説明

基板洗浄方法及びロール洗浄部材

【課題】ロール洗浄部材の形状の最適化を図り、基板表面を高い洗浄度で効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減できるようにする。
【解決手段】表面に多数のノジュールを有し基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成するロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させつつ、ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、洗浄エリア(長さL)上のロール洗浄部材16と基板Wの相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリア(長さL)では、洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリア(長さL)よりも少ない面積でノジュール16aと基板Wの表面とを互いに接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液の存在下で、半導体ウエハ等の基板の表面に円柱状で長尺状に延びるロール洗浄部材を接触させながら、基板及びロール洗浄部材を共に一方向に回転させて基板の表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法、及び該基板洗浄方法に使用されるロール洗浄部材に関する。
【0002】
本発明の基板洗浄方法は、半導体ウエハ表面の洗浄や、LCD(液晶ディスプレイ)装置、PDP(プラズマディスプレイ)装置及びCMOSイメージセンサ等を製造する時の基板表面の洗浄にも適用される。
【背景技術】
【0003】
近年の半導体デバイスの微細化に伴い、基板上に物性の異なる様々な材料の膜を形成してこれを洗浄することが広く行われている。例えば、基板表面の絶縁膜内に形成した配線溝を金属で埋めて配線を形成するダマシン配線形成工程においては、ダマシン配線形成後に化学機械的研磨(CMP)で基板表面の余分な金属を研磨除去するようにしており、CMP後の基板表面には、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などの水に対する濡れ性の異なる複数種の膜が露出する。
【0004】
CMPによって、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などが露出した基板表面には、CMPに使用されたスラリの残渣(スラリ残渣)や金属研磨屑などが存在し、基板表面の洗浄が不十分となって基板表面に残渣物が残ると、基板表面の残渣物が残った部分からリークが発生したり、密着性不良の原因になるなど信頼性の点で問題となる。このため、金属膜、バリア膜及び絶縁膜などの水に対する濡れ性の異なる膜が露出した基板表面を高い洗浄度で洗浄する必要がある。
【0005】
CMP後の基板表面を洗浄する洗浄方法として、洗浄液の存在下で、半導体ウエハ等の基板の表面に円柱状の長尺状に延びるロール洗浄部材(ロールスポンジまたはロールブラシ)を接触させながら、基板及びロール洗浄部材を共に一方向に回転させて基板の表面を洗浄するスクラブ洗浄が知られている(特許文献1参照)。この種のスクラブ洗浄において、ロール洗浄部材は、一般に、基板の直径よりもやや長い長さを有しており、その中心軸(回転軸)が基板の回転軸と直交する位置に位置するように配置される。そして、基板表面を、その直径方向の全長に亘ってロール洗浄部材に接触させながら、回転軸を中心に基板を回転させてロール洗浄部材に擦り付けることで洗浄特性を得るようにしている。
【0006】
回転ブラシのスポンジブラシ(洗浄部材)の表面から液体または気体を吹き出させながら回転ブラシを回転させて基板を洗浄することで、洗浄むらを解消し、またブラシの目詰まりを防止できるようにした基板洗浄方法が提案されている(特許文献2参照)。この基板洗浄方法で使用されるスポンジブラシの一例として、回転ブラシの回転に伴って、基板の中央から外周に向かう薬液(洗浄液)の流れが形成される螺旋状溝を外周面に設けたものが挙げられている。
【0007】
出願人は、基板の直径の約半分の領域で、基板とロール(ロール洗浄部材)とを互いに摺接させて基板を洗浄するようにした基板処理装置を提案している(特許文献3参照)。この基板処理装置において、ロールと基板との摺動部における摺動方向は、互いに反対方向にあることが好ましい。また、出願人は、基板の外周部のみで基板とロール(ロール洗浄部材)とを互いに摺接させて基板の外周部を洗浄するようにした基板処理装置を提案している(特許文献4参照)。
【0008】
また、ロール体(ロール洗浄部材)の外周部分を、被洗浄面の内側領域に接触する中央領域と被洗浄面の外側領域に接触する外端領域に区分し、ロール体の外周部分の被洗浄面に対する接触強さが、前記中央領域の方が前記外端領域よりも低く設定されるようにした洗浄用スポンジローラが提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−308374号公報
【特許文献2】特開2000−15190号公報
【特許文献3】特開2002−313767号公報
【特許文献4】特開2002−280344号公報
【特許文献5】特開2009−117765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
