説明

基板固定テーブル及び超音波接合装置

【課題】接合対象部と被接合材との接合強度を劣化させない構造の接合対象部搭載用の基板固定テーブルを得る。
【解決手段】基板固定テーブル5はガラス基板3内の振動が透過波として伝搬可能な音響インピーダンスを有する材質として、ガラス材料と同等の音響インピーダンスを有する材料(アルミ、鉄)で構成される。ガラス基板3の上面領域の大きさはガラス基板3のガラス基板搭載予定領域R3上への搭載時におけるガラス基板3の外周端部から基板固定テーブル5の端部までの最短距離となる余白幅Dtが、ガラス材からなるガラス基板3内部を伝わる平面波長の1/4以上の長さに設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波接合装置に用いられる基板固定テーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
端子ボックスの電線接続部と電線のリード引出線の電線端末を接続する装置、あるいは電子デバイス等の接合対象部上に外部引出用のリード線等の被接合材を接合する装置として超音波接合装置がある。超音波接合装置は、例えば、電線接続部(接合対象部)上に電線端末(被接合材)を載置し超音波振動を印加して接合を行う。超音波接合装置による超音波振動を利用した超音波接合では、接合界面に対して垂直方向の加圧による応力と、平行方向の高い振動加速度による繰返し応力とを与えて接合界面に摩擦発熱を生じさせる。これにより被接合材の原子を拡散させて接合することができる。このような超音波接合装置はアンビルと呼ばれるテーブル上に接合対象部を載置して超音波接合動作を行うのが一般的である。上記テーブルを有する超音波接合装置は例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−107882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、超音波接合装置における上記テーブルは、接合対象部より生じる反射波に起因して超音波振動が減衰する結果、接合対象部と被接合材との接合強度を劣化させてしまうという問題点があった。
【0005】
この発明は上記問題点を解決するためになされたもので、接合対象部と被接合材との接合強度を劣化させない構造の接合対象部搭載用の基板固定テーブルを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る請求項1記載の基板固定テーブルは、第1の材質からなる薄膜基体の表面上に配置された被接合材に対し、超音波接合用ツールを用いて上方から加圧するとともに超音波振動を印加して、前記薄膜基体の表面上に前記被接合材を接合する超音波接合装置に用いられ、前記薄膜基体を上部に搭載する第2の材質からなる基板固定テーブルであって、前記基板固定テーブルは、その表面上に前記薄膜基体を固定搭載可能な固定搭載手段を有し、前記第2の材質は前記薄膜基体を前記固定搭載手段によって固定搭載した時に前記薄膜基体内の振動が透過波として伝搬可能な音響インピーダンスを有する材質を含み、前記薄膜基体の固定搭載時における前記薄膜基体の外周端部から前記基板固定テーブルの端部までの最短距離が、前記薄膜基体内部を伝わる平面波長の1/4以上の長さに設定されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明における超音波接合用ツールにおいて、そのチップ部分における被接合材に接する表面部分は、互いに分離形成された複数の平面部と、複数の平面部間に形成される複数の凹部とを有し、複数の平面部10は2μm以下の平面度を有している。
【0008】
このため、本発明の超音波接合用ツールを有する超音波接合装置を用いた超音波接合方法によって、例えば板厚が2mm以下のガラス基板のような薄膜基体の表面上においても支障なく被接合材を接合することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1である基板固定テーブルの上面構造を模式的に示す平面図である。
【図2】実施の形態1の基板固定テーブルのガラス基板搭載予定領域上にガラス基板を実際に搭載した際の超音波接合状況を模式的に示す断面図である。
【図3】実施の形態1の基板固定テーブルのガラス基板搭載予定領域上にガラス基板を搭載した時の状態を模式的に示した平面図である。
