説明

塗工フィルム及び反射防止フィルムの製造方法

【課題】干渉による色ムラを防止できるとともに透過率が高い塗工フィルム及びこれを用いた反射防止フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】透明な樹脂フィルム基体の少なくとも片面に、熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物からなり、ハードコート層として機能する透明な塗工層を有する干渉による色むらが発生しない塗工フィルムの製造方法。前記樹脂組成物と、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能である有機溶媒とを主成分とすることによって、該塗工層の界面と前記樹脂フィルムの界面を一体化させて形成することにより前記塗工層を設ける。前記塗料を構成する有機溶媒が、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能な、分子量100以下のケトン系有機溶剤及び/又はエステル系有機溶剤を50〜80重量%以下含有すると共に、該有機溶媒の前記塗料中における割合が35〜60重量%の塗料であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な塗工フィルムの製造方法及びこれを用いた反射防止フィルムの製造方法に関し、特に液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の表面保護フィルムとして好適な塗工フィルムの製造方法及びその塗工フィルムを用いた反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の光学レンズ、計器のカバー、窓ガラス、あるいは液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種表示体の表面保護や反射防止を目的として、塗工したハードコート層を有する塗工フィルムが利用されている。ところが、この塗工フィルムの場合には、ハードコート層表面の反射光、及びハードコート層とフィルム基材との界面の反射光が互いに干渉して干渉色を生じ、更に、ハードコート層の塗工厚みにムラがある場合には、干渉色にも「色ムラ」と呼ばれる模様が生じて視認性を低下させる問題というがある。
そこで、色ムラを改善するため、ハードコート層と基材との屈折率の差を低減させる技術が報告されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−56002号公報
【特許文献2】特開平07−151902号公報
【特許文献3】特開平08−179123号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術の場合には、ハードコート層とプラスチック基板の屈折率を厚み方向にほぼ連続的に変化させることによって色ムラ解消することができるものの、ハードコート層をCVD法によって形成するため、生産性及びコストの点で難点があった
【0005】
また、特許文献2に記載された技術の場合には、ハードコート層となる塗膜と基材フィルムとの屈折率の差を小さくするために、塗膜中に金属酸化物超微粒子を添加している。そのため、この微粒子が光を散乱してヘイズ(曇り)が生じたり、全光線透過率が低下したりするので、得られる基材フィルムのヘイズ度が低く、高い透過鮮映性を有するフィルムが得られないという欠点があった
【0006】
一方、特許文献3に記載された技術は、フィルム基材の屈折率に近い屈折率を持つ塗膜を形成させるものである。しかし、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等に使用される塗工フィルムでは、フィルム基材として光学異方性が無いセルロースエステルフィルムが用いられることが多いのであるが、これと屈折率が近い塗料選択することが難しいため、使用できるフィルム基材に制限がある。
【0007】
また、色ムラの原因となる厚みムラを解消するため、従来は塗工ヘッドの精度向上を図ると共に、塗料のレベリング性塗工時のフィルムテンション調整等を行っていた。しかし、塗工ヘッドの精度向上には限界があり、また、塗料のレベリング性やフィルムテンションを調整しても、キャスト法で製造された平面性が悪い(表面の凹凸が大きい)フィルム、例えばトリアセチルセルロースフィルム等のセルロースエステルフィルムを用いた場合厚みムラの解消が困難であった
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の技術では、基材フィルムの屈折率に塗膜の屈折率を近づけるために塗膜の中に微粒子を添加すると、そのためにヘイズ度が高くなって透過鮮映性が低下するという欠点や、使用できるフィルム基材やハードコート層に制限が生じるという欠点があった。
