説明

堆肥製造システム及び堆肥製造方法

【課題】堆肥原料に含有された水分に作用して加熱することにより堆肥原料を効率的に加熱して微生物の活動環境を良好にする。堆肥を製造する際の消費電力を低減して堆肥の製造コストが低減する。
【解決手段】集積された堆肥原料(9)に対してマイクロ波導波管(15)内を伝播するマイクロ波を出力し、出力されたマイクロ波を堆肥原料(9)に含有された水分に吸収させて熱エネルギー変換することにより堆肥原料(9)を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然界に存在する微生物を利用して堆肥原料を製造する際に、微生物の活動環境を良好にして堆肥を効率的に製造する堆肥製造システム及び堆肥製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、堆肥は、堆肥原料中に炭素分が多く、窒素固定菌、乳酸菌、光熱細菌、放射細菌や酵母などの好気性又は嫌気性で低温発酵菌、中温発酵菌、高温発酵菌の各種微生物が含まれており、これら微生物により堆肥原料を分解、発酵させることにより製造される。なお、堆肥原料に含まれる微生物としては、好気性、嫌気性があり、堆肥原料に含まれる微生物の種類により堆肥原料が収容される槽内の雰囲気を最適に制御して堆肥を製造している。
【0003】
上記した好気性または嫌気性のいずれの微生物であっても、槽内に投入された堆肥原料を少なくとも約40℃以上になるように昇温して微生物による初期発酵環境を良好にする必要がある。このため、例えば特許文献1に示す堆肥製造装置にあっては、好気性微生物を含有する堆肥原料を収容する第1の槽と、嫌気性微生物を含有する堆肥原料を収容する第2の槽との間に第2の槽内の空気から酸素を分離して第1の槽に供給する酸素富化器が作動する際に発生する400℃〜800℃の熱により空気を加熱して第1の槽内に供給する加熱装置を備え、該加熱装置により堆肥原料を昇温して初期発酵を良好にしている。
【0004】
また、特許文献2に示す堆肥製造装置にあっては、環境を制御した堆肥化空間内へ供給される空気を通気路内に設けられたヒーターにより昇温して微生物の活動環境を良好にして初期発酵を高めている。なお、堆肥原料の分解、発酵後においては、微生物による自己発酵熱により堆肥原料の加熱が促進されるため、外部から加熱しなくても高温化される。
【0005】
しかし、上記した特許文献1及び2の加熱手段(ヒーター)は、いずれの場合も空気を加熱し、加熱された空気を堆肥原料中に放出して加熱するため、堆肥原料の加熱効率が悪いと共に空気を加熱するための消費電力が多くなり、製造コストが増大する問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−217270号公報
【特許文献2】特開2005−67918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、加熱手段により加熱された空気を堆肥原料中に放出して加熱するため、堆肥原料の加熱効率が悪いと共に消費電力が多くなり、堆肥の製造コストが増大する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、微生物及び水分を含む所要量の堆肥原料を集積する堆肥原料集積槽と、少なくともに堆肥原料集積槽の床面に配設され、集積された堆肥原料にマイクロ波を出力する多数のマイクロ波出力孔を有し、内部にてマイクロ波を伝播するマイクロ波導波管と、マイクロ波導波管にマイクロ波を出力するマイクロ波発振手段とを備え、集積された堆肥原料に対してマイクロ波導波管内を伝播するマイクロ波を出力し、出力されたマイクロ波を堆肥原料に含有された水分に吸収させて熱エネルギー変換することにより堆肥原料を昇温することを最も主要な特徴とする。
【0009】
請求項8は、堆肥原料集積槽に集積された堆肥原料を含有された微生物により分解、発酵して堆肥を製造する堆肥製造方法において、集積された堆肥原料に対してマイクロ波を出力して含有された水分に吸収させることにより熱エネルギーへ変換して堆肥原料を加熱し、少なくとも微生物による堆肥原料の初期発酵を促進可能にしたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、堆肥原料に含有された水分に作用して加熱することにより堆肥原料を効率的に加熱して微生物の活動環境を良好にすることができると共に消費電力を低減して堆肥の製造コストが低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】堆肥製造システムの概略を示す説明図である。
