーハからなるが、近年、チップサイズの大型化や生産性向上の観点から、薄く撓みやすいφ450mmのシリコンウェーハの採用が検討され始めている。また、容器本体は、正面の開口したフロントオープンボックスに形成され、内部両側に、半導体ウェーハを水平に支持する左右一対の支持片が上下方向に複数配設されている。
【0004】
フロントリテーナは、様々な種類があるが、例えば(1)蓋体の半導体ウェーハに対向する対向裏面の両側部に一対の弾性板をそれぞれ装着して各弾性板を断面略山形に屈曲形成し、この弾性板の斜面に、半導体ウェーハの前部周縁を保持する複数の保持溝を並べて一体形成したタイプ、(2)蓋体の半導体ウェーハの対向裏面に装着される枠体を備え、この枠体の上下方向に複数の弾性片を配列形成して各弾性片に半導体ウェーハの前部周縁を保持溝で保持する保持ブロックを一体形成したタイプ等があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002‐353301号公報
【特許文献2】特開2005‐353898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来における基板収納容器は、以上のように構成され、半導体ウェーハがφ450mmの大型のシリコンウェーハの場合には、半導体ウェーハが薄く撓みやすいので、半導体ウェーハを安全に支持することが非常に難しいという問題がある。また、半導体ウェーハが大型のシリコンウェーハの場合、容器本体の開口した正面に蓋体を嵌合して半導体ウェーハの前部周縁にフロントリテーナの保持溝を嵌入しようとすると、半導体ウェーハだけではなく、半導体ウェーハの大きさに応じて伸長した弾性片が下方に大きく撓むので、各半導体ウェーハの前部周縁にフロントリテーナの保持溝を適切に対向させて嵌入することが実に困難となる。
【0007】
さらに、半導体ウェーハを確実に保持するため、フロントリテーナが半導体ウェーハの前部周縁を保持する保持力を増大しようとすると、この保持力の反力で蓋体が湾曲して変形するおそれがある。特に、蓋体の施錠機構から離れた対向裏面の中央部付近が大きく弓なりに変形するおそれがあるので、対向裏面の中央部付近に位置する保持溝の保持力を手間をかけて適正に調整せざるを得ない。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたもので、例え基板が大型の場合でも安全に支持したり、基板の周縁にフロントリテーナの保持溝を適切に嵌め入れることができ、しかも、保持力の反力で蓋体が変形するおそれを有効に排除することのできる基板収納容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては上記課題を解決するため、基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、この蓋体に、基板の周縁部を保持するフロントリテーナを取り付けたものであって、
フロントリテーナは、蓋体の基板に対向する対向面に取り付けられる一対の支柱と、各支柱から蓋体の対向面中央部方向に伸びる第一の弾性片と、この第一の弾性片に連結されて蓋体に固定される一対の分割支柱と、この一対の分割支柱間に架設される第二の弾性片とを含み、第一、第二の弾性片に、基板の周縁部を保持溝で保持する第一、第二の保持ブロックをそれぞれ設けたことを特徴としている。
【0010】
なお、蓋体に、容器本体の正面に嵌め合わされた蓋体を施錠する施錠機構を設け、この施錠機構の少なくとも一部に、フロントリテーナの支柱と第一の弾性片との少なくともいずれか一方をオーバーラップさせることができる。
また、施錠機構を、蓋体に回転可能に支持されて外部から操作される回転プレートと、この回転プレートの回転に伴い蓋体の上下方向にスライドする複数のスライドプレートと、各スライドプレートのスライドに伴い蓋体から出没する回転可能な複数の施錠爪とから構成し、複数のスライドプレートをフロントリテーナの支柱と第一の弾性片との少なくともいずれか一方に間接的に対向させることができる。
