説明

堤防装置又はこの堤防装置を用いた堤防構造

【課題】津波や濁流又は火砕流その他の自然現象により発生する大規模な流体の力を利用しながら該大規模な流体を堰き止めることができる堤防装置又堤防構造を提供する。
【解決手段】施工現場Lに固定されるベースプレート2と、このベースプレート2の上面に配置され、ベースプレート2に対して回動可能に連結されてなるとともに、正面には大規模な流体の圧力を受ける受圧面7aが形成されてなり、背面側には回動後にベースプレート2又は施工現場の何れかに当接する当接部2aが形成された回動部材3と、を備え、回動部材3は、受圧面7aの高さよりも受圧面7aから当接部2aまでの長さの方が長いものとされ、受圧面7aに上記流体の圧力が作用すると、回動部材3が所定角度回転することによって回動部材3の高さが高くなり、その後当接部2aがベースプレート2又は施工現場Lの何れかに当接し、回動部材3の回転後の状態を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や火砕流等のように、天災地変により発生する流体の流れを阻止し又はその速度を低減するために設置される堤防装置又はこの堤防装置を用いた堤防構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震により発生する津波や火山の噴火によって発生する火砕流の発生は、大惨事を発生させることから、こうした大惨事の発生を防止するために、各種の提案がされている。津波に対する対策としては、水圧を利用して可動壁を上昇させるもの(特許文献1,2参照)が提案され、また、津波により軸を中心に起立する構造を備えた止水施設ないし津波防波堤が提案されている(特許文献3,4参照)。上記特許文献1,2にそれぞれ開示された技術は、いずれも海岸に設けられ津波の発生により海水が流入する通路を形成し、この通路内に侵入した海水の水圧により可動壁ないし移動柱体が上昇する構造であり、この上昇した可動壁ないし移動柱体により津波が堤防の内側に侵入することを防止しようとするものである。他方、上記特許文献3,4に開示された技術は、堤防又はその近傍に止水板を転倒及び起立可能に配置するとともに、起立した状態を保持するための紐ないしロープとを備えてなるものであり、津波の力により、それまで転倒していた上記止水板が起立し、この起立した状態を上記鎖又は綱により保持させるものである。これら特許文献3,4に開示された技術では、堤防の内側に津波が侵入した後に、再び海に海水が引く場合、それまで起立していた上記止水板が再び元の状態に転倒することから、海水が引き易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−284139号公報
【特許文献2】特開2007−239233号公報
【特許文献3】特開2006−241806号公報
【特許文献4】特開2007−113261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された技術では、海水が流入する通路内に砂が侵入し該通路を閉塞してしまう危険性が極めて高く、常時上記通路内の砂を除去する等の管理が必要となる。また、これらの技術は津波を想定したものであることから、火砕流や土砂等を堰き止めることはできない。また、上記特許文献3,4に開示された技術では、上記止水板の起立状態を保持させるものが、上記鎖又は綱であることから、大きな津波が発生した場合は極めて脆弱であるばかりか、濁流や火砕流等を堰き止めることはできない。
【0005】
そこで、本発明は、上述した従来の堤防等が有する課題を解決することを目的に提案されたものであって、津波や濁流又は火砕流その他の自然現象により発生する大規模な流体の力を利用しながら該大規模な流体を有効に堰き止め又はその力を軽減することができるとともに、津波以外の濁流や火砕流等のそれに対しても適用することが可能な堤防装置又はこの堤防装置を用いた堤防構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、第1の発明(請求項1記載の発明)は、堤防、道路その他の施工現場に固定されるベースプレートと、このベースプレートの上面に配置され、該ベースプレートに対して回動可能に連結されてなるとともに、正面には津波や濁流又は火砕流その他の自然現象により発生する大規模な流体の圧力を受ける受圧面が形成されてなり、背面側には回動後に上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接する当接部が形成された回動部材と、を備え、上記回動部材は、上記受圧面の高さよりも該受圧面から当接部までの長さの方が長いものとされ、上記受圧面に上記流体の圧力が作用すると、上記回動部材が所定角度回転することによって該回動部材の高さが高くなり、その後上記当接部が上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接し、該回動部材の回転後の状態を保持することを特徴とするものである。
