説明

塔構造物の主柱材取替装置及び主柱材取替方法

【課題】固定具の固定位置の制限が少なくて、多様な塔構造物の主柱材の取替を行うことができて高い汎用性を有し、また、残存する主柱材への負担が小さく、また、残存する主柱材の強度低下を防止できる塔構造物の主柱材取替装置及び主柱材取替方法を提供する。
【解決手段】主柱材取替装置1は、取替対象の主柱材P2の上側に連なる上側主柱材P3に固定される上側固定具2と、主柱材P2の上側に連なる下側主柱材P1に固定される下側固定具3を備える。上側固定具2と下側固定具3との間に、支持部材4とネジ調整部8とジャッキ9の列を幅方向の両端に2列配置する。上側及び下側固定具2,3を、互いに密着したライナー6L,6Rと主柱材P1,P3をクランプ7で押圧して、主柱材P1,P3に固定する。クランプ7は、ライナー6L,6Rと主柱材P1,P3との接触面を中心軸が交差すると共に、先端部に円錐突起73dが形成された押圧ボルト72を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば送電線用鉄塔の主柱材を取り替えるための主柱材取替装置及び主柱材取替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線用鉄塔は、山形鋼や鋼管等の鋼材で形成され、経年変化や災害等に起因して部材に腐食や変形等の損傷が生じた場合、損傷した部材の取替が行われている。取替対象の部材が主柱材である場合、主柱材で形成される主柱は鉄塔の自重及び荷重の大部分を支持するので、取替作業は鉄塔の安定性や送電線に大きな影響を与える。したがって、送電経路を迂回させる仮線路を設け、送電線を鉄塔から取り外して主柱材の取替作業を行うのが安全であるが、仮線路の設置と送電経路の変更には多額の費用がかかる不都合がある。
【0003】
そこで、送電線を架線した状態で鉄塔の主柱材の取替えを行う方法として、特許文献1のような嵩上工法を利用することが考えられる。この嵩上工法は、既設の鉄塔に、腕金が設けられた上部を囲む仮設鉄塔を設置し、送電線を腕金から撤去して仮設鉄塔に仮止めした後、腕金を鉄塔から撤去すると共に仮設鉄塔に仮腕金を設置する。この仮腕金に送電線を移設した後、鉄塔を、仮設鉄塔を支持する下部と、仮設鉄塔に囲まれる上部とに分離し、この上部を所定高さまで上昇させて仮設鉄塔で支持する。この後、鉄塔の上部と下部との間に新たな部材を組み付け、上部に新たな腕金を設置して送電線を仮腕金から移設する。最後に、仮腕金と仮設鉄塔を撤去して、嵩上げされた鉄塔が得られる。この嵩上工法を利用すれば、鉄塔又は仮設鉄塔に架線した状態で、主柱材を取替えることができる。
【0004】
しかしながら、上記嵩上工法を利用した主柱材の取替方法は、腕金と仮腕金との間で送電線を移設する工程で送電を停止する必要があるので、停電が生じる不都合がある。
【0005】
そこで、送電線に通電しながら鉄塔の主柱材を取替えるため、特許文献2のような主柱材の取替工法が提案されている。この主柱材の取替工法は、対象の主柱材の上側に連なる上側主柱材と、対象の主柱材の下側に連なる下側主柱材とに固定具を固定し、これら上側と下側の固定具の間に、ジャッキが介設された支持部材を設置する。上記ジャッキを伸張させて主柱材の荷重を支持部材に移した後、対象の主柱材を除去して新たな主柱材を組み付けて、主柱材の取替を行っている。
【0006】
上記主柱材の取替工法では、主柱材が鋼管である場合、上記固定具に、フランジを有する半割り円筒状の締付部材を設けている。これら2つの締付部材を鋼管の外周面に嵌合し、互いのフランジをボルトナットで固定して鋼管の外周面を締め付けて、固定具を主柱材に固定している。これと共に、取替対象の主柱材から遠い側のフランジに、締付部材の端面を係止させて、ずれ止めを行っている。一方、主柱材が山形鋼である場合、上記固定具に、山形鋼の内側面と外側面とに配置され、山形鋼よりも幅広で山形の2つの締付部材を設けている。これら2つの締付部材で山形鋼の両面を挟み、締付部材の縁部をボルトナットで固定して山形鋼の両面を締め付けて、固定具を主柱材に固定している。これと共に、主柱材に設けられたガセットプレートの縁に、バンドの端面を係止させて、ずれ止めを行っている。
【0007】
また、送電線に通電しながら鉄塔の主柱材を取替えるために、特許文献3に記載された塔状鋼構造物の残留応力除去方法を利用することができる。この残留応力除去方法では、対象の主柱材の上側に連なる上側主柱材と、対象の主柱材の下側に連なる下側主柱材とに、ボルトナットで固定具を固定している。これら上側と下側の固定具の間に、ジャッキが介設された支持部材を設置し、ジャッキを伸張させて主柱材の荷重を支持部材に移した後、対象の主柱材を切断して残留応力を解消する。この後、互いの切断部を隔てた状態で、切断部間を接続する接続部材を主柱材に固定している。この残留応力除去方法において、対象の主柱材の切断と接続部材の固定に替えて、対象の主柱材を撤去し、新たな主柱材を組み付けることにより、主柱材の取替を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−110407号公報
【特許文献2】特開平10−153015号公報
【特許文献3】特開2003−56208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の主柱材の取替工法は、固定具を、上側主柱材と下側主柱材のフランジやガセットプレートに係止させる必要があるので、フランジやガセットプレートの周辺に金具やボルトが設けられている場合、固定具を主柱材に固定し難い問題がある。また、ガセットプレートを有しない主柱材には、固定具のずれ止めができないので、固定具を安定して固定できないという問題がある。
【0010】
また、固定具を、上側主柱材と下側主柱材のフランジであって、取替対象の主柱材から遠い側のフランジに係止させるので、上側の固定具と下側の固定具との間の距離が比較的大きい。したがって、固定具の間に設置する支持部材の寸法が比較的長くなり、その結果、強度を確保するために支持部材の規格が大型化して重量が増大するので、固定具が固定される主柱材に与える負荷が大きいという問題がある。
