説明

基礎杭の構築方法、基礎杭の構造、基礎杭の設計方法

【課題】中間支持層の先端支持力を活用して、合理的な基礎杭構造とし、かつ施工の簡略化を図る。
【解決手段】中間支持層3、・・・と下端支持層2がある地盤で、分割する深さ単位H1〜H毎に杭穴を掘削し、単位杭12、・・・を設定する。基礎杭構造を10A〜10Cとして、基礎杭構造毎に伝達する鉛直荷重P、PB1、PB2、Pを求める。水平荷重及び引抜荷重の荷重条件等から基礎杭構造10Aの構造を決定し、負担できる鉛直荷重Pを決める。基礎杭構造10B、・・・の構造を仮に定め、伝達する鉛直荷重は、P=P+PB1+PB2+P、であるので、鉛直荷重PB1=P−P、鉛直荷重PB2=P−P−PB1、鉛直荷重P =P−P−PB1−PB2 となる。鉛直荷重を、各基礎杭構造で負担できるか否かを地盤条件から検証して、各基礎杭構造の構造と負担鉛直荷重を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中間支持層を有する地盤で、杭穴を掘削して既製杭を埋設する基礎杭工法、基礎杭の構造、基礎杭の設計方法で、合理的に支持力を発揮させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
先端支持杭では、支持層まで掘削した杭穴内に、単独の既製杭又は複数の単位杭を連結した既製杭を埋設して、基礎杭構造を構成していた。この場合、支持杭では、一体の既製杭を杭穴内に埋設して、杭穴と既製杭の間に根固め液又は杭周固定液を介在させて構成していた。
【0003】
このような基礎杭では、1本の基礎杭で負担すべき鉛直荷重、引抜力、水平荷重を考慮して、先端支持層で総ての鉛直荷重を負担するように設計していた。また、中間で発揮される既製杭の周面での摩擦力については無視され、仮に摩擦力がゼロでなかったとしても、既製杭の先端で、杭頭の総ての荷重を負担するように、設計しなければならなかった。
【特許文献1】特開平4−93488
【特許文献2】特開2002−348868
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の先端支持杭の場合、先端支持層に至る中間で、やや硬い中間支持層があった場合でも、中間支持層で支持力を負担させることができなかった。
【0005】
また、中間支持層の地盤を支持力として有効に取り込める構造も提案されていなかった。
【0006】
また、従来の基礎杭では、中間部で必要以上に大径となり、大径に従って重量も増大するので、重すぎて施工できない問題点を生じていた。このような重機の重量制限を回避するためには、既製杭の長さを短くしなければならず、既製杭の連結作業が繁雑となる問題点があった。とりわけ外径1mを超えるような大径の場合には顕著な問題点となっていた。
【0007】
また、1つの杭穴では、既製杭は連続して、バンドや溶接で剛に連結しながら埋設する必要があった。例えば、10mの単位杭を5本連結する場合など、現場の都合で2〜3本しか埋設できない場合には、総てを翌日回しとしなければ、ならなかった。よって、工期に無駄を生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
然るにこの発明は、中間支持層を有する地盤で、最上部の中間支持層に根固め部を形成する杭穴上端部を掘削し、杭穴上端部内に引抜力及び水平荷重を負担できる上端部杭を埋設したので、上端部杭により中間支持層の支持力を有効活用して、下端部杭が負担する鉛直荷重を軽減できるので、前記問題点を解決した。
【0009】
即ちこの発明は、「下端支持層」及び「1つ又は複数の中間支持層」を有する地盤において、以下のように、掘削した杭穴に、既製杭を埋設して、基礎杭を築造することを特徴とする基礎杭の構築方法である。
(1) 前記杭穴は、地上から最上層の中間支持層の杭穴上端部と、最下層の中間支持層と下端支持層までの杭穴下端部とから構成される。中間支持層間に他の中間支持層が存在する場合には、前記各中間支持層間に、夫々杭穴中間部を構成する。
(2) 前記支持杭は、前記杭穴上端部に埋設される上端部杭と、前記杭穴下端部に埋設される下端部杭と、必要な中間部杭とから構成する。前記中間部杭は前記杭穴中間部が存在する場合に、対応する杭穴中間部に埋設されるように構成する。
(3) まず、地上から下端支持層まで、前記杭穴を掘削する。
(4) 次ぎに、前記杭穴下端部に、前記杭穴下端部の長さに応じた前記下端部杭を埋設する。