従って本発明の目的は、種々のフィルム基材やハードコート層を用いることのできる、干渉による色ムラを防止できるとに、透過率が高い塗工フィルムの製造方法及び得られた塗工フィルムを用いた反射防止フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の目的を解決するために種々検討した結果、フィルム基体にハードコート層となる塗工層(以下単に塗工層とする。)を設ける際、フィルム基体の表面を溶解又は膨潤させた場合には、前記ハードコート層とフィルム基体の界面を一体化させることができこれによって干渉による色ムラを防止することができることを見出すと共に、このようにした場合には、ハードコート層中に微粒子を添加する必要がないので、ヘイズ度が低く、高い透過鮮映性を有する塗工フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、透明な樹脂フィルム基体の少なくとも片面に、熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物からなり、ハードコート層として機能する透明な塗工層を有する、干渉による色むらが発生しない塗工フィルムの製造方法であって、前記熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物からなる樹脂組成物と、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能である有機溶媒とを主成分とする塗料を塗工することによって、該塗工層の界面と前記樹脂フィルムの界面一体化させて形成することにより前記塗工層を設ける工程を含み、前記塗料を構成する有機溶媒が、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能な、分子量100以下のケトン系有機溶剤及び/又はエステル系有機溶剤を50重量%以上80重量%以下含有すると共に、該有機溶媒の前記塗料中における割合が35〜60重量%の塗料であることを特徴とする塗工フィルムの製造方法、及び該製造方法により製造された塗工フィルムの塗工層の上に、塗工層の屈折率より低く、かつその差が0.01以上である低屈折率層を設ける工程を含むことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法である。
本発明においては、前記樹脂フィルム基体がセルロースエステルフィルムであることが好ましく、前記分子量100以下のケトン系有機溶剤が、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトン及びシクロヘキサノンの中から選択された1種であり、分子量100以下のエステル系有機溶剤が、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルから選択された1種であることが好ましい。
また、前記塗工層のJIS−K7105に従って測定したヘイズ度は、0.1〜3%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、塗工層となる塗料が樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤させるので、干渉による色ムラを防止することができると共に、透過率や透過鮮映度が高い塗工フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の塗工フィルムの製造方法は、透明な樹脂フィルム基体の少なくとも片面に、後述する熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物からなる樹脂組成物と有機溶媒とを主成分とする塗料を塗工・乾燥し、硬化させて透明な塗工層を形成させる工程を含むことを特徴とる。そして、前記塗料が樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤させ、塗工層と樹脂フィルム基体の界面を一体化させて不明瞭とするため、色ムラを有効に防止するものと考えられる。
【0012】
本発明で用いる樹脂フィルム基体は、透明であればどのような樹脂フィルムを用いても良いが、例えば、トリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、トリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリロニトリルフィルム等が使用できる。特に、トリアセチルセルロースフィルム、及び一軸延伸ポリエステルが透明性に優れ、光学的に異方性が無い点で好適に用いられる。フィルムの厚みは、通常は8〜1000μm程度のものが好適に用いられる。
【0013】
