説明

基質と水素との反応生成物の製造方法

【課題】基質の液相と水素ガスとの固体触媒存在下での気液接触反応において、高温高圧用の高撹拌力を有する反応装置が不要な新たな製造方法を提供する。
【解決手段】溶剤と基質とからなる液相にマイクロバブル又はナノバブルを導入し、固体触媒の存在下での基質と水素との気液接触によって生成する反応生成物を製造する。前記基質には、不飽和炭素結合を有する有機化合物、二級アルコール、及び三級アルコールのいずれか一つを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒の存在下における液相の基質と水素ガスとの反応生成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状の基質や溶液中の基質を固体触媒の存在下で水素ガスと反応させる方法には、不飽和炭素結合を有する有機化合物の水素還元反応や二級又は三級アルコールの水素化分解反応が知られている。前記有機化合物の水素還元反応では、前記有機化合物と水素が、それぞれ、パラジウム炭素やラネーニッケル等の固体触媒に吸着されて触媒上で出会い、不飽和炭素結合又はアルデヒド基に水素が付加的に結合する反応である。またアルコールの水素化分解反応は、パラジウム炭素等の触媒の存在下でアルコール中のC−O結合を水素で直接切断する反応である。
【0003】
これらの反応はいずれも、水素ガスの基質への溶解度を高める観点から高圧の条件下、更には、高温が必要とされる条件下で行われ、また基質と固体触媒との接触効率を高める観点から強い撹拌のもとで行われる。このため、これらの反応を伴う化合物の製造では、いずれも高圧ガス保安法に則った作業を行う必要があり、また高温高圧条件に耐えられる第一種圧力容器や、この容器において優れた撹拌性能を奏する撹拌装置等、特別な装置が必要となる。
【0004】
一方で、液相に微小な気泡を導入する技術としては、例えばマイクロバブルやナノバブルが知られている。例えばマイクロバブルは、通常は気泡の大きさが50μm以下とされており、液相中における気泡の上昇速度が遅い、自己加圧効果を有する、帯電性を有する、等の特異な性質を有する(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このようなマイクロバブルの性質を利用した技術としては、マイクロバブルを用いる晶析法や洗浄方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。また、マイクロバブルを合成方法に用いる技術としては、銅/TEMPO触媒の存在下における酸素のマイクロバブルによる液相中の一級アルコールの酸化方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、気体−液体−固体接触を要する水素還元反応ならびに水素化分解反応へのマイクロバブル・ナノバブルの利用については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−131737号公報
【特許文献2】特開2004−121962号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mase, N. et al. Chem. Commun. 2011, 47 (7), 2086−2088.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、基質の液相と水素ガスとの固体触媒存在下での気体−液体−固体接触反応において、高温高圧用の高撹拌力を有する反応装置が不要な新たな製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の気体−液体−固体接触反応において、マイクロバブルで水素ガスを液相に導入することによって、常圧でも前記気体−液体−固体接触反応(以下、単に気液接触反応とも言う)が進行することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、基質を含有する液相と水素ガスの気泡とを固体触媒の存在下で接触させて、固体触媒の存在下での基質と水素との気液接触によって生成する反応生成物を製造する方法において、前記基質が、不飽和炭素結合を有する有機化合物、二級アルコール、三級アルコール、及びアルデヒドのいずれか一つであり、液相に導入される水素ガスの気泡が水素ガスのマイクロバブル又はナノバブルである、基質と水素との反応生成物を製造する方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記基質が不飽和炭素結合を有する有機化合物であり、前記固体触媒が前記有機化合物の水素還元反応用の触媒であるか、又は、前記基質が二級アルコール又は三級アルコールであり、前記固体触媒がこれらのアルコールの水素化分解反応用の触媒であるか、又は前記基質がアルデヒドであり、前記固体触媒がアルデヒドの水素還元反応用の触媒である、前記の方法を提供する。
【0012】
さらに本発明は、前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、置換されていてもよい鎖状オレフィン、置換されていてもよい環状オレフィン、のいずれかひとつであり、そして更には、一置換オレフィン、二置換オレフィン、三置換オレフィン及び四置換オレフィンのいずれか一つである前記の方法を提供する。
【0013】
