説明

基板検査装置

【課題】製造された全ての半導体基板の所定の測定点における少なくとも応力と膜厚とを自動的に測定し、かつ、的確に分析して高性能で生産性よい基板製造工程の確立に寄与する基板検査装置を提供できるようにする。
【解決手段】測定対象ウェハ3を移動可能な試料台4上に搬送する搬送装置と、試料台4上のウェハ3表面の測定点Pを観察する光学顕微鏡10と、その測定点Pに多波長の偏光された光L3を照射してウェハ表面に関する情報を出力するエリプソメータ光学系40と、ウェハ3の測定点Pにレーザ光を照射してウェハ3に関する他の情報を出力するラマン分光光学系20と、それら情報を用いて膜厚・屈折率及び応力・組成などの物理情報を解析し出力するコンピュータ60とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハや液晶パネルなどの基板の検査装置に関し、特に、これら基板の表面に形成された薄膜、あるいは各種パターン化された微細加工部の応力や組成、さらに薄膜の厚みや屈折率を自動測定する基板検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、半導体ウェハなどの基板の品質管理は極めて重要である。特に、半導体ウェハ表面などに形成された薄膜の厚み、屈折率、応力、組成などの物理情報を得て、これが適切な状態になるように管理することにより、この半導体ウェハを用いて形成する半導体デバイスや電子回路を安定のよい性能に維持することが必要である。
【0003】
ところで、半導体デバイスでは、サブ100nm領域において高性能大規模集積回路(LSI)を実現するためにCMOS回路が用いられており、半導体製造において、CMOS回路の高性能化、高速化が極めて重要な要素である。そして、CMOS回路を高性能化、高速化するためには、ゲート長を短くする方法と、キャリア速度を増大させる方法があるが、ゲート長を短くするために回路を微細化すると、ショートチャネル効果が生じるので、回路の微細化には限界がある。
【0004】
そこで、近年はゲート長をそれほど短くせずに高性能化を達成する技術として、通常のシリコンよりはるかに大きなキャリア移動度を有する歪みシリコンを用いる半導体の製造技術が注目されている。これは、格子定数の大きなSiGe層上にシリコン層を形成し、このシリコン層(薄膜)に引っ張り歪みを加えることにより、シリコンバンド構造を変調させてキャリア移動度の向上を実現する技術である。また、短チャネル効果を抑制しつつMOSFETの性能を向上させるために、ゲート酸化膜の薄膜化も行われているがこれにも限界があるので、酸化膜の薄膜化を伴わないMOSFETの高性能化の手段としても歪みシリコン技術が注目されている。
【0005】
したがって、とりわけ近年の半導体ウェハの製造工程においては、薄膜の厚みや応力測定に関する検査を行って品質管理・生産性向上を図ることが必要となりつつある。そして、従来からシリコンなどの半導体材料の応力測定に関してはラマン分光技術が知られている。このラマン分光技術を用いた応力測定は、例えば単結晶シリコンで、応力が作用した場合ラマンスペクトルがシフトすることを利用し、ラマンスペクトルのピーク位置の変化から測定点における応力を推定するものである。
【0006】
下記特許文献1は、半導体デバイス製造工程におけるラマン分光を用いた応力測定を行う応力測定方法および応力測定装置の構成を示している。この特許文献1に示されるような応力測定装置によって製造工程における応力に関する各部の検査を行って、品質管理や生産性向上を行うことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−5471号公報
【特許文献2】特開平9−213652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に示される応力測定装置は、複数枚のウェハ表面を順次自動測定することに対応していないので、製造された全数の半導体ウェハや半導体デバイスなどに対して、その品質評価を十分に行うことはできず、そのため、ウェハの製造工程における工程管理を的確に行うことが難しかった。また、半導体ウェハの製造に関しては、各微細加工部における応力に加えて膜厚を求めて、応力と膜厚の相関関係を知ることも重要であるが、測定対象のウェハに対して応力と膜厚の両方を測定することはできなかった。
【0009】
加えて、半導体デバイスにおいて、トレンチ構造のような厚い酸化膜を埋め込む場合には、その微細加工部の周辺で特に顕著な応力集中が生じやすくなることが考えられる。このために、サブ100nm領域における微細加工部では厚い酸化膜を形成することにより、比較的に薄い酸化膜を形成する場合と同じような応力が作用した場合でも、薄膜と薄膜との界面に発生する応力が大きくなって熱やストレスが発生することがあり、これによってサーマルマイグレーションやストレスマイグレーションなどの不具合の原因となることがある。ゆえに、同じ微小領域における応力と膜厚の関係を求めることがウェハの品質管理において重要であった。
【0010】
また、とりわけ今後の半導体ウェハの開発においては、前記歪みシリコン技術が導入されることが予測されるので半導体ウェハに歪みシリコンを作製する方向にある。このため、歪みシリコンの内部応力と膜厚、さらには下地層であるSiGe膜の組成などの各種物理量を測定して、膜厚と応力の相関関係を分析することがますます重要であり、応力と膜厚の条件を最適に制御するように製造工程を調整し、より高性能な集積回路を製造できるように半導体ウェハの製造を行うことが極めて重要である。このため、歪みシリコン技術を導入した半導体ウェハの製品化に際しては、製造された全数のウェハの検査工程が必要となると考えられるが、応力測定さらには膜厚測定を簡便に行える基板検査装置が存在しなかった。
【0011】
上記特許文献2に記載のレーザアニール装置では、ラマン分光光度計およびエリプソメータを搭載し、レーザアニール直後の結晶性珪素膜の構造・屈折率を測定することを可能としているが、このレーザアニール装置では、ラマン・エリプソメータ光学系の測定点が異なるために、特定の微小領域における各種物理情報を一挙に得ることができなかった。また、特許文献2の装置は、製造工程の装置に組み込まれているために検査装置としての用途には適用が困難であった。
【0012】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであって、製造された全半導体基板の表面のうち所定の測定点において、少なくとも薄膜の厚みと内部応力を順次自動的に測定して、各基板の品質管理を厳重に行い、不具合の要因となるものを確実に見分けて生産性を向上させると共に、膜厚と応力との相関関係を的確に分析して、より高性能な半導体基板を製造するために必要な製造工程を確立することができる基板検査装置を提供することを主たる目的とし、他の目的は、上記目的に加えて、半導体基板の内部応力・屈折率・組成等の物理量の膜厚方向での分布も簡単に測定でき、また、周囲環境温度の変化に影響されることなく、物理量を正確に測定できて、検査精度の一層の向上を達成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記主たる目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の基板検査装置は、移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、その測定点に多波長の偏光された光を照射して測定対象試料に関する情報を出力するエリプソメータ光学系と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における膜厚または屈折率に加えて応力または組成を解析して出力する演算処理装置とを有することを特徴としている。