【図2】マイクロ波の出力手段を示す説明図である。
【図3】マイクロ波による堆肥原料の加熱例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
集積された堆肥原料に対してマイクロ波導波管内を伝播するマイクロ波を出力し、出力されたマイクロ波を堆肥原料に含有された水分に吸収させて熱エネルギー変換することにより堆肥原料を昇温することを最適の実施形態とする。
【実施例1】
【0013】
以下、実施例を示す図に従って本発明を説明する。
図1及び図2に示すように、堆肥製造システムの堆肥原料集積槽1は、所要面積の床面3の両側及び奥面に集積容量に対応する高さの側壁5・7が起立して設けられ、その前面が開放されている。そして上記堆肥原料集積槽1の床面3上には、家畜糞(牛糞、豚糞、鶏糞等)や生ごみ等の堆肥原料9が集積される。上記堆肥原料9は、それ自体、大量の水分を含有しているが、後述するマイクロ波による加熱処理を実行する際に、含有水分量が少ない場合には、少なくとも60%wtになるように調整しておく必要がある。
【0014】
また、上記堆肥原料9は、それ自体、自然界に存在する乳酸菌や酵母等の好気性または嫌気性の微生物を含んでおり、自然放置状態であっても微生物による堆肥原料の発酵、分解が可能であるが、堆肥化されるまでに数カ月単位の時間がかかり、生産性が悪い。このため、本発明においては、必要に応じて発酵温度が20〜60℃の中温発酵菌及び発酵温度が60℃以上の高温発酵菌を添加して後述するマイクロ波加熱による堆肥原料9の発酵を効率化させる。
【0015】
本発明は、堆肥原料集積槽1に集積された堆肥原料の初期発酵を促進して堆肥化期間を大幅に短縮して生産性を高めることを課題とするもので、堆肥原料集積槽1の床面3内には、分岐された多数列のエアー送出管11が埋設されている。各エアー送出管11には、多数の送出孔11aが長手方向へ適宜の間隔をおいて設けられ、床面3に形成された溝(図示せず)を介して堆肥原料集積槽1内に空気を吹き出し可能に構成される。
【0016】
これらエアー送出管11には、ブロア―等の送風手段13が接続され、送風手段13により発生して供給される圧縮エアーを送出孔11aから噴射させる。また、堆肥原料集積槽1の床面3内には、複数のマイクロ波導波管15が各エアー送出管11の相互間に埋設される。
【0017】
各マイクロ波導波管15は、後述するマイクロ波を反射するステンレス、鉄等の金属材で、内部に長手方向に延出する導波路としての中空部を有している。また、該マイクロ波導波管15の図示する上面には、多数のマイクロ波出力孔15aが長手方向に対して適宜の間隔をおいて形成される。該マイクロ波出力孔15aは、マイクロ波波長の1/4以上の幅で形成される。
【0018】
更に、マイクロ波導波管15の上面には、マイクロ波を透過する合成樹脂板又はガラス板等の防水板17が固着され、該防水板17は、マイクロ波出力孔15aを封止して水が浸入するのを規制する。
【0019】
上記マイクロ波導波管15の一方端部には、マイクロ波発振手段19が接続され、発振したマイクロ波をマイクロ波導波管15内に出力して内面にて反射させながら伝播させる。該マイクロ波発振手段19は、マイクロ波数帯域(2〜10GHz)のマイクロ波を、例えば0.5〜5kWで出力するマグネトロンや、レーザダイオード及び多段増幅器から構成される半導体マイクロ波発振手段等により構成される。マイクロ波としては、電波法等により工業用、科学用、医療用等の用途に割当てられた、例えば2.45GHzが好適であるが、上記周波数及び出力に限定されるものではなく、周波数に関しては、約1〜20GHzの範囲で適宜選択すればよい。
【0020】
なお、マイクロ波導波管15の他端部は、閉鎖され、その閉鎖端の内面には、内面を反射しながら伝播されるマイクロ波を吸収するマイクロ波吸収板(図示せず)が取付けられる。これにより、マイクロ波導波管15の他端部に伝播されたマイクロ波は、該マイクロ波吸収板により吸収されるため、閉鎖端内面にて反射して入力端側へ戻り伝播されるのを回避する。