基板の直径のほぼ全長に亘って延びるロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させながら、基板表面にロール洗浄部材を擦り付けて該表面をスクラブ洗浄すると、基板表面は、ロール洗浄部材と接触して直線状に延びる洗浄エリアで洗浄され、この洗浄エリアは、基板とロール洗浄部材の相対回転速度が相対的に高く高い物理洗浄性が得られる逆方向洗浄エリアと、基板とロール洗浄部材の相対回転速度が相対的に低く低い物理洗浄性しか得られない順方向洗浄エリアに分けられる。そして、順方向洗浄エリアには、洗浄条件によって、基板とロール洗浄部材の相対回転速度がゼロとなる領域が生じ、この相対回転速度がゼロとなる領域及びその周辺等では、ロール洗浄部材を基板に対して単純に押し付けている(スタンプしている)だけのような状況にある。このためロール洗浄部材との接触によって基板表面が逆汚染されてしまうことがある。
【0011】
特許文献1〜5に記載の発明は、上記のようなロール洗浄部材を使用したスクラブ洗浄における物理洗浄性の違いを考慮して、ロール洗浄部材の形状の最適化を図るようにしたものではない。このため、洗浄処理によって、基板がロール洗浄部材によって逆汚染され、本来の洗浄能力以上の洗浄能力が必要となる場合があると考えられる。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、ロール洗浄部材の形状の最適化を図り、基板の逆汚染を防止しつつ、基板表面を高い洗浄度で効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減できるようにした基板洗浄方法及び該基板洗浄方法に使用されるロール洗浄部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の基板洗浄方法は、表面に多数のノジュールを有し基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成するロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させつつ、前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアでは、前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアよりも少ない面積で前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させる。
【0014】
洗浄エリア上のロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアでは低い物理洗浄性しか得られないばかりでなく、ロール洗浄部材と基板の相対回転速度がゼロの領域及びその周辺等では基板表面がロール洗浄部材との接触で逆汚染される恐れがあり、洗浄エリア上のロール洗浄材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアでは高い物理洗浄性が得られる。このため、順方向洗浄エリアでは逆方向洗浄エリアよりも少ない面積でロール洗浄部材の表面に設けたノジュールと基板表面とを互に接触させることで、逆汚染に伴う洗浄負荷を低減させながら、基板表面の洗浄度を高め、更に洗浄プロセスウェイドウを拡大することができる。
【0015】
前記ロール洗浄部材の回転に伴って、基板上の前記順方向洗浄エリアに存在する洗浄液を基板の中心部から外周部に向かって掻き出すことが好ましい。
【0016】
これにより、基板上の順方向洗浄エリアに存在する洗浄液を、洗浄中に基板の中心部から外周部に向かってスムーズに移動させて、基板の外周部から外部に排出することで、洗浄効率を高めることができる。
【0017】
本発明の他の基板洗浄方法は、表面に多数のノジュールを有し基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成するロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させつつ、前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリア、及び前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部のみで前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させる。
【0018】
これにより、順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部以外の領域でロール洗浄部材と基板表面とが互いに接触しないようにして、ロール洗浄部材の基板表面への接触による逆汚染を防止することができる。しかも、相対回転速度が比較的高い順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部を洗浄に有効に利用しつつ、ロール洗浄部材を、基板の直径方向に沿った外周部で、いわゆる両端支持とすることで、基板の中心部に応力集中が生じて洗浄能力が低下してしまうことを回避することができる。
【0019】