【0011】
また、第一の弾性片が基板を保持する保持力をAとし、第二の弾性片が基板を保持する保持力をBとした場合、A>Bとすることができる。
また、第一の弾性片は、支柱から蓋体の対向面中央部方向に伸びる屈曲伸長部と、この屈曲伸長部に形成されて容器本体の内方向に膨出する膨出部と、この膨出部と分割支柱とを連結する屈曲連結部とを含み、膨出部の表面側に第一の保持ブロックを形成し、膨出部の裏面側には、蓋体の凹部に接離可能(接触したり、離れたりする)に嵌まる凸部を突出形成することが可能である。
【0012】
また、第二の弾性片は、一対の分割支柱にそれぞれ形成される湾曲部と、この一対の湾曲部間に架設されるバー部とを含み、湾曲部の表面側に第二の保持ブロックを形成し、湾曲部の裏面側には、蓋体の凹部に接離可能(接触したり、離れたりする)に嵌まる凸部を突出形成することが可能である。
【0013】
さらに、第一、第二の保持ブロックの保持溝を、ブロックに形成されて基板の周縁部を挟み持つ凹み溝と、ブロックに傾斜形成されて凹み溝に基板の周縁部を誘導する一対の傾斜誘導面とから断面略Y字形に形成し、凹み溝の対向する一対の内壁面をそれぞれ傾斜させてそれらの間の傾斜角θ1を30〜50°とし、各傾斜誘導面を凹み溝の内壁面端部に連続させてその傾斜角θ2を100〜120°とすることも可能である。
【0014】
ここで、特許請求の範囲における基板には、少なくともφ300mmやφ450mmの半導体ウェーハ、マスクガラス、液晶基板等が含まれる。また、容器本体は、透明、不透明、半透明のいずれでも良い。この容器本体の内部両側には、基板を略水平に支持する支持片をそれぞれ設け、容器本体の内部両側の後方と支持片の後部の少なくともいずれか一方には、基板の周縁部を挟んでその容器本体に対する挿入位置を規制する規制部を断面略U字形あるいは略V字形に設け、この規制部を第一、第二の保持ブロックの保持溝に対向させることができる。
【0015】
フロントリテーナにおける第一の保持ブロックの保持溝は、基板の中心部を向いていることが好ましい。さらに、第一の弾性片が基板を保持する保持力Aと、第二の弾性片が基板を保持する保持力Bとは、A:B=3〜5:1となることが好ましい。
【0016】
本発明によれば、基板を収納した容器本体の開口した正面に蓋体を嵌め合わせると、基板の周縁部にフロントリテーナの第一、第二の弾性片が保持ブロックを介して干渉し、蓋体の対向面方向に第一、第二の弾性片がそれぞれ撓むとともに、保持溝に基板の周縁部が適切に嵌まることとなる。
【0017】
フロントリテーナの一対の分割支柱が弾性片を実質的に第一、第二の弾性片に分割するので、弾性片を全体として長く伸ばし、かつ撓まないよう矯正固定して第一、第二の弾性片の保持ブロックの位置や高さを精度良く揃えることができる。特に、第一の弾性片に第二の弾性片が単に連設されるのではなく、一対の分割支柱の間に第二の弾性片が架設されるので、第二の弾性片がその自重により下方に撓み、高さ方向の位置精度に支障を来たすことが少ない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例え基板が大型の場合でも安全に支持したり、基板の周縁にフロントリテーナの保持溝を適切に嵌め入れることができるという効果がある。また、基板を保持する保持力の反力で蓋体が変形するおそれを有効に排除することができる。
【0019】
また、請求項2記載の発明によれば、蓋体の剛性を向上させることができるので、基板を保持する際の反力で蓋体が変形するおそれを排除することができる。
また、請求項3記載の発明によれば、第一、第二の弾性片の保持力を大小異ならせるので、第一、第二ブロックの保持溝から基板が脱落したり、回転するのを防ぐことができ、しかも、第二の弾性片が基板を保持する保持力が過度に弱化しないので、基板の安定支持が期待できる。
【0020】