【0011】
一方、特許文献3の塔状鋼構造物の残留応力除去方法を利用した取替方法は、固定具を主柱材にボルトナットで固定するので、主柱材にボルト孔による断面欠損が生じる。したがって、残存する主柱材の強度低下を招く不都合がある。
【0012】
そこで、本発明の課題は、固定具の固定位置の制限が少なくて、多様な塔構造物の主柱材の取替を行うことができて高い汎用性を有し、また、残存する主柱材への負担が小さく、また、残存する主柱材の強度低下を防止できる塔構造物の主柱材取替装置及び主柱材取替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の塔構造物の主柱材取替装置は、取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に各々固定される2つの固定具と、これら2つの固定具の間にジャッキが介在されて設置される支持部材とを備えた主柱材取替装置において、
上記固定具は、
固定具本体に連結され、上記主柱材の表面に接する摩擦部材と、
上記主柱材と摩擦部材との接触面に中心軸が交差する状態で、上記主柱材及び摩擦部材の少なくとも一方に接触して押圧力を作用させる少なくとも1つの押圧ボルトを有し、上記主柱材と摩擦部材とを押圧して挟持する押圧具と
を有することを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、押圧具の押圧ボルトにより、主柱材と摩擦部材の少なくとも一方に、これら主柱材と摩擦部材との接触面を交差する方向に押圧力を作用させるので、主柱材と摩擦部材とを強固に密着させて強力な摩擦力が得られる。したがって、従来の主柱材の取替工法のように締付部材で主柱材を締め付けるよりも、固定具を主柱材に強固に固定できる。これにより、上記固定具は、ずれ止めが不要となり、フランジやガセットに近接する位置に固定する必要が無いので、主柱材の任意の位置に固定できる。その結果、固定具を固定する位置が制限され難いので、従来よりも多くの種類の塔構造物に用いることができ、汎用性の高い主柱材取替装置が得られる。
【0015】
さらに、上記固定具は、取替対象の主柱材から遠い位置のフランジやガセットに当接させる必要が無いので、2つの固定具は互いに近い位置に固定でき、したがって、2つの固定具の間に設置する支持部材の長さを従来よりも短くできる。その結果、支持部材の大型化を防止して主柱材取替装置を軽量化できて、固定具が固定される主柱材の負荷を少なくできる。
【0016】
一実施形態の塔構造物の主柱材取替装置は、上記固定具が有する押圧具の押圧ボルトは、先端部に、上記主柱材又は摩擦部材に押圧力を作用させるに伴って上記主柱材又は摩擦部材の表面部分に塑性変形を生じさせる突起が設けられている。
【0017】
上記実施形態によれば、押圧ボルトの先端部に設けられた突起が、主柱材又は摩擦部材の表面部分に塑性変形を生じさせて食い込むことにより、押圧ボルトの緩みが効果的に防止され、押圧ボルトによる主柱材又は摩擦部材への押圧力を安定して保持できる。したがって、主柱材と摩擦部材を安定して互いに強固に固定でき、その結果、固定具を安定して強固に主柱材に固定できる。
【0018】
一実施形態の塔構造物の主柱材取替装置は、上記支持部材は、使用する種類及び個数によって全体の長さが調整可能な1つ又は複数の単位部材で形成され、
上記固定具、ジャッキ及び支持部材のうちのいずれか2つの間に、ネジの螺合位置に応じて長さが調節可能なネジ調整部を備える。
【0019】
上記実施形態によれば、単位部材の種類及び個数を選択して支持部材の長さを調節する。これと共に、ネジの螺合位置を調節してネジ調節部の長さを調節する。これにより、支持部材とネジ調整部とジャッキとをあわせた長さを、主柱材に固定された2つの固定具の間の距離に適合させることができる。したがって、主柱材への固定具の固定位置を、支持部材やジャッキの長さによる制限を受けることなく、高い自由度で選択できる。その結果、この主柱材取替装置は、取替対象の主柱材の長さや、固定具を固定する主柱材における金具やボルト等の設置状況に影響を受けることなく、多様な塔構造物に設置できるので、高い汎用性が得られる。
【0020】
本発明の他の側面による塔構造物の主柱材取替装置は、取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に各々固定される2つの固定具と、
上記2つの固定具の間にジャッキが介在されて設置される支持部材と、
上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱と、上記支持部材との間に設置される仮副材と、
上記仮副材の一端を、上記隣接主柱に、この隣接主柱の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第1の仮副材固定具と、
上記仮副材の他端を、上記支持部材に、この支持部材の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第2の仮副材固定具と
を備えることを特徴としている。
【0021】
上記構成によれば、取替対象の主柱材の両端に連なる主柱材に固定具を介して設置される支持部材と、取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱との間に設置される仮副材により、塔構造物が補強される。特に、主柱材の撤去に伴い、この主柱材に対する副材の接続が解消されて、塔構造物のトラス構造が失われても、仮副材により、支持部材を介して仮設のトラス構造を形成することができる。したがって、主柱材の取替作業で主柱材が撤去されても、塔構造物を安定に保持することができ、その結果、送電状況に影響を与えることなく取替作業を行うことができる。
【0022】
一実施形態の塔構造物の主柱材取替装置は、上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱と、上記支持部材との間に設置される仮副材と、
