説明

基板装置、発光装置及びそれらの製造方法、並びに電子機器

【課題】電極及び発光機能層間の汚染物が発光素子の特性に影響を与えないようする。
【解決手段】本発明は、基板上に画素電極(13)を形成する工程と、この画素電極の表面を洗浄する工程と、この画素電極を覆うように第1正孔注入層(181a)を形成する工程と、を含む。そして、前記基板面内の第1位置に関して、第1正孔注入層と同じ材料からなる第2正孔注入層(181R)を形成する工程と、その上に発光層(183R)を形成する工程とが行われ、その後、前記基板面内の第2位置に関して、前記第1正孔注入層と同じ材料からなる第2正孔注入層(181G)を形成する工程と、その上に発光層(183G)を形成する工程とが行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜が積層された構造をもつ基板装置、有機EL(electro luminescent)素子等を含む発光装置、及びそれらの製造方法、並びに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、即ち有機EL素子がある。有機EL素子は、有機材料を含む少なくとも一層の有機薄膜を画素電極と対向電極とで挟んだ構造を有する。このうち画素電極は例えば陽極として、対向電極は陰極として機能する。両者間に電流が流されると、前記有機薄膜で電子及び正孔間の再結合が生じ、これにより、当該有機薄膜ないしは有機EL素子は発光する。なお、この場合、この有機EL素子は、例えば種々の蒸着法等を用いて、基板上に、前記の画素電極、有機薄膜及び対向電極が順次に成膜されることによって製造される。
このような有機EL素子を多数並べ、かつ、その各々につき発光及び非発光を適当に制御すれば、所望の意味内容をもつ画像等の表示が可能となる。
かかる有機EL素子としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開平11−45779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述のような有機EL素子においては、可能な限り発光効率が向上することが期待される。しかしながら、これを実現するのは容易とはいえない。具体的には例えば、前記の画素電極及び有機薄膜間に何らかの汚染が生じていると、その汚染が画素電極からの正孔注入効率を低下させることになる等、有機EL素子の発光効率の向上を妨げる様々な要因が存在するからである。
【0004】
また、上記有機EL素子においては、その寿命に関する問題がある。すなわち、例えば、有機EL素子内に水分等が進入し又は存在すると、前記の画素電極あるいは対向電極と有機薄膜との間に乖離が生じ、あるいは有機薄膜それ自体の劣化等を招き、有機EL素子の寿命が短縮化されてしまう(最終的には発光が不可能になる)。この場合も、その寿命短期化の主要な要因の1つとして、前述した画素電極及び有機薄膜間の汚染の存在が考えられる。
【0005】
前記の特許文献1は、このような問題点を解消するため、「1.33×104 Pa以下の減圧下でオゾナイザーにより発生されたオゾンガスにより」、「ホール注入電極が形成された基板表面を洗浄する洗浄手段」を備えた「有機EL素子の製造装置」を開示する(以上、「」内は特許文献1の〔請求項1〕から抜粋)。特許文献1はこれにより、オゾン洗浄をすることなく製造した有機EL素子に比べて、輝度半減時間(即ち、寿命)が概ね2倍以上となることを主張する(特許文献1の〔0081〕〔0083〕。当該段落では、「300時間」が「700時間」になると記載されている。)。
【0006】
しかしながら、仮にこのようなオゾン洗浄を行うにしても、なお次のような問題がある。
すなわち、前述のように、多数の有機EL素子を製造する場合、その1個1個の有機EL素子に関する何らかの特性を変化させるため、ある有機EL素子に関する画素電極の成膜後から有機薄膜の成膜までの間に一定の時間をあけざるを得ない場合がある。例えば、前記多数の有機EL素子によってカラー画像表示を行う場合を考えると、これら多数の有機EL素子は、例えば赤色用、緑色用及び青色用の3つの群に区分され、かつ、その群ごとに前記各色の有機薄膜が個別に成膜されていく、という場合が想定される。しかし、この際、例えば赤色用の有機薄膜を成膜している最中においては、緑色用及び青色用の有機薄膜が未成膜である、いわば製造途上の有機EL素子に関して、何らかの手段により赤色用の有機薄膜が成膜されることを防止する工夫をしておく必要があり、しかもその間、当該有機EL素子に関する、前記オゾン洗浄等の後の画素電極はいわばほったらかしの状態におかれることになる。
このようであると、画素電極を仮に完璧に洗浄し得たとしても、そのような待機中に再び汚染が生じてしまうおそれがある。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決することの可能な基板装置、発光装置及びそれらの製造方法、並びに、電子機器を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる態様の基板装置、発光装置、それらの製造方法、あるいは電子機器に関連する課題を解決可能な、基板装置、発光装置、それらの製造方法、あるいは電子機器を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る基板装置の製造方法は、上述した課題を解決するため、基板上に第1層を形成する工程と、前記第1層の上かつ前記基板面内の第1位置に、第1‐2層(以下、「第A-B層」とは、第A位置における第B層ということを意味する。)を形成する工程と、前記第1層の上かつ前記基板面内の第2位置に、前記第1層と同じ材料からなる第2‐2層を形成する工程と、前記第2‐2層の上に、前記第1‐2層が果たす機能と同等の機能を果たす第2‐3層を形成する工程と、を含む。
【0009】
本発明によれば、「第1‐2層」は、第1層の上に間を置かずに形成可能であるから、両者間に汚染が生じているおそれは極めて少ない。
しかし、この「第1‐2層」が果たす機能と同等の機能を果たす「第2‐3層」が形成されるべき「第2位置」は、第1‐2層が形成されるまで、いわばほったらかしの状態におかれることになるから、その間、当該第2位置において汚染が生じるおそれがある。
しかるに、本発明においては、この「第2位置」には、「第2‐3層」の形成前に、前記「第2‐2層」が形成される。したがって、仮に、この第2位置に対応する第1層面上の位置に、何らかの汚染が生じていたとしても、その汚染はいわば当該「第2‐2層」によって覆い隠されることになる。しかも、この第2‐2層は、第1層と「同じ材料からなる」から、例えば両者間の性質の違いによる何らかの不具合が生じるおそれも殆どない。そして、前記の第2‐3層は、このような第2‐2層の形成後、その上に間を置かずに形成可能であるから、両者間に汚染が生じているおそれは極めて少ない。
このように、本発明においては、第1‐2層及び第1層間、あるいは、第2‐3層及び第2‐2層間に汚染が生じるおそれが極めて少なくなる。
【0010】
なお、本発明にいう「第1位置」及び「第2位置」のそれぞれは、基板面上で識別可能な別々の位置を意味する。したがって、例えば「第1位置に、第1‐2層…を形成する」というのは、この第1位置以外の位置との区別のため、所定のパターニング処理等、基板面上の当該第1位置に島状の層を形成するための処理が実行されることを含意する。
また、本発明において、「第2‐3層」が、「第1‐2層が果たす機能と同等の機能を果たす」というのは、例えば後述するように、これら両層がともに、発光装置を構成する発光素子内の“発光層”である、などというような場合を含意する。この場合における、これら第2‐3層及び第1‐2層(即ち、“発光層”)はともに、例えば“正孔及び電子の再結合に起因した光を発する”という機能をもつという意味においては、(仮に一方は赤色光を発し、他方は緑色光を発するなどといった相違があるとしても)等価である。
【0011】
他方、本発明に係る第1の発光装置の製造方法は、上述した課題を解決するため、前述した基板装置の製造方法を用いた発光装置の製造方法であって、前記第1及び第2位置に第1電極層を形成する工程と、前記第1電極層の表面を洗浄する工程と、前記第1電極層を覆うように、前記第1層として第1正孔注入層を形成する工程と、前記第1‐2層として第1発光層を形成する工程と、前記第2‐2層として第2正孔注入層を形成する工程と、前記第2‐3層として第2発光層を形成する工程と、前記第1及び第2位置に又はこれらの位置を含む領域を覆うように、かつ、前記第1及び第2発光層の上に、第2電極層を形成する工程と、によって、少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第1及び第2発光層からなる、少なくとも2つの発光素子を製造する工程、を含む、
【0012】
本発明によれば、まず、第1電極層の表面が、例えば前述のようなオゾンガス等による洗浄を受ける。そして、前記第1層としての「第1正孔注入層」は、その第1電極層を覆うように形成されるから、これら各層間に汚染が生じるおそれは極めて少ない。