本発明のロール洗浄部材は、表面に多数のノジュールを有し、基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成し、基板と共に一方向に回転させつつ前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄するロール洗浄部材であって、前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアに対応する領域に設けられる前記ノジュールの分布密度を、前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアに対応する領域に設けられる前記ノジュールの分布密度より低くしている。
【0020】
前記順方向洗浄エリアに対応する領域には、回転に伴って、洗浄液を基板の中心部から外周部に向かって掻き出す方向に螺旋状に連続した螺旋溝がノジュール間に形成されるように、前記ノジュールが設けられていることが好ましい。
【0021】
本発明の他のロール洗浄部材は、表面に多数のノジュールを有し、基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成し、基板とを共に一方向に回転させつつ前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄するロール洗浄部材であって、前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアに対応する領域、及び前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部に対応する領域のみに前記ノジュールが設けられている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の基板洗浄方法によれば、ロール洗浄部材を使用したスクラブ洗浄における物理洗浄性の違いを考慮して、ロール洗浄部材の形状を最適化することで、半導体ウエハ等の基板の表面を高い洗浄度で効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の基板洗浄方法に使用されるスクラブ洗浄装置の一例を示す概要図である。
【図2】図1に示すスクラブ洗浄装置のロール洗浄部材と基板との関係を示す概要図である。
【図3】図1に示すスクラブ洗浄装置のロール洗浄部材と基板との関係を示す平面図である。
【図4】(a)は、順方向洗浄エリアにおける基板とロール洗浄部材をそれらの回転速度と共に示す断面図で、(b)は、逆方向洗浄エリアにおける基板とロール洗浄部材をそれらの回転速度と共に示す断面図である。
【図5】図1に示すスクラブ洗浄処置に使用されている、本発明の実施形態のロール洗浄部材を示す正面図である。
【図6】図5に示すロール洗浄部材を使用して基板をスクラブ洗浄する時の状態を示す概要図である。
【図7】実施例1、従来例1及び比較例1における、基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を示す図である。
【図8】(a)は、従来例1,2として使用されるロール洗浄部材を示す正面図で、(b)は、(a)に示すロール洗浄部材で基板を洗浄する時の状態を示す概要図である。
【図9】(a)は、比較例1として使用されるロール洗浄部材を示す正面図で、(b)は、(a)に示すロール洗浄部材で基板を洗浄する時の状態を示す概要図である。
【図10】本発明の他の実施形態のロール洗浄部材を基板と共に示す正面図である。
【図11】実施例2、従来例2及び比較例2における、基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を示す図である。
【図12】比較例2として使用されるロール洗浄部材を基板と共に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の基板洗浄方法に使用されるスクラブ洗浄装置の一例を示す概要図である。図1に示すように、このスクラブ洗浄装置は、表面を上にして半導体ウエハ等の基板Wの周縁部を支持し基板Wを水平回転させる、水平方向に移動自在な複数本(図では4本)のスピンドル10と、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの上方に昇降自在に配置される上部ロールホルダ12と、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの下方に昇降自在に配置される下部ロールホルダ14を備えている。
【0025】
上部ロールホルダ12には、円柱状で長尺状に延びる、例えばPVAからなる上部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)16が回転自在に支承されている。下部ロールホルダ14には、円柱状で長尺状に延びる、例えばPVAからなる下部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)18が回転自在に支承されている。
【0026】
上部ロールホルダ12は、上部ロールホルダ12を昇降させ、上部ロールホルダ12で回転自在に支承した上部ロール洗浄部材16を矢印Fに示すように回転させる、図示しない駆動機構に連結されている。下部ロールホルダ14は、下部ロールホルダ14を昇降させ、下部ロールホルダ14で回転自在に支承した下部ロール洗浄部材18を矢印Fに示すように回転させる、図示しない駆動機構に連結されている。
【0027】
スピンドル10で支持して回転させる基板Wの上方に位置して、基板Wの表面(上面)に洗浄液を供給する上部洗浄液供給ノズル20が配置され、スピンドル10で支持して回転させる基板Wの下方に位置して、基板Wの裏面(下面)に洗浄液を供給する下部洗浄液供給ノズル22が配置されている。
