説明

塗工ペースト用ビヒクル及び塗工ペースト

【課題】導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等の無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクル、及び、該塗工ペースト用ビヒクルを用いた接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる塗工ペーストを提供する。
【手段】無機粉末を混合して塗工ペーストを製造するための塗工ペースト用ビヒクルであって、ポリビニルアセタール樹脂及び有機溶剤を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、沸点が150〜250℃の有機溶剤に10重量%の濃度で溶解し、E型粘度計を用いて30℃において剪断速度10s−1の条件で測定した粘度が10〜250Pa・sである塗工ペースト用ビヒクル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等の無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクル、及び、該塗工ペースト用ビヒクルを用いた接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる塗工ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の分野において導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等の無機粉末を塗工ペースト用ビヒクルに分散させた塗工ペーストを塗工した後、焼成することにより、精密な導電膜、セラミック膜、ガラス膜等を調製する方法が行われており、例えば、このような塗工ペースト用ビヒクルや塗工ペーストを使用した積層セラミックコンデンサ等の積層型の電子部品は、特許文献1又は特許文献2に開示されているように、一般に次のような工程を経て製造されている。
【0003】
まず、有機溶剤にポリビニルブチラール樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等のバインダー樹脂、セラミック原料粉末、可塑剤、分散剤等を添加し、均一に混合することにより、セラミックスラリー組成物を作製し、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、SUSプレート等の支持体面に流延成形して、支持体を剥離してセラミックグリーンシートを得る。次いで、得られたセラミックグリーンシート上に、無機粉末を分散させた塗工ペーストをスクリーン印刷等により塗工したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して製造した積層体に脱脂処理を行った後、焼成したセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが製造される。
【0004】
このように積層セラミックコンデンサ等の積層型電子部品を製造する際に用いる無機粉末を担持するための塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂としては、従来は主にエチルセルロース樹脂が用いられていた。エチルセルロース樹脂を含有する塗工ペースト用ビヒクルを用いた塗工ペーストは塗工性に優れ、とりわけスクリーン印刷等の塗工方法も採用できることから、精密な形状の塗膜を容易に形成することができる。
【0005】
しかしながら、エチルセルロースは、ポリビニルアセタール樹脂等を原料とするセラミックグリーンシートとの接着性に劣り、耐アルカリ性も低いことから、デラミネーションと呼ばれる層間剥離が発生していた。また、エチルセルロースは熱分解性が低いことから、脱脂処理をしても焼成後にカーボン成分が残留し、電気特性を損なうという問題もあった。
【0006】
これに対して、ポリビニルアセタール樹脂等のポリビニル系樹脂を塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂として用いて、塗工ペーストを作製する方法が検討されている。ポリビニルアセタール樹脂は、セラミックグリーンシートとの接着性に優れ、耐アルカリ性を有することから、塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂として用いれば、層間剥離の発生を抑制することができる。
【0007】
しかしながら、ポリビニルアセタール樹脂を塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂として用いた場合、塗工ペースト作製時の無機粉末を分散させる工程において、無機粉末の凝集や沈殿が起こり、エチルセルロースをバインダー樹脂として用いた場合と比べ、充分な分散状態が得られないという問題があった。
【特許文献1】特公平3−35762号公報
【特許文献2】特公平4−49766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等の無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクル、及び、該塗工ペースト用ビヒクルを用いた接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる塗工ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機粉末を混合して塗工ペーストを製造するための塗工ペースト用ビヒクルであって、ポリビニルアセタール樹脂及び有機溶剤を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、沸点が150〜250℃の有機溶剤に10重量%の濃度で溶解し、E型粘度計を用いて30℃において剪断速度10s−1の条件で測定した粘度が10〜250Pa・sである塗工ペースト用ビヒクルである。
以下、本発明につき、詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂としてポリビニルアセタール樹脂を用いた場合に、無機粉末の分散性が低下する原因は、無機粉末を分散させる工程において生じる機械的な剪断によって、有機溶剤中のポリビニルアセタール樹脂の溶解状態が変化したり、ポリビニルアセタール樹脂の分子鎖が切断されたりすることにより、塗工ペーストの粘度が低下し、塗工ペースト中の凝集無機粉体に剪断が充分に伝わらないことによるものであることを見出した。
