説明

基質のトリフラート化物の製造方法

【課題】特定の基質に一段階でトリフラート基を導入する方法を提供する。
【解決手段】特定の基質をN,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン及びトリフルオロメタンスルホン酸と混合して反応させることによって、基質の[(トリフルオロメチル)スルホニル]オキシ化(トリフラート化)物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の基質のトリフラート化物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成では、所望の置換基を導入するために、所望の置換基へ置き換わる、又は変化するような反応性を有する置換基を有する化合物が有用である。このような反応性を有する置換基としては、例えばヨウ素等のハロゲンや[(トリフルオロメチル)スルホニル]オキシ基(以下、「トリフラート基」とも言う)が挙げられる。
【0003】
このような反応性置換基を導入する方法としては、例えば、不斉合成における不斉配位子として知られている2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル(BINAP)を、トリフルオロメタンスルホン酸(以下、「TfOH」とも言う)の存在下でBINAPとN,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン(以下、「DIH」とも言う)とを用いることによって、ビナフチルの5,5’位へヨウ素が導入されたジヨードBINAPを効率よく得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
このような反応性置換基を有する化合物の簡易な入手法は、種々の新規な、又はより優れた機能性有機化合物の開発の促進の観点から期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】嶋田 豊司他5名、「5−モノヨードBINAPの簡易合成とその誘導化」、日本化学会第88春季年会、4PB−086(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特定の基質に一段階でトリフラート基を導入する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々の基質に対してDIHとTfOHとを反応させたところ、生成物がヨード基のみならず[(トリフルオロメチル)スルホニル]オキシ基も有していることがあることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、炭素数10以上の芳香族炭化水素、芳香族環の炭素数が6以上の芳香族炭化水素の誘導体(ただしホルミルアリール及びジホルミルジアリールを除く)、及び、炭素数6以上の脂肪族炭化水素、からなる群から選ばれるいずれかの基質を、DIH及びTfOHと混合して反応させる工程を含む、基質のトリフラート化物を製造する方法を提供する。
【0009】
また本発明は、前記芳香族炭化水素が、ナフタレン、アントラセン、ピレン、又はペリレンであり、前記芳香族炭化水素の誘導体が、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセトナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、又はビナフチルビスヒドロキシメチルであり、前記脂肪族炭化水素が、ヘキサンである前記の方法を提供する。
【0010】
また本発明は、前記基質が、ナフタレン、ピレン、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセトナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、ビナフチルビスヒドロキシメチル、又はヘキサンである前記の方法を提供する。
【0011】
また本発明は、前記基質1モル当量に対して、DIHの使用量が3.0〜4.0モル当量であり、TfOHの使用量が6.0〜8.0モル当量である前記の方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記基質をDIH及びTfOHと35〜45℃で混合し、20〜30℃で反応させる前記の方法を提供する。
【0013】
また本発明は、DIH及びTfOHを混合し、得られた混合液に前記基質をさらに混合する前記の方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、DIHとTfOHとの両方が存在する状態で特定の基質を反応させることから、特定の基質に一段階でトリフラート基を導入することができる。
【0015】
また、基質をさらに特定することによって、トリフラート基とヨード基との両方を特定の基質に一段階で導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の、基質のトリフラート化物を製造する方法は、炭素数10以上の芳香族炭化水素、芳香族環の炭素数6が以上の芳香族炭化水素の誘導体(ただしホルミルアリール及びジホルミルジアリールを除く)、及び、炭素数6以上の脂肪族炭化水素、からなる群から選ばれるいずれかの基質を、DIH及びTfOHと混合して反応させる工程を含む。
【0017】
前記芳香族炭化水素は、一以上の芳香族環からなる炭化水素である。芳香族炭化水素の炭素数は、10以上であればよいが、反応における取り扱いの容易さの観点から、10〜78であることが好ましく、10〜20であることがより好ましい。このような芳香族炭化水素としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン、及びペリレンが挙げられる。
【0018】
前記芳香族炭化水素の誘導体は、任意の置換基を有する前記芳香族炭化水素である。ただしホルミルアリール及びジホルミルジアリールは除かれる。前記芳香族炭化水素の誘導体における芳香族環の炭素数は総数で6以上であればよいが、反応における取り扱いの容易さの観点から、6〜78であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。なお「ホルミルアリール」とは、ホルミル基を一つ有するアレーン(芳香族炭化水素)であり、「ジホルミルジアリール」とは、二つの芳香族環が1、1’位で互いに単結合によって結合している芳香族炭化水素の2、2’位にホルミル基が結合してなる化合物である。
【0019】
置換基は、芳香族環に導入される置換基から選ぶことができ、一種でも二種以上でもよいし、また置換基の数も一つでもよいし二つ以上でもよい。ただしホルミル基の置換数は、一芳香族環につき二以上である。このような置換基としては、例えば、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、ホルミル基、アセチル基、炭素数1〜18のヒドロキシアルキル基、アルコキシの炭素数が1〜18のアルコキシカルボキシ基、ニトロ基、炭素数1〜18のアルキルアミノ基、及び炭素数1〜36のジアルキルアミノ基、が挙げられる。また、前記芳香族炭化水素の誘導体としては
