説明

基板流路内における液体の送液方法及び液体送液装置

【課題】基板上に配設された流路内において、通流する液体の連続性を分断して送液するための技術を提供することを主な目的とする。
【解決手段】基板1上に配設された流路11内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入することにより、流路11内を通流する液体を分断して送液することを特徴とする液体送液方法を提供する。この送液方法において、流路11内に微小粒子Pの分散液が通流される場合には、微小粒子Pの間に流体を導入して、流路11内を通流する分散液を所定数の微小粒子Pごとに分断して送液することができる。この場合には、さらに分断された分散液に付与された電荷又は磁化に基づいてその送流方向を制御することにより、前記微小粒子Pの分別を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に配設された流路内における液体の送液方法、及びこの方法を利用した反応分析方法、並びに液体送液装置に関する。より詳しくは、流路内に流体を導入することにより、流路内を通流する液体を分断して送液する液体送液方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業における微細加工技術を応用し、シリコンやガラス製の基板上に化学的及び生物学的分析を行うための反応領域や流路を設けたマイクロチップが開発されてきている。これらのマイクロチップは、例えば、液体クロマトグラフィーの電気化学検出器や医療現場における小型の電気化学センサーなどに利用され始めている。
【0003】
このようなマイクロチップを用いた分析システムは、μ−TAS(micro-total-analysis system)やラボ・オン・チップ、バイオチップ等と称され、化学的及び生物学的分析の高速化や効率化、集積化、あるいは分析装置の小型化を可能にする技術として注目されている。
【0004】
μ−TASは、少量の試料で分析が可能なことや、チップのディスポーザブルユース(使い捨て)が可能なことなどの理由から、特に貴重な微量試料や多数の検体を扱う生物学的分析への応用が期待されている。
【0005】
特許文献1には、μ−TASにおける液体処理方式に関し、可動光ビームによってマイクロチャネル(流路)内に発生させた気泡によってポンピングやミキシング、バルブ切換えを行うマイクロポンプシステムが開示されている(当該文献請求項1、請求項55、請求項56、請求項60参照)。このマイクロポンプシステムは、例えば診断またはハイスループットスクリーニング等の分析を目的とする、または例えば組み合わせ化学ライブラリの合成のためのアプリケーションに使用可能なものである(当該文献段落0144参照)。
【0006】
μ−TASの生物学的分析への応用例としては、マイクロチップ上に設けられた流路内で細胞等の微小粒子の特性を光学的に分析し、微小粒子中から所定の条件を満たすポピュレーション(群)を分別回収する微小粒子分取技術がある。
【0007】
この微小粒子分取技術に関連して、特許文献2には、レーザートラッピングを利用した粒子分別装置が開示されている。この粒子分別装置は、移動する細胞等の粒子に対して走査光を照射することにより、粒子の種類に応じた作用力を与えて粒子の分取を行うものである。
【0008】
同様の技術として、特許文献3には、光圧(optical forceもしくはoptical pressure)を利用した微粒子回収装置が開示されている。この微粒子回収装置は、微粒子の流路に、微粒子の流れ方向に交差させてレーザービームを照射し、回収すべき微粒子の運動方向をレーザービームの収束方向に偏向させて微粒子を回収するものである。
【0009】
また、特許文献4には、微粒子の移動方向を制御するための電極を有する微粒子分別マイクロチップが記載されている。この電極は、微粒子計測部位から微粒子分別流路への流路口付近に設置され、電界との相互作用により微粒子の移動方向を制御するものである。
【0010】
【特許文献1】特表2005−538287号公報
【特許文献2】特開平7−24309号公報
【特許文献3】特開2004−167479号公報
【特許文献4】特開2003−107099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜4に開示されるように、従来のμ−TASにおいては、流 路内を連続して送液される液体内において、所定の化学反応を行なっていた。また、微小粒子の分取を行う場合は、流路内を一定方向に連続して流れる液体中の微小粒子に対し、直接、レーザートラッピングや光圧、電気等によって作用力を与え、微小粒子を液体の流れる方向とは異なる向きに、いわば流れに逆らって移動させていた。このため、微小粒子の送流方向の制御を行うためには、微小粒子に対してかなり大きな作用力を付与してやる必要があった。
