基礎構造物の解析方法及び基礎構造物の解析システム
【課題】節点間の伝達マトリックスを変位法による有限要素法に適用できるようにする基礎構造物の解析方法を提供する。
【解決手段】地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法である。そして、地盤特性、作用荷重、並びに基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップS1と、基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップS2と、伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップS3と、剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップS7とを備えている。
【解決手段】地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法である。そして、地盤特性、作用荷重、並びに基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップS1と、基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップS2と、伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップS3と、剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップS7とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤上に基礎構造物として構築される直線梁(布基礎)、格子梁、べた基礎などを有限要素法によって解析し、その沈下量や曲げモーメントなどの物理量を算出するための基礎構造物の解析方法及び基礎構造物の解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造物に適用する有限要素法は、柱・梁架構を複数に分割した要素の集合体として解析をおこなっていた。この解析法のアルゴリズムは、「分割した要素の両端に節点を配置し、要素内部の状態を表す関数を介して両端節点の既知と未知の物理量を関係づける方程式を求め、対象構造物全体にこれらの方程式を連立させて解き、全節点の物理量を得る方法」と要約できる。
【0003】
上記連立方程式を立てる際には、応力又は変位のいずれを未知量としても解析はできるが、特に前者を応力法、そして後者を変位法と呼称している。しかしながら、不静定次数の高い建築構造物に対して応力法を適用するには、豊富な構造力学の知識を必要とするため、一般的には適用されていない。これに対して変位法は、方程式の組み立てが容易であり、解析の道具として汎用性に富んだ解析法を作成することができる。この様な理由から、建築構造物に適用する有限要素法としては、変位法が一般に用いられる。
【0004】
有限要素法による解析をおこなうには、要素内に作用する外的物理量を両端節点に集約して扱うことになるため、地盤上の梁や地盤に埋設される杭などの基礎構造物を解析する場合、そのまま解析をおこなうことができない。すなわち、地盤上の梁や杭を解析するには、連続体である地盤を要素の両端に離散化したばねで表現せざるを得ない(特許文献1参照)。
【0005】
このため、高精度の解析結果を得るためにはより多くの地盤ばねを必要とし、細かな要素分割が要求される。また、梁上に分布荷重が作用する場合も同じである。このようにして要素数が増えると大きな連立方程式を解くことになり、多大な記憶容量及び計算時間が必要となる。
【0006】
この問題を解決するために、地盤を平面的に連続したWinklerばねで表現し、基礎構造物をその上に設置される梁とした解析手法(いわゆる、弾性支承梁理論)が提案されている(特許文献2参照)。この弾性支承梁理論を有限要素法として扱うために、要素の一端の物理量と他端の物理量とを関連付ける節点間の伝達マトリックスを作成する解析法が適用される。
【0007】
そして、日本建築学会編「建築基礎構造設計指針(2001 年版)」では、解析結果の信頼性(精度)を高める方法として、上部構造物(上部構造骨組)と基礎構造物(基礎梁)とを一体化した解析法が推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−207260号公報
【特許文献2】特開2009−174158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記「建築基礎構造設計指針(2001 年版)」には、具体的な解析手法までは示されていない。このため、上述したように基礎梁を伝達マトリックスによる解析法で解析し、上部構造骨組を変位法で解析した場合には、応力法と変位法とを上手く繋ぎ合わさなければ、基礎梁と上部構造骨組との一体解析を行ったことにはならない。
【0010】
そこで、本発明は、節点間の伝達マトリックスを変位法による有限要素法に適用できるようにする基礎構造物の解析方法及び基礎構造物の解析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の基礎構造物の解析方法は、地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法であって、地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップと、前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップと、前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップと、前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップとを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成した後に、前記有限要素法による解析をおこなうステップに移行することができる。
【0013】
また、前記基本方程式を作成するステップにおいて、前記作用荷重の変化する位置にダミー点を設けることができる。さらに、前記基礎構造物が格子梁であっても適用することができる。
【0014】
また、本発明の基礎構造物の解析システムは、地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析システムであって、地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成する基本方程式作成手段と、前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成する伝達マトリックス作成手段と、前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなう変換手段と、前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうFEM解析手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成する連成手段を備えた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の基礎構造物の解析方法及び解析システムでは、基礎構造物の要素の伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する。
【0017】
このため、地盤に接する基礎構造物をモデル化する際に、要素数を増やさなくても精度の高い有限要素法による解析をおこなうことができる。また、要素数を増やすことで解析精度を高めていた従来の手法に比べて、計算機の記憶容量及び計算時間を大幅に節約することができる。
【0018】
さらに、基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成すれば、建物(上部構造物)と基礎の挙動を一体に解析する連成解析をおこなうことができ、解析精度をより高めることができる。
【0019】
また、分布荷重の変化する位置にダミー点を設ける手法を採用することで、三角形分布荷重や台形分布荷重など様々な荷重ケースの解析をおこなうことができる。
【0020】
さらに、基礎構造物が格子梁であっても少ない要素数で有限要素法による解析をおこなうことができるので、戸建て住宅などの小規模建物の解析を容易におこなうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の基礎構造物の解析方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態の基礎構造物の解析システムを説明するブロック図である。
【図3】基礎構造物の解析方法を説明するための直線梁の説明図である。
【図4】三角形分布荷重を説明するための説明図である。
【図5】台形分布荷重を説明するための説明図である。
