基礎杭構造
【課題】鋼管杭とSC杭をつなぎ合わせる場合において、荷重を健全、かつ円滑に伝達できるようにした基礎杭構造を提供する。
【解決手段】下杭としての鋼管杭1の上部に、上杭として鋼管杭1よりも曲げ耐力が大きいSC杭2を接合する。鋼管杭1とSC杭2は、鋼管杭1の外径が、SC杭2の外径より小さく、SC杭2の中空部の径より大きくなるようにする。鋼管杭1の上端部とSC杭2のコンクリート2b端部に設けられる端板2dとを溶接3により接合する。
【解決手段】下杭としての鋼管杭1の上部に、上杭として鋼管杭1よりも曲げ耐力が大きいSC杭2を接合する。鋼管杭1とSC杭2は、鋼管杭1の外径が、SC杭2の外径より小さく、SC杭2の中空部の径より大きくなるようにする。鋼管杭1の上端部とSC杭2のコンクリート2b端部に設けられる端板2dとを溶接3により接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭とSC杭(鋼管と該鋼管の内面側に一体化されたコンクリートとからなる鋼コンクリート複合パイル)を用いた基礎杭構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の基礎杭の高支持力化や設計地震力の大規模化に伴って、従来は曲げ性能に優れると考えられてきた鋼管杭においても、地震時の建物からの水平力や地中部での地盤変位により発生する大きな荷重に対しては耐力が不足したり、必要耐力を得るためには相当に肉厚の大きい高価な鋼管杭が必要になったりする場合が生じている。
【0003】
このような場合には鋼管杭打設後に該鋼管杭の中空部にコンクリートを打設し、鋼管−コンクリート構造とすることによって曲げ耐力の向上を図るなどの方法が採られたりしているが、この方法には以下に示す課題がある。
【0004】
(1) 鋼管内に中空部が確保されており、かつ鋼管内周面は付着物のないきれいな状態であることが求められるため、鋼管内に土砂やセメントミルクが残置されている場合には、その除去や鋼管表面の清掃などが必要になり、実施が容易でない、あるいは困難になる。そのため、杭の施工法などに依存する適用の制約が大きい。
【0005】
(2) 杭の施工が終了した後に、所定深度に落し蓋を設置し、コンクリートを打設する工程が増加するため、現場作業や工期が増加する。
【0006】
(3) 現場でのコンクリート打設のため、また場合によっては水中、泥水中でコンクリートを打設する必要も生じることから、得られる強度や品質に限界がある。
【0007】
そこで、本発明では、主として鋼管杭により構成される基礎杭のうち、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの所要の部位に、鋼管杭よりも曲げ耐力の大きなSC杭を適用して、鋼管杭とSC杭をつなぎ合わせた基礎杭構造を提案することとした。
【0008】
SC杭はあらかじめ工場で鋼管内周面に高強度コンクリートを一体化することにより製作される既製杭であるため、杭施工後に別工程でコンクリートを打設する必要はなく、上記の現場打ちコンクリートの場合の課題が解決される。
【0009】
また、SC杭は工場製作であるため現場打設に比べてはるかに大きな強度のコンクリートを適用可能であるとともに、安定した品質が得られ、適切な強度・板厚の鋼管とコンクリート強度の組合せを選定することにより所要の曲げ耐力を有するものを製作可能である。
【0010】
従来からも異種の既製杭、すなわち、既製コンクリート杭(PC杭、PHC杭)や鋼コンクリート複合パイル(SC杭)、あるいは鋼管杭などをつなぎ合わせて用いる構造は知られている。
【0011】
しかし、これらは例えば 特許文献1、特許文献2にあるように、主として既製コンクリート杭からなる基礎杭の所要の箇所に鋼管杭をつなぎ合わせるもの、すなわち、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの部位に対して既製コンクリート杭に代わって、それより曲げ耐力の大きな鋼管杭を適用しようとするものである。
【0012】
この他に、既製コンクリート杭の上杭に同様の理由から同径のSC杭をつなぎ合わせる構造も実用化されているが、主として鋼管杭からなる基礎杭の所要の箇所にさらに曲げ耐力の大きな既製杭を適用することを考えたものではなかった。
【0013】
他方、既製杭をつなぎ合わせる場合の接合にも課題があり、既製コンクリート杭の場合には端板を利用して、現場での突き合せ溶接が行われることが多く、これまでも品質や強度面における課題が指摘されてきた。さらに鋼管杭とSC杭をつなぎ合わせる場合には、既製コンクリート杭どうしの接合のように端板での面接触とはならず、接合部において断面が急激に変化するため、杭基礎に作用する鉛直荷重や水平荷重の円滑、かつ健全な伝達の観点からも配慮が必要となる。
【0014】
そのような異種の既製杭の接合における課題を解決する手段としては、特許文献3に示す方法が開示されている。これは、SC杭とその他の既製杭を接合する手段を提供するものであり、SC杭の鋼管の端部をそのままコンクリートの端部より所定長さ突出させることによって、該鋼管の突出部の内側に凹部を形成し、この凹部に他方の杭の端部を嵌入する方法である。
【0015】
しかし、この方法では鋼管杭とSC杭の接合の観点からは以下の課題がある。
【0016】
(1) 鉛直荷重の伝達は鋼管杭端面とSC杭の端板の接触によって行わなければならず、構造物からの押し込み荷重を円滑、かつ健全に伝達することが難しい。安定的に押し込み荷重を伝達するためには、少なくとも鋼管端面と端板の点接触を避けるため両者の端面精度、杭継ぎ時の鉛直精度などが必要になる他、断面変化点となる鋼管杭端面にリブ補強を施すなどの処置が必要である。さらに引き抜き方向の荷重の伝達に関しては、鋼管杭端面とSC杭の端板が離反し得る構造となるためさらに不安定になる。
【0017】
(2) 突出したSC杭の鋼管の内側に形成した凹部に鋼管杭を嵌入することになるため、SC杭の鋼管の内径と、これに接合する鋼管杭の外径をほぼ等しくしておく必要があるが、鋼管の寸法精度や現場施工の精度や環境を考えると本手法による鋼管杭とSC杭の接合は容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平05−047685号公報
【特許文献2】特開2003-232033号公報
【特許文献3】特許第3724933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、鋼管杭の高支持力化や設計地震動の大規模化などに伴う水平耐力不足の問題を解消するためになされたものであって、鋼管杭とそれよりも曲げ耐力の大きなSC杭をつなぎ合わせ、押し込み・引き抜き・曲げ(水平)の各荷重を健全、かつ円滑に伝達できるようにした基礎杭構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
同時に発明された比較発明1としての基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記SC杭を構成する鋼管の内周面下部に一段または複数段の突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
上杭にSC杭を用いるのは、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの部位に対し、鋼管杭より曲げ耐力の大きな杭を適用しようとするものであるが、その場合、接合部における断面急変による応力伝達の問題がある。
【0022】
比較発明1によれば、SC杭を構成する鋼管の内周面下部に突起を設けたことで、SC杭のコンクリート部分で分担されて伝達される荷重が、SC杭の鋼管の内周面下部に位置する突起を介して次第に鋼管側へ移行し、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭へ安定的に伝達することができる。
【0023】