(5) 次ぎに、前記各杭穴中間部が存在する場合には、各杭穴中間部に、各中間部杭を埋設する。最下端の中間部杭を前記下端部杭の上端に載せ、軸のずれを生じないように、前記各中間部杭を上下に重ねる。
(6) 次ぎに、最上に位置する中間部杭又は下端部杭の上端に、杭穴上端部の長さに応じた長さを有し、かつ、必要な引抜力及び水平力に抗する性能を有する上端部杭を、載せて埋設する。
【0010】
また、前記において、杭穴掘削をする際に、以下のように掘削することを特徴とする基礎杭の構築方法である。
(1) 杭穴上端部を掘削し、掘削速度及び掘削の積算電流値データを掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
(2) 杭穴中間部が存在する場合には、各杭穴中間部を掘削毎に、掘削速度及び掘削の積算電流値データを掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
(3) 杭穴下端部を掘削し、掘削速度及び掘削の積算電流値データを、掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
【0011】
また、ここで、所定単位深さ毎に、平均積算抵抗値が、予め測定した地盤N値と比例関係が生じるように、掘削時に使用する水量を使用し、かつその使用した水量のデータを単位深さ毎に採取して保存することを特徴とする基礎杭の構築方法である。
【0012】
また、前記において、下端部杭の根固め液が固化発現した後に、上方に位置する中間部杭又は上端部杭を埋設する基礎杭の構築方法である。また、基礎杭の上端部を連結し、地上構造物の下端面を構成するフーチングを、下面を同一水平面で構成した基礎杭の構築方法である。また、下端部杭の下端位置は下端支持層内に位置し、上端部杭の下端位置は最上に位置する中間支持層内に位置し、
中間支持杭が存在する場合には、各中間支持杭の下端位置は対応する各中間支持層内に位置することを特徴とする基礎杭の構築方法である。
【0013】
また、他の発明は、下端支持層及び1つ又は複数の中間支持層を有する地盤において、以下のように、形成した杭穴に、既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造である。
(1) 前記既製杭は複数の単位杭から構成し、各単位杭をの下端部を、上下に隣接する下端支持層又は中間支持層内に位置させる。
(2) 上下に位置する単位杭は、互いに連結せずに、下方に位置する単位杭の上面に上方に位置する単位杭の下面を載置して設置する。
(3) 最上位に位置する単位杭は、当該基礎杭に要求される引抜力及び水平力に抗する性能を有する構造とした。
【0014】
また、前記において、単位杭は下端部外周に突起を形成し、該突起を下端支持層又は中間支持層内に位置させる基礎杭の構造である。
【0015】
また、他の発明は、下端支持層と、1つ又は複数の中間支持層とを有する地盤において、以下のように、形成した杭穴に、既製杭を埋設して基礎杭構造を構成し、必要な支持力を設計することを特徴とした基礎杭の設計方法である。
(1) 前記既製杭は複数の単位杭から構成し、各単位杭の下端部を、上下に隣接する下端支持層又は中間支持層内に位置させる。上下に位置する単位杭は剛接合せずに、軸を合わせて設置する構造とする。
(2) まず、最上位に位置する単位杭を、当該基礎杭に要求される引抜荷重及び水平荷重に抗する性能を有するように杭径など単位杭及び杭穴上端部の構造を決定する。この最上に位置する単位杭を最上部の中間支持層に支持させたと仮定して、最上の単位杭及び杭穴上端部が負担できる鉛直荷重を算出し、鉛直荷重Pとする。
(3) 次ぎに、最下端に位置して下端支持層に定着させる単位杭を、
(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)−(鉛直荷重P+鉛直荷重P
により算出される鉛直荷重が伝達するとして、最下端に位置する単位杭の構造及び下端支持層を含む杭穴下端部の構造を決定する。
(4) 前記鉛直荷重Bは、中間支持層が2つ以上ある場合に限り設定し、最上に位置する中間支持層以外にn個の中間支持層が存在する地盤の場合、
鉛直荷重P=鉛直荷重PB1+鉛直荷重PB2+・・・+鉛直荷重PBn
とする。ただし、鉛直荷重PB1、・・・、鉛直荷重PBnは、下記(5)により定義される各鉛直荷重とする。