上記仮副材の一端を、上記隣接主柱に、この隣接主柱の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第1の仮副材固定具と、
上記仮副材の他端を、上記支持部材に、この支持部材の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第2の仮副材固定具と
を備える。
【0023】
上記実施形態によれば、摩擦部材と押圧具とを有する固定具が主柱材に固定される主柱材取替装置において、2つの固定具の間に設置される支持部材と、隣接主柱との間に設置される仮副材により、塔構造物が補強される。特に、主柱材の撤去に伴い、この主柱材に対する副材の接続が解消されて、塔構造物のトラス構造が失われても、仮副材により、支持部材を介して仮設のトラス構造を形成することができる。したがって、主柱材の取替作業で主柱材が撤去されても、塔構造物を安定に保持することができる。さらに、固定具を用いることで支持部材の長さを従来よりも短縮し、かつ、仮副材によって塔構造物を安定に保持することにより、従来は困難であった複数連の主柱材の取替が可能となる。
【0024】
一実施形態の塔構造物の主柱材取替装置は、上記仮副材は、ボルトで連結される2つの部材で形成され、これら2つの部材は、長さ方向に等間隔をおいて形成された複数のボルト孔を各々有し、各部材のボルト孔の間隔が、部材の間で異なる値に設定されている。
【0025】
上記実施形態によれば、一方の部材のボルト孔と他方の部材のボルト孔とに挿通するボルトで互いの部材を連結して、仮副材を形成する。ここで、一方の部材のボルト孔と、他方の部材のボルト孔とが、異なる間隔に形成されているので、仮副材の長さを、互いの部材のボルト孔が同じ間隔で形成されるよりも小さい間隔おきに調節できる。したがって、主柱と隣接主柱との間の距離や仮副材の設置位置に応じて、仮副材の長さを高精度に調節できるので、多様な塔構造物における種々の位置の主柱材の取替に適用することができる。その結果、主柱材の取替作業における塔構造物の強度を保持でき、しかも、汎用性の高い主柱材取替装置が得られる。
【0026】
本発明の塔構造物の主柱材取替方法は、取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に、これらの主柱材の表面に摩擦部材が接するように2つの固定具を各々配置する工程と、
上記2つの固定具の各々について、上記主柱材と摩擦部材とを押圧具で挟み、この押圧具に設置されて上記主柱材と摩擦部材との接触面に中心軸が交差する押圧ボルトを、上記主柱材及び摩擦部材の少なくとも一方に接触させて押圧力を作用させて、主柱材に固定具を固定する工程と、
上記2つの固定具の間に、ジャッキを介在させて支持部材を設置する工程と、
上記ジャッキを伸張させて、上記取替対象の主柱材の荷重を支持部材に移す工程と、
上記取替対象の主柱材を撤去し、新たな主柱材を取り付ける工程と
を備えることを特徴としている。
【0027】
上記構成によれば、主柱材に固定具を固定する工程で、押圧具の押圧ボルトにより、主柱材と摩擦部材の少なくとも一方に、これら主柱材と摩擦部材との接触面を交差する方向に押圧力を作用させるので、主柱材と摩擦部材とを強固に密着させて強力な摩擦力が得られる。したがって、従来の主柱材の取替工法のように締付部材で主柱材を締め付けるよりも、固定具を主柱材に強固に固定できる。これにより、上記固定具は、ずれ止めが不要であり、フランジやガセットに近接する位置に固定する必要が無いので、主柱材の任意の位置に固定できる。その結果、固定具を固定する位置が制限され難いので、従来よりも多くの種類の塔構造物の主柱材を取替えることができて、従来よりも高い汎用性で主柱材の取替を行うことができる。
【0028】
さらに、上記固定具は、取替対象の主柱材から遠い位置のフランジやガセットに当接させる必要が無いので、2つの固定具は互いに近い位置に固定でき、したがって、2つの固定具の間に設置する支持部材の長さを従来よりも短くできる。その結果、支持部材の大型化を防止して、主柱材の取替に用いる装置を軽量化できて、固定具が固定される主柱材への負担を少なくできる。
【0029】
本発明の他の側面による塔構造物の主柱材取替方法は、取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に、2つの固定具を各々固定する工程と、
上記2つの固定具の間に、ジャッキを介在させて支持部材を設置する工程と、
上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱に第1の仮副材固定具を固定すると共に、上記支持部材に第2の仮副材固定具を固定して、上記隣接主柱と上記支持部材との間に仮副材を設置する工程と、
上記ジャッキを伸張させて、上記取替対象の主柱材の荷重を支持部材に移す工程と、
上記取替対象の主柱材を撤去し、新たな主柱材を取り付ける工程と
を備えることを特徴としている。
【0030】
上記構成によれば、取替対象の主柱材の両端に連なる主柱材に固定具を介して設置される支持部材と、取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱との間に仮副材を設置して、塔構造物を補強する。特に、主柱材の撤去に伴い、この主柱材に連結された副材を取り外すことにより、塔構造物のトラス構造が失われても、仮副材により、支持部材を介して仮設のトラス構造を形成することができる。したがって、主柱材を撤去しても、塔構造物を安定に保持することができ、その結果、送電線に通電しながら取替作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る塔構造物の主柱材取替装置を示す正面図である。
【図2】固定具を示す平面図である。
【図3】摩擦部材を示す正面図である。
【図4】押圧具を示す平面図である。
【図5】押圧ボルトの先端部を示す断面図である。
【図6】仮副材を構成する2つの部材の連結部を示す平面図である。
【図7A】主柱材の取替を行う鉄塔を示す模式図である。
【図7B】鉄塔の主柱材を撤去した様子を示す模式図である。