本願の請求項1に係る基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記鋼管杭の外径が、前記SC杭の外径より小さく、該SC杭の中空部の径より大きく、該鋼管杭の上端部と前記SC杭のコンクリート端部に設けられる端板とを溶接により接合してあることを特徴とするものである。
【0024】
基本的な考え方は比較発明1と同様であり、上杭にSC杭を用いる場合の接合部における断面急変による応力伝達の問題を解決するものであるが、本願の請求項1に係る発明では、SC杭の端板の外縁と内縁の間に鋼管杭が接合されることになるため、端板から鋼管杭の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭に鉛直荷重を安定的に伝達し、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0025】
同時に発明された比較発明2としての基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記SC杭のコンクリート内面側に内面側鋼管が一体化されており、該内面側鋼管の下部がコンクリートの端部より所要長突出し、前記鋼管杭の上端部に前記内面側鋼管の下端部が接合されていることを特徴とするものである。
【0026】
比較発明2の基礎杭構造も、上杭にSC杭を用いる場合の接合部における断面急変による応力伝達の問題を解決するという点において、比較発明1および本願の請求項1に係る発明と共通するものであり、SC杭上部では鋼管とコンクリートで分担されて伝達される荷重が次第に内面側鋼管へ伝達され、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭に安定的に伝達することができる。
【0027】
なお、以上の請求項1に係る発明および比較発明1、2は、実施形態によっては1つの基礎杭構造において併用可能な関係にあるものである。
【0028】
比較発明1用のSC杭は、鋼管の内周面にコンクリートが一体化されたSC杭において、前記鋼管の端部内周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0029】
この比較発明1用のSC杭はそのまま比較発明1の基礎杭構造に適用することができるものである。
【0030】
比較発明1用のSC杭においては、さらに前記突起が溶接ビードにより形成されたものとすることができる。
【0031】
比較発明1においてSC杭を構成する鋼管の内周面に設けられる突起は、基礎杭構造に適用する場合、その下部、製品としてのSC杭についてはその端部に形成されていればよく、また断面急変部近傍における応力伝達に必要とする突起の高さ(5mm〜15mm程度)との関係から、溶接ビードにより形成するのが効率的であり、製作コストも安価となる。
【0032】
比較発明2用のSC杭は、鋼管の内周面にコンクリートが一体化された中空のSC杭において、前記SC杭のコンクリート内面側に内面側鋼管が一体化されており、該内面側鋼管の少なくとも一端がコンクリートの端部より所要長突出していることを特徴とするものである。
【0033】
この比較発明2用のSC杭はそのまま比較発明2の基礎杭構造に適用することができるものである。
【0034】
比較発明2用のSC杭においては、前記鋼管の端部内周面および/または前記内面側鋼管の外周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられているものとすることができる。
【0035】
突起により、鋼管とコンクリートとの間の付着力が増すが、そのような突起をSC杭の外側の鋼管については端部内周面に設けることで、鋼管杭など他の杭と接合した場合の断面急変部における円滑な応力伝達が図れる。
【0036】
一方、内面側鋼管については、それ自体が断面急変部における円滑な応力伝達を図っているものであり、突起の位置は特に限定されない。
【0037】
比較発明2用のSC杭においては、さらに前記突起の一部または全部が溶接ビードにより形成されているものとすることができる。
【0038】
SC杭の外側の鋼管の端部内周面に形成される突起を溶接ビードにより形成する理由は、比較発明1用のSC杭の場合と同様の理由である。内面側鋼管の外周面についてもコンクリートとの応力伝達や加工性を考慮した場合、溶接ビードにより形成するのが比較的効率的であり、製作コストも安価となる。
【0039】
ただし、一方のみ溶接ビードで形成し、他方は例えば縞付鋼板の突起を利用するなど他の種類の突起と併用してもかまわない。
【発明の効果】
【0040】
本願の請求項1に係る基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭の端板の外縁と内縁の間に鋼管杭が接合されることになるため、端板から鋼管杭の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭に鉛直荷重を安定的に伝達し、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0041】
なお、比較発明1の基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭を構成する鋼管の内周面下部に突起を設けたことで、SC杭のコンクリート部分で分担されて伝達される荷重が、SC杭の鋼管の内周面下部に位置する突起を介して次第に鋼管側へ移行し、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭へ安定的に伝達することができる。
【0042】
また、比較発明2の基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭上部では鋼管とコンクリートで分担されて伝達される荷重が次第に内面側鋼管へ伝達され、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭に安定的に伝達することができる。
【0043】
比較発明1用のSC杭は、上記請求項1に係る基礎杭構造に適用することで、上述の効果を発揮することができる。また、断面急変部における応力伝達を円滑にするための突起を溶接ビードで形成すれば、効率的であり、製作コストも安価となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】比較発明1の一実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)、(b)は比較発明1の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図、(c)は比較例における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)は比較発明1における荷重伝達機構の説明図、(c)は比較例における荷重伝達機構の説明図である。
【図4】溶接ビードによる突起の説明図である。
【図5】請求項1に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図6】請求項1に係る発明の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図7】請求項1に係る発明における荷重伝達機構の説明図である。
【図8】請求項1に係る発明における下杭と上杭の溶接による接合部の説明図である。
【図9】比較発明2の一実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図10】(a)〜(c)は比較発明2で用いるSC杭の他の実施形態を示す断面図である。
【図11】(a)、(b)は比較発明2における荷重伝達機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は比較発明1用のSC杭を用いて、比較発明1の基礎杭構造を構成した場合の一実施形態を示したものであり、下杭としての鋼管杭1の上部に、上杭としてのSC杭2を接合してなる。
【0046】
SC杭2を構成する鋼管2aの内周面下部には複数段の突起2cが設けられており、SC杭2の両端には接合用の端板2dが設けられている。