【0014】
また、上記他の目的を達成するために、本発明の請求項2に記載の基板検査装置は、移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、その測定点に多波長の偏光された光を照射して測定対象試料に関する情報を出力するエリプソメータ光学系と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における膜厚または屈折率に加えて応力または組成を解析して出力する演算処理装置とを有し、前記ラマン分光光学系には、波長の異なる複数のレーザ光源及びこれら複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に照射するレーザ光を選択的に自動切替え可能なレーザ光選択装置が設けられていることを特徴としている。
【0015】
本発明の請求項1または請求項2に記載の基板検査装置において、試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料が設置され、この校正用試料をエリプソメータ光学系及びラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、エリプソメータ光学系及びラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能としていることが望ましい(請求項3)。
【0016】
本発明の請求項1〜請求項3のいずれかに記載の基板検査装置において、光学顕微鏡によって観察した像を用いてその焦点の位置を確認しながら、試料台の高さ方向の位置調整を行った後に、エリプソメータ光学系およびラマン分光光学系を用いて測定を行うように構成してもよい(請求項4)。
【0017】
本発明の請求項1〜請求項4のいずれかに記載の基板検査装置において、演算処理装置が、測定対象試料の測定点の位置を示す座標と、ラマン分光光学系およびエリプソメータ光学系に用いる光の波長域、検出時の積算時間、および、用いる検量線の情報を含む測定条件と、検査結果の出力パターンを示す検査結果出力条件とからなる検査レシピデータを有し、この検査レシピデータに従って複数の測定対象試料に対して同じ検査を順次行う自動検査機能を有していてもよい(請求項5)。
【0018】
本発明の請求項5に記載の基板検査装置において、演算処理装置が、検査レシピデータの測定点の位置を示すデータとして、測定対象試料における測定点の光学顕微鏡によって観察した像からなる認識イメージを有し、測定対象試料の表面を光学顕微鏡によって観察した像と前記認識イメージとを比較することにより、試料台を平面方向に移動させて測定点の平面位置の調整を行った後に、エリプソメータ光学系およびラマン分光光学系を用いて測定を行ってもよい(請求項6)。
【0019】
また、本発明の請求項7に記載の基板検査装置は、移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象試料に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における応力あるいは歪みを解析して出力する演算処理装置とを有することを特徴としている。
【0020】
さらに、本発明の請求項8に記載の基板検査装置は、移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象試料に関する情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における応力あるいは歪みを解析して出力する演算処理装置とを有し、前記ラマン分光光学系には、波長の異なる複数のレーザ光源及びこれら複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に照射するレーザ光を選択的に自動切替え可能なレーザ光選択装置が設けられていることを特徴としている。
【0021】
本発明の請求項7または請求項8に記載の基板検査装置において、試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料が設置され、この校正用試料をラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、ラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能としていることが望ましい(請求項9)。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載の発明では、測定対象試料の表面の微小領域において、例えば薄膜の膜厚をエリプソメータ光学系を用いて高精度に測定できると共に、同じ微小領域における応力をラマン分光光学系を用いて精度良く測定することができる。つまり、同一の微小領域における薄膜の膜厚と応力の両方を高精度に測定して、これらを同時に表示するなど出力することにより、応力の膜厚依存性を把握して、必要とする膜厚の薄膜を形成した状態で応力の集中が発生しないような半導体基板を製造するために、その製造工程を適宜調整することができる。また、光学顕微鏡を備えて測定点を観察可能に構成されているので、操作者は測定対象試料の表面の状態を観察によって確認でき、操作が容易となる。
【0023】
とりわけ、ラマン分光光学系は微小領域にかかる応力や組成を高精度に測定するのに適しており、エリプソメータ光学系は微小領域における膜厚や屈折率を高精度に測定するのに適している。したがって、半導体基板において、その性能や耐久性を最適なものにして製造するために重要な物理量である応力と膜厚の測定には、ラマン分光光学系とエリプソメータ光学系の組み合わせが最適である。特に、近年は半導体基板の製造に歪みシリコン技術が採り入れられているので、ラマン分光光学系とエリプソメータ光学系が同じ微小領域にかかる応力と膜厚の相関関係を測定できることが、この分野における技術の進歩や生産性の向上に大いに貢献するものとなる。
【0024】
さらに、製造された全ての半導体基板を一枚ずつ取出して、その表面における応力や膜厚の測定値を順次得ることができるので、半導体基板の全数検査への適用が可能となり、製品管理を綿密に行って製造された半導体基板に対する信頼性が向上する。また、不良が発生すると測定結果から原因を究明しやすくなるので、その生産性を向上することも可能である。
【0025】
