説明

堆肥の腐熟度判定方法

【課題】 特殊な機器を用いることなく、易分解性窒素化合物の含有量が少ない堆肥の腐熟度をより精度良く判定することができる堆肥の腐熟度判定方法を提供する。
【解決手段】 まず、堆肥中のアンモニウムを測定し、アンモニウムが検出されるときには未熟な堆肥であると判定する。また、アンモニウムが殆ど検出されなくなった状態の堆肥に対してアンモニウム化合物あるいは尿素などの窒素化合物を加え、この堆肥中の窒素分解微生物により分解、あるいは生成及び分解されるアンモニウムの堆肥中における濃度を経時的に測定する。そして、アンモニウムイオン濃度の経時的な変化態様から堆肥の腐熟度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥の腐熟度判定方法に関する。なお、この堆肥とは、樹皮、おが屑、剪定枝等の木質廃棄物、稲藁、芝生等の草本廃棄物、牛糞、豚糞、鶏等の家畜糞、大豆搾り滓等の食品加工廃棄物、及び家庭、食堂等の生ゴミから生成された肥料を含む。
【背景技術】
【0002】
この種の腐熟度判定方法としては、例えば特許文献1に記載されている方法がある。すなわち、試料堆肥の近赤外線吸収スペクトルを測定し、近赤外線吸収スペクトルにおける吸光度が小さいほど又は反射が大きいほどその腐熟度が高いと判定する。
【0003】
また、特許文献2に記載されている方法では、試料堆肥を水分含有量60〜75%に水分調節し、これを密封容器内において所定の培養温度で培養する。そして、この密封容器内の酸素濃度を測定し、その測定結果、密封容器の容積等から微生物のBOD(生化学的酸素要求量)を求める。この酸素要求量から、堆肥の腐熟度を判定する。
【特許文献1】特開2000−109386号公報
【特許文献2】特開2003−207502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載されたものは、試料堆肥の近赤外線吸収スペクトルを測定するための特殊な機器が必要であるので、堆肥の腐熟度を簡便に測定することができない。
【0005】
また、上記特許文献2に記載されたものは、微生物の酸素要求量を測定するものであるため、堆肥の腐熟度を精度良く判定するためには、試料堆肥中の微生物の活性が高い必要がある。このため、微生物によって分解される易分解性窒素化合物の量が多く微生物の活性が高い牛糞堆肥等についてはその腐熟度を精度良く判定することができるが、易分解性窒素化合物の量が少なく微生物の活性が低いバーク堆肥等についてはその判定精度が落ちる問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、特殊な機器を用いることなく、易分解性窒素化合物の含有量が少ない堆肥の腐熟度をより精度良く判定することができる堆肥の腐熟度判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、堆肥中に含まれる窒素化合物が同堆肥中に存在する窒素分解微生物によって分解される過程におけるアンモニウムイオンの濃度に基づいて堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、アンモニウムイオンが検出されない状態の堆肥に対して窒素化合物を加え、この堆肥中の窒素分解微生物により窒素化合物が分解される過程におけるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な変化態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記窒素化合物は、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質であって、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質が分解される過程で生成及び分解されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な増減態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、
