説明

塗工液、塗工シート及び印刷物並びに真偽判別方法

【課題】微粒子を含有した塗工液を基材に塗工した塗工シートを用いてインクドットの形状やインクの浸透状態を観察することで真偽判別をする塗工液、塗工シート及び印刷物並びに真偽判別方法を提供する。
【解決手段】蛍光を有さず、インキ定着せず、かつ、支持体に浸透しない微粒子を含有した塗工液を塗工したシートに、インクジェットプリンタにより出力した印刷物を、CLSMで観察した再構築画像から、微粒子の有無を検出することにより、真偽判別を行うものである。図6に示すように、微粒子の無蛍光画像として、白い点線で示した球状の無蛍光部分(黒)を検出することで、真偽判別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光を有さず、インキ定着せず、かつ、支持体に浸透しない微粒子を含有する塗工液に関し、これを用いて形成される塗工シート及びこの塗工シートに形成することで得られる印刷物の真偽判別用として使用することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有価証券類を構成する支持体としての紙に、最も一般的に用いられている偽造防止技術としては、例えば、透き入れ技術、支持体表面に白色インキで透かし模様を形成する技術、蛍光繊維を添加する技術、着色フィルムや金属箔小片等をスレッドとして抄き込む技術等が開示されている。また、材質的な透過度の差を利用した透かしが施された紙幣や、商品券等の用紙に印刷する印刷インキ等に、磁性、蛍光又は赤外線等の機能を持たせることで、真偽判別の要素とする技術が開示されている。
【0003】
しかし、一般的に紙やインクジェット記録材料に透かしを抄き込む方法では、高度な技術が必要であり、また、白色インキで透かし模様を印刷する方法では、その上にインクジェット記録層を形成した場合には、透かし模様の視認性が悪いという欠点がある。また、スレッドを抄き込む方法では、印刷デザインに影響を与えることや、蛍光繊維の混入では、簡単なブラックライトが普及しているため、蛍光繊維が添加されていることが容易に解ってしまい、偽造され易いという種々の問題がある。
【0004】
従来、基材となる紙の上に塗工する塗工液としては、無機顔料としてクレー、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、タルク等、これを紙に固定するための接着剤(バインダー)として、ポリビニルアルコール、酸化澱粉、スチレンブタジエン系等、さらに必要に応じて架橋剤、消泡剤、増粘剤、耐水化剤等の塗工用助剤を入れた塗工液が開示されている。
【0005】
無機顔料とバインダーとを主成分とする塗工液に、赤外線吸収粒子を添加した赤外線吸収粒子入りの塗工液を調製し、さらに、ガラスビーズを添加し、この塗工液を用紙の表面に塗工した偽造防止用紙が従来技術として知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
この偽造防止用紙は、通常光のもとでは無色であるが、赤外画像をモニタすることができる構造のビデオカメラで観察すると、液晶モニタには赤外線を吸収し、暗く写っている粒子を視認することができ、また、紫外線の照射では、赤色に発色し、粒子を電子顕微鏡で観察すると、ガラスビース特有の真球状の形状を観察することで用紙の真偽を判別している。
【0007】
用紙やインクジェット記録材料に、各種印刷方式やインクジェット記録方式により記録を行って得られる記録物の内部構造や、インクの浸透状態を観察する方法として、共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いることで、断面を作製することなく観察することができる、紙等の記録媒体又は記録物の観察方法(例えば、特許文献2参照。)が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−129396号公報
【特許文献2】特開2004−333228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1は、赤外線吸収粒子として用いられている材料の種類は多く、簡単に類似の材料を入手することが可能であり、偽造が容易である。さらに、真正の用紙に添加されている赤外線吸収粒子と偽造した用紙に添加されている赤外線吸収粒子が異なっていても、実際には赤外線吸収粒子を判別することは難しい。
【0010】
特許文献2は、共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いることで、紙等の記録媒体又はインクで印字された記録物の任意の位置における2次元像、3次元像を観察することで、その内部構造やインクの浸透状態等を短時間に観察するものであり、塗工液に特別な構成をしているものではない。
【0011】