【0007】
この第1の発明に係る堤防装置は、先ず、ベースプレートが構成用とされている。このベースプレートは、堤防、道路その他の施工現場に固定されるものである。その他の施工現場とは、自然現象により発生する大規模な流体を堰き止め又はその流れを低減させることを望む場所を指すものであり、市町村庁舎や病院、学校等の公共施設の周辺も、この施工現場に含まれる。そして、上記ベースプレートは、上記施工現場に固定されるものであり、その固定方法は、特に限定されない。そして、上記ベースプレート上には、回動部材が回動可能に連結されている。この回動部材の正面には、受圧面が形成されている。この受圧面は、自然現象により発生する大規模な流体の圧力を受ける面である。また、この回動部材は、上記受圧面である正面とは反対側に、該回動部材が回転した後に、上記ベースプレート又は施工現場に当接する当接部が形成されている。この回動部材の回転位置は、該回動部材とベースプレートとの連結位置であり、例えば、回動部材とベース部材とを蝶番等の連結部材を介して連結した場合には、該蝶番を構成する軸体(軸部)を中心に、上記回動部材は回転するように構成されている。そして、上記受圧面から当接部までの距離は、該受圧面の高さよりも長いものとされている
【0008】
したがって、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が、上記受圧面に当たり、上記回動部材がベースプレート上で所定角度回転することによって鉛直方向の長さ(回動部材の高さ)が伸長され(高いものとなり)、その後上記当接部が上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接しその状態を保持することから、回転する前の状態よりも多くの流体の移動を堰き止め又はその流れを低減することができる。
【0009】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)は、上記第1の発明において、前記回転部材の上面には、前記受圧面の高さよりも長い上部プレートが配置され、この上部プレートの後端が前記当接部とされてなるとともに、該回動部材が回転する部位は、上記上部プレートの後端よりも受圧面側に位置してなることを特徴とするものである。
【0010】
この第2の発明では、回動部材の上面には、前記受圧面の高さよりも長い上部プレートが配置され、この上部プレートの後端が前記当接部とされてなるとともに、該回転部材が回転する部位は、上記上部プレートの後端よりも受圧面側に位置してなることから、受圧面に上記流体の圧力を受けた場合、上記回動部材が回動し易いものとなる。
【0011】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)は、上記第1又は第2の発明の何れかにおいて、前記回動部材の上部又は前記上部プレートの上部には、該回動部材又は上部プレートの全長よりも長尺な長尺プレートが配置され、この長尺プレートの前端は上記回動部材又は上部プレートと回動可能に連結され、該長尺プレートの後端側中途部は、下端が前記ベースプレートと回動可能に連結された支持プレートの上端において回動可能に連結されてなり、該長尺プレートの後端は、前記回動部材の当接部が前記ベースプレートに当接した時点において該ベースプレートに当接する当接部とされてなることを特徴とするものである。
【0012】
この第3の発明に係る堤防装置では、上述した通り、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が、上記回動部材に形成された受圧面に当たり、その結果該回動部材がベースプレート上で所定角度回転することによって鉛直方向の長さ(回動部材の高さ)が伸長され(高いものとなり)、その後、該回動部材に形成された当接部又は上部プレートの後端に形成された当接部が、上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接部が当接すると同時に、上記長尺プレートの後端に形成された当接部が上記ベースプレートに当接する。すなわち、この第3の発明に係る堤防装置では、回動部材に形成された当接部又は上部プレートの後端に形成された当接部と、長尺プレートの後端に形成された当接部との両方が、ベースプレートに当接することから、回動部材が回転した後の状態をより強固に保持することができる。そして、こうした保持状態の強度は、上記長尺プレートの長さを上記回動部材の長さ又は上部プレートの長さ(これらの長さは何れも津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体の移動方向における長さ)よりも長くすればする程、回転後の状態を強固に保持することが可能となる。
