説明

塗工液、導電性塗工膜、蓄電装置用電極板及び蓄電装置

【課題】耐電解液性及び耐酸化性に優れるとともに、アルミニウム箔や銅箔等の集電体との密着性が高く、かつ、表面抵抗率の高い導電性電極膜を形成可能な塗工液を提供する。
【解決手段】蓄電装置用電極板を構成する集電体の表面上に導電性塗工膜を形成するために用いられる塗工液であって、(A)ポリマー酸と、(B)鹸化度75mol%以上の未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールと、(C)導電性材料と、(D)極性溶媒と、を含有する塗工液を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体と電極活物質層(以下、「電極層」とも記す)との間に配置する導電性塗工膜を形成するために用いられる塗工液、並びにこれを用いて得られる導電性塗工膜、電極板用部材、蓄電装置用電極板、及び蓄電装置に関する。さらに詳しくは、耐電解液性及び耐酸化性に優れるとともに、集電体と電極層との密着性を高めうる導電性塗工膜を集電体と電極層との間に形成可能な塗工液、並びにこれを用いて得られる導電性塗工膜、電極板用部材、蓄電装置用電極板、及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機器の小型化及び軽量化が急速に進んでおり、これらの駆動用電源として用いられる二次電池等の蓄電装置に対しても小型化及び軽量化の要求が強くなってきている。これらの要求に対して、従来のアルカリ蓄電池の代わりに、リチウムイオン二次電池に代表されるような高エネルギー密度でかつ高電圧を有する二次電池が開発されている。そして、これらの二次電池の普及に伴い、さらなる高容量化を目指した蓄電装置及びそれを構成するための部材が提案されている(特許文献1及び2)。
【0003】
一方、電気自動車やハイブリッド車両等の用途向けに蓄電装置の大型化も望まれているが、実用化のためには課題も多い。例えば、リチウムイオン電池の場合、可燃性物質である電解質の増大に対応した安全性の確保や、実用に供することができる出入力特性の確保等を挙げることができる。したがって、安全性の向上と並んで、高容量化や高出力化が、蓄電装置について今後解決すべき課題となっている。
【0004】
蓄電装置の高容量化や高出力化を実現するためには、内部抵抗を低減させることが有効である。そのためには、電極層、集電体、及び電解質層等の各層界面での電荷移動現象の制御が重要であり(非特許文献1及び2)、様々な提案もなされている。
【0005】
例えば、リチウムイオン電池の黒鉛負極界面では、電解液の分解や支持塩であるリチウム系化合物の分解等により形成されるSEI膜と呼ばれる表面抵抗皮膜が、電池の性能維持に重大な影響を及ぼすことが知られている。そして、カテコールカーボネートとその誘導体を電解液に添加することによりSEI膜の厚さが薄くなり、皮膜抵抗が低減されることが知られている(非特許文献2)。
【0006】
また、リチウムイオン電池を構成するアルミニウムからなる正極用の集電体は、フッ素を含有する電解液中でその表面にバリヤ皮膜(不動態皮膜)が形成されて不動態化される。この不動態皮膜はリチウムイオン電池のサイクル特性に影響を及ぼすが、熱処理した集電体に超微粒炭素分散液を塗布することで、不動態皮膜に導電性を付与するができる(非特許文献3)。
【0007】
さらに、安全性向上に関し、安全性を備えた蓄電装置として、不燃性電解質を用いた全固体リチウムイオン電池が注目されている。しかしながら、全固体リチウムイオン電池は、出力性能が未だ十分ではないという欠点を有している。近年、この欠点を解決するために、電極層と電解質層との間に酸化物固体電解質を緩衝層として介在させる試みがなされ、出力性能が大幅に向上したことが報告されている(非特許文献4)。
【0008】
また、固体電解質を備えた蓄電装置においては、その導電率が液体の電解質に近いフッ素系ポリマーが用いられている。しかしながら、フッ素系ポリマーは集電体金属とよく密着しないという欠点を有している。このため、この欠点を解決し、加えて優れたサイクル特性をも維持することを目的として、酸変性ポリオレフィンで集電体をコーティングする提案がなされている(特許文献3)。
【0009】
しかしながら、これらの提案は、解決すべき課題が特定の条件下の課題に絞られており、限定的かつ個別的な解決策がほとんどである。その理由は、蓄電装置における各層間の界面での電荷移動やイオン移動の現象に、未だ不明な点が多い(非特許文献3)ことによると思われる。本発明者らは、このような状況下で、実用性を第一の要点として考慮するとともに、視点を広げ、蓄電装置における各構成単位間の現象を、界面を含む一つのシステムとして捉え、このシステムの妥当性を検討し、課題解決を図ることが必要であると考えるに至った。
【0010】
蓄電装置を構成する主要な「界面を含むシステム」として、電極板を挙げることができる。電極板は、電極層や集電体等の単位部材を一体化した電極部材であり、蓄電装置の性能に大きく影響を及ぼす部材である。電極板に関しては、充放電サイクル寿命を延長させるとともに、高エネルギー密度化するために、薄膜大面積化を図ることが提案されている。例えば、リチウムイオン電池については、金属酸化物、硫化物、ハロゲン化物等の正極活物質粉末、導電性材料、及びバインダーを適当な溶媒に分散溶解させて調製したペースト状の塗工液を、アルミニウム等の金属箔からなる集電体の表面に塗布して塗工膜を形成して得られる正極板が、特許文献4及び5で開示されている。
【0011】
また、分極性電極板と電解質との界面で形成される電気二重層を利用したキャパシタは、メモリバックアップ電源として使用されており、電気自動車用電源等の大出力を必要とする用途への適用についても注目されている。キャパシタは大出力であることから、高い静電容量と低い内部抵抗の両立が求められている。キャパシタ用の分極性電極板は、電池の負極板と同様に、バインダーと導電性材料等を混合した塗工液を集電体に塗布及び乾燥して製造される。
【0012】
蓄電装置の電極板を製造するために用いられる塗工液に含有させるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂や、シリコーン・アクリル共重合体が用いられている。また、負極板及び分極性電極板は、炭素質材料等の活物質にバインダーを適当な溶媒に溶解させたものを加えて調製したペースト状の塗工液を集電体に塗布して得られる。塗工液の調製に用いられるバインダーは、非水電解液に対して電気化学的に安定である必要がある。さらには、電池やキャパシタの電解液へ溶出しないこと、電解液によって大きく膨潤しないこと(耐電解液性)、及び何らかの溶媒に可溶であることが必要である。
【0013】
一方、各種樹脂の溶液を塗布することで、アルミニウム等からなる集電体の表面に保護皮膜を形成することが行われている。しかしながら、形成される保護皮膜は有機溶剤に対する耐久性が不足しているために、耐電解液性が不十分であるという問題がある。また、塗工液を塗布及び乾燥して形成される導電性塗工膜は、通常、集電体に対する密着性及び可撓性が不十分であるとともに、集電体に対する接触抵抗が大きい。さらには、電池やキャパシタの組立時や充放電時に、導電性塗工膜の剥離、脱落、又はひび割れ等が生じるという問題があった。
【0014】
また、リチウムイオン電池の正極板は、極めて強い酸化条件下におかれる。一方、負極板は、極めて強い還元条件下におかれる。このため、集電体表面に形成される塗工膜についても、これらの過酷な条件に起因する劣化や破壊が問題になり、高い耐酸化性を具備した塗工膜の開発が望まれている。
【0015】
従来の電池やキャパシタにおいては、上記のように電極層と集電体(基板)との密着性不良、電極層と基板との界面の高抵抗という問題があった。そして、種々の塗工液が提案されてはいるが、これらの塗工液により形成された導電性塗工膜によって密着性不良については改善される場合があるものの、耐電解液性や耐酸化性については不十分である。このため、電極層と集電体との間の抵抗がより一層高くなり、問題の解決には至っていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2007−95641号公報
【特許文献3】特開平11−297332号公報
【特許文献4】特開昭63−10456号公報
【特許文献5】特開平3−285262号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】安部武志、小久見善八:「リチウムイオン電池における界面電荷移動反応」、表面科学、第27巻、第10号、第609頁〜第612頁、2006年