請求項2に記載の発明では、ラマン分光光学系とエリプソメータ光学系との組み合わせによって半導体基板の性能や耐久性を最適なものとして製造するために重要な物理量である応力及び膜厚の情報を同時に得て同じ微小領域での相関関係を測定できるといった効果に加えて、ラマン分光光学系による応力や組成の測定に際して、複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に波長の異なるレーザ光を選択的かつ自動的に切替え照射させることにより、測定対象試料の応力や組成の深さ方向(膜厚方向)での分布を簡単に測定することができ、これによって、近年の半導体基板の製造に多く採用されている歪みシリコンを用いた半導体基板を測定対象とする場合であっても、その歪みシリコンの内部応力、さらには下地層であるSiGe膜の組成などの各種物理量を確実に測定して、一層高精度な基板検査を行うことができる。
【0026】
特に、試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料を設置し、この校正用試料をエリプソメータ光学系及びラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、エリプソメータ光学系及びラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能とする場合(請求項3)には、周囲環境温度の変動に起因して、例えば光学部品の歪みにより波長ずれが発生するとか、光学フィルタの劣化などの光学系の変動や、測定対象試料自体の温度影響によるラマンスペクトルのピークシフトのずれが生じたとしても、それを校正用試料の測定で得られる情報をもとに校正することが可能であり、環境温度の変動にかかわらず、各種物理量を正確に測定し基板検査精度の一層の向上を図ることができる。
【0027】
また、光学顕微鏡によって観察した像あるいは測定対象試料にレーザ光を照射した際に得られる光の強度を用いてその焦点の位置を確認しながら、試料台の高さ方向の位置調整を行った後に、エリプソメータ光学系及びラマン分光光学系を用いて測定を行う場合(請求項4)には、測定対象試料に反りが生じている場合にも、試料台の高さ方向の位置調整によってエリプソメータ光学系およびラマン分光光学系が前記測定点に確実に焦点を合わせることができ、この測定点における膜厚や屈折率を高精度に分析することができる。
【0028】
また、演算処理装置が、測定対象試料における測定点の位置を示す座標と、ラマン分光光学系及びエリプソメータ光学系に用いる光の波長域、検出時の積算時間、および、用いる検量線の情報を含む測定条件と、検査結果の出力パターンを示す検査結果出力条件とからなる検査レシピデータを有し、この検査レシピデータに従って複数の測定対象試料に対して同じ検査を順次行う自動検査機能を有する場合(請求項5)には、全ての測定対象試料に対して検査レシピデータを用いて設定した検査内容に応じた共通の検査を順次自動的に実施できる。また、検査レシピデータを変更することにより検査内容を容易に変更することもできる。
【0029】
さらに、演算処理装置が、検査レシピデータの測定点の位置を示すデータとして、測定対象試料における測定点の光学顕微鏡によって観察した像からなる認識イメージを有し、測定対象の表面を光学顕微鏡によって観察した像と前記認識イメージとを比較することにより、試料台を平面方向に移動させて測定点の平面位置の調整を行った後に、エリプソメータ光学系およびラマン分光光学系を用いて測定を行う場合(請求項6)には、測定対象試料に既に電子回路が形成された状態で、特定の回路パターンの部分に相当する測定点の物理情報を自動検査することができる。つまり、特定の回路パターンの部分に相当する測定点が、十分の性能を得ることができる状態であるかどうかを、測定点における膜厚や応力の測定値から予め判断することが可能となる。
【0030】
請求項7に記載の発明では、測定対象試料の表面の微小領域において、例えば微小領域における応力をラマン分光光学系を用いて精度良く測定することができる。つまり、適正な強さの応力をかけた薄膜を形成する半導体基板を製造するために、その製造工程を適宜調整することができる。また、光学顕微鏡を備えて測定点を観察可能に構成されているので、操作者は測定対象の表面の状態を観察によって確認でき、操作が容易となる。
【0031】
請求項8に記載の発明では、測定対象試料の微小領域における応力を精度よく測定可能で、適正強さの応力をかけた薄膜を形成するための半導体基板の製造工程を適正に調整することができるという効果に加えて、ラマン分光光学系による応力や組成の測定に際して、複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に波長の異なるレーザ光を選択的かつ自動的に切替え照射させることにより、測定対象試料の応力や組成の深さ方向(膜厚方向)での分布を簡単に測定することができ、これによって、近年の半導体基板の製造に多く採用されている歪みシリコンを用いた半導体基板を測定対象とする場合であっても、その歪みシリコンの内部応力、さらには下地層であるSiGe膜の組成などの各種物理量を確実に測定して、一層高精度な基板検査を行うことができる。
【0032】
特に、試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料を設置し、この校正用試料をラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、ラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能とする場合(請求項9)には、周囲環境温度の変動に起因して、例えば光学部品の歪みにより波長ずれが発生するとか、光学フィルタの劣化などの光学系の変動や、測定対象試料自体の温度影響によるラマンスペクトルのピークシフトのずれが生じたとしても、それを校正用試料の測定で得られる情報をもとに校正することが可能で、環境温度の変動にかかわらず、各種物理量をより正確に測定し、基板検査精度の一層の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施例に係る基板検査装置の全体構成を概略的に示す平面図である。
【図2】第1実施例に係る基板検査装置の要部の構成を示す図である。
【図3】第1実施例に係る基板検査装置の測定点の一例を説明する図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る基板検査装置の要部の構成を示す図である。
【図5】測定対象基板の一例である歪みシリコン基板の断面構造図である。
【図6】歪みシリコン基板のラマンスペククトル測定時における波長とスペクトル強度との関係を示す図である。
【図7】第2実施例に係る基板検査装置による校正用試料の測定状態を示す要部の構成図である。