【図6】実施例1の4節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図7】比較例の10節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図8】比較例の20節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図9】実施例1でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図6〜図8のX1通及びX2通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図6〜図8のY1通及びY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図10】実施例1でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図6〜図8のX1通及びX2通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図6〜図8のY1通及びY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図11】実施例2の9節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図12】比較例の27節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図13】比較例の57節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図14】実施例2でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のX1通及びX3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のX2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図15】実施例2でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のY1通及びY3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図16】実施例2でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のX1通及びX3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のX2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図17】実施例2でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のY1通及びY3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムについて図面を参照して説明する。本実施の形態で説明する基礎構造物は、地盤上に構築される直線梁や格子梁などの弾性支承上の梁である。そして、図1には基礎構造物の解析方法の処理の流れを説明するフローチャートを示し、図2には基礎構造物の解析システムの構成を説明するブロック図を示す。
【0023】
本実施の形態の基礎構造物の解析システムは、図2に示すように、解析条件や各種設定値などを入力するための入力部1と、入力部1によって入力されたデータに基づいて演算をおこなう演算処理部2と、解析結果を出力する出力部3とを主に備えている。
【0024】
入力部1は、キーボードやマウスなどであってもよいが、各種データが予め記憶されたハードディスク、ROM(Read Only Memory)などの各種記憶媒体であってもよい。また、出力部3は、演算結果をデータとして記憶させる各種記憶媒体、紙に印刷させるプリンタ、画面に表示させるモニタのいずれの形態であってもよい。
【0025】
演算処理部2は、後述する各種手段を実行させるコンピュータプログラムがインストールされたコンピュータによって主に構成される。すなわち、演算処理部2は、各種手段の演算をおこなうためのCPU(Central Processing Unit)、一時記憶領域としてのRAM(Random Access Memory)などのハードと、各種手段を実行させるためにインストールされたコンピュータプログラム(ソフト)とを備えている。
【0026】
演算処理部2は、弾性支承上の梁モデルとしてのWinklerモデルに基づいて解析をおこなうための基本方程式を作成する基本方程式作成手段21と、要素(節点間)の伝達マトリックスを作成する伝達マトリックス作成手段22と、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する変換手段23と、基礎構造物の上部構造物となる上部架構の剛性マトリックスとの連結をおこなう連成手段24と、作成された剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法(FEM:Finite Element Method)によって解析をおこなうFEM解析手段25とを主に備えている。
【0027】
基本方程式作成手段21では、地盤上の基礎構造物をWinklerばね上の梁としたWinklerモデルに基づいて、地盤特性、作用荷重並びに基礎構造物の物性及び形状と、変位量との関係の基本方程式を作成する。ここで、地盤特性には、例えば地盤反力係数(地盤ばね、K値)などが該当する。また、作用荷重としては、集中荷重、分布荷重などを入力することができる。分布荷重としては、等分布若しくは片勾配分布(図3)、三角形分布(図4)、台形分布(図5)などの各分布形状が適用できる。
【0028】
さらに、基礎構造物の物性には、基礎構造物の曲げ剛性(弾性係数E×断面2次モーメントI)が該当する。また、基礎構造物の形状には、基礎構造物の幅などが該当する。地盤に接する面が長方形となる直線梁が基礎構造物の場合、梁の軸方向(長方形の長辺)に直交する長さ(長方形の短辺)が幅となる。なお、基礎構造物がべた基礎の場合には、日本建築学会編「鉄筋コンクリート設計規準・同解説 8条2項(2)」(2010年版)に提示されている「T形梁の有効幅の取扱い」等に基づいた有効幅を用いる。そして、変位量とは、鉛直方向の変位が該当する。例えば、基礎構造物の下面が鉛直方向に移動する大きさを変位量とする。
【0029】
伝達マトリックス作成手段22では、基礎構造物の全長又は分割された部分を要素として、その要素の端部を節点とすると、一方の節点の各物理量を他方の節点の各物理量に伝達させるための伝達マトリックスを作成する。すなわち、要素の一端の物理量と他端の物理量とを関連付ける節点間の伝達マトリックスを作成する。
【0030】
また、変換手段23では、伝達マトリックス作成手段22によって作成された伝達マトリックスを、変位法の解析に利用できるように剛性マトリックスに変換する。すなわち、Winklerモデルに基づいて作成された基礎構造物の伝達マトリックスを変位法の剛性マトリックスに変換することによって、基礎構造物と上部構造物の一体解析を容易におこなえるようにする。
【0031】
さらに、連成手段24では、ここまでに作成した基礎構造物の剛性マトリックスと、上部架構の骨組から作成される剛性マトリックスとを連結して、基礎構造物と上部構造物(上部架構)とが一体になった架構全体(基礎を含む建物全体)の剛性マトリックスを作成する。
【0032】
そして、FEM解析手段25では、基礎構造物の剛性マトリックス又は架構全体の剛性マトリックスと、基礎構造物と地盤との境界条件とを設定し、有限要素法(FEM)解析をおこなう。ここで、境界条件とは、基礎構造物と地盤との関係を表すものであり、解析モデルの境界に位置する節点の状態を指す。例えば、固定、一方向又は複数方向の変位が自由、回転が自由などの境界条件が設定できる。
【0033】
次に、数式を展開しながら本実施の形態の基礎構造物の解析方法について説明する。
【0034】
図3に示すように、Winklerモデルの直線梁4に、等分布又は片勾配分布荷重が作用する場合、その基本方程式は以下の式(1)で表され、その一般解は式(2)で与えられる。ここで、鉛直方向(Z方向)の変位をw、等分布又は片勾配分布荷重pを表す関数をκx+λとする。なお、κ=0のときに等分布荷重となる。
【0035】
【数1】
上記式(2)の変位wに関する一般解を微分することによって、撓み角θ=−dw/dx、曲げモーメントM=−EId2w/dx2、せん断力Q=−EId3w/dx3など、直線梁4内における各物理量の式を求めることができる。なお、これらの各物理量の式には未定積分定数A1〜A4が含まれているが、これらの未定積分定数は、直線梁4の一端、例えばG1端の各物理量により特定できる。そして、他端となるG2端の各物理量はG1端の各物理量と関係付けることができる。この原理の下で、ある梁端(G1端又はG2端)の各物理量を、他の梁端の各物理量に伝達させる方法として、伝達マトリックス法が開発された。
【0036】
伝達マトリックス法の基本式は、図3に示す直線梁4のG1端における各物理量{F1](=[w1,θ1,M1,Q1,1]T:ここに、Tは転置を意味する。)と、G2端における各物理量{F2](=[w2,θ2,M2,Q2,1]T)との関係として、伝達マトリックス[A]を介した以下の式(3)で表される。
【0037】
【数2】
また、式(3)の伝達マトリックス[A]の中の5列目の要素(P1〜P4)は荷重項であり、以下の式で表される。
【0038】
【数3】
上記の式(3)及び式(4)は、Winkler モデルによる基礎構造物において、等分布又は片勾配分布荷重が作用する直線梁4の一端(G1端)から他端(G2端)へ各物理量を伝達させる伝達マトリックス法の基本式である。他方、分布荷重形状が図4,5に示すような梁の途中に頂点がくる三角形や台形などの場合、式(1)の右辺の分布荷重pを陽関数で表すことが難しく、仮に分布荷重形状を近似的に表す関数が与えられたとしても、その関数を組み込んだ微分方程式の解を陽関数で表すことは不可能に近い。
【0039】
そこで、三角形分布荷重や台形分布荷重が作用荷重となる場合は、解析対象の基礎梁内で荷重分布形の変化する位置(荷重分布形の頂点から基礎梁に向けて垂線を引いた位置)にダミー点を設けることとする。
【0040】
例えば、図4に示すように、荷重分布形の変化する梁中央(節点からL1=L/2)の位置にダミー点DG1を設け、この点を介してG1端からG2端への伝達マトリックスを求める。以下に、図4の三角形分布に関するG1端からG2端への伝達マトリックスにおける各荷重項を式(5)として示す。なお、荷重項以外の伝達マトリックス[A]の各要素は、上記式(3)と同じになるため省略する。
【0041】
【数4】