本発明は、上述した課題にかんがみなされたものであり、本発明の目的は、蛍光を有さず、インキ定着せず、かつ、支持体に浸透しない微粒子を含有した塗工液を作製し、該塗工液を基材に塗工した塗工シートに印刷して印刷物を得ることである。得られた印刷物の真偽判別を共焦点レーザ走査型顕微鏡(以下、「CLSM」という。)を用いてインクドットの形状やインクの浸透状態を観察することで、印刷物の真偽判別をする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の塗工液は、支持体上に塗工層を形成する、少なくともインキ定着挙動を有する微細顔料とバインダー樹脂とを含んだ塗工液において、塗工液に、さらに、蛍光を有さず、インキ定着せず、支持体に浸透せず、かつ、微細顔料と異なる形状を有する微粒子を含有するものである。
【0013】
また、本発明の塗工液を構成する微粒子は、無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩又はポリマー粒子のいずれかであって、好ましくは、粒径1μm〜20μmの球状である。
【0014】
また、本発明の塗工液を構成する微粒子の添加量は、微細顔料に対して1〜20%以下である。
【0015】
本発明の塗工シートは、前述の塗工液を支持体上の少なくとも片面の全部又は一部に塗布してインキ受容層を形成した塗工シートであって、塗工層中の微粒子の含有量は、全塗工液100重量部に対し、0.1重量部以上20重量部以下である。
【0016】
本発明の印刷物は、塗工シートに、印刷又はインクジェット印刷して成るものである。
【0017】
本発明の印刷物の真偽判別方法は、印刷物の表面にレーザ光を走査し、走査光により印刷物の印刷部分から励起した蛍光を検出器によって検出し、検出器が捉えた蛍光を画像情報に変換することで、印刷部分の任意の位置における二次元像及び/又は三次元像を得、得られた像を観察して、印刷物に施された印刷部分における塗工層に存在する微粒子部分が無蛍光で、微粒子が有する特異な形状として観察されることで真偽判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、印刷物を肉眼や光学顕微鏡等の簡易的な装置で観察した場合には、一般的な印刷物と識別できないが、CLSMを用いて観察した際に、一般的な印刷物と識別することが可能となった。これは、蛍光を有さず、インキ定着せず、かつ、支持体に浸透しない微粒子が、蛍光発光の有無で識別できるという機能を有しており、この微粒子を含有した塗工液を基材に塗工しているので、特別な技術を必要とせずに、容易に一般的な塗工紙及びインクジェット記録シートと差別化が図れる塗工シートを作製することができ、該塗工シートに印刷を施して作製した印刷物は、CLSMを用いて蛍光観察すると、蛍光を発光しない微粉末と印刷によるインキのドット形状の蛍光発光とにより、印刷物の真偽判別が可能となり、CLSMで蛍光の有無を観察することで、初めて確認できるものであり、偽造防止効果を一層高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一般的なカラー印刷物の模式図。
【図2】共焦点レーザ走査型顕微鏡の概略図。
【図3】図1の一般的なカラー印刷物のマゼンタ部分の蛍光を観察する模式図。
【図4】本発明の塗工シートに存在する無機微粉末上の印刷部分が無蛍光部分として観察される模式図。
【図5】本発明の実施例2に係る印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)。
【図6】本発明の実施例3に係る印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)。
【図7】比較例2の印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)。
【図8】比較例3の印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)。
【図9】シリカのSEM画像
【図10】シリカのSEM画像
【図11】顔料タイプのマゼンタインクのスペクトル(インクジェット)
【図12】染料タイプのマゼンタインクのスペクトル(インクジェット)
【図13】染料タイプのマゼンタインキのスペクトル(オフセット)
