説明

塗工液、塗工物及び塗工物の製造方法

【課題】優れた金光沢を備えると共に赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整が可能な塗工液及び塗工物、並びに煩雑な工程を必要とせず製造コスト的にも有利な塗工物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、金ナノ粒子[A]及びシランカップリング剤[B]を含有する塗工液であって、上記シランカップリング剤[B]が、ジアミノ構造、メルカプト基及びスルフィド基からなる群より選択される1種又は2種以上を有し、かつ、上記シランカップリング剤[B]の含有量が、上記金ナノ粒子[A]100質量部(金属換算)に対して1質量部以上20質量部以下であることを特徴とする塗工液である。上記金ナノ粒子[A]の構成金属は、金又は金を含有する合金が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液、塗工物及び塗工物の製造方法に関し、詳細には、優れた金光沢を備えると共に、赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相に調整できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径が数nm〜数10nm程度の金属ナノ粒子は、溶液中で均一に分散しコロイドの形態をとり、その特徴を活かして種々の分野で利用されている。例えば、特開平11−080647号公報には、金属ナノ粒子及び高分子顔料分散剤を含有するコロイド溶液が塗工液等に利用できることが開示されている。
【0003】
かかる塗工液は、特に意匠性が要求される分野に用いられる場合、優れた金属光沢を備えると共に、その色相が重視され、市場のニーズに応じて色相を調整する技術が望まれている。例えば、従来の金ナノ粒子を含有する塗工液が塗工された物品は、優れた金光沢を備えるものの、その色相は金固有の色相にほぼ限定され、赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整が困難である。
【0004】
そこで、色相の調整手段としては、従来、塗工液にアクリル樹脂等のバインダー成分、着色剤等を添加する技術や金属を合金化する技術が開発されている。例えば、特開2003−327870号公報には、塗工液に上記バインダー成分を添加し、塗工層の色相を調整する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、一般に優れた金属光沢を備える塗工層を得るには、塗工液に含有される金属(粒子)以外の成分を低減すること、塗工層が均一な薄膜状であること等が好ましいとされる。そのため、上記バインダー成分を添加する技術を用いる場合は、塗工液に含有される顔料以外の成分の組み合わせによっては白濁を生じることや、塗工層表面の平滑度を低下させることがあり、色相を調整できた場合であっても金属固有の金属光沢を維持できないおそれがある。一方、金属を合金化する技術を用いる場合には、凝集沈澱を起こしたり、製造に際して煩雑な工程を要し、製造コスト的にも不利である。
【0006】
従って、優れた金属光沢を備えると共に、色相を調整できる技術は未だ完成されたものではなく更なる技術開発が必要な状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−080647号公報
【特許文献2】特開2003−327870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる不都合に鑑みてなされたものであり、優れた金光沢を備えると共に赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整が可能な塗工液及び塗工物、並びに煩雑な工程を必要とせず製造コスト的にも有利な塗工物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた発明は、
金ナノ粒子[A]及びシランカップリング剤[B]を含有する塗工液であって、
上記シランカップリング剤[B]が、ジアミノ構造、メルカプト基及びスルフィド基からなる群より選択される1種又は2種以上を有し、かつ、
上記シランカップリング剤[B]の含有量が、金ナノ粒子[A]の100質量部(金属換算)に対して1質量部以上20質量部以下であることを特徴とする塗工液である。
【0010】
当該塗工液が、特定の構造又は官能基を有するシランカップリング剤[B]を含有することで、金固有の色相に限定されず赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の任意な調整が可能となり、さらに、シランカップリング剤[B]の含有量を上記範囲とすることで優れた金光沢を兼ね備えることができる。ここで本願発明のような金属ナノ粒子が形成する金属調被膜の色調には、被膜を構成する金属ナノ粒子中に存在する自由電子によるプラズモン吸収が影響すると考えられる。このプラズモン吸収というのは、金属ナノ粒子中の自由電子が光電場により揺さぶられ、粒子表面に電荷が現れ、非線形分極が生じるとされている。上記構造又は官能基が、金ナノ粒子[A]の表面に吸着すると、金ナノ粒子[A]中の自由電子と上記構造又は官能基内の電子との相互作用や、シランカップリング剤[B]を介した金ナノ粒子[A]中の自由電子同士の相互作用により自由電子のプラズマ振動数が変化するため、これが色相変化の機構と推定される。上記相互作用には、構造又は官能基が有する孤立電子対が影響を及ぼすため、金属原子に対する親和性が強いことが必要とされる。上記ジアミノ構造は、モノアミノ構造と比べ金属原子に対する親和性が強く、メルカプト基及びスルフィド基についても金属原子に対する親和性が強いと考えられる。