【図8A】主柱材の取替を行う他の鉄塔を示す模式図である。
【図8B】仮副材を設置しないで鉄塔の主柱材を撤去した様子を示す模式図である。
【図8C】仮副材を設置して鉄塔の主柱材を撤去した様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
本実施形態では、塔構造物としての送電線用鉄塔に関し、鉄塔の主柱を構成する主柱材を取替える場合について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る塔構造物の主柱材取替装置を示す正面図である。この主柱材取替装置1は、山形鋼で形成された主柱において、腕金が連結された主柱材よりも下方の主柱材の取替に好適に用いられ、この主柱材の取替作業を、送電線に通電した状態で実行可能とするものである。
【0034】
図1に示すように、主柱材取替装置1は、送電線用鉄塔の主柱Pの構成部材である主柱材P2を取替えるために、取替対象の主柱材P2の上側に連なる上側主柱材P3から、取替対象の主柱材P2の下側に連なる下側主柱材P1にかけて設置される。この主柱材取替装置1は、上側主柱材P3に固定される上側固定具2と、下側主柱材P1に固定される下側固定具3を備える。上側固定具2と下側固定具3との間には、上側から順に、鋼管で形成された支持部材4と、ネジ調整部8と、ジャッキ9が設置されている。これら支持部材4、ネジ調整部8及びジャッキ9の列が、固定具2,3の幅方向の両端に2列設置されている。
【0035】
図2は、上側固定具2を示す平面図である。この上側固定具2は、正面視において概ね台形状を有すると共に、平面視において矩形状を有する本体フレーム21を有し、この本体フレーム21の中央を、上側主柱材P3が上下方向に貫通している。本体フレーム21の内側には、正面視において概ね矩形状を有すると共に平面視において概ね平行四辺形の2つのライナー固定金具23,23が、平面視において左右対称をなすようにボルトナット24,25で固定されている。これら本体フレーム21とライナー固定金具23,23が、本発明の固定具本体に該当する。上記2つのライナー固定金具23,23の互いに向かい合う面に、摩擦部材としてのライナー6L,6Rが、互いに直角をなすようにボルトナットで夫々固定されている。ライナー6L,6Rは、表面にリン酸塩処理が施された鋼材で形成されている。上側固定具2の下側面の両端には2つの固定プレート22,22が設けられており、これら2つの固定プレート22に、主柱Pと平行に延びる2つの支持部材4,4の上端部41a,41aが連結されている。
【0036】
図3は、2つのライナー固定金具23,23に互いに直角をなして固定される2つのライナー6L,6Rを、同一平面上に展開して示した正面図である。図2及び3に示すように、左右のライナー6L,6Rは、山形鋼で形成された上側主柱材P3の2つの外側面に接すると共に、左右のライナー6L,6Rの互いに遠い側の縁が、上側主柱材P3の両側縁に概ね一致するように形成されている。ライナー6L,6Rの互いに遠い側の縁の近傍には、上部と下部に、後述するクランプ7の押圧ボルト72が係合する複数の有底孔61a,61b,62a,62b,・・・が設けられている。これら有底孔61a,61b,62a,62b,・・は、幅方向の外側と内側とで2列の群をなして形成されており、外側列の有底孔と内側列の有底孔にクランプ7の押圧ボルト72の先端部を係合させることにより、幅広の主柱材と、幅狭の主柱材とのいずれも固定可能に形成されている。すなわち、幅広の主柱材を固定する場合は、外側列の有底孔61a,61b,61c,61d,61e,61f,61g,61hに、クランプ7の押圧ボルト72を係合させる。一方、幅狭の主柱材を固定する場合は、内側列の有底孔62a,62b,62c,62d,62e,62f,62g,62hに、クランプ7の押圧ボルト72を係合させるようになっている。また、ライナー6L,6Rの互いに遠い側の縁部には、上部と下部に、内側列の有底孔62a,・・・,62hの側方に、複数の凹所65,65,・・・が形成されている。これら複数の凹所65,65,・・・は、幅狭の主柱材を固定する際に、クランプ7の本体71を嵌合させるものである。このように、ライナー6L,6Rに2列の有底孔61a,・・・61h,62a,・・・62hを設け、かつ、内側列の有底孔62a,・・・,62hの側方に複数の凹所65,65,・・・を設けることにより、クランプ7によって2種類の幅の主柱材に固定可能になっている。このライナー6L,6Rには、上部の左側と右側にクランプ7を2個ずつ用いると共に、下部の左側と右側にクランプ7を2個ずつ用いて、合計8個のクランプ7で上側主柱材P3に固定するようになっている。ライナー6L,6Rの長手方向の中央寄りには、ライナー6L,6Rをライナー固定金具23に固定するための複数のボルト挿通孔66,66,・・・が設けられている。
【0037】
図4は、押圧具としてのクランプ7を示す平面図である。クランプ7は、平面視において略C字形状を有する本体71と、この本体71に螺合する2つの押圧ボルト72,72で構成されている。本体71は、所定間隔をおいて突出した2つの突出部71a,71aに、雌ネジが形成されて中心軸が一致するボルト挿通孔71b,71bが各々設けられている。これらのボルト挿通孔71b,71bに、先端を互いに向き合わせた状態で、押圧ボルト72,72の軸部72bが螺合している。このクランプ7は、本体71の突出部71a,71aに螺合した押圧ボルト72,72の軸部72b,72bの先端が遠ざかった状態で、突出部71a,71aの間の凹所をライナー6L,6Rと上側主柱材P3の側部に嵌合させる。続いて、ボルトヘッド72aを介して押圧ボルト72を回転駆動し、2つの押圧ボルト72の軸部72b,72bの先端を近づけて、各軸部72b,72bの先端部をライナー6L,6Rと上側主柱材P3の外側面に押圧することにより、互いの接触面を交差する方向に押圧力を作用させるようになっている。押圧ボルト72の軸部72bの先端面の中央には、図5の断面図に示すように、突起として、円錐突起73dと環状峰73eとが設けられている。詳しくは、押圧ボルト72の軸部72bの先端面に、この先端面と同心のV字断面の環状溝73cが設けられており、この環状溝73cの内径側の斜面によって円錐突起73dが形成されている。これと共に、先端面の環状溝73cの外径側の斜面と、軸部72bの側面と端面との間に設けられた面取りの円錐面とで、径方向において三角形断面を有して先端が環状の峰を描く環状峰73eが形成されている。2つの押圧ボルト72の軸部72b,72bの先端部を、ライナー6L,6Rと上側主柱材P3の外側面に押圧する際、上記円錐突起73dと環状峰73eが、ライナー6L,6Rと上側主柱材P3の表面部分に塑性変形を生じさせて食い込む。これにより、押圧ボルト72の緩みを効果的に防止し、押圧ボルト72で上側主柱材P3とライナー6L,6Rに作用させる押圧力を安定して保持できるようになっている。