【0012】
このため、流路内に通流する液体中で、単一の反応もしくは一の連続した反応を行なうこととなり、流路内で複数の独立した化学反応を行なうことはできなかった。また、レーザートラッピングや光圧、電気等によって、直接、微小粒子に対して作用力を付与する方式では、微小粒子の送流方向を高速かつ高精度に行うために十分な作用力を与えることは難しかった。
【0013】
そこで、本発明は、基板上に配設された流路内において、通流する液体の連続性を分断して送液するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明は、基板上に配設された流路内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入することにより、該流路内を通流する液体を分断して送液する液体送液方法を提供する。
この送液方法において、流路内に微小粒子の分散液が通流される場合には、前記微小粒子の間に前記流体を導入して、該流路内を通流する前記分散液を所定数の微小粒子ごとに分断して送液することができる。
この場合には、さらに分断された前記分散液に付与された電荷又は磁化に基づいてその送流方向を制御することにより、前記微小粒子の分別を行うことができる。
前記電荷は、分断された前記分散液に物質を注入し、該物質と前記微小粒子との反応を検出し、その検出結果に基づいて付与することができる。
【0015】
併せて、本発明は、上記方法により分断された前記液体に複数の物質を注入する工程と、該物質間の反応を検出する工程と、を含む反応分析方法をも提供する。
この反応分析方法は、さらに、分断された前記液体に識別用マイクロビーズを注入する工程と、該識別用マイクロビーズからの識別信号を検知する工程と、を含み得る。
この場合、前記識別信号は、前記識別用マイクロビーズの温度、蛍光、散乱光、磁化、電荷、形状又は濃度のいずれかから選択される一以上を測定することにより検知することができる。
【0016】
さらに、本発明は、基板上に配設された流路内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入するための流体導入部を備え、該流体により、前記流路内を通流する液体を分断して送液することを特徴とする液体送液装置をも提供するものである。
この液体送液装置において、前記流路の前記液体に臨む面には、撥水性又は電気的絶縁性を付与することが好適となる。
【0017】
ここで、本発明において「液体」という用語は広義に解釈されるべきであり、均質な液体、懸濁液、すなわち、微小粒子を含む液体、小さい気泡を含む液体、水性液、有機液体、二相系及び疎水性の液体及び親水性の液体を含み得るものとする。
【0018】
また、「気体」という用語も、狭義に解釈されるべきでなく、空気や、窒素、等のガスなどを広く包含し得るものとする。
【0019】
本発明において「微小粒子」とは、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連高分子物質、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などの微小粒子が広く含まれる。対象とする細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。生体高分子物質には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。さらに、ガラスやポリスチレンなどの微小粒子の表面又は内部に、DNAやタンパク質、抗体等の生体関連高分子物質を、化学的又は物理的に修飾、固相化した微小粒子であってもよい。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、基板上に配設された流路内において、通流する液体の連続性を分断して送液するための技術が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0022】
1.液体送液方法及び液体送液装置
図1は、本発明の第一実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。流路は基板上に複数配設することができるが、ここでは代表して1つの流路を示し説明を行う。
