説明

塗工ダイヘッド

【課題】塗工液の吐出口に対応する上下ダイ間の隙間を調整することが可能な塗工ダイヘッドに関して、該隙間の調整量を安定化させ、被塗工物の横幅方向における塗膜厚のさらなる均一化を図る。
【解決手段】本願発明の塗工ダイヘッド26は、下面を有する上ダイ2と、塗工液を吐出するための隙間9を形成するように該下面に対向する上面を有する下ダイ1とを備える。さらに、上ダイ2の下面から該下面とは反対側の面までのダイ部分が上リップ4として、上ダイ2から分離されている。上リップ4の下面を下ダイ1の上面に対して平行移動して隙間9の間隔を調整する調整機構の部品として、楔5、天板3および調整ねじ7が設けられている。さらにダイヘッド26は、上リップ4を固定することが可能な固定機構の一部品として固定ねじ6を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液を被塗工物に膜状に吐出して塗工を行うための塗工ダイヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ある面に塗工液を膜状に塗工する工程では、一定の隙間を開けて配置された上下一対のダイを備えたダイヘッドが使用される。ダイヘッドに設けられた供給口からダイヘッド内部へ塗工液を供給すると、移動中の被塗工面上にダイヘッド先端側のダイ間の隙間から塗工液が吐出されて一定の厚さの塗膜が形成されるようになっている。
【0003】
塗工液の吐出口に対応する、ダイヘッド先端側の上下ダイ間の隙間(ギャップ)をダイ横幅方向にわたって均一にするために、特許文献1に開示される塗工ダイヘッドでは、図6に示すように下ダイ101と上ダイ102の間に所望の塗膜厚を実現できる厚さのシム103を挟み込んで、上下のダイ101,102をねじ(不図示)で締結することが行われていた。
【0004】
しかし、シムによるギャップ設定では塗膜厚さを変えるためにはダイヘッドを上ダイと下ダイに分解してシムの交換、さらにはダイヘッド内部のマニホールドの清掃が必要になり、作業工数増大および塗工装置の稼働率低下の原因となる。
【0005】
そこで、塗膜厚さを変えられる機構を備えたダイヘッドが、特許文献2,3等により提案されている。これらのダイヘッドは、上下一対のダイのうち一方のダイの内部に形成された空間に、塗工液の吐出口に対応する上下ダイ間の隙間を調整するための機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−223999号公報
【特許文献2】特開2003−024857号公報(図2)
【特許文献3】特開2004−321911号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2,3に開示されるダイヘッドでは、一方のダイの内部空間から該一方のダイの先端部を押圧することで該先端部を他方のダイ側へ傾かせて、塗工液の吐出口に対応する上下ダイ間の隙間を狭くすることが行われている。
【0008】
そのため、該隙間を形成している、上側ダイの壁面と下側ダイの壁面に関して言うと、該上側ダイの壁面に対する該下側ダイの壁面の角度が該隙間の調整量に応じて変わる。結果、該上側ダイの壁面と該下側ダイの壁面の間を通る塗工液の流動性も変化する。この事は塗工液の吐出制御を複雑にしてしまう。またダイ自体の撓みを利用しているため、該隙間の調整量は少なく、塗膜厚の調整効果が小さい。
【0009】
さらに、一方のダイの先端部を他方のダイ側へ傾かせた機構部品は該隙間の調整後に固定されるが、該一方のダイ自体は固定されない。そのため、塗工液の吐出中に該隙間の調整量が変化する可能性があり、適正な調整量が確保されない場合がある。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決することを目的する。その目的の一例は、塗工液の吐出口に対応する上下ダイ間の隙間を調整することが可能な塗工ダイヘッドに関して、該隙間の調整量を安定化させ、被塗工物の横幅方向における塗膜厚のさらなる均一化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第一の平面を有する第一のダイと、塗工液を吐出するための隙間を形成するように該第一の平面に対向する第二の平面を有する第二のダイと、を備えた塗工ダイヘッドに係るものである。