また、図5に示す台形分布荷重の場合は、梁上の荷重分布形の変化する両節点からそれぞれL1の位置にダミー点DG1,DG2を設け、これらの点を介してG1端からG2端への伝達マトリックスを求める。以下に、図5の台形分布に関するG1端からG2端への伝達マトリックスにおける各荷重項を式(6)として示す。なお、荷重項以外の伝達マトリックス[A]の各要素は、上記式(3)と同じになるため省略する。
【0042】
【数5】
このように荷重の変化点(例えば多角形の頂点)に着目してダミー点を設ける処理をおこなうことによって、基礎構造物に様々な形状の分布荷重が作用している場合であっても、Winklerモデルによって伝達マトリックスを定式化することができる。
【0043】
続いて、伝達マトリックスから変位法の剛性マトリックスに変換する方法について説明する。任意の分布荷重を取り入れた伝達マトリックスを変位法の剛性マトリックスに変換するためには、まず、式(3)の各物理量の並びの中で、曲げモーメントMとせん断力Qの順番を入れ替える。すなわち、[w1,θ1,M1,Q1,1]T及び[w2,θ2,M2,Q2,1]TのM1(又はM2)とQ1(又はQ2)の並びの順番を入れ替えて、以下の式(7)のように書き改める。なお、式(7)は、伝達マトリックスの各要素を簡略形(aij)で表現している。
【0044】
【数6】
上記した式(7)を部分マトリックスに分割して、剛性マトリックスに対応するように式(8)の集約表示を用いれば、式(7)は式(9)のように書き改められる。
【0045】
【数7】
そして、上記式(9)から、以下の式(10)及び式(11)を導くことができる。
【0046】
【数8】
また、上記式(10)及び式(11)により、G1端とG2端における力のベクトル{F12}及び{F34}は、それぞれ式(12)及び式(13)のように変位ベクトル{f12}及び{f34}と関係付けられる。
【0047】
【数9】
そして、上記の2つの式(12)及び式(13)をまとめると、以下の式(14)になる。
【0048】
【数10】
また、上記の式(14)は、以下の式(15)のように簡略形で表すことができる。
【0049】
【数11】
この式(15)は、G1端とG2端における左辺の力ベクトル[Q1,M1,Q2,M2]Tと右辺の変位ベクトル[w1,θ1,w2,θ2]Tとの関係式であり、Winkler モデルによる直線梁4に関して、変位法の剛性マトリックスが求められたことになる。
【0050】
次に、本実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムの処理の流れと、その作用について説明する。
【0051】
基礎構造物の解析方法(又は解析システム)の処理の流れを示したフローチャートである図1を参照しながら説明すると、まず、ステップS1で、Winklerモデルに基づいて、基礎構造物の各要素の基本方程式を作成する(式(1),式(2)、基本方程式作成手段21参照)。すなわち、基礎構造物が直線梁4のみであれば、上述したようになるが、基礎構造物が複数の直線梁4の組み合わせであれば、各直線梁4が各要素となる。なお、基礎構造物が格子梁である場合については、実施例で後述する。
【0052】
続いて、ステップS2では、基本方程式に基づいて各要素の伝達マトリックスを作成する(式(3)〜式(6)、伝達マトリックス作成手段22参照)。そして、ステップS3では、各要素の伝達マトリックスから変位法の剛性マトリックスへの変換をおこなう(式(7)〜式(15)、変換手段23参照)。ステップS4では、基礎構造物全体の剛性マトリックスが作成されていなければステップS1に戻り、基礎構造物全体の剛性マトリックスの作成が終了していればステップS5に移行する。
【0053】
ステップS5では、作成された基礎構造物の剛性マトリックスを上部構造物(上部架構)の剛性マトリックスと連結させるか否かの判断をする。すなわち、基礎構造物のみの解析をおこなうのであればステップS7に移行し、上部架構と基礎構造物との一体解析をおこなうのであれば、ステップS6に移行する。
【0054】
ステップS6では、基礎構造物の剛性マトリックスと上部架構の骨組から作成される剛性マトリックスとを連結して、基礎構造物と上部架構とが一体になった架構全体(構造物全体)の剛性マトリックスを作成する(連成手段24参照)。
【0055】
そして、ステップS7では、ステップS4まで又はステップS6で作成された剛性マトリックスに、解析モデルの境界部の境界条件を組み込んで、有限要素法による解析をおこなう(FEM解析手段25参照)。
【0056】
この解析とは、ここまでに作成された剛性マトリックスに基づく連立方程式の解を求めることである。そして、この解析によって、各要素の変位w、撓み角θ、曲げモーメントM、せん断力Qなどの物理量が算出される(ステップS8)。解析によって算出された各物理量は、出力部3に出力される。
【0057】
このように構成された本実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムによれば、基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成すれば、建物(上部構造物)と基礎(基礎構造物)の挙動を一体に解析する連成解析をおこなうことができ、日本建築学会が推奨するような精度の高い解析結果を得ることができる。
【0058】
また、分布荷重の変化する位置にダミー点を設ける手法を採用することで、三角形分布荷重や台形分布荷重など様々な荷重ケースの解析をおこなうことができる。
【0059】
さらに、基礎構造物を少ない要素数でモデル化して有限要素法による解析をおこなうことができるので、解析モデルの作成や解析条件の設定などにかかる手間が少なくてすみ、戸建て住宅などの小規模建物の解析を容易におこなうことが可能になる。
【実施例1】
【0060】
以下、前記実施の形態で説明した基礎構造物の解析方法及び解析システムの効果を確認するためにおこなった解析について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0061】
この実施例1では、前記実施の形態で説明したWinkler モデルに基づく解析方法(以下、「Winkler 法」という。)と、節点に設けた集中ばねのみで地盤がモデル化される骨組構造解析方法(以下、「Beam 法」という。)とを比較することで、本実施の形態の「Winkler 法」の効果を説明する。
【0062】
解析対象となる基礎構造物は、N値が4〜5の緩く堆積した砂質地盤上に設置された長方形のべた基礎(1スパン×1スパン:5.0m×8.0m)とする。但し、解析上は、このべた基礎を、ある幅をもつ連続梁としての格子梁にモデル化する。すなわち、上述した日本建築学会編「鉄筋コンクリート設計規準・同解説 8条2項(2)」(2010年版)に提示されている「T形梁の有効幅の取扱い」に基づいた有効幅を用いる。以下に、解析条件を示す。
<べた基礎>
モデル化した格子梁の幅 : D=0.6 (m)
弾性係数(鉄筋コンクリート造) : E=1.4×107 (kN/m2)
断面2次モーメント : Iy=6.05×10-3 (m4)
断面極2次モーメント : Jx=9.76×10-3 (m4)
曲げ剛性 : EI=3.39×105 (kN・m2)
<地 盤>
砂質土 :N≒4〜5
地盤ばね : kh = 80×700×N/ (50)0.75 =10,500〜13,000≒12,000 (kN/m3)
よって、基本方程式の式(1),(2)に入力する値は以下のようになる。
【0063】
kh・D=12,000×0.6=7,200 (kN/m2)
β= [ kh・D/(4EI)]1/4=[ 12,000×0.6/(4×3.39×105) ] 1/4=0.270 (m-1)
<格子梁隅角部>
杭基礎又は補強材が格子梁の隅角部に設けられていることを想定して、隅角部に支持ばねkp = 3,000 (kN/m)を配置する。
<作用荷重>
べた基礎全体に作用する分布荷重を想定し、等分布荷重p=10.0 (kN/m2) とする。
【0064】
そして、図6は、「Winkler 法」及び隅角部にのみ節点を設ける場合の「Beam 法」の解析モデル(4節点、4要素)を示している。すなわち、「Winkler 法」では、節点は隅角部となる4箇所にのみ設ける(解析ケース名:「Winkler(隅角点)」)。これは、「Winkler 法」では地盤ばねを解析中に組み込んでいるため、隅角部(格子梁の交点)にのみ節点を設ければよいためである。
【0065】
そして、同様の4節点モデルの解析結果を比較するために、「Beam 法」でも4節点の解析をおこなう(解析ケース名:「Beam(隅角点)」)。ここで、「Beam 法」は、節点に集中ばねを設定することによって地盤特性を解析に組み込むため、節点の数が少ないと実際の地盤の挙動とかけ離れ、解析精度が低くなる。
【0066】
そこで、解析精度を上げた「Beam 法」の解析結果と「Winkler 法」の解析結果との比較をおこなうために、図7,8に示すような解析モデルを使った「Beam 法」の解析もおこなう。ここで、図7は、長辺側及び短辺側の隅角部間に荷重変化点の位置で節点を増やした10節点(10要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(荷重変化点)」)を示している。また、図8は、長辺側及び短辺側の隅角部間に荷重変化点の位置で節点を増やすとともに、さらにそれらの節点間の中間に節点を設けた20節点(20要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(中間点)」)を示している。すなわち、「Beam 法」の解析は、「Winkler 法」の1倍,2.5倍,5倍の分割数の解析をそれぞれおこなった。
【0067】
そして、解析によって算出された物理量の中から、沈下量(変位w)及び曲げモーメントMの値を抽出して図9,10に分布図を示した。図9(a)は、X1通及びX2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。ここで、X1通とは、図6を使って説明すると、X1の座標において、隅角部(1)から隅角部(2)までの横向きの直線上の位置、換言するとY1座標からY2座標の位置を指す。「通」の意味については、他も同様である。