【0011】
上記金ナノ粒子[A]の構成金属は、金又は金を含有する合金であることが好ましい。上記金ナノ粒子[A]の構成金属が、金又は金を含有する合金であることで、より一層の優れた金光沢を備える。
【0012】
当該塗工液は、上記金ナノ粒子[A]が、高分子顔料分散剤[C]で分散安定化され、かつ、平均粒子径1nm以上50nm以下の粒子として分散しているコロイド溶液の形態にあることが好ましい。当該塗工液が、高分子顔料分散剤[C]で分散安定化された上記金ナノ粒子[A]を含有することで、金ナノ粒子[A]の分散安定性が向上し、結果として、本願発明の効果がより一層向上する。また金ナノ粒子[A]が、平均粒子径1nm以上50nm以下の粒子として、分散しているコロイドの形態にあることで、塗工液が形成する塗工層内における金ナノ粒子[A]の含有量を高め、金属の自由電子が塗工層内で移動することにより、結果として、プラズマ振動数の変化に富み、優れた金光沢を備える塗工層を形成できる。
【0013】
上記高分子顔料分散剤[C]の構造が、顔料親和性基を有する複数の側鎖及び溶媒親和性を有する複数の側鎖を含む櫛形構造であり、かつ、上記高分子顔料分散剤[C]の数平均分子量が1,000以上1,000,000以下であることが好ましい。上記高分子顔料分散剤[C]が、顔料親和性基を有することで金ナノ粒子[A]に対して強い親和性を示し、金属の保護コロイドとして充分な性能を発揮できる。また、高分子顔料分散剤[C]の数平均分子量を、上記範囲とすることで分散安定性が良好になるとともに、塗工液が適度な粘度となることから塗工の作業性が向上する。
【0014】
上記シランカップリング剤[B]としては、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドからなる群より選択される1種又は2種以上が好ましい。これらの好ましいシランカップリング剤[B]を含有することで上述の色相調整作用を効果的に発揮できる。
【0015】
本発明の塗工物は、基材と、この基材上に当該塗工液を用いて形成される塗工層とを備える。当該塗工物は、上述のように優れた金光沢を備えると共に、金固有の色相に限定されず赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整が可能である。
【0016】
当該塗工物の製造方法は、当該塗工液を基材上に塗工する工程を有する。当該塗工物の製造方法によれば、優れた意匠性を有する塗工物を製造でき、また煩雑な工程を必要とせず製造コスト的にも有利である。
【0017】
なお、本明細書にいう「櫛形構造の高分子」とは、上記顔料親和性基を有する複数の側鎖及び溶媒親和性を有する複数の側鎖が、あたかも櫛の歯のように主鎖に結合されているものをいう。本明細書にいう「平均粒子径」とは、電子顕微鏡写真からの画像解析により体積基準のメジアン径で表示した値である。本明細書にいう「数平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法による測定値をポリスチレン標準で換算した値である。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、当該発明によると、金ナノ粒子[A]を含有する当該塗工液は、優れた金光沢を備えると共に、金固有の色相に限定されず赤味、緑味、黄味又は青味といった市場のニーズに応じた微妙な色相の調整が可能であり、結果として、高い意匠性を有する塗工物を製造できる。また、当該塗工物の製造方法は、煩雑な工程を必要とせず製造コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真1を参照)。
【図2】実施例9にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真2を参照)。
【図3】実施例13にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真3を参照)。
【図4】比較例1にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真4を参照)。
【図5】比較例4にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真5を参照)。
【図6】比較例7にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真6を参照)。
【図7】比較例8にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真7を参照)。
【図8】比較例9にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真8を参照)。