(5) (4)の場合、各単位杭B、単位杭B、・・・、単位杭Bに伝達する鉛直荷重を鉛直荷重PB1、鉛直荷重PB2、・・・、鉛直荷重PBnとすると、
鉛直荷重PB1=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)−(鉛直荷重P
鉛直荷重PB2=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)
−(鉛直荷重P+鉛直荷重PB1
鉛直荷重PBn=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)
−(鉛直荷重P+(鉛直荷重PB1+鉛直荷重PB2+・・・+鉛直荷重PBn−1))
として、各鉛直荷重PB1、・・・、PBnに基づき、これを負担する単位杭B、・・・、Bの構造を決定する。
【0016】
また、前記において、地上構造物に対応した複数の基礎杭の杭頭部をフーチングで連結し、地上構造物の下端面を構成するフーチングを、下面を略水平面で構成し、最上に位置する単位杭と前記フーチングとで、当該基礎杭に要求される引抜荷重、水平荷重及び鉛直荷重に抗する性能を有するように、前記最上に位置する単位杭の構造を決定する基礎杭の設定方法である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、既製杭の構造を地盤の深さ毎の最適の構造とすることができ、必要以上に大径の材料を選択する必要もなく、工期、コストなどから適正な構造を選択できる。
【0018】
また、大径で比較的長い既製杭を採用して、施工することもできるので、既製杭を使用してより大径で多くの支持力を発揮する基礎杭構造を構築することができる。
【0019】
また、より深い側の杭穴及び単位杭を小径にすることができるので、深い位置で掘削する杭穴の径を従来に比して小径とすることができる。従って、下端での掘削径を基準にして、大幅な支持力の増加が期待できる。
【0020】
また、単位杭を剛接合する必要が無いので、煩雑な連結作業を不要にして、工期の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.基礎杭構造10の設計
【0022】
下端支持層2(支持地盤)に至る中間深さに中間支持層3が1つの存在する地盤で、地上構造物6(建造物)のフーチング7をパイルド・ラフトの独立基礎として使用する場合の例について説明する。従って、既製杭は、下端支持層2に下端部が定着する下端部杭13と、中間支持層3に下端部が定着する上端部杭12の2つから構成される。従って、杭穴20は、下端部杭13に対応する杭穴下端部23と、上端部杭12に対応する杭穴上端部21と、からなる(図1、図2)。
【0023】
(1) この発明は、フーチング7を独立基礎として、パイルド・ラフト構造を適用して、地上構造物6の鉛直荷重を、フーチング7と6本の基礎杭構造10、10で支持する。
【0024】
地上構造物6の総鉛直荷重をPtotalとした場合、フーチング7が負担する鉛直荷重をP、基礎杭構造10、10が負担すべき鉛直荷重をPとすると、
total=P+P
であり、1本の基礎杭構造10が負担すべき鉛直荷重Pは、
P=(Ptotal−P)÷6
となる。
【0025】
地盤は、
・地面1から「H+H」程度の深さに、N値(30)の下端支持層2(支持地盤層)
・地面1からH程度の深さにN値(15)の中間支持層3
が存在している。
【0026】
(2) 負担すべき水平荷重、引抜力を総て上端部杭12、12で負担すると想定して、上端部杭12の構造(外径、等を)を決定する(図1(b)(c)。
・上端部杭12:長さL、外径D
下端部に外径D01の環状突部15を形成する
下端外周に筒状のカバー19を固定する
・杭穴上端部21:長さH、外径D11
中間支持層3に根固め部22を形成する
【0027】
(3) この上端部杭12で、中間支持層3に根固め部22を位置させ、杭穴上端部21を掘削して、環状突部15が杭穴20の根固め部22内に位置する基礎杭構造10Aを考えた場合、この基礎杭構造10Aが負担できる鉛直荷重をPとする。
【0028】
(4) 続いて、下端部杭13の基礎杭構造(10)Cで負担すべき鉛直荷重Pとする。1本の基礎杭構造10の全体で負担すべき鉛直荷重が総鉛直荷重Pであるので、
(基礎杭Cで負担すべき鉛直荷重)P
(総鉛直荷重)P−(基礎杭構造Aにより負担する鉛直荷重)P
により、鉛直荷重Pを求める。