【0021】
また、上記マイクロ波発振手段19は、マイクロ波出力時に発熱する。このため、送風手段13の入力側とマイクロ波発振手段19を送風パイプ21により接続し、マイクロ波発振手段19による発熱空気を吸引して冷却すると共に吸引したマイクロ波発振手段19による発熱空気をエアー送出管11内へ送出して堆肥原料集積槽1内に集積された堆肥原料9を加熱して昇温させる。
【0022】
更に、堆肥原料集積槽1内に集積された堆肥原料9上には、被覆シート23が堆肥原料9の上面の全体を覆うように設けられ、該被覆シート23には、堆肥原料9の発酵、分解時に発生する水蒸気や臭気を吸引する複数個の吸い込みフード25が設けられる。各吸い込みフード25には、水回収機27及びブロア―等の吸引装置29がダクト31を介して接続され、吸い込みフード25を介して回収された堆肥原料9からの水蒸気等は、水回収機27により熱交換されて凝集した水分として回収される。
【0023】
次に、上記した堆肥製造システムによる堆肥製造作用及び方法を説明すると、堆肥原料集積槽1における床面3上に敷き詰められた合成樹脂製のメッシュシート(図示せず)上に堆肥原料9を堆積して集積する。集積される堆肥原料9は、通常はその含水率が70〜90%wtであるが、場合によっては60%wt以下になっていることがある。その場合にあっては、集積された堆肥原料9に対して散水し、含水率が60%wt以上になるように調整する必要がある。
【0024】
そして集積された堆肥原料9中に含まれる微生物が好気性微生物の場合には、上記状態にて送風手段13を駆動して集積された堆肥原料9内に対してエアー送出管13から空気を噴射して微生物の活動環境を好気条件に制御して堆肥原料9の分解、発酵を促進できるようにすると共にマイクロ波発振手段19を発振駆動してマイクロ波導波管15内に所要周波数及び出力のマイクロ波を出力させる。
【0025】
マイクロ波導波管15内に出力されたマイクロ波は、マイクロ波導波管15内を反射して端部側へ伝播しながら一部がマイクロ波出力孔15aを介して集積された堆肥原料9へ出力される。これにより集積された堆肥原料9は、含有された水分が出力されたマイクロ波を吸収して熱エネルギーへ変換されて加熱される。
【0026】
なお、マイクロ波発振手段19は、その駆動時に熱を発生し、周囲の空気を加熱させるが、加熱された空気は、送風手段13の駆動に伴って送風パイプ21を介して吸引されてエアー送出管11から集積された堆肥原料9中へ放出されて加熱させる。
【0027】
上記したマイクロ波の出力により堆肥原料9を加熱して昇温し、微生物の活動環境を発酵及び分解に好適な状態に制御し、堆肥原料9の分解、発酵を促進させる。なお、上記したマイクロ波による加熱により堆肥原料9の温度が約40℃以上に昇温されると、堆肥原料9は、上記したマイクロ波による加熱と共に微生物による発酵等に伴って発生する自己発生熱により昇温が促進される。
【0028】
なお、上記製造過程においては、高温発酵菌による堆肥原料9の発酵、分解により堆肥原料9の温度が90℃以上になって微生物の死滅により温度低下がみられるようになった際には、集積された堆肥原料9の切り返しを行うと共に必要に応じて微生物を添加して堆肥化を均一化させる。また、上記製造過程においては、上記した送風及びマイクロ波による加熱に伴って集積された堆肥原料9から水蒸気や臭気が発生するが、発生した水蒸気等は、堆肥原料9の上面を覆う被覆シート23により集められた後に吸い込みフード25を介して回収されて水分化される。
【0029】
そして上記マイクロ波による加熱及び微生物の発酵熱による加熱により堆肥原料9の分解、発酵が進展して堆肥化された後に、含水率が約25%wtになるように乾燥処理して堆肥を製造する。
【0030】
なお、堆肥原料9中に含まれる微生物が嫌気性の場合には、堆肥原料9に対するエアー送出管11からの空気噴射を停止すると共に吸い込みフード25からの排気を継続して堆肥原料9中の空気を低減することにより活動環境を最適化する。また、上記のように製造された堆肥にあっては、必要に応じてわら、もみ殻、樹皮等を混ぜて腐熟させることにより所望の堆肥とする。
【0031】
図3は、本発明による堆肥原料の加熱状態を示し、以下の条件で堆肥原料を加熱処理した。
堆肥原料集積槽に集積された堆肥原料の重量:約40ton