【0038】
なお、押圧ボルト72の軸部72b,72bの先端部に設けられる突起は、円錐突起73dと環状峰73eのいずれか一方であってもよい。また、突起の形状は、円錐形状及び環状に、角錐形状や、複数の円錐形状又は角錐形状や、複数の環状であってもよい。
【0039】
上記上側固定具2と下側固定具3との間に配置される支持部材4は、長さの異なる複数種類の単位部材としての鋼管ピース41,42,43,44によって形成されている。上側及び下側固定具2,3を主柱部材P1,P3に固定した後、これら上側固定具2と下側固定具3の間の距離に応じて鋼管ピース41,42,43,44の種類と数を設定することにより、高い自由度で支持部材4の長さを調整可能になっている。
【0040】
支持部材4の下端には、ネジ調整部8が接続されている。ネジ調節部8は、雄ネジで形成されたネジ本体81と、支持部材4の下端に固定され、ネジ本体81の上側部分に螺合する上側フランジ82と、ジャッキ9の上端に固定され、ネジ本体81の下側部分に螺合する下側フランジ83と、上側フランジ82が下端に固定された接続鋼管84を有して構成されている。このネジ調整部8は、上側フランジ82又は下側フランジ83をネジ本体81に対して回転させて、軸方向の全体の長さを調節するようになっている。上記鋼管ピース41,・・・44の種類と数によって支持部材4の全長を調整した後、このネジ調整部8の全長を調整することにより、上側固定具2と下側固定具3の間の距離に応じて、支持部材4とジャッキ9とネジ調整部8との全長を正確に適合させることが可能になっている。
【0041】
ジャッキ9は、シリンダ91とロッド92とロッド接続鋼管93とを有して構成される。シリンダ91は、下側固定具3の固定プレート32に固定されると共に、図示しない油圧ポンプに接続されている。ロッド接続鋼管93は、シリンダ91で進退駆動されるロッド92の先端に下端が固定されると共に、上端に、ネジ調整部8の下側フランジ83が固定される。このジャッキ9は、取替対象の主柱材P2と支持部材4との間で荷重を移す際に、操作者による油圧ポンプの操作に基づいてシリンダ91を伸縮駆動し、上側固定具2と下側固定具3との間の距離を調節するようになっている。
【0042】
下側固定具3は、上側固定具2を上下対称に配置したような構成を有し、本体フレームの中央を、下側主柱材P1が上下方向に貫通している。下側固定具3の内部には、上側固定具2と同様に、ライナー固定金具23,23によってライナー6L,6Rが固定されている。このライナー6L,6Rに下側主柱材P1の外側面を接触させ、ライナー6L,6Rの上部と下部に4個ずつ配置したクランプ7により、ライナー6L,6Rと下側主柱材P1とを互いに押圧して、下側主柱材P1に下側固定具3を固定するようになっている。
【0043】
図6は、主柱材取替装置1の支持部材4と、取替対象の主柱材P2を有する主柱Pに隣接する主柱との間に設置される仮副材Tを示す平面図である。仮副材Tは、山形鋼で形成された2つの部材Ta,Tbを4つのボルト13,13で固定して形成されている。仮副材Tを形成する第1部材Taと第2部材Tbには、ボルト孔11,12が夫々等間隔に形成されている。第1部材Taに等間隔に形成されたボルト孔11,11,・・・の間隔D1は、第2部材Tbに等間隔に形成されたボルト孔12,12,・・・の間隔D2よりも、大きく設定されている。これにより、仮副材Tの長さを、互いの部材のボルト孔が同じ間隔で形成されるよりも小さい間隔おきに調節できるようになっている。例えば第1部材Taの挿通孔11,11,・・・の間隔D1を43mmとし、第2部材Tbの挿通孔12,12,・・・の間隔D2を40mmとし、ボルト孔11,12の径を19mmとした場合、軸部の径が16mmのボルト13を518mmの離隔D3をおいて取り付けることができる。また、518mmの離隔D3をおいたボルト13の互いに遠い側に、さらなるボルトD13を隣接して夫々取り付けることができる。上記離隔D13でボルト13を2個ずつ取り付ける場合、2つの部材Ta,Tbのボルト孔11、12に対するボルト13の取り付け位置を適宜変更することにより、2つの部材Ta,Tbが重なり合う長さを実質的に無段階に調節できて、仮副材Tの長さを実質的に無段階に調節することができる。このように、第1部材Taに形成するボルト孔11の間隔D1と、第2部材Tbに形成するボルト孔12の間隔D2を異なる値とし、ボルト13の軸部の径を、上記ボルト孔11、12の径よりも小さく設定することにより、上記ボルト孔11,12の間隔D1,D2における差分と、ボルト13の軸部の径とボルト孔11,12の径における差分から定まる調整しろを得ることができ、その結果、仮副材Tの長さを高精度に調整することが可能となる。なお、ボルト13の個数は、第1部材Taと第2部材Tbとの固定強度が得られれば何個でもよい。このように、仮副材Tは、長さが高精度に調整可能となっているため、主柱Pと隣接主柱との間の距離や、仮副材の設置位置に対応することができ、これにより、多様な鉄塔における種々の位置の主柱材の取替に適用可能となっている。
【0044】
次に、上記構成の主柱材取替装置1を用いて、鉄塔の主柱材P2を取替える方法について説明する。
【0045】