また、本発明の製造方法が完了すると、基板上の第1位置では、第1電極層、第1正孔注入層、第1発光層及び第2電極層とうい積層構造が、第2位置では、第1電極層、第1正孔注入層、第2正孔注入層、第2発光層及び第2電極層とうい積層構造が、それぞれ構築される。そして、前述した基板装置の製造方法についての説明から明らかなように、この場合、第1正孔注入層及び第1発光層間、あるいは、第2正孔注入層及び第2発光層間に汚染が生じるおそれが極めて少なくなる。
このようにして、本発明によって製造される発光装置に含まれる発光素子は、その発光効率が向上し、あるいは、その寿命が長期化する。
【0013】
この発明の発光装置の製造方法では、前記第1及び第2正孔注入層に代えて、前記第1層として第1正孔輸送層を形成する工程と、前記第2‐2層として第2正孔輸送層を形成する工程と、を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、前述した積層構造のうち、第1及び第2正孔注入層とあるところを、第1及び第2正孔輸送層に代えた積層構造が構築される。これによっても、前述した本発明に係る効果と本質的に異ならない効果が奏されることは明白である。
なお、本態様においては、「前記第1及び第2正孔注入層に代えて」、第1及び第2正孔輸送層が形成されるのではあるが、“正孔注入層”それ自体を形成してはならないわけではない。例えば、第1位置における積層構造は、第1電極層、“正孔注入層”、第1正孔輸送層、第1発光層及び第2電極層、といったようなものであってよい。
また、逆に、前述の発明においては“正孔輸送層”についての言及がないが、これについても同様のことが言える。例えば、前述の発明において、第1電極層、第1正孔注入層、第2正孔注入層、第2発光層及び第2電極層、とあるところは、第1電極層、第1正孔注入層、第2正孔注入層、“正孔輸送層”、第2発光層及び第2電極層、であってもよい。
【0014】
また、本発明の発光装置の製造方法では、前記基板面内の第3位置に、前記第1層としての第1正孔注入層又は第1正孔輸送層と同じ材料からなる、第3正孔注入層又は第3正孔輸送層を形成する工程と、当該層の上に、第3‐3層として第3発光層を形成する工程と、を更に含み、前記第2電極層は、前記第1及び第2位置に加えて、前記第3位置にも又はこの位置をも含む領域を覆うように、形成され、前記2つの発光素子に加えて、少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第3発光層からなる、3つ目の発光素子を製造する、ように構成してもよい。
この態様によれば、3つ目の発光素子が、前述の「第2‐2層」及び「第2‐3層」と同様の要領で製造される。このように、本発明においては、原理的には何個でも「発光素子」を製造していくことができる。また、本態様では特に、この3つ目の発光素子の製造開始までに、2つの発光素子に関する所定の工程の完了を待たなければならないが、このように待機時間が比較的長くなったとしても、「第3発光層」及び「第3正孔注入層」等の間に汚染が生じているおそれはやはり極めて少ない。そのような場合でも、ここでいう「第3正孔注入層」は、前述した「第2正孔注入層」あるいは「第2‐2層」と同じ作用を発揮するからである。
【0015】
また、本発明の発光装置の製造方法では、前記第1、第2及び第3発光層は、それぞれ異なる色をもつ光を発し、かつ、それらそれぞれの膜厚は相互に異なり又はその全部又は一部が一致する、ように構成してもよい。
この態様によれば、最終的に製造される発光装置において、好適にカラー画像が表示可能になる。また、本態様のように、第1、第2及び第3発光層がそれぞれ異なる色をもつ光を発するという場合、典型的には、これらそれぞれの材料は異なることになると考えられる。そうすると、これら各層は個別に形成されていく必要があることになるから、前述した、本発明に係る作用効果が活きてくる。つまり、本態様は、当該作用効果を最も実効的に享受可能な態様の1つということができる。
【0016】
また、本発明の発光装置の製造方法では、前記第1、第2及び第3発光層は、すべて同じ材料からなり、かつ、それらそれぞれの膜厚は相互に異なる、ように構成してもよい。
この態様によれば、例えば、最終的に製造される発光装置において、それを構成する各発光素子が異なる光学的距離をもつ光共振器を含む、などといったことが可能となる。また、本態様のように、第1、第2及び第3発光層がそれぞれ異なる膜厚をもつという場合、典型的には、これら各層は個別に形成されていく必要があることになるから、前述した、本発明に係る作用効果が活きてくる。つまり、本態様は、当該作用効果を最も実効的に享受可能な態様の1つということができる。
【0017】
直前に述べた2つの態様においては、前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、
その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、を含み、前記膜厚は、前記発光素子の各々について、前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、ように構成してもよい。
この態様によれば、前述のような光共振器が構築される。したがって、ある特定の波長をもつ光を強調することが可能である。また、このような場合は、上述のように、前述した本発明に係る作用効果を最も実効的に享受可能である。
【0018】
また、本発明の発光装置の製造方法では、前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、を含み、前記正孔注入層、又は、前記正孔輸送層の膜厚は、前記発光素子の各々について、前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、ように構成してもよい。
この態様によれば、最終的に製造される発光装置において、それを構成する各発光素子は、前記反射層及び半透明半反射層からなる共振器を含む。そして、本態様においては、前記「正孔注入層」等が当該共振器の光学的距離を調整する役割を担う(なお、本態様において、単に、「正孔注入層」あるいは「正孔輸送層」とあるのは、それぞれ、前述した第1、第2又は第3正孔注入層、あるいは、第1、第2又は第3正孔輸送層、の全部又は一部を含む。)。
このように、本態様においては、「正孔注入層」等が前述したような汚染隠蔽という役割と、いま述べた光学的距離調整という役割の2つの役割を同時に担うことになるので、第2以降の正孔注入層又は正孔輸送層を形成する意義がより高まる。
ちなみに、この場合、「第1層」としての「第1正孔注入層」等と、「第1‐2層」としての「第1発光層」との間に、いわば「第1‐1.5層」(ここで「1.5」というのは、単に、1と2の間を表したい、という意図を有するに過ぎない。)ともいうべき正孔注入層等が介挿されてよい。これによれば、本態様に係る光学的距離調整がより容易になり得る。
【0019】
他方、本発明に係る第2の発光装置の製造方法は、上記課題を解決するため、前述した基板装置の製造方法を用いた発光装置の製造方法であって、前記第1及び第2位置に第3電極層を形成する工程と、前記第3電極層の表面を洗浄する工程と、前記第3電極層の上に発光層を形成する工程と、前記発光層を覆うように、前記第1層として第1電子注入層を形成する工程と、前記第1‐2層として第4電極層を形成する工程と、前記第2‐2層として第2電子注入層を形成する工程と、前記第2‐3層として第5電極層を形成する工程と、によって、少なくとも前記第3電極層と前記第4及び第5電極層、並びにこれら第3電極層と第4及び第5電極層とによって挟持される前記発光層からなる、少なくとも2つの発光素子を製造する工程、を含む。
【0020】
本発明によれば、前述の「第1層」及び「第2‐2層」として、「第1電子注入層」及び「第2電子注入層」がそれぞれ形成され、「第1‐2層」及び「第2‐3層」として、「第4電極層」及び「第5電極層」がそれぞれ形成される。
したがって、本発明においては、前述した第1の発明に係る作用効果が、「第1電子注入層」及び「第4電極層」間において、あるいは、「第2電子注入層」及び「第5電極層」間において、享受されることになる。
なお、本発明において、「第4電極層」及び「第5電極層」は、相互に物理的に分断されるように形成されてもよいが、場合によっては、一体的に(例えば、基板全面を覆うように)形成されてよい。また、本発明に係る「発光層」も、第1及び第2位置に形成された第3電極層を覆うように、あるいは、前記基板の全面を覆うかのように形成されてよい。その場合、当該の発光層は好適には同じ材料からなる。
【0021】
この発明の発光装置の製造方法では、前記第1及び第2電子注入層に代えて、前記第1層として第1電子輸送層を形成する工程と、前記第2‐2層として第2電子輸送層を形成する工程と、を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、「第1電子輸送層」及び第4電極層間、あるいは、「第2電子輸送層」及び第5電極層間において、前記の作用効果が享受される。
なお、本態様に言う「代えて」の意義は、上述と同様である。つまり、本態様において、“電子注入層”が並存してよい。また、逆に、上述の発明においても、“電子輸送層”が並存してよい。
【0022】
また、本発明の発光装置の製造方法では、前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、を含み、前記電子注入層、又は、前記電子輸送層の膜厚は、前記発光素子の各々について、前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、ように構成してもよい。