【図4】実施の形態1の基板固定テーブルを用いることによる効果を示すグラフである。
【図5】この発明の実施の形態2である基板固定テーブル上にガラス基板を搭載した状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施の形態1>
図1はこの発明の実施の形態1である基板固定テーブルの上面構造を模式的に示す平面図である。同図に示すように、基板固定テーブル5はガラス基板搭載予定領域R3より十分大きな上面領域を有している。
【0011】
ガラス基板搭載予定領域R3は基板固定テーブル5の上部に搭載する、板厚が0.7〜2.0mm程度の薄膜基体であるガラス基板3を搭載する仮想的な平面領域を意味している。また、リード線接合予定領域R2は、ガラス基板搭載予定領域R3上に搭載したガラス基板3上において実際に接合部材であるリード線2を接合する仮想的な平面領域を意味している。
【0012】
基板固定テーブル5はガラス基板搭載予定領域R3の中心領域(第1の吸着領域)に図中横方向に2列に分散してそれぞれ複数個(図1では5個)の吸着パッド31を選択的に設けている。さらに、基板固定テーブル5はリード線接合予定領域R2の近傍の領域(第2の吸着領域)にリード線接合予定領域R2に沿って複数の微細な吸着溝32(吸着孔でも可)が設けられている。
【0013】
図2は基板固定テーブル5のガラス基板搭載予定領域R3上にガラス基板3を実際に搭載し、ガラス基板3のリード線接合予定領域R2上にリード線2を配置した状態における、先端にチップ部分1cを有する超音波接合用ツール1による超音波接合状況を模式的に示す断面図である。なお、図2は図1のA−A断面に相当する。
【0014】
同図に示すように、5mm以上の板厚の基板固定テーブル5上にガラス基板3を搭載し、このガラス基板3の表面上のリード線接合予定領域R2に板厚が0.1〜0.2mm程度のアルミからなる外部引出用のリード線2(被接合材)を配置する。そして、超音波接合用ツール1のチップ部分1cを介してリード線2との接合面に垂直の加圧力を印加し、かつ超音波接合用ツール1を水平方向に超音波振動させて、接合面を大きく変形させる超音波接合動作を実行することにより、リード線2とガラス基板3との接合界面にて、リード線2とガラス基板3とが固相接合される。
【0015】
図1及び図2に示すように、ガラス基板3は選択的に形成した複数の開口部30内に設けた複数の吸着パッド31(第1の固定手段)からの吸着機能により、基板固定テーブル5上で固定される。例えば、ガラス基板3が600×1200mmの平面領域を有し、その表面上にCr(クロム)やMo(モリブデン)を成膜した複合構造である場合、熱処理履歴や熱膨張係数の違いにより5mm程度のソリが生じる可能性がある。
【0016】
しかしながら、複数の吸着パッド31からの吸着機能によりこのソリは精度良く矯正する(基板固定テーブル5に倣わせる)ことができる。
【0017】
加えて、図1及び図2に示すように、リード線接合予定領域R2の近傍に形成される複数の吸着溝32(第2の固定手段)によりガラス基板3の裏面から強固に吸着することにより、チップ部分1cに超音波振動を加えた時のガラス基板3振動を抑制することができる。このため、リード線2の接合面の超音波振動を効率よく接合エネルギーに変えることができ、リード線2をガラス基板3に強固に接合することができる。
【0018】
さらに、複数の吸着パッド31及び複数の吸着溝32による吸着機能により、ガラス基板3と基板固定テーブル5とが一体となった振動特性(共振)を発揮することができるため、ガラス基板3単体が共振することによる、ガラス基板3の破損を効果的に抑制することができる。
【0019】
なお、吸着パッド31に代えて静電吸着手段を用いても良く、吸着溝32に代えて、前述した吸着孔あるいは発泡金属板を用いても良い。
【0020】
図3は基板固定テーブル5のガラス基板搭載予定領域R3上にガラス基板3を搭載した時の状態を模式的に示した平面図である。なお、図3では図示していないが、図1及び図2で示した複数の吸着パッド31及び複数の吸着溝32による第1及び第2の固定手段が基板固定テーブル5に設けられている。
【0021】