また、前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、置換されていてもよい鎖状アルキンであり、そして更には、一置換アルキン及び二置換アルキンのいずれか一つである前記の方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、不飽和炭素結合を有する有機化合物、二級アルコール、三級アルコール、及びアルデヒドのいずれかを基質として、水素ガスのマイクロバブル又はナノバブルと基質とを固体触媒の存在下で液相中において接触させて反応生成物を製造することから、このような反応生成物を常圧で製造することができ、高温高圧用の高撹拌力を有する反応装置を要さずに前記反応生成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例で用いた反応装置の構成の概略を示す図である。
【図2】図1の反応装置の一部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の反応生成物の製造方法は、基質を含有する液相と水素ガスの気泡とを固体触媒の存在下で接触させて、固体触媒の存在下での基質と水素との気液接触によって生成する反応生成物を製造する方法において、前記基質が、不飽和炭素結合を有する有機化合物、二級アルコール、三級アルコール、及びアルデヒドのいずれか一つであり、液相に導入される水素ガスの気泡が水素ガスのマイクロバブル又はナノバブルである。
【0017】
このような反応生成物を製造する反応としては、不飽和炭素結やアルデヒド基に対する水素還元反応と二級又は三級アルコールの水酸基に対する水素化分解反応が挙げられる。例えば、水素還元反応は、前記基質に不飽和炭素結合を有する有機化合物やアルデヒドを用い、前記固体触媒に前記有機化合物やアルデヒドの水素還元反応用の触媒を用いることによって行うことができ、水素化分解反応は、前記基質に二級アルコール又は三級アルコールを用い、前記固体触媒をこれらのアルコールの水素化分解反応用の触媒を用いること
によって行うことができる。
【0018】
前記基質における不飽和炭素結合を有する有機化合物は、前記液相を形成することができる化合物であれば特に限定されない。不飽和炭素結合としては、炭素二原子間の二重結合や三重結合が挙げられる。このような不飽和炭素結合を有する有機化合物としては、例えば、酸素、窒素、硫黄、リン、ハロゲン等のヘテロ原子を含んでいてもよい有機化合物が挙げられ、具体的には、置換されていてもよい鎖状オレフィン、置換されていてもよい環状オレフィン、置換されてもよい鎖状アルキンが挙げられ、このうちオレフィンとして、一置換オレフィン、二置換オレフィン、三置換オレフィンおよび四置換オレフィンが挙げられ、置換されていてもよい鎖状アルキンとしては、一置換アルキン及び二置換アルキンが挙げられる。また、溶液ならびにスラリー状態で反応が可能であれば、前記有機化合物の炭素数は、特に限定されない。
【0019】
一置換オレフィン、二置換オレフィン、三置換オレフィン及び四置換オレフィンにおけるオレフィンとしては、例えば炭素数3〜8の不飽和の環が挙げられ、より具体的には炭素数4〜6の不飽和の環が挙げられ、さらに具体的には炭素数6の不飽和の環が挙げられる。複素環などでは反応部位がある部分環を示す。また、一置換オレフィン、二置換オレフィン、三置換オレフィン及び四置換オレフィン、一置換アルキン及び二置換アルキンにおける置換基としては、例えば、炭素数1〜20の分岐していてもよいアルキル、炭素数1〜20の分岐していてもよいアルコキシ、炭素数1〜20の分岐していてもよいエーテル、F、Cl、Br、I等のハロゲン、シアノ基、及びニトロ基が挙げられる。前記置換基としてのアルキル、アルコキシ、及びエーテルにおける炭素数としては、より具体的には1〜10であり、さらに具体的には1〜7である。
【0020】
置換されていてもよい鎖状オレフィンとしては、例えばプロペン、2−メチルプロペン、ヘキサ−1−エン、4−メチルヘキサ−1−エン、2−エチル−4−メチルヘキサ−1−エン、2,3−ジメチル−2−ブテン、スチレン及びシクロヘキシルエテンが挙げられる。置換されていてもよい環状オレフィンとしては、例えばシクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン及びインデンが挙げられる。置換されてもよい鎖状アルキンとしては、1−オクチン、6−ドデシン、エチニルベンゼン、1−フェニル−1−ノニンが挙げられる。
【0021】
前記基質における二級アルコール及び三級アルコールは、前記液相を形成することができる化合物であれば特に限定されない。二級アルコールとしては、例えば2−プロパノール、2−ブタノール、2−オクタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、三級アルコールとしては、例えば2−メチル−2−プロパノールおよび1−メチルシクロヘキサノールが挙げられる。
【0022】
前記基質におけるアルデヒドは、前記液相を形成することができる化合物であれば特に限定されない。前記アルデヒドとしては、例えばベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド類、シクロヘキサンカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒド類、及び、飽和及び不飽和の直鎖又は分岐鎖脂肪族アルデヒド類が挙げられる。
【0023】
前記液相は、前記基質が液体として存在する相である。このような液相としては、例えば、液状の基質、基質の溶液、及び、液状の基質や基質の溶液の懸濁液、が挙げられる。液相が基質の溶液である場合の溶剤や懸濁液の分散媒には、公知の溶剤を用いることができる。溶剤は一種でも二種以上でもよい。このような溶剤としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、プロパノール、酢酸、酢酸エチル、水及びこれらの混合溶媒が挙げられる しか
し水素化分解反応の溶剤としては、2−プロパノール等の二級アルコールは好ましくない