【0011】
本発明者らは、更に鋭意検討した結果、所定の条件で測定した粘度が10〜250Pa・sであるポリビニルアセタール樹脂を塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂として用いることにより、無機粉末を分散させる工程において、有機溶剤中のポリビニルアセタール樹脂の溶解状態の変化や、ポリビニルアセタール樹脂の分子鎖の切断が起こった場合であっても、充分な粘度を確保できることから、無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクルが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、沸点が150〜250℃の有機溶剤に10重量%の濃度で溶解し、E型粘度計を用いて30℃において剪断速度10s−1の条件で測定した粘度の下限が10Pa・s、上限が250Pa・sである。10Pa・s未満であると、無機粉末を分散させる工程において、塗工ペースト中の凝集無機粉体に剪断が充分に伝わらず、無機粉末の分散性が不充分となる。250Pa・sを超えると、得られる塗工ペーストの粘度が高くなり過ぎてハンドリング性、塗工性等が悪化する。好ましい下限は15Pa・s、好ましい上限は230Pa・sである。より好ましい下限は20Pa・s、より好ましい上限は200Pa・sである。
上記沸点が150〜250℃の有機溶剤としては特に限定されず、例えば、α−テルピネオール、2−エチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0013】
なお、E型粘度計とは、コーン・プレート型粘度計とも言い、円錐状のコーンとプレートとの間に測定試料を挟み、コーンを回転させ発生するトルクにより、粘度を測定するものである。このようなE型粘度計としては、例えば、粘弾性測定装置(VAR−100、ジャスコインターナショナル社製)とコーン・プレート(直径25mm、コーン角度1°)とからなる粘度計等を用いることができる。
【0014】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位からなる変性ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖若しくは枝分かれ状のアルキル基を表し、Rは、水素、炭素数1〜20の直鎖、枝分かれ状若しくは環状のアルキル基又はアリール基を表し、また、nは1〜8の整数を表す。更に、変性ポリビニルアセタール樹脂中、一般式(3)で表される構造単位の含有量が20モル%未満、及び、一般式(4)で表される構造単位の含有量が30〜78モル%である。
【0017】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂は、上記各構成単位の比率、R若しくはRの選択、又は、nの選択により、粘度、チキソトロピー性等の諸性質を調整することができることから、このような変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する本発明の塗工ペースト用ビヒクルを用いて製造した塗工ペーストは、塗工性に優れ、とりわけスクリーン印刷性にも優れたものとなる。
【0018】
上記一般式(1)で表されるビニルエステル単位におけるRは炭素数1〜20の直鎖若しくは枝分かれ状のアルキル基であれば特に限定されず、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(1)で表されるビニルエステル単位の含有量としては特に限定されない。
【0019】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(2)で表されるビニルアルコール単位の含有量の好ましい下限は20モル%、好ましい上限は30モル%である。20モル%未満であると、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低く、塗工ペースト用ビヒクルのバインダー樹脂として用いることができないことがある。30モル%を超えると、導電粉末、セラミック粉末又はガラス粉末等の無機粉末の分散性が低下することがある。より好ましい上限は27モル%である。
【0020】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(2)で表されるビニルアルコール単位が連続する場合、隣り合う水酸基がトランス位にある割合の好ましい下限は60%である。60%以上であると、分子内の水酸基間の相互作用に比べて、分子間の水酸基間の相互作用が大きくなり、導電粉末、セラミック粉末又はガラス粉末等の無機粉末との親和性が向上して、これらの分散性が向上することがある。より好ましい下限は70%である。
【0021】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(3)で表されるα−オレフィン単位の含有量の好ましい上限は20モル%である。上記α−オレフィン単位含有することにより、塗工ペースト用ビヒクル中で擬似架橋構造を取りやすくなり、粘度が高くチキソトロピー性に優れた塗工ペースト用ビヒクルを得ることができるが、20モル%を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低くなり、バインダー樹脂として用いることができなかったり、バインダー樹脂の経時粘度安定性が低下したりすることがある。より好ましい上限は10モル%である。更に好ましい上限は8モル%である。
【0022】
上記α−オレフィン単位としては特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等に由来する単位が挙げられる。なかでも、エチレンに由来するエチレン単位であることが好適である。
【0023】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、一般式(3)で表されるα−オレフィン単位が連続する場合、連続するα−オレフィン単位の数の好ましい上限は10である。10を超えると、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低下し、バインダー樹脂として用いることができないことがある。