また、請求項4記載の発明によれば、第一の弾性片が上下方向に位置ずれするのを規制したり、基板、蓋体、フロントリテーナの間で衝撃や振動の伝播を有効に緩和することが可能になる。
また、請求項5記載の発明によれば、第二の弾性片が上下方向に位置ずれするのを規制したり、基板、蓋体、フロントリテーナの間で衝撃や振動の伝播を緩和することが可能になる。
【0021】
さらに、請求項6記載の発明によれば、基板の凹み溝に対する過剰な嵌め入れを防止したり、凹み溝からの脱落を有効に防ぐことができる。さらにまた、凹み溝に基板の周縁部を良好にリードインしたり、傾斜誘導面と基板の周縁部との接触に伴う磨耗の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す全体斜視図である。
【図2】本発明に係る基板収納容器の実施形態を模式的に示す断面平面図である。
【図3】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体の対向裏面とフロントリテーナとを模式的に示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体の対向裏面とフロントリテーナとを模式的に示す説明図である。
【図5】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋体とフロントリテーナとを模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋本体とフロントリテーナの一部とを模式的に示す拡大断面説明図である。
【図7】本発明に係る基板収納容器の実施形態における蓋本体の対向裏面とフロントリテーナの一部とを模式的に示す斜視説明図である。
【図8】本発明に係る基板収納容器の実施形態におけるフロントリテーナの第一、第二の保持ブロックとその保持溝を模式的に示す説明図である。
【図9】撓んだ半導体ウェーハと従来のフロントリテーナとの関係を模式的に示す説明図である。
【図10】本発明に係る基板収納容器の実施形態における半導体ウェーハとフロントリテーナとの適切な関係を模式的に示す説明図である。
【図11】本発明に係る基板収納容器の実施形態における規制部を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、図1ないし図11に示すように、複数枚の半導体ウェーハWを整列収納する容器本体1と、この容器本体1の開口した正面2を開閉する着脱自在の蓋体10とを備え、この蓋体10の半導体ウェーハWに対向する対向裏面12に、複数枚の半導体ウェーハWの前部周縁を保持する弾性のフロントリテーナ30を装着し、このフロントリテーナ30の複数の弾性片を分割支柱44により第一、第二の弾性片34・46に分割し、第一、第二の弾性片34・46が半導体ウェーハWを保持する保持力を相異させるようにしている。
【0024】
各半導体ウェーハWは、図2に示すように、例えばφ450mmの大型のシリコンウェーハからなり、図示しない専用のロボットにより容器本体1に水平に挿入されたり、水平状態で容器本体1から取り出される。
【0025】
容器本体1と蓋体10とは、所定の樹脂を含有する成形材料によりそれぞれ射出成形されたり、射出成形された複数の部品の組み合わせで構成される。この成形材料の所定の樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。
【0026】
これら成形材料の樹脂には、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属酸化物、導電性ポリマー等の導電剤やアニオン、カチオン、非イオン系等の各種帯電防止剤が選択的に添加される。また、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤を添加したり、剛性を向上させるガラス繊維や炭素繊維等を添加することも可能である。
【0027】