【0024】
前記固体触媒は、液相の基質と水素ガスとの気液接触による水素還元反応や水素化分解反応に用いられる固体の触媒であれば特に限定されない。固体触媒は、高圧条件下での水素還元反応や水素化分解反応で通常使用される固体触媒を用いることができる。固体触媒は一種でも二種以上でもよい。このような水素還元反応用の固体触媒としては、例えばパラジウム炭素、ラーネーニッケル、及びロジウム触媒が挙げられる。また水素化分解反応用の固体触媒としては、例えばパラジウム炭素が挙げられる。
【0025】
固体触媒の形態は、液相の基質と水素ガスとの気液接触による水素還元反応や水素化分解反応に用いられる形態であれば特に限定されず、例えば液相中に分散される粒子の形態であってもよいし、液相が通る配管中に配置される粒子の充填層であってもよい。粒子の形態の固体触媒は、例えば触媒成分の粒子や粒子状の担体とそれに担持される触媒成分とによって構成される。
【0026】
マイクロバブルは、通常、(1)上昇速度が小さい、(2)摩擦低減効果がある、(3)単位体積あたりの表面積が大きい、(4)自己加圧効果を持つ、(5)急激に溶解および収縮する、(6)表面電位特性が顕在化する、(7)超音波照射により圧壊する、及び(8)生物に対する生理活性をもつ、等の特徴を有する気泡とされており、一般に直径が50μm以下の気泡とされている。本発明ではこのような通常のマイクロバブルを用いることができる。
【0027】
マイクロバブルは、通常行われる方法によって発生させることができる。このような方法としては、例えば、過飽和を利用する方法として、溶剤を収容した密閉容器で溶質ガスを加圧して十分量を溶解させ、次いで溶質ガスが加圧化で溶解した溶剤を解圧し、溶剤中に溶質ガスのマイクロバブルを発生させる方法が挙げられる。気液せん断法は、溶剤の渦流に溶質ガスを供給して溶剤中で溶質ガスをせん断して溶剤中に溶質ガスのマイクロバブルを発生させる方法である。本発明におけるマイクロバブルは、これらのいずれかの方法でマイクロバブルを発生させる装置を用いて発生させることができる。このようなマイクロバブル発生装置としては、例えばアスプ社製 MA−2型、及びAS−K3型が挙げられる。
【0028】
マイクロバブルの気泡の直径は、例えば、マイクロバブルが供給された液相を、実体顕微鏡を介して撮影し、得られた画像に映し出された適当数の気泡の直径をランダムに測定することによって求めることができる。ナノバブルの気泡の直径は、公知の測定装置を用いて測定することができ、このような測定装置としては、例えば、北斗電子工業社製パーティクルセンサPS100が挙げられる。また、マイクロバブルとナノバブルとの両方の気泡の直径を測定することができる測定装置としては、例えば、島津製作所社製島津ナノ粒子径分布測定装置SALD−7100が挙げられる。
【0029】
ナノバブルは、マイクロバブルと同様の特徴を有する気泡とされており、一般に直径が1μm以下の気泡とされている。本発明ではこのような通常のナノバブルを用いることができる。ナノバブルは、マイクロバブルと同様の方法で発生させることができ、またマイクロバブルの自己収縮によっても発生し、またマイクロバブルを圧壊させて生成する方法等によっても発生させることができる。
【0030】
本発明における固体触媒存在下における水素ガスと基質との気液接触反応の形式は、このような反応が進行する形式であれば特に限定されない。このような気液接触反応の形式としては、例えば、所定量の基質と固定触媒と水素ガスのマイクロバブルとを同一の反応容器に収容して気液接触させる形式や、所定量の液相と固定触媒とを収容する反応容器に
水素ガスのマイクロバブルを連続して供給する形式や、水素ガスのマイクロバブル又はナノバブルと液相との混合流体を固体触媒に接触させる形式が挙げられる。固体触媒は液相中に分散されていてもよいし、通液性を有する所定の容器に収容されていてもよいし、液相と水素ガスのマイクロバブルとの混合流体が流通する筒に固定されて収容されていてもよい。
【0031】
前記気液接触反応の反応温度は、この反応が進行する温度であれば特に限定されないが、液相に対する水素ガスの溶解性の観点から決めることができる。例えばコンピュータシミュレーションによれば、水素ガスのエタノールに対する溶解度は約30℃で最大となり、また水素ガスのトルエンに対する溶解度は約60℃で最大となることが分かっており、基質や溶剤に対する水素ガスの溶解性が高い前記のような温度を前記反応温度とすることができる。
【0032】