【0024】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、上記一般式(4)で表されるアセタール単位の含有量の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は78モル%である。30モル%未満であると、有機溶剤に不溶となり、塗工ペースト用ビヒクル作製に支障となることがある。78モル%を超えると、残存水酸基が少なくなって、強靱性が損なわれ、塗工ペーストとして印刷した場合の塗膜強度が低下することがある。好ましい下限は55モル%である。
【0025】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂において、一般式(4)で表されるアセタール単位が連続する場合、隣り合うアセタール基がトランス位にある割合の好ましい下限は30%、好ましい上限は70%である。30%未満であると、変性ポリビニルアセタール樹脂の溶剤溶解性が低下し、バインダー樹脂として用いることができないことがある。70%を超えると、アセタール結合が解離しやすくなり、粘度の変化が大きくなる等、良好な分散性が得られないことがある。
【0026】
上記一般式(4)で表されるアセタール単位において、Rは、CH及び/又はCであることが好ましい。CH及び/又はCであると、溶剤溶解性及び粘度安定性に優れるため、塗工ペースト用ビヒクル及び該塗工ペースト用ビヒクルを用いた塗工ペーストの生産性が向上する。
【0027】
上記変性ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、α−オレフィン単位の含有量が20モル%未満、ケン化度が80モル%以上である変性ポリビニルアルコールをアセタール化することにより製造することができる。
【0028】
上記変性ポリビニルアルコールは、ビニルエステルとα−オレフィンとを共重合した共重合体をケン化することにより得ることができる。上記ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。また、上記エチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有する変性ポリビニルアセタールを得る場合には、更にエチレン性不飽和単量体を共重合させる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とα−オレフィンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0029】
上記変性ポリビニルアルコールのケン化度の下限は80モル%である。80モル%未満であると、変性ポリビニルアルコールの水溶性が低下するため、アセタール化反応が困難になる。また、水酸基量が少ないとアセタール化反応自体が困難になる。
【0030】
上記変性ポリビニルアルコールは、上記α−オレフィン含有量が20モル%未満の範囲であれば、上記変性ポリビニルアルコールを単独で使用してもよく、又は、最終的に得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のα−オレフィン含有量が20モル%未満であれば、変性ポリビニルアルコールと未変性ポリビニルアルコールを混合して用いてもよい。また、アセタール化する際の変性ポリビニルアルコールのケン化度が80モル%以上であれば、上記変性ポリビニルアルコールを単独で用いてもよく、又は、ケン化度80モル%以上の変性ポリビニルアルコールとケン化度80モル%未満の変性ポリビニルアルコールを混合して、全体としてケン化度を80モル%以上に調整してから用いてもよい。
【0031】
上記変性ポリビニルアルコールの重合度としては特に限定されず、重合度の異なる上記変性ポリビニルアルコールを混合して用いてもよいが、重合度が1000以上の変性ポリビニルアルコールを含有することが好ましい。1000未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の粘度が低下することがある。
【0032】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下で上記変性ポリビニルアルコールの水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0033】
上記アルデヒドとしては特に限定されず、例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒドが、生産性と特性バランス等の点で好適である。また、反応温度を制御することにより、分子間アセタール化度を増やすことができ、より高い粘度を有する塗工ペースト用ビヒクルが得られる。これは2官能アルデヒドを用いることによっても達成できる。また、ベンズアルデヒド等を用いることにより、このような化学架橋ではなく樹脂間の静電的相互作用によって、より高い粘度の塗工ペースト用ビヒクルが得られる。これらのアルデヒドは単独で用いて
もよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記アセタール化のアセタール化度は、上記アルデヒドを単独で用いる場合、2種以上を併用して用いる場合のいずれにおいても、全アセタール化度の好ましい下限は30モル%、好ましい上限は78モル%である。30モル%未満であると、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂が有機溶剤に不溶となり、塗工ペースト用ビヒクル作製に支障となる。78モル%を超えると、残存水酸基が少なくなって、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂の強靱性が損なわれ、塗工ペーストとした場合に印刷時の塗膜強度が低下することがある。
なお、本明細書において、アセタール化度の計算方法としては、変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、アクリロニトリルメタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等のエチレン性不飽和単量体に由来する成分等を含有してもよい。これらのエチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有することにより、塗工ペースト用ビヒクル中で擬似架橋構造を取りやすくなり、より粘度の高い塗工ペースト用ビヒクルを得ることができ、また、上記変性ポリビニルアセタール樹脂に経時粘度安定性等を付与することができる。ただし、これらのエチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有する場合であっても、その含有量は2.0モル%未満であることが好ましい。