【0023】
図中、符号1は基板を、符号11は流路を示している。流路11内に導入される液体(図中、斜線で示す)は、図中左から右へ矢印F方向に送流されるものとする。
【0024】
基板1は、通常、ガラスや各種プラスチック(PP,PC,COP、PDMS)により形成され、ガラスの場合にはウェットエッチングやドライエッチングによって、プラスチックの場合にはナノインプリントや射出成型、切削加工によって、流路11を形成する。
【0025】
後述するように、流路11内に気体を導入した場合に、流路内の液体を完全に分断させるため、基板1は撥水性の材質を用いて形成することが好ましい。また、流路11の表面に撥水加工を行ってもよい。撥水加工は、通常使用されるシリコン樹脂系撥水剤やフッ素樹脂系撥水剤などの塗布や、アクリルシリコーン撥水膜やフッ素撥水膜などの成膜による表面処理の他、流路表面に微細構造を形成することによって撥水性を付与することもできる。
【0026】
図1中、符号12は、流路11内に流体を導入するための流体導入部を示す。流体導入部12は、その一端において流路11に連通し、他端から図示しない送出手段により供給される気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を流路11内に導入する。送出手段は、通常使用される加圧ポンプ等を採用できる。以下、流体導入部12が流路11に連通する部分を「接続部13」といい、流路11の接続部13上流を「導入路111」、接続部13下流を「送液路112」というものとする。
【0027】
本発明に係る液体送液装置は、流体導入部12から所定のタイミングで接続部13に流体を導入することにより、導入路111から送流される液体を流体によって分断して送液路112に送流する。
【0028】
なお、図1では、流体導入部12を1つ設けた場合を示したが、接続部13において連通させる流体導入部12は二以上とすることができる。例えば、接続部13の両側(図1中、上下側)に流体導入部12、12を設け、流路11の両方向(図1中、上下方向)から接続部13に流体を導入してもよい。
【0029】
2.微小粒子の分散液の送液方法及び送液装置
図2は、本発明の第二実施形態に係る液体送液装置において、微小粒子の分散液を通流させた流路11を示す模式図(上面図)である。
【0030】
図中、符号Pは、分散液中に含有される微小粒子を示す。また、符号2は、導入路111を送流される分散液中の微小粒子Pを検出するための検出部を示す。
【0031】
本実施形態においては、検出部2を、一組の微小電極として基板1上の導入路111の両側に配設し、電極間に交流電圧を印加して、電極間に流れるインピーダンスの変化により微小粒子Pの検出を行う構成を採用している。
【0032】
検出部2は、例えば、光学的に微小粒子Pの検出を行う構成であってもよく、例えば上記の特許文献2〜4に開示される微小粒子分取技術において公知の光学検出系により構成することができる。この場合、検出部2として、レーザー光源と、光源からのレーザー光を導入路111の所定の部位に集光・照射するための光学経路とを設ける。そして、レーザー光の照射によって導入路111内の微小粒子Pから発生する光を同一又は他の光学経路により検出器に導光・検出することにより微小粒子Pの検出を行う。この際、検出を行う光は、レーザー光の照射により微小粒子Pから発生する散乱光や蛍光などであってよい。
【0033】
検出部2を光学検出系として構成する場合、基板1は、使用するレーザー光を透過可能であり、レーザー光に対して波長分散が少なく光学誤差の少ない材質を用いて形成することが望ましい。
【0034】
本発明に係る液体送液装置では、この検出部2による微小粒子Pの検出信号に基づいて、流体導入部12の送出手段のバルブ(不図示)の開閉タイミングを制御することにより、接続部13において微小粒子Pの間に流体を導入し、分散液を所定数の微小粒子Pごとに分断して送液路112に送流する(図2は、分散液を微小粒子1つごとに分断した場合を示している)。
【0035】
分断された分散液中に含まれる微小粒子Pの数は、検出部2からの検出信号に応じて、流体導入部12のバルブの開閉タイミングを制御することによって任意に設定することが可能である。
【0036】
図3に、流体導入部12のバルブの開閉タイミングの一例を示す。図中上段に、検出部2による微小粒子Pの検出信号を時系列により示す。また、下段には、流体導入部12のバルブに入力される開閉信号を示す。
【0037】