【図8】本発明の第3実施例に係る基板検査装置の要部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、本発明の第1実施例に係る基板検査装置1の全体構成を概略的に示す平面図、図2は、その基板検査装置1の主要部の構成を示す図である。図1において、2Aはラマン分光光学系・エリプソメータ光学系を搭載した基板検査装置1の測定室、2Bはこの測定室2Aに隣接する搬送装置、3は例えば格子定数の大きなSiGe層上にシリコン層の薄膜を形成してなる歪みシリコン技術を応用して形成されたシリコンウェハなどの基板(測定対象試料であり、以下、ウェハと称する。)、4は水平方向(X,Y方向)に加えて高さ方向(Z方向)の三次元方向に移動可能に構成された試料台、5はこの試料台4の駆動部である。
【0035】
また、図1において、6はウェハ3をつかんで試料台4上に搬送する機能を有するロボットアームであり、7は複数枚のウェハ3を所定の間隔をおいて縦方向に積層して収納するケース、8はこのケース7を載置するケース台である。ロボットアーム6を用いることにより、例えば縦方向に積層して収納されたウェハ3を順に1枚ずつ取出して試料台4上に搬送し、検査後のウェハ3を再び元の場所に戻すことが可能である。しかしながら、この第1実施例のように2つのケース7を並べて配置する場合には、一方のケース7から取出して検査を行ったウェハ3を他方のケース7に順に収納することもできる。
【0036】
図2において、10はウェハ3の表面を観察する光学顕微鏡であり、この光学顕微鏡10は、ウェハ3の表面に対してほぼ直角な光軸L1 上に配置されたCCDカメラ11と、この光軸L1 上に配置された集光レンズ12と、ビームスプリッタ(ハーフミラー)13と、対物レンズ14と、ハーフミラー13を介してウェハ3に白色光を照射する白色光源15と、シャッタ16とコリメータレンズ17とを有している。また、18は光軸L1 上に設けられる可動式のミラーであって、このミラー18を図2の仮想線で示す位置に移動させることにより、光学顕微鏡10を用いてウェハ3の表面における微小領域の測定点Pを観察することができるように構成されている。なお、白色光源15、シャッタ16、コリメータレンズ17は光軸L1 と直交する光軸上に設けられている。
【0037】
20はミラー18を図2において実線で示す位置に移動させることにより光学顕微鏡10と同じ光軸L1 を用いてウェハ3にレーザ光を照射してラマン光を検出するラマン分光光学系である。このラマン分光光学系20は、ミラー18によって光軸L1 と直交方向になるように反射される光軸L2 上に配置された分光器21と、分光されたラマン光を検出する検出器22と、分光器21に入射するラマン光を調整するための集光レンズ23と、ピンホール24と、コリメータレンズ25と、集光レンズ26と、ラマン分析のレイリー光のみを反射するノッチフィルタ27とこのノッチフィルタ27を用いてレーザ光を照射するためのレーザ光源28と、シャッタ29と、集光レンズ30と、ラマン光を励起させるレーザ光以外の波長の光を除去するための光学フィルタ31と、前記光軸L2 上のノッチフィルタ27の後方において5〜10%の光を反射するビームスプリッタ32と、集光レンズ33と、焦点検出用の検出器34とを有している。
【0038】
なお、前記ラマン分光光学系20は、前記対物レンズ14を光学顕微鏡10と共通で使用するように構成されている。また、レーザ光源28、シャッタ29、集光レンズ30、光学フィルタ31は光軸L2 と直交する光軸上に設けられている。同様に、ビームスプリッタ32と、集光レンズ33と検出器34も光軸L2 と直交する別の光軸上に設けられている。
【0039】
40は光学顕微鏡10の焦点が合っているウェハ3上の測定点Pに多波長の偏光された光L3を照射して前記測定点Pにおける物理情報を出力するために配置されたエリプソメータ光学系である。このエリプソメータ光学系40は、試料台4上のウェハ3の表面に対して一方の側の斜め上方向から偏光された光L3 を照射する入射光学系41と、試料台4上の他方の側の表面に対して斜め上方向に設けられた検出光学系42と、分光器43と、検出器44とを有している。
【0040】
そして、入射光学系41は、例えば190〜830nmの広い波長領域の光を発する例えばキセノンランプからなる白色光源45と、シャッタ46と、白色光源45から発せられる光を絞るためのスリット47と、ビーム縮小光学系48と、偏光子49とから構成される。なお、ビーム縮小光学系48は例えば2枚の凹面鏡48a,48bからなる。
【0041】
他方、検出光学系42は、ウェハ3の表面の測定点Pに偏光された光L3 を照射したときに反射した偏光L4 の変化量を例えば分光器43に出力するもので、位相変調素子50と、検光子51と、2つの凹面鏡52a,52bからなるビーム縮小光学系52と、分光器43への信号取出し用の光ファイバ53を備えると共に、ビーム縮小光学系52と光ファイバ53との間にピンホール部54が設けられている。
【0042】
前記ピンホール部54は、例えばステッピングモータ55の回転軸55aに取り付けられた円板56の同一円周上に複数の互いにサイズ(径)の異なるピンホール57を適宜の間隔をおいて開設してなるものである。したがって、図2に示しているように、いずれかのピンホール57がビーム縮小光学系52と光ファイバ53を結ぶ光路上に位置しているときにのみ、ビーム縮小光学系52を出射した光がピンホール57を介して光ファイバ53に入射する。
【0043】
60は搬送装置2B、試料台4の駆動部5、光学顕微鏡10、ラマン分光光学系20、エリプソメータ光学系40に加えて可動ミラー18の駆動部(図示していない)などに接続されて基板検査装置1の全体を制御する演算処理装置(以下、コンピュータという)である。そして、このコンピュータ60内には、例えば、前記搬送装置2B,駆動部5,光学顕微鏡10,ラマン分光光学系20,エリプソメータ光学系40等を制御することにより、ケース7内に収納された複数のウェハ3の中から順次一枚ずつウェハ3を取出して試料台4上に乗せた状態で、各ウェハ3に対して一連の検査を実行し、検査済のウェハ3を再びケース7内に収納する検査シーケンスの動作を示す制御プログラムPaと、検査結果を演算処理して図示していない画面に表示したり媒体に記録する動作を示す検査結果出力プログラムPbと、各ウェハ3に対する測定条件や検査結果出力条件などを記録してなる検査レシピデータD1 と、検査結果の保存データD2 とが記録されている。
【0044】
前記検査レシピデータD1 は、測定点データDaと、測定条件データDbと、出力条件データDcとからなる。この測定点データDaは、例えば各ウェハ3の表面において例えば等間隔に数点〜十数点の測定点P1 〜Pn (図2に示す状態での測定点Pを含む)を設定し、各測定点P,P1 〜Pn の位置を示す座標を記録してなるものであり、図2に示す例では2次元方向に等間隔にn個の測定点P1 〜Pn を定めている。
【0045】
前記測定条件データDbは、例えば、光学顕微鏡10とラマン分光光学系20およびエリプソメータ光学系40に用いる光の波長域Db1 と、各検出器22,44によって光の検出するときの積算時間を示す積算時間Db2 と、検出器22,44によって検出された各波長の光の強度やスペクトルのずれ量から薄膜の応力や組成および薄膜の膜厚や屈折率を求める際に用いる各種検量線Db3 とを示す情報を含むデータである。