【0036】
本発明の塗工ペースト用ビヒクルにおける上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は50重量%である。1重量%未満であると、塗工ペースト用ビヒクルの粘度が低くなり、塗工用としての特性が得られない。50重量%以上であると、粘度が高いために扱いにくく、塗工ペーストを作製することができない。より好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は33重量%である。更に好ましい下限は5重量%、更に好ましい上限は20重量%である。
【0037】
本発明の塗工ペースト用ビヒクルは、バインダー樹脂として、上記ポリビニルアセタール樹脂の他に、エチルセルロース等を含有してもよい。この場合、上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量の好ましい下限は30重量%である。30重量%未満であると、得られる塗工ペーストの接着性が低下し、デラミネーションが発生することがある。
【0038】
本発明の塗工ペースト用ビヒクルは、有機溶剤を含有する。
上記有機溶剤としては特に限定されず、例えば、シクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、2−ヘプタノン、メチルペンチルケトン、メチルフェニルケトン等のケトン類;1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール等、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのアルコール類;テトラリン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン酸エチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸イソペンチル、酢酸ブチル、酢酸イソペンチル、イソ吉草酸イソペンチル等のエステル類;ブチルセルソルブ、α−テルピネオール、テルピネオールアセタ
ート、水素添加テルピネオール、水素添加テルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ヘキシセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、カルビトールアセタート、セロアオルブアセタート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の塗工ペースト用ビヒクルの製造方法としては特に限定されず、例えば、上記有機溶剤に上記変性ポリビニルアセタール樹脂を溶解する方法が挙げられる。
【0040】
本発明の塗工ペースト用ビヒクルに無機粉末等を分散させることにより、無機粉末等が極めて良好に分散された塗工ペーストを得ることができる。このようにして得られた塗工ペーストは、接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる。本発明の塗工ペースト用ビヒクルと無機粉末とを含有する塗工ペーストもまた、本発明の1つである。
【0041】
本発明の塗工ペーストは無機粉末を含有する。
上記無機粉末としては特に限定されず、例えば、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等が挙げられる。
【0042】
上記無機粉末として導電粉末を用いる場合、本発明の塗工ペーストは導電ペーストとして使用することができる。
上記導電粉末としては充分な導電性を示すものであれば特に限定されず、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、これらの合金等からなる粉末が挙げられる。これらの導電粉末は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
上記導電粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記導電粉末100重量部に対して好ましい下限は3重量部、好ましい上限は25重量部である。3重量部未満であると、導電ペーストの成膜性能が低下することがあり、25重量部を超えると、脱脂、焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は15重量部である。
【0044】
上記無機粉末としてセラミック粉末を用いる場合、本発明の塗工ペーストはセラミックペーストとして使用することができる。
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。なかでも、用いるセラミックグリーンシートに含有されるセラミック粉末と同一の成分からなることが好ましい。これらのセラミック粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記セラミック粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記セラミック粉末100重量部に対して好ましい下限は1重量部、好ましい上限は50重量部である。1重量部未満であると、セラミックペーストの成膜性能が低下することがあり、50重量部を超えると、脱脂、焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は30重量部である。
【0046】
上記無機粉末としてガラス粉末を用いる場合、本発明の塗工用ペーストはガラスペーストとして使用することができる。
上記ガラス粉末としては特に限定されず、例えば、酸化鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素−酸化カルシウム系ガラス、酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス、酸化鉛−酸化亜鉛−酸化ホウ素−酸化ケイ素系ガラス等が挙げられる。これらのガラス粉末は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化アル
ミニウム等を併用してもよい。
【0047】