【非特許文献2】吉武秀哉、石原達己、芳尾真幸:「リチウムイオン電池黒鉛負極界面の制御」、表面技術、第53巻、第12号、第887頁〜第889頁、2002年
【非特許文献3】仁科辰夫、立花和宏、遠藤孝志、尾形健明:「リチウムイオン二次電池系のアルミニウム集電体上に生成する不働態皮膜の充放電特性に対する影響」、電池技術、第15巻、第28頁〜第40頁、2003年
【非特許文献4】高田和典:「全固体リチウムイオン電池の高出力化」、電子情報通信学会技術研究報告、第107巻、第493号、第43頁〜第47頁、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、耐電解液性及び耐酸化性に優れるとともに、アルミニウム箔や銅箔等の集電体との密着性が高く、かつ、表面抵抗率の低い導電性電極膜を形成可能な塗工液を提供することにある。
【0019】
また、本発明の課題とするところは、耐電解液性及び耐酸化性に優れるとともに、アルミニウム箔や銅箔等の集電体との密着性が高く、かつ、表面抵抗率の低い導電性塗工膜、並びにこの導電性塗工膜を備えた電極板用部材、蓄電装置用電極板、及びこの蓄電装置用電極板の製造方法を提供することにある。
【0020】
さらに、本発明の課題とするところは、充放電効率(サイクル特性)に優れる、放電容量が大きい、或いは内部抵抗が低い等の特性を有する蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリマー酸、鹸化度75mol%以上の未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコール、並びに導電性材料を必須成分とする導電性塗工膜が有効であることを見出した。そして、このような蓄電装置の電極板に導電性塗工膜を形成するための塗工液として好適な構成を見出して、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本発明によれば、以下に示す塗工液が提供される。
[1]蓄電装置用電極板を構成する集電体の表面上に導電性塗工膜を形成するために用いられる塗工液であって、(A)ポリマー酸と、(B)鹸化度75mol%以上の未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールと、(C)導電性材料と、(D)極性溶媒と、を含有する塗工液。
[2]前記ポリマー酸が、カルボキシル基含有ビニルモノマーの単独重合体、及び/又はカルボキシル基含有ビニルモノマーとカルボキシル基非含有ビニルモノマーとの共重合体である前記[1]に記載の塗工液。
[3]前記ポリマー酸が、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、及びポリマレイン酸からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の塗工液。
[4]前記変性ポリビニルアルコールが、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変性ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の塗工液。
[5]前記導電性材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層又は多層カーボンナノファイバー、及び単層又は多層カーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の塗工液。
[6]前記導電性材料1質量部に対する、前記ポリマー酸の含有量が0.1〜3質量部であり、前記導電性材料1質量部に対する、前記未変性ポリビニルアルコールと前記変性ポリビニルアルコールの合計の含有量が0.1〜3質量部であり、固形分濃度が0.02〜40質量%である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の塗工液。
[7]前記ポリマー酸1質量部に対する、前記未変性ポリビニルアルコールと前記変性ポリビニルアルコールの合計の含有量が0.1〜1質量部である前記[1]〜[6]のいずれかに記載の塗工液。
[8]架橋剤をさらに含有する前記[1]〜[7]のいずれかに記載の塗工液。
【0023】
また、本発明によれば、以下に示す導電性塗工膜が提供される。
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の塗工液により形成される導電性塗工膜。
[10]前記塗工液からなる膜が80〜250℃で熱処理されて形成された、その乾燥膜厚が0.1〜10μmである前記[9]に記載の導電性塗工膜。
[11]硝子板上に乾燥膜厚4μmで形成された場合に、JIS K 7194に準拠して測定される表面抵抗率が3,000Ω/□以下である前記[9]又は[10]に記載の導電性塗工膜。
【0024】
さらに、本発明によれば、以下に示す電極板用部材が提供される。
[12]集電体と、前記集電体の表面上に配設された前記[9]〜[11]のいずれかに記載の導電性塗工膜と、を備える電極板用部材。
【0025】
また、本発明によれば、以下に示す蓄電装置用電極板、及びその製造方法が提供される。
[13]前記[12]に記載の電極板用部材と、前記導電性塗工膜の表面上に配設された電極活物質層と、を備える蓄電装置用電極板。
[14]前記集電体がアルミニウム箔であり、前記電極活物質層に正極活物質が含有される前記[13]に記載の蓄電装置用電極板。
[15]前記集電体が銅箔であり、前記電極活物質層に負極活物質が含有される前記[13]に記載の蓄電装置用電極板。
[16]前記集電体がアルミニウム箔であり、分極性電極板である前記[13]に記載の蓄電装置用電極板。
[17]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の塗工液を集電体の表面に塗布して導電性塗工膜を形成する工程と、前記導電性塗工膜の表面上に電極活物質層を形成する工程と、を有する蓄電装置用電極板の製造方法。
[18]前記集電体の表面に前記塗工液を塗布した後、前記塗工液に含有される前記極性溶媒を加熱除去するか、又は前記極性溶媒を除去しながら80〜250℃で1秒〜60分熱処理する前記[17]に記載の蓄電装置用電極板の製造方法。
【0026】
さらに、本発明によれば、以下に示す蓄電装置が提供される。
[19]前記[13]〜[16]のいずれかに記載の蓄電装置用電極板を備える蓄電装置。
[20]二次電池又はキャパシタである前記[19]に記載の蓄電装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の塗工液は、環境に対する負荷の少ないポリマー(特定のポリビニルアルコール)をバインダーとするものであるにもかかわらず、蓄電装置用電極板を構成する集電体と電極層との間に、耐電解液性及び耐酸化性に優れるとともに、アルミニウム箔や銅箔等の集電体との密着性が高く、かつ、表面抵抗率の低いアンダーコート層となる導電性電極膜を形成することができる。その結果、密着性、耐酸化性、及び耐電解液性等に優れた電極層が、アルミニウム箔や銅箔等の集電体の表面上に設けられた電極板用部材を提供することができる。さらには、集電体と電極層との接触抵抗も改良されるので、特性に優れる電池用の電極板やキャパシタ用の分極性電極板等の蓄電装置用電極板、及びそれらを備えた蓄電装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明の塗工液に樹脂バインダーとして含有されるポリビニルアルコールは、環境に対する負荷の少ないポリマーである。このため、本発明の塗工液は、従来の塗工液に比して環境に対する影響が少ない。本発明者らは、ポリビニルアルコールのなかでも、その鹸化度75%以上のものを選択して用いることが好ましいことを見出した。そして、本発明者らは、このような特定のポリビニルアルコールに、炭素系フィラー等の導電性材料と、樹脂硬化機能を有するポリマー酸とを加えて得られるスラリー組成物が、蓄電装置の電極板用の導電性塗工膜を形成するための塗工液として特に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明の塗工液を集電体の表面に塗布して導電性塗工膜(薄膜)を形成し、この薄膜を電極層のアンダーコート層とすることで、先に挙げた顕著な効果が得られることを見出した。
【0029】
例えば、本発明者らは、上記の塗工液を集電体の表面に塗布して形成した導電性塗工膜をアンダーコート層とし、この導電性塗工膜の表面上に電池又はキャパシタ用の電極層を形成した場合に、電極層と集電体との間の抵抗を何ら高めることなく、むしろ抵抗を低くするとともに、電極層と集電体との密着性を著しく向上させることができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0030】