【0029】
(5) 鉛直荷重Pを負担できる下端部杭13の構造を決定する(図2(a)(b))。
・下端部杭13:長さL2、外径D(D<D
下端部に外径D03の環状突部16を形成する
下端外周に筒状のカバー19の上部19aを固定する
・杭穴下端部23:長さH、外径D33
下端支持層2に杭穴下端部23の根固め部24を形成する
【0030】
(6) 以上のようにして、基礎杭構造10を決定する。
【0031】
(7) 前記において、パイルド・ラフト構造を採用しない場合には、(1)で、地上構造物6の総鉛直荷重をPtotalとした場合、1本の基礎杭構造10が負担すべき鉛直荷重Pは、
P=(Ptotal)÷6
となる。
【0032】
(8) また、前記において、支持力の確保上で有効利用できる中間支持層が2つ以上存在する場合について、図3に基づき説明する。例えば、合計3つの中間支持層が存在する場合には、
地上〜2番目の中間支持層:H
1番目の中間支持層〜2番目の中間支持層:H21
2番目の中間支持層〜3番目の中間支持層(最下部に位置する中間支持層):H22
3番目の中間支持層(最下部に位置する中間支持層)〜下端支持層:H
とする。分割する深さ単位H1、H21、H22、H毎に杭穴、単位杭を設定して、構築される基礎杭構造を10A、10B、10B、10Cとして、基礎杭構造毎に伝達する鉛直荷重P、PB1、PB2、Pを求める。
【0033】
前記同様に、まず、水平荷重及び引抜荷重の荷重条件、地盤条件(N値等)から基礎杭構造10Aの構造を決定する。また、基礎杭構造10Aにより負担できる鉛直荷重Pが決まる。
【0034】
決定した基礎杭構造10Aの構造から、より小径となるように、基礎杭構造10B、10B、10Cの構造を仮に定め、各基礎杭構造に伝達する鉛直荷重は、
P=P+PB1+PB2+P
であるので、
・鉛直荷重PB1=P−P
・鉛直荷重PB2=P−P−PB1
・鉛直荷重P =P−P−PB1−PB2
となる。これにより、仮に負担する鉛直荷重を、各基礎杭構造で負担できるか否かを地盤条件(N値等)から検証して、各基礎杭構造の構造及び負担すべき鉛直荷重を調節する。以上をまとめると表1のようになる。
【0035】
また、鉛直荷重は、例えば、
・鉛直荷重P =10t
・鉛直荷重P=4t
・鉛直荷重PB1=3t
・鉛直荷重PB2=2t
・鉛直荷重P =1t
のように確定する。基礎杭構造10Cに伝達する鉛直荷重Pを軽減できるので、基礎杭構造10Cの径(=杭穴下端部23の径、単位杭13の径)を小さくできる。
【0036】
【表1】

【0037】
2.基礎杭構造10の施工
【0038】
(1) 杭穴20の掘削;
・杭穴上端部21:地上1〜深さH:径D11
・杭穴下端部23:深さH〜深さH:径D33(D33<D11
で杭穴20を掘削する。杭穴下端部23の根固め部24に根固め液を充填し、杭穴下端部23の他の深さには杭周固定液を充填しておく。
【0039】
(2) 上端部杭12の下端部外周に筒状のカバー19を取付け、カバー19の下部19bを上端部杭12の下面12bから下方突出させておく。カバー19の下部19bを下端部杭13の上端部に嵌装できるようになっている。
【0040】
(3) 杭穴20に下端部杭13を挿入して、下端部杭13の上端部を地上1付近で一旦保持する。
【0041】
続いて、下端部杭13の上面13aに、上端部杭12の下面12bを載置する。この状態で、下端部杭13の上端部外周にカバー19の下部19bが嵌装されるので、上端部杭13と下端部杭12とは軸がずれないように上下に重なり、鉛直荷重が作用した場合に偏心荷重が作用しないようになっている(図1(d))。
【0042】
(4) 続いて、地上付近での下端部杭13の保持を解除して、重ねた状態で下端部杭13及び上端部杭12を杭穴20内に挿入する。
【0043】
(5) 下端部杭13の環状突部16が、杭穴下端部23の根固め部24に位置し、下端部杭13の下面13bが杭穴下端部23の下面23aより長さD程度上方に位置している状態で、下端部杭13及び上端部杭12を地上1で保持する。
【0044】
この際、下端部杭13の上面13aは、杭穴上端部21の根固め部22(中間支持層3)内に位置し、上端部杭12の下面12bが杭穴上端部21の下面21aより長さD程度上方に位置し、環状突起15が杭穴上端部21の根固め部22内に位置している。
【0045】
この状態で、杭穴上端部21の下端部に根固め液を注入して、根固め部22を形成して上端部杭12の環状突起15を含む下端部を根固め部22内に位置させる。