容器本体1は、図1や図2に示すように、正面2が横長に開口したフロントオープンボックスタイプに成形され、この開口した正面2を水平横方向に向けた状態で半導体加工装置に付属の蓋体開閉装置上に位置決め具を介し位置決め搭載されたり、洗浄槽の洗浄液により洗浄される。
【0028】
容器本体1は、その内部両側、換言すれば、両側壁の内面に、半導体ウェーハWを水平に支持する左右一対の支持片3が対設され、この一対の支持片3が上下方向に所定の間隔をおいて配設されており、各支持片3が容器本体1の前後方向に伸びて半導体ウェーハWの側部周縁を支持する細長い板に形成される。各支持片3の後部には図2に示すように、半導体ウェーハWの後部周縁に接触する規制部4が形成され、この規制部4が容器本体1に対する半導体ウェーハWの挿入位置を規制するよう機能する。
【0029】
規制部4は、図11に示すように、例えば半導体ウェーハWの後部周縁を挟む断面略V字形等に形成され、一対の斜面には、半導体ウェーハWの滑り性を向上させる観点から、適切な粗さのシボ加工やダイヤモンドライクコーティング等からなる表面処理が施される。
【0030】
容器本体1の底板の前部両側と後部中央とには、容器本体1を位置決めする位置決め具がそれぞれ配設され、各位置決め具が蓋体開閉装置の位置決めピンに上方から嵌合して高精度に位置決めするよう機能する。容器本体1の底板には図1に示すように、平坦な別体のボトムプレート5が螺子具を介して水平に螺着され、このボトムプレート5から複数の位置決め具がそれぞれ下方に露出する。
【0031】
容器本体1の天板の略中央部には図1に示すように、搬送用のトップフランジ6が着脱自在に装着され、このトップフランジ6が工場の天井搬送機構に把持される。また、容器本体1の正面2周縁部には、外方向に張り出すリムフランジ7が保持リブを介し膨出形成され、このリムフランジ7内に着脱自在の蓋体10が蓋体開閉装置により圧入して嵌合される。このリムフランジ7の内周面の上下両側部、換言すれば、容器本体1の正面2内周面の上下両側部には、蓋体10用の施錠穴がそれぞれ穿孔される。
【0032】
容器本体1の各側壁の略中央部には、ハンドルを備えたグリップ部が着脱自在に装着される。このグリップ部は、握持操作される他、容器本体1を補強して変形を防止するよう機能する。
【0033】
蓋体10は、図1ないし図7に示すように、容器本体1のリムフランジ7内に圧入して嵌合される中空の蓋本体11と、この蓋本体11の開口した正面を被覆する表面プレート17と、蓋本体11と表面プレート17との間に介在される施錠機構19と、容器本体1のリムフランジ7と蓋本体11との間に介在される密封封止用のシールガスケット16とを備えて構成される。
【0034】
蓋本体11は、基本的には底の浅い断面略皿形に形成され、内部に補強用や取付用のリブが複数配設されており、半導体ウェーハWに対向する対向裏面12に、半導体ウェーハWの前部周縁を弾発的に保持するフロントリテーナ30が装着される。この蓋本体11の対向裏面12には図3、図4、図6、図7に示すように、フロントリテーナ30を固定する複数の固定爪13が配設される。
【0035】
蓋本体11の対向裏面12には図7に示すように、複数のリブ14が所定の間隔で配列形成され、隣接する複数のリブ14間にフロントリテーナ30用のリブ溝15が区画形成される。また、蓋本体11の対向裏面12の周縁部には枠形の嵌合溝が凹み形成され、この嵌合溝にシールガスケット16が密嵌される。蓋本体11の周壁の上下両側部には、容器本体1の施錠穴に対向する施錠機構19用の出没孔がそれぞれ穿孔される。
【0036】
表面プレート17は、図1に示すように、蓋本体11の開口した正面に対応する横長の正面矩形に形成される。この表面プレート17の両側部には、施錠機構19用の操作孔18がそれぞれ穿孔され、各操作孔18が蓋体開閉装置の操作キーに貫通される。
【0037】