この態様によれば、最終的に製造される発光装置において、それを構成する各発光素子は、前記反射層及び半透明半反射層からなる共振器を含む。そして、本態様においては、前記「電子注入層」等が当該共振器の光学的距離を調整する役割を担う(なお、本態様において、単に、「電子注入層」あるいは「電子輸送層」とあるのは、それぞれ、前述した第1又は第2電子注入層、あるいは、第1又は第2電子輸送層、の全部又は一部を含む。)。
このように、本態様においては、「正孔注入層」等が前述したような汚染隠蔽という役割と、いま述べた光学的距離調整という役割という2つの役割を同時に担うことになるので、第2以降の正孔注入層又は正孔輸送層を形成する意義がより高まる。
ちなみに、この場合、「第1層」としての「第1電子注入層」等と、「第1‐2層」としての「第4電極層」との間に、いわば「第1‐1.5層」(ここで「1.5」というのは、単に、1と2との間である、という意図を表現しているに過ぎない。)ともいうべき電子注入層等が介挿されてよい。これによれば、本態様に係る光学的距離調整がより容易になり得る。
【0023】
なお、以上に述べた、第1電子注入層、第2電子注入層、第1電子輸送層又は第2電子輸送層を含む発明の構成においては、それらに加えて、前述した第1,第2,第3正孔注入層あるいは第1,第2,第3正孔輸送層が含まれてよい。また、そのような場合であって、なお前記共振器をも含む態様にあっては、その光学的距離の調整は、前記各種の正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、あるいは電子輸送層の膜厚の全部又は一部が利用されてよい(例えば、正孔注入層と電子注入層の双方の膜厚が調整対象となって、光学的距離が定まる、などというようである。)。
以上のような態様は、本発明に係る「基板装置の製造方法」が、1個の発光装置を製造するに当たって、いわば2度以上適用されているともいえる。
【0024】
一方、本発明の基板装置は、上記課題を解決するため、基板と、基板上に形成された第1層と、前記第1層の上かつ当該第1層面内の第1位置に形成された第1‐2層(以下、「第A-B層」とは、第A位置における第B層ということを意味する。)と、前記第1層の上かつ当該第1層面内の第2位置に形成された、前記第1層と同じ材料からなる第2‐2層と、前記第2‐2層の上に形成された、前記第1‐2層とは異なる材料からなる第2‐3層と、を備える。
【0025】
本発明によれば、上述した、本発明に係る「基板装置の製造方法」に関する説明から明らかなように、第1層及び第1‐2層、あるいは、第2‐2層及び第2‐3層間に汚染が生じていない、好適な基板装置が提供される。
【0026】
また、本発明の発光装置は、上記課題を解決するために、前述した基板装置を含む発光装置であって、前記第1及び第2位置に形成された第1電極層と、前記第1電極層を覆うように、前記第1層として形成された第1正孔注入層と、前記第1‐2層として形成された第1発光層と、前記第2‐2層として形成された第2正孔注入層と、前記第2‐3層として形成された第2発光層と、前記第1及び第2位置に又はこれらの位置を含む領域を覆うように、かつ、前記第1及び第2発光層の上に、形成された第2電極層と、によって、少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第1及び第2発光層からなる、少なくとも2つの発光素子、を含む。
【0027】
本発明によれば、上述した、本発明に係る「発光装置の製造方法」に関する説明から明らかなように、第1層たる「第1正孔注入層」及び第1‐2層たる「第1発光層」、あるいは、第2‐2層たる「第2正孔注入層」及び第2‐3層たる「第2発光層」間に汚染が生じないので、発光素子の発光効率が高まり、あるいは、その寿命が長期化する。
【0028】
また、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した発光装置を備える。
本発明によれば、発光素子の発光効率が高まり、あるいは、その寿命が長期化しているので、当該電子機器によって表示され得る画像の品質が高まり、あるいは、当該電子機器の寿命も長期化する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<有機EL装置の構成>
以下では、本発明に係る実施の形態について図1乃至図3を参照しながら説明する。なお、ここに言及した図1乃至図3に加え、以下で参照する各図面においては、各部の寸法の比率が実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0030】
有機EL装置100は、図1に示すように、素子基板7と、この素子基板7上に形成される各種の要素とを備えている。各種の要素とは、有機EL素子8、走査線3及びデータ線6、走査線駆動回路103A及び103B、並びにデータ線駆動回路106である。
【0031】
有機EL素子(発光素子)8は、図1、あるいは図3に示すように、素子基板7上に複数備えられる。それら複数の有機EL素子8はマトリクス状に配列されている。有機EL素子8の各々は、画素電極13、発光機能層及び対向電極から構成されている。これら各要素の詳細に関しては後に改めて触れる。
画像表示領域7aは、素子基板7上、これら複数の有機EL素子8が配列されている領域である。画像表示領域7aでは、各有機EL素子8の個別の発光及び非発光に基づき、所望の画像が表示され得る。なお、以下では、素子基板7の面のうち、この画像表示領域7aを除く領域を、「周辺領域」と呼ぶ。
【0032】
走査線3及びデータ線6は、それぞれ、マトリクス状に配列された有機EL素子8の各行及び各列に対応するように配列されている。より詳しくは、走査線3は、図1に示すように、図中左右方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されている走査線駆動回路103A及び103Bに接続されている。一方、データ線6は、図中上下方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されているデータ線駆動回路106に接続されている。これら各走査線3及び各データ線6の各交点の近傍には、前述の有機EL素子8等を含む単位回路(画素回路)Pが設けられている。
【0033】
単位回路Pは、図2に示すように、前述の有機EL素子8を含むほか、nチャネル型の第1トランジスタ68、pチャネル型の第2トランジスタ9、及び容量素子69を含む。
単位回路Pは、電流供給線113から給電を受ける。複数の電流供給線113は、図示しない電源に接続されている。
また、pチャネル型の第2トランジスタ9のソース電極は電流供給線113に接続される一方、そのドレイン電極は有機EL素子8の画素電極に接続される。この第2トランジスタ9のソース電極とゲート電極との間には、容量素子69が設けられている。一方、nチャネル型の第1トランジスタ68のゲート電極は走査線3に接続され、そのソース電極はデータ線6に接続され、そのドレイン電極は第2トランジスタ9のゲート電極と接続される。
単位回路Pは、その単位回路Pに対応する走査線3を走査線駆動回路103A及び103Bが選択すると、第1トランジスタ68がオンされて、データ線6を介して供給されるデータ信号を内部の容量素子69に保持する。そして、第2トランジスタ9が、データ信号のレベルに応じた電流を有機EL素子8に供給する。これにより、有機EL素子8は、データ信号のレベルに応じた輝度で発光する。
【0034】
なお、前述では、走査線駆動回路103A及び103B、並びにデータ線駆動回路106のすべてが素子基板7上に形成される例について説明しているが、場合によっては、そのうちの全部又は一部を、フレキシブル基板に形成するのであってもよい。この場合、当該のフレキシブル基板と素子基板7との両当接部分に適当な端子を設けておくことにより、両者間の電気的な接続を可能とする。
【0035】
平面視した場合に概略以上に述べたような構成を備える有機EL装置は、図3に示すような積層構造物250を備えている。この積層構造物250は、図3に示すように、素子基板7を基準として、図中下から順に、回路素子薄膜11、層間絶縁膜302、反射層34、画素電極13、発光機能層18、並びに対向電極5等を含む。
【0036】
このうち、層間絶縁膜302は、その他の残る導電性要素間の短絡が生じないように、あるいは、これら導電性要素の積層構造物250中の好適な配置を実現するため等に貢献する。層間絶縁膜は、積層構造物250中、単層のみ設けられるとは限らず、様々な厚さでもって様々な絶縁性材料から作られうるが、好適には、その積層構造物250中の配置位置や役割等に応じて、適宜適当な厚さ及び材料が選択されるとよい。
より具体的には例えば、層間絶縁膜302は、SiO、SiN、SiON等々で作られて好ましい。
【0037】
回路素子薄膜11は、前述の単位回路Pに含まれる第1トランジスタ68や第2トランジスタ9等を含む。図では極めて簡略化されて描かれているが、この回路素子薄膜11は、これら各種のトランジスタを構成する半導体層、ゲート絶縁膜、ゲートメタル等や容量素子69を構成する電極用薄膜(いずれも不図示)、その他の金属薄膜から構成される。なお、図3に示す積層構造物250中には、前述した走査線3及びデータ線6も当然構築されているが、その図示は省略されている。