図7Aは、取替作業を行う鉄塔S1のうち、取替対象の主柱材P2の周辺部分を示す模式図である。図7Aは、鉄塔S1が有する4つの主柱のうち、主柱材P2が包含される主柱Pと、この主柱Pに隣接する一方の隣接主柱PNとの間の面を示している。この鉄塔S1は、ブライヒ構造を有し、取替対象の主柱材P2に設けられた部材結合点は1つであることから、主柱材P2を撤去した場合においても、シングルワーレントラス構造が残存する。したがって、仮副材Tを用いることなく取替作業が可能である。
【0046】
まず、下側固定具3の内部のライナー固定金具23,23に、下側主柱材P1の寸法に応じたライナー6L,6Rを固定する。この後、下側主柱材P1の上端の近傍であって、取替対象の主柱材P2との接続部に近い位置の外側面に、ライナー6L,6Rの表面が接するようにライナー6L,6Rを配置する。続いて、ライナー6L,6Rの有底孔61a,・・・61hに、一方の押圧ボルト72の先端部が嵌合するようにクランプ7を配置する。クランプ7は、一方の押圧ボルト72がライナー6L,6Rの表面に対して直角をなすと共に、他方の押圧ボルト72が下側主柱材P1の内側面に対して直角をなすように配置する。この後、各クランプ7について、両方の押圧ボルト72をトルクレンチ等の締結具で締結して、両方の押圧ボルト72を互いの軸部72bの先端が近づく方向に螺進させる。これにより、両方の押圧ボルト72が、これら押圧ボルト72の中心軸がライナー6L,6Rと下側主柱材P1との接触面を交差する状態で、これらライナー6L,6Rと下側主柱材P1に押圧力を作用させる。その結果、ライナー6L,6Rと下側主柱材P1とを強固に密着させて、強力な摩擦力を得て、下側主柱材P1に下側固定具3を強固に固定することができる。また、上側固定具2についても、下側固定具3と同様にして、クランプ7でライナー6L,6Rと上側主柱材P3を押圧して、上側固定具2を下側主柱材P3に固定する。
【0047】
ここで、上側及び下側固定具2,3は、クランプ7とライナー6L,6Rによって上側及び下側主柱材P3,P1に固定できるので、従来のようにガセットプレートやフランジに固定具を係止させてずれ止めを行う必要が無い。したがって、上側及び下側主柱材P3,P1には、外側にライナー6L,6Rを密着させ、内側にクランプ7の押圧ボルト72を押圧できれば上側及び下側固定具2,3を固定できるので、従来よりも高い自由度で上側及び下側固定具2,3の固定位置を選択でき、その結果、主柱材取替装置1の汎用性の向上が可能となる。さらに、上側及び下側固定具2,3は、取替対象の主柱材P2から遠い位置のフランジやガセットに当接させる必要が無いので、上側固定具2の固定位置と下側固定具3の固定位置との間の距離を従来よりも短くでき、したがって、これらの固定具2,3の間に設置する支持部材4の長さを従来よりも短くできる。その結果、支持部材4を従来よりも小型のものを用いることができ、主柱材取替装置1を軽量化できて、上側主柱材P3と下側主柱材P1への負荷を少なくできる。さらに、鉄塔S1の全体の荷重バランスに対する影響を少なくできる。
【0048】
上側及び下側固定具2,3の固定が完了すると、下側固定具3の固定プレート32にジャッキ9のシリンダ91を固定し、シリンダ91に油圧配管を接続して、下側固定具3にジャッキ9を動作可能に設置する。
【0049】
この後、上側固定具2と下側固定具3の間の距離を測定し、測定値に適合する支持部材4の長さを設定し、この設定長さに適合する鋼管ピース41,・・・44の種類と数を決定する。決定された種類と数の鋼管ピース41,・・・44を互いに連結して支持部材4を作製し、この支持部材4の上端部41a,41aを上側固定具2の固定プレート22,22に連結する。この後、ネジ調整部8のネジ本体81を下側フランジ83に対して回動させ、また、ネジ本体81に対して上側フランジ82及び接続鋼管84を回動させて、ネジ調整部8の長さ調節を行う。ネジ調整部8の長さ調節により、接続鋼管84の上端のフランジが、支持部材4の下端に設けられた鋼管ピース44の下端のフランジに接すると、上記接続鋼管84と鋼管ピース44をボルトナットで固定する。こうして、主柱Pに予め固定された上側固定具2と下側固定具3の左右両端の間に、2組の支持部材4とジャッキ9とネジ調整部8を、各々の全長を調整して設置する。支持部材4の設置が完了すると、支持部材4と隣接主柱PNとの間に、振れ止め用の補強ワイヤーを掛け渡す。
【0050】
この後、主柱材P2に接続されている斜材B22,B23や水平材H1や補助材を、これらの結合位置に締結されていたボルトナットを取り外して、主柱材P2から切り離す。続いて、主柱材P2と下側主柱材P1を接続するボルトナットと、主柱材P2と上側主柱材P3を接続するボルトナットを緩め、油圧ポンプを作動させてシリンダ91を伸張駆動し、主柱材P2に作用していた荷重を支持部材4に移す。支持部材4に荷重が移ると、主柱材P2を撤去し、新たな主柱材を、下側主柱材P1の上端と上側主柱材P3の下端との間に組み付ける。
【0051】
新たな主柱材を組み付けた後、ジャッキ9を収縮駆動して支持部材4の荷重を主柱材に移し、ネジ調整部8、支持部材4及びジャッキ9を撤去する。最後に、下側主柱材P1から下側固定具3を撤去し、上側主柱材P3から上側固定具2を撤去して、取替作業が完了する。
【0052】
この鉄塔S1の主柱材P2の取替作業では、図7Bのように、主柱材P2を撤去すると、斜材B22,B23の荷重伝達機能が消失する。一方、斜材B11,B12,B13の荷重伝達機能は残存するので、これらの斜材B11,B12,B13により構成されるシングルワーレントラス構造が残存する。したがって、隣接主柱PNと主柱材取替装置1に対する負荷が比較的小さいため、仮副材Tを設置することなく、主柱材P2の取替作業を行うことができる。なお、図7Bでは、荷重伝達機能が実質的に失われる部材を破線で示している。
【0053】