【0028】
上記構成のスクラブ洗浄装置において、スピンドル10の上部に設けたコマ24の外周側面に形成した嵌合溝24a内に基板Wの周縁部を位置させて内方に押し付けてコマ24を回転(自転)させることにより、基板Wを矢印Eで示すように水平に回転させる。この例では、4個のうち2個のコマ24が基板Wに回転力を与え、他の2個のコマ24は、基板Wの回転を受けるベアリングの働きをしている。なお、全てのコマ24を駆動機構に連結して、基板Wに回転力を付与するようにしてもよい。
【0029】
このように基板Wを水平に回転させた状態で、上部洗浄液供給ノズル20から基板Wの表面(上面)に洗浄液(薬液)を供給しつつ、上部ロール洗浄部材16を回転させながら下降させて回転中の基板Wの表面に接触させ、これによって、洗浄液の存在下で、基板Wの表面を上部ロール洗浄部材16でスクラブ洗浄する。上部ロール洗浄部材16の長さは、基板Wの直径より僅かに長く設定されている。そして、上部ロール洗浄部材16は、その中心軸(回転軸)Oが、基板Wの回転軸Oとほぼ直交する位置に位置して、基板Wの直径の全長に亘って延びるように配置され、これによって、基板Wの全表面が同時に洗浄される。
【0030】
同時に、下部洗浄液供給ノズル22から基板Wの裏面(下面)に洗浄液を供給しつつ、下部ロール洗浄部材18を回転させながら上昇させて回転中の基板Wの裏面に接触させ、これによって、洗浄液の存在下で、基板Wの裏面を下部ロール洗浄部材18でスクラブ洗浄する。上部ロール洗浄部材16の長さは、基板Wの直径より僅かに長く設定されていて、前述の基板Wの表面とほぼ同様に、基板Wの全裏面が同時に洗浄される。
【0031】
上記のようにして、基板Wの表面を上部ロール洗浄部材(以下、単にロール洗浄部材という)16で洗浄する時、図2に示すように、基板Wとロール洗浄部材16は、ロール洗浄部材16の軸方向に沿って基板Wの直径方向の全長に亘って直線状に延びる、長さLの洗浄エリア30で互いに接触し、この洗浄エリア30に沿った位置で基板Wの表面がスクラブ洗浄される。
【0032】
ここに、図3に示すように、基板Wの回転軸Oを中心とした回転に伴う洗浄エリア30に沿った基板の回転速度Vの大きさは、基板Wの回転軸O上でゼロとなり、回転軸Oを挟んで基板Wの回転速度Vの向き(洗浄方向)が互いに逆となる。一方、ロール洗浄部材16の回転に伴う洗浄エリア30に沿ったロール洗浄部材16の回転速度Vの大きさは、洗浄エリア30の全長に亘って一定で、回転速度Vの向き(洗浄方向)も同じとなる。
【0033】
なお、図3は、図2に示すように、洗浄エリア30に沿ってx軸を、基板Wの表面の該x軸に直交する方向にy軸を取り、x−y平面の原点を、基板Wの回転軸Oが通るようにしている。
【0034】
このため、洗浄エリア30は、基板Wの回転軸Oを挟んで、基板Wの回転速度Vの向きとロール洗浄部材16の回転速度Vの向きが同じとなる、長さLの順方向洗浄エリア32と、基板Wの回転速度Vの向きとロール洗浄部材16の回転速度Vの向きが互いに逆向きとなる、長さLの逆方向洗浄エリア34に分けられる。
【0035】
順方向洗浄エリア32では、図4(a)に示すように、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの相対回転速度の大きさが、両者の回転速度の大きさの差の絶対値となって、相対的に低くなる。一方、逆方向洗浄エリア34では、図4(b)に示すように、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの相対回転速度の大きさが、両者の回転速度の大きさの和となって、相対的に高くなる。このため、基板Wの回転速度Vとロール洗浄部材16の回転速度Vの大きさによっては、図3に示すように、両者の相対回転速度の大きさがゼロ(V=V)となって、基板Wが洗浄されない領域Mが生じることがある。
【0036】
この基板Wが洗浄されない領域Mは、基板Wとロール洗浄部材16とが単に接触しているだけで、基板Wの表面のロール洗浄部材16によるスクラブ洗浄が行われず、逆にロール洗浄部材16に付着した残渣等が基板Wの表面に押し付けられて再付着し、基板Wの表面の汚染の原因となると考えられる。
【0037】
図5は、図1に示すスクラブ洗浄処置に備えられている、本発明の実施形態のロール洗浄部材16を示す正面図である。図5に示すように、ロール洗浄部材16は、表面に多数のノジュール(突起)16aを有しており、このノジュール16aの表面(外端面)を基板Wの表面に接触させて該表面を洗浄するように構成されている。
【0038】
図2に示すように、ロール洗浄部材16と基板Wの表面とは、長さLの洗浄エリア30で互いに接触するのであるが、ロール洗浄部材16の表面には、多数のノジュール16aが設けられており、このため、洗浄エリア30でロール洗浄部材16に設けられたノジュール16aの表面のみと基板Wの表面とが互いに接触する。そして、長さLの洗浄エリア30は、ロール洗浄部材16と基板Wの相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリア32(長さL)と、ロール洗浄部材16と基板Wの相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリア34(長さL)に分けられる。
【0039】