【0047】
この基礎杭構造において、鋼管杭1とSC杭2の接合は、通常の既製杭どうしの縦継ぎと同様に現場での溶接などにより行うこともできる。あるいは事前に所定長さの鋼管杭1とSC杭2を工場溶接などで接合した後に現場に搬入し、現場での縦継ぎは一般的な鋼管杭どうしを接合する形とすることもできる。
【0048】
比較発明1では、SC杭2として作用軸力下における曲げ耐力が接合される鋼管杭1の曲げ耐力よりも大きいものを用いる。SC杭2の耐力は、SC杭2の外周に用いる鋼管2aの材質、板厚や、内周側のコンクリート2bの強度によって変わることから、所要の耐力が得られるように、これらの組合せを選定すればよい。
【0049】
例えば、SC杭2を構成する鋼管2aの板厚を、それに接続される鋼管杭1の板厚と同等、あるいはそれ以上としておくことが考えられる。また、鋼管杭1に比べて径の大きなSC杭2を用いる場合、鋼管杭1よりも曲げ耐力の大きなSC杭2を構成しやすく、鋼管2aの材質・板厚、コンクリート2bの強度の組合せも考慮すれば、鋼管杭1に比べて曲げ耐力を大幅に増すことも可能である。
【0050】
図2(a)、(b)は比較発明1用のSC杭を用いた比較発明1の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示したもので、図2(c)はそれに対する比較例を示したものである。
【0051】
鋼管杭1とSC杭2の接合は、前述した図1のように、SC杭2の端板2dと鋼管杭1を溶接にて接合する方法や、SC杭2の鋼管2aと鋼管杭1とを溶接にて接合する方法(比較例としての図2(c)と同様の形態)、さらにはこの図2(a)のようにSC杭2の鋼管2aをコンクリート2bより所定長だけ突出させておき、この部分を利用して鋼管杭1と溶接にて接合する方法などを採用することができる。
【0052】
また、SC杭2の鋼管2aを突出させておく場合には、図2(b)のように鋼管杭1との接合に機械式の継手4を用いることもできる。
【0053】
SC杭2の鋼管2aと鋼管杭1を接合する方式の場合には、SC杭2下部の端板を省略することができ、あるいは製造上必要な最小限の簡易な端板とするなどの合理化も可能である。
【0054】
一方、図1のようにSC杭2の端板2aを利用して鋼管杭1と接合する方式の場合には、鋼管杭1との接合が容易であり、また鋼管杭1への荷重伝達がより安定的なものとなるように形状などを工夫した専用の板を利用する方式とすることもできる。
【0055】
比較発明1では、SC杭2に必要な耐力、杭の施工法、SC杭2と鋼管杭1の接合方法、SC杭2の製造・運搬の制約など様々な条件を勘案して最適な構成を選択することができる。
【0056】
図3(a)、(b)は比較発明1における荷重伝達機構の説明図、図3(c)は比較例における荷重伝達機構の説明図である。
【0057】
図1や図2(a)、(b)のように、内周面に所定段数の突起2cを有する鋼管を用いたSC杭2を用い、これと鋼管杭1をつなぎ合わせた構成とすることにより、図3(a)、(b)に示すように円滑に鉛直荷重を伝達することが可能となる。
【0058】
すなわち、SC杭2上部で鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重のうち、コンクリート2bで分担されている荷重が突起2cを介して次第にSC杭2の鋼管2aへ移行し、鋼管杭1との接合部においてはコンクリート2bの分担荷重がゼロに近い非常に小さい状態となることによって、鋼管杭1へ安定的に鉛直荷重を伝達できるようになる。
【0059】
なお、コンクリート2bの分担荷重をSC杭2の鋼管2aへ移行させるための十分な突起段数が確保されていれば、構造的な観点からは必ずしもSC杭2の下端の端板2dは必要ではなく、図2(a)、(b)およびこれらに対応する図3(b)のような端板2dのない構成とすることもできる。あるいは、製造上の理由などから端板2dの省略ができない場合でも、最低限必要な簡易な端板を使用するなど形状、材料の合理化を図ることもできる。
【0060】
図2(c)は比較例として、突起2cをSC杭2を構成する鋼管2aの内周面全体に設けた場合を示したものである。この場合、鋼管2aの材料として縞付鋼板などを用いることも考えられるが、SC杭2と鋼管杭1との接合部における断面急変に対しコンクリート2bの分担荷重を徐々にSC杭2の鋼管2aへ移行させるという点では効果的ではなく無駄が多い。
【0061】
事前に突起2cを設けた鋼管2aを用いてコンクリート2bを打設、養生することにより、図2および図3のようなSC杭2が製造可能であり、鋼管2a内周面の突起2cは少なくとも一方の端部に、SC杭2のコンクリート2bと鋼管2aとの間で荷重を伝達するために必要な段数を設置しておけばよい。なお、この場合の突起2cの連続、不連続は問わず、また突起2cが段ごと厳密に分かれている必要はなく、適度に分散した状態でもよい。
【0062】
また、図2(a)、(b)に示すように、SC杭のコンクリート部よりも鋼管をそのまま延長して突出させた構成とし、前述のようにこの突出部を利用して下杭としての鋼管杭1と接合する構成とすることもできる。
【0063】
図2(a)、(b)は下側の端板2dがない場合を示しているが、下側の端板2dがある場合でも比較例としての図2(c)と同様に端板2dの外周部が鋼管2aの内周面に接する構造とすれば、同様に鋼管2aをコンクリート2bより所定長突出させた構造とすることもできる。
【0064】
鋼管杭1とSC杭2の接合は、前述のように現場においてそれらを順次打設した後に縦継ぎする方式、工場にてあらかじめSC杭2の下部に所定長の鋼管杭1を接合した状態で1本ものとして現場に搬入して通常の鋼管杭1の縦継ぎと同様に鋼管どうしを周継ぎ溶接する方式、さらに、図2(b)に示したように機械式継手4を利用する方式など多様な方法が可能であり、杭の施工法やSC杭2の長さなどに応じて適切な方法を選択すればよい。
【0065】
比較例としての図3(c)は、内周面に突起がない通常のSC杭2と鋼管杭1をつなぎ合わせた構成を示しているが、この場合にはSC杭2と鋼管杭1の接合部で断面が急激に変化し、接合部直下の鋼管杭1断面が構造上の弱点となりやすい。
【0066】
すなわち、SC杭2部分では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重が接合部において鋼管杭1断面に集約されるが、このとき鋼管杭1端部付近には単純な軸方向力だけでなく、SC杭2の端板2dからの曲げが作用するため構造的な弱所となる場合がある。
【0067】
したがって、このことを考慮して鋼管杭1の板厚は、軸力の伝達に必要な板厚よりも大きめのものを用いるか、あるいは補剛材の配置など構造的な対処などが必要となる。
【0068】
なお、図3(a)、(b)の構成とする場合には、SC杭2の下部ではSC杭2の鋼管2aで鉛直方向荷重の全て、あるいは大部分を分担すること、特に図3(b)の構成では鋼管どうしを溶接することも考え合わせると、SC杭2の鋼管2aの板厚は、これと接合する鋼管杭1の板厚と同等、あるいはそれ以上であることが望ましい。
【0069】
突起2cは平鋼や棒鋼を溶接して形成したものなどを用いることができ、コンクリート2b−鋼管2a間の荷重の伝達が可能なものであれば特に材料は限定されないが、図4に示すような、溶接ビードによる突起2cを直接形成した溶接成型突起を適用することもできる。
【0070】
図4における好ましい寸法例を挙げると、SC杭2の鋼管2aの板厚tが9mm以上として、突起幅B0が6〜10mm、突起高さt0が8〜12mmである。
【0071】
SC杭2のコンクリート被り厚さや製造時のコンクリート充填性などを考慮すると、あまり高さの大きな突起2cは好ましくなく、突起高さt0は15mm程度までとするのが望ましい。そのことを勘案すると、溶接ビードによる突起成型が好適であり、突起材料の省略、製造工程の短縮、コストダウンが図れる。
【0072】
その他、圧延により突起を設けた鋼板を製管した内面突起付き鋼管を適用することも可能で、これにより突起溶接の手間を省略することができる。