、例えば、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセトナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、及びビナフチルビスヒドロキシメチルが挙げられる。
【0020】
前記脂肪族炭化水素は、鎖状の炭化水素である。脂肪族炭化水素の炭素数は、6以上であればよいが、反応における取り扱いの容易さの観点から、6〜60であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。このような脂肪族炭化水素としては、例えばヘキサンが挙げられる。
【0021】
前記反応工程において、DIHの使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記基質1モル当量に対して2.0〜5.0モル当量であることが好ましく、3.0〜4.0モル当量であることがより好ましい。DIHは、例えば国際公開第2007/026766号パンフレットに記載されているように、水溶液中、塩基の存在下で5,5−ジメチルヒダントインに一塩化ヨウ素を反応させることによって得ることができる。
【0022】
前記反応工程において、TfOHの使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、前記基質1モル当量に対して4.0〜10.0モル当量であることが好ましく、6.0〜8.0モル当量であることがより好ましい。またTfOHの使用量は、収率及び効果の頭打ちの観点から、DIHに対してモル比で1.5〜2.5であることが好ましく、2.0であることがより好ましい。TfOHは、市販品として入手することができる。
【0023】
前記反応工程は、溶媒中で行うことができる。溶媒は一種でも二種以上でもよい。このような溶媒としては、前記の反応に対して不活性な溶媒を用いることができ、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、及び四塩化炭素等のハロゲン系溶媒や、THF、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、及びメチルターシャリーブチルエーテル(MTBE) 等のエーテル系溶媒が挙げられる。溶媒は、反応条件に応じて選ぶことができ、例えば、反応温度の制御の簡素化の観点から、所望の反応温度と同程度の沸点を有する溶媒を用いることができる。
【0024】
前記反応工程における反応温度は、0〜80℃から選ぶことができる。前記反応温度は、DIHの分解を防止する観点、及び副生成物の生成を抑制する観点から、0〜50℃であることが好ましく、20〜40℃であることがより好ましく、20〜35℃であることがさらに好ましい。
【0025】
また前記反応工程における温度は一定でもよいし、変えてもよい。例えば、反応の進行状況に応じて温度を変えてもよいし、前記の基質、DIH及びTfOHの混合における温度と反応温度とを変えてもよい。反応工程において、前記基質をDIH及びTfOHと35〜45℃で混合し、20〜30℃で反応させることは、DIHの溶媒への溶解性を向上させ、また反応を緩やかに進行させて副反応を抑制する観点から好ましい。
【0026】
また前記反応工程は、TfOHの劣化を予防する観点から、乾燥窒素雰囲気で行うことが好ましい。
【0027】
前記反応工程において、基質、DIH及びTfOHの混合は、同時でもよいし逐次でもよい。例えば反応工程において、DIH及びTfOHを混合し、得られた混合液に前記基質をさらに混合することは、DIHとTfOHとの均一な溶液を得る観点から好ましい。
【0028】
また、前記反応工程において、前記基質に、ナフタレン、ピレン、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセト
ナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、ビナフチルビスヒドロキシメチル、又はヘキサンを用いる場合では、トリフラート基とヨード基との両方が基質に導入された生成物を一段階で得ることができる。
【0029】
前記反応工程における生成物は、1H NMR、13C NMR、IR、MS等の通常の分析装置によって確認することができる。前記生成物は、さらなる合成の原料として利用する場合には、単離して原料として用いてもよいし、そのまま原料として用いてもよい。
【0030】
このようなさらなる合成としては、(1)前記生成物のトリフラート基を、直接又は二以上の工程を経て、例えばトリメチルシリル基、フェニル基、ナフチル基、ジフェニルホスホニル基、及びフッ素基等の他の基に置き換える方法、(2)トリフラート基の加水分解、(3)前記生成物の水素を、例えばトリメチルシリル基、フェニル基、ナフチル基、ジフェニルホスホニル基等の他の基に置き換える方法、及び、(4)前記生成物の[(トリフルオロメチル)スルホニル]オキシ基を、例えばビニル、アリル、エチニル、プロパルジル、アクリロイル、スチリル、アルコキシシリル、アリルシリル等の重合性の置換基に置き換え、これを含むモノマーを重合させて多量体を形成する方法、等の種々の方法が挙げられる。
【0031】
前記生成物は、光学異性体であれば例えば不斉識別剤としての利用が期待され、また種々の機能性化合物の原料としての利用が期待される。
【実施例】
【0032】
以下の実施例において、大気中の水分に対して不安定な化合物は全て窒素雰囲気下で扱った。窒素ガスは五酸化リン、シリカゲル、4Åモレキュラーシーブスを詰めた乾燥塔を通すことにより微量の水分を除去した。使用する有機溶剤には蒸留品を用いた。生成物中のトリフラートは、粗生成物の19F NMRにおける−60〜−80ppmのピークの存在によって確認した。また、生成物中のヨウ素は、粗生成物の13C NMRにおける80〜110ppmのピーク(sp2C−Iの炭素原子に相当する)の存在によって確認した。19F−NMR、13C−NMRは、JEOLのJNM LA400スペクトルメーターを用いて計測した。化学シフトδは、重クロロホルムに含まれる基準物質テトラメチルシランを基準に、ppm単位で表記した。
【0033】
[実施例1]
窒素雰囲気下でN,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン(DIH、779mg、2.05mmol)にdist.CH2Cl2(7.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。トリフルオロメタンスルホン酸(TfOH、362μL、4.09mmol)を前記懸濁液に滴下した後、ナフタレン(74.8mg、584μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗赤褐色固体の粗生成物(277mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。19F NMR(CDCl3)δ −70.7,−71.4,−72.2,−72.4,−72.5,−72.8,−72.9ppm
13C NMR(CDCl3)δ 98.4ppm
【0034】
[実施例2]
窒素雰囲気下でDIH(746mg、1.96mmol)にdist.CH2Cl2(7.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(348μL、3