【0038】
反射層34は、前述の層間絶縁膜302の上に形成されている。この反射層34は、発光機能層18から発せられた光を反射する。この反射光は、図3に示すように、図中上方に向かって進行する。このように、発光機能層18から発せられた光は、素子基板7が存在する側とは反対側に進行するようになっているので、本実施形態の有機EL装置100は、いわゆるトップエミッション型である。このため、素子基板7は、必ずしも、透光性材料から作られている必要はなく、セラミックスや金属等の不透明材料で作られてよい(これとは反対に、ボトムエミッション型の場合、素子基板7は、透光性材料から作られている必要がある。)。
このような反射層34は、上述の反射機能をよりよく発揮するため、光反射性能の比較的高い材料から作られているとよい。例えば、アルミニウムや銀等を利用することができる。
【0039】
一方、前記有機EL素子8の各々は、図3に示すように、積層構造物250を構成する前述の各種の要素のうち、画素電極13、発光機能層18、及び対向電極5から構成される。
【0040】
このうち画素電極13は、素子基板7上に、マトリクス状に配列するように形成されている。有機EL素子8がマトリクス状に配列されているということは、このように画素電極13がマトリクス状に配列されているということに相応する(図1参照)。また、前述の反射層34も、同様な意味でマトリクス状に配列されている(図1参照)。
この画素電極13は、コンタクトホール363を介して、前述の回路素子薄膜11と電気的に接続されている。これにより、この画素電極13は、図2に示した第2トランジスタ9から供給される電流を、発光機能層18に印加可能である。なお、コンタクトホール363は、層間絶縁膜302を貫通するようにして形成されている。
このような画素電極13は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)単層膜、あるいは、極薄のアルミニウム(Al)、銀(Ag)、あるいはAgと、ITOとの積層膜、等々の導電性材料から作られている。
【0041】
隔壁層340は、図3に示すように、上述したような画素電極13のうち、平面視して隣接する画素電極13間の領域に形成されている。この隔壁層340は、各有機EL素子8を区画する役割を担う。なお、この隔壁層340は、層間絶縁膜304の一部を構成する。
このような隔壁層340は、例えば絶縁性の透明樹脂材料で作られて好適である。
【0042】
発光機能層18は、図3に示すように、画素電極13の上に、かつ、個々の画素電極13の形成領域に対応するように形成されている。本実施形態では、この発光機能層18に関して特徴があるが、その点については後に改めて触れる。
【0043】
対向電極5は、図3に示すように、複数の有機EL素子8の発光機能層18に接触している。この対向電極5も、上述の発光機能層18と同様、個々の画素電極13の形成領域に対応するように形成されている。
このような対向電極5は、例えばMgAl、MgCu、MgAu、MgAg等の合金又は金属材料から作られる。また、この対向電極5は、例えば5〜20〔nm〕程度の厚さ等、そこに到達する光の一部が透過可能であるような厚さをもつ。これにより、対向電極5は、半透明半反射性能を備える。
【0044】
以上に述べた積層構造物250のほか、図3において、有機EL装置100は、対向基板50を備え、更に、この対向基板50の上に前記とは別の積層構造物を備えている。この積層構造物は、図3に示すように、対向基板50を基準として、その図中下側に向かって順に、カラーフィルタ51及び遮光膜591からなる。
【0045】
まず、対向基板50は、例えばガラスや石英、プラスチックなどの透光性材料で作られる。
カラーフィルタ51は、平面視して画素電極13の形成領域に対応する領域に形成されている。カラーフィルタ51は、赤色フィルタ51R、緑色フィルタ51G、並びに青色フィルタ51Bを含む。これら各色のフィルタ(51R,51G,51B)は、前記の画素電極13の形成領域に対応するように、マトリクス状に配列されている。
カラーフィルタ51は、発光機能層18から届く光のうち、所定の波長域の光だけを透過させる。すなわち、例えば、赤色フィルタ51Rは、例えばピーク波長610nm及びその付近の波長域の光を透過させ、緑色フィルタ51Gは、ピーク波長520nm及びその付近の波長域の光を透過させ、青色フィルタ51Bは、ピーク波長470nm及びその付近の波長域の光を透過させる。
このようなカラーフィルタ51は、光透過性の樹脂材料等から作られる。当該樹脂材料は、各色に対応する顔料等を含みうる。
【0046】
なお、図3において有機EL素子を指示するべく使用されている符号8R,8G,8Bは、これら各色フィルタ(51R,51G,51B)の別に対応している意味合いをもつ。本実施形態における説明及びその他の図面においては、簡単のため、符号“8”は、前述の符号8R,8G,8Bを総称する符号として用いられている。
【0047】
遮光膜591は、平面視して画素電極13の形成領域を縁取るように、あるいは当該形成領域以外の領域に対応するように形成されている。あるいは、対向基板50側の要素だけでいえば、遮光膜591は、マトリクス状に配列されたカラーフィルタ51間の間隙を埋めるようにして形成されている。
このような遮光膜591は、光吸収性、あるいは光反射性の金属、樹脂等の適当な遮光性材料で作られる。金属材料に関して特に具体的に例示すれば、Cr等が好適に挙げられる。
充填材60は、このような対向基板50と、前述の素子基板7との間を接着する機能を果たす(図3参照)。この充填材60は、例えばエポキシ樹脂等の材料から作られる。
【0048】
<有機EL素子・発光機能層等>
以上に加えて、本実施形態の有機EL装置100は特に、前述した各種要素のうち有機EL素子8の構成、とりわけそのうちの発光機能層18等の構成及び作用について特徴がある。以下では、この点について、既に参照した図1乃至図3に加えて、図4を参照しながら説明する。なお、図4は、図3の中から発光機能層18及びその周囲だけを抜き出し、かつ、後述する特徴がよく表されるようにその一部が模式的に示された図である。
【0049】
本実施形態においては、図4に示すように、3個の有機EL素子8R,8G,8Bを1セットとして1個の画素が構成される。これら3個の有機EL素子8は、前述の赤色フィルタ51R,緑色フィルタ51G及び青色フィルタ51Bに対応する。これら3個の有機EL素子8R,8G,8Bは、後述する正孔注入層及び発光層の点を除いて、基本的に、すべて同じ構造をとる。
【0050】
例えば、有機EL素子“8R”は、上述のように画素電極13、発光機能層18及び対向電極5からなるが、このうち発光機能層18は更に、図4に示すように、第1正孔注入層181a、第2正孔注入層181R、正孔輸送層182、発光層183R、電子輸送層184、及び電子注入層185からなる。
このうち電子輸送層184・電子注入層185は、対向電極5から発光層183Rへの電子の円滑な移動に適し、かつ、発光層183Rから供給されてくる正孔の進行を遮るのに適した材料から作られる。当該材料には、例えば、8−ヒドロキシキノリン又はその誘導体とその金属錯体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、等々が含まれる。
また、正孔輸送層182は、画素電極13から発光層183Rへの正孔の円滑な移動に適し、かつ、発光層183Rから供給されてくる電子の進行を遮るのに適した材料から作られる。当該材料には、例えば、ポリフルオレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリチオフェン誘導体、等々が含まれる。これらに関するモノマーあるいはオリゴマーは、正孔輸送層182を構成する低分子材料として使用され得る。
以上の事項は、その他の有機EL素子8G,8Bに共通である。
【0051】
一方、第1正孔注入層181a、第2正孔注入層181R,181G,181Bは、正孔注入のエネルギ障壁を低下させるのに適した材料から作られる。これらの層は、例えばPEDOT/PSS等から作られる。両層(181a及び181R,181G,181B)は本実施形態において同じ材料からなる。
これらのうち第1正孔注入層181aは、図4に示すように、個々の画素電極13の形成領域、及びそれらの間をも覆うように、あるいは、素子基板7の全面を覆うかのように形成されている。つまり、この第1正孔注入層181aは、3つの有機EL素子8R,8G,8Bのすべてに関して共通である。
他方、第2正孔注入層181R,181G,181Bは、図4に示すように、有機EL素子8R,8G,8Bの各々に対応して個別的に形成されている。赤色フィルタ51Rに対応する第2正孔注入層181Rの膜厚はD1であり、緑色フィルタ51Gに対応する第2正孔注入層181Gの膜厚はD2であり、青色フィルタ51Bに対応する第2正孔注入層181Bの膜厚はD3である。
【0052】
このような第2正孔注入層181R,181G,181Bは、本実施形態において、光学的距離を調整するための層として機能する。