【0073】
図5は本願の請求項1に係る発明の一実施形態を示したもので、下杭としての鋼管杭1の上に上杭として、外径が鋼管杭1の外径よりも大きく、中空部の径が鋼管杭1の外径よりも小さいSC杭2をつなぎ合わせている。
【0074】
SC杭2として作用軸力下における曲げ耐力が接合される鋼管杭1の曲げ耐力よりも大きいものを用いる点は、比較発明1に対応する図1の場合と同様である。SC杭2部分に必要な耐力、杭の施工法、SC杭2と鋼管杭1の接合方法、SC杭2の製造・運搬の制約など様々の条件を勘案して最適な構成を選択することができる。
【0075】
この場合も、鋼管杭1とSC杭2の接合は、通常の既製杭どうしの縦継ぎと同様に現場での溶接などにより行うこともできる。あるいは、事前にSC杭2と所定長さの鋼管杭1を工場溶接などで接合した後に現場に搬入し、現場での縦継ぎは一般的な鋼管杭どうしを接合する形とすることもできる。
【0076】
SC杭2の耐力は、用いる鋼管2aの材質、板厚、コンクリート2bの強度によって変化することから、所要の耐力が得られるように、これらの組合せを選定すればよい。
【0077】
また、本願の請求項1では鋼管杭1に比べて外径の大きなSC杭2を用いるため、鋼管杭1よりも曲げ耐力の大きなSC杭2を構成しやすく、鋼管2aの材質・板厚、コンクリート2b強度の組合せも考慮すれば、鋼管杭1に比べて曲げ耐力を大幅に増すことができる。
【0078】
また、図6は本願の請求項1に係る発明において、鋼管2aの下部内周面に突起2cを設けたSC杭2を適用した場合であり、比較発明1の実施形態にも相当する。また、SC杭2自体は比較発明1用のSC杭に相当する。
【0079】
図7は本願の請求項1に係る発明における荷重伝達機構の説明図である。
【0080】
図5にように外径が鋼管杭1の径よりも大きく、中空部の径が鋼管杭1の外径よりも小さいSC杭2を用いた場合には、接合部で断面が急激に変化するものの、図7に示すようにSC杭2の端板2dの外縁と内縁の間に鋼管杭1が接合されているため、端板2dから鋼管杭1の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭1に鉛直荷重を安定的に伝達することが可能になる。すなわち、端板2dの板厚や形状、鋼管杭1の接合位置を調整することにより、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0081】
図8は本願の請求項1に係る発明における下杭としての鋼管杭1と上杭としてのSC杭2の溶接に関し、端板2dの断面形状の例(片側のみ)を示したもので、鋼管杭1を接合する場所にもガイド兼裏あてのための突出部5を設けたものである。
【0082】
さらに、この突出部5は鉛直方向の荷重伝達においては端板2dの剛性を高め変形を防止するための補剛材の役割を果たし、鋼管杭1への円滑な荷重伝達にも寄与する構造となっている。
【0083】
図9は、比較発明2の基礎杭構造(全体構造は、図1あるいは図5の場合と同様であるので省略する)の一実施形態における下杭としての鋼管杭1と上杭としてのSC杭2の接合部を示したものである。
【0084】
この例では、SC杭2のコンクリート2b内面側にも鋼管2eが一体化され、さらに内面側鋼管2eの外周面のコンクリート2bと接する部分に突起2fが設けられ、一端がコンクリート2bの端部より所定長突出する構成となっている。この突出した内面側鋼管2eと同径の鋼管杭1を溶接3などによりつなぎ合わせることで、頭部を拡頭した基礎杭が築造されることになる。
【0085】
内面側鋼管2eの突起2fには、例えば図1に示したSC杭2の鋼管2aの内周面の突起2cと同様に、平鋼や棒鋼を溶接して形成したものなどを用いることもでき、コンクリート2b−内面側鋼管2e間の荷重の伝達が可能なものであれば特に材料は限定されない。また、図4に示した溶接ビードによる突起(溶接成型突起)を適用することもできる。
【0086】
図10(a)〜(c)は比較発明2の基礎杭構造で用いられるSC杭2の他の実施形態を示したものである。
【0087】
図10(a)は内面側鋼管2eに、外周面に突起2fを設けた鋼管を使用した場合の例を示したものであり、SC杭2の外周面側の鋼管2aには突起がない。この図10(a)では内面側鋼管2eの外周面突起2fによってSC杭2から内面側鋼管2eに鉛直方向の押込み荷重が伝達できる構成となっており、SC杭2下端の端板2dは省略されている。
【0088】
引抜き方向の荷重がない場合などでは、本例のように端板2dを省略したり、製造時のコンクリート2b打設のための型枠の役割のみを果たす簡易なものとすることなどができる。
【0089】
図10(b)は、図9のSC杭2における突起2fを設けた内面側鋼管2eに代わり、縞付鋼板から成形される外面縞付鋼管を内面側鋼管2eとして用いた場合である。
【0090】
両側の鋼管2a、2eに突起2c、2fを設けることにより、より安定的に鉛直方向の押込み荷重の伝達を図ることができ、かつ、引抜き方向の荷重に対しても円滑な伝達が可能となる。本構造においても図9の場合と同様に突出した内面側鋼管2eと同径の鋼管杭をつなぎ合わせることにより、頭部を拡頭した基礎杭を築造することができる。
【0091】
図10(c)の例は、SC杭2下端の端板2dと内面側鋼管2eとを溶接3などで固定したり、あるいは固定していなくても十分な剛性を有する端板を用いることで引抜き方向の荷重に対しても安定的に荷重伝達が可能な構造とするものである。
【0092】
なお、図10(c)では内面側鋼管2eの頭部に端板2gを設けた構造の例を示しているが、これは杭頭処理の際に中空部頭部に充填するコンクリート12を活用してコンクリー内面側鋼管2eに鉛直方向荷重を伝達する役割を期待したものである。
【0093】
図11(a)、(b)は、図10(a)、(b)のSC杭2を用いた場合の荷重伝達の機構を示したものである。
【0094】
図11(a)に示す図10(a)のSC杭2を用いた構造では、SC杭2上部では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重が2fを介して次第に内面側鋼管2eへ伝達され、コンクリート2b下面においてはコンクリートの分担荷重がゼロとなり、全てが内面側鋼管2eへ伝達され、さらには鋼管杭1へと伝達される。
【0095】
図11(b)に示す図10(b)のSC杭2を用いた構造では、荷重の伝達がより明解で安定的となる。すなわち、SC杭2上部では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重のうち、鋼管2aでの分担荷重がSC杭2の鋼管2aの内周面突起2cによってコンクリート2bへ伝達され、これとコンクリート2b部分の分担荷重が外周面の突起2fを介して内面側鋼管2eへ伝達され、さらに、鋼管杭1へと伝達されることになる。
【0096】
また、図11(b)の構造では引抜き方向の荷重に対しても安定的に荷重伝達を行うことができる。この場合、両側の鋼管2a、2eに十分な突起段数が確保されていれば、構造的な観点からは必ずしもSC杭2の下端の端板2dは必要ではなく、図11(a)と同様に端板を省略したり、簡易な端板を使用するなど合理化を図ることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1…鋼管杭、2…SC杭、2a…鋼管、2b…コンクリート、2c…突起、2d…端板、2e…内面側鋼管、2f…突起、2g…端板、3…溶接、4…機械式継手、
11…フーチング、12…コンクリート、
21…地盤上部、22…支持地盤
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭とSC杭(鋼管と該鋼管の内面側に一体化されたコンクリートとからなる鋼コンクリート複合パイル)を用いた基礎杭構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の基礎杭の高支持力化や設計地震力の大規模化に伴って、従来は曲げ性能に優れると考えられてきた鋼管杭においても、地震時の建物からの水平力や地中部での地盤変位により発生する大きな荷重に対しては耐力が不足したり、必要耐力を得るためには相当に肉厚の大きい高価な鋼管杭が必要になったりする場合が生じている。