【0012】
そして、上記課題を解決する本願発明の一つの態様は、
前記第一のダイから分離された、該第一のダイの前記第一の平面から該第一の平面とは反対側の面までのダイ部分と、
前記ダイ部分の前記第一の平面を前記第二の平面に対して平行移動して前記隙間の間隔を調整する調整機構と、
前記ダイ部分を固定することが可能な固定機構と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗工液の吐出口に対応する上下ダイ間の隙間を調整することが可能な塗工ダイヘッドに関して、該隙間の調整量を安定化させ、被塗工物の横幅方向における塗膜厚のさらなる均一化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態による塗工ダイヘッドを備えた塗工装置の一例を示した側面図。
【図2】一実施形態による塗工ダイヘッドの詳細な構成を示す正面図および断面図。
【図3】一実施形態による塗工ダイヘッドの分解斜視図。
【図4】他の実施形態による塗工ダイヘッドの分解斜視図。
【図5】他の実施形態による塗工ダイヘッドの分解斜視図。
【図6】本願発明の関連技術(特許文献1)である塗工ダイヘッドの分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本発明による塗工ダイヘッドは、面上に一定の厚みの膜を塗工する必要がある物に使用可能である。
【0016】
図1は本発明の一実施形態による塗工ダイヘッドを備えた塗工装置の一例を示した側面図である。この図に示すように、本実施形態の塗工ダイヘッド26は、ロール25に支持されて走行中の被塗工物(面24)に対向配置される。塗工ダイヘッド26から面24へ塗工液を膜状に吐出して面24上に一定厚みの膜を塗工する塗工工程において、ポンプ21から配管22を通して送られてくる塗工液が、塗工ダイヘッド26に送り込まれる。このとき、バルブ23により液量制御が行われる。
【0017】
塗工ダイヘッド26の詳細な構成を図2に示す。図2の(a)は塗工ダイヘッド26の塗工液吐出口側の面を示す正面図、(b)は(a)のX−X断面図である。また図3は塗工ダイヘッド26の分解斜視図である。
【0018】
塗工ダイヘッド26は図2および図3に示すように、下ダイ1、上ダイ2、天板3、上リップ4、楔5、固定ねじ6、調整ねじ7等を備える。
【0019】
下ダイ1の上面31には上ダイ2の下面32が接合され、これによって、バルブ22(図1)から送られてきた塗工液を溜める筒状空間のマニホールド8が形成される。下ダイ1には、マニホールド8へ塗工液を供給する供給口10が形成されている。
【0020】
下ダイ1の、塗工液が吐出される先端部分は下リップ33を有している。下ダイ1の上面31におけるマニホールド8の為の切り欠き34から下リップ33までの部位に相対する上ダイ2の部位は切り欠かれて、凹状空間35となっている。上ダイ2の凹状空間35には上リップ4が配置されている。換言すると、下ダイ1の切り欠き34から下リップ33までの平面に対応する上ダイ2の部位が、上リップ4として、上ダイ2から分離されている。
【0021】
そして、上リップ4の下面の平面部とこれに対応する下ダイ1の上面の平面部の間にギャップ9(隙間)が開けられている。さらに、凹状空間35内において、上リップ4の上面に、ギャップ9を調整するための楔5が配置されている。
【0022】
上リップ4の上面と楔5の下面は互いに隣接しており、隣接する両面は、塗工液の吐出方向に従って下向きに傾斜した斜面となっている(図2(b)参照)。
【0023】
上ダイ2および楔5の上にはこれらを覆う天板3が配置され、天板3は上ダイ2の上面にねじ(不図示)で固定されている。楔5の上面および天板3の下面は上リップ4の下面の平面部と平行な平面を有している。
【0024】