前記窒素化合物はアンモニウム化合物であって、アンモニウム化合物が分解される過程で分解されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な減少態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、まず、堆肥中にアンモニウムイオンが検出されるか否かに基づいて、その堆肥が未熟段階であるかあるいは未熟段階を終了して以降の腐熟段階にあるかを判定する。次に、腐熟段階であると判定した堆肥に対して窒素化合物を加え、この窒素化合物が堆肥中の窒素分解微生物によって分解される過程で分解、あるいは生成及び分解されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定する。そして、このアンモニウム濃度の経時的な変化態様から堆肥の腐熟度を判定する。なお、堆肥中のアンモニウムイオン濃度は、周知の簡便な機器を用いて精度良く測定することができる。このため、近赤外線吸収スペクトルを測定するような特殊な機器を用いることなく、バーク堆肥、おが屑、剪定枝、稲藁、芝生等の易分解性窒素化合物の含有量が比較的少なく、その易分解性窒素化合物を分解する微生物の活性が低い堆肥について、アンモニウムイオン濃度の変化態様を測定することでその腐熟度を精度良く判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を具体化した一実施形態について図1〜図3を用いて説明する。
堆肥は、微生物の代謝によって有機物が分解されることにより得られる代謝産物と微生物とを含有する混合物である。有機物には、尿素、アミノ酸、ペプチド、蛋白質等の窒素化合物が存在する。例えば、バーク堆肥には、バーク(樹皮)の細胞に含まれる細胞質内の窒素化合物が含まれている。また、家畜糞堆肥には、未消化の蛋白質が含まれている。また、堆肥には、上記窒素化合物をアンモニウムに分解し、さらに、このアンモニウムを水及びアミン系に分解する窒素分解微生物が存在する。この窒素分解微生物は例えばバクテリアである。そして、堆肥の腐熟(発酵)過程において、窒素分解微生物による窒素化合物の分解が進行し、その分解過程でアンモニウムが生成され、さらにアミン系が生成される。
【0013】
窒素分解微生物による窒素化合物の分解過程が進行し、堆肥中の窒素化合物の量が少なくなるにつれ、窒素分解微生物の代謝量が徐々に減少する。すなわち、窒素分解微生物の活性が低下していく。そして、堆肥中の窒素化合物が殆ど分解されると、窒素分解微生物は殆ど代謝を行わない休眠状態となる。すなわち、窒素分解微生物の活性が非常に低くなる。なお、窒素分解微生物の休眠状態は、堆肥中に外部から窒素化合物が加えられると窒素分解微生物が再び活性化する状態である。
【0014】
堆肥中に窒素化合物が残存し、窒素分解微生物が休眠状態となっていない状態の堆肥は、いわゆる未熟な堆肥である。すなわち、窒素化合物が殆ど残存せず、窒素分解微生物が休眠状態となった状態の堆肥は、堆肥の腐熟過程における未熟段階が終了し、一応腐熟した状態となる。そして、堆肥の腐熟は、未熟段階終了後、糸状菌(麹かび、蜘蛛の巣かび等)による糖類の分解反応を主反応とする腐熟段階となり、この腐熟段階終了後、担子菌類による難分解性化合物(ペクチン、ヘミセルロース等)の分解反応を主反応とする腐熟段階となる。
【0015】
本実施形態における堆肥の腐熟度判定方法の1つは、堆肥が前記未熟段階であるか、それとも、この未熟段階を終了して以降の腐熟段階であるかを判定するものである。また、もう1つは、未熟段階を終了して以降における堆肥の腐熟段階における腐熟度を判定するものである。
【0016】
まず、堆肥が未熟段階又は腐熟段階であるかを判定する堆肥の腐熟度判定方法について説明する。
この堆肥の腐熟度判定方法は、堆肥中にアンモニウムイオンが検出されるときにはその堆肥は未熟段階の堆肥であると判定し、堆肥中にアンモニウムイオンが検出されないときにはその堆肥は未熟段階を終了した堆肥であると判定するものである。すなわち、堆肥中にアンモニウムイオンが検出されるときは、腐熟開始時の堆肥中に含まれていた窒素化合物の一部が、同堆肥中に存在する窒素分解微生物によって未だ分解されずに残っている状態である。一方、堆肥中にアンモニウムイオンが検出されないときは、堆肥中に含まれていた窒素化合物が窒素分解微生物によって分解された状態である。
【0017】
次に、未熟段階を終了して以降の堆肥の腐熟度を判定する堆肥の腐熟度判定方法について説明する。この堆肥の腐熟度判定方法は、次のような3段階の処理手順からなる。なお、堆肥の腐熟は、数ヶ月単位で進行する。これに対し、本実施形態は、堆肥の腐熟度の判定に例えば最大3日を要するが、堆肥の腐熟度を判定するために十分に短い期間である。
【0018】
