説明

基板製造空間の汚染状態の評価方法

【課題】酸物質や塩基物質をポンプによる吸引等の操作を必要とせず簡便にしかも効率よく吸着させることができるパッシブサンプラーを用いて空間の酸・塩基の量を評価する方法を提供すること。
【解決手段】基板製造工程において、該基板が経由する空間に、吸着剤として、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有するパッシブサンプラーを配置することにより、当該空間内の酸物質を該パッシブサンプラー内の吸着剤に吸着させ、次に、該吸着剤から吸着された酸物質を脱離させ、脱離した酸物質を分析する基板製造工程における空間の汚染状態の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸または塩基吸着用のパッシブサンプラーを用いて、基板製造時に該基板が経由するクリーン空間の酸物質または塩基物質による汚染状態の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ、液晶基板、磁気ディスク等の電子基板(以下、基板と称する。)を用いた機器の製造においては、その製造空間中の酸、塩基等の汚染物質が基板に吸着する等して、製品の歩留まりの低下や品質の低下が生ずることから、このような機器を製造する工程は、クリーンルームで行われている。そして、各製造過程でのクリーンルームにおける上記の酸、塩基等による汚染状態を評価することが必要であるところ、その手法としては、例えば、吸引ポンプで吸引したクリーンルーム内の空気を一定の流量で吸着溶液に通し、該空気中の汚染物質を吸着させ、吸着された汚染物質を分析する方法が提案されている(例えば、非特許文献1、2参照。)。
【0003】
ところで、近年、基板回路の微細化の進行に相俟って、クリーンルームには、より高度な洗浄空間の確保が求められており、また、基板の大型化に伴い、大規模のクリーンルームが必要となってきている。昨今では、このような清浄度の高い空間の確保のためのコスト節約手段として、局所クリーン方式の採用が提案されている。例えば、上記機器の一連の製造における各クリーンルーム内での各種加工処理工程の間に、FOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Interface)ポッド等の可搬式で密閉可能な基板搬送容器を介在させ、該容器およびそれに装着されるEFEM(Equipment Front End Module)によって局所的なクリーン空間を保持しながら、各工程で処理された基板を該基板搬送容器に収納し、次工程へ搬送する方法が提案されている。
【0004】
【非特許文献1】「付属書1 クリーンルームおよび関連する制御環境空気中の酸性物質の測定方法」,JACA No.35A−2003 クリーンルームおよび関連する制御環境中における分子状汚染物質に関する空気清浄度の表記方法および測定方法指針,社団法人 日本空気清浄協会,平成15年3月1日,p.5−6
【非特許文献2】「付属書2 クリーンルームおよび関連する制御環境空気中の塩基性物質の測定方法」,JACA No.35A−2003 クリーンルームおよび関連する制御環境中における分子状汚染物質に関する空気清浄度の表記方法および測定方法指針,社団法人 日本空気清浄協会,平成15年3月1日,p.7−9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような各空間内の空気を吸引することにより、その中に含まれる酸物質や塩基物質を吸着剤に吸着させる手法においては、基板が収納されている空間内の位置の違いにより、吸引される空気の流れが均一とはならず、また、吸引速度によっては、吸着剤に吸着されないでしまう等、評価対象となる空間の汚染状態の評価の精度は、充分満足のいくものではなかった。
【0006】
かかる状況のもと、本発明は、上述したような従来の評価方法の問題点を解決し、酸物質や塩基物質をポンプによる吸引等の操作を必要とせず簡便にしかも効率よく吸着させることができるパッシブサンプラーを用いて空間の酸・塩基の量を評価する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1は、基板製造工程において、該基板が経由する空間に、吸着剤として、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有するパッシブサンプラーを配置することにより、当該空間内の酸物質を該パッシブサンプラー内の吸着剤に吸着させ、次に、該吸着剤から吸着された酸物質を脱離させ、脱離した酸物質を分析する基板製造工程における空間の汚染状態の評価方法にかかるものである。
【0008】
また、本発明の第2は、基板製造工程において、該基板が経由する空間に、酸を吸着剤として有するパッシブサンプラーを配置することにより、当該空間内の塩基物質を該パッシブサンプラー内の吸着剤に吸着させ、次に、該吸着剤から吸着された塩基物質を脱離させ、脱離した塩基物質を分析する基板製造工程における空間の汚染状態の評価方法にかかるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、基板製造工程における空間の酸物質や塩基物質による汚染状況を精度よく評価することができ、本方法は、基板製造設備内における清浄空間の確保に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いるパッシブサンプラーは、吸着剤として、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有するパッシブサンプラー、あるいは、酸を吸着剤として有するパッシブサンプラーである。
【0011】
吸着剤として用いられるアルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等があげられ、また、アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ストロンチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等があげられる。吸着剤として好ましくは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ストロンチウムである。
【0012】
吸着剤として用いられる酸としては、硫酸、リン酸等の無機酸;マレイン酸、マロン酸等の有機酸;これらの混合物などがあげられる。
【0013】
これらの上記吸着剤は基材に塗布されていてもよい。かかる基材の材質としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ガラス、石英などがあげられる。
【0014】