次に、図8Aのように、上部にダブルワーレントラス構造を有すると共に下部にブライヒ構造を有する鉄塔S2において、部材結合点が2つ存在する主柱材P2を取替える場合を説明する。この鉄塔S2では、主柱材P2を撤去すると、図8Bに示すように、斜材B33,B34の荷重伝達機能が失われると共に、斜材B42,B43の荷重伝達機能が失われる。したがって、ダブルワーレントラス構造とブライヒ構造が消失することとなる。そこで、隣接主柱PNと主柱材取替装置1との間に、仮副材Tを設置して、仮設のシングルワーレントラス構造を形成する。
【0054】
まず、鉄塔S1の場合と同様に、主柱Pの上側主柱材P3に上側固定具2を固定すると共に、下側主柱材P1に下側固定具3を固定する。続いて、上側固定具2と下側固定具3との間に、ジャッキ9と支持部材4とネジ調整部8を設置する。
【0055】
この後、隣接主柱PNの斜材B32が結合する近傍位置と、斜材B44が結合する近傍位置に、第1の仮副材固定具としての2つの挟持固定具C1,C2を固定する。挟持固定具C1,C2は、山形鋼で形成され、主柱PNの主柱材の外側面と内側面とを挟む2つの挟持部と、これら2つの挟持部の側縁部に挿通され、2つの挟持部を、主柱材の外側面と内側面とに押圧する方向に締め付けるボルトナットを有する。この挟持固定具C1,C2は、ボルトナットを緩めた状態で、2つの挟持部を主柱材に沿ってスライドさせて、隣接主柱PNの長手方向における固定位置を調節可能になっている。
【0056】
また、主柱P側に設置した支持部材4に、上記2つの挟持固定具C1,C2の設置高さの間の高さとなるように、第2の仮副材固定具としての挟持固定具C3を固定する。この挟持固定具C3は、半割りの鋼管で形成され、支持部材4の外周面に嵌合する2つの挟持部と、これら2つの挟持部の側縁に設けられたフランジを互いに締め付けるボルトナットを有する。この挟持固定具C3は、ボルトナットを緩めた状態で、2つの挟持部を主柱材に沿ってスライドさせて、支持部材4の長手方向における固定位置を調節可能になっている。
【0057】
続いて、隣接主柱PNに設置した下側の挟持固定具C1と、支持部材4の挟持固定具C3との間に、仮副材T1を設置する。また、隣接主柱PNに設置した上側の挟持固定具C2と、支持部材4の挟持固定具C3との間に、仮副材T2を設置する。これら仮副材T1,T2は、図6に示すように、2つのボルト13及びナットで固定される2つの部材Ta,Tbを有し、これらの仮副材T1,T2を設置する作業において、2つの部材Ta,Tbを互いにスライドして全長を調整する。ここで、各部材Ta,Tbのボルト孔の間隔D1,D2が、部材Ta,Tbの間で互いに異なる値に設定され、かつ、ボルト13の軸部の径がボルト孔11、12の径よりも小さく形成されているので、仮副材T1,T2の長さを、両端が固定される挟持固定具C1,C3の相互間の距離と、挟持固定具C2,C3の相互間の距離とにあわせて高精度に調節できる。仮副材T1,T2の長さを調整した後、各仮副材T1,T2の両端を、対応する挟持固定具C1,C2,C3に固定し、仮副材T1,T2の設置が完了する。
【0058】
また、紙面の奥側に位置する他方の隣接主柱についても、挟持固定具C1,C2を固定すると共に、他方の支持部材4に挟持固定具C3を固定し、これら挟持固定具C1,C2,C3の間に仮副材T1,T2を設置する。
【0059】
こうして、図8Cに示すように、鉄塔S2に、斜材B31及びB32と、仮副材T1及びT2と、斜材B44及びB45とでシングルワーレントラス構造を形成する。なお、図8Cには、他方の支持部材4に、他方の隣接主柱との間に仮副材T1及びT2を設置するための挟持固定具C3が固定されている様子が示されている。
【0060】
このように、主柱材取替装置1の支持部材4と、隣接主柱PNとの間に、仮副材T1,T2を設置するので、取替対象の主柱材P2の取り外しに伴って鉄塔S2のダブルワーレントラス構造とブライヒ構造が失われても、仮設のシングルワーレントラス構造を形成できる。したがって、鉄塔S2を安定に保持することができ、その結果、送電線に通電しながら主柱材P2の取替作業を行うことができる。また、仮副材T1,T2は、長さを高精度に調整可能であるので、主柱間の距離が異なる鉄塔について、種々の位置の主柱材の取替作業に用いることができる。このように、本実施形態の主柱材取替装置1及びこれを用いた主柱材取替方法は、多様な鉄塔の主柱材を取替えることができ、高い汎用性を有する。
【0061】
上記実施形態において、取替対象の主柱材P2は山形鋼で形成されたが、主柱材P2は鋼管で形成されてもよい。主柱材P2が鋼管で形成される場合、上側及び下側固定具2,3に半割り円筒状の摩擦部材を設け、この摩擦部材を鋼管の外周面に嵌合させて、摩擦部材と鋼管との接触面を中心軸が通ると共に先端部に突起を有する押圧ボルトで摩擦部材を押圧して、鋼管に摩擦部材を固定するのが好ましい。あるいは、従来の固定具と同様に、上側及び下側固定具2,3に、側縁にフランジを有する半割り円筒状の締付部材を設け、この締付部材を鋼管の外周面に嵌合させた状態でフランジをボルトナットで固定し、鋼管に締付部材を固定してもよい。締付部材の締め付け力で主柱材に上側及び下側固定具2,3を固定する場合、ずれ止めのために、締付部材を鋼管のフランジやガセットプレートに係止する必要があり、主柱材取替装置1の支持部材4が長尺化する。ここで、隣接主柱PNと支持部材4との間に仮副材T1,T2を設置して支持部材4を補強することにより、小断面の支持部材4を用いることができ、支持部材4の大型化を防止できる。上記仮副材T1,T2を設置する場合、隣接主柱PNもまた主柱材P2と同様に鋼管で形成されるので、第1の仮副材固定具としての2つの挟持固定具は、半割りの鋼管で形成されて隣接主柱PNの外周面に嵌合する2つの挟持部と、これら2つの挟持部の側縁に設けられたフランジを互いに締め付けるボルトナットを有するものが好ましい。これらの挟持固定具は、ボルトナットを緩めた状態で、2つの挟持部を主柱材に沿ってスライドさせることにより、鋼管で形成された隣接主柱PNの長手方向における固定位置を調節できる。このようにして、仮副材T1,T2を設置することにより、支持部材4の大型化を防止できるので、主柱材取替装置1を軽量にして、鉄塔への負担を軽減することができる。なお、上記仮副材T1,T2は、上側及び下側固定具2,3を締付部材の締め付け力で主柱材に固定する場合に限られず、上側及び下側固定具2,3を半割り円筒状の摩擦部材と押圧ボルトで鋼管の主柱材P2に固定する場合にも、隣接主柱PNと支持部材4との間に設置することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、塔構造物としての送電線用鉄塔に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、送電線用鉄塔以外に、無線通信用鉄塔、鉄道架線用鉄塔、給水用鉄塔、照明塔及び広告塔等、種々の塔構造物に適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 主柱材取替装置