ガラス基板3はガラス材料(石英:音響インピーダンス=13.1×106Pa・s/m3)で構成されている。基板固定テーブル5はガラス基板3内の振動が透過波として伝搬可能な音響インピーダンスを有する材質として、ガラス材料と同等の音響インピーダンスを有する材料で構成される。例えば、アルミ(音響インピーダンス=17.3×106Pa・s/m3)や鉄(同49.9×106Pa・s/m3)が基板固定テーブル5の構成材料として用いられる材質特徴を有している。
【0022】
図3に示すように、ガラス基板3の上面領域の大きさはガラス基板3を含み、ガラス基板3のガラス基板搭載予定領域R3上への搭載時におけるガラス基板3の周辺端部から基板固定テーブル5の端部までの最短距離となる余白幅Dtが、ガラス材からなるガラス基板3内部を伝わる平面波長(例えば、超音波振動が20kHzの場合、ガラス内を伝播する平面波長は約500mmとなる)の1/4(125mm)以上の長さに設定されるという上面領域特徴を有している。
【0023】
以下、基板固定テーブル5の上記材質特徴及び上記上面領域特徴に基づく効果について説明する。超音波接合装置による超音波接合用ツール1を用いた超音波接合動作実行時において、超音波振動による入力波はガラス基板3内部に伝わる。この際、従来は、ガラス基板3の端部からの反射波と上記入力波との合成波により、リード線接合予定領域R2上における超音波振動が減衰してしまい、リード線2とガラス基板3との接合強度を弱めてしまう危険性があった。
【0024】
一方、実施の形態1の基板固定テーブル5は上述したように材質特徴を有することにより、上記第1及び第2の固定手段からなる固定搭載手段によってガラス基板3が基板固定テーブル5に固定搭載されている場合、ガラス基板3内の振動が透過波として基板固定テーブル5内に伝搬させることができる。
【0025】
その結果、ガラス基板3の周辺端部での反射波を小さくすることができるという反射波低減効果を発揮させることができる。この反射波低減効果は上述した上面領域特徴によってより顕著に発揮させることができる。
【0026】
図4は実施の形態1の基板固定テーブル5を用いることによる効果を示すグラフである。同図において、位置はガラス基板3の長手方向D1(全長1200mm)の位置(1単位=30mm)とガラス基板3と基板固定テーブル5との間の剥離力(単位gf)との関係を示すグラフである。
【0027】
図4に示すように、ガラス基板3単体で反射波が発生する従来の配置による剥離力L2に比べ、基板固定テーブル5上にガラス基板3を固定搭載した実施の形態1による剥離力L1が優っており、その差は特にガラス基板3の長手方向D1の端部において顕著に表れていることがわかる。
【0028】
このように、実施の形態1の基板固定テーブル5による上述した材質特徴、上面領域特徴、及び第1及び第2の固定手段による固定搭載手段を有することにより、基板固定テーブル5上に安定性良く固定してガラス基板3を搭載することができる。
【0029】
その結果、実施の形態1の基板固定テーブル5を有する超音波接合装置は、リード線2のガラス基板3への超音波接合時において、リード線2の端部の生じる反射波による影響を取り除くことにより、接合強度を弱めることなく、リード線2をガラス基板3の表面上に接合することができる効果を奏する。
【0030】
<実施の形態2>
図5はこの発明の実施の形態2である基板固定テーブル6上にガラス基板3を搭載した状況を示す説明図である。同図の(a) が上面図であり、同図(b) が同図(a) のB−B断面図である。
【0031】
同図に示すように、基板固定テーブル6はテーブル本体6aと、ガラス基板搭載予定領域R3上に搭載されるガラス基板3を上部から固定するための弾性部18、押え板19及びネジ20からなる第3の固定手段とから構成されている。弾性部18はゴム等の弾性体より構成される。なお、図5では図示していないが、図1及び図2で示した複数の吸着パッド31及び複数の吸着溝32による実施の形態1の第1及び第2の固定手段と同等の手段がテーブル本体6aに設けられている。
【0032】
押え板19はガラス基板搭載予定領域R3の長手方向D1の両端部近傍においてガラス基板搭載予定領域R3の短手方向に延びて形成され、外側端部19bがネジ20によってテーブル本体6aに固定されている。押え板19の主要部19aの下面及び内側側面に弾性部18が設けられている。図4の(b) に示すように、ガラス基板3は両端部を弾性部18とテーブル本体6aとによる凹み部分に挿入することにより、弾性部18の端部側面と端部上面に密着させながら押え板19内で安定性良く固定される。