図3は、分散液を微小粒子P1つごとに分断する場合の流体導入部12のバルブの開閉タイミングを表している(図2参照)。図に示すように、検出部2からの微小粒子Pの検出信号ごとに、流体導入部12のバルブに開閉信号を出力し、接続部13に流体を導入することで、分散液を微小粒子1つごとに分断することが可能となる。
【0038】
この際、検出信号に対する開閉信号の遅延時間は、導入路111内における微小粒子Pの送流速度、及び検出部2と接続部3との距離に応じて適宜設定される。
【0039】
図4には、流体導入部12のバルブの開閉タイミングの他の例を示す。
【0040】
図4は、検出部2から微小粒子Pの検出信号が2回出力されるごとに、流体導入部12のバルブに開閉信号を出力し、接続部13に流体を導入する場合を示している。この場合、分散液は、図5に示すように、微小粒子2つごとに分断されて送液路112に送流されることとなる。
【0041】
なお、導入路111に送流される微小粒子Pは、図2及び図5に示したように、必ずしも等間隔で送流される必要はなく、検出部2からの微小粒子Pの検出信号に応じて、流体導入部12のバルブに開閉信号を出力することで、微小粒子Pが不定間隔で送流される場合にも、任意数の微小粒子Pごとに分散液を分断することが可能である。
【0042】
3.微小粒子の分取
次に、本発明に係る液体送流装置において、微小粒子Pの分取を行う場合について説明する。
【0043】
図6は、本発明の第三実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【0044】
本実施形態に係る液体送液装置の流路11は、図中符号14で示す分岐部において送液路112から分岐する分岐流路113,114を備える。この液体送液装置では、送液路112内を分断されて送液される分散液を、分岐流路113又は分岐流路114の一方に選択的に送流することが可能とされている。
【0045】
分岐部14における送流方向の制御は、分断された分散液に付与された電荷又は磁化に基づいて行うことができる。以下、その具体的な手順及び構成について説明する。
【0046】
図6中、符号1111は、導入路111内の分散液に電圧を印加するための荷電部である。荷電部1111は、流体導入部12からの接続部13への流体導入時に、導入路111内の分散液にプラス又はマイナスの電圧を印加する。これにより、流体の導入により送液路112へ分断される分散液に、プラス又はマイナスの電荷を付与することが可能となる。
【0047】
分岐流路113,114は、それぞれその両側に配設されたプラス又はマイナスに帯電された一対の電極1131,1131及び1141,1141によって、プラス又はマイナスに帯電している。荷電部1111によって荷電され、送液路112へ分断された分散液は、分岐部14においてその電荷と反対に帯電された分岐流路へ送流される。
【0048】
図6では、分岐流路113の電極1131,1131をプラス、分岐流路114の電極1141,1141をマイナスに帯電させた場合を示した。これにより、マイナスに荷電された分散液(図中、斜線で示す)を分岐流路113に、プラス電荷を有する分散液(図中、ドットで示す)を分岐流路114に送流することが可能となり、分散液中に含まれる微小粒子Pを二つの群に分別することが可能となる。
【0049】
また、分岐部14における送流方向の制御を、分散液に付与された磁化に基づいて行う場合には、分散液中に磁性マイクロビーズなどの磁化を保持し得る物質を混合し、該物質と液体送液装置に設けたコイル等の磁界発生器により発させた磁界との磁気的反発力に基づいて、分岐部14においてN極側又はS極側に位置する分岐流路113又は分岐流路114へ送流を行う。
【0050】
送液路112へ分断された分散液の電荷又は磁化を維持するため、流体には気体を用いることが好ましい。この際、送液路112内における分散液の分断が不完全で、隣接する分散液が一部で連通する状態となると、分散液の電荷や磁化が消失してしまい、送流方向の制御が不能となったり、不正確となったりするおそれがある。従って、導入した気体によって分散液を完全に分断し、分断された分散液間の絶縁性を維持するため、流路11(送液路112)の表面には撥水性を付与することが望ましい。さらに、流路11(送液路112)の表面に電気的絶縁性を付与して、分断された分散液間で電荷の移動を阻止することも有効である。電気的絶縁性は、例えば、流路表面に絶縁性を備える物質を塗布または成膜することにより付与し得る。また、流路表面に超純水等の絶縁性を有する液体を流すことで、分散液間での通電を阻止することもできる。
【0051】
また、送液路112へ分断された分散液の電荷又は磁化を維持するため、流体として、電気的又は磁気的に絶縁性を有する液体(「絶縁性液体」)を用いてもよい。この絶縁性液体には、例えば、上記の超純水等を用いる。これにより、分断された分散液間の電荷又は磁化の移動を阻止することができる。
【0052】
微小粒子Pの分別は、検出部2により微小粒子Pの特性を判定し、その結果に基づいて行うことが可能である。本実施形態では、検出部2を先に説明した光学検出系として構成し、導入路111内の微小粒子Pに対するレーザー光の照射によって発生する光を検出することで、微小粒子Pの検出と光学特性の判定を行う。導入路111におけるレーザー光の照射スポットを、図6中、点線で囲った円形領域として示す。
【0053】
微小粒子Pの光学特性解析のためのパラメーターは、対象とする微小粒子及び分取目的に応じて、微小粒子の大きさを測定する前方散乱光や、構造を測定する側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光や蛍光などとすることができる。検出部2は、これらのパラメーターにより検出された光を解析し、微小粒子Pが所定の光学特性を有するか否かについて判定を行う。
【0054】
そして、検出部2は、微小粒子Pが所望の光学特性を有すると判定した場合には、荷電部1111に対し陽性信号を出力し、導入路111内の分散液をプラス又はマイナスのいずれかに荷電させる。なお、ここで「陽性信号」とは、所望の特性を有する微小粒子を含む分散液から得られる分別信号であり、この分別信号(陽性信号)に基づいて分岐部14における送流方向の制御が行われ、微小粒子が分取されるものである。
【0055】
図7に、荷電部1111における荷電タイミングの一例を示す。図中上段から、検出部2からの検出信号と陽性信号、荷電部1111における荷電タイミング、流体導入部12のバルブに入力される開閉信号を時系列により示す。
【0056】
図は、検出部2による微小粒子Pの検出信号ごとに、バルブに開閉信号を出力し、接続部13に流体を導入することで、分散液を微小粒子P1つごとに分断する場合において、検出部2によって微小粒子Pが所望の光学特性を有すると判定され、陽性信号が出力された場合には、荷電部1111によりプラス荷電を付与する場合を示している。このとき、検出部2によって微小粒子Pが所望の光学特性を有しないと判定され、陽性信号が出力されない場合には、荷電部1111はマイナス荷電を付与する。
【0057】
このタイミングにより荷電部1111における荷電を制御することで、図6に示したように、所望の光学特性を有する微小粒子Pのみを、プラス荷電を有する分散液中に含有させた状態で送液路112内に送流し、分岐流路114へ分取することが可能となる。
【0058】
なお、検出信号及び陽性信号に対する荷電及び開閉信号の遅延時間や強度、位相、パルス幅等は、導入路111内における微小粒子Pの送流速度、及び検出部2と接続部3との距離に応じて適宜設定されるものである。
【0059】
また、分散液に付与された磁化に基づいて分取を行う場合には、検出信号及び陽性信号に対し、導入路111内における微小粒子Pの送流速度、及び検出部2と分岐部14との距離等に応じて適切なタイミングで磁界を発生させる(又は磁界を切換える)ことにより分取を行うことが可能である。
【0060】
図8は、本発明の第四実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【0061】
本実施形態においては、荷電部1111を送液路112の表面に配された微小電極とし、流体導入部12からの流体の導入により分断された後の分散液に電荷を付与する構成とされている。また、検出部2を微小電極として構成し、微小粒子Pの電気特性を判定し、その結果に基づいて微小粒子Pの分取を行い得るように構成されている。
【0062】
検出部2は、電極間に流れるインピーダンスの変化を検出することにより、微小粒子Pを検出と電気特性の判定を行い、微小粒子Pを分取するか否かについての信号を出力する。検出部2から陽性信号が出力された場合には、荷電部1111が、送液路112を分断されて送流される分散液の中からその微小粒子Pを含む分散液に対して、例えばプラス電圧を印加することで、微小粒子Pを分岐流路114に分取する。
【0063】
図9に、本実施形態における荷電部1111における荷電タイミングの一例を示す。図中上段から、検出部2からの検出信号と陽性信号、流体導入部12のバルブに対する開閉信号、荷電部1111における荷電タイミングを時系列により示す。
【0064】