.93mmol)を前記懸濁液に滴下した後、アントラセン(99.8mg、556μmol)をdist.CH2Cl2(2.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、茶褐色固体の粗生成物(290mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。19F NMR(CDCl3)δ −72.0,−72.3ppm
13C NMR(CDCl3)δ なし
【0035】
[実施例3]
窒素雰囲気下でDIH(657mg、1.73mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(306μL、3.46mmol)を前記懸濁液に滴下した後、ピレン(100mg、494μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗赤褐色固体の粗生成物(305mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −72.4ppm
13C NMR(CDCl3)δ 100.4,98.7,98.4,91.0,90.5,84.4ppm
【0036】
[実施例4]
窒素雰囲気下でDIH(526mg、1.38mmol)にdist.CH2Cl2(5.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(246μL、2.78mmol)を前記懸濁液に滴下した後、ペリレン(99.8mg、396μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗褐色固体の粗生成物(137mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −72.5,−73.0,−73.4ppm
13C NMR(CDCl3)δ なし
【0037】
[実施例5]
窒素雰囲気下でDIH(850mg、2.24mmol)にdist.CH2Cl2(9.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(396μL、4.47mmol)を前記懸濁液に滴下した後、dist.ヘキサン(9.0mL、68.4mmol)を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗褐色固体の粗生成物(43.2mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −74.2,−74.3,−74.9ppm
13C NMR(CDCl3)δ 86.0ppm
【0038】
[実施例6]
窒素雰囲気下でDIH(659mg、1.73mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(306μL、3.46mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2−ジメトキシメチルナフタレン(102
mg、504μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、赤褐色固体の粗生成物(293mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −71.4,−73.0ppm
13C NMR(CDCl3)δ 105.4,101.5,100.1,99.7,99.2,99.1,98.7,96.2,89.0,88.9,84.1,80.5ppm
【0039】
[実施例7]
窒素雰囲気下でDIH(632mg、1.66mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(294μL、3.32mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2−メトキシナフタレン(73.6mg、465μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、黒色液体の粗生成物(171mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl)δ −72.2,−72.3,−72.6,−72.7,−74.5ppm
13C NMR(CDCl)δ 108.8,107.6ppm
【0040】
[実施例8]
窒素雰囲気下でDIH(694mg、1.83mmol)にdist.CH2Cl2(7.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(322μL、3.64mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2−ナフトール(77.5mg、538μmol)をdist.CH2Cl2(2.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗褐色固体の粗生成物(126mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −71.1,−72.4,−72.6,−73.0,−74.4ppm
13C NMR(CDCl3)δ 81.1ppm
【0041】
[実施例9]
窒素雰囲気下でDIH(578mg、1.52mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(270μL、3.05mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2−ナフトエ酸(74.0mg、430μmol)をdist.CH2Cl2(3.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、黄褐色固体の粗生成物(124mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −71.2,−72.1,−72.6,−74.4ppm
13C NMR(CDCl3)δ 102.4,101.5,99.1,84.6ppm
【0042】
[実施例10]
窒素雰囲気下でDIH(586mg、1.54mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(273μL、3.08mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2−アセトナフトン(76.7mg、449μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、褐色固体の粗生成物(273mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −71.2,−72.3,−72.6,−72.7,−74.2ppm
13C NMR(CDCl3)δ 102.5,102.3,101.1,100.9,99.7,99.22,99.18,99.1,84.6ppm
【0043】
[実施例11]
窒素雰囲気下でDIH(552mg、1.45mmol)にdist.CH2Cl2(6.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(258μL、2.92mmol)を前記懸濁液に滴下した後、アセトフェノン(48.4mg、403μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、薄赤褐色固体の粗生成物(154mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −73.3,−74.5ppm