【0068】
また、図9(b)は、Y1通及びY2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。さらに、図10は、各「通」の曲げモーメントの分布を示したグラフである。
【0069】
図9,10の結果を見ると、比較のためにおこなった「Beam(隅角点)」の結果は、すべての「通」において、沈下量分布及び曲げモーメント分布の形状が、「Winkler(隅角点)」の結果と大きくかけ離れ、解析精度が低いことが明らかである。そして、「Beam 法」の解析精度を高めるために節点の数を増やしていっても、10節点の解析モデル「Beam(荷重変化点)」では図10に示すように曲げモーメント分布における誤差が残る。
【0070】
そして、20節点の解析モデル「Beam(中間点)」となって、ようやく本実施の形態の4節点の解析モデル「Winkler(隅角点)」の解析結果と同等の結果が得られる。すなわち、「Beam 法」は、「Winkler 法」の5倍の分割数にした解析モデルを使用しなければ精度の高い解析結果を得ることができない。
【0071】
さらに詳細に図9,10の解析結果を説明すると、沈下量分布に関しては、「Beam 法」において「Winkler 法」と同じ隅角部のみの要素分割数では、X通中央で最大約5.22 倍の結果となるが、要素分割数を荷重変化点及び中間点で増やすと、それぞれ1.09 倍及び1.02 倍の値となった。また、曲げモーメント分布に関しては、「Beam 法」において「Winkler 法」と同じ隅角部のみの要素分割数及び荷重変化点の要素分割数では、X通中央で最大約7.76 倍及び1.53 倍となるが、要素分割数を中間点で増やすと0.85倍と小さな値となった。
【0072】
このように、本実施の形態の「Winkler 法」によれば、基礎構造物をモデル化する際の要素数を増やさなくても、精度の高い有限要素法による解析をおこなうことができる。すなわち、要素数を増やすことで解析精度を高めていた従来の骨組構造解析で一般的に用いられてきた「Beam 法」に比べて、本実施の形態の「Winkler 法」は計算機の記憶容量及び計算時間を大幅に節約することができる。
【0073】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0074】
以下、前記した実施例1とは別の解析結果について、図11−図17を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0075】
この実施例2では、図11に示すように、N値が4〜5の緩く堆積した砂質地盤上に設置された長方形のべた基礎(2スパン×2スパン:10.0m×16.0m)を解析対象の基礎構造物とし、解析上は実施例1と同様にある幅をもつ連続梁としての格子梁にモデル化して解析する。なお、上述した実施例1と同じ解析条件の説明は省略する。
【0076】
この実施例2の解析モデルは、2スパン×2スパンの格子梁であるため、中央の交点が存在する。この中央の交点には、100 kNの集中荷重を鉛直下向きに作用させる。
【0077】
図11は、格子梁の交点のみに節点を設けた「Winkler 法」の9節点(12要素)の解析モデルを示している(解析ケース名:「Winkler(隅角点)」)。また、図11は、「Beam 法」の9節点(12要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(隅角点)」)でもある。
【0078】
一方、図12は、長辺側及び短辺側の交点間に荷重変化点の位置で節点を増やした27節点(30要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(荷重変化点)」)を示している。また、図13は、長辺側及び短辺側の交点間に荷重変化点の位置で節点を増やすとともに、さらにそれらの節点間の中間に節点を設けた57節点(60要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(中間点)」)を示している。すなわち、「Beam 法」の解析は、「Winkler 法」の1倍,2.5倍,15倍の分割数の解析をそれぞれおこなった。
【0079】
そして、解析によって算出された物理量の中から、沈下量(変位w)及び曲げモーメントMの値を抽出して図14〜図17に分布図を示した。図14(a)は、X1通及びX3通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。また、図14(b)は、X2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。
【0080】
一方、図15(a)は、Y1通及びY3通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。また、図15(b)は、Y2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。さらに、図16,17は、各「通」の曲げモーメントの分布を示したグラフである。
【0081】
図14〜図17の解析結果を比較したグラフから次のことがいえる。まず、沈下量分布に関しては、「Beam 法」の格子梁の交点のみの要素分割数の場合、並びに荷重変化点及び中間点で要素分割数を増やした場合は、「Winkler 法」の結果と比べてそれぞれ3.11 倍、1.06 倍、1.01 倍の値となった。また、曲げモーメント分布に関しては、「Beam 法」の格子梁の交点のみの要素分割数の場合、並びに荷重変化点及び中間点で要素分割数を増やした場合は、「Winkler 法」の結果と比べてそれぞれ5.70 倍、1.66 倍、0.81 倍の値となった。
【0082】
これらの検討結果より、格子梁の問題に対して高精度の解析結果を得るためには、骨組構造解析で一般的に用いられる「Beam 法」では、基礎梁の中間部に多数の節点を設ける必要があることがわかった。これに対して、本実施の形態の「Winkler法」では、梁両端又は格子梁の交点に節点を設けるだけでよいことがわかった。すなわち、地盤上に基礎構造物として設置される格子梁のような骨組構造を解析する場合、本実施の形態の「Winkler 法」を用いれば、格子梁の交点に節点を設けるだけで精度のよい解析ができる。このため、複雑な解析モデルを作成したり、多くのデータを入力したりする必要がなく、解析モデルの作成や解析条件の設定などを容易におこなうことができる。
【0083】
また、基礎構造物が格子梁であっても少ない要素数で有限要素法による解析をおこなうことができるようになるので、多くの戸建て住宅などの小規模建物でも解析がおこなえるようになる。
【0084】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0085】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0086】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、地盤上に構築される格子梁、直線梁又はべた基礎などを基礎構造物として説明したが、これに限定されるものではなく、杭のように地中に構築される基礎構造物にも本発明の基礎構造物の解析方法又は基礎構造物の解析システムを適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
2 演算処理部
21 基本方程式作成手段
22 伝達マトリックス作成手段
23 変換手段
24 連成手段
25 FEM解析手段
4 直線梁(基礎構造物)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤上に基礎構造物として構築される直線梁(布基礎)、格子梁、べた基礎などを有限要素法によって解析し、その沈下量や曲げモーメントなどの物理量を算出するための基礎構造物の解析方法及び基礎構造物の解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造物に適用する有限要素法は、柱・梁架構を複数に分割した要素の集合体として解析をおこなっていた。この解析法のアルゴリズムは、「分割した要素の両端に節点を配置し、要素内部の状態を表す関数を介して両端節点の既知と未知の物理量を関係づける方程式を求め、対象構造物全体にこれらの方程式を連立させて解き、全節点の物理量を得る方法」と要約できる。
【0003】
上記連立方程式を立てる際には、応力又は変位のいずれを未知量としても解析はできるが、特に前者を応力法、そして後者を変位法と呼称している。しかしながら、不静定次数の高い建築構造物に対して応力法を適用するには、豊富な構造力学の知識を必要とするため、一般的には適用されていない。これに対して変位法は、方程式の組み立てが容易であり、解析の道具として汎用性に富んだ解析法を作成することができる。この様な理由から、建築構造物に適用する有限要素法としては、変位法が一般に用いられる。
【0004】
有限要素法による解析をおこなうには、要素内に作用する外的物理量を両端節点に集約して扱うことになるため、地盤上の梁や地盤に埋設される杭などの基礎構造物を解析する場合、そのまま解析をおこなうことができない。すなわち、地盤上の梁や杭を解析するには、連続体である地盤を要素の両端に離散化したばねで表現せざるを得ない(特許文献1参照)。
【0005】
このため、高精度の解析結果を得るためにはより多くの地盤ばねを必要とし、細かな要素分割が要求される。また、梁上に分布荷重が作用する場合も同じである。このようにして要素数が増えると大きな連立方程式を解くことになり、多大な記憶容量及び計算時間が必要となる。
【0006】
この問題を解決するために、地盤を平面的に連続したWinklerばねで表現し、基礎構造物をその上に設置される梁とした解析手法(いわゆる、弾性支承梁理論)が提案されている(特許文献2参照)。この弾性支承梁理論を有限要素法として扱うために、要素の一端の物理量と他端の物理量とを関連付ける節点間の伝達マトリックスを作成する解析法が適用される。
【0007】
そして、日本建築学会編「建築基礎構造設計指針(2001 年版)」では、解析結果の信頼性(精度)を高める方法として、上部構造物(上部構造骨組)と基礎構造物(基礎梁)とを一体化した解析法が推奨されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−207260号公報
【特許文献2】特開2009−174158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記「建築基礎構造設計指針(2001 年版)」には、具体的な解析手法までは示されていない。このため、上述したように基礎梁を伝達マトリックスによる解析法で解析し、上部構造骨組を変位法で解析した場合には、応力法と変位法とを上手く繋ぎ合わさなければ、基礎梁と上部構造骨組との一体解析を行ったことにはならない。
【0010】
そこで、本発明は、節点間の伝達マトリックスを変位法による有限要素法に適用できるようにする基礎構造物の解析方法及び基礎構造物の解析システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の基礎構造物の解析方法は、地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法であって、地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップと、前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップと、前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップと、前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップとを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成した後に、前記有限要素法による解析をおこなうステップに移行することができる。
【0013】
また、前記基本方程式を作成するステップにおいて、前記作用荷重の変化する位置にダミー点を設けることができる。さらに、前記基礎構造物が格子梁であっても適用することができる。
【0014】
また、本発明の基礎構造物の解析システムは、地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析システムであって、地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成する基本方程式作成手段と、前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成する伝達マトリックス作成手段と、前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなう変換手段と、前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうFEM解析手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成する連成手段を備えた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の基礎構造物の解析方法及び解析システムでは、基礎構造物の要素の伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する。
【0017】
このため、地盤に接する基礎構造物をモデル化する際に、要素数を増やさなくても精度の高い有限要素法による解析をおこなうことができる。また、要素数を増やすことで解析精度を高めていた従来の手法に比べて、計算機の記憶容量及び計算時間を大幅に節約することができる。
【0018】
さらに、基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成すれば、建物(上部構造物)と基礎の挙動を一体に解析する連成解析をおこなうことができ、解析精度をより高めることができる。
【0019】
また、分布荷重の変化する位置にダミー点を設ける手法を採用することで、三角形分布荷重や台形分布荷重など様々な荷重ケースの解析をおこなうことができる。
【0020】
さらに、基礎構造物が格子梁であっても少ない要素数で有限要素法による解析をおこなうことができるので、戸建て住宅などの小規模建物の解析を容易におこなうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の基礎構造物の解析方法を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態の基礎構造物の解析システムを説明するブロック図である。
【図3】基礎構造物の解析方法を説明するための直線梁の説明図である。
【図4】三角形分布荷重を説明するための説明図である。
【図5】台形分布荷重を説明するための説明図である。
【図6】実施例1の4節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図7】比較例の10節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図8】比較例の20節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図9】実施例1でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図6〜図8のX1通及びX2通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図6〜図8のY1通及びY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図10】実施例1でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図6〜図8のX1通及びX2通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図6〜図8のY1通及びY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図11】実施例2の9節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図12】比較例の27節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図13】比較例の57節点の解析モデルを説明する説明図である。
【図14】実施例2でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のX1通及びX3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のX2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図15】実施例2でおこなった解析結果について、沈下量を縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のY1通及びY3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図16】実施例2でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のX1通及びX3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のX2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【図17】実施例2でおこなった解析結果について、曲げモーメントを縦軸にして示したグラフであって、(a)は図11〜図13のY1通及びY3通の位置を横軸にして示したグラフ、(b)は図11〜図13のY2通の位置を横軸にして示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムについて図面を参照して説明する。本実施の形態で説明する基礎構造物は、地盤上に構築される直線梁や格子梁などの弾性支承上の梁である。そして、図1には基礎構造物の解析方法の処理の流れを説明するフローチャートを示し、図2には基礎構造物の解析システムの構成を説明するブロック図を示す。
【0023】
本実施の形態の基礎構造物の解析システムは、図2に示すように、解析条件や各種設定値などを入力するための入力部1と、入力部1によって入力されたデータに基づいて演算をおこなう演算処理部2と、解析結果を出力する出力部3とを主に備えている。
【0024】
入力部1は、キーボードやマウスなどであってもよいが、各種データが予め記憶されたハードディスク、ROM(Read Only Memory)などの各種記憶媒体であってもよい。また、出力部3は、演算結果をデータとして記憶させる各種記憶媒体、紙に印刷させるプリンタ、画面に表示させるモニタのいずれの形態であってもよい。
【0025】
演算処理部2は、後述する各種手段を実行させるコンピュータプログラムがインストールされたコンピュータによって主に構成される。すなわち、演算処理部2は、各種手段の演算をおこなうためのCPU(Central Processing Unit)、一時記憶領域としてのRAM(Random Access Memory)などのハードと、各種手段を実行させるためにインストールされたコンピュータプログラム(ソフト)とを備えている。
【0026】
演算処理部2は、弾性支承上の梁モデルとしてのWinklerモデルに基づいて解析をおこなうための基本方程式を作成する基本方程式作成手段21と、要素(節点間)の伝達マトリックスを作成する伝達マトリックス作成手段22と、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する変換手段23と、基礎構造物の上部構造物となる上部架構の剛性マトリックスとの連結をおこなう連成手段24と、作成された剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法(FEM:Finite Element Method)によって解析をおこなうFEM解析手段25とを主に備えている。