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる発明を実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、一般的なカラー印刷物の模式図である。図2は、共焦点レーザ走査型顕微鏡の概略図である。図3は、図1の一般的なカラー印刷物のマゼンタ部分の蛍光を観察する模式図である。図4は、本発明の塗工シートに存在する無機微粉末上の印刷部分が無蛍光部分として観察される模式図である。図5は、実施例2に係る印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す図である。図6は、実施例3に係る印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す図である。図7は、比較例2の印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す図である。図8は、比較例3の印刷物を共焦点レーザ走査型顕微鏡により観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す図である。図9及び図10は、市販されているシリカのSEM画像を示す図である。図11は、顔料タイプのマゼンタインクジェットインクの蛍光スペクトル図である。図12は、染料タイプのマゼンタインクジェットインクの蛍光スペクトル図である。図13は、染料タイプのマゼンタオフセットインキのスペクトル図である。
【0022】
本発明において、塗工液は、一般に塗工液を構成するために用いられる微細顔料とバインダー樹脂とを含んだ塗工液に、更に微細顔料と異なる形状を有し、インキに定着せず、かつ、蛍光を発光しないという機能を有し、支持体に浸透しない微粒子を含有させたことを特徴としている。また、本発明の塗工液は、微粒子を塗工液作製時に添加して混合することで得られるため、特別な技術及び設備が不要であり、容易に作製することができる。
【0023】
本発明で用いる微細顔料としては、特に限定しないが、市販の顔料、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン又はクレー等、一般に塗工紙分野で公知公用の各種顔料が挙げられる。これらの顔料の中でも、特に、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ等の細孔容積が大きく、インキ吸収性が良いものが好適に用いられる。また、顔料の平均粒径は、1μm以下であるとインキ吸収性に優れ、透明性、光沢性にも優れるインキ受容層が得られる。本発明の実施の形態においては、入手が容易で、さらに安価であるということで、シリカを用いる。
【0024】
また、本発明で用いるバインダー樹脂としては、ポリビニルアルコール、デンプン、スチレン−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス又はスチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系共重合体ラテックス等、一般に塗工紙分野で公知公用の各種接着剤が挙げられる。
本発明の実施の形態においては、ポリビニルアルコールを用いる。
【0025】
本発明の微粒子としては、微細顔料と異なる形状を有する無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩又はポリマー粒子等が挙げられるが、具体的な例としては、基材に浸透しないガラスビーズ、ガラスパウダー、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、ポリマー粒子等が挙げられる。
微粒子の粒径としては、1μm〜20μmの範囲であれば良い。また、形状は、用いる微細顔料と差別化ができる形状であれば良いが、好ましくは、球状の形状のものが良い。
【0026】
本発明に用いる微細顔料及び微粒子は、同じ原料を用いているものもあるが、製造方法によって形状が異なるので、目的によって、微細顔料と微粒子の形状を異ならせれば良い。一例として、図9及び図10に、市販されているシリカのSEM画像を示す。
図9に示したシリカは、インクジェットプリンター用紙のインク吸収剤、浴用剤の固結防止等に使用されるものである。図10は、高度に精製された原料を用いて製造された不純物量が少ないシリカである。高い球形度を持った球状シリカであり、他のシリカと形状が全く異なる。
【0027】
微粒子の添加の適量は、印刷品質上、シリカやアルミナ等の微細顔料に対して1〜20%以下であれば良い。
印刷品質とは、例えば、印刷物を目視したときに、印刷領域全体で、印刷濃度が一様であるか又は画像が良好であるかというようなことで品質を評価する。
【0028】
本発明の塗工液を塗布して、塗工シートを得るための基材としては、微粒子を含有する塗工液を、塗工紙では、基材上にインク吸収層となる塗工層を形成し、印刷されたインクをインク吸収層で吸収定着できるように、また、インクジェット用記録シートでは、基材上にインク受理層となる塗工層を形成し、吐出されたインクをインク受理層で吸収定着できるように塗布できるものであれば、各種基材を使用することができる。
【0029】