【図9】比較例10にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真9を参照)。
【図10】比較例11にかかる塗工物を撮影した図である(参考写真10を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[塗工液]
本発明にかかる塗工液は、金ナノ粒子[A]及びシランカップリング剤[B]を含有する。また、当該塗工液は、さらに高分子顔料分散剤[C]で分散安定化された金ナノ粒子[A]を含有することが好ましく、必要に応じ、還元剤等の任意成分を含有してもよい。また、当該塗工液は通常、溶媒を含有する。以下、各成分を詳細に説明する。
【0021】
(金ナノ粒子[A])
上記金ナノ粒子[A]とは、平均粒子径が数nm〜数10nm程度の微粒子である。上記金ナノ粒子[A]の構成金属としては、金、金を含有する合金等が挙げられる。この合金を構成する金以外の金属としては、例えば、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム、ケイ素等からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。中でも上記金ナノ粒子[A]の構成金属としては、金又は金を含有する合金が好ましい。上記金ナノ粒子[A]の構成金属が、金又は金を含有する合金であることで、より一層の優れた金光沢を備える。なお、上記金ナノ粒子[A]の平均粒子径は電子顕微鏡から求められる値を用いることができる。
【0022】
上記金ナノ粒子[A]を与える化合物としては、例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物(以下、「塩化金酸」と称することがある。)、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物、塩化白金酸カリウム、塩化パラジウム(II)二水和物、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、硫酸銅(II)、三塩化ロジウム(III)三水和物等が挙げられる。
【0023】
当該塗工液中の金ナノ粒子[A]の含有量は、1質量%〜80質量%が好ましく、5質量%〜30質量%がより好ましい。金ナノ粒子[A]の含有量が上記範囲であることで、優れた金光沢を備えることができる。金ナノ粒子[A]の含有量が、1質量%未満では、隠蔽性や金光沢が低下し、80質量%を超えると粘度が高くなり流動性が低下し塗工作業性が低下する。
【0024】
(シランカップリング剤[B])
当該塗工液は、ジアミノ構造、メルカプト基及びスルフィド基からなる群より選択される1種又は2種以上を有するシランカップリング剤[B]を含有する。当該塗工液が特定の構造又は官能基を有するシランカップリング剤[B]を含有することで、金固有の色相に限定されず赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の任意な調整が可能となる。上述のように、特定の構造又は官能基は、金属原子に対する強い親和性が必要とされるところ、上記ジアミノ構造は、モノアミノ構造と比べ金属原子に対する親和性が強く、メルカプト基及びスルフィド基についても金属原子に対する親和性が強いと考えられる。
【0025】
上記シランカップリング剤[B]としては、例えば、以下の式(I)で示される化合物が挙げられる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記式(I)中、Xはジアミノ構造、メルカプト基、又はスルフィド基を有する有機基である。Y、Y及びYは、同一又は異なって、水酸基、加水分解してシラノールを生成する基又はアルキル基であって、少なくとも1つは水酸基又は加水分解してシラノールを生成する基である。
【0028】
上記有機基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素等が挙げられ、脂肪族炭化水素としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン等が挙げられる。なお、ジアミノ構造とは、上記X中に第一級アミノ基、第二級アミノ基又は第三級アミノ基を2個有する構造をいう。スルフィド基とは、ジスルフィド、テトラスルフィド等のポリスルフィドを含むものである。
【0029】
上記加水分解してシラノールを生成する基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ等のアルコキシ基やハロゲン原子等が挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。シランカップリング剤[B]は、加水分解によってシラノールを生成した後、シラノール同士が縮合して、シロキサン結合を形成する。シラノールの水酸基は、金ナノ粒子[A]表面にある水酸基と水素結合を形成する。次いで、脱水縮合反応を経て、さらに金ナノ粒子[A]表面と強固に結合するものと推測される。
【0030】
上記式(I)のうち、シランカップリング剤[B]がジアミノ構造を有するものとしては例えば、以下の式(II)で表される化合物がより好ましい。
【0031】
【化2】

【0032】
上記式(II)中、R、R、及びRは、同一又は異なって、水素原子又はメチル基である。R、R、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基である。nは0又は1である。