【0046】
また、出力条件データDcは例えば検査結果として得られる物理量のうち出力するべき物理量として応力や膜厚などを選択すると共に、応力と膜厚の相関関係の表わし方などを指定して出力レイアウトを定める出力パターンDc1 を示している。出力パターンDc1には、各物理量の上限および下限を定めて、この範囲を超えるものを不良として出力するという設定や、各物理量のばらつきなどの統計を複数の測定点P1 〜Pn 毎や各ウェハ毎に出力するという設定などが考えられる。
【0047】
さらに、前記応力と膜厚の相関関係は、例えば応力および膜厚の測定値からキャリアの移動度の推定値を導き出すための関数などによって表わすことなどが考えられる。なお、この相関関係を示す関数は、予め複数のサンプルとなるウェハ3を用いて応力と膜厚を実測し、CMOS回路を形成した後にこのCMOS回路の特性を実測して計算したキャリア移動度を基に求めることが可能である。また、この関数は出力条件データDcに含まれる情報であるから、実測値に従って随時更新することも可能である。
【0048】
したがって、前記制御プログラムPaは、検査レシピデータD1 に含まれる測定点データDaと、測定条件データDbとを参照することにより、各ウェハ3に対して同じ基準に従った検査を実行する。また、検査結果出力プログラムPbは検査レシピデータD1 に含まれる出力条件データDcを参照することにより、各ウェハ3の表面の各測定点P1 〜Pnを検査して得られた各物理量の測定値を検査結果出力条件データDcの出力パターンDc1として予め定められた出力レイアウトで画面(図示していない)などを用いて表示したり、検査結果の保存データD2 として記録する。
【0049】
以下、前記制御プログラムPaの動作による各部の動作を説明する。作業者が、図1に示すように、複数のウェハ3が格納されたケース7をケース台8に設置して、基板検査装置1を動作させると、コンピュータ60からの制御によって搬送装置2Bのロボットアーム6がケース7からウェハ3を一枚取出して、これを試料台4に配置する。
【0050】
次いで、ウェハ3を水平な状態に保持し、駆動部5をコンピュータ60によって制御することにより、光学顕微鏡10の焦点が前記測定点データDaに示される複数の測定点P1 〜Pn のうちの一つの測定点Pに合うように、ウェハ3の位置をZ方向(高さ方向)およびX−Y方向(水平方向)に移動する。また、ウェハ3の反りによって測定点Pに高さ方向のずれが生じることも考えられるので、最終的な位置決めは光学顕微鏡10またはラマン分光光学系20によってウェハ3の表面の像を観察しながら、駆動部5をZ方向に移動させることにより行う。
【0051】
すなわち、光学顕微鏡10を用いてZ方向の位置決め行なう場合、コンピュータ60は、ラマン分光光学系20とエリプソメータ光学系40のシャッタ29,46を閉じ、反射鏡18を仮想線で示す位置に退避させた状態で、光学顕微鏡10のシャッタ16のみを開き、白色光源15からの光がハーフミラー13によって反射され対物レンズ14を介してウェハ3の表面を照らす。そして、ウェハ3の表面からの光が対物レンズ14とハーフミラー13を透過し、集光レンズ12によってCCDカメラ11に入射することにより、コンピュータ60は対物レンズ14の焦点位置における像を得ることができる。そして、コンピュータ60は、光学顕微鏡10によって得られた像の焦点がずれている場合に、駆動部5をZ方向(上下方向)に適宜移動させて焦点位置を合わせるように制御する。
【0052】
なお、エリプソメータ光学系40の光軸や焦点は、ウェハ3の表面において光学顕微鏡10の焦点と同一となるように予め調整されている。したがって、前記位置合わせ動作によって光学顕微鏡10の焦点が微調整されると、これによってエリプソメータ光学系40は光学顕微鏡10と同じ測定点Pに偏光された光L3 を照射して、この測定点Pにおける物理情報を得ることができる状態になる。
【0053】
また、ウェハ3の表面に光学顕微鏡10によって確認できるような像(パターン)が得られない場合、コンピュータ60は、光学顕微鏡10とエリプソメータ光学系40のシャッタ16,46を閉じ、反射鏡18を実線で示す位置に配置した状態で、ラマン分光光学系20のシャッタ29のみを開き、レーザ光源28からのレーザ光が反射光18によって反射され対物レンズ14を介してウェハ3の表面に照射される。これによって、ウェハ3の表面からのラマン光が対物レンズ14と反射鏡18、ビームスプリッタ32によって反射されて検出器34に入射するので、コンピュータ60はウェハ3の表面にレーザ光を照射した際に得られる光の強度を用いて、対物レンズ14の焦点位置を定めることが可能である。
【0054】
なお、ラマン分光光学系20と光学顕微鏡10で測定する光の波長が大きく異なる場合には、ラマン分光光学系20と光学顕微鏡10の焦点はZ方向のみ僅かにずれることが考えられる。そこで、コンピュータ60は、上述の測定条件データDbによって予め定められている用いる光の波長域Db1 からラマン分光光学系20の焦点位置のずれ量を求めることができるので、ラマン分光光学系20を用いた測定を行なう場合と、光学顕微鏡10およびエリプソメータ光学系を用いた測定を行なう場合で、試料台4をZ方向へ移動させてその焦点位置の補正を行なうことが可能である。
【0055】
次に、コンピュータ60はエリプソメータ光学系40を用いて、ウェハ3表面の薄膜の膜厚を測定する。すなわち、コンピュータ60は、光学顕微鏡10とラマン分光光学系20のシャッタ16,29を閉じた状態で、エリプソメータ光学系40のシャッタ46のみを開き、入射光学系41から偏光された光L3 がウェハ3の表面を照らすように制御する。そして、ウェハ3表面の薄膜によって反射した偏光L4 が検出光学系42を介して分光器43に入射され、分光された偏光L5 のスペクトル強度を検出器44によって検出できる。このとき検出器44は前記測定条件データDbに含まれる積算時間Db2 によって定められている。そして、コンピュータ60は検出器44から得られたスペクトル強度を解析して、ウェハ3の表面におけるシリコン薄膜の膜厚を求めることができる。なお、エリプソメータ光学系40を用いて求められる物理量は膜厚のみならず屈折率であってもよい。
【0056】
続いて、コンピュータ60はラマン分光光学系20を用いて、ウェハ3表面の薄膜における応力の大きさを測定する。ラマン分光光学系20は光学顕微鏡10と同じ光軸L1 上に配置されているので、そのXY方向の位置は確実に光学顕微鏡10と同じである。なお、ラマン分光光学系20と光学顕微鏡10で測定する光の波長が大きく異なる場合には、この時点でラマン分光光学系20と光学顕微鏡10の焦点のZ方向のずれを補正する必要がある。
【0057】
そして、コンピュータ60は、光学顕微鏡10とエリプソメータ光学系40のシャッタ16,46を閉じ、反射鏡18を実線に示す位置に移動させた状態で、ラマン分光光学系20のシャッタ29のみを開き、レーザ光源28からのレーザ光がノッチフィルタ27、反射鏡18によって反射され対物レンズ14を介してウェハ3の表面に照射されるように制御する。そして、ウェハ3表面によって生じた光は対物レンズ14と反射鏡18によって光軸L2 上に導かれ、レイリー光を除くラマン散乱光はノッチフィルタ27を透過し、各種光学系23〜26を介して分光器21に入射する。そして、分光器21によって分光されたラマン散乱光のスペクトル強度を検出器22によって検出することができる。