【0046】
杭穴上端部21で、根固め部22の上方には杭周固定液が充填されている。
【0047】
(6) 続いて、基礎杭構造10(上端部杭12)の杭頭部を露出して、必要ならば地面1を掘り下げて、フーチング7を構築して、基礎杭構造10(上端部杭12)の杭頭部を連結する。フーチング7は、パイルド・ラフトの独立基礎の機能を満たすように構成する。
【0048】
即ち、構造鉄筋の数を増加させるなどして剛性を高めると共に、下面8全体を略同一高さとして(即ち下面8を略平坦に形成する)不同沈下を生じないように構成する。
【0049】
以上のようにして、この発明の基礎杭構造10を構築する(図1(a)(b))。
【0050】
(7) 続いて、フーチング7の上に通常の方法で地上構造物(建造物)6を構築する(図1(a)(b))。
【実施例1】
【0051】
図面に基づきこの発明の基礎杭構造について説明する。
【0052】
[1]地盤条件
【0053】
(1) 地盤条件は、
地上から深さ10mに第1中間支持層 N値(20)
深さ20mに第2中間支持層 N値(30)
深さ30mに下端支持層 N値(50)
が存在する地盤とし、1本の基礎杭構造で負担すべき鉛直荷重を1000t とする。また、引抜荷重を5t、水平荷重を10tとする。
【0054】
基礎杭構造10は、杭穴20内に既製杭11を埋設して構成する。
【0055】
(2) この場合、従来の既製杭を一体に埋設する構造を採用するとする。杭穴に埋設する既製杭の外径は120cm必要であり、外径120cm、長さ10mの既製杭とした場合、1本の杭の重量が771.6t程度になり、施工不能となる。重機の取り扱い最大重量(通常500〜600t程度)を考慮すれば、既製杭の最大径(外径)は100cm程度となり、既製杭の本数を増やさなければならず、施工が煩雑となることが予想される。
【0056】
[2]基礎杭構造10
【0057】
(1) 従って、この発明を適用して、中間支持層で杭穴20を分割して、各分割した杭穴21、25、23毎に第一中間支持層、第二中間支持層又は下端支持層を根固め部として、分割した杭穴21、25、23内に夫々単位杭12、14、13を埋設する(表2)。
【0058】
【表2】

【0059】
各単位杭12、14、15の構成は以下のようにしてある。上端部杭12は全長に亘り環状突起(節)15が、中間部杭14は全長に亘り環状突起(節)17が、下端部杭13は全長に亘り環状突起(節)17がそれぞれ形成されている。また、下端部の軸径を細く形成して、下方に連結する単位杭の軸径と一致させた構造としてある。縮径は各単位杭の環状突起(節)15、17の下方で処理してある(図4、表3)。
【0060】
また、各単位杭に対応する杭穴20は、節径+3cmとして、表3のように構成する。
【0061】
【表3】

【0062】
中間部杭12の下端外周に筒状のカバー19を取り付ける。カバー19の内径は中間部杭12の下端部軸径(=下端部杭の軸径)となっている。同様に、上端部杭12の下端外周に、対応した内径の筒状のカバー19を取り付ける。
【0063】
このような構造で、
・基礎杭構造10A=上端部杭12を杭穴上端部21(根固め部:第一中間支持層)
・基礎杭構造10B=中間部杭14を杭穴中間部25(根固め部:第二中間支持層)
・基礎杭構造10C=下端部杭13を杭穴上端部23(根固め部:下端支持層)
を構成する。
【0064】
[3]基礎杭構造10の設計
【0065】
上記[2]の構成は、以下のように決定される。
(1) 第一中間支持層、第二中間支持層で分割した基礎杭構造10A、10B、10Cを設定する。
(2) 基礎杭構造10Aで支持されるべき水平荷重・引抜荷重から基礎杭構造10Aの構造(上端部杭12、杭穴上端部21の構造、杭穴充填剤)を仮に設定する。
(3) 基礎杭構造10A、第一中間支持層のN値(20)で支持できる鉛直荷重Pを算出する。
(4) 基礎杭構造10が負担すべき鉛直支持力P、
P=P+PB1+PB2+P=1000t
より、各基礎杭構造10B、10B、10Cに伝達される鉛直支持力PB1、PB2、Pを仮定して、各基礎杭構造10B1、10B2、10Cの構造を決定する。
(5) 決定した各基礎杭構造10B1、10B2、10Cの構造で、鉛直支持力Pを負担できるか否かを検証して、調整する。
(6) 以上のようにして、各基礎杭構造10B1、10B2、10Cの構造を決定する(表3)。