施錠機構19は、同図に部分的に示すように、蓋本体11内の両側部に回転可能に軸支されて表面プレート17の操作孔18を貫通した蓋体開閉装置の操作キーに操作される左右一対の回転プレート20と、各回転プレート20の回転に伴い蓋本体11内の上下方向にスライドする複数のスライドプレート21と、各スライドプレート21のスライドに伴い蓋本体11の出没孔から出没する揺動可能な複数の施錠爪とを備え、複数のスライドプレート21がフロントリテーナ30の一部に蓋本体11を介し間接的に対向しており、各施錠爪がスライドプレート21の先端部と蓋本体11の出没孔とに軸支される。
【0038】
このような施錠機構19は、容器本体1のリムフランジ7に蓋体10が嵌合された後、各回転プレート20が操作されてスライドプレート21を蓋体10の周壁方向にスライドさせ、各施錠爪が出没孔から突出して容器本体1の施錠穴に嵌合係止することにより、蓋体10を強固に施錠して脱落を防止する。
【0039】
シールガスケット16は、例えば耐熱性や耐候性等に優れるフッ素ゴム、シリコーンゴム、各種の熱可塑性エラストマー(例えば、オレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系等)等を成形材料として弾性変形可能な枠形に成形され、容器本体1のリムフランジ7内に蓋体10が嵌合された際、リムフランジ7の内周面に圧接する。
【0040】
フロントリテーナ30は、例えば摺動性に優れるポリアセタール、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、摺動剤の添加された熱可塑性樹脂を含有する成形材料、あるいはポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系等からなる各種の熱可塑性エラストマーにより成形される。
【0041】
フロントリテーナ30は、図2ないし図8に示すように、蓋体10の対向裏面12の両側部にそれぞれ装着される左右一の支柱31と、各支柱31から蓋体10の中央部方向に並んで水平に伸長する複数の第一の弾性片34と、この複数の第一の弾性片34の先端部に連結されて蓋体10の対向裏面12に固定される一対の分割支柱44と、この一対の分割支柱44間に並んで架設して連結される複数の第二の弾性片46とを備え、各第一、第二の弾性片34・46に、半導体ウェーハWを四箇所で保持する第一、第二の保持ブロック39・39Aがそれぞれ一体形成される。
【0042】
各支柱31は、図2、図3、図7に示すように、蓋体10の上下方向に伸長して施錠機構19のスライドプレート21に蓋体10を介して近接し、複数の固定孔32が所定の間隔で穿孔されており、各固定孔32に蓋体10の対向裏面12から突出する固定爪13が着脱自在に嵌合係止する。また、支柱31の上下両端部にはそれぞれ切り欠き33が選択的に形成され、各切り欠き33に蓋体10から突き出た鉤形の固定爪13が着脱自在に係止する。
【0043】
各第一の弾性片34は、図3ないし図7に示すように、支柱31から蓋体10の対向裏面12の中央部方向に屈曲して水平に伸長する断面略L字形の屈曲伸長部35と、この屈曲伸長部35の先端に一体形成されて容器本体1の内方向に膨出する断面略U字形の膨出部36と、この膨出部36の自由端と分割支柱44とを連結する屈曲連結部37とを備えた細長い板片状に形成される。
【0044】
第一の弾性片34は、屈曲伸長部35が施錠機構19の板形のスライドプレート21に蓋本体11を介して対向し、膨出部36の分割支柱44寄りに位置する表面内隅部側には、半導体ウェーハWの前部周縁を保持溝40で保持してその回転を規制する第一の保持ブロック39が一体形成される。
【0045】
膨出部36の裏面側には図7に示すように、蓋体10のリブ溝15に接離可能に対向する先細りのタグ38が突出形成され、このタグ38が蓋体10のリブ溝15に遊嵌することにより、第一の弾性片34が上下方向に位置ずれするのを規制したり、輸送時に衝撃や振動が伝播するのを有効に緩和する。このようなタグ38のリブ溝15に対する遊嵌作用により、半導体ウェーハWが保持溝40から脱落して破損したり、半導体ウェーハWが保持溝40と摺接して損傷するのを有効に防止することができる。