また、塗工液を基材の少なくとも片面上に、公知の方法、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法等により塗工し、塗工層を形成する。塗工層中に含有される微粒子の量は、全塗工液100重量部に対し、0.1重量部以上20重量部以下とするのが好ましい。基材上への塗工は全面であっても一部分であっても良い。
【0030】
本発明の塗工シートは、上記したようにして作製した塗工液を、紙等の基材上に塗工することで塗工層を形成し、塗工紙及びインクジェット用記録シートに用いることが可能な塗工シートを作製する。作製された塗工シートは、肉眼で見た場合には微粒子の存在を視認されず、品質においては、従来の塗工紙及びインクジェット用記録シートと同様の品質を得ることができる。
【0031】
本発明の塗工シートに印刷を施すと、インキは塗工シートの塗工層に浸透し、塗工層内に存在する微細顔料や微粒子間の空隙に浸透することで印刷物が得られる。インク液が拡散してドットの径が必要以上に大きくならないようにするために、インキ浸透状態は、塗工層を構成する塗工液の設計に依存する。
【0032】
得られた印刷物を、肉眼や光学顕微鏡等の簡易的な装置で観察した場合には一般的な印刷物と識別できないが、CLSMを用いて観察すると、試料を破壊することなく、任意の位置におけるXY断面、XZ断面等を観察することが可能となり、塗工層中の蛍光を発光しない微粒子と印刷に用いたインキ及びインクジェットインクのマゼンタインクが持つ、蛍光特性とを測定することができるため、印刷物の真偽判別に利用することが可能となる。
本発明において、印刷物とは、本発明による塗工シートに、一般に公知の印刷を施すことにより得られた印刷物及びインクジェット記録方式により得られた記録物を総称して印刷物という。
【0033】
本発明の塗工シートであるインクジェット用記録シートに印刷するインクは、市販のインクジェット用インクを使用するが、インクジェット用インクの製造会社により特化された製造方法があるが、一般にインクジェット用インクには製造工程で既に蛍光染料が配合されているものが多く、そのため、CLSMで観察した場合、インキの持つ蛍光を観察することができる。マゼンタインクは、確実に蛍光を発光し、イエロー及びシアンのインクは蛍光を持っているものと持っていないものとがあり、ブラックは蛍光を持っていない。
【0034】
一般的なインクジェットプリンタでカラー印刷を行った場合、カラー印刷物はイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのインクにより構成され、印刷部分のどこかにマゼンタインクが存在する。このことを利用して、本発明の塗工液で塗工層を形成したインクジェット用記録シートにインクジェット用インクで印刷し、印刷部分に存在するマゼンタ部分をCLSMにより観察し、マゼンタインクの蛍光分布から微粒子の有無を確認することにより、一般的なインクジェット用記録シートとの違いを観察することができる。
【0035】
また、本発明の塗工シートである塗工紙に印刷するインキとしては、オフセットインキやグラビアインキ等の一般に公知のインキがあるが、これらのインキのマゼンタインキについても、一般的に蛍光成分が含まれているため、インクジェット印刷と同様にカラー印刷のマゼンタ部分を観察することで、塗工紙表面にわずかに浸透したマゼンタインキの分布から、一般的な塗工紙との違いを観察することが可能となる。
【0036】
マゼンタインキが蛍光発光することは、インキの励起‐蛍光特性を、分光蛍光光度計を用いて蛍光測定又はCLSMを用いてスペクトル測定をすることにより確認することができる。分光蛍光光度計による蛍光測定では、インキを希釈して試料ホルダーにセットし、励起波長、スリット幅及び検出波長領域を選択し、蛍光測定を行う。蛍光測定の結果から得られたスペクトルデータから蛍光の有無を確認することができる。CLSMのスペクトル測定では、スリットの幅を波長方向に少しずつ変更し、その蛍光のスペクトルを取得するものである。
【0037】
図11は、分光蛍光光度計により得た顔料タイプのマゼンタインクジェットインクの蛍光スペクトルである。蛍光強度の最大値を100としたときの相対強度で示している。顔料タイプのマゼンタインクジェットインクでは、励起波長488nmの時に550nm及び590nm付近に二つの蛍光ピークを持っている。
図12は、分光蛍光光度計により得た染料タイプのマゼンタインクジェットインクの蛍光スペクトルである。蛍光強度の最大値を100としたときの相対強度で示している。染料タイプのマゼンタインクジェットインクでは、励起波長488nmの時に590nmに蛍光ピークを持っている。
図13は、CLSMにより得たマゼンタオフセットインキの蛍光スペクトルである。励起波長514nmの時に610nm付近に蛍光ピークを持っている。
以上の例ように、一般的なマゼンタインク及びマゼンタインキには、蛍光成分が含まれており、CLSMを用いてスペクトル測定をすることにより確認することができる。
【0038】