本発明では、樹脂バインダーとして、鹸化度が75%以上である未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」とも記す)を用いる。このような特定のPVAを用いることによって、環境に対する負荷が低減されることに加えて、以下に示すような効果が得られる。従来の樹脂バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン・アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム等が用いられている。これらの従来の樹脂バインダーを用いる場合には、例えば、集電体の表面を化成処理する等、電極層と集電体との密着性を向上させるための煩雑で高コストの処理が必須であった。これに対して、本発明の塗工液を用いる場合には、このような煩雑で高コストな処理は不要である。そして、このような処理を行わなくても、一層優れた密着性と低抵抗化を図ることができる。その結果、高効率かつ長寿命の蓄電装置が提供される。
【0031】
(1)塗工液
本発明の塗工液は、蓄電装置用電極板を構成する集電体の表面上に導電性塗工膜を形成するために用いられる塗工液である。そして、本発明の塗工液には、(A)ポリマー酸と、(B)鹸化度75mol%以上の未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールと、(C)導電性材料と、(D)極性溶媒とが含有される。以下、その詳細について説明する。
【0032】
従来、セルロース、澱粉、キチン、キトサン、アルギン酸、PVA、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン等の、その分子中に水酸基又はアミノ基を有するポリマー類は、アルミニウム等の金属材料に対して優れた密着性を示す皮膜を形成しうることが知られている。しかしながら、この皮膜は、水やN−メチルピロリドン(NMP)等の極性溶媒により膨潤し、金属材料の表面から容易に剥離するという問題がある。なお、上記のポリマー類を、電極板を製造するための塗工液のバインダーとして使用すると、形成される導電性塗工膜の集電体に対する密着性は良好となる。しかしながら、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の電池の電解液に対する耐久性が低いという問題があった。
【0033】
本発明者らは、上記ポリマー類の中でも、環境に対する負荷が特に少ないPVAに着目し、このPVAにより形成される皮膜の耐有機溶剤性及び耐酸化性を改善すべく検討した。その結果、鹸化度の高いPVAを、ポリマー酸とともに極性溶媒に加えて調製した塗工液は、優れた密着性、耐有機溶剤性、及び耐酸化性を有する皮膜を金属材料表面に形成可能であることを見出した。また、上記の塗工液を塗布した後に加熱すると、加熱によってポリマー酸がPVAの架橋剤として作用し、形成される皮膜の堅牢性が向上するとともに、有機溶剤や電解液に対する溶解性・膨潤性が顕著に低下することを見出した。
【0034】
本発明の塗工液により形成される導電性塗工膜は、耐電解液性や耐酸化性に優れることを主要な効果の一つとしている。これらの効果は、本発明の導電性塗工膜が、鹸化度の高いPVAとポリマー酸を含む塗工液によって形成されることに起因して得られる効果であると考えられる。PVAは、ポリ酢酸ビニルを鹸化することで製造されるので、様々な鹸化度のPVAが存在する。鹸化度が高いPVA、すなわち水酸基が多く導入されたPVAは結晶構造をとりやすい。このため、鹸化度の高いPVAを用いると、強靭な皮膜を形成することができる。さらに、このような強靭な皮膜を形成しうる鹸化度の高いPVAにポリマー酸を添加すると、ポリマー酸がPVAの分子間を架橋補強する。このため、極めて堅牢性が高く、高い耐酸化性と耐電解液性を備えた導電性塗工膜を形成することができる。
【0035】
(ポリマー酸)
本発明の塗工液にはポリマー酸が含有される。本明細書における「ポリマー酸」とは、カルボキシル基やリン酸基等の酸性基を複数個有するポリマーや、複数のカルボン酸化合物やリン酸化合物が重合したポリマーをいう。なお、酸性基はフリーな酸であっても、塩を形成していてもよい。また、ポリマー酸は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。ポリマー酸としては、カルボキシル基含有ビニルモノマーの単独重合体、及びカルボキシル基含有ビニルモノマーとカルボキシル基非含有ビニルモノマーとの共重合体が好ましい。より好適なポリマー酸としては、フタロシアニンポリカルボン酸、フィチン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等の単独重合体及びそれらの共重合体;スチレン・マレイン酸共重合体、イソブチレン・マレイン酸共重合体、ビニルエーテル・マレイン酸共重合体、ペクチン酸、ポリグルタミン酸、ポリリンゴ酸、ポリアスパラギン酸、アクリル酸・マレイン酸・ビニルアルコール共重合体等を挙げることができる。なかでも、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、及びポリマレイン酸が特に好ましい。
【0036】
(PVA)
本発明の塗工液に含有されるポリビニルアルコールは、未変性ポリビニルアルコールと変性ポリビニルアルコールの少なくともいずれかである。未変性ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを鹸化することによって得られる公知の樹脂である。本発明においては、鹸化度が75%以上、好ましくは80〜100%のポリビニルアルコールを用いる。本発明においては、重合度が300〜5,000であり、鹸化度が90〜100%の未変性ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。このような未変性ポリビニルアルコールの市販品としては、以下商品名で「クラレポバール」(クラレ社製)、「ゴーセノール」(日本合成化学工業社製)、「デンカポバール」(電気化学工業社製)、「J−ポバール」(日本酢ビ・ポバール社製)等、種々のグレードのものを挙げることができる。
【0037】
変性ポリビニルアルコールは、上記の未変性ポリビニルアルコールに水酸基及び酢酸基以外の官能基を導入したものである。変性ポリビニルアルコールの具体例としては、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変性ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらの変性ポリビニルアルコールは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの変性ポリビニルアルコールの市販品としては、以下商品名で、「ゴーセラン」(スルホン酸基変性ポリビニルアルコール)、「ゴーセファイマーK」(カチオン変性ポリビニルアルコール)、「ゴーセファイマーZ」(アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール)、「ゴーセナール」(カルボキシル基変性ポリビニルアルコール)(以上、日本合成化学工業社製);「Dポリマー」(カルボニル基変性ポリビニルアルコール)、「Aシリーズ」(カルボキシル基変性ポリビニルアルコール)(以上、日本酢ビ・ポバール社製);「クラレCポリマー」(カチオン変性ポリビニルアルコール)(クラレ社製)等、種々のグレードのものを挙げることができる。
【0038】
(導電性材料)
本発明の塗工液には導電性材料が含有される。導電性材料の具体例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層又は多層カーボンナノファイバー、単層又は多層カーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらの導電性材料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの導電性材料を用いることにより、形成される導電性塗工膜の電気的接触が一段と向上する。このため、内部抵抗が低く、容量密度の高い蓄電装置を製造することができる。
【0039】
(極性溶媒)
本発明の塗工液には極性溶媒が含有される。極性溶媒としては、従来公知のものを使用することができる。極性溶媒の具体例としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類;エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のカーボネート類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ビニルピロリドン、ピペリドン、N−メチルピペリドン、N−エチルピペリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、メチルオキサゾリジノン、エチルオキサゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;テトラメチレンスルホン等のスルホン類等を挙げることができる。
【0040】
これらのなかでも、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及び、ジメチルスルホキシドが好ましい。これらの極性溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの極性溶媒は、市販品をそのまま用いてもよいし、必要に応じて精製してから用いてもよい。
【0041】
(組成)
本発明の塗工液に含有されるPVAの量は、導電性材料を1質量部とした場合に、0.1〜3質量部であることが好ましく、0.3〜2質量部であることがさらに好ましい。また、本発明の塗工液に含有されるポリマー酸の量は、導電性材料を1質量部とした場合に、0.1〜3質量部であることが好ましく、0.3〜2質量部であることがさらに好ましい。また、塗工液の固形分濃度は、塗工液の全体を100質量%とした場合に、0.02〜40質量%であることが好ましく、0.02〜35質量%であることがさらに好ましく、0.1〜35質量%であることが特に好ましい。
【0042】
塗工液の全体を100質量部とした場合におけるPVAの含有量は、1〜40質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましく、1〜10質量部であることが特に好ましい。また、塗工液の全体を100質量部とした場合におけるポリマー酸の含有量は、1〜40質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましい。また、塗工液の全体を100質量部とした場合における導電性材料の含有量は、0.1〜30質量部であることが好ましく、0.1〜20質量部であることがさらに好ましく、2〜15質量部であることが特に好ましい。
【0043】
PVA及びポリマー酸の含有量が少なすぎると、形成される導電性塗工膜の強度、集電体に対する密着性、及び耐電解液性が不足する場合がある。一方、PVA及びポリマー酸の含有量が多すぎると、均一な塗工液を得にくくなる場合がある。また、導電性材料の含有量が少なすぎると、形成される導電性塗工膜の導電性が不足する場合がある。一方、導電性材料の含有量が多すぎると、相対的に他の成分の含有量が不足するので、形成される導電性塗工膜の性能が低下する場合がある。
【0044】
ポリマー酸1質量部に対するPVA(未変性ポリビニルアルコールと変性ポリビニルアルコールの合計)の含有量は0.1〜1質量部であることが好ましい。ポリマー酸1質量部に対するPVAの含有量が0.1質量部未満であると、形成される導電性塗工膜の耐電解液性が低下する場合がある。一方、ポリマー酸1質量部に対するPVAの含有割合が1質量部超であると、形成される導電性塗工膜の耐酸化性が低下する場合がある。
【0045】
(架橋剤)
本発明の塗工液には、前述のポリマー酸以外の架橋剤が含有されていてもよい。架橋剤を含有させることで、形成される導電性塗工膜を補強することができる。架橋剤の具体例としては、コハク酸、クエン酸等の天然に存在する有機酸;ブタンテトラカルボン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等の多塩基酸;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;トルイレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、フェニルジイソシアナート等のイソシアナート化合物;これらのイソシアナート化合物をフェノール類、アルコール類、活性メチレン類、メルカプタン類、酸アミド類、イミド類、アミン類、イミダゾール類、尿素類、カルバミン酸類、イミン類、オキシム類、亜硫酸類等のブロック剤でブロックしたブロックイソシアナート化合物;グリオキサール、グルタルアルデヒド、ジアルデヒド澱粉等のアルデヒド化合物を挙げることができる。
【0046】
また、架橋剤のさらなる具体例として、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート等の(メタ)アクリレート化合物;メチロールメラミン、ジメチロール尿素等のメチロール化合物;酢酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、乳酸チタン等の有機酸金属塩;アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリブトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、アルミニウムジプロポキシドアセチルアセトネート、チタニウムジメトキシドビス(アセチルアセトネート)、チタニウムジブトキシドビス(エチルアセトアセテート)等の金属アルコキシド化合物を挙げることができる。
【0047】
また、架橋剤のさらなる具体例として、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、イミダゾールシラン等のシランカップリング剤;メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のシラン化合物;カルボジイミド化合物等を挙げることができる。これらの架橋剤を含有させる場合において、架橋剤の含有量は、樹脂バインダーとして用いられるPVAの0.01〜200質量%とすることが好ましい。
【0048】
(その他の樹脂成分)
本発明の塗工液には、ビニルピロリドンを構成モノマーとするホモポリマー(ポリビニルピロリドン)、ビニルピロリドンを必須構成モノマーとする共重合体、キトサン、又はこれらの誘導体等の樹脂成分を添加することができる。これらの樹脂成分は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの樹脂成分を塗工液に含有させることで、塗工液中における導電性材料の分散性を向上させることができる。さらに、これらの樹脂成分は皮膜形成成分としても機能するので、より良好な特性を有する導電性塗工膜を形成することができる。
【0049】
(調製方法等)
本発明の塗工液を調製するには、先ず、樹脂バインダーであるPVA、導電性材料、ポリマー酸類、及び必要に応じて用いられる樹脂成分等を所定の割合となるように極性溶媒に添加する。そして、これらの成分を混合分散させれば、本発明の塗工液を調製することができる。各成分を混合分散させる際には、必要に応じて、従来公知のホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ロールミル等の分散機や、プラネタリーミキサー等の混練機を用いることができる。
【0050】
なお、PVA及びポリマー酸は、市販品をそのまま用いてもよいし、必要に応じて精製したものを用いてもよい。また、PVA及びポリマー酸を極性溶媒に添加する順番は特に限定されず、PVAとポリマー酸のいずれかを先に添加しても、両方を同時に添加してもよい。PVA及びポリマー酸を極性溶媒に溶解させる際に、室温条件下で撹拌してもよいが、必要に応じて加熱条件下で撹拌してもよい。なお、80℃以上に加熱して溶解させることが好ましい。
【0051】
本発明の塗工液は、従来公知の物理的加工手段を用いて、塗工前に物理的加工処理を施すことが好ましい。物理的加工手段としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等を用いる加工手段を挙げることができる。
【0052】
例えば、ビーズミルを用いる加工手段の場合、セラミック製ベッセルにジルコニア製ビーズ(直径0.03〜3mm)を充填率50〜95%となるように充填し、ローター周速5〜20m/sで、バッチ式又は連続循環式にて分散処理を行えばよい。
【0053】
さらに、形成される導電性塗工膜の表面抵抗率が3,000Ω/□以下となるように、塗工液を調製することが好ましい。導電性塗工膜の表面抵抗率を上記数値範囲とするには、例えば、導電性材料の含有割合を適宜調整すればよい。なお、導電性塗工膜の表面抵抗率は、硝子板の上に乾燥膜厚4μmの導電性塗工膜を形成し、JIS K 7194に準拠して測定することができる。
【0054】
(2)導電性塗工膜、電極板用部材、及び蓄電装置用電極板
上述の塗工液を用いれば、二次電池やキャパシタ等の蓄電装置用電極板を構成材として有用な本発明の導電性塗工膜を形成することができる。導電性塗工膜は、例えば蓄電装置の電極板を構成する集電体等の表面に、乾燥膜厚が好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.1〜2μmとなるように塗布した後、熱処理することで形成することができる。なお、熱処理の条件は、80〜250℃、1秒〜60分とすることが好ましい。このような条件で熱処理することで、樹脂バインダーであるPVAを十分に架橋させて、集電体等に対する密着性及び耐電解液性がさらに向上した導電性塗工膜を形成することができる。
【0055】
本発明の導電性塗工膜は、硝子板上に乾燥膜厚4μmで形成された場合に、JIS K 7194に準拠して測定される表面抵抗率が3,000Ω/□以下であることが好ましく、2,000Ω/□以下であることが好ましい。表面抵抗率が3,000Ω/□を超える導電性塗工膜を電極板に適用すると、内部抵抗が高くなるので、高効率で長寿命の電池やキャパシタを得ることが困難となる。
【0056】
導電性塗工膜の表面抵抗率は、以下に示す方法に従って測定することができる。先ず、硝子板上に塗工液を塗布した後、200℃で1分間加熱処理して乾燥膜厚4μmの導電性塗工膜を形成する。JIS K 7194に準拠し、形成した導電性塗工膜の表面抵抗率を四探針法により測定する。なお、測定には商品名「ロレスターGP」及び「MCP−T610」(三菱化学アナリテック製)を使用することができる。また、測定条件は、25℃、相対湿度60%とすればよい。
【0057】
集電体の表面上に導電性塗工膜を形成した場合、この導電性塗工膜の表面上に、電池用正極層、電池用負極層、又はキャパシタ用の分極性電極層を形成することによって、電極層−集電体間の抵抗が小さく、環境負荷の少ない蓄電装置用電極板を得ることができる。
【0058】
本発明の電極用部材は、集電体と、この集電体の表面上に配設された前述の導電性塗工膜とを備えるものである。また、本発明の蓄電装置用電極板は、上記の電極板用部材と、導電性塗工膜の表面上に配設された電極活物質層と、を備えるものである。すなわち、本発明の蓄電装置用電極板は、集電体と電極活物質層(電極層)との間に、本発明の塗工液を用いて形成された導電性塗工膜をアンダーコート層として配置したものである。したがって、蓄電装置用電極板を構成する導電性塗工膜には、樹脂バインダーとしてのPVA、ポリマー酸、及び導電性材料が必須成分として含有されている。
【0059】
(3)蓄電装置用電極板の製造方法
本発明の蓄電装置用電極板の製造方法は、前述の塗工液を集電体の表面に塗布して導電性塗工膜を形成する工程(第一の工程)と、形成された導電性塗工膜の表面上に電極活物質層を形成する工程(第二の工程)とを有する。集電体としては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモン等の金属箔からなる正極集電体;銅等の金属箔からなる負極集電体を挙げることができる。正極集電体としては、電解液に対する耐食性を有し、軽量で機械加工が容易なアルミニウム箔が好ましい。金属箔(集電体)の厚さは5〜30μmであることが好ましく、8〜25μmであることがさらに好ましい。集電体の表面は、シラン系、チタネート系、アルミニウム系等のカップリング剤で予め処理しておくことが好ましい。
【0060】
第一の工程では、各種塗工方法により集電体の表面に塗工液を塗布する。塗工液は、乾燥厚みで0.1〜10μmとなるように塗布することが好ましく、0.1〜5μmとなるように塗布することがさらに好ましく、0.1〜2μmとなるように塗布することが特に好ましい。0.1μm未満では均一に塗工するのが困難な場合がある。一方、10μmを超えると、形成される導電性塗工膜の可撓性が低下する場合がある。各種塗工方法の具体例としては、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、マイヤーバーコート、ブレードコート、ナイフコート、エアーナイフコート、コンマコート、スロットダイコート、スライドダイコート、ディップコート等を挙げることができる。
【0061】
塗工液を塗布した後、例えば、塗工液に含有される極性溶媒を加熱除去するか、又は極性溶媒を除去しながら熱処理すれば、アンダーコート層として機能する導電性塗工膜を形成することができる。熱処理の条件は、80〜250℃、1秒〜60分とすることが好ましい。このような条件で熱処理することで、樹脂バインダーであるPVAを十分に架橋させて、形成される導電性塗工膜の集電体に対する密着性及び耐電解液性をさらに向上させることができる。なお、熱処理の条件が80℃未満又は1秒未満であると、形成される導電性塗工膜の集電体に対する密着性、及び耐電解液性が不十分となる場合がある。
【0062】
第二の工程では、形成された導電性塗工膜の表面上に電極活物質層(電極層)を形成する。これにより、蓄電装置用電極板を得ることができる。電極層の均質性をより向上させるために、金属ロール、加熱ロール、シートプレス機等を用いて電極層をプレス処理することが好ましい。プレス処理の条件は500〜7,500kgf/cm2とすることが好ましい。500kgf/cm2未満であると、電極層の均質性が向上しにくい場合がある。一方、7,500kgf/cm2を超えると、集電体を含めた蓄電装置用電極板自体が破損しやすくなる傾向にある。
【0063】
上記のようにして得られる本発明の蓄電装置用電極板は、集電体と電極層の間に、適度に分散された導電性材料と、ポリマー酸で架橋された樹脂バインダーであるPVAとからなる、密着性、耐酸化還元性、耐溶剤性に優れ可撓性を有するアンダーコート層が形成・配置されたものとなる。該アンダーコート層は前記の通りの特性を有している。
【0064】
(4)二次電池
本発明の蓄電装置用電極板(正極板及び負極板)を用いれば、非水電解液二次電池等の二次電池を製造することができる。例えば、リチウム系の非水リチウムイオン電池を製造する場合には、溶質となるリチウム塩を有機溶剤やイオン液体に溶解させた非水電解液が用いられる。リチウム塩の具体例としては、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiCl、LiBr等の無機リチウム塩;LiB(C654、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiOSO2CF3、LiOSO225、LiOSO237、LiOSO249、LiOSO2511、LiOSO2613、LiOSO2715等の有機リチウム塩等を挙げることができる。
【0065】
有機溶剤としては、環状エステル類、鎖状エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類等を挙げることができる。環状エステル類としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−γ−ブチロラクトン、アセチル−γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等を挙げることができる。
【0066】
鎖状エステル類としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルブチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を挙げることができる。
【0067】
環状エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフラン、ジアルキルアルキルテトラヒドロフラン、アルコキシテトラヒドロフラン、ジアルコキシテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、アルキル−1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキソラン等を挙げることができる。鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0068】
イオン液体は、有機カチオンとアニオンの組み合わせによるイオンのみからなる液体である。有機カチオンとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン等のジアルキルイミダゾリウムカチオン;1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン等のトリアルキルイミダゾリウムカチオン;ジメチルエチルメトキシアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン;1−ブチルピリジニウムイオン等のアルキルピリジニウムイオン;メチルプロピルピロリジニウムイオン等のジアルキルピロリジニウムイオン;メチルプロピルピペリジニウムイオン等のジアルキルピペリジニウムイオン等を挙げることができる。これらの有機カチオンは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