(処理1)
先ず、上記腐熟度判定方法により、腐熟段階であると判定された堆肥、すなわち、アンモニウムイオンが検出されない状態の堆肥に対して窒素化合物を加える。すなわち、腐熟度を測定しようとする堆肥中の窒素分解微生物による窒素化合物の分解過程が終了し、同窒素分解微生物が休眠状態となった試料堆肥に対して窒素化合物を加える。そして、この窒素化合物を、堆肥中の窒素分解微生物によって分解させることにより、この窒素分解微生物を休眠状態から再活性化させる。このとき、窒素化合物が、尿素、アミノ基、ペプチド又は蛋白質であれば、窒素化合物は、先ず、アンモニウムイオンに分解され、さらに、このアンモニウムイオンが水及びアミン系に分解される。また、窒素化合物が、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム等のアンモニウム化合物であれば、そのアンモニウムイオンが分解される。
【0019】
(処理2)
次に、堆肥中の窒素分解微生物により窒素化合物が分解されていく過程で生成されるアンモニウムイオンの堆肥中における濃度を経時的に測定する。すなわち、再活性化していく窒素分解微生物によって窒素化合物が分解されることで変化する堆肥中のアンモニウムイオン濃度を経時的に測定する。このとき、窒素化合物が、尿素、アミノ基、ペプチドあるいは蛋白質であれば、試料液中のアンモニウムイオン濃度は、ほぼ「0」から徐々に上昇した後、徐々に減少する。また、窒素化合物がアンモニウム化合物であれば、アンモニウムイオン濃度は、所定の濃度から徐々に減少する。
【0020】
すなわち、休眠状態から再活性化されていく窒素分解微生物は、その活性度が高まるにつれて、窒素化合物やアンモニウムを分解する速度(代謝量)を増大させる。従って、試料液中におけるアンモニウムイオン濃度の変化態様から、窒素分解微生物の活性度を把握することができる。なお、試料液中のアンモニウムイオン濃度の測定には、アンモニウムイオン電極、アンモニウム試験紙、クロマトグラフ等の周知の手段を用いることができる。
【0021】
(処理3)
次に、アンモニウムイオン濃度の経時的な変化態様から、窒素化合物を加える前の堆肥の腐熟度を判定する。本発明者は、休眠状態から再活性化されていくときの窒素分解微生物における代謝量の増加率は、その休眠期間が長いほど小さくなることを見いだした。すなわち、休眠期間が長いほど、窒素分解微生物の活性度が低くなっており、再活性時の活性化速度がより低くなる。従って、試料液中におけるアンモニウムイオン濃度の変化態様から、試料堆肥における窒素分解微生物の休眠期間の長さを把握することができる。
【0022】
また、堆肥の腐熟は、未熟段階が終了し、窒素分解微生物が休眠状態となって以降も進行する。すなわち、窒素分解微生物の休眠期間の長さ(活性度)は、未熟段階が終了して以降の堆肥における腐熟の進行程度に対応している。従って、堆肥中の窒素分解微生物の休眠期間が長いほど、すなわち、活性が低いほど、堆肥の腐熟度が高いと判定できる。
【0023】
堆肥に加えた窒素化合物がアンモニウム化合物であったときには、堆肥中のアンモニウムイオン濃度は、先ず、堆肥に加えたアンモニウム化合物の質量に対応する値となる。そして、時間の経過とともにアンモニウムが窒素分解微生物によって水及びアミン系に分解され、アンモニウムイオン濃度が徐々に低下する。このアンモニウムイオン濃度の減少度がより大きい堆肥は、窒素分解微生物の休眠期間がより短い、すなわち、窒素分解微生物の活性がより高いと判定できる。従って、堆肥にアンモニウム化合物を加えた場合には、アンモニウムイオン濃度の経時的な減少態様から、堆肥の腐熟度を判定することができる。
【0024】
また、堆肥に加えた窒素化合物が尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質であったときには、堆肥中のアンモニウムイオン濃度は、まず「0」となる。そして、時間の経過とともに尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質がアンモニウムイオンに分解される。また、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質がアンモニウムイオンに分解されるとともにアンモニウムイオンが水及びアミン系に分解される。このため、堆肥中のアンモニウムイオン濃度は、ほぼ「0」から一旦上昇した後に、減少していく。このとき、アンモニウムイオン濃度の増加率がより小さく、アンモニウムイオン濃度の最高値がより小さい堆肥は、窒素分解微生物の休眠期間がより短い、すなわち、活性がより高いと判定できる。従って、堆肥に尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質を加えた場合には、アンモニウムイオン濃度の経時的な増減態様から、堆肥の腐熟度を判定することができる。
【0025】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
a). 試料堆肥として、腐熟が殆ど進んでおらず未熟段階であることが明らかなバーク堆肥を用いる。
【0027】
b). 30gのバーク堆肥に蒸留水100mgを加えて試料液とする。
c). b).で得た試料液を、それぞれ0,12,24,48,72時間攪拌する。
d). c).が終了した試料液に、4Nの塩化カリウム溶液を加え、さらに1時間攪拌する。この塩化カリウム溶液は、堆肥中の固形物と結合したアンモニウムイオンをカリウムイオンで置換し、アンモニウムを再イオン化させるために用いられる。そして、試料堆肥中のアンモニウムを全てイオン化させ、アンモニウムイオン濃度が正確に検出できるようにする。これに対し、窒素分解微生物は、結合の有無に関係なくアンモニウムイオンを分解する。
【0028】
e). 攪拌した試料液を濾過し、その濾過液をしばらく静置して上清を50ml採取する。
f). 採取した上清液に4%水酸化ナトリウム溶液を5ml加えた後、その上清液中のアンモニウムイオン濃度を測定する。この水酸化ナトリウム溶液は、試料液のpHを上げることでアンモニウムイオンが気体にならないようにするために用いられる。
【0029】
この実施例1におけるアンモニウムイオン濃度の測定結果を、図1のグラフに示す。
前述したように未熟段階にある未熟堆肥には、窒素分解微生物により分解される前の窒素化合物が存在している。このため、測定開始時点からほぼ所定値のアンモニウムイオン濃度が検出される。このアンモニウムイオン濃度は、バーク堆肥の腐熟が進行するにつれて徐々に低下し、未熟段階の末期にはほぼ「0」となる。従って、試料堆肥の試料液のアンモニウムイオン濃度が「0」でないことから、そのバーク堆肥が未熟段階にあると判定することができる。一方、試料堆肥のアンモニウムイオン濃度がほぼ「0」であるときには、堆肥が未熟段階を終了した腐熟段階にあると判定することができる。
【0030】
(実施例2)
a). 試料堆肥として、未熟段階が終了してさらに所定時間腐熟させたバーク堆肥A,B1,B2を用いる。バーク堆肥B1,B2は、バーク堆肥Aよりもより長い期間腐熟させた堆肥である。
【0031】
b). 30gの各バーク堆肥A,B1,B2に蒸留水100mgをそれぞれ加えて試料液とし、これにアンモニウム化合物である硫酸アンモニウムを窒素換算で試料堆肥の乾燥重量当たり100mgずつ加える。
【0032】
c). バーク堆肥A,B1,B2の各試料液を、それぞれ0,12,24,48,72時間攪拌する。
d). c).が終了したバーク堆肥A,B1,B2の各試料液に、4Nの塩化カリウム溶液をそれぞれ加え、さらに1時間攪拌する。
【0033】
e). 攪拌した各試料液を濾過し、その濾過液をしばらく静置して上清をそれぞれ50ml採取する。
f). 採取した各上清液に4%水酸化ナトリウム溶液をそれぞれ5ml加えた後、その上清液のアンモニウムイオン濃度を測定する。
【0034】
この実施例2におけるアンモニウムイオン濃度の測定結果を、図2のグラフに示す。
未熟段階終了以降に腐熟が進行した堆肥には、当初含まれていた窒素化合物は殆ど存在せず、試料堆肥に加えた硫酸アンモニウムのみが存在する。このため、測定開始時点の各試料液からは、各試料液に加えた硫酸アンモニウムの質量比に対応するアンモニウムイオン濃度が検出される。各試料液におけるアンモニウムイオン濃度は、時間が経過するにつれて徐々に減少していく。これは、各試料堆肥中で休眠状態となっていた窒素分解微生物が、アンモニウムを与えられることによって休眠状態から徐々に活性化していき、アンモニウムを分解していくためである。このとき、バーク堆肥Aのアンモニウムイオン濃度は、バーク堆肥B1,B2のアンモニウムイオン濃度よりもより大きな減少率で減少していく。これは、バーク堆肥Aにおける窒素分解微生物の休眠期間が、バーク堆肥B1,B2における窒素分解微生物の休眠期間よりも短かったことにより、その活性化速度がより高いことを示す。すなわち、バーク堆肥Aは、バーク堆肥B1,B2よりも腐熟度が低いことを示す。従って、未熟段階が終了したバーク堆肥A,B1,B2について、試料堆肥の試料液に硫酸アンモニウムを加えた時点から徐々に低下していくアンモニウムイオン濃度の減少態様(変化態様)から、未熟段階が終了して以降のバーク堆肥の腐熟度を判定することができる。より具体的には、例えば試料堆肥の試料液に硫酸アンモニウムを加えた時点の試料液のアンモニウムイオン濃度に対し、この時点から所定時間(例えば48時間)経過後における試料液のアンモニウムイオン濃度の比をとることによってバーク堆肥の腐熟度を判定することができる。図2の場合、例えば48時間経過時点におけるバーク堆肥Aの前記比は約0.2(中熟)であり、バーク堆肥B1,B2の同比はそれぞれ約0.64(完熟前期)、約0.88(完熟後期)となる。そして、この比から各バーク堆肥A,B1,B2の腐熟度を判定することができる。
【0035】
(実施例3)
この実施例3は、前記実施例2と基本的に同じ内容であるが、硫酸アンモニウムに代えて、窒素化合物としての尿素を用いて行う。
【0036】
この実施例3におけるアンモニウムイオン濃度の測定結果を、図3のグラフに示す。
測定開始時点の各バーク堆肥A,B1,B2の試料液からはアンモニウムは殆ど検出されず、時間が経過するにつれて各試料液のアンモニウムイオン濃度が上昇していく。これは、各試料堆肥中で休眠状態となっていた窒素分解微生物の体内に尿素が吸収され、その尿素が体内のウレアーゼによってアンモニウムに分解されて体外に排出されるためである。また、各試料液のアンモニウムイオン濃度は、試料堆肥に加えた尿素の質量比に対応するアンモニウムイオン濃度よりも小さい所定濃度に達して以降、徐々に下降する。これは、尿素によって窒素分解微生物が休眠状態から徐々に活性化していき、ウレアーゼによって生成されたアンモニウムをさらに水及びアミン系に分解していくためである。このとき、バーク堆肥Aのアンモニウムイオン濃度の上昇率は、バーク堆肥B1,B2の各アンモニウムイオン濃度の上昇率よりも小さい。そして、バーク堆肥Aのアンモニウムイオン濃度の最高値は、バーク堆肥B1,B2のアンモニウムイオン濃度の各最高値よりも小さい。これは、バーク堆肥Aの窒素分解微生物の休眠期間が、バーク堆肥B1,B2の窒素分解微生物の休眠状態よりも短かったことにより、その活性化速度がより高いことを示す。すなわち、バーク堆肥Aは、バーク堆肥B1,B2よりも腐熟度が低いことを示す。これに対し、バーク堆肥B1,B2の各アンモニウムイオン濃度は、試料堆肥に加えた尿素の重量比に対応した100mgに近い濃度まで上昇する。これは、バーク堆肥B1,B2における窒素分解微生物の休眠期間が長く、窒素分解微生物の活性化速度が低いため、ウレアーゼによって尿素から分解されたアンモニウムの分解が進行していないことを示す。すなわち、バーク堆肥B1,B2の腐熟度が高いことを示す。
【0037】
従って、未熟段階が終了したバーク堆肥A,B1,B2について、試料堆肥の試料液に尿素を加えた時点から一旦上昇して最高値に達した後に低下していくアンモニウムイオン濃度の増減態様(変化態様)から、未熟段階が終了して以降のバーク堆肥の腐熟度を判定することができる。より具体的には、例えば試料堆肥の試料液に加えた尿素のアンモニウムイオン濃度換算値と、測定されたアンモニウムイオン濃度の最高値との比によってバーク堆肥の腐熟度を判定することができる。図3の場合、バーク堆肥Aの前記比は約0.43(中熟)であり、バーク堆肥B1,B2の同比はそれぞれ約0.83(完熟前期)、約0.88(完熟後期)となる。そして、この比から各バーク堆肥A,B1,B2の腐熟度を判定することができる。
【0038】
以上のように本実施形態では、まず、堆肥中のアンモニウムイオン濃度を測定し、アンモニウムイオンが検出されるときには未熟な堆肥であると判定し、アンモニウムイオンが検出されないときには未熟段階を終了した堆肥であると判定する。また、アンモニウムイオンが検出されなくなった状態の堆肥に対して窒素化合物を加え、この堆肥中の窒素分解微生物により窒素化合物が分解される過程で生成されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定する。このアンモニウムイオン濃度の経時的な変化態様から、未熟段階終了後における堆肥の腐熟度を判定する。なお、堆肥中のアンモニウムイオン濃度は、周知の簡便な機器を用いて精度良く測定することができる。このため、近赤外線吸収スペクトルを測定するような特殊な機器を用いることなく、バーク堆肥、おが屑、剪定枝、稲藁、芝生等の易分解性窒素化合物の含有量が比較的少なく、その易分解性窒素化合物を分解する微生物の活性が低い堆肥について、その腐熟度を精度良く判定することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、バーク、おが屑、剪定枝、稲藁、芝生等からなる易分解性窒素化合物の含有量が比較的少ない堆肥のみならず、牛糞、豚糞、鶏糞等の家畜糞、大豆絞り滓、生ごみ等の食品廃棄物等からなる易分解性窒素化合物の含有量がより多い堆肥の腐熟度を判定することができる。