図1に、市販の塗工紙に印刷を行った一般的なカラー印刷物の模式図を示す。図に示すように、カラー印刷物は、プロセスカラー4色である、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各インキが混在した状態となっている。
【0039】
図2は、本発明の塗工シート及び印刷物を観察するための、CLSMの概略図を示したものである。CLSMの特徴は、レーザ光を光源1とする顕微鏡であり、試料の焦点面7をレーザで走査し、焦点面7から発光する蛍光の平面分布を記録し、コンピュータを通して各焦点面での切片画像を再構築することにより、通常の光学顕微鏡よりZ軸上の分解能がはるかに高い3次元画像が得られる点にある。
【0040】
光源1からの照射光(レーザ光)は、レンズ2によって励起用ピンホール3に集光され、ダイクロイックビームスプリッタ4によって走査装置5の方向に反射される。照射光は、顕微鏡対物レンズ6を通って焦点面7に集光され、スポット状のビームで試料上を走査する。顕微鏡対物レンズ6の間に配置される試料から励起される蛍光は、試料からの蛍光が照射光とは異なる波長を有するため、対向する方向に照射ビーム経路に沿って進み、ダイクロイックビームスプリッタ4を通過する。ダイクロイックビームスプリッタ4の後に配置される検出用ピンホール8は、励起用ピンホール3に対して共焦点共役になるように配置されるため、焦点面以外からの光を排除し、焦点領域からの蛍光のみが検出器9(フォトマル:PMT)によって検出される。検出器9がとらえた蛍光は、画像情報に変換され、最終的にモニタ上に表示される。焦点面7をずらして光学切片像を集めることで、3次元像が作られる。
【0041】
ピンホールとは、フォトマルの直前に設置された固定又は可変式の絞りである。3次元分解能は、この絞りの開閉に大きく影響される。また、ピンホールを通した蛍光は、Z軸上の分解能の大幅な向上のみならず、X−Y平面上の分解能向上にも好影響を与える。
【0042】
以上のような構成のCLSMを用いて試料(記録媒体又は記録物)を観察する場合、適当な大きさにカットされた試料を、スライドガラス上に固定した状態で、上記走査装置5上に載置する。精度の高い観察及び解析を可能とするため、試料のスライドガラスへの固定には、両面テープ等の粘着剤を用い、シワ等のないように、平らに固定することが好ましい。
【0043】
また、出力画像の解像度を高める観点から、試料の表面と共焦点光学系を構成する顕微鏡対物レンズ6との間に水又は油を付与し、走査光により該試料から励起した蛍光又は反射光が、この付与された水又は油中を通過して該顕微鏡対物レンズ6に達するようにすることが好ましい。このように試料と顕微鏡対物レンズとの間を水又は油で満たすことで、両者間に空気が介在する場合に比して、光の屈折率差を少なくすることができ、光検出によって検出される光情報の損失を少なくすることができる。この油としては、顕微鏡用の油浸オイル(インマージョンオイル又はセダー油)等を用いることができる。また、ここで使用する水又は油の選択に当たっては、試料に対する影響が最も少なくなる点を考慮する。例えば、試料が、水性インクで印字された記録物である場合、水を使用すると、インク成分や塗工材料等が溶解又は溶出するおそれがあるため、油を使用することが好ましい。なお、観察時における試料と対物レンズとの間の距離は極めて短いため、試料の表面に1〜2滴程度の水又は油を付着させれば、その表面張力により、試料と対物レンズとの間における蛍光又は反射光の光路(走査光の光路と同じ)を該水又は油で満たすことができる。
【0044】
図3は、図1の印刷物をCLSMで観察したときのマゼンタ部分の蛍光を観察した模式図である。印刷によるドットの形状が得られているのが分かる。
【0045】
図4は、本発明の塗工シートである塗工紙及びインクジェット用記録シートに、同様の方法で印刷を行い、CLSMでマゼンタ部分の蛍光を観察した模式図である。図に示すように、塗工層内に存在する微粒子上に印刷された印刷部分は、微粉末部分に架かった印刷部分を無蛍光部分として観察することができる。これは、微粒子にインキが定着しないため、微粒子部分のインキがはじかれ、はじいた部分の微粉末自身が蛍光を有していないためである。このようなことから、一般的な塗工紙及びインクジェット用記録シートと差別化を図ることが可能となるため、真偽判別が可能となる。
【実施例1】
【0046】
以下に、実施例と比較例とを示して、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
本発明の実施の形態に係る塗工液の実施例1を、比較例1とともに説明する。微粒子としてガラスパウダーを用いた例を示すが、これに限定されるものではない。
以下の配合で、塗工液を調整する。比較例は、ガラスパウダー分をシリカとして増量する。
【0047】
(実施例1及び比較例1における塗工液の配合割合)