以上のように、本発明に係る送流方法及び送流装置によれば、流路内を通流する微小粒子の分散液を所定数の微小粒子ごとに分断し、分断された分散液に分散液中に含まれる微小粒子の特性に応じた電荷を付与することによって、微小粒子の分取を行うことが可能である。
【0065】
このように、流路内において微小粒子を分散液の電荷に基づいて分取することで、従来のように、微小粒子に直接作用力を与えて液体中を移動させて分取を行う方法及び装置に比べて、微小粒子の送流方向の制御を迅速かつ簡便に行うことができ、高速かつ高精度に微小粒子を分取することが可能となる。また、流路内に通流させる液量を抑え、分取後の微小粒子を高濃度に回収することが可能となる。
【0066】
4.物質の反応検出による微小粒子の分取
次に、本発明に係る送液方法及び液体送液装置のさらなる実施形態について説明する。
【0067】
図10は、本発明の第五実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【0068】
本実施形態においては、これまで説明した構成に加え、送液路112において分断された微小粒子を含む分散液中に所定の物質(図中、符号S参照)を注入するための注入部3と、注入された物質Sと微小粒子Pとの反応を検出するための反応検出部21とが設けられている。
【0069】
注入部3は、例えば、微小粒子Pが細胞や微生物、生体高分子物質である場合、これらと反応し得る生理活性物質や抗体、各種試薬を分散液中に注入するものである。また、微小粒子Pが有機もしくは無機高分子材料や金属である場合には、例えば、これらと反応し得る化合物を注入する。さらに、反応検出部21により、電気的又は光学的に温度又は濃度、pH等を検出し得る指示薬を注入することもできる。これらの物質は、複数の物質を同時に注入してもよく、また複数の物質から一以上の物質を選択的に注入してもよい。さらに、注入部3は送液部112に複数配設することができ、分断された各分散液に対して、全ての注入部から、又はいずれかの注入部から選択的に、物質注入を行うこともできる。
【0070】
反応検出部21は、検出部2と同様に、一組の微小電極として送液路111の両側に配設され、電極間に交流電圧を印加して、電極間に流れるインピーダンスの変化により、注入部3から注入された物質Sと微小粒子Pとの反応を検出する。検出部2及び反応検出部21は、先に説明したように、光学検出系として構成することもできる。
【0071】
注入部3から注入された物質Sと微小粒子Pとの反応の検出は、物質Sとの反応によって引き起こされる微小粒子Pの電気特性又は光学特性の変化によって検出する。まず、検出部2により、導入路111内を送流される微小粒子Pについて電気特性又は光学特性の判定を行う。次に、送液路112において分断された分散液中に注入部3から物質Sを注入した後、反応検出部21によって再度電気特性又は光学特性の判定を行う。そして、検出部2及び反応検出部21により得られた電気特性又は光学特性の判定結果の変化により、物質Sと微小粒子Pとの反応を検出する。
【0072】
反応検出部21は、物質Sと微小粒子Pとの反応が検出された場合、陽性信号を出力する。荷電部1111は、この陽性信号に基づいて分散液にプラス又はマイナスの荷電を付与する。これにより、反応が検出された微小粒子Pを分散液の電荷に基づいて、分岐流路113又は分岐流路114の一方に分取することができる。
【0073】
図11に、本実施形態における荷電部1111における荷電タイミングの一例を示す。図中上段から、検出部2からの検出信号、流体導入部12のバルブに入力される開閉信号、反応検出部21からの陽性信号、荷電部1111における荷電タイミングを時系列により示す。
【0074】
以上のように、本実施形態によれば、微小粒子Pのうち、所定の物質Sと反応した群のみを分取することが可能である。
【0075】
具体的な例としては、微小粒子Pとして核酸プローブを固相化したマイクロビーズを用い、物質Sとして標的核酸鎖を含む核酸鎖とインターカレーター性蛍光色素を注入すれば、核酸プローブと標的核酸鎖のハイブリダイゼーションを蛍光により検出し、ハイブリダイズしたマイクロビーズのみを分取することが可能である。
【0076】
また、例えば、微小粒子Pとして細胞を、物質Sとして細胞表面抗原に対する蛍光標識抗体を用いれば、細胞表面抗原に結合した蛍光標識抗体からの蛍光を選択的に検出することにより、特定の表面抗原を発現する細胞群のみを分取することが可能である。
【0077】
5.反応分析方法及び反応分析装置
図12は、本発明に係る送液方法を利用した反応分析方法を説明する模式図(流路上面図)である。
【0078】