これらの有機カチオンの対となるアニオンとしては、AlCl4-、PF6-、PF3(C253-、PF3(CF33-、BF4-、BF2(CF32-、BF3(CF3-、CF3SO3-(TfO;トリフレートアニオン)、(CF3SO22-(TFSI;トリフルオロメタンスルフォニル)、(FSO22-(FSI;フルオロスルフォニル)、(CF3SO23-(TFSM)等を挙げることができる。なお、二次電池のその他の構成は、従来公知の二次電池と同様である。
【0070】
(5)キャパシタ
本発明の蓄電装置用電極板(分極性電極板)を用いれば、電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタを製造することができる。分極性電極板を構成する導電性塗工膜には、PVA、ポリマー酸、及び導電性材料が含有されている。
【0071】
キャパシタ用の分極性電極板を製造する際に用いる塗工液は、PVAの含有量が、塗工液100質量部あたりの固形分量で1〜40質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがさらに好ましく、1〜10質量部であることが特に好ましい。PVAの含有量が少なすぎると、形成される導電性塗工膜から塗工膜成分が脱落しやすくなる場合がある。一方、PVAの含有量が多すぎると、導電性材料がPVAに覆い隠されてしまい、得られる分極性電極板の内部抵抗が増大する場合がある。
【0072】
ポリマー酸としては、PVAに対する架橋性の面から、カルボキシル基やリン酸基等の酸性基の含有量が多いものが好ましい。塗工液に含有されるポリマー酸の量は、PVA100質量部当たり100〜1000質量部であることが好ましく、100〜500質量部であることがさらに好ましい。ポリマー酸の含有量が100質量部未満であると、形成される導電性塗工膜の集電体に対する密着性及び耐電解液性が不十分となる場合がある。一方、ポリマー酸の含有量が1000質量部を超えると、形成されるPVAの架橋物(架橋ポリマー)の電解液に対する不溶解性及び非膨潤性が低下する傾向にあるとともに、経済的にも不利になる傾向にある。
【0073】
キャパシタ用の分極性電極板を製造する際に用いる塗工液に含有させる導電性材料としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンが好ましい。このような導電性材料を使用することで、形成される導電性塗工膜の電気的接触が一段と向上するとともに、キャパシタの内部抵抗が低くなり、かつ、容量密度を高くすることができる。塗工液に含有される導電性材料の量は、塗工液100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましく、2〜15質量部であることがさらに好ましい。
【0074】
キャパシタ用の電極板を製造する際に用いる塗工液を、必要に応じて、塗工前に物理的加工手段によって加工処理することが好ましい。物理的加工手段としては、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等を用いる加工手段を挙げることができる。また、各成分を混合する際に、導電性材料を擂潰機、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、オムニミキサー等の混合機を用いて先ず処理しておき、次いで、PVAやポリマー酸の溶液を添加して均一に混合する方法も好ましい。この方法を採ることにより、容易に均一な塗工液を得ることができる。また、均一な塗工液を用いることで、より良好な特性を有するキャパシタ用の分極性電極板を得ることができる。
【0075】
集電体を構成する材料としては、導電性を有するとともに、電気化学的な耐久性を有する材料が好ましい。特に、耐熱性の観点からは、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、金、白金等の金属材料からなる集電体が好ましく、アルミニウム又は白金からなる集電体がさらに好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、通常、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものを用いる。
【0076】
塗工液を集電体の表面に塗布して乾燥すれば、導電性塗工膜を形成することができる。塗工液の塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法、スプレーコート法等を挙げることができる。
【0077】
塗工液の粘度は、塗工機の種類や塗工ラインの形状によっても異なるが、通常10〜100,000mPa・s、好ましくは50〜50,000mPa・s、さらに好ましくは100〜20,000mPa・sである。塗布する塗工液の量は特に制限されないが、乾燥して極性溶媒を除去した後に形成される導電性塗工膜の厚さが、通常0.05〜100μm、好ましくは0.1〜10μmとなる量である。なお、乾燥方法及び条件等は、電池用の電極板を製造する場合と同様である。
【0078】
上記の分極性電極板、電解液、及びセパレータ等の部品を使用し、常法に従って電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタを製造することができる。具体的には、セパレータを介して分極性電極板を積層して得られた積層体をキャパシタ形状に応じて巻く、折るなどして容器に入れる。次いで、容器に電解液を注入した後に封口すれば、キャパシタを製造することができる。
【0079】
電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解して得られる非水電解液が好ましい。電気二重層キャパシタ用の電解質としては、従来公知のものをいずれも使用することができる。このような電解質の具体例としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等を挙げることができる。また、リチウムイオンキャパシタ用の電解質の具体例としては、LiI、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6等のリチウム塩を挙げることができる。
【0080】
これらの電解質を溶解させる有機溶媒(電解液溶媒)も、一般的な電解液溶媒として用いられるものであれば特に限定されない。電解液溶媒の具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;スルホラン類;アセトニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。これらの電解液溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでもカーボネート類が、耐電圧が高いために好ましい。電解液の濃度は、通常0.5モル/L以上、好ましくは0.8モル/L以上である。
【0081】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製の微孔膜又は不織布;一般に電解コンデンサ紙と呼ばれるパルプを主原料とする多孔質膜;等の公知のものを用いることができる。また、無機セラミック粉末と樹脂バインダーを溶剤に分散させたものを電極層上に塗布及び乾燥してセパレータを形成してもよい。さらに、セパレータに代えて固体電解質又はゲル電解質を用いてもよい。なお、容器等の他の材料については、通常のキャパシタに用いられるものをいずれも使用することができる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、文中の「部」又は「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0083】
(1)塗工液の調製
(実施例1)
12.5%ポリアクリル酸水溶液40部にアセチレンブラック5部を加え、ディゾルバーで撹拌混合した後、ビーズミル(直径0.8mmのジルコニアビーズ、充填率70%)にて1時間分散処理を行って分散液を得た。得られた分散液に、10%未変性ポリビニルアルコール(未変性PVA)水溶液(商品名「クラレポバール117」、クラレ社製、鹸化度99mol%、重合度1700)50部とイオン交換水5部を加え、30分撹拌混合して塗工液を調製した。