【0027】
基本方程式作成手段21では、地盤上の基礎構造物をWinklerばね上の梁としたWinklerモデルに基づいて、地盤特性、作用荷重並びに基礎構造物の物性及び形状と、変位量との関係の基本方程式を作成する。ここで、地盤特性には、例えば地盤反力係数(地盤ばね、K値)などが該当する。また、作用荷重としては、集中荷重、分布荷重などを入力することができる。分布荷重としては、等分布若しくは片勾配分布(図3)、三角形分布(図4)、台形分布(図5)などの各分布形状が適用できる。
【0028】
さらに、基礎構造物の物性には、基礎構造物の曲げ剛性(弾性係数E×断面2次モーメントI)が該当する。また、基礎構造物の形状には、基礎構造物の幅などが該当する。地盤に接する面が長方形となる直線梁が基礎構造物の場合、梁の軸方向(長方形の長辺)に直交する長さ(長方形の短辺)が幅となる。なお、基礎構造物がべた基礎の場合には、日本建築学会編「鉄筋コンクリート設計規準・同解説 8条2項(2)」(2010年版)に提示されている「T形梁の有効幅の取扱い」等に基づいた有効幅を用いる。そして、変位量とは、鉛直方向の変位が該当する。例えば、基礎構造物の下面が鉛直方向に移動する大きさを変位量とする。
【0029】
伝達マトリックス作成手段22では、基礎構造物の全長又は分割された部分を要素として、その要素の端部を節点とすると、一方の節点の各物理量を他方の節点の各物理量に伝達させるための伝達マトリックスを作成する。すなわち、要素の一端の物理量と他端の物理量とを関連付ける節点間の伝達マトリックスを作成する。
【0030】
また、変換手段23では、伝達マトリックス作成手段22によって作成された伝達マトリックスを、変位法の解析に利用できるように剛性マトリックスに変換する。すなわち、Winklerモデルに基づいて作成された基礎構造物の伝達マトリックスを変位法の剛性マトリックスに変換することによって、基礎構造物と上部構造物の一体解析を容易におこなえるようにする。
【0031】
さらに、連成手段24では、ここまでに作成した基礎構造物の剛性マトリックスと、上部架構の骨組から作成される剛性マトリックスとを連結して、基礎構造物と上部構造物(上部架構)とが一体になった架構全体(基礎を含む建物全体)の剛性マトリックスを作成する。
【0032】
そして、FEM解析手段25では、基礎構造物の剛性マトリックス又は架構全体の剛性マトリックスと、基礎構造物と地盤との境界条件とを設定し、有限要素法(FEM)解析をおこなう。ここで、境界条件とは、基礎構造物と地盤との関係を表すものであり、解析モデルの境界に位置する節点の状態を指す。例えば、固定、一方向又は複数方向の変位が自由、回転が自由などの境界条件が設定できる。
【0033】
次に、数式を展開しながら本実施の形態の基礎構造物の解析方法について説明する。
【0034】
図3に示すように、Winklerモデルの直線梁4に、等分布又は片勾配分布荷重が作用する場合、その基本方程式は以下の式(1)で表され、その一般解は式(2)で与えられる。ここで、鉛直方向(Z方向)の変位をw、等分布又は片勾配分布荷重pを表す関数をκx+λとする。なお、κ=0のときに等分布荷重となる。
【0035】
【数1】
上記式(2)の変位wに関する一般解を微分することによって、撓み角θ=−dw/dx、曲げモーメントM=−EId2w/dx2、せん断力Q=−EId3w/dx3など、直線梁4内における各物理量の式を求めることができる。なお、これらの各物理量の式には未定積分定数A1〜A4が含まれているが、これらの未定積分定数は、直線梁4の一端、例えばG1端の各物理量により特定できる。そして、他端となるG2端の各物理量はG1端の各物理量と関係付けることができる。この原理の下で、ある梁端(G1端又はG2端)の各物理量を、他の梁端の各物理量に伝達させる方法として、伝達マトリックス法が開発された。
【0036】
伝達マトリックス法の基本式は、図3に示す直線梁4のG1端における各物理量{F1](=[w1,θ1,M1,Q1,1]T:ここに、Tは転置を意味する。)と、G2端における各物理量{F2](=[w2,θ2,M2,Q2,1]T)との関係として、伝達マトリックス[A]を介した以下の式(3)で表される。
【0037】
【数2】
また、式(3)の伝達マトリックス[A]の中の5列目の要素(P1〜P4)は荷重項であり、以下の式で表される。
【0038】
【数3】
上記の式(3)及び式(4)は、Winkler モデルによる基礎構造物において、等分布又は片勾配分布荷重が作用する直線梁4の一端(G1端)から他端(G2端)へ各物理量を伝達させる伝達マトリックス法の基本式である。他方、分布荷重形状が図4,5に示すような梁の途中に頂点がくる三角形や台形などの場合、式(1)の右辺の分布荷重pを陽関数で表すことが難しく、仮に分布荷重形状を近似的に表す関数が与えられたとしても、その関数を組み込んだ微分方程式の解を陽関数で表すことは不可能に近い。
【0039】
そこで、三角形分布荷重や台形分布荷重が作用荷重となる場合は、解析対象の基礎梁内で荷重分布形の変化する位置(荷重分布形の頂点から基礎梁に向けて垂線を引いた位置)にダミー点を設けることとする。
【0040】
例えば、図4に示すように、荷重分布形の変化する梁中央(節点からL1=L/2)の位置にダミー点DG1を設け、この点を介してG1端からG2端への伝達マトリックスを求める。以下に、図4の三角形分布に関するG1端からG2端への伝達マトリックスにおける各荷重項を式(5)として示す。なお、荷重項以外の伝達マトリックス[A]の各要素は、上記式(3)と同じになるため省略する。
【0041】
【数4】
また、図5に示す台形分布荷重の場合は、梁上の荷重分布形の変化する両節点からそれぞれL1の位置にダミー点DG1,DG2を設け、これらの点を介してG1端からG2端への伝達マトリックスを求める。以下に、図5の台形分布に関するG1端からG2端への伝達マトリックスにおける各荷重項を式(6)として示す。なお、荷重項以外の伝達マトリックス[A]の各要素は、上記式(3)と同じになるため省略する。
【0042】
【数5】
このように荷重の変化点(例えば多角形の頂点)に着目してダミー点を設ける処理をおこなうことによって、基礎構造物に様々な形状の分布荷重が作用している場合であっても、Winklerモデルによって伝達マトリックスを定式化することができる。
【0043】
続いて、伝達マトリックスから変位法の剛性マトリックスに変換する方法について説明する。任意の分布荷重を取り入れた伝達マトリックスを変位法の剛性マトリックスに変換するためには、まず、式(3)の各物理量の並びの中で、曲げモーメントMとせん断力Qの順番を入れ替える。すなわち、[w1,θ1,M1,Q1,1]T及び[w2,θ2,M2,Q2,1]TのM1(又はM2)とQ1(又はQ2)の並びの順番を入れ替えて、以下の式(7)のように書き改める。なお、式(7)は、伝達マトリックスの各要素を簡略形(aij)で表現している。
【0044】
【数6】
上記した式(7)を部分マトリックスに分割して、剛性マトリックスに対応するように式(8)の集約表示を用いれば、式(7)は式(9)のように書き改められる。
【0045】
【数7】
そして、上記式(9)から、以下の式(10)及び式(11)を導くことができる。
【0046】
【数8】
また、上記式(10)及び式(11)により、G1端とG2端における力のベクトル{F12}及び{F34}は、それぞれ式(12)及び式(13)のように変位ベクトル{f12}及び{f34}と関係付けられる。
【0047】
【数9】
そして、上記の2つの式(12)及び式(13)をまとめると、以下の式(14)になる。
【0048】
【数10】
また、上記の式(14)は、以下の式(15)のように簡略形で表すことができる。
【0049】
【数11】
この式(15)は、G1端とG2端における左辺の力ベクトル[Q1,M1,Q2,M2]Tと右辺の変位ベクトル[w1,θ1,w2,θ2]Tとの関係式であり、Winkler モデルによる直線梁4に関して、変位法の剛性マトリックスが求められたことになる。
【0050】
次に、本実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムの処理の流れと、その作用について説明する。
【0051】
基礎構造物の解析方法(又は解析システム)の処理の流れを示したフローチャートである図1を参照しながら説明すると、まず、ステップS1で、Winklerモデルに基づいて、基礎構造物の各要素の基本方程式を作成する(式(1),式(2)、基本方程式作成手段21参照)。すなわち、基礎構造物が直線梁4のみであれば、上述したようになるが、基礎構造物が複数の直線梁4の組み合わせであれば、各直線梁4が各要素となる。なお、基礎構造物が格子梁である場合については、実施例で後述する。
【0052】
続いて、ステップS2では、基本方程式に基づいて各要素の伝達マトリックスを作成する(式(3)〜式(6)、伝達マトリックス作成手段22参照)。そして、ステップS3では、各要素の伝達マトリックスから変位法の剛性マトリックスへの変換をおこなう(式(7)〜式(15)、変換手段23参照)。ステップS4では、基礎構造物全体の剛性マトリックスが作成されていなければステップS1に戻り、基礎構造物全体の剛性マトリックスの作成が終了していればステップS5に移行する。
【0053】
ステップS5では、作成された基礎構造物の剛性マトリックスを上部構造物(上部架構)の剛性マトリックスと連結させるか否かの判断をする。すなわち、基礎構造物のみの解析をおこなうのであればステップS7に移行し、上部架構と基礎構造物との一体解析をおこなうのであれば、ステップS6に移行する。
【0054】
ステップS6では、基礎構造物の剛性マトリックスと上部架構の骨組から作成される剛性マトリックスとを連結して、基礎構造物と上部架構とが一体になった架構全体(構造物全体)の剛性マトリックスを作成する(連成手段24参照)。