【0013】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)は、前記第1、第2又は第3の発明において、前記回動部材は、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が内部に流入する流入空間が形成されてなるとともに、該回動部材又は前記上部プレートには、上記流入空間内に流入した流体を流入方向と同じ方向に逃がす開口が形成されてなることを特徴とするものである。
【0014】
この第4の発明では、回動部材又は前記上部プレートには、上記流入空間内に流入した流体を流入方向と同じ方向に逃がす開口が形成されてなることから、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体の衝撃や、またこの衝撃により堤防装置が破壊される危険性を緩和することができる。
【0015】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)は、前記第1ないし第4の発明の何れかにおいて、前記回動部材の上面又は上部プレートの上面若しくは前記長尺プレートの上面は、自動車が走行できる程度に水平面とされてなることを特徴とするものである。
【0016】
この第5の発明に係る堤防装置によれば、後述する堤防構造のように、堤防装置を横方向に多数並べて設置・施工することにより、該堤防装置群を道路として利用することができる。
【0017】
また、第6の発明(請求項7記載の発明)は、前記第1ないし第5の発明において、前記ベースプレートには、前記当接部が当接するベースプレート側当接部が形成されてなることを特徴とするものである。
【0018】
上記第6の発明に係る堤防装置によれば、より一層回動装置が津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体により破壊され流されてしまう危険性を防止することができる。
【0019】
また、第7の発明(請求項8記載の発明)は、前記第1ないし第6の発明に係る堤防装置を利用した堤防構造に係るものであって、前記第1ないし6の発明に係る堤防装置を横方向に並列させてなることを特徴とするものである。
【0020】
こうした第7の発明に係る堤防構造によれば、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体による被害を大きく低減することが可能となる。
【0021】
また、第8の発明(請求項8記載の発明)は、前記第1ないし第6の発明に係る堤防装置を利用した堤防構造に係るものであって、前記第1ないし第6の発明に係る堤防装置を所定の間隔を置いて離間させて設置するとともに、これらの堤防装置を構成する回動部材の上面又は上部プレートの上面若しくは長尺プレートの上面に連結プレートを支持させ、該連結プレートにより個々の堤防装置を連結してなることを特徴とするものである。
【0022】
この第8の発明に係る堤防構造によれば、個々の堤防装置を構成する回動部材の受圧面に、上記津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が当たり、その結果該回動部材が回転すると、上記連結プレートが受圧面となり上記津波等の流体を堰き止めることができる。したがって、この第8の発明によれば、堤防装置を製造する量を少ないものとすることができる。また、この第8の発明に係る堤防構造によれば、津波が海から到来した後に、引き潮となり再び海に海水が戻ると、今度はその逆方向に移動する海水が上記連結プレートに当たり、再び回転する以前の状態に全体を復帰させることができ、このように復帰すれば、個々の堤防装置と堤防装置との間は空間であることから、該空間から陸に押し寄せた海水が海に戻る妨げとなることがない。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明(請求項1記載の発明)に係る堤防装置によれば、津波や濁流又は火砕流その他の自然現象により発生する大規模な流体の力を利用しながら該大規模な流体を有効に堰き止め又はその力を軽減することができるとともに、津波以外の濁流や火砕流等のそれに対しても適用することが可能となる。
【0024】
また、第2の発明(請求項2記載の発明)では、回動部材の上面には、前記受圧面の高さよりも長い上部プレートが配置され、この上部プレートの後端が前記当接部とされてなるとともに、該回転部材が回転する部位は、上記上部プレートの後端よりも受圧面側に位置してなることから、受圧面に上記流体の圧力を受けた場合、上記回動部材が回動し易いものとなる。
【0025】
