説明

基板用保持具

【課題】搬送や輸送の際に薄い半導体ウェーハが損傷したり、破損するおそれを有効に排除することのできる基板用保持具を提供する。
【解決手段】保持リングの可撓性を有する粘着層5にバックグラインドされた薄い半導体ウェーハWを着脱自在に粘着保持させる基板用保持具1であり、保持リングを第一、第二の保持リング2・2Aとし、この第一、第二の保持リング2・2Aを上下二段に積層してその近接して相対向する一対の粘着層5の間に薄い半導体ウェーハWを挟持させ、第一の保持リング2の粘着層5と第二の保持リング2Aの粘着層5のいずれか一方を強粘着層6とするとともに、他方を弱粘着層7とする。強粘着層6と弱粘着層7が薄い半導体ウェーハWを全面に亘って挟持し、しかも、上下方向に撓んで搬送時等の振動や衝撃を吸収したり、減衰するので、薄い半導体ウェーハWを十分に保護することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い半導体ウェーハを保持、搬送、輸送等する際に使用される基板用保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハは、薄い半導体パッケージに適合させる観点から、バックグラインド工程で100μm以下、最近では50μm以下の薄さに研削され、シッピングボックスに収納されて搬送されたり、輸送される。しかしながら、半導体ウェーハは、バックグラインドされると、非常に薄く撓み易くなるので、そのままの状態で直接シッピングボックスに収納されると、搬送や輸送の際の振動で損傷したり、破損するおそれがある(特許文献1、2参照)。
【0003】
そこで、バックグラインドされた薄い半導体ウェーハは、そのままの状態で搬送や輸送に供されるのではなく、ダイシングフレーム等の基板用保持具に保持された状態でシッピングボックスに収納され、搬送や輸送に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006‐216775号公報
【特許文献2】特開2000‐208602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の薄い半導体ウェーハは、以上のように基板用保持具に保持された状態でシッピングボックスに収納されるが、基板用保持具の粘着テープに単に保持されるに止まる場合には、振動や衝撃に対する十分な保護が期待できず、依然として搬送や輸送の際に損傷したり、破損するおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、搬送や輸送の際に薄い半導体ウェーハが損傷したり、破損するおそれを有効に排除することのできる基板用保持具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、保持リングの可撓性を有する粘着層に薄い半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持させる保持具であって、
保持リングを第一、第二の保持リングに分割し、この第一、第二の保持リングを重ねてその対向する一対の粘着層の間に薄い半導体ウェーハを挟み持たせ、第一の保持リングの粘着層と第二の保持リングの粘着層のいずれか一方を強粘着層とするとともに、他方を弱粘着層としたことを特徴としている。
【0008】
なお、第一の保持リングは、相互に嵌め合わされる内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に強粘着層の周縁部を挟み持たせることができる。
また、第二の保持リングは、相互に嵌め合わされる内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に弱粘着層の周縁部を挟み持たせることができる。
【0009】
ここで、特許請求の範囲における薄い半導体ウェーハには、少なくともバックグラインドされたφ200、300、450mmのシリコンウェーハ等が含まれる。また、第一、第二の保持リングは、半導体ウェーハ以上の大きさであれば、材質を特に問うものではない。強粘着層は、第一の保持リングが半導体の製造工程でも使用される場合には、少なくとも耐熱性が付与されることが好ましい。さらに、本発明に係る基板用保持具は、薄い半導体ウェーハの搬送や輸送の場合に主に使用されるが、特にこれに限定されるものではなく、半導体の製造工程(例えばハンダリフロー工程等)等でも使用することができる。
【0010】
本発明によれば、薄い半導体ウェーハは、搬送されたり、輸送される際、第一、第二の保持リングの強粘着層と弱粘着層とに挟み持たれ、これら強粘着層と弱粘着層とが撓んで振動や衝撃を吸収・減衰するので、従来よりも厚く保護される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、搬送や輸送の際に薄い半導体ウェーハが損傷したり、破損するおそれを有効に排除することができるという効果がある。
【0012】
また、請求項2記載の発明によれば、内リングと外リングとを強粘着層の周縁部を介して嵌め合わせれば、第一の保持リングを簡単に組み立てることができる。また、必要に応じ、強粘着層を簡単に交換することもできる。
また、請求項3記載の発明によれば、内リングと外リングとを弱粘着層の周縁部を介して嵌め合わせれば、第二の保持リングを容易に組み立てることができる。また、弱粘着層の交換も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る基板用保持具の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図2】本発明に係る基板用保持具の実施形態におけるシッピングボックスを模式的に示す断面説明図である。