上記塗料は、有機溶剤と熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物を主成分とし、樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能であることが必要である。ここで溶解又は膨潤可能とは、樹脂フィルム基体に塗料を塗布することによって樹脂フィルム基体の表面の成分が塗料中に溶出する状態を示し、X線分析や赤外線分析などにより塗工層を分析すると樹脂フィルム表面より溶出した成分を検出することができる。
【0014】
そして、塗料を塗工して得られる塗工層と樹脂フィルム基体の断面を電子顕微鏡などで観察すると、樹脂フィルム基体を溶解しない塗料を用いた場合には上記界面が明瞭に確認できるが、本発明の場合は界面が不明瞭となったり、消失したりする。これにより、上記界面で塗工層と樹脂フィルム基体が一体化し、界面での両者の屈折率差が急峻でなく連続的に変化し、干渉による色ムラを防止できるものと考えられる。そのため、本発明においては、従来のように塗工層と樹脂フィルム基体の屈折率差が小さい材料を選択したり、塗工層に微粒子を添加したりする必要がなく、種々のフィルム基体を選択できるとともに、ヘイズ度が低く高い透過鮮映性を有する塗工フィルムが得られる。
【0015】
特に、上記したトリアセチルセルロースフィルム等のセルロースエステルフィルムは、キャスト法で製造され平面性が悪い(表面の凹凸が大きい)ので、その上に形成する塗工層の厚みムラが生じ易く、それに起因して色ムラも発生し易くなるが、厚みムラ自体を解消することは技術的に難しい。しかし、本発明では、上述のように塗工層と樹脂フィルム基体の界面での両者の屈折率差を急峻でなく連続的に変化させるので、厚みムラを解消させなくとも色ムラを防止することができる。
【0016】
本発明で使用する塗料中の有機溶媒は、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能な、分子量100以下のケトン系有機溶剤又は/及びエステル系有機溶剤を50重量%以上80重量%以下含有すると共に、前記塗料中における割合が35〜60重量%であることが必要である。上記溶剤の分子量が100以下であるとセルロースエステルフィルム表面を溶解する効果が大きい。分子量が100未満であるケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。分子量が100未満であるエステル類としては酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルなどが挙げられ、なかでも好ましい有機溶剤はシクロヘキサノンと酢酸エチルである。
【0017】
また、分子量100以下のケトン系有機溶剤又は/及びエステル系有機溶剤の使用量は、有機溶媒全体の50〜80重量%であることが必要であり、60〜80重量%であることが好ましい。50重量%未満であると、樹脂フィルム基体の溶解や膨潤が不充分となり、干渉による色ムラ防止効果が得られにくいからである。但し、上記ケトン系有機溶剤やエステル系有機溶剤の割合が高すぎると、樹脂フィルム基体を過度に溶解したり膨潤するために樹脂フィルム基体が曇ったり、樹脂フィルム基体表面から溶出する物質が過度に塗膜に混入し、塗工層のハード性(硬さ)が低下するおそれがある。ここで、塗工層のハード性とは、塗工層の硬さをいい、ハード性が良好であるとは、スチールウールなど硬い物で擦っても塗工層表面に傷が入りにくい状態を示す。
【0018】
塗料における有機溶媒の割合は、本発明においては35〜60重量%とすることが必要である。溶媒濃度が35重量%未満であると、樹脂フィルム基体の溶解や膨潤が不充分となり、干渉による色ムラ防止効果が得られにくい。一方、溶媒濃度が60重量%を超えると、樹脂フィルム基体を過度に溶解したり膨潤するために樹脂フィルム基体が曇ったり、樹脂フィルム基体表面から溶出する物質が過度に塗膜に混入し、塗工層の硬さが低下するおそれがある
【0019】
塗料に用いる熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物は、透明であると共に、硬化後の屈折率が基体の屈折率と0.013以上異なるものであればよく、単独又は混合して使用することができる。特に、硬化に熱を必要としない電離放射線硬化型樹脂組成物を使用することがより好ましい。ここで電離放射線硬化型樹脂組成物は電子線や紫外線等を照射することによって硬化し、上記有機溶媒との溶解性が良好であるものであれば良い。
【0020】