【0058】
なお、このとき検出器22は前記測定条件データDbに含まれる積算時間Db2 によって定められている。そして、コンピュータ60は検出器22から得られたスペクトル強度を解析して、予め格納されているラマンスペクトルと応力の関係から、ウェハ3表面の測定点Pにおける応力や組成などの物理量を求めることができる。
【0059】
上述のように、本基板検査装置1では、2つの分光分析用の光源28,45、および1つの光学顕微鏡用の光源15があるが、それぞれの光出射部にシャッタ16,29,46を設けており、測定時に他のシャッタを閉じているので、別の光学系の光源からの光が測定結果に悪影響を及ぼさないようにすることができる。
【0060】
次いで、ラマン分光光学系20とエリプソメータ光学系40を用いて求められた物理量は検査結果出力プログラムPbによって定められた動作にしたがって出力される。すなわち、各ウェハ3の表面の各測定点P1 〜Pn を検査して得られた各物理量の測定値を検査結果出力条件データDcの出力パターンDc1 として予め定められた出力レイアウトで画面表示したり、検査結果の保存データD2 として記録する。また、前記出力パターンDc1として各物理量に上限や下限を定められている場合には、この範囲を超えるウェハ3が生じたときに、警告アラームなどを出力して作業者に異常を知らせることも可能である。
【0061】
上述の例では、測定点データDaに2次元方向に点在するn個の測定点P1 〜Pn の例を挙げており、これによってウェハ3のほぼ全面における各物理量の大まかな分布を知ることが可能であり、かつ、検査にかかる時間を短くすることができる。しかしながら、本発明はこの点に限定されるものではなく、測定点データDaに測定対象領域を定めてもよい。この場合、駆動部5を所定の間隔で移動させることにより、ウェハ3表面の応力・膜厚のマッピングを行うことができる。
【0062】
なお、上記第1実施例では、エリプソメータ光学系40の分光器43への光入射方法として、光ファイバ53を用いているが、これはラマン分光光学系20にも適用可能である。逆に、エリプソメータ用分光器43への光入射方法として光ファイバ53を用いず直接ピンホール57から分光器43へ光を入射させることも可能である。
【0063】
また、上述の第1実施例では、ラマン分光光学系20によるラマンス分光ペクトルの解析から得られる情報として応力を挙げて説明しているが、本発明はこの点に限定されるものではない。すなわち、コンピュータ60にラマン分光スペクトルのズレ量や強度に対する基板の構造・組成、あるいは電気的性質などの物理量の大きさに関する情報を格納することにより、ラマン分光光学系20を応力のみならず構造・組成、あるいは電気的性質などの物理量の測定に用いることも可能である。
【0064】
また、ウェハ3に電子回路が形成されている場合など、微細加工形状が施されている場合には、測定点データDaには、各測定点P1 〜Pn の座標のみならず、正確な測定点Pを特定するための認識イメージを記録させることも可能である。
【0065】
図3は、微細加工形状が施されている基板の表面の特定の位置を測定点として定める例を示す図である。図3において、Iは光学顕微鏡10を用いて観察した回路パターンが形成されているウェハ3表面の像(認識イメージ)であり、この認識イメージIを各測定点P1 〜Pn 毎に測定点データDaとしてコンピュータ60に記憶する。
【0066】
前記認識イメージIは、各測定点P1 〜Pn を設定するために1枚目のウェハ3の表面を観察したときの像を用いて測定点P1 〜Pn 毎に定められるものである。つまり、測定点P1 〜Pn を設定するときは、光学顕微鏡10を用いてウェハ3の表面を観察し、これをコンピュータ60の画面などに表示する。次いで、操作者がこの画面を見ながら測定点P1 〜Pn を調整するように、コンピュータ60を用いて駆動部5を操作する。そして、操作者が測定点P1 〜Pn を定めると、コンピュータ60はこの測定点P1 〜Pn の座標と光学顕微鏡10によって撮像された像を測定点データDaとして保存する。
【0067】
次に、同じ回路パターンが形成された2枚目以降のウェハ3を検査する場合には、コンピュータ60により前記搬送装置2Bがウェハ3を試料台4に載置し、測定点データDaとして保存されている各測定点P1 〜Pn の座標の中から順次一つの測定点Pを選択して、その座標に合わせて駆動部5を制御した後に、光学顕微鏡10を用いて観察した像を測定点データDaとして保存されている認識イメージIと比較して、駆動部5を制御することにより、測定点Pの微調整を行うことができる。
【0068】
上記第1実施例のように、各測定点P1 〜Pn において光学顕微鏡10を用いて観察した像を識別イメージIとして記録することにより、試料台4上のウェハ3の位置がずれることがあっても、前記制御プログラムPaは測定時に形成された回路パターンの所定の部分を測定点Pとして確定して、この部分の応力と膜厚の関係を的確に測定することができる。つまり、回路パターンを形成することによって生じた部分的な応力の発生状況やこの応力が発生している部分における膜厚などを総合的に測定することができるので、要部となる部分に焦点を合わせてウェハ3の検査を行うことができ、それだけ検査の信頼性が向上する。
【0069】
図4は、本発明の第2実施例に係る基板検査装置1Aの主要部の構成を示す図である。この第2実施例の基板検査装置1Aは、ラマン分光光学系20に、ラマン分光測定用の励起光源として、波長の異なる複数のレーザ光源28a,28b,28c,…,28nを設置している。具体的には、波長514nm,488nm,310nm,…,等に設定されたArレーザ28a,28b,28c,…,と、波長325nmといった紫外光に設定されたHe−Cdイオンレーザ28nとが用いられており、これらレーザ光源28a,28b,28c,…,28nの発振部に対向する位置に、それら波長の異なるレーザ光の一つを選択し、その選択されたレーザ光を測定対象のウェハ3に導くための位置移動式光路切替え用ミラー61a,61b,61c,…,61nが設置されている。
【0070】
また、ラマン分光光学系20には、分光器21に入射するラマン光を調整するための集光レンズ23、ピンホール24、コリメータレンズ25、集光された光を分光器21へ導くための集光レンズ26の他に、複数のレーザ光源28a,28b,28c,…,28nのうち選択されたレーザ光から出射される励起光以外の波長の光をカットする光学フィルタ(バンドパスフィルタ)62aが取り付けられステッピングモータ63により回転される円板62と、集光レンズ64と、レーザ光を遮断するレーザ光用シャッタ65と、レーザ光をコリメート光にするコリメータレンズ66と、レーザ光をウェハ3に導き、その後レイリー光をカットする光学フィルタ67aが取り付けられステッピングモータ68により回転される円板67とよりなり、ウェハ3の測定点Pに照射するレーザ光を選択的に自動切替え可能なレーザ光選択装置が設けられている。