【0055】
そして、ステップS7では、ステップS4まで又はステップS6で作成された剛性マトリックスに、解析モデルの境界部の境界条件を組み込んで、有限要素法による解析をおこなう(FEM解析手段25参照)。
【0056】
この解析とは、ここまでに作成された剛性マトリックスに基づく連立方程式の解を求めることである。そして、この解析によって、各要素の変位w、撓み角θ、曲げモーメントM、せん断力Qなどの物理量が算出される(ステップS8)。解析によって算出された各物理量は、出力部3に出力される。
【0057】
このように構成された本実施の形態の基礎構造物の解析方法及び解析システムによれば、基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成すれば、建物(上部構造物)と基礎(基礎構造物)の挙動を一体に解析する連成解析をおこなうことができ、日本建築学会が推奨するような精度の高い解析結果を得ることができる。
【0058】
また、分布荷重の変化する位置にダミー点を設ける手法を採用することで、三角形分布荷重や台形分布荷重など様々な荷重ケースの解析をおこなうことができる。
【0059】
さらに、基礎構造物を少ない要素数でモデル化して有限要素法による解析をおこなうことができるので、解析モデルの作成や解析条件の設定などにかかる手間が少なくてすみ、戸建て住宅などの小規模建物の解析を容易におこなうことが可能になる。
【実施例1】
【0060】
以下、前記実施の形態で説明した基礎構造物の解析方法及び解析システムの効果を確認するためにおこなった解析について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0061】
この実施例1では、前記実施の形態で説明したWinkler モデルに基づく解析方法(以下、「Winkler 法」という。)と、節点に設けた集中ばねのみで地盤がモデル化される骨組構造解析方法(以下、「Beam 法」という。)とを比較することで、本実施の形態の「Winkler 法」の効果を説明する。
【0062】
解析対象となる基礎構造物は、N値が4〜5の緩く堆積した砂質地盤上に設置された長方形のべた基礎(1スパン×1スパン:5.0m×8.0m)とする。但し、解析上は、このべた基礎を、ある幅をもつ連続梁としての格子梁にモデル化する。すなわち、上述した日本建築学会編「鉄筋コンクリート設計規準・同解説 8条2項(2)」(2010年版)に提示されている「T形梁の有効幅の取扱い」に基づいた有効幅を用いる。以下に、解析条件を示す。
<べた基礎>
モデル化した格子梁の幅 : D=0.6 (m)
弾性係数(鉄筋コンクリート造) : E=1.4×107 (kN/m2)
断面2次モーメント : Iy=6.05×10-3 (m4)
断面極2次モーメント : Jx=9.76×10-3 (m4)
曲げ剛性 : EI=3.39×105 (kN・m2)
<地 盤>
砂質土 :N≒4〜5
地盤ばね : kh = 80×700×N/ (50)0.75 =10,500〜13,000≒12,000 (kN/m3)
よって、基本方程式の式(1),(2)に入力する値は以下のようになる。
【0063】
kh・D=12,000×0.6=7,200 (kN/m2)
β= [ kh・D/(4EI)]1/4=[ 12,000×0.6/(4×3.39×105) ] 1/4=0.270 (m-1)
<格子梁隅角部>
杭基礎又は補強材が格子梁の隅角部に設けられていることを想定して、隅角部に支持ばねkp = 3,000 (kN/m)を配置する。
<作用荷重>
べた基礎全体に作用する分布荷重を想定し、等分布荷重p=10.0 (kN/m2) とする。
【0064】
そして、図6は、「Winkler 法」及び隅角部にのみ節点を設ける場合の「Beam 法」の解析モデル(4節点、4要素)を示している。すなわち、「Winkler 法」では、節点は隅角部となる4箇所にのみ設ける(解析ケース名:「Winkler(隅角点)」)。これは、「Winkler 法」では地盤ばねを解析中に組み込んでいるため、隅角部(格子梁の交点)にのみ節点を設ければよいためである。
【0065】
そして、同様の4節点モデルの解析結果を比較するために、「Beam 法」でも4節点の解析をおこなう(解析ケース名:「Beam(隅角点)」)。ここで、「Beam 法」は、節点に集中ばねを設定することによって地盤特性を解析に組み込むため、節点の数が少ないと実際の地盤の挙動とかけ離れ、解析精度が低くなる。
【0066】
そこで、解析精度を上げた「Beam 法」の解析結果と「Winkler 法」の解析結果との比較をおこなうために、図7,8に示すような解析モデルを使った「Beam 法」の解析もおこなう。ここで、図7は、長辺側及び短辺側の隅角部間に荷重変化点の位置で節点を増やした10節点(10要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(荷重変化点)」)を示している。また、図8は、長辺側及び短辺側の隅角部間に荷重変化点の位置で節点を増やすとともに、さらにそれらの節点間の中間に節点を設けた20節点(20要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(中間点)」)を示している。すなわち、「Beam 法」の解析は、「Winkler 法」の1倍,2.5倍,5倍の分割数の解析をそれぞれおこなった。
【0067】
そして、解析によって算出された物理量の中から、沈下量(変位w)及び曲げモーメントMの値を抽出して図9,10に分布図を示した。図9(a)は、X1通及びX2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。ここで、X1通とは、図6を使って説明すると、X1の座標において、隅角部(1)から隅角部(2)までの横向きの直線上の位置、換言するとY1座標からY2座標の位置を指す。「通」の意味については、他も同様である。
【0068】
また、図9(b)は、Y1通及びY2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。さらに、図10は、各「通」の曲げモーメントの分布を示したグラフである。
【0069】
図9,10の結果を見ると、比較のためにおこなった「Beam(隅角点)」の結果は、すべての「通」において、沈下量分布及び曲げモーメント分布の形状が、「Winkler(隅角点)」の結果と大きくかけ離れ、解析精度が低いことが明らかである。そして、「Beam 法」の解析精度を高めるために節点の数を増やしていっても、10節点の解析モデル「Beam(荷重変化点)」では図10に示すように曲げモーメント分布における誤差が残る。
【0070】
そして、20節点の解析モデル「Beam(中間点)」となって、ようやく本実施の形態の4節点の解析モデル「Winkler(隅角点)」の解析結果と同等の結果が得られる。すなわち、「Beam 法」は、「Winkler 法」の5倍の分割数にした解析モデルを使用しなければ精度の高い解析結果を得ることができない。
【0071】
さらに詳細に図9,10の解析結果を説明すると、沈下量分布に関しては、「Beam 法」において「Winkler 法」と同じ隅角部のみの要素分割数では、X通中央で最大約5.22 倍の結果となるが、要素分割数を荷重変化点及び中間点で増やすと、それぞれ1.09 倍及び1.02 倍の値となった。また、曲げモーメント分布に関しては、「Beam 法」において「Winkler 法」と同じ隅角部のみの要素分割数及び荷重変化点の要素分割数では、X通中央で最大約7.76 倍及び1.53 倍となるが、要素分割数を中間点で増やすと0.85倍と小さな値となった。
【0072】
このように、本実施の形態の「Winkler 法」によれば、基礎構造物をモデル化する際の要素数を増やさなくても、精度の高い有限要素法による解析をおこなうことができる。すなわち、要素数を増やすことで解析精度を高めていた従来の骨組構造解析で一般的に用いられてきた「Beam 法」に比べて、本実施の形態の「Winkler 法」は計算機の記憶容量及び計算時間を大幅に節約することができる。
【0073】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0074】
以下、前記した実施例1とは別の解析結果について、図11−図17を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態又は実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
【0075】
この実施例2では、図11に示すように、N値が4〜5の緩く堆積した砂質地盤上に設置された長方形のべた基礎(2スパン×2スパン:10.0m×16.0m)を解析対象の基礎構造物とし、解析上は実施例1と同様にある幅をもつ連続梁としての格子梁にモデル化して解析する。なお、上述した実施例1と同じ解析条件の説明は省略する。
【0076】
この実施例2の解析モデルは、2スパン×2スパンの格子梁であるため、中央の交点が存在する。この中央の交点には、100 kNの集中荷重を鉛直下向きに作用させる。
【0077】
図11は、格子梁の交点のみに節点を設けた「Winkler 法」の9節点(12要素)の解析モデルを示している(解析ケース名:「Winkler(隅角点)」)。また、図11は、「Beam 法」の9節点(12要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(隅角点)」)でもある。
【0078】
一方、図12は、長辺側及び短辺側の交点間に荷重変化点の位置で節点を増やした27節点(30要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(荷重変化点)」)を示している。また、図13は、長辺側及び短辺側の交点間に荷重変化点の位置で節点を増やすとともに、さらにそれらの節点間の中間に節点を設けた57節点(60要素)の解析モデル(解析ケース名:「Beam(中間点)」)を示している。すなわち、「Beam 法」の解析は、「Winkler 法」の1倍,2.5倍,15倍の分割数の解析をそれぞれおこなった。
