説明

堆肥

【課題】
本発明は、海洋汚染がなく、このためアコヤ貝の斃死率が下がり、アコヤ貝の良好な生育及び真珠の収量が低下することがない持続的に事業が継続可能となるアコヤ貝真珠養殖の環境を保つための真珠養殖で発生する廃棄物の利用を高める。
【解決手段】
貝柱を除くアコヤ貝貝肉より、コラーゲン、グリコーゲン、タウリン、リン脂質、ステロール類、セラミド類の1種以上を抽出した残分と、アコヤ貝付着物を原料とする堆肥を製造し、アコヤ貝真珠養殖の環境の向上を図る。さらにはアコヤ貝貝殻を原料に加えるとさらに品質の高い堆肥が得られた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋汚染がなく、このためアコヤ貝の斃死率が下がり、アコヤ貝の良好な生育及び真珠の収量が低下することがない持続的に事業が継続可能となるアコヤ貝真珠養殖の環境を保ちつつ、良質な堆肥を得て農産物の生産に寄与する堆肥に関する。
【背景技術】
【0002】
真珠養殖は真珠を取るためにアコヤ貝を養殖して挿核施術後、数ヶ月〜数年海で養殖後、真珠を取り出す。この間、養殖中のアコヤ貝には触手動物であるコケムシ類(フサコケムシ、チゴケムシ、コブコケムシ等)、軟体動物である二枚貝類(ムラサキイガイ、マガキ、ナミマガシワ等)、節足動物であるフジツボ類(タテジマフジツボ、サラサフジツボ、ヨーロッパフジツボ、アメリカフジツボ、サンカクフジツボ等)、環形動物である多毛類(カサネカンザシ、ウズマキゴカイ等)、脊索動物であるホヤ類(シロボヤ、エボヤ、ユウレイボヤ、ネンエキボヤ、シロウスボヤ等)、海藻類(フクロノリ、カゴメノリ、アオサ等)等々多種多様の生物が付着する。
これらはアコヤ貝に付着し、一部の生物はアコヤ貝の貝殻に穴を開けたり、摂食行動を制限したりしてアコヤ貝の活動を抑制したり、斃死させたりするので、養殖中の月に1〜4回程度これを除去するために貝掃除を行う。
なお、アコヤ貝より真珠を取り出すときは、種々の方法が取られるが、最終的には真珠、貝肉、貝柱、貝殻に分けられる。
【0003】
このうち、真珠は勿論養殖の目的なので商品化されるが、貝柱も生食又は燻製でも非常に美味であることから、高値で取引され、真珠養殖費用の一部を補っている。
このほか、貝殻はカルシウム剤やカルシウム肥料として利用されているほか化粧品原料として利用されているが、真珠養殖で発生した貝殻の一部しか利用されていない。
貝柱以外の貝肉はステロール、ムコ多糖、コラーゲン等利用されているが、真珠養殖で発生した量に比較して極わずかしか利用されていないのが現状である。
さらには養殖過程でアコヤ貝に付着する生物の利用は今のところまったく利用されていない。
このなかでも、貝肉や養殖場の海底にたまりやすいアコヤ貝付着生物は海洋及びその周辺の環境を汚染する割合が高い。
なお、2004年三重県の英虞湾で発生した廃棄物量を三重県の調査から推定すると、2年貝が481万貝、3年貝が1812万貝と浜揚げされており、1貝当りの平均湿重量が75gと推定仮定すると、この年に出た真珠養殖で発生した廃棄物は、貝殻775t、貝柱70t、貝柱以外の貝肉534tと推定されます。アコヤ貝に付着する生物に関してはその養殖場の状況によって大きく異なり、また、実際にかなりの部分が貝掃除のときに海洋に放棄されているので廃棄物量を把握することは難しいが、我々の経験からすると1万貝を養殖し、浜揚げまでの期間に百数十kgは発生し、2004年で200tを越えるアコヤ貝養殖に伴うアコヤ貝付着生物という廃棄物が発生していると推定されます。
このように大量に発生している廃棄物のほとんどが利用されないまま、結果的には海洋汚染を引き起こしていた。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−057507号公報
【特許文献2】特開平02−169509号公報