(7) 尚、上記の場合(表3)、P=1000tで、各基礎杭構造10A、10B1、10B2、10Cに伝達される各鉛直荷重P、PB1、PB2、Pは以下のようになっている。
・P=1000t
・PB1=600t
・PB2=300t
・P=150t
【0066】
[4]施工方法
【0067】
次ぎに施工方法について説明する。
【0068】
(1) 下端支持層(深さH+H+H=30m)まで、通常の方法により掘削ヘッドで、径D33で杭穴を掘削する。続いて、第二中間支持層(深さH+H=20m)まで、通常の方法により径をD11からD22に拡大する。続いて、第一中間支持層(深さH=10m)まで、通常の方法により径をD22からD11に拡大する。以上のようにして、杭穴20を構築する。
【0069】
(2) 続いて、下端部杭13、中間部杭14、上端部杭12を順に杭穴内に埋設して、下端部杭13を下端支持層、中間部杭14を第二中間支持層、上端部杭を第一中間支持層にそれぞれ定着させる。
【0070】
杭穴下端部23の下端部、杭穴中間部25の下端部、杭穴上端部21の下端部には、地盤に対応した根固め液が注入され、根固め部以外には、杭周固定液が充填されている。杭穴下端部23の軸部に相当する深さ位置に杭周固定液が注入されている。杭穴下端部23内に、通常の方法により、下端部杭13、を埋設する。
【0071】
根固め液及び杭周固定液の注入時期は、軸D33の杭穴掘削以降であれば任意であり、下端部掘削ヘッドの引き上げ時あるいは別途注入管で注入することもできる。
【0072】
また、各杭13、14、12は、キャップ19を介して、軸がずれないように載置され、剛接合されていないので、杭周固定液などが固化するまでは、回転、上下動可能となっている。
【0073】
(3) 以上のようにして、基礎杭構造10を構築する。
【0074】
(4) この基礎杭構造10では、分割された基礎杭構造10B1、10B2、10C毎に伝達される鉛直荷重を支持する構造であるので、各杭13、14、12は連続して埋設する必要がない。例えば、下端部杭23を杭穴下端部13に定着させた後(根固め液が固化した後に。例えば数日後)に、杭穴中間部中間部杭14を杭穴中間部25に埋設することもできる。
【0075】
従って、杭穴の掘削もD33の杭穴を掘削した後であれば、杭穴D22に拡径する前であっても先に下端部杭13を埋設することもできる。ただし、この場合には、根固め液が固化するまで地上で下端部杭13を支持する必要がある。
【0076】
よって、構築現場全体で、必要な基礎杭構築位置に、まず径D33の掘削をして杭穴下端部23を構築して、各杭穴下端部23に順に下端部杭13を埋設しておき、続いて、各杭穴をD22、D11に拡大しながら中間部杭14、上端部杭12を埋設して基礎杭構造20を完成することもできる。また、各構築位置で、径D11まで拡大した杭穴を掘削して完成した杭穴20を構築していき、次ぎに各杭穴20で、順に下端部杭13、中間部杭14、上端部杭12を埋設して、基礎杭構造20を完成させることもできる。
【0077】
また、下方の杭穴の杭周固定液が固化し、あるいは固化しつつある状態で、直上の中間支持層に下方の杭周固定液よりも比重が重い根固め液を注入することができる。従来は、比重の重い根固め液を、比重の軽い杭周固定液の上層に形成することは困難であったが、この方法によれば、特殊な治具を使用することなく中間支持層に、対応した杭穴内に根固め層を形成することができる。
【0078】
更に、これらを組み合わせて、一度に連続して下端部杭13、中間部杭14、上端部杭12を構築する必要がないので、異なる日に、下端部杭13、中間部杭14、上端部杭12を構築することも可能であるので、重機や各杭13、14、12の搬入状況に応じて基礎杭構造を完成できるので、工期の無駄を省き、効率良い施工ができる。
【0079】
[5]他の実施例
【0080】
(1) 前記実施例において、各単位杭13、14、12は軸部を縮径して、下方に位置する単位杭の軸径に一致させたが、埋設した際に、軸を一致させて埋設できれば、縮径しない構造とすることもできる(図2)。
【0081】
また、前記実施例において、各単位杭13、14、12は全長に亘り環状突起(節)を形成したが、少なくとも下端部に環状突起(節)を形成して、環状突起(節)を根固め部内に配置できれば、良い(図1、図2)。また、環状突起(節)が無くとも充分な先端支持力が確保できれば、環状突起(節)を省略することもできる(図3)。