【0046】
第一の保持ブロック39の保持溝40は、図6や図8に示すように、ブロックの表面に形成されて半導体ウェーハWの前部周縁の側方を挟持する断面略U字形の凹み溝41と、ブロックの表面に傾斜形成されて凹み溝41に半導体ウェーハWの前部周縁の側方を誘導する一対の傾斜誘導面42とから断面略Y字形に一体形成され、半導体ウェーハWの中心部方向に指向して規制部4のV字形の斜面に斜めに対向する。
【0047】
凹み溝41の相対向する一対の内壁面43は、それぞれ拡開傾斜してそれらの間の傾斜角θ1が30〜50°の狭い範囲内に調整される。これは、傾斜角θ1が30〜50°の範囲内であれば、半導体ウェーハWの凹み溝41に対する過剰な嵌入を防止したり、凹み溝41からの脱落を有効に防ぐことができるからである。
【0048】
各傾斜誘導面42は、凹み溝41の内壁面43の先端部に一体的に連続し、半導体ウェーハWとの間の傾斜角θ2が100〜120°の広い範囲とされる。これは、傾斜角θ2が100〜120°の範囲であれば、半導体ウェーハWが多少位置ずれしても、半導体ウェーハWの前部周縁に確実に接触して凹み溝41にリードインすることができるからである。また、凹み溝41の中心部に半導体ウェーハWを適切に案内することができ、しかも、傾斜誘導面42と半導体ウェーハWの前部周縁との接触に伴う磨耗の発生を抑制することができるからである。
【0049】
各分割支柱44は、図3ないし図7に示すように、支柱31と略同じ長さ(高さ)に形成され、蓋体10の上下方向に伸長する。この分割支柱44には、複数の固定孔45が所定の間隔で穿孔され、各固定孔45に蓋体10の対向裏面12から突出した固定爪13が着脱自在に嵌合係止する。このような分割支柱44は、第一の弾性片34が半導体ウェーハWを保持する保持力と、第二の弾性片46が半導体ウェーハWを保持する保持力とを個別に微調整可能とする。
【0050】
各第二の弾性片46は、同図に示すように、一対の分割支柱44にそれぞれ波形に屈曲して一体形成される湾曲部47と、この一対の湾曲部47の自由端間に水平に架設される直線形のバー部48とを備えた細長い板片状に形成され、各湾曲部47のバー部48寄りの表面側に、半導体ウェーハWの前部周縁を保持溝40Aで保持する第二の保持ブロック39Aが一体形成される。
【0051】
湾曲部47の裏面側には図7に示すように、蓋体10のリブ溝15に接離可能に対向する先細りのタグ49が突出形成され、このタグ49が蓋体10のリブ溝15に遊嵌することにより、第二の弾性片46が上下方向に位置ずれしたり、捩れたりするのを防いだり、衝撃や振動の伝播を有効に抑制する。
【0052】
第二の保持ブロック39Aの保持溝40Aは、図8に示すように、ブロックの表面に形成されて半導体ウェーハWの前部周縁の中央を挟持する断面略U字形の凹み溝41Aと、ブロックの表面に傾斜形成されて凹み溝41Aに半導体ウェーハWの前部周縁の中央を誘導する一対の傾斜誘導面42Aとから断面略Y字形に形成され、規制部4のV字形の斜面に斜めに対向する。
【0053】
凹み溝41Aの相対向する一対の内壁面43Aは、それぞれ拡開傾斜してそれらの間の傾斜角θ1が30〜50°の狭い範囲とされる。これは、傾斜角θ1が30〜50°の範囲内であれば、半導体ウェーハWの凹み溝41Aに対する過剰な嵌入を防止したり、凹み溝41Aからの脱落を有効に防ぐことができるという理由に基づく。
【0054】
各傾斜誘導面42Aは、凹み溝41Aの内壁面43Aの先端部に一体的に連続し、半導体ウェーハWとの間の傾斜角θ2が100〜120°の範囲とされる。これは、傾斜角θ2が100〜120°の範囲であれば、半導体ウェーハWが多少位置ずれしても、半導体ウェーハWの前部周縁に確実に接触して凹み溝41Aにリードインすることができるという理由に基づく。さらに、凹み溝41Aの中心部に半導体ウェーハWを適切に案内でき、しかも、傾斜誘導面42Aと半導体ウェーハWの前部周縁との接触に伴う磨耗の発生を抑制できるという理由に基づく。