前記液相には、前記気液接触反応時に前記マイクロバブル又はナノバブルが含まれていれば、マイクロバブルよりも大きな水素ガスの気泡が含まれていてもよい。また、前記液相には、前記気液接触反応が進行すれば、泡安定剤等の添加物がさらに含まれていてもよい。
【0033】
本発明によれば、水素ガスと固体触媒とを用いた高圧条件下で行われていた特定の基質の水素還元反応や水素化分解反応を常圧で行うことができる。このような本発明で採用することができる穏和な反応条件によれば、高温高圧での使用に耐えられる特別な装置を使用する必要がない。このような設備やその運転のコストや作業性の軽減の観点から、反応圧力は1MPa未満であることが好ましく、0.7MPa未満であることがより好ましく、0.5MPa未満であることがさらに好ましく、反応温度は10〜100℃であることが好ましく、20〜80℃であることがより好ましく、30〜60℃であることがさらに好ましい。もちろん反応のさらなる促進等の観点から、1MPa以上の高圧条件下で行うことも可能である。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例を示す。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0035】
本実施例で使用した装置を図1に示す。
図1の装置は、四つ口フラスコ1、マイクロバブル発生装置2、撹拌機3、及びホットプレート4を有する。四つ口フラスコ1の中管には、撹拌機3と接続されている撹拌棒5とその先端に配置されている撹拌翼6が挿入され、その他の側管には、フラスコ1内の液相を排出する排液管7、フラスコ1内に液相を供給する供給管8、及び、余剰水素ガスリサイクル用排出管9が接続されている。四つ口フラスコ1の内部には、図2に示すように、通液性を有するカップ10が収容されており、カップ10の内部に撹拌棒5及び撹拌翼6が配置されている。排液管7の先端はカップ10の外側のフラスコ1内の液相に浸る位置に配置されており、供給管8の先端はカップ10の内側に液相を供給する位置に配置されている。排液管7の基端はマイクロバブル発生装置2に接続されている。
【0036】
一方で不図示の水素ガスボンベはトラップ11を介してトラップ12に接続されており、トラップ12は余剰水素ガスリサイクル用排出管9及びマイクロバブル発生装置2のそれぞれに接続されている。なおトラップ12とマイクロバブル発生装置2との間には、三方弁13を介して水素ガス用流量計14が接続されている。
【0037】
マイクロバブル発生装置2は、排液管7から供給される液相とトラップ12を介して供給される水素ガスとを気液せん断することによってマイクロバブルを発生する装置である。マイクロバブル発生装置2には、株式会社アスプのマイクロバブル発生装置MA3FS
を用いた。マイクロバブル発生装置2の吐出口は供給管8の基端と接続されており、マイクロバブルを含む液相は供給管8から四つ口フラスコ1のカップ10内に供給される。
【0038】
前記装置による反応は、カップ10の縁が沈まない量の液相を四つ口フラスコ1に収容し、カップ10内に触媒を収容し、水素ガスとカップ10を通過した液相のみを四つ口フラスコ1から排液管7を経てマイクロバブル発生装置2に連続して供給する。また水素ガスを、トラップ12を経てマイクロバブル発生装置2に連続して供給し、さらにマイクロバブルを含む液相をマイクロバブル発生装置2から供給管8を経て四つ口フラスコ1のカップ10内に連続して供給して行う。四つ口フラスコ1内の液相は、必要に応じてホットプレート4を用いて直接水浴又は油浴を介して加熱することによって、特定の温度に調整される。この反応は常圧で行われる。
【0039】
後述の実施例における基質の反応率は、ガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーのクロマトグラムにおけるピーク面積から、目的物の生成率として求めた。
【0040】
[実施例1]
図1の装置を用いて、下記式に示すスチレンの水素還元反応を行った。液相には20mmmolのスチレンと40mLのメタノールとのスチレン−メタノール溶液を用い、触媒には10%パラジウム/カーボンをスチレンに対して0.1重量%用い、水素ガスの流量を水素ガス用流量計14において0.5mL/分とし、撹拌速度を20rpmとし、液相の循環流量を10L/時間とし、液相の温度を30℃とし、1時間反応を行った。ガスクロマトグラフィーにより、液相中のスチレンの消失を確認し、反応の終点とした。スチレンの反応率は100%であった。
【0041】
【化1】