そこで、この例では、ロール洗浄部材16を、その長手方向に沿って、順方向洗浄エリアに対応する領域Aと、逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの2つの領域に分け、ロール洗浄部材16の順方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aの分布密度が、逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aの分布密度よりも低くなるようにしている。
【0040】
この例では、ロール洗浄部材16の逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aの分布密度を1(100%)とした時、順方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aの分布密度が0.5(50%)となるようにしている。このロール洗浄部材16の順方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aの、逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられるノジュール16aに対する分布密度を、洗浄条件等の合わせて任意に設定できることは勿論である。
【0041】
更に、この例では、ロール洗浄部材16の順方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面には、ロール洗浄部材16の回転に伴って、順方向洗浄エリアに存在する洗浄液を基板Wの中心部から外周部に掻き出す方向に螺旋状に連続した螺旋溝16bが長手方向に沿って互いに隣接するノジュール16a間に形成されるように、ノジュール16aが設けられている。
【0042】
これにより、基板W上の順方向洗浄エリア32に存在する洗浄液を、ロール洗浄部材16の回転に伴って、洗浄中に基板Wの中心部から外周部に向かってスムーズに移動させて、基板Wの外周部から外部に排出することで、洗浄効率を高めることができる。
【0043】
本発明の基板洗浄方法は、図5に示すロール洗浄部材16を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用し、スピンドル10で水平に保持して回転させた基板Wの表面に、ロール洗浄部材16を回転させながらロール洗浄部材16のノジュール16aを接触させて該表面をスクラブ洗浄する。このスクラブ洗浄時に、基板Wの表面に上部洗浄液供給ノズル20から洗浄液を供給する。このスクラブ洗浄時の概要を図6に示す。
【0044】
図6に示すように、基板Wとロール洗浄部材16とが互いに接触する長さLの洗浄エリア30(図2参照)上のロール洗浄部材16と基板Wの相対回転速度が相対的に低い、長さLの順方向洗浄エリア32(図2参照)では、洗浄エリア30上のロール洗浄部材16と基板Wの相対回転速度が相対的に高い、長さLの逆方向洗浄エリア34(図2参照)よりも少ない面積で、ロール洗浄部材16に設けたノジュール16aと基板Wの表面とが互いに接触する。
【0045】
このように、順方向洗浄エリア32では逆方向洗浄エリア34よりも少ない面積でロール洗浄部材16の表面に設けたノジュール16aと基板Wの表面とを互に接触させることで、逆汚染に伴う洗浄負荷を低減させながら、基板表面の洗浄度を高め、更に洗浄プロセスウェイドウを拡大することができる。
【0046】
このスクラブ洗浄時に、順方向洗浄エリア32に存在する洗浄液は、ロール洗浄部材16の回転に伴って、ノジュール16a間に形成された螺旋溝16bに沿って、基板Wの中心部から外周部に向けてスムーズに流れて外部に排出される。
【0047】
なお、上記は基板の表面の洗浄について説明しているが、基板の裏面にあっても、基板の表面とほぼ同様に洗浄しても良いことは勿論である。このことは、以下の例においても同様である。
【0048】
図5に示すロール洗浄部材16を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、基板表面を、洗浄条件a,b及びcで洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を図7に実施例1として示す。
【0049】
なお、図8(a)に示す、ノジュール40aが全表面にほぼ均等に設けられている従来の一般的なロール洗浄部材40を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、基板表面を、実施例1と同じ洗浄条件a,b及びcで洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を図7に従来例1として示している。図8(b)は、このロール洗浄部材40で基板Wの表面を洗浄している時の概要を示している。
【0050】
また、図9(a)に示す、順方向洗浄エリアに対応する領域Aに設けられるノジュール42aの分布密度が、逆方向洗浄エリアに対応する領域Aに設けられるノジュール42aの分布密度よりも低く(この例では50%)なるようにしたロール洗浄部材42を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、基板表面を、実施例1と同じ洗浄条件a,b及びcで洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を図7に比較例1として示している。図9(b)は、このロール洗浄部材42を使用して基板Wの表面を洗浄している時の概要を示している。
【0051】
なお、図7の縦軸は、従来例1において、条件aで基板表面を洗浄した時の基板表面に残存ずるディフェクト数を1.0とした時のディフェクト数の比率(任意単位)を示している。