【0055】
第一、第二の弾性片34・46が半導体ウェーハWを保持する保持力は、各第一の弾性片34が一枚の半導体ウェーハWを保持する保持力をAとし、各第二の弾性片46が一枚の半導体ウェーハWを保持する保持力をBとした場合、A>B、好ましくはA:B=3〜5:1の関係とされる。
【0056】
これは、第一、第二の弾性片34・46が半導体ウェーハWを保持する保持力がA>Bの関係にあれば、第一、第二ブロックの保持溝40・40Aから半導体ウェーハWが脱落したり、回転するのを防ぐことができるからである。さらに、第二の弾性片46が半導体ウェーハWを保持する保持力が過度に弱くならず、半導体ウェーハWの安定支持が期待できるからである。
【0057】
上記構成において、複数枚の半導体ウェーハWを整列収納した容器本体1の開口したリムフランジ7内に蓋体10を圧入して嵌合した後、この蓋体10を施錠すると、各半導体ウェーハWの前部周縁にフロントリテーナ30の第一、第二の弾性片34・46が保持溝40・40Aを介してそれぞれ嵌入し、蓋本体11の対向裏面12方向に第一、第二の弾性片34・46がそれぞれ撓んで変形するとともに、保持溝40・40Aの凹み溝41・41Aに半導体ウェーハWの前部周縁が傾斜誘導面42・42Aに案内されつつ適切に嵌入する。
【0058】
この際、半導体ウェーハWは、フロントリテーナ30の保持溝40・40Aの圧接により容器本体1の背面側方向に押圧され、断面略V字形の規制部4の斜面に摺接して徐々に上昇し、各支持片3の表面から浮いた状態で規制部4の一対の斜面が区画する谷と保持溝40・40Aの凹み溝41・41Aとに保持される。
【0059】
各第二の弾性片46は、第一の弾性片34の端部に単に連設して一体化されるのではなく、一対の分割支柱44間に架設(図10参照)して補強されるので、蓋体10の左右横方向に直線的に伸びて第一の弾性片34と同じ高さを維持する。したがって、第二の弾性片46が図9のように自重により下方に撓み、第二の保持ブロック39Aが下方に位置ずれすることがない。
【0060】
上記構成によれば、フロントリテーナ30の一対の分割支柱44が弾性片を第一、第二の弾性片34・46に分割するので、弾性片を全体として左右横方向に伸長し、かつ撓まないよう固定して第一、第二の弾性片34・46の保持溝40・40Aの位置を高精度に揃えることができる。したがって、半導体ウェーハWが例えφ450mmの薄く撓みやすい大型のシリコンウェーハでも、半導体ウェーハWを安全に支持することができる。
【0061】
また、第一、第二の弾性片34・46の保持溝40・40Aの高さを高精度に揃えることができるので、各半導体ウェーハWの前部周縁にフロントリテーナ30の保持溝40・40Aを適切に対向させ、確実に嵌入することが可能となる。
【0062】
また、蓋体10の施錠機構19とフロントリテーナ30の第一の弾性片34とを間接的に対向させて剛性を向上させ、フロントリテーナ30が半導体ウェーハWを保持する箇所を四箇所に分散するので、半導体ウェーハWを保持する際の反力で蓋体10、特に蓋体10の対向裏面12の中央部付近が大きく弓なりに変形するおそれを有効に排除することが可能となる。したがって、蓋体10の対向裏面12の中央部付近に位置する保持溝40Aの保持力を調整する作業を大幅に削減したり、省略することができる。
【0063】
なお、上記実施形態では蓋体10の施錠機構19とフロントリテーナ30の第一の弾性片34とを間接的に対向させたが、何らこれに限定されるものでは無い。例えば、施錠機構19のスライドプレート21とフロントリテーナ30の支柱13及び第一の弾性片34とを間接的に対向させたり、施錠機構19のスライドプレート21とフロントリテーナ30の支柱13とを間接的に対向させても良い。
【0064】