【特許文献3】特開2003−095854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは利用度の低い、アコヤ貝貝肉と養殖中のアコヤ貝付着物の利用度を高め海洋汚染のない真珠養殖方法を目指し、且つ、これらを利用して有効な利用方法に関する検討を行った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、真珠養殖で利用効率の低い浜揚げ時に発生する貝柱を除く貝肉と養殖時に発生するアコヤ貝付着物を堆肥として利用することによってアコヤ貝真珠養殖で発生する養殖廃棄物をすべて利用することができ、今までのアコヤ貝真珠養殖のように海、陸問わず養殖場及びその周辺を汚染することなく、この方法を推し進めれば陸地より流入するリンや窒素を貝肉やアコヤ貝付着物の形で固定化して海水より取り除くことができる。
【0007】
貝肉の一部はすでに知られている方法であるが、ステロール、ムコ多糖、コラーゲン、グリコーゲン、タウリン等を抽出し、化粧品、医薬品や食品に高度に利用することができるが、さらに上記のように堆肥に利用すれば真珠養殖で発生する貝肉の多くを利用できる。
貝殻は、この堆肥の一部に利用できることはいうまでもなく、カルシウム剤として利用でき、さらには焼成することによって殺菌剤としても利用可能であることはいうまでもない。
【0008】
まず、アコヤ貝貝肉であるが、貝柱は食用として価値の高いものであるので、貝柱以外の貝肉を用いる。
真珠養殖の場合、真珠を取り出すときに効率を考え、石灰等を入れ粘度を低下させ、貝肉粉砕機で真珠と貝肉を分けるが、貝肉を堆肥に使用する場合、石灰は量によってはpHが高くなりすぎ堆肥にする場合に発酵等が抑制される場合があるので石灰の使用量に注意するか、後の工程でこれを除く(或いは減少させる)工程が必要である。
また、エタノール等を利用すると堆肥化するときに問題になることが少なく、これらを使用することもある。
いずれの場合もあまり水分が高いと堆肥化がうまくいかないので、混合するその他の堆肥原料や使用割合によっても異なるができるだけ水分を少なくしておく必要がある。
その方法は公知の方法を用いればよいが、網や布の上に置き、ある程度水分が流出するまで放置するか、布であれば絞って水分を減少させることも有効である。また、遠心力等を利用して脱水することも可能である。
また、塩分を除くために水道水等の真水で洗うことも有効である。
【0009】
貝肉は食品、医薬品、化粧品の原料として有用な物質を多く含んでいるのでこれらを抽出した後の貝肉を用いることは資源をより有効に利用することに繋がるので、グリコーゲン、タウリン、リン脂質、ステロール類、セラミド類等を1種以上抽出した後のアコヤ貝貝肉を用いることも有効である。グリコーゲン等の抽出方法は特に限定はなく、目的にあわせて抽出方法を選択すればよい。
【0010】
真珠養殖過程で母貝に付着する生物があり、放置すると母貝の斃死や不健全な母貝になったりするため、定期的に掃除することが必要である。しかしながらこれらが養殖場すなわち、海洋の汚染に大きく関わっている。
付着する生物には上述したように多様な生物があり、堆肥にしたときに有効性を高めることがわかった。
なお、アコヤ貝付着物には上述したような付着生物以外にも含むことはいうまでもないし、アコヤ貝付着物は季節や場所によって大きく異なる。
これら付着生物は、アコヤ貝養殖時にアコヤ貝の状態を見て、高圧の海水をアコヤ貝や養殖籠に吹きつけ取り除くがこれを網で受け回収する。また、これも貝肉と同じで塩分を除くために水道水等の真水で洗う方法や雨曝しにすることも有効である。
また、ムラサキイガイ、マガキ、フジツボ等貝殻を有するものが含まれる場合は粉砕工程を加えることも有効である。
また、状況によっては、乾燥工程も入れると、後の操作や配合物の選択範囲が広がることもある。乾燥は自然乾燥でも、加熱乾燥でよい。
【0011】
このアコヤ貝貝肉とアコヤ貝付着物を組み合わせて堆肥化するが、この2つの原料のみでは窒素量が多くC/N比が低すぎるので稲わら、麦わら、モミガラ、オガクズ、腐葉土、落ち葉、刈り草、樹皮(バーク)等を加えて、その他の原料の配合によっても変化するが最終的にC/N比を10〜25になるように配合する。