【0042】
マイクロバブル発生装置2から吐出される液相とマイクロバブルとの混合流体は常圧であるが、マイクロバブル発生装置2の吐出口直前では、液相中での水素ガスのせん断に伴い0.4〜0.6MPaの圧力が液相にかかる。しかしながら本実施例では、図1の装置を用いていることから、固体触媒がマイクロバブル発生装置2内に吸い込まれることがない。したがって、本実施例における前記の結果は常圧である四つ口フラスコ1内のみで気液接触反応が進行した結果である。このことから、水素ガスを基質にマイクロバブルとして供給することによって、従来では高圧条件下で行われていた前記式の水素還元反応を常圧で行うことができることが明らかになった。
【0043】
[実施例2]
下記式に示すように、基質をインデンに代え、反応時間を2時間とし、図1の装置から10カップを外した以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。インデンの反応率は100%であった。
【0044】
【化2】

【0045】
[実施例3]
下記式に示すように、基質を3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1−アールに
代え、反応時間を3時間とし、図1の装置から10カップを外した以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエン−1−アールの反応率は100%であった。
【0046】
【化3】

【0047】
[実施例4]
下記式に示すように、基質を1−メチル−4−(プロパン−2−イリデン)シクロヘキ−1−エンに代え、反応時間を6時間とし、図1の装置から10カップを外した以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。1−メチル−4−(プロパン−2−イリデン)シクロヘキ−1−エンの反応率は1−メチル−4−(プロパン−2−イリデン)シクロヘキサン53%、1−イソプロピル−4−メチルシクロヘキサン47%であった。
【0048】
【化4】

【0049】
[実施例5]
下記式に示すように、基質をフェニルアセチレンに代え、反応時間を7時間とし、図1の装置から10カップを外した以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。フェニルアセチレンの反応率は100%であった。
【0050】
【化5】

【0051】
[実施例6]
下記式に示すように、基質を下記式(4)の化合物に代え、また反応夜溶媒をトルエン100mLとメタノール100mLとの混合溶媒に代え、反応温度を60℃、反応時間を15時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。(4)の化合物の反応率は99.0%であった。
【0052】
【化6】

【0053】
[実施例7]
下記式に示すように、基質を下記式(5)の化合物代え、反応温度を60℃、反応時間を7時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。式(5)の化合物の反応率は99.9%であった。
【0054】
【化7】

【0055】
[実施例8]
下記式に示すように、基質を下記式(6)の化合物に代え、反応温度を60℃、反応時間を10時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。式(6)の化合物の反応率は60.0%であった。
【0056】
【化8】