【0071】
また、ラマン分光分析では、波長が325nmの紫外光を励起光として用いることがあるので、集光レンズ12によってCCDカメラ11に入射される光により得られる像によるオートフォーカス機構では焦点が異なることがある点を考慮して、光学顕微鏡10と同じ光軸L1 上に配置したビームスプリッタ69及び集光レンズ70を通してレイリー光強度を検出し、その検出レイリー光強度の値が最大値となるように試料台4の駆動部5をZ方向(上下方向)に移動制御することにより、焦点位置を合わせるための焦点検出用の検出器71が設けられている。
【0072】
さらに、この第2実施例に係る基板検査装置1Aでは、測定対象のウェハ3に近接する試料台4の周辺近傍位置にデータ校正用試料72が設置されている。このデータ校正用試料72としては、エリプソメータ用にはNISTサンプルなど予め膜厚や屈折率が既知のもの、また、ラマン分光用には膜のない単結晶シリコンあるいは予め応力・組成が既知の歪みシリコンを数10mm角にカットしたものの1つもしくは複数(図面上では4つ配置しているもので示す)を用いることが望ましいが、その設置数や種別は任意に選択可能である。
【0073】
なお、第2実施例に係る基板検査装置1Aにおけるその他の構成は、第1実施例で説明したものと同一であるため、該当部分、該当部位にそれぞれ同一の符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。
【0074】
上記した第2実施例に係る基板検査装置1Aによれば、エリプソメータ光学系40による膜厚や屈折率とラマン分光光学系20による同じ微小領域における応力や組成の両方を共に高精度に測定し、それらを同時に表示するなど出力することができるといった第1実施例に係る基板検査装置1と同様な効果を奏するほかに、ラマン分光光学系20による応力や組成の測定に際して、それらの深さ方向分布も簡単に測定することが可能である。
【0075】
例えば、図5に示すように、表面から順に数nm〜数10nmの歪みシリコン層3a、数10nm〜数100nmのSiGe層3b、単結晶シリコン基板3cを積層して形成されたシリコンウェハ3を測定対象とする場合において、侵入深さが760nmと大きい波長(λ=514nm)のArレーザ28aを選択して測定点Pにレーザ光を照射することにより、図6に示すように、SiGe層3b中のSi−Siバンドに起因するラマンスペクトルが大きな強度で検出することが可能である反面、最上層の歪みシリコン層3a中のSi−Siバンドのラマンスペクトルは単結晶シリコン基板3cのSi−Siバンドのラマンスペクトルの影響を受けて検出が困難になる。
【0076】
そこで、レーザ光選択装置により侵入深さが10nm程度の波長(λ=325nm)のHe−Cdイオンレーザ28nを選択して紫外光を測定点Pに照射することにより、最上層の歪みシリコン層3aのラマンスペクトルのみを測定することが可能となる。なお、この場合、極端に侵入深さが小さいレーザ光を用いると、SiGe層3bまで励起光が到達せず、SiGe層3bのラマンスペクトルを測定することが不可能となることがあるので、最上層3aの厚さにもよるが、比較的基板3cの影響が出にくくて、SiGe層3bに到達する波長のレーザ光を選択する必要がある。
【0077】
このように測定対象基板の積層構造や最上層の歪みシリコン層3aの厚さ等に応じて、波長の異なるレーザ光を選択的かつ自動的に切替え照射させることにより、測定対象ウェハ3の応力や組成の深さ方向(膜厚方向)での分布を簡単かつ基板3cの影響を受けることが少ない状態で確実にスペクトルを検出することができ、これによって、近年の半導体基板の製造に多く採用されている歪みシリコンを用いた半導体基板を測定対象とする場合であっても、その歪みシリコン層3aの内部応力、さらには下地層であるSiGe層3bの組成などの各種物理量を確実に測定して高精度な基板検査を行うことができる。
【0078】
また、半導体製造ラインに組み込んで用いられる基板検査装置においては、長期的に安定よい測定結果が得られるといった再現性が求められる。特に、シリコン系材料のラマン分光による応力測定に関しては、0.01/cm程度の高精度測定が求められるが、長期間に亘りそのような高精度測定の再現性を維持するためには、測定対象試料(ウェハ)の温度コントロール、周囲環境温度の変動に伴う光学系の変動制御、光学フィルタの性能確保等を十分に留意しなければならない。
【0079】
第2実施例の基板検査装置1Aは、上述したような留意点を加味したものであって、測定対象のウェハ3に対する所定の測定前もしくは測定後あるいはロボットアーム6によりウェハ3を試料台4上に搬送する途中などの任意のタイミングで、図7に示すように、試料台4の周辺近傍位置に設置したデータ校正用試料72が測定点Pとなるように、駆動部5を水平方向(X,Y方向)及び高さ方向(Z方向)に移動させる。
【0080】
そして、エリプソメータ光学系40を用いてデータ校正用試料72の膜厚及び/または屈折率を測定するとともに、ラマン分光光学系20を用いてデータ校正用試料72の応力及び/または組成を測定し、それら測定値を基準にして測定対象ウェハ3の測定値を校正することにより、周囲環境温度の変動に起因する光学フィルタの劣化などの光学系の変動や光学部品の歪みによる波長ずれ、さらには、測定対象ウェハ3自体の温度影響によるラマンスペクトルのピークシフトのずれなどが生じたとしても、応力や組成、膜厚や屈折率等の各種物理量を周囲環境温度の変動にかかわらず正確に測定し、基板検査精度を再現性よく維持することができる。
【0081】
図8は、本発明の第3実施例に係る基板検査装置1Bの主要部の構成を示す図である。この第3実施例の基板検査装置1Bは、上記した第1実施例に係る基板検査装置1及び第2実施例に係る基板検査装置1Aにおけるエリプソメータ光学系40を取り除き、ラマン分光光学系20と演算処理装置(コンピュータ)60とを備えてなるもので、そのラマン分光光学系20には、第2実施例の場合と同様に、ラマン分光測定用の励起光源として、波長の異なる複数のレーザ光源28a,28b,28c,…,28nを設置しているとともに、測定対象のウェハ3に近接する試料台4の周辺近傍位置にデータ校正用試料72を設置してなる。なお、ラマン分光光学系20におけるその他の構成は第2実施例の構成と同一であるため、該当部分、該当部位に同一の符号を付して、それらの詳しい説明を省略する。
【0082】
この第3実施例に係る基板検査装置1Bによれば、測定対象ウェハ3の積層構造や最上層の厚さ等に応じて、複数のレーザ光源28a,28b,28c,…,28nからウェハ3に波長の異なるレーザ光を選択的かつ自動的に切替え照射させることにより、測定対象ウェハ3の応力や組成の深さ方向(膜厚方向)での分布を簡単かつ基板影響を受けることが少ない状態で確実に検出することが可能で、近年の半導体基板の製造に多く採用されている歪みシリコンを用いた半導体基板を測定対象とする場合であっても、その歪みシリコン層の内部応力、さらには下地層であるSiGe層の組成などの各種物理量を確実に測定して高精度な基板検査を行うことができるだけでなく、ラマン分光光学系20を用いてデータ校正用試料72の応力及び/または組成を随時に測定し、それら測定値を基準にして、測定対象ウェハ3の測定値を校正することにより、周囲環境温度の変動にかかわらず、測定対象ウェハ3の応力及び組成を正確に測定して基板検査精度の向上並びに長期再現性を達成することができる。