【0033】
上記R、R及びRとしては、水素原子が好ましい。Rとしては、メチル基又はエチル基が好ましい。R及びRとしては、エチル基又はn−プロピル基が好ましい。
【0034】
上記式(I)のうち、シランカップリング剤[B]がメルカプト基を有するものとしては例えば、以下の式(III)で表される化合物がより好ましい。
【化3】

【0035】
上記式(III)中、R、R及びR10は、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基である。nは0又は1である。
【0036】
上記Rとしては、メチル基又はエチル基が好ましい。R10としては、n−プロピル基が好ましい。
【0037】
上記式(I)のうち、シランカップリング剤[B]がスルフィド基を有するものとしては例えば、以下の式(IV)で表される化合物がより好ましい。
【0038】
【化4】

【0039】
上記式(IV)中、R11、R12及びR13は、同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基である。nは1〜6である。
【0040】
上記R11としては、メチル基又はエチル基が好ましい。R12及びR13としては、エチル基又はn−プロピル基が好ましい。nとしては、4が好ましい。
【0041】
上記式(II)〜(IV)で表されるシランカップリング剤[B]としては、例えば、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等が好ましく、これらの群より選択される1種又は2種以上を使用できる。これらのうち、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが特に好ましい。当該塗工液が、これらの好ましいシランカップリング剤[B]を含有することで上述の色相調整作用を効果的に発揮できる。
【0042】
上記シランカップリング剤[B]の含有量としては、金ナノ粒子[A]100質量部(金属換算)に対し、固形分換算で1質量部以上20質量部以下とされており、1質量部以上10質量部以下が好ましい。シランカップリング剤[B]の含有量が、上記範囲であることで金光沢を損なうことなく、色相を調整できる。含有量が20質量部を超えると金属光沢が低下する。
【0043】
(高分子顔料分散剤[C])
当該塗工液は、高分子顔料分散剤[C]で分散安定化された金ナノ粒子[A]を含有することが好ましい。当該塗工液が高分子顔料分散剤[C]で分散安定化された金ナノ粒子[A]を含有することで、金ナノ粒子[A]の分散安定性が向上し、結果として、本願発明の効果がより一層向上する。また、上記金ナノ粒子[A]は、平均粒子径1nm以上50nm以下の粒子として、分散しているコロイド溶液の形態にあることが好ましい。金ナノ粒子[A]が、平均粒子径1nm以上50nm以下の粒子として、分散しているコロイド溶液の形態にあることで、塗工液が形成する塗工層内における金ナノ粒子[A]の含有量を高め、金属の自由電子が塗工層内で移動することにより、結果としてプラズマ振動数の変化に富み、優れた金光沢を備える塗工層を形成できる。
【0044】
上記高分子顔料分散剤[C]としては、例えば、顔料親和性基を有する主鎖及び/又は複数の側鎖を有し、かつ、溶媒親和性を有する複数の側鎖を含む櫛形構造の高分子、主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子等が挙げられる。これらのうち、上記高分子顔料分散剤[C]としては、顔料である金ナノ粒子[A]に対して親和性の高い顔料親和性基を有する複数の側鎖及び溶媒親和性を有する複数の側鎖を含む櫛形構造である両親媒性の高分子が好ましい。上記高分子顔料分散剤[C]が、顔料親和性基を有することで、金ナノ粒子[A]に対して強い親和性を示し、金属の保護コロイドとして充分な性能を発揮できる。
【0045】
上記顔料親和性基とは、顔料の表面に対して強い吸着力(金属に対する強い親和性)を示す官能基をいい、例えば、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等を挙げることができる。
【0046】
上記溶媒親和性を有する側鎖とは、溶媒に親和性を有する側鎖であって親水性又は疎水性の構造を有するものをいい、例えば、親水性の重合鎖、親油性の重合鎖等から構成されている。
【0047】
上記高分子顔料分散剤[C]としては、例えば、特開平11−80647号公報で記載されたものが挙げられる。また、市販品を使用することもでき、例えば、
ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32550、ソルスパース35100、ソルスパース37500、ソルスパース41090(以上、ルーブリゾール社);
ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック2000、ディスパービック2001(以上、ビックケミー製);
EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、(以上、エフカアディティブズ社);