添加微生物:高温発酵菌(商品名KN菌、株式会社吉良商会製)
堆肥原料の平均含水率:80%wt
マイクロ波導波管数:1本
マイクロ波導波管の長さ:5m
マイクロ波:2.45GHz
マイクロ波出力:1KW/h
【0032】
堆肥原料に含まれる微生物の初期発酵を活発化する40℃に達するのに5日かかり、堆肥原料が78℃に達するのに11日、かかった。これに対して堆肥原料を常温放置した場合、15日経過後においても、堆肥原料の昇温がみられなかった。従って、マイクロ波を使用して堆肥原料9を加熱する本発明は、堆肥原料9の初期発酵させる期間を大幅に短縮することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 堆肥原料集積槽
3 床面
5・7 側壁
9 堆肥原料
11 エアー送出管
11a 送出孔
13 送風手段
15 マイクロ波導波管
15a マイクロ波出力孔
17 防水板
19 マイクロ波発振手段
21 送風パイプ
23 被覆シート
25 吸い込みフード
27 水回収機
29 吸引装置
31 ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物及び水分を含む所要量の堆肥原料を集積する堆肥原料集積槽と、
少なくともに堆肥原料集積槽の床面に配設され、集積された堆肥原料にマイクロ波を出力する多数のマイクロ波出力孔を有し、内部にてマイクロ波を伝播するマイクロ波導波管と、
マイクロ波導波管にマイクロ波を出力するマイクロ波発振手段と、
を備え、集積された堆肥原料に対してマイクロ波導波管内を伝播するマイクロ波を出力し、出力されたマイクロ波を堆肥原料に含有された水分に吸収させて熱エネルギー変換することにより堆肥原料を加熱する堆肥製造システム。
【請求項2】
請求項1において、堆肥原料集積槽に集積される堆肥原料は、含有水分が少なくとも60%wtに調整された堆肥製造システム。
【請求項3】
請求項1において、堆肥原料集積槽における少なくとも床面には、送風手段に接続された空気送出管を配設し、集積された堆肥原料に対して送気し、好気性微生物の活動環境に適合可能にした堆肥製造システム。
【請求項4】
請求項3において、空気送出管には、マイクロ波発振手段内の空気を供給して加熱可能にした堆肥製造システム。
【請求項5】
請求項1において、集積された堆肥原料の上面を覆い、排気手段に接続されたフードを有した被覆シートを設け、堆肥原料から放出される水蒸気を回収可能にした堆肥製造システム。
【請求項6】
請求項1において、集積された堆肥原料の上面を覆い、排気手段に接続されたフードを有した被覆シートを設け、堆肥原料中の空気を排気して嫌気性微生物の活動環境に適合可能にした堆肥製造システム。
【請求項7】
請求項1において、堆肥原料には、必要に応じて中温発酵微生物及び高温発酵微生物の少なくともいずれかを添加した堆肥製造システム。
【請求項8】
堆肥原料集積槽に集積された堆肥原料を含有された微生物により分解、発酵して堆肥を製造する堆肥製造方法において、
集積された堆肥原料に対してマイクロ波を出力して含有された水分に吸収させることにより熱エネルギーへ変換して堆肥原料を加熱し、少なくとも微生物による堆肥原料の初期発酵を促進可能にした堆肥製造方法。
【請求項9】
請求項8において、少なくとも堆肥原料集積槽の床面にマイクロ波発振手段に接続されたマイクロ波導波管を埋設し、集積された堆肥原料に対してマイクロ波導波管内を伝播するマイクロ波を出力して加熱可能にした堆肥製造方法。
【請求項10】
請求項8において、堆肥原料には、必要に応じて中温発酵微生物及び高温発酵微生物の少なくともいずれかを添加した堆肥製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214344(P2012−214344A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81362(P2011−81362)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(511083776)ジーエネックス株式会社 (1)
【出願人】(311003846)辻村工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】