光学的距離は、各層がもつ屈折率と物理的厚さによって規定される。すなわち、電子注入層185の屈折率及び物理的厚さをそれぞれn1,l1とし、以下同様に、電子輸送層184、発光層183R,183G,183B、正孔輸送層182、第1正孔注入層181a、画素電極13に関して、n2,l2、n3,l3、n4,l4、n5,l5並びに、n6,l6、とすると、その光学的距離Lは、
L=(nh・lh)+Σ(np・lp) …… (1)
と表現される。ただし、この式中、「Σ」は、順次にp=1,2,3,4,5,6とした場合のnp・lpの総和を表す記号である。また、nhは第2正孔注入層181R,181G,181Bの屈折率、lhは前述の通りその物理的厚さ(膜厚D1,D2又はD3)である(なお、nh=n5である。)。
本実施形態では、この光学的距離Lはまた、以下の式で表される条件を満たす。
L={(2πN+θ1+θ2)・λ}/(4π) …… (2)
ただし、この式中、θ1は反射層34における位相変化量(より正確には、反射層34と画素電極13との界面における位相変化量)、θ2は対向電極5における位相変化量(より正確には、対向電極5と電子注入層185との界面における位相変化量)、λは共振対象波長、Nは適当な整数である。
以上の2つの式から、本実施形態の有機EL装置100は、一種の光共振器を含むことになる。すなわち、反射層34と、半透明半反射層としての対向電極5との間の光学的距離が適当に設定されることにより、特定の波長成分(前記の共振対象波長λ)をもつ光の強度が増大させられる。
【0053】
例えば、赤色フィルタ51Rに対応する有機EL素子8Rについては、式(2)において、λ=λ≒610nmとされ、かつ、式(1)の右辺の値及び式(2)の右辺の値が等しくなるように、n1,l1,…,n6,l6,nh,D1(特にD1)の値が定められると(図4中のLD1参照)、取り出される光(図4中のLR参照)の発光スペクトルは、波長610nm付近にピークをもつものとなる。なお、この場合、式(2)中のNは、通常、比較的小さな値、例えば1などとして設定される。
残る有機EL素子8G,8Bについても基本的に同様である。ただ、本実施形態では、前述の各層のうち電子注入層185、電子輸送層184、正孔輸送層182、第1正孔注入層181a及び画素電極13の材料及び膜厚は全有機EL素子8に関して共通とされるので、前記n1,l1、n2,l2、n4,l4、n5,l5、n6,l6は一定である。したがって、これら有機EL素子8G,8Bに関する光学的距離の調整は、主に、第2正孔注入層181G,181Bの膜厚D2,D3の設定如何による。図4では、第2正孔注入層181R,181G,181Bの膜厚に関し、D1>D2>D3が成立する。
【0054】
また、各有機EL素子8R,8G,8Bを構成する発光層183R,183G,183Bは、それぞれ、赤色、緑色及び青色をもつ光を発する材料から作られる。当該材料には、例えば、赤色用としてMEHPPV(ポリ(3−メトキシ6−(3−エチルヘキシル)パラフェニレンビニレン)等、緑色用としてポリジオクチルフルオレンとF8BT(ジオクチルフルオレンとベンゾチアジアゾールの交互共重合体)の混合溶液等、青色用としてポリジオクチルフルオレン等を用いることが可能である。
このような発光層183R,183G,183Bは、(i)当該発光層183R,183G,183Bに、陽極たる画素電極13からホール(正孔)が、陰極たる対向電極5から電子が、それぞれ注入される、(ii)これらホール及び電子の再結合により励起子が生成される、(iii)この励起子が基底状態に遷移するときに、エネルギ放出、即ち発光現象が生じる、というメカニズムに基づいて発光する。
本実施形態においては、このように、発光層183R,183G,183Bの各々が、各有機EL素子8R,8G,8Bに対応するように個別的に形成されるので、前記の光学的距離の調整は、この発光層183R,183G,183Bの屈折率を勘案した上、それら各々の膜厚の設定を好適に行うことによっても、行われ得る。
【0055】
<有機EL装置の製造方法>
次に、以上に述べた本実施形態に係る有機EL装置の製造方法について、既に参照した図1乃至図4に加えて、図5乃至図9を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係る製造方法は、図4に示すような、3つの膜厚D1〜D3をもつ第2正孔注入層181R,181G,181Bが形成されることに関して特徴があるので、以下では、その点に関して重点的に説明を行う。
まず、素子基板7の上に、回路素子薄膜11及び層間絶縁膜301が形成される。これらのいずれの成膜においても、既知であるところの、例えばPVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法やスパッタ法等の成膜方法や、あるいはフォトリソグラフィ法等が適宜利用される。その際、回路素子薄膜11の成膜では、第1トランジスタ68等のTFT(Thin Film Transistor)の製造が含まれるから、その半導体層へのドーピング工程等も行われ、絶縁膜301及び302の成膜では、そこにコンタクトホール360を形成するために、適当なエッチング工程等も行われる。
なお、図5乃至図9においては、簡単のため、この反射層34までが形成された段階の構築物をまとめて、符号“SSF”でもって表している。これは、後続する画素電極13形成のための下地膜となる(以下、「下地膜SSF」ということがある。なお、図においては、この下地膜SSFにおいて、前記のコンタクトホール363、反射層34等の図示は一切省略されている(図3と対比参照))。
【0056】
続いて、図5に示すように、画素電極13が形成される。
この画素電極13は、例えば、スパッタ法、CVD法等で膜厚10〜200nm程度となるように形成されたITOの原膜に対して、フォトリソグラフィ及び酸性の混合液等を用いたパターニング処理を実施することによって形成される。
この画素電極13の形成後は、その表面につき予備洗浄及び本洗浄処理が行われる。予備洗浄は、例えば中性洗剤による洗浄、あるいは蒸留水、アセトン、エタノール等を用いた超音波洗浄等によって行われる。また、本洗浄は、例えばオゾン洗浄等によって行われる。このオゾン洗浄は、例えば、原料ガスたるO2ガス及びN2ガスからオゾナイザー(オゾン生成装置)により生成したO3ガスによって、画素電極13の表面に付着した有機汚染物等を分解することによって行われる。原料ガス量、オゾンガス濃度、洗浄チャンバ内雰囲気等は適宜に定められてよい。
なお、このITOからなる画素電極13を形成する前には、前記反射層34の上に、SiN等からなる電食防止用の薄膜が形成されてもよい。この薄膜の厚さは、例えば50nm程度とするとよい。
【0057】
続いて、図6に示すように、第1正孔注入層181aが形成される。
この第1正孔注入層181aは、例えば、CVD法等で膜厚10〜200nm程度となるように形成される。この第1正孔注入層181aは、素子基板7面上、前述のように島状に形成された画素電極13の全部を覆うように形成される。
なお、この第1正孔注入層181aの形成は、前記画素電極13の形成後、即座に行われることが好ましい。これにより、画素電極13の洗浄後、当該画素電極13の上に新たな汚染物が付着するおそれが少なくなるからである。
いずれにせよ、この第1正孔注入層181aの形成によって、画素電極13の表面は、汚染物の付着という観点からみた、一応の保護を得る。
【0058】
続いて、図7に示すように、赤色用の有機EL素子8Rに対応する第2正孔注入層181Rが形成される。
この第2正孔注入層181Rも、第1正孔注入層181aと同様、CVD法等で膜厚D1=10〜200nm程度となるように形成される。ただし、この膜厚D1は、最終的に形成される発光機能層18及び画素電極13に係る光学的距離が、前述の式(1)及び式(2)に係る条件を満たすように定められる。また、この第2正孔注入層181Rを形成するための原材料は、第1正孔注入層181aを形成するためのそれと同じである。
また、この第2正孔注入層181Rは、ある1群の画素電極13についてのみ形成される(図4等参照)。その際、当該ある1群の画素電極13の形成領域に対応する開口部をもつメタルマスクM1が利用されること等の堆積防止手段が用いられることによって、当該形成領域以外の領域について、第2正孔注入層181Rの原材料が堆積していくことが防止される。なお、堆積防止手段としては、例えば前記ある1群の画素電極13の形成領域以外の領域にレジスト膜を形成しておく等のその他の方法が用いられてもよい。あるいは、場合によっては、堆積した後に、その堆積膜の除去が行われてもよい。
なお、この第2正孔注入層181Rの形成は、前記第1正孔注入層181aの形成後、即座に行われることが好ましい。これにより、当該第1正孔注入層181a上に、新たな汚染物が付着するおそれが少なくなるからである。
【0059】
続いて、図8に示すように、赤色用の有機EL素子8Rに対応する正孔輸送層182以下、赤色用の発光層183Rを含んで、対向電極5までが形成される。これらのいずれの成膜においても、既知であるところの、例えば、乾式成膜法たるPVD法、CVD法やスパッタ法、あるいは湿式成膜法たる液滴塗布法(インクジェット法)等の成膜方法や、あるいはフォトリソグラフィ法等が適宜利用される。これにより、発光機能層18が形作られ、また、この発光機能層18、対向電極5及び画素電極13からなる有機EL素子8Rが形作られる。