2 上側固定具
3 下側固定具
4 支持部材
6 ライナー
7 クランプ
8 ネジ調整部
9 ジャッキ
P 主柱
P1 下側主柱材
P2 取替対象の主柱材
P3 上側主柱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に各々固定される2つの固定具と、これら2つの固定具の間にジャッキが介在されて設置される支持部材とを備えた主柱材取替装置において、
上記固定具は、
固定具本体に連結され、上記主柱材の表面に接する摩擦部材と、
上記主柱材と摩擦部材との接触面に中心軸が交差する状態で、上記主柱材及び摩擦部材の少なくとも一方に接触して押圧力を作用させる少なくとも1つの押圧ボルトを有し、上記主柱材と摩擦部材とを押圧して挟持する押圧具と
を有することを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塔構造物の主柱材取替装置において、
上記固定具が有する押圧具の押圧ボルトは、先端部に、上記主柱材又は摩擦部材に押圧力を作用させるに伴って上記主柱材又は摩擦部材の表面部分に塑性変形を生じさせる突起が設けられていることを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項3】
請求項1に記載の塔構造物の主柱材取替装置において、
上記支持部材は、使用する種類及び個数によって全体の長さが調整可能な1つ又は複数の単位部材で形成され、
上記固定具、ジャッキ及び支持部材のうちのいずれか2つの間に、ネジの螺合位置に応じて長さが調節可能なネジ調整部を備えることを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項4】
取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に各々固定される2つの固定具と、
上記2つの固定具の間にジャッキが介在されて設置される支持部材と、
上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱と、上記支持部材との間に設置される仮副材と、
上記仮副材の一端を、上記隣接主柱に、この隣接主柱の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第1の仮副材固定具と、
上記仮副材の他端を、上記支持部材に、この支持部材の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第2の仮副材固定具と
を備えることを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の塔構造物の主柱材取替装置において、
上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱と、上記支持部材との間に設置される仮副材と、
上記仮副材の一端を、上記隣接主柱に、この隣接主柱の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第1の仮副材固定具と、
上記仮副材の他端を、上記支持部材に、この支持部材の長さ方向における固定位置を調節可能に固定する第2の仮副材固定具と
を備えることを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の塔構造物の主柱材取替装置において、
上記仮副材は、ボルトで連結される2つの部材で形成され、これら2つの部材は、長さ方向に等間隔をおいて形成された複数のボルト孔を各々有し、各部材のボルト孔の間隔が、部材の間で異なる値に設定されていることを特徴とする塔構造物の主柱材取替装置。
【請求項7】
取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に、これらの主柱材の表面に摩擦部材が接するように2つの固定具を各々配置する工程と、
上記2つの固定具の各々について、上記主柱材と摩擦部材とを押圧具で挟み、この押圧具に設置されて上記主柱材と摩擦部材との接触面に中心軸が交差する押圧ボルトを、上記主柱材及び摩擦部材の少なくとも一方に接触させて押圧力を作用させて、主柱材に固定具を固定する工程と、
上記2つの固定具の間に、ジャッキを介在させて支持部材を設置する工程と、
上記ジャッキを伸張させて、上記取替対象の主柱材の荷重を支持部材に移す工程と、
上記取替対象の主柱材を撤去し、新たな主柱材を取り付ける工程と
を備えることを特徴とする塔構造物の主柱材取替方法。
【請求項8】
取替対象の主柱材の両端に連なる2つの主柱材に、2つの固定具を各々固定する工程と、
上記2つの固定具の間に、ジャッキを介在させて支持部材を設置する工程と、
上記取替対象の主柱材を有する主柱に隣接する隣接主柱に第1の仮副材固定具を固定すると共に、上記支持部材に第2の仮副材固定具を固定して、上記隣接主柱と上記支持部材との間に仮副材を設置する工程と、
上記ジャッキを伸張させて、上記取替対象の主柱材の荷重を支持部材に移す工程と、
上記取替対象の主柱材を撤去し、新たな主柱材を取り付ける工程と
を備えることを特徴とする塔構造物の主柱材取替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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