電離放射線硬化型樹脂組成物としては、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、及びエポキシアクリレート系樹脂等の中から適宜選択することが可能であり、特に、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレ−トからなるものが好ましい。上記多官能アクリレートの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1、6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのジアクリレート1、6ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレートなどのエポキシ(メタ)アクリレート、多価アルコールと多価カルボン酸および/又はその無水物とアクリル酸とをエステル化することによって得ることが出来るポリエステル(メタ)アクリレート、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られるウレタンアクリレート、ポリシロキサンポリアクリレート等を挙げることができる。
【0021】
前記の紫外線硬化可能な多官能アクリレートは単独又は2種以上を混合して用いてもよい。塗料に用いる樹脂組成物は、すべて重合性アクリレ−トであってもよいが、重合性アクリレ−トの割合を95〜50重量%とすることが好ましい。尚、多官能アクリレートの他、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の単官能アクリレートを、樹脂組成物全体の10重量%以下の量となるよう添加することもできる。
【0022】
また、塗工層の硬度を調整する目的で、塗料に重合性オリゴマーを添加することができる。このような重合性オリゴマーとしては、末端メタクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリメタクリレート、末端メタクリレートポリスチレン、末端メタクリレートポリエチレングリコール、末端メタクリレートアクリロニトリル−スチレン共重合体、末端メタクリレートスチレン−メチルメタクリレート共重合体などのマクロモノマーを挙げることができる。重合性オリゴマーの含有割合は、熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物全体の5〜50重量%とすることが好ましい。
【0023】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、塗料に消泡剤、レベリング剤、揺変剤、増粘剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤を含有させることができる。塗料中の固形分濃度が低く、塗布した液膜が乾燥中に大きな厚みムラを生じて色ムラが懸念される場合は、レベリング剤、揺変剤、増粘剤を添加すればよい。
【0024】
以上のようにして調整された塗料は、マイクログラビアコーター、グラビアコーター、マイヤーバーコーター、ダイコーター等の塗工装置を用いて塗工することができる。塗工量は、乾燥後の塗工層が約2〜12g/mになるように調整すればよい。塗工後の塗料は、乾燥し、硬化処理することにより、塗工層を形成することができる。
【0025】
このようにして、塗工フィルムを製造することができる。本発明によって得られる塗工フィルムのヘイズ度はJIS−K7105に従って測定した値が0.1〜3%である。ヘイズ度が3%を超えると塗工フィルムの透過率が低下し、透過鮮映性の高い塗工フィルムが得られないからである。ヘイズ度の下限を0.1%としたのは、樹脂フィルム基体のヘイズ度が約0.1%であり、これ以下とすることは実用上困難だからである。より好ましくはヘイズ度を0.1〜1%とする。
【0026】
また、本発明によって製造された塗工フィルムにおいては、塗工層の屈折率と樹脂フィルム基体の屈折率との差が0.013以上であっても、色ムラを有効に防止することができるという特徴がある。
即ち、従来はハードコート層と基材との屈折率の差を低減させ、干渉を生じ難くすることで色ムラを抑制していた。前記特許文献2によれば、両者の屈折率の差が0.03以上あると色ムラが生じるとされているが、両者の屈折率の差が0.013以上あると色ムラが生じることが判明された。しかしながら、本発明においては、樹脂フィルム基体表面を溶解させて塗工層と樹脂フィルム基体の界面を不明瞭にさせる手法により色ムラを抑制するので、塗工層と樹脂フィルム基体の屈折率差を調整する必要がない。そのため、フィルム基体や塗工層の選択の自由度が大きくなり、両者の屈折率差が0.013以上であっても良い
【0027】
さらに、本発明の反射防止フィルムの製造方法は、本発明の塗工フィルムの製造方法により製造された塗工フィルムの塗工層の上に低屈折率層を設けることにより反射防止フィルムを製造する方法である。この場合、反射防止能を付与るため、低屈折率層の屈折率を塗工層の屈折率よりも低くし、かつその差を0.01以上とする。また、塗工層の上に高屈折率層を設け、該高屈折率層の表面に低屈折率層を設けてもよいが、この場合も、低屈折率層の屈折率を高屈折率層の屈折率よりも低くし、かつその差を0.01以上とする。低屈折率層を形成する材料としては、有機ケイ素化合物、フッ素化合物、ホウ素化合物等を用いることができる。また、高屈折率を形成する材料としては、チタン酸化物(二酸化チタンやアルコキシチタン)や、高屈折率を有する金属酸化物微粒子を樹脂と混合したものを用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、特に断らない限り、以下に記載する「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0029】