ところで、この際、有機EL素子8Rが構築されていく当の領域を除いた領域では、前述のようなメタルマスクM1が仮に存在したとしても、その構築が完了するまで、いわばほったらかしの状態で放置されることになる。すると、その結果、図8に併せて示すように、第1正孔注入層181aの上に、例えばチャンバ内に浮遊し、あるいはチャンバ内壁等から飛散してきた汚染物Pxが付着する、などという事象が発生するおそれが常にある。
特に、例えば赤色用発光層183Rが、前記液滴塗布法(インクジェット法)等のウェットプロセスによって形成される場合は、その液滴の乾燥工程が必要となるため、対向電極5の形成に至るまで、比較的長い時間がかかることが想定される。そうすると、前記の汚染物Pxが第1正孔注入層181aの上に付着するおそれは相対的に高くなる。
【0060】
続いて、図9に示すように、緑色用の有機EL素子8Gに対応する第2正孔注入層181Gが形成される。
この第2正孔注入層181Gの形成手法や、膜厚D2について考慮すべき事項等は、前記の第1正孔注入層181Rの場合と基本的に同様である。特に、この第2正孔注入層181Gを形成するための原材料は、前記第1正孔注入層181aを形成するためのそれと同じである(なお、メタルマスクM1を用いる場合、その位置は、図9及び図8の対比からわかるように改めて設定され直される。)
これによると、図9に示すように、仮に、前述したような汚染物Pxが存在したとしても、それは両者ともに同じ材料からなる第1・第2正孔注入層181a・181Gによって挟み込まれて、いわば覆い隠されるようになる。
【0061】
以後、この緑色用の有機EL素子8Gに対応する正孔輸送層182以下、緑色用の発光層183Gを含んで、対向電極5までが、赤色用の有機EL素子8Rにおけるのと同様に形成される(図9では不図示)。
また、このようにして、緑色用の有機EL素子8Gの構築が完了した後には、続いて青色用の有機EL素子8Bが構築される。この手順は、基本的に、緑色用の有機EL素子8Gの構築手順と全く同じである。この点についての図示はしないが、例えば、図9中の左方が構築完了した緑色用の有機EL素子“8G”であり、その右方が構築開始後の青色用の有機EL素子“8B”であるとみなせば、青色用の有機EL素子8Bの構築手順も実質的には図示されているといえる。
なお、最終的には、既に参照した図4あるいは図3に示すように、膜厚D1,D2,D3(D1>D2>D3)をもつ第2正孔注入層181R,181G,181Bによって、その各々が異なる光学的距離LD1,LD2,LD3をもつ光共振器を含む有機EL素子8R,8G,8Bが製造される。
【0062】
以上述べたような有機EL装置の構成及び製造方法によれば、次のような効果が奏される。
(1) まず、本実施形態に係る有機EL装置100に含まれる有機EL素子8は、比較的高い発光効率で発光し、あるいは、比較的長い寿命をもつ。というのも、当該有機EL素子8を構成する発光機能層18及び画素電極13の界面間(あるいは、発光機能層18内の各層界面間等)における汚染物が、当該発光機能層18等に悪影響を及ぼす可能性が極めて少ないからである。
これは、前述のように、第1正孔注入層181aが形成されることによって、全画素電極13の表面が製造途上において汚染物からの一応の保護を得、なお更に、この第1正孔注入層181aの上に、第2正孔注入層181R,181G,181Bが形成されることによって、汚染物がいわば封じ込められるようになっていることによる。これにより、画素電極13の表面に洗浄し切れなかった汚染物がなお存在し、あるいは、第1正孔注入層181aの上に汚染物が存在したとしても、それが、例えば画素電極13と発光機能層18間の乖離を促進する等といった様々な悪影響を及ぼすまでには至らないのである。
【0063】
(2) 特に、本実施形態においては、第2正孔注入層181R,181G,181Bが、第1正孔注入層181aと同じ材料からなるため、前記の効果はより実効的に享受される。これは、例えば両者が違う材料から作られる場合を想定すると、その間に正孔輸送率の相違があったり、あるいは、両者間の密着性に問題が生じたり、等々の問題が生じ得ることと対比するとよりはっきりする。
結局、本実施形態によれば、汚染物が効果的に封じ込められるとともに、有機EL素子8の本来の発光特性等にも悪影響を及ぼさないなど、二重三重の効果が享受可能となっている。
【0064】
以上の(1)及び(2)に係る効果は、例えば図10及び図11を参照するとより明瞭に把握される。図10は、第1正孔注入層181a形成後、第2正孔注入層181R,181Gを形成せずに、いきなり正孔輸送層182以下を形成する場合、図11は、第1正孔注入層181aを形成せずに第2正孔注入層181R,181G以下を形成する場合を例示している。前者(図10)では、画素電極13の表面における汚染物から発光機能層を防御する効果は、第1正孔注入層181aの存在によって一定程度期待することはできるが、当該第1正孔注入層181a上に存在する汚染物Pxからの防御効果はさして期待することはできない。また、後者(図11)では、画素電極13の表面に残存し、あるいは新たに付着した汚染物Px’から発光機能層を防御する効果は期待することができない。
【0065】
(3) しかも、本実施形態において、前記第2正孔注入層181R,181G,181Bは、光共振器の光学的距離を調整するための主要な要素となっている。つまり、一見すると、第1正孔注入層181aと第2正孔注入層181R,181G,181Bとを分けて形成することは無駄のように見えるが、後者の形成には、汚染物封じ込めという意義のほかに、有機EL素子8R,8G,8Bごとに最適な共振器を構成するという意義が与えられていることから、その形成には、むしろ積極的に意味がある。各色に最適な共振器を構成しようとすれば、第2正孔注入層181R等で膜厚調整をしないこととしても、何らかの層の膜厚等を有機EL素子8ごとに変化させる必要があることからすると、本実施形態におけるような形成態様は、前述の2つの効果を同時に享受するための最適な例の1つを提供していると言える。
【0066】
なお、好適な光学的距離をもつ光共振器を構成するためには、例えば前述のように発光層183R,183G,183Bの膜厚や、あるいは、画素電極13の膜厚を調整する等という手法もあり、本発明は、そのような膜厚調整を伴う場合を積極的に排除するわけではないが、画素電極13の膜厚を厚くすると、有機EL素子8の駆動特性(例えば、画素電極13及び対向電極5間電圧等)に比較的大きな影響が及ぶ場合があり、かかる手法は必ずしも最善の策を提供するとはいえない。
このような観点からすると、本実施形態のように、正孔注入層の膜厚を調整する手法は、当該駆動特性に与える影響が比較的少ないと考えられることから、より一層好適な一例を提供するものといえる。
【0067】
<実施例>
以下では、上に述べた効果をより実際的に確認する実施例について説明する。
実施例1に係る有機EL装置を以下のように製造した。
すなわち、前記の第1正孔注入層181aの材料として出光興産製HI406、第2正孔注入層181R,181G,181Bの材料として同じく出光興産製HI406を用いた。また、前者の膜厚は10nm、後者のうち第2正孔注入層181R,181G,181Bそれぞれの膜厚は30nm、20nm、10nm、である。これらを含め、その他の各層の材料、膜厚を以下の表1にまとめる。
【表1】

【0068】
この表1において、発光層183R,183G,183Gの材料はすべて出光興産製である。また、表1中、「+15分」「+30分」とある記載は、前述した製造方法に従って各層を形成していく場合の経過時間を表現している。すなわち、「+15分」は、第1正孔注入層181aの形成後、第2正孔注入層181Rの形成開始に至るまでにおいて、前記メタルマスクM1のアライメント等の準備作業のため、約15分の時間経過があったことを示している。
また、図中左方の「+30分」は、赤色用の有機EL素子8Rの対向電極5の形成後、第2正孔注入層181Gの形成開始に至るまで、約30分の時間経過があったことを、図中右方の「+30分」は、緑色用の有機EL素子8Gの対向電極5の形成後、第2正孔注入層181Bの形成開始に至るまで、約30分の時間経過があったことを、それぞれ示している。第1正孔注入層181aの形成完了時を基準とすれば、第2正孔注入層181Gの形成開始に至るまでは約45分の時間経過、第2正孔注入層181Bの形成開始に至るまでは約1時間15分の時間経過、ということになる。つまり、これだけの時間、いわばほったらかしだったのである。
なお、実施例1において、画素電極13の表面の洗浄処理後、第1正孔注入層181aの形成開始に至るまでの経過時間は、およそ5分であった。
【0069】
他方、前記実施例1と比較するための比較例1に係る有機EL装置も製造した。この比較例1の構造は、前述の実施例1の構造から、第1正孔注入層181aが存在しないことを除いて全く同じである(前述の図11参照)。つまり、比較例1は、第1正孔注入層181aを形成することなく、画素電極13上にいきなり第2正孔注入層181R以下を形成していくような形態をもつ。
この際、前述した「+15分」等の時間経過過程は実施例1と平仄を合わせるようにした。すなわち、画素電極13の表面の洗浄処理完了時を基準として、第2正孔注入層181Rの形成開始に至るまでの経過時間は約15分、第2正孔注入層181Gのそれは約45分、第2正孔注入層181Gのそれは約1時間15分である。
【0070】