【0003】
このような場合には鋼管杭打設後に該鋼管杭の中空部にコンクリートを打設し、鋼管−コンクリート構造とすることによって曲げ耐力の向上を図るなどの方法が採られたりしているが、この方法には以下に示す課題がある。
【0004】
(1) 鋼管内に中空部が確保されており、かつ鋼管内周面は付着物のないきれいな状態であることが求められるため、鋼管内に土砂やセメントミルクが残置されている場合には、その除去や鋼管表面の清掃などが必要になり、実施が容易でない、あるいは困難になる。そのため、杭の施工法などに依存する適用の制約が大きい。
【0005】
(2) 杭の施工が終了した後に、所定深度に落し蓋を設置し、コンクリートを打設する工程が増加するため、現場作業や工期が増加する。
【0006】
(3) 現場でのコンクリート打設のため、また場合によっては水中、泥水中でコンクリートを打設する必要も生じることから、得られる強度や品質に限界がある。
【0007】
そこで、本発明では、主として鋼管杭により構成される基礎杭のうち、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの所要の部位に、鋼管杭よりも曲げ耐力の大きなSC杭を適用して、鋼管杭とSC杭をつなぎ合わせた基礎杭構造を提案することとした。
【0008】
SC杭はあらかじめ工場で鋼管内周面に高強度コンクリートを一体化することにより製作される既製杭であるため、杭施工後に別工程でコンクリートを打設する必要はなく、上記の現場打ちコンクリートの場合の課題が解決される。
【0009】
また、SC杭は工場製作であるため現場打設に比べてはるかに大きな強度のコンクリートを適用可能であるとともに、安定した品質が得られ、適切な強度・板厚の鋼管とコンクリート強度の組合せを選定することにより所要の曲げ耐力を有するものを製作可能である。
【0010】
従来からも異種の既製杭、すなわち、既製コンクリート杭(PC杭、PHC杭)や鋼コンクリート複合パイル(SC杭)、あるいは鋼管杭などをつなぎ合わせて用いる構造は知られている。
【0011】
しかし、これらは例えば 特許文献1、特許文献2にあるように、主として既製コンクリート杭からなる基礎杭の所要の箇所に鋼管杭をつなぎ合わせるもの、すなわち、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの部位に対して既製コンクリート杭に代わって、それより曲げ耐力の大きな鋼管杭を適用しようとするものである。
【0012】
この他に、既製コンクリート杭の上杭に同様の理由から同径のSC杭をつなぎ合わせる構造も実用化されているが、主として鋼管杭からなる基礎杭の所要の箇所にさらに曲げ耐力の大きな既製杭を適用することを考えたものではなかった。
【0013】
他方、既製杭をつなぎ合わせる場合の接合にも課題があり、既製コンクリート杭の場合には端板を利用して、現場での突き合せ溶接が行われることが多く、これまでも品質や強度面における課題が指摘されてきた。さらに鋼管杭とSC杭をつなぎ合わせる場合には、既製コンクリート杭どうしの接合のように端板での面接触とはならず、接合部において断面が急激に変化するため、杭基礎に作用する鉛直荷重や水平荷重の円滑、かつ健全な伝達の観点からも配慮が必要となる。
【0014】
そのような異種の既製杭の接合における課題を解決する手段としては、特許文献3に示す方法が開示されている。これは、SC杭とその他の既製杭を接合する手段を提供するものであり、SC杭の鋼管の端部をそのままコンクリートの端部より所定長さ突出させることによって、該鋼管の突出部の内側に凹部を形成し、この凹部に他方の杭の端部を嵌入する方法である。
【0015】
しかし、この方法では鋼管杭とSC杭の接合の観点からは以下の課題がある。
【0016】
(1) 鉛直荷重の伝達は鋼管杭端面とSC杭の端板の接触によって行わなければならず、構造物からの押し込み荷重を円滑、かつ健全に伝達することが難しい。安定的に押し込み荷重を伝達するためには、少なくとも鋼管端面と端板の点接触を避けるため両者の端面精度、杭継ぎ時の鉛直精度などが必要になる他、断面変化点となる鋼管杭端面にリブ補強を施すなどの処置が必要である。さらに引き抜き方向の荷重の伝達に関しては、鋼管杭端面とSC杭の端板が離反し得る構造となるためさらに不安定になる。
【0017】
(2) 突出したSC杭の鋼管の内側に形成した凹部に鋼管杭を嵌入することになるため、SC杭の鋼管の内径と、これに接合する鋼管杭の外径をほぼ等しくしておく必要があるが、鋼管の寸法精度や現場施工の精度や環境を考えると本手法による鋼管杭とSC杭の接合は容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平05−047685号公報
【特許文献2】特開2003-232033号公報
【特許文献3】特許第3724933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、鋼管杭の高支持力化や設計地震動の大規模化などに伴う水平耐力不足の問題を解消するためになされたものであって、鋼管杭とそれよりも曲げ耐力の大きなSC杭をつなぎ合わせ、押し込み・引き抜き・曲げ(水平)の各荷重を健全、かつ円滑に伝達できるようにした基礎杭構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
同時に発明された比較発明1としての基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記SC杭を構成する鋼管の内周面下部に一段または複数段の突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0021】
上杭にSC杭を用いるのは、地震時に大きな水平力が作用する地表面付近などの部位に対し、鋼管杭より曲げ耐力の大きな杭を適用しようとするものであるが、その場合、接合部における断面急変による応力伝達の問題がある。
【0022】
比較発明1によれば、SC杭を構成する鋼管の内周面下部に突起を設けたことで、SC杭のコンクリート部分で分担されて伝達される荷重が、SC杭の鋼管の内周面下部に位置する突起を介して次第に鋼管側へ移行し、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭へ安定的に伝達することができる。
【0023】
本願の請求項1に係る基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記鋼管杭の外径が、前記SC杭の外径より小さく、該SC杭の中空部の径より大きく、該鋼管杭の上端部と前記SC杭のコンクリート端部に設けられる端板とを溶接により接合してあることを特徴とするものである。
【0024】
基本的な考え方は比較発明1と同様であり、上杭にSC杭を用いる場合の接合部における断面急変による応力伝達の問題を解決するものであるが、本願の請求項1に係る発明では、SC杭の端板の外縁と内縁の間に鋼管杭が接合されることになるため、端板から鋼管杭の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭に鉛直荷重を安定的に伝達し、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0025】
同時に発明された比較発明2としての基礎杭構造は、鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記SC杭のコンクリート内面側に内面側鋼管が一体化されており、該内面側鋼管の下部がコンクリートの端部より所要長突出し、前記鋼管杭の上端部に前記内面側鋼管の下端部が接合されていることを特徴とするものである。
【0026】