実施例1(単位g) 比較例1(単位g)
シリカ 9.5 10.0
ガラスパウダー 0.5 −
0.06%ポリアクリル酸ナトリウム溶液 25.0 25.0
蒸留水 60.0 60.0
10%PVA水溶液 45.0 45.0
定着剤 0.6 0.6
【実施例2】
【0048】
実施例2として、本発明の実施の形態に係る塗工シートの作製方法を示す。実施例1で調整した塗工液を支持体に塗工して塗工シートを作製する。支持体である紙の画像受像層を設ける側に相当する面に対し、常法にしたがって塗布し、乾燥させることで塗工層を形成する。塗工層の厚さとしては、特に制限はない。このとき、該塗工液には、この他に従来用いられている各種添加剤、例えば、界面活性剤、潤滑剤及び安定剤等を添加することができるが、各種添加剤を添加することにより、何らかの蛍光が発することのないようにする必要がある。
【0049】
上記配合の塗工液を塗工して、塗工紙及びインクジェット用記録シートとする塗工シートを作製する。この塗工シートを用いて、一般に公知のインキで印刷又はインクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)でインクジェット印刷を行い、印刷物を得る。得られた印刷物に対して、CLSMでインク定着状態を観察する。
【0050】
比較例2についても、比較例1で調整した塗工液である、ガラスパウダーを含有しない一般的な塗工液を、実施例2と同様に常法にしたがって塗布し、乾燥させて塗工紙及びインクジェット用記録シートとする塗工シートを作製する。
【0051】
上記のように作製した塗工紙及びインクジェット用記録シートに、印刷を施した印刷物に対して、上述したCLSMを用いて蛍光平面画像を次々に取得し、最終的に得られた全画像を再構築することで蛍光の三次元画像とする。三次元画像は、立体画像、XY断面画像やXZ断面画像として表示する。
【実施例3】
【0052】
実施例3では、実施例2で作製したインクジェット用記録シートに、ドット占有面積率100%の設定でインクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)により出力して印刷物を得た。
【0053】
以下の実施例では、塗工シートとしてインクジェット用記録シートを用いて印刷した印刷物を例に説明するが、これに限定されるものでなく、本発明の塗工紙に一般のオフセット印刷や凹版印刷等で印刷した印刷物でも同様の結果が得られる。
【0054】
実施例3に係る印刷物のインク定着状態の観察は、CLSM(ライカマイクロシステムズ社製「TCS SP5」)を用いた。励起波長514nm、検出波長530nm〜700nmとし、全測定領域で蛍光が飽和しないように感度を調整した。また、63倍のオイルレンズを使用し、デジタルズームを4倍に設定した。
【0055】
図5は、ドット占有面積率100%の設定でインクジェットプリンタにより出力した印刷物を、CLSMで観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示すものである。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。図の中で略正方形状の画像1は、試料のXY平面を示す正面図であり、画像1の下にある長方形状の画像2は、画像1のab線断面図であり、画像1の右にある長方形状の画像3は、画像1のcd線断面図である。画像1のab線上及びab線断面図である画像2にある二つのガラスパウダー部分が無蛍光部分(黒)として示されている。また、画像1のcd線上及びab線断面図である画像3にある一つのガラスパウダー部分が、球状の無蛍光部分(黒)として示されている。画像1、画像2及び画像3に示されたガラスパウダー部分は、白い点線で示した。
【実施例4】
【0056】
実施例4では、実施例2で作製したインクジェット用記録シートに、ドット占有面積率10%の設定でインクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)により出力して印刷物を得た。CLSMの観察条件は、実施例3と同様に設定した。
【0057】
図6は、ドット占有面積率10%の設定でインクジェットプリンタにより出力した印刷物を、CLSMで観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示すものである。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。図の中で略正方形状の画像1は、試料のXY平面を示す正面図であり、画像1の下にある長方形状の画像2は、画像1のab線断面図であり、画像1の右にある長方形状の画像3は、画像1のcd線断面図である。画像1のab線上及びcd線上にあるガラスパウダー部分は、球状の無蛍光部分(黒)として示されている。また、ab線断面図である画像2及びcd線断面図である画像3にも無蛍光部分(黒)として示されている。画像1、画像2及び画像3に示されたガラスパウダー部分は、白い点線で示した。