【図3】本発明に係る基板用保持具の実施形態における第一、第二の保持リングを模式的に示す断面説明図である。
【図4】本発明に係る基板用保持具の実施形態における第一、第二の保持リングを模式的に示す分解断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における基板用保持具1は、図1ないし図4に示すように、同じ大きさの第一、第二の保持リング2・2Aを備え、この第一、第二の保持リング2・2Aを上下二段に積層してその相対向する一対の粘着層5の間にバックグラインドされた薄い半導体ウェーハWを挟持させる保持具であり、薄い半導体ウェーハWを挟持した後に専用のシッピングボックス10に収納される。
【0015】
第一の保持リング2は、図1、図3、図4に示すように、相互に密嵌される中空の内リング3と外リング4とを備え、これら内リング3の外周面と外リング4の内周面との間に、薄い半導体ウェーハWに下方から粘着する粘着層5である強粘着層6の周縁部が着脱自在に挟持される。
【0016】
内リング3と外リング4とは、金属材料で製造される場合には、ステンレスや表面にメッキが施されて錆の発生を防止可能な材料で製造されることが好ましい。これに対し、樹脂を含む成形材料で製造される場合には、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリカーボネート、液晶ポリマー等を含有する成形材料で成形されることが好ましい。
【0017】
強粘着層6は、例えば自己粘着性、耐熱性、耐候性、難燃性、電気特性等に優れる屈曲可能な薄いシリコーンゴム製のシートからなり、導電フィラー等の各種のフィラーが必要に応じて配合されており、薄い半導体ウェーハWの大きさ以上の大きさの平面円形に形成される。この強粘着層6は、少なくとも薄い半導体ウェーハWに粘着する表面が弱粘着層7よりも粘着性に優れる強粘着性とされる。この強粘着性は、例えばシートの材質の選定やシートの表面に鏡面加工を適宜施すことにより実現される。
【0018】
第二の保持リング2Aは、図1、図3、図4に示すように、相互に密嵌される中空の内リング3と外リング4とを備え、これら内リング3の外周面と外リング4の内周面との間に、薄い半導体ウェーハWに上方から粘着する粘着層5である弱粘着層7の周縁部が着脱自在に挟持されており、第一の保持リング2と視覚的に見分けることができるよう所定の模様や色彩等が適宜施される。この内リング3と外リング4とは、第一の保持リング2の内リング3や外リング4と同様の材料で製造される。
【0019】
弱粘着層7は、例えば強粘着層6と同様に薄いシリコーンゴム製のシートからなり、薄い半導体ウェーハWの大きさ以上の大きさの平面円形に形成されており、第一、第二の保持リング2・2Aの積層時に強粘着層6に近接して対向する。この弱粘着層7は、少なくとも薄い半導体ウェーハWに粘着する表面が強粘着層6よりも粘着性に劣る弱粘着性とされる。この弱粘着性は、例えばシートの材質の選定、シートの表面にシボ加工や凹凸加工を適宜施すことにより実現される。
【0020】
薄い半導体ウェーハWは、特に限定されるものではないが、例えばバックグラインド工程で100μm以下、特に50μm以下の薄さに研削されたφ200mmの割れ易いシリコンウェーハからなる。
【0021】
シッピングボックス10は、図2に示すように、例えばトップオープンボックスのボックス本体11と、このボックス本体11の開口した上面に着脱自在に嵌合する蓋体12とを備え、これらボックス本体11と蓋体12との間に複数の基板用保持具1が上下方向に積層して収納される。ボックス本体11と蓋体12との間には、密封性を向上させる観点からエンドレスのシールガスケットが必要に応じて介在配備される。
【0022】
ボックス本体11と蓋体12とは、所定の樹脂を含有する成形材料によりそれぞれ射出成形される。この成形材料の所定の樹脂としては、例えばポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーといった熱可塑性樹脂やこれらのアロイ等があげられる。
【0023】
これら成形材料の樹脂には、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維、金属酸化物、導電性ポリマー等の導電剤やアニオン、カチオン、非イオン系等の各種帯電防止剤が選択的に添加される。また、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系、シアノアクリレート系、オキザリックアシッドアニリド系、ヒンダードアミン系の紫外線吸収剤を添加したり、剛性を向上させるガラス繊維や炭素繊維等を添加することも可能である。
【0024】
ボックス本体11の内底面には、基板用保持具1を包囲する複数の位置決めピン13が所定の間隔で立設される。また、蓋体12の天井内面には、基板用保持具1を包囲する複数の位置決めピン14が所定の間隔で選択的に配設される。
【0025】
上記構成において、基板用保持具1にバックグラインドされた薄い半導体ウェーハWを挟持させる場合には、第一の保持リング2の緊張した強粘着層6上に薄い半導体ウェーハWを隙間なく粘着保持させ、第一の保持リング2に第二の保持リング2Aを積層して薄い半導体ウェーハWの露出面に緊張した弱粘着層7を粘着すれば、第一、第二の保持リング2・2Aの強粘着層6と弱粘着層7とに薄い半導体ウェーハWを安定した姿勢で挟持させることができる。
【0026】