これらの組合せは発酵・熟成期間にかなり影響し、樹皮やオガクズを用いる場合は3ヶ月〜1年、またはそれ以上発酵・熟成させてから堆肥として用いた方がよい。
【0012】
これに真珠養殖で発生する廃棄物の1つであるアコヤ貝貝殻を加えることも有効である。これは遅効性のカルシウムとして貝殻は古くから用いられているように作物には非常に有効である。但し、粉砕する必要があるので必要な大きさまで粉砕する。
これ以外も牛糞、鶏糞、豚糞等の動物糞、魚粉、油粕、骨粉、米ぬかなども加えることができる。さらには家庭や業務の生ゴミも原料として勿論利用できる。
堆肥化の進行を早めるために微生物等が入った発酵促進剤を用いることも有効である。
これらを原料にして通常の方法で堆肥を作成する。
【実施例】
【0013】
以下に製造例を示すがこれに限定させるものではない。また、製造例はすべて容量を基準に計量した。
【0014】
堆肥の製造例1
挿核施術し、6〜15ヶ月養殖したアコヤ貝を浜揚げし、貝殻、貝柱、貝柱以外の貝肉(以下単に貝肉と称す)に分別した。
貝肉を貝肉粉砕機(佐々木商工株式会社、商品名セパレー)に入れ、同量の海水と最終アルコール濃度が0.004〜0.008%となるようにエタノールを加え、粉砕し、真珠を採取した。
真珠を採取した残りの貝肉を30分間静置した後、貝肉の一部の浮遊物を網などで回収し、沈殿した貝肉粉砕物を吸わないように注意しながら水中用ポンプ(株式会社寺田ポンプ製作所, 型式SG-150C)で上澄み液を抜き取り、残留した外套膜、鰓、足、筋肉、生殖巣、消化盲嚢等の沈殿物を回収した。
回収した貝肉粉砕物にオガクズ及びアコヤ貝付着物を、貝肉:オガクズ:アコヤ貝付着物=10:4:2となるように混合した。
なお、アコヤ貝付着物は養殖中にウォッシャー式貝掃除機、ハンドクリーナー、グラインダー、貝掃除出刃等を使用してアコヤ貝を掃除したときに得た物で、アコヤ貝の付着生物が主成分である。
これを降雨等による肥料成分の流亡を防ぎながら2週間に1回の切り返しを行い、堆積、熟成管理を3ヶ月行った。
【0015】
堆肥の製造例2
挿核施術し、6〜15ヶ月養殖したアコヤ貝を浜揚げし、貝殻、貝柱、貝柱以外の貝肉(以下単に貝肉と称す)に分別した。
貝肉を貝肉粉砕機(佐々木商工株式会社、商品名セパレー)に入れ、同量の水道水と最終アルコール濃度が0.004〜0.008%となるようにエタノールを加え、粉砕し、真珠を採取した。
真珠を採取した残りの貝肉を30分間静置した後、貝肉の一部の浮遊物を網などで回収し、沈殿した貝肉粉砕物を吸わないように注意しながら水中用ポンプ(株式会社寺田ポンプ製作所, 型式SG-150C)で上澄み液を抜き取り、残留した外套膜、鰓、足、筋肉、生殖巣、消化盲嚢等の沈殿物を回収した。
回収した貝肉粉砕物にオガクズ及びアコヤ貝付着物を、貝肉:オガクズ:アコヤ貝付着物=10:4:2となるように混合した。
なお、アコヤ貝付着物は養殖中にウォッシャー式貝掃除機、ハンドクリーナー、グラインダー、貝掃除出刃等を使用してアコヤ貝を掃除したときに得た物で、アコヤ貝の付着生物が主成分である。
これを降雨等による肥料成分の流亡を防ぎながら2週間に1回の切り返しを行い、堆積、熟成管理を3ヶ月行った。
【0016】
堆肥の製造例3
挿核施術し、6〜15ヶ月養殖したアコヤ貝を浜揚げし、貝殻、貝柱、貝柱以外の貝肉(以下単に貝肉と称す)に分別した。
貝肉を貝肉粉砕機(佐々木商工株式会社、商品名セパレー)に入れ、同量の海水と最終アルコール濃度が0.004〜0.008%となるようにエタノールを加え、粉砕し、真珠を採取した。
真珠を採取した残りの貝肉を30分間静置した後、貝肉の一部の浮遊物を網などで回収し、沈殿した貝肉粉砕物を吸わないように注意しながら水中用ポンプ(株式会社寺田ポンプ製作所, 型式SG-150C)で上澄み液を抜き取り、残留した外套膜、鰓、足、筋肉、生殖巣、消化盲嚢等の沈殿物を回収した。
