説明

塔上クレーンの作業域規制装置

【課題】 ブームと鉄塔設備との接触を回避しつつ、設置環境に応じてブームの動作域を可及的に拡大し、吊り荷の安全な揚げ降ろし位置を確保する。
【解決手段】 作業域規制装置10は、ブーム4上に長手方向に二箇所に支持金具11,12を固定し、両支持金具11,12間に緩衝線13を張る。一方の支持金具11の係止板16には、ターンバックル17を介して緩衝線13の一端を接続する。他方の支持金具12の係止板20には、緩衝線13の一端を係止するトリガ片21を縦方向に回転自在に軸支する。トリガ片21は、ばね22により後方へ回転付勢される。係止板20には、トリガ片21の縁が当接する位置にマイクロスイッチ23を設ける。ブーム4を起伏、旋回させているとき、鉄塔設備に接近すると、その接触前に緩衝線13が接触し屈曲変形して、トリガ片21が回転し、マイクロスイッチ23がOFFしてブーム4を自動停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線鉄塔のような鉄塔の建設時に鉄塔上に取付けて用いられるクレーンのブームと鉄塔設備との接触を回避するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄塔に送電線を架設する工事において、資材や工具などの多くの重量物を鉄塔上へ運搬するために、特許文献1に記載された鉄塔上に設けるクレーンがある。この塔上クレーンは、図8に示すように、鉄塔の最上段の地線用腕金T1の下段の腕金T2に取り付けられる。塔上クレーン1は、腕金T2の先端部上に取り付けられる水平方向に旋回動作する旋回台座2上に、起伏装置3により起伏自在に基端が枢支されるブーム4を備える。旋回台座2は旋回モータ2aによりブームを旋回動させる。起伏装置3は、ブーム4の上方に設けられた滑車3c,3dによりガイドされる起伏用ワイヤ3bを腕金T1上に固定された起伏用ウインチ3aにより巻き上げ、あるいは巻き戻すことにより、ブーム4の先端部を上げ下ろししてブーム4を起伏動させる。ブーム4には、旋回フレーム2上に固定された吊上げウインチ5aにブーム4の先端から垂下する吊上げワイヤ5bの一端を係止し、吊上げウインチ5aでワイヤ5bを巻き上げ、あるいは巻き戻すことにより吊上げワイヤ5bの他端のフック5cに吊り下げた吊り荷Mを揚げ降ろしする吊上げ装置5を備える。
この塔上クレーンにあっては、通常、ブームに振り子式角度計を取り付け、ブームの起伏動作域の限界位置に対応してリミットスイッチが作動して起伏動を自動停止する。また、ブームの旋回台座の可動部にブームの旋回動作域の限度位置に対応してリミットスイッチを作動させるカム部材を取り付け、固定部にリミットスイッチを設け、旋回装置の限界位置に対応してリミットスイッチが作動し旋回動を自動停止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-24785公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の塔上クレーンはブームの腕金の先端部に取り付け、ブームの起伏角の大小に応じて鉄塔設備との緩衝位置が異なり、ブームの旋回動作域が変わるので、予定された特定位置のリミットスイッチによって鉄塔との接触を回避することができない。例えば、図8に示すように、ブーム4を伏せた場合には、鉄塔への接近方向の旋回動作は、ブーム4が当該腕金T2の構成材によって制限されるが、これに対応した旋回限界位置にリミットスイッチを設定すると、この限界位置でブーム4の先端部が鉄塔から離れてしまい、ブーム4を起こしても吊り荷Mの揚げ降ろし位置が鉄塔から遠くなって、安全な作業が困難になる。また、ブーム4を旋回させて先端部を鉄塔に近づけるために、ブーム4を起こした場合には、鉄塔への接近方向の旋回動作は、上段の腕金T1の構成材によって制限されるが、これに対応した旋回限界位置にリミットスイッチを設定すると、この限界位置でブームの起伏動作域が制限され、吊り荷Mの上げ降ろし範囲が制約される。
従って、本発明は、ブームと鉄塔設備との接触を回避しつつ、設置環境に応じてブームの動作域を可及的に拡大し、吊り荷の安全な揚げ降ろし位置を確保する塔上クレーンの作業域規制装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明においては、上記課題を解決するため、ブーム4を旋回、起伏させる塔上クレーン1のブーム4の移動による鉄塔設備との接触を回避するために、ブーム4に作業域規制装置10を取り付ける。鉄塔設備との緩衝部分を含むブーム4上の長手方向の二箇所に支持金具11,12を設け、両支持金具11,12間に緩衝線13を張設し、一方の支持金具12に、緩衝線13を係止して原位置に復帰可能に付勢されるトリガ片21を移動可能に支持させ、緩衝線13の鉄塔設備との接触による変形によりトリガ片21を引き込んで変位させ、一方の支持金具12にトリガ片21に臨む位置にスイッチを固定し、トリガ片21の原位置からの変位により作動して、ブーム4を停止させるように塔上クレーンの作業域規制装置を構成する。
トリガ片21を支持金具12に回転可能に枢支し、支持金具12との間にばね部材22を係止し、緩衝線13を引き込む方向に付勢させる。
緩衝線13をターンバックルにより張力調整させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、鉄塔の腕金の先端部に取り付けたクレーンのブームの任意の起伏角度で、鉄塔設備にブームが接近すると、接触前に緩衝線が接触して屈曲変形し、トリガ片を変位させることにより、スイッチが作動して、ブームが自動停止するため、ブームと鉄塔設備との接触を回避することができ、この結果ブームを迂回操作することにより最適な吊り荷の上げ降ろし位置に移動させることができ、吊り荷の上げ降ろし範囲の自由度を拡大し、安全に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】塔上クレーンの正面図である。