また、第3の発明(請求項3記載の発明)に係る堤防装置では、回動部材に形成された当接部又は上部プレートの後端に形成された当接部と、長尺プレートの後端に形成された当接部との両方が、ベースプレートに当接することから、回動部材が回転した後の状態をより強固に保持することができ、そして、こうした保持状態の強度は、上記長尺プレートの長さを上記回動部材の長さ又は上部プレートの長さ(これらの長さは何れも津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体の移動方向における長さ)よりも長くすればする程、回転後の状態を強固に保持することが可能となる。
【0026】
また、第4の発明(請求項4記載の発明)に係る堤防装置では、回動部材又は前記上部プレートには、上記流入空間内に流入した流体を流入方向と同じ方向に逃がす開口が形成されてなることから、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体の衝撃や、またこの衝撃により堤防装置が破壊される危険性を緩和することができる。
【0027】
また、第5の発明(請求項5記載の発明)に係る堤防装置では、回動部材の上面又は上部プレートの上面若しくは前記長尺プレートの上面は、自動車が走行できる程度に水平面とされてなることから、後述する堤防構造のように、堤防装置を横方向に多数並べて設置・施工することにより、又は、連結プレートで個々の堤防装置を連結した場合においても、該堤防装置群を道路として利用することができる。
【0028】
また、第6の発明(請求項6記載の発明)に係る堤防装置では、ベースプレートには、前記当接部が当接するベースプレート側当接部が形成されてなることから、より一層回動装置が津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体により破壊され流されてしまう危険性を防止することができる。
【0029】
また、第7の発明(請求項7記載の発明)に係る堤防構造によれば、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体による被害を大きく低減することが可能となる。
【0030】
また、第8の発明(請求項8記載の発明)に係る堤防構造によれば、個々の堤防装置を構成する回動部材の受圧面に、上記津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が当たり、その結果該回動部材が回転すると、上記連結プレートが受圧面となり上記津波等の流体を堰き止めることができる。したがって、この第8の発明によれば、堤防装置を製造する量を少ないものとすることができる。また、この第8の発明に係る堤防構造によれば、津波が海から到来した後に、引き潮となり再び海に海水が戻ると、今度はその逆方向に移動する海水が上記連結プレートに当たり、再び回転する以前の状態に全体を復帰させることができ、このように復帰すれば、個々の堤防装置と堤防装置との間は空間であることから、該空間から陸に押し寄せた海水が海に戻る妨げとなることがない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施の形態に係る堤防装置を示す右側面図である。
【図2】図1に示す堤防装置を幅方向に並列させた堤防構造を示す斜視図である。
【図3】図1に示す堤防装置が回転した後の状態を示す右側面図である。
【図4】第2の実施の形態に係る堤防装置を示す右側面図である。
【図5】図4に示す堤防装置を幅方向に並列させた堤防構造を示す斜視図である。
【図6】図4に示す堤防装置が回転した後の状態を示す右側面図である。
【図7】図4に示す堤防装置が回転した後の状態を示す斜視図である。
【図8】図4に示す堤防装置を幅方向に並列させた堤防構造を示す正面図である。
【図9】図4に示す堤防装置を用いた他の堤防構造を一部分解して示す斜視図である。
【図10】図4に示す堤防装置を用いた他の堤防構造を示す正面図である。
【図11】連結プレートにより連結した堤防装置が回転する前の状態を示す右側面図である。
【図12】図11に示す連結プレートにより連結した堤防装置が回転した後の状態を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、第1の実施の形態に係る堤防装置及びこの堤防装置を利用した堤防構造について説明する。
【0033】
この実施の形態に係る堤防装置1は、自然現象により発生する大規模な流体としての津波を堰き止め又はその力を軽減するためのものであり、図1又は図2に示すように、既設の堤防Lの上面に固定されたベースプレート2と、このベースプレート2の上面に配置されている回動部材3とから構成されている。上記ベースプレート2は、図2に示すように、コンクリートにより略平板状に成形されてなるものであり、上記既設の堤防Lの幅方向に長さを有してなるものである。また、このベースプレート2の後方(海側とは反対方向)の上面には、上方に突出した突出部2aが形成されている。すなわち、上記ベースプレート2には、図1に示すように、上記回動部材3が配置された平面部2bと、この平面部2bの後方に形成され上記突出部2aを形成する傾斜面部2cと、上記突出部2aの上面である上面部2dと、このベースプレート2の背面である背面部2eとを備えている。なお、この実施の形態においては、上記ベースプレート2は、上記既設の堤防Lの上面に対して、該堤防Lに埋設した図示しないナットに螺着された複数のボルト5(図2参照)により固定されている。上記突出部2a又は上記平面部2b若しくは傾斜面部2cは、本発明を構成するベースプレート側当接部である。
【0034】
また、上記回動部材3は、コンクリートにより形成されてなるものであり、図2に示すように、左右の垂直プレート6,7と、これら左右の垂直プレート6,7の上面に位置してなる上部プレート部8と、上記左右の垂直プレート6,7の後端と上記上部プレート部8の後端と連続してなる背面プレート9とから構成されている。上記左右の垂直プレート6,7の正面は、津波が当たる受圧面6a,7aである。また、上記背面プレート9は、下端から上端側にかけて上記受圧面6a,7aから徐々に離間するように傾斜している。また、上記受圧面6a,7aである左右の垂直プレート6,7と、上記上部プレート部8と背面プレート9とにより囲まれた内部は、津波が流入する流入空間(符号は省略する。)である。なお、上記上部プレート部8の後端側には、上記流入空間内に侵入した津波を該流入空間内から外部に逃がすための開口8aが形成されている。また、上記上部プレート部8の上面は、水平とされており、その幅は自動車が走行できる幅とされている。そして、このように構成された回動部材3は、上記ベースプレート2上において蝶番10を介して回動可能に連結されている。換言すれば、回動部材3は、図示しない回動軸を構成要素とする部材により、上記背面プレート9の下端(該回動部材3の後方側下端)と連結されており、上記回動軸を中心に、図1中時計回り方向に回動できるように構成されている。なお、上記左右の垂直プレート6,7の高さは、該左右の垂直プレート6,7の長さ(奥行の長さ)や上部プレート部8の長さ(奥行の長さ)よりも短いものとされている。また、上記上部プレート部8の前端は、上記左右の垂直プレート6,7の上端よりもやや前方に突出している。
【0035】
そして、この実施の形態に係る堤防装置1では、後述するように、上記背面プレート9の背面が上記ベースプレート2の上面に当接するまで上記蝶番10を構成する図示しない回動軸を中心に回動部材3が回動すると、上記上部プレート部8の後端と背面プレート9の上端とが(該回動部材3の後方側の上方角部)上記突出部2aに当接する。
【0036】
そして、上述した構成に係る堤防装置1は、図2に示すように、上記上部プレート部8の幅方向に並列して配置されており、該連続した上部プレート部8,8,8・・・の上面は、自動車(や自転車その他の車両)や人が走行又は通行することができる道路とされている。すなわち、図2は、上記堤防装置1を用いた堤防構造を示すものであり、平常時においては、各回動部材3は、上記上部プレート部8が水平状態を保っている。そして、こうした状態において、地震発生に伴って起きた津波が、上記各回動部材3,3,3・・・の正面である受圧面6a,7a(及び上部プレート部8の正面)に当たるとともに、該津波が回動部材3内に流入し、背面プレート9の正面に当接すると、個々の回動部材3は、図3に示すように、上記ベースプレート2上において上記蝶番10を構成する回動軸を中心に、図1中時計回り方向に回転し、やがて背面プレート9の背面がベースプレート2の上面2bに当接するとともに、上部プレート部8の後端は、上記突出部2a(を構成する傾斜面部2c)に当接し、それ以上回転することが規制される。そして、このように回動部材3が回転し、図3に示す状態となると、それまでの回動部材3の高さよりも高い状態となり、津波を堰き止め或いはその威力を低減することができる。なお、上記左右の垂直プレート6,7の内側の流入空間内に流入した津波(海水)の一部は、上記開口8aから該回動部材3の外部に逃げることから、急激な津波の威力により該回動部材3がベースプレート2から脱落したり、該回動部材3そのものが破壊されたりすることが防止されている。
【0037】
次に、第2の実施の形態に係る及びこの堤防装置を利用した堤防構造について説明する。この第2の実施の形態に係る堤防装置21は、図4又は図5に示すように、ベースプレート22と、回動部材23と、長尺プレート24と、支持プレート25とから構成されている。
【0038】