13C NMR(CDCl3)δ 109.2,108.5,108.4,95.7,95.4,94.8,94.5,94.4.93.4,90.3,90.1ppm
【0044】
[実施例12]
窒素雰囲気下でDIH(496mg、1.31mmol)にdist.CH2Cl2(5.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(231μL、2.61mmol)を前記懸濁液に滴下した後、フタルアルデヒド(48.3mg、360μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、黄褐色固体の粗生成物(147mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −73.2,−74.4ppm
13C NMR(CDCl3)δ 109.1,109.02,108.96,98.9,86.1,83.0,82.1ppm
【0045】
[実施例13]
窒素雰囲気下でDIH(543mg、1.43mmol)にdist.CH2Cl2(5.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(252μL、2.85mmol)を前記懸濁液に滴下した後、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド(75.0mg、407μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液
を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、赤黄色固体の粗生成物(136mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −70.6,−72.5ppm
13C NMR(CDCl3)δ 98.5,83.0ppm
【0046】
[実施例14]
窒素雰囲気下でDIH(360mg、948μmol)にdist.CH2Cl2(4.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(167μL、1.89mmol)を前記懸濁液に滴下した後、ビナフチルビスメトキシカルボニル(99.9mg、270μmol)をdist.CH2Cl2(1.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、黄褐色固体の粗生成(215mg)物を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −71.5,−72.2,−72.3,−72.95,−73.04ppm
13C NMR(CDCl3)δ 95.8,95.7,95.5ppm
【0047】
[実施例15]
窒素雰囲気下でDIH(421mg、1.11mmol)にdist.CH2Cl2(4.0mL)を加えた懸濁液をオイルバスで40℃に加温した。TfOH(197μL、2.23mmol)を前記懸濁液に滴下した後、ビナフチルビスヒドロキシメチル(102mg、326μmol)をdist.CH2Cl2(2.0mL)に溶解させた溶液を前記懸濁液に同様に滴下した。反応容器をオイルバスから引き揚げて室温で30分間撹拌させた。反応終了後、反応液に亜硫酸ナトリウム水溶液を加えてクエンチを行った。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後、濾過、濃縮し、暗褐色固体の粗生成物(191mg)を得た。得られた粗生成物の19F NMRと13C NMRの測定結果を以下に示す。
19F NMR(CDCl3)δ −73.0,−74.3ppm
13C NMR(CDCl3)δ 101.0,100.9,100.5,100.0ppm
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明では、トリフラート基やヨード基等の反応性の高い置換基を一段階で基質に導入することができることから、機能性有機化合物のさらなる開発や改良に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数10以上の芳香族炭化水素、芳香族環の炭素数が6以上の芳香族炭化水素の誘導体(ただしホルミルアリール及びジホルミルジアリールを除く)、及び、炭素数が6以上の脂肪族炭化水素、からなる群から選ばれるいずれかの基質を、N,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン及びトリフルオロメタンスルホン酸と混合して反応させる工程を含む、基質のトリフラート化物を製造する方法。
【請求項2】
前記芳香族炭化水素が、ナフタレン、アントラセン、ピレン、又はペリレンであり、
前記芳香族炭化水素の誘導体が、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセトナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、又はビナフチルビスヒドロキシメチルであり、
前記脂肪族炭化水素が、ヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基質が、ナフタレン、ピレン、2−ジメトキシメチルナフタレン、2−メトキシナフタレン、2−ナフトール、2−ナフトエ酸、2−アセトナフトン、アセトフェノン、フタルアルデヒド、2,3−ナフタレンジカルバルデヒド、ビナフチルビスメトキシカルボニル、ビナフチルビスヒドロキシメチル、又はヘキサンであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基質1モル当量に対して、N,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントインの使用量が3.0〜4.0モル当量であり、トリフルオロメタンスルホン酸の使用量が6.0〜8.0モル当量であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基質をN,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン及びトリフルオロメタンスルホン酸と35〜45℃で混合し、20〜30℃で反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
N,N’−ジヨード−5,5−ジメチルヒダントイン及びトリフルオロメタンスルホン酸を混合し、得られた混合液に前記基質をさらに混合することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。

【公開番号】特開2012−188376(P2012−188376A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52293(P2011−52293)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【出願人】(503446121)
【Fターム(参考)】