【0040】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 試料堆肥に加える蒸留水に、窒素分解微生物の活性を高めるための微生物活性剤を加えること。この場合には、試料堆肥の腐熟度に応じたアンモニウムイオン濃度の変化態様を、より短い期間で判定することができる。
【0041】
・ 尿素に代えて、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質を堆肥に加えること。
・ 試料堆肥を水溶液とせず、堆肥のアンモニウムイオン濃度を直接測定する。
前記各実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0042】
(1) 請求項3に記載の堆肥の腐熟度判定方法に用いられる薬剤であって、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質により構成されていることを特徴とする堆肥の腐熟度判定方法に用いられる薬剤。
【0043】
(2) 請求項4に記載の堆肥の腐熟度判定方法に用いられる薬剤であって、アンモニウム化合物により構成されていることを特徴とする堆肥の腐熟度判定方法に用いられる薬剤。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1におけるアンモニウムイオン濃度の変化態様を示すグラフ。
【図2】実施例2におけるアンモニウムイオン濃度の変化態様を示すグラフ。
【図3】実施例3におけるアンモニウムイオン濃度の変化態様を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆肥中に含まれる窒素化合物が同堆肥中に存在する窒素分解微生物によって分解される過程におけるアンモニウムイオンの濃度に基づいて堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする堆肥の腐熟度判定方法。
【請求項2】
アンモニウムイオンが検出されない状態の堆肥に対して窒素化合物を加え、この堆肥中の窒素分解微生物により窒素化合物が分解される過程におけるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な変化態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする請求項1に記載の堆肥の腐熟度判定方法。
【請求項3】
前記窒素化合物は、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質であって、尿素、アミノ酸、ペプチド又は蛋白質が分解される過程で生成及び分解されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な増減態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする請求項2に記載の堆肥の腐熟度判定方法。
【請求項4】
前記窒素化合物はアンモニウム化合物であって、アンモニウム化合物が分解される過程で分解されるアンモニウムイオンの濃度を経時的に測定し、このアンモニウムイオン濃度の経時的な減少態様から堆肥の腐熟度を判定することを特徴とする請求項2に記載の堆肥の腐熟度判定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−145313(P2006−145313A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334041(P2004−334041)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(591079432)株式会社花ごころ (2)
【Fターム(参考)】