フローレンG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W、フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17(以上、共栄社);
アジスパーPA111、アジスパーPB711、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911(以上、味の素社);
ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記高分子顔料分散剤[C]の数平均分子量としては、1,000以上1,000,000以下が好ましく、2,000以上500,000以下がより好ましく、2,500以上500,000以下が特に好ましい。高分子顔料分散剤[C]の数平均分子量を、上記範囲とすることで分散安定性が良好になるとともに、塗工液が適度な粘度であることから塗工の作業性が向上する。なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いてポリスチレン標準で換算した値である。
【0049】
上記高分子顔料分散剤[C]の使用量としては、上記金ナノ粒子[A]を与える化合物と高分子顔料分散剤[C]との合計量に対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。30質量%を超えると、後述する濃縮工程で限外濾過処理を行っても、溶液における金ナノ粒子[A]の濃度を所望の濃度に高めることができない場合がある。
【0050】
(還元剤)
上記金ナノ粒子[A]を与える化合物の還元においてはアミン、アルカリ金属水素化ホウ素塩、ヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミン、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、ギ酸、ホルムアルデヒド等の還元剤が用いられる。これらのうち、入手が容易であることから、アミン、クエン酸、酒石酸及びアスコルビン酸が好ましく、加熱や特別な光照射装置を必要とせず、かつ、危険性が低く有害性の少ないアミンがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
上記アミンとしては、例えば、
プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン;
ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリン等の脂環式アミン;
アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジン等の芳香族アミン;
ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルキシリレンジアミン等のアラルキルアミン;
メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノール等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらのうち、アルカノールアミンが好ましく、ジメチルアミノエタノールがより好ましい。
【0052】
上記還元剤の添加量は、上記金ナノ粒子[A]を与える化合物中の金属の還元に必要な量以上であることが好ましい。上記還元剤の添加量としては、上記金ナノ粒子[A]を与える化合物の金属と等モル以上が好ましく、この量未満であると、還元が不充分となるおそれがある。また上限は特に規定されないが、上記金ナノ粒子[A]を与える化合物中の金属の還元に必要な量の30倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。
【0053】
(溶媒)
当該塗工液は、通常、溶媒を含有する。溶媒としては、例えば水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、エステル系溶媒及びその混合溶媒等が挙げられる。
【0054】
アルコール系溶媒としては、例えば、
メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール系溶媒;
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の多価アルコール系溶媒;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール部分エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0055】
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、ジエチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、エチル−n−ブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジ−iso−ブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン等が挙げられる。
【0056】
アミド系溶媒としては、例えば、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0057】
エステル系溶媒としては、例えば、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸iso−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノプロピルエーテル、酢酸プロピレングリコールモノブチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸iso−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル等が挙げられる。
【0058】
その他の溶媒としては、例えば、
n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、n−オクタン、iso−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、iso−プロピルベンゼン、ジエチルベンゼン、iso−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−iso−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒等を挙げることができる。
【0059】
これらのうち、エタノールが好ましい。なお、これらの溶媒は、単独又は2種以上を併用できる。
【0060】
(その他の任意成分)
当該塗工液は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、上記成分の他に脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)等を適宜含有できる。
【0061】
(塗工液の調製方法)
塗工液の調製方法としては、例えば、溶媒中、金ナノ粒子[A]を与える化合物を高分子顔料分散剤[C]及び還元剤の存在下で還元し、限外濾過装置により濃縮することで、金コロイド溶液が得られる。次いで、上記金コロイド溶液に所定量のシランカップリング剤[B]を配合することで当該塗工液を製造できる。シランカップリング剤[B]の配合量や種類を特定のものとすることで、赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整ができる。
【0062】
上記還元の方法としては、例えば、上記金ナノ粒子[A]を与える化合物と高分子顔料分散剤[C]を含有する溶液に上記還元剤を添加して撹拌、混合することにより、金属イオンが常温付近で金属に還元される。反応温度としては、通常5℃〜100℃程度であり、20℃〜80℃程度が好ましい。また、還元の方法としては、還元剤を添加する方法以外に、高圧水銀灯を用いて光照射する方法を使用することもできる。
【0063】
[塗工物]
当該塗工物は基材と、この基材上に当該塗工液を用いて形成される塗工層とを備える。当該塗工物は、上述のように特定構造のシランカップリング剤を特定量含有することで優れた金光沢を備えると共に、金固有の色相に限定されず赤味、緑味、黄味又は青味といった微妙な色相の調整が可能である。以下、構成事項を詳細に説明する。
【0064】
(基材)
上記基材の構成材料としては、例えば、無機材料、樹脂材料、木材、繊維材料等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記無機材料としては、例えば、金属、ガラス、コンクリート及び岩石等が挙げられる。なお、金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム等、これらのうち2種以上の構成金属を含有する合金等が挙げられる。上記樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記繊維材料としては、例えば、紙、布、不織布、ガラス繊維、炭素繊維及びこれら2種以上を含有する複合材料等が挙げられる。なお、上記の基材の構成材料を2種以上併用する場合としては、例えば、基材の一部が樹脂材料であって他の樹脂材料以外の部分が木材である場合や、樹脂材料の上にアルミニウムが重ねられた2層構造の基材であってそのアルミニウムの一部がくり抜かれ樹脂材料及び/又は木材に塗工が可能な場合等の形態が挙げられる。
【0065】
(塗工層)
上記塗工層は、上記基材上に当該塗工液が塗工されて形成される。塗工層の形成方法としては、例えば、後述する塗工物の製造方法において記載する方法が好ましい。
【0066】
(保護層)
当該塗工物は、上記塗工層上に、さらに保護層を備えることが好ましい。塗工層が、さらに保護層を備えることで摩擦、熱、水等から塗工層を保護し、優れた金光沢及び色相を維持できる。
【0067】
保護層を形成するために、通常、クリヤー塗料が用いられる。クリヤー塗料としては、例えば、無色クリヤー塗料、艶消しクリヤー塗料等が挙げられる。またこれらのクリヤー塗料を組み合わせて用い2層以上のクリヤー塗膜を形成してもよい。
【0068】
上記無色クリヤー塗料の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリシラザン、ポリオルガノシロキサン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂及びポリエーテル樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上であるもの等と、架橋剤とを混合したものが挙げられる。