【0083】
なお、データ校正用試料72として単結晶シリコンを用いる場合、その単結晶ラマンスペクトルの温度とピークシフトとの関係及びデータ校正用試料72の温度と測定対象試料(ウェハ)3の温度との関係は予め正確に測定しておけばよい。また、正常な状態においてラマン分光光学系20でデータ校正用試料72を測定したときのスペクトル半値幅、スペクトルピーク強度を基準とし、その基準値と随時にデータ校正用試料72を測定したときのスペクトル半値幅、スペクトルピーク強度値とを比較することによって、ラマン分光光学系20の正常・異常を判定することが可能である。特に、強度の変動は、光学フィルタの劣化や光軸のずれ、レーザ光源からの出力パワーの変動等に起因していることが多いので、強度値をモニタリングすることで基板検査装置における異常部の特定を容易に行うことができる。
【0084】
また、データ校正用試料72自体に温度計を取り付けて該データ校正用試料72の温度変化を直接的に計測してもよい。この場合は、周囲環境温度の変動を即座に検出して測定対象ウェハ3の測定値の校正に有効に活用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1,1A,1B 基板検査装置
2B 搬送装置
3 ウェハ(測定対象試料)
4 試料台
10 光学顕微鏡
20 ラマン分光光学系
28,28a,28b,…,28n レーザ光源
40 エリプソメータ光学系
60 演算処理装置
72 データ校正用試料
1 検査レシピデータ
Da 測定点データ
Db 測定条件データ
Dc 出力条件データ
I 認識イメージ
3 偏光された光
P,P1 〜Pn 測定点
X,Y 水平方向
Z 高さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、その測定点に多波長の偏光された光を照射して測定対象に関する情報を出力するエリプソメータ光学系と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における膜厚または屈折率に加えて応力または組成を解析して出力する演算処理装置とを有することを特徴とする基板検査装置。
【請求項2】
移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、その測定点に多波長の偏光された光を照射して測定対象に関する情報を出力するエリプソメータ光学系と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における膜厚または屈折率に加えて応力または組成を解析して出力する演算処理装置とを有し、前記ラマン分光光学系には、波長の異なる複数のレーザ光源及びこれら複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に照射するレーザ光を選択的に自動切替え可能なレーザ光選択装置が設けられていることを特徴とする基板検査装置。
【請求項3】
試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料が設置され、この校正用試料をエリプソメータ光学系及びラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、エリプソメータ光学系及びラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能としている請求項1または2に記載の基板検査装置。
【請求項4】
光学顕微鏡によって観察した像あるいは測定対象試料にレーザ光を照射した際に得られる光の強度を用いてその焦点の位置を確認しながら、試料台の高さ方向の位置調整を行った後に、エリプソメータ光学系およびラマン分光光学系を用いて測定を行うように構成してある請求項1〜3のいずれかに記載の基板検査装置。
【請求項5】
演算処理装置が、測定対象試料における測定点の位置を示す座標と、ラマン分光光学系及びエリプソメータ光学系に用いる光の波長域、検出時の積算時間、及び、用いる検量線の情報を含む測定条件と、検査結果の出力パターンを示す検査結果出力条件とからなる検査レシピデータを有し、この検査レシピデータに従って複数の測定対象試料に対して同じ検査を順次行う自動検査機能を有する請求項1〜4のいずれかに記載の基板検査装置。
【請求項6】
演算処理装置が、検査レシピデータの測定点の位置を示すデータとして、測定対象試料における測定点の光学顕微鏡によって観察した像からなる認識イメージを有し、測定対象試料の表面を光学顕微鏡によって観察した像と前記認識イメージとを比較することにより、試料台を平面方向に移動させて測定点の平面位置の調整を行った後に、エリプソメータ光学系およびラマン分光光学系を用いて測定を行う請求項5に記載の基板検査装置。
【請求項7】
移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象に関する別の情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における応力あるいは歪みを解析して出力する演算処理装置とを有することを特徴とする基板検査装置。
【請求項8】
移動可能に構成された試料台と、測定対象試料を試料台上に搬送する搬送装置と、試料台上の測定対象試料の測定点を観察する光学顕微鏡と、前記光学顕微鏡の測定点にレーザ光を照射して測定対象試料に関する情報を出力するラマン分光光学系と、得られた情報を用いて測定点における応力あるいは歪みを解析して出力する演算処理装置とを有し、前記ラマン分光光学系には、波長の異なる複数のレーザ光源及びこれら複数のレーザ光源から測定対象試料の測定点に照射するレーザ光を選択的に自動切替え可能なレーザ光選択装置が設けられていることを特徴とする基板検査装置。
【請求項9】
試料台の測定対象試料に近接する位置に校正用試料が設置され、この校正用試料をラマン分光光学系により随時測定することにより得られる情報を基準にして、ラマン分光光学系より出力される測定対象試料に関する情報を校正可能としている請求項7または8に記載の基板検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−286493(P2010−286493A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151926(P2010−151926)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【分割の表示】特願2004−228644(P2004−228644)の分割
【原出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】