【0058】
比較例3として、比較例2で作製した塗工シートに、実施例3と同様に、ドット占有面積率100%の設定でインクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)により出力して印刷物を得た。CLSMの観察条件は、実施例3と同様に設定した。
【0059】
図7は、得られた印刷物をCLSMで観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。図の中で略正方形状の画像1は、試料のXY平面を示す正面図であり、画像1の下にある長方形状の画像2は、画像1のab線断面図であり、画像1の右にある長方形状の画像3は、画像1のcd線断面図である。試料のXY平面を示す画像1から、印刷されたインクが存在する部分が蛍光部分(白)として示されているのが分かり、実施例3で観察されたガラスパウダーの球状の無蛍光部分(黒)は見られない。また、塗工層内部を示す画像2及び画像3についても、インクの蛍光部分(白)のみで、添加していないガラスパウダーの球状の無蛍光部分(黒)は見られない。
【0060】
比較例4として、比較例2で作製した塗工シートに、実施例4と同様に、ドット占有面積率10%の設定でインクジェットプリンタ(ヒューレット・パッカード社製)により出力して印刷物を得た。CLSMの観察条件は、実施例3と同様に設定した。
【0061】
図8は、得られた印刷物をCLSMで観察した再構築画像(XY断面及びXZ断面)を示す。モノクロ印刷画像となっているが、実際にはカラー画像が得られる。図の略正方形状の画像1は、試料のXY平面を示す正面図であり、画像1の下にある長方形状の画像2は、画像1のab線断面図であり、画像1の右にある長方形状の画像3は、画像1のcd線断面図である。試料のXY平面を示す画像1から、印刷されたインクが存在する部分が蛍光部分(白)として示されているのが分かり、実施例4で観察されたガラスパウダーの球状の無蛍光部分(黒)は見られない。また、塗工層内部を示す画像2及び画像3についても、インクの蛍光部分(白)のみで、添加していないガラスパウダーの球状の無蛍光部分(黒)は見られない。
【符号の説明】
【0062】
1 光源
2 レンズ
3 砺起用ピンホール
4 ダイクロミックビームスプリッタ
5 走査装置
6 顕微鏡対物レンズ
7 焦点面
8 検出用ピンホール
9 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に塗工層を形成する、少なくともインキ定着を有する微細顔料とバインダー樹脂とを含んだ塗工液において、前記塗工液に、さらに、蛍光を有さず、インキ定着せず、前記支持体に浸透せず、かつ、前記微細顔料と異なる形状を有する微粒子を含有することを特徴とする塗工液。
【請求項2】
前記微粒子は、前記微細顔料と異なる形状を有する無機酸化物、水酸化物塩、炭酸塩、ポリマー粒子のいずれかである請求項1記載の塗工液。
【請求項3】
前記微粒子の粒径は1μm〜20μmである請求項1又は2記載の塗工液。
【請求項4】
前記微粒子の形状は、球状である請求項1乃至3のいずれか1項記載の塗工液。
【請求項5】
前記微粒子の添加量は、前記微細顔料に対して1〜20%以下である請求項1乃至4のいずれか1項記載の塗工液。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の塗工液を支持体上の少なくとも片面の全部又は一部に塗布して塗工層を形成した塗工シートであって、前記塗工層中の微粒子の含有量は、全塗工液100重量部に対し、0.1重量部以上20重量部以下であることを特徴とする塗工シート。
【請求項7】
請求項6記載の塗工シートに、印刷又はインクジェット印刷して成る印刷物。
【請求項8】
請求項7記載の印刷物の真偽判別方法であって、
前記印刷物の表面にレーザ光を走査し、走査光により前記印刷物の印刷部分から励起した蛍光を検出器によって検出し、
前記検出器が捉えた蛍光を画像情報に変換することで、前記印刷部分の任意の位置における二次元像及び/又は三次元像を取得し、
取得した像を観察して、前記印刷物に施された印刷部分における前記塗工層に存在する微粒子部分が無蛍光で、前記微粒子が有する特異な形状として観察されることで真偽判別することを特徴とする印刷物の真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−229566(P2010−229566A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75437(P2009−75437)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】