1.塗料の調整
表1に示す樹脂組成物、有機溶媒、及び他の添加剤を用い、各実施例及び比較例毎に組成の異なる塗料を調整した。樹脂組成物はUV硬化型樹脂H601(ペンタエリスリトール系モノマー主成分、三洋化成株式会社製の商品名)を用い、上記有機溶媒の他、レベリング剤BYK−300(ビックケミー社製の商品名)対液0.05部を配合した。なお、比較例8、9の場合は、塗料にそれぞれ粒子径1.6、1.5μmのシリカ微粒子を配合した。樹脂組成物、有機溶媒、微粒子の配合割合は表1に示すとおりである。なお、表中のIPAはイソプロピルアルコールである。
【0030】
2.塗工フィルムの作
表1に示すフィルム基体の一方の面に、上記塗料をマイヤーバーを用いて塗工した。塗工後、60℃のドライヤーで塗料中の希釈溶剤を蒸発させた後、UV光を照射して樹脂を硬化させて塗工層を形成し、塗工フィルムを作した。塗工層の厚みは6μmであった。なお、表1において、TACは、厚さ80μmのトリアセチルセルロースフィルム(FT−80UZ:富士写真フィルム株式会社製の商品名)であり、ACは、厚さ125μmのアクリルフィルム(テクノロイS001:住友化学工業株式会社製の商品名)であり、PEは、厚さ75μmのポリエステルフィルム(A−4300:東洋紡績株式会社製の商品名)である。
【0031】
なお、比較例9のみは次のようにして塗工した。まず、上記TACの一方の面に、各成分を表1の「/」の上側添字の配合割合とした塗料をマイヤーバーにて塗工し、各実施例と同様にして塗工フィルムを作した。このときの塗工層の厚みは3μmで、その表面粗さRaは0.35μmであった。この塗工層の表面に、さらに各成分を表1の「/」の下側添字の配合割合とした塗料をマイヤーバーにて塗工し、各実施例と同様にして塗工フィルムを作した。この第2の塗工層の厚みは3μmであり、2つの塗工層の合計厚みが6μmの塗工フィルムとした。
【0032】
また、実施例1で得られた塗工フィルムの塗工層上に、アルコキシシリケート100部(L1001:日産化学株式会社製)、エタノール300部(関東化学製、特級)を配合して固形分濃度1%に調整した塗料をマイヤーバーで塗工し、送風乾燥機で60℃、1分の条件で乾燥させることにより、膜厚110nmの低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。これを実施例1とする。得られた反射防止フィルムの平均正反射率(波長400〜700nm)は3.0%以下であり、低屈折率層を設けない実施例1の塗工フィルムの平均正反射率が5.6%であることから、この反射防止フィルムが充分な反射防止効果を有することがわかった。なお、反射率は分光光度計(日立製作所製のU−3310)で測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
3.評価
(1)界面の状態
各塗工フィルムの断面写真を走査型電子顕微鏡で撮影し、塗工層と樹脂フィルム基体との界面が明瞭に観察できたものを(フィルム基体が)「溶解せず」、界面が不明瞭なものを「溶解」と評価した。
(2)色ムラ
塗工フィルムの非塗工面側をスチールウールで擦り、その表面を黒色のスプレー塗料で着色してよく乾燥させた。この塗工フィルムを暗室で3波長タイプの蛍光灯下で塗工面側から目視観察したときの、色ムラの度合を評価した。
◎、○:色ムラなし
△:わずかに色ムラあり
×:色ムラが目立つ
××:色ムラが顕著に目立つ
(3)対擦傷性
塗工フィルムの塗工層表面に、400gの荷重をかけた#0000のスチールウールを置き、スチールウールを動かして塗工層表面を擦り、発生した傷の程度を目視判定した。
○:擦傷なし
△:わずかに擦傷あり
×:擦傷が目立つ
(4)ヘイズ度
塗工フィルムのヘイズ度をJIS−K7105に従って測定した。
【0035】
得られた結果を表2に示す。なお、表2において、ケトン−エステルの割合とは、塗料に用いる有機溶媒全体に対する、分子量100以下のケトン類及び/又はエステル類の配合割合をいう。また、有機溶媒の割合とは、塗料(有機溶媒、樹脂組成物、及び他の添加剤)における有機溶媒の配合割合をいう。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、本発明の実施例1〜1では、いずれも界面の樹脂フィルム基体が溶解していており、色ムラ防止効果、対擦傷性に優れていると共に、ヘイズ度が1%以下であり、得られた塗工フィルムが透過鮮映性に優れることが実証された。
【0038】