回収した貝肉粉砕物にオガクズ及びアコヤ貝付着物と粉砕したアコヤ貝貝殻を、貝肉:オガクズ:アコヤ貝付着物:粉砕したアコヤ貝貝殻=10:4:2:1となるように混合した。
なお、アコヤ貝付着物は養殖中にウォッシャー式貝掃除機、ハンドクリーナー、グラインダー、貝掃除出刃等を使用してアコヤ貝を掃除したときに得た物で、アコヤ貝の付着生物が主成分である。また、粉砕したアコヤ貝貝殻は36メッシュ以下になるように粉砕したものを用いた。
これを降雨等による肥料成分の流亡を防ぎながら2週間に1回の切り返しを行い、堆積、熟成管理を3ヶ月行った。
【0017】
製造例1及び2の性状について表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
効果の確認試験1
三重県志摩市浜島町迫子大崎923株式会社ミキモト多徳場内の土を乾燥させ2mmの篩でふるった風乾土1リッターに対して化成肥料(コメリ社製、商品名花と野菜の肥料8-8-8)0.625gを加えてかき混ぜた。これを3個作り、1つはそのまま(対照)、もう一つには製造例1を加えた10.0g加え、かき混ぜた。(試験1)、さらに残りの1つには製造例2を加えた10.0g加え、かき混ぜた。(試験2)
これらの用土を内径12cm、高さ10cmの樹脂製ポット2個づつに入れ、コマツナ(トキタ種苗株式会社 照彩小松菜)を25粒づつ種を指示通り播いた。
3週間後に発芽率、生体重、葉長を測定した。(なお、生体重は発芽したすべての個体の地上部の重量を、葉長は各ポットのついて大きい順番に5個体分を測定した)
結果を表2に示す。(生体重と葉長は平均値と標準偏差を記載した)
【0020】
【表2】

【0021】
効果の確認試験2
三重県志摩市浜島町迫子大崎923株式会社ミキモト多徳場内に1.0×4.0mの区画を3箇所作り、対照区は化成肥料(コメリ社製、商品名花と野菜の肥料8-8-8以下同じ)を500g、製造例1区には製造例1を2326gと化成肥料250g、製造例2区には製造例2を2899gと化成肥料250gをそれぞれ施肥した。
これらの各区にハマユウの苗を各10株植えつけた。3ヵ月後に株高と葉長を測定した。平均値と標準偏差の結果を表3に示す。
【0022】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】は効果の確認試験1の試験1(製造例1施肥)、播種後3週間の写真である。
【図2】は効果の確認試験1の試験2(製造例2施肥)、播種後3週間の写真である。
【図3】は効果の確認試験1の対照、播種後3週間の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アコヤ貝貝肉とアコヤ貝付着物を原料とする堆肥。
【請求項2】
貝柱を除くアコヤ貝貝肉より、コラーゲン、グリコーゲン、タウリン、リン脂質、ステロール類、セラミド類の1種以上を抽出した残分とアコヤ貝付着物を原料とする堆肥。
【請求項3】
さらにアコヤ貝貝殻を加えた請求項1乃至請求項2の堆肥。
【請求項4】
C/N比10〜25、窒素含量1.0〜2.0%になるように発酵した請求項1乃至請求項3の堆肥。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−84420(P2011−84420A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237043(P2009−237043)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月30日〜10月3日 社団法人 日本水産学会主催の「2009(平成21)年度日本水産学会秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(391060535)株式会社ミキモト (4)
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【Fターム(参考)】