そして、固定ねじ6が、天板3および楔5の両方に形成された貫通穴36,37(つまり、ねじが切られていない穴である。)に嵌挿されてから上リップ4にねじ込まれている。固定ねじ6のねじ締めによって楔5は上リップ4と天板3の間に挟まれ、かつ上リップ4が固定される。
【0025】
さらに、塗工液の吐出方向に楔5を移動させる楔駆動部品である調整ねじ7が、上ダイ2を通して楔5にねじ込まれている。楔5には、調整ねじ7の先端がねじ込まれる雌ねじが切られている。なお、上記のような楔5の移動を妨げないため、固定ねじ6を通している貫通穴37は楔5の移動方向に長い長穴にされる。
【0026】
なお、楔5の位置を調整する調整ねじ7の部分にはマイクロメータで使用されるような精密なねじ機構を採用すると良い。
【0027】
次に、本実施形態の塗工ダイヘッド26の動作、特に塗工液吐出口となるギャップ9の間隔調整について説明する。この説明において図2を参照されたい。
【0028】
ギャップ9の間隔調整を行う場合、まず、調整者は複数本の固定ねじ6を緩めて楔5および上リップ4を可動状態にする。続いて、上ダイ2を通して楔5にねじ込まれた調整ねじ7を回して、楔5の位置を変更する。
【0029】
調整ねじ7を緩む方向に回転させると、楔5は塗工液の吐出方向に動き、上リップ4は上方向に移動可能になるのでギャップ9は拡がっていく。また、調整ねじ7をねじ込む方向に回転させると、楔5は塗工液の吐出方向とは反対の方向に動き、上リップ4は下方向に移動可能になるのでギャップ9は狭くなっていく。このとき、楔5の斜面の勾配が1/10である場合、調整ねじ7を1mm動かすとギャップ9の間隔は0.1mm変化する。
【0030】
楔5および上リップ4が動く場合上ダイ2との間にクリアランスが必要となるが、楔5および上リップ4と上ダイ2との間には5μm程度のクリアランスがあれば両部品の移動は十分可能で塗工液の漏れも発生しない。
【0031】
上記のように楔5を動かしてギャップ9の間隔を所望の量に調整した後、調整者は全ての固定ねじ6を上リップ4に締め付けてギャップ9の間隔調整を完了する。
【0032】
以上に説明した本実施形態の塗工ダイヘッド26によれば、ダイヘッドを分解することなくギャップ9の間隔調整を実施することができる。
【0033】
特に、ギャップ9を形成している、上リップ4の下面の平面部と下ダイ1の上面31の平面部に関して言うと、ギャップ9の間隔調整において、上リップ4の下面の平面部が下ダイ1の上面31の平面部に対して平行状態を保って変位する、つまり平行移動する。このため、上リップ4と下ダイ1の間を通る塗工液の流動性についてギャップ9の間隔調整に伴う変化は定性的になるため、塗工液の吐出制御が簡単になる。さらに、上リップ4の下面の平面部が下ダイ1の上面31の平面部に対して平行移動する構成であるため、特許文献2および特許文献3に記載の技術と比べてギャップ9の間隔調整の範囲を大きくとることも可能である。
【0034】
さらに、固定ねじ6によって上リップ4を固定できるため、塗工液の吐出中にギャップ9の調整量が変化せず、適正な調整量が確保される。よって、被塗工物の横幅方向における塗膜厚のさらなる均一化が図れる。
【0035】
「その他の実施形態例」
次に、その他の実施形態例を説明する。図4は他の実施形態による塗工ダイヘッドの分解斜視図、図4はさらに他の実施形態による塗工ダイヘッドの分解斜視図である。なお、ここでは上記した実施形態例(図3参照)と異なる点のみを説明する。
【0036】
図4に示すように、楔5および上リップ4は一体部品でなく、塗工液の吐出方向に直交する方向で且つ上リップ4の下面の平面部に平行な方向(図中Y方向)において同幅の複数の部位に分割されていても良い。そして、楔5の分割された各部位と上リップ4の分割された各部位が、上記した実施形態例と同じように調整ねじ7と固定ねじ6を用いて位置調整および固定できるようになっていても良い。この事により、上記Y方向における局所でのギャップ9の間隔が調整可能である。
【0037】