以下に示す表2は、これら実施例1及び比較例1に係る有機EL装置において各色の有機EL素子8の発光寿命を計測した結果である。
【表2】


表2において、発光寿命は、輝度半減期(電流密度50mA/cm)で計られている。
このように、実施例1では赤色、緑色及び青色いずれの有機EL素子8R,8G,8Bの発光寿命も長期化していることがわかる(それぞれ、約1.3倍、約2倍、約4倍である。)。
【0071】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る有機EL装置は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
(1) 上記実施形態では、第1正孔注入層181aが全画素電極13を覆うように形成され、かつ、第2正孔注入層181R,181G,181Bが各有機EL素子8R,8G,8Bに対応するように形成される例について説明しているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図12に示すような、第1正孔輸送層182a及び第2正孔輸送層182R,182G,182Bが形成されてもよい。この場合、前者の第1正孔輸送層182aは、上記実施形態における第1正孔注入層181aに相当する役割を果たし、後者の第2正孔輸送層182R,182G,182Bは、第2正孔注入層181R,181G,181Bに相当する役割を果たす。なお、図12においては、正孔注入層181が、上記実施形態の第1正孔注入層181aと同様、全画素電極13を覆うように形成されている。したがって、この図12においては、第1正孔輸送層182aが、上記実施形態における第1正孔注入層181aと同様、画素電極13の表面をいち早く保護する機能をもつとともに、正孔注入層181もまた、これと同様の機能をもつことになる。要するに、この態様によれば、画素電極13等の表面に存在する汚染物の封じ込めがより確実になされ得る。
【0072】
このような形態に係る有機EL装置(「実施例2」という。)を、前記の表1の実施例1と同様、以下に示す表3のように製造した。
【表3】

【0073】
また、前記実施例2と比較するための比較例2に係る有機EL装置も製造した。この比較例2の構造は、実施例2の構造から、第1正孔輸送層182aが存在しないことを除いて全く同じである(前述の図12参照)。つまり、比較例2は、第1正孔輸送層182aを形成することなく、正孔注入層181上にいきなり第2正孔輸送層182R以下を形成していくような形態をもつ。
この際、表3中の「+15分」等の時間経過過程は実施例2と平仄を合わせるようにした。すなわち、正孔注入層181の形成完了時を基準として、第2正孔輸送層182Rの形成開始に至るまでの経過時間は約15分、第2正孔輸送層182Gのそれは約45分、第2正孔輸送層182Gのそれは約1時間15分である。
【0074】
以下に示す表4は、これら実施例2及び比較例2に係る有機EL装置において各色の有機EL素子8の発光寿命を計測した結果である。
【表4】


このように、実施例2でも、赤色、緑色及び青色いずれの有機EL素子8R,8G,8Bの発光寿命が長期化していることがわかる(それぞれ、約1.3倍、約2倍、約4倍である。)。
【0075】
(2) 上記実施形態では、対向電極5が、有機EL素子8R,8G,8Bごとに分断されるように形成されているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図13に示すように、全有機EL素子8に対応するような、あるいは、素子基板7の全面を覆うような対向電極5Bが形成されてよい。なお、図13は、たまたま、前記の図12に示した第1正孔輸送層182a等を含む態様を前提としているが、対向電極5Bは、図4等に示した第1正孔注入層181a等を含む態様に関して形成されてよいことは言うまでもない。
【0076】
(3) 上記実施形態では、発光層183R,183G,183Bが、有機EL素子8R,8G,8Bに対応するように形成されているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図14に示すように、全有機EL素子8に共通するような、あるいは、素子基板7の全面を覆うような発光層183が形成されてよい。この場合のような発光層183は、例えば一様に白色光を発する。
なお、この図14においては、上記実施形態、あるいは図12に示した形態とも異なって、第2正孔注入層181R等、あるいは第2正孔輸送層182R等に代えて、第1電子輸送層184a及び第2電子輸送層184R,184G,184Bが形成されている。前者の第1電子輸送層184aは、上記実施形態における第1正孔注入層181aに相当する役割を果たし、後者の第2正孔輸送層184R,184G,184Bは、第2正孔注入層181R,181G,181Bに相当する役割を果たす。例えば、第2電子輸送層184R,184G,184Bは、その膜厚が各々適当に設定されることによって、各色に適応的な光学的距離をもつ光共振器の一部を構成する。また、もちろん、第2電子輸送層184R,184G,184Bは、これらがないとした場合における電子輸送層及び電子注入層間の界面における汚染物の悪影響を遮断する機能をも果たす。要するに、このような形態であっても、上記実施形態によって奏された作用効果と本質的に異ならない作用効果が奏される。
【0077】
あるいは、図15においては、図14における第1電子輸送層184aに代えて第1電子注入層185aが形成され、第2電子輸送層184R,184G,184Bに代えて、第2電子注入層185R,185G,185Bが形成されている。これによっても、上記実施形態によって奏された作用効果と本質的に異ならない作用効果が奏されることは明白である。
【0078】
(4) 上記実施形態の有機EL装置100は、図3に示したように、素子基板7の側から見て、順に、反射層34、画素電極13、発光機能層18、及び対向電極5、という積層構造をもち、かつ、このうちの対向電極5は、本発明にいう「半透明半反射層」としての機能をもつ、という構成をもっているが、本発明は、かかる形態に限定されるわけでは勿論ない。
例えば、本発明は、ボトムエミッション型、あるいはデュアルエミッション型の有機EL装置に対して適用可能である。このような場合、本発明にいう「反射層」及び「半透明半反射層」と「基板」との配置関係は上記実施形態とは異なることとなって、図3の構造はとり得ない場合がありえ、また、図3に示す対向電極5が半透明半反射機能をもつことが不都合となる、などといった様々な変更必要点が生じることになる。が、例えば、ボトムエミッション型を前提とすれば、当該対向電極5に本発明にいう「反射層」としての機能を兼ねさせる、等々の適当な変更を上記実施形態に加えれば、容易に本発明の適用が可能である。
いずれにせよ、上記実施形態は、本発明の一具体例を呈示しているに止まる。
なお、上記実施形態のように、対向電極5が「半透明半反射層」としての機能をもつ場合は、「発光素子」の構成要素である対向電極5が、同時に、共振器の構成要素である「半透明半反射層」を兼ねているということができるが、このような態様であっても、本発明において、「半透明半反射層」が、「基板の法線方向に沿ってみて…発光素子…の他方の側に配置され」る、といわれる場合に該当する。前述した、対向電極5が「反射層」を兼ねる場合も同様に、「反射層」が、「基板の法線方向に沿ってみて…発光素子の一方の側に配置され」る、といわれる場合に該当する。
【0079】
<応用>
次に、本発明に係る発光装置を適用した電子機器について説明する。
図16は、上記実施形態に係る有機EL装置100を画像表示装置に利用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての有機EL装置100と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。
図17に、上記実施形態に係る有機EL装置100を適用した携帯電話機を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての有機EL装置100を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機EL装置100に表示される画面がスクロールされる。
図18に、上記実施形態に係る有機EL装置100を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての有機EL装置100を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が有機EL装置100に表示される。
【0080】
本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図16から図18に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施の形態に係る有機EL装置を示す平面図である。
【図2】図1の有機EL装置を構成する単位回路の詳細を示す回路図である。
【図3】図1の有機EL装置の一部断面図である。
【図4】図3の中から発光機能層(18)及びその周囲だけを抜き出し、かつ、そのうちの第1正孔注入層(181a)等の要素が模式的に示された図である。
【図5】図4の有機EL素子の製造工程(その1)を示す図である。