【0082】
(2) また、前記実施例において、中間支持層で基礎杭構造10(既製杭11)を分割したが、下端支持層及び各中間支持層で支持力を発揮させることができれば、即ち、中間支持層に対応する環状突起(節)を位置させることができれば、中間支持層以外で、既製杭を連結するころもできる。この場合も剛接合とする必要は無い。
【0083】
(3) また、前記実施例において、中間支持層は少なくとも1つあれば実施できる。この場合には、基礎杭構造10A(上端部杭12、杭穴上端部22)と基礎杭構造10C(下端部杭14、杭穴下端部24)のみから基礎杭構造10を構成する(図示していない)。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】(a)はこの発明の基礎杭構造の平面構成を表す図、(b)は同じく概略した縦断面図である。
【図2】(a)は図1の基礎杭構造に使用する既製杭の構成を表す図、(b)は同じく連結した既製杭の図である。
【図3】この発明の中間支持層が3つある場合の概念図である。
【図4】この発明の実施例で使用する既製杭の正面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 地面
2 下端支持層
3 中間支持層
6 地上構造物
7 フーチング
8 フーチングの下面
10 基礎杭構造(全体)
10A、10B、10B1、10B2、10C 基礎杭構造(部分)
11 既製杭
12 上端部杭(単位杭)
13 下端部杭(単位杭)
14、14a、14b 中間部杭(単位杭)
15 環状突起(上端部杭)
16 環状突起(下端部杭)
17 環状突起(中間部杭)
19 カバー
20 杭穴
21 杭穴上端部
22 杭穴上端部の根固め部
23 杭穴下端部
24 杭穴下端部の根固め部
25、25a、25b 杭穴中間部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
「下端支持層」及び「1つ又は複数の中間支持層」を有する地盤において、以下のように、掘削した杭穴に、既製杭を埋設して、基礎杭を築造することを特徴とする基礎杭の構築方法。
(1) 前記杭穴は、地上から最上層の中間支持層の杭穴上端部と、最下層の中間支持層と下端支持層までの杭穴下端部とから構成される。中間支持層間に他の中間支持層が存在する場合には、前記各中間支持層間に、夫々杭穴中間部を構成する。
(2) 前記支持杭は、前記杭穴上端部に埋設される上端部杭と、前記杭穴下端部に埋設される下端部杭と、必要な中間部杭とから構成する。前記中間部杭は前記杭穴中間部が存在する場合に、対応する杭穴中間部に埋設されるように構成する。
(3) まず、地上から下端支持層まで、前記杭穴を掘削する。
(4) 次ぎに、前記杭穴下端部に、前記杭穴下端部の長さに応じた前記下端部杭を埋設する。
(5) 次ぎに、前記各杭穴中間部が存在する場合には、各杭穴中間部に、各中間部杭を埋設する。最下端の中間部杭を前記下端部杭の上端に載せ、軸のずれを生じないように、前記各中間部杭を上下に重ねる。
(6) 次ぎに、最上に位置する中間部杭又は下端部杭の上端に、杭穴上端部の長さに応じた長さを有し、かつ、必要な引抜力及び水平力に抗する性能を有する上端部杭を、載せて埋設する。
【請求項2】
杭穴掘削をする際に、以下のように掘削することを特徴とする請求項1記載の基礎杭の構築方法。
(1) 杭穴上端部を掘削し、掘削速度及び掘削の積算電流値データを掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
(2) 杭穴中間部が存在する場合には、各杭穴中間部を掘削毎に、掘削速度及び掘削の積算電流値データを掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
(3) 杭穴下端部を掘削し、掘削速度及び掘削の積算電流値データを、掘削深さ方向又は当該深さの地盤N値に対応させて、保存する。
【請求項3】
所定単位深さ毎に、平均積算抵抗値が、予め測定した地盤N値と比例関係が生じるように、掘削時に使用する水量を使用し、かつその使用した水量のデータを単位深さ毎に採取して保存することを特徴とする請求項2記載の基礎杭の構築方法。
【請求項4】
下端部杭の根固め液が固化発現した後に、上方に位置する中間部杭又は上端部杭を埋設する請求項1又は2記載の基礎杭の構築方法。
【請求項5】