【0033】
このように、実施の形態2の基板固定テーブル6は、固定搭載手段として、実施の形態1の第1及び第2の固定手段に加え、第3の固定手段(弾性部18、押え板19及びネジ20)によってガラス基板3をテーブル本体6a上にさらに強固に固定することにより、リード線2をガラス基板3の表面上への接合強度のより一層の安定化を図ることができる効果を奏する。
【0034】
加えて、弾性部18を構成する弾性体によってガラス基板3端部の振動エネルギーが減衰される結果、反射波の発生を抑制することができる効果を奏する。
【0035】
<その他>
なお、上述した実施の形態では、薄膜基体としてガラス基板3の単体構造を示したが、ガラス基板3の表面上にCr(クロム)やMo(モリブデン)等の導電性金属成膜層やITO、ZnO、SnO等の導電性酸化物層等が積層されたガラス基板3を含む複合構造においても、ガラス基板3単体の場合と同様、本発明を適用することができるのは勿論である。
【0036】
さらに、シリコン基板、セラミック基板等の他の構成材料からなる基板あっても板厚が2mm以下の薄膜であれば、ガラス基板3に代えて、上述した単体構造、複合構造の薄膜基体として本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
5,6 基板固定テーブル、6a テーブル本体、18 弾性部、19 押え板、20 ネジ、31 吸着パッド、32 吸着溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材質からなる薄膜基体の表面上に配置された被接合材に対し、超音波接合用ツールを用いて上方から加圧するとともに超音波振動を印加して、前記薄膜基体の表面上に前記被接合材を接合する超音波接合装置に用いられ、前記薄膜基体を上部に搭載する第2の材質からなる基板固定テーブルであって、
前記基板固定テーブルは、その表面上に前記薄膜基体を固定搭載可能な固定搭載手段を有し、
前記第2の材質は前記薄膜基体を前記固定搭載手段によって固定搭載した時に前記薄膜基体内の振動が透過波として伝搬可能な音響インピーダンスを有する材質を含み、
前記薄膜基体の固定搭載時における前記薄膜基体の外周端部から前記基板固定テーブルの端部までの最短距離が、前記薄膜基体内部を伝わる平面波長の1/4以上の長さに設定されたことを特徴とする、
基板固定テーブル。
【請求項2】
請求項1記載の基板固定テーブルであって、
前記固定搭載手段は、
前記薄膜基体の搭載予定領域内の第1の吸着領域に設けられ、複数の吸着部による吸着作用によって、前記薄膜基体を固定する第1の固定手段と、
前記搭載予定領域において前記第1の吸着領域より外側の前記被接合材を接合する接合予定領域の近傍の第2の吸着領域に設けられた複数の凹部による吸着作用によって、前記薄膜基体を固定する第2の固定手段とを備える、
基板固定テーブル。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2記載の基板固定テーブルであって、
前記固定搭載手段は、
前記搭載予定領域上に前記薄膜基体を搭載した後、前記薄膜基体を弾性体を介して上部から固定可能な第3の固定手段をさらに備える、
基板固定テーブル。
【請求項4】
第1の材質からなる薄膜基体の表面上に配置された被接合材に対し、超音波接合用ツールを用いて上方から加圧するとともに超音波振動を印加して、前記薄膜基体の表面上に前記被接合材を接合する超音波接合装置であって、
前記薄膜基体を上部に搭載する第2の材質からなる基板固定テーブルを備え、
前記基板固定テーブルは請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載の基板固定テーブルを含む、
超音波接合装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5500(P2011−5500A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148379(P2009−148379)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】