比較発明2の基礎杭構造も、上杭にSC杭を用いる場合の接合部における断面急変による応力伝達の問題を解決するという点において、比較発明1および本願の請求項1に係る発明と共通するものであり、SC杭上部では鋼管とコンクリートで分担されて伝達される荷重が次第に内面側鋼管へ伝達され、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭に安定的に伝達することができる。
【0027】
なお、以上の請求項1に係る発明および比較発明1、2は、実施形態によっては1つの基礎杭構造において併用可能な関係にあるものである。
【0028】
比較発明1用のSC杭は、鋼管の内周面にコンクリートが一体化されたSC杭において、前記鋼管の端部内周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられていることを特徴とするものである。
【0029】
この比較発明1用のSC杭はそのまま比較発明1の基礎杭構造に適用することができるものである。
【0030】
比較発明1用のSC杭においては、さらに前記突起が溶接ビードにより形成されたものとすることができる。
【0031】
比較発明1においてSC杭を構成する鋼管の内周面に設けられる突起は、基礎杭構造に適用する場合、その下部、製品としてのSC杭についてはその端部に形成されていればよく、また断面急変部近傍における応力伝達に必要とする突起の高さ(5mm〜15mm程度)との関係から、溶接ビードにより形成するのが効率的であり、製作コストも安価となる。
【0032】
比較発明2用のSC杭は、鋼管の内周面にコンクリートが一体化された中空のSC杭において、前記SC杭のコンクリート内面側に内面側鋼管が一体化されており、該内面側鋼管の少なくとも一端がコンクリートの端部より所要長突出していることを特徴とするものである。
【0033】
この比較発明2用のSC杭はそのまま比較発明2の基礎杭構造に適用することができるものである。
【0034】
比較発明2用のSC杭においては、前記鋼管の端部内周面および/または前記内面側鋼管の外周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられているものとすることができる。
【0035】
突起により、鋼管とコンクリートとの間の付着力が増すが、そのような突起をSC杭の外側の鋼管については端部内周面に設けることで、鋼管杭など他の杭と接合した場合の断面急変部における円滑な応力伝達が図れる。
【0036】
一方、内面側鋼管については、それ自体が断面急変部における円滑な応力伝達を図っているものであり、突起の位置は特に限定されない。
【0037】
比較発明2用のSC杭においては、さらに前記突起の一部または全部が溶接ビードにより形成されているものとすることができる。
【0038】
SC杭の外側の鋼管の端部内周面に形成される突起を溶接ビードにより形成する理由は、比較発明1用のSC杭の場合と同様の理由である。内面側鋼管の外周面についてもコンクリートとの応力伝達や加工性を考慮した場合、溶接ビードにより形成するのが比較的効率的であり、製作コストも安価となる。
【0039】
ただし、一方のみ溶接ビードで形成し、他方は例えば縞付鋼板の突起を利用するなど他の種類の突起と併用してもかまわない。
【発明の効果】
【0040】
本願の請求項1に係る基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭の端板の外縁と内縁の間に鋼管杭が接合されることになるため、端板から鋼管杭の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭に鉛直荷重を安定的に伝達し、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0041】
なお、比較発明1の基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭を構成する鋼管の内周面下部に突起を設けたことで、SC杭のコンクリート部分で分担されて伝達される荷重が、SC杭の鋼管の内周面下部に位置する突起を介して次第に鋼管側へ移行し、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭へ安定的に伝達することができる。
【0042】
また、比較発明2の基礎杭構造によれば、下杭としての鋼管杭の上部に上杭としてその鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合することで、地震時に大きな水平力が作用する部分についての耐力が確保でき、かつSC杭上部では鋼管とコンクリートで分担されて伝達される荷重が次第に内面側鋼管へ伝達され、鉛直荷重を下杭としての鋼管杭に安定的に伝達することができる。
【0043】
比較発明1用のSC杭は、上記請求項1に係る基礎杭構造に適用することで、上述の効果を発揮することができる。また、断面急変部における応力伝達を円滑にするための突起を溶接ビードで形成すれば、効率的であり、製作コストも安価となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】比較発明1の一実施形態を示す断面図である。
【図2】(a)、(b)は比較発明1の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図、(c)は比較例における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図3】(a)、(b)は比較発明1における荷重伝達機構の説明図、(c)は比較例における荷重伝達機構の説明図である。
【図4】溶接ビードによる突起の説明図である。
【図5】請求項1に係る発明の一実施形態を示す断面図である。
【図6】請求項1に係る発明の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図7】請求項1に係る発明における荷重伝達機構の説明図である。
【図8】請求項1に係る発明における下杭と上杭の溶接による接合部の説明図である。
【図9】比較発明2の一実施形態における下杭と上杭の接合部を示す断面図である。
【図10】(a)〜(c)は比較発明2で用いるSC杭の他の実施形態を示す断面図である。
【図11】(a)、(b)は比較発明2における荷重伝達機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は比較発明1用のSC杭を用いて、比較発明1の基礎杭構造を構成した場合の一実施形態を示したものであり、下杭としての鋼管杭1の上部に、上杭としてのSC杭2を接合してなる。
【0046】
SC杭2を構成する鋼管2aの内周面下部には複数段の突起2cが設けられており、SC杭2の両端には接合用の端板2dが設けられている。
【0047】
この基礎杭構造において、鋼管杭1とSC杭2の接合は、通常の既製杭どうしの縦継ぎと同様に現場での溶接などにより行うこともできる。あるいは事前に所定長さの鋼管杭1とSC杭2を工場溶接などで接合した後に現場に搬入し、現場での縦継ぎは一般的な鋼管杭どうしを接合する形とすることもできる。
【0048】
比較発明1では、SC杭2として作用軸力下における曲げ耐力が接合される鋼管杭1の曲げ耐力よりも大きいものを用いる。SC杭2の耐力は、SC杭2の外周に用いる鋼管2aの材質、板厚や、内周側のコンクリート2bの強度によって変わることから、所要の耐力が得られるように、これらの組合せを選定すればよい。
【0049】
例えば、SC杭2を構成する鋼管2aの板厚を、それに接続される鋼管杭1の板厚と同等、あるいはそれ以上としておくことが考えられる。また、鋼管杭1に比べて径の大きなSC杭2を用いる場合、鋼管杭1よりも曲げ耐力の大きなSC杭2を構成しやすく、鋼管2aの材質・板厚、コンクリート2bの強度の組合せも考慮すれば、鋼管杭1に比べて曲げ耐力を大幅に増すことも可能である。
【0050】
図2(a)、(b)は比較発明1用のSC杭を用いた比較発明1の他の実施形態における下杭と上杭の接合部を示したもので、図2(c)はそれに対する比較例を示したものである。
【0051】