【0084】
(実施例2〜20、比較例1〜3、参考例1)
各成分の配合を表1に示すようにしたこと以外は、前述の実施例1と同様にして塗工液を調製した。なお、表1中の略語の意味は以下に示す通りである。
・AB:アセチレンブラック
・KB:ケッチェンブラック
・FB:ファーネスブラック
・CNT:カーボンナノチューブ
・PMA:ピロメリット酸
・TMA:トリメリット酸
・MeOH:メチルアルコール
・IPA:イソプロピルアルコール
・NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0085】

【0086】
(2)導電性塗工膜の作製
(実施例21)
厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面上に、コンマロールコーターを用いて実施例1の塗工液を塗布した。オーブンを使用し、110℃で2分間加熱処理した後、さらに180℃で2分間加熱処理した。これにより、溶媒を除去するとともにポリマー成分を架橋させて、集電体上に乾燥膜厚1μmの導電性塗工膜を形成した。
【0087】
(実施例22〜40、比較例4〜7、参考例2)
表2に示す塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例21と同様にして集電体上に導電性塗工膜を形成した。なお、比較例7は、ポリビニリデンフルオライドのNMP溶液5部にアセチレンブラック5部を分散させて得た塗工液(便宜上、表2中には「PVDF溶液」と記す)を用いた。
【0088】
(密着性の評価)
カッターを使用し、作製した導電性塗工膜に直交する縦横11本ずつの平行線を1mmの間隔で引き、1cm2の範囲内に100個の升目を形成した。升目上にメンディングテープを貼り付けた後に剥離し、メンディングテープに貼り付かずに剥離しなかった升目の個数を計測し、10回の平均値を算出した。結果を表2に示す。なお、剥離しなかった升目の個数を、集電体に対する導電性塗工膜の密着性の指標とした。
【0089】
(耐電解液性の評価)
エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート:ジメトキシエタン=1:1:2(体積比)の混合溶媒1Lに、1molのLiPF6を支持塩として溶解して得られたLiPF6溶液(電解液)に、上記と同様の手順で升目を形成した導電性塗工膜を、70℃で72時間浸漬した。浸漬後の導電性塗工膜の状態を目視観察し、以下に示す基準に従って導電性塗工膜の耐電解液性(溶解・膨潤性)を評価した。結果を表2に示す。
◎:溶解、膨潤、及び剥離のいずれも認められない。
○:僅かに膨潤しているが、剥離は認められない。
×:溶解又は膨潤するとともに、剥離が認められる。
【0090】
(耐酸化性の評価)
6%過酸化水素水溶液に導電性塗工膜を浸漬し、80℃で3時間加熱処理した後、水洗及び風乾した。導電性塗工膜(乾燥塗膜)の表面を人差し指の腹で擦り以下に示す基準に従って導電性塗工膜の耐酸化性を評価した。結果を表2に示す。
◎:加熱処理後に剥離しておらず、かつ、乾燥塗膜の表面を人指し指の腹で強く擦っても剥離せず、表面のカーボンも脱落しない。
○:加熱処理後に剥離しておらず、かつ、乾燥塗膜の表面を人指し指の腹で強く擦っても剥離しない。ただし、表面のカーボンが少し脱落する。
×:加熱処理後に剥離するか、又は加熱処理後に剥離しないが乾燥塗膜の表面を人指しの腹で強く擦ると剥離する。
【0091】
(表面抵抗率の測定)
硝子板上にコンマロールコーターを用いて表2に示す塗工液をそれぞれ塗布した後、200℃で1分間加熱処理して乾燥膜厚4μmの導電性塗工膜を硝子板上に形成した。JIS K 7194に準拠し、形成した導電性塗工膜の表面抵抗率を四探針法により測定した。なお、測定には商品名「ロレスターGP」及び「MCP−T610」(三菱化学アナリテック製)を使用した。また、25℃、相対湿度60%の条件下で測定した。
【0092】

【0093】
(3)電池の作製
(実施例41)
<正極板の作製>
粒径1〜100μmのLiCoO2粉末90部、導電助剤としてアセチレンブラック5部、及びバインダーとしてポリビニリデンフルオライドの5%NMP溶液(PVDF溶液)50部を混合した。プラネタリーミキサーを使用し、回転数60rpmで120分間撹拌混合して正極活物質を含有するスラリー状の正極液を得た。
【0094】
実施例21で得た導電性塗工膜の表面にコンマロールコーターを使用して得られた正極液を塗布した後、110℃のオーブンで2分間乾燥した。さらに180℃のオーブンで2分間乾燥して溶媒を除去し、導電性塗工膜上に乾燥膜厚が100μmの正極活物質層が形成された正極複合層を得た。得られた正極複合層を5,000kgf/cm2の条件でプレスして膜厚を均一にした。次いで、80℃の真空オーブン中で48時間エージングして揮発分(溶剤や未反応の多塩基酸等)を十分に除去して正極板を得た。
【0095】
<負極板の作製>
厚さ15μmの銅箔(集電体)の片面上に、コンマロールコーターを用いて実施例1の塗工液を塗布した。オーブンを使用し、110℃で2分間加熱処理した後、さらに180℃で2分間加熱処理した。これにより、溶媒を除去するとともにポリマー成分を架橋させて、集電体上に乾燥膜厚1μmの導電性塗工膜を形成した。
【0096】
炭コークスを1200℃で熱分解して得られるカーボン粉末90部、導電助剤としてアセチレンブラック5部、バインダーとしてポリビニリデンフルオライドの5%NMP溶液(PVDF溶液)50部を混合した。プラネタリーミキサーを使用し、回転数60rpmで120分間撹拌混合して負極活物質を含有するスラリー状の負極液を得た。
【0097】
導電性塗工膜の表面にコンマロールコーターを使用して得られた負極液を塗布した後、110℃のオーブンで2分間乾燥した。さらに180℃のオーブンで2分間乾燥して溶媒を除去し、導電性塗工膜上に乾燥膜厚が100μmの負極活物質層が形成された負極複合層を得た。得られた負極複合層を5,000kgf/cm2の条件でプレスして膜厚を均一にした。次いで、80℃の真空オーブン中で48時間エージングして揮発分(溶剤や未反応の多塩基酸等)を十分に除去して負極板を得た。
【0098】
<電池の作製>
正極板より幅広の三次元空孔構造を有する(海綿状の)ポリオレフィン系(ポリプロピレン、ポリエチレン、又はこれらの共重合体)の多孔性フィルムからなるセパレータを介して、得られた正極板及び負極板を渦巻き状に捲回して電極体を得た。得られた電極体を、負極端子を兼ねる有底円筒状のステンレス容器内に挿入した。次いで、エチレンカーボネート:プロピレンカーボネート:ジメトキシエタン=1:1:2(体積比)の混合溶媒に、1Lに、1molのLiPF6を支持塩として溶解して得られたLiPF6溶液(電解液)を容器内に注液した。これにより、AAサイズで定格容量500mAhの電池を組み立てた。
【0099】
(実施例42〜47、比較例8)
実施例18で用いた正極電極板および負極電極板の作製に使用した実施例1の塗工液および塗工膜に代えて、表3に示す導電性塗工膜、塗工液、及び集電体を用いたこと以外は、前述の実施例41と同様にして正極板及び負極板を作製した。そして、作製した正極板及び負極板を用い、前述の実施例41と同様にして電池を組み立てた。
【0100】
(充放電容量維持率の測定)
充放電測定装置を使用し、25℃の温度条件で各20セルずつ、充電電流0.2CAの電流値で、(1)充電方向から電池電圧4.1Vになるまで充電した後、(2)10分間休止し、(3)次いで、同一電流で2.75Vになるまで放電した後、(4)10分間休止する充放電サイクルを100サイクル繰り返した。1サイクル目の充放電容量値に対する、100サイクル目の充放電容量値の割合を「充放電容量維持率(%)」として算出した。結果を表3に示す。
【0101】

【0102】
(4)キャパシタの作製
(実施例48)
厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面上に、コンマロールコーターを用いて実施例1の塗工液を塗布した。オーブンを使用し、110℃で2分間加熱処理した後、さらに180℃で2分間加熱処理した。これにより、溶媒を除去するとともにポリマー成分を架橋させて、集電体上に乾燥膜厚0.5μmの導電性塗工膜を形成した。比表面積1500m2/g、平均粒径10μmの高純度活性炭粉末100部、及び導電性材料としてアセチレンブラック8部をプラネタリーミキサーに仕込んだ。固形分濃度が45%となるように、ポリビニリデンフルオライドのNMP溶液を加えて60分間混合した。固形分濃度が42%となるようにNMPで希釈してさらに10分間混合して電極液を得た。導電性塗工膜上に、ドクターブレードを用いて得られた電極液を塗布した。送風乾燥機を使用し、80℃で30分間乾燥した。その後、ロールプレス機を用いてプレスを行い、厚さ80μm、密度0.6g/cm3のキャパシタ用の分極性電極板を得た。