一方、比較例1、2の場合、有機溶媒としてシクロヘキサノンの代わりにそれぞれメチルイソブチルケトン、酢酸イソプロピルを用いたため、界面の樹脂フィルム基体が溶解せず、色ムラ防止効果が得られなかった。
【0039】
比較例3〜5の場合、有機溶媒中のシクロヘキサノン(ケトン−エステル)の割合が40〜0重量%と低いため、界面の樹脂フィルム基体が溶解せず、色ムラ防止効果が得られなかった。特に、ケトン−エステルが配合されていない比較例5の場合、色ムラ防止効果が最も劣化した。
【0040】
比較例6の場合、有機溶媒の割合が30重量%と低いため、界面の樹脂フィルム基体が溶解せず、色ムラ防止効果が得られなかった。
【0041】
比較例7の場合、樹脂フィルム基体としてアクリルフィルムを用いたが、塗料の有機溶媒の選択が不適であったため、界面の樹脂フィルム基体が溶解せず、色ムラ防止効果が得られなかった。
【0042】
比較例8,9の場合、塗工層に微粒子を添加したため、色ムラ防止効果は良好となったものの、ヘイズ度が3%を超え、フィルムの透過率や透過鮮映度が低下した。
【0043】
比較例10では、色ムラ防止や、ヘイズ度の低減を達成することができたものの、有機溶媒の割合が65重量%と多いため、対擦傷性が低下した。
一方、各実施例では、ケトン−エステルの割合がいずれも50〜100重量%に範囲にあり、有機溶媒の割合がいずれも35〜60重量%に範囲にあった。
これらのことから、ケトン−エステルの割合を50〜100重量%とし、また、有機溶媒の割合を35〜60重量%とすることが好ましいことが確認された
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の塗工フィルムの製造方法及び反射防止フィルムの製造の製造方法は、各種の光学レンズ、計器のカバー、窓ガラスの製造、あるいは液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種表示体の表面保護フィルムや反射防止フィルムの製造に利用する価値がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂フィルム基体の少なくとも片面に、熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物の硬化物からなり、ハードコート層として機能する透明な塗工層を有する干渉による色むらが発生しない塗工フィルムの製造方法であって、前記熱硬化型樹脂組成物又は紫外線硬化型樹脂組成物からなる樹脂組成物と、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能である有機溶媒とを主成分とすることによって、該塗工層の界面と前記樹脂フィルムの界面を一体化させて形成することにより前記塗工層を設ける工程を含み、前記塗料を構成する有機溶媒が、前記樹脂フィルム基体の表面を溶解又は膨潤可能な、分子量100以下のケトン系有機溶剤及び/又はエステル系有機溶剤を5080重量%以下含有すると共に、該有機溶媒の前記塗料中における割合が35〜60重量%の塗料であることを特徴とする塗工フィルムの製造方法
【請求項2】
前記基体がセルロースエステルフィルムである請求項1に記載された塗工フィルムの製造方法
【請求項3】
前記分子量100以下のケトン系有機溶剤が、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジエチルケトン及びシクロヘキサノンの中から選択された1種であり、分子量100以下のエステル系有機溶剤が、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチルから選択された1種である、請求項1又は2に記載された塗工フィルムの製造方法
【請求項4】
前記塗工層のJIS−K7105に従って測定したヘイズ度が0.1〜3%である、請求項1〜3の何れかに記載された塗工フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載された製造方法により製造された塗工フィルムの該塗工層の上に、該塗工層の屈折率より低く、かつその差が0.01以上である低屈折率層を設ける工程を含むことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−45879(P2011−45879A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217113(P2010−217113)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【分割の表示】特願2003−55203(P2003−55203)の分割
【原出願日】平成15年3月3日(2003.3.3)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】