【0052】
図7から、比較例1にあっては、従来例1に比較して、基板表面に残存するディフェクト数が増加しており、このことから、図2に示す逆方向洗浄エリア34で基板とロール洗浄部材の表面に設けられるノジュールとが接触する接触面積を減らすと、洗浄能力が落ちることが判る。そして、実施例1にあっては、比較例1、更には従来例1に比較して、基板表面に残存するディフェクト数が減少しており、このことから、図2に示す順方向洗浄エリア32で基板とロール洗浄部材の表面に設けられるノジュールとが接触する接触面積を減らすことで、高い洗浄度で基板表面を効率的に洗浄して、基板表面に残存するディフェクト数を低減できることが判る。
【0053】
図10は、本発明の他の実施形態のロール洗浄部材50を基板Wと共に示す正面図である。この例のロール洗浄部材50の図5に示すロール洗浄部材16と異なる点は、以下の通りである。つまり、ロール洗浄部材50は、その長手方向に沿って、長さLの順方向洗浄エリア32(図2参照)に対応する領域Aと、長さLの逆方向洗浄エリア34(図2参照)に対応する領域Aの2つの領域に分けられている。そして、ロール洗浄部材50の逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面にはノジュール50aが均等に設けられている。一方、ロール洗浄部材50の順方向洗浄エリアに対応する領域Aには、反逆方向洗浄エリア側端部Aの表面にのみノジュール50aが設けられている。つまり、ロール洗浄部材50の順方向洗浄エリアに対応する領域Aの反逆方向洗浄エリア側端部Aを除く表面にはノジュールが設けられていない。
【0054】
これにより、ロール洗浄部材50は、ロール洗浄部材50の逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面に設けられたノジュール50aの表面と、順方向洗浄エリアに対応する領域Aの反逆方向洗浄エリア側端部Aの表面に設けられたノジュール50aの表面のみで基板Wと接触し、あたかも基板Wの直径方向に沿った外周部の支点S,Sの両端で支持される如く構成されている。
【0055】
この例のロール洗浄部材50は、例えば、図1に示すスクラブ洗浄装置のロール洗浄部材16の代わりに使用される。そして、このロール洗浄部材50を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用し、スピンドル10で水平に保持して回転させた基板Wの表面に、ロール洗浄部材50を回転させながらロール洗浄部材50のノジュール50aを接触させて該表面をスクラブ洗浄する。このスクラブ洗浄時に、基板Wの表面に上部洗浄液供給ノズル20から洗浄液を供給する。
【0056】
このスクラブ洗浄時に、ロール洗浄部材50の、図2に示す洗浄エリア30上のロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリア32に相当する領域A、及び洗浄エリア30上のロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリア34に相当する領域Aの反逆方向洗浄エリア側端部Aのみでノジュール50aと基板Wの表面とが互いに接触する。
【0057】
このように、ロール洗浄部材50の順方向洗浄エリアに相当する領域Aの反逆方向洗浄エリア側端部A以外の領域でロール洗浄部材50と基板Wの表面とが互いに接触しないようにすることで、ロール洗浄部材50の基板Wの表面への接触による逆汚染を防止することができる。しかも、相対回転速度が比較的高い、順方向洗浄エリアに相当する領域Aの反逆方向洗浄エリア側端部Aを洗浄に有効に利用しつつ、ロール洗浄部材50を、基板Wの直径方向に沿った外周部の支点S,Sで、いわゆる両端支持とすることで、基板Wの中心部に応力集中が生じて洗浄能力が低下してしまうことを回避することができる。
【0058】
図10に示すロール洗浄部材50を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、親水性の基板表面を、所定の洗浄条件で洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を、基板表面のディフェクトの分布状態と共に、図11に実施例2として示す。
【0059】
なお、図8(a)に示す、ノジュール40aが全表面にほぼ均等に設けられている従来の一般的なロール洗浄部材40を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、親水性の基板表面を、実施例2と同じ洗浄条件で洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を図11に従来例2として示している。
【0060】
また、図12に示す、逆方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面にのみノジュール60aを設け、順方向洗浄エリアに対応する領域Aの表面にノジュールを有さないロール洗浄部材60を備えた、図1に示すスクラブ洗浄装置を使用して、親水性の基板表面を、実施例2と同じ洗浄条件で洗浄した時の基板表面に残存するディフェクト数を計測した結果を、基板表面のディフェクトの分布状態と共に、図11に比較例2として示している。
【0061】