【0103】
得られた分極性電極板を直径15mmの円形に2枚切り抜いた。切り抜いた2枚の分極性電極板を200℃で20時間乾燥させた後、電極層の表面同士を対向配置し、直径18mm、厚さ40μmのセルロース製の円形セパレータを挟んで積層体を得た。得られた積層体を、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器(直径20mm、高さ1.8mm、ステンレス鋼厚さ0.25mm)内に収納した。この容器内に空気が残らないように電解液を注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップを被せた、キャップを固定して容器を封止し、直径20mm、厚さ約2mmのコイン型キャパシタを製造した。なお、電解液としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートをプロピレンカーボネートに1mol/Lの濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0104】
(実施例49〜53、参考例3)
表4に示す塗工液を用いたこと以外は、前述の実施例48と同様にしてキャパシタを製造した。
【0105】
(静電容量の測定及び評価)
電流密度20mA/cm2で、製造したキャパシタの静電容量を測定した。なお、静電容量が大きいほど、キャパシタとしての性能が良好であることを意味する。以下に示す基準に従ってキャパシタの静電容量を評価した。結果を表4に示す。
◎:静電容量が、参考例3のキャパシタの静電容量よりも20%以上大きい。
○:静電容量が、参考例3のキャパシタの静電容量よりも10%以上20%未満大きい。
×:静電容量が、参考例3のキャパシタの静電容量と同等以下である。
【0106】
(内部抵抗の評価)
電流密度20mA/cm2で、製造したキャパシタの内部抵抗を測定した。なお、内部抵抗が小さいほど、キャパシタとしての性能が良好であることを意味する。以下に示す基準に従ってキャパシタの内部抵抗を評価した。結果を表4に示す。
◎:内部抵抗が、参考例3のキャパシタの内部抵抗よりも20%以上小さい。
○:内部抵抗が、参考例3のキャパシタの内部抵抗よりも10%以上20%未満小さい。
×:内部抵抗が、参考例3のキャパシタの内部抵抗と同等以下である。
【0107】

【0108】
表4に示す結果から明らかなように、本発明の導電性塗工膜を含む分極性電極板を用いれば、静電容量が大きく、内部抵抗の小さいキャパシタを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上説明したように、本発明の塗工液を用いれば、アルミニウム材料等の金属材料表面に、密着性、耐溶剤性、及び耐酸化性に優れた導電性塗工膜を形成することができる。また、形成された塗工膜は、アルミニウム箔や銅箔等からなる集電体に対して密着性に優れているとともに、耐電解液性にも優れており、かつ集電体との接触抵抗も改良されている。このため、本発明の塗工液を用いれば、優れた特性を有する導電性塗工膜、電極用部材、蓄電装置用電極板、及び蓄電装置を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置用電極板を構成する集電体の表面上に導電性塗工膜を形成するために用いられる塗工液であって、
(A)ポリマー酸と、
(B)鹸化度75mol%以上の未変性ポリビニルアルコール及び/又は変性ポリビニルアルコールと、
(C)導電性材料と、
(D)極性溶媒と、を含有する塗工液。
【請求項2】
前記ポリマー酸が、カルボキシル基含有ビニルモノマーの単独重合体、及び/又はカルボキシル基含有ビニルモノマーとカルボキシル基非含有ビニルモノマーとの共重合体である請求項1に記載の塗工液。
【請求項3】
前記ポリマー酸が、ポリアクリル酸、ポリイタコン酸、及びポリマレイン酸からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の塗工液。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールが、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール、カルボニル基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、スルホン酸基変性ポリビニルアルコール、及びアセトアセチル基変性ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項5】
前記導電性材料が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、ファーネスブラック、単層又は多層カーボンナノファイバー、及び単層又は多層カーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜4のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項6】
前記導電性材料1質量部に対する、前記ポリマー酸の含有量が0.1〜3質量部であり、
前記導電性材料1質量部に対する、前記未変性ポリビニルアルコールと前記変性ポリビニルアルコールの合計の含有量が0.1〜3質量部であり、
固形分濃度が0.02〜40質量%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項7】
前記ポリマー酸1質量部に対する、前記未変性ポリビニルアルコールと前記変性ポリビニルアルコールの合計の含有量が0.1〜1質量部である請求項1〜6のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項8】
架橋剤をさらに含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の塗工液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗工液により形成される導電性塗工膜。
【請求項10】
前記塗工液からなる膜が80〜250℃で熱処理されて形成された、その乾燥膜厚が0.1〜10μmである請求項9に記載の導電性塗工膜。
【請求項11】
硝子板上に乾燥膜厚4μmで形成された場合に、
JIS K 7194に準拠して測定される表面抵抗率が3,000Ω/□以下である請求項9又は10に記載の導電性塗工膜。
【請求項12】
集電体と、前記集電体の表面上に配設された請求項9〜11のいずれか一項に記載の導電性塗工膜と、を備える電極板用部材。
【請求項13】
請求項12に記載の電極板用部材と、
前記導電性塗工膜の表面上に配設された電極活物質層と、を備える蓄電装置用電極板。
【請求項14】
前記集電体がアルミニウム箔であり、
前記電極活物質層に正極活物質が含有される請求項13に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項15】
前記集電体が銅箔であり、
前記電極活物質層に負極活物質が含有される請求項13に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項16】
前記集電体がアルミニウム箔であり、
分極性電極板である請求項13に記載の蓄電装置用電極板。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の塗工液を集電体の表面に塗布して導電性塗工膜を形成する工程と、
前記導電性塗工膜の表面上に電極活物質層を形成する工程と、を有する蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項18】
前記集電体の表面に前記塗工液を塗布した後、前記塗工液に含有される前記極性溶媒を加熱除去するか、又は前記極性溶媒を除去しながら80〜250℃で1秒〜60分熱処理する請求項17に記載の蓄電装置用電極板の製造方法。
【請求項19】
請求項13〜16のいずれか一項に記載の蓄電装置用電極板を備える蓄電装置。
【請求項20】
二次電池又はキャパシタである請求項19に記載の蓄電装置。

【公開番号】特開2013−48043(P2013−48043A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185942(P2011−185942)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】