鋼管杭1とSC杭2の接合は、前述した図1のように、SC杭2の端板2dと鋼管杭1を溶接にて接合する方法や、SC杭2の鋼管2aと鋼管杭1とを溶接にて接合する方法(比較例としての図2(c)と同様の形態)、さらにはこの図2(a)のようにSC杭2の鋼管2aをコンクリート2bより所定長だけ突出させておき、この部分を利用して鋼管杭1と溶接にて接合する方法などを採用することができる。
【0052】
また、SC杭2の鋼管2aを突出させておく場合には、図2(b)のように鋼管杭1との接合に機械式の継手4を用いることもできる。
【0053】
SC杭2の鋼管2aと鋼管杭1を接合する方式の場合には、SC杭2下部の端板を省略することができ、あるいは製造上必要な最小限の簡易な端板とするなどの合理化も可能である。
【0054】
一方、図1のようにSC杭2の端板2aを利用して鋼管杭1と接合する方式の場合には、鋼管杭1との接合が容易であり、また鋼管杭1への荷重伝達がより安定的なものとなるように形状などを工夫した専用の板を利用する方式とすることもできる。
【0055】
比較発明1では、SC杭2に必要な耐力、杭の施工法、SC杭2と鋼管杭1の接合方法、SC杭2の製造・運搬の制約など様々な条件を勘案して最適な構成を選択することができる。
【0056】
図3(a)、(b)は比較発明1における荷重伝達機構の説明図、図3(c)は比較例における荷重伝達機構の説明図である。
【0057】
図1や図2(a)、(b)のように、内周面に所定段数の突起2cを有する鋼管を用いたSC杭2を用い、これと鋼管杭1をつなぎ合わせた構成とすることにより、図3(a)、(b)に示すように円滑に鉛直荷重を伝達することが可能となる。
【0058】
すなわち、SC杭2上部で鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重のうち、コンクリート2bで分担されている荷重が突起2cを介して次第にSC杭2の鋼管2aへ移行し、鋼管杭1との接合部においてはコンクリート2bの分担荷重がゼロに近い非常に小さい状態となることによって、鋼管杭1へ安定的に鉛直荷重を伝達できるようになる。
【0059】
なお、コンクリート2bの分担荷重をSC杭2の鋼管2aへ移行させるための十分な突起段数が確保されていれば、構造的な観点からは必ずしもSC杭2の下端の端板2dは必要ではなく、図2(a)、(b)およびこれらに対応する図3(b)のような端板2dのない構成とすることもできる。あるいは、製造上の理由などから端板2dの省略ができない場合でも、最低限必要な簡易な端板を使用するなど形状、材料の合理化を図ることもできる。
【0060】
図2(c)は比較例として、突起2cをSC杭2を構成する鋼管2aの内周面全体に設けた場合を示したものである。この場合、鋼管2aの材料として縞付鋼板などを用いることも考えられるが、SC杭2と鋼管杭1との接合部における断面急変に対しコンクリート2bの分担荷重を徐々にSC杭2の鋼管2aへ移行させるという点では効果的ではなく無駄が多い。
【0061】
事前に突起2cを設けた鋼管2aを用いてコンクリート2bを打設、養生することにより、図2および図3のようなSC杭2が製造可能であり、鋼管2a内周面の突起2cは少なくとも一方の端部に、SC杭2のコンクリート2bと鋼管2aとの間で荷重を伝達するために必要な段数を設置しておけばよい。なお、この場合の突起2cの連続、不連続は問わず、また突起2cが段ごと厳密に分かれている必要はなく、適度に分散した状態でもよい。
【0062】
また、図2(a)、(b)に示すように、SC杭のコンクリート部よりも鋼管をそのまま延長して突出させた構成とし、前述のようにこの突出部を利用して下杭としての鋼管杭1と接合する構成とすることもできる。
【0063】
図2(a)、(b)は下側の端板2dがない場合を示しているが、下側の端板2dがある場合でも比較例としての図2(c)と同様に端板2dの外周部が鋼管2aの内周面に接する構造とすれば、同様に鋼管2aをコンクリート2bより所定長突出させた構造とすることもできる。
【0064】
鋼管杭1とSC杭2の接合は、前述のように現場においてそれらを順次打設した後に縦継ぎする方式、工場にてあらかじめSC杭2の下部に所定長の鋼管杭1を接合した状態で1本ものとして現場に搬入して通常の鋼管杭1の縦継ぎと同様に鋼管どうしを周継ぎ溶接する方式、さらに、図2(b)に示したように機械式継手4を利用する方式など多様な方法が可能であり、杭の施工法やSC杭2の長さなどに応じて適切な方法を選択すればよい。
【0065】
比較例としての図3(c)は、内周面に突起がない通常のSC杭2と鋼管杭1をつなぎ合わせた構成を示しているが、この場合にはSC杭2と鋼管杭1の接合部で断面が急激に変化し、接合部直下の鋼管杭1断面が構造上の弱点となりやすい。
【0066】
すなわち、SC杭2部分では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重が接合部において鋼管杭1断面に集約されるが、このとき鋼管杭1端部付近には単純な軸方向力だけでなく、SC杭2の端板2dからの曲げが作用するため構造的な弱所となる場合がある。
【0067】
したがって、このことを考慮して鋼管杭1の板厚は、軸力の伝達に必要な板厚よりも大きめのものを用いるか、あるいは補剛材の配置など構造的な対処などが必要となる。
【0068】
なお、図3(a)、(b)の構成とする場合には、SC杭2の下部ではSC杭2の鋼管2aで鉛直方向荷重の全て、あるいは大部分を分担すること、特に図3(b)の構成では鋼管どうしを溶接することも考え合わせると、SC杭2の鋼管2aの板厚は、これと接合する鋼管杭1の板厚と同等、あるいはそれ以上であることが望ましい。
【0069】
突起2cは平鋼や棒鋼を溶接して形成したものなどを用いることができ、コンクリート2b−鋼管2a間の荷重の伝達が可能なものであれば特に材料は限定されないが、図4に示すような、溶接ビードによる突起2cを直接形成した溶接成型突起を適用することもできる。
【0070】
図4における好ましい寸法例を挙げると、SC杭2の鋼管2aの板厚tが9mm以上として、突起幅B0が6〜10mm、突起高さt0が8〜12mmである。
【0071】
SC杭2のコンクリート被り厚さや製造時のコンクリート充填性などを考慮すると、あまり高さの大きな突起2cは好ましくなく、突起高さt0は15mm程度までとするのが望ましい。そのことを勘案すると、溶接ビードによる突起成型が好適であり、突起材料の省略、製造工程の短縮、コストダウンが図れる。
【0072】
その他、圧延により突起を設けた鋼板を製管した内面突起付き鋼管を適用することも可能で、これにより突起溶接の手間を省略することができる。
【0073】
図5は本願の請求項1に係る発明の一実施形態を示したもので、下杭としての鋼管杭1の上に上杭として、外径が鋼管杭1の外径よりも大きく、中空部の径が鋼管杭1の外径よりも小さいSC杭2をつなぎ合わせている。
【0074】
SC杭2として作用軸力下における曲げ耐力が接合される鋼管杭1の曲げ耐力よりも大きいものを用いる点は、比較発明1に対応する図1の場合と同様である。SC杭2部分に必要な耐力、杭の施工法、SC杭2と鋼管杭1の接合方法、SC杭2の製造・運搬の制約など様々の条件を勘案して最適な構成を選択することができる。
【0075】
この場合も、鋼管杭1とSC杭2の接合は、通常の既製杭どうしの縦継ぎと同様に現場での溶接などにより行うこともできる。あるいは、事前にSC杭2と所定長さの鋼管杭1を工場溶接などで接合した後に現場に搬入し、現場での縦継ぎは一般的な鋼管杭どうしを接合する形とすることもできる。
【0076】
SC杭2の耐力は、用いる鋼管2aの材質、板厚、コンクリート2bの強度によって変化することから、所要の耐力が得られるように、これらの組合せを選定すればよい。
【0077】
また、本願の請求項1では鋼管杭1に比べて外径の大きなSC杭2を用いるため、鋼管杭1よりも曲げ耐力の大きなSC杭2を構成しやすく、鋼管2aの材質・板厚、コンクリート2b強度の組合せも考慮すれば、鋼管杭1に比べて曲げ耐力を大幅に増すことができる。
【0078】