上記ベースプレート22は、この実施の形態の場合も既設の堤防L上に固定さてなるものであり、後方には水平な上面22bから上方に突出した突出部22aが形成されている。また、上記回動部材23は、上記第1の実施の形態に係る回動部材3と同様の構成からなるものである。すなわち、この回動部材23も、左右の垂直プレート26,27と、上部プレート28と、背面プレート29とから構成されており、上記左右のプレート26,27の正面は、本発明を構成する受圧面26a,27aである。そして、この回動部材23を構成する上部プレート28にも、該回動部材23の内側に形成された流入空間内に侵入した津波を該流入空間内から外部に逃がすための開口28aが形成されている。そして、上記回動部材23を構成する背面プレート29の下端とベースプレート22とは、第1の蝶番30により回動可能に連結されている。
【0039】
そして、上記回動部材23を構成する上部プレート28の正面側には、第2の蝶番31を介して長尺プレート24の前端が連結されている。この長尺プレート24は、図4及び図5にそれぞれ示すように、上記上部プレート28の全長(奥行の長さ)よりも長尺に成形されてなるものであり、その幅は上記上部プレート28の幅と同じ寸法に成形されている。
【0040】
そして、上記長尺プレート24の後端側中途部は、上記支持プレート25により支持されている。上記支持プレート25と長尺プレート24とは、第3の蝶番32を介して、互いに回動可能に連結されており、該支持プレート25の下端と上記ベースプレート22とは、第4の蝶番33により該支持プレート25がベースプレート22に対して回動可能に連結されている。上記支持プレート25は、略垂直方向に起立してなるものであり、その幅は、上記長尺プレート24の幅と同じ幅に成形されている。
【0041】
以下、上述した実施の形態に係る堤防装置21を用いた堤防構造について説明する。最初に説明する堤防構造は、図5及び図8にそれぞれ示すように、上記堤防装置21を幅方向に並べたものである。こうした堤防構造によれば、該堤防構造の上面は水平に配置された長尺プレート24で敷き詰められることから、該長尺プレート24の幅方向に自動車その他の車両が走行可能となる。そして、図5及び図8にそれぞれ示す状態において、図示しない津波等の自然現象により発生する大規模な流体の圧力が、上記受圧面26a,27aである垂直プレート部26,27の正面に作用するとともに、海水が上記回動部材23内に流入すると、該回動部材23全体が、上記第1の蝶番30(を構成する軸)を中心に、図4中時計回り方向に回転するとともに、上記長尺プレート24は、回動部材23を構成する上部プレート28との間に角度が形成されるように第2の蝶番31(を構成する軸)を中心に回転し、また、上記第3及び第4の蝶番32,33(を構成する各軸)を中心に、回動する。この場合、上記支持プレート25も回動部材23と同じように、時計回り方向に回転する。そして、上記回動部材23とともに回転した長尺プレート24の後端は、図6及び図7に示すように、前記ベースプレート22の後端側に形成された突出部22aないし先に説明した傾斜面部22cに当接し、その状態が維持・保持される。このように、図6及び図7に示す状態となると、回動部材23の高さは、それまで水平状態と維持していた際における高さよりも相当高いものとなることから、津波を堰き止め又はその力を軽減させることができる。特に、この実施の形態に係る堤防装置21では、図6に示すように、回動部材23の回転により、該回動部材23を構成する上部プレート28の後端や背面プレート29がベースプレート22の上面22bに当接するとともに、該回動部材23の後方位置において、上記長尺プレート24の後端が上記突出部22aに当接することから、相当大きな力がこの堤防装置21に作用した場合であってもその力に耐え、破壊される危険性を防止することができる。
【0042】
次に、上記堤防装置21を用いた他の例に係る堤防構造について説明する。この堤防構造は、図9及び図10に示すように、上記堤防装置21を幅方向に所定の長さ離間させて複数配置するとともに、該堤防装置21上に、該堤防装置21と堤防装置21との離間長さよりも長い連結プレート38,38を載置・固定したものである。上記連結プレート38は、この例では上記長尺プレート24の長さとほぼ同じ幅を備えてなるものである。
【0043】
こうした構造による場合であっても、図11に示す状態から津波等により回動部材23が回転すると、図12に示すように、上記連結プレート38,38も同時に回転し、上述した通り、その回転後の状態が保持される。
【0044】
特に、上述した通り、堤防装置21を離間させて設置し、上記連結プレート38で繋いだ堤防構造によれば、堤防装置21の数を軽減できることからコストを低減することができるばかりではなく、図12に示す状態となった場合は、上記連結プレート38により津波等を堰き止め又はその力を低減することができる。さらにこの堤防装置21を用いた堤防構造では、津波が襲来した後に、海水が再び海に戻ると、上記連結プレート38の上面に対する海水の移動圧力により、再び回動部材23が元の状態に復帰する。そして、このように、回動部材23が元の状態に復帰した場合、図10に示すように、堤防装置21と堤防装置21との間は空いていることから、上記海水の移動に支障を来すことがない。