上記無機粉末としてガラス粉末を用いる場合の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量としては特に限定されないが、上記ガラス粉末100重量部に対して好ましい下限は2重量部、好ましい上限は40重量部である。2重量部未満であると、ガラス粉末を確実に結着することができないことがあり、40重量部を超えると、脱脂・焼成後にカーボン成分が残留しやすくなる。より好ましい下限は4重量部、より好ましい上限は25重量部である。
【0048】
本発明の塗工ペーストは、分散剤を含有してもよい。
上記分散剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸、脂肪族アミン、アルカノールアミド、リン酸エステルが好適である。
【0049】
上記脂肪酸としては特に限定されないが、例えば、ベヘニン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、ヤシ脂肪酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ソルビン酸、牛脂脂肪酸、ヒマシ硬化脂肪酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。なかでも、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が好適である。
上記脂肪族アミンとしては特に限定されず、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、アルキル(ヤシ)アミン、アルキル(硬化牛脂)アミン、アルキル(牛脂)アミン、アルキル(大豆)アミン等が挙げられる。
上記アルカノールアミドとしては特に限定されず、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、牛脂脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
上記リン酸エステルとしては特に限定されず、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステルが挙げられる。
【0050】
本発明の塗工ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、潤滑剤、帯電防止剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0051】
本発明の塗工ペーストを製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂、有機溶剤及び無機粉末等をブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクル、及び、該塗工ペースト用ビヒクルを用いた接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる塗工ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
重合度1700、エチレン含有量5モル%、ケン化度99モル%の変性ポリビニルアルコール193gを純水2900gに加え、90℃で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を28℃に冷却し、濃度35重量%の塩酸20gとn−ブチルアルデヒド115gとを添加し、更に20℃に冷却、保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。そ
の後、溶液を30℃で5時間保持して反応を完了させ、中和、水洗及び乾燥工程を行い、変性ポリビニルアセタール樹脂の白色粉末を得た。
【0055】
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂をα−テルピネオール(沸点約219℃)に加え、80℃で1時間攪拌溶解し、10重量%溶液とした後、粘弾性測定装置(VAR−100、ジャスコインターナショナル社製)とコーン・プレート(直径25mm、コーン角度1°)とを用い、30℃、剪断速度10s−1の条件で粘度を測定したところ、34.9Pa・sであった。
また、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を、DMSO―d(ジメチルスルホキサイド)に溶解し、13C−NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いてブチラール化度及び水酸基量を測定したところ、ブチラール化度は71モル%で、水酸基量は23モル%であった。
【0056】
(導電ペーストの作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂7重量部とα−テルピネオールに60重量部とを混合し塗工ペースト用ビヒクルとし、これに導電粉末としてのニッケル微粒子(2020SS、三井金属社製)100重量部を加え、三本ロールで混練して導電ペーストを得た。なお、混練回数は3回とした。
【0057】
(実施例2)
重合度3300、ブチラール化度63モル%、水酸基量30モル%のポリビニルブチラール樹脂を作製し、用いた以外は、実施例1と同様の方法により、導電ペーストを得た。
なお、作製したポリビニルブチラール樹脂について、実施例1と同様の方法により粘度を測定したところ、167.4Pa・sであった。
【0058】
(実施例3)
アセタール化反応の際にn−ブチルアルデヒドと同時にグルタルアルデヒド1.5gを添
加して変性ポリビニルアセタール樹脂を作製した以外は、実施例1と同様の方法により、導電ペーストを得た。
なお、作製した変性ポリビニルブチラール樹脂について、実施例1と同様の方法により粘度を測定したところ、67.7Pa・sであった。
【0059】
(実施例4)
有機溶剤としてα−テルピネオールに代えて2−エチルヘキサン酸を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、導電ペーストを得た。
なお、有機溶剤を2−エチルヘキサン酸(沸点約228℃)に代えた以外は、実施例1と同様の方法により作製したポリビニルブチラール樹脂の粘度を測定したところ、29.5Pa・sであった。
【0060】
(比較例1)
市販のエチルセルロース(STD45型、ダウケミカル社製)をバインダー樹脂として用いた以外は、実施例1と同様の方法により、導電ペーストを得た。