【図6】図5に続く製造工程(その2)を示す図である。
【図7】図6に続く製造工程(その3)を示す図である。
【図8】図7に続く製造工程(その4)を示す図である。
【図9】図8に続く製造工程(その4)を示す図である。
【図10】図9との対比において、第1正孔注入層(181a)形成後、第2正孔注入層(181R,181G)を形成せずに、正孔輸送層(182)及びその上層を形成した場合の例を示す図である。
【図11】図9との対比において、第1正孔注入層(181a)を形成せずに、第2正孔注入層(181R,181G)及びその上層を形成した場合の例を示す図である。
【図12】図4と同趣旨の図であって、その変形例(その1;正孔輸送層に関する)を示す図である。
【図13】図4と同趣旨の図であって、その変形例(その2;対向電極に関する)を示す図である。
【図14】図4と同趣旨の図であって、その変形例(その3;発光層及び電子輸送層に関する)を示す図である。
【図15】図4と同趣旨の図であって、その変形例(その4;発光層及び電子注入層に関する)を示す図である。
【図16】本発明に係る有機EL装置を適用した電子機器を示す斜視図である。
【図17】本発明に係る有機EL装置を適用した他の電子機器を示す斜視図である。
【図18】本発明に係る有機EL装置を適用したさらに他の電子機器を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0082】
7……素子基板、8,8R,8G,8B……有機EL素子、13……画素電極、18……発光機能層、5,5B……対向電極、34……反射層、181a……第1正孔注入層、181R,181G,181B……第2正孔注入層、D1,D2,D3……(第2正孔注入層181R,181G,181Bの)膜厚、182……正孔輸送層、183R,183G,183B……発光層、184……電子輸送層、185……電子注入層
182a……第1正孔輸送層、182R,182G,182B……第2正孔輸送層、184a……第1電子輸送層、184R,184G,184B……第2電子輸送層、185a……第1電子注入層、185R,185G,185B……第2電子注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1層を形成する工程と、
前記第1層の上かつ前記基板面内の第1位置に、第1‐2層(以下、「第A-B層」とは、第A位置における第B層ということを意味する。)を形成する工程と、
前記第1層の上かつ前記基板面内の第2位置に、前記第1層と同じ材料からなる第2‐2層を形成する工程と、
前記第2‐2層の上に、前記第1‐2層が果たす機能と同等の機能を果たす第2‐3層を形成する工程と、
を含むことを特徴とする基板装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板装置の製造方法を用いた発光装置の製造方法であって、
前記第1及び第2位置に第1電極層を形成する工程と、
前記第1電極層の表面を洗浄する工程と、
前記第1電極層を覆うように、前記第1層として第1正孔注入層を形成する工程と、
前記第1‐2層として第1発光層を形成する工程と、
前記第2‐2層として第2正孔注入層を形成する工程と、
前記第2‐3層として第2発光層を形成する工程と、
前記第1及び第2位置に又はこれらの位置を含む領域を覆うように、かつ、前記第1及び第2発光層の上に、第2電極層を形成する工程と、
によって、
少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第1及び第2発光層からなる、少なくとも2つの発光素子を製造する工程、
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1及び第2正孔注入層に代えて、
前記第1層として第1正孔輸送層を形成する工程と、
前記第2‐2層として第2正孔輸送層を形成する工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記基板面内の第3位置に、前記第1層としての第1正孔注入層又は第1正孔輸送層と同じ材料からなる、第3正孔注入層又は第3正孔輸送層を形成する工程と、
当該層の上に、第3‐3層として第3発光層を形成する工程と、
を更に含み、
前記第2電極層は、前記第1及び第2位置に加えて、前記第3位置にも又はこの位置をも含む領域を覆うように、形成され、
前記2つの発光素子に加えて、少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第3発光層からなる、3つ目の発光素子を製造する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1、第2及び第3発光層は、
それぞれ異なる色をもつ光を発し、かつ、
それらそれぞれの膜厚は相互に異なり又はその全部又は一部が一致する、
ことを特徴とする請求項4に記載の発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1、第2及び第3発光層は、
すべて同じ材料からなり、かつ、
それらそれぞれの膜厚は相互に異なる、
ことを特徴とする請求項4に記載の発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、
その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、
を含み、
前記膜厚は、
前記発光素子の各々について、
前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、
その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、
を含み、
前記正孔注入層、又は、前記正孔輸送層の膜厚は、
前記発光素子の各々について、
前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の基板装置の製造方法を用いた発光装置の製造方法であって、
前記第1及び第2位置に第3電極層を形成する工程と、
前記第3電極層の表面を洗浄する工程と、
前記第3電極層の上に発光層を形成する工程と、
前記発光層を覆うように、前記第1層として第1電子注入層を形成する工程と、
前記第1‐2層として第4電極層を形成する工程と、
前記第2‐2層として第2電子注入層を形成する工程と、
前記第2‐3層として第5電極層を形成する工程と、
によって、
少なくとも前記第3電極層と前記第4及び第5電極層、並びにこれら第3電極層と第4及び第5電極層とによって挟持される前記発光層からなる、少なくとも2つの発光素子を製造する工程、
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記第1及び第2電子注入層に代えて、
前記第1層として第1電子輸送層を形成する工程と、
前記第2‐2層として第2電子輸送層を形成する工程と、
を含む
ことを特徴とする請求項9に記載の発光装置の製造方法。
【請求項11】
前記基板の法線方向に沿ってみて前記発光素子の一方の側に配置され、当該発光素子から発せられた光を反射するための反射層を形成する工程と、
その他方の側に配置され、前記光の一部を反射し他の部分を透過させるための半透明半反射層を形成する工程と、
を含み、
前記電子注入層、又は、前記電子輸送層の膜厚は、
前記発光素子の各々について、
前記反射層及び前記半透明半反射層間の光学的距離が所定値をとるように、定められる、
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の発光装置の製造方法。
【請求項12】
基板と、
基板上に形成された第1層と、
前記第1層の上かつ当該第1層面内の第1位置に形成された第1‐2層(以下、「第A-B層」とは、第A位置における第B層ということを意味する。)と、
前記第1層の上かつ当該第1層面内の第2位置に形成された、前記第1層と同じ材料からなる第2‐2層と、
前記第2‐2層の上に形成された、前記第1‐2層とは異なる材料からなる第2‐3層と、
を備えることを特徴とする基板装置。
【請求項13】
請求項12に記載の基板装置を含む発光装置であって、
前記第1及び第2位置に形成された第1電極層と、
前記第1電極層を覆うように、前記第1層として形成された第1正孔注入層と、
前記第1‐2層として形成された第1発光層と、
前記第2‐2層として形成された第2正孔注入層と、
前記第2‐3層として形成された第2発光層と、
前記第1及び第2位置に又はこれらの位置を含む領域を覆うように、かつ、前記第1及び第2発光層の上に、形成された第2電極層と、
によって、
少なくとも前記第1及び第2電極層並びにこれらに挟持される前記第1及び第2発光層からなる、少なくとも2つの発光素子、を含む、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項14】
請求項13に記載の発光装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−165461(P2010−165461A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4301(P2009−4301)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】