【0045】
なお、上記各実施の形態では、主に津波が発生したことを前提にそれぞれの堤防装置1,21やそれらを用いた堤防構造の作用効果を説明したが、山の麓や公共施設の近傍において設置又は施工し、土砂や濁流又は火砕流等を堰き止め又はその力を軽減する目的で設置しても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 (第1の実施の形態に係る)堤防装置
2 ベースプレート
2a 突出部
3 回動部材
6 左の垂直プレート
6a 受圧面
7 右の垂直プレート
7a 受圧面
8 上部プレート
8a 開口
9 背面プレート
10 蝶番
21 (第2の実施の形態に係る)堤防装置
22 ベースプレート
22a 突出部
23 回動部材
24 長尺プレート
26 左の垂直プレート
26a 受圧面
27 右の垂直プレート
27a 受圧面
28 上部プレート
28a 開口
29 背面プレート
30 第1の蝶番
31 第2の蝶番
32 第3の蝶番
33 第4の蝶番
38 連結プレート
L 既設の堤防


【特許請求の範囲】
【請求項1】
堤防、道路その他の施工現場に固定されるベースプレートと、
このベースプレートの上面に配置され、該ベースプレートに対して回動可能に連結されてなるとともに、正面には津波や濁流又は火砕流その他の自然現象により発生する大規模な流体の圧力を受ける受圧面が形成されてなり、背面側には回動後に上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接する当接部が形成された回動部材と、を備え、
上記回動部材は、上記受圧面の高さよりも該受圧面から当接部までの長さの方が長いものとされ、上記受圧面に上記流体の圧力が作用すると、上記回動部材が所定角度回転することによって該回動部材の高さが高くなり、その後上記当接部が上記ベースプレート又は施工現場の何れかに当接し、該回動部材の回転後の状態を保持することを特徴とする堤防装置。
【請求項2】
前記回転部材の上面には、前記受圧面の高さよりも長い上部プレートが配置され、この上部プレートの後端が前記当接部とされてなるとともに、該回動部材が回転する部位は、上記上部プレートの後端よりも受圧面側に位置してなることを特徴とする請求項1記載の堤防装置。
【請求項3】
前記回動部材の上部又は前記上部プレートの上部には、該回動部材又は上部プレートの全長よりも長尺な長尺プレートが配置され、この長尺プレートの前端は上記回動部材又は上部プレートと回動可能に連結され、該長尺プレートの後端側中途部は、下端が前記ベースプレートと回動可能に連結された支持プレートの上端において回動可能に連結されてなり、該長尺プレートの後端は、前記回動部材の当接部が前記ベースプレートに当接した時点において該ベースプレートに当接する当接部とされてなることを特徴とする請求項1又は2記載の何れかの堤防装置。
【請求項4】
前記回動部材は、津波や火砕流等の自然現象により発生する大規模な流体が内部に流入する流入空間が形成されてなるとともに、該回動部材又は前記上部プレートには、上記流入空間内に流入した流体を流入方向と同じ方向に逃がす開口が形成されてなることを特徴とする請求項1,2又は3記載の何れかの堤防装置。
【請求項5】
前記回動部材の上面又は上部プレートの上面若しくは前記長尺プレートの上面は、自動車が走行できる程度に水平面とされてなることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の何れかの堤防装置。
【請求項6】
前記ベースプレートには、前記当接部が当接するベースプレート側当接部が形成されてなることを特徴とする請求項1,2,3,4又は5記載の何れかの堤防装置。
【請求項7】
前記請求項1ないし6記載の堤防装置を横方向に並列させてなることを特徴とする堤防構造。
【請求項8】
前記請求項1ないし6記載の堤防装置を所定の間隔を置いて離間させて設置するとともに、これらの堤防装置を構成する回動部材の上面又は上部プレートの上面若しくは長尺プレートの上面に連結プレートを支持させ、該連結プレートにより個々の堤防装置を連結してなることを特徴とする堤防構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−32623(P2013−32623A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168251(P2011−168251)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(592188771)
【Fターム(参考)】