また、上記実施形態では支柱31に固定孔32や切り欠き33を設け、これら固定孔32や切り欠き33に蓋体10の固定爪13を係止したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、支柱31に固定爪13を突出形成し、蓋体10に固定爪13用の固定孔32や切り欠き33を設けても良い。また、分割支柱44に固定爪13を突出形成し、蓋体10に固定爪13用の固定孔45や切り欠き33を設けても良い。
【符号の説明】
【0065】
1 容器本体
2 正面
3 支持片
4 規制部
7 リムフランジ
10 蓋体
11 蓋本体
12 対向裏面
14 リブ
15 リブ溝(凹部)
19 施錠機構
20 回転プレート
21 スライドプレート
30 フロントリテーナ
31 支柱
34 第一の弾性片
35 屈曲伸長部
36 膨出部
37 屈曲連結部
38 タグ(凸部)
39 第一の保持ブロック
39A 第二の保持ブロック
40 保持溝
41 凹み溝
42 傾斜誘導面
43 内壁面
40A 保持溝
41A 凹み溝
42A 傾斜誘導面
43A 内壁面
44 分割支柱
46 第二の弾性片
47 湾曲部
48 バー部
49 タグ(凸部)
W 半導体ウェーハ(基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口した正面を開閉する蓋体とを備え、この蓋体に、基板の周縁部を保持するフロントリテーナを取り付けた基板収納容器であって、
フロントリテーナは、蓋体の基板に対向する対向面に取り付けられる一対の支柱と、各支柱から蓋体の対向面中央部方向に伸びる第一の弾性片と、この第一の弾性片に連結されて蓋体に固定される一対の分割支柱と、この一対の分割支柱間に架設される第二の弾性片とを含み、第一、第二の弾性片に、基板の周縁部を保持溝で保持する第一、第二の保持ブロックをそれぞれ設けたことを特徴とする基板収納容器。
【請求項2】
蓋体に、容器本体の正面に嵌め合わされた蓋体を施錠する施錠機構を設け、この施錠機構の少なくとも一部に、フロントリテーナの支柱と第一の弾性片との少なくともいずれか一方をオーバーラップさせるようにした請求項1記載の基板収納容器。
【請求項3】
第一の弾性片が基板を保持する保持力をAとし、第二の弾性片が基板を保持する保持力をBとした場合、A>Bとした請求項1又は2記載の基板収納容器。
【請求項4】
第一の弾性片は、支柱から蓋体の対向面中央部方向に伸びる屈曲伸長部と、この屈曲伸長部に形成されて容器本体の内方向に膨出する膨出部と、この膨出部と分割支柱とを連結する屈曲連結部とを含み、膨出部の表面側に第一の保持ブロックを形成し、膨出部の裏面側には、蓋体の凹部に接離可能に嵌まる凸部を突出形成した請求項1、2、又は3記載の基板収納容器。
【請求項5】
第二の弾性片は、一対の分割支柱にそれぞれ形成される湾曲部と、この一対の湾曲部間に架設されるバー部とを含み、湾曲部の表面側に第二の保持ブロックを形成し、湾曲部の裏面側には、蓋体の凹部に接離可能に嵌まる凸部を突出形成した請求項1ないし4いずれかに記載の基板収納容器。
【請求項6】
第一、第二の保持ブロックの保持溝を、ブロックに形成されて基板の周縁部を挟み持つ凹み溝と、ブロックに傾斜形成されて凹み溝に基板の周縁部を誘導する一対の傾斜誘導面とから断面略Y字形に形成し、凹み溝の対向する一対の内壁面をそれぞれ傾斜させてそれらの間の傾斜角θ1を30〜50°とし、各傾斜誘導面を凹み溝の内壁面端部に連続させてその傾斜角θ2を100〜120°とした請求項1ないし5いずれかに記載の基板収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−4380(P2012−4380A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138503(P2010−138503)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】