基礎杭の上端部を連結し、地上構造物の下端面を構成するフーチングを、下面を同一水平面で構成した請求項1又は2記載の基礎杭の構築方法。
【請求項6】
下端部杭の下端位置は下端支持層内に位置し、
上端部杭の下端位置は最上に位置する中間支持層内に位置し、
中間支持杭が存在する場合には、各中間支持杭の下端位置は対応する各中間支持層内に位置する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の基礎杭の構築方法。
【請求項7】
下端支持層及び1つ又は複数の中間支持層を有する地盤において、以下のように、形成した杭穴に、既製杭を埋設して構成したことを特徴とする基礎杭構造。
(1) 前記既製杭は複数の単位杭から構成し、各単位杭をの下端部を、上下に隣接する下端支持層又は中間支持層内に位置させる。
(2) 上下に位置する単位杭は、互いに連結せずに、下方に位置する単位杭の上面に上方に位置する単位杭の下面を載置して設置する。
(3) 最上位に位置する単位杭は、当該基礎杭に要求される引抜力及び水平力に抗する性能を有する構造とした。
【請求項8】
単位杭は下端部外周に突起を形成し、該突起を下端支持層又は中間支持層内に位置させる請求項7記載の基礎杭の構造。
【請求項9】
下端支持層と、1つ又は複数の中間支持層とを有する地盤において、以下のように、形成した杭穴に、既製杭を埋設して基礎杭構造を構成し、必要な支持力を設計することを特徴とした基礎杭の設計方法。
(1) 前記既製杭は複数の単位杭から構成し、各単位杭の下端部を、上下に隣接する下端支持層又は中間支持層内に位置させる。上下に位置する単位杭は剛接合せずに、軸を合わせて設置する構造とする。
(2) まず、最上位に位置する単位杭を、当該基礎杭に要求される引抜荷重及び水平荷重に抗する性能を有するように杭径など単位杭及び杭穴上端部の構造を決定する。この最上に位置する単位杭を最上部の中間支持層に支持させたと仮定して、最上の単位杭及び杭穴上端部が負担できる鉛直荷重を算出し、鉛直荷重Pとする。
(3) 次ぎに、最下端に位置して下端支持層に定着させる単位杭を、
(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)−(鉛直荷重P+鉛直荷重P
により算出される鉛直荷重が伝達するとして、最下端に位置する単位杭の構造及び下端支持層を含む杭穴下端部の構造を決定する。
(4) 前記鉛直荷重Bは、中間支持層が2つ以上ある場合に限り設定し、最上に位置する中間支持層以外にn個の中間支持層が存在する地盤の場合、
鉛直荷重P=鉛直荷重PB1+鉛直荷重PB2+・・・+鉛直荷重PBn
とする。ただし、鉛直荷重PB1、・・・、鉛直荷重PBnは、下記(5)により定義される各鉛直荷重とする。
(5) (4)の場合、各単位杭B、単位杭B、・・・、単位杭Bに伝達する鉛直荷重を鉛直荷重PB1、鉛直荷重PB2、・・・、鉛直荷重PBnとすると、
鉛直荷重PB1=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)−(鉛直荷重P
鉛直荷重PB2=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)
−(鉛直荷重P+鉛直荷重PB1
鉛直荷重PBn=(基礎杭の負担すべき総鉛直荷重P)
−(鉛直荷重P+(鉛直荷重PB1+鉛直荷重PB2+・・・+鉛直荷重PBn−1))
として、各鉛直荷重PB1、・・・、PBnに基づき、これを負担する単位杭B、・・・、Bの構造を決定する。
【請求項10】
地上構造物に対応した複数の基礎杭の杭頭部をフーチングで連結し、地上構造物の下端面を構成するフーチングを、下面を略水平面で構成し、
最上に位置する単位杭と前記フーチングとで、当該基礎杭に要求される引抜荷重、水平荷重及び鉛直荷重に抗する性能を有するように、前記最上に位置する単位杭の構造を決定する請求項9記載の基礎杭の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−315027(P2007−315027A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145548(P2006−145548)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000176512)三谷セキサン株式会社 (91)
【Fターム(参考)】