【0079】
そして、解析によって算出された物理量の中から、沈下量(変位w)及び曲げモーメントMの値を抽出して図14〜図17に分布図を示した。図14(a)は、X1通及びX3通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。また、図14(b)は、X2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。
【0080】
一方、図15(a)は、Y1通及びY3通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。また、図15(b)は、Y2通の位置を横軸にして、解析によって算出された各位置の沈下量をプロットした図である。さらに、図16,17は、各「通」の曲げモーメントの分布を示したグラフである。
【0081】
図14〜図17の解析結果を比較したグラフから次のことがいえる。まず、沈下量分布に関しては、「Beam 法」の格子梁の交点のみの要素分割数の場合、並びに荷重変化点及び中間点で要素分割数を増やした場合は、「Winkler 法」の結果と比べてそれぞれ3.11 倍、1.06 倍、1.01 倍の値となった。また、曲げモーメント分布に関しては、「Beam 法」の格子梁の交点のみの要素分割数の場合、並びに荷重変化点及び中間点で要素分割数を増やした場合は、「Winkler 法」の結果と比べてそれぞれ5.70 倍、1.66 倍、0.81 倍の値となった。
【0082】
これらの検討結果より、格子梁の問題に対して高精度の解析結果を得るためには、骨組構造解析で一般的に用いられる「Beam 法」では、基礎梁の中間部に多数の節点を設ける必要があることがわかった。これに対して、本実施の形態の「Winkler法」では、梁両端又は格子梁の交点に節点を設けるだけでよいことがわかった。すなわち、地盤上に基礎構造物として設置される格子梁のような骨組構造を解析する場合、本実施の形態の「Winkler 法」を用いれば、格子梁の交点に節点を設けるだけで精度のよい解析ができる。このため、複雑な解析モデルを作成したり、多くのデータを入力したりする必要がなく、解析モデルの作成や解析条件の設定などを容易におこなうことができる。
【0083】
また、基礎構造物が格子梁であっても少ない要素数で有限要素法による解析をおこなうことができるようになるので、多くの戸建て住宅などの小規模建物でも解析がおこなえるようになる。
【0084】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は他の実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0085】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0086】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、地盤上に構築される格子梁、直線梁又はべた基礎などを基礎構造物として説明したが、これに限定されるものではなく、杭のように地中に構築される基礎構造物にも本発明の基礎構造物の解析方法又は基礎構造物の解析システムを適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
2 演算処理部
21 基本方程式作成手段
22 伝達マトリックス作成手段
23 変換手段
24 連成手段
25 FEM解析手段
4 直線梁(基礎構造物)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法であって、
地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップと、
前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップと、
前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップと、
前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップとを備えたことを特徴とする基礎構造物の解析方法。
【請求項2】
前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成した後に、前記有限要素法による解析をおこなうステップに移行することを特徴とする請求項1に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項3】
前記基本方程式を作成するステップにおいて、前記作用荷重の変化する位置にダミー点を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項4】
前記基礎構造物が格子梁であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項5】
地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析システムであって、
地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成する基本方程式作成手段と、
前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成する伝達マトリックス作成手段と、
前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなう変換手段と、
前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうFEM解析手段とを備えたことを特徴とする基礎構造物の解析システム。
【請求項6】
前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成する連成手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の基礎構造物の解析システム。
【請求項1】
地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析方法であって、
地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成するステップと、
前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成するステップと、
前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなうステップと、
前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうステップとを備えたことを特徴とする基礎構造物の解析方法。
【請求項2】
前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成した後に、前記有限要素法による解析をおこなうステップに移行することを特徴とする請求項1に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項3】
前記基本方程式を作成するステップにおいて、前記作用荷重の変化する位置にダミー点を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項4】
前記基礎構造物が格子梁であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の基礎構造物の解析方法。
【請求項5】
地盤に接して構築される基礎構造物を有限要素法によって解析する基礎構造物の解析システムであって、
地盤特性、作用荷重、並びに前記基礎構造物の物性及び形状と変位量との関係を、弾性支承上の梁モデルを使って基本方程式として作成する基本方程式作成手段と、
前記基本方程式と撓み角、曲げモーメント及びせん断力との関係を、前記基礎構造物を要素とする伝達マトリックスとして作成する伝達マトリックス作成手段と、
前記伝達マトリックスの曲げモーメントとせん断力の並びの順番を入れ替えて、伝達マトリックスを変位法における剛性マトリックスに変換する展開をおこなう変換手段と、
前記剛性マトリックスと境界条件とから有限要素法による解析をおこなうFEM解析手段とを備えたことを特徴とする基礎構造物の解析システム。
【請求項6】
前記基礎構造物の剛性マトリックスと上部構造物の剛性マトリックスとを連結した全体の剛性マトリックスを作成する連成手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の基礎構造物の解析システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−44120(P2013−44120A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181184(P2011−181184)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(595067442)システム計測株式会社 (27)
【出願人】(510210494)一般社団法人新基礎工法開発機構 (3)
【出願人】(510205054)中島ビル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(595067442)システム計測株式会社 (27)
【出願人】(510210494)一般社団法人新基礎工法開発機構 (3)
【出願人】(510205054)中島ビル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】
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