また、基材としては、評価対象である空間の媒体を効率よく接触するものが好ましく、表面積の大きなものが好適に用いられる。また、基材の形状としては、フィルム状、板状、棒状などがあげられる。
【0015】
吸着剤を基材に塗布する方法としては、固体状の物質の場合は、溶媒に溶解して溶液とし、該溶液を基材に塗布し、溶媒を乾燥する方法、液状の物質の場合は、そのまま基材に塗布する方法、あるいは、溶媒に溶解して溶液とし、該溶液を基材に塗布し、溶媒を乾燥する方法等があげられる。
【0016】
本発明方法において、パッシブサンプラーは、上記吸着剤(基材に塗布されたものも含む。)を、空気等、評価対象である空間の媒体が透過しうる収納容器に収納されていてもよい。収納容器の形状としては、吸着剤(基材に塗布されたものも含む。)表面が空間に暴露されるフィルターフォルダ、ペトリディッシュ(シャーレ)などがあげられる。また、収納容器としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ガラス、石英などが好ましく、分析の対象となる酸・塩基の分析に影響を与えない材質を用いることが好ましい。なお、パッシブサンプラーの輸送は、通常、評価対象物質の汚染の無い袋に梱包後、ガス透過性の無い袋、例えば、アルミラミネート袋に収納して行う。
【0017】
また、パッシブサンプラーは、吸着剤に加え保湿剤を有することが好ましい。該保湿剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールを例示することができる。
【0018】
該保湿剤は、吸着剤と同様に基材に塗布されていてもよく、また、該保湿剤は、吸着剤と混合して用いてもよい。
【0019】
本発明に用いられるパッシブサンプラーは、公知のパッシブサンプラー、例えば、特開平10−300647号公報、特開2002−5797号公報、特開2002−357517号公報などに記載のパッシブサンプラーと同様にして実用に供され、例えば、サンプラーを所定の位置に固定する器具や装置、サンプリングの前及び/又は後にパッシブサンプラーを密封するために用いられる器具や装置、その他パッシブサンプラーの商品価値を高めるための飾りやその使用を容易にするための器具や装置等を有していてもよい。
【0020】
本発明に用いられるパッシブサンプラーは、評価対象となる空間の酸物質や塩基物質の量を評価するに際し、空間内の空気などを吸引ポンプで吸引する操作を行わなくとも、空間内に配置するだけで、空間中に含まれる酸物質や塩基物質をパッシブサンプラー内の吸着材に吸着させることができる。
【0021】
評価対象物質の酸物質としては、塩化水素、硝酸、硫酸、リン酸、フッ化水素酸、ギ酸、酢酸等の酸そのものの他、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等があげられる。また、評価対象物質の塩基物質としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アルカノールアミン等の塩基そのものの他、フッ化アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等があげられる。
【0022】
評価対象の空間としては、基板製造工程において、基板が経由する空間、例えば、クリーンルーム、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に定められたEFEM(Equipment Front End Module)、FOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard Mechanical Interface )ポッド等をあげることができる。評価対象の空間内でのパッシブサンプラーの配置手法としては、天井、床、壁、装置上等に静置するなどの他、フィルムバッチのように人体等に着けてもよい。また、評価対象の空間内の複数の箇所にパッシブサンプラーを夫々配置し、多点同時サンプリングを行ってもよい。特に、局所空間、例えば、SEMI規格に定められたEFEM、FOUP、SMIFポッド等の基板が経由する局所的な空間の汚染状態の評価に好適である。
【0023】
上記の空間内へのパッシブサンプラーの配置時間、即ち、当該空間内の酸物質や塩基物質を捕集するに要する時間としては、通常、1〜48時間である。
【0024】
パッシブサンプラーに捕集された汚染物質としての酸物質や塩基物質の分析では、溶剤抽出法により、吸着剤から汚染物質を抽出し、溶液中へ溶解した汚染物質を公知の方法により分析する。一般的に溶剤には純水を用い、室温で抽出する。
【0025】
吸着剤から脱離した汚染物質の分析方法としては、公知の方法が用いられ、液体クロマトグラフ(LC)法、イオンクロマトグラフ(IC)法、キャピラリー電気泳動(CE)法等があげられる。
【実施例】
【0026】
本発明を、実施例によりさらに詳しく説明する。
【0027】
実施例1
(パッシブサンプラーの準備)
ポリカーボネート製のフィルターを基材とし、該基材をポリスチレン製のフィルター用シャーレに固定した。この基材に、硫酸とグリセリンの混合水溶液を添加した。なお、基材およびシャーレは事前に十分洗浄し、添加作業等は清浄度が保たれる環境下で行った。
【0028】
(基板収納容器の汚染状態評価)
パッシブサンプラーを、未洗浄の基板収納容器内に24時間放置した。次に、放置後のパッシブサンプラーの基材を抽出し、イオンクロマトグラフにより塩基成分であるアンモニウムイオンの付着量を測定した。分析結果を表1に示す。
【0029】
次に、基板収納容器を洗浄し、洗浄後の基板収納容器内にパッシブサンプラーを24時間放置した。放置後のパッシブサンプラーの基材を抽出し、イオンクロマトグラフにより塩基成分であるアンモニウムイオンの付着量を測定した。分析結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板製造工程において、該基板が経由する空間に、吸着剤として、アルカリ金属の炭酸塩およびアルカリ金属の水酸化物からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物を有するパッシブサンプラーを配置することにより、当該空間内の酸物質を該パッシブサンプラー内の吸着剤に吸着させ、次に、該吸着剤から吸着された酸物質を脱離させ、脱離した酸物質を分析することを特徴とする基板製造工程における空間の汚染状態の評価方法。
【請求項2】
基板製造工程において、該基板が経由する空間に、酸を吸着剤として有するパッシブサンプラーを配置することにより、当該空間内の塩基物質を該パッシブサンプラー内の吸着剤に吸着させ、次に、該吸着剤から吸着された塩基物質を脱離させ、脱離した塩基物質を分析することを特徴とする基板製造工程における空間の汚染状態の評価方法。