図11から、比較例2にあっては、従来例2に比較して、洗浄条件によっては、洗浄能力が却って悪くなってしまうことあるばかりでなく、基板表面の中心部にディフェクトが集中して残存することが判る。これは、図12に示すように、ロール洗浄部材60の逆方向洗浄エリアに対応する領域Aは、基板Wの外周部と中心部を支点S,Sとした、いわゆる両端支持の如く支持されているが、順方向洗浄エリアに対応する領域Aは、基板Wの中心部を支点Sとした、いわゆる片持ち支持の状態となり、この支点Sを通して基板Wの中心部に応力集中が起こるためであると考えられる。
【0062】
これに対して、実施例2にあっては、前述のように、ロール洗浄部材50は、基板Wの直径方向に沿った外周部の支点S,Sで、あたかも両端支持の如く支持されており、基板Wの中心部に応力集中が起こらずに、このため、比較例2に比較して、洗浄度を高めることができる。
【0063】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
10 スピンドル
12 上部ロールホルダ
14 下部ロールホルダ
16 上部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)
16a ノジュール
16b 螺旋溝
18 下部ロール洗浄部材(ロールスポンジ)
24 コマ
30 洗浄エリア
32 順方向洗浄エリア
34 逆方向洗浄エリア
順方向洗浄エリアの長さ
逆方向洗浄エリアの長さ
順方向洗浄エリアに対応する領域
逆方向洗浄エリアに対応する領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に多数のノジュールを有し基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成するロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させつつ、前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、
前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアでは、前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアよりも少ない面積で前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項2】
前記ロール洗浄部材の回転に伴って、基板上の前記順方向洗浄エリアに存在する洗浄液を基板の中心部から外周部に向かって掻き出すことを特徴とする請求項1記載の基板洗浄方法。
【請求項3】
表面に多数のノジュールを有し基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成するロール洗浄部材と基板とを共に一方向に回転させつつ、前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄する基板洗浄方法において、
前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリア、及び前記洗浄エリア上の前記ロール洗浄部材と基板の相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部のみで前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させることを特徴とする基板洗浄方法。
【請求項4】
表面に多数のノジュールを有し、基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成し、基板と共に一方向に回転させつつ前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄するロール洗浄部材であって、
前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアに対応する領域に設けられる前記ノジュールの分布密度を、前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアに対応する領域に設けられる前記ノジュールの分布密度より低くしたことを特徴とするロール洗浄部材。
【請求項5】
前記順方向洗浄エリアに対応する領域には、回転に伴って、洗浄液を基板の中心部から外周部に向かって掻き出す方向に螺旋状に連続した螺旋溝がノジュール間に形成されるように、前記ノジュールが設けられていることを特徴とする請求項4記載のロール洗浄部材。
【請求項6】
表面に多数のノジュールを有し、基板の直径のほぼ全長に亘って直線状に延びて基板表面との間に洗浄エリアを形成し、基板とを共に一方向に回転させつつ前記ノジュールと基板表面とを互いに接触させて該表面をスクラブ洗浄するロール洗浄部材であって、
前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に高い逆方向洗浄エリアに対応する領域、及び前記洗浄エリア上の基板との相対回転速度が相対的に低い順方向洗浄エリアの反逆方向洗浄エリア側端部に対応する領域のみに前記ノジュールが設けられていることを特徴とするロール洗浄部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−248564(P2012−248564A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116690(P2011−116690)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】