また図5に示すように、楔5のみが一体部品でなく、上記のY方向にて複数の部位に分割されていて、楔5の分割された各部位が、上記した実施形態例と同じように調整ねじ7と固定ねじ6を用いて位置調整および固定できるようになっていても良い。この構成では、図4の例のように上リップ4は分割されていないため、楔5の各分割部位の位置調整によって上リップ4が部分的に撓む。この事により、上記Y方向における局所でのギャップ9の間隔が調整可能となる。
【0038】
また、上記した実施形態例では、上ダイ2の上リップ4が下ダイ1に対して移動可能に構成されているが、下ダイ1の下リップ部分を上ダイ2に対して移動可能に構成してもよい。つまり、本発明によるダイヘッドは図3のダイヘッド26を上下逆さまにした態様であってもよい。
【0039】
なお、本発明に係る塗工ダイヘッドは、セラミックチップコンデンサー等に用いられる活物質および導電性ペースト等の塗料を基材上に膜状に塗布する際に基材の幅方向において塗膜を均一な厚さにする塗工工程および塗工装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 下ダイ
2 上ダイ
3 天板
4 上リップ
5 楔
6 固定ねじ
7 調整ねじ
8 マニホールド
9 ギャップ
10 供給口
21 ポンプ
22 配管
23 バルブ
24 面
25 ロール
26 ダイヘッド
31 下ダイの上面
32 上ダイの下面
33 下リップ
34 切り欠き
35 凹状空間
36 貫通穴
37 貫通穴(長穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の平面を有する第一のダイと、塗工液を吐出するための隙間を形成するように該第一の平面に対向する第二の平面を有する第二のダイと、を備えた塗工ダイヘッドにおいて、
前記第一のダイから分離された、該第一のダイの前記第一の平面から該第一の平面とは反対側の面までのダイ部分と、
前記ダイ部分の前記第一の平面を前記第二の平面に対して平行移動して前記隙間の間隔を調整する調整機構と、
前記ダイ部分を固定することが可能な固定機構と、
を備えたことを特徴とする塗工ダイヘッド。
【請求項2】
前記ダイ部分は、前記第一の平面とは反対側の面が、前記塗工液の吐出方向に従って前記第一の平面の側へ傾斜する第一の斜面になっており、
前記調整機構は、
前記ダイ部分の前記第一の斜面に隣接して配置された楔であり、該第一の斜面と接する第二の斜面、および、該第二の斜面とは反対側に形成された、前記第一の平面と平行な第三の平面を有する楔と、
前記第一のダイに固定された板であり、前記第一の平面と平行な、前記楔の前記第三の平面と接する第四の平面を有する板と、
前記ダイ部分の前記第一の平面を前記第二の平面に対して平行移動させるために前記塗工液の吐出方向と平行な方向に沿って前記楔を移動させる楔駆動部品と、を備え、
前記固定機構は、前記板と前記ダイ部分の間に前記楔を挟み込むように前記ダイ部分を固定する機構であることを特徴とする請求項1に記載の塗工ダイヘッド。
【請求項3】
前記楔および前記ダイ部分が、前記塗工液の吐出方向に直交する方向で且つ前記第一の平面と平行な方向において同幅の複数の部位に分割されており、
前記調整機構は前記楔の各部位を移動でき、前記固定機構は前記板と前記ダイ部分の各部位の間に前記楔の各部位を挟んだ状態で前記ダイ部分の各部位を固定することが可能であることを特徴とする請求項2に記載の塗工ダイヘッド。
【請求項4】
前記楔が、前記塗工液の吐出方向に直交する方向で且つ前記第一の平面と平行な方向において複数の部位に分割されており、
前記調整機構は前記楔の各部位を移動でき、前記固定機構は前記板と前記ダイ部分の間に前記楔の各部位を挟んだ状態で前記ダイ部分を固定することが可能であることを特徴とする請求項2に記載の塗工ダイヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66853(P2013−66853A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207697(P2011−207697)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】