図は、導入路111から送流される反応緩衝液を、流体導入部12から適宜流体を導入することにより分断して送液路112へ送流し、分断された反応緩衝液内で所定の反応の検出を行う方法を示す。
【0079】
図12中、符号31,32は、送液路112において分断された反応緩衝液中に所定の物質を注入するための注入部を示す。図では、注入部31から物質Sを、注入部32から物質Sを注入し、反応検出部21において物質Sと物質Sとの反応を検出する場合を示した。
【0080】
注入部31,32は、送液路112に複数配設することができ、分断された各反応緩衝液に対して、全ての注入部から、又はいずれかの注入部から選択的に、物質の注入を行うことができる。また、各注入部からは、複数の物質を同時に注入してもよく、複数の物質から一以上の物質を選択的に注入してもよい。
【0081】
一例として、注入部31から注入される単一の物質Sと反応し得る物質をスクリーニングする目的では、注入部32から物質Sとして複数の候補物質を1つずつ、分断された各反応緩衝液中に順次注入し、反応検出部21において各反応緩衝液内における反応の有無を検出する。その他、予め所定の物質を含有させた反応緩衝液を流路11内に導入すれば、該物質と一次反応し得る候補物質を注入部31から、一次反応生成物と反応し得る二次反応候補物質を注入部32から注入し、二段階のスクリーニングを行うことも可能である。
【0082】
また、PCRへの応用も可能である。例えば、予め増幅対象とする鋳型DNAと塩、ヌクレオチド(dTNPs)等を含有させた反応溶液を流路11内に導入し、注入部31及び注入部32からそれぞれフォワード及びリバースプライマーを複数の組み合わせで注入し、反応検出部21において各反応溶液内における反応の有無を検出すれば、鋳型DNAを効率的に増幅し得るプライマーセットを見出すことができる。
【0083】
反応検出部21は、図11で説明したように、一組の微小電極として送液路111の両側に配設され、電極間に交流電圧を印加して、電極間に流れるインピーダンスの変化により、物質Sと物質Sとの反応を検出する。また、光学検出系として構成してよい点も先に述べた通りである。
【0084】
図12中、符号4は、分断化された個々の反応緩衝液を識別するための識別用マイクロビーズ(図中、符号B参照)を注入するビーズ導入部を示す。
【0085】
識別用マイクロビーズBには、電気特性又は光学特性が個々に異なる磁性ビーズや蛍光ビーズであって、電気特性又は光学特性の特性値を識別信号として得ることにより個々のビーズを特定し得るものが用られる。識別用マイクロビーズBの識別信号は、反応検出部21によってその電気特性又は光学特性を測定することにより検知することが可能である。また、識別用マイクロビーズBとして、温度依存的に蛍光量が可逆的に変化する蛍光ビーズを用いれば、分断された個々の反応緩衝液について反応検出部21において温度を測定することが可能となる。この他、識別用マイクロビーズBには、温度、蛍光、散乱光、磁化、電荷、形状又は濃度等を反応検出部21により測定し、識別信号として検知し得るような表面修飾(加工)又は内部修飾(加工)がなされているガラスやポリスチレン製の各種ビーズを採用することが可能である。
【0086】
ビーズ導入部4は、注入部31,32による物質S,Sの注入前又は注入後において、これらのビーズを分断された反応緩衝液中に導入する。
【0087】
例えば、注入部31から注入される単一の物質Sと反応し得る物質をスクリーニングすることを目的として、注入部32から物質Sとして複数の候補物質を1つずつ、分断された各反応緩衝液中に順次注入する場合には、注入部32から注入される物質Sに応じて異なる識別用マイクロビーズBをビーズ導入部4から反応緩衝液中に導入する。そして、反応検出部21により、物質Sと物質Sとの反応検出と、識別用マイクロビーズBからの識別信号の検知を行うことにより、物質Sと識別用マイクロビーズBとの対応関係に基づいて、反応が検出された反応緩衝液中に注入された候補物質がどの物質であるのかを知ることが可能となる。
【0088】
以上のように、本発明に係る送液方法に基づけば、流路内を通流する反応緩衝液を分断し、分断された反応緩衝液に種々の物質を注入することにより、一つの流路内で複数の化学反応を同時に分析することが可能である。従って、マイクロチップ流路内を連続して送液される液体内で反応を行なう従来の方法に比べて、反応分析をハイスループット化することができる。
【0089】