また、図6は本願の請求項1に係る発明において、鋼管2aの下部内周面に突起2cを設けたSC杭2を適用した場合であり、比較発明1の実施形態にも相当する。また、SC杭2自体は比較発明1用のSC杭に相当する。
【0079】
図7は本願の請求項1に係る発明における荷重伝達機構の説明図である。
【0080】
図5にように外径が鋼管杭1の径よりも大きく、中空部の径が鋼管杭1の外径よりも小さいSC杭2を用いた場合には、接合部で断面が急激に変化するものの、図7に示すようにSC杭2の端板2dの外縁と内縁の間に鋼管杭1が接合されているため、端板2dから鋼管杭1の端部付近に伝達される曲げが両方向から打ち消しあう形となり、鋼管杭1に鉛直荷重を安定的に伝達することが可能になる。すなわち、端板2dの板厚や形状、鋼管杭1の接合位置を調整することにより、円滑な鉛直荷重の伝達が実現できる。
【0081】
図8は本願の請求項1に係る発明における下杭としての鋼管杭1と上杭としてのSC杭2の溶接に関し、端板2dの断面形状の例(片側のみ)を示したもので、鋼管杭1を接合する場所にもガイド兼裏あてのための突出部5を設けたものである。
【0082】
さらに、この突出部5は鉛直方向の荷重伝達においては端板2dの剛性を高め変形を防止するための補剛材の役割を果たし、鋼管杭1への円滑な荷重伝達にも寄与する構造となっている。
【0083】
図9は、比較発明2の基礎杭構造(全体構造は、図1あるいは図5の場合と同様であるので省略する)の一実施形態における下杭としての鋼管杭1と上杭としてのSC杭2の接合部を示したものである。
【0084】
この例では、SC杭2のコンクリート2b内面側にも鋼管2eが一体化され、さらに内面側鋼管2eの外周面のコンクリート2bと接する部分に突起2fが設けられ、一端がコンクリート2bの端部より所定長突出する構成となっている。この突出した内面側鋼管2eと同径の鋼管杭1を溶接3などによりつなぎ合わせることで、頭部を拡頭した基礎杭が築造されることになる。
【0085】
内面側鋼管2eの突起2fには、例えば図1に示したSC杭2の鋼管2aの内周面の突起2cと同様に、平鋼や棒鋼を溶接して形成したものなどを用いることもでき、コンクリート2b−内面側鋼管2e間の荷重の伝達が可能なものであれば特に材料は限定されない。また、図4に示した溶接ビードによる突起(溶接成型突起)を適用することもできる。
【0086】
図10(a)〜(c)は比較発明2の基礎杭構造で用いられるSC杭2の他の実施形態を示したものである。
【0087】
図10(a)は内面側鋼管2eに、外周面に突起2fを設けた鋼管を使用した場合の例を示したものであり、SC杭2の外周面側の鋼管2aには突起がない。この図10(a)では内面側鋼管2eの外周面突起2fによってSC杭2から内面側鋼管2eに鉛直方向の押込み荷重が伝達できる構成となっており、SC杭2下端の端板2dは省略されている。
【0088】
引抜き方向の荷重がない場合などでは、本例のように端板2dを省略したり、製造時のコンクリート2b打設のための型枠の役割のみを果たす簡易なものとすることなどができる。
【0089】
図10(b)は、図9のSC杭2における突起2fを設けた内面側鋼管2eに代わり、縞付鋼板から成形される外面縞付鋼管を内面側鋼管2eとして用いた場合である。
【0090】
両側の鋼管2a、2eに突起2c、2fを設けることにより、より安定的に鉛直方向の押込み荷重の伝達を図ることができ、かつ、引抜き方向の荷重に対しても円滑な伝達が可能となる。本構造においても図9の場合と同様に突出した内面側鋼管2eと同径の鋼管杭をつなぎ合わせることにより、頭部を拡頭した基礎杭を築造することができる。
【0091】
図10(c)の例は、SC杭2下端の端板2dと内面側鋼管2eとを溶接3などで固定したり、あるいは固定していなくても十分な剛性を有する端板を用いることで引抜き方向の荷重に対しても安定的に荷重伝達が可能な構造とするものである。
【0092】
なお、図10(c)では内面側鋼管2eの頭部に端板2gを設けた構造の例を示しているが、これは杭頭処理の際に中空部頭部に充填するコンクリート12を活用してコンクリー内面側鋼管2eに鉛直方向荷重を伝達する役割を期待したものである。
【0093】
図11(a)、(b)は、図10(a)、(b)のSC杭2を用いた場合の荷重伝達の機構を示したものである。
【0094】
図11(a)に示す図10(a)のSC杭2を用いた構造では、SC杭2上部では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重が2fを介して次第に内面側鋼管2eへ伝達され、コンクリート2b下面においてはコンクリートの分担荷重がゼロとなり、全てが内面側鋼管2eへ伝達され、さらには鋼管杭1へと伝達される。
【0095】
図11(b)に示す図10(b)のSC杭2を用いた構造では、荷重の伝達がより明解で安定的となる。すなわち、SC杭2上部では鋼管2aとコンクリート2bで分担されて伝達される荷重のうち、鋼管2aでの分担荷重がSC杭2の鋼管2aの内周面突起2cによってコンクリート2bへ伝達され、これとコンクリート2b部分の分担荷重が外周面の突起2fを介して内面側鋼管2eへ伝達され、さらに、鋼管杭1へと伝達されることになる。
【0096】
また、図11(b)の構造では引抜き方向の荷重に対しても安定的に荷重伝達を行うことができる。この場合、両側の鋼管2a、2eに十分な突起段数が確保されていれば、構造的な観点からは必ずしもSC杭2の下端の端板2dは必要ではなく、図11(a)と同様に端板を省略したり、簡易な端板を使用するなど合理化を図ることもできる。
【符号の説明】
【0097】
1…鋼管杭、2…SC杭、2a…鋼管、2b…コンクリート、2c…突起、2d…端板、2e…内面側鋼管、2f…突起、2g…端板、3…溶接、4…機械式継手、
11…フーチング、12…コンクリート、
21…地盤上部、22…支持地盤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記鋼管杭の外径が、前記SC杭の外径より小さく、該SC杭の中空部の径より大きく、該鋼管杭の上端部と前記SC杭のコンクリート端部に設けられる端板とを溶接により接合してあることを特徴とする基礎杭構造。
【請求項2】
前記SC杭を構成する鋼管の端部内周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられていることを特徴とする請求項1記載の基礎杭構造。
【請求項3】
前記突起が溶接ビードにより形成されていることを特徴とする請求項2記載の基礎杭構造。
【請求項1】
鋼管杭の上部に上杭として、または上杭の一部として、前記鋼管杭よりも曲げ耐力が大きいSC杭を接合してなり、前記鋼管杭の外径が、前記SC杭の外径より小さく、該SC杭の中空部の径より大きく、該鋼管杭の上端部と前記SC杭のコンクリート端部に設けられる端板とを溶接により接合してあることを特徴とする基礎杭構造。
【請求項2】
前記SC杭を構成する鋼管の端部内周面に一段または複数段の連続するまたは不連続な突起が設けられていることを特徴とする請求項1記載の基礎杭構造。
【請求項3】
前記突起が溶接ビードにより形成されていることを特徴とする請求項2記載の基礎杭構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−242498(P2010−242498A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146151(P2010−146151)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【分割の表示】特願2006−114035(P2006−114035)の分割
【原出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【分割の表示】特願2006−114035(P2006−114035)の分割
【原出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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