【0069】
上記無色クリヤー塗料を用いた場合の保護層の乾燥膜厚としては、1μm以上80μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がより好ましい。乾燥膜厚が当該範囲であることで、当該塗工物が摩擦、熱、水等から保護され、優れた金光沢及び色相を維持できる。
【0070】
上記無色クリヤー塗料は有機溶剤型塗料、水性塗料又は無溶剤のいずれの形態であってもよい。有機溶液型塗料又は水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。
【0071】
上記艶消しクリヤー塗料としては、例えば上記無色クリヤー塗料の材料に艶消し剤を含むものが挙げられる。艶消し剤としては、例えば、樹脂微粒子、無機微粒子等が挙げられる。上記樹脂微粒子としては、ポリアクリロニトリル、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。上記樹脂微粒子と無機微粒子は併用してもよい。
【0072】
上記艶消しクリヤー塗料を用いた場合の保護層の乾燥膜厚としては、1μm〜50μmが好ましく、5μm〜40μmがより好ましい。1μm未満では、深みのある艶消し感を発現し難く、50μmを超えると塗膜外観不良を生じる場合がある。
【0073】
上記艶消しクリヤー塗料は、有機溶剤型塗料、水性塗料又は無溶剤のいずれの形態であってもよい。有機溶剤型塗料及び水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型樹脂を用いてもよい。
【0074】
[塗工物の製造方法]
当該塗工物の製造方法は、当該塗工液を基材上に塗工する工程を有する。当該塗工物の製造方法によれば、優れた意匠性を有する塗工物を製造でき、また煩雑な工程を必要とせず製造コスト的にも有利である。当該塗工液を基材上に塗工する塗工手段としては、公知のあらゆる塗工手段が挙げられる。なかでも、例えば、ペン先、カラス口、へら、刷毛、筆、ローラー及びスプレーからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。塗工量としては、特に限定されないが、1.5cm×7cmの基材に対して、乾燥重量で0.1g以上塗布することが好ましい。なお、上記塗工手段を2回以上繰り替えし、塗工層を2層以上としてもよい。また必要に応じ塗工後に加熱をして、塗工層を形成することもできる。加熱の方法としては、例えばガス炉、電気炉、IR炉等を使用できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0076】
(実施例1)
2Lのコルベンに、高分子顔料分散剤(ディスパービック191、ビックケミー社、数平均分子量2,600)6.2g及びエタノール280.2gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、高分子顔料分散剤が溶解するまで50℃で撹拌した。次いで、金ナノ粒子を与える化合物として塩化金酸30.0gをエタノール280.2gに溶解させたものを撹拌しながらコルベンに加え、50℃で10分間撹拌した。次いで、還元剤としてジメチルアミノエタノール32.4gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が63℃まで上昇した。液温が50℃に下がるまで放置し、50℃を保ちながら2時間撹拌を続け、黒っぽい紫色を呈するエタノールを溶媒とする金ナノ粒子懸濁液が得られた。限外濾過モジュール(AHP1010、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ及び下部にチューブ接続口のある3Lのステンレスカップをシリコンチューブで接続することにより、限外濾過装置を作成した。上記金ナノ粒子懸濁液をステンレスカップに入れて、さらに2Lのエタノールを加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2Lになった時点で、ステンレスカップに2Lのエタノールを加えた。その後、濾液の伝導度が30μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mLになるまで濃縮を行った。500mLステンレスカップ、限外濾過モジュール(AHP0013、旭化成社、分画分子量50,000、使用膜本数100本)、チューブポンプ及びアスピレーターからなる限外濾過装置を作成した。ステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約300mLになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了し固形分10%の金ナノ粒子懸濁液が得られた。この溶液中の金ナノ粒子の平均粒子径は22nmであった。また、TG−DTA(セイコーインスツル社)を用いて、固形分中の金の含有率を計測したところ90質量%であった。次いで、シランカップリング剤として、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM602、信越化学工業社)を金ナノ粒子懸濁液100質量部に対して、5質量部含有し、塗工液を得た。次に、この塗工液を刷毛を用いて、基材である1.5cm×7cmの炭素繊維上に1g塗工し、その後常温にて一昼夜乾燥させ、塗工物を得た。