なお、この本発明に係る送液方法に基づく反応分析方法において、上述の微小粒子の分取を行う場合と異なり、反応緩衝液を分断するための流体は気体又は液体であってよく、この液体が必ずしも電気的又は磁気的絶縁性を有していなくてもよい場合がある。ただし、識別用マイクロビーズBの電気的又は磁気的特性値を検知する場合には、絶縁性を有する液体を用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の第一実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る液体送液装置において、微小粒子の分散液を通流させた流路11を示す模式図(上面図)である。
【図3】第二実施形態における流体導入部12のバルブの開閉タイミングの一例を説明する図である。
【図4】第二実施形態における流体導入部12のバルブの開閉タイミングの他の例を説明する図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る液体送液装置において、分散液を2つの微小粒子ごとに分断した場合の流路11を示す模式図(上面図)である。
【図6】本発明の第三実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【図7】第三実施形態における荷電部1111の荷電タイミングの一例を説明する図である。
【図8】本発明の第四実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【図9】第四実施形態における荷電部1111の荷電タイミングの一例を説明する図である。
【図10】本発明の第五実施形態に係る液体送液装置の基板上に配設された流路を示す模式図(上面図)である。
【図11】第五実施形態における荷電部1111の荷電タイミングの一例を説明する図である。
【図12】本発明に係る送液方法を利用した反応分析方法を説明する模式図(流路上面図)である。
【符号の説明】
【0091】
1 基板
11 流路
111 導入路
112 送液路
113,114 分岐流路
1111 荷電部
1131,1141 電極
12 流体導入部
13 接続部
14 分岐部
2 検出部
21 反応検出部
3,31,32 注入部
4 ビーズ導入部
B 識別用マイクロビーズ
P 微小粒子
S,S,S 物質


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配設された流路内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入することにより、該流路内を通流する液体を分断して送液する液体送液方法。
【請求項2】
微小粒子の分散液が通流する流路内において、前記微小粒子の間に前記流体を導入して、該流路内を通流する前記分散液を所定数の微小粒子ごとに分断して送液する請求項1記載の液体送液方法。
【請求項3】
分断された前記分散液に付与された電荷又は磁化に基づいてその送流方向を制御することにより、前記微小粒子の分別を行う請求項2記載の液体送液方法。
【請求項4】
分断された前記分散液に物質を注入し、該物質と前記微小粒子との反応を検出し、その検出結果に基づいて前記電荷を付与することを特徴とする請求項3記載の液体送液方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法により分断された前記液体に複数の物質を注入する工程と、該物質間の反応を検出する工程と、を含む反応分析方法。
【請求項6】
さらに、分断された前記液体に識別用マイクロビーズを注入する工程と、該識別用マイクロビーズからの識別信号を検知する工程と、を含む請求項5記載の反応分析方法。
【請求項7】
前記識別信号は、前記識別用マイクロビーズの温度、蛍光、散乱光、磁化、電荷、形状又は濃度のいずれかから選択される一以上を測定することにより検知されるものである請求項6記載の反応分析方法。
【請求項8】
基板上に配設された流路内に気体又は絶縁性液体のいずれかの流体を導入するための流体導入部を備え、
該流体により、前記流路内を通流する液体を分断して送液する液体送液装置。
【請求項9】
前記流路の前記液体に臨む面に撥水性又は電気的絶縁性が付与されている請求項8記載の液体送液装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−133818(P2009−133818A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193130(P2008−193130)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】