【0057】
[実施例9]
下記式に示すように、基質を下記式(7)の化合物に代え、反応温度を60℃、反応時間を10時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。式(7)の化合物の反応率は90.0%であった。
【化9】

【0058】
[実施例10]
下記式に示すように、基質を2−エチル−2−ブテン−1−アールに代え、無溶媒とし、反応温度を60℃、反応時間を5時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。2−エチル−2−ブテン−1−アールの反応率は50%であった。
【0059】
【化10】

【0060】
[実施例11]
下記式に示すように、基質を2−エチルブタナールに代え、触媒をラネーニッケルに代え、無溶媒とし、反応温度を60℃、反応時間を5時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素還元反応を行った。2−エチルブタナールの反応率は50%であった。
【0061】
【化11】

【0062】
[実施例12]
下記式に示すように、基質を下記式(10)の化合物に代え、溶媒を100mLのトルエンと100mLのメタノールとの混合溶媒に代え、反応温度を80℃、反応時間を7時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素化分解反応を行った。式(10)の化合物の反応率は40%であった。
【0063】
【化12】

【0064】
[実施例13]
下記式に示すように、基質を下記式(11)の化合物に代え、反応温度を80℃、反応時間を7時間とした以外は実施例1と同様の条件で水素化分解反応を行った。下記式(11)の化合物の反応率は40%であった。
【0065】
【化13】

【0066】
[比較例1]
図1の装置から、カップ10を外し、排液管7及び余剰水素ガスリサイクル用排出管9を外してこれらが挿入されていた側管を密閉し、供給管8の基端を水素ガスが充填されたバルーン(1L)と接続する以外は実施例1と同様に水素還元反応を行った。スチレンの反応率は30%であった。
【0067】
[比較例2]
図1の装置から、カップ10を外し、排液管7及び余剰水素ガスリサイクル用排出管9を外してこれらが挿入されていた側管を密閉し、供給管8の基端を水素ガスが充填されたバルーン(1L)と接続する以外は実施例11と同様に水素還元反応を行った。式(11)の化合物の反応率は0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
水素還元反応や水素化分解反応は、周知の通り、種々の化合物の工業的な製造において
有用性の高い反応である。本発明によれば、このような反応を常圧で行うことができる。したがって、本発明によれば、水素還元反応や水素化分解反応を利用する工業生産を、高圧ガス保安法が適用されない通常の設備で行い、製造設備の費用の大幅な軽減を可能とすることが期待される。
【符号の説明】
【0069】
1 四つ口フラスコ
2 マイクロバブル発生装置
3 撹拌機
4 ホットプレート
5 撹拌棒
6 撹拌翼
7 排液管
8 供給管
9 余剰水素ガスリサイクル用排出管
10 カップ
11、12 トラップ
13 三方弁
14 水素ガス用流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質を含有する液相と水素ガスの気泡とを固体触媒の存在下で接触させて、固体触媒の存在下での基質と水素との気液接触によって生成する反応生成物を製造する方法において、
前記基質が、不飽和炭素結合を有する有機化合物、二級アルコール、三級アルコール、及びアルデヒドのいずれか一つであり、
液相に導入される水素ガスの気泡が水素ガスのマイクロバブル又はナノバブルであることを特徴とする、基質と水素との反応生成物を製造する方法。
【請求項2】
前記基質が不飽和炭素結合を有する有機化合物であり、前記固体触媒が前記有機化合物の水素還元反応用の触媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、置換されていてもよい鎖状オレフィン及び置換されていてもよい環状オレフィンのいずれか一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、一置換オレフィン、二置換オレフィン、三置換オレフィン及び四置換オレフィンのいずれか一つであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、置換されていてもよい鎖状アルキンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記不飽和炭素結合を有する有機化合物が、一置換アルキン及び二置換アルキンのいずれか一つであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記基質が二級アルコール又は三級アルコールであり、前記固体触媒がこれらのアルコールの水素化分解反応用の触媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基質がアルデヒドであり、前記固体触媒がアルデヒドの水素還元反応用の触媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−23460(P2013−23460A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158551(P2011−158551)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】