【0077】
(実施例2〜15、比較例1〜11)
シランカップリング剤の種類及び含有量を下記の表1に示すものとする以外は、実施例1と同様に操作して実施例2〜15、比較例2〜13の塗工物を得た。比較例1についてはシランカップリング剤を配合していない。なお、シランカップリング剤は全て信越化学工業社製のものである。
【0078】
(光輝度及び光沢色の測定)
上記実施例1〜15及び比較例1〜11の塗工物について、分光測色計(コニカミノルタセンシンク社、CM−700d)を用いて、光輝度(本明細書にいう「金光沢」に相当する指標。)及び光沢色(本明細書にいう「色相」に相当する指標。)を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中のL*は光輝度を示し、値が大きいほど優れた金光沢を有する。a*及びb*は色彩値であって、a*の値が0に近いほど、金固有の色相となり、a*値が大きくなると赤みを帯びた色相となり、b*値が大きくなると黄味を帯びた色相となる。なお、測定した値は全てSCIモード(正反射光込み)における値である。
【0079】
【表1】

【0080】
図1〜図10(参考写真1〜10参照)は、実施例1、9、及び13並びに比較例1、4、7、8、9、10及び11にかかる塗工物を撮影した図である。表1及び図1〜10
(参考写真1〜10参照)から、実施例1〜15は、シランカップリング剤を含有しない比較例1と同等のL*値を有し金光沢に優れると共に色相を調整できることがわかった。また、実施例1〜15は、a*値が増加しており、調整が困難とされる赤味方向への調整が可能なことがわかった。一方、シランカップリング剤が40質量部含有された比較例2及び3は、同様のシランカップリング剤を2質量部〜20質量部の範囲で含有する実施例1〜4と比べ、L*値(金光沢)が減少している。また、シランカップリング剤が、ジアミノ構造、メルカプト基及びスルフィド基を有さない比較例1、4〜11はいずれもa*値の変化幅が小さく赤味の色相調整が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は市場のニーズに応じた色相に調整でき、さらに金光沢を兼ね備える塗工液、塗工物及び塗工物の製造方法を提供でき、様々な意匠性が要求される分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金ナノ粒子[A]及びシランカップリング剤[B]を含有する塗工液であって、
上記シランカップリング剤[B]が、ジアミノ構造、メルカプト基及びスルフィド基からなる群より選択される1種又は2種以上を有し、かつ、
上記シランカップリング剤[B]の含有量が、上記金ナノ粒子[A]100質量部(金属換算)に対して1質量部以上20質量部以下であることを特徴とする塗工液。
【請求項2】
上記金ナノ粒子[A]の構成金属が、金又は金を含有する合金である請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】
上記金ナノ粒子[A]が、高分子顔料分散剤[C]で分散安定化され、かつ、平均粒子径1nm以上50nm以下の粒子として分散しているコロイド溶液の形態にある請求項1又は請求項2に記載の塗工液。
【請求項4】
上記高分子顔料分散剤[C]の構造が、顔料親和性基を有する複数の側鎖及び溶媒親和性を有する複数の側鎖を含む櫛形構造であり、かつ、上記高分子顔料分散剤[C]の数平均分子量が1,000以上1,000,000以下である請求項1、請求項2又は請求項3のいずれか1項に記載の塗工液。
【請求項5】
上記シランカップリング剤[B]が、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシランからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗工液。
【請求項6】
上記シランカップリング剤[B]が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗工液。
【請求項7】
上記シランカップリング剤[B]が、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗工液。
【請求項8】
基材と、この基材上に請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の塗工液を用いて形成される塗工層とを備える塗工物。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の塗工液を基材上に塗工する工程を有する塗工物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−256237(P2011−256237A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130031(P2010−130031)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】