なお、市販のエチルセルロースについて、実施例1と同様の方法により粘度を測定したところ、26.4Pa・sであった。
【0061】
(比較例2)
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックB「BM−S」、積水化学工業製)をバインダー樹脂として用いた以外は実施例1と同様の方法により、導電ペーストを得た。
なお、ポリビニルブチラール樹脂(エスレックB「BM−S」、積水化学工業製)について、実施例1と同様の方法により粘度を測定したところ、5.2Pa・sであった。
【0062】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1、2で作製した導電ペーストについて、以下の方法により評価を行った。
結果は表1に示した。
【0063】
(1)分散性評価
300メッシュのポリエステル版を用いて、50mm×50mmのパターンをスクリーン印刷した。この印刷物について、接触式表面粗さ計を用い、JIS B 0601に準拠した方法により、平均粗さRa及び最大高さRmaxを測定した。
【0064】
(2)印刷性評価
300メッシュのポリエステル版を用いて、20本/cmのラインパターンを連続して印刷したときに、印刷に不具合が発生した回数をカウントした。
【0065】
(3)熱分解性評価
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックB「BM−S」、重合度800、積水化学工業製)10重量部を、トルエン30重量部とエタノール15重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート3重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−01(平均粒径0.3μm)、堺化学工業製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。得られたセラミックスラリー組成物を、離型処理したポリエステルフィルム上に、乾燥後の厚みが約5μmになるように塗布し、常温で1時間風乾し、熱風乾燥機、80℃で3時間、続いて120℃で2時間乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。
【0066】
得られたセラミックグリーンシートを5cm角の大きさに切断し、これに得られた導電ペーストをスクリーン印刷したものを100枚積重ね、温度70℃、圧力150kg/cm、10分間の熱圧着条件で圧着して、セラミックグリーンシート積層体を得た。
得られたセラミックグリーンシート積層体を窒素雰囲気で、昇温速度3℃/分で450℃まで昇温し、5時間保持後、更に昇温速度5℃/分で1350℃まで昇温し、10時間保持してセラミック焼結体を得た。得られたセラミック焼結体について目視にて観察し、以下の基準によりセラミックグリーンシート積層体の熱分解性を評価した。
○:均一に焼結されており、セラミック粉末以外のものは認められない
△:シート内に黒色の点状のものが一部まれに確認される
×:シート内に黒色の点状のものがかなり多く確認される
【0067】
(4)接着性評価
導電ペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥後の厚さ10μm、1cm角の大きさとなるように塗工し、この上に評価(3)で作製したセラミックグリーンシートを積層し、温度80℃、圧力39kg/cmの条件で3秒間熱圧着して積層体を作製した。得られた積層体を、加温時粘着力測定機(FCL009型、フジコビアン社製)を用いて、0.49mm/秒の速度で引き剥がしたときの剥離強度を測定した。
【0068】
(5)デラミネーション評価
得られた焼結体を常温まで冷却した後、半分に割り、ちょうど50層付近のシートの状態を電子顕微鏡で観察し、セラミック層と導電層とのデラミネーションの有無観察し、以下の基準により接着性を評価した。
○:デラミネーションなし
×:デラミネーションあり
【0069】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、無機粉末の分散性に優れる塗工ペースト用ビヒクル、及び、該塗工ペースト用ビヒクルを用いた接着性に優れ、デラミネーションを防止することができる塗工ペーストを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粉末を混合して塗工ペーストを製造するための塗工ペースト用ビヒクルであって、ポリビニルアセタール樹脂及び有機溶剤を含有し、前記ポリビニルアセタール樹脂は、沸点が150〜250℃の有機溶剤に10重量%の濃度で溶解し、E型粘度計を用いて30℃において剪断速度10s−1の条件で測定した粘度が10〜250Pa・sであることを特徴とする塗工ペースト用ビヒクル。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位からなる変性ポリビニルアセタール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の塗工ペースト用ビヒクル。
【化1】

式中、Rは、炭素数1〜20の直鎖又は枝分かれ状のアルキル基を表し、Rは、水素、炭素数1〜20の直鎖、枝分かれ状若しくは環状のアルキル基又はアリール基を表し、また、nは1〜8の整数を表す。更に、変性ポリビニルアセタール樹脂中、一般式(3)で表される構造単位の含有量が20モル%未満、及び、一般式(4)で表される構造単位の含有量が30〜78モル%である。
【請求項3】
一般式(2)で表される構造単位の含有量が20〜30モル%であることを特徴とする請求項1又は2記載の塗工ペースト用ビヒクル。
【請求項4】
がCH及び/又はCであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の塗工ペースト用ビヒクル。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の塗工ペースト用ビヒクルと無機粉末とを含有することを特徴とする塗工ペースト。


【公開番号】特開2006−244922(P2006−244922A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61356(P2005−61356)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】