次に、基板用保持具1に挟持された薄い半導体ウェーハWをシッピングボックス10に収納する場合には、シッピングボックス10のボックス本体11内に基板用保持具1を水平状態に必要数収納して積層するとともに、この基板用保持具1を複数の位置決めピン13により位置決めし、ボックス本体11の開口した上面に蓋体12を被せて嵌合すれば、薄い半導体ウェーハWをシッピングボックス10に複数枚収納することができる。この際、後の取り外し作業を容易にする観点から、各基板用保持具1の第二の保持リング2Aを上方に位置させることが好ましい。
【0027】
このようにしてシッピングボックス10に収納された薄い半導体ウェーハWは、搬送されたり、輸送されるが、強粘着層6と弱粘着層7とに上下方向から全面に亘って挟持され、しかも、これら強粘着層6と弱粘着層7とが上下方向に撓んで緩衝機能を発揮するので、十分な保護が期待できる。したがって、搬送や輸送の際の振動で薄い半導体ウェーハWが損傷したり、破損するおそれを有効に排除することができる。
【0028】
また仮に、薄い半導体ウェーハWが損傷したり、破損したとしても、強粘着層6や弱粘着層7に薄い半導体ウェーハWの全面が既に粘着しているので、破損部分が周囲に飛散するおそれがない。したがって、他の薄い半導体ウェーハWに悪影響を及ぼすことが全くない。
【0029】
搬送や輸送が終了した後、シッピングボックス10から取り出した薄い半導体ウェーハWに各種の加工や処理を施したい場合には、先ず剥離の容易な弱粘着層7に着目し、薄い半導体ウェーハWから上方の弱粘着層7を剥離して第二の保持リング2Aを取り外し、図示しないチャックテーブルの表面に薄い半導体ウェーハWを真空吸着し、その後、薄い半導体ウェーハWから強粘着層6を剥離して第一の保持リング2を取り外せば、薄い半導体ウェーハWに各種の加工や処理を施すことができる。
【0030】
なお、シッピングボックス10から取り出した薄い半導体ウェーハWをハンダリフロー工程に供する場合には、後から取り外す第一の保持リング2の強粘着層6に十分な耐熱性を予め付与しておけば良い。こうすれば、ハンダリフロー工程で第一の保持リング2から薄い半導体ウェーハWを分離することなく、そのまま使用することができ、実に便利である。
【0031】
上記構成によれば、強粘着層6と弱粘着層7とが薄い半導体ウェーハWを全面に亘って挟持し、かつ上下方向に撓んで搬送時等の振動や衝撃を吸収したり、減衰するので、薄い半導体ウェーハWを十分に保護することができ、搬送や輸送の際に薄い半導体ウェーハWが損傷したり、破損するおそれが全くない。
【0032】
また、一対の強粘着層6を単に使用するのではなく、強粘着層6と弱粘着層7とを使用して粘着性に差異をもたせるので、薄く脆い半導体ウェーハWに対する粘着力が過剰になるのを抑制することができる。したがって、薄く脆い半導体ウェーハWから粘着層5を剥離する際、薄い半導体ウェーハWがその厚さ方向の中心部付近で破損するのを抑制防止することができる。
【0033】
なお、上記実施形態では第一の保持リング2に強粘着層6を挟持させ、第二の保持リング2Aに弱粘着層7を挟持させたが、第一の保持リング2に弱粘着層7を挟持させ、第二の保持リング2Aに強粘着層6を挟持させても良い。また、第一、第二の保持リング2・2Aは、半導体ウェーハWに対応する平面リング形が好ましいが、枠形等でも良い。また、内リング3の外周面と外リング4の内周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部を形成し、これら凹部と凸部とをきつく嵌合して内リング3と外リング4の分離を防止するようにしても良い。
【0034】
また、上記実施形態では強粘着層6と弱粘着層7とをシリコーンゴム製のシートとしたが、何らこれに限定されるものではない。例えば強粘着層6や弱粘着層7を、フッ素系のゴム、ポリオレフィン系やポリエステル系、ウレタン系のエラストマーフィルム、ポリエステル製のフィルムに再剥離可能なアクリル系やシリコーン系の粘着層5が積層された積層フィルムの加工により形成しても良い。さらに、ボックス本体11の位置決めピン13の代わりに位置決め用のガイド片を所定の間隔で配設したり、蓋体12の位置決めピン14を省略することもできる。
【符号の説明】
【0035】
1 基板用保持具
2 第一の保持リング
2A 第二の保持リング
3 内リング
4 外リング
5 粘着層
6 強粘着層
7 弱粘着層
10 シッピングボックス
11 ボックス本体
12 蓋体
W 半導体ウェーハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持リングの可撓性を有する粘着層に薄い半導体ウェーハを着脱自在に粘着保持させる基板用保持具であって、
保持リングを第一、第二の保持リングに分割し、この第一、第二の保持リングを重ねてその対向する一対の粘着層の間に薄い半導体ウェーハを挟み持たせ、第一の保持リングの粘着層と第二の保持リングの粘着層のいずれか一方を強粘着層とするとともに、他方を弱粘着層としたことを特徴とする基板用保持具。
【請求項2】
第一の保持リングは、相互に嵌め合わされる内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に強粘着層の周縁部を挟み持たせる請求項1記載の基板用保持具。
【請求項3】
第二の保持リングは、相互に嵌め合わされる内リングと外リングとを備え、これら内リングと外リングとの間に弱粘着層の周縁部を挟み持たせる請求項1又は2記載の基板用保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23270(P2012−23270A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161418(P2010−161418)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】