【図2】本発明に係るブーム作業域規制装置の正面図である。
【図3】図2のブーム作業域規制装置の平面図である。
【図4】支持金具の正面図である。
【図5】支持金具の側面図である。
【図6】ブームの起伏動作の説明図である。
【図7】ブームの旋回動作の説明図である。
【図8】塔上クレーンの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図について本発明の実施の一形態を説明する。
図1において、作業域規制装置10は、ブーム4上の想定される緩衝部分との接触範囲を間に含む長手方向に間隔を置いた二箇所に設けられる支持金具11,12と、両支持金具11,12間に張られる緩衝線13とを備えている。
【0009】
ブーム4の先端側の支持金具11は、図2及び図3に示すように、ブーム4の側部において上部構成材及び下部構成材にU字ボルト14aで縦方向に固定される矩形のベースプレート14と、ベースプレート14の四隅から直角に側方へ立ち上がりさらに上方に延出するフレーム15と、フレーム15の上部においてブーム4より上方位置に固着された係止板16とを具備する。係止板16は、横方向に一対対向して縦方向に配置され、係止板16の上部間を渡る係止ピンに緩衝線13の一端がターンバックル17を介して連結される。
【0010】
支持金具12は、支持金具11とほぼ同様にしてブーム4の側部において上部構成材及び下部構成材にU字ボルト18aで縦方向に固定される矩形のベースプレート18と、ベースプレート18の四隅から直角に側方へ立ち上がり上方に延出するフレーム19と、フレーム19の上部においてブーム4より上方位置に固着された係止板20とを具備する。係止板20は、横方向に一対対向して縦方向に配置される。図4,図5に示すように、係止板20の前側上部には、緩衝線13の一端を係止するトリガ片21が前後方向に回転自在に軸支される。トリガ片21は、略L字状板片で構成され、その角部に緩衝線13が係止され、その長辺部の先端部が係止板20,20間を渡る枢軸21aに支持される。トリガ片21の短辺部の先端部には、係止板20の後側上端部に係止されたばね22が係止される。ばね22は、トリガ片21を後方へ引き込むように回転付勢している。係止板20の内側には、マイクロスイッチ23が固定されている。マイクロスイッチ23は、垂直状態のトリガ片21の長辺部の縁が当接する位置にあり、係止板20,20間を渡るストッパ24によりばね22に引かれた回転を阻止されて位置決めされ、常時ON状態にある。このマイクロスイッチ23は、ブーム4を移動制御する図示しない制御装置に接続されて、トリガ片21の前方回転によりOFFしブーム4を停止させる。
【0011】
この作業域規制装置10においては、ばね22によりトリガ片21が後方へ回転付勢され、ストッパ24に押し当てられると共に、ターンバックル17により緩衝線13を張力調整して弛みなく張った状態に設置する。このとき、マイクロスイッチ23はON状態が維持され、ブーム4を自由に移動操作できる。ブーム4を起伏、旋回させているとき、図6,図7に示すように、当該腕金T2や上段の腕金T1などの鉄塔設備にブーム4が接近すると、これらに接触する前に緩衝線13が接触する。緩衝線13が鉄塔設備に接触して屈曲変形すると、ばね22の付勢力に抗してトリガ片21を引っぱり緩衝線13側に回転させる。トリガ片21が回転すると、マイクロスイッチ23がOFFしブーム4が停止するため、ブーム4と鉄塔設備との接触が回避される。制御装置の所定の回復操作によりブーム4を鉄塔設備から離すと、緩衝線13が鉄塔設備から離れて緩衝線13が原形に復元されると共に、ばね22の付勢によりトリガ片21が復帰回転し、マイクロスイッチ23がONし、ブーム4の移動操作が可能になる。
【符号の説明】
【0012】
1 塔上クレーン
4 ブーム
10 作業域規制装置
11 支持金具
12 支持金具
13 緩衝線
16 係止板
17 ターンバックル
20 係止板
21 トリガ片
22 ばね
23 マイクロスイッチ
24 ストッパ
T1 腕金
T2 腕金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔の腕金上に取り付けられ、ブームを旋回、起伏させる塔上クレーンのブームの移動による鉄塔設備との接触を回避するための塔上クレーンの作業域規制装置において、
前記鉄塔設備との緩衝部分を含むブーム上の長手方向の二箇所に設けられる支持金具と、
両支持金具間に張設される緩衝線とを具備し、
前記緩衝線を係止して、一方の前記支持金具に原位置に復帰可能に付勢されつつ移動可能に支持され、緩衝線の鉄塔設備との接触による変形により引かれて変位するトリガ片と、
前記一方の支持金具の前記トリガ片に臨む位置に固定され、トリガ片の原位置からの変位により作動して、前記ブームを停止させるスイッチとを具備することを特徴とする塔上クレーンの作業域規制装置。
【請求項2】
前記トリガ片は、前記支持金具に回転可能に枢支され、支持金具との間に係止されたばね部材により緩衝線を引き込む方向に付勢されることを特徴とする請求項1に記載の塔上クレーンの作業域規制装置。
【請求項3】
前記緩衝線は、これに接続されるターンバックルにより張力調整されることを特徴とする